説明

切削加工装置

【課題】本発明は、切削工具と被削材との当接部の冷却を促進することが可能な切削加工装置を提供することを目的とする。
【解決手段】切削工具1により被削材2を切削加工するための切削加工装置100であって、前記切削工具1における前記被削材2との当接部12の近傍に電気的に接続する第1導体部21と、前記第1導体部21が前記切削工具1に接続する位置よりも当該当接部12から離れた位置において前記切削工具1に電気的に接続する第2導体部22、23と、前記第1導体部21から前記切削工具1を通過して前記第2導体部22、23に電子が移動するように、当該第1導体部21と当該第2導体部22、23との間に電圧を印加する第1電圧印加手段50Aと、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具により被削材を切削加工するための切削加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切削加工時において被削材の温度を調節しながら切削加工する切削加工装置として、特許文献1に記載の加工機械が知られている。この加工機械は、切削加工時に発生する熱を吸熱しつつ被削材を切削加工するものであり、ワークを冷却する冷却手段を備えて構成されるものである。冷却手段は、例えば、ワーク保持手段に内蔵されたペルチェ素子を含む吸熱回路によって構成されている。これにより、ペルチェ素子に直流電流を流して吸熱減少を生じさせ、ワークの冷却を可能としている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−95618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された加工機械では、ワークを周囲から冷却して、切削工具と被削材との接点において発生する熱をワークの熱伝導により冷却された周囲に向かって分散させ、吸熱することは可能であるものの、例えば、熱伝導率の低いワークを切削する場合は、接点において発生する熱が分散されにくく、局所的に温度が上昇してしまう虞がある。そのため、切削工具における被削材との当接部の温度が上昇し易く、工具寿命を著しく短くする虞がある。特に、熱伝導率が小さく化学的活性が高い材料特性を持つチタン合金等を被削材として用いる場合は、切削工具の当接部における熱の発生による影響が大きくなる。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、切削工具と被削材との当接部の冷却を促進することが可能な切削加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明は、切削工具により被削材を切削加工するための切削加工装置に関する。そして、本発明に係る切削加工装置は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。すなわち、本発明の切削加工装置は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る切削加工装置における第1の特徴は、切削工具により被削材を切削加工するための切削加工装置であって、前記切削工具における前記被削材との当接部の近傍に電気的に接続する第1導体部と、前記第1導体部が前記切削工具に接続する位置よりも当該当接部から離れた位置において前記切削工具に電気的に接続する第2導体部と、前記第1導体部から前記切削工具を通過して前記第2導体部に電子が移動するように、当該第1導体部と当該第2導体部との間に電圧を印加する第1電圧印加手段と、を備えることである。
【0008】
この構成によると、切削の際、第1電圧印加手段により電圧を印加することで、切削工具に、被削材との当接部の側から、当該当接部から離れる方向に向かって電子が移動するように、電流を流すことができる。このように電流を流すことにより、トムソン効果により電流を流さない時と比べて、より多くの熱を当接部の側から、当該当接部から離れる方向に向かって移動させることが可能となる。これにより、切削工具と被削材との当接部で発生する熱が放熱され易くなり、当該当接部の冷却を促進することが可能となる。
【0009】
また、本発明に係る切削加工装置における第2の特徴は、前記当接部の近傍における前記切削工具の温度を測定する温度測定手段と、前記第1電圧印加手段から印加される電圧を制御する第1電圧制御手段と、を更に備え、前記第1電圧制御手段は、前記温度測定手段の測定結果に基づいて前記第1電圧印加手段から印加される電圧を制御することである。
【0010】
この構成によると、切削工具における被削材との当接部近傍の温度に基づいて、切削工具に流す電流を調整することができる。例えば、切削工具の温度が所定の温度よりも上昇した場合にのみ切削工具に電流を流して、当接部で発生する熱の放熱を促進するように制御することが可能である。これにより、切削時の切削工具の温度変化に対応してより適切な電圧制御を行うことが可能となると共に、消費電力を抑えて効率よく切削加工装置を制御することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る切削加工装置における第3の特徴は、前記被削材と電気的に接続される被削材用導体部と、第2導体部と前記被削材用導体部との間に設置される電位差測定手段と、前記第2導体部と前記第1電圧印加手段とをつなぐ電気回路を開閉可能な切換スイッチと、前記第1電圧印加手段から印加される電圧を制御する第1電圧制御手段と、を備え、前記第1電圧制御手段は、前記切換スイッチにより、前記第2導体部と前記第1電圧印加手段とをつなぐ電気回路が遮断されているときの、前記電位差測定手段の測定電圧に基づいて前記第1電圧印加手段から印加される電圧を制御することである。
【0012】
