説明

分解ガスを冷却するための熱交換器

【課題】分解ガスのガス流出側にある部分空間の内部で冷却が一層効率的となり、かつ機器構造が簡単な分解ガス冷却用熱交換器の提供。
【解決手段】分解ガスを冷却するための熱交換器は、熱交換管1、管板2、3、外被4、各1つの分解ガス給排用端室5、6を備えている。熱交換器内部空間は隔壁7によって、分解ガスの流れ方向で前後する2つの部分空間8、9に分割されており、これら部分空間はそれぞれ独自の冷却媒体供給短管10、18及び排出短管11、19を備えている。分解ガスのガス流入側にある部分空間8は沸騰水を流通させる。この部分空間は供給管路13及び排出管路15を介して水/蒸気ドラム12と結合されている。分解ガスのガス流出側にある部分空間9は給水を流通させる。部分空間9は排出管路21を介して水/蒸気ドラム12と結合されている。両方の部分空間8、9の間の隔壁は熱交換器の内部を流れる冷却媒体の通過に対して透過性である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文の特徴を有する分解ガスを冷却するための熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
熱分解炉またはエチレン分解炉は、プラスチック産業用のエチレン施設の内部で、原料のエチレン、プロピレン、ブタジエン他を製造するための主要コンポーネントとなる。原料として使用されるのは飽和炭化水素、主としてエタン、プロパン、ブタン、天然ガス、ナフサまたはガス油である。飽和炭化水素から不飽和炭化水素への転換は分解炉の分解管内で、しかも入口温度500〜680℃、出口温度775〜875℃で1.5〜5バールの圧力範囲内で起きる。
【0003】
分解炉の出口に後置された分解ガス冷却器において不飽和炭化水素、いわゆる分解ガスは、775〜875℃から約350〜450℃に冷却されて高圧蒸気または低圧蒸気を生成する。その際、「冷却水」は相応する圧力において沸点を有する。冷却は液相から気相への相転移に基づいて起きる。蒸気は例えば蒸気タービン用のエチレン施設において利用される。
【0004】
分解ガスを冷却して蒸気を生成することは、約350〜450℃への完全冷却が単に1つの分解ガス冷却器において行われる単段システムにおいて行われるか、または前後で接続される2つの分解ガス冷却器内で歩進的冷却、例えば第1ステップでは875℃から550℃に、第2ステップでは550℃から350℃へと行われる2段システムにおいて行われる。分解ガス冷却器は一次冷却器、二次冷却器との相応する名称を有する。
【0005】
付加的に、分解ガスのさらなる冷却はボイラ給水予熱器において単段システムでも2段システムでも行われる。その際、蒸気はもはや生成されず、「冷却水」、ボイラ給水は一次冷却器および二次冷却器用に極力沸点近傍に予熱される。予熱されたボイラ給水を一次分解ガス冷却器および二次分解ガス冷却器に供給することは、ボイラ給水を沸点に加熱する蒸気ドラムを介して間接的に行われる。
【0006】
特許文献1により公知の分解ガス冷却器では、蒸発器である第1冷却段において分解ガスが沸騰水によって冷却され、過熱器である第2冷却段において蒸気によって冷却される。通常どおり分解ガス冷却器の下流側に付加的冷却器を設けることができ、この冷却器において分解ガスは給水によってさらに冷却される。特許文献1により公知の分解ガス冷却器の1変更態様では、蒸発器と過熱器が共通の外被内に配置され、或る冷却段から別の冷却段への冷却媒体の溢流を防止する隔壁によって相互に分離されている。
【特許文献1】欧州特許第0272378号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、分解ガスのガス流出側にある部分空間の内部で冷却が一層効率的となりかつ機器構造が低減されるように、共通する外被の内部に2つの部分空間を含む前文に記載した分解ガス冷却用熱交換器を構成することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、前文に係る熱交換器において本発明によれば請求項1の特徴部分の特徴によって解決される。本発明の有利な諸構成は従属請求項の対象である。
【0009】
分解ガスのガス流入側にある熱交換器部分空間は蒸発器として役立ち、沸騰水の沸点近傍に至るまで分解ガスを冷却する。分解ガスは引き続き、分解ガスのガス流出側にあって予熱器として役立つ部分空間に達し、そこで分解ガスは冷たい給水によって水の沸点よりもかなり下へとさらに冷却される。これにより、分解ガスの冷却は全体として一層効率的となる。その際に暖められた給水は蒸気ドラムに供給されてそこで沸点に加熱されるか、または「漏れる」管板として働く隔壁によって蒸発器部内に直接流れるかのいずれかである。冷却媒体を意図的に透過するよう構成された隔壁は部分空間の間で均圧をもたらす。
