説明

切削工具の切刃部材の製造方法及び該製造方法に用いられる圧粉体のプレス成形金型

【課題】切刃部材のすくい面に形成される段差部が切刃にまで伸びることを防止することができる切削工具の切刃部材の製造方法及び該製造方法に用いられる圧粉体のプレス成形金型を提供する。
【解決手段】複数のパンチ21、22と、キャビティーAを画成するダイ23とを備えたプレス成形金型20を用いて、キャビティーAに投入した原材料粉末をパンチ21、22により圧縮して圧粉体を圧縮することにより、切削工具の切刃部材に製造される圧粉体をプレス成形する際に、複数のパンチ21、22をパンチ離接方向に延びる分割面を有して分割される複数の分割パンチ25、26、31、32により構成して、このうち切削部材の切刃部分に対応する部分を一の分割パンチ25、31により成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、切刃を備えて切削工具の本体に着脱可能に装着されるスローアウェイチップのような切削工具の切刃部材の製造方法、及びこのような切刃部材を、その原料粉末を圧縮した圧粉体から製造する場合の該製造方法に用いられる圧粉体のプレス成形金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、切削工具の切刃部材の製造方法としては、例えば特許文献1に上記スローアウェイチップの製造方法として、図25に示すような方形平板状のチップ本体1を備えて、その方形をなす平板面2の周囲に配置される4つの周面のうち、互いに反対側に位置する一対の周面がすくい面3とされ、このすくい面3と逃げ面とされる上記平板面2との交差稜線が切刃4とされた所謂縦刃式のスローアウェイチップの製造方法が提案されている。すなわち、この特許文献1記載の製造方法では、図26に示されるように、チップ本体1の厚さ方向(図25において上下方向)に対応する方向(図26において左手前から右奥に向かう方向)に垂直な方向(図26において上下方向)に互いに対向して離接(上下動)する上下のパンチ151,152と、上下動して接近したこれら上下パンチ151,152の周囲を取り囲むように配設されて該上下パンチ151,152との間にキャビティーAを画成するダイ153とを備えたプレス成形金型150を用いて、上記キャビティーA内に投入した超硬合金等のスローアウェイチップの原料粉末を、上下パンチ151,152によって圧縮して圧粉体をプレス成形するようにしている。
このプレス成形金型150は、上パンチ151が第1分割パンチ154と、第1分割パンチ154の両側に配置された二つの第2分割パンチ155とから構成されており、下パンチ152が第3分割パンチ156と、第3分割パンチ156の両側に配置された二つの第4分割パンチ157とから構成されている。
このように構成されたプレス成形金型150においては、第1分割パンチ154と第2分割パンチ155との下端面が原料粉末を圧縮するプレス面154A,155Aとされ、プレス面154A,155Aがチップ本体1の一対のすくい面3のうち、一方のすくい面3と切刃4に対応する部分とを成形して、第3分割パンチ156と第4分割パンチ157とのプレス面156A,157Aが他方のすくい面3と切刃4とに対応する部分を成形する。
なお、上記スローアウェイチップにおいては、そのチップ本体1の上記周面のうちすくい面3に隣接する残りの一対の他の周面5と該すくい面3との交差稜線も切刃6として使用されることがあり、この場合にはこの他の周面5は該切刃6の逃げ面とされるとともに、この他の周面5と上記平板面2との交差稜線部は断面1/4凸円弧等の凸曲面とされ、これに伴い上記切刃4,6が形成された交差稜線同士が交差するすくい面3の角部には、これらの切刃4,6に滑らかに連なる1/4凸円弧状のコーナ部7が形成される。また、この特許文献1に記載されたスローアウェイチップは、上記すくい面3と逃げ面とされる平板面2および他の周面5が切刃4,6を介して直交する方向に配設されたネガティブタイプとされ、しかも上記すくい面3にチップブレーカ8が形成されたブレーカ付きのスローアウェイチップとされている。さらに、この特許文献1では、上記キャビティーA内にダイ153からピン158を出没可能に設けて、スローアウェイチップの工具本体への取り付けの際にクランプネジ等が挿入される取付穴9となる貫通孔を圧粉体に形成するようにしている。
また、上記従来のプレス成形金型150においては、キャビティーA内に原料粉末を充填する充填工程においては、第3分割パンチ156の上端面が第4分割パンチ157の上端面より上方に配置された状態で、キャビティーA内に原料粉末が充填され、原料粉末がキャビティーA内に充填されると、上パンチ151が原料粉末の上面を押圧する。
上パンチ151が原料粉末の上面を押圧すると、第1分割パンチ154が下方に突出して原料粉末を押圧すると共に、第3分割パンチ156が下方に引きこむことにより、ピン直下に原料粉末を吸い込ませて原料粉末の充填比を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−146695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記従来の切削工具の切刃部材の製造方法及び圧粉体のプレス成形金型においては、分割パンチ同士の間に、僅かに隙間が発生しているため、上パンチと下パンチとが原料粉末を圧縮する際に、原料粉末が分割パンチ間の隙間に入り込んだ場合、又は、各分割パンチのプレス面が一致しない場合には、成形されたスローアウェイチップのすくい面3には、チップ本体の厚さ方向に亘って、すくい面3の表面に段差部10が形成され、この段差部10は、すくい面3の厚さ方向の両端部に形成された切刃4にまで達しているため、切刃4の一部にも、段差部10が形成されるという問題があった。
すなわち、切刃4に形成された段差部10は、切刃4が被削材を切削する際に被削材の表面を傷つけ、被削材表面の仕上げ面の精度が劣化するおそれがあるという問題があり、また、切削時に段差部10には、過大な応力が集中して、段差部10を起点として切刃が欠ける場合があるという問題があった。
【0005】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、キャビティー内に充填された原料粉末の充填比を調整しつつ、切刃部材のすくい面に形成される段差部が切刃にまで伸びることを防止することにより、切刃に段差部が形成されることを防止することができ、これにより、被削材の仕上げ面精度及びチップ本体の工具寿命を向上させることができる切削工具の切刃部材の製造方法及び該製造方法に用いられる圧粉体のプレス成形金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
請求項1に記載の発明は、互いに対向して相対的に離接させられる複数のパンチと、接近したこれらのパンチの周囲を取り囲むように配設されて該パンチとの間にキャビティーを画成するダイとを備えたプレス成形金型を用いて、前記キャビティーに投入した原材料粉末を前記パンチによって圧縮することにより、切削工具の切刃部材に製造される圧粉体をプレス成形する切削工具の切刃部材の製造方法において、前記複数のパンチのうち少なくとも一つを、前記原料粉末の圧縮の際の該パンチの離接方向に延びる分割面を有して分割される複数の分割パンチにより構成して、前記切刃部材の少なくとも連続する一の切刃部分に対応する部分を、前記分割パンチのうち一の分割パンチにより成形することを特徴とする。
【0007】
この発明に係る切削工具の切刃部材の製造方法によれば、キャビティー内において、原料粉末が圧縮されて切刃部材に成形される圧粉体が成形される際には、まず、前記複数のパンチのうちの一つがその離接する方向に延びる分割面を有する複数の分割パンチにより分割されているので、該圧粉体における充填比を良好に調整することができる。そして、そのうち一の分割パンチが切刃部材の連続する一の切刃部分を成形するので、一の分割パンチと他の分割パンチとの境界部分すなわち互いの分割面同士の突き合わせ部分が切刃部材の連続した切刃となる部分を成形することがなく、切刃部材の切刃が正確に成形される。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された切削工具の切刃部材の製造方法において、前記一の分割パンチの内側に他の分割パンチを配置して、前記切刃部分を含む前記圧粉体の連続した外周稜線に対応する部分すべてを前記一の分割パンチにより成形することを特徴とする。
【0009】
この発明に係る切削工具の切刃部材の製造方法によれば、一の分割パンチの内側に他の分割パンチが位置させられているため、一の分割パンチの外周縁部に他の分割パンチが位置することがなく、キャビティー内において原料粉末が圧縮されて切刃部材が成形される際には、一の分割パンチの外周縁部が切刃部材の外周縁部を正確に成形する。
【0010】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は2に記載された切削工具の切刃部材の製造方法において、前記圧粉体は、平板状をなしていて、その平板面の周りに配置される周面のうち少なくとも一つを前記複数の分割パンチにより構成されたパンチによって圧縮することを特徴とする。
【0011】
この発明に係る切削工具の切刃部材の製造方法によれば、平板面と平板面の周りに配置されたすくい面とを有する前記縦刃式のスローアウェイチップのような切刃部材とされる圧粉体が成形され、複数の分割パンチにより構成されたパンチが、この切刃部材の少なくとも一方のすくい面となる部分を成形する。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項3に記載された切刃工具の切刃部材の製造方法において、前記キャビティー内に前記パンチの離接方向に直交する方向に出没可能なピンによって、前記圧粉体の前記平板面に孔部を形成することを特徴とする。
