説明

切り替え可能な反応器を含む、200重量ppm〜2重量%のアスファルテンを含有する原料の水素化分解方法

【課題】重質炭化水素フラクションである原料、とりわけ硫黄含有不純物、窒素含有不純物および金属不純物を含むものの精製および転化方法を提供する。
【解決手段】200重量ppm〜2重量%のアスファルテンおよび/または10重量ppm超の金属を有する炭化水素原料を、少なくとも2つの切り替え可能な反応帯域M1,M2であって、水素化脱金属触媒および場合による水素化脱窒触媒を含む反応帯域において水素化脱金属処理し、次いで、有機窒素含有量を低下させる水素化精製処理、その後の固定床水素化分解処理および蒸留工程を経て軽油留分を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重質炭化水素フラクションである原料、とりわけ硫黄含有不純物、窒素含有不純物および金属不純物を含むものの精製および転化に関する。有利には、これらは、単独または混合された原料としての、減圧留出液および脱アスファルト油である。液体原料は、少なくとも200重量ppmかつ多くとも2重量%のアスファルテンおよび/または10重量ppm超の金属(一般的には、ニッケルおよびバナジウム)を含有する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、少なくとも20容積%および多くの場合少なくとも80容積%の沸点340℃超の化合物を含有する典型的な原料の水素化分解法が記載されている。好ましくは、これらの典型的な原料は340℃超の、更には370℃超の沸点T5を有する。すなわち、原料中に存在する95%の化合物は、340℃超の、更には370℃超の沸点を有する。従来の方法で処理される炭化水素原料の窒素含有量は一般に、500重量ppm超である。一般に、硫黄含有量は0.01〜5重量%であり、金属含有量は5重量ppm未満である。アスファルテン含有量は200重量ppm未満である。原料の純度の制約が、約3年という経済的に有利な運転期間を着実に実行することができるように、用いられる触媒床の安定性によって課される。
【0003】
処理原料は、例えば、減圧留出液、脱アスファルト油、芳香族化合物抽出装置由来の原料、ベースオイル等である。
【0004】
したがって、現在、このタイプの原料は固定床法で処理されている。これら固定床法では、原料は1以上の反応器内の直列に配置された複数の触媒床を通過し、第1触媒床(単数または複数)は保護層(guard bed)として機能し、その中の上方で、原料の水素化脱金属(hydrodemetallation:HDM)の全部および水素化精製の一部を行うために用いられ、次の触媒床(単数または複数)は、原料の深度水素化精製(deep hydrorefining:HDR)、特に、水素化脱窒(hydrodenitrofication:HDN)および水素化脱硫(hydrodesulphurisation:HDS)を行うために用いられ、その後に、最後の触媒床(単数または複数)において原料を水素化分解が行われる。次いで、最終触媒床の後で導出された流出物が分画されて種々の石油留分が精留される。
【0005】
したがって、上記方法は水素化分解区間(ゼオライト触媒、無定形触媒または混合触媒を用いる)の上流で、低酸性度無定形触媒による水素化精製区画を使用することに存する。
【0006】
最良の触媒系を用いているにもかかわらず、200重量ppm超のアスファルテンおよび/または10重量ppm超の金属を含有する原料を用いるときには、運転期間を著しく短縮するという可能性が注目されている。実際、触媒には急速に金属が詰まるので、失活する。これによって脱金属化および脱アスファルテン化の性能レベルが低下し、その結果、水素化精製触媒および水素化分解触媒の失活が加速することになる。この失活を補償するために、昇温され得るが、これはコークス形成および原料の損失の増大を促進させる。このことは、失活または目詰まりした触媒床を交換するために水素化分解装置を少なくとも6〜10カ月毎に停止させなければならないことを意味する。すなわち、この作業は1月を超えて続くことがあり、これにより、それに応じて装置の操作要因(operating factor)が低減することになる。
【0007】
一般に、アスファルテン含有量が200重量ppm超である原料、例えば、熱的および/または水素化転化法、例えば、固定床(例えばHyvahl)、沸騰床(例えばH−Oil)またはスラリー態様(例えばHDH+)における残渣の水素化転化方法を起源とする重質脱アスファルト油および減圧留出液の処理には、一貫性のある予備処理が必要となる。
【0008】
従来技術によれば、このタイプの原料処理では、毎時容積速度(hourly volume rate:HVR)の、または一般的には方法の操作条件、例えば、温度および水素分圧レベル)の独立的および/または累積的(cumulative)な改変を行うことになる。産業方法の同じ運転期間を着実に実行するために、これらの方法の操作条件および/または設計の改変は経費と作業コストに大きな影響を与えることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】仏国特許発明第2840621号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、そういった操作条件の変更を行わず、他方では同時に、水素化分解のための典型的な原料処理に相当する水素化分解方法の運転期間を着実に実行することを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
留出液から残渣に至る種々の原料の処理に関するEP 1,343,857では、金属含有量は一般に1〜1,500重量ppmであり、残渣の場合にはアスファルテン含有量が2重量%を超えることもある。その処理は水素化脱金属(HDM)、と、その次の水素化脱硫(HDS)に存し、少なくとも2つのHDM型で再生可能な触媒装填保護帯域の次にHDMゾーン(単数または複数)がある。保護帯域の触媒の現場(in-situ)再生の後、該保護帯域は最初と同じ様式(本明細書において「単純(simple)」と呼ばれる態様)または異なる順序(本明細書において「交換型(exchanged)」と呼ばれる態様)で再連結される。
【0012】
本発明によって、従来の規格よりも著しく高い内容物を含む原料の直接処理が可能となる;これらの原料は、従来の運転期間を保持しつつ、単独でまたは混合物中で処理され得る。
【0013】
本発明によって処理され得る原料は、通常、少なくとも200重量ppmかつ多くとも2重量%のアスファルテンおよび/または10重量ppm超の金属(ニッケルおよびバナジウム)を含有する。
【0014】
これら原料の接触水素化分解の目的は、精製すること、すなわち、それらの金属、硫黄、窒素および他の不純物の含有量を低減させつつ、同時に、水素対炭素(H/C)比を改善し、他方で、同時に、それらを多かれ少なかれ部分的により軽質の留分に転換することであり、こうして得られた種々の流出物は、高品質ガソリン、軽油(gas oil)および燃料油を製造するための基油(base)として、または他の精製装置用、例えば、減圧留出液の接触分解または残渣の接触分解の原料として機能し得る。
【0015】
アスファルテン含有量が高いこれらの原料の接触水素化分解によって起こる問題は複雑である;一方では、これらの原料に含まれる窒素含有化合物が実際の水素化処理触媒(通常、ゼオライト触媒、無定形触媒または混合型触媒)の触媒活性を著しく阻害する;他方では、これらの原料に含まれるアスファルテンおよび金属が、コークスおよび金属硫化物の形態で触媒上に次第に付着し、触媒系を急速に失活させ、目詰まりさせる;このことは触媒の交換のために系が停止させられなければならないことを意味する。さらに、これらの生成物は水素化脱窒(HDN)反応を阻害する。
【0016】
したがって、このタイプの原料の接触水素化分解法は、装置を停止させることなくできるだけ長い操作運転を可能にするように設計されなければならず、その目的は3年の操作運転を達成することである。
【0017】
本発明の方法は、水素化精製および水素化分解の性能レベルが高いままで運転期間を著しく延ばしながら、同時に生成物の安定性を保持することを可能にすることが明らかとなった。
【0018】
本発明の方法は、固定床接触分解触媒により操作する。重質炭化水素原料であって、少なくとも200重量ppmかつ多くとも2重量%のアスファルテンおよび/または10重量ppm超の金属(一般的に、ニッケルおよびバナジウム)を含有するものが、水素化脱金属区間において、次いで深度水素化精製区間において、その後、実際の水素化分解区間において処理される。
【0019】
より具体的には、本発明は、200重量ppm〜2重量%のアスファルテンおよび/または10重量ppm超の金属を含有する炭化水素原料の水素化分解方法であって、
− 前記原料は、50〜300バールの全圧および200〜2,000Nm/mの水素/炭化水素比で、300℃および450℃の水素化脱金属処理に供され、前記処理は、少なくとも2つの切り替え可能な反応帯域(switchable reaction zone)において行われ、それぞれは、少なくとも1種の水素化脱金属触媒を含み、場合によっては水素化脱窒触媒を含み、
− 次いで、少なくとも一部は脱金属化され且つ場合によっては一部が脱窒化された流出物の少なくとも一部が、少なくとも1種の水素化処理触媒を含む水素化精製区間において水素化精製されて、有機窒素含有量が20重量ppm未満に低減させられ、該水素化精製は、300℃および450℃の温度、50〜300バールの全圧下、200〜2,000Nm/mの水素/炭化水素比で行われ、