この構成によると、電位差測定手段により、切削工具と被削材との電位差が測定可能である。ここで、異なる二つの材料が、互いに二点で接してループ回路を形成したときに、一の接点と他の接点との間で温度差がある場合には、ゼーベック効果により当該ループ回路に熱起電力が発生することになる。切削工具と被削材とは通常異なる材料で構成されるため、上記原理により、切削工具と被削材との一の接点(切削点となる当接部)と切削工具における第2導体部との接点との間、又は、当該切削点となる当接部と被削材用導体部との接点との間、に温度差がある場合は、当該温度差に対応して熱起電力が生じ、結果として、切削工具における第2導体部との接点と、被削材用導体部との接点と、の間に電圧が生じることになる。これにより、切削工具の当接部における温度に対応した電圧データを取得することが可能となり、当該電圧データに基づいて、第1電圧印加手段により印加する電圧を調整可能となる。また、切換スイッチにより、第1電圧印加手段の電圧が切削工具に印加されないように電気回路を遮断した状態で、電位差測定手段により被削材と切削工具の間の電圧を測定することができるため、第1電圧印加手段により印加される電圧に影響されることなく、被削材及び切削工具の熱起電力のみを測定することが容易に可能となる。
【0013】
また、本発明に係る切削加工装置における第4の特徴は、前記被削材用導体部と前記第2導体部との間に配置され、当該被削材用導体部及び当該第2導体部を介して前記切削工具と前記被削材との間に電位差を発生させるように所定の電圧を印加する第2電圧印加手段を更に備えることである。
【0014】
この構成によると、切削加工時において、第2電圧印加手段により切削工具と被削材との間に電圧を印加することが可能となる。切削加工時においては切削工具と被削材とが接触しているため、切削工具と被削材との間に電圧を印加することにより、切削工具と被削材との接触点に電流を流すことが可能となる。切削工具と被削材とは通常、異なる種類の材料で形成されているため、切削工具と被削材との当接部に電流が流れることにより、当該当接部においてペルチェ効果による発熱又は吸熱が起こる。したがって、ペルチェ効果による吸熱が起こる方向に電流を流すことにより、切削工具と被削材との当接部を直接的に冷却することが可能となり、第2電圧印加手段による印加電圧を制御することにより当該当接部の温度調節を行うことが可能となる。この場合、当該当接部が直接冷却されるため、温度応答性が高くなるとともに、電圧を制御することによりペルチェ効果による吸熱量を容易に制御できるため有効である。
【0015】
また、本発明に係る切削加工装置における第5の特徴は、前記被削材用導体部と前記第2導体部との間に配置され、当該被削材用導体部及び当該第2導体部を介して前記切削工具と前記被削材との間に電位差を発生させるように所定の電圧を印加する第2電圧印加手段と、前記第2電圧印加手段により印加される電圧を制御する第2電圧制御手段と、を備え、前記第2電圧制御手段は、前記温度測定手段の測定値に基づいて、前記第2電圧印加手段により印加される電圧を制御することである。
【0016】
この構成によると、温度測定手段による切削工具の温度の測定値に基づいて第2電圧印加手段により印加される電圧を制御することにより、ペルチェ効果による吸熱量を制御することができる。これにより、切削工具における当接部の温度を切削加工に適した温度に、より高精度に調整することが可能となる。
【0017】
また、本発明に係る切削加工装置における第6の特徴は、前記被削材用導体部と前記第2導体部との間に配置され、当該被削材用導体部及び当該第2導体部を介して前記切削工具と前記被削材との間に電位差を発生させるように所定の電圧を印加する第2電圧印加手段と、前記第2電圧印加手段により印加される電圧を制御する第2電圧制御手段と、を備え、前記切換スイッチは、前記第2導体部と前記第2電圧印加手段とをつなぐ電気回路を開閉可能であって、(1)前記第2導体部と前記第1電圧印加手段とをつなぐ電気回路を接続するとともに前記第2導体部と前記第2電圧印加手段とをつなぐ電気回路を遮断する第1状態と、(2)前記第2導体部と前記第1電圧印加手段とをつなぐ電気回路を遮断するとともに前記第2導体部と前記第2電圧印加手段とをつなぐ電気回路を接続する第2状態と、(3)前記第2導体部と前記第1電圧印加手段とをつなぐ電気回路を遮断するとともに前記第2導体部と前記第2電圧印加手段とをつなぐ電気回路を遮断する第3状態と、
に切換可能に構成され、前記第2電圧制御手段は、前記切換スイッチが前記第3状態に切り換えられたときの前記電位差測定手段による測定値に基づいて、前記第1電圧印加手段及び前記第2電圧印加手段により印加される電圧を制御することである。
【0018】
この構成によると、切換スイッチが、第1状態に切り換えられているときには、第1電圧印加手段により、切削工具に電流を流して、トムソン効果により当接部の熱の放熱を促進させることが可能である。また、切換スイッチが、第2状態に切り換えられているときには、第2電圧印加手段により、切削工具と被削材との間に電流を流して、ペルチェ効果により当接部の冷却が可能となる。また、切換スイッチが、第3状態に切り換えられているときには、第1電圧印加手段及び第2電圧印加手段の電圧が切削工具及び被削材に印加されないように電気回路を遮断した状態で、電位差測定手段により被削材と切削工具の間の電圧を測定することができるため、第1電圧印加手段及び第2電圧印加手段により印加される電圧に影響されることなく、被削材及び切削工具の熱起電力のみを測定することが容易に可能となる。これにより、切削工具の当接部における温度に対応した電圧データを取得することが可能となり、当該電圧データに基づいて、第1電圧印加手段及び第2電圧印加手段により印加する電圧を調整可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る切削加工装置100の全体概略図である。この切削加工装置100は、微細加工を行うために用いられる装置であり、例えば微小部品の切削加工、金属等の表面仕上げ加工、表面に微細なパターンを形成する加工等の用途に用いることができる。本実施形態においては、被削材2としてチタン合金を切削加工する場合を例に挙げて説明する。
