説明

分裂指数アッセイ

酵素断片複合体の対のメンバーを含み、メンバーの1つが核内にあり、もう一方が細胞質内にある細胞を用いて、特に候補薬剤の存在下で細胞の有糸分裂を測定する。有糸分裂が生じる可能性がある細胞を培養することによって、検出可能な生成物をもたらす基質を添加し、検出可能な生成物の生成が有糸分裂を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願との相互参照)
本出願は2005年6月21日に出願され、“Mitotic Index Assay”と題された米国特許出願番号第60/692,927号の優先権を主張し、その総ての内容が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
本発明は細胞にて実施されるアッセイの分野に関し、特に培養細胞株における分裂指数をモニターするためのアッセイに関する。
【背景技術】
【0003】
細胞培養は幅広い種々の方法で適用されている。細胞の経路、外的刺激に対する応答、細胞増殖およびその他同種類のものの多くの研究において、細胞集団は分裂周期の異なる段階にある。したがって、分裂周期の異なる段階にある細胞の細胞組成は異なっている。また、増殖および細胞死に関しても、細胞数が異なる。これらの研究においては、死滅するか、又は休眠状態であるものと比較して、いくつの細胞が有糸分裂を行ったかをある期間にわたって知ることに関心がもたれている。
【0004】
関心がもたれている分野の1つは、活発に増殖している細胞が、休眠状態である細胞とは異なって応答するかどうかを知ることである。細胞の性質に応じて、細胞は、血液細胞の前駆細胞、上皮細胞、内皮細胞などのインビボで積極的に再生する種類のものであってよい。脳細胞、膵細胞、心筋細胞などの他の種類の細胞はインビボで積極的に再生しない。培養条件下でこれらの細胞が増殖するか、又は休眠状態のままであるかは、外的刺激が分裂周期に与える影響を理解する上で重要である。
【0005】
薬品が培養中の細胞に与える影響を確定するにあたって、試験中の細胞の増殖の度合いを知ることによく関心がもたれている。薬品を含む培養と薬品が欠如している比較可能な培養とを同時に比較することができる。分裂指数(すなわち、有糸分裂中の細胞数を全細胞数で割った数)における差異によって、薬品が増殖に影響を与えたことが示される。また、薬品の増殖細胞への影響にも関心がもたれており、したがって、試験中に起こった増殖の度合いによって試験結果が決まる。測定を目的として重大な影響を与えることなく分裂指数を測定する簡便な方法が貴重である状況が他にも多い。
【0006】
(特定の関連文献の簡単な説明)
ガラクトシダーゼの検出およびガラクトシダーゼの標識としての使用は、発色基質について記載する数多くの特許文献に記載されており、例えば、Bieniarzらに1990年12月18日に発行され、“Beta-lactamase assay employing chromogenic precipitating substrates”と題された米国特許第4,978,613号明細書(特許文献1);Quanteらに1994年8月16日に発行され、“Fluorogenic and chromogenic b-lactamase substrates”と題された米国特許第5,338,843号明細書(特許文献2);および“Fluorogenic and b lactamase substrates”と題された米国特許第5,583,217号明細書(特許文献3);“Fluorogenic substrates for b lactamase and methods of use”と題された米国特許第5,741,657号明細書(特許文献4);“Substrates for b lactamase and uses thereof”と題された米国特許第5,955,604号明細書(特許文献5);“Beta-lactam substrates and uses thereof”と題された米国特許第6,031,094号明細書(特許文献6);“Cytosolic forms of b -lactamase and uses thereof”と題された米国特許第6,291,162号明細書(特許文献7);“Cytosolic forms for b lactamase and uses thereof”と題された米国特許第6,472,205号明細書(特許文献8);“Beta-lactamase substrates having phenolic ethers”と題された米国特許出願公開第2003/0003526号明細書(特許文献9);“Substrates for Beta- lactamase and uses thereof”と題された欧州特許出願公開第0817785号明細書(特許文献10);“Fluorogenic and chromogenic betalactamase substrates”と題された欧州特許出願公開第0553741号明細書(特許文献11);“Quenchers for fluorescence assays”と題された欧州特許出願公開第1081495号明細書(特許文献12)がある。
【0007】
他の関係のないアッセイにおける酵素断片コンプリメンテーション(Enzyme Fragment Complementation、「EFC」)法の一般的な使用は、例えば、Zhaoらに2003年5月15日に発行され、“Genetic construct intracellular monitoring system”と題された米国特許出願公開第2003/0092070号明細書(特許文献13);Naqviらに2004年6月3日に発行され、“P3 protein binding assay”と題された米国特許出願公開第2004/0106158号明細書(特許文献14);Eglenらに2004年7月15日に発行され、“Monitoring intracellular proteins”と題された米国特許出願公開第2004/0137480号明細書(特許文献15);Horeckaらに2005年6月23日に発行され、“Cellular membrane protein assay”と題された米国特許出願公開第2005/0136488号明細書(特許文献16);Horeckaらに2006年1月26日に発行され、“Analysis of intracellular modifications”と題された米国特許出願公開第2006/0019285号明細書(特許文献17);Khannaらに1995年7月18日に発行され、“Complementation assay for drug screening”と題された米国特許第5,434,052号明細書(特許文献18);Khannaらに1991年8月6日に発行され、“Visual discrimination qualitative enzyme complementation assay”と題された米国特許第5,037,735号明細書(特許文献19);Loorらに1993年9月14日に発行され、“Determination of high molecular weight analytes using a b-galactosidase complementation assay”と題された米国特許第5,244,785号明細書(特許文献20)に記載されている。