【0013】
この発明に係る切削工具の切刃部材の製造方法によれば、前記縦刃式スローアウェイチップにおいて、平板面に貫通孔が形成されたような切刃部材とされる圧粉体が充填比に偏りを生じることなく成形される。
【0014】
請求項5に記載された発明は、請求項1から4のいずれかに記載された切削工具の切刃部材の製造方法に用いられる圧粉体のプレス成形金型であって、互いに対向して相対的に離接させられる複数のパンチと、接近したこれらパンチの周囲を取り囲むように配設されて該パンチとの間にキャビティーを画成するダイとを備え、前記複数のパンチのうち少なくとも一つが、前記キャビティー内の周面に沿って摺動する一の分割パンチと、該一の分割パンチに形成された貫通孔に嵌挿され摺動可能に設けられた他の分割パンチとの複数の分割パンチを備えていることを特徴とする。
【0015】
この発明に係る圧粉体のプレス成形金型によれば、キャビティー内において原料粉末が圧縮され、切刃部材が成形される際には、一の分割パンチの外周縁部とキャビティーの内周面とが協働して、切刃部材の切刃部分を含む外周縁部に対応する部分を成形すると共に、一の分割パンチと他の分割パンチとが、すくい面の外周縁部より内側に対応する部分を成形する。なお、本発明の切削工具の切刃部材の製造方法および圧粉体のプレス成形金型における前記一の分割パンチは、前記複数の分割パンチのうち、切刃部材の少なくとも連続する一の切刃部分に対応する部分を成形することのない他の分割パンチに対する一の分割パンチのことであって、この一の分割パンチが切刃として使用されることのない部分でさらに複数の分割パンチによって構成されていてもよく、この場合において前記貫通孔は、これら複数の分割パンチによって構成される一の分割パンチに形成されていればよい。
【0016】
請求項6に記載された発明は、請求項5に記載された圧粉体のプレス成形金型において、前記他の分割パンチが、さらに複数の分割パンチにより構成されていることを特徴とする。
【0017】
この発明に係る粉末プレス金型によれば、他の分割パンチが、複数の分割パンチにより構成されているため、キャビティー内に充填された原料粉末の充填比をより一層良好に調整することができる。
【0018】
請求項7に記載された発明は、請求項5又は6に記載された圧粉体のプレス成形金型において、前記他の分割パンチのプレス面の面積が、前記一の分割パンチのプレス面の外周縁部と、前記他の分割パンチのプレス面の輪郭を形成する線分のうち、前記外周縁部に沿って延びることのない線分と、その前記外周縁部への延長線とにより囲まれる面積の50%以上であることを特徴とする。
【0019】
この発明に係る圧粉体のプレス成形金型によれば、他の分割パンチのプレス面には、キャビティー内における原料粉末のパンチ離接方向の充填量を調整するために十分な面積が確保されるため、成形される切刃部材内の密度が均一となる。
なお、他の分割パンチのプレス面の面積が、前記一の分割パンチのプレス面の外周縁部と、前記他の分割パンチのプレス面の輪郭を形成する線分のうち、前記外周縁部に沿って延びることのない線分と、その前記外周縁部への延長線とにより囲まれる面積の50%より小さい場合には、他の分割パンチがキャビティー内の原料粉末のパンチ離接方向と直交する方向の充填量を調整することが困難となり、成形された切刃部材の密度を均一とすることが困難となる。
但し、この面積が大きすぎると、次述する貫通孔と外周縁部との幅を十分確保することができなくなるおそれがあるので、95%以下とされるのが好ましい。
【0020】
請求項8に記載された発明は、請求項7に記載された圧粉体のプレス成形金型において、前記他の分割パンチのプレス面の面積が、前記一の分割パンチのプレス面の外周縁部と、前記他の分割パンチのプレス面の輪郭を形成する線分のうち、前記外周縁部に沿って延びることのない線分と、その前記外周縁部への延長線とにより囲まれる面積の80%以上であることを特徴とする。
【0021】
この発明に係る粉末成形プレスによれば、キャビティー内に充填された原料粉末の充填比の調整がより確実に奏功される。
【0022】
請求項9に記載された発明は、請求項5から8のいずれかに記載された圧粉体のプレス成形金型において、前記一の分割パンチに形成された前記貫通孔が、前記一の分割パンチの外周縁部から0.1mm以上離間した位置に形成されていることを特徴とする。
【0023】
この発明に係る圧粉体のプレス金型によれば、一の分割パンチに形成された貫通孔と、キャビティーの内周面に摺接する外周面との幅が0.1mm以上に形成されるため、一の分割パンチは、切刃部材の成形を繰り返しても、破損しない程度の強度を有する。
但し、この幅が広すぎると、他の分割パンチのプレス面が小さくなり、キャビティー内に充填された原料粉末の充填比を調整することが困難なものとなるため、2mm以下とされていることが望ましい。
【0024】
請求項10に記載された発明は、請求項9に記載された圧粉体のプレス成形金型において、前記貫通孔が前記一の分割パンチの外周縁部から0.5mm以上離間した位置に形成されていることを特徴とする。
【0025】
この発明に係る圧粉体のプレス金型によれば、一の分割パンチは、切刃部材の成形を繰り返しても、破損しない程度の強度を確実に有する。
【0026】
請求項11に記載された発明は、請求項5から10のいずれかに記載された圧粉体のプレス成形金型において、前記他の分割パンチが嵌挿される貫通孔が前記一の分割パンチに一箇所形成されていることを特徴とする。
【0027】
この発明に係る圧粉体のプレス金型によれば、一の分割パンチに形成される貫通孔が一つであるために、一の分割パンチと他の分割パンチにより構成されるパンチが容易且つ、精度良く製造される。又、例えば上述のような縦刃式のスローアウェイチップに製造される圧粉体を成形する場合には、このスローアウェイチップによる切削の際に被削材表面の仕上げ面精度に影響を及ぼす前記コーナ部周辺のすくい面の角部となる部分を、単一の前記一の分割パンチによって成形することが可能となるので、こうして製造されたスローアウェイチップ(切刃部材)において、より高い加工精度を得ることができる。
【0028】
請求項12に記載された発明は、請求項5から11のいずれかに記載された圧粉体のプレス成形金型において、前記複数の分割パンチにより構成される前記複数のパンチのうち少なくとも一つのパンチのプレス面には、隣接する部分に対して該パンチの離接方向に相対的に凹又は凸となる凹凸部が形成されており、前記複数の分割パンチの分割線は、この凹凸部と前記隣接する部分との境界部に沿って形成されていることを特徴とする。
この発明に係る圧粉体のプレス金型によれば、例えば、成形される切削部材のうち、一の分割パンチと他の分割パンチとにより成形された面に外周縁部に沿って凹まされたブレーカが形成される場合には、一の分割パンチと他の分割パンチとの分割線によって成形される段差部は、ブレーカの底部又は、ブレーカの開口縁部に形成されるので、多少の凹凸が生じても、切削の際に生成される切屑の流れに与える影響を抑えることができ、切屑の引っ掛かり等の異常現象を抑制することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、切刃部材のすくい面に形成される段差部が切刃にまで伸びることを防止することにより、切刃に段差部が形成されることを防止することができ、これにより、被削材の仕上げ面精度及び切刃部材としての工具寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る圧粉体のプレス成形金型の斜視図である。
【図2】図1に示された圧粉体のプレス成形金型により成形されるスローアウェイチップの斜視図である。
【図3】図1に示された圧粉体のプレス成形金型の下パンチの上面図である。
【図4】図1に示された圧粉体のプレス成形金型が原料粉末を圧縮する際の斜視図である。
【図5】この発明の第2の実施形態に係る圧粉体のプレス成形金型の斜視図である。
【図6】(a)図5に示された圧粉体のプレス成形金型により成形されるスローアウェイチップの斜視図であり、(b)図6(a)の一部の拡大断面図である。
【図7】図5に示された圧粉体のプレス成形金型の下パンチの上面図である。
【図8】下パンチを構成する外側分割パンチの一部拡大図である。
【図9】下パンチを構成する外側分割パンチと内側分割パンチの一部拡大図である。
【図10】(a)この発明の第3の実施形態に係る圧粉体のプレス成形金型の斜視図であり、(b)(a)の上パンチ21の底面図である。
【図11】(a)図10に示された圧粉体のプレス成形金型により成形されるスローアウェイチップの上面図であり、(b)(a)に示されたスローアウェイチップの側面図である。
【図12】(a)第4の実施形態に係る圧粉体のプレス成形金型の斜視図であり、(b)(a)に示された下パンチの上面図である。
【図13】(a)図12に示された圧粉体のプレス成形金型により成形されるスローアウェイチップの斜視図であり、(b)(a)の上面図である。
【図14】この発明の第5の実施形態に係る圧粉体のプレス成形金型の斜視図である。
【図15】図14に示された圧粉体のプレス成形金型により成形されるスローアウェイチップの斜視図である。
【図16】図14に示された圧粉体のプレス成形金型の下パンチの上面図である。
【図17】(a)この発明の第6の実施形態に係る圧粉体のプレス成形金型の斜視図であり、(b)(a)の上パンチ21の底面図である。
【図18】(a)図17に示された圧粉体のプレス成形金型により成形されるスローアウェイチップの上面図であり、(b)(a)の側面図である。
【図19】この発明の第7の実施形態に係る圧粉体のプレス成形金型の斜視図である。
【図20】図19に示された圧粉体のプレス成形金型の下パンチの上面図である。
