説明

分離膜による水の分離方法

【課題】 例えばエタノール、イソプロパノール等の有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体から、ゼオライト層を有する分離膜によって水を分離する方法であって、分離膜の性能である透過速度および分離係数を向上する。しかも長期にわたって分離膜の膜性能を維持することができ、耐久性を確保できる、分離膜による水の分離方法を提供する。
【解決手段】 有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体から、ゼオライト層を有する分離膜によって水を分離する方法は、有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体4から水分子を選択的に分離させる際に、前処理として予め水分子のみを単独で、ゼオライト層を有する分離膜3を透過させて、ゼオライト層に水を含浸させ、その後、水含浸ゼオライト層を有する分離膜3に、有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体4を供給して、水を分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエタノール等の有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体から、ゼオライト層を有する分離膜によって水を分離する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、トウモロコシ、サトウキビ等のバイオマス原料を利用して発酵生成させるエタノール製造プラントにおいて、エタノール精製工程で使用されるエタノール/水の膜分離装置、および含水有機溶液から水を除去して、組成濃度の高い有機溶液を回収する膜分離装置が開発されている。
【0003】
これらの膜分離装置では、エタノール等の有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体から水を分離するために、ゼオライト層を有する分離膜を用いており、該分離膜に、有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体を供給して、被処理流体から水分子を選択的に分離していた。
【0004】
しかし、従来の膜分離装置では、ゼオライト層を有する分離膜の性能である透過速度および分離係数がいずれも低いという問題があった。
【0005】
そこで、このような分離膜の性能向上を図るために、従来は、
ゼオライトの構成成分であるシリカ源(SiO)とアルミナ源(Al)のうち、親水性の高いアルミナ源を多く含むゼオライト種を用いることにより、ゼオライト層の水分子に対する親和性を高めて、分離膜の性能向上を図るようにしていた。
【0006】
このような従来のゼオライト層を有する分離膜に関わる特許文献には、下記のようなものがある。
【0007】
特許文献1には、高い分離選択性を維持し、かつより高い透過特性を実現することができるゼオライト層を有する分離膜が開示されており、分離膜のゼオライト層として、シリカ源(SiO)よりも高い親水性を有するアルミナ源(Al)の含有量が多い(すなわちシリカ/アルミナ・モル比が小さい)種類の、例えばA型ゼオライトなどを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−262189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のようなアルミナ源(Al)の含有量が多い(シリカ/アルミナ・モル比が小さい)種類の、例えばA型ゼオライトなどを用いると、該ゼオライト種は、骨格を構成するアルミナ源(Al)が、水への溶解性を示すために、長期の使用によって分離膜のゼオライト層に欠陥が生じ、耐久性を維持することが難しいという問題があった。またこのようなアルミナ源(Al)の含有量が多いゼオライト種よりなるゼオライト層を有する分離膜は、水含有量の高い領域(例えば水含有量が25重量%を超える領域)の被処理液に対しては、使用することができないという問題があった。
【0010】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、分離膜のゼオライト層を構成するゼオライト種が、アルミナ源(Al)の含有量の少ない(シリカ/アルミナ・モル比が大きい)ゼオライト種を用いた、いわば親水性の低いゼオライト層を有する分離膜であっても、分離膜の性能である透過速度および分離係数を向上することができ、しかも長期にわたって分離膜の膜性能を維持することができて、耐久性を確保できるうえに、従来では適用ができなかった水含有量の高い領域(例えば水含有量が25重量%を超える領域)の被処理液に対しても適用することができて、しかもゼオライト層を有する分離膜の性能である透過速度および分離係数を、非常に高い状態に維持することができる、分離膜による水の分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、セラミック製等の多孔質管(支持体)の表面にゼオライト層を形成して得られる分離膜において、エタノール等の有