分泌されたaP2およびこれを阻害する方法
循環aP2の異常な増加により特徴づけられる臨床障害の症候を軽減する方法を、分泌されたaP2の阻害剤、aP2分泌の阻害剤、または血清aP2のブロッキング剤を被験体に投与することによって行う。例えば、このような阻害剤または薬剤の投与後に耐糖能障害が軽減される。例示的な組成物は、aP2の細胞分泌を阻害するかまたは循環aP2に結合することによって、血液中または血清中のaP2のレベルまたは活性を低下させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権益に関する声明
本発明を成すにあたり、米国国立衛生研究所から授与されたDK064360およびDK071507の下で政府の支援を受けた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
代謝症候群または代謝疾患とは、一個人において同時期に生じ糖尿病および心血管疾患を引き起こす一群の代謝系危険因子を定義する用語である。代謝症候群の主な特徴には、インスリン抵抗性、高血圧(血圧上昇)、コレステロール異常および凝血に関するリスクの上昇が含まれる。インスリン抵抗性とは、血液から筋肉およびその他の組織への糖グルコースの輸送を促進する際のインスリンの作用に対する細胞の応答能力が低下したことを指す。この危険因子群を有する患者はたいてい過体重または肥満体である。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、血清aP2が全身のインスリン感受性および糖代謝を調節するという発見に基づいている。従って、循環中のaP2(例えば血液aP2または血清aP2)に結合しこれを妨害する組成物を被験体に投与することにより、循環中のaP2タンパク質に結合しその量を減少させる組成物を投与することにより、または細胞によるaP2分泌の阻害剤を投与することにより、代謝疾患の症候を軽減する方法が実施される。例えば、このような阻害剤の投与後に耐糖能障害が軽減される。例示的な組成物には、抗体またはその抗原特異的フラグメント、aP2に結合する低分子、および脂肪細胞またはマクロファージによるaP2の分泌を阻害する組成物が含まれる。
【0004】
代謝疾患を予防するかまたはその重篤度を軽減する方法は、血清aP2濃度を低下させる組成物を被験体に投与する工程を含む。特定の態様において本方法は、健常な同年齢同性の対照被験体(または被験体のプール)のaP2レベルと比較して上昇した血清aP2レベルにより特徴づけられる被験体を同定する工程を含む。例えば、対照被験体は非肥満(lean)であり、かつ20μg/Lの血清aP2レベルにより特徴づけられ、治療介入が必要な被験体はaP2レベルの上昇により特徴づけられる。治療すべき被験体は、過体重であり、肥満体であり、かつ/または20μg/L超の血清aP2レベル(例えば25、28、30、32、35、40μg/Lまたはそれ以上の血清aP2)を有する。被験体は、任意で、正常体重(BMI 18.5〜24.9)、過体重(BMI 25〜29.9)または肥満(BMI 30以上)であるとして同定されてもよい。
【0005】
本明細書に記載される各治療法において、血清aP2濃度は、治療前の血清aP2濃度と比較して少なくとも10%、25%、50%、75%、1/2、1/5、1/10またはそれ以上が低下する。一つの態様において、血清aP2濃度を低下させる組成物はaP2特異的抗体である。抗体は精製されたモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。例えば、抗体が接触可能な、aP2のエピトープ、例えば図3で強調表示されているエピトープに結合する抗体である。このような抗体は、その結晶モデル(図3)に示されているような、溶液中(例えば血液中および血清中)のタンパク質の3次元構造に基づき露出した表面上にあるaP2のエピトープに結合する。例えば、抗体はaP2の不連続エピトープに結合する。不連続エピトープとは、アミノ酸が、タンパク質の3次元構造においては(折り畳まれた状態では)近接しているが折り畳まれていない場合には離れている、エピトープである。好ましくは、抗体は、その結合特異性が、aP2が体液中、例えば血液中、血清中または血漿中に存在するようにaP2分子上で表面接触可能である立体構造エピトープを含む、モノクローナル抗体である。例えば、エピトープはヒトaP2タンパク質の以下の部分のうちの少なくとも1つを含む:SEQ ID NO: 4の残基1〜5、残基22、残基36〜37、残基46〜47、残基57、残基59〜60、残基78、残基80、残基89、残基97〜101、残基110〜112、残基122。抗体は、溶液中でaP2タンパク質の表面に露出している、2つまたはそれ以上のエピトープ(残基または連続した残基)に結合してもよい。いくつかの例において、抗体は変性されたaP2に結合しないかまたはaP2の直線状エピトープに結合しない。
【0006】
本発明は、無傷のモノクローナル抗体およびその利用だけでなく、免疫学的に活性な抗体フラグメント、例えばFabまたは(Fab)2フラグメント;操作された単鎖Fv分子;またはキメラ分子、例えば、例えばマウス起源の抗体の結合特異性と、例えばヒト起源の別の抗体の残りの部分を含む抗体を包含する。
【0007】
aP2分泌の阻害剤を同定する方法もまた本発明に包含される。このような化合物を同定するために、aP2分泌細胞、例えば脂肪細胞またはマクロファージを候補化合物と接触させ、細胞外aP2レベルを検出する。化合物の存在下での細胞外aP2が該化合物の非存在下でのレベルと比較して低下したことは、該化合物がaP2分泌を阻害することを示す。例えば、細胞外aP2レベルは、少なくとも10%、25%、50%、75%、1/2、1/5、1/10またはそれ以上が低下する。
【0008】
aP2分泌の阻害剤のスクリーニングは、インビトロおよびインビボでaP2を豊富に発現しかつホルモンおよびその他の生物学的刺激に対する応答に関して脂肪組織と近似する、分化した脂肪細胞を用いて行われる。例えば、高スループットのスクリーニングを行うために2つのアプローチが用いられる。一つ目は、GFPタグ付きのaP2を、アデノウイルスを介した遺伝子送達により脂肪細胞中で発現させるものである。96ウェルプレートに播種した細胞に阻害剤を適用し、馴化培地中の蛍光強度の測定によりaP2分泌を確認する。二つ目は、FlagおよびHAの二重タグを有するaP2のcDNAを脂肪細胞中で発現させるものである。阻害剤処理後の分泌されたaP2はELISAシステムを用いて検出する。FlagはaP2をプレート上に捕捉するのに使用され、aP2の検出にはHRP結合HA抗体が使用される。
【0009】
本方法および組成物は、分泌されるaP2の異常な増加、例えば血液または血清におけるaP2レベルの上昇により特徴づけられる臨床障害を治療するかまたはその重篤度を軽減するのに有用である。このような状態には、代謝症候群、耐糖能障害、肥満、糖尿病、脂肪肝疾患、アテローム性動脈硬化症およびぜん息(aP2がその病理に直接関与する状態)が含まれる。血清aP2の増加はまた、慢性血液透析(CD)、閉塞性睡眠時無呼吸(肥満に関係する障害)、HIV感染患者における脂肪異栄養症、および脂肪分解にも関連し、これらの状態は本明細書に記載の方法および組成物を用いて治療または軽減される。本方法はまた、aP2が間接的に関与する病理学的状態、例えば高血圧、脳卒中、および神経変性疾患の治療またはその重篤度の軽減にも有用である。
【0010】
阻害剤は、ヒトおよび他の動物、例えばネコ、イヌの糖尿病を治療するのに使用される。例えば、阻害剤は、II型糖尿病を有するかまたはその発症リスクがあると診断された被験体に投与される。
【0011】
本明細書において引用された刊行物、米国特許および出願、GenBank/NCBIアクセッション番号ならびにその他全ての参考文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1aは、脂肪細胞におけるaP2の分泌を示す電気泳動ゲルの写真である。WTまたはFABP欠損(DK)の分化した脂肪細胞由来の全細胞溶解物(WCL)および馴化培地(CM)を、抗aP2抗体、mal1抗体、カベオリン抗体、またはAKT抗体を用いてブロットした。 図1bは、WT、aP2-/-(aP2KO)、mal1-/-(mal1KO)およびaP2-mal1-/-(DKO)マウスの血清aP2濃度を示す棒グラフである。aP2レベルは実験手順に記載されるようにaP2 ELISAで測定した。 図1cは、非肥満(WT通常食、RD)、食餌性肥満(WT高脂肪食、HFD)またはレプチン欠損の遺伝性肥満マウス(ob)における血清aP2濃度を示す棒グラフである。 図1dは、骨髄移植を受けたマウスにおける血清aP2濃度を示す棒グラフである。骨髄移植はWTマウスとFABP欠損(DKO)マウスの間で行い、血清aP2はaP2 ELISAで測定した。差し込み図は、対照またはaP2プラスミドをトランスフェクトしたマクロファージ由来の馴化培地のaP2のブロッティングである。
【図2a】aP2特異的抗体を用いたウェスタンブロットアッセイの結果を示す電気泳動ゲルの写真である。WTまたはFABP欠損の脂肪細胞由来の細胞溶解物を、対照ウサギIgG、免疫前血清またはaP2抗体を用いてブロットした。
【図2b】マウスにおけるaP2抗体投与前後の血清aP2濃度を示す棒グラフである。高脂肪食で維持し、対照またはaP2抗体を2週間注射したマウスにおける血清aP2を、aP2 ELISAで分析した。
【図2c】血清aP2が減少したマウスにおけるグルコースレベルを示す棒グラフである。高脂肪食で維持したWTマウスに対照IgGまたはaP2抗体を2週間注射し、注射前後の体重を測定した。
【図2d】対照またはaP2抗体を2週間注射したマウスの耐糖試験の結果を示す線グラフである。
【図2e】対照または組換えaP2を2週間注射したマウスのインスリン耐性試験の結果を示す線グラフである。
【図2f】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、対照またはaP2抗体を注射したマウスのクランプ肝糖産生速度(cHGP)を示す棒グラフである。
【図2g】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、対照またはaP2抗体を注射したマウスの基礎肝糖産生速度(bHGP)を示す棒グラフである。
【図2h】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、対照タンパク質または組換えaP2を注入したFABP欠損マウスの基礎肝糖産生速度(bHGP)を示す線グラフである。
【図3】ソフトウェアツールDiscoTopeを用いた、aP2の結晶構造に基づく不連続エピトープの図である。標的エピトープはこの構造中で強調表示されており、これらのエピトープを構成する残基は、この図の下に示すアミノ酸配列において囲み線表示された残基として示され、SEQ ID NO: 4(以下の表3)において下線表示されている。
【図4a】脂肪細胞におけるaP2の分泌を示す電気泳動ゲルの写真である。WTまたはaP2-mal1-/-(DKO)の分化した脂肪細胞由来の全細胞溶解物(WCL)および馴化培地(CM)を、抗aP2抗体、カベオリン抗体、AKT抗体またはアディポネクチン抗体を用いてブロットした。
【図4b】HEK293細胞におけるaP2の分泌を示す電気泳動ゲルの写真である。Flag-AKT、Flag-GFP-aP2またはFlag-GFPプラスミドをトランスフェクトしたHEK293細胞由来の全細胞溶解物(WCL)または免疫沈降後の馴化培地(CM)を、抗Flag抗体を用いてブロットした。
【図4c】培地交換後の示された時点におけるWTまたはaP2-/-の脂肪細胞から採取した馴化培地を示す電気泳動ゲルの写真である。SDS-PAGEを用いて培地を分離し、クマシーブルーで染色して、培地中に豊富に存在する全てのタンパク質を試験した。WT、aP2-/-(aP2KO)、mal1-/-(mal1KO)およびaP2-mal1-/-(DKO)マウスの血清aP2。
【図4d】aP2 ELISAで測定したaP2レベルを示す棒グラフである。
【図4e】非肥満(WT通常食、RD)、食餌性肥満(WT高脂肪食、HFD)またはレプチン欠損の遺伝性肥満(ob/ob)マウスにおける血清aP2を示す棒グラフである。*、p<0.05。
【図4f】骨髄移植を受けたマウスにおける血清aP2を示す棒グラフである。骨髄移植はWTとaP2-mal1-/-(DKO)マウスの間で行い、血清aP2レベルはaP2 ELISAで測定した。
【図5a】不断給餌(0)、24時間絶食(24)または24時間絶食後4時間再給餌(28)のマウスにおける血清aP2を示す棒グラフである。*、p<0.05。
【図5b】IMBX/dbcAMP(I/C)およびインスリン(Ins)で処理した脂肪細胞の馴化培地(CM)または全細胞溶解物(WCL)におけるaP2を示す電気泳動ゲルの写真である。
【図5c】ホルスコリン(FSK)またはIBMXで処理した脂肪外植片の馴化培地または全細胞溶解物におけるaP2を示す電気泳動ゲルの写真である。
【図5d】生理食塩水(対照)または脂肪分解を誘導するイソプロテレノールを注射したマウスにおける血清aP2レベルをそれらの初期aP2レベルとの比較で示す棒グラフである。
【図5e】パルミチン酸(C16)またはステアリン酸(C18)で処理した脂肪細胞の馴化培地または全細胞溶解物におけるaP2を示す電気泳動ゲルの写真である。
【図5f】標準培地(対照)または0.5mMパルミチン酸含有培地で一晩培養された、GFP-aP2を発現する前脂肪細胞を示す顕微鏡写真である。
【図5g】IBMX/dbcAMP(I/C)またはDEUPで処理した脂肪細胞の馴化培地および全細胞溶解物におけるaP2を示す電気泳動ゲルの写真である。
【図5h】生理食塩水(対照)またはイントラリピッド/ヘパリン(脂質)を5時間注入したマウスにおける血清aP2を示す棒グラフである。これらの図は、aP2の分泌が脂肪分解により放出される脂肪酸により活性化されることを示している。
【図6a】aP2抗体注射前後のマウスにおける血清aP2を示す棒グラフである。上パネル、高脂肪食で維持し、免疫前(対照)またはaP2抗体を2週間注射したマウスにおける血清aP2。血清aP2レベルは、aP2 ELISAで測定した。*、p<0.05。下パネル、高脂肪食で維持し、免疫前(対照)またはaP2抗体を2週間注射したマウス由来の脂肪組織の総タンパク質抽出物を、抗aP2抗体を用いて免疫ブロットした。
【図6b】血清aP2を減少させた肥満マウスにおけるグルコースレベルを示す棒グラフである。高脂肪食で維持したWTマウスに免疫前(対照)またはaP2抗体を2週間注射し、グルコースレベルを食餌停止の6時間後に測定した。*、p<0.05。
【図6c】高脂肪食で維持し、免疫前(対照)またはaP2抗体を2週間注射したマウスの耐糖試験を示す線グラフである。*、p<0.05。
【図6d】免疫前(対照)またはaP2抗体を3週間注射した高脂肪食給餌マウスのインスリン耐性試験を示す線グラフである。*、p<0.05。
【図6e】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、免疫前(対照)またはaP2抗体を注射した高脂肪食給餌マウスの基礎肝糖産生速度(bHGP)を示す棒グラフである。*、p<0.05。
【図6f】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、免疫前(対照)またはaP2抗体を注射した高脂肪食給餌マウスのクランプ肝糖産生速度(cHGP)を示す棒グラフである。*、p<0.05。
【図6g】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、免疫前(対照)またはaP2抗体を注射した高脂肪食給餌マウスの糖注入速度(GIR)を示す棒グラフである。*、p<0.05。
【図6h】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、免疫前(対照)またはaP2抗体を注射した高脂肪食給餌マウスの全身糖代謝(RD)を示す棒グラフである。
【図6i】対照Gusタンパク質または組換えaP2を2週間注射した通常食給餌マウスの耐糖試験を示す線グラフである。*、p<0.05。
【図6j】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、対照Gusタンパク質または組換えaP2を注入したaP2-mal1-/-マウスの基礎肝糖産生速度(bHGP)を示す棒グラフである。*、p<0.05。
【図6k】対照タンパク質もしくは組換えaP2を注入したWTマウス(上パネル)または対照もしくはaP2抗体を注射したHFD給餌マウス(下パネル)の肝臓における遺伝子発現を示す棒グラフである。肝臓組織中のPEPCKおよびG6Pをリアルタイム定量PCRで分析した。*、p<0.05。これらの図面は、血清aP2による全身グルコース恒常性の調節を示している。