【図21】この発明の第8の実施形態に係る圧粉体のプレス成形金型の下パンチ22の上面図である。
【図22】図21に示された圧粉体のプレス成形金型により成形されるスローアウェイチップの斜視図である。
【図23】(a)圧粉体のプレス成形金型の下パンチ22の上面図である。(b)圧粉体のプレス成形金型の下パンチ22の上面図である。
【図24】図16に示された下パンチの変形例を示す上面図である。
【図25】従来の圧粉体のプレス成形金型により成形されるスローアウェイチップの斜視図である。
【図26】従来の圧粉体のプレス成形金型の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、この発明の第1の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る圧粉体のプレス成形金型を示す図であり、以下このプレス成形金型を説明しながら、かかるプレス成形金型を用いた本発明の切削工具の切刃部材の製造方法の一実施形態についても説明する。
図1に示されるプレス成形金型20は、図2に示される縦刃式スローアウェイチップ50に成形される圧粉体を成形するためのものであって、図1に示されるように、プレス成形金型20は、チップ本体の厚さ方向に対応する方向に対して垂直な方向である上下方向に相対的に離接可能に支持された上下パンチ21、22と、上パンチ21と下パンチ22との周囲を取り囲むように配設されて上パンチ21と下パンチ22との間にキャビティーAを画成するダイ23と、下パンチ22の厚さ方向(図1において、左手前から右奥に向う方向。以下、単にパンチ厚さ方向と称する。)に向けてキャビティーA内に設けられたピン24とから構成されている。
【0032】
下パンチ22は、外側分割パンチ(一の分割パンチ)25と、外側分割パンチ25に嵌挿され上下方向に摺動可能に設けられた内側分割パンチ26(他の分割パンチ)とから構成されている。
外側分割パンチ25は、外側パンチプレート27に固定されており、外側分割パンチ25の中央部には、内側分割パンチ26が嵌挿される貫通孔25aが形成されている。従って、この貫通孔25aの内周面が外側分割パンチ25側の分割面とされ、貫通孔25aに嵌挿される内側分割パンチ26の外周面がその分割面とされる。
図3に示されるように、外側分割パンチ25の上端面のプレス面25Aは、パンチ厚さ方向と平行に配置された稜線部(線分)25A1と、この稜線部25A1と直交する稜線部25A2から構成された略矩形形状とされている。また、稜線部25A1と稜線部25A2との角部は、1/4凸円弧状のコーナ部25A3とされている。
貫通孔25aは、外側分割パンチ25のプレス面25Aの略中央部に形成されている。
貫通孔25aのパンチ厚さ方向の両端部分は、外側分割パンチ25の稜線部25A2から0.1mm以上(好ましくは、0.5mm以上)離間した位置に形成されている。
すなわち、貫通孔25aの内周面のうちパンチ厚さ方向に互いに対向する周面と、外側分割パンチ25の外周面との間に形成された薄肉部25bの幅は、0.1mm以上となるように構成されている。
【0033】
内側分割パンチ26は、外側分割パンチ25に形成された貫通孔25aに嵌挿され、図1に示されるように、内側パンチプレート28に固定されており、内側分割パンチ26の上端面のプレス面26Aは、外側分割パンチ25の上端面のプレス面25Aより上方に突出するように配置されている。
図3において、内側分割パンチ26のプレス面26Aの外周縁部は、パンチ厚さ方向と平行な稜線部26a、26aと、この稜線部26aに直交して稜線部25A2と平行とされた稜線部26b、26bにより構成されており、略方形に形成されている。
このうち、稜線部26a、26aは、上面視した際に、ピン24の両側縁部と一致するようにされている。
内側分割パンチ26のプレス面26Aの面積I1は、上面視した際に、外側分割パンチ25の上端面のプレス面25Aの外周縁部と、内側分割パンチ26のプレス面26Aの輪郭を形成する稜線部のうち、プレス面25Aの外周縁部に沿って延びることのない稜線部26a,26aと、この稜線部26a,26aのプレス面25Aの外周縁部への延長線とにより囲まれる面積O1(図3でハッチングした部分の面積)の50%以上(好ましくは、80%以上。)とされている。
なお、この内側分割パンチ26と、外側分割パンチ25との間には僅かに隙間が発生しており、この隙間による内側分割パンチ26と外側分割パンチ25との分割線80、すなわち互いの前記分割面とプレス面25A、26Aとの交差稜線が、内側分割パンチ26の外周縁部に沿って形成されている。
図1において、外側パンチプレート27と内側パンチプレート28は、図示されない駆動源によりパンチ厚さ方向に垂直な上下方向に変位させられる。
【0034】
ダイ23に形成されたキャビティーAは、パンチ厚さ方向と略平行に配置された内周面23Aと、この内周面23Aと略直交する方向に配置された内周面23Bと、内周面23Aと内周面23Bとの交差稜線部に形成され断面1/4凸円弧状に形成された凸曲面23Cとから構成されている。
ピン24は、円柱状に形成されており、キャビティーA内において、パンチ厚さ方向に向けて進退可能に設けられている。
【0035】
上パンチ21は、下パンチ22と同様の構成とされており、外側分割パンチ(一の分割パンチ)31と、外側分割パンチ31に嵌挿され上下方向に摺動可能に設けられた内側分割パンチ32(他の分割パンチ)とから構成されている。
外側分割パンチ31は、外側パンチプレート33に固定されており、外側分割パンチ31の中央部には、内側分割パンチ32が嵌挿される貫通孔31aが形成されている。
外側分割パンチ31のプレス面31Aは、外側分割パンチ25のプレス面25Aと同一の形状とされている。
貫通孔31aは、外側分割パンチ31のプレス面31Aの略中央部に形成されており、外側分割パンチ25に形成された貫通孔25aと同様の位置に形成されている。
内側分割パンチ32は、外側分割パンチ31に形成された貫通孔31aに嵌挿され、内側パンチプレート34に固定されており、内側分割パンチ32のプレス面32Aは、外側分割パンチ31のプレス面31Aより下方に突出するように配置されている。
また、内側分割パンチ32のプレス面32Aは、内側分割パンチ26のプレス面26Aと同一形状とされている。
【0036】
このように構成されたプレス成形金型20によって、縦刃式のスローアウェイチップに成形される圧粉体を製造するには、まず、充填工程において、キャビティーA内に原料粉末が充填される。
キャビティーA内に原料粉末が充填される際には、キャビティーA内に、上パンチ21がキャビティーA内に挿入される前に、その開口部からWCを主成分とする超硬合金やTiC−TiNを主成分とするサーメット等のスローアウェイチップの原料粉末が投入される。また、原料粉末がキャビティーA内に投入される際には、内側分割パンチ26のプレス面26Aが、外側分割パンチ25のプレス面25Aより上方に位置させられており、また、ピン24は、キャビティーA内にパンチ厚さ方向に向けて配置されている。
【0037】
次に、キャビティーA内の原料粉末の充填比を調整する充填比調整工程においては、キャビティーAの上側開口部分から上パンチ21を差し込むと共に、内側分割パンチ32を駆動してそのプレス面32Aを外側分割パンチ31のプレス面31Aから突出させ、これと同時に内側分割パンチ26を外側分割パンチ25に対して引き込むことにより、ピン24の直上部分の原料粉末が内側分割パンチ32により押される一方、内側分割パンチ26を引き込むことにより、ピン24直下部分へ原料粉末が吸い込まれることになり、ピン24直下部分において原料粉末の密度が低くなるのを規制するようにして、キャビティーA内の原料粉末の充填比を調整するようにしている。
この際、図3に示されるように、内側分割パンチ26のプレス面26Aの面積I1は、上面視した際に、外側分割パンチ25の上端面のプレス面25Aの外周縁部と、内側分割パンチ26のプレス面26Aの輪郭を形成する稜線部のうち、プレス面25Aの外周縁部に沿って延びることのない稜線部26a,26aと、プレス面25Aの外周縁部への延長線とにより囲まれる面積の50%以上となるように形成されているため、内側分割パンチ26が外側分割パンチ25に引き込まれることにより、ピン24の直下部分の原料粉末が良好に吸い込まれ、キャビティーA内の原料粉末の充填比の調整が良好になされる。
また、面積I1が面積O1(図3でハッチングした部分の面積)に対して、80%以上となるように構成された場合には、さらに良好に原料粉末の充填比の調整がなされる。
但し、この面積比率が大きくなりすぎると、上述する薄肉部25bの幅が小さくなりすぎるおそれがあるので、95%以下とされるのが望ましい。
【0038】
次に、充填比調整工程後の加圧工程においては、図4に示されるように、下パンチ22は、外側分割パンチ25と内側分割パンチ26とのプレス面25A、26Aとを一致させるように、一方、上パンチ21も、内側分割パンチ32と外側分割パンチ31のプレス面31A、32Aを一致させるように、上パンチ21と下パンチ22とが互いに近接し、原料粉末を圧縮する。
【0039】
上下パンチ21、22が原料粉末を圧縮すると、スローアウェイチップ50のすくい面53に対応する部分が成形され、また、キャビティーAの内周面23Bがスローアウェイチップ50の平板面52に対応する部分を成形し、さらに、キャビティーAの内周面23Aによりスローアウェイチップ50の周面55に対応する部分が成形される。
キャビティーA内にパンチ厚さ方向に配置されたピン24は、成形される平板面52の略中央部にチップ本体の厚さ方向に貫通する穴部59に対応する部分を成形する。
【0040】
下パンチ22が一対のすくい面53のうち、一つのすくい面53を成形する際には、プレス面25Aの稜線部25A1とキャビティーAの内周面23Aとが協働して、スローアウェイチップ50の切刃56に対応する部分を成形する。