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,978,613号明細書
【特許文献2】米国特許第5,338,843号明細書
【特許文献3】米国特許第5,583,217号明細書
【特許文献4】米国特許第5,741,657号明細書
【特許文献5】米国特許第5,955,604号明細書
【特許文献6】米国特許第6,031,094号明細書
【特許文献7】米国特許第6,291,162号明細書
【特許文献8】米国特許第6,472,205号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2003/0003526号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第0817785号明細書
【特許文献11】欧州特許出願公開第0553741号明細書
【特許文献12】欧州特許出願公開第1081495号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第2003/0092070号明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第2004/0106158号明細書
【特許文献15】米国特許出願公開第2004/0137480号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第2005/0136488号明細書
【特許文献17】米国特許出願公開第2006/0019285号明細書
【特許文献18】米国特許第5,434,052号明細書
【特許文献19】米国特許第5,037,735号明細書
【特許文献20】米国特許第5,244,785号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以下の簡潔な発明の開示は本発明の総ての特徴および態様を含むものでなく、また、この発明の開示にて明らかにされた特徴および態様の総てを本発明が含まなければならないことを意味するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、細胞培養の分裂指数を測定するために酵素断片コンプリメンテーション(Enzyme Fragment Complementation、「EFC」)法を用いる方法を含む。EFCにおいて、対のメンバーは、任意にはより小さいメンバーである酵素供与体(enzyme donor、「ED」)および酵素受容体(enzyme acceptor、「EA」)と呼ばれる。ここで、細胞は、EFCの対のメンバーの1つを核内に有し、EFCの対のもう一方のメンバーをサイトゾル内に有する。有糸分裂を行う際に、EFCの対の2つのメンバー(EAおよびED)が複合体を形成した状態になる。検出可能な生成物をもたらす基質の存在下で、分裂が生じたことを確定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
有糸分裂の確定のための簡単なプロトコルを、酵素断片コンプリメンテーション(Enzyme Fragment Complementation、「EFC」)を用いて説明する。EFCにおけるED及びEAの対を含むように細胞を設計する。細胞は、EFCの対のメンバーの1つを核内に有し、もう一方のメンバーをサイトゾルゾル内に有する。対のメンバーは、2つのメンバーの大きさが実質的に異なる場合に、任意にはより小さいメンバーである酵素供与体(ED)および酵素受容体(EA)である。EDは概して約36〜90、より多くの場合には約40〜60のアミノ酸の範囲内である。EFCの対のメンバーの1つは、メンバーを核内に存在させるポリペプチド配列に結合されている。該メンバーはEAであるのが好ましい。該ポリペプチド配列は“NLS/NRS”と称され、核局在シグナル(nuclear localization signal、NLS)または核リテンションシグナル(nuclear retention signal、NRS)のいずれか、またはNLSおよびNRSの両方を意味する。NLS/NRSのメンバーは細胞質での翻訳の後、核に向けられる。
【0012】
多くのNLS及びNRS配列が既知である。
【0013】
核局在シグナル(NLS)は核タンパク質の核への輸送を仲介するアミノ酸の短い配列である。そのような配列は直列に組み合わせることができる。NLS配列の更なる例は、"Finding nuclear localization signals," Murat Cokol, Raj Nair & Burkhard Rost http://cubic.bioc.columbia.edu/papers/2000_nls/paper.html.に記載されている。既知のNLS配列の1つはSV40由来である。シミアンウイルス40のラージT抗原(SV40 T Ag)のNLSの7アミノ酸の配列は、例えばIlmarinenらの"The monopartite nuclear localization signal of autoimmune regulator mediates its nuclear import and interaction with multiple importin a molecules," FEBS Journal 273 (2006) 315-32に開示されている通り、古典的な1種類の遺伝子のみを持つタイプの(monopartite)NLSのプロトタイプである。この文献に開示されている通り、いくつかのNLS配列は2種類の遺伝子を持つタイプ(bipartite)のものであり、以下に述べるとおり、まとめてもよい。NLS配列の更なる例が、Cokolらの"Finding nuclear localization signals," Proc. Nat. Acad. Sci. Vol. 96, Issue 1, 91-96, January 5, 1999に記載されている。