【0010】
さらに、蒸発器と予熱器を1つの共通する集成装置へとまとめることによって、従来個別であった給水予熱器が蒸発器に一体化されることによって分解ガス冷却の機器構造が簡素化され、これにより冷却列の内部で冷却器一式が省かれ、また蒸発器と給水予熱器との間の分解ガス管路が省かれ、蒸気ドラムに至る配管を短くすることができる。
【0011】
蒸発器から予熱器に至る結合が省かれることによって、本来なら管流出部の蒸発器と管流入部の予熱器とガス流出室およびガス流入室への流れとによって引き起こされるであろうガス側圧力損失は生じない。これにより冷却器内で分解ガスの総圧力損失が減少し、分解ガス中のエチレン、プロピレン、ブタジエン他の収率が高まるとともに、冷却器の運転期間も長くなる。
【0012】
本発明の1実施例が図面に示してあり、以下で詳しく説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図示した熱交換器はエチレン施設において分解ガスを冷却するのに役立つ。この熱交換器は直線的熱交換管1の管束からなり、これらの熱交換管は管束の両側で各1つの管板2、3内で保持されている。図面には理解し易いように熱交換管1の幾つかのみが図示されている。各管板2、3に穴が設けられており、熱交換管1の各1つがこれらの穴に嵌挿され、溶接部によって管板2、3と溶接されている。管束を取り囲んでいる外側外被4は各管板2、3と一緒に、冷却媒体を貫流させる内部空間を限定する。
【0014】
管板2、3にガス流入側およびガス流出側で各1つの端室、流入室5および流出室6が続く。流入室5と流出室6は分解ガスを給排するための短管をそれぞれ備えている。熱交換器の部品はすべて耐熱鋼から作製されている。
【0015】
流入室5を通して到来する高温の分解ガスは管板2に衝突し、管板2の穴を通して熱交換管1に流入し、別の末端の管板3を通して熱交換器の冷却領域から離れる。冷却された分解ガスは流出室6を介して排出される。図示矢印は流れ方向を示す。
【0016】
熱交換器の内部空間は隔壁7によって2つの部分空間8、9に分割されており、熱交換器の内部に2つの冷却部が生じており、冷却部はそれぞれ独自の冷却媒体を付加され、蒸発部もしくは予熱部として役立つ。
【0017】
寝かせて配置された熱交換器の、分割ガスのガス流入側にある部分空間8は、下面側に複数の冷却媒体供給短管10、上面側に複数の冷却媒体排出短管11を備えている。高圧を受けた沸騰水が冷却媒体として役立ち、この水は水と蒸気との分離に役立つ水/蒸気ドラム12から取り出される。このため供給短管10に供給管路13が接続されており、この供給管路は水/蒸気ドラム12の水空間14から出発している。排出短管11が排出管路15と結合されており、この排出管路は水/蒸気ドラム12の水空間14に別の個所で注ぎ、分解ガスとの熱交換で生成される飽和蒸気を排出する。水/蒸気ドラム12内で分離された蒸気は、水/蒸気ドラム12の蒸気空間16から出発する蒸気管路17を介して排出される。
【0018】
寝かせて配置された熱交換器のガス流出側にある部分空間9は、下面側で管板3の近傍に単数または複数の供給短管18、上面側で隔壁7の近傍に単数または複数の排出短管19を備えている。給水は供給短管18を介して部分空間9に供給される。部分空間9内に方向転換板20が相互に離間し平行に、上下にずらして配置されており、方向転換板は邪魔板として働き、給水を分解ガスと向流で部分空間9内に通す。給水は分解ガスと熱交換して予熱され、排出短管19に接続された排出管路21を介して水/蒸気ドラム12の水空間14に導かれる。
【0019】
蒸発部と予熱部を共通の熱交換集成装置へとまとめると、熱交換器と水/蒸気ドラム12との間の給排部が短縮される。この配置により、水/蒸気ドラム12を熱交換器の外被4上に直接組付けることが可能となる。これにより得られるコンパクトな構造ユニットによって、配管と配管組付け時間を節約することができる。
【0020】
両方の部分空間8、9の間の隔壁7は非担持部材であり、その役目は部分空間8、9内で流れを別々に保つことだけである。隔壁7が穴22を備えており、穴の直径が熱交換管1の外側直径よりも僅かに大きく、熱交換管1は遊隙23をもって隔壁7に挿通されている。隔壁7の外側直径が外被4の内側直径よりも小さく、組込状態のとき隔壁7と外被4との間に隙間24が生じる。隔壁7は熱交換管1からなる管束とともに外被4内に押し込むことができる。通常寸法の熱交換器の場合、隔壁7と外被4との間の隙間24は数ミリメートル、例えば2mm、熱交換管1と隔壁7の穴22との間の遊隙23は1mm未満、例えば0.6mmである。図2では隙間24と遊隙23が過比例的に大きく図示されている。
