説明

切削インサート

【課題】深く溝入れ加工した場合であっても、切削に供される切れ刃とは異なる他の切れ刃が、加工した溝の溝壁に接触することを防止でき、溝の加工精度が十分に確保されるとともに、未使用の切れ刃の損傷を防止できること。
【解決手段】四角形板状をなし、厚さ方向Tを向く一対の四角形面2及び4つの側面3を有するインサート本体4と、隣接する側面3同士の交差稜線をなし厚さ方向Tに沿うように延びる主切れ刃5、及び、主切れ刃5の両端部から延びる一対の副切れ刃6を有する4つの切れ刃7と、互いに背向する一対の側面3a、3aに形成され、主切れ刃5及び一対の副切れ刃6に3方を囲まれるように四角形状をなす4つのすくい面8と、を備え、一のすくい面8aを正面に見て、一のすくい面8aに連なる主切れ刃5aと、一のすくい面8aに背向する他のすくい面8bに連なる主切れ刃5bとが、X字状に交差するように互いに異なる向きに延びている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝入れ加工に用いられる切削インサートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、溝入れ加工に用いられる四角形板状の切削インサートとして、例えば下記特許文献1に示されるような、四角形板状をなし、厚さ方向を向く一対の四角形面、及び、これら四角形面の辺同士を厚さ方向に繋ぐ4つの側面、を有するインサート本体と、前記インサート本体の隣接する前記側面同士の交差稜線をなし、厚さ方向に沿うように延びる主切れ刃、及び、前記主切れ刃の両端部から前記四角形面の辺に沿うように延びる一対の副切れ刃、を有する4つの切れ刃と、前記側面に形成され、前記主切れ刃及び前記一対の副切れ刃に3方を囲まれるように四角形状をなす4つのすくい面と、を備えたものが知られている。
【0003】
この種の切削インサートは、ターニング(旋削加工)に用いられる際は、軸状をなす工具本体の先端部にネジ止めやクランプ機構により着脱可能に固定され、例えば円柱状をなし軸回りに回転する被削材の外面などに4つの切れ刃のうち1つの切れ刃を対向配置させた状態で、溝入れ加工に供される。また、ミーリング(転削加工)に用いられる際は、円柱状をなし工具軸線回りに回転する工具本体の先端外周部に周方向に間隔をあけて着脱可能に複数固定され、4つの切れ刃のうち1つの切れ刃をそれぞれ工具本体の外周面から突出させた状態で、被削材の壁面などに溝入れ加工を施す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第87/03831号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来の切削インサートでは、下記のような課題があった。
すなわち、切削インサートの切れ刃が被削材の外面などに溝入れ加工を施していき、所定の溝深さ以上となったときに、ターニングの場合は前記溝入れ加工する切れ刃よりも被削材の回転方向の前方側に位置する他の切れ刃が、ミーリングの場合は前記溝入れ加工する切れ刃よりも工具回転方向の後方側に位置する他の切れ刃が、加工した溝内に入り込むとともに溝壁に接触して、加工面を傷付けてしまうことがあった。またこのような事情により、加工できる溝形状が、所定の溝深さを超えないよう浅溝に制限されていた。
また、前記他の切れ刃が未使用である場合には、溝壁との接触により新しい切れ刃が損傷して、切れ刃が無駄になってしまうことがあった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、深く溝入れ加工した場合であっても、切削に供される切れ刃とは異なる他の切れ刃が、加工した溝の溝壁に接触することを防止でき、溝の加工精度が十分に確保されるとともに、未使用の切れ刃の損傷を防止できる切削インサートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明の切削インサートは、四角形板状をなし、厚さ方向を向く一対の四角形面、及び、これら四角形面の辺同士を厚さ方向に繋ぐ4つの側面、を有するインサート本体と、前記インサート本体の隣接する前記側面同士の交差稜線をなし、厚さ方向に沿うように延びる主切れ刃、及び、前記主切れ刃の両端部から前記四角形面の辺に沿うように延びる一対の副切れ刃、を有する4つの切れ刃と、前記4つの側面のうち、互いに背向する一対の側面に形成され、前記主切れ刃及び前記一対の副切れ刃に3方を囲まれるように四角形状をなす4つのすくい面と、を備え、前記4つのすくい面のうち、一のすくい面を正面に見て、前記一のすくい面に連なる前記主切れ刃と、前記一のすくい面に背向する他のすくい面に連なる前記主切れ刃とが、X字状に交差するように互いに異なる向きに延びていることを特徴とする。
【0008】
この切削インサートを用いて溝入れ加工する際には、切削に供される切れ刃の主切れ刃が、例えば被削材の外面に対して平行となるように配置される。このような切削インサートの装着姿勢から、前記切れ刃が被削材に接近し外面に溝加工していくと、所定の溝深さ以上となったときに、該切れ刃の配置されたすくい面(一のすくい面)に背向する他のすくい面の切れ刃が、加工した溝内に収容されることになる。
【0009】
すなわち、一のすくい面を正面に見て、一のすくい面の主切れ刃と、他のすくい面の主切れ刃とは、X字状に交差するように互いに異なる向きに延びており、一のすくい面の主切れ刃は溝幅方向に平行に配置されていることから、他のすくい面の主切れ刃は溝幅方向に対して傾斜して配置される。これにより、一のすくい面の主切れ刃が加工した溝の溝幅よりも、他のすくい面の主切れ刃の溝幅方向に沿う長さが短くなっている。よって、他のすくい面の切れ刃は、一のすくい面の切れ刃が加工した溝の溝壁に接触することなく、該溝内に収容されるのである。
【0010】
このように、本発明の切削インサートによれば、深く溝入れ加工した場合であっても、前記他のすくい面の切れ刃が溝壁に接触するようなことが防止されて、溝の加工精度が十分に確保される。従って、加工できる溝形状(特に溝深さ)の範囲が広がる。また、他のすくい面の切れ刃が未使用である場合に、該未使用の切れ刃が溝壁に接触して損傷してしまうようなことが防止されるので、切れ刃を無駄なく使用できる。
【0011】
また、本発明の切削インサートにおいて、前記一のすくい面を正面に見て、前記一のすくい面に連なる前記主切れ刃は、前記一対の四角形面のうち一方の四角形面から他方の四角形面側に向かうに従い漸次前記四角形面の外側に向かって傾斜して延びており、前記他のすくい面に連なる前記主切れ刃は、前記一方の四角形面から前記他方の四角形面側に向かうに従い漸次前記四角形面の内側に向かって傾斜して延びていることとしてもよい。
【0012】
この場合、一のすくい面の切れ刃を用いて切削加工している状態から、他のすくい面の切れ刃に交換して切削加工に用いる際に、この切削インサートを工具本体から取り外し、前記すくい面同士の位置を入れ替えるように該切削インサートを厚さ方向に反転させ、再び工具本体に装着すれば、一のすくい面の主切れ刃があった位置と同じ位置に、他のすくい面の主切れ刃が簡単に精度よく配置される。よって、切れ刃を交換する際の位置決めが容易であり、作業に手間がかからない。
【0013】
また、本発明の切削インサートにおいて、前記一のすくい面を正面に見て、前記一のすくい面に連なる前記主切れ刃と、前記他のすくい面に連なる前記主切れ刃とのなす交差角が、17°〜20°であることとしてもよい。
【0014】
この場合、一のすくい面の切れ刃を用いて溝入れ加工した際、他のすくい面の切れ刃と溝壁との接触が確実に防止されつつ、インサート本体の剛性が確保される。
すなわち、前記交差角が17°未満の場合は、他のすくい面の主切れ刃を溝幅方向に対して十分に傾斜させられず、該すくい面の切れ刃が溝壁に接触するおそれがある。また、前記交差角が20°を超えると、主切れ刃の傾斜が大きくなるので、切削に供される切れ刃の副切れ刃が溝壁に接触しないように、該副切れ刃を主切れ刃から離間するに従い漸次厚さ方向に大きく後退させなければならず、これによりインサート本体の厚さが薄くなって、該インサート本体の剛性が確保できないおそれがある。