また、プレス面25Aの稜線部25A2とキャビティーAの内周面23Bとが協働して、スローアウェイチップ50の切刃54に対応する部分を成形する。
さらに、プレス面25Aのコーナ部25A3と、キャビティーAの凸曲面23Cとが協働して、スローアウェイチップ50のコーナ部57に対応する部分を成形する。
すなわち、スローアウェイチップ50のすくい面53の外周縁部に対応する部分は、外側分割パンチ25とキャビティーAの内周面とにより成形される。その一方で、内側分割パンチ26のプレス面26Aは、スローアウェイチップ50のすくい面53のうち、切刃部54、56よりも内側に対応する部分を成形する。
【0041】
内側分割パンチ26のプレス面26Aが、すくい面53の一部に対応する部分を成形する際には、内側分割パンチ26と外側分割パンチ25との間に、原料粉末が入り込み、又は、プレス面25Aとプレス面26Aとが同一の位置に位置しないことにより、成形されたすくい面53に、内側分割パンチ26と外側分割パンチ25との分割線80に沿った段差部70が形成される場合があるが、この際、内側分割パンチ26の稜線部26a、26bは、外側分割パンチ25の稜線部25A1、25A2、25A3より内方に位置しているため、内側分割パンチ26の外周縁部に沿う分割線80も外側分割パンチ25の稜線部25A1、25A2、25A3より内方に位置することになり、スローアウェイチップ50のすくい面53に形成される段差部70は、すくい面53の外周稜線部より内方に形成される。
【0042】
このように、上下パンチ21、22が原料粉末を圧縮すると、キャビティーA内には、図2に示されるように、パンチ厚さ方向に対向するように平板面52、52と、平板面52の周面のうち上下パンチ21、22により成形されたすくい面53と、残りの一対の他の周面55とから構成されるスローアウェイチップ50に成形される圧粉体が成形される。
【0043】
加圧工程後の、ピン抜出工程においては、成形された圧粉体に対する上下パンチ21、22の加圧を減少もしくは除去する。ただし、上パンチ21を圧粉体から引き離すのではなく、上下パンチ21,22で圧粉体を挟みこんだ状態となっている。こうして、上下パンチ21,22が、圧粉体への加圧を減少もしくは除去しているため、ピン24を抜く際に負荷がかからず、特に、穴部59が形成された圧粉体を押し潰すことがない。
【0044】
ピン抜出工程後の抜出工程においては、圧粉体を上下パンチ21,22により挟みこんだ状態で、下パンチ22の上端がダイ23の上面と一致するまでダイ23を下方に変位させる。これにより、圧粉体は、ダイ23のキャビティーAから抜き出され、その後、上パンチ21を圧粉体から引き離すことにより、圧粉体は下パンチ22上から払いだされ、圧粉体が取り出される。このように、下パンチ22の上端をダイ23の上面に一致させているため、圧粉体の払い出しを容易にしている。
この抜出工程においては、内側分割パンチ32と外側分割パンチ31のプレス面31A,32Aが一致されており、また、内側分割パンチ26と外側分割パンチ25のプレス面26A、25Aが一致された状態で保持されている。
【0045】
抜出工程後のピン挿入工程においては、抜出工程の際に下方に変位させられていたダイ23を上方に変位させると共に、内側分割パンチ26を外側分割パンチ25から突出させる。そして、キャビティーA内にピン24を挿入する。
これにより、原料粉末を充填する充填工程が可能な状態とされる。
【0046】
このような、スローアウェイチップ50の製造方法及び、プレス成形金型20においては、成形されるスローアウェイチップ50のすくい面53に対応する部分に段差部70が形成された場合においても、形成された段差部70が、すくい面53の稜線部に形成されることを確実に防止することができる。
このため、成形された圧粉体がその後焼結されて、スローアウェイチップ50が成形された際においても、すくい面53に形成される切刃54、56及びコーナ部57の部分に段差部70が形成されることが防止され、このスローアウェイチップ50により被削材を加工した際には、段差部70は、切刃54、56及びコーナ部57の部分から離間した位置に形成されているため、被削材の表面に接することがなく、段差部70により仕上げ面が劣化されることが防止され、良好な仕上げ面を得ることができる。
特に、切削時に最も重要なコーナ部57は、単一の外側分割パンチ25により成形されているため、仕様通りに正確に成形することができる。
また、段差部70が切削面に接することがないため、段差部70に切削による過大な荷重がかかることが防止され、段差部を起点として、スローアウェイチップ50が破損することを防止することができる。
【0047】
その上、外側分割パンチ25に形成された薄肉部25bの幅は、0.1mm以上となるように構成されているため、圧粉体の成形を繰り返したとしても、薄肉部25bに亀裂や欠損等が生じない程度の強度を有しており、良好に圧粉体を成形することができる。特に、外側分割パンチ25に形成された薄肉部25bの幅は、0.5mm以上に形成された場合には、薄肉部25bに亀裂や欠損等が生じない程度の強度を確実に持たせることができる。
但し、この幅が大きくなりすぎると、内側分割パンチ26のプレス面26Aの面積が小さくなり、良好な充填比の調整が困難になるおそれがあるので、2mm以下とされるのが望ましい。
またさらに、この実施の形態によれば、外側分割パンチ25、31に形成される貫通孔25a,31aは、一箇所に形成されるのみであるので、上パンチ21と、下パンチ22とのいずれも正確に且つ、容易に成形することができる。しかも、本実施形態のように縦刃式のスローアウェイチップ50に製造される圧粉体を成形する場合において、貫通孔25a,31aを外側分割パンチ25、31のプレス面25A、31Aの中央部に形成することにより、製造されるスローアウェイチップ50では図2に示すように段差部70もすくい面53の中央部に位置させて、かかるスローアウェイチップ50による切削において被削材の仕上げ面形成上で形状精度に重要なコーナ部57周辺のすくい面53を、それぞれ単一の外側分割パンチ25、31のプレス面25A、31Aによってプレス成形して形成することができるので、このコーナ部57により高い精度を与えることが可能となって、高精度の加工が可能なスローアウェイチップ50を製造することができる。
【0048】
図5から図9を用いて、この発明の第2の実施形態について説明する。なお、図1から図4に示された構成と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図5は、第2の実施形態に係るプレス成形金型20を示す図であり、図6(a)に示されるように、ブレーカ60が形成されたスローアウェイチップ50に成形される圧粉体を成形するものである。
図6(b)に示されるように、スローウェイチップ50のすくい面53の外周縁部付近に形成されたブレーカ60は、すくい面53の外周縁部に沿って環状に形成されている。
また、ブレーカ60は、すくい面53の外周縁部側から内側に向かうに従って、漸次スローアウェイチップ50本体内側に向う傾斜面60aと、傾斜面60aに連設され、すくい面53の外周縁部側から内側に向うに従って、漸次スローウェイチップ50の外方に向って傾斜する傾斜面60bとから構成されている。傾斜面60aと傾斜面60bとの交差稜線部は、滑らかな凹曲面部60cとされている。
このブレーカ60の外周縁部には、平坦状に形成された切刃ランド62が形成され、ブレーカ60よりチップ本体側には、平坦面とされた着座平坦面63が形成されている。
【0049】
図5及び、下パンチ22を上面視した図7に示されるように、外側分割パンチ25のプレス面25Aの外周縁部には、環状凸部30が形成されている。
図8は、図7におけるにおける断面Qの拡大図であって、この図8に示されるように、プレス面25Aの外周縁部には、平坦面31が形成されており、平坦面31より内側には、平坦面31から内側に向うに従って漸次隆起する隆起面32と、隆起面32より内側に向うに従って漸次下降する下降面33とから構成された前記環状凸部30が形成され、環状凸部30より内側には、平坦面34が形成されている。隆起面32と下降面33との交差稜線部35は、滑らかな凸曲面とされている。
【0050】
図5、図7に示されるように、内側分割パンチ26のプレス面26Aの稜線部26bには、上方に向って突出する突出部38が形成されており、この突出部38は、外周縁部からパンチ厚さ方向に向うに従って、漸次下降する下降面36により構成されている。
図9は、図7における断面Pの一部拡大図であって、この図9に示されるように、内側分割パンチ26の稜線部26bは、外側分割パンチ25の交差稜線部35に位置させられており、下降面36は、外側分割パンチ25の下降面33と同一の勾配となるように形成されている。また、下降面36より内側には、平坦面37が形成されている。
すなわち、図7に示されるように、環状凸部30の一部には、内側分割パンチ26が嵌挿される貫通孔25aの一部が形成されており、内側分割パンチ26の稜線部26bが外側分割パンチ25に形成された環状凸部の一部を構成している。なお、上パンチ21は、下パンチ22と同様の構成とされている。
従って、下パンチ22のプレス面には、隣接する部分、例えば前記隆起面32に対して該下パンチ22の離接方向(図9における上下方向)に相対的に凹となる凹部すなわち下降面36が形成され、複数の分割パンチ(外側分割パンチ25、内側分割パンチ26)の分割線すなわち前記稜線部26bは、この凹部と前記隣接する部分との境界部すなわち前記交差稜線部35に沿って形成されることとなる。また、逆に下降面36を前記隣接する部分とすると、これに対して隆起面32は下パンチ22の離接方向に相対的に凸となる凸部となって、稜線部26bはこの凸部と前記隣接する部分との境界部である交差稜線部35に沿って形成される。