− 次いで、少なくとも一部が脱窒化された流出物の少なくとも一部が、少なくとも1種の固定床水素化分解触媒を含む水素化分解区間において、300℃および450℃、50〜300バールの全圧下、300〜3,000Nm/mの水素/炭化水素比で水素化分解され、
− 次いで、水素化分解された流出物の少なくとも一部が常圧蒸留によって蒸留されて、少なくとも1種の軽油留分、ナフサ留分および常圧残渣が得られ、前記残渣は、場合によっては、少なくとも一部が減圧下に蒸留されて、少なくとも1種の減圧留出液および減圧残渣が得られる、
方法に関する。
【0020】
有利には、各タイプの反応に適した運転条件下に、(各区間における)各タイプの反応に適合した特定の触媒が使用される。
【0021】
(原料)
本発明に従って処理され得るHDM区間に入る原料は通常、少なくとも200重量ppm(多くの場合、少なくとも300重量ppm、または更には少なくとも500重量ppm、またはそれ以外には少なくとも1,000重量ppm)かつ多くとも2重量%(多くの場合、多くとも1重量%)のアスファルテンおよび/または10重量ppm超の金属(一般的に、10重量ppm超のNi+V)を含有する。
【0022】
これらは、硫黄含有不純物、窒素含有不純物、酸素含有不純物および金属(最も多くの場合、ニッケルおよびバナジウム)不純物をとりわけ含有する炭化水素フラクションである。本発明の方法は、(単独または混合物中の)脱アスファルト油および減圧留出液に特に良く適しているが、上記のアスファルテンおよび金属の基準に相当する他の原料も適している。これらの他の原料は、例えば、原料の混合物であってもよい。このため、原料(最も多くの場合、減圧留出液(vacuum distillate:VGO)および/または脱アスファルト油(deasphalted oil:DAO))が、転化装置から得られた流出物と混合され得る。
【0023】
より特定的には、混合物が上記のアスファルテンおよび金属の基準に相当する場合には、これらの外部原料(例えば熱分解装置、接触分解装置、コークス化装置および/または石炭液化装置のような他の装置を起源とする)が、新鮮な原料に加えられ、本発明による方法において処理され得るが、ただし、混合物は、前述のアスファルテンおよび/または金属基準に対応する。
【0024】
(水素化脱金属(HDM)区間)
水素化脱金属区間は、アスファルテンおよび金属の含有量に関して上に定義されたような処理されるべき原料を受け取る。
【0025】
水素化脱金属を行うために、理想的な水素化脱金属触媒は、原料のアスファルテンを処理することができる一方で、高い金属保持能力および高い対コークス化耐性を伴う高い脱金属化力を有することができなければならない。通常使用される触媒は、無定形担体(最も多くの場合、アルミナ)に担持させられた第VIII族および第VIB族の金属を含み、処理されるべき原料の不純物(アスファルテン、金属等)の程度に応じて多少左右されるマクロ孔容積を有する。本出願人は、このタイプの触媒を例えば特許EP-B-98764、EP-B-113297およびEP-B-113284に記載されているような特定のマクロ孔担体上に開発した。これらの特許は、これらの転化を行うために求められている量を本出願人に正確に示す:
− 脱金属率:少なくとも10%から最大95%
− マクロ孔容積(25nm超の径を有する細孔):全細孔容積の5%超
− 金属保持容量:新触媒の重量に対して通常10%超、より長い操作運転が得られる、
−390℃超の温度であっても高いコークス化耐性;これによって、原料の損失の増大およびコークスの生成に起因する活性の損失によって多くの場合制限される運転期間を長くすることができる。
【0026】
HDM区間のために効果的な触媒は、当業者に知られた供給者から購入され得、とりわけおよび原料の特徴に応じて、例えばAXENS社によって販売されている触媒HMC841、HMC845、HMC945、HMC868、HF858、HM848である。
【0027】
特に有利な様式では、水素化脱金属区間は一連の2種以上のHDM触媒を含み、触媒の平均径は原料の流れ方向に小さくなる。すなわち、最大の平均径を有する触媒が原料を受け取り、原料は平均径が次第に小さくなる触媒中を通過する。
【0028】
有利には、HDM区間の種々の触媒はまた、マトリクスを改変することによって(とりわけ、使用される担体、多孔度、比表面積等を変えることによって)および/または触媒調合を改変することによって(とりわけ、活性金属、活性金属含有量、ドーパント種、ドーパント含有量等を変えることによって)、異なる活性を有する。
【0029】
有利には、HDM区間は一連の2種以上の水素化脱金属触媒により操作し、その触媒の活性は原料の流れ方向に増大する。すなわち、最小活性の触媒が原料を受け取り、原料は活性が次第に大きくなる触媒中を通過する。
【0030】
有利には、脱窒を改善するために、水素化脱金属区間の切り替え可能な反応帯域の各々は、水素化脱金属触媒および水素化脱窒触媒を含む。
【0031】
非常に有利には、本発明は、HDMおよびHDR反応帯域のために特別な触媒系(本明細書では「グレーディング(grading)」と呼ばれる)を用いることを提案する。該触媒系は深度水素化精製区間と併せてさらに詳細に記載されることになる。
【0032】
HDM区間は複数の反応帯域に分割され得る。用語「反応帯域」は、1以上の反応器または単一の反応器内に位置決めされた1以上の触媒床を指す。用語「切り替え可能な反応帯域(switchable reaction zone)」は、少なくとも2つの切り替え可能な反応器を指す。本明細書において、切り替え不可能かつバイパス可能な帯域(non-switchable by-passable zone)は「バイパス可能な反応帯域(by-passable reaction zone)」と呼ばれることになる。
【0033】
本発明の方法では、HDM区間は少なくとも2つの切り替え可能な反応帯域を含み、場合によっては、その後に1以上の仕上げ用HDM反応帯域が続く。
【0034】
有利には、HDM区間は、水素化脱金属および一部の水素化脱窒の両方を行う少なくとも1つの触媒床を含む少なくとも2つの切り替え可能な反応帯域から構成される。
【0035】
本発明によれば、原料は、少なくとも2つの水素化脱金属の切り替え可能な反応帯域において処理され、該反応帯域の各々は、少なくとも1つの水素化脱金属触媒を含み、場合によっては脱窒触媒を含み、以下に規定される工程b)およびc)を連続的に反復することに存する循環的様式で用いられるように直列に配置される:
a)反応帯域の1つを失活および/または目詰まりさせる時間に最大でも等しい期間にわたって、反応帯域が全部一緒に用いられる工程、
b)切り替え可能な反応帯域の少なくとも1つがバイパスされ、該切り替え可能な反応帯域が含む触媒が再生され、かつ/または新触媒または再生済み触媒と交換される工程、
c)反応帯域が全部一緒に用いられ、反応帯域(その触媒は、先行する工程の過程にわたって再生され、かつ/または交換される)は、それらの最初の位置(「単純」態様として知られた位置)または切り替え可能な反応帯域の中の別の位置(「交換」態様として知られた位置)のいずれかに再連結され、前記工程は、反応ゾーンの1つを失活および/または目詰まりさせる時間に最大でも等しい期間にわたって実行される工程。
【0036】
好ましくは、HDM区間は反応帯域により交換態様で機能し、反応帯域(その触媒は、交換されまたは再生される)は、HDM区間の一連の切り替え可能な反応帯域において(原料の流れの方向において)最後の位置であるように再連結される。この有利な提供によって、装置の稼動係数および方法の運転期間を改善することが可能となる。
【0037】
別の実施形態によれば、HDM区間は少なくとも2つの並列の反応帯域を含み、そのうちの一部が作動中(operative)である間、他の一部は、触媒再生または交換を経る;この方法は通常、反応帯域の一部のみに亘って作動する。
【0038】
有利な実施形態によれば、場合によっては、先行の実施形態と組み合わせられて、切り替え可能な反応帯域および/または仕上げ用HDM反応帯域の各々は、少なくとも1種の水素化脱窒触媒も含む。該水素化脱窒触媒は、深度水素化精製区間の触媒と同じであってもよいし、異なっていてもよい。水素化脱窒触媒は、以降において、深度水素化精製区間において記載される
HDMを行うための操作条件は、一般的に、300〜450℃、好ましくは360〜420℃の温度、50〜300バール、好ましくは80〜180バールの全圧、200〜2,000Nm/m、好ましくは500〜1,500Nm/mの水素対炭化水素比である。種々のHDM反応帯域の操作条件は互いに異なっていてもよい。
【0039】
(水素化精製(HDR)区間)
HDM区間から得られた流出物の少なくとも一部(一般的には全部)はHDR区間に送られる。通常、その流出物は気相を分離することなく直ちに送られるが、分離(例えばフラッシュ分離)は非常に可能性がある。
【0040】
HDR区間は、少なくとも1種の水素化精製触媒(好ましくは、水素化脱窒に高い活性を有する)を含む少なくとも1つの反応帯域を含む。
【0041】
HDM区間と同様、複数の反応帯域を設けることが可能である。次いで、1以上の反応帯域は、該反応帯域が含む触媒(単数または複数)を交換または再生するために切り離され、上記の手順を用いて単純態様または交換態様で再連結され得る。