【0021】
切削加工装置100は、被削材2に当接させて切削するための超硬合金工具であるチップ1(切削工具)と、当該チップ1を保持するための保持部材であるチップホルダー3と、被削材2を保持するとともに回転動作させるための被削材保持部4と、チップ1に電圧を印加するための第1電源装置50A及びコンピュータ53等を含むコントローラ部5(図7参照)と、を備えている。
【0022】
被削材保持部4は、装置本体に対して回転可能に支持されており、駆動装置(図示せず)により回転される主軸41と、当該主軸41の端部に固定されたチャック部42と、を備えている。チャック部42は、主軸41の端部に固定されるベース部材42aと、当該ベース部材42aに対してスライド可能に設けられ互いの間隔を調整可能な複数のチャック爪42b・42bと、を備えて構成される。被削材2は、例えばセラミック等の絶縁部材43と、例えば銅等の導電性の金属により形成された導座44と、を介して複数のチャック爪42b・42bの間に挟持された状態で、被削材保持部4に保持される。
【0023】
被削材保持部4には、回転軸方向におけるチャック爪42b側の一端から他端に向かって、棒状の電導ロッド6が貫設されており、被削材保持部4の回転に伴って当該電導ロッド6も回転するように構成されている。当該電導ロッド6は、銅等の導電体により形成されてチャック部42側の一端から他端まで延びる棒状の導電部61と、当該導電部61が主軸41及びチャック部42と電気的に接触することがないように当該導電部61の周囲を覆うゴム又はプラスチック等の絶縁体で形成された絶縁部62と、を備えている。
【0024】
電導ロッド6の導電部61におけるチャック部42側に位置する一端は、導線63を介して導座44に対して電気的に接続されている。また、導電部61の他端は、回転接続用のコネクタ部7に接続されており、主軸41の回転に伴って導電部61が回転している状態においても、コネクタ部7における電気的な接続が遮断されることはない。当該回転接続用のコネクタ部7は、例えば、導電部61の端部において導電部61の軸方向と垂直な面をなすように形成された円板の一部を、水銀槽内の水銀に浸した状態とすることにより、回転時においても電気的な接続を保つように構成されたものを用いることができる。また、当該回転接続用のコネクタ部7には導線71が接続されており、導線71を介してコントローラ部5が電気的に接続されている。
【0025】
このように、コントローラ部5から被削材2までが、導線71、回転接続用のコネクタ部7、電導ロッド6の導電部61、導線63、及び導座44からなる被削材用導体部20(図7参照)を介して電気的に接続されている。
【0026】
図2は、チップ1のチップホルダー3への取り付け状態を説明するための概略図である。また、図3は、チップ1を拡大して示す平面図であり、図4は、図3におけるS1−S1断面矢視図であり、チップ1に導線を電気的に接続したとき状態を示す図である。
【0027】
図2及び図3に示すように、チップ1は、例えば正三角形の板状に形成されており、三角形の頂点となる3つの角部の近傍において、3つの貫通孔1a、1b、1cが形成されている。図3及び図4に示すように貫通孔1a、1b、1cは、正三角形の中心に対して対称に形成され、それぞれチップ1の正三角形の頂点近傍に一端を開口させ、当該一端の開口よりも正三角形の中心に近づく位置に他端を開口させて形成されている。また、貫通孔1a、1b、1cは、チップ1の頂点近傍の開口側において、縮径した縮径部1sを有するように形成されている。本実施形態においては、貫通孔1aが隣接するチップ1の角部を被削材2に当接させて切削を行う場合について説明する。尚、チップ1の形状が対称的に形成されているため、貫通孔1b、1cに隣接する角部を用いても同様に切削を行うことが可能である。
【0028】
図4に貫通孔1aについて示すように、チップ1に接続する銅等により形成された導線21(第1導体部)は、端部を縮径部1sと逆側の開口から当該縮径部1sまで挿入され、縮径部1sにおいて例えば銀ろう90等によりろう付け接続される。そして、ろう付け接続の後、チップ1と同じ材質の栓91を開口から嵌挿して縮径部を塞ぎ、縮径部1sから貫通孔1aの外側に突出した栓91の部分が切削、研磨等により除去される。また、導線21がろう付け部以外でチップ1と接触しないように、貫通孔1a内において導線21の周囲には絶縁スリーブ92が挿入される。チップ1に形成された他の貫通孔1b、1cについても同様にして、それぞれ導線22、23(第2導体部)が接続される。
【0029】
図2に示すように、チップホルダー3の長手方向における端部近傍には、チップ1を設置するための略V字状のチップ保持溝31が形成されている。チップ保持溝31は、チップホルダー3の上面と略平行な面として形成された底面31aと、当該底面31aと垂直面をなす側面31b及び側面31cと、からなる。また、チップホルダー3におけるチップ保持溝31に近接した位置に、前記底面31aと垂直な方向に向かって当該チップホルダー3を貫通するねじ穴32が形成されている。
【0030】
図5は、図2におけるチップ1を取り付けた状態の、ねじ穴32及びチップホルダー3の貫通穴33を通る断面を示す図である。図5に示すように、チップホルダー3には、チップ保持溝31の底面31aからねじ穴32に貫通するように屈曲して形成された貫通穴33が形成されている。ねじ穴32には、ロックスクリュー34が所定の深さに位置するように螺挿されている。当該ロックスクリュー34は、軸方向における一部にねじ頂部に比べて径が小さい凹部34aが形成されており、当該凹部34aが貫通穴33におけるねじ穴32への開口部に位置するように配置されている。
【0031】