【0014】
“NRS”は、タンパク質−タンパク質相互作用を促進し、亜細胞の局在を指令し、特定の状況では、RSドメインを含有するリンタンパク質SRなどの、個々のタンパク質の核原形質の往復(shuttling)を指令する。RSドメインは広範囲にわたってリン酸化されており、亜細胞の局在を指令する。更なる詳細については、Cazallaらによる"Nuclear Export and Retention Signals in the RS Domain of SR Proteins," Mol Cell Biol. 2002 October; 22(19): 6871-6882に記載されている。
【0015】
よく使用されるNRSはSC35由来のNRS配列(GenBank 600813, 600812)であるが、他の配列も使用可能である。適切な配列が、Cazallaらによる上記の文献に記載されており、該文献には、SC35のRSドメインにおいて支配的な核リテンションシグナルが存在することが示されている。
【0016】
場合によっては、EFCの対のEDまたはEAのメンバーを核へ方向付けるのに、コンセンサスのNSLを有さないタンパク質を使用することが可能である。もう一方のメンバーはサイトゾルに留まる。有糸分裂の際、核膜が破壊されると、EFCの対の2つのメンバーが接触する。検出可能な生成物をもたらす基質の存在下では、生成物を検出することによって細胞を分析することができる。代わりに、核を溶解することなく細胞を溶解し、検出可能な生成物をもたらす基質を使用することによってEFC複合体の量を決定することが可能である。
【0017】
使用する細胞に対して、核に方向付けられ、留まるEFCのメンバー、およびサイトゾルに留まるもう一方のEFCのメンバーを発現するように、遺伝子組み換えを行う。これらの細胞に対して、適切な培地で維持し、洗浄し、細胞のプロテオームの状態に影響を与える、すなわち1つもしくは複数の経路を活性化し、かつ/または阻害する1種または複数の物質に曝すなどによって前処理を行う。細胞をアッセイする準備ができたら、細胞を適切な容器に入れ、細胞のために用意した制御された環境を与え、有糸分裂のレベルの読み取りを行うのに充分な期間、細胞を培養する。その後、細胞を、酵素基質を含む適切な培地において溶解/透過処理し、細胞溶解物の希釈によって、有糸分裂の結果として既に存在しないEFCのメンバーの更なる複合体の形成が実質的に阻害される。
【0018】
使用する細胞は2種の遺伝子発現コンストラクトを有することを特徴とし、1つのコンストラクトがEFCの対メンバーとNLS/NRSと融合した融合タンパク質を含み、もう一方のコンストラクトがもう一方のEFCの対のメンバーを発現するものである。発現コンストラクトは、転写制御領域および翻訳制御領域を有し、これらの制御領域は誘導性であっても、構成的であってもよい。
【0019】
通常、発現コンストラクトは、組込みのための配列、染色体外因子としての維持のための配列、細胞膜(すなわち、細胞の内部をその周囲と分離し、出入りするものを制御する膜)の浸透のための配列、発現コンストラクトを有する細胞の選別のための配列などの、他の機能的な遺伝子の配列と結合している。細胞がコンストラクトのうち1つのみを有するようにし、一時的な発現のためのもう一方のコンストラクトを追加し、両方のコンストラクトをゲノムに組み込むか、または安定なもしくは不安定な染色体外因子として存在させるか、または両方のコンストラクトを一時的なコンストラクトとして存在させることが可能である。これらの考えられる手段のそれぞれを、測定の目的にしたがって利用すればよい。
【0020】
また、EFCの対のメンバーの1つまたは両方とエピトープタグを融合させ、EFCの対のメンバーの位置を独立して決定することが可能である。エピトープタグは容易に入手可能であり、約10〜30のアミノ酸からなる配列で充分であり、該配列は通常宿主において見られず、例えばエピトープタグに結合しその位置を特定するための抗体といった好都合な結合メンバーが存在する。検出のために、抗体を標識することが可能であり、2種の抗体を、1つの抗体がタグに、もう一方の抗体が融合タンパク質に向けられているサンドイッチアッセイに用いることも可能であり、また、他の好都合なアッセイのプロトコルを使用することが可能である。
【0021】
通常、細胞は、単一のコンパートメント中に、EFCの対の各メンバーの総量の少なくとも約80%を有し、好ましくは少なくとも1つ、より好ましくは両方が、単一のコンパートメント中にEFCの対のメンバーの総量の少なくとも約90%で存在する。EFCの対のメンバーが存在する単一のコンパートメントは、核又は細胞質であってもよい。
【0022】
有糸分裂又は時期のサイクルの阻害に関連する数多くのタンパク質は所定のものである。これらのタンパク質には、サイクリン(例えばサイクリンA、サイクリンB、サイクリンC、サイクリンD、サイクリンE、サイクリンF)、転写因子(例えばp53、Rb1、c-Ab1、EF-1)、キナーゼ(例えばp34cdc2、wee-1、DNA-PK)、ホスファターゼ(例えばcdc25B、cdc25C)、および他のアクセサリータンパク質(例えばATM、MDM2、HDAC)がある。これらのタンパク質は、通常、核に局在するが、特定のタンパク質(例えばMDM2またはATM)は特定の条件下で細胞質にも存在する場合がある。例えば、Kaoらによる"p34(Cdc2) kinase activity is excluded from the nucleus during the radiation-induced G(2) arrest in HeLa cells," J Biol Chem. 1999 Dec 3;274(49): 34779-84を参照されたい。
【0023】
これらのタンパク質が融合タンパク質であり、特定のコンパートメント中にEFCの対の1つを維持しながら、対のもう一方のメンバーが他のコンパートメント中にある場合、このようなタンパク質をターゲッティングすることで、タンパク質のターゲットへの当該化合物の影響および有糸分裂へのその影響を調査することができる。ターゲットタンパク質においてネガティブである別の細胞を使用することで、影響を分離することができる。
