判定装置、選定装置、判定方法、細胞生産方法、プログラム及び記録媒体
【課題】 表面プラズモン共鳴装置による、基板などに接し又は近接する測定対象物の分極状態を判定するに適した判定装置等を提供する。
【解決手段】 判定装置17は、表面プラズモン共鳴現象を用いて基板3上の生細胞5及び7内のミトコンドリア9及び11の分極状態を判定するものであって、基板3に対し、少なくとも2種類の入射光13に基づいてミトコンドリア9及び11の分極状態の三次元的な分布・強度・形態を判定する分極状態判定部21を備える。
【解決手段】 判定装置17は、表面プラズモン共鳴現象を用いて基板3上の生細胞5及び7内のミトコンドリア9及び11の分極状態を判定するものであって、基板3に対し、少なくとも2種類の入射光13に基づいてミトコンドリア9及び11の分極状態の三次元的な分布・強度・形態を判定する分極状態判定部21を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、判定装置、選定装置、判定方法、細胞生産方法、プログラム及び記録媒体に関し、特に、表面プラズモン共鳴現象を用いて生細胞内のミトコンドリアの分極状態を判定する判定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
発明者らは、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance:SPR)装置を用いて、細胞内ミトコンドリアの分極状態をモニタリングすることを研究している(特許文献1参照)。
【0003】
また、胚性幹細胞(ES細胞)からのヒト生体組織の再生を目指して、特定の生体組織への分化を誘導する因子の特定、分化状態をモニタリングするためのマーカー分子に関する研究を行っている。
【0004】
分化状態・未分化状態で維持することができる、またはインビトロにおいて胚体外または体細胞系統に分化するように誘導することができる全能性幹細胞を作製することにより、早期ヒト発生に関する細胞生物学および分子生物学の研究、機能ゲノム工学、移植または薬物スクリーニングおよびインビトロにおける医薬品発見に使用する幹細胞からの分化細胞の作製が可能になる。
【0005】
一般に、幹細胞は、一連の成熟機能細胞を生じることができる未分化細胞である。例えば、造血幹細胞は、異なる種類の最終的に分化した血液細胞のいずれかを生ずることができる。胚性幹細胞(ES細胞)は胚由来であり、多分化能をもつので、発生して、任意の器官、細胞種もしくは組織種またはおそらく完全な胚を形成する能力を有する。
【0006】
全能性幹細胞から分化した特定の細胞系統を得るために、分化を特定の細胞系統へと導くin vivoメカニズムが用いられた。例えば、全能性幹細胞をレポーターコンストラクトで修飾し、次にこれを初期の胚に再導入した後に、神経系統の幹細胞が単離された(非特許文献1)。レポーターコンストラクトは神経形成中に発現され、レポーター遺伝子を発現する細胞は、分離されて培養物中に置かれる。この方法は、 in vivoメカニズムを通して神経系統に関与する細胞の単離を許容するが、しかし、分離され1度培養物中に置かれた細胞は、最終的な分化に進行する。
【0007】
特許文献2には、以下のようにしてin vitroで系統特異的幹細胞を単離する方法が教示されている:全能性胚性幹細胞
に、レポータータンパク質をコードするDNAに動作可能に結合する系統特異的遺伝子の調節領域を含むコンストラクトをトランスフェクトすること;全能性胚性幹細胞を、全能性胚性幹細胞が系統特異的幹細胞に分化するような条件下で培養すること;および培養物中のレポータータンパク質を発現する細胞を、他の細胞から分離すること;ここでレポータータンパク質を発現する細胞が、単離された、系統特異的幹細胞である。
【0008】
また、現在までに、全能性胚性幹細胞から特定組織への分化誘導が報告されている。
【0009】
【特許文献1】世界公開第2007/069692号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5639618号
【非特許文献1】Ott, etal. (1994) J. Cell. Biochem. Supplement 18A:187
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
表面プラズモン共鳴装置は、表面プラズモン共鳴現象を利用し、共鳴角度変化を測定する。この共鳴角度変化は、センサー部の金膜表面近傍における誘電率の変化に依存する。生体分子はそれぞれ固有の誘電率を有しているが、金膜上に固定した対象リガンドとの結合が生じた場合は複合体が形成され、誘電率が変化する。
【0011】
しかしながら、表面プラズモン共鳴装置は、通常、特定の波長の光を用いるものである。そのため、測定対象となるミトコンドリアに関して得られた情報には、さまざまな情報が混在していた。このことは、細胞内ミトコンドリアに限らず、同様に基板などに接し又は近接して存在する物の分極状態を測定する場合も同様である。
【0012】
また、特許文献2や非特許文献1に記載された方法は、幹細胞に非生体物質を導入しその物質の応答により幹細胞の状態をモニタリングしており、生体組織の再生および再生医療を目的とした幹細胞の分化誘導には利用することができないという問題点を有している。
【0013】
現在までに報告されている全能性胚性幹細胞から特定組織への分化誘導は、分化状態が、細胞内分子の発現プロファイル、細胞表面抗原の発現プロファイル等のin vitro解析に基づいて特徴づけられている。例えば、転写因子であるOct−3/4の発現を解析することにより分化状態を判別することができる。これらのin vitro解析を行うためには、分化中の細胞を採取し、その抽出液を調整する必要があり、分化状態を継続的にモニタリングすることは不可能であった。
【0014】
そこで、本発明の目的は、表面プラズモン共鳴装置による、測定対象物の分極状態を判定するに適した判定装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、表面プラズモン共鳴現象を用いて生細胞内のミトコンドリアの分極状態を判定する判定装置であって、少なくとも2種類の入射光に基づいて前記ミトコンドリアの分極状態を判定する分極状態判定手段、を備えるものである。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の判定装置であって、前記分極状態判定手段による判定が、前記ミトコンドリアの分極状態の分布、強度及び形態の少なくとも一つである。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の判定装置であって、前記少なくとも2種類の入射光は、互いに、波長及び生じさせるエバネッセント波の少なくとも一方を異にするものであり、前記分極状態判定手段が、スペクトル分析により前記ミトコンドリアの分極状態を判定するものである。
【0018】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の判定装置であって、前記分極状態判定手段による判定結果に基づいて前記生細胞の性質を判定する性質判定手段を備えるものである。
【0019】
請求項5に係る発明は、請求項4記載の前記性質判定手段により判定された生細胞の性質に基づいて培養対象となる生細胞を選定する選定手段を備える選定装置である。
【0020】
請求項6に係る発明は、表面プラズモン共鳴現象を用いて生細胞内のミトコンドリアの分極状態を判定する判定方法であって、少なくとも2種類の入射光に基づいて前記ミトコンドリアの分極状態を判定するステップ、を含むものである。
【0021】
請求項7に係る発明は、培養により細胞を生産する細胞生産方法であって、表面プラズモン共鳴現象を用いて、少なくとも2種類の光を入射光とする生細胞内のミトコンドリアの分極状態の判定結果に基づいて、培養対象とされた生細胞を培養して細胞を生産する生産ステップ、を含むものである。
【0022】
請求項8に係る発明は、コンピュータを、表面プラズモン共鳴現象を用いて生細胞内のミトコンドリアの分極状態を判定する判定装置であって、少なくとも2種類の入射光に基づいて前記ミトコンドリアの分極状態の分布、強度及び形態の少なくとも一つを判定する判定手段、を備える判定装置として機能させるためのプログラムである。
【0023】
請求項9に係る発明は、請求項8に記載のプログラムを記録した記録媒体である。
【0024】
請求項10に係る発明は、表面プラズモン共鳴現象を用いて、接し又は近接して存在する判定対象物の分極状態を判定する判定装置であって、少なくとも2種類の入射光に基づいて、前記分極状態の分布、強度及び形態の少なくとも一つを判定する判定手段、を備えるものである。
【0025】
なお、判定対象となる生細胞は、基板上のものであってもよい。入射光は基板に対するものであってもよい。判定対象物は、基板に接し又は近接して存在するものであってもよい。また、判定対象となる生細胞は、分化可能な状態を保持したまま分極状態を判定するものであってもよい。
【0026】
また、判定対象となる生細胞は、例えば、幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、ES細胞に由来する分化細胞、間葉系幹細胞(脂肪幹細胞、血液幹細胞など)、組織分化能を有する未分化細胞、多分化機能を保持する細胞などであってもよい。また、正常細胞、がん細胞、受精卵、動植物のクローン細胞、ES細胞、がん幹細胞等であってもよく、これらの培養細胞であってもよい。
【0027】
さらに、イメージング・マッピングによりミトコンドリアの分極状態の分布・強度・形態などを測定するようにしてもよい。
【0028】
さらに、少なくとも2種類の光は、例えば、請求項3に記載しているように、波長及び生じさせるエバネッセント波の少なくとも一方を異にするものであり、例えば、白色光(波長が一定の幅にあるもの)や、異なる波長の光を連続して入射光とするものであってもよい。
【発明の効果】
【0029】
本願の各請求項に係る発明によれば、入射光を複数種類の光とすることにより、ミトコンドリアの分極状態の分布(三次元的な分布)・強度・形態などにつき、非標識・非破壊にモニタリングすることができる。
【0030】
また、例えば請求項4や請求項5に係る発明にあるように、複数の生細胞がある場合にも、各ミトコンドリアの分極状態の分布・強度・形態などを判定し、各生細胞の性質(例えば、分裂活性、老化状態、悪性(がん細胞であるか否か)など)までもが特定することが可能となる。
【0031】
すなわち、ミトコンドリアの分極状態について、例えば、次のようなことが知られている。老化した細胞ではミトコンドリアの分極程度が低下する。細胞分裂活性の高い細胞では分極程度が高い。細胞の増殖や分化の過程においてミトコンドリアの極性が大きく変化する。ミトコンドリアと分化に関しては、ミトコンドリア内膜構成要素(シトクロムbc1(複合体III))の活性を抑制し膜電位を変化させるとES細胞から心筋への初期分化が阻害されたことが報告されている。また、個体発生の初期において、内因性の膜電位の変化が起こり正常な胚発生を維持する。中枢系神経細胞においてミトコンドリアの役割は神経の成熟に伴いエネルギー代謝からシナプスの伸展、維持へと変化する。さらに、ヒトおよびマウスES細胞から分化させた神経細胞でKClによる脱分極や心筋細胞の電位の伝導に膜分極の変化を用いるなど、分化細胞の機能性の評価としても膜の分極の変化が用いられている。
【0032】
本願発明により複数の生細胞の性質をそれぞれ特定することが可能となり、例えばES細胞から成熟機能性細胞への分化段階にある細胞を早期に単一細胞レベルで選別し、特定の細胞系譜へと分化が運命づけられた細胞集団を選別することが可能となる。目的とする機能性細胞集団や組織への効率的な分化誘導法の確立に用いることができる。すなわち、組織幹細胞の同定、purityを高くすることができ、臓器といった立体的(三次元的)なものの生産も可能となる。この表面プラズモン共鳴を応用した分化誘導法は、例えば、再生医学さらにはその実践としての再生医療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照して、本願発明の実施例について説明する。ただし、下記は実施例であり、これに限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