【0042】
水素化精製(主にHDSおよびHDN)を促進するために、触媒は高い水素化力を有して生成物を深度(deeply)精製することができなければならない:脱窒化、脱硫化、場合によっては脱金属化を行い、且つアスファルテン含有量を低減させる。水素化精製触媒は、当技術分野で一般に使用される触媒から選択され得る。水素化精製触媒は、好ましくは、マトリクスと、周期律表の第VIB族および第VIII族の元素によって形成される群から選択される少なくとも1種の水素化脱水素化元素とを含み得る。
【0043】
マトリクスは、単独でまたは混合物中で用いられる、アルミナ、ハロゲン化アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、粘土(例えば、カオリンまたはベントナイトのような天然の粘土から選択される)、マグネシア、酸化チタン、酸化ホウ素、ジルコニア、リン酸アルミニウム、リン酸チタン、リン酸ジルコニウム、石炭、アルミン酸塩のような化合物から構成することができる。当業者には知られたこれらすべての形態の中で、好ましくは、アルミナを含むマトリクスが使用されるが、より一層好ましいのはアルミナ、例えばガンマアルミナである。
【0044】
水素化−脱水素化元素は、周期表の第VIB族および第VIII族非貴金属元素によって形成される群から選択され得る。好ましくは、水素化−脱水素化元素は、モリブデン、タングステン、ニッケルおよびコバルトによって形成される群から選択される。より好ましくは、水素化−脱水素化元素は、少なくとも1種の第VIB族元素と少なくとも1種の第VIII族非貴金属元素とを含む。この水素化−脱水素化元素は、例えば、少なくとも1種の第VIII族元素(Ni、Co)と少なくとも1種の第VIB族元素(Mo、W)との組み合わせを含むことができる。
【0045】
好ましくは、水素化精製触媒は、前記触媒上に担持させられ且つリン、ホウ素およびケイ素によって形成される群から選択される少なくとも1種のドーピング元素を更に含む。特に、水素化精製触媒はドーピング元素として、ホウ素および/またはケイ素(場合によってはリンも)を含み得る。ホウ素、ケイ素、リンの含有量は、通常0.1〜20重量%、好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは0.1〜10重量%である。
【0046】
水素化精製触媒は有利にはリンを含み得る。この化合物は、とりわけ2つの主な利点を水素化精製触媒に付与する。第1の利点は、前記触媒を調製することが、特に水素化−脱水素化元素の含浸中に、例えばニッケルおよびモリブデンをベースとした溶液から、より容易であるという事実である。この化合物によって得られる第2の利点は、触媒の水素化活性の増大である。
【0047】
水素化精製触媒は、少なくとも1種の第VIIA族元素(塩素、フッ素が好ましい)および/または少なくとも1種の第VIIB族元素(マンガンが好ましい)、場合によっては少なくとも1種の第VB族元素(ニオブが好ましい)を更に含み得る。
【0048】
好適な水素化精製触媒では、第VIB族および第VIII族金属酸化物の総濃度は、2重量%(好ましくは5重量%)〜40重量%、好ましくは3重量%(好ましくは7重量%)〜30重量%であり、第VIB族金属(単数または複数)と第VIII族金属(単数または複数)との間の金属酸化物で表される重量比は、20〜1.25、好ましくは10〜2である。酸化リンP濃度は、15重量%未満、好ましくは10重量%未満であり得る。好ましい担体は、(単独で用いられるか、ゼオライトと混合した)5〜95%SiOを含有するアルミナまたはシリカ−アルミナである。
【0049】
ホウ素および/またはケイ素、好ましくはホウ素およびケイ素を含む別の水素化精製触媒では、前記触媒は通常、前記触媒の全質量に対する重量%として、
− 少なくとも1つのマトリクス:1〜99%、好ましくは10〜98%、より好ましくは15〜95%、
− 少なくとも1種の第VIB族金属:3〜60%、好ましくは3〜45%、より好ましくは3〜30%、
− 場合による、少なくとも1種の第VIII族金属:0〜30%、好ましくは0〜25%、より好ましくは0〜20%
− ホウ素:0.1〜20%、好ましくは0.1〜15%、より好ましくは0.1〜10%および/またはケイ素:0.1〜20%、好ましくは0.1〜15%、より好ましくは0.1〜10%、
− 場合による、リン:0〜20%、好ましくは0.1〜15%、より好ましくは0.1〜10%、および
− 場合による、第VIIA族から選択される少なくとも1種の元素、例えば、フッ素:0〜20%、好ましくは0.1〜15%、より好ましくは0.1〜10%
を含む。
【0050】
別の水素化精製触媒では、前記触媒は:
− 少なくとも1種のマトリクス、好ましくはアルミナ:1〜95重量%(酸化物%)、
− 少なくとも1種の第VIB族元素および第VIII族非金属元素:5〜40重量%(酸化物%)、
− リン、ホウ素、ケイ素から選択される少なくとも1種のプロモーター元素:0〜20重量%(酸化物%)、好ましくは0.1〜20重量%、
− 少なくとも1種の第VIIB族元素(例えば、マンガン):0〜20重量%(酸化物%)、
− 少なくとも1種の第VIIA族元素(例えば、フッ素、塩素):0〜20重量%(酸化物%)、および
− 少なくとも1種の第VB族元素(例えば、ニオブ):0〜60重量%(酸化物%)
を含む。
【0051】
通常、以下の原子比率を有する水素化精製触媒が好ましい:
− 第VIII族金属/第VIB族金属の原子比:0〜1;
− Bが存在する場合のB/第VIB族金属の原子比:0.01〜3;
− Siが存在する場合のSi/第VIB族金属の原子比:0.01〜1.5;
− Pが存在する場合のP/第VIB族金属の原子比:0.01〜1;および
− 第VIIA族元素/第VIB族金属の原子比:0.01〜2。
【0052】
特に好ましい水素化精製触媒は、NiMoおよび/またはNiWのアルミナ担持触媒、さらに、リン、ホウ素、ケイ素およびフッ素によって形成される原子の群からの少なくとも1種の元素をドープされたNiMoおよび/またはNiWのアルミナ担持触媒である。
【0053】
したがって、上記水素化精製触媒はしばしば水素化処理工程と呼ばれる水素化精製工程中に使用される。
【0054】
本出願人はまたこの種の触媒を開発した。例には、特許FR2904243、FR2903979、EP1892038に記載されたもの等の特許が挙げられる。
【0055】
HDR区間用のこの種の効果的な触媒は、当業者に知られた供給業者から購入され得、例えば、とりわけおよび原料の特徴に応じて、AXENS社によって販売されているHR300(例えば、HR348、HR360)、HR400(例えば、HR448、HR468)およびHR500(例えば、HR526、HR538、HR548、HR558、HR562、HR568およびHRK558)シリーズの触媒である。触媒の種類は担体の性質および触媒調合の性質に応じて当業者によって選択され、その一般的な条件が以下に記載される。
【0056】
特に有利な様式では、HDR区間の種々の触媒は、マトリクスを改変することによって(とりわけ、使用される担体、多孔度、比表面積等を変えることによって)および/または触媒調合を改変することによって(とりわけ、活性金属、活性金属含有量、ドーパント種、ドーパント含有量等を変えることによって)、異なる活性も有する。実際、HDR区間は一連の2種以上の水素化精製触媒により操作し、触媒の活性は原料の流れ方向に増大する。すなわち、最小活性の触媒が原料を受け取り、原料は活性が次第に大きくなる触媒中を通過する。
【0057】
有利には、HDR区間は一連の2種以上の水素化精製触媒により操作し、触媒の平均径は原料の流れ方向に小さくなる。すなわち、最大の平均径を有する触媒が原料を受け取り、原料は平均径が次第に小さくなる触媒中を通過する。
【0058】
高い水素化力を有する触媒の欠点は、金属またはコークスの存在下にそれらが急速に失活することである。実際、そのより低い金属保持力は別にして、水素化脱窒能性能は金属が付着するにつれて急速に低下する。これは脱アスファルト化および脱金属化の殆どを行うために比較的高温で働くことが可能なHDMを行う1種以上の適切な触媒とHDRを行う1種以上の適切な触媒との関連によって、HDRが比較的低温で操作されることが可能となる理由である。これはHDR触媒がHDM区間によって金属および他の不純物から保護されているためである。したがって、深度水素化が行われ、コークス化は制限される。
【0059】
(特定の触媒系におけるHDM帯域およびHDR帯域の関連)
好ましくは、HDM帯域およびHDR帯域は、少なくとも2種の触媒を含み、その一方は水素化脱金属用であり、他方は水素化精製用である、特定の触媒系(本明細書では「グレーディング(grading)」と呼ぶ)により操作し;
− 前記触媒は、多孔性の耐火性酸化物からなる少なくとも1種の担体と、少なくとも1種の第VIB族金属と、少なくとも2種の第VIII族金属とを含み、該少なくとも2種の第VIII族金属のうちの一つは、VIII-1と呼ばれる主要プロモータ(majority promoter)であり、1種以上の他のものは、共プロモータ(co-promoter)VIII-iと呼ばれ、ここで、iは2〜5であり、これらの触媒において、第VIII族元素は、原子比[VIII-1/(VIII-1+…+VIII-i)]によって定められる比率0.5〜0.85で存在し、少なくとも1種の水素化脱金属触媒および少なくとも1種の水素化精製触媒は同じ原子比率を有し;