【0024】
測定を行う際、適切な培地中の細胞を分散させるか、容器の表面に付着させるか、またはそれらを組み合わせることができる。特定の個数の細胞を選択し、単一の細胞、少なくとも10個の細胞、通常は少なくとも102個の細胞であってもよく、通常は約105個までであり、より通常には約5×104個までである。細胞数は本発明において重要なものではなく、測定の目的、必要なシグナルのレベル、および他の実際に考慮すべき事項によって選択される。細胞は一次細胞または一次細胞系であってよく、一次細胞または一次細胞系は必要に応じて遺伝子操作することが可能である。
【0025】
細胞を安定化し、細胞の増殖をもたらすために、細胞を適切な増殖培地において適切な期間増殖させることが可能であり、細胞を、特定の時期、例えばS期にて阻止することが可能であり、細胞が特定の代謝もしくは他の状態になるようにし、細胞周期を停止し、アゴニストまたはアンタゴニストで処理し、血清を欠乏させ、血清を刺激するなどが可能である。その後、アッセイの目的にしたがって環境を変化させることが可能である。例えば、有糸分裂への化合物の影響に関心がある場合、培地に該化合物を添加する。温度、濃度、培地の成分などをアッセイの目的に従って変化させることが可能である。誘発性の転写制御領域、例えばtet制御領域を用いた場合、誘導可能な遺伝子をオンにするか、またはオフにすることができる。
【0026】
細胞を所望の環境下に充分な期間置いた後、例えばインキュベートした後、細胞を、その分裂指数についてアッセイする。
【0027】
細胞内でアッセイを行う場合、細胞からのシグナルを、種々の方法で、例えば比色分析で、蛍光標示式細胞分取器などの蛍光定量で、化学発光などで測定できる。基質が細胞膜を通して輸送可能である場合、基質を細胞内に導入し、膜を、例えば等張性のショックなどによって透過性にする。基質からの蛍光生成物にて、生成物が基質より低い透過性を有することが望ましい。細胞外で測定をする場合、適切な溶解培地にて細胞を溶解し、適切にシグナルを測定する。溶解には、細胞材料を、通常は少なくとも約5倍実質的に希釈することが含まれ、10倍希釈以上でもよく、通常は多くても約100倍である。急速に希釈することは、細胞内で予め形成されていない新しい酵素複合体を形成するのを実質的に阻害する効果を有する。1回の測定を行うか、又は最初の出来事、例えば環境への暴露の終了、溶解などから、種々の期間において複数の測定を行ってもよい。
【0028】
アッセイを使用することが可能な多数の手段がある。アッセイを用いて、環境の変化、例えば候補薬剤または薬物が有糸分裂に影響を与えることができるかどうかを決定することができる。1つまたは複数の遺伝子がオンまたはオフになる改変した細胞を用いる本アッセイを使用することによって、特定のタンパク質が存在するか、または欠如している細胞への化合物の影響を調べることができる。本アッセイと併せてRNAiを用いて、特定の転写産物および翻訳産物が有糸分裂に影響を及ぼすかどうかを決定することができる。同様に、有糸分裂に関与する経路および環境の変化に対する経路の応答を調べることができる。これらの調査のすべては、本プロトコルおよび成分を類似の方法で用いる、通常の試験手順、例えばハイスループット・スクリーニングに従う。通常、候補薬剤を欠くコントロールを用い、候補薬剤の存在の有無における結果を比較する。差異は、候補物質が有糸分裂を調節することを示す。分裂シグナルは細胞内に存在するか、又は存在しないかのいずれかであり、シグナルを特定の細胞内の位置に局在化する必要がないことから、蛍光標示式細胞分取器などのハイスループット技術を使用することが可能である。
【0029】
本発明は、概して、核コンパートメント又はサイトゾル・コンパートメントのいずれか、好ましくはサイトゾル・コンパートメント中にてEDを維持し、安定性を与えるための融合タンパク質を有する。最初に、特定のパートナーを、アッセイの妨げにならず、融合生成物を選択したコンパートメント中にて維持し、かつ強いシグナルをもたらすように、細胞内で充分な濃度を保持するのに充分に安定であるものとして任意に選択する。EFCのより短いメンバーを、通常、その安定性を向上させるために無害なタンパク質と融合する。より短いメンバーの低分子量に鑑みると、該メンバーが容易に分解されるように思われ、従って、その利用可能性が実質的に減少する。概して、タンパク質は少なくとも約5kD、通常は少なくとも約10kD、概して約50kD以下の分子量を有する。使用されるタンパク質は広く文献に記載されており、該タンパク質としては、グルタチオンシンターゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、マルトース結合タンパク質(MBP)、アネキシンタンパク質などといったタンパク質が挙げられる。
【0030】
本発明の第1の構成要素は上記の融合タンパク質およびその発現コンストラクトである。EDは融合タンパク質のC末端、N−末端又は内部のいずれかに存在してもよい。融合タンパク質中のEDの特定の部位は、利便性、安定性および融合タンパク質がEAと複合体を形成して活性型酵素を形成する能力を保持することによって決まる。
【0031】
EDをコード領域に種々の方法で挿入することができる。cDNA遺伝子コンストラクトでは、配列の挿入に適した制限酵素部位を選択し、制限酵素部位のオーバーハングを用いて、正しい方向に方向付けることができる。代わりに、ターゲット遺伝子と相同な配列を有するコンストラクトを用い、相同組み換えを可能にし、ターゲット遺伝子に隣接する相同配列をコンストラクト中にてEDで分離する。cDNA遺伝子を有する酵母中のプラスミドを用いて、適切な転写および翻訳の制御領域の有無にかかわらず、cDNA遺伝子に適切な部位でEDコンストラクトを容易に挿入することが可能である。代わりに、タンパク質をコードする遺伝子のイントロン中またはエクソン中に、適切なスプライス部位と共にEDコード領域を挿入することも可能である。このような方法で、タンパク質の任意の位置において導入する部位について選択できる。ある場合には、EDがイントロンに導入されている多くのコンストラクトを作製し、生じたタンパク質をEDの活性およびタンパク質の機能の保持について試験するのが有用である。コードする配列を遺伝子に挿入するための様々な他の従来の方法を用いることができる。好適なED及びEAはβガラクトシダーゼに由来する。EDは、Genbankのアクセッション番号AAN78938の大腸菌βガラクトシダーゼのN末端領域から調製することが可能であり、例えば残基7を起点とし、N末端のシステインを付加し、C末端に近いアルギニンをシステインに置換する。既知のβガラクトシダーゼの配列の他の領域を、EDとして使用するために改変してもよい。