まず、本発明の実施例である表面プラズモン共鳴測定方法の概要について説明する。
【0035】
図1を参照して、前処理について説明する。図1は、前処理の概要を示す図であり、(a)は12wellセルカルチャープレート(Falcon#353225)を示し、(b)はその中にセットされるサーマノックスカバースリップ(Nunc#174950)を示す。12wellセルカルチャープレートの各wellは、直径が22mmの円形である。サーマノックスカバースリップは直径13mmの円形で、その上でES細胞等の細胞を培養する。例えば、カバースリップをコーティング剤でコーティングした上で細胞を培養してもよく、また、ES細胞を支持細胞上で培養してもよい。サーマノックスカバースリップは、12wellセルカルチャープレートにセット後に細胞培養と同様にコーティング剤でコートされる。
【0036】
次に、プレートのコーティング剤を除いて、その上にシャーレから剥離した細胞を1wellずつ播種する。そして、プレートの蓋を閉じて、37℃、CO2濃度5%で細胞を培養する。
【0037】
続いて、測定について説明する。図2は、本願発明の実施の形態に係る判定・培養システム1の概略ブロック図である。判定・培養システム1には、表面プラズモン共鳴装置2と判定装置17と選定装置23と培養装置26を備える。
【0038】
表面プラズモン共鳴は、例えばプリズムを用いた場合では、金属表面プラズモンをレーザー光などの光により得られるエバネッセント波を用いて共鳴励起することで起こる現象である(特許文献1参照)。
【0039】
表面プラズモン共鳴装置2には基板3がある。基板3は、例えば、硝子導波路のような光透過型である。基板3上には金属層4がある。基板3上には生細胞5及び7がある。生細胞5及び7内にはミトコンドリア9及び11がある。
【0040】
基板3に入射光13を入射して基板3内で全反射を起こすことにより、エバネッセント波をその反射面の反対側に発生させることができる。基板3上に薄い金属膜4が存在する場合、エバネッセント波は金属層4を抜けて金属反対面の表面プラズモンを共鳴励起する。共鳴を起こす条件を決定する要因として金属層4と界面をなしている物質の誘電率などがある。生細胞5及び7内のミトコンドリア9及び11の分極状態は、測定対象物の誘電率として共鳴を起こす条件を決定する要因となりうるものであり、入射光13に基づく光15を分析することにより、検出可能となる。
【0041】
本実施例において、測定は、具体的には、以下のように行った。
【0042】
まず、機械の設定をする。既存の表面プラズモン共鳴装置を利用し、エリア型検出器を用いて検出することができる(特許文献1参照)。設定ソフトはSPR spectraであり、解析ソフトはBW Specである。初めに、検出側をゴムキャップとアルミで覆い、darkデータを取る。次に、測定する細胞の各培養培地を用いて、referenceデータを取る。培地は4℃から取り出して15分以上置いて用いる。光源は立ち上げてから15分置いてから測定する。
【0043】
次に、上部に細胞が張り付いているカバースリップを、金基板の上にひっくり返して細胞を基板に接着させた状態で機械にセットする。図3(a)は、本実施例で使用する図2の基板3の一例である硝子導波路を示すものであり、(b)は、図1(b)のサーマノックスカバースリップを利用して培養した細胞を基板に接着させた状態とする一例を示すものである。図3(a)にあるように、本実施例で使用する基板はBK7硝子導波路であり、横65mm、縦20mmであり、中央に一辺が3mmの正方形の金属膜が存在する。そして、図3(b)にあるように、図1(b)のサーマノックスカバースリップを利用して培養した細胞を基板に接着させた状態とする一例を示すものである。このように、細胞を固定させることなく、培養した細胞を基板にそのまま接着させても測定可能である。なお、金属板については、図2にあるように、生細胞群がすべて金属板4上にあるようにしてもよく、また、図3にあるように、その一部にあるようにしてもよい。
【0044】
そして、光15より各細胞のスペクトルデータを取る。以下、図面において、Spectrumは生の波形データを示し、t/r%は、(spectrum-dark)/(reference-dark)*100を計算して求めたものである。
【0045】
このようにして、例えば図4、図5(a)にあるような、スペクトルデータを取ることができる。図5〜図9において、(a)は細胞及び培養培地のスペクトル波形である。細胞は実線、培養培地は点線で示す。(b)は、各波長における細胞の共鳴をリファレンスで標準化したt/r%をさらに微分することにより得られる。正側のピークはリファレンス、負側のピークは細胞の最大共鳴角を示す。
【0046】
解析パラメータとして、例えば、培地と細胞間での最大共鳴角のシフト、細胞の最大共鳴角での共鳴の強さ、共鳴カーブの幅、最も共鳴が少ない波長でのリファレンスとの強度差などがある。
【0047】
そして、図2の判定装置17は、光15に基づいてミトコンドリアの分極状態の分布、強度及び形態の少なくとも一つを判定する分極状態判定部19と、分極状態判定部19の判定結果に基づいて各生細胞5及び7の性質を判定する性質判定部21を備える。光15は、例えば、図2にあるように、入射光13に基づいて基板3より観測可能な光である。
【0048】
なお、例えば特開2004−271337号公報には、表面プラズモン共鳴現象を利用して細胞の多検体同時解析が記載されているが、細胞の数、接着面積、大きさなど、基板に接着する細胞を対象とするものであり、細胞内部のミトコンドリアの分極状態など基板とは接着しないものも対象とする本願発明とは異なるものである。また、特開2004−279041号公報には表面プラズモン共鳴装置においてスペクトル分析を行うことが記載されているが、これは蛍光観察であり、エバネッセント波を照明光として蛍光標識したものを照らして行う検出方法であり、本願発明とは異なるものである。
【0049】
また、図2の選定装置23は、性質判定部21により判定された各生細胞5及び7の性質に基づいて生細胞5及び7から培養対象となる生細胞を選定する選定部25を備える。また、培養装置26は、選定部25により選定された生細胞を培養する培養部27を備える。培養部27による培養により、細胞が生産される。
【0050】
次に、ミトコンドリア染色の評価方法について説明する。
【0051】
前処理としては、4wellカルチャースライド(Falcon#354114)の各wellを細胞培養と同様にコーティング剤でコートした。次に、コーティング剤を除いて、シャーレから剥離した細胞を1wellずつ播種した。そして、カルチャースライドの蓋を閉じて37℃、CO2濃度5%で細胞を培養した。
【0052】
ミトコンドリアの染色方法としては、培養培地を除去して、JC-1 iodideを2μM含む新しい培養培地500μlと交換してCO2インキュベータ内(37℃、CO2濃度5%)にて30分間置いた。
【0053】
そして、インキュベーション30分後、蛍光強度の観察を行った。使用した顕微鏡はNikon ECLIPSE 80iである。対物レンズはNikon Japan L Plan SLWD 20×0.35 WD24である。蛍光フィルタは、B-2A(励起フィルタ450-490、ダイナミックミラー505、吸収フィルタ520)とG-2A(励起フィルタ510-560、ダイナミックミラー575、吸収フィルタ590)である。解析ソフトはNIS-Elements BR2.30である。露光は400-600msである。
【0054】
ミトコンドリア内部での陽イオン性色素JC-1の蓄積は、膜電位に依存する。ミトコンドリア膜電位が低いと色素はほとんど蓄積しない。低い濃度では色素はモノマーとして存在し、緑色の蛍光を放出する。ミトコンドリアの膜電位が高いと色素は非常に多く蓄積され、このような高濃度では色素はJ−会合体を形成し、蛍光が緑色から赤色にシフトする。緑色蛍光JC−1モノマーのシグナルとJ−会合体を組み合わせることで、さまざまなレシオメトリック分析が可能である。赤色/緑色JC−1蛍光の比は膜電位に依存しており、ミトコンドリアの大きさや形状、密度とは独立している。
【0055】
図5〜図9において、(c)は緑と赤の発色を合わせた画像(merge)を示す図であり、(d)はJ−会合体単独の画像を示す図であり、(e)はJ−会合体の拡大図(×22.5)を示す図である。
【0056】
解析パラメータとして、ミトコンドリアの活動電位、分布、密度、形状(球状、繊維状など)、細胞特異的な形態の変化などである。
【実施例2】
【0057】
続いて、図4〜図13を用いて、図2の判定装置17の動作について具体的に説明する。
【0058】
図4は、培養培地による表面プラズモン共鳴スペクトルを示す図である。供試培地は、ES培地、神経幹細胞培地、インスリン産生細胞培地、神経細胞培地、皮膚細胞培地の5種類の完全培地とし、超純水をリファレンスに設定する。各培養培地中に含まれる成長促進剤や血清等による表面プラズモン共鳴シグナルへの影響についての評価を行う。なお、今回計測したなかで血清を含む培地はES培地(10%v/v)と神経系細胞培地(5%v/v)の2種類である。
【0059】
測定に用いた5種類の培養培地は、以下のものである。ES培地は、MEM非必須アミノ酸100μM、ペニシリン40units/ml、ストレプトマイシン40μg/ml、2-メルカプトエタノール0.1mM、FBS 14%(v/v)、mLIF(マウス白血病阻害因子)500units/mlを含む液体培地DMEMである。神経幹細胞培地は、インスリン5μg/ml、トランスフェリン50μg/ml、亜セレン酸ナトリウム30nM、フィブロネクチン5μg/mlを含むDMEM/F-12 (1:1)である。インスリン産生細胞培地は、インスリン5μg/ml、トランスフェリン100μg/ml、プロゲステロン6.3ng/ml、プトレッシン16.11μg/ml、亜セレン酸5.2ng/ml、ニコチンアミド10mM、LY294002 10μMを含むDMEM/F-12(1:1)である(PNAS 2002;99:16105-16110参照)。神経細胞培地は、B27supplement 1×、FBS 14%(v/v)を含む神経細胞培養用培地である(Journal of Neurochemistry 2005;92:1265-1276参照)。皮膚細胞培地は、造血幹細胞研究用無血清基本培地、2-メルカプトエタノール0.1mMである(Nature Biotechnology 2005;23:1542-1550参照)。
【0060】
まず、表面プラズモン共鳴による培養培地の評価について説明する。図4にあるように、供試培地をES培地、神経幹細胞培地、インスリン産生細胞培地、神経細胞培地、皮膚細胞培地の5種類の完全培地として、超純水をリファレンスに設定して測定した。基板を表面プラズモン共鳴センサー上のプリズムに設置し、基板上を1mlの各培地で満たし、測定する。その結果、図4に示されるように、培地による表面プラズモン共鳴シグナルに特徴的な差は認められなかった。
【0061】
続いて、未分化ES細胞のミトコンドリアの分極状態の評価について説明する。
【0062】
供試細胞にはマウスES細胞を用いた。37℃、CO25%濃度下で、MEM非必須アミノ酸100μM、ペニシリン40units/ml、ストレプトマイシン40μg/ml、2-メルカプトエタノール0.1mM、FBS 14%(v/v)、mLIF(マウス白血病阻害因子)500units/mlを含む液体培地DMEMを培養培地として用い、0.2%ゼラチンでコーティングしたT25フラスコに支持細胞(マウス胎児性皮膚細胞)上で共培養した。
【0063】
図5は、ES細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。図5(a)、(b)を参照して、表面プラズモン共鳴による未分化のES細胞のミトコンドリアの分極状態の評価は、例えば、以下の手順で行うことができる。
【0064】