また、チップ保持溝31の貫通穴33には、セラミックロッド35が挿入される。当該セラミックロッド35は、例えばジルコニア等を用いて、略L字状に形成され、一端35a側は板状に延び、他端35b側は略円筒状の軸として形成されている。当該セラミックロッド35は、板状に形成された一端35aが、底面31a側から貫通穴33を通過してねじ穴32に設置されているロックスクリュー34の凹部34aに挿入されるように設置される。尚、セラミックロッド35がチップ保持溝31の貫通穴33に挿入された状態においては、セラミックロッド35の他端35b側の軸が底面31aの貫通穴33から突出するように配置される。
【0032】
絶縁板36及びチップ1は、それぞれ中央部に貫通穴36d及び貫通穴1dが形成されており、セラミックロッド35をチップホルダー3の貫通穴33に挿入した後、絶縁板36の貫通穴36d及びチップ1の貫通穴1dにセラミックロッド35の端部35bを挿入させて、チップ保持溝31の底面31a上に積層される(図2参照)。絶縁板36は、三角形状の板部材として形成され、チップホルダー3の側面31b、31cに対向する2辺において、積層方向に立設する壁面が形成されている。当該絶縁板36が、チップ1とチップホルダー3との間に配置されることで、チップ1とチップホルダー3との間が電気的に絶縁される。
【0033】
また、図6にチップホルダー3に設置された状態のチップ1の斜視図を模式的に示すように、絶縁板36には、貫通孔36a、36b、36c、が形成されており、また、チップホルダー3には、貫通孔3a、3b、3cが形成されている。そして、チップ1の貫通孔1a、1b、1cと連通する位置に、それぞれ貫通孔36a、36b、36c、及び、貫通孔3a、3b、3cが位置し、チップ1の底面から延出する導線21、22、23は、これらの貫通孔36a〜36c、3a〜3cを通ってチップホルダー3の下方に延出する。
【0034】
図5に示すように、底面31aからねじ穴32まで貫通する貫通穴33には、セラミックロッド35の屈曲部35cに当接して支持可能な段状部33aが形成されている。セラミックロッド35は、チップ1等の積層方向において当該段状部に屈曲部35cを支持された状態で、端部35aをチップ1側とは逆側に向かってロックスクリュー34に付勢されることにより、屈曲部35cを支点として回転力を受け、他端35bがねじ穴32の軸線方向に近づくように移動する。これにより、チップ1はセラミックロッド35の端部35bによりチップ保持溝31における側面31bと側面31cとで形成される角部に向かって付勢され、チップ保持溝31の側面31b、31cとの間に絶縁板36を挟みこんだ状態で固定される。また、チップ1は、セラミックロッド35の端部35bから底面31a側に向かって力を受けて保持されることになる。
【0035】
このように、コントローラ部5からチップ1までが、導線21、22、23を介して電気的に接続されている。
【0036】
次に、コントローラ部5の構成について説明する。図7は、本実施形態に係る切削加工装置100の制御回路を模式的に示す図である。図7に示すように、チップ1における被削材2との当接部12から離れた位置で接続されている導線22及び23は、接点24aにおいて、コントローラ部5から延びる導線24から分岐するように構成されている。コントローラ部5は、チップ1の当接部12の近傍に接続されている導線21と、チップ1における当接部12から離れた位置で接続されている導線22及び23に接続する導線24と、を介してチップ1に所定の電圧を印加可能な第1電源装置50A(第1電圧印加手段)と、導線24(導線22、23)及び被削材用導体部20を介して被削材2とチップ1との間の電圧を測定可能な電圧計52(電位差測定手段)と、電圧計52により測定された電圧測定値に基づいて第1電源装置50Aが発生する電圧を制御することが可能なコンピュータ53(第1電圧制御手段)と、第1電源装置50Aと導線24とを電気的に接続する回路を遮断可能な切換スイッチ54と、を備えている。
【0037】
切換スイッチ54は、第1電源装置50Aと導線24とをつなぐ電気回路を接続するとともに電圧計52と導線24とをつなぐ電気回路を遮断した電源接続状態(図7におけるa1に接続した状態)と、第1電源装置50Aと導線24とをつなぐ電気回路を遮断して電圧計52と導線24とをつなぐ電気回路を接続した電圧計接続状態(図7におけるa2に接続した状態)と、に切換可能に設置されている。これより、切換スイッチ54が電源接続状態にあるときは、第1電源装置50Aから所定の電圧をチップ1に印加し、チップ1内に電流を通電させることが可能である。一方、切換スイッチ54が電圧計接続状態にあるときは、第1電源装置50Aによりチップ1に電圧が印加されていない状態の、チップ1と被削材2との間の電圧(熱起電力)を測定することができる。尚、当該切換スイッチ54の切換制御は、コンピュータ53により行われる。
【0038】
次に、切削加工時における切削加工装置100の制御動作について説明する。
【0039】
切削加工は、被削材保持部4が所定の速度で回転した状態で、当該被削材保持部4のチャック部42に固定された被削材2にチップ1を当接させることにより行われる(図1参照)。切削加工が行われている際には、切換スイッチ54は所定の時間間隔で電源接続状態と電圧計接続状態とに切り換えられる。具体的には、例えば、電源接続状態を5秒間維持し、その後、電圧計接続状態を0.5秒間維持する動作を繰り返すように切換スイッチ54を制御する。コンピュータ53は、予め当該制御を行う設定がなされている。尚、電圧計接続状態においては、電圧計接続状態は短時間であることが望ましく、例えば電圧計52のサンプリング周期の1倍〜5倍程度の時間であることが望ましい。これにより、第1電源装置50Aによりチップ1に電圧を印加できなくなる時間を少なくすることが可能となる。
【0040】