【0051】
このように構成されたプレス成形金型20においては、加圧工程において、下パンチ22が原料粉末を圧縮してスローアウェイチップ50のすくい面53に対応する部分を成形する際には、外側分割パンチ25の環状凸部30と内側分割パンチ26の突出部38とが協働して、図6に示されるように、スローアウェイチップ50のブレーカ60とされる部分を形成する。
また、平坦面31は、スローアウェイチップ50の切刃ランド62に対応する部分を成形し、さらに、平坦面34、37は、スローアウェイチップ50の着座平坦面63に対応する部分を成形する。
この際、内側分割パンチ26と外側分割パンチ25との隙間に原料粉末が入り込み、又は、内側分割パンチ26と外側分割パンチ25とが同一の位置に位置しないことによりスローアウェイチップ50に形成される段差部70のパンチ厚さ方向の両端部は、ブレーカ60の凹曲面部60cとされる部分に形成される。
【0052】
このようにして成形された圧粉体は、その後焼結されてスローアウェイチップ50とされる。
このスローアウェイチップ50が工具本体に装着されて、図6(b)に示されるように、被削材81を切削する際には、被削材81の切屑82が、傾斜面60aにより湾曲させられ、傾斜面60bに当接させられることにより切断される。
このため、切削材81の切屑82がブレーカ60の凹曲面部60cに入りがたく、段差部70が切屑82の切断に支障をきたすおそれがなく、切屑82は良好に外方に排出される。
このように、本実施形態によれば、切屑82を良好に切断し、外方に排出することができるブレーカ付スローアウェイチップを得ることができる。
【0053】
なお、本実施形態においては、内側分割パンチ26の稜線部26bの位置を外側分割パンチ25の交差稜線部35に位置させているが、これに限られない。
例えば、内側分割パンチ26の稜線部26bの位置を、図8において、外側分割パンチ25の平坦面31と隆起面32との交差稜線部に位置させてもよく、下降面33と平坦面34との交差稜線部に位置させてもよい。
特に、内側分割パンチ26の稜線部26bを外側分割パンチ25の下降面33と平坦面34との交差稜線部に位置させた場合には、スローアウェイチップ50のすくい面53に形成される段差部70のチップ厚さ方向の両端部が、着座平坦面63とブレーカ60との稜線上に形成されることになり、この着座平坦面63は、その後研磨されるため、段差部70を確実に除去することができる。
また、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に構成されているため、第1の実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0054】
図10と図11を用いて、この発明に係る第3の実施形態について説明する。なお、図1から図9に示された構成と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図10(a)に示されるように、本実施形態に係るプレス成形金型20は、図11(a)(b)に示されるように、ボールエンドミル用のスローアウェイチップ90を成形するものであり、スローアウェイチップ90は、円弧状の切刃91が形成された木の葉状の平板面92と、平板面92に対してチップ厚さ方向に対向させられた下面93と、平板面92の周りの周面94とから構成されている。
平板面92は、平板面92の中央部に形成されて下面93と平行とされた平坦部92aと、平坦部92aの両側部に配置され、平坦部92aから切刃91の先端側に向うに従って、漸次下面93側に傾斜する傾斜面92b、92bとから構成されており、平坦部92aの中心部には、平板面92から下面93に貫通する穴部95が形成されている。
【0055】
図10(a)に示されるように、プレス成形金型20は、上下方向に互いに離接する上下パンチ21、22と、キャビティーAが形成されたダイ23と、キャビティーA内に設けられたピン24とから構成されている。
図10(a),(b)に示されるように、上パンチ21は、外側分割パンチ31と、内側分割パンチ32とから構成されている。
外側分割パンチ31は、上パンチ21の摺動方向に対して垂直な方向の断面が木の葉状に形成されており、下端部の中央部には、貫通孔31aが形成されている。
この、外側分割パンチ31の中央部は、貫通孔31aが形成された平坦面41とされており、この平坦面41の両側には、先端部に向かうに従って漸次下方に突出する傾斜面42、42が形成されている。
この外側分割パンチ31の外周縁部は、外方に向けて湾曲する湾曲部42aと、湾曲部42aに交差する直線部42bとから構成されている。
貫通孔31aは、外側分割パンチ31の外周縁部から0.1mm以上(好ましくは、0.5mm以上。)離間した位置に形成されている。
このため、外側分割パンチ31と内側分割パンチ32との分割線80は、外側分割パンチ31の下端面の外周縁部より内側に配置されている。
内側分割パンチ32は、外側分割パンチ31に形成された貫通孔31aに嵌挿されており、その下端面には、ピン24と置き換えられるピン60が設けられている。また、内側分割パンチ32のプレス面32Aとされた下端面は平坦面とされている。
この内側分割パンチ32を上パンチ21の底面視した場合には、内側分割パンチ32の面積I1が、外側分割パンチ31の外周縁部と、内側分割パンチ32の平坦面32Aの外周縁部を構成する稜線部のうち、外側分割パンチ31の外周縁部に沿わない稜線部と、この稜線部の延長線により囲まれる面積O1(図10(b)でハッチングした部分の面積)の50%以上(好ましくは、80%以上)となるように形成されている。
【0056】
下パンチ22は、外側分割パンチ25と内側分割パンチ26とから構成されている。
外側分割パンチ25は、上面視した際に、木の葉状に形成されており、上端面が平坦面とされている。また、外側分割パンチ25の中央部には、貫通孔25aが形成されており、この貫通孔25aには、内側分割パンチ26が嵌挿されている。
円柱状のピン24は、内側分割パンチ26に嵌挿されており、キャビティーA内にて上下動可能に支持されている。
ダイ23に形成されたキャビティーAは、上面視した場合には、木の葉状に形成されており、その内周面は、外方に向って湾曲した湾曲面部45a、45aと、湾曲面部45a、45aに連設された平面部45b、45bとから構成されている。
【0057】
このように構成されたプレス成形金型20においては、加圧工程において、キャビティーA内に充填された原料粉末を上下パンチ21、22が圧縮すると、図11に示されるボールエンドミル用のスローアウェイチップ90に成形される圧粉体が成形される。
この加圧工程においては、上パンチ21の外側分割パンチ31の平坦面41と内側分割パンチ32のプレス面32Aとが一致させられた状態で、原料粉末を圧縮することにより、スローアウェイチップ90の平面板92の平坦部92aに対応する部分が成形され、外側分割パンチ31の傾斜面42がスローアウェイチップ90の傾斜面92bに対応する部分を成形することにより、平面板92に対応する部分が成形される。
【0058】
また、外側分割パンチ31の傾斜面42に形成された湾曲部42aと、キャビティーAの湾曲面45aとが協働することにより、スローアウェイチップ90の切刃91に対応する部分が成形される。
この際、外側分割パンチ31と内側分割パンチ32との分割線80は、外側分割パンチ31の湾曲部42aに位置していないため、スローアウェイチップ90の切刃91に対応する部分は、単一の構成とされた外側分割パンチ31により構成される。
すなわち、外側分割パンチ31と内側分割パンチ32との分割線に原料粉末が入り込み、又は、外側分割パンチ31と内側分割パンチ32との下端面とが一致していない状態で、原料粉末を圧縮することにより、スローアウェイチップ90に形成される段差部70は、スローアウェイチップ90の平面板92の外周縁部より内側に成形される。
このように、段差部70は、切刃91上に形成されることがなく、また、第1の実施形態と同様の構成を有しているため、第1の実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。特に、本実施形態でも、上パンチ21の外側分割パンチ31における貫通孔31aが1つであって、スローアウェイチップ90の仕上げ面精度上重要となる切刃91のコーナ部(先端部)のすくい面となる傾斜面92bが、上述のように上パンチ21の単一の外側分割パンチ31の傾斜面42によって成形されるため、この切刃91に高い精度を与えることができる。
【0059】
図12、図13を用いて、この発明の第4の実施形態について説明する。なお、図1から図11に示された構成と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図12(a)に示されるように、下パンチ22は、外側分割パンチ25と、内側分割パンチ26とから構成されており、内側分割パンチ26は、第1分割パンチ126と、第1分割パンチ126の両側に配置された二つの第2分割パンチ127とから構成されている。
外側分割パンチ25には、貫通孔25aが形成されており、この貫通孔25aには、第1分割パンチ126と、パンチ厚さ方向に直交する方向から第1分割パンチ126を挟むように配置された第2分割パンチ127とが嵌挿されている。
また、第2分割パンチ127は、外側パンチプレート27より下方に配置された第2内側パンチプレート129Aに固定されており、第1分割パンチ126は、第2内側パンチプレート129Aより下方に配置された第1内側パンチプレート129Bに固定されている。
下パンチ22を上面視した図12(b)に示されるように、第1分割パンチ126のプレス面126Aの外周縁部は、外側分割パンチ25の外周縁部に沿う稜線部126bと、外側分割パンチ25の外周縁部に沿わない稜線部126aとから構成されている。