【0015】
また、本発明の切削インサートにおいて、前記4つの側面のうち、前記すくい面が形成された一対の側面とは異なる他の一対の側面には、前記主切れ刃を挟んで前記すくい面とは反対側に位置する4つの主逃げ面が形成され、前記4つの主逃げ面のうち、一の主逃げ面を正面に見て、前記一の主逃げ面に連なる前記主切れ刃と、前記一の主逃げ面に背向する他の主逃げ面に連なる前記主切れ刃とが、X字状に交差するように互いに異なる向きに延びていることとしてもよい。
【0016】
この場合、切削に供される一の主逃げ面の主切れ刃を、溝幅方向の一端から他端に向かうに従い漸次加工する溝の延在方向の前後いずれかに向かって傾斜するように配置でき、切れ味や切屑排出性を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る切削インサートによれば、深く溝入れ加工した場合であっても、切削に供される切れ刃とは異なる他の切れ刃が、加工した溝の溝壁に接触することを防止でき、溝の加工精度が十分に確保されるとともに、未使用の切れ刃の損傷を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る切削インサートを装着した刃先交換式溝入れ工具を示す上面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る切削インサートを装着した刃先交換式溝入れ工具を示す側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る切削インサートを装着した刃先交換式溝入れ工具を示す下面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る切削インサートを装着した刃先交換式溝入れ工具を工具本体の先端側から見た正面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る切削インサートを、インサート本体の四角形面側から見た図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る切削インサートを、インサート本体の側面のうちすくい面が形成された側面側から見た図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る切削インサートを、インサート本体の側面のうち主逃げ面が形成された側面側から見た図である。
【図8】図5のA−A断面を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る切削インサートの切削に供される一のすくい面近傍の拡大図であり、切削により被削材に形成された溝の断面形状を説明する図である。
【図10】図7において、一の主逃げ面に連なる主切れ刃近傍を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る切削インサート1及びこれを工具本体21に装着してなる刃先交換式溝入れ工具20について、図1〜図9を参照して説明する。
本実施形態の切削インサート1及び刃先交換式溝入れ工具20は、ターニングの溝入れ加工に用いられるものであり、例えば円柱状をなす被削材の外面に外径溝入れ加工を施すものである。
【0020】
図1〜図4に示されるように、刃先交換式溝入れ工具20は、軸状の鋼材等からなり、その延在方向に垂直な断面が四角形状をなす工具本体21と、この工具本体21の先端部において、側方(図1における左右方向)を向く一対の工具側面のうち一方(図1における右方)の工具側面21a、先端面21b及び上面21cに開口された直方体穴状のインサート取付座22と、超硬合金等からなり、該インサート取付座22にネジ止めにより着脱可能に固定される前記切削インサート1と、を備えている。