コンピュータ53は、電圧計接続状態における電圧計52の電圧測定値に基づいて、当該電圧測定値が所定の電圧値よりも大きくなった場合、即ち、被削材2とチップ1との当接部12の温度が所定の温度を超えて上昇することにより被削材2とチップ1とに発生する熱起電力が所定の値よりも大きくなった場合は、第1電源装置50Aを制御して導線21及び導線24に電圧を印加する。このとき、第1電源装置50Aの印加電圧は、チップ1において導線21との接点から導線22、23との接点に向かって電子が移動するように、即ち、導線21よりも導線24の電位が高くなるように制御される。これにより、チップ1内において、被削材2との当接部12の近傍から、当該当接部12から離れる向きに電子が移動するため、トムソン効果により当該当接部12から離れる向きへの熱の伝達を促進することができる。したがって、切削時において当接部12で発生する熱の放熱が促進される。
【0041】
以上、説明したように、本実施形態に係る切削加工装置100は、チップ1により被削材2を切削加工するものであって、チップ1における被削材2との当接部12の近傍に電気的に接続する導線21と、導線21がチップ1に接続する位置よりも当接部12から離れた位置においてチップ1に電気的に接続する導線22、23と、導線21からチップ1を通過して導線22、23に電子が移動するように、導線21と導線22、23との間に電圧を印加する第1電源装置50Aと、を備えている。
【0042】
この構成によると、切削の際、第1電源装置50Aにより電圧を印加することで、チップ1に、被削材2との当接部12の側から、当該当接部12から離れる方向に向かって電子が移動するように、電流を流すことができる。このように電流を流すことでトムソン効果により、電流を流さない時と比べて、より多くの熱を当接部12の側から、当該当接部12から離れる方向に向かって移動させることが可能となる。これにより、チップ1と被削材2との当接部12で発生する熱が放熱され易くなり、当該当接部12の冷却を促進することが可能となる。
【0043】
また、被削材2と電気的に接続される被削材用導体部20と、導線22、23につながる導線24と被削材用導体部20との間に設置される電圧計52と、導線24と第1電源装置50Aとをつなぐ電気回路を開閉可能な切換スイッチ54と、を更に備えている。そして、コンピュータ53は、切換スイッチ54により、導線24と第1電源装置50Aとをつなぐ電気回路が遮断されているときの、電圧計52の測定電圧に基づいて第1電源装置50Aから印加される電圧を制御する。
【0044】
この構成によると、電圧計52により、チップ1と被削材2との電位差が測定可能である。ここで、異なる二つの材料が、互いに二点で接してループ回路を形成したときに、一の接点と他の接点との間で温度差がある場合には、ゼーベック効果により当該ループ回路に熱起電力が発生することになる。チップ1と被削材2とは通常異なる材料で構成されるため、上記原理により、チップ1と被削材2との一の接点(切削点となる当接部12)とチップ1における導線22、23との接点との間、又は、当該切削点となる当接部12と被削材2における被削材用導体部20との接点との間、に温度差がある場合は、当該温度差に対応して熱起電力が生じ、結果として、チップ1における導線22、23との接点と、被削材2における被削材用導体部20との接点と、の間に電圧が生じることになる。これにより、チップ1の当接部12における温度に対応した電圧データを取得することが可能となり、当該電圧データに基づいて、第1電源装置50Aにより印加する電圧を調整可能となる。また、切換スイッチ54により、第1電源装置50Aの電圧がチップ1に印加されないように電気回路を遮断した状態で、電圧計52により被削材2とチップ1の間の電圧を測定することができるため、第1電源装置50Aにより印加される電圧に影響されることなく、被削材2及びチップ1の熱起電力のみを測定することが容易に可能となる。
【0045】
また、切削加工装置100には、装置本体に対して回転可能に設けられ前記被削材2を挟みこんで固定可能なチャック部42が備えられ、前記被削材2を当該チャック部42により挟みこんで回転させた状態で、前記チップ1を当該被削材2に対して当接させることにより、当該被削材2の切削加工を行うことができる。そして、前記被削材用導体部20は、前記チャック部42と前記被削材2との間に介装される導座44と、当該導座44に導線63を介して電気的に接続される電導ロッド6の導電部61と、回転接続用のコネクタ部7と、を有している。当該コネクタ部7は、前記導電部61に対して、前記チャック部42の回転方向と同方向に相対回転可能に設置され、前記コネクタ部7と前記第1電源装置50Aを備えるコントローラ部5とが導線71を介して電気的に接続されている。
【0046】
この構成によると、チャック部42により被削材2を固定すると同時に被削材用導体部20と被削材2とを電気的に接続することができるため、被削材2の設置が容易に可能となる。したがって、切削加工を行うための被削材2の設置及び電圧計52との接続が手間を掛けることなく容易に可能となる。また、導座44等とコネクタ部7とは、電気的な接続状態を維持しつつ相対回転可能に設置されているため、被削材2とともに導座44等が回転している間も電圧計52によりチップ1と被削材2との間の電圧を測定することが可能となる。
【0047】
尚、本実施形態で示したように、チップ1と被削材2とに発生する熱起電力を測定する場合に限らず、チップ1における当接部12近傍部の温度を例えば赤外線放射温度計等の非接触温度計(温度測定手段)を用いて測定する構成とすることもできる。即ち、当接部12の近傍におけるチップ1の温度を測定する温度測定手段を設け、コンピュータ53により、温度測定手段の測定結果に基づいて第1電源装置50Aから印加される電圧を制御させてもよい。第1電源装置50Aの印加電圧の制御方法としては、例えば、温度測定手段により検出される当接部12近傍部の温度が所定の温度よりも高い場合は、電圧を印加してチップ1に電流を流し、所定の温度以下の場合は、電圧の印加を停止するように制御することができる。
【0048】
(第2実施形態)
図8に、第2実施形態に係る切削加工装置の制御回路を示す。第2実施形態に係る切削加工装置においては、第2電源装置50B(第2電圧印加手段)を更に備え、切換スイッチ56の構成が異なる点で、第1実施形態に係る切削加工装置と異なる。尚、第1実施形態と同一部材には同一符号を付し説明を省略する。