【図7a】aP2の非古典的分泌を示す電気泳動ゲルの写真である。対照、ブレフェルジンA(Bref A)またはモネンシン(Mon)で処理した脂肪細胞由来の馴化培地を、抗aP2抗体またはアディポネクチン抗体を用いてブロットした。全細胞溶解物(WCL)も抗aP2抗体を用いてブロットした。
【図7b】aP2のエキソソームへの局在化を示す電気泳動ゲルの写真である。分化した脂肪細胞由来の全細胞溶解物(WCL)、馴化培地(CM)およびエキソソーム画分(Exo)を、抗aP2抗体またはMFG-E8抗体を用いてブロットした。
【図7c】WTおよび変異aP2の構造および表面電荷を示す一連の図面である。上パネル:WTおよび2つのaP2変異体の3D構造、下パネル:WTおよび2つのaP2変異体の静電ポテンシャル。これらのレンダリングはPyMol(http://pymol.sourceforge.net/)を用いて作製し、WT aP2は以前に記載された3D構造(PDB ID:1LIE)に基づいている。
【図7d】電気泳動ゲルの写真であり、WTまたは変異aP2でトランスフェクトしたHEK293細胞由来の全細胞溶解物(WCL)、エキソソーム画分および免疫沈降後の馴化培地を、抗flag抗体を用いてブロットしたことを示す。
【図7e】ウェスタンブロットの写真であり、対照脂肪細胞またはホルスコリン、IBMXもしくはパルミチン酸で処理した脂肪細胞から単離したエキソソームを、抗aP2抗体またはMFG-E8抗体を用いてブロットした。
【図7f】ウェスタンブロットの写真であり、aP2-/-、WTマウスまたは高脂肪食で維持したWTマウスの血液から単離したエキソソームを、抗aP2抗体またはMFG-E8抗体を用いてブロットした。
【図7g】aP2分泌の機序を示す図である。空腹またはβ-アドレナリン刺激により脂肪分解が活性化されると、aP2は脂肪滴の表面に移行し、ここで、脂肪分解により放出された脂肪酸に結合する。脂肪酸への結合により、aP2がエキソソームを標的化するシグナルが誘導され、ここでこれは、エキソソームから細胞外空間および血流中へと放出される。aP2はその後肝臓に移動し、糖新生を調節する。これらの図面は、aP2のエキソソーム依存的な分泌を示している。
【図8】WTおよびob/obマウスの脂肪外植片からのaP2の分泌を示す免疫ブロットである。非肥満および肥満マウスの脂肪外植片におけるaP2分泌。脂肪外植片は、通常食で維持したWTマウスまたはob/obマウスから採取し、十分に洗浄した。新しい培地を加え、一晩インキュベートし、抗aP2抗体またはアディポネクチン抗体を用いる免疫ブロット分析のために回収した。
【図9】aP2抗体の特異性を示す一連の免疫ブロットである。WTまたはaP2-/-の脂肪細胞由来の細胞溶解物をSDS-PAGEで分離し、精製された免疫前IgGまたは抗aP2 IgGを用いて免疫ブロットした。
【図10】図10aおよびBは、aP2抗体で処理したマウスの体重および血清中の遊離脂肪酸を示す棒グラフである。免疫前(対照)またはaP2抗体で処理したマウスの体重を、抗体投与の0日目および14日目に記録した。a、血清は、抗aP2抗体を注射したマウスから、抗体投与の0日目および14日目に採取した。血清中の非エステル化脂肪酸は、市販のキット(Wako Chemicals USA, Inc.)を用いて測定した。
【図11】組換えaP2注射後のWTマウスにおける血清aP2を示す棒グラフである。マウスの血清サンプルは、aP2注射後の示された時点で採取し、aP2レベルはaP2 ELISAにより測定した。
【図12】図12a〜bは、組換えaP2を注射したマウスの体重および血清中の遊離脂肪酸を示す棒グラフである。対照または組換えaP2タンパク質を注射したマウスの体重を、タンパク質投与の0日目および14日目に記録した。 a、血清は、対照または組換えaP2タンパク質を注射したマウスから採取し、タンパク質投与の0日目および14日目に記録した。血清中の非エステル化脂肪酸は、市販のキット(Wako Chemicals USA, Inc.)を用いて測定した。
【図13】aP2注入時のFABP欠損(DKO)マウスにおける血清aP2を示す線グラフである。血清サンプルは、aP2注入の際の示された時点でFABP欠損マウスから採取した。血清aP2レベルはaP2 ELISAで測定した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
aP2は、脂肪細胞型脂肪酸結合タンパク質(AFABP)、脂肪酸結合タンパク質-4(FABP-4)および脂肪細胞型脂質結合タンパク質(ALBP)としても公知である。本発明以前まで、aP2は細胞質タンパク質であると考えられていた。本発明により、分泌された脂肪性脂質シャペロンであるaP2が肝糖代謝を調節することが見出された。aP2は、マウスおよびその他の哺乳動物、例えばヒトの細胞において脂肪に分泌されるタンパク質であることが見出された。
【0014】
血清aP2は全身糖代謝を調節する。循環aP2の異常な増加により特徴づけられる臨床障害の症候を軽減する方法は、細胞によるaP2分泌の阻害剤を被験体に投与することにより、またはaP2ブロッキング剤を投与することにより実施される。例えば、このような阻害剤または薬剤の投与後に耐糖能障害が軽減される。組成物は、脂肪細胞またはマクロファージによるaP2の分泌を阻害する。あるいは、抗体等の例示的な組成物は、循環aP2に結合することによって、血液中または血清中のaP2のレベルまたは活性を低下させる。
【0015】
以下にマウスおよびヒト双方のaP2の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。
【0016】
(表1)マウスaP2 cDNA
【0017】
(表2)ヒトaP2 cDNA
【0018】
(表3)ヒトaP2のアミノ酸配列
【0019】
(表4)マウスaP2のアミノ酸配列
【0020】
aP2分泌の調節
aP2が細胞上清に放出されることを確認するため、WTまたはFABP欠損の脂肪細胞由来の馴化培地および細胞溶解物を、aP2の存在についてウェスタンブロットで分析した(図1a)。aP2は馴化培地中に豊富に存在することが見出されたが、脂肪細胞中の2つの細胞質タンパク質であるカベオリンおよびAKTは同じ条件下で検出できなかった(図1a)。脂肪細胞におけるFABPの少ないアイソフォームでありaP2に対して高い相同性を共有するmal1もまた馴化培地中に放出されていた(図1a)。まとめると、両方の脂肪性FABPとも分化した脂肪細胞から分泌される。
【0021】
次に、aP2 ELISAシステムを用いてマウスにおける血清aP2を調べるための調査を行った。aP2はWTおよびmal1-/-マウスの血清中にかなり豊富に(200〜300ng/ml)存在したが、aP2-/-またはaP2-mal1-/-マウス由来の血清では検出できなかった(図1b)。血清aP2は、アディポカインであるレプチン(10ng/ml)よりも20倍豊富であり、アディポカインであるアディポネクチン(2〜5mg/ml)よりも若干少なかった。代謝疾患に関連する環境下での長期的な血清aP2の調節を調査するため、非肥満マウスの血清と、高脂肪食給餌またはレプチン欠損のいずれかにより誘導した肥満マウスの血清とを比較した。血清aP2は両方の肥満モデルにおいて顕著に増加しており(図1c)、これにより、分泌されたaP2が機能性であり得かつこれらの病理学的条件下での代謝調節の変化に関連し得ることが示された。aP2は脂肪細胞およびマクロファージの両方で発現され、いずれかの部位におけるaP2の機能喪失変異は、代謝疾患の発症からマウスを保護する(Furuhashi et al., 2008, J Clin Invest. 118: 2640-50; Maeda et al., 2005, Cell Metab 1, 107-119)。
【0022】
aP2はまた、マクロファージにより分泌されることも見出された(図1d、差し込み図)。肥満マウスは脂肪組織中にマクロファージを蓄積し、これがインスリン抵抗性に寄与している。したがって、血清aP2の増加は、いずれの細胞型からのaP2放出の増加の結果である。どの部位が肥満における血清aP2増加の原因となっているのかを確認するため、WTとFABP欠損マウスの間で骨髄を移植した。これらのマウスにおける血清aP2を調べた。WTマウスの骨髄由来細胞はFABP欠損マウスにおいて検出可能レベルの血清aP2を維持できず(図1d)、これにより、造血細胞ではなく脂肪細胞がマウスにおける血清aP2の主たる寄与因子であることが示された。
【0023】
血清aP2は全身糖代謝を調節する
脂肪細胞から分泌されるホルモン(すなわちアディポカイン)は、糖代謝および脂質代謝に関与する(Rosen et al., 2006, Nature 444:847-853)。血清aP2は肥満および糖尿病状態で増加するので、増加したaP2が肥満で見られるような糖代謝の変化に関与しているならば肥満における血清aP2の減少が血糖管理を改善するかどうか判定する実験を行った。血清aP2を効果的に枯渇させるため、aP2を特異的に認識する抗体を作製した。この抗体を用いた調査により、この抗体がaP2を極めて高感度で特異的に検出することを確認した(図2a)。この抗体を肥満マウスに注射した。該マウスは16週間にわたる高脂肪食給餌により肥満に誘導した。aP2抗体の投与は、血清aP2濃度を効果的かつ迅速に抑制した(図2B)。このaP2抗体処理は、これらのマウスの体重を変化させなかったが、投与2週間で血糖レベルを有意に低下させた(図2c)。aP2抗体を注射されたマウスではまた、糖処理率も劇的に向上しかつインスリン応答も向上し、これは、耐糖試験およびインスリン耐性試験により確認した(図2dおよび2E)。実際、aP2抗体処理はこれらのマウスにおける食餌性肥満に関係する耐糖能障害を本質的に消滅させ、これにより血清aP2の減少がII型糖尿病を患う人々に臨床的恩恵をもたらすことが示された。
【0024】
インビボでのaP2の作用部位を決定するため、高インスリン-正常血糖クランプ試験を行った。aP2抗体を注射されたマウスは肝糖産生が低下することが見出され(図2g)、これにより肝臓がaP2抗体のグルコース減少効果の主たる標的であることが示された。
【0025】
血清aP2の増加の代謝面での結果を確認するための反対実験において、精製された組換えaP2を作製し、意識下のFABP欠損マウスに注入した。次いで、高インスリン-正常血糖クランプ試験を行い、これらのマウスの全身糖代謝をモニタリングした。aP2を注入されたFABP-/-マウスでは、基礎肝糖産生(bHGP)が有意に増加した(図2g)。これらのマウスがbHGP測定の時点で4時間のaP2注入しか受けていなかったことを考慮すると、これは重大な効果である。
【0026】
血清aP2の増加の効果をさらに調査するため、通常食で維持したWTマウスに組換えaP2を腹腔内注射した。aP2投与はマウスの体重を変化させないが、2週間のaP2注射後の耐糖試験により確認されたとおり、他の点では非肥満かつ健常であるマウスに、耐糖能障害をもたらす(図2h)。この知見は、血清aP2が全身糖代謝を調節しており、かつ短期間での血清aP2の増加のみで、体重変化および食餌要因に依存することなく糖処理不全が引き起こされ得ることを示した。
【0027】
脂肪組織と代謝障害
最近15年間における証拠の蓄積により、脂肪組織は代謝調節を担う最大の内分泌器官の一つであることが確認された。全身のエネルギー恒常性に対する脂肪組織の作用は様々なホルモンに仲介される。肥満被験体内の脂肪組織はまたより多くの炎症性サイトカインを産生することも示され、慢性的な脂肪の炎症が肥満と関連する代謝障害とを結びつける重要な特徴であることが明らかになった。したがって、生理学的および病理学的な文脈の両方で、脂肪組織は、栄養シグナル伝達分子と内因性シグナル伝達分子が相互作用して統合され、最終的にはエネルギー恒常性の全身的な調節が行われている重要な場所であるといえる。脂肪組織はまた、体内の主要な脂質保管部位として、空腹時の重要なエネルギー提供元でもある。脂肪性脂肪分解により脂肪酸の大部分が血清に提供され、これらは筋肉に取り込まれて酸化され、かつ肝臓における糖産生も活性化する。脂肪分解に伴う肝糖産生の亢進は重要な恒常性維持現象であり、これは肥満状態では調節不全に陥ることが知られている。本発明より以前、このプロセスが脂肪組織と肝臓の間で合図される機序は完全に理解されていなかった。
【0028】
以前の調査は、脂肪組織の脂質シャペロン、特にaP2が、代謝および炎症反応に対する脂質シグナルの重要なインテグレーターであることを実証している。脂肪酸結合タンパク質(FABP)として公知のこれらのシャペロンを欠損したマウスは、インスリン抵抗性、2型糖尿病、脂肪肝およびアテローム性動脈硬化症を含む肥満に関連する多くの代謝異常に対する強い防御を示す。脂肪組織におけるFABP欠損の効果は全身に及び、これは、肝臓、筋肉およびその他の組織の代謝経路および代謝反応における全身規模の変化により明らかである。
【0029】
FABP欠損脂肪組織の有益な効果を仲介する可能性のある、脂肪に分泌される分子の調査の中で、脂肪酸であるC16:1n7-パルミトレアートが発見された。この脂肪酸は筋肉に対するインスリンの作用を大きく向上させると同時に肝臓の脂肪浸潤を抑制する。他方、FABP欠損におけるペプチドホルモンの役割は明確ではない。FABP-nullマウスではレプチンおよびアディポネクチンのレベルが変化しているが、詳細な調査により、いずれもFABP欠損マウスの糖代謝および脂質代謝の向上の原因ではないことが確認された。
【0030】
aP2自体はヒトの血清において同定されており、血清aP2が肥満状態での代謝調節に関与している可能性が高い。この分子が実際に、調節されつつ脂肪細胞から分泌されている場合、FABP欠損マウスにおける糖代謝の改善は、少なくとも部分的には血清aP2の喪失の結果として起こる可能性がある。
【0031】
以下の材料および方法は、本明細書に記載されたデータを得るために使用されたものである。
【0032】
動物
aP2およびmal1においてホモ接合型のnull変異を有するマウスに対して12世代超の戻し交配を行い、C57BL/6Jの遺伝的背景とした。マウスは通常固形飼料食(RD)で維持するか、または4週齢から高脂肪食(Research Diets, Inc)を20週間与えて食餌性肥満を誘導した。レプチン欠損(ob/ob)マウスはJackson laboratoryから購入した。全てのマウスを12時間照明・12時間消灯のサイクル下で維持した。耐糖試験およびインスリン耐性試験には標準的な方法を使用した。
【0033】
血清aP2の定量
食物停止の6時間後に尾採血によりマウスから血液を採取し、微小遠心分離機を用いて13,000rpmで30分間回転させた。血清aP2はELISAシステム(Biovendor Inc.)を用いて測定した。血清aP2の栄養調節をモニタリングするため、消灯サイクルの開始直前にマウスから血液サンプルを採取し、その後動物を食物のないケージに入れた。絶食24時間後、二セット目の血液サンプルを採取して、食物を与えた。最後の採血は給餌再開の4時間後に行った。脂肪分解時のaP2レベルを測定するため、12匹のマウスからベースラインレベルの血液を採取した。この後、6匹のマウスにイソプロテレノール(10mg/kg体重)を注射し、残りの6匹にビヒクル対照を与えた。aP2測定用に、注射から15分後に血液サンプルを採取した。
【0034】
骨髄移植
6週齢のレシピエントマウスに対して、セシウム源からの線量5Gyの照射を、放射線の毒性を最小限に抑えるために4時間の間隔をあけて2回行った(計10Gy)。骨髄は、同性のドナーマウス(6〜8週齢)由来の大腿骨および脛骨をGibco RPMI 1640培地(Invitrogen, Carlsbad, CA)でフラッシングすることによって回収した。2回目の照射から4時間後に、0.2mlの培地中の5×106個の骨髄細胞を眼窩静脈叢に注射した。骨髄移植の1週間前および4週間後、100mg/lのネオマイシンおよび10mg/lの硫酸ポリミキシンBを酸性水に加えた。
【0035】
組換えaP2およびaP2抗体の作製、精製および投与
6x Hisタグを有する組換えaP2または対照Gusタンパク質を大腸菌(E. coli)中で作製し、B-PER 6x His Spin Purification Kit(Pierce Biotechnology, Inc)を用いて精製した。市販のシステム(Lonza Inc.)を用いて内毒素を除去することによりタンパク質をさらに精製した。100μgの対照またはaP2タンパク質を、通常食で維持したWTマウスに1日2回、2週間にわたり注射した。マウスaP2に対するウサギポリクローナル抗体は、組換え全長aP2タンパク質を用いて作製し、この抗体を、NAb(商標) Spinシステム(Pierce Biotechnology, Inc)を用いて最後の採血の血清から精製した。免疫前血清を同様に精製し対照として用いた。精製抗体を生理食塩水で1μg/μlに希釈し、高脂肪食(Research diet, Inc)で維持したマウスに対して50mg/kg量で注射した。
【0036】
ベクターの構築およびトランスフェクション