また、第2分割パンチ127のプレス面127Aの外周縁部は、第1分割パンチ126の稜線部126aに隣接して、外側分割パンチ25の外周縁部に沿わない稜線部127aと、外側分割パンチの外周縁部に沿う127bとから構成されている。
【0060】
第1分割パンチ126のプレス面126Aの面積I2は、外側分割パンチ25の外周縁部と、第1分割パンチ126の稜線部126aと、この稜線部126aの外側分割パンチ25の外周縁部に延びる延長線とにより囲まれる面積O2(図12(b)でハッチングした部分の面積)の50%以上(好ましくは、80%以上)となるように構成されている。
また、第2分割パンチ127のプレス面127Aの面積I3は、外側分割パンチ25の外周縁部と、第2分割パンチ127の稜線部127aと、この稜線部127aの外側分割パンチ25の外周縁部に延びる延長線とにより囲まれる面積O3(図12(b)でハッチングした部分の面積))の50%以上(好ましくは、80%以上)となるように構成されている。
【0061】
また、外側分割パンチ25と内側分割パンチ26とにより形成される分割線80は、第1分割パンチ126の稜線部126bと、第2分割パンチ127の稜線部127a、127bとに沿って形成され、また、第1分割パンチ126と第2分割パンチ127とにより構成される第2分割線80aは、第1、第2分割パンチ126、127の境目である稜線部127aと稜線部126aとに沿って形成される。
【0062】
さらに、上面視した際には、第2分割パンチ127の稜線部127aは、円柱状に形成されたピン24の両側縁部に一致するように構成されている。すなわち、貫通孔25aのパンチ厚さ方向に直交する方向の両端部に配置された稜線部127a、127aの間の長さは、ピン24の直径と一致するように形成されている。
なお、上パンチ21は、下パンチ22と同様な構成とされており、上パンチ21の内側分割パンチ32は、第3分割パンチ132と、第3の分割パンチの両側に配置された二つの第4分割パンチ133とから構成されている。
【0063】
このように構成されたプレス成形金型20によれば、充填工程においては、第2分割パンチ127のプレス面127Aとされた上端面が、下パンチ22の外側分割パンチ25のプレス面25Aとされた上端面より上方に位置させられており、第1分割パンチ126のプレス面126Aとされた上端面は、この第2分割パンチ127のプレス面127Aとされた上端面よりさらに上方に位置させられている状態で、キャビティーA内に原料粉末が充填される。
充填比調整工程において、第1分割パンチ126と第2分割パンチ127とが下方に変位して、外側分割パンチ25に引き込まれ、また、第3分割パンチ132と第4分割パンチ133が下方に原料粉末を押圧することにより、ピン24の真下部分にも良好に原料粉末が引き込まれ、キャビティーA内の原料粉末のパンチ離接方向と直交する方向の充填比が良好に調整されることになる。
そして、上下パンチ21、22の内側分割パンチ26、32が、さらに複数の分割パンチ126、127、132、133によって構成されているので、ピン24の部分的なパンチ離接方向の長さの違いに対応してより良好な充填比の調整を図ることができる。
また、本実施形態においても、内側分割パンチ32、26と外側分割パンチ31、25とにより形成される分割線80と、第1、3分割パンチ126、132と第2、4分割パンチ133、127とにより構成される第2分割線80aとは、共に、外側分割パンチ31、25の外周縁部より内側に形成されているため、図13(a)(b)に示されるように、分割線80及び第2分割線80aにより成形される段差部70は、すくい面53の外周縁部より内側に形成される。
さらに、第1の実施形態と同様の構成を有しているため、第1の実施形態と同様の作用・効果を得ることができ、特に上下パンチ21,22の内側分割パンチ26、32は複数の分割パンチ126、127、132、133によって構成されていても、これらが嵌挿される貫通孔25aは外側分割パンチ25、31にそれぞれ1つ形成されているだけであるので、外側分割パンチ25、31を容易かつ精度よく製造することができ、しかもこの貫通孔25aがプレス面25Aの中央部に開口しているので、縦刃式のスローアウェイチップ50に製造される圧粉体を成形する場合において、被削材の仕上げ面形成上重要なコーナ部57により高い精度を与えることが可能となる。
【0064】
図14から図16を用いて、この発明の第5の実施形態について、説明する。なお、図1から図13に示された構成と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図14に示されるように、この実施形態に係るプレス成形金型20は、上パンチ21は、外側分割パンチ31と二つの内側分割パンチ170とから構成されており、下パンチ22は、外側分割パンチ25と二つの内側分割パンチ171とから構成されており、図15に示されるような、スローアウェイチップ50に成形される圧粉体を成形する。
下パンチ22を構成する外側分割パンチ25を上面視した図16に示されるように、外側分割パンチ25の両端部側には、二つの貫通孔25aが形成されている。
この貫通孔25a、25aは、外側分割パンチ25の外周縁部から0.1mm以上(好ましくは、0.5mm以上)離間した位置に形成されており、第1分割パンチ171,171が嵌挿されている。
内側分割パンチ171の上端面のプレス面171Aの外周縁部は、外側分割パンチ25の外周縁部に沿うように配置された稜線分171b、171a2と、外側分割パンチ25の上端面の内側に配置され、外側分割パンチ25の外周縁部に沿わない稜線部171a1とにより構成されている。
【0065】
また、内側分割パンチ171のプレス面171Aの面積I5は、外側分割パンチ25の外周縁部と、プレス面171Aを構成する稜線部のうち外側分割パンチ25の外周縁部に沿わない稜線部171a1と、この稜線部171a1の外側分割パンチ25の外周縁部側に延びる延長線とにより囲まれる面積O5(図16でハッチングした部分の面積)の50%以上(好ましくは、80%以上)となるように形成されている。
このため、外側分割パンチ25と、二つの内側分割パンチ171、171との間に形成される分割線80は、稜線部171a1、171a2,171bにより形成される内側分割パンチ171の外周縁部に沿って形成され、外側分割パンチ25のプレス面25Aの外周縁部より内側に配置されている。
なお、上パンチ21は、下パンチ22と同様に構成されており、外側分割パンチ31と、二つの内側分割パンチ170、170とから構成されている。
【0066】
このように構成されたプレス成形金型20は、充填工程において、下パンチ22の内側分割パンチ171のプレス面171Aが外側分割パンチ25のプレス面25Aより下方に位置した状態で、原料粉末がキャビティーA内に充填される。
そして、充填比調整工程においては、上パンチ21が原料粉末の上面側を押圧する際に、下パンチ22の外側分割パンチ25が下方に変位して、また同時に上パンチ21の外側分割パンチ31が内側分割パンチ170よりも下方に原料粉末を押圧する。
このため、キャビティーA内の原料粉末がピン24の直下に流れ込み、キャビティーA内に充填された原料粉末のパンチ摺動方向に垂直な方向の密度が調整され、原料粉末の充填比を良好に調整することができる。
また、本実施形態においては、分割線80が外側分割パンチ25、31のプレス面25A、31Aの外周縁部より内側において、外側分割パンチ25、31の両端部側に二箇所に形成されているため、スローアウェイチップ50に形成される段差部70は、すくい面53両端部側の外周縁部より内側に二箇所形成される。
このように、段差部70がすくい面53両端部側の外周縁部より内側に形成されるため、貫通孔25aが二つ形成されていること以外は、本実施形態においても、第1の実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0067】
図17と図18を用いて、この発明に係る第6の実施形態について説明する。なお、図1から図16に示された構成と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図17(a)に示されるように、本実施形態に係るプレス成形金型20は、図18(a)(b)に示されるように、第3の実施形態と同様のボールエンドミル用のスローアウェイチップ90を成形するものである。
【0068】
図17(a)に示されるように、プレス成形金型20は、上下方向に互いに離接する上下パンチ21、22と、キャビティーAが形成されたダイ23と、キャビティーA内に設けられたピン24とから構成されている。
図17(a),(b)に示されるように、上パンチ21は、外側分割パンチ31と、二つの内側分割パンチ170とから構成されている。
外側分割パンチ31の傾斜面42、42には、それぞれ、貫通孔31a、31aが形成されており、貫通孔31aは、外側分割パンチ31の外周縁部から0.1mm以上(好ましくは、0.5mm以上。)離間した位置に形成されている。
内側分割パンチ170、170は、外側分割パンチ31に形成された貫通孔31aに嵌挿されており、内側分割パンチ170の下端面のプレス面170Aは、外側分割パンチ31の先端側に向かうに従って、漸次下方に向けて傾斜する傾斜面とされている。
上パンチ21を底面視した図17(b)に示されるように、内側分割パンチ170のプレス面170Aの外周縁部は、外側分割パンチ25の外周縁部に沿う稜線部170bと、外側分割パンチ25の外周縁部に沿わない稜線部170aとから構成されている。
【0069】
内側分割パンチ170のプレス面170Aの面積I5は、外側分割パンチ25の外周縁部と、内側分割パンチ170の稜線部170aと、この稜線部170aの延長線により囲まれる面積O5(図17(b)でハッチングした部分の面積)の50%以上(好ましくは、80%以上)となるように構成されている。