【0049】
第2電源装置50Bは、被削材用導体部20と導線24との間に配置され、チップ1と被削材2との間に電位差を発生させるように所定の電圧を印加する電源装置である。当該第2電源装置50Bはコンピュータ53(第1電圧制御手段、第2電圧制御手段)に接続されており、印加電圧を当該コンピュータ53により自動的に制御される。
【0050】
切換スイッチ56は、(1)導線24と第1電源装置50Aとをつなぐ電気回路を接続するとともに、当該導線24と、前記第2電源装置50B及び電圧計52と、をつなぐ電気回路を遮断する第1電源接続状態(第1状態、図8におけるb1に接続された状態)と、(2)導線24と第2電源装置50Bとをつなぐ電気回路を接続するとともに、導線24と、第1電源装置50A及び電圧計52と、をつなぐ電気回路を遮断する第2電源接続状態(第2状態、図8におけるb2に接続された状態)と、(3)導線24と電圧計52とをつなぐ電気回路を接続するとともに、導線24と、第1電源装置50A及び第2電源装置50Bと、をつなぐ電気回路を遮断する電圧計接続状態(第3状態、図8におけるb3に接続された状態)と、に切換可能なスイッチである。
【0051】
切削加工が行われている際には、切換スイッチ56は所定の時間間隔で電圧計接続状態になるようにコンピュータ53により自動的に切り換えられる。具体的には、例えば、第1電源接続状態又は第2電源接続状態を5秒間維持し、その後、電圧計接続状態を0.5秒間維持する動作を繰り返すように制御される。
【0052】
コンピュータ53は、電圧計接続状態における電圧計52の電圧測定値に基づいて、当該電圧測定値が所定の第1電圧値よりも大きくなった場合、即ち、チップ1における当接部12の温度が所定の第1温度よりも高くなった場合は、切換スイッチ56を第1電源接続状態に切り換えるように制御する。このとき、第1電源装置50Aの印加電圧は、チップ1において導線21との接点から導線22、23との接点に向かって電子が移動するように、即ち、導線21よりも導線24の電位が高くなるように制御される。これにより、チップ1内において、被削材2との当接部12の近傍から、当該当接部12から離れる向きに電子が移動するため、トムソン効果により当該当接部12から離れる向きへの熱の伝達を促進することができる。したがって、当接部12において発生する熱を効率よく放熱することが可能となる。
【0053】
また、コンピューター53は、電圧計52により測定される電圧測定値が所定の第1電圧値よりも大きい所定の第2電圧値以上になった場合は、切換スイッチ56を第2電源接続状態に切り換えるように制御する。この場合、被削材2とチップ1との当接部12に電流が通電される。尚、当接部12に流れる電流の向きは、ペルチェ効果により吸熱が発生する向きになるように制御される。これにより、当接部12において、ペルチェ効果による吸熱作用が生じるため、当該当接部12を直接冷却することが可能となる。これにより、例えば、被削材2を高速回転させて切削加工を行う場合等、チップ1と被削材2との当接部12における発熱量が大きい場合においても、当接部12の温度が過度に上昇することを抑制可能となる。
【0054】
以上、説明したように、第2実施形態に係る切削加工装置は、被削材用導体部20と導体24との間に配置され、被削材用導体部20及び導線24を介してチップ1と被削材2との間に電位差を発生させるように所定の電圧を印加する第2電源装置50Bを備えている。
【0055】
この構成によると、切削加工時において、第2電源装置50Bによりチップ1と被削材2との間に電圧を印加することが可能となる。切削加工時においてはチップ1と被削材2とが接触しているため、チップ1と被削材2との間に電圧を印加することにより、チップ1と被削材2との当接部12に電流を流すことが可能となる。チップ1と被削材2とは通常、異なる種類の材料で形成されているため、チップ1と被削材2との当接部12に電流が流れることにより、当該当接部12においてペルチェ効果による発熱又は吸熱が起こる。したがって、ペルチェ効果による吸熱が起こる方向に電流を流すことにより、チップ1と被削材2との当接部12を直接的に冷却することが可能となり、第2電源装置50Bによる印加電圧を制御することにより当該当接部12の温度調節を行うことが可能となる。この場合、当該当接部12が直接冷却されるため、温度応答性が高くなるとともに、電圧を制御することによりペルチェ効果による吸熱量を容易に制御できるため有効である。
【0056】
また、切換スイッチ56は、導線24と第2電源装置50Bとをつなぐ電気回路を開閉可能であって、(1)導線24と第1電源装置50Aとをつなぐ電気回路を接続するとともに導線24と第2電源装置50Bとをつなぐ電気回路を遮断する第1電源接続状態と、(2)導線24と第1電源装置50Aとをつなぐ電気回路を遮断するとともに導線24と第2電源装置50Bとをつなぐ電気回路を接続する第2電源接続状態と、(3)導線24と第1電源装置50Aとをつなぐ電気回路を遮断するとともに導線24と第2電源装置50Bとをつなぐ電気回路を遮断する電圧計接続状態と、に切換可能に構成されている。そして、コンピュータ53は、切換スイッチ56が前記電圧計接続状態に切り換えられたときの電圧計52による測定値に基づいて、第1電源装置50A及び第2電源装置50Bにより印加される電圧を制御する。
【0057】
この構成によると、切換スイッチ56が、第1電源接続状態に切り換えられているときには、第1電源装置50Aにより、チップ1に電流を流して、トムソン効果により当接部12の熱の放熱を促進させることが可能である。また、切換スイッチ56が、第2電源接続状態に切り換えられているときには、第2電源装置50Bにより、チップ1と被削材2との間に電流を流して、ペルチェ効果により当接部12の冷却が可能となる。また、切換スイッチ56が、電圧計接続状態に切り換えられているときには、第1電源装置50A及び第2電源装置50Bの電圧がチップ1及び被削材2に印加されないように電気回路を遮断した状態で、電圧計52により被削材2とチップ1の間の電圧を測定することができるため、第1電源装置50A及び第2電源装置50Bにより印加される電圧に影響されることなく、被削材2及びチップ1の熱起電力のみを測定することが容易に可能となる。これにより、チップ1の当接部12における温度に対応した電圧データを取得することが可能となり、当該電圧データに基づいて、第1電源装置50A及び第2電源装置50Bにより印加する電圧を調整可能となる。