Flagタグ付きのGFP(プラスミドID 10825)およびAKT(プラスミドID 9021)をAddgeneから入手した。Flagタグ付きの全長aP2および入口(portal)を欠くaP2をpEGFP-C1にクローニングした。aP2 K22, 59I変種体を、Quickchange変異誘発システム(Stratagene)を用いて作製した。Lipofectamine 2000(Invitrogen Corporation)を用い、示された構築物をHEK293細胞にトランスフェクトした。
【0037】
細胞の培養
HEK293細胞は10%ウシ胎仔血清を含むDMEM中で維持した。FABP欠損細胞株は以前に記載された通りに樹立した。Cao, H. et al. Identification of a lipokine, a lipid hormone linking adipose tissue to systemic metabolism. Cell 134, 933-944 (2008)。Makowski, L. et al. Lack of macrophage fatty-acid-binding protein aP2 protects mice deficient in apolipoprotein E against atherosclerosis. Nat Med 7, 699-705 (2001)。前脂肪細胞は10%仔ウシ血清を含むDMEM中で維持し、標準的な分化プロトコルを用いて10%コスミック仔ウシ血清(cosmic calf serum;CCS)を含むDMEM中で脂肪細胞に分化させた。脂肪分解を誘導するため、分化した脂肪細胞をホルスコリン20nMまたはIBMX 1mM/ジブチリルcAMP 1mMで1時間処理した。脂質処理のために、0.25mMのパルミチン酸またはステアリン酸を10%CCS含有DMEMに溶解し、12ウェルプレート内で培養した脂肪細胞に添加した。1時間後に、培地を、同一の脂質含有培地と交換し、さらに1時間後に馴化培地を回収した。脂肪外植片を採取するため、精巣上体の脂肪組織貯留部をマウスから切り出し、PBS中で2回濯いだ。次いで、脂肪組織サンプルを10%CCS含有DMEM中に移し、平均サイズ1〜2mmになるよう刻んだ。この組織外植片をDMEMで十分に洗浄し、10%CCS含有DMEM中で培養した。脂肪分解は、脂肪細胞と同じ方法で誘導した。
【0038】
蛍光顕微鏡検査
細胞を6ウェル組織培養プレートのカバースリップ上で培養し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。DAPIで核を染色し、カバースリップを、ProLong Gold褪色防止剤(Invitrogen Corporation)を含んだスライド上にマウントした。イメージングはZeiss Observor Z1蛍光顕微鏡で行った。
【0039】
エキソソームの単離
脂肪細胞からエキソソームを単離するため、馴化培地を採取し、1,200gで10分間遠心分離した。次いでこの培地を、0.45μmフィルターを通してろ過し、10,000gで30分間の遠心分離に2回供し、20%スクロース勾配を負荷した。エキソソーム画分を100,000gで150分間の遠心分離によりペレット化した。血清からエキソソームを単離するため、血液をマウスから採取し、微小遠心分離機において最高速度で30分間遠心分離して血漿を得た。血漿を等量のPBSで希釈し、20%スクロース勾配を負荷し、エキソソームを200,000gで90分間の遠心分離によりペレット化した。
【0040】
RNAの抽出および定量的リアルタイムPCR分析
総RNAはTrizol試薬(Invitrogen)を用いて肝臓組織から単離した。逆転写は、1μgのRNAを用いてsuperscript一本鎖cDNA合成システム(Applied Biosystems Inc.)により行った。定量的リアルタイムRT-PCRは、PCRサーマルサイクラー(Applied Biosystems Inc.)を用いて行った。PCRプログラムは、以下であった:酵素の活性化のための95℃2分30秒、伸長のための、95℃15秒、58℃30秒、および72℃1分を40サイクル。リアルタイムPCR産物を確認するために融解曲線分析を行った。全ての量を18S rRNAに対して標準化した。使用したプライマー配列は以下の通りであった。
【0041】
クマシー染色、免疫沈降および免疫ブロット
脂肪細胞由来の組織タンパク質溶解物および馴化培地をSDS PAGEゲル上で分離し、Coomassie(Biorad Laboratory)で染色するか、または以下の抗体を用いた免疫ブロットにより検出した: Santa Cruz Biotechnology製のアディポネクチン、Calbiochem製のMFG-E8、BD Bioscience製のカベオリン-1、Cell Signaling Technology製のAKT。Flagタグ付きaP2は、30μlのFlagアガロースビーズ(Sigma)と共に4℃で一晩インキュベートした後に、トランスフェクトHEK293細胞由来の馴化培地4mlを用いて免疫沈降させた。アガロースビーズに結合したタンパク質はSDSローディングバッファーで溶出させ、SDS-PAGEで分離した。
【0042】
イントラリピッドおよびaP2の注入
実験4日前に、マウスをケタミン(90mg/kg体重)およびキシラジン(10mg/kg体重)の腹腔内注射により麻酔した。該マウスの右頸静脈に、ヘパリン溶液(100USP U/ml)で満たしたPE-10ポリエチレンチューブ(内径および外径はそれぞれ0.28mmおよび0.61mm;Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)のカテーテルを挿入した。このカテーテルの遠位端を皮下に潜らせ、肩甲骨間部で露出させた後、結んで固定した。
【0043】
この実験の前にマウスを一晩絶食させ、イントラリピッド3ml/kg/時間(Abbott)およびヘパリン(6U/時間)を5時間注入した。組換えaP2は8μg/kg/分で5時間注入した。
【0044】
高インスリン-正常血糖クランプ試験
上述のようにしてマウスにカテーテルを挿入した。高インスリン-正常血糖クランプは既報の手法15の改変により行った。一晩の絶食後、HPLC精製した[3-3H]-グルコース(0.05μCi/分;PerkinElmer Life and Analytical Sciences, Boston, MA)を2時間の基準期間の間に注入し、その最後に血液サンプルを採取して基礎肝糖産生速度を算出した。基準期間の後、12.5mU/kg/分の速度のヒトインスリン(Humulin R; Eli Lilly, Indianapolis, NJ)のプライミング後持続注入(primed-continuous infusion)により120分間の高インスリン-正常血糖クランプを行った。血漿グルコース濃度の直接測定のために血液サンプルを20分間隔で採取し、血漿グルコースを基準濃度で維持するために25%グルコースを様々な速度で注入した。クランプを通じて[3-3H]-グルコースの持続注入(0.1μCi/分)を行いつつ、インスリン刺激後の全身グルコース代謝回転を算出した。全ての注入は、流量制御式微小透析ポンプ(CMA/Microdialysis, North Chelmsford, MA)を用いて行った。血漿中の[3H]-グルコースおよび3H2Oの濃度を測定するために、クランプ開始から80、85、90、100、110および120分後に血液サンプルを採取した。クランプの最後に、動物を屠殺した。5分以内に肝臓組織を取り出し、さらなる分析のために-80℃で保存した。
【0045】
aP2はインビトロで脂肪細胞から分泌される
aP2は、最初に発見されて以来、細胞質タンパク質と考えられていたが、最近、プロテオミクススクリーニングによって分化した3T3-L1脂肪細胞の上清中で、およびその後にヒト血清中で同定された。aP2が脂肪細胞により特異的に分泌されるのか又は細胞の代謝回転の間に放出されるのかを判定するための調査を行った。野生型(WT)またはFABP欠損の脂肪細胞から採取した馴化培地および細胞溶解物におけるaP2レベルの試験は、このタンパク質がWT細胞の馴化培地中に豊富に存在することを明らかにした(図4a)。対照的に、脂肪細胞における2つの豊富な細胞質タンパク質であるカベオリンおよびAktは同じ条件下では検出不可能であり、これにより、能動的分泌の可能性が示唆された(図4a)。しかし、aP2は脂肪細胞における最も豊富な細胞質タンパク質の一つであるため、馴化培地におけるその存在は、未だ、細胞の死および/または溶解に起因する非特異的な放出による可能性がある。細胞からのaP2放出の性質を確認するため、Flagタグ付きのaP2を、同じようにタグ付けした対照としてのGFPおよびAktと共にHEK293細胞にトランスフェクトし、各プラスミドの量を慎重に用量設定して、全てのタンパク質が細胞内において同様のレベルで発現されることを確実にした(図4b)。馴化培地および細胞溶解物の両方を抗Flag抗体で調査して、抗体ごとの感度の違いにより生じ得るあらゆるばらつきを排除した。これらの実験において、aP2は馴化培地において容易に検出できたが、GFPおよびAKTは同じ条件下で検出できなかった(図4b)。これらのデータは、aP2が能動的に分泌されること、およびaP2が馴化培地に存在するのは非特異的な細胞溶解または死によるものではなかったことを示した。全ての脂肪細胞が分泌するタンパク質中でのaP2の相対量を調査するため、脂肪細胞由来の馴化培地を一次元電気泳動により分離した。これらのデータは、aP2が、脂肪細胞から分泌される最も豊富なタンパク質の一つであること(図4c)、アディポネクチンに匹敵するレベルで存在することを明らかにし、aP2が細胞外で重要な生物学的機能を有していることを示した。
【0046】
インビボにおけるaP2分泌の調節
aP2分泌の調節を試験するため、マウスにおけるaP2の血清レベルをELISAシステムを用いて試験した。WTおよびmal1-/-マウスにおいて、aP2は血清中にかなりのレベル(100〜300ng/ml)で存在したが、aP2-/-およびaP2-mal1-/-対照においては検出できなかった(図4d)。血清aP2はレプチン(約12.5ng/ml)より10〜30倍豊富であったが、アディポネクチンレベル(5〜10μg/ml)よりは有意に少なかった。代謝疾患との関連において血清aP2の調節を調査するため、非肥満マウスと遺伝性および食餌誘導性の肥満マウスモデル両方との血清プロフィールを比較した。血清aP2は両方の肥満モデルにおいて顕著に(約4倍)増加しており(図4e)、これによりaP2がこれらの病理学的条件下での代謝調節の変化に関連している可能性が示唆された。一貫して、循環aP2レベルの上昇がヒトにおける肥満に関連していることが報告されている。
【0047】
肥満の際のaP2レベルの上昇は、aP2発現の亢進、体脂肪量の拡大またはaP2分泌の増加に起因する可能性がある。肥満が全体的なaP2発現に強い影響を与えないことは公知なので、体脂肪量の増加と分泌の調節不全のどちらが肥満マウスにおいて観察された血清aP2レベルの上昇の原因なのかを見分けるための調査を行った。非肥満マウスおよび肥満マウス(ob/ob)から脂肪外植片を採取し、外植片培養物におけるaP2のエクスビボ放出を試験した。肥満マウスから外植した等量の脂肪からのaP2分泌は、非肥満対照からの分泌よりも有意に多く、これにより肥満マウスではaP2分泌が調節不全を起こしていることが示された(図8)。アディポネクチンの分泌は肥満外植片において有意に減少しており、これにより脂肪組織の分泌プロフィールを把握する上でのこのシステムの適合性が確認された(図8)。
【0048】
aP2は脂肪細胞およびマクロファージの両方で発現され、両細胞型におけるaP2の機能喪失変異はマウスにおける代謝反応の改善に寄与し得る。肥満マウスでは脂肪組織にマクロファージが蓄積するので、インスリン抵抗性に寄与すると考えられる事象である、血清および脂肪外植片におけるaP2の増加が、脂肪組織のマクロファージからのaP2放出の増加に起因している可能性もある。肥満との関連において血清aP2の増加の原因となる細胞型を決定するため、WTマウスとFABP欠損マウスの間の骨髄移植を行った。血清試験により、WTマウス由来の骨髄系細胞がFABP欠損マウスにおいて検出可能レベルの血清aP2を維持し得ないことが明らかになった(図4f)。この知見により、造血細胞ではなく脂肪細胞がマウスにおける血清aP2の主たる寄与因子であるという認識、およびaP2は肥満状態における血清プロフィールの変化した新規のアディポカインであるという認識が支持された。
【0049】
aP2の分泌は脂肪分解によって放出される脂肪酸により調節される
脂肪細胞から分泌され代謝的な活性を有するタンパク質が代謝状態および栄養の変動により調節されるかどうかを評価する調査を行った。このような調節は、病理学的状態下での機能不全の機序を明らかにする可能性がある。したがって、血清aP2レベルが絶食および再給餌に反応して変化するかどうかを判定する実験を行った。24時間絶食したマウスにおける循環aP2のレベルは不断給餌時のレベルと比較して有意に上昇していたが、再給餌の4時間後に急速に抑制された(図5a)。したがって、栄養および代謝状態は血清aP2レベルを調節することができ、よってこのことはaP2がエネルギー恒常性を調節する全身プログラムの一部である可能性を示唆している。
【0050】
エネルギー恒常性における脂肪組織の主たる機能は、空腹時に脂肪分解を通じて他の組織に脂肪酸を提供することである。aP2の分泌が脂肪分解に関係しているかどうかを調査するため、前脂肪細胞を分化させ、この細胞中で脂肪分解を刺激した。イソブチルメチルキサンチン(IBMX)およびdbcAMP処理は、1時間以内に脂肪細胞からのaP2分泌の顕著な増加を誘導した(図5b)。細胞をインスリンで同時処理して脂肪分解を抑制した場合、aP2の分泌は抑制された(図5b)。組織環境下の脂肪細胞からのaP2分泌についてさらに調査するため、脂肪外植片を採取しエクスビボで培養した。ベースライン条件下または脂肪分解刺激時のaP2分泌を試験した。IBMXまたはホルスコリン処理はaP2分泌を非常に大きく増大させ(図5c)、これによりこのプロセスが脂肪分解と緊密に関係していることが確認された。インビボでのaP2分泌に対する脂肪分解の影響を調査するため、脂肪分解を強く活性化するβ-アドレナリン受容体アゴニストであるイソプロテレノールをマウスに注射した。イソプロテレノールを与えられたマウスは、ビヒクルで処理した対照動物と比較して血清aP2レベルの迅速な上昇を示し(図5d)、これによりaP2分泌がインビボで脂肪分解によって調節されることおよび絶食時のマウスにおける血清aP2の上昇は脂肪組織における脂肪分解活性の上昇によって引き起こされることが示された。
【0051】
脂肪分解により放出される脂肪酸がaP2分泌を調節するかどうかをさらに調査するため、脂肪細胞をパルミチン酸およびステアリン酸で処理した。いずれの脂質もaP2分泌を有意に増加させた(図5e)。脂肪酸処理はまたGFPタグ付きのaP2を脂肪滴へと移行させ(図5f)、これにより脂質がaP2の細胞内局在をも調節し、かつaP2を分泌経路へと標的化する可能性があることが示唆された。
【0052】
脂肪分解は複数のシグナル伝達経路を伴う複雑なプロセスであり、その多くはaP2の分泌を潜在的に調節している。脂肪分解により誘導されるaP2分泌における脂肪酸の重要性を判定するため、脂肪分解を誘導して貯蔵トリグリセリド(TG)からの脂肪酸放出を抑制した後、脂肪細胞をトリグリセリドヒドロラーゼ阻害剤であるリン酸ジエチルウンベリフェリル(DEUP)で処理した。DEUP処理は脂肪分解誘導性のaP2分泌を完全に遮断し、これにより脂肪酸の放出がaP2の分泌に必要であることが示された(図5g)。
【0053】
インビボでのaP2分泌に対する脂肪酸の効果を試験するため、生存している意識下のマウスにイントラリピッド/ヘパリン注入を行った。イントラリピッドの注入による血清脂肪酸の増加もまたaP2分泌を誘導し(図5h)、これにより脂肪酸がインビボでaP2分泌を刺激することが示された。
【0054】
血清aP2はマウスにおいて肝糖代謝を決定的に調節する
FABP欠損マウスは、代謝症候群の複数の要素、特に2型糖尿病から保護される。ヒトにおける血清aP2の増大は、糖尿病、心血管疾患およびその他の代謝障害に関連することも報告されている。しかし本発明以前は、循環aP2と脂質および/または糖質の代謝との間の因果関係は確立されていなかった。aP2分泌と脂肪分解の緊密な結びつきは、血清aP2が、脂肪酸の変動に起因する代謝調節に対して相乗効果を発揮する可能性を示唆している。
【0055】