【0032】
発現コンストラクトおよび他の従来の操作方法については、例えば、Sambrook, Fritsch & Maniatis, "Molecular Cloning: A Laboratory Manual," Second Edition (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (本願明細書において "Sambrook et al., 1989"とする);"DNA Cloning: A Practical Approach," Volumes I and II (D. N. Glover ed. 1985);"Oligonucleotide Synthesis" (M. J. Gait ed. 1984);"Nucleic Acid Hybridization" [B. D. Hames & S. J. Higgins eds. (1985)];"Transcription And Translation" [B. D. Hames & S. J. Higgins, eds. (1984)];"Animal Cell Culture" [R. I. Freshney, ed. (1986)];
"Immobilized Cells And Enzymes" [IRL Press, (1986)];B. Perbal, "A Practical Guide To Molecular Cloning" (1984)を参照されたい。
【0033】
融合タンパク質をコードする遺伝子は、発現コンストラクトの一部である。遺伝子を、細胞の宿主において機能を有する転写制御領域および翻訳制御領域の下に配置する。制御領域は、融合タンパク質を発現する細胞の種類を限定し、発現に特定の条件を必要とし、タンパク質と共に必然的に発現するなどといった利益をもたらし得るエンハンサーを含むことができる。多くの場合、制御領域はタンパク質をコードする遺伝子の天然の制御領域であってもよく、融合タンパク質が天然の遺伝子に取って代わってもよく、天然のタンパク質に加えて存在してもよく、ホスト細胞のゲノムに組み込むか、もしくは組み込まず、例えば染色体外因子上に存在してもよい。その制御領域の好ましさに関連してタンパク質を選択するか、または外来性の制御領域を使用することが可能である。
【0034】
当然のことながら、発現コンストラクトの組み込みの部位は、転写の効率、したがって融合タンパク質の発現に影響を及ぼす。高い転写率を有する細胞を選択することによって、発現効率を最適化するか、発現コンストラクトを増幅可能な遺伝子に結合させることによって発現コンストラクトを改変し、例えばメトトレキサートの存在下でDHFRと発現コンストラクトを共増幅するか、または相同組み換えを用いて、組み込みの部位が効率的な転写をもたらすことができるようにすることが可能である。効率的な転写の部位にCre-Loxなどの挿入因子を挿入することによって、同じ部位に発現コンストラクトを方向づけることができる。いずれにしても、通常、所定の環境下での細胞から評価する環境における細胞までのβガラクトシダーゼ活性を比較する。転写制御領域および組み込みの部位を適切に選択することによって、保持されるコンパートメントにおける融合タンパク質のレベルを制御することができる。同様に、もう一方のEFCの対のメンバーについて、異なるコンパートメント内における2つのメンバーの望ましいレベルを有するように同様の検討を用いることが可能である。多くは、融合タンパク質はEDまたはβガラクトシダーゼのα断片を含む。
【0035】
使用することが可能な多くの市販の転写制御領域があり、概して、特定のものに選択することは本発明の成功に重要ではない。また、融合遺伝子コンストラクトを宿主細胞に導入する方法も、融合遺伝子を使用する目的によって様々である。転写制御領域は構成的であっても誘導性であってもよい。前者の場合には、細胞中に定常状態の濃度の融合タンパク質および/またはEFCのもう一方のメンバーを有することができ、後者の場合には、融合タンパク質またはEFCのもう一方のメンバーの量を、実質的にすべて欠如している状態(漏出がある可能性はある)から、定常状態に達するまでの量に増加させることが可能である。誘導性の転写を用いて、融合タンパク質が欠如している状態から、定常状態の濃度の融合タンパク質が存在する状態まで細胞を循環させることができる。
【0036】
同時係属出願の"Genetic Construct Intracellular Monitoring System"と題された米国特許出願公開第2003/0092070号明細書(本願明細書の背景技術において参照している)には、コンストラクトを導入するためのベクター、ベクターを導入する方法、トランスフェクションをモニターする方法、転写制御領域、すなわちプロモーター、使用が考えられる宿主細胞株、および細胞へのコンストラクトの導入に関する他の有用な情報の大きな記載部分があり、それらのすべてを、すべて本明細書に記載されているかの如く、参照より本明細書に組み込むものとする。
【0037】
簡潔に述べると、上述した出願の一部には、欠損型ヘルペスウイルス1(HSV1)ベクター(Kaplitt et al., 1991, Molec. Cell. Neurosci. 2:320-330);(Stratford-Perricaudet et al., 1992, J. Clin. Invest. 90:626-630)に記載されているベクターなどの弱毒アデノウイルスベクター;欠損型アデノ随伴ウイルスベクター(Samulski et al., 1987, J. Virol. 61 : 3096-3101; Samulski et al., 1989, J. Virol. 63:3822-3828)などの既知のベクターシステムについて述べられている。代わりに、“裸DNA”のコンストラクトを使用することも可能であり;もう一つの方法として、DNAベクタートランスポーターを使用することも可能である(例えばWu et al., 1992, J. Biol. Chem., 267:963-967; Wu and Wu, 1988, J. Biol. Chem.263: 14621-14624; 1990年3月15日出願のHartmutらのカナダ国特許出願第2,012,311号 0参照)。様々な能力、様々なプロモーター、msc遺伝子、および選択遺伝子を有する多くの市販の哺乳類ベクターを利用でき、pYACneo (Replicon社)、pAdvantage、pSI(SV40p)、pTarget、pGIneo (Promega社)、 Vitality hrGFP (Stratagene社)、pCMS-EGFP-1、pEGFP-NI (BD Biosciences社)、pVITROms (Invivogen社)、pRK-5 GFP (Fujisawa社)及びpCruz 22 (Santa Cruz社) (供給元)がある。