【0058】
尚、チップ1における当接部12近傍部の温度を非接触温度計等の温度測定手段を用いて測定する構成とすることもできる。即ち、コンピュータ53により、当該温度測定手段の測定結果に基づいて第2電源装置50Bから印加される電圧を制御させてもよい。
【0059】
(第3実施形態)
図9に、第3実施形態に係る切削加工装置の制御回路を示す。第3実施形態に係る切削加工装置は、チップ1と導線22との接点80Aに例えばコンスタンタンからなる導線80の一端を電気的に接続している。また、当該導線80の他端80Bと、導線22と、の間の電圧を測定できるように電圧計82が設置されている。
【0060】
また、被削材2と第2電源装置50Bとの間の被削材用導体部20には、電流計55が介設されており、被削材2とチップ1との当接部12を流れる電流値を測定することが可能となっている。電圧計82及び電流計55の測定データは、コンピュータ53に送信され、コンピュータ53は、当該データに基づいて第2電源装置50Bの印加電圧を制御する。尚、その他の部分は、第2実施形態に係る切削加工装置と同様であり、同一部材には同一符号を付し説明を省略する。
【0061】
このように、コンスタンタンからなる導線80と銅からなる導線22とが接続されて構成されるため、導線80及び導線22を、チップ1との接点80Aにおける温度を測定する熱電対として用いることができる。即ち、電圧計82により、導線80における接点80Aとは逆側の端部80Bと、導線22と、の間の電圧を測定することで、導線80と導線22との接点80Aの温度θaを測定することが可能となる。
【0062】
具体的には、導線80の端部80Bの温度θbを、例えば室温に保つことにより一定温度としたときに、導線80及び導線22に生じる熱起電力を測定することにより、コンスタンタン(導線80)及び銅(導線22)の物性値(ゼーベック係数)に基づいて、導線80と導線22との接点80Aの温度を算出することができる。尚、導線80の端部80Bを氷水等に浸すことにより、当該端部の温度を一定(略0度)に保つことも可能である。
【0063】
上記のようにして算出された接点80Aの温度θaを基準温度として、チップ1で発生する熱起電力から、チップ1と被削材2との当接部12の温度を算出することが可能となる。コンピュータ53は、算出される当接部12の温度に基づいて、第1電源装置50Aまたは第2電源装置50Bにより印加される電圧を制御する。
【0064】
また、第2電源装置50Bから被削材2及びチップ1に対して電圧が印加されている際には、被削材2とチップ1とに流れる電流値が一定になるように印加電圧がコンピュータ53により制御される。具体的には、電流計55の測定電流値に基づいて、電流計55による電流測定値が所定の電流値よりも小さくなった場合は、第2電源装置50Bにより印加する電圧を増加させるように制御される。また、電流計55による電流測定値が所定の電流値よりも大きくなった場合は、第2電源装置50Bにより印加する電圧を減少させるように制御される。
【0065】
以上説明したように、第3実施形態に係る切削加工装置においては、前記チップ1と前記被削材2との当接部12を流れる電流を測定可能な電流計55を更に備え、前記コンピュータ53は、切削加工時において前記電流計55によって測定される電流値に基づいて前記第2電源装置50Bにより印加される電圧を制御する。
【0066】
この構成によると、切削加工時においてチップ1と被削材2との当接部12に流れる電流に基づいて、コンピュータ53により第2電源装置50Bから印加される電圧が制御される。ここで、ペルチェ効果による吸熱量は、当接部12を流れる電流に対応した熱量となる。一方、チップ1と被削材2との間に一定の電圧を印加している場合でも、温度変化による熱起電力及び抵抗値の変化等の影響で、流れる電流値が変動する虞がある。この場合、電流値の変化に伴って、ペルチェ効果による吸熱量も変化してしまう。そのため、直接電流値を測定して、当該電流値が所定の値になるようにコンピュータ53により第2電源装置50Bから印加される電圧を制御することで、温度変化等による影響を受けずに、ペルチェ効果による所定の吸熱又は発熱を利用して確実に温度調節を行うことが可能となる。
【0067】
また、第3実施形態においては、コンスタンタンからなる導線80により構成される熱電対により、接点80Aの温度を測定し、当該温度を基準としてチップ1の熱起電力から当接部12の温度を算出したが、この構成に限定されない。例えば、熱電対によりチップ1と導線21との接点の温度を測定し、測定された温度に基づいて第1電源装置50A及び第2電源装置50Bの印加電圧を制御することも可能である。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。
【0069】
(1)図10に示すように、チップ1の貫通孔1aと導線21との間を絶縁樹脂93等で封止し、貫通孔1aから導線21が所定の剛性を有しつつ下方に延出するように構成するとともに、チップホルダー3の貫通孔3aには、先端に導線21の延出端部に嵌合するコネクタ部25aが形成され周囲を絶縁スリーブ26で覆われた導線25を設置し、チップ1をチップホルダー3に対して取り付けるときにチップ1に接続された導線21の端部がコネクタ部25aに嵌合されて導線25と電気的に接続するように構成してもよい。この場合、チップ1に予め接続する導線21のチップ1からの延出長さを短くすることができるため、チップ1の取り扱いが容易となる。また、予め導線25をコントローラ部5に接続しておけば、チップ1の電気的な接続が容易に可能となる。