肥満状態での脂肪分解レベルの上昇により、過剰な脂肪酸が血清中に放出される。これらの脂肪酸は、糖新生プログラムを活性化することによりインスリン抵抗性を引き起こし、肝糖産生を亢進する。したがって、循環aP2はこの作用を媒介するための標的に相当する。肥満状態ではそのレベルが有意に上昇しているので、代謝調節に対するFABP欠損の有益な効果は、少なくとも部分的に、血清中のaP2の機能喪失によって仲介される可能性がある。この仮説を調査するため、血清aP2を減少させる中和抗体を開発した。この抗体は非常に高い感度でaP2を特異的に検出した(図9)。高脂肪食を与えた肥満マウスにこの抗体を注射し、その結果から、aP2抗体が脂肪組織中のaP2レベルを変化させずに、血清aP2を、非肥満対照において見られるレベルまで効果的かつ迅速に枯渇させることを確認した(図6a)。抗体の投与はこれらのマウスの体重も血清中の遊離脂肪酸レベルも変化させなかったが(図10)、処理から2週間以内に血糖レベルを有意に低下させた(図6b)。耐糖試験において、aP2抗体を与えたマウスは、対照動物と比較して著しく改善された糖処理曲線を示した(図6c)。インスリン耐性試験により確認されたように、血清aP2が減少した肥満マウスはまた、全身インスリン反応の向上も示した(図6d)。これらの結果は、血清aP2の増加が、肥満により誘導されるインスリン抵抗性および耐糖能障害の必須要素に相当すること、および循環aP2の抑制が、肥満に関連する代謝の悪化を妨害する方法として有用であることを示した。
【0056】
aP2抗体またはビヒクルで処理したマウスにおける高インスリン-正常血糖クランプ試験を用いて、全身グルコースフラックスおよび抗体によるaP2枯渇の組織特異的効果を試験した。肥満マウスにおける血清aP2の減少は、基礎およびクランプ肝糖産生の有意な減少をもたらし(図6e、f)、これにより糖代謝の調節における循環aP2の主たる標的が肝臓であることが示された。このクランプ試験の間、抗体を注射した肥満マウスは、対照と比較して、正常血糖を維持するために有意に高いグルコース注入速度を必要としたが、糖代謝速度の変化は示さなかった(図6g、h)。これらの結果は、これらのマウスにおけるグルコース注入速度の増大が、主に肝糖産生の低下により駆動されることを示している。これらのデータは、全身FABPノックアウトにおける観察と合致し、これはまた、遺伝性および食餌性の肥満の両方において肝糖産生が有意に低下することも特徴とした。したがって、肝糖代謝に対するaP2の効果は主としてこのタンパク質の分泌形態により仲介される。
【0057】
循環aP2は肝糖産生を調節する
血清aP2の増加が糖代謝に対して負の影響を有するかどうかについて直接取り組むため、血清aP2が増加した以外は代謝的に正常な状態のマウスを産生した。通常固形飼料食を与えたマウスに組換えaP2を注射した。一回量の組換えaP2のマウスへの投与は血清aP2レベルの上昇をもたらし、これは数時間持続した(図11)。組換えaP2を一日二回注射して、マウスに、各24時間の期間の大部分で循環中の増大したaP2を確実に維持させた。組換えaP2の投与は、この期間の間、マウスの体重も血清中の遊離脂肪酸レベルも変化させなかった(図12)。しかし、耐糖試験により判定されたように、非肥満の健常な動物は組換えaP2を2週間与えられた後に穏やかな耐糖能障害を示した(図6i)。この知見は、血清aP2が糖代謝を調節すること、および、食餌による寄与および体重変化がない場合でさえも、血清aP2の増加のみで糖代謝を損ない得ることを示した。組換えaP2を意識下のFABP欠損マウスに注入し、糖代謝に対する血清aP2の急性効果を高インスリン-正常血糖クランプにより試験した。この設定下で、aP2の注入はマウスにおける血清aP2レベルの急激な上昇をもたらし、1時間後には高い定常状態の血清レベルを確立し、これは実験終了時点まで持続した(図13)。このクランプ試験の際、aP2を与えられたマウスは有意に高い基礎肝糖産生(bHGP)を示した(図6j)。肝糖産生を試験した時点でこれらのマウスは4時間にわたりaP2注入しか受けていなかったことを考慮すると、これは重大な効果である。これらの知見および糖代謝速度の変化がみられなかったことは、肝臓が血清aP2の主たる標的であるという仮説をさらに支持するものである。肝糖産生を調節する遺伝子の発現を、aP2注入実験およびaP2枯渇実験の両方において試験した。糖新生経路における2つの重要な遺伝子であるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)およびグルコース-6-ホスファターゼ(G6P)はどちらも、対照と比較してaP2を注入したマウスにおいて有意に上方制御された(図6k、上パネル)。反対に、aP2抗体を与えたマウスは、これらの糖新生遺伝子の劇的な減少を示した(図6k、下パネル)。これらのデータは、血清aP2が肝臓における糖新生を調節し、肥満状態における血清aP2レベルの上昇が、糖尿病状態下でしばしば観察される肝糖産生の亢進に寄与することを示している。
【0058】
インビトロおよびインビボにおけるエキソソームの関与するaP2分泌
aP2の分泌が脂肪分解とどのように関連し、それによってどのように調節されるかをより理解するため、aP2分泌の分子機序を試験した。最初に、分化した脂肪細胞を古典的分泌経路の阻害剤で処理し、馴化培地中に分泌されたタンパク質を試験した。ブレフェルジンAおよびモネンシン処理は両方ともアディポネクチンの分泌を効果的に妨害したが、いずれもaP2放出に対する阻害効果は全く有さず(図7a)、これによりaP2が非古典的経路を通じて分泌されることが示された。この知見は、aP2がシグナルペプチド配列を欠くという事実と符合する。
【0059】
非古典的分泌に関してこれまでに説明された様々な機序のうちの一つはエキソソーム依存経路である。aP2の分泌がこの経路を利用するかどうかを判定するため、エキソソームを脂肪細胞の馴化培地から単離し、これらの画分におけるaP2の存在を試験した。aP2は、確立されたエキソソームマーカーである乳脂肪球-EGF因子8(MGF-E8)と同じようにエキソソーム画分に濃縮され容易に検出でき(図7b)、これによりaP2が実際に脂肪細胞においてエキソソームを通じて分泌されることが示された。
【0060】
脂肪組織中の脂質シャペロンのエキソソーム性分泌の調節は脂肪分解と肝糖産生を結びつける
膜標的化は、エキソソームを介した分泌における重要な工程である。aP2の大多数は細胞質内に局在する一方、aP2が一過的にリン脂質膜と相互作用することが見出された。aP2の3D構造は、脂肪酸侵入に対する入口となる2つの上部αヘリックスを有する10本のストランドからなるβバレルから構成されている25(図7c、左パネル)。aP2タンパク質の以下の2つの要素は、aP2の膜会合に寄与することが提唱されている:(1)負に荷電したリン脂質との静電的相互作用を仲介する、リジン残基が提供する強い正の表面電位をもつ隆起(ridge)および(2)膜と直接相互作用する入口領域。aP2のエキソソームへの移行の根底にある機序を調査するため、2つの重要な表面残基であるリジン22および59をイソロイシンに変更するか(図7c、中央パネル)、または入口領域を完全に欠損させた(図7c、右パネル)、aP2変異体を作製した。これらの変異体ではaP2の全体的なフォールディングは変化しなかったが、どちらも細胞からのaP2分泌を妨害し(図7d)、これによりaP2とリン脂質膜との会合がaP2の分泌の絶対条件であることが示された。分泌能を喪失させた上記のaP2変異体はまた、エキソソームへの局在を劇的に減少させ(図7d)、これによりエキソソーム標的化がaP2分泌のための必須工程であることが示された。
【0061】
aP2の分泌が脂肪分解により誘導されることが観察されたので、脂肪分解の際または脂肪酸に暴露された際のaP2のエキソソームへの移行を試験した。両方の条件下において、エキソソームにおけるaP2の明らかな濃縮(図7e)が見られ、これにより脂肪分解時のaP2のエキソソーム標的化の亢進がその分泌亢進をもたらすことが示唆された。血液中でエキソソーム様微小胞が同定されたが、通常、これらの小胞の供給源は造血細胞であると考えられている。aP2と会合したエキソソームが循環中にも存在するかどうかを調査するため、マウスの血漿からエキソソーム画分を単離し、aP2に関してブロットした。aP2と会合したエキソソームはWTの循環中に存在したが、aP2ノックアウトマウスでは確認されず(図7f)、これにより脂肪細胞が他の器官と連絡するためにエキソソームを分泌している可能性が示唆された。結果は肥満マウスの循環エキソソームにおける有意に高いaP2レベルを示し、これによりaP2と会合したエキソソームが肥満誘導性の代謝調節不全に関与している可能性が示された(図7f)。
【0062】
これらのデータは、aP2が栄養状態および肥満によって調節される新規のアディポカインである証拠を提供する。脂肪細胞において、aP2の分泌は脂質および脂肪分解により活性化され、エキソソーム関連の分泌経路を介して行われる(図7g)。マウスにおいて、血清aP2はもっぱら脂肪細胞に由来し、食餌性または遺伝性の肥満モデルにおいておよびインビボでの脂肪分解において顕著に増加する。肥満マウスで血清aP2を枯渇させると肝糖産生の亢進が抑制され、逆に、非肥満マウスにおける血清aP2の増加は肝糖産生を亢進する。これらの結果は、分泌されたaP2が、脂肪分解と肝糖産生をつなぐ脂肪-肝臓間の連絡系統の重要な要素であることを示している(図7g)。
【0063】
血清中の遊離脂肪酸は空腹時の重要なエネルギー供給源であるが、脂肪分解の亢進および血清中の脂肪酸の増加は、全身グルコース恒常性の調節不全に関係しており、肥満誘導性の代謝障害における重要な根本原因の一つであるとも認識されている。過剰な脂肪酸は、グルコース利用を減らすことおよびインスリンを介した糖産生抑制を弱めることによって、それぞれ筋肉および肝臓におけるインスリン抵抗性を引き起こす。十分に管理されたホルモン条件の膵臓クランプを利用することにより、脂肪酸もまた、インスリンまたはグルカゴンの作用に依存することなく肝糖産生を直接的に亢進することが示された。この効果は脂肪酸による糖新生経路の活性化に起因するものであった。いくつかのマウスモデルおよび条件では肝糖産生と血清脂肪酸増加とを連携させないことが示され、これにより脂肪分解および脂肪酸と肝糖新生の連携には他の要素が必要であることが示唆された。本明細書に示された知見は、aP2が、分泌された脂肪細胞タンパク質でありかつ上記要素の一つであると同定するものである。
【0064】
aP2をアディポカインと同定することで、脂肪組織の内分泌機能に様々な視点が提供される。このタンパク質は、脂質と直接結合できかつ脂肪分解に反応して分泌されることができるという点で独特である。したがって、このタンパク質は脂肪組織の脂質状態のセンサーとして、または代謝調節もしくは食餌の変化に反応する他の代謝器官へのシグナルとして機能する。さらに、脂肪分解により刺激されるエキソソーム関連性aP2分泌は、脂肪細胞が、膨大な量の脂肪滴と小胞体に課せられた制約とにもかかわらず、いかにして劇的な分泌能を維持しているのかの説明の助けとなりうる。aP2は、脂肪酸により活性化されると脂肪滴または脂肪体に移行する。脂肪体は膜輸送小器官として機能し、一部の脂肪体内在タンパク質、例えばペリリピンAはエキソソームを介して分泌されることが明らかにされている。したがって、aP2分泌の機序によって、脂肪細胞が脂質およびタンパク質の細胞外への効果的な輸送の必要性を満たすことが可能となる(図7g)。
【0065】
aP2の分泌および血清レベルと脂肪性脂肪分解との緊密な結びつきは、aP2が脂肪分解反応の生理学的および/または病態生理学的な帰結の新たな一面であることを示している。脂肪酸が肝糖新生を十分活性化するために血清成分としてaP2を明らかに必要としていることは、肥満誘導性の高aP2血症(hyper-aP2-emia)が、2型糖尿病患者における高血糖症の特徴である高い肝糖産生の原因である可能性を示している。
【0066】
実験モデルだけでなくヒトについてもaP2が代謝疾患において中心的な役割を果たすことが、証拠により示されている。aP2阻害の治療的価値が臨床上の目的であるが、組織内でのその化学的な標的化が課題となっている。本明細書に示されたデータは、肥満に関連する高い血清aP2レベルを中和抗体を用いて正常化すると、脂肪組織aP2レベルの変化なしに糖代謝が大きく改善することを実証している。血清aP2レベルはヒトにおける代謝疾患リスクに関係しており、空腹時の循環aP2は空腹時の遊離脂肪酸の増加よりも代謝上のリスクと強く関連している。血清aP2を中和する組成物の投与は、代謝障害、特に2型糖尿病を治療するための効果的なアプローチである。
【0067】
その他の実施態様は添付の特許請求の範囲に示されている。
【技術分野】
【0001】
政府の権益に関する声明
本発明を成すにあたり、米国国立衛生研究所から授与されたDK064360およびDK071507の下で政府の支援を受けた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
代謝症候群または代謝疾患とは、一個人において同時期に生じ糖尿病および心血管疾患を引き起こす一群の代謝系危険因子を定義する用語である。代謝症候群の主な特徴には、インスリン抵抗性、高血圧(血圧上昇)、コレステロール異常および凝血に関するリスクの上昇が含まれる。インスリン抵抗性とは、血液から筋肉およびその他の組織への糖グルコースの輸送を促進する際のインスリンの作用に対する細胞の応答能力が低下したことを指す。この危険因子群を有する患者はたいてい過体重または肥満体である。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、血清aP2が全身のインスリン感受性および糖代謝を調節するという発見に基づいている。従って、循環中のaP2(例えば血液aP2または血清aP2)に結合しこれを妨害する組成物を被験体に投与することにより、循環中のaP2タンパク質に結合しその量を減少させる組成物を投与することにより、または細胞によるaP2分泌の阻害剤を投与することにより、代謝疾患の症候を軽減する方法が実施される。例えば、このような阻害剤の投与後に耐糖能障害が軽減される。例示的な組成物には、抗体またはその抗原特異的フラグメント、aP2に結合する低分子、および脂肪細胞またはマクロファージによるaP2の分泌を阻害する組成物が含まれる。
【0004】
代謝疾患を予防するかまたはその重篤度を軽減する方法は、血清aP2濃度を低下させる組成物を被験体に投与する工程を含む。特定の態様において本方法は、健常な同年齢同性の対照被験体(または被験体のプール)のaP2レベルと比較して上昇した血清aP2レベルにより特徴づけられる被験体を同定する工程を含む。例えば、対照被験体は非肥満(lean)であり、かつ20μg/Lの血清aP2レベルにより特徴づけられ、治療介入が必要な被験体はaP2レベルの上昇により特徴づけられる。治療すべき被験体は、過体重であり、肥満体であり、かつ/または20μg/L超の血清aP2レベル(例えば25、28、30、32、35、40μg/Lまたはそれ以上の血清aP2)を有する。被験体は、任意で、正常体重(BMI 18.5〜24.9)、過体重(BMI 25〜29.9)または肥満(BMI 30以上)であるとして同定されてもよい。
【0005】
本明細書に記載される各治療法において、血清aP2濃度は、治療前の血清aP2濃度と比較して少なくとも10%、25%、50%、75%、1/2、1/5、1/10またはそれ以上が低下する。一つの態様において、血清aP2濃度を低下させる組成物はaP2特異的抗体である。抗体は精製されたモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。例えば、抗体が接触可能な、aP2のエピトープ、例えば図3で強調表示されているエピトープに結合する抗体である。このような抗体は、その結晶モデル(図3)に示されているような、溶液中(例えば血液中および血清中)のタンパク質の3次元構造に基づき露出した表面上にあるaP2のエピトープに結合する。例えば、抗体はaP2の不連続エピトープに結合する。不連続エピトープとは、アミノ酸が、タンパク質の3次元構造においては(折り畳まれた状態では)近接しているが折り畳まれていない場合には離れている、エピトープである。好ましくは、抗体は、その結合特異性が、aP2が体液中、例えば血液中、血清中または血漿中に存在するようにaP2分子上で表面接触可能である立体構造エピトープを含む、モノクローナル抗体である。例えば、エピトープはヒトaP2タンパク質の以下の部分のうちの少なくとも1つを含む:SEQ ID NO: 4の残基1〜5、残基22、残基36〜37、残基46〜47、残基57、残基59〜60、残基78、残基80、残基89、残基97〜101、残基110〜112、残基122。抗体は、溶液中でaP2タンパク質の表面に露出している、2つまたはそれ以上のエピトープ(残基または連続した残基)に結合してもよい。いくつかの例において、抗体は変性されたaP2に結合しないかまたはaP2の直線状エピトープに結合しない。
【0006】
本発明は、無傷のモノクローナル抗体およびその利用だけでなく、免疫学的に活性な抗体フラグメント、例えばFabまたは(Fab)2フラグメント;操作された単鎖Fv分子;またはキメラ分子、例えば、例えばマウス起源の抗体の結合特異性と、例えばヒト起源の別の抗体の残りの部分を含む抗体を包含する。