【0021】
隔壁7と外被4との間の隙間24と、熱交換管1の周面と隔壁7の穴22との間の遊隙23とにより、一方の部分空間8、9から他方の部分空間への各冷却媒体の通過に対して隔壁7が透過性となる。従って隔壁7は「漏れる」管板として働く。
【0022】
給水はガス流出側にある部分空間9にポンプを介して供給され、給水が受けている圧力は確かに僅かに変動し、またはガス流入側にある部分空間8内の圧力よりも常に高い。つまり一般に圧力差が常に存在する。この圧力差は、ガス流出側にある部分空間9から、意識的に漏れ状態に保たれた隔壁7を通してガス流入側にある部分空間8へと水が移ることによって補償される。ガス流出側にある部分空間9から流出する漏れ水はガス流入側にある部分空間8内で蒸発し、やはり水/蒸気ドラム12に達する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】分解ガスを冷却するための熱交換器の略縦断面図である。
【図2】図1のII‐II断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 熱交換管
2、3 管板
4 外被
5、6 分解ガス給排用端室
7 隔壁
8、9 部分空間
10 冷却媒体供給短管
11 排出短管
12 水/蒸気ドラム
13 供給管路
14 水空間
15 排出管路
16 蒸気空間
17 隔壁
18 冷却媒体供給短管
19 排出短管
20 方向転換板
21 排出管路
22 穴
23 遊隙
24 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン施設において分解ガスを冷却するための熱交換器であって、分解ガスを流通させる熱交換管(1)の各末端が各1つの管板(2、3)に嵌挿され、かつ外被(4)によって取り囲まれており、管板(2、3)の1つによって部分的に限定された各1つの分解ガス給排用端室(5、6)が外被の両方の正面に設けられており、外被(4)によって取り囲まれた熱交換器内部空間が冷却媒体としての水を流通させ、かつ熱交換管(1)に垂直に延びかつ熱交換管(1)を挿通させる隔壁(7)によって、分解ガスの流れ方向で前後する2つの部分空間(8、9)に分割されており、これらの部分空間がそれぞれ独自の冷却媒体供給短管(10、18)および排出短管(11、19)を備えており、分解ガスのガス流入側にある部分空間(8)が沸騰水を流通させ、この部分空間(8)が供給管路(13)および排出管路(15)を介して水/蒸気ドラム(12)と結合されているものにおいて、分解ガスのガス流出側にある部分空間(9)が給水を流通させ、部分空間(9)が排出短管(19)及び排出管路(21)を介して水/蒸気ドラム(12)と結合されており、両方の部分空間(8、9)の間の隔壁(7)が、熱交換器の内部を流れる冷却媒体の通過に対して透過性であることを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
給水の圧力が、分解ガスのガス流出側にある部分空間(9)では、分解ガスのガス流入側にある部分空間(8)内の沸騰水の圧力よりも高いことを特徴とする、請求項1記載の熱交換器。
【請求項3】
隔壁(7)が非担持部材として構成されていることを特徴とする、請求項1または2記載の熱交換器。
【請求項4】
隔壁(7)の外周面と外被(4)の内径との間に隙間(24)があることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の熱交換器。
【請求項5】
分解ガスを流通させる熱交換管(1)が遊隙(23)をもって隔壁(7)の穴(22)に挿通されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載の熱交換器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−145097(P2008−145097A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299862(P2007−299862)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(599101944)ボルジヒ ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】