【0021】
切削インサート1は、図5〜図8に示されるように、四角形板状をなし、厚さ方向Tを向く一対の四角形面2、及び、これら四角形面2の辺同士を厚さ方向Tに繋ぐように形成された4つの側面3、を有するインサート本体4と、インサート本体4の隣接する側面3同士の交差稜線をなし、厚さ方向Tに沿うように延びる主切れ刃5、及び、主切れ刃5の両端部から四角形面2の辺に沿うように延びる一対の副切れ刃6、を有する4つの切れ刃7と、4つの側面3のうち、互いに背向する一対の側面3a、3aに形成され、主切れ刃5及び一対の副切れ刃6に3方を囲まれるように四角形状をなす4つのすくい面8と、4つの側面3のうち、すくい面8が形成された一対の側面3a、3aとは異なる他の互いに背向する一対の側面3b、3bに形成され、主切れ刃5を挟んですくい面8の反対側に位置する4つの主逃げ面9と、を備えている。
【0022】
図5、図6において、インサート本体4は、その厚さ方向Tを向く表裏面が一対の四角形面2とされ、該厚さ方向Tに垂直な方向かつ四角形面2の外側(四角形面2の面方向外方)を向く外周面が4つの側面3とされている。
【0023】
図5に示されるように、インサート本体4は、四角形面2の中心を通り厚さ方向Tに延びるインサート中心軸Oを中心とした回転対称形となっている。詳しくは、インサート本体4は、インサート中心軸Oについて2回対称(180°対称)に形成されている。
【0024】
また、図6〜図8において、インサート本体4は、インサート中心軸Oに垂直で側面3の中心を通る2つの仮想軸(側面3a、3aの中心を通る仮想軸及び側面3b、3bの中心を通る仮想軸)についても、それぞれ2回対称となっている。すなわち、インサート本体4は、前記2つの仮想軸について、それぞれ表裏回転対称とされている。
【0025】
図6、図7において、インサート本体4の側面3a及び側面3bは、インサート中心軸O方向(又は厚さ方向T)よりもインサート中心軸O回りに長い矩形状をなしている。また、これら側面3a、3bは、それぞれの両端部における厚さ寸法が最も大きくなっている。
【0026】
図6において、側面3aの長手方向(図6における左右方向)の両端部には、主切れ刃5を下底とする台形状をなすように、すくい面8が一対形成されている。図5に示されるように、すくい面8は、主切れ刃5から離間するに従い漸次四角形面2の内側(四角形面2の面方向内方)に向かって傾斜している。
また、側面3aにおけるすくい面8の内側部分(前記長手方向の中央側部分)は、凹曲面状に形成されている。
【0027】
図7において、側面3bの長手方向(図7における上下方向)の両端部には、主切れ刃5を下底とする台形状をなすように、主逃げ面9が一対形成されている。図5に示されるように、主逃げ面9は、主切れ刃5から離間するに従い漸次四角形面2の内側に向かって傾斜している。
また、側面3bは、その長手方向に垂直な断面が直線状をなしているとともに、該直線が、前記長手方向の一端部に位置する一の主切れ刃5aから他端部に位置する他の主切れ刃5bに向かうに従い漸次連続的又は段階的に捩れるように形成されている。
【0028】
また、図5、図7に示されるように、四角形面2の四隅には、四角形状をなし、すくい面8及び主逃げ面9に連なるとともに、副切れ刃6から該四角形面2の内側に向かうに従い漸次厚さ方向Tの内側(中央側)に向かって傾斜する副逃げ面10がそれぞれ形成されている。
【0029】
図5、図8において、インサート本体4には、一対の四角形面2の中央に開口してインサート中心軸Oに同軸とされ、該インサート本体4を厚さ方向Tに貫通する取付孔11が形成されている。図8に示されるように、取付孔11は、その厚さ方向Tの中央部における内径が最も小さくなっており、該中央部から厚さ方向Tの両外側に向かうに従い漸次その内径が段階的に、かつ、滑らかに拡径している。
【0030】
図2に示されるように、切削インサート1は、取付孔11にクランプネジ12が挿通されるとともに工具本体21のインサート取付座22のネジ穴(不図示)にねじ込まれることにより、工具本体21に装着される。