供試細胞は、90%コンフルエントにまで増殖したES細胞をtrypsin0.25%/EDTA 1mMを加えて37℃で10分インキュベートし細胞を剥離した。剥離した細胞はFBSを含む培地で回収して1000rpmで5分間遠心分離し、得られた細胞懸濁液を再びシャーレに播種した。ゼラチンコーティングしたシャーレ上でES細胞を37℃、CO25%濃度下で4時間インキュベートすることにより支持細胞(共培養細胞)と分離して上清を回収して、先に支持細胞でコーティングしておいたカバースリップ(Nuncサーマノックスカバースリップ)の上に播種した。この状態で細胞を37℃、CO25%濃度下で90%コンフルエントにまで増殖するまで培養した。約48時間の培養後、基板に細胞が接着したカバースリップが相対するように配置し、そのまま表面プラズモン共鳴センサー上のプリズムに設置して測定を開始した。
【0065】
図5(a)は、ES培地のみをリファレンスとして(点線)、ES細胞を乗せた場合(実線)のスペクトルを示す図である。横軸は波長であり、縦軸はrerlative intensityである。図5(a)に示されるように、ES培地のみをリファレンスにとった共鳴カーブに比べて、ES細胞を乗せた際の共鳴カーブは最大共鳴角が右上方向に向かって移行していた。図5(b)は、各波長における細胞の共鳴をリファレンスで標準化したt/r%を、さらに微分することにより得られる。
【0066】
解析パラメータとして、本実施例では、図5(a)において記号A〜Dに示すように、培地と細胞間での最大共鳴角のシフト(A)、細胞が最大の共鳴を示す波長での共鳴強度(B)、共鳴カーブの幅(C)、最小共鳴波長での培地との強度差(D)を用いる。
【0067】
続いて、図5(c)〜(e)を参照して、蛍光試薬JC−1によるミトコンドリアの分極状態のモニタリングについて説明する。
【0068】
供試細胞は、90%コンフルエントにまで増殖したES細胞をtrypsin0.25%/EDTA 1mMを加えて37℃で10分インキュベートし細胞を剥離した。剥離した細胞はFBSを含む培地で回収して1000rpmで5分間遠心分離し、得られた細胞懸濁液を先に支持細胞でコーティングした4wellチャンバーの上に播種した。この状態で細胞を37℃、CO25%濃度下で90%コンフルエントにまで増殖するまで培養した。約48時間の培養後、JC-1 iodideを2μM含むES培地500μlに交換してCO2インキュベータ内(37℃、CO2濃度5%)に30分間置いた。インキュベーション30分後試薬を含まないES培地に培地を交換して、蛍光強度の観察を行った。
【0069】
図5(c)は、上記のように、モノマー色素(緑)にJ−会合体(赤)をマージしたものである。モノマー色素は、シングルの部分を表す緑色の蛍光強度を示す。J−会合体は、固まっている部分を表す赤色の蛍光強度を示す。図5(d)は、J-会合体を表す赤色の蛍光強度を示す図である。図5(e)は、J−会合体の拡大図(×22.5)を示す図である。図5(c)〜(e)より、膜電位が非常に高いミトコンドリアが、核を取り囲むように位置し、核周辺に凝集している。また、ミトコンドリアの形態は小さく球状で、数が多い。さらに、一細胞各々が密接しており、ミトコンドリアの分布も非常に密である。
【0070】
続いて、ES細胞から神経幹細胞および神経系細胞へと段階的に分化誘導させた細胞の評価について説明する。
【0071】
供試細胞には、マウスES細胞からRonald D.G.Mckayらの方法を用いて神経系細胞へと分化誘導を行った細胞を用いた(Journal of Neurochemistry 2005;92:1265-1276参照)。37℃、CO25%濃度下において、ES細胞から神経系細胞へと分化誘導を行った手順について以下に簡潔に示す。
【0072】
供試細胞は、90%コンフルエントにまで増殖したES細胞を剥離し、その細胞懸濁液をゼラチンコーティングした10cmシャーレ1枚に播種した。37℃、CO25%濃度下で4時間のインキュベーション後に上清のES細胞を回収し、mLIFを除いたES培地にて2日間培養した。その間、シャーレは超低接着表面ディッシュ(Corning)を用いて胚様体を形成し、次に神経幹細胞培地に交換して神経幹細胞のセレクションを行った。この段階まで分化した細胞を神経幹細胞とし、表面プラズモン共鳴およびJC−1によるミトコンドリアの分極の測定に用いた。さらに、それらの細胞を次にラミニンとオルニチンで予めコーティングしたシャーレ上で、mN3FL培地(インスリン25μg/ml、トランスフェリン50μg/ml、亜セレン酸ナトリウム30nM、プロゲステロン20μM、プトレッシン100μM、塩基性線維芽細胞増殖因子5ng/ml、ラミニン1μg/mlを含むDMEM/F-12(1:1))を用いて増殖後、神経細胞培地へと培地交換して12日間(5日に一度1/4量ずつ培地を交換)培養し、測定に用いた。
【0073】
図6は、神経幹細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。図6(a)、(b)を参照して、表面プラズモン共鳴による神経幹細胞のミトコンドリアの分極状態の評価は、例えば、以下の手順で行うことができる。
【0074】
上記のようにして、神経幹細胞まで分化させた細胞を、カバースリップの上に播種した。FBSを含むDMEMでカバースリップに接着させた後、神経幹細胞培地へと交換し2日間培養を行った。それから基板に細胞が接着したカバースリップが相対するように配置してそのまま表面プラズモン共鳴センサー上のプリズムに設置して測定を開始した。
【0075】
図6(a)は、神経幹細胞培地のみをリファレンスとして(点線)、神経幹細胞を乗せた場合(実線)のスペクトルを示す図である。横軸は波長であり、縦軸はrerlative intensityである。図6(a)に示されるように、神経幹細胞培地のみをリファレンスにとった共鳴カーブに比べて神経幹細胞を乗せた際の共鳴カーブは幅が広くなり、最大共鳴角は右に移行していた。図6(b)は、各波長における細胞の共鳴をリファレンスで標準化したt/r%を、さらに微分することにより得られる。
【0076】
続いて、図6(c)〜(e)を参照して、蛍光試薬JC-1によるミトコンドリアの分極状態のモニタリングについて説明する。
【0077】
供試細胞は、神経幹細胞まで分化した細胞を、FBSを含むDMEMで4wellチャンバーに接着させた後、神経幹細胞培地へと交換し、この状態で細胞を37℃、CO25%濃度下で2日間培養した。JC-1 iodideを2μM含む神経幹細胞培地500μlに交換してCO2インキュベータ内(37℃、CO2濃度5%)に30分間置いた。インキュベーション30分後試薬を含まない神経幹細胞培地に培地を交換して、蛍光強度の観察を行った。
【0078】
図6(c)〜(e)の関係は、図5(c)〜(e)の関係と同様である。図6(c)〜(e)により、神経幹細胞のミトコンドリアは核周辺に局在するが、ES細胞と異なり、膜電位の高いミトコンドリアと低いミトコンドリアが点在していることが分かる。また、形態は球状、繊維状のものを含む。細胞の形態変化に伴い、ミトコンドリアの分布も均一ではない。
【0079】
続いて、表面プラズモン共鳴による成熟神経系細胞のミトコンドリアの分極状態の評価について説明する。
【0080】
上記の方法によって成熟神経系細胞にまで分化した細胞を、オルニチン/ラミニンでコーティングしたカバースリップ(Nuncサーマノックスカバースリップ)の上に播種した。1週間の培養後、基板に細胞が接着したカバースリップが相対するように配置してそのまま表面プラズモン共鳴センサー上のプリズムに設置して測定を開始した。
【0081】
図7は、神経系細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。図7(a)に示されるように、神経細胞培地のみをリファレンスにとった共鳴カーブに比べて成熟神経系細胞を乗せた際の共鳴カーブは幅が広くなり、最大共鳴角は右上部に移行していた。図7(b)は、各波長における細胞の共鳴をリファレンスで標準化したt/r%を、さらに微分することにより得られる。
【0082】
続いて、図7(c)〜(e)を参照して、蛍光試薬JC-1によるミトコンドリアの分極状態のモニタリングについて説明する。
【0083】
供試細胞は、神経細胞培地へ培地交換して12日間培養し、測定に用いた。成熟神経系細胞にまで分化した細胞を、オルニチン/ラミニンでコーティングした4wellチャンバーの上に播種した。この状態で細胞を37℃、CO25%濃度下で7日間培養した後、JC-1 iodideを2μM含む神経細胞培地500μlに交換してCO2インキュベータ内(37℃、CO2濃度5%)に30分間置いた。インキュベーション30分後試薬を含まない神経細胞培地に培地を交換して、蛍光強度の観察を行った。
【0084】
図7(c)〜(e)の関係は、図5(c)〜(e)の関係と同様である。図7(c)〜(e)に示されるように、神経系細胞ではシナプス上を過分極を示す赤色が点在していた。神経系細胞では経細胞塊と軸索上にミトコンドリアが点在している。また、形態は繊維状のものが多く、大きさも異なる不均一なミトコンドリアが点在している。膜電位の高いミトコンドリアは、細胞塊に局在している。
【0085】
続いて、ES細胞からインスリン産生細胞へと分化誘導させた細胞の評価について説明する。
【0086】
供試細胞には、マウスES細胞からSeung K.Kim等の方法を用いて分化させたインスリン産生細胞を用いた(PNAS 2002;99:16105-16110参照)。37℃、CO25%濃度下、ES細胞からインスリン産生細胞へと分化誘導を行った手順について以下に簡潔に示す。
【0087】
供試細胞は、90%コンフルエントにまで増殖したES細胞を剥離し、その細胞懸濁液をゼラチンコーティングした10cmシャーレ1枚に播種した。37℃、CO25%濃度下で4時間のインキュベーション後に上清のES細胞を回収し、mLIFを除いたES培地にて2日間培養した。その間、シャーレは超低接着表面ディッシュ(Corning)を用いて胚様体を形成し、次に神経幹細胞培地に交換して神経幹細胞のセレクションを行った。この段階まで分化した細胞を神経幹細胞とした。それらの細胞を次にフィブロネクチンとオルニチンで予めコーティングしたシャーレ上で、stage4培地(インスリン5μg/ml、トランスフェリン100μg/ml、プロゲステロン6.3ng/ml、プトレッシン16.11μg/ml、亜セレン酸5.2ng/ml、B27 supplement 1×、塩基性線維芽細胞増殖因子10ng/mlを含むDMEM/F-12(1:1))、stage5NB(インスリン5μg/ml、トランスフェリン100μg/ml、プロゲステロン6.3ng/ml、プトレッシン16.11μg/ml、亜セレン酸5.2ng/ml、B27 supplement 1×、ニコチンアミド10mMを含むDMEM/F-12(1:1))、stage5NL培地(上記)と6日ごとに培地を交換し作製した細胞を測定に用いた。
【0088】
図8は、インスリン産生細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。上記方法に従ってインスリン産生細胞にまで分化させクランプになった細胞を、フィブロネクチンでコーティングしたカバースリップの上に播種した。FBSを含むDMEMでカバースリップに接着させた後、インスリン産生細胞培地へと交換し2日間培養を行った。それから基板に細胞が接着したカバースリップが相対するように配置してそのまま表面プラズモン共鳴センサー上のプリズムに設置して測定を開始した。その結果、図8(a)に示されるように、インスリン産生細胞培地のみをリファレンスにとった共鳴カーブ(点線)に比べてインスリン産生細胞を乗せた際の共鳴カーブ(実線)は広くなり、最大共鳴角は右下部に移行していた。図8(b)は、各波長における細胞の共鳴をリファレンスで標準化したt/r%を、さらに微分することにより得られる。
【0089】
続いて、図8(c)〜(e)を参照して、蛍光試薬によるミトコンドリアの分極状態のモニタリングについて説明する。図8(c)〜(e)の関係は、図5(c)〜(e)の関係と同様である。図8(c)〜(e)に示されるように、インスリン産生細胞のミトコンドリアは細胞全体に広がり、形態や大きさが一定ではなく、細胞塊のなかには、膜電位の低いミトコンドリアが多い。
【0090】
続いて、ES細胞から皮膚様細胞へと分化誘導させた細胞の評価について説明する。