【0007】
aP2分泌の阻害剤を同定する方法もまた本発明に包含される。このような化合物を同定するために、aP2分泌細胞、例えば脂肪細胞またはマクロファージを候補化合物と接触させ、細胞外aP2レベルを検出する。化合物の存在下での細胞外aP2が該化合物の非存在下でのレベルと比較して低下したことは、該化合物がaP2分泌を阻害することを示す。例えば、細胞外aP2レベルは、少なくとも10%、25%、50%、75%、1/2、1/5、1/10またはそれ以上が低下する。
【0008】
aP2分泌の阻害剤のスクリーニングは、インビトロおよびインビボでaP2を豊富に発現しかつホルモンおよびその他の生物学的刺激に対する応答に関して脂肪組織と近似する、分化した脂肪細胞を用いて行われる。例えば、高スループットのスクリーニングを行うために2つのアプローチが用いられる。一つ目は、GFPタグ付きのaP2を、アデノウイルスを介した遺伝子送達により脂肪細胞中で発現させるものである。96ウェルプレートに播種した細胞に阻害剤を適用し、馴化培地中の蛍光強度の測定によりaP2分泌を確認する。二つ目は、FlagおよびHAの二重タグを有するaP2のcDNAを脂肪細胞中で発現させるものである。阻害剤処理後の分泌されたaP2はELISAシステムを用いて検出する。FlagはaP2をプレート上に捕捉するのに使用され、aP2の検出にはHRP結合HA抗体が使用される。
【0009】
本方法および組成物は、分泌されるaP2の異常な増加、例えば血液または血清におけるaP2レベルの上昇により特徴づけられる臨床障害を治療するかまたはその重篤度を軽減するのに有用である。このような状態には、代謝症候群、耐糖能障害、肥満、糖尿病、脂肪肝疾患、アテローム性動脈硬化症およびぜん息(aP2がその病理に直接関与する状態)が含まれる。血清aP2の増加はまた、慢性血液透析(CD)、閉塞性睡眠時無呼吸(肥満に関係する障害)、HIV感染患者における脂肪異栄養症、および脂肪分解にも関連し、これらの状態は本明細書に記載の方法および組成物を用いて治療または軽減される。本方法はまた、aP2が間接的に関与する病理学的状態、例えば高血圧、脳卒中、および神経変性疾患の治療またはその重篤度の軽減にも有用である。
【0010】
阻害剤は、ヒトおよび他の動物、例えばネコ、イヌの糖尿病を治療するのに使用される。例えば、阻害剤は、II型糖尿病を有するかまたはその発症リスクがあると診断された被験体に投与される。
【0011】
本明細書において引用された刊行物、米国特許および出願、GenBank/NCBIアクセッション番号ならびにその他全ての参考文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1aは、脂肪細胞におけるaP2の分泌を示す電気泳動ゲルの写真である。WTまたはFABP欠損(DK)の分化した脂肪細胞由来の全細胞溶解物(WCL)および馴化培地(CM)を、抗aP2抗体、mal1抗体、カベオリン抗体、またはAKT抗体を用いてブロットした。 図1bは、WT、aP2-/-(aP2KO)、mal1-/-(mal1KO)およびaP2-mal1-/-(DKO)マウスの血清aP2濃度を示す棒グラフである。aP2レベルは実験手順に記載されるようにaP2 ELISAで測定した。 図1cは、非肥満(WT通常食、RD)、食餌性肥満(WT高脂肪食、HFD)またはレプチン欠損の遺伝性肥満マウス(ob)における血清aP2濃度を示す棒グラフである。 図1dは、骨髄移植を受けたマウスにおける血清aP2濃度を示す棒グラフである。骨髄移植はWTマウスとFABP欠損(DKO)マウスの間で行い、血清aP2はaP2 ELISAで測定した。差し込み図は、対照またはaP2プラスミドをトランスフェクトしたマクロファージ由来の馴化培地のaP2のブロッティングである。
【図2a】aP2特異的抗体を用いたウェスタンブロットアッセイの結果を示す電気泳動ゲルの写真である。WTまたはFABP欠損の脂肪細胞由来の細胞溶解物を、対照ウサギIgG、免疫前血清またはaP2抗体を用いてブロットした。
【図2b】マウスにおけるaP2抗体投与前後の血清aP2濃度を示す棒グラフである。高脂肪食で維持し、対照またはaP2抗体を2週間注射したマウスにおける血清aP2を、aP2 ELISAで分析した。
【図2c】血清aP2が減少したマウスにおけるグルコースレベルを示す棒グラフである。高脂肪食で維持したWTマウスに対照IgGまたはaP2抗体を2週間注射し、注射前後の体重を測定した。
【図2d】対照またはaP2抗体を2週間注射したマウスの耐糖試験の結果を示す線グラフである。
【図2e】対照または組換えaP2を2週間注射したマウスのインスリン耐性試験の結果を示す線グラフである。
【図2f】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、対照またはaP2抗体を注射したマウスのクランプ肝糖産生速度(cHGP)を示す棒グラフである。
【図2g】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、対照またはaP2抗体を注射したマウスの基礎肝糖産生速度(bHGP)を示す棒グラフである。
【図2h】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、対照タンパク質または組換えaP2を注入したFABP欠損マウスの基礎肝糖産生速度(bHGP)を示す線グラフである。
【図3】ソフトウェアツールDiscoTopeを用いた、aP2の結晶構造に基づく不連続エピトープの図である。標的エピトープはこの構造中で強調表示されており、これらのエピトープを構成する残基は、この図の下に示すアミノ酸配列において囲み線表示された残基として示され、SEQ ID NO: 4(以下の表3)において下線表示されている。
【図4a】脂肪細胞におけるaP2の分泌を示す電気泳動ゲルの写真である。WTまたはaP2-mal1-/-(DKO)の分化した脂肪細胞由来の全細胞溶解物(WCL)および馴化培地(CM)を、抗aP2抗体、カベオリン抗体、AKT抗体またはアディポネクチン抗体を用いてブロットした。
【図4b】HEK293細胞におけるaP2の分泌を示す電気泳動ゲルの写真である。Flag-AKT、Flag-GFP-aP2またはFlag-GFPプラスミドをトランスフェクトしたHEK293細胞由来の全細胞溶解物(WCL)または免疫沈降後の馴化培地(CM)を、抗Flag抗体を用いてブロットした。
【図4c】培地交換後の示された時点におけるWTまたはaP2-/-の脂肪細胞から採取した馴化培地を示す電気泳動ゲルの写真である。SDS-PAGEを用いて培地を分離し、クマシーブルーで染色して、培地中に豊富に存在する全てのタンパク質を試験した。WT、aP2-/-(aP2KO)、mal1-/-(mal1KO)およびaP2-mal1-/-(DKO)マウスの血清aP2。
【図4d】aP2 ELISAで測定したaP2レベルを示す棒グラフである。
【図4e】非肥満(WT通常食、RD)、食餌性肥満(WT高脂肪食、HFD)またはレプチン欠損の遺伝性肥満(ob/ob)マウスにおける血清aP2を示す棒グラフである。*、p<0.05。
【図4f】骨髄移植を受けたマウスにおける血清aP2を示す棒グラフである。骨髄移植はWTとaP2-mal1-/-(DKO)マウスの間で行い、血清aP2レベルはaP2 ELISAで測定した。
【図5a】不断給餌(0)、24時間絶食(24)または24時間絶食後4時間再給餌(28)のマウスにおける血清aP2を示す棒グラフである。*、p<0.05。
【図5b】IMBX/dbcAMP(I/C)およびインスリン(Ins)で処理した脂肪細胞の馴化培地(CM)または全細胞溶解物(WCL)におけるaP2を示す電気泳動ゲルの写真である。
【図5c】ホルスコリン(FSK)またはIBMXで処理した脂肪外植片の馴化培地または全細胞溶解物におけるaP2を示す電気泳動ゲルの写真である。
【図5d】生理食塩水(対照)または脂肪分解を誘導するイソプロテレノールを注射したマウスにおける血清aP2レベルをそれらの初期aP2レベルとの比較で示す棒グラフである。
【図5e】パルミチン酸(C16)またはステアリン酸(C18)で処理した脂肪細胞の馴化培地または全細胞溶解物におけるaP2を示す電気泳動ゲルの写真である。
【図5f】標準培地(対照)または0.5mMパルミチン酸含有培地で一晩培養された、GFP-aP2を発現する前脂肪細胞を示す顕微鏡写真である。
【図5g】IBMX/dbcAMP(I/C)またはDEUPで処理した脂肪細胞の馴化培地および全細胞溶解物におけるaP2を示す電気泳動ゲルの写真である。
【図5h】生理食塩水(対照)またはイントラリピッド/ヘパリン(脂質)を5時間注入したマウスにおける血清aP2を示す棒グラフである。これらの図は、aP2の分泌が脂肪分解により放出される脂肪酸により活性化されることを示している。
【図6a】aP2抗体注射前後のマウスにおける血清aP2を示す棒グラフである。上パネル、高脂肪食で維持し、免疫前(対照)またはaP2抗体を2週間注射したマウスにおける血清aP2。血清aP2レベルは、aP2 ELISAで測定した。*、p<0.05。下パネル、高脂肪食で維持し、免疫前(対照)またはaP2抗体を2週間注射したマウス由来の脂肪組織の総タンパク質抽出物を、抗aP2抗体を用いて免疫ブロットした。
【図6b】血清aP2を減少させた肥満マウスにおけるグルコースレベルを示す棒グラフである。高脂肪食で維持したWTマウスに免疫前(対照)またはaP2抗体を2週間注射し、グルコースレベルを食餌停止の6時間後に測定した。*、p<0.05。
【図6c】高脂肪食で維持し、免疫前(対照)またはaP2抗体を2週間注射したマウスの耐糖試験を示す線グラフである。*、p<0.05。
【図6d】免疫前(対照)またはaP2抗体を3週間注射した高脂肪食給餌マウスのインスリン耐性試験を示す線グラフである。*、p<0.05。
【図6e】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、免疫前(対照)またはaP2抗体を注射した高脂肪食給餌マウスの基礎肝糖産生速度(bHGP)を示す棒グラフである。*、p<0.05。
【図6f】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、免疫前(対照)またはaP2抗体を注射した高脂肪食給餌マウスのクランプ肝糖産生速度(cHGP)を示す棒グラフである。*、p<0.05。
【図6g】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、免疫前(対照)またはaP2抗体を注射した高脂肪食給餌マウスの糖注入速度(GIR)を示す棒グラフである。*、p<0.05。
【図6h】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、免疫前(対照)またはaP2抗体を注射した高脂肪食給餌マウスの全身糖代謝(RD)を示す棒グラフである。
【図6i】対照Gusタンパク質または組換えaP2を2週間注射した通常食給餌マウスの耐糖試験を示す線グラフである。*、p<0.05。
【図6j】高インスリン-正常血糖クランプ試験における、対照Gusタンパク質または組換えaP2を注入したaP2-mal1-/-マウスの基礎肝糖産生速度(bHGP)を示す棒グラフである。*、p<0.05。
【図6k】対照タンパク質もしくは組換えaP2を注入したWTマウス(上パネル)または対照もしくはaP2抗体を注射したHFD給餌マウス(下パネル)の肝臓における遺伝子発現を示す棒グラフである。肝臓組織中のPEPCKおよびG6Pをリアルタイム定量PCRで分析した。*、p<0.05。これらの図面は、血清aP2による全身グルコース恒常性の調節を示している。
【図7a】aP2の非古典的分泌を示す電気泳動ゲルの写真である。対照、ブレフェルジンA(Bref A)またはモネンシン(Mon)で処理した脂肪細胞由来の馴化培地を、抗aP2抗体またはアディポネクチン抗体を用いてブロットした。全細胞溶解物(WCL)も抗aP2抗体を用いてブロットした。
【図7b】aP2のエキソソームへの局在化を示す電気泳動ゲルの写真である。分化した脂肪細胞由来の全細胞溶解物(WCL)、馴化培地(CM)およびエキソソーム画分(Exo)を、抗aP2抗体またはMFG-E8抗体を用いてブロットした。
【図7c】WTおよび変異aP2の構造および表面電荷を示す一連の図面である。上パネル:WTおよび2つのaP2変異体の3D構造、下パネル:WTおよび2つのaP2変異体の静電ポテンシャル。これらのレンダリングはPyMol(http://pymol.sourceforge.net/)を用いて作製し、WT aP2は以前に記載された3D構造(PDB ID:1LIE)に基づいている。
【図7d】電気泳動ゲルの写真であり、WTまたは変異aP2でトランスフェクトしたHEK293細胞由来の全細胞溶解物(WCL)、エキソソーム画分および免疫沈降後の馴化培地を、抗flag抗体を用いてブロットしたことを示す。
【図7e】ウェスタンブロットの写真であり、対照脂肪細胞またはホルスコリン、IBMXもしくはパルミチン酸で処理した脂肪細胞から単離したエキソソームを、抗aP2抗体またはMFG-E8抗体を用いてブロットした。
【図7f】ウェスタンブロットの写真であり、aP2-/-、WTマウスまたは高脂肪食で維持したWTマウスの血液から単離したエキソソームを、抗aP2抗体またはMFG-E8抗体を用いてブロットした。
【図7g】aP2分泌の機序を示す図である。空腹またはβ-アドレナリン刺激により脂肪分解が活性化されると、aP2は脂肪滴の表面に移行し、ここで、脂肪分解により放出された脂肪酸に結合する。脂肪酸への結合により、aP2がエキソソームを標的化するシグナルが誘導され、ここでこれは、エキソソームから細胞外空間および血流中へと放出される。aP2はその後肝臓に移動し、糖新生を調節する。これらの図面は、aP2のエキソソーム依存的な分泌を示している。
【図8】WTおよびob/obマウスの脂肪外植片からのaP2の分泌を示す免疫ブロットである。非肥満および肥満マウスの脂肪外植片におけるaP2分泌。脂肪外植片は、通常食で維持したWTマウスまたはob/obマウスから採取し、十分に洗浄した。新しい培地を加え、一晩インキュベートし、抗aP2抗体またはアディポネクチン抗体を用いる免疫ブロット分析のために回収した。
【図9】aP2抗体の特異性を示す一連の免疫ブロットである。WTまたはaP2-/-の脂肪細胞由来の細胞溶解物をSDS-PAGEで分離し、精製された免疫前IgGまたは抗aP2 IgGを用いて免疫ブロットした。
【図10】図10aおよびBは、aP2抗体で処理したマウスの体重および血清中の遊離脂肪酸を示す棒グラフである。免疫前(対照)またはaP2抗体で処理したマウスの体重を、抗体投与の0日目および14日目に記録した。a、血清は、抗aP2抗体を注射したマウスから、抗体投与の0日目および14日目に採取した。血清中の非エステル化脂肪酸は、市販のキット(Wako Chemicals USA, Inc.)を用いて測定した。
【図11】組換えaP2注射後のWTマウスにおける血清aP2を示す棒グラフである。マウスの血清サンプルは、aP2注射後の示された時点で採取し、aP2レベルはaP2 ELISAにより測定した。
【図12】図12a〜bは、組換えaP2を注射したマウスの体重および血清中の遊離脂肪酸を示す棒グラフである。対照または組換えaP2タンパク質を注射したマウスの体重を、タンパク質投与の0日目および14日目に記録した。 a、血清は、対照または組換えaP2タンパク質を注射したマウスから採取し、タンパク質投与の0日目および14日目に記録した。血清中の非エステル化脂肪酸は、市販のキット(Wako Chemicals USA, Inc.)を用いて測定した。
【図13】aP2注入時のFABP欠損(DKO)マウスにおける血清aP2を示す線グラフである。血清サンプルは、aP2注入の際の示された時点でFABP欠損マウスから採取した。血清aP2レベルはaP2 ELISAで測定した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
aP2は、脂肪細胞型脂肪酸結合タンパク質(AFABP)、脂肪酸結合タンパク質-4(FABP-4)および脂肪細胞型脂質結合タンパク質(ALBP)としても公知である。本発明以前まで、aP2は細胞質タンパク質であると考えられていた。本発明により、分泌された脂肪性脂質シャペロンであるaP2が肝糖代謝を調節することが見出された。aP2は、マウスおよびその他の哺乳動物、例えばヒトの細胞において脂肪に分泌されるタンパク質であることが見出された。
【0014】
血清aP2は全身糖代謝を調節する。循環aP2の異常な増加により特徴づけられる臨床障害の症候を軽減する方法は、細胞によるaP2分泌の阻害剤を被験体に投与することにより、またはaP2ブロッキング剤を投与することにより実施される。例えば、このような阻害剤または薬剤の投与後に耐糖能障害が軽減される。組成物は、脂肪細胞またはマクロファージによるaP2の分泌を阻害する。あるいは、抗体等の例示的な組成物は、循環aP2に結合することによって、血液中または血清中のaP2のレベルまたは活性を低下させる。