【0031】
このように、切削インサート1が工具本体21のインサート取付座22に装着された状態で、インサート本体4の一対の側面3a、3aのうち一方の側面3aは工具本体21の上面21c側に露出され、他方の側面3aはインサート取付座22において上側を向く壁面23aに当接される。また、インサート本体4の一対の側面3b、3bのうち一方の側面3bは工具本体21の先端面21b側に露出され、他方の側面3bはインサート取付座22において先端側を向く壁面23bに当接される。
【0032】
また、図1、図4に示されるように、インサート本体4の一対の四角形面2(2a、2b)のうち一方の四角形面2aが、インサート取付座22において工具側面21aと同じ方向を向く着座面24に当接される。
【0033】
図2に示す工具本体21の側面視で、該工具本体21の上面21c側に露出された切削インサート1の側面3aは、該工具本体21の先端から後端側へ向かうに従い漸次上側(図2における左側)に向かって傾斜している。また、工具本体21の先端面21b側に露出された切削インサート1の側面3bは、該工具本体21の上面21cから下面21d側へ向かうに従い漸次後端側に向かって傾斜している。これにより、これら側面3a、3bの交差稜線をなし切削に供される主切れ刃5a(5)が、工具本体21の先端側に突出して配置されている。
【0034】
また、このように切削インサート1がインサート取付座22に固定された状態で、主切れ刃5aの下側(図2においては右側)に位置する他の主切れ刃5b(5)は、工具本体21の先端面21bよりも先端側に突出して配置されている。詳しくは、図3に示されるように、工具本体21を下面21d側から見て、他の主切れ刃5bを有する切れ刃7及びそのすくい面8bの略全ての領域が、外部に露出されている。
【0035】
そして、図6に示されるように、切削インサート1の4つのすくい面8のうち、一のすくい面8aを正面に見て、この切削インサート1は、一のすくい面8aに連なる主切れ刃5aと、一のすくい面8aに背向する他のすくい面8bに連なる主切れ刃5bとが、X字状に交差するように(直線状の2つの主切れ刃5a、5bが、あたかもX字状をなすように)互いに異なる向きに延びている。
【0036】
詳しくは、一のすくい面8aを正面に見て、一のすくい面8aに連なる主切れ刃5aは、一対の四角形面2のうち一方(図6における上方)の四角形面2aから他方(図6における下方)の四角形面2b側に向かうに従い漸次四角形面2の外側(図6における左側)に向かって傾斜して延びており、他のすくい面8bに連なる主切れ刃5bは、一方の四角形面2aから他方の四角形面2b側に向かうに従い漸次四角形面2の内側(図6における右側)に向かって傾斜して延びている。
【0037】
また、一のすくい面8aを正面に見て、一のすくい面8aに連なる主切れ刃5aと、他のすくい面8bに連なる主切れ刃5bとのなす交差角θが、17°〜20°の範囲内に設定されている。
【0038】
また、本実施形態では、図7及び図10に示されるように、切削インサート1の4つの主逃げ面9のうち、一の主逃げ面9aを正面に見て、一の主逃げ面9aに連なる主切れ刃5aと、一の主逃げ面9aに背向する他の主逃げ面9cに連なる主切れ刃5cとが、X字状に交差するように互いに異なる向きに延びている。
【0039】
また、図6において、主切れ刃5の両端部は、凸曲線状をなす一対のコーナー刃13となっている。コーナー刃13は、主切れ刃5の直線状部分と副切れ刃6とを滑らかに繋ぐように形成されている。
【0040】
また、図5に示されるように、四角形面2を正面に見て、副切れ刃6は、主切れ刃5から側面3aの長手方向の中央側に向かって延びているとともに、該主切れ刃5から離間するに従い漸次四角形面2の内側に向かって傾斜している。
【0041】