【0091】
供試細胞には、マウスES細胞からShin-Ichi Nishikawaらの方法を用いて分化させた皮膚様細胞を用いた(Nature Biotechnology 2005;23:1542-1550参照)。37℃、CO25%濃度下において、ES細胞から皮膚様細胞へと分化誘導を行った手順について以下に簡潔に示す。
【0092】
供試細胞は、90%コンフルエントにまで増殖したES細胞を剥離し、その細胞懸濁液をゼラチンコーティングした10cmシャーレ1枚に播種した。37℃、CO25%濃度下で4時間のインキュベーション後に上清のES細胞を回収し、フィブロネクチンでコーティングしたシャーレに105/ml濃度で細胞を播種した。皮膚細胞培地を用いて皮膚様細胞を形成するまで10日間培養し、その後測定に用いた。
【0093】
図9は、皮膚様細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。図9(a)、(b)を参照して、表面プラズモン共鳴による皮膚様細胞のミトコンドリアの分極状態の評価は、以下のように行うことができる。
【0094】
上記方法に従って皮膚様細胞にまで分化させた細胞を、フィブロネクチンでコーティングしたカバースリップの上に播種した。FBSを含むDMEMでカバースリップに接着させた後、皮膚細胞培地へと交換し2日間培養を行った。それから基板に細胞が接着したカバースリップが相対するように配置してそのまま表面プラズモン共鳴センサー上のプリズムに設置して測定を開始した。その結果、図9(a)に示すように、皮膚細胞培地のみをリファレンスにとった共鳴カーブに比べて皮膚様細胞を乗せた際の共鳴カーブは、幅が広がり、最大共鳴角は右上方向に向かって移行していた。図9(b)は、各波長における細胞の共鳴をリファレンスで標準化したt/r%を、さらに微分することにより得られる。
【0095】
続いて、図9(c)〜(e)を参照して、蛍光試薬によるミトコンドリアの分極状態のモニタリングについて説明する。図9(c)〜(e)の関係は、図5(c)〜(e)の関係と同様である。図9(c)〜(e)に示されるように、ミトコンドリアが凝集し、非常に膜電位が高い細胞が存在する。また、それらのミトコンドリアは形態が細長く、核周辺に密集している。各細胞の大きさに伴って、ミトコンドリアが点在している。
【0096】
続いて、図5〜図9を参照して、表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージとの整合性について説明する。
【0097】
幹細胞では、ミトコンドリアは細胞の分裂、増殖へとエネルギーを傾けるが、一方で分化細胞では細胞の形態の維持や例えば神経系であれば軸索の伸展など、その成熟細胞として役割の維持へとミトコンドリアの機能が転換していくことが知られている。その観点から考えると、幹細胞のミトコンドリアは細胞全体として非常に活発なエネルギーをもち、一方で分化細胞は局所的に活発なエネルギーを発することが予測され、全体としてのエネルギーレベルは幹細胞に比して低いことが推測される。
【0098】
そこで、各々の細胞ごとのスペクトル波形について、培地と細胞間での最大共鳴角のシフト(図5(a)、(b)のA参照)、細胞の最大共鳴角での共鳴の強さ(図5(a)、(b)のB参照)、共鳴カーブの幅(図5(a)のC参照)、最も共鳴が少ない波長でのリファレンスとの強度差(図5(a)のD参照)を検討する。
【0099】
まず、培地と細胞間での最大共鳴角のシフトについて検討する。ES細胞、皮膚様細胞で最大共鳴角が最もシフトしており、神経系細胞ではその差が最も少ない。ES細胞及び皮膚様細胞では活動電位の高いミトコンドリアが凝集している。一方で神経系細胞では細胞塊の一部に局在している。そのため、培地と細胞間での最大共鳴角のシフトにより、例えば「分極状態のミトコンドリアの密度とその分布」を知ることができる。
【0100】
次に、細胞が最大の共鳴を示す波長での共鳴強度について検討する。ES細胞、神経幹細胞、皮膚様細胞において、共鳴強度が同等に大きく、インスリン産生細胞において最も小さい。ES細胞、神経幹細胞、皮膚様細胞において、ミトコンドリアの分布や形状は異なるが、分極しているミトコンドリア数は非常に多い。そのため、細胞が最大の共鳴を示す波長での共鳴強度により、例えば「ミトコンドリアの分極の総量=エネルギーレベル」を知ることができる。
【0101】
次に、共鳴カーブの幅について検討する。神経幹細胞、皮膚様細胞において共鳴カーブの幅が同等に広く、神経系細胞において最も狭い。神経幹細胞、皮膚様細胞のミトコンドリアの形態は、球状と繊維状のものが多く点在しているが、神経系細胞では繊維状のものが多い。そのため、共鳴カーブの幅により、例えば「ミトコンドリアの形態の均一性」を知ることができる。
【0102】
次に、最小共鳴波長でのリファレンスとの強度の差について検討する。皮膚様細胞が最も差が広く、ES細胞と神経系細胞でその差は最も狭い。ES細胞は細胞塊同士が接触することなく、また神経系細胞でも軸索が進展することから、両細胞では基板上に細胞が接触していない面積が生じる。一方で、皮膚様細胞のように一面に広がる細胞ではその隙間は少ない。そのため、最小共鳴波長での培地と強度の差により、例えば「細胞の接着面積」を知ることができる。
【0103】
以上の4点を定量するためには、例えば、一細胞中のミトコンドリア数と凝集の程度・大きさなどのミトコンドリアの形態、基板上の細胞数・接着面積の計測と形態変化の観察、遺伝子導入細胞によるリアルタイムモニタリングとの整合性、体性幹細胞からの分化系モデルの構築、などを活用することが有効であると考えられる。
【0104】
図10は、様々な細胞の場合のスペクトルの、レファレンスに対する影響を加味した比較を示す図であり、(a)はES細胞と神経幹細胞の比較を示し、(b)は神経系細胞とインスリン産生細胞、皮膚様細胞の比較を示し、(c)は神経幹細胞と神経系細胞とインスリン産生細胞の比較を示し、(d)はES細胞と神経幹細胞と神経系細胞とインスリン産生細胞、皮膚様細胞の比較を示す。
【0105】
図10(a)を参照して、最大共鳴角はES細胞が右上に神経幹細胞は左下に位置している。また、最小共鳴角はES細胞と神経幹細胞でそろっているものの、t/r%の値は異なっている。図5(e)や図6(e)に示されるように、ES細胞と神経幹細胞では、ミトコンドリアの分極状態の三次元的な分布・強度・形態などを異にする。そのため、図7(a)に示されるように、ミトコンドリアの分極状態の三次元的な分布・強度・形態などを異にすることによりスペクトル分析の結果が異なることがわかる。そのため、表面プラズモン共鳴に対するスペクトル分析を行うことにより、ミトコンドリアの分極状態の三次元的な分布・強度・形態などを検出可能であることがわかる。
【0106】
また、図10(b)を参照して、神経系細胞とインスリン産生細胞、皮膚様細胞でも図7(e)や図8(e)、図9(e)に示されるようなミトコンドリアの分極状態の三次元的な分布・強度・形態などの相違により、スペクトル分析の結果を異にしていることがわかる。そのため、表面プラズモン共鳴に対するスペクトル分析を行うことにより、ミトコンドリアの分極状態の三次元的な分布・強度・形態などを検出可能であることがわかる。
【0107】
さらに、図10(c)、(d)に示されるように、ES細胞、神経幹細胞、神経系細胞、インスリン産生細胞、皮膚様細胞を比較しても、ミトコンドリアの分極状態の三次元的な分布・強度・形態などを異にする場合に、表面プラズモン共鳴に対するスペクトル分析結果を異にすることがわかる。そのため、ミトコンドリアの分極状態の三次元的な分布・強度・形態などを検出可能であることがわかる。
【0108】
図11は、(a)ラ氏島様構造物(インスリン産生細胞、グルカゴン産生細胞)(b)神経様細胞、(c)皮膚様細胞、を示す図である。
【0109】
図12及び図13は、ES細胞から神経細胞、膵β細胞、心筋細胞及び中内胚葉性細胞への分化誘導を示す図である。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】前処理の概要を示す図であり、(a)は12wellセルカルチャープレートを示し、(b)はその中にセットされるサーマノックスカバースリップを示す。
【図2】本願発明の実施の形態に係る判定・培養システム1の概略ブロック図である。
【図3】(a)は、本実施例で使用する図2の基板3の一例である硝子導波路を示すものであり、(b)は、図1(b)のサーマノックスカバースリップを利用して培養した細胞を基板に接着させた状態とする一例を示すものである。
【図4】培養培地による表面プラズモン共鳴スペクトルを示す図である。
【図5】ES細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。
【図6】神経幹細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。
【図7】神経系細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。
【図8】インスリン産生細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。
【図9】皮膚様細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。
【図10】図5〜図9に基づいて、様々な細胞の場合の光のスペクトルの、レファレンスに対する影響を加味した比較を示す図である。
【図11】(a)インスリン産生細胞、(b)神経様細胞、(c)皮膚様細胞、を示す図である。
【図12】ES細胞から神経様細胞、膵β細胞、心筋細胞への分化誘導を示す第1図である。
【図13】ES細胞から中内胚葉性細胞への分化誘導を示す第2図である。
【符号の説明】
【0111】
1 判定・培養システム、2 表面プラズモン共鳴装置、3 基板、4 金属層、5,7 生細胞、9,11 ミトコンドリア、13 入射光、15 光、17 判定装置、19 分極状態判定部、21 性質判定部、23 選定装置、25 選定部、26 培養装置、27 培養部
【技術分野】
【0001】
本発明は、判定装置、選定装置、判定方法、細胞生産方法、プログラム及び記録媒体に関し、特に、表面プラズモン共鳴現象を用いて生細胞内のミトコンドリアの分極状態を判定する判定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
発明者らは、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance:SPR)装置を用いて、細胞内ミトコンドリアの分極状態をモニタリングすることを研究している(特許文献1参照)。
【0003】
また、胚性幹細胞(ES細胞)からのヒト生体組織の再生を目指して、特定の生体組織への分化を誘導する因子の特定、分化状態をモニタリングするためのマーカー分子に関する研究を行っている。
【0004】
分化状態・未分化状態で維持することができる、またはインビトロにおいて胚体外または体細胞系統に分化するように誘導することができる全能性幹細胞を作製することにより、早期ヒト発生に関する細胞生物学および分子生物学の研究、機能ゲノム工学、移植または薬物スクリーニングおよびインビトロにおける医薬品発見に使用する幹細胞からの分化細胞の作製が可能になる。
【0005】
一般に、幹細胞は、一連の成熟機能細胞を生じることができる未分化細胞である。例えば、造血幹細胞は、異なる種類の最終的に分化した血液細胞のいずれかを生ずることができる。胚性幹細胞(ES細胞)は胚由来であり、多分化能をもつので、発生して、任意の器官、細胞種もしくは組織種またはおそらく完全な胚を形成する能力を有する。
【0006】
全能性幹細胞から分化した特定の細胞系統を得るために、分化を特定の細胞系統へと導くin vivoメカニズムが用いられた。例えば、全能性幹細胞をレポーターコンストラクトで修飾し、次にこれを初期の胚に再導入した後に、神経系統の幹細胞が単離された(非特許文献1)。レポーターコンストラクトは神経形成中に発現され、レポーター遺伝子を発現する細胞は、分離されて培養物中に置かれる。この方法は、 in vivoメカニズムを通して神経系統に関与する細胞の単離を許容するが、しかし、分離され1度培養物中に置かれた細胞は、最終的な分化に進行する。