【0015】
以下にマウスおよびヒト双方のaP2の核酸配列およびアミノ酸配列を示す。
【0016】
(表1)マウスaP2 cDNA
【0017】
(表2)ヒトaP2 cDNA
【0018】
(表3)ヒトaP2のアミノ酸配列
【0019】
(表4)マウスaP2のアミノ酸配列
【0020】
aP2分泌の調節
aP2が細胞上清に放出されることを確認するため、WTまたはFABP欠損の脂肪細胞由来の馴化培地および細胞溶解物を、aP2の存在についてウェスタンブロットで分析した(図1a)。aP2は馴化培地中に豊富に存在することが見出されたが、脂肪細胞中の2つの細胞質タンパク質であるカベオリンおよびAKTは同じ条件下で検出できなかった(図1a)。脂肪細胞におけるFABPの少ないアイソフォームでありaP2に対して高い相同性を共有するmal1もまた馴化培地中に放出されていた(図1a)。まとめると、両方の脂肪性FABPとも分化した脂肪細胞から分泌される。
【0021】
次に、aP2 ELISAシステムを用いてマウスにおける血清aP2を調べるための調査を行った。aP2はWTおよびmal1-/-マウスの血清中にかなり豊富に(200〜300ng/ml)存在したが、aP2-/-またはaP2-mal1-/-マウス由来の血清では検出できなかった(図1b)。血清aP2は、アディポカインであるレプチン(10ng/ml)よりも20倍豊富であり、アディポカインであるアディポネクチン(2〜5mg/ml)よりも若干少なかった。代謝疾患に関連する環境下での長期的な血清aP2の調節を調査するため、非肥満マウスの血清と、高脂肪食給餌またはレプチン欠損のいずれかにより誘導した肥満マウスの血清とを比較した。血清aP2は両方の肥満モデルにおいて顕著に増加しており(図1c)、これにより、分泌されたaP2が機能性であり得かつこれらの病理学的条件下での代謝調節の変化に関連し得ることが示された。aP2は脂肪細胞およびマクロファージの両方で発現され、いずれかの部位におけるaP2の機能喪失変異は、代謝疾患の発症からマウスを保護する(Furuhashi et al., 2008, J Clin Invest. 118: 2640-50; Maeda et al., 2005, Cell Metab 1, 107-119)。
【0022】
aP2はまた、マクロファージにより分泌されることも見出された(図1d、差し込み図)。肥満マウスは脂肪組織中にマクロファージを蓄積し、これがインスリン抵抗性に寄与している。したがって、血清aP2の増加は、いずれの細胞型からのaP2放出の増加の結果である。どの部位が肥満における血清aP2増加の原因となっているのかを確認するため、WTとFABP欠損マウスの間で骨髄を移植した。これらのマウスにおける血清aP2を調べた。WTマウスの骨髄由来細胞はFABP欠損マウスにおいて検出可能レベルの血清aP2を維持できず(図1d)、これにより、造血細胞ではなく脂肪細胞がマウスにおける血清aP2の主たる寄与因子であることが示された。
【0023】
血清aP2は全身糖代謝を調節する
脂肪細胞から分泌されるホルモン(すなわちアディポカイン)は、糖代謝および脂質代謝に関与する(Rosen et al., 2006, Nature 444:847-853)。血清aP2は肥満および糖尿病状態で増加するので、増加したaP2が肥満で見られるような糖代謝の変化に関与しているならば肥満における血清aP2の減少が血糖管理を改善するかどうか判定する実験を行った。血清aP2を効果的に枯渇させるため、aP2を特異的に認識する抗体を作製した。この抗体を用いた調査により、この抗体がaP2を極めて高感度で特異的に検出することを確認した(図2a)。この抗体を肥満マウスに注射した。該マウスは16週間にわたる高脂肪食給餌により肥満に誘導した。aP2抗体の投与は、血清aP2濃度を効果的かつ迅速に抑制した(図2B)。このaP2抗体処理は、これらのマウスの体重を変化させなかったが、投与2週間で血糖レベルを有意に低下させた(図2c)。aP2抗体を注射されたマウスではまた、糖処理率も劇的に向上しかつインスリン応答も向上し、これは、耐糖試験およびインスリン耐性試験により確認した(図2dおよび2E)。実際、aP2抗体処理はこれらのマウスにおける食餌性肥満に関係する耐糖能障害を本質的に消滅させ、これにより血清aP2の減少がII型糖尿病を患う人々に臨床的恩恵をもたらすことが示された。
【0024】
インビボでのaP2の作用部位を決定するため、高インスリン-正常血糖クランプ試験を行った。aP2抗体を注射されたマウスは肝糖産生が低下することが見出され(図2g)、これにより肝臓がaP2抗体のグルコース減少効果の主たる標的であることが示された。
【0025】
血清aP2の増加の代謝面での結果を確認するための反対実験において、精製された組換えaP2を作製し、意識下のFABP欠損マウスに注入した。次いで、高インスリン-正常血糖クランプ試験を行い、これらのマウスの全身糖代謝をモニタリングした。aP2を注入されたFABP-/-マウスでは、基礎肝糖産生(bHGP)が有意に増加した(図2g)。これらのマウスがbHGP測定の時点で4時間のaP2注入しか受けていなかったことを考慮すると、これは重大な効果である。
【0026】
血清aP2の増加の効果をさらに調査するため、通常食で維持したWTマウスに組換えaP2を腹腔内注射した。aP2投与はマウスの体重を変化させないが、2週間のaP2注射後の耐糖試験により確認されたとおり、他の点では非肥満かつ健常であるマウスに、耐糖能障害をもたらす(図2h)。この知見は、血清aP2が全身糖代謝を調節しており、かつ短期間での血清aP2の増加のみで、体重変化および食餌要因に依存することなく糖処理不全が引き起こされ得ることを示した。
【0027】
脂肪組織と代謝障害
最近15年間における証拠の蓄積により、脂肪組織は代謝調節を担う最大の内分泌器官の一つであることが確認された。全身のエネルギー恒常性に対する脂肪組織の作用は様々なホルモンに仲介される。肥満被験体内の脂肪組織はまたより多くの炎症性サイトカインを産生することも示され、慢性的な脂肪の炎症が肥満と関連する代謝障害とを結びつける重要な特徴であることが明らかになった。したがって、生理学的および病理学的な文脈の両方で、脂肪組織は、栄養シグナル伝達分子と内因性シグナル伝達分子が相互作用して統合され、最終的にはエネルギー恒常性の全身的な調節が行われている重要な場所であるといえる。脂肪組織はまた、体内の主要な脂質保管部位として、空腹時の重要なエネルギー提供元でもある。脂肪性脂肪分解により脂肪酸の大部分が血清に提供され、これらは筋肉に取り込まれて酸化され、かつ肝臓における糖産生も活性化する。脂肪分解に伴う肝糖産生の亢進は重要な恒常性維持現象であり、これは肥満状態では調節不全に陥ることが知られている。本発明より以前、このプロセスが脂肪組織と肝臓の間で合図される機序は完全に理解されていなかった。
【0028】
以前の調査は、脂肪組織の脂質シャペロン、特にaP2が、代謝および炎症反応に対する脂質シグナルの重要なインテグレーターであることを実証している。脂肪酸結合タンパク質(FABP)として公知のこれらのシャペロンを欠損したマウスは、インスリン抵抗性、2型糖尿病、脂肪肝およびアテローム性動脈硬化症を含む肥満に関連する多くの代謝異常に対する強い防御を示す。脂肪組織におけるFABP欠損の効果は全身に及び、これは、肝臓、筋肉およびその他の組織の代謝経路および代謝反応における全身規模の変化により明らかである。
【0029】
FABP欠損脂肪組織の有益な効果を仲介する可能性のある、脂肪に分泌される分子の調査の中で、脂肪酸であるC16:1n7-パルミトレアートが発見された。この脂肪酸は筋肉に対するインスリンの作用を大きく向上させると同時に肝臓の脂肪浸潤を抑制する。他方、FABP欠損におけるペプチドホルモンの役割は明確ではない。FABP-nullマウスではレプチンおよびアディポネクチンのレベルが変化しているが、詳細な調査により、いずれもFABP欠損マウスの糖代謝および脂質代謝の向上の原因ではないことが確認された。
【0030】
aP2自体はヒトの血清において同定されており、血清aP2が肥満状態での代謝調節に関与している可能性が高い。この分子が実際に、調節されつつ脂肪細胞から分泌されている場合、FABP欠損マウスにおける糖代謝の改善は、少なくとも部分的には血清aP2の喪失の結果として起こる可能性がある。
【0031】
以下の材料および方法は、本明細書に記載されたデータを得るために使用されたものである。
【0032】
動物
aP2およびmal1においてホモ接合型のnull変異を有するマウスに対して12世代超の戻し交配を行い、C57BL/6Jの遺伝的背景とした。マウスは通常固形飼料食(RD)で維持するか、または4週齢から高脂肪食(Research Diets, Inc)を20週間与えて食餌性肥満を誘導した。レプチン欠損(ob/ob)マウスはJackson laboratoryから購入した。全てのマウスを12時間照明・12時間消灯のサイクル下で維持した。耐糖試験およびインスリン耐性試験には標準的な方法を使用した。
【0033】
血清aP2の定量
食物停止の6時間後に尾採血によりマウスから血液を採取し、微小遠心分離機を用いて13,000rpmで30分間回転させた。血清aP2はELISAシステム(Biovendor Inc.)を用いて測定した。血清aP2の栄養調節をモニタリングするため、消灯サイクルの開始直前にマウスから血液サンプルを採取し、その後動物を食物のないケージに入れた。絶食24時間後、二セット目の血液サンプルを採取して、食物を与えた。最後の採血は給餌再開の4時間後に行った。脂肪分解時のaP2レベルを測定するため、12匹のマウスからベースラインレベルの血液を採取した。この後、6匹のマウスにイソプロテレノール(10mg/kg体重)を注射し、残りの6匹にビヒクル対照を与えた。aP2測定用に、注射から15分後に血液サンプルを採取した。
【0034】
骨髄移植
6週齢のレシピエントマウスに対して、セシウム源からの線量5Gyの照射を、放射線の毒性を最小限に抑えるために4時間の間隔をあけて2回行った(計10Gy)。骨髄は、同性のドナーマウス(6〜8週齢)由来の大腿骨および脛骨をGibco RPMI 1640培地(Invitrogen, Carlsbad, CA)でフラッシングすることによって回収した。2回目の照射から4時間後に、0.2mlの培地中の5×106個の骨髄細胞を眼窩静脈叢に注射した。骨髄移植の1週間前および4週間後、100mg/lのネオマイシンおよび10mg/lの硫酸ポリミキシンBを酸性水に加えた。
【0035】
組換えaP2およびaP2抗体の作製、精製および投与
6x Hisタグを有する組換えaP2または対照Gusタンパク質を大腸菌(E. coli)中で作製し、B-PER 6x His Spin Purification Kit(Pierce Biotechnology, Inc)を用いて精製した。市販のシステム(Lonza Inc.)を用いて内毒素を除去することによりタンパク質をさらに精製した。100μgの対照またはaP2タンパク質を、通常食で維持したWTマウスに1日2回、2週間にわたり注射した。マウスaP2に対するウサギポリクローナル抗体は、組換え全長aP2タンパク質を用いて作製し、この抗体を、NAb(商標) Spinシステム(Pierce Biotechnology, Inc)を用いて最後の採血の血清から精製した。免疫前血清を同様に精製し対照として用いた。精製抗体を生理食塩水で1μg/μlに希釈し、高脂肪食(Research diet, Inc)で維持したマウスに対して50mg/kg量で注射した。
【0036】
ベクターの構築およびトランスフェクション
Flagタグ付きのGFP(プラスミドID 10825)およびAKT(プラスミドID 9021)をAddgeneから入手した。Flagタグ付きの全長aP2および入口(portal)を欠くaP2をpEGFP-C1にクローニングした。aP2 K22, 59I変種体を、Quickchange変異誘発システム(Stratagene)を用いて作製した。Lipofectamine 2000(Invitrogen Corporation)を用い、示された構築物をHEK293細胞にトランスフェクトした。
【0037】
細胞の培養
HEK293細胞は10%ウシ胎仔血清を含むDMEM中で維持した。FABP欠損細胞株は以前に記載された通りに樹立した。Cao, H. et al. Identification of a lipokine, a lipid hormone linking adipose tissue to systemic metabolism. Cell 134, 933-944 (2008)。Makowski, L. et al. Lack of macrophage fatty-acid-binding protein aP2 protects mice deficient in apolipoprotein E against atherosclerosis. Nat Med 7, 699-705 (2001)。前脂肪細胞は10%仔ウシ血清を含むDMEM中で維持し、標準的な分化プロトコルを用いて10%コスミック仔ウシ血清(cosmic calf serum;CCS)を含むDMEM中で脂肪細胞に分化させた。脂肪分解を誘導するため、分化した脂肪細胞をホルスコリン20nMまたはIBMX 1mM/ジブチリルcAMP 1mMで1時間処理した。脂質処理のために、0.25mMのパルミチン酸またはステアリン酸を10%CCS含有DMEMに溶解し、12ウェルプレート内で培養した脂肪細胞に添加した。1時間後に、培地を、同一の脂質含有培地と交換し、さらに1時間後に馴化培地を回収した。脂肪外植片を採取するため、精巣上体の脂肪組織貯留部をマウスから切り出し、PBS中で2回濯いだ。次いで、脂肪組織サンプルを10%CCS含有DMEM中に移し、平均サイズ1〜2mmになるよう刻んだ。この組織外植片をDMEMで十分に洗浄し、10%CCS含有DMEM中で培養した。脂肪分解は、脂肪細胞と同じ方法で誘導した。
【0038】
蛍光顕微鏡検査
細胞を6ウェル組織培養プレートのカバースリップ上で培養し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。DAPIで核を染色し、カバースリップを、ProLong Gold褪色防止剤(Invitrogen Corporation)を含んだスライド上にマウントした。イメージングはZeiss Observor Z1蛍光顕微鏡で行った。
【0039】
エキソソームの単離
脂肪細胞からエキソソームを単離するため、馴化培地を採取し、1,200gで10分間遠心分離した。次いでこの培地を、0.45μmフィルターを通してろ過し、10,000gで30分間の遠心分離に2回供し、20%スクロース勾配を負荷した。エキソソーム画分を100,000gで150分間の遠心分離によりペレット化した。血清からエキソソームを単離するため、血液をマウスから採取し、微小遠心分離機において最高速度で30分間遠心分離して血漿を得た。血漿を等量のPBSで希釈し、20%スクロース勾配を負荷し、エキソソームを200,000gで90分間の遠心分離によりペレット化した。
【0040】
RNAの抽出および定量的リアルタイムPCR分析
総RNAはTrizol試薬(Invitrogen)を用いて肝臓組織から単離した。逆転写は、1μgのRNAを用いてsuperscript一本鎖cDNA合成システム(Applied Biosystems Inc.)により行った。定量的リアルタイムRT-PCRは、PCRサーマルサイクラー(Applied Biosystems Inc.)を用いて行った。PCRプログラムは、以下であった:酵素の活性化のための95℃2分30秒、伸長のための、95℃15秒、58℃30秒、および72℃1分を40サイクル。リアルタイムPCR産物を確認するために融解曲線分析を行った。全ての量を18S rRNAに対して標準化した。使用したプライマー配列は以下の通りであった。
【0041】
クマシー染色、免疫沈降および免疫ブロット
脂肪細胞由来の組織タンパク質溶解物および馴化培地をSDS PAGEゲル上で分離し、Coomassie(Biorad Laboratory)で染色するか、または以下の抗体を用いた免疫ブロットにより検出した: Santa Cruz Biotechnology製のアディポネクチン、Calbiochem製のMFG-E8、BD Bioscience製のカベオリン-1、Cell Signaling Technology製のAKT。Flagタグ付きaP2は、30μlのFlagアガロースビーズ(Sigma)と共に4℃で一晩インキュベートした後に、トランスフェクトHEK293細胞由来の馴化培地4mlを用いて免疫沈降させた。アガロースビーズに結合したタンパク質はSDSローディングバッファーで溶出させ、SDS-PAGEで分離した。
【0042】
イントラリピッドおよびaP2の注入