また、図6に示されるように、側面3aを正面に見て、副切れ刃6は、主切れ刃5から離間するに従い漸次厚さ方向Tの内側に向かって傾斜して延びている。詳しくは、主切れ刃5aに連なる一対の副切れ刃6(6a、6b)を例に説明すると、一対の副切れ刃6a、6bのうち、主切れ刃5aとの連結部位が四角形面2の外側に位置する一方の副切れ刃6aは、主切れ刃5との連結部位が一方の副切れ刃6aの前記連結部位よりも四角形面2の内側に位置する他方の副切れ刃6bよりも、側面3aの長手方向に沿う単位長さ当たりの厚さ方向T内側への変位量が小さくなっている。
【0042】
また、図5に示されるように、主逃げ面9においてコーナー刃13に連なる部分は、凸曲面状のコーナー逃げ面14となっている。すなわち、主逃げ面9は、その厚さ方向Tの両端部がコーナー逃げ面14とされて、副逃げ面10に滑らかに連なっている。
【0043】
以上説明した本実施形態の切削インサート1を用いて溝入れ加工する際には、図9に示されるように、切削に供される切れ刃7の主切れ刃5aが、被削材Wの外面Eに対して平行となるように配置される。このような切削インサート1の装着姿勢から、被削材Wがその軸線回りに回転され、切れ刃7が被削材Wに接近し外面Eに溝加工していくと、所定の溝深さ以上となったときに、該切れ刃7の配置されたすくい面(一のすくい面)8aに背向する他のすくい面8bの切れ刃7が、加工した溝内に収容されることになる。
【0044】
すなわち、一のすくい面8aを正面に見て、一のすくい面8aの主切れ刃5aと、他のすくい面8bの主切れ刃5bとは、X字状に交差するように互いに異なる向きに延びており、一のすくい面8aの主切れ刃5aは溝幅方向(図9における左右方向)に平行に配置されていることから、他のすくい面8bの主切れ刃5bは溝幅方向に対して傾斜して配置される。これにより、一のすくい面8aの主切れ刃5aが加工した溝の溝幅Lよりも、他のすくい面8bの主切れ刃5bの溝幅方向に沿う長さが短くなっている。よって、他のすくい面8bの切れ刃7は、一のすくい面8aの切れ刃7が加工した溝の溝壁Sに接触することなく、該溝内に収容されるのである。
【0045】
このように、本実施形態の切削インサート1によれば、深く溝入れ加工した場合であっても、他のすくい面8bの切れ刃7が溝壁Sに接触するようなことが防止されて、溝の加工精度が十分に確保される。従って、加工できる溝形状(特に溝深さ)の範囲が広がる。また、他のすくい面8bの切れ刃7が未使用である場合に、該未使用の切れ刃7が溝壁Sに接触して損傷してしまうようなことが防止されるので、切れ刃7を無駄なく使用できる。
【0046】
また、この切削インサート1は、一のすくい面8aを正面に見て、一のすくい面8aに連なる主切れ刃5aが、一方の四角形面2aから他方の四角形面2b側に向かうに従い漸次四角形面2の外側に向かって傾斜し、他のすくい面8bに連なる主切れ刃5bが、一方の四角形面2aから他方の四角形面2b側に向かうに従い漸次四角形面2の内側に向かって傾斜して、主切れ刃5aを有する切れ刃7と、主切れ刃5bを有する切れ刃7とが、側面3b、3bの中心を通る仮想軸について互いに180°対称(2回対称)に配置されている。従って、例えば、一のすくい面8aの切れ刃7を用いて切削加工している状態から、他のすくい面8bの切れ刃7に交換して切削加工に用いる際に、この切削インサート1を工具本体21から取り外し、すくい面8a、8b同士の位置を入れ替えるように該切削インサート1を厚さ方向Tに反転(前記仮想軸回りに180°回転)させ、四角形面2bを着座面24に当接させて再び工具本体21に装着すれば、一のすくい面8aの主切れ刃5aがあった位置と同じ位置に、他のすくい面8bの主切れ刃5bが簡単に精度よく配置される。よって、切れ刃7を交換する際の位置決めが容易であり、作業に手間がかからない。
【0047】
また、一のすくい面8aを正面に見て、一のすくい面8aに連なる主切れ刃5aと、他のすくい面8bに連なる主切れ刃5bとのなす交差角θが、17°〜20°であるので、一のすくい面8aの切れ刃7を用いて溝入れ加工した際、他のすくい面8bの切れ刃7と溝壁Sとの接触が確実に防止されつつ、インサート本体4の剛性が確保される。