【0007】
特許文献2には、以下のようにしてin vitroで系統特異的幹細胞を単離する方法が教示されている:全能性胚性幹細胞
に、レポータータンパク質をコードするDNAに動作可能に結合する系統特異的遺伝子の調節領域を含むコンストラクトをトランスフェクトすること;全能性胚性幹細胞を、全能性胚性幹細胞が系統特異的幹細胞に分化するような条件下で培養すること;および培養物中のレポータータンパク質を発現する細胞を、他の細胞から分離すること;ここでレポータータンパク質を発現する細胞が、単離された、系統特異的幹細胞である。
【0008】
また、現在までに、全能性胚性幹細胞から特定組織への分化誘導が報告されている。
【0009】
【特許文献1】世界公開第2007/069692号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5639618号
【非特許文献1】Ott, etal. (1994) J. Cell. Biochem. Supplement 18A:187
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
表面プラズモン共鳴装置は、表面プラズモン共鳴現象を利用し、共鳴角度変化を測定する。この共鳴角度変化は、センサー部の金膜表面近傍における誘電率の変化に依存する。生体分子はそれぞれ固有の誘電率を有しているが、金膜上に固定した対象リガンドとの結合が生じた場合は複合体が形成され、誘電率が変化する。
【0011】
しかしながら、表面プラズモン共鳴装置は、通常、特定の波長の光を用いるものである。そのため、測定対象となるミトコンドリアに関して得られた情報には、さまざまな情報が混在していた。このことは、細胞内ミトコンドリアに限らず、同様に基板などに接し又は近接して存在する物の分極状態を測定する場合も同様である。
【0012】
また、特許文献2や非特許文献1に記載された方法は、幹細胞に非生体物質を導入しその物質の応答により幹細胞の状態をモニタリングしており、生体組織の再生および再生医療を目的とした幹細胞の分化誘導には利用することができないという問題点を有している。
【0013】
現在までに報告されている全能性胚性幹細胞から特定組織への分化誘導は、分化状態が、細胞内分子の発現プロファイル、細胞表面抗原の発現プロファイル等のin vitro解析に基づいて特徴づけられている。例えば、転写因子であるOct−3/4の発現を解析することにより分化状態を判別することができる。これらのin vitro解析を行うためには、分化中の細胞を採取し、その抽出液を調整する必要があり、分化状態を継続的にモニタリングすることは不可能であった。
【0014】
そこで、本発明の目的は、表面プラズモン共鳴装置による、測定対象物の分極状態を判定するに適した判定装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、表面プラズモン共鳴現象を用いて生細胞内のミトコンドリアの分極状態を判定する判定装置であって、少なくとも2種類の入射光に基づいて前記ミトコンドリアの分極状態を判定する分極状態判定手段、を備えるものである。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の判定装置であって、前記分極状態判定手段による判定が、前記ミトコンドリアの分極状態の分布、強度及び形態の少なくとも一つである。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の判定装置であって、前記少なくとも2種類の入射光は、互いに、波長及び生じさせるエバネッセント波の少なくとも一方を異にするものであり、前記分極状態判定手段が、スペクトル分析により前記ミトコンドリアの分極状態を判定するものである。
【0018】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の判定装置であって、前記分極状態判定手段による判定結果に基づいて前記生細胞の性質を判定する性質判定手段を備えるものである。
【0019】
請求項5に係る発明は、請求項4記載の前記性質判定手段により判定された生細胞の性質に基づいて培養対象となる生細胞を選定する選定手段を備える選定装置である。
【0020】
請求項6に係る発明は、表面プラズモン共鳴現象を用いて生細胞内のミトコンドリアの分極状態を判定する判定方法であって、少なくとも2種類の入射光に基づいて前記ミトコンドリアの分極状態を判定するステップ、を含むものである。
【0021】
請求項7に係る発明は、培養により細胞を生産する細胞生産方法であって、表面プラズモン共鳴現象を用いて、少なくとも2種類の光を入射光とする生細胞内のミトコンドリアの分極状態の判定結果に基づいて、培養対象とされた生細胞を培養して細胞を生産する生産ステップ、を含むものである。
【0022】
請求項8に係る発明は、コンピュータを、表面プラズモン共鳴現象を用いて生細胞内のミトコンドリアの分極状態を判定する判定装置であって、少なくとも2種類の入射光に基づいて前記ミトコンドリアの分極状態の分布、強度及び形態の少なくとも一つを判定する判定手段、を備える判定装置として機能させるためのプログラムである。
【0023】
請求項9に係る発明は、請求項8に記載のプログラムを記録した記録媒体である。
【0024】
請求項10に係る発明は、表面プラズモン共鳴現象を用いて、接し又は近接して存在する判定対象物の分極状態を判定する判定装置であって、少なくとも2種類の入射光に基づいて、前記分極状態の分布、強度及び形態の少なくとも一つを判定する判定手段、を備えるものである。
【0025】
なお、判定対象となる生細胞は、基板上のものであってもよい。入射光は基板に対するものであってもよい。判定対象物は、基板に接し又は近接して存在するものであってもよい。また、判定対象となる生細胞は、分化可能な状態を保持したまま分極状態を判定するものであってもよい。
【0026】
また、判定対象となる生細胞は、例えば、幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、ES細胞に由来する分化細胞、間葉系幹細胞(脂肪幹細胞、血液幹細胞など)、組織分化能を有する未分化細胞、多分化機能を保持する細胞などであってもよい。また、正常細胞、がん細胞、受精卵、動植物のクローン細胞、ES細胞、がん幹細胞等であってもよく、これらの培養細胞であってもよい。
【0027】
さらに、イメージング・マッピングによりミトコンドリアの分極状態の分布・強度・形態などを測定するようにしてもよい。
【0028】
さらに、少なくとも2種類の光は、例えば、請求項3に記載しているように、波長及び生じさせるエバネッセント波の少なくとも一方を異にするものであり、例えば、白色光(波長が一定の幅にあるもの)や、異なる波長の光を連続して入射光とするものであってもよい。
【発明の効果】
【0029】
本願の各請求項に係る発明によれば、入射光を複数種類の光とすることにより、ミトコンドリアの分極状態の分布(三次元的な分布)・強度・形態などにつき、非標識・非破壊にモニタリングすることができる。
【0030】
また、例えば請求項4や請求項5に係る発明にあるように、複数の生細胞がある場合にも、各ミトコンドリアの分極状態の分布・強度・形態などを判定し、各生細胞の性質(例えば、分裂活性、老化状態、悪性(がん細胞であるか否か)など)までもが特定することが可能となる。
【0031】
すなわち、ミトコンドリアの分極状態について、例えば、次のようなことが知られている。老化した細胞ではミトコンドリアの分極程度が低下する。細胞分裂活性の高い細胞では分極程度が高い。細胞の増殖や分化の過程においてミトコンドリアの極性が大きく変化する。ミトコンドリアと分化に関しては、ミトコンドリア内膜構成要素(シトクロムbc1(複合体III))の活性を抑制し膜電位を変化させるとES細胞から心筋への初期分化が阻害されたことが報告されている。また、個体発生の初期において、内因性の膜電位の変化が起こり正常な胚発生を維持する。中枢系神経細胞においてミトコンドリアの役割は神経の成熟に伴いエネルギー代謝からシナプスの伸展、維持へと変化する。さらに、ヒトおよびマウスES細胞から分化させた神経細胞でKClによる脱分極や心筋細胞の電位の伝導に膜分極の変化を用いるなど、分化細胞の機能性の評価としても膜の分極の変化が用いられている。
【0032】
本願発明により複数の生細胞の性質をそれぞれ特定することが可能となり、例えばES細胞から成熟機能性細胞への分化段階にある細胞を早期に単一細胞レベルで選別し、特定の細胞系譜へと分化が運命づけられた細胞集団を選別することが可能となる。目的とする機能性細胞集団や組織への効率的な分化誘導法の確立に用いることができる。すなわち、組織幹細胞の同定、purityを高くすることができ、臓器といった立体的(三次元的)なものの生産も可能となる。この表面プラズモン共鳴を応用した分化誘導法は、例えば、再生医学さらにはその実践としての再生医療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照して、本願発明の実施例について説明する。ただし、下記は実施例であり、これに限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
まず、本発明の実施例である表面プラズモン共鳴測定方法の概要について説明する。
【0035】
図1を参照して、前処理について説明する。図1は、前処理の概要を示す図であり、(a)は12wellセルカルチャープレート(Falcon#353225)を示し、(b)はその中にセットされるサーマノックスカバースリップ(Nunc#174950)を示す。12wellセルカルチャープレートの各wellは、直径が22mmの円形である。サーマノックスカバースリップは直径13mmの円形で、その上でES細胞等の細胞を培養する。例えば、カバースリップをコーティング剤でコーティングした上で細胞を培養してもよく、また、ES細胞を支持細胞上で培養してもよい。サーマノックスカバースリップは、12wellセルカルチャープレートにセット後に細胞培養と同様にコーティング剤でコートされる。
【0036】
次に、プレートのコーティング剤を除いて、その上にシャーレから剥離した細胞を1wellずつ播種する。そして、プレートの蓋を閉じて、37℃、CO2濃度5%で細胞を培養する。
【0037】
続いて、測定について説明する。図2は、本願発明の実施の形態に係る判定・培養システム1の概略ブロック図である。判定・培養システム1には、表面プラズモン共鳴装置2と判定装置17と選定装置23と培養装置26を備える。
【0038】
表面プラズモン共鳴は、例えばプリズムを用いた場合では、金属表面プラズモンをレーザー光などの光により得られるエバネッセント波を用いて共鳴励起することで起こる現象である(特許文献1参照)。
【0039】
表面プラズモン共鳴装置2には基板3がある。基板3は、例えば、硝子導波路のような光透過型である。基板3上には金属層4がある。基板3上には生細胞5及び7がある。生細胞5及び7内にはミトコンドリア9及び11がある。
【0040】
基板3に入射光13を入射して基板3内で全反射を起こすことにより、エバネッセント波をその反射面の反対側に発生させることができる。基板3上に薄い金属膜4が存在する場合、エバネッセント波は金属層4を抜けて金属反対面の表面プラズモンを共鳴励起する。共鳴を起こす条件を決定する要因として金属層4と界面をなしている物質の誘電率などがある。生細胞5及び7内のミトコンドリア9及び11の分極状態は、測定対象物の誘電率として共鳴を起こす条件を決定する要因となりうるものであり、入射光13に基づく光15を分析することにより、検出可能となる。
【0041】
本実施例において、測定は、具体的には、以下のように行った。
【0042】
まず、機械の設定をする。既存の表面プラズモン共鳴装置を利用し、エリア型検出器を用いて検出することができる(特許文献1参照)。設定ソフトはSPR spectraであり、解析ソフトはBW Specである。初めに、検出側をゴムキャップとアルミで覆い、darkデータを取る。次に、測定する細胞の各培養培地を用いて、referenceデータを取る。培地は4℃から取り出して15分以上置いて用いる。光源は立ち上げてから15分置いてから測定する。