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体から、水分子を選択的に分離させる際に、前処理として予め水分子のみを単独で分離膜を透過させて、ゼオライト層に水を含浸させて膨潤させ、その後、水含浸ゼオライト層を有する分離膜に、有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体を供給することによって、ゼオライト層を有する分離膜の膜性能である透過速度、および分離係数を大幅に向上することができることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体から、ゼオライト層を有する分離膜によって水を分離する方法であって、有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体から水分子を選択的に分離させる際に、前処理として予め水分子のみを単独で、ゼオライト層を有する分離膜を透過させて、ゼオライト層に水を含浸させて膨潤させ、その後、水含浸ゼオライト層を有する分離膜に、有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体を供給して、水を分離することを特徴としている。
【0013】
本発明の方法において、予め水分子のみを単独でゼオライト層を有する分離膜を透過させる前処理を、ゼオライト層を有する分離膜の吸引透過側圧力が定常値に達するまで実施することが好ましい。
【0014】
その前処理の時間は、好ましくは20〜100分間、より好ましくは30〜90分間実施する。
【0015】
本発明の分離膜による水の分離方法において、被処理流体は、液体または気体である。被処理流体の処理温度は、特に規定はなく、被処理流体が液体または気体の状態を保持する温度であればよく、通常、10〜160℃である。
【0016】
従って、本発明による分離膜の前処理の温度は、被処理流体の処理温度と同様の温度で実施すればよく、通常、10〜160℃である。
【0017】
本発明の分離膜による水の分離方法において、被処理流体は、例えばエタノールと水との混合物、またはイソプロパノールと水との混合物よりなるものである。
【0018】
本発明の分離膜による水の分離方法において、ゼオライト層を有する分離膜は、多孔質管(支持体)表面にゼオライト層を形成したものであることが好ましい。
【0019】
また、本発明の分離膜による水の分離方法において、ゼオライト層は、シリカ/アルミナ・モル比2〜750、好ましくは3〜53を有するゼオライト種によって構成されたものであることが好ましい。
【0020】
本発明の分離膜による水の分離方法において、多孔質管はセラミック製であることが好ましく、特に、多孔質管は、高純度アルミナ製であることが好ましい。
【0021】
ここで、ゼオライト層を有する分離膜は、ゼオライト結晶粒子を種結晶としてセラミック製多孔質管の表面にゼオライト層を付着させ(1次成長)、これを水熱合成反応によって2次成長させることにより造られたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体から、ゼオライト層を有する分離膜によって水を分離する方法であって、有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体から水分子を選択的に分離させる際に、前処理として予め水分子のみを単独で、ゼオライト層を有する分離膜を透過させて、ゼオライト層に水を含浸させて膨潤させ、その後、水含浸ゼオライト層を有する分離膜に、有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体を供給して、水を分離するもので、本発明の方法によれば、分離膜のゼオライト層を構成するゼオライト種が、アルミナ源(Al)の含有量の少ない(シリカ/アルミナ・モル比が大きい)ゼオライト種を用いた、いわば親水性の低いゼオライト層を有する分離膜であっても、分離膜の性能である透過速度および分離係数を向上することができ、しかも長期にわたって分離膜の膜性能を維持することができて、耐久性を確保できるうえに、従来では適用ができなかった水含有量の高い領域(例えば水含有量が25重量%を超える領域)の被処理液に対しても適用することができて、しかもゼオライト層を有する分離膜の性能である透過速度および分離係数を、非常に高い状態に維持することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の分離膜による水の分離方法を実施する浸透気化試験(PV試験)装置のフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
つぎに、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
本発明は、例えばエタノールと水との混合物、またはイソプロパノールと水との混合物よりなる被処理流体から、ゼオライト層を有する分離膜によって水を分離する方法である。
【0026】