− 水素化脱金属触媒(単数または複数)は、1種以上の第VIB族金属を、触媒の全質量に対する1種以上の第VIB族金属の三酸化物の重量で2〜9%の含有量で有し、複数種の第VIII族金属含有量の合計は、全触媒質量に対する複数種の第VIII族金属の酸化物の重量で0.3〜2%であり、
− 水素化精製触媒(単数または複数)は、第VIB族金属を、全触媒質量に対する1種以上の第VIB族金属の三酸化物の重量で厳密に9%超かつ17%未満の1種以上の含有量で有し、複数種の第VIII族金属の含有量の合計は、全触媒質量に対する複数種の第VIII族金属の酸化物の重量で厳密に2%超且つ5%未満である。
【0060】
有利には、触媒系は、全細孔容積(total pore volume:TPV)の5%超のマクロ孔容積(25nm超の径を有する細孔)を有するHDM触媒を含む。有利には、前記触媒系は、全細孔容積(TPV)の10%未満のマクロ孔容積を有するHDR触媒を含む。
【0061】
有利な実施形態では、前記触媒系は、HDM区間の第1の切り替え可能な入口反応帯域(単数または複数)上およびHDR区間の第1の入口反応帯域(単数または複数)上で用いられる。最も多くの場合、それはHDM区間(好ましくは、他のゾーンを全く含まない)の2つの切り替え可能な反応帯域上で用いられる。
【0062】
HDR区間は、一般的に、バイパス可能な1以上の反応帯域を含み、この1以上の反応帯域は、前記触媒系を含む反応帯域の下流であり、好ましくは、前記触媒系のものより高い金属含有量を有する1種以上の触媒を含む;これらの触媒は、HDR触媒の説明において以前に列挙されたものである。この有利な提供によって、水素化脱窒を誘起し、ひいては触媒の性能を改善することが可能となる。
【0063】
好ましくは、HDR反応帯域はバイパス可能な帯域である。
【0064】
操作条件
HDRを行うための操作条件は通常、300〜450℃、好ましくは360〜420℃の温度、50〜300バール、好ましくは80〜180バールの全圧、200〜2,000Nm/m、好ましくは600〜1,600Nm/mの水素対炭化水素の比である。種々のHDR反応帯域の操作条件は互いに異なっていてもよい。
【0065】
(水素化分解(hydrocracking:HCK)区間)
HDR区間から得られた流出物の少なくとも一部(一般的には全部)はHCK区間に送られる。通常、その流出物は気相を分離することなく直ちに送られるが、分離(例えばフラッシュ分離)は非常に可能性がある。
【0066】
HCK区間中の水素化分解触媒に入る流出物の有機窒素含有量は、20重量ppm未満、有利には15重量ppm未満、好ましくは10重量ppm未満に維持されなければならない。アスファルテン含有量は多くの場合、200重量ppm未満であるか、またはより良好には50重量ppm未満である。
【0067】
HCK区間は、少なくとも1種の水素化分解触媒を含む少なくとも1つの反応帯域を含む。先行する区間と同様、複数の反応帯域を設けることが可能である。次いで、1以上の反応帯域は、それが含む触媒(単数または複数)を交換または再生するために切り離され、同一の手順を用いて単純態様または交換態様で再連結され得る。
【0068】
水素化分解触媒は、芳香族化合物を水素化しかつ飽和化合物と対応するオレフィンとの間の平衡を達成することができるための水素化相と、水素化異性化および水素化分解反応が促進されることを可能にする酸相とを有する二機能性触媒でなければならない。酸機能は、ハロゲン化(とりわけ塩化またはフッ化)アルミナ、酸化ホウ素と酸化アルミニウムとの組合せ、無定形シリカ−アルミナおよびゼオライトのような表面酸性度を有する表面積の大きい(通常は100〜800m/g)担体によってもたらされる。水素化機能は、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金のような周期表第VIII族の1種以上の金属、あるいはモリブデンおよびタングステンのような周期表第VIB族の少なくとも1種の金属と第VIII族の少なくとも1種の金属との組合せによってもたらされる。本出願人はまたこのタイプのさまざまな触媒を開発した。例としては、特許FR 2 819 430、FR 2 846 574、FR 2 875 417、FR 2 863 913、FR 2 795 341およびFR 2 795 342が挙げられる。
【0069】
HCK区間のための効果的な触媒は、当業者に知られた供給者から購入され得、例えば、とりわけおよび原料の特徴および所望の性能レベルに応じて、例えばAXENS社によって販売されている触媒HTK758、HDK776、HDK766、HYK732、HYK752、HYK762、HYK742、HYC652、HYC642である。
【0070】
HCKを行うための操作条件は通常、300〜450℃、好ましくは360〜420℃の温度、50〜300バール、好ましくは80〜180バールの全圧、300〜3,000Nm/m、好ましくは600〜1,600Nm/m、一層より好ましくは1,000〜2,000Nm/mの水素対炭化水素比である。種々のHDR反応帯域の操作条件は互いに異なっていてもよい。
【0071】
(水素化分解流出物の蒸留)
HCK区間から得られた生成物は、少なくとも1つのフラッシュタンクおよび常圧蒸留残、および場合によっては減圧蒸留を含む蒸留帯域に送られる。少なくとも1種の常圧留出液および1種の常圧残渣が、常圧蒸留から回収される。
【0072】
1種以上の常圧留出液の一部は、有利には、方法(HDMおよび/またはHDRおよび/またはHCK)の反応帯域の少なくとも1つの入口に、好ましくは前記区画(単数または複数)のために操作中の第1反応帯域(例えばHDM区間の操作中の第1反応帯域)の入口に再循環させられ得る。
【0073】
常圧残渣の一部も同様に再循環させられ得る。
【0074】
常圧留出液のうち、軽油フラクション、ガソリンフラクションおよびガスフラクションは、最も多くの場合、常圧蒸留帯域において回収される。この軽油フラクションの一部は場合によっては、前述と同様に再循環させられ得る。次いで、ガソリンフラクションの全部が回収される。
【0075】
有利には、水素化分解区間はまた二工程の水素化分解スキームに従って構成され得る。この場合、常圧蒸留帯域を出て行く常圧残渣は、少なくとも1種の水素化分解触媒を含む反応帯域に送られ、該反応帯域は、好ましくは一般に非転化フラクション(non-converted fraction)と呼ばれるこの常圧残渣のみを含有する原料を処理する。次いで、この反応帯域の流出物は、本発明による方法に、好ましくは蒸留帯域の入口に直接戻される。すなわち、原料は、反応帯域Kにおいて、脱金属化され、次いで水素化精製および水素化分解され、その流出物は、常圧蒸留において少なくとも部分的に蒸留され、得られた常圧残渣が、反応帯域K’(反応帯域Kとは異なり、少なくとも1種の水素化分解触媒を含有する)において少なくとも部分的に水素化分解され、得られた流出物は、蒸留帯域において少なくとも部分的に蒸留される。
【0076】
場合によっては、常圧蒸留帯域から得られた常圧残渣の少なくとも一部、好ましくは全部が減圧蒸留帯域に送られ、該減圧蒸留帯域から、少なくとも1種の減圧流出液および1種の減圧残渣(水素化分解の分野において重質油と一般に呼ばれる)が回収される。有利には、減圧留出液の一つの一部が前述と同様に再循環させられる。
【0077】
一般に重質油と呼ばれる減圧残渣は、少なくとも一部が精油所(refinery)の貯蔵帯域または脱蝋装置(溶媒脱蝋または接触脱蝋のいずれか)または接触分解装置(単独でまたは好ましくは混合物中で)または水蒸気分解装置に送られ得る。
【0078】
減圧残渣の少なくとも一部はまた、方法(HDMおよび/またはHDRおよび/またはHCK、好ましくはHDRおよび/またはHCK)の反応帯域の少なくとも1つの入口に、好ましくは、前記区間(単数または複数)のために操作中の最初の反応帯域の入口に再循環させられ得る。
【0079】
このようにして、可能な実施形態の1つでは、軽油留分および/または減圧留出液および/または常圧残渣の少なくとも一部が、水素化脱金属区間および/または水素化分解区間および/または水素化精製区間に、通常は、方法(HDMおよび/またはHDRおよび/またはHCK)の反応帯域の少なくとも1つの入口に、好ましくは前記区間(単数または複数)のために操作中の最初の反応帯域の入口に再循環させられる。
【0080】
再循環させながら働く構成では、方法の反応帯域の1つの入口に送られる常圧留出液および/または減圧留出液の量は、原料に対する重量として、約1〜60重量%、好ましくは5〜25重量%、より好ましくは約10〜20重量%を表す。この再循環によって、収率を著しく増大させ、触媒がアスファルテン、金属および窒素へ及ぼす希釈効果によって触媒の使用寿命を長くすることが可能となる。
【0081】
(他の方法との結合)
原料としての脱アスファルト油
本発明の方法は脱アスファルト油を処理するのに特に適している。特定の実施形態によれば、原油の又は別の装置からの常圧残渣および/または減圧残渣は、溶媒、例えば炭化水素溶媒または溶媒混合物を用いて脱アスファルト化に供される。次いで、脱アスファルト化生成物は、有利には、少なくとも一部、本発明による方法の反応帯域の1つの入口、通常は操作中の第1の反応帯域の入口に注入される。
【0082】