【0070】
(2)被削材を回転させて切削を行う場合に限らず、切削工具を回転、スライドさせることにより切削する場合においても適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1実施形態に係る切削加工装置を示す全体概略図である。
【図2】図1における、チップの取り付け状態を説明するための概略図である。
【図3】図2におけるチップ1を拡大して示す平面図である。
【図4】図3におけるS1−S1断面矢視図であり、チップ1に導線を電気的に接続したとき状態を示す図である。
【図5】図2における、ねじ穴32及びチップホルダーの貫通穴33を通る断面図である。
【図6】チップホルダー3に設置されたチップ1の斜視図である。
【図7】本実施形態に係る切削加工装置100の制御回路を模式的に示す図である。
【図8】第2実施形態に係る切削加工装置の制御回路を模式的に示す図である。
【図9】第3実施形態に係る切削加工装置の制御回路を模式的に示す図である。
【図10】本実施形態における切削加工装置の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1 チップ(切削工具)
2 被削材
20 被削材用導体部
21 導線(第1導体部)
22、23 導線(第2導体部)
50A 第1電源装置(第1電圧印加手段)
50B 第2電源装置(第2電圧印加手段)
52 電圧計(電位差測定手段)
53 コンピュータ(第1電圧制御手段、第2電圧制御手段)
54、56 切換スイッチ
100 切削加工装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具により被削材を切削加工するための切削加工装置であって、
前記切削工具における前記被削材との当接部の近傍に電気的に接続する第1導体部と、
前記第1導体部が前記切削工具に接続する位置よりも当該当接部から離れた位置において前記切削工具に電気的に接続する第2導体部と、
前記第1導体部から前記切削工具を通過して前記第2導体部に電子が移動するように、当該第1導体部と当該第2導体部との間に電圧を印加する第1電圧印加手段と、
を備えることを特徴とする切削加工装置。
【請求項2】
前記当接部の近傍における前記切削工具の温度を測定する温度測定手段と、
前記第1電圧印加手段から印加される電圧を制御する第1電圧制御手段と、
を更に備え、
前記第1電圧制御手段は、前記温度測定手段の測定結果に基づいて前記第1電圧印加手段から印加される電圧を制御することを特徴とする請求項1に記載の切削加工装置。
【請求項3】
前記被削材と電気的に接続される被削材用導体部と、
第2導体部と前記被削材用導体部との間に設置される電位差測定手段と、
前記第2導体部と前記第1電圧印加手段とをつなぐ電気回路を開閉可能な切換スイッチと、
前記第1電圧印加手段から印加される電圧を制御する第1電圧制御手段と、
を備え、
前記第1電圧制御手段は、前記切換スイッチにより、前記第2導体部と前記第1電圧印加手段とをつなぐ電気回路が遮断されているときの、前記電位差測定手段の測定電圧に基づいて前記第1電圧印加手段から印加される電圧を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の切削加工装置。
【請求項4】
前記被削材用導体部と前記第2導体部との間に配置され、当該被削材用導体部及び当該第2導体部を介して前記切削工具と前記被削材との間に電位差を発生させるように所定の電圧を印加する第2電圧印加手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜3の少なくともいずれか1項に記載の切削加工装置。
【請求項5】
前記被削材用導体部と前記第2導体部との間に配置され、当該被削材用導体部及び当該第2導体部を介して前記切削工具と前記被削材との間に電位差を発生させるように所定の電圧を印加する第2電圧印加手段と、
前記第2電圧印加手段により印加される電圧を制御する第2電圧制御手段と、
を備え、
前記第2電圧制御手段は、前記温度測定手段の測定値に基づいて、前記第2電圧印加手段により印加される電圧を制御することを特徴とする請求項2に記載の切削加工装置。
【請求項6】
前記被削材用導体部と前記第2導体部との間に配置され、当該被削材用導体部及び当該第2導体部を介して前記切削工具と前記被削材との間に電位差を発生させるように所定の電圧を印加する第2電圧印加手段と、
前記第2電圧印加手段により印加される電圧を制御する第2電圧制御手段と、
を備え、
前記切換スイッチは、前記第2導体部と前記第2電圧印加手段とをつなぐ電気回路を開閉可能であって、
(1)前記第2導体部と前記第1電圧印加手段とをつなぐ電気回路を接続するとともに前記第2導体部と前記第2電圧印加手段とをつなぐ電気回路を遮断する第1状態と、
(2)前記第2導体部と前記第1電圧印加手段とをつなぐ電気回路を遮断するとともに前記第2導体部と前記第2電圧印加手段とをつなぐ電気回路を接続する第2状態と、
(3)前記第2導体部と前記第1電圧印加手段とをつなぐ電気回路を遮断するとともに前記第2導体部と前記第2電圧印加手段とをつなぐ電気回路を遮断する第3状態と、
に切換可能に構成され、
前記第2電圧制御手段は、前記切換スイッチが前記第3状態に切り換えられたときの前記電位差測定手段による測定値に基づいて、前記第1電圧印加手段及び前記第2電圧印加手段により印加される電圧を制御することを特徴とする請求項3に記載の切削加工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−264893(P2008−264893A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107721(P2007−107721)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】