下パンチ22は、外側分割パンチ25と、二つの内側分割パンチ171とから構成されており、内側分割パンチ171のプレス面171Aと、外側分割パンチ25のプレス面25Aとが平坦面とされている。
【0070】
このように構成されたプレス成形金型20においては、加圧工程において、キャビティーA内に充填された原料粉末を上下パンチ21、22が圧縮すると、図18に示されるボールエンドミル用のスローアウェイチップ90に成形される圧粉体が成形される。
この際、外側分割パンチ31と内側分割パンチ170との分割線80は、外側分割パンチ31の湾曲部42aに位置していないため、スローアウェイチップ90の切刃91に対応する部分は、単一の構成とされた外側分割パンチ31により構成される。
すなわち、外側分割パンチ31と内側分割パンチ170との分割線80に原料粉末が入り込み、又は、外側分割パンチ31と内側分割パンチ170との下端面とが一致していない状態で、原料粉末を圧縮することにより、スローアウェイチップ90に形成される段差部70は、スローアウェイチップ90の平面板92の外周縁部より内側に成形される。
このように、段差部70は、切刃91上に形成されることがなく、第1の実施形態と同様の作用・効果を得ることができ、第3の実施形態と同様のスローアウェイチップ90となる圧粉体を成形することができる。
【0071】
図19、図20を用いて、この発明の第7の実施形態について説明する。なお、図1から図18に示された構成と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施形態において、下パンチ22は、外側分割パンチ25の両側に設けられた二つの内側分割パンチ171とから構成されており、内側分割パンチ171が、第1分割パンチ172と、第2分割パンチ173とから構成されている。
外側分割パンチ25の両端部側には、貫通孔25a、25aが形成されており、この貫通孔25aには、第1分割パンチ172と第2分割パンチ173とが嵌挿されている。
第1分割パンチ172は、外側分割パンチ25の両端部側に配置されており、第2分割パンチ173は、第1分割パンチ172より内側に配置されている。
【0072】
下パンチ22を上面視すると、図20に示されるように、第1分割パンチ172のプレス面172Aの外周縁部は、外側分割パンチ25のプレス面25Aの外周縁部に沿う方向に配置された172b、172a2と、プレス面25Aの内側に配置され、外側分割パンチ25の外周縁部に沿わない稜線部172a1とから構成されている。
また、第2分割パンチ173の外周縁部は、外側分割パンチ25のプレス面25Aの外周縁部に沿う稜線部173b、173bと、外側分割パンチ25のプレス面25Aの外周縁部に沿わない稜線部173a、173aとから構成されている。
【0073】
第1分割パンチ172のプレス面172Aの面積I6は、外側分割パンチ25の外周縁部と、稜線部172a1と、この稜線部172a1の外側分割パンチ25の外周縁部への延長線により囲まれる面積O6(図20でハッチングした部分の面積)の50%以上(好ましくは、80%以上)となるように形成されている。
なお、本実施形態では、稜線部172a1が上面視した際に、ピン24(図示略)の両側縁部と一致するようにされている。
第2分割パンチ173のプレス面173Aの面積I7は、外側分割パンチ25の外周縁部と、稜線部173a、173aと、稜線部173a、173aの外側分割パンチ25の外周縁部への延長線とにより囲まれる面積O7の50%以上(好ましくは、80%以上)となるように形成されている。
なお、上パンチ21も下パンチ22と同様に構成されている。
【0074】
このように構成されたプレス成形金型20においては、充填工程において、下パンチ22の第2分割パンチ173のプレス面173Aを外側分割パンチ25のプレス面25Aより下方に位置させて、また、第1分割パンチ172のプレス面172Aをプレス面173Aより下方に位置させた状態で、キャビティーA内に原料粉末を充填する。
そして、充填比調整工程においては、上パンチ21のプレス面21Aが原料粉末の上面を押圧すると、外側分割パンチ25と第2分割パンチ173がプレス面25A、173A、172Aの位置順序を保った範囲で下方に変位し、また上パンチ21の外側分割パンチと第2分割パンチとが下パンチ22の動きに連動するべく下方に原料粉末を押圧する。
このため、原料粉末がピン24直下に良好に流れ込むことにより、原料粉末の充填比調整が良好になされる。
なお、本実施形態は、第4の実施形態と同様に内側分割パンチ171が複数の第1第2分割パンチ172、173を有しているため、第4の実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0075】
図21から図23を用いて、この発明の第8の実施形態について、説明する。なお、図1から図20に示された構成と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図21に示されるように、この発明に係るプレス成形金型20(図示略)の下パンチ22は、上面視した際に、プレス面22Aの外周縁部が稜線部195、196とから構成された略菱形形状とされている。
この下パンチ22は、中央部に配置された中央分割パンチ191と、この中央分割パンチ191の両側に配置された外側分割パンチ192と、この外側分割パンチ192に形成された貫通孔25aに嵌挿された内側分割パンチ171とから構成されている。
外側分割パンチ192は、略扇形状に形成されており、プレス面22Aの内側から先端部側に向かうに従って、漸次上方に向けて湾曲する凸曲面部が形成されており、先端部側に向かうに従って、漸次平坦となるように形成され、その先端部に平坦部193が形成されている。
また、外側分割パンチ192の外周縁部は、平坦部193の外周縁部を形成する稜線部193aと、この稜線部193aに連設されてプレス面22Aの稜線部195、196の略中央部付近にまで伸びる稜線部195a、196aと、稜線部195a、196aとの間を連設し、湾曲させられた稜線部196bとから構成されている。
外側分割パンチ192に形成された貫通孔25aは、外側分割パンチ192の外周縁部より内側に形成されている。
【0076】
中央分割パンチ191のプレス面191Aは、平坦面とされており、中央分割パンチ191のプレス面191Aの外周稜線部は、プレス面22Aの稜線部195と稜線部196とが鈍角に交差する部分を構成する稜線部197aと、外側分割パンチ192の稜線部196bに沿うように形成された稜線部197bとから構成されている。
このように構成された下パンチ22においては、外側分割パンチ192と、内側分割パンチ171とにより形成される分割線80が内側分割パンチ171のプレス面171Aの外周縁部に沿って形成される。
さらに、外側分割パンチ192と、中央分割パンチ191とにより形成される分割線80bが稜線部196b、197bに沿って形成される。
このため、分割線80bの両端部は、プレス面22Aの稜線部195、196にまで延びるものとされている。なお、上パンチ21も上下反転形状とされて下パンチ22と同様の構成とされている。
【0077】
このように構成されたプレス成形金型20(図示略)によれば、上下パンチ21、22が、キャビティーA内の原料粉末を圧縮すると、図22に示されるようなスローアウェイチップ180に成形される圧粉体が成形される。
この際、スローウェイチップ180は、上面視した際に、略菱形形状となるように形成されており、天板面181と、この天板面181周りに形成された周面182とから構成されている。
天板面181の中央部は、平坦部183とされ、平坦部183の両側には、先端部側に向かうに従って漸次チップ本体の内方に向うブレーカ184が形成されており、このブレーカ184の先端側には、平坦部185が形成されている。この平坦部185の外周縁部には、切刃185aが形成されている。
【0078】
すなわち、圧縮工程において、下パンチ22が原料粉末を圧縮すると、プレス面191Aが平坦部183に対応する部分を成形し、外側分割パンチ192の凸曲面部がブレーカ184に対応する部分を成形して、さらに、平坦部193の稜線部193aが切刃185aに対応する部分を成形する。
この際、分割線80は、外側分割パンチ192の外周縁部より内側に形成されているため、分割線80によりスローアウェイチップ180に形成される段差部70は、チップ本体の外周縁部より内側に形成される。
また、分割線80bは、中央分割パンチ191の稜線部197bに沿って形成されているため、分割線80bによりスローアウェイチップ180に形成される段差部70bは、ブレーカ184と、平坦部183との交差稜線部に沿って形成される。
このように、段差部70bは、ブレーカ184より天板面181内側に形成される一方で、切刃185aは、ブレーカ184の先端部側に形成されるため、段差部70bが切刃185aにまで伸びることが防止される。
すなわち、このプレス成形金型20によれば、少なくとも切刃185aに対応する部分は、一つの外側分割パンチ192により形成されているため、精度良く切刃185aを成形することができ、さらに、切刃185aに段差部70、70bが形成されることを防止することができる。
このように、本実施形態によれば、切刃185aに段差部70、70bが形成されることが防止されるため、第1の実施形態と同様の作用・効果を得ることができ、また、本実施形態においては、プレス面22Aの両端部に内側分割パンチ171が設けられているため、第5の実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0079】