本発明の方法は、これらの有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体から水分子を選択的に分離させる際に、前処理として予め水分子のみを単独で、ゼオライト層を有する分離膜を透過させて、ゼオライト層に水を含浸させて膨潤させ、その後、水含浸ゼオライト層を有する分離膜に、有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体を供給して、水を分離することを特徴とするものである。
【0027】
本発明の方法によれば、前処理として予め水分子のみを単独で、ゼオライト層を有する分離膜を透過させることにより、分離膜を構成するゼオライト層のゼオライト結晶の表面および内部にまで水分子を優先的に保持させる状態を作り出すことができ、その後、有機化合物と水の混合物よりなる被処理流体を供給したときに起こる有機化合物と水分子の競争的なゼオライトへの吸着作用において、前処理操作によって予め水分子が吸着サイトに存在して有機化合物のゼオライト結晶に対する吸着をブロックする。その結果、有機化合物はゼオライト層を透過することは難しくなって、膜性能のうち分離係数は向上する。また、予めゼオライト結晶の表面および内部に存在する水分子は、有機化合物と水の混合物よりなる被処理流体中の水分子に対してゼオライト層内の導く作用を示すものと考えられ、これによって膜性能のうち透過速度は向上する。
【0028】
従って、本発明の方法によれば、分離膜のゼオライト層を構成するゼオライト種が、アルミナ源(Al)の含有量の少ない(シリカ/アルミナ・モル比が大きい)ゼオライト種を用いた、いわば親水性の低いゼオライト層を有する分離膜であっても、分離膜の性能である透過速度および分離係数を向上することができ、しかも長期にわたって分離膜の膜性能を維持することができて、耐久性を確保できるうえに、従来では適用ができなかった水含有量の高い領域(例えば水含有量が25重量%を超える領域)の被処理液に対しても適用することができて、しかもゼオライト層を有する分離膜の性能である透過速度および分離係数を、非常に高い状態に維持することができるものである。
【0029】
本発明の分離膜による水の分離方法において、多孔質管としては、シリカ(SiO )/アルミナ(Al)・モル比2〜750を有するセラミック種の微粒子を、混合・焼成して成型したセラミック製多孔質管や、ステンレス鋼(Fe)に代表される金属を成型してなる金属製多孔質管を用いる。特に、多孔質管としては、セラミック製であることが好ましく、さらに多孔質管は、高純度アルミナ製であることが好ましい。
【0030】
そして、本発明の分離膜による水の分離方法において、ゼオライト層を有する分離膜は、上記多孔質管(支持体)表面にゼオライト層を形成したものであることが好ましい。
【0031】
上記したように、本発明の分離膜による水の分離方法において、ゼオライト層は、シリカ/アルミナ・モル比2〜750、好ましくは3〜53を有するゼオライト種によって構成されるものであることが好ましい。
【0032】
ここで、シリカ/アルミナ・モル比が2未満であれば、ゼオライト層を構成するアルミナ(Al)の含有量が多くなるために、水分子のみを透過する前処理によってゼオライト層の構造を弱体化することになり、耐久性が減少する可能性があるので、好ましくない。また、シリカ/アルミナ・モル比が750を超えると、ゼオライト層そのものがアルミナ(Al)の含有量が極めて少なくなるために、親水性をほとんど有することができなくなり、前処理による効果を得るのが難しくなってくるので、好ましくない。
【0033】
ゼオライト種としては、具体的には、MFI、MOR、FAU、およびY型などが挙げられる。
【0034】
ここで、ゼオライト種としてのMFIは、例えばZSM−5(商品名ゼオラム、東ソー株式会社製)や、Silicate−1に代表される構造として10員環を持ったゼオライト種であり、そのシリカ/アルミナ・モル比は、概ね10〜750である。またMORは、12員環の構造を持ったゼオライト種であり、そのシリカ/アルミナ・モル比は、概ね3〜120である。FAUのゼオライト種のシリカ/アルミナ・モル比は、概ね3〜200である。Y型のゼオライト種のシリカ/アルミナ・モル比は、概ね2〜200である。
【0035】
本発明の分離膜による水の分離方法によれば、これらのアルミナ源(Al)の含有量が少ない(すなわちシリカ/アルミナ・モル比が大きい)ゼオライト種よりなるゼオライト層を有する分離膜に対して、上記の前処理を行なうことにより、分離膜の膜性能である透過速度、分離係数の向上を図ることが可能となる。
【0036】
ここで、ゼオライト層を有する分離膜は、ゼオライト結晶粒子を種結晶としてセラミック製多孔質管の表面にゼオライト層を付着させ(1次成長)、これを水熱合成反応によって2次成長させることにより造られたものであることが好ましい。
【0037】
本発明の方法において、予め水分子のみを単独でゼオライト層を有する分離膜を透過させる前処理を、ゼオライト層を有する分離膜の吸引透過側圧力が定常値に達して安定する(ゼオライト層に対して水分子がいわゆる飽和する)まで実施することが好ましい。
【0038】
その前処理の時間は、好ましくは20〜100分間、より好ましくは30〜90分間実施する。
【0039】
ここで、前処理の時間が20分間未満であれば、ゼオライト層に充分な水分子を蓄積することができないので、好ましくない。また、前処理の時間が100分間を超えると、ゼオライト層を構成するアルミナ(Al)に対して水分子が作用し、ゼオライト層の構造を弱体化するので、好ましくない。