すなわち、前記交差角θが17°未満の場合は、他のすくい面8bの主切れ刃5bを溝幅方向に対して十分に傾斜させられず、該すくい面8bの切れ刃7が溝壁Sに接触するおそれがある。また、前記交差角θが20°を超えると、主切れ刃5の傾斜が大きくなるので、切削に供される切れ刃7の副切れ刃6が溝壁Sに接触しないように、該副切れ刃6を主切れ刃5から離間するに従い漸次厚さ方向に大きく後退させなければならず、これによりインサート本体4の厚さが薄くなって、該インサート本体4の剛性が確保できないおそれがある。
【0048】
また、一の主逃げ面9aを正面に見て、一の主逃げ面9aに連なる主切れ刃5aと、一の主逃げ面9aに背向する他の主逃げ面9cに連なる主切れ刃5cとが、X字状に交差するように互いに異なる向きに延びているので、下記の効果を奏する。すなわち、切削に供される一の主逃げ面9aの主切れ刃5aを、溝幅方向の一端から他端に向かうに従い漸次加工する溝の延在方向の前後いずれかに向かって傾斜するように配置でき、切れ味や切屑排出性を高めることができる。
【0049】
また、この切削インサート1は、四角形板状をなすインサート本体4の4コーナーにそれぞれ切れ刃7が形成されたスクエア型インサートであるので、インサート本体4の剛性が高く、かつ、切削インサート1の単位数量当たりの使用可能な切れ刃7の数が十分に確保されていて、工具寿命の延長が期待できる。すなわち、従来の棒状のドッグボーン型インサートにおいては、両端の2コーナーに切れ刃が形成されるのみであり、切れ刃の数が少なく、インサート本体の剛性も十分とは言えなかったため、工具寿命が短かった。
【0050】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、例えば下記に示すように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
【0051】
前述した実施形態では、切削インサート1及び刃先交換式溝入れ工具20が、円柱状をなす被削材Wの外面Eに外径溝入れ加工を施すものであるとしたが、それ以外の溝入れ加工を施すものであっても構わない。すなわち、前述の外径溝入れ加工に代えて、例えば円筒状をなす被削材Wの内面に内径溝入れ加工を施すものや、被削材Wの軸線方向を向く端面に端面溝入れ加工を施すものであってもよい。
【0052】
また、切削インサート1及び刃先交換式溝入れ工具20が、ターニングの溝入れ加工に用いられるものであるとしたが、これに限定されるものではなく、例えばスロッティングカッタ等、ミーリングの溝入れ加工に用いられるものであっても構わない。この場合、切削インサート1は、円柱状をなし工具軸線回りに回転する工具本体の先端外周部に周方向に間隔をあけて着脱可能に複数固定され、これら切削インサート1は、4つの切れ刃7のうち1つの切れ刃7をそれぞれ工具本体の外周面から突出させた状態で、被削材Wの壁面などに溝入れ加工を施す。
【0053】
また、前述した刃先交換式溝入れ工具20の形状は、溝入れ加工の種類により適宜設定可能であり、本実施形態で説明したものに限定されない。
また、前述の溝入れ加工には、通常の溝入れ加工以外に、突切り加工やぬすみ加工(アンダーカット加工)等も含まれる。
【0054】
また、前述の実施形態では、切削インサート1が、ネジ止めにより工具本体21に着脱可能に固定されるとしたが、これに代えて、クランプ機構により工具本体21に着脱可能に固定されてもよい。また、切削インサート1が、ネジ止め及びクランプ機構により工具本体21に着脱可能に固定されてもよい。尚、クランプ機構を用いる場合には、工具本体21の先端に上下方向に互いに間隔をあけて上顎部と下顎部が形成され、これら上顎部・下顎部が、切削インサート1の側面3a、3aを上下方向から狭持するようにクランプすることが好ましい。
【0055】