使用頻度が最も高い炭化水素溶媒は、炭素原子数が3〜7の、パラフィン系、オレフィン系または脂環式炭化水素(または炭化水素混合物)である。この処理は通常、AFNOR NF T60115規格に従って1重量%未満のヘプタン沈降アスファルテン、好ましくは1,000重量ppm未満のアスファルテンを通常含有する脱アスファルト化生成物を生じるような条件下に行われる。この脱アスファルト化は、本出願人の特許US-A-4715946に記載された手順に従って行われ得る。溶媒/原料の体積比は最も多くの場合、約3:1〜約7:1であり、脱アスファルト化操作全体を構成する基本的な物理化学的操作(混合−沈降、アスファルト相のデカンテーション、アスファルト相の洗浄−沈降)は、最も多くの場合、別個に行われることになる。
【0083】
脱アスファルト化は二工程を含み得、各工程は、3つの基本的な段階である沈降、デカンテーションおよび洗浄を含む。この特定の場合では、第一工程の各段階での推奨温度は、好ましくは、平均で、第二工程の各対応する段階の温度より約10℃〜約40℃低い。
【0084】
使用される溶媒はまた、フェノール系、グリコール系、またはC1〜C6のアルコールタイプであり得る。しかし、炭素原子数3〜6のパラフィン系および/またはオレフィン系溶媒が非常に有利に使用されることになる。
【0085】
本方法の一変形例によれば、粗生成物の最初の分留から得られたSR(直留=straight run)軽油フラクションとして知られているものの少なくとも一部も、本方法の反応帯域の1つの入口に送られる。この場合、処理される軽油留分は最も多くの場合、その初留点が通常約140〜260℃であり、終留点が通常約340〜440℃である留分である。これらの軽油留分はアスファルテンも金属も含まないので、それらは最も重質且つ汚染された原料を希釈することを可能にし、したがって、特にアスファルテン、金属または窒素に対するそれらの希釈効果によって収率および触媒の寿命を著しく増大させる。次いで本発明による方法に送られるSR軽油の量は前述の総量に含まれる。
【0086】
外部原料の注入
本方法の触媒床の少なくとも1つの入口に、好ましくは操作中の第1の帯域の入口に、初留点が140〜260℃であり終留点が300〜440℃である少なくとも1種の軽油、または初留点が300〜450℃であり終留点が400〜600℃であるヘビーサイクルオイルHCOを注入することも可能である。
【0087】
これは、例えばHYVAHL法(固定床における重質原料の転化)またはH−Oil法(沸騰床における重質原料の転化)に従って動作する水素化脱硫装置から得られる軽油または常圧残渣および/または減圧残渣の水素化転化装置から得られる軽油、または接触分解装置から得られるライトサイクルオイル(当業者には最も多くの場合、短縮してLCOと呼ばれる)フラクション、または熱処理装置(例えばビスブレーキング装置またはコーキング装置)から得られる軽油フラクション、あるいは別の装置から得られる軽油フラクションであり得る。これらの種々の軽油はその初留点が通常約140〜260℃であり、終留点が通常約300〜440℃である石油留分である。
【0088】
接触分解から得られ、当業者によって最も多くの場合、短縮してHCOと呼ばれ、初留点が通常約300〜450℃であり、終留点が通常約400〜600℃であるヘビーサイクルオイルフラクションを注入することも可能である。
【0089】
(接触分解)
本方法の別の変形例によれば、本発明の方法から得られる常圧残渣および/または減圧留出液および/または減圧残渣の少なくとも一部は、接触分解装置、好ましくは流動床接触分解(fluidised-bed catalytic cracking:FCC)装置に送られる。この接触分解装置から、特に、LCO(ライトサイクルオイル)フラクションおよびHCO(ヘビーサイクルオイル)フラクションが回収され、これらは、少なくとも一部(これらのいずれか一方または両方の混合物)、本発明の方法の、本方法(HDMおよび/またはHDRおよび/またはHCK、好ましくはHDRおよび/またはHCK)の反応帯域の少なくとも1つの入口に、好ましくは、前記区間(単数または複数)のために操作中の第1の反応帯域の入口に送られ得る。一般に、HCOは、HDM区間に送られ、LCOは、HDRおよび/またはHCK区間に送られる。その時本発明による方法に送られるLCOおよび/またはHCOの量は、上記に記載された全量に含まれる。
【0090】
流動床接触分解反応器は、上昇流または下降流で操作し得る。移動床反応器において接触分解を行うことも考えられるが、それは好適な実施形態ではない。特に好ましい接触分解触媒は、通常は適したマトリクス(例えば、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ)と混合された少なくとも1種のゼオライトを含む触媒である。
【0091】
(水蒸気分解(steam cracking))
本方法の別の変形例によれば、本発明の方法から得られた常圧残渣および/または減圧留出液および/または減圧残渣の少なくとも一部は、水蒸気分解装置に送られる。この水蒸気分解装置から、特に、芳香族化合物含有量が高いC5+フラクション、オレフィンおよび/またはジオレフィン生成物が回収され、(直ちにまたは蒸留による分留の後にまたは芳香族化合物の抽出の後にまたは別の処理の後に)、少なくとも一部、本発明の方法の、本方法(HDMおよび/またはHDRおよび/またはHCK、好ましくはHDRおよび/またはHCK)の反応帯域の少なくとも1つの入口に、好ましくは前記区間(単数または複数)のために操作中の第1の反応帯域の入口に送られ得る。本発明による方法に送られるC5+フラクションの量は、前述の総量に含まれる。
【0092】
(好ましい実施形態)
本方法は以下の選択肢の1つに従って操作し得る:
− 水素化精製区間および水素化分解区間は切り替え可能な反応帯域を含む;
− 全区間が切り替え可能な反応帯域およびバイパス可能な反応帯域を含む;
− 水素化脱金属区間は、切り替え可能な反応帯域のほか少なくとも1つのバイパス可能な反応帯域も含む;HDR区間およびHCK区間はバイパス可能な反応帯域からなり、HDR区間およびHCK区間における前記帯域の少なくとも1つはバイパスされない;
− 水素化脱金属区間は、(好ましくは2つの)切り替え可能な反応帯域のみを含み、水素化精製区間および水素化分解区間は単一の非バイパス反応帯域を含む。
【0093】
本発明の方法の実施形態の1つでは、水素化精製区間および水素化分解区間は切り替え可能な反応帯域も含む;特に、全区間が切り替え可能な反応帯域からなる。このように、各区間(HDM、HDRおよびHCK区間)は少なくとも2つの切り替え可能な反応帯域を含み、各々は少なくとも1種の触媒を含み、以下で定義される工程b)およびc)を連続的に反復することに存する循環的様式で使用されるために直列に配置される:
a)反応帯域の1つを失活および/または目詰まりさせる時間に最大でも等しい期間、ある区間の反応帯域が全部一緒に用いられる工程、
b)反応帯域の少なくとも1つがバイパスされ、それが含む触媒が再生され、かつ/または新しい触媒または再生済み触媒と交換される工程、
c)ある区間の反応帯域が全部一緒に用いられ、単数または複数の反応帯域(先行する工程の過程にわたってその触媒が再生され、かつ/または交換された)が、その最初の位置(「単純態様として知られた位置)か切り替え可能な反応帯域の中の別の位置(「交換」態様として知られた位置)のいずれかで再連結され、該工程は、反応帯域の1つを失活および/または目詰まりさせる時間に最大でも等しい期間にわたって実行される工程。
【0094】
本発明による方法は、上記で定義された、「単純」態様として知られた態様に従って、または「交換」態様として知られた態様に従って行われ得る。この最後の提供によって、装置の稼動係数および方法の運転期間を改善することが可能となる。
【0095】
本発明の方法の別の実施形態では、全区間は切り替え可能な反応帯域とバイパス可能な反応帯域とからなる。このように、各区間(HDM、HDRおよびHCK区間)は、少なくとも2つの切り替え可能な帯域と1つ以上の反応帯域を含み、少なくとも2つの切り替え可能な帯域のそれぞれは、少なくとも1種の触媒を含み、以下で定義される工程b)およびc)を連続的に反復することに存する循環的様式で用いられるために直列に配列され、1つ以上の反応帯域は、以下に定義される工程d)およびe)に従って別個にまたは非別個にバイパスされ得る。
【0096】
本発明の水素化分解法の各区間の操作態様は以下の工程を含む:
a)反応帯域の1つを失活および/または目詰まりさせる時間に最大でも等しい期間、一つの区間の反応帯域が全部一緒に用いられる工程、
b)反応帯域の少なくとも1つがバイパスされ、それが含む触媒が再生され、かつ/または新しい触媒または再生済み触媒と交換される工程、
c)一つの区間の反応帯域が全部一緒に用いられ、単数または複数の反応帯域(その触媒が先行する工程の過程に亘って再生されかつ/または再生された)が、その最初の位置(「単純」態様として知られた位置)か並べ替え可能な反応帯域の中の別の位置(「交換」態様として知られた位置)のいずれかで再連結され、該工程は、反応帯域の1つを失活および/または目詰まりさせる時間に最大でも等しい期間にわたって実行される工程、
d)水素化脱金属区間および/または深度水素化精製区間および/または水素化分解区間の反応帯域の少なくとも1つが、触媒が失活および/または目詰まりし、それが含む触媒が再生され、かつ/または新しい触媒または再生済み触媒と交換されるときに、運転の過程に亘ってバイパスされ得る工程、
e)反応帯域(その触媒が先行する工程の過程にわたって再生され、かつ/または交換された)がそれらの最初の位置において再連結される工程。