なお、図21では内側分割パンチ171が嵌挿される貫通孔25aが外側分割パンチ192の平坦部193に形成されているが、これに代えて、図23(a)に示されるように、貫通孔25aを外側分割パンチ192の凸曲面部に形成すると共に、内側分割パンチ171をこの貫通孔25aに嵌挿させてもよい。ただし、この図23(a)における貫通孔25aは、中央分割パンチ191と外側分割パンチ192とによって形成されており、すなわち下パンチ22の切刃部185aに連続する部分を成形する一の分割パンチがさらに複数の分割パンチ(中央分割パンチ191、外側分割パンチ192)によって構成されて、これらの分割パンチ191、192の間に貫通孔25aが形成されるようになされている。
さらに、こうして貫通孔25aを外側分割パンチ192の凸曲面部に形成するにしても、図23(a)のように中央分割パンチ191との間に貫通孔25aを形成するのではなく、図23(b)に示されるように、貫通孔25aを外側分割パンチ192の稜線部196bより外側分割パンチ192のプレス面192Aの内側に形成し、この貫通孔25aに内側分割パンチ171を嵌挿してもよい。
これら図23(a)、(b)のように下パンチ22を構成した場合においては、切刃185aの特に先端のコーナ部から離間した位置に段差部80、80bが形成されるため、切削時に段差部80、80bによる影響を確実に抑えることができる。さらに、これらのように上下パンチ21、22を構成した場合、外側分割パンチ192の平坦部193には貫通孔25aが形成されずに、スローアウェイチップ180において前記コーナ部を含む切刃185aとなる部分の周辺が、単一の外側分割パンチ192の平坦部193によってプレス成形されるため、より高い精度が得られる。
【0080】
なお、前記第1から第8の実施形態では、各内側分割パンチ26、32、170、171等のプレス面26A、32A、170A、171Aの外周縁部の一部が、外側分割パンチ25、31や分割パンチ192のプレス面25A、31A、192Aの外周縁部に沿って平行に伸びるように等間隔をなして形成されているが、例えば図24に示す図16の変形例のように内側分割パンチ171のプレス面171Aの外周縁部(稜線部171a2、171b)およびこの内側パンチ171が嵌挿される貫通孔25aの内周が、外側分割パンチ25のプレス面25Aの外周縁部に対して波状に曲折して形成されていたり、あるいは互いの間隔が漸次変化するようにされていたりしてもよい。ちなみに、この図24に示したように内側分割パンチ171のプレス面171A外周縁部を波形に形成した場合には、このプレス面171Aを外側分割パンチ25のプレス面25Aより僅かに突き出し、あるいは後退させて圧粉体を成形することにより、スローアウェイチップ50のすくい面53には外周縁部が波形に曲折する凹状あるいは凸状のチップブレーカが形成されることとなり、切屑分断効果の向上を図ることができる。
また、前記第1から第8の実施形態では、上下方向に離接するパンチによって圧粉体を成形する場合について説明したが、複数のパンチを水平方向に離接させて圧粉体を成形する場合や上下方向と水平方向とに離接させる場合にも、本発明は適用可能である。さらに、例えばこうして複数のパンチを水平方向に離接させる場合などには、3つのパンチを3方向から離接させたり、4つのパンチを4方向から離接させたり、あるいはそれ以上のパンチを用いたりしてもよく、このとき例えば3つのパンチを3方向から離接させる場合などには、これらのパンチの離接方向が上面視にキャビティーから放射状に向けられるなどして、パンチ同士が一直線上には対向していない構成とされていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
この発明に係る切削工具の切刃部材の製造方法及び該製造方法に用いられる圧粉体のプレス成形金型によれば、切刃部材のすくい面に形成される段差部が切刃にまで伸びることを防止することにより、切刃に段差部が形成されることを防止することができ、これにより、被削材の表面粗さ及び切刃部材の工具寿命を向上させることができ、さらに、切屑を良好に排出することができるため、産業上の利用可能性が認められる。
【符号の説明】
【0082】
20 圧粉体のプレス成形金型
21 上パンチ
22 下パンチ
23 ダイ
25、31 外側分割パンチ(一の分割パンチ)
26、32、170、171 内側分割パンチ(他の分割パンチ)
126 第1分割パンチ
127 第2分割パンチ
132 第3分割パンチ
133 第4分割パンチ
172 第1分割パンチ
173 第2分割パンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向して相対的に離接させられる複数のパンチと、接近したこれらのパンチの周囲を取り囲むように配設されて該パンチとの間にキャビティーを画成するダイとを備えたプレス成形金型を用いて、前記キャビティーに投入した原材料粉末を前記パンチによって圧縮することにより、切削工具の切刃部材に製造される圧粉体をプレス成形する切削工具の切刃部材の製造方法において、
前記複数のパンチのうち少なくとも一つを、前記原料粉末の圧縮の際の該パンチの離接方向に延びる分割面を有して分割される複数の分割パンチにより構成して、前記切刃部材の少なくとも連続する一の切刃部分に対応する部分を、前記分割パンチのうち一の分割パンチにより成形することを特徴とする切削工具の切刃部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された切削工具の切刃部材の製造方法において、
前記一の分割パンチの内側に他の分割パンチを配置して、前記切刃部分を含む前記圧粉体の連続した外周稜線に対応する部分すべてを前記一の分割パンチにより成形することを特徴とする切削工具の切刃部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された切削工具の切刃部材の製造方法において、
前記圧粉体は、平板状をなしていて、その平板面の周りに配置される周面のうち少なくとも一つを前記複数の分割パンチにより構成されたパンチによって圧縮することを特徴とする切削工具の切刃部材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載された切刃工具の切刃部材の製造方法において、
前記キャビティー内に前記パンチの離接方向に直交する方向に出没可能なピンによって、前記圧粉体の前記平板面に孔部を形成することを特徴とする切削工具の切刃部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載された切削工具の切刃部材の製造方法に用いられる圧粉体のプレス成形金型であって、互いに対向して相対的に離接させられる複数のパンチと、接近したこれらパンチの周囲を取り囲むように配設されて該パンチとの間にキャビティーを画成するダイとを備え、
前記複数のパンチのうち少なくとも一つが、前記キャビティー内の周面に沿って摺動する一の分割パンチと、該一の分割パンチに形成された貫通孔に嵌挿され摺動可能に設けられた他の分割パンチとの複数の分割パンチを備えていることを特徴とする圧粉体のプレス成形金型。
【請求項6】
請求項5に記載された圧粉体のプレス成形金型において、
前記他の分割パンチが、さらに複数の分割パンチにより構成されていることを特徴とする圧粉体のプレス成形金型。
【請求項7】
請求項5又は6に記載された圧粉体のプレス成形金型において、
前記他の分割パンチのプレス面の面積が、前記一の分割パンチのプレス面の外周縁部と、前記他の分割パンチのプレス面の輪郭を形成する線分のうち、前記外周縁部に沿って延びることのない線分と、その前記外周縁部への延長線とにより囲まれる面積の50%以上であることを特徴とする圧粉体のプレス成形金型。
【請求項8】
請求項7に記載された圧粉体のプレス成形金型において、
前記他の分割パンチのプレス面の面積が、前記一の分割パンチのプレス面の外周縁部と、前記他の分割パンチのプレス面の輪郭を形成する線分のうち、前記外周縁部に沿って延びることのない線分と、その前記外周縁部への延長線とにより囲まれる面積の80%以上であることを特徴とする圧粉体のプレス成形金型。
【請求項9】
請求項5から8のいずれかに記載された圧粉体のプレス成形金型において、
前記一の分割パンチに形成された前記貫通孔が、前記一の分割パンチの外周縁部から0.1mm以上離間した位置に形成されていることを特徴とする圧粉体のプレス成形金型。
【請求項10】
請求項9に記載された圧粉体のプレス成形金型において、
前記貫通孔が前記一の分割パンチの外周縁部から0.5mm以上離間した位置に形成されていることを特徴とする圧粉体のプレス成形金型。
【請求項11】
請求項5から10のいずれかに記載された圧粉体のプレス成形金型において、
前記他の分割パンチが嵌挿される貫通孔が前記一の分割パンチに一箇所形成されていることを特徴とする圧粉体のプレス成形金型。
【請求項12】
請求項5から11のいずれかに記載された圧粉体のプレス成形金型において、
前記複数の分割パンチにより構成されるパンチのプレス面には、隣接する部分に対して該パンチの離接方向に相対的に凹又は凸となる凹凸部が形成されており、前記複数の分割パンチの分割線は、この凹凸部と前記隣接する部分との境界部に沿って形成されていることを特徴とする圧粉体のプレス成形金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−98392(P2011−98392A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14436(P2011−14436)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【分割の表示】特願2004−173903(P2004−173903)の分割
【原出願日】平成16年6月11日(2004.6.11)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】