【0043】
次に、上部に細胞が張り付いているカバースリップを、金基板の上にひっくり返して細胞を基板に接着させた状態で機械にセットする。図3(a)は、本実施例で使用する図2の基板3の一例である硝子導波路を示すものであり、(b)は、図1(b)のサーマノックスカバースリップを利用して培養した細胞を基板に接着させた状態とする一例を示すものである。図3(a)にあるように、本実施例で使用する基板はBK7硝子導波路であり、横65mm、縦20mmであり、中央に一辺が3mmの正方形の金属膜が存在する。そして、図3(b)にあるように、図1(b)のサーマノックスカバースリップを利用して培養した細胞を基板に接着させた状態とする一例を示すものである。このように、細胞を固定させることなく、培養した細胞を基板にそのまま接着させても測定可能である。なお、金属板については、図2にあるように、生細胞群がすべて金属板4上にあるようにしてもよく、また、図3にあるように、その一部にあるようにしてもよい。
【0044】
そして、光15より各細胞のスペクトルデータを取る。以下、図面において、Spectrumは生の波形データを示し、t/r%は、(spectrum-dark)/(reference-dark)*100を計算して求めたものである。
【0045】
このようにして、例えば図4、図5(a)にあるような、スペクトルデータを取ることができる。図5〜図9において、(a)は細胞及び培養培地のスペクトル波形である。細胞は実線、培養培地は点線で示す。(b)は、各波長における細胞の共鳴をリファレンスで標準化したt/r%をさらに微分することにより得られる。正側のピークはリファレンス、負側のピークは細胞の最大共鳴角を示す。
【0046】
解析パラメータとして、例えば、培地と細胞間での最大共鳴角のシフト、細胞の最大共鳴角での共鳴の強さ、共鳴カーブの幅、最も共鳴が少ない波長でのリファレンスとの強度差などがある。
【0047】
そして、図2の判定装置17は、光15に基づいてミトコンドリアの分極状態の分布、強度及び形態の少なくとも一つを判定する分極状態判定部19と、分極状態判定部19の判定結果に基づいて各生細胞5及び7の性質を判定する性質判定部21を備える。光15は、例えば、図2にあるように、入射光13に基づいて基板3より観測可能な光である。
【0048】
なお、例えば特開2004−271337号公報には、表面プラズモン共鳴現象を利用して細胞の多検体同時解析が記載されているが、細胞の数、接着面積、大きさなど、基板に接着する細胞を対象とするものであり、細胞内部のミトコンドリアの分極状態など基板とは接着しないものも対象とする本願発明とは異なるものである。また、特開2004−279041号公報には表面プラズモン共鳴装置においてスペクトル分析を行うことが記載されているが、これは蛍光観察であり、エバネッセント波を照明光として蛍光標識したものを照らして行う検出方法であり、本願発明とは異なるものである。
【0049】
また、図2の選定装置23は、性質判定部21により判定された各生細胞5及び7の性質に基づいて生細胞5及び7から培養対象となる生細胞を選定する選定部25を備える。また、培養装置26は、選定部25により選定された生細胞を培養する培養部27を備える。培養部27による培養により、細胞が生産される。
【0050】
次に、ミトコンドリア染色の評価方法について説明する。
【0051】
前処理としては、4wellカルチャースライド(Falcon#354114)の各wellを細胞培養と同様にコーティング剤でコートした。次に、コーティング剤を除いて、シャーレから剥離した細胞を1wellずつ播種した。そして、カルチャースライドの蓋を閉じて37℃、CO2濃度5%で細胞を培養した。
【0052】
ミトコンドリアの染色方法としては、培養培地を除去して、JC-1 iodideを2μM含む新しい培養培地500μlと交換してCO2インキュベータ内(37℃、CO2濃度5%)にて30分間置いた。
【0053】
そして、インキュベーション30分後、蛍光強度の観察を行った。使用した顕微鏡はNikon ECLIPSE 80iである。対物レンズはNikon Japan L Plan SLWD 20×0.35 WD24である。蛍光フィルタは、B-2A(励起フィルタ450-490、ダイナミックミラー505、吸収フィルタ520)とG-2A(励起フィルタ510-560、ダイナミックミラー575、吸収フィルタ590)である。解析ソフトはNIS-Elements BR2.30である。露光は400-600msである。
【0054】
ミトコンドリア内部での陽イオン性色素JC-1の蓄積は、膜電位に依存する。ミトコンドリア膜電位が低いと色素はほとんど蓄積しない。低い濃度では色素はモノマーとして存在し、緑色の蛍光を放出する。ミトコンドリアの膜電位が高いと色素は非常に多く蓄積され、このような高濃度では色素はJ−会合体を形成し、蛍光が緑色から赤色にシフトする。緑色蛍光JC−1モノマーのシグナルとJ−会合体を組み合わせることで、さまざまなレシオメトリック分析が可能である。赤色/緑色JC−1蛍光の比は膜電位に依存しており、ミトコンドリアの大きさや形状、密度とは独立している。
【0055】
図5〜図9において、(c)は緑と赤の発色を合わせた画像(merge)を示す図であり、(d)はJ−会合体単独の画像を示す図であり、(e)はJ−会合体の拡大図(×22.5)を示す図である。
【0056】
解析パラメータとして、ミトコンドリアの活動電位、分布、密度、形状(球状、繊維状など)、細胞特異的な形態の変化などである。
【実施例2】
【0057】
続いて、図4〜図13を用いて、図2の判定装置17の動作について具体的に説明する。
【0058】
図4は、培養培地による表面プラズモン共鳴スペクトルを示す図である。供試培地は、ES培地、神経幹細胞培地、インスリン産生細胞培地、神経細胞培地、皮膚細胞培地の5種類の完全培地とし、超純水をリファレンスに設定する。各培養培地中に含まれる成長促進剤や血清等による表面プラズモン共鳴シグナルへの影響についての評価を行う。なお、今回計測したなかで血清を含む培地はES培地(10%v/v)と神経系細胞培地(5%v/v)の2種類である。
【0059】
測定に用いた5種類の培養培地は、以下のものである。ES培地は、MEM非必須アミノ酸100μM、ペニシリン40units/ml、ストレプトマイシン40μg/ml、2-メルカプトエタノール0.1mM、FBS 14%(v/v)、mLIF(マウス白血病阻害因子)500units/mlを含む液体培地DMEMである。神経幹細胞培地は、インスリン5μg/ml、トランスフェリン50μg/ml、亜セレン酸ナトリウム30nM、フィブロネクチン5μg/mlを含むDMEM/F-12 (1:1)である。インスリン産生細胞培地は、インスリン5μg/ml、トランスフェリン100μg/ml、プロゲステロン6.3ng/ml、プトレッシン16.11μg/ml、亜セレン酸5.2ng/ml、ニコチンアミド10mM、LY294002 10μMを含むDMEM/F-12(1:1)である(PNAS 2002;99:16105-16110参照)。神経細胞培地は、B27supplement 1×、FBS 14%(v/v)を含む神経細胞培養用培地である(Journal of Neurochemistry 2005;92:1265-1276参照)。皮膚細胞培地は、造血幹細胞研究用無血清基本培地、2-メルカプトエタノール0.1mMである(Nature Biotechnology 2005;23:1542-1550参照)。
【0060】
まず、表面プラズモン共鳴による培養培地の評価について説明する。図4にあるように、供試培地をES培地、神経幹細胞培地、インスリン産生細胞培地、神経細胞培地、皮膚細胞培地の5種類の完全培地として、超純水をリファレンスに設定して測定した。基板を表面プラズモン共鳴センサー上のプリズムに設置し、基板上を1mlの各培地で満たし、測定する。その結果、図4に示されるように、培地による表面プラズモン共鳴シグナルに特徴的な差は認められなかった。
【0061】
続いて、未分化ES細胞のミトコンドリアの分極状態の評価について説明する。
【0062】
供試細胞にはマウスES細胞を用いた。37℃、CO25%濃度下で、MEM非必須アミノ酸100μM、ペニシリン40units/ml、ストレプトマイシン40μg/ml、2-メルカプトエタノール0.1mM、FBS 14%(v/v)、mLIF(マウス白血病阻害因子)500units/mlを含む液体培地DMEMを培養培地として用い、0.2%ゼラチンでコーティングしたT25フラスコに支持細胞(マウス胎児性皮膚細胞)上で共培養した。
【0063】
図5は、ES細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。図5(a)、(b)を参照して、表面プラズモン共鳴による未分化のES細胞のミトコンドリアの分極状態の評価は、例えば、以下の手順で行うことができる。
【0064】
供試細胞は、90%コンフルエントにまで増殖したES細胞をtrypsin0.25%/EDTA 1mMを加えて37℃で10分インキュベートし細胞を剥離した。剥離した細胞はFBSを含む培地で回収して1000rpmで5分間遠心分離し、得られた細胞懸濁液を再びシャーレに播種した。ゼラチンコーティングしたシャーレ上でES細胞を37℃、CO25%濃度下で4時間インキュベートすることにより支持細胞(共培養細胞)と分離して上清を回収して、先に支持細胞でコーティングしておいたカバースリップ(Nuncサーマノックスカバースリップ)の上に播種した。この状態で細胞を37℃、CO25%濃度下で90%コンフルエントにまで増殖するまで培養した。約48時間の培養後、基板に細胞が接着したカバースリップが相対するように配置し、そのまま表面プラズモン共鳴センサー上のプリズムに設置して測定を開始した。
【0065】
図5(a)は、ES培地のみをリファレンスとして(点線)、ES細胞を乗せた場合(実線)のスペクトルを示す図である。横軸は波長であり、縦軸はrerlative intensityである。図5(a)に示されるように、ES培地のみをリファレンスにとった共鳴カーブに比べて、ES細胞を乗せた際の共鳴カーブは最大共鳴角が右上方向に向かって移行していた。図5(b)は、各波長における細胞の共鳴をリファレンスで標準化したt/r%を、さらに微分することにより得られる。
【0066】
解析パラメータとして、本実施例では、図5(a)において記号A〜Dに示すように、培地と細胞間での最大共鳴角のシフト(A)、細胞が最大の共鳴を示す波長での共鳴強度(B)、共鳴カーブの幅(C)、最小共鳴波長での培地との強度差(D)を用いる。
【0067】
続いて、図5(c)〜(e)を参照して、蛍光試薬JC−1によるミトコンドリアの分極状態のモニタリングについて説明する。
【0068】
供試細胞は、90%コンフルエントにまで増殖したES細胞をtrypsin0.25%/EDTA 1mMを加えて37℃で10分インキュベートし細胞を剥離した。剥離した細胞はFBSを含む培地で回収して1000rpmで5分間遠心分離し、得られた細胞懸濁液を先に支持細胞でコーティングした4wellチャンバーの上に播種した。この状態で細胞を37℃、CO25%濃度下で90%コンフルエントにまで増殖するまで培養した。約48時間の培養後、JC-1 iodideを2μM含むES培地500μlに交換してCO2インキュベータ内(37℃、CO2濃度5%)に30分間置いた。インキュベーション30分後試薬を含まないES培地に培地を交換して、蛍光強度の観察を行った。
【0069】
図5(c)は、上記のように、モノマー色素(緑)にJ−会合体(赤)をマージしたものである。モノマー色素は、シングルの部分を表す緑色の蛍光強度を示す。J−会合体は、固まっている部分を表す赤色の蛍光強度を示す。図5(d)は、J-会合体を表す赤色の蛍光強度を示す図である。図5(e)は、J−会合体の拡大図(×22.5)を示す図である。図5(c)〜(e)より、膜電位が非常に高いミトコンドリアが、核を取り囲むように位置し、核周辺に凝集している。また、ミトコンドリアの形態は小さく球状で、数が多い。さらに、一細胞各々が密接しており、ミトコンドリアの分布も非常に密である。
【0070】