【0097】
本発明による方法は、上記で定義された、「単純」態様として知られた態様または「交換」態様として知られた態様に従って行われ得る。この最後の提供によって、装置の稼動係数および方法の運転期間を改善することが可能となる。
【0098】
本発明による方法の実行は、本発明の好適な実施形態である別の変形例を含み、該変形例では、HDM区間は切り替え可能な反応帯域からなり、HDR区間およびHCK区間はバイパス可能な反応帯域からなる。本方法の実行は以下の工程を含む:
a)処理原料の全体的な移動方向に関連して最も上流の反応帯域を失活および/または目詰まりさせる時間に最大でも等しい期間、反応帯域が全部一緒に用いられる工程、
b)原料が、先行する工程の過程に亘って最も上流にある反応帯域の直後に位置する反応帯域中に直接的に入り、且つ、先行する工程の過程に亘って最も上流にある反応ゾーンの直後に位置する反応帯域がバイパスされ、それが含む触媒が再生され、かつ/または新しい触媒または再生済み触媒と交換される工程、
c)反応帯域が全部一緒に用いられ、反応帯域(その触媒が先行する工程の過程に亘って再生されかつ/または交換された)が、その区間の全切り替え可能な反応帯域の下流になるように再連結される工程であり、該工程は、この工程の過程にわたって処理原料の全体的な移動方向に関して最も上流である反応帯域を失活および/または目詰まりさせる時間に最大でも等しい期間にわたって実行される、工程、
d)水素化脱金属区間および/または深層性水素化精製区間および/または水素化分解区間の反応帯域の少なくとも1つが、触媒が失活および/または目詰まりし、それが含む触媒が再生されかつ/または新しい触媒または再生済み触媒と交換されるときに、運転の過程に亘ってバイパスされ得る工程、
e)反応帯域(その触媒が、先行する工程の過程にわたって再生されかつ/または交換された)がその最初の位置において再連結される工程。
【0099】
本発明の方法の変形例では、HDR区間およびHCK区間はバイパス可能な反応帯域からなり、HDM区間も少なくとも1つのバイパス可能な反応帯域を含む。
【0100】
本方法の好適な実施形態では、原料の全体的な移動方向において最も上流の反応帯域は、金属、コークス、堆積物および多様な他の不純物を徐々に付着させられ、所望のときにすぐ、しかし最も多くの場合、それが含む触媒が金属および多様な不純物でほぼ飽和した時に切断される。
【0101】
好適な実施形態では、運転中(on-stream)に、すなわち装置の操作を停止させることなく、切り替え可能な反応帯域の切り替えを可能にする特別な調整区間が用いられる。この区間はまず、適度な圧力(1〜5MPa、好ましくは1.5〜2.5MPa)で操作し且つ次の操作(洗浄、ストリッピング、冷却し、その後に使用済み触媒を排出し;次いで、新しい触媒または再生済み触媒を充填してから加熱および硫化する)を切り離された反応帯域で行うことを可能にするシステムを含む。次に、適切な技術を備えた別の加圧/減圧および仕切り弁(gate valve)システムが、装置を停止させることなく、すなわち稼動係数に影響を与えることなく、これらの反応帯域を効率的に切り替えることを可能にするが、これは、これら使用済み触媒の洗浄、ストリッピング、排出、新しい触媒または再生済み触媒の再充填、加熱および硫化の操作のすべてが切り離された反応帯域で行われるからである。
【0102】
有利な実施形態では、装置は、反応帯域とは別個に操作し、切り替え可能な反応帯域および/またはバイパス反応帯域に含まれる新鮮なまたは再生された触媒を調製するための操作が、接続される直前であるが、装置が動作中の間に導管および弁によって行われることを可能にする、適切な移動、加熱、冷却および分離手段を備えた調整区間(図示せず)を含むことになる;すなわち、本方法における切り替えられたまたはバイパスされた帯域の予備加熱、それが含む触媒の硫化、要求される圧力および温度条件の設定。この反応帯域の切り替えまたはバイパスの操作が、適切な弁の設定によって行われる場合、この同じ区間はまた、反応帯域の切り離し直後に反応帯域中に含まれる使用済み触媒を調整するための操作を行うことを可能にすることになる:すなわち、要求される条件下の使用済み触媒の洗浄およびストリッピング、次いで、この使用済み触媒の抜き出し操作に進む前の冷却、次いで、新鮮なまたは再生された触媒との交換。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の略図を示す。この図では、本発明による方法は3区間(HDM区間、HDR区間およびHCK区間)において実行され、各区間はそれ自体5つの反応帯域からなる。前述のように、これらの反応帯域は、1以上の異なる反応器または単一の反応器に位置決めされた1以上の異なる触媒床から構成され得る。HDM区間(M1〜M5)は2つの切り替え可能な反応帯域(M1、M2)と次の3つのバイパス可能な反応ゾーン(M3、M4、M5)からなる。図の説明を簡単にするために、3区間を同じようにまとめている。
【発明を実施するための形態】
【0104】
図1には、種々の反応帯域が絶縁され、バイパスされまたは切り替えられることを可能にする弁は示されておらず、並びに、内部または外部の再循環の開始も示されていない。図を複雑にしないようにするためである。同様に、反応帯域とは独立して操作する適切な移動、加熱、冷却および分離手段を備え、バイパス反応帯域に含まれる新鮮なまたは再生された触媒を調製するための操作を、接続される直前に装置の運転中に導管および弁によって行うことを可能にする触媒調整区間も示されていない。石油留分を再循環させるか、外部の石油留分を1以上の反応帯域の上流に注入できるようにするラインも示されていない。
【0105】
最初の構成では、原料は導管2を介してHDM区間に到達し、そこで導管(1)から来る水素と混合される。この混合物は反応帯域(M1)に入り、その流出物は導管(3)を通ってこの反応帯域から出て行き、反応帯域(M2)に搬送されるのを可能にする。反応帯域(M2)から、炭化水素および水素が、導管(4)を介して反応帯域(M3)に入り、次いで、導管(5)を介して反応帯域(M4)に入り、導管(6)を介して反応帯域(M5)に入る。次いで、混合物は導管(7)を介してこの反応帯域(M5)から出て行く。この流出物の少なくとも一部(通常は全部)は導管(8)を介してHDR区間に送られ、あらゆる残留流出物は導管(9)を通じて排出される。
【0106】
依然としてこの構成では、反応混合物は、導管(22)を介してHDR区間に入り、反応帯域(R1)に供給される。この反応帯域(R1)からの流出物は導管(23)を介して反応帯域(R2)に入る。反応帯域(R2)から、炭化水素および水素の混合物が、導管(24)を介して反応帯域(R3)に入り、次いで、導管(25)を介して反応帯域(R4)に入り、導管(26)を介して反応帯域(R5)に入る。次いで、混合物は導管(27)を介してこの反応帯域(R5)から出て行く。この流出物の少なくとも一部(通常は全部)は導管(28)を介してHCK区間に送られ、あらゆる残留流出物は導管(29)を通じて排出される。
【0107】
続いて、反応混合物は導管(42)を介してHCK区間に入り、反応帯域(K1)に供給される。この反応帯域(K1)からの流出物は導管(43)を介して反応帯域(K2)に入る。反応帯域(K2)から、炭化水素および水素の混合物が、導管(44)を介して反応帯域(K3)に入り、次いで、導管(45)を介して反応帯域(K4)に入り、導管(46)を介して反応帯域(K5)に入る。次いで、混合物は導管(47)を介してこの反応帯域(K5)から出て行く。この流出物の少なくとも一部は導管(48)を介して蒸留区間に送られ、あらゆる残留流出物は導管(49)を通じて排出される。
【0108】
図1の実施形態では、各区間(HDM、HDRおよびHCK区間)における2つの切り替え可能な反応帯域(M1、M2またはR1、R2またはK1、K2)および3つのバイパス可能な反応帯域(M3〜M5またはR3〜R5またはK3〜K5)を用いて、各々少なくとも1種の触媒を含む2つの切り替え可能な反応帯域は、以下で定義される工程b)およびc)を連続的に反復することに存する循環的様式で使用されるために直列に配置されており、1以上の反応帯域は以下で定義される工程d)およびe)に従って別個にまたは非別個にバイパスされ得る。HDM区間に関し、図1に示された本発明の水素化分解法の操作態様は以下の工程を含む:
a)反応帯域の1つを失活および/または目詰まりさせる時間に最大でも等しい期間、HDM区間の反応帯域(M1〜M5)が全部一緒に用いられる工程(流体の流れは最初の構成として前述されている)、
b)第1の切り替え可能な反応帯域(M1)がバイパスされ、それが含む触媒が再生されかつ/または新しい触媒または再生済み触媒と交換され、反応混合物が導管(11)を介して切り替え可能な反応帯域(M2)に入り、導管(4)を介して反応帯域(M3)に入り、導管(5)を介して反応帯域(M4)に入り、導管(6)を介して反応帯域(M5)に入り、その後、導管(7)を介してHDM区間から出て行く工程、
c)HDM区間の反応帯域が全部一緒に用いられ、反応帯域(M1)(その触媒が先行する工程の過程に亘って再生されかつ/または再生された)が、導管(12)を介して反応帯域(M2)の後に再連結され(「交換」態様として知られたものである)、この帯域からの流出物が導管13を介して反応帯域(M3)に送られ、該工程は、反応帯域の1つを失活および/または目詰まりさせる時間に最大でも等しい期間にわたって実行される、工程、