【0040】
本発明の分離膜による水の分離方法において、被処理流体は、液体または気体である。被処理流体の処理温度は、特に規定はなく、被処理流体が液体または気体の状態を保持する温度であればよく、通常、10〜160℃である。
【0041】
例えばエタノール製造プラントにおいて、エタノール精製工程で使用されるエタノール/水の膜分離装置での処理温度は、60〜140℃であり、また例えば含水有機溶液から水を除去して、組成濃度の高い有機溶液を回収する膜分離装置での処理温度は、40〜160℃である。
【0042】
本発明の分離膜による水の分離方法において、被処理流体は、例えばエタノールと水との混合物、またはイソプロパノールと水との混合物よりなるものである。
【実施例】
【0043】
つぎに、図面を参照して、本発明の実施例を比較例と共に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1
本発明の分離膜による水の分離方法により、イソプロパノールと水との混合物よりなる被処理溶液から、ゼオライト層を有する分離膜によって水を分離した。
【0045】
ゼオライト層を有する分離膜の作製
まず、外径16mm、内径12mm、および長さ60mmの高純度アルミナ製多孔質管(日立造船株式会社製)の表面に、出発物質であるZSM−5型ゼオライト結晶粒子(商品名ゼオラム、東ソー株式会社製、ゼオライト種はMFIタイプ、シリカ/アルミナ・モル比16)の懸濁液(0.1重量%)を塗布した。塗布後、30分間、室温で放置し、さらに、温度37℃で1晩乾燥して、いわゆる1次成長のゼオライト結晶粒子が担持した多孔質管を得た。
【0046】
つぎに、このゼオライト担持/多孔質管を、下記のモル組成を有する反応ゲル液に浸漬した。
【0047】
NaO:SiO:Al:HO=10:36:0.15:960
反応ゲル液の温度180℃で、15時間水熱合成を行なってゼオライト結晶粒子を2次成長させ、シリカ/アルミナ・モル比が16であるゼオライト層を有する多孔質管よりなる分離膜を作製した。この2次成長ゼオライト層を有する多孔質管よりなる分離膜を、純水で洗浄した後、室温で1昼夜乾燥させた。
【0048】
つぎに、図1に示すイソプロパノール/水の浸透気化試験(PV試験)装置を用いて、本発明の分離膜による水の分離方法を実施した。
【0049】
同図において、(1)は膜分離装置で、イソプロパノールと水との混合物よりなる被処理溶液(4)を収容した溶液槽(2)内に、ゼオライト層を有する分離膜(3)が配置されている。
【0050】
ここで、上記のようにして製造したゼオライト層を有する分離膜(3)は、長さ60mm、膜有効面積10.1cmを有するものであった。
【0051】
また、イソプロパノールと水との混合比は、イソプロパノール/水=90重量%/10重量%であり、溶液槽(2)は恒温槽(5)内にあって、イソプロパノールと水との混合溶液は75℃の温度に保持されている。
【0052】
ゼオライト層を有する分離膜(3)は、吸引管(6)を通じて真空ポンプ(7)によって真空吸引されている。吸引管(6)と真空ポンプ(7)との間には、液体窒素(L−N)トラップ(8)と、真空トラップ(9)とが介在させられている。また、イソプロパノールと水との混合物よりなる被処理溶液(4)を収容した溶液槽(2)内は、マグネティック・スターラー(10)によって均一に攪拌されている。ゼオライト層を有する分離膜(3)内に通じる吸引管(6)の途上には、真空計(11)が具備されていて、分離膜(3)内の透過側圧力(真空度)が常時、計測されるようになされている。
【0053】
そして、本発明の方法により、イソプロパノールと水との混合物よりなる被処理溶液(4)から水分子を選択的に分離させる際に、前処理として、予め水分子のみを単独で、ゼオライト層を有する分離膜(3)を透過させて、ゼオライト層に水を含浸させて膨潤させた。ここで、前処理は、上記のPV試験装置を用いて水:100重量%(75℃)にて透過させることにより行ない、前処理を施す時間を30分として、ゼオライト層を有する分離膜(3)の吸引透過側圧力(真空度)が定常値(230Pa)に達するまで実施した。
【0054】
その後、該PV試験装置の水含浸ゼオライト層を有する分離膜(3)に、イソプロパノールと水との混合物よりなる被処理溶液(4)を供給して、水の分離を行なう本処理を実施した。この本処理は、30分×3回実施した。
【0055】
こうして、ゼオライト層を有する分離膜(3)の膜性能の評価を、液体窒素(L−N)トラップ(8)において捕集した透過液について、この透過液の重量と、ガスクロマトグラフによる水およびイソプロパノールの濃度より、透過速度、および分離係数を求め、得られた結果を下記の表1に示した。
【0056】
比較例1
つぎに、比較のために、本発明の方法による前処理を行なうことなく、上記PV試験装置の水含浸ゼオライト層を有する分離膜(3)に、イソプロパノールと水との混合物よりなる被処理溶液(4)を直接供給して、従来法により、水の分離を行なう処理を実施した。
【0057】
そして、従来法によるゼオライト層を有する分離膜(3)の膜性能の評価を、上記実施例1の場合と同様に行ない、得られた結果を下記の表1にあわせて示した。
【表1】