実験4日前に、マウスをケタミン(90mg/kg体重)およびキシラジン(10mg/kg体重)の腹腔内注射により麻酔した。該マウスの右頸静脈に、ヘパリン溶液(100USP U/ml)で満たしたPE-10ポリエチレンチューブ(内径および外径はそれぞれ0.28mmおよび0.61mm;Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)のカテーテルを挿入した。このカテーテルの遠位端を皮下に潜らせ、肩甲骨間部で露出させた後、結んで固定した。
【0043】
この実験の前にマウスを一晩絶食させ、イントラリピッド3ml/kg/時間(Abbott)およびヘパリン(6U/時間)を5時間注入した。組換えaP2は8μg/kg/分で5時間注入した。
【0044】
高インスリン-正常血糖クランプ試験
上述のようにしてマウスにカテーテルを挿入した。高インスリン-正常血糖クランプは既報の手法15の改変により行った。一晩の絶食後、HPLC精製した[3-3H]-グルコース(0.05μCi/分;PerkinElmer Life and Analytical Sciences, Boston, MA)を2時間の基準期間の間に注入し、その最後に血液サンプルを採取して基礎肝糖産生速度を算出した。基準期間の後、12.5mU/kg/分の速度のヒトインスリン(Humulin R; Eli Lilly, Indianapolis, NJ)のプライミング後持続注入(primed-continuous infusion)により120分間の高インスリン-正常血糖クランプを行った。血漿グルコース濃度の直接測定のために血液サンプルを20分間隔で採取し、血漿グルコースを基準濃度で維持するために25%グルコースを様々な速度で注入した。クランプを通じて[3-3H]-グルコースの持続注入(0.1μCi/分)を行いつつ、インスリン刺激後の全身グルコース代謝回転を算出した。全ての注入は、流量制御式微小透析ポンプ(CMA/Microdialysis, North Chelmsford, MA)を用いて行った。血漿中の[3H]-グルコースおよび3H2Oの濃度を測定するために、クランプ開始から80、85、90、100、110および120分後に血液サンプルを採取した。クランプの最後に、動物を屠殺した。5分以内に肝臓組織を取り出し、さらなる分析のために-80℃で保存した。
【0045】
aP2はインビトロで脂肪細胞から分泌される
aP2は、最初に発見されて以来、細胞質タンパク質と考えられていたが、最近、プロテオミクススクリーニングによって分化した3T3-L1脂肪細胞の上清中で、およびその後にヒト血清中で同定された。aP2が脂肪細胞により特異的に分泌されるのか又は細胞の代謝回転の間に放出されるのかを判定するための調査を行った。野生型(WT)またはFABP欠損の脂肪細胞から採取した馴化培地および細胞溶解物におけるaP2レベルの試験は、このタンパク質がWT細胞の馴化培地中に豊富に存在することを明らかにした(図4a)。対照的に、脂肪細胞における2つの豊富な細胞質タンパク質であるカベオリンおよびAktは同じ条件下では検出不可能であり、これにより、能動的分泌の可能性が示唆された(図4a)。しかし、aP2は脂肪細胞における最も豊富な細胞質タンパク質の一つであるため、馴化培地におけるその存在は、未だ、細胞の死および/または溶解に起因する非特異的な放出による可能性がある。細胞からのaP2放出の性質を確認するため、Flagタグ付きのaP2を、同じようにタグ付けした対照としてのGFPおよびAktと共にHEK293細胞にトランスフェクトし、各プラスミドの量を慎重に用量設定して、全てのタンパク質が細胞内において同様のレベルで発現されることを確実にした(図4b)。馴化培地および細胞溶解物の両方を抗Flag抗体で調査して、抗体ごとの感度の違いにより生じ得るあらゆるばらつきを排除した。これらの実験において、aP2は馴化培地において容易に検出できたが、GFPおよびAKTは同じ条件下で検出できなかった(図4b)。これらのデータは、aP2が能動的に分泌されること、およびaP2が馴化培地に存在するのは非特異的な細胞溶解または死によるものではなかったことを示した。全ての脂肪細胞が分泌するタンパク質中でのaP2の相対量を調査するため、脂肪細胞由来の馴化培地を一次元電気泳動により分離した。これらのデータは、aP2が、脂肪細胞から分泌される最も豊富なタンパク質の一つであること(図4c)、アディポネクチンに匹敵するレベルで存在することを明らかにし、aP2が細胞外で重要な生物学的機能を有していることを示した。
【0046】
インビボにおけるaP2分泌の調節
aP2分泌の調節を試験するため、マウスにおけるaP2の血清レベルをELISAシステムを用いて試験した。WTおよびmal1-/-マウスにおいて、aP2は血清中にかなりのレベル(100〜300ng/ml)で存在したが、aP2-/-およびaP2-mal1-/-対照においては検出できなかった(図4d)。血清aP2はレプチン(約12.5ng/ml)より10〜30倍豊富であったが、アディポネクチンレベル(5〜10μg/ml)よりは有意に少なかった。代謝疾患との関連において血清aP2の調節を調査するため、非肥満マウスと遺伝性および食餌誘導性の肥満マウスモデル両方との血清プロフィールを比較した。血清aP2は両方の肥満モデルにおいて顕著に(約4倍)増加しており(図4e)、これによりaP2がこれらの病理学的条件下での代謝調節の変化に関連している可能性が示唆された。一貫して、循環aP2レベルの上昇がヒトにおける肥満に関連していることが報告されている。
【0047】
肥満の際のaP2レベルの上昇は、aP2発現の亢進、体脂肪量の拡大またはaP2分泌の増加に起因する可能性がある。肥満が全体的なaP2発現に強い影響を与えないことは公知なので、体脂肪量の増加と分泌の調節不全のどちらが肥満マウスにおいて観察された血清aP2レベルの上昇の原因なのかを見分けるための調査を行った。非肥満マウスおよび肥満マウス(ob/ob)から脂肪外植片を採取し、外植片培養物におけるaP2のエクスビボ放出を試験した。肥満マウスから外植した等量の脂肪からのaP2分泌は、非肥満対照からの分泌よりも有意に多く、これにより肥満マウスではaP2分泌が調節不全を起こしていることが示された(図8)。アディポネクチンの分泌は肥満外植片において有意に減少しており、これにより脂肪組織の分泌プロフィールを把握する上でのこのシステムの適合性が確認された(図8)。
【0048】
aP2は脂肪細胞およびマクロファージの両方で発現され、両細胞型におけるaP2の機能喪失変異はマウスにおける代謝反応の改善に寄与し得る。肥満マウスでは脂肪組織にマクロファージが蓄積するので、インスリン抵抗性に寄与すると考えられる事象である、血清および脂肪外植片におけるaP2の増加が、脂肪組織のマクロファージからのaP2放出の増加に起因している可能性もある。肥満との関連において血清aP2の増加の原因となる細胞型を決定するため、WTマウスとFABP欠損マウスの間の骨髄移植を行った。血清試験により、WTマウス由来の骨髄系細胞がFABP欠損マウスにおいて検出可能レベルの血清aP2を維持し得ないことが明らかになった(図4f)。この知見により、造血細胞ではなく脂肪細胞がマウスにおける血清aP2の主たる寄与因子であるという認識、およびaP2は肥満状態における血清プロフィールの変化した新規のアディポカインであるという認識が支持された。
【0049】
aP2の分泌は脂肪分解によって放出される脂肪酸により調節される
脂肪細胞から分泌され代謝的な活性を有するタンパク質が代謝状態および栄養の変動により調節されるかどうかを評価する調査を行った。このような調節は、病理学的状態下での機能不全の機序を明らかにする可能性がある。したがって、血清aP2レベルが絶食および再給餌に反応して変化するかどうかを判定する実験を行った。24時間絶食したマウスにおける循環aP2のレベルは不断給餌時のレベルと比較して有意に上昇していたが、再給餌の4時間後に急速に抑制された(図5a)。したがって、栄養および代謝状態は血清aP2レベルを調節することができ、よってこのことはaP2がエネルギー恒常性を調節する全身プログラムの一部である可能性を示唆している。
【0050】
エネルギー恒常性における脂肪組織の主たる機能は、空腹時に脂肪分解を通じて他の組織に脂肪酸を提供することである。aP2の分泌が脂肪分解に関係しているかどうかを調査するため、前脂肪細胞を分化させ、この細胞中で脂肪分解を刺激した。イソブチルメチルキサンチン(IBMX)およびdbcAMP処理は、1時間以内に脂肪細胞からのaP2分泌の顕著な増加を誘導した(図5b)。細胞をインスリンで同時処理して脂肪分解を抑制した場合、aP2の分泌は抑制された(図5b)。組織環境下の脂肪細胞からのaP2分泌についてさらに調査するため、脂肪外植片を採取しエクスビボで培養した。ベースライン条件下または脂肪分解刺激時のaP2分泌を試験した。IBMXまたはホルスコリン処理はaP2分泌を非常に大きく増大させ(図5c)、これによりこのプロセスが脂肪分解と緊密に関係していることが確認された。インビボでのaP2分泌に対する脂肪分解の影響を調査するため、脂肪分解を強く活性化するβ-アドレナリン受容体アゴニストであるイソプロテレノールをマウスに注射した。イソプロテレノールを与えられたマウスは、ビヒクルで処理した対照動物と比較して血清aP2レベルの迅速な上昇を示し(図5d)、これによりaP2分泌がインビボで脂肪分解によって調節されることおよび絶食時のマウスにおける血清aP2の上昇は脂肪組織における脂肪分解活性の上昇によって引き起こされることが示された。
【0051】
脂肪分解により放出される脂肪酸がaP2分泌を調節するかどうかをさらに調査するため、脂肪細胞をパルミチン酸およびステアリン酸で処理した。いずれの脂質もaP2分泌を有意に増加させた(図5e)。脂肪酸処理はまたGFPタグ付きのaP2を脂肪滴へと移行させ(図5f)、これにより脂質がaP2の細胞内局在をも調節し、かつaP2を分泌経路へと標的化する可能性があることが示唆された。
【0052】
脂肪分解は複数のシグナル伝達経路を伴う複雑なプロセスであり、その多くはaP2の分泌を潜在的に調節している。脂肪分解により誘導されるaP2分泌における脂肪酸の重要性を判定するため、脂肪分解を誘導して貯蔵トリグリセリド(TG)からの脂肪酸放出を抑制した後、脂肪細胞をトリグリセリドヒドロラーゼ阻害剤であるリン酸ジエチルウンベリフェリル(DEUP)で処理した。DEUP処理は脂肪分解誘導性のaP2分泌を完全に遮断し、これにより脂肪酸の放出がaP2の分泌に必要であることが示された(図5g)。
【0053】
インビボでのaP2分泌に対する脂肪酸の効果を試験するため、生存している意識下のマウスにイントラリピッド/ヘパリン注入を行った。イントラリピッドの注入による血清脂肪酸の増加もまたaP2分泌を誘導し(図5h)、これにより脂肪酸がインビボでaP2分泌を刺激することが示された。
【0054】
血清aP2はマウスにおいて肝糖代謝を決定的に調節する
FABP欠損マウスは、代謝症候群の複数の要素、特に2型糖尿病から保護される。ヒトにおける血清aP2の増大は、糖尿病、心血管疾患およびその他の代謝障害に関連することも報告されている。しかし本発明以前は、循環aP2と脂質および/または糖質の代謝との間の因果関係は確立されていなかった。aP2分泌と脂肪分解の緊密な結びつきは、血清aP2が、脂肪酸の変動に起因する代謝調節に対して相乗効果を発揮する可能性を示唆している。
【0055】
肥満状態での脂肪分解レベルの上昇により、過剰な脂肪酸が血清中に放出される。これらの脂肪酸は、糖新生プログラムを活性化することによりインスリン抵抗性を引き起こし、肝糖産生を亢進する。したがって、循環aP2はこの作用を媒介するための標的に相当する。肥満状態ではそのレベルが有意に上昇しているので、代謝調節に対するFABP欠損の有益な効果は、少なくとも部分的に、血清中のaP2の機能喪失によって仲介される可能性がある。この仮説を調査するため、血清aP2を減少させる中和抗体を開発した。この抗体は非常に高い感度でaP2を特異的に検出した(図9)。高脂肪食を与えた肥満マウスにこの抗体を注射し、その結果から、aP2抗体が脂肪組織中のaP2レベルを変化させずに、血清aP2を、非肥満対照において見られるレベルまで効果的かつ迅速に枯渇させることを確認した(図6a)。抗体の投与はこれらのマウスの体重も血清中の遊離脂肪酸レベルも変化させなかったが(図10)、処理から2週間以内に血糖レベルを有意に低下させた(図6b)。耐糖試験において、aP2抗体を与えたマウスは、対照動物と比較して著しく改善された糖処理曲線を示した(図6c)。インスリン耐性試験により確認されたように、血清aP2が減少した肥満マウスはまた、全身インスリン反応の向上も示した(図6d)。これらの結果は、血清aP2の増加が、肥満により誘導されるインスリン抵抗性および耐糖能障害の必須要素に相当すること、および循環aP2の抑制が、肥満に関連する代謝の悪化を妨害する方法として有用であることを示した。
【0056】
aP2抗体またはビヒクルで処理したマウスにおける高インスリン-正常血糖クランプ試験を用いて、全身グルコースフラックスおよび抗体によるaP2枯渇の組織特異的効果を試験した。肥満マウスにおける血清aP2の減少は、基礎およびクランプ肝糖産生の有意な減少をもたらし(図6e、f)、これにより糖代謝の調節における循環aP2の主たる標的が肝臓であることが示された。このクランプ試験の間、抗体を注射した肥満マウスは、対照と比較して、正常血糖を維持するために有意に高いグルコース注入速度を必要としたが、糖代謝速度の変化は示さなかった(図6g、h)。これらの結果は、これらのマウスにおけるグルコース注入速度の増大が、主に肝糖産生の低下により駆動されることを示している。これらのデータは、全身FABPノックアウトにおける観察と合致し、これはまた、遺伝性および食餌性の肥満の両方において肝糖産生が有意に低下することも特徴とした。したがって、肝糖代謝に対するaP2の効果は主としてこのタンパク質の分泌形態により仲介される。
【0057】
循環aP2は肝糖産生を調節する
血清aP2の増加が糖代謝に対して負の影響を有するかどうかについて直接取り組むため、血清aP2が増加した以外は代謝的に正常な状態のマウスを産生した。通常固形飼料食を与えたマウスに組換えaP2を注射した。一回量の組換えaP2のマウスへの投与は血清aP2レベルの上昇をもたらし、これは数時間持続した(図11)。組換えaP2を一日二回注射して、マウスに、各24時間の期間の大部分で循環中の増大したaP2を確実に維持させた。組換えaP2の投与は、この期間の間、マウスの体重も血清中の遊離脂肪酸レベルも変化させなかった(図12)。しかし、耐糖試験により判定されたように、非肥満の健常な動物は組換えaP2を2週間与えられた後に穏やかな耐糖能障害を示した(図6i)。この知見は、血清aP2が糖代謝を調節すること、および、食餌による寄与および体重変化がない場合でさえも、血清aP2の増加のみで糖代謝を損ない得ることを示した。組換えaP2を意識下のFABP欠損マウスに注入し、糖代謝に対する血清aP2の急性効果を高インスリン-正常血糖クランプにより試験した。この設定下で、aP2の注入はマウスにおける血清aP2レベルの急激な上昇をもたらし、1時間後には高い定常状態の血清レベルを確立し、これは実験終了時点まで持続した(図13)。このクランプ試験の際、aP2を与えられたマウスは有意に高い基礎肝糖産生(bHGP)を示した(図6j)。肝糖産生を試験した時点でこれらのマウスは4時間にわたりaP2注入しか受けていなかったことを考慮すると、これは重大な効果である。これらの知見および糖代謝速度の変化がみられなかったことは、肝臓が血清aP2の主たる標的であるという仮説をさらに支持するものである。肝糖産生を調節する遺伝子の発現を、aP2注入実験およびaP2枯渇実験の両方において試験した。糖新生経路における2つの重要な遺伝子であるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)およびグルコース-6-ホスファターゼ(G6P)はどちらも、対照と比較してaP2を注入したマウスにおいて有意に上方制御された(図6k、上パネル)。反対に、aP2抗体を与えたマウスは、これらの糖新生遺伝子の劇的な減少を示した(図6k、下パネル)。これらのデータは、血清aP2が肝臓における糖新生を調節し、肥満状態における血清aP2レベルの上昇が、糖尿病状態下でしばしば観察される肝糖産生の亢進に寄与することを示している。
【0058】
インビトロおよびインビボにおけるエキソソームの関与するaP2分泌
aP2の分泌が脂肪分解とどのように関連し、それによってどのように調節されるかをより理解するため、aP2分泌の分子機序を試験した。最初に、分化した脂肪細胞を古典的分泌経路の阻害剤で処理し、馴化培地中に分泌されたタンパク質を試験した。ブレフェルジンAおよびモネンシン処理は両方ともアディポネクチンの分泌を効果的に妨害したが、いずれもaP2放出に対する阻害効果は全く有さず(図7a)、これによりaP2が非古典的経路を通じて分泌されることが示された。この知見は、aP2がシグナルペプチド配列を欠くという事実と符合する。
【0059】