d)HDM区間のバイパス可能な反応帯域(M3)、(M4)および(M5)の少なくとも1つが、触媒が失活および/または目詰まりして、それが含む触媒が再生されかつ/または新しい触媒または再生済み触媒と交換されるときに、それぞれ導管(14)、(15)および(16)を介してバイパスされる工程(例えば、帯域(M3)がバイパスされ;すぐに、動作中の最後の切り替え可能な反応帯域から得られた流出物が導管(14)を介して直接帯域(M4)に入り、帯域(M3)の触媒が再生されかつ/または新鮮触媒または再生済み触媒と交換される)、
e)反応帯域(その触媒が先行する工程の過程にわたって再生されかつ/または交換された)がそれらの最初の位置において再連結される工程(例えば、帯域(M3)からの触媒が再生されると、帯域(M3)は再連結され、動作中の最後の切り替え可能な反応帯域から得られた流出物が導管(4)を介して帯域(M3)に入り、導管(14)が閉じられる)。
【0109】
HDR区間およびHCK区間に関し、切り替え可能な反応帯域およびバイパス可能な反応帯域の操作態様は同じである。したがって、説明は完全に類似するので繰り返さない。図1からの関連部分および参照部分のみを列挙する:
− HDR区間:切り替え用導管:(31)、(32)、(33);バイパス用導管:(34)、(35)、(36)
− HCK区間:切り替え用導管:(51)、(52)、(53);バイパス用導管:(54)、(55)、(56)
切り替え可能な反応帯域またはバイパス可能な反応帯域の操作は、図1の説明からすぐに理解されよう。図1は例示としてこれら区間における帯域の特定の構成を示している。あらゆる組み合わせが可能である。前述のように、好適な態様は、HDM区間用の2つの切り替え可能な反応帯域、HDR区間用の1または2のバイパス可能な反応帯域あるいはHCK区間用の1または2のバイパス可能な反応帯域を含む(またはそれらからなる)。
【実施例】
【0110】
(実施例1:本発明に合致しない)
本実施例は200重量ppm未満のアスファルテンおよび10重量ppm未満の金属を含有する標準的原料に関する水素化分解を例証する。特徴を表1に示す。
【0111】
この原料は金属を含まず、少しのアスファルテンのみを含有しているので、実際の水素化分解区間に先行する区間にHDM触媒を提供する必要はない(表1)。
【0112】
HDR区間(単一の反応帯域)に用いられる水素化分解触媒は、触媒であって、その触媒調合がアルミナ担体担持NiMoタイプのもの、例えば、AXENSからの触媒HRK558である。HCK区間(単一の反応帯域)では、触媒であって、その触媒配合は、ゼオライトYを含む担体上に担持されたNiMoタイプのもの、例えば、AXENSからの触媒HYC642である。
【0113】
運転開始(start-of-run=SOR)温度385℃による従来の操作条件(表1)を用いると、HCK区間の入口の有機窒素含有量:10重量ppm未満が達成される。運転過程に亘って、HDR区間からの触媒は失活するので、コーキングによるこの活性の損失を補償するために反応帯域の温度を上げることが必要となる。本発明者らの実施例では、この上昇は平均して1カ月当たり約1℃である。装置の最大限界まで反応温度を上げ続けることが可能であり、これは、420℃である。したがって、この温度は運転終了を強制(impose)し、運転終了(end-of-run;EOR)温度と呼ばれる。この標準的な原料の場合、運転期間は36カ月になる。
【0114】
【表1】

【0115】
(実施例2:本発明に合致しない)
本実施例は200重量ppm超のアスファルテンおよび10重量ppm超の金属を含有する困難な原料に関する水素化分解を例証する。特徴を表2に示す。
【0116】
実施例1の場合のように、この原料は実際の水素化分解区間に先行する区間においてHDM触媒を含まない方法において処理される(表2)。
【0117】
使用触媒および区間は実施例1と同じである。
【0118】
運転開始(SOR)温度385℃により従来の操作条件(表2)を用いると、HCK区間の入口の有機窒素含有量:10重量ppm未満が達成される。原料はより困難であるので、有機窒素含有量:10重量ppm未満を実現するのに必要なHDM+HDR区間の毎時容積速度(hourly volume rate)は、低減させられなければならず、ここでは0.7h−1であることに留意されたい。運転過程に亘って、触媒は失活するので、この活性損を補償するために反応帯域の温度を上げることが必要となる。金属がHDR触媒上に沈着して、非常に急速に第2の失活メカニズムがもたらされるので、実施例1よりも迅速に温度を上昇させる必要がある。反応温度を運転終了(EOR)温度まで上げることによって、運転期間は僅か11カ月になる。
【0119】
【表2】

【0120】
(実施例3:本発明に合致しない)
本実施例は200重量ppm超のアスファルテンおよび10重量ppm超の金属を含有する困難な原料(実施例2からの原料)の水素化分解中にHDM触媒が運転期間に及ぼす効果を例証する。特徴を表3に示す。
【0121】
ここでは、実施例2からの原料は、HDM区間(単一の反応帯域)においてHDM触媒を用いる方法において処理される。この触媒は典型的なマクロ孔アルミナ担体担持型NiMo触媒、例えば、AXENSからの触媒HMC868である。HDR区間およびHCK区間に用いられる触媒は、前述のように前記区間と同じである。
【0122】
運転開始(SOR)温度385℃による従来の操作条件(表3)を用いると、HCK区間の入口の有機窒素含有量:10重量ppm未満が達成される。運転過程に亘って、触媒は失活するので、この触媒の活性損を補償するために反応帯域の温度を上げることが必要となる。まず、HDR触媒をHDM触媒によって保護し、金属がその上に沈着する。反対に、操作約7カ月後には、このHDM触媒はこの原料の金属をもはや全く保持せず、この時点ではHDR触媒上に沈着し、これによって非常に急速に第2の失活メカニズムがもたらされる。反応温度を運転終了(EOR)温度まで上げることによって、運転期間は僅か18カ月になる。
【0123】
【表3】

【0124】
(実施例4:本発明に合致する)
本実施例は、200重量ppm超のアスファルテンおよび10重量ppm超の金属を含有する困難な原料の水素化分解中に、HDM区間において切り替え可能な反応帯域を使用することによって運転期間に及ぼす効果を例証する。特徴を表4に示す。
【0125】
先の実施例からの原料は、2つの切り替え可能な反応ゾーンからなるHDM区間におけるHDM触媒を用いる方法において処理される。これらの2つの帯域は3〜4カ月毎にそれらの位置を切り替える。この期間の後、第1の位置にある反応帯域はバイパスされ、それが含む触媒は新しい触媒と交換される。この新しい触媒を調整した後、この反応帯域は、第2の位置で再連結され、他方、HDM反応帯域はバイパスされていない(「交換態様」として知られているもの)。
【0126】
HDM区間では、典型的なマクロ孔アルミナ担体担持型NiMo触媒が使用される(例えば、AXENSからの触媒HMC868)。HDR区間およびHCK区間に用いられる触媒は、前述と同じである。
【0127】
運転開始(SOR)温度385℃による従来の操作条件(表4)を用いると、HCK区間の入口の有機窒素含有量:10重量ppm未満が達成される。運転過程に亘って、触媒は失活するので、この触媒の活性損を補償するために反応帯域の温度を上げることが必要となる。
【0128】
まず、HDR触媒をHDM触媒によって保護し、金属がその上に沈着する。操作3カ月を少し過ぎると、HDM触媒の半分の量を含む第1の反応帯域は原料の金属をもはや全く保持せず、この時点では第2の反応帯域のHDM触媒上に沈着する。したがって、第1の反応帯域がバイパスされ、それが含む触媒は、新しい触媒と交換され、その後に、この反応帯域は、バイパスされなかったHDM反応帯域の後の第2の位置において再連結される。このように、HDR触媒の保護は触媒交換操作中に継続される。したがって、運転期間にわたって、最も失活したHDM触媒(第1の位置にあるHDM反応帯域からの触媒)が3〜4カ月毎に新鮮なHDM触媒と交換されると同時に、他方では、2つのHDM反応帯域の位置が切り替えられる。切り替え期間はHDM反応帯域がその元位置に戻ってから後の期間として定義され、本発明者らの実施例では7カ月である。
【0129】
コーキングに起因するHDR触媒の活性低下を補償するために、この反応帯域の反応温度を運転終了(EOR)温度まで上げる。この構成では、運転期間は再び36カ月であるが、同時に、他方では、200重量ppm超のアスファルテンおよび10重量ppm超の金属を含有する困難な原料が処理される。
【0130】
【表4】

【0131】
これらの結果から、HDM触媒が存在しない場合、運転期間は僅か11カ月であり、HDM触媒が存在する場合は、運転期間が18カ月まで延びるが、同量のHDM触媒を2つの切り替え可能な反応帯域に実施すれば、運転期間は予想外に2倍となり、費用も著しく限定されることは明らかである。この経済的且つ単純な方法によって、アスファルテン含有量が比較的高い(本実施例では2,000重量ppmの)原料の処理が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
200重量ppm〜2重量%のアスファルテンおよび/または10重量ppm超の金属を含有する炭化水素原料の水素化分解法であって、