【0038】
便宜上、本アッセイの種々の構成要素がキットで提供され得る。例えば、EFCアッセイの構成要素を発現させるためにDNAコンストラクトを同一または異なるベクター上に有する可能性がある。代わりに、コンストラクトを含有する細胞がもたらされる可能性があり、細胞は、天然の細胞もしくは細胞株から遺伝子操作されるか、又は遺伝子操作されず、例えば、特定の遺伝子を阻害するか、もしくは活性化し、または細胞によって発現されない遺伝子を導入する。加えて、バッファーを含んでもよく、培地、EFCの活性を測定するためのアッセイの基質を用意することなども可能である。
【0039】
以下の実施例は例示のためのものであって、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
(実験)
細胞周期の異なる段階にて阻止する一連の様々な化合物を試験した。ビンブラスチン、コルヒチン、ノコダゾールおよびパクリタキセル(タキソール(商標))のすべては、微小管の形成および組織化に作用することによって細胞をG2期/M期にて停止させる。ヒドロキシ尿素およびアフィジコリンはDNA複製に影響を及ぼすことによって細胞周期をS期にて阻止する(図1)。
【0041】
図1は有糸分裂を示す真核細胞の周期の既知の略図を示す。有糸分裂は核分裂に加えて細胞質分裂であって、前期、前中期、中期、後期、および終期の間に2つの同一の娘細胞を生じる。有糸分裂の領域の上部に示す間期は、多くの場合有糸分裂の考察に含まれるが、専門的には有糸分裂の一部ではなく、むしろ細胞周期のG1期、S期およびG2期を含むものである。図1は、S期において作用する薬物Hおよび薬物A(ヒドロキシ尿素およびアフィジコリン)、および有糸分裂(mitosis)である“M”期にて作用する薬物Nおよび薬物C(ノコダゾールおよびコルヒチン)を示す。タキソール及びビンブラスチンなどの他の薬物は細胞のタイプに応じて細胞周期の様々な期にて作用することが知られている。例えば、タキソールはT47D乳癌細胞のM期にて作用する。図示のように、細胞は、分裂を続ける(“有糸分裂”)か、又は分裂を停止する(“停止”)ことができる。
【0042】
記載したすべての実験において、20,000細胞/ウェルを総容積100μlで96ウェルのコーニング社のクリアボトム白色プレートに蒔いた。細胞を、5μlの適切な媒体又は上記の6種の化合物の異なる濃度で24時間処理した。翌日、Tropix社/ABI社のGal screen細胞溶解バッファー/基質の混合物(成分比24:1)を細胞/培地に添加し、溶解/基質の添加から30分、60分、120分後にプレートをVictor社のII luminescent plate readerで読み取った。
【0043】
(実施例1)
細胞周期阻害化合物の最初の試験を、EA-NLS/NRSおよびGR-PLを発現するコンストラクトの両方を有する二連の安定細胞株で行った(PLはβガラクトシダーゼの酵素供与体の断片であり、EAは酵素受容体の断片であって、カリフォルニア州FremontのDiscoveRx社から入手可能である)。親細胞株のC2C12はマウス筋細胞に由来する。C2C12親細胞株にてEA-NLS/NRSおよびGR-PLを発現させる実験において、コンストラクトを、Stanford大学内の研究室で分子的に改変したMFGベースのレトロウイルスベクターにヒトGR配列をサブクローニングすることによって作製した。MFGベクターは米国特許第6,544,771号明細書に記載されている。EA-NLS/NRS断片を、先と同様にStanford大学内の研究室で分子的に改変したwzlベースのレトロウイルスベクターにサブクローニングした。CHO-K1親細胞株のバックグラウンドを用いて行った実験において、EA-NLS/NRSをInvitrogen社のpcDNA3.1 Hygroベクター(カタログ番号V870-20)のKpn I部位およびXba I部位にサブクローニングした。プラスミドを、FuGene6(Roche社)トランスフェクション試薬を用いて細胞に導入した。250μg/mlのハイグロマイシンの存在下で細胞を選択し、EA-NLS/NRSを発現した単細胞クローンを単離した。ヒトGR遺伝子をPCRによってクローニングし、DiscoveRx社のベクターであるpCMV-myc-PL(C3)のXho I部位およびBam HI部位にサブクローニングした。プラスミドを、FuGene6のトランスフェクションによって上記のように単離された、選択されたEA-NLS/NRS発現クローンに導入した。300〜500μg/mlのG418の存在下でスクリーニングをもう一巡行うことによって、GR-PLのトランスフェクションされたクローンを選択した。これらの調査で使用したクローンを最終的に同定するためにクローン選択を行った。CHO-K1+cyto-EAおよびcJUN-PLを用いた調査では、同一のInvitrogen社のpcDNA3.1 Hygroベクターを用いてEAを発現させた。この場合、pcDNA3.1 HygroのKpn I/Not I部位にE
A断片をサブクローニングした。プラスミドDNAを、上記の通り、FuGene6試薬を用いて導入した。細胞を、250μg/mlのハイグロマイシンの存在下で選択し、クローン選択を行った。c-Jun遺伝子を、遺伝子の既存の鋳型のコピーを用いてPCRで作製し、その後pCMV-PL-myc(C3)のXho I/Bam HI部位にサブクローニングした。
【0044】
