説明

到着時間推定器の最適帯域幅選択方法

位置情報アプリケーションにおける測距誤差を