− 前記原料が、300℃および450℃において、50〜300バールの全圧下、200〜2,000Nm/mの水素/炭化水素比で水素化脱金属処理に供され、前記処理は、少なくとも2つの切り替え可能な反応器であって、各々は、少なくとも1種の水素化脱金属触媒を含み、場合によっては水素化脱窒触媒を含む、反応器において実行され、前記反応器は、以下に定義される工程b)およびc)を連続的に反復することに存する循環的様式で使用されるために直列に配置され:
a)反応器の1つを失活および/または目詰まりさせる時間に最大でも等しい期間、反応器が全部一緒に用いられる工程、
b)反応器の少なくとも1つがバイパスされ、該反応器が含む触媒が再生され、かつ/または新しい触媒または再生済み触媒と交換される工程、
c)反応器が全部一緒に用いられ、切り替え可能な反応器(単数または複数)であって、その触媒が、先行する工程の過程に亘って再生されかつ/または交換された切り替え可能な反応器(単数または複数)が、その最初の位置か、または切り替え可能な反応器の中の別の位置のいずれかで再連結され、該工程は、切り替え可能な反応器の1つを失活および/または目詰まりさせる時間に最大でも等しい期間にわたって実行される工程、
− 次いで、流出物の少なくとも一部であって、少なくとも一部、脱金属化され且つ場合によっては部分的に脱窒化されたものが、少なくとも1種の水素化処理触媒を含む水素化精製区間において水素化精製されて、有機窒素含有量が20重量ppm未満に低減させられ、該水素化精製は、300℃および450℃の温度において、50〜300バールの全圧下に、200〜2,000Nm/mの水素/炭化水素比により行われ、
− 次いで、流出物の少なくとも一部であって、少なくとも部分的に脱窒されたものが、少なくとも1種の固定床水素化分解触媒を含む水素化分解区間において、300℃および450℃において、50〜300バールの全圧下、300〜3,000Nm/mの水素/炭化水素比で水素化分解され、
− 次いで、水素化分解された流出物の少なくとも一部が、常圧蒸留によって蒸留されて、少なくとも1種の軽油留分、ナフサ留分および常圧残渣が得られ、該残渣は、場合によっては、少なくとも一部、減圧下に蒸留されて、少なくとも1種の減圧留出液および減圧残渣が得られる、
炭化水素原料の水素化分解法。
【請求項2】
切り替え可能な反応器であって、その触媒が再生されかつ/または交換されたものが、一連の切り替え可能な反応器において、原料の流れ方向に対して最後の位置であるように再連結される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、該方法は、以下の選択肢の1つに従って操作する方法;
− 水素化精製区間および水素化分解区間が切り替え可能な反応器を含む;
− 全区間が切り替え可能な反応器およびバイパス可能な反応器または触媒床を含む;
− 水素化脱金属区間は、切り替え可能な反応器のほか少なくとも1つのバイパス可能な反応器または触媒床も含む;HDR区間およびHCK区間はバイパス可能な反応器または触媒床からなる、
− 水素化脱金属区間は、(好ましくは2つの)切り替え可能な反応器のみを含み、水素化精製区間および水素化分解区間は、単一の非バイパス可能な反応器または触媒床を含む。
【請求項4】
水素化脱金属区間および/または水素化精製区間は、それぞれ一連の2種以上の水素化脱金属および/または水素化精製触媒により操作し、該触媒の平均径は、原料の流れ方向に小さくなる、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
水素化脱金属区間および/または水素化精製区間は、一連の2種以上の水素化脱金属触媒および/または水素化精製触媒により操作し、該触媒の活性は、原料の流れ方向に増大する、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
水素化脱金属区間の切り替え可能な反応器の各々は、水素化脱金属触媒および水素化脱窒触媒を含む、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法であって、水素化脱金属区間および水素化精製区間は、少なくとも2種の触媒を含む触媒系により操作し、一方は、水素化脱金属用であり、他方は、水素化精製用であり、
− 前記触媒は、多孔性の耐火性酸化物からなる少なくとも1種の担体と、少なくとも1種の第VIB族金属と、少なくとも2種の第VIII族金属とを含み、該少なくとも2種の第VIII族金属のうちの1種は、VIII-1と呼ばれる主要プロモータであり、1種以上の他のものは、VIII-iと呼ばれる共プロモータであり、ここでiは2〜5であり、これらの触媒において、第VIII族元素は、原子比[VIII-1/(VIII-1+…+VIII-i)]で定められる比率0.5〜0.85で存在し、少なくとも1種の水素化脱金属触媒および少なくとも1種の水素化精製触媒は、同一の原子比を有し;
− 水素化脱金属触媒(単数または複数)は、1種以上の第VIB族金属を、触媒の全質量に対する1種以上の第VIB族金属の三酸化物の重量で2〜9%の含有量で有し、複数種の第VIII族金属含有量の合計は、全触媒質量に対する複数種の第VIII族金属の酸化物の重量で0.3〜2%であり、
− 水素化精製触媒(単数または複数)は、1種以上の第VIB族金属を、全触媒質量に対する1種以上の第VIB族金属の三酸化物の重量で厳密に9%超かつ17%未満の含有量で有し、複数種の第VIII族金属の含有量の合計は、全触媒質量に対する複数種の第VIII族金属の酸化物の重量で厳密に2%超且つ5%未満である、方法。
【請求項8】
前記触媒系は、HDN区間の第1の切り替え可能な反応器(単数または複数)上およびHDR区間の第1の入口反応器(単数または複数)または第1の入口触媒床(単数または複数)上で用いられる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
HDR区間は、一般的に、1つ以上のバイパス可能な反応器または1つ以上のバイパス可能な触媒床を含み、該1つ以上のバイパス可能な触媒床は、反応器(単数または複数)または前記触媒系を含む触媒床(単数または複数)の下流であり、該1つ以上のバイパス可能な触媒床は、触媒系のものより高い金属含有量を有する1種以上の触媒を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
水素化分解される前に、流出物は、ガス分離に供される、請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
水素化分解触媒上に入る流出物は、10重量ppm未満の有機窒素含有量および200重量ppm未満のアスファルテン含有量を有する、請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
常圧残渣および/または軽油留分および/または減圧留出液の少なくとも一部が、水素化脱金属区間および/または水素化分解区間および/または水素化精製区間に再循環させられる、請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
減圧残渣の少なくとも一部が水素化分解区間および/または水素化精製区間に再循環させられる、請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
常圧残渣および/または軽油および/または減圧留出液の再循環量が、区間に入る新しい原料に対する重量として、約1〜60重量%、好ましくは5〜25重量%、より好ましくは約10〜20重量%を示す、請求項1〜13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
原料は、脱金属化され、次いで、反応器または触媒床Kにおいて水素化精製および水素化分解され、流出物は、少なくとも一部、常圧蒸留において蒸留され、得られた常圧残渣は、少なくとも一部、反応器または触媒床K’において水素化分解され、該触媒床K’は、反応器または触媒床Kとは異なり、少なくとも1種の水素化分解触媒を含み、得られた流出物は、少なくとも一部、蒸留帯域において蒸留される、請求項1〜14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
原料は、減圧留出液および/または脱アスファルト油である、請求項1〜15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
原料は、単独のまたは転化装置から得られた流出物と混合された、減圧留出液(VGO)および/または脱アスファルト油(DAO)である、請求項1〜16のいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
初留点が140〜260℃であり終留点が300〜440℃である少なくとも1種の軽油または初留点が300〜450℃であり終留点が400〜600℃であるヘビーサイクルオイルHCOが、該方法の触媒床の少なくとも1つの入口に、好ましくは運転中の第1の反応器または触媒床の入口に注入される、請求項1〜17のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−159416(P2010−159416A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−287007(P2009−287007)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(591007826)イエフペ (261)
【Fターム(参考)】