これらの細胞において、EAは核に局在し(EA-NLS/NRS)、一方でPL(55merのβガラクトシダーゼのα断片、配列番号1)は、糖質コルチコイド受容体と融合し、細胞質に保持された(GR-PL)(>pCMV-PL/C3/Myc/(nuc) 配列番号2)。糖質コルチコイド受容体(GR)の不活性断片は、EDとの融合に使用して、プロテアーゼ分解またはEDが不安定となるのを防ぐために、ホルモン受容体を含めた考えられる多くの細胞質タンパク質から選択された。細胞を上記のように処理し、アッセイした。表1で見られるように、ノコダゾール処理(1〜10μg/ml)がEFC活性の約2倍以上の増加を示したが、例えばM期において作用しないビンブラスチンはEFC活性の増加を示さなかった。
【0045】
【表1】

【0046】
上記表1は、細胞周期阻害化合物をC2C12+EA-NLS/NRS+GR-PL細胞、すなわち、酵素受容体/核局在シグナルおよび糖質コルチコイド受容体および酵素供与対断片PLを用いて設計したマウス筋細胞株C2C12で試験することにより、様々な薬剤による発光の読み取り値の平均を分散係数(%CV)と共に決定する一連の実験の結果を示す。
【0047】
(実施例2)
次の実験では、抗生物質で選択された、EA-NLS/NRSおよびGR-PLを発現するCHO-K1細胞のプールの集団を、同じ6種類の細胞周期阻害化合物のセットで試験した。これらの細胞はEA-NLS/NRSに特異的な抗体(βガラクトシダーゼに対するPromega社のモノクローナル抗体)およびGRに特異的な抗体(Abcam社のポリクローナル抗体)を用いた免疫蛍光法によって特徴付けられ、90%以上のEA-NLS/NRSが核に局在しているのが見られ(図3a参照)、80%以上のGRが細胞質にて見られた(図3b参照)ことが示された。図2aおよび図2bは、、青色のDAPIの核の染色が核に集中して見ることができ、糖質コルチコイド受容体に対する抗体(Abcam PLC社製)における緑色蛍光染色が細胞質にて見られるという点で、EAおよびGR-PLの免疫蛍光の局在を示す。表2は、CHO-K1+EA-NLS/NRS+GR-PL細胞の試験から得られたデータを示す。試験した6種類の薬剤各々について、6つの表を示す。
【0048】
【表2】

【0049】
活性型の補完されたβGalの基質の切断から上昇した平均の蛍光によって示されるように、タキソール、ノコダゾールおよびコルヒチンで一晩処理した結果、これらの化合物の各々の濃度増加で滴定したEFCの増加が4倍と同程度であった。予想通り、アフィジコリンおよびヒドロキシ尿素の両者とも、EFC活性の増加をもたらさなかった。これらの結果は、核のエンペロープの崩壊(すなわち、EAの核からの放出)に影響を及ぼさないが、細胞周期の進行の停止をもたらす化合物が、細胞質に局在するGR-PLによる核からのEAの補完をもたらして、βガラクトシダーゼの化学発光基質を代謝回転することができる活性型酵素複合体を生成しないことを示唆する。このことは、有糸分裂中の細胞を阻害する化合物で、EA及びProLavelを補完させることによってのみ生じる。
【0050】
(実施例3)
次の実験では、EA-NLS/NRSおよびGR-PLの両方を発現する安定クローン(クローン#69)をCHO-K1の親のバックグランドにおいて単離した。細胞周期阻害化合物の特異性を明らかにするために、RU486(GRの特異的アンタゴニスト)の存在下で予めインキュベーションしたものを試験した。20,000細胞/ウェルをCorning社の96ウェル白色マルチウェルプレートに蒔き、一晩接着させた。翌日、無血清F12培地で細胞を2回洗浄し、100μlの無血清F12培地を細胞に添加した。その後、細胞を媒体(終濃度1%のエタノール)または10μMのRU486中で1時間インキュベートした。細胞に、3種類の異なる濃度のデキサメタゾン(300、100、30μM)(GRのアゴニスト)、RU486(30、10、3.33μM)、コルヒチン(1、0.3、0.1μg/mL)又はノコダゾール(10、3.33、1.11μg/mL)を添加し、37℃、5%CO2で一晩インキュベーションを行った。翌日、培地を吸引して取り除き、100μLのTropix社/ABI社のGal screen細胞溶解/基質試薬を細胞に添加した。30分、60分及び120分においてプレートをVictor社のII readerで読み取った。
【0051】
結果を、薬剤濃度(0、低、中、高)に対する蛍光の比として図3に示したのに加えて、試験した7種類の薬剤についての表として示す。図3に示す通り、細胞は、RU486とのインキュベーションによって阻害されたデキサメタゾンの滴定に対し非常に強い反応(EFC活性の増加)を示した。RU486がそのまま弱いアゴニストとして作用することが可能であるが、滴定した際、EFC活性の増加を示さなかった。ノコダゾールおよびコルヒチンの両者は、試験した各濃度において、EFC活性の増加(約3〜4倍)を示した。EFC反応の増加はRU486とのインキュベーションによって阻害されず、このことは、反応がGRの核の転位置の反応とは無関係であることを示唆する。これらの結果は、さらに、細胞周期阻害化合物の添加によって見られたEFC活性の増加が、核のエンベロープが崩壊した後、EAが細胞質へ放出され、存在するGR-PLで補完し、基質を代謝回転することができることによるものであることを裏付けるものである。さらに、これらの結果を以下の表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
(実施例4)
βガラクトシダーゼ酵素断片の1つ(この場合PL)を核に隔離し、もう一方の構成要素(この場合EA)を細胞質に局在させるというコンセプトをさらに検証するために、以下の実験を行った。細胞質に局在した(図4aで見られるように70%以上)EA(cyto-EA)を発現したCHO-K1安定細胞株にcJUN-PLをトランスフェクションした。CHO-K1細胞に一時的にトランスフェクションした場合、cJUN-PLがほとんど専ら核に局在したことが見られた。cyto-EA細胞にcJUN-PLプラスミドDNAを一時的にトランスフェクションした。トランスフェクションから2日後、20,000細胞/ウェルの細胞をコーニング社の96ウェルの白色クリアボトムマルチウェルプレートに再び蒔いた。細胞を一晩接着させ、翌日、滴定する濃度の6つの異なる細胞周期阻害化合物で処理した。一晩インキュベーションを行った。翌日、培地を細胞から取り除き、100μLのTropix社/ABI社のGal screen細胞溶解/基質試薬を細胞に添加した。図4bで見られるように、ノコダゾールの添加およびコルヒチンの添加によって、EFC活性が約2.1倍以上に増加した。アフィジコリンの添加およびヒドロキシ尿素の添加によって、EFC活性がごくわずかに増加し、このことはバックグランドの活性を示唆するものである。さらに、これらのデータを下記の表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