続いて、ES細胞から神経幹細胞および神経系細胞へと段階的に分化誘導させた細胞の評価について説明する。
【0071】
供試細胞には、マウスES細胞からRonald D.G.Mckayらの方法を用いて神経系細胞へと分化誘導を行った細胞を用いた(Journal of Neurochemistry 2005;92:1265-1276参照)。37℃、CO25%濃度下において、ES細胞から神経系細胞へと分化誘導を行った手順について以下に簡潔に示す。
【0072】
供試細胞は、90%コンフルエントにまで増殖したES細胞を剥離し、その細胞懸濁液をゼラチンコーティングした10cmシャーレ1枚に播種した。37℃、CO25%濃度下で4時間のインキュベーション後に上清のES細胞を回収し、mLIFを除いたES培地にて2日間培養した。その間、シャーレは超低接着表面ディッシュ(Corning)を用いて胚様体を形成し、次に神経幹細胞培地に交換して神経幹細胞のセレクションを行った。この段階まで分化した細胞を神経幹細胞とし、表面プラズモン共鳴およびJC−1によるミトコンドリアの分極の測定に用いた。さらに、それらの細胞を次にラミニンとオルニチンで予めコーティングしたシャーレ上で、mN3FL培地(インスリン25μg/ml、トランスフェリン50μg/ml、亜セレン酸ナトリウム30nM、プロゲステロン20μM、プトレッシン100μM、塩基性線維芽細胞増殖因子5ng/ml、ラミニン1μg/mlを含むDMEM/F-12(1:1))を用いて増殖後、神経細胞培地へと培地交換して12日間(5日に一度1/4量ずつ培地を交換)培養し、測定に用いた。
【0073】
図6は、神経幹細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。図6(a)、(b)を参照して、表面プラズモン共鳴による神経幹細胞のミトコンドリアの分極状態の評価は、例えば、以下の手順で行うことができる。
【0074】
上記のようにして、神経幹細胞まで分化させた細胞を、カバースリップの上に播種した。FBSを含むDMEMでカバースリップに接着させた後、神経幹細胞培地へと交換し2日間培養を行った。それから基板に細胞が接着したカバースリップが相対するように配置してそのまま表面プラズモン共鳴センサー上のプリズムに設置して測定を開始した。
【0075】
図6(a)は、神経幹細胞培地のみをリファレンスとして(点線)、神経幹細胞を乗せた場合(実線)のスペクトルを示す図である。横軸は波長であり、縦軸はrerlative intensityである。図6(a)に示されるように、神経幹細胞培地のみをリファレンスにとった共鳴カーブに比べて神経幹細胞を乗せた際の共鳴カーブは幅が広くなり、最大共鳴角は右に移行していた。図6(b)は、各波長における細胞の共鳴をリファレンスで標準化したt/r%を、さらに微分することにより得られる。
【0076】
続いて、図6(c)〜(e)を参照して、蛍光試薬JC-1によるミトコンドリアの分極状態のモニタリングについて説明する。
【0077】
供試細胞は、神経幹細胞まで分化した細胞を、FBSを含むDMEMで4wellチャンバーに接着させた後、神経幹細胞培地へと交換し、この状態で細胞を37℃、CO25%濃度下で2日間培養した。JC-1 iodideを2μM含む神経幹細胞培地500μlに交換してCO2インキュベータ内(37℃、CO2濃度5%)に30分間置いた。インキュベーション30分後試薬を含まない神経幹細胞培地に培地を交換して、蛍光強度の観察を行った。
【0078】
図6(c)〜(e)の関係は、図5(c)〜(e)の関係と同様である。図6(c)〜(e)により、神経幹細胞のミトコンドリアは核周辺に局在するが、ES細胞と異なり、膜電位の高いミトコンドリアと低いミトコンドリアが点在していることが分かる。また、形態は球状、繊維状のものを含む。細胞の形態変化に伴い、ミトコンドリアの分布も均一ではない。
【0079】
続いて、表面プラズモン共鳴による成熟神経系細胞のミトコンドリアの分極状態の評価について説明する。
【0080】
上記の方法によって成熟神経系細胞にまで分化した細胞を、オルニチン/ラミニンでコーティングしたカバースリップ(Nuncサーマノックスカバースリップ)の上に播種した。1週間の培養後、基板に細胞が接着したカバースリップが相対するように配置してそのまま表面プラズモン共鳴センサー上のプリズムに設置して測定を開始した。
【0081】
図7は、神経系細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。図7(a)に示されるように、神経細胞培地のみをリファレンスにとった共鳴カーブに比べて成熟神経系細胞を乗せた際の共鳴カーブは幅が広くなり、最大共鳴角は右上部に移行していた。図7(b)は、各波長における細胞の共鳴をリファレンスで標準化したt/r%を、さらに微分することにより得られる。
【0082】
続いて、図7(c)〜(e)を参照して、蛍光試薬JC-1によるミトコンドリアの分極状態のモニタリングについて説明する。
【0083】
供試細胞は、神経細胞培地へ培地交換して12日間培養し、測定に用いた。成熟神経系細胞にまで分化した細胞を、オルニチン/ラミニンでコーティングした4wellチャンバーの上に播種した。この状態で細胞を37℃、CO25%濃度下で7日間培養した後、JC-1 iodideを2μM含む神経細胞培地500μlに交換してCO2インキュベータ内(37℃、CO2濃度5%)に30分間置いた。インキュベーション30分後試薬を含まない神経細胞培地に培地を交換して、蛍光強度の観察を行った。
【0084】
図7(c)〜(e)の関係は、図5(c)〜(e)の関係と同様である。図7(c)〜(e)に示されるように、神経系細胞ではシナプス上を過分極を示す赤色が点在していた。神経系細胞では経細胞塊と軸索上にミトコンドリアが点在している。また、形態は繊維状のものが多く、大きさも異なる不均一なミトコンドリアが点在している。膜電位の高いミトコンドリアは、細胞塊に局在している。
【0085】
続いて、ES細胞からインスリン産生細胞へと分化誘導させた細胞の評価について説明する。
【0086】
供試細胞には、マウスES細胞からSeung K.Kim等の方法を用いて分化させたインスリン産生細胞を用いた(PNAS 2002;99:16105-16110参照)。37℃、CO25%濃度下、ES細胞からインスリン産生細胞へと分化誘導を行った手順について以下に簡潔に示す。
【0087】
供試細胞は、90%コンフルエントにまで増殖したES細胞を剥離し、その細胞懸濁液をゼラチンコーティングした10cmシャーレ1枚に播種した。37℃、CO25%濃度下で4時間のインキュベーション後に上清のES細胞を回収し、mLIFを除いたES培地にて2日間培養した。その間、シャーレは超低接着表面ディッシュ(Corning)を用いて胚様体を形成し、次に神経幹細胞培地に交換して神経幹細胞のセレクションを行った。この段階まで分化した細胞を神経幹細胞とした。それらの細胞を次にフィブロネクチンとオルニチンで予めコーティングしたシャーレ上で、stage4培地(インスリン5μg/ml、トランスフェリン100μg/ml、プロゲステロン6.3ng/ml、プトレッシン16.11μg/ml、亜セレン酸5.2ng/ml、B27 supplement 1×、塩基性線維芽細胞増殖因子10ng/mlを含むDMEM/F-12(1:1))、stage5NB(インスリン5μg/ml、トランスフェリン100μg/ml、プロゲステロン6.3ng/ml、プトレッシン16.11μg/ml、亜セレン酸5.2ng/ml、B27 supplement 1×、ニコチンアミド10mMを含むDMEM/F-12(1:1))、stage5NL培地(上記)と6日ごとに培地を交換し作製した細胞を測定に用いた。
【0088】
図8は、インスリン産生細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。上記方法に従ってインスリン産生細胞にまで分化させクランプになった細胞を、フィブロネクチンでコーティングしたカバースリップの上に播種した。FBSを含むDMEMでカバースリップに接着させた後、インスリン産生細胞培地へと交換し2日間培養を行った。それから基板に細胞が接着したカバースリップが相対するように配置してそのまま表面プラズモン共鳴センサー上のプリズムに設置して測定を開始した。その結果、図8(a)に示されるように、インスリン産生細胞培地のみをリファレンスにとった共鳴カーブ(点線)に比べてインスリン産生細胞を乗せた際の共鳴カーブ(実線)は広くなり、最大共鳴角は右下部に移行していた。図8(b)は、各波長における細胞の共鳴をリファレンスで標準化したt/r%を、さらに微分することにより得られる。
【0089】
続いて、図8(c)〜(e)を参照して、蛍光試薬によるミトコンドリアの分極状態のモニタリングについて説明する。図8(c)〜(e)の関係は、図5(c)〜(e)の関係と同様である。図8(c)〜(e)に示されるように、インスリン産生細胞のミトコンドリアは細胞全体に広がり、形態や大きさが一定ではなく、細胞塊のなかには、膜電位の低いミトコンドリアが多い。
【0090】
続いて、ES細胞から皮膚様細胞へと分化誘導させた細胞の評価について説明する。
【0091】
供試細胞には、マウスES細胞からShin-Ichi Nishikawaらの方法を用いて分化させた皮膚様細胞を用いた(Nature Biotechnology 2005;23:1542-1550参照)。37℃、CO25%濃度下において、ES細胞から皮膚様細胞へと分化誘導を行った手順について以下に簡潔に示す。
【0092】
供試細胞は、90%コンフルエントにまで増殖したES細胞を剥離し、その細胞懸濁液をゼラチンコーティングした10cmシャーレ1枚に播種した。37℃、CO25%濃度下で4時間のインキュベーション後に上清のES細胞を回収し、フィブロネクチンでコーティングしたシャーレに105/ml濃度で細胞を播種した。皮膚細胞培地を用いて皮膚様細胞を形成するまで10日間培養し、その後測定に用いた。
【0093】
図9は、皮膚様細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。図9(a)、(b)を参照して、表面プラズモン共鳴による皮膚様細胞のミトコンドリアの分極状態の評価は、以下のように行うことができる。
【0094】
上記方法に従って皮膚様細胞にまで分化させた細胞を、フィブロネクチンでコーティングしたカバースリップの上に播種した。FBSを含むDMEMでカバースリップに接着させた後、皮膚細胞培地へと交換し2日間培養を行った。それから基板に細胞が接着したカバースリップが相対するように配置してそのまま表面プラズモン共鳴センサー上のプリズムに設置して測定を開始した。その結果、図9(a)に示すように、皮膚細胞培地のみをリファレンスにとった共鳴カーブに比べて皮膚様細胞を乗せた際の共鳴カーブは、幅が広がり、最大共鳴角は右上方向に向かって移行していた。図9(b)は、各波長における細胞の共鳴をリファレンスで標準化したt/r%を、さらに微分することにより得られる。
【0095】
続いて、図9(c)〜(e)を参照して、蛍光試薬によるミトコンドリアの分極状態のモニタリングについて説明する。図9(c)〜(e)の関係は、図5(c)〜(e)の関係と同様である。図9(c)〜(e)に示されるように、ミトコンドリアが凝集し、非常に膜電位が高い細胞が存在する。また、それらのミトコンドリアは形態が細長く、核周辺に密集している。各細胞の大きさに伴って、ミトコンドリアが点在している。
【0096】
続いて、図5〜図9を参照して、表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージとの整合性について説明する。
【0097】
幹細胞では、ミトコンドリアは細胞の分裂、増殖へとエネルギーを傾けるが、一方で分化細胞では細胞の形態の維持や例えば神経系であれば軸索の伸展など、その成熟細胞として役割の維持へとミトコンドリアの機能が転換していくことが知られている。その観点から考えると、幹細胞のミトコンドリアは細胞全体として非常に活発なエネルギーをもち、一方で分化細胞は局所的に活発なエネルギーを発することが予測され、全体としてのエネルギーレベルは幹細胞に比して低いことが推測される。
【0098】