【0058】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1の方法によれば、イソプロパノールと水との混合物よりなる被処理溶液(4)から水分子を選択的に分離させる際に、前処理として予め水分子のみを単独で、ゼオライト層を有する分離膜(3)を透過させた後、イソプロパノールと水との混合物よりなる被処理溶液(4)を供給して分離することにより、ゼオライト層を有する分離膜(3)の性能である透過速度および分離係数が、比較例1の結果に比べて、いずれも大幅に向上することが確認できた。
【0059】
そして、上記の結果から明らかなように、本発明の方法によれば、分離膜(3)のゼオライト層を構成するゼオライト種が、アルミナ源(Al)の含有量の少ない(シリカ/アルミナ・モル比が大きい)ゼオライト種を用いた、いわば親水性の低いゼオライト層を有する分離膜(3)であっても、分離膜の性能である透過速度および分離係数を向上することができ、しかも長期にわたって分離膜の膜性能を維持することができて、耐久性を確保できるうえに、従来では適用ができなかった水含有量の高い領域(例えば水含有量が25重量%を超える領域)の被処理液に対しても適用することができて、しかもゼオライト層を有する分離膜の性能である透過速度および分離係数を、非常に高い状態に維持することができるものである。
【符号の説明】
【0060】
1:膜分離装置
2:溶液槽
3:ゼオライト層を有する分離膜
4:イソプロパノールと水との混合物よりなる被処理溶液(被処理流体)
5:恒温槽
6:吸引管
7:真空ポンプ
8:液体窒素(L−N)トラップ
9:真空トラップ
10:マグネティック・スターラー
11:真空計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体から、ゼオライト層を有する分離膜によって水を分離する方法であって、有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体から水分子を選択的に分離させる際に、前処理として予め水分子のみを単独で、ゼオライト層を有する分離膜を透過させて、ゼオライト層に水を含浸させて膨潤させ、その後、水含浸ゼオライト層を有する分離膜に、有機化合物と水との混合物よりなる被処理流体を供給して、水を分離することを特徴とする、分離膜による水の分離方法。
【請求項2】
予め水分子のみを単独でゼオライト層を有する分離膜を透過させる前処理を、ゼオライト層を有する分離膜の吸引透過側圧力が定常値に達するまで実施することを特徴とする、請求項1に記載の分離膜による水の分離方法。
【請求項3】
予め水分子のみを単独でゼオライト層を有する分離膜を透過させる前処理を、20〜100分間実施することを特徴とする、請求項1または2に記載の分離膜による水の分離方法。
【請求項4】
被処理流体が、液体または気体であることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の分離膜による水の分離方法。
【請求項5】
被処理流体が、エタノールと水との混合物、またはイソプロパノールと水との混合物よりなるものであることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の分離膜による水の分離方法。
【請求項6】
ゼオライト層を有する分離膜が、多孔質管(支持体)表面にゼオライト層を形成したものであることを特徴とする、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の分離膜による水の分離方法。
【請求項7】
ゼオライト層が、シリカ/アルミナ・モル比:2〜750を有するゼオライト種によって構成されたものであることを特徴とする、請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の分離膜による水の分離方法。
【請求項8】
多孔質管が、セラミック製であることを特徴とする、請求項6または7に記載の分離膜による水の分離方法。
【請求項9】
ゼオライト層を有する分離膜が、ゼオライト結晶粒子を種結晶としてセラミック製多孔質管の表面にゼオライト層を付着させ(1次成長)、これを水熱合成反応によって2次成長させることにより造られたものであることを特徴とする、請求項6〜8のうちのいずれか一項に記載の分離膜による水の分離方法。
【請求項10】
多孔質管が、高純度アルミナ製であることを特徴とする、請求項6〜9のうちのいずれか一項に記載の分離膜による水の分離方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−83750(P2011−83750A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240685(P2009−240685)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・部材イノベーションプログラム/グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発(うち、研究開発項目3−2規則性ナノ多孔体精密分離膜部材基盤技術の開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】