非古典的分泌に関してこれまでに説明された様々な機序のうちの一つはエキソソーム依存経路である。aP2の分泌がこの経路を利用するかどうかを判定するため、エキソソームを脂肪細胞の馴化培地から単離し、これらの画分におけるaP2の存在を試験した。aP2は、確立されたエキソソームマーカーである乳脂肪球-EGF因子8(MGF-E8)と同じようにエキソソーム画分に濃縮され容易に検出でき(図7b)、これによりaP2が実際に脂肪細胞においてエキソソームを通じて分泌されることが示された。
【0060】
脂肪組織中の脂質シャペロンのエキソソーム性分泌の調節は脂肪分解と肝糖産生を結びつける
膜標的化は、エキソソームを介した分泌における重要な工程である。aP2の大多数は細胞質内に局在する一方、aP2が一過的にリン脂質膜と相互作用することが見出された。aP2の3D構造は、脂肪酸侵入に対する入口となる2つの上部αヘリックスを有する10本のストランドからなるβバレルから構成されている25(図7c、左パネル)。aP2タンパク質の以下の2つの要素は、aP2の膜会合に寄与することが提唱されている:(1)負に荷電したリン脂質との静電的相互作用を仲介する、リジン残基が提供する強い正の表面電位をもつ隆起(ridge)および(2)膜と直接相互作用する入口領域。aP2のエキソソームへの移行の根底にある機序を調査するため、2つの重要な表面残基であるリジン22および59をイソロイシンに変更するか(図7c、中央パネル)、または入口領域を完全に欠損させた(図7c、右パネル)、aP2変異体を作製した。これらの変異体ではaP2の全体的なフォールディングは変化しなかったが、どちらも細胞からのaP2分泌を妨害し(図7d)、これによりaP2とリン脂質膜との会合がaP2の分泌の絶対条件であることが示された。分泌能を喪失させた上記のaP2変異体はまた、エキソソームへの局在を劇的に減少させ(図7d)、これによりエキソソーム標的化がaP2分泌のための必須工程であることが示された。
【0061】
aP2の分泌が脂肪分解により誘導されることが観察されたので、脂肪分解の際または脂肪酸に暴露された際のaP2のエキソソームへの移行を試験した。両方の条件下において、エキソソームにおけるaP2の明らかな濃縮(図7e)が見られ、これにより脂肪分解時のaP2のエキソソーム標的化の亢進がその分泌亢進をもたらすことが示唆された。血液中でエキソソーム様微小胞が同定されたが、通常、これらの小胞の供給源は造血細胞であると考えられている。aP2と会合したエキソソームが循環中にも存在するかどうかを調査するため、マウスの血漿からエキソソーム画分を単離し、aP2に関してブロットした。aP2と会合したエキソソームはWTの循環中に存在したが、aP2ノックアウトマウスでは確認されず(図7f)、これにより脂肪細胞が他の器官と連絡するためにエキソソームを分泌している可能性が示唆された。結果は肥満マウスの循環エキソソームにおける有意に高いaP2レベルを示し、これによりaP2と会合したエキソソームが肥満誘導性の代謝調節不全に関与している可能性が示された(図7f)。
【0062】
これらのデータは、aP2が栄養状態および肥満によって調節される新規のアディポカインである証拠を提供する。脂肪細胞において、aP2の分泌は脂質および脂肪分解により活性化され、エキソソーム関連の分泌経路を介して行われる(図7g)。マウスにおいて、血清aP2はもっぱら脂肪細胞に由来し、食餌性または遺伝性の肥満モデルにおいておよびインビボでの脂肪分解において顕著に増加する。肥満マウスで血清aP2を枯渇させると肝糖産生の亢進が抑制され、逆に、非肥満マウスにおける血清aP2の増加は肝糖産生を亢進する。これらの結果は、分泌されたaP2が、脂肪分解と肝糖産生をつなぐ脂肪-肝臓間の連絡系統の重要な要素であることを示している(図7g)。
【0063】
血清中の遊離脂肪酸は空腹時の重要なエネルギー供給源であるが、脂肪分解の亢進および血清中の脂肪酸の増加は、全身グルコース恒常性の調節不全に関係しており、肥満誘導性の代謝障害における重要な根本原因の一つであるとも認識されている。過剰な脂肪酸は、グルコース利用を減らすことおよびインスリンを介した糖産生抑制を弱めることによって、それぞれ筋肉および肝臓におけるインスリン抵抗性を引き起こす。十分に管理されたホルモン条件の膵臓クランプを利用することにより、脂肪酸もまた、インスリンまたはグルカゴンの作用に依存することなく肝糖産生を直接的に亢進することが示された。この効果は脂肪酸による糖新生経路の活性化に起因するものであった。いくつかのマウスモデルおよび条件では肝糖産生と血清脂肪酸増加とを連携させないことが示され、これにより脂肪分解および脂肪酸と肝糖新生の連携には他の要素が必要であることが示唆された。本明細書に示された知見は、aP2が、分泌された脂肪細胞タンパク質でありかつ上記要素の一つであると同定するものである。
【0064】
aP2をアディポカインと同定することで、脂肪組織の内分泌機能に様々な視点が提供される。このタンパク質は、脂質と直接結合できかつ脂肪分解に反応して分泌されることができるという点で独特である。したがって、このタンパク質は脂肪組織の脂質状態のセンサーとして、または代謝調節もしくは食餌の変化に反応する他の代謝器官へのシグナルとして機能する。さらに、脂肪分解により刺激されるエキソソーム関連性aP2分泌は、脂肪細胞が、膨大な量の脂肪滴と小胞体に課せられた制約とにもかかわらず、いかにして劇的な分泌能を維持しているのかの説明の助けとなりうる。aP2は、脂肪酸により活性化されると脂肪滴または脂肪体に移行する。脂肪体は膜輸送小器官として機能し、一部の脂肪体内在タンパク質、例えばペリリピンAはエキソソームを介して分泌されることが明らかにされている。したがって、aP2分泌の機序によって、脂肪細胞が脂質およびタンパク質の細胞外への効果的な輸送の必要性を満たすことが可能となる(図7g)。
【0065】
aP2の分泌および血清レベルと脂肪性脂肪分解との緊密な結びつきは、aP2が脂肪分解反応の生理学的および/または病態生理学的な帰結の新たな一面であることを示している。脂肪酸が肝糖新生を十分活性化するために血清成分としてaP2を明らかに必要としていることは、肥満誘導性の高aP2血症(hyper-aP2-emia)が、2型糖尿病患者における高血糖症の特徴である高い肝糖産生の原因である可能性を示している。
【0066】
実験モデルだけでなくヒトについてもaP2が代謝疾患において中心的な役割を果たすことが、証拠により示されている。aP2阻害の治療的価値が臨床上の目的であるが、組織内でのその化学的な標的化が課題となっている。本明細書に示されたデータは、肥満に関連する高い血清aP2レベルを中和抗体を用いて正常化すると、脂肪組織aP2レベルの変化なしに糖代謝が大きく改善することを実証している。血清aP2レベルはヒトにおける代謝疾患リスクに関係しており、空腹時の循環aP2は空腹時の遊離脂肪酸の増加よりも代謝上のリスクと強く関連している。血清aP2を中和する組成物の投与は、代謝障害、特に2型糖尿病を治療するための効果的なアプローチである。
【0067】
その他の実施態様は添付の特許請求の範囲に示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
aP2を介する障害を治療するかまたはその重篤度を軽減する方法であって、分泌されたaP2の阻害剤またはaP2分泌の阻害剤を被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記被験体が、上昇したレベルの循環aP2を含むとして特定される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記障害が、代謝症候群、肥満、糖尿病、脂肪肝疾患、耐糖能障害、アテローム性動脈硬化症、ぜん息、高血圧、脳卒中、神経変性疾患、慢性血液透析(CD)、閉塞性睡眠時無呼吸、HIV感染患者における脂肪異栄養症、および脂肪分解からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記分泌されたaP2の阻害剤が可溶性aP2ブロッキング剤を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記ブロッキング剤がaP2特異的抗体またはそのaP2結合フラグメントである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
代謝疾患を予防するかまたはその重篤度を軽減する方法であって、血清aP2濃度を低下させる組成物を被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項7】
前記血清aP2濃度が少なくとも10%低下する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記組成物がaP2特異的抗体である、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記組成物がaP2の不連続エピトープに結合する抗体である、請求項6記載の方法。
【請求項10】
前記エピトープが、溶液中のaP2の3次元構造において表面に露出している、請求項9記載の方法。
【請求項11】
以下の配列のうちの少なくとも1つを含む、請求項9記載の方法:
SEQ ID NO: 4の残基1〜5、残基22、残基36〜37、残基46〜47、残基57、残基59〜60、残基78、残基80、残基89、残基97〜101、残基110〜112または残基122。
【請求項12】
代謝疾患の症候を軽減する方法であって、細胞によるaP2分泌の阻害剤を被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項13】
前記症候が耐糖能障害である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が脂肪細胞である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
糖尿病を治療する方法であって、II型糖尿病を有するかまたはその発症リスクがあると診断された被験体に、aP2分泌の阻害剤を投与する工程を含む、方法。
【請求項16】
aP2分泌細胞を候補化合物と接触させる工程および細胞外aP2レベルを検出する工程を含む、aP2分泌の阻害剤を同定する方法であって、該化合物の存在下での細胞外aP2が該化合物の非存在下と比較して減少していることにより、該化合物がaP2分泌を阻害することが示される、方法。
【請求項17】
前記細胞が脂肪細胞またはマクロファージである、請求項16記載の方法。
【請求項1】
aP2を介する障害を治療するかまたはその重篤度を軽減する方法であって、分泌されたaP2の阻害剤またはaP2分泌の阻害剤を被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記被験体が、上昇したレベルの循環aP2を含むとして特定される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記障害が、代謝症候群、肥満、糖尿病、脂肪肝疾患、耐糖能障害、アテローム性動脈硬化症、ぜん息、高血圧、脳卒中、神経変性疾患、慢性血液透析(CD)、閉塞性睡眠時無呼吸、HIV感染患者における脂肪異栄養症、および脂肪分解からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記分泌されたaP2の阻害剤が可溶性aP2ブロッキング剤を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記ブロッキング剤がaP2特異的抗体またはそのaP2結合フラグメントである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
代謝疾患を予防するかまたはその重篤度を軽減する方法であって、血清aP2濃度を低下させる組成物を被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項7】
前記血清aP2濃度が少なくとも10%低下する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記組成物がaP2特異的抗体である、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記組成物がaP2の不連続エピトープに結合する抗体である、請求項6記載の方法。
【請求項10】
前記エピトープが、溶液中のaP2の3次元構造において表面に露出している、請求項9記載の方法。
【請求項11】
以下の配列のうちの少なくとも1つを含む、請求項9記載の方法:
SEQ ID NO: 4の残基1〜5、残基22、残基36〜37、残基46〜47、残基57、残基59〜60、残基78、残基80、残基89、残基97〜101、残基110〜112または残基122。
【請求項12】
代謝疾患の症候を軽減する方法であって、細胞によるaP2分泌の阻害剤を被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項13】
前記症候が耐糖能障害である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が脂肪細胞である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
糖尿病を治療する方法であって、II型糖尿病を有するかまたはその発症リスクがあると診断された被験体に、aP2分泌の阻害剤を投与する工程を含む、方法。
【請求項16】
aP2分泌細胞を候補化合物と接触させる工程および細胞外aP2レベルを検出する工程を含む、aP2分泌の阻害剤を同定する方法であって、該化合物の存在下での細胞外aP2が該化合物の非存在下と比較して減少していることにより、該化合物がaP2分泌を阻害することが示される、方法。
【請求項17】
前記細胞が脂肪細胞またはマクロファージである、請求項16記載の方法。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図2g】
【図2h】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図4d】
【図4e】
【図4f】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図5e】
【図5f】
【図5g】
【図5h】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図6e】
【図6f】
【図6g】
【図6h】
【図6i】
【図6j】
【図6k】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図7e】
【図7f】
【図7g】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図2g】
【図2h】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図4d】
【図4e】
【図4f】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図5e】
【図5f】
【図5g】
【図5h】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図6e】
【図6f】
【図6g】
【図6h】
【図6i】
【図6j】
【図6k】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図7e】
【図7f】
【図7g】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2012−519701(P2012−519701A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553125(P2011−553125)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/026305
【国際公開番号】WO2010/102171
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(507244910)プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ (18)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/026305
【国際公開番号】WO2010/102171
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(507244910)プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ (18)
【Fターム(参考)】
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