また、前述の実施形態では、図7及び図10に示されるように、切削インサート1の4つの主逃げ面9のうち、一の主逃げ面9aを正面に見て、一の主逃げ面9aに連なる主切れ刃5aと、一の主逃げ面9aに背向する他の主逃げ面9cに連なる主切れ刃5cとが、X字状に交差するように互いに異なる向きに延びているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、一の主逃げ面9aを正面に見て、一の主逃げ面9aに連なる主切れ刃5aと、一の主逃げ面9aに背向する他の主逃げ面9cに連なる主切れ刃5cとが、互いに平行とされて、厚さ方向Tに沿って延びていることとしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 切削インサート
2 四角形面
2a 一方の四角形面
2b 他方の四角形面
3 側面
3a すくい面が形成される側面
3b 主逃げ面が形成される側面
4 インサート本体
5 主切れ刃
5a 一のすくい面(一の主逃げ面)に連なる主切れ刃
5b 他のすくい面に連なる主切れ刃
5c 他の主逃げ面に連なる主切れ刃
6 副切れ刃
7 切れ刃
8 すくい面
8a 一のすくい面
8b 他のすくい面
9 主逃げ面
9a 一の主逃げ面
9c 他の主逃げ面
T 厚さ方向
θ 交差角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四角形板状をなし、厚さ方向を向く一対の四角形面、及び、これら四角形面の辺同士を厚さ方向に繋ぐ4つの側面、を有するインサート本体と、
前記インサート本体の隣接する前記側面同士の交差稜線をなし、厚さ方向に沿うように延びる主切れ刃、及び、前記主切れ刃の両端部から前記四角形面の辺に沿うように延びる一対の副切れ刃、を有する4つの切れ刃と、
前記4つの側面のうち、互いに背向する一対の側面に形成され、前記主切れ刃及び前記一対の副切れ刃に3方を囲まれるように四角形状をなす4つのすくい面と、を備え、
前記4つのすくい面のうち、一のすくい面を正面に見て、
前記一のすくい面に連なる前記主切れ刃と、前記一のすくい面に背向する他のすくい面に連なる前記主切れ刃とが、X字状に交差するように互いに異なる向きに延びていることを特徴とする切削インサート。
【請求項2】
請求項1に記載の切削インサートであって、
前記一のすくい面を正面に見て、
前記一のすくい面に連なる前記主切れ刃は、前記一対の四角形面のうち一方の四角形面から他方の四角形面側に向かうに従い漸次前記四角形面の外側に向かって傾斜して延びており、
前記他のすくい面に連なる前記主切れ刃は、前記一方の四角形面から前記他方の四角形面側に向かうに従い漸次前記四角形面の内側に向かって傾斜して延びていることを特徴とする切削インサート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の切削インサートであって、
前記一のすくい面を正面に見て、
前記一のすくい面に連なる前記主切れ刃と、前記他のすくい面に連なる前記主切れ刃とのなす交差角が、17°〜20°であることを特徴とする切削インサート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の切削インサートであって、
前記4つの側面のうち、前記すくい面が形成された一対の側面とは異なる他の一対の側面には、前記主切れ刃を挟んで前記すくい面とは反対側に位置する4つの主逃げ面が形成され、
前記4つの主逃げ面のうち、一の主逃げ面を正面に見て、
前記一の主逃げ面に連なる前記主切れ刃と、前記一の主逃げ面に背向する他の主逃げ面に連なる前記主切れ刃とが、X字状に交差するように互いに異なる向きに延びていることを特徴とする切削インサート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−179667(P2012−179667A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42714(P2011−42714)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】