(結論)
上記の結果から、本発明の組成物および方法が、環境の変化、特に候補薬剤の有糸分裂への影響を同定する迅速で簡便な方法を提供することが明らかとなった。また、該方法を用いて、細胞周期に関与するタンパク質の同定が可能となり、有糸分裂を経る周期にどのような影響を及ぼすかを確認することが可能である。該方法は強いシグナルをもたらし、干渉するバックグランドがほとんどない。
【0056】
本明細書で引用したすべての文献および特許文献は、個々の文献または特許文献を具体的かつ個別に参照することによって本明細書に組み込むことが示されているように、参照により本明細書に組み込むものとする。
【0057】
上記の具体的な記載は、本発明を例証し説明するために向けられたものであって、特許請求の範囲の文言及びそれと均等の範囲によって定められる本発明の範囲を限定するものとみなすべきではない。本明細書で述べたすべての非特許文献および特許文献は、特許が関係する当業者のレベルを暗示するもので、明確に示していないが当業者によって理解される本発明の詳細を伝えるために向けられたものである。そのような特許文献又は非特許文献は、参照した方法または材料を説明し、可能にするために必要とされ、それぞれを具体的かつ個別に参照によって組み込むように、参照により本明細書に組み込むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、2つの異なる段階で作用して有糸分裂を阻害/阻止する化合物を示す、既知の哺乳類の細胞周期の概略図である。
【図2】図2は、免疫蛍光法によってEA(図2A)およびGR-PL(図2B)の局在化を示す一連の写真であり、GRはヒト糖質コルチコイド受容体断片、PLはβガラクトシダーゼ酵素供与体断片であり、細胞質が緑色に染色され、核が青色に染色されているのが見られる。
【図3】図3は、細胞周期阻害化合物に対する反応においてクローン#69を試験した結果を示す棒グラフである。
【図4】図4は、細胞株CHO-K1+cyto-EAの免疫蛍光を示す1組の写真であり、細胞質が緑色に、核が青色に染色されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合体を形成して活性型酵素を形成することが可能な酵素断片複合体の対のメンバーを用いて有糸分裂を検出する方法において、前記メンバーが酵素供与体および酵素受容体であり、前記メンバーの1つがサイトゾル内にあり、前記メンバーのもう一方が細胞の核内にあって、前記方法が、
有糸分裂が生じるように前記細胞を培養することと、
検出可能な基質で酵素活性を測定することとを含み、
酵素活性のレベルが有糸分裂の量の指標である前記有糸分裂検出方法。
【請求項2】
前記メンバーがβガラクトシダーゼ断片である請求項1記載の方法。
【請求項3】
断片の1つがもう一方のものより実質的に小さい断片であり、前記より小さい断片が存在するコンパートメントにて通常見られるタンパク質と融合している請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記メンバーの1つがNLS/NRSコード配列と融合している請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記メンバーが独立して複合体を形成する請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記測定が、細胞を溶解させることと、検出可能な生成物を形成する基質を添加することと、検出可能な生成物を測定することとを含む方法。
【請求項7】
独立して複合体を形成して活性型βガラクトシダーゼ酵素を形成することが可能な酵素断片複合体の対のメンバーを用いて、候補薬剤の有糸分裂への影響を決定する方法において、前記メンバーが酵素供与体および酵素受容体であり、前記酵素供与体のメンバーがサイトゾル内にあり、前記酵素受容体のメンバーが細胞の核内にあり、前記方法が、
前記候補薬剤の存在下および非存在下において有糸分裂が生じるように前記細胞を培養することと、
前記候補薬剤の存在下および非存在下において細胞の酵素活性を検出可能な基質を用いて測定することとを含み、
前記薬剤の存在下および非存在下における酵素活性のレベルの差異が、前記薬剤の有糸分裂への影響の指標である前記候補薬剤の有糸分裂への影響を決定する方法。
【請求項8】
独立して複合体を形成して活性型βガラクトシダーゼ酵素を形成することが可能な酵素断片複合体の対のメンバーを用いて、細胞膜、核およびサイトゾルを有する細胞内における候補薬剤の有糸分裂への影響を決定する方法において、前記メンバーが酵素供与体および酵素受容体であり、前記酵素供与体のメンバーがサイトゾル内にあり、前記酵素受容体のメンバーが細胞の核内にあり、前記方法が、
前記候補薬剤の存在下および非存在下において有糸分裂が生じるように前記細胞を培養することと、
検出可能な基質を、前記基質が細胞膜を通して輸送することが可能である条件下で細胞に導入することと、
前記候補薬剤の存在下および非存在下において細胞の酵素活性を前記検出可能な基質を用いて測定することとを含み、
前記薬剤の存在下および非存在下における酵素活性のレベルの差異が、前記薬剤の有糸分裂への影響の指標である前記候補薬剤の有糸分裂への影響を決定する方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2008−546411(P2008−546411A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518353(P2008−518353)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【国際出願番号】PCT/US2006/024148
【国際公開番号】WO2007/002200
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(504058215)ディスカヴァーエックス インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】