そこで、各々の細胞ごとのスペクトル波形について、培地と細胞間での最大共鳴角のシフト(図5(a)、(b)のA参照)、細胞の最大共鳴角での共鳴の強さ(図5(a)、(b)のB参照)、共鳴カーブの幅(図5(a)のC参照)、最も共鳴が少ない波長でのリファレンスとの強度差(図5(a)のD参照)を検討する。
【0099】
まず、培地と細胞間での最大共鳴角のシフトについて検討する。ES細胞、皮膚様細胞で最大共鳴角が最もシフトしており、神経系細胞ではその差が最も少ない。ES細胞及び皮膚様細胞では活動電位の高いミトコンドリアが凝集している。一方で神経系細胞では細胞塊の一部に局在している。そのため、培地と細胞間での最大共鳴角のシフトにより、例えば「分極状態のミトコンドリアの密度とその分布」を知ることができる。
【0100】
次に、細胞が最大の共鳴を示す波長での共鳴強度について検討する。ES細胞、神経幹細胞、皮膚様細胞において、共鳴強度が同等に大きく、インスリン産生細胞において最も小さい。ES細胞、神経幹細胞、皮膚様細胞において、ミトコンドリアの分布や形状は異なるが、分極しているミトコンドリア数は非常に多い。そのため、細胞が最大の共鳴を示す波長での共鳴強度により、例えば「ミトコンドリアの分極の総量=エネルギーレベル」を知ることができる。
【0101】
次に、共鳴カーブの幅について検討する。神経幹細胞、皮膚様細胞において共鳴カーブの幅が同等に広く、神経系細胞において最も狭い。神経幹細胞、皮膚様細胞のミトコンドリアの形態は、球状と繊維状のものが多く点在しているが、神経系細胞では繊維状のものが多い。そのため、共鳴カーブの幅により、例えば「ミトコンドリアの形態の均一性」を知ることができる。
【0102】
次に、最小共鳴波長でのリファレンスとの強度の差について検討する。皮膚様細胞が最も差が広く、ES細胞と神経系細胞でその差は最も狭い。ES細胞は細胞塊同士が接触することなく、また神経系細胞でも軸索が進展することから、両細胞では基板上に細胞が接触していない面積が生じる。一方で、皮膚様細胞のように一面に広がる細胞ではその隙間は少ない。そのため、最小共鳴波長での培地と強度の差により、例えば「細胞の接着面積」を知ることができる。
【0103】
以上の4点を定量するためには、例えば、一細胞中のミトコンドリア数と凝集の程度・大きさなどのミトコンドリアの形態、基板上の細胞数・接着面積の計測と形態変化の観察、遺伝子導入細胞によるリアルタイムモニタリングとの整合性、体性幹細胞からの分化系モデルの構築、などを活用することが有効であると考えられる。
【0104】
図10は、様々な細胞の場合のスペクトルの、レファレンスに対する影響を加味した比較を示す図であり、(a)はES細胞と神経幹細胞の比較を示し、(b)は神経系細胞とインスリン産生細胞、皮膚様細胞の比較を示し、(c)は神経幹細胞と神経系細胞とインスリン産生細胞の比較を示し、(d)はES細胞と神経幹細胞と神経系細胞とインスリン産生細胞、皮膚様細胞の比較を示す。
【0105】
図10(a)を参照して、最大共鳴角はES細胞が右上に神経幹細胞は左下に位置している。また、最小共鳴角はES細胞と神経幹細胞でそろっているものの、t/r%の値は異なっている。図5(e)や図6(e)に示されるように、ES細胞と神経幹細胞では、ミトコンドリアの分極状態の三次元的な分布・強度・形態などを異にする。そのため、図7(a)に示されるように、ミトコンドリアの分極状態の三次元的な分布・強度・形態などを異にすることによりスペクトル分析の結果が異なることがわかる。そのため、表面プラズモン共鳴に対するスペクトル分析を行うことにより、ミトコンドリアの分極状態の三次元的な分布・強度・形態などを検出可能であることがわかる。
【0106】
また、図10(b)を参照して、神経系細胞とインスリン産生細胞、皮膚様細胞でも図7(e)や図8(e)、図9(e)に示されるようなミトコンドリアの分極状態の三次元的な分布・強度・形態などの相違により、スペクトル分析の結果を異にしていることがわかる。そのため、表面プラズモン共鳴に対するスペクトル分析を行うことにより、ミトコンドリアの分極状態の三次元的な分布・強度・形態などを検出可能であることがわかる。
【0107】
さらに、図10(c)、(d)に示されるように、ES細胞、神経幹細胞、神経系細胞、インスリン産生細胞、皮膚様細胞を比較しても、ミトコンドリアの分極状態の三次元的な分布・強度・形態などを異にする場合に、表面プラズモン共鳴に対するスペクトル分析結果を異にすることがわかる。そのため、ミトコンドリアの分極状態の三次元的な分布・強度・形態などを検出可能であることがわかる。
【0108】
図11は、(a)ラ氏島様構造物(インスリン産生細胞、グルカゴン産生細胞)(b)神経様細胞、(c)皮膚様細胞、を示す図である。
【0109】
図12及び図13は、ES細胞から神経細胞、膵β細胞、心筋細胞及び中内胚葉性細胞への分化誘導を示す図である。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】前処理の概要を示す図であり、(a)は12wellセルカルチャープレートを示し、(b)はその中にセットされるサーマノックスカバースリップを示す。
【図2】本願発明の実施の形態に係る判定・培養システム1の概略ブロック図である。
【図3】(a)は、本実施例で使用する図2の基板3の一例である硝子導波路を示すものであり、(b)は、図1(b)のサーマノックスカバースリップを利用して培養した細胞を基板に接着させた状態とする一例を示すものである。
【図4】培養培地による表面プラズモン共鳴スペクトルを示す図である。
【図5】ES細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。
【図6】神経幹細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。
【図7】神経系細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。
【図8】インスリン産生細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。
【図9】皮膚様細胞の表面プラズモン共鳴スペクトルとミトコンドリアイメージを示す図である。
【図10】図5〜図9に基づいて、様々な細胞の場合の光のスペクトルの、レファレンスに対する影響を加味した比較を示す図である。
【図11】(a)インスリン産生細胞、(b)神経様細胞、(c)皮膚様細胞、を示す図である。
【図12】ES細胞から神経様細胞、膵β細胞、心筋細胞への分化誘導を示す第1図である。
【図13】ES細胞から中内胚葉性細胞への分化誘導を示す第2図である。
【符号の説明】
【0111】
1 判定・培養システム、2 表面プラズモン共鳴装置、3 基板、4 金属層、5,7 生細胞、9,11 ミトコンドリア、13 入射光、15 光、17 判定装置、19 分極状態判定部、21 性質判定部、23 選定装置、25 選定部、26 培養装置、27 培養部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面プラズモン共鳴現象を用いて生細胞内のミトコンドリアの分極状態を判定する判定装置であって、
少なくとも2種類の入射光に基づいて前記ミトコンドリアの分極状態を判定する分極状態判定手段、
を備える判定装置。
【請求項2】
前記分極状態判定手段による判定は、前記ミトコンドリアの分極状態の分布、強度及び形態の少なくとも一つである、請求項1記載の判定装置。
【請求項3】
前記少なくとも2種類の入射光は、互いに、波長及び生じさせるエバネッセント波の少なくとも一方を異にするものであり、
前記分極状態判定手段は、スペクトル分析により前記ミトコンドリアの分極状態を判定する、
請求項1又は2に記載の判定装置。
【請求項4】
前記分極状態判定手段による判定結果に基づいて前記生細胞の性質を判定する性質判定手段を備える請求項1から3のいずれかに記載の判定装置。
【請求項5】
請求項4記載の前記性質判定手段により判定された生細胞の性質に基づいて培養対象となる生細胞を選定する選定手段を備える選定装置。
【請求項6】
表面プラズモン共鳴現象を用いて生細胞内のミトコンドリアの分極状態を判定する判定方法であって、
少なくとも2種類の入射光に基づいて前記ミトコンドリアの分極状態を判定するステップ、
を含む判定方法。
【請求項7】
培養により細胞を生産する細胞生産方法であって、
表面プラズモン共鳴現象を用いて、少なくとも2種類の光を入射光とする生細胞内のミトコンドリアの分極状態の判定結果に基づいて、培養対象とされた生細胞を培養して細胞を生産する生産ステップ、
を含む細胞生産方法。
【請求項8】
コンピュータを、
表面プラズモン共鳴現象を用いて生細胞内のミトコンドリアの分極状態を判定する判定装置であって、
少なくとも2種類の入射光に基づいて前記ミトコンドリアの分極状態の分布、強度及び形態の少なくとも一つを判定する判定手段、
を備える判定装置として機能させるためのプログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のプログラムを記録した記録媒体。
【請求項10】
表面プラズモン共鳴現象を用いて、接し又は少なくとも近接して存在する判定対象物の分極状態を判定する判定装置であって、
少なくとも2種類の入射光に基づいて、前記分極状態の分布、強度及び形態の少なくとも一つを判定する判定手段、
を備える判定装置。
【請求項1】
表面プラズモン共鳴現象を用いて生細胞内のミトコンドリアの分極状態を判定する判定装置であって、
少なくとも2種類の入射光に基づいて前記ミトコンドリアの分極状態を判定する分極状態判定手段、
を備える判定装置。
【請求項2】
前記分極状態判定手段による判定は、前記ミトコンドリアの分極状態の分布、強度及び形態の少なくとも一つである、請求項1記載の判定装置。
【請求項3】
前記少なくとも2種類の入射光は、互いに、波長及び生じさせるエバネッセント波の少なくとも一方を異にするものであり、
前記分極状態判定手段は、スペクトル分析により前記ミトコンドリアの分極状態を判定する、
請求項1又は2に記載の判定装置。
【請求項4】
前記分極状態判定手段による判定結果に基づいて前記生細胞の性質を判定する性質判定手段を備える請求項1から3のいずれかに記載の判定装置。
【請求項5】
請求項4記載の前記性質判定手段により判定された生細胞の性質に基づいて培養対象となる生細胞を選定する選定手段を備える選定装置。
【請求項6】
表面プラズモン共鳴現象を用いて生細胞内のミトコンドリアの分極状態を判定する判定方法であって、
少なくとも2種類の入射光に基づいて前記ミトコンドリアの分極状態を判定するステップ、
を含む判定方法。
【請求項7】
培養により細胞を生産する細胞生産方法であって、
表面プラズモン共鳴現象を用いて、少なくとも2種類の光を入射光とする生細胞内のミトコンドリアの分極状態の判定結果に基づいて、培養対象とされた生細胞を培養して細胞を生産する生産ステップ、
を含む細胞生産方法。
【請求項8】
コンピュータを、
表面プラズモン共鳴現象を用いて生細胞内のミトコンドリアの分極状態を判定する判定装置であって、
少なくとも2種類の入射光に基づいて前記ミトコンドリアの分極状態の分布、強度及び形態の少なくとも一つを判定する判定手段、
を備える判定装置として機能させるためのプログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のプログラムを記録した記録媒体。
【請求項10】
表面プラズモン共鳴現象を用いて、接し又は少なくとも近接して存在する判定対象物の分極状態を判定する判定装置であって、
少なくとも2種類の入射光に基づいて、前記分極状態の分布、強度及び形態の少なくとも一つを判定する判定手段、
を備える判定装置。
【図2】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−122016(P2009−122016A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297738(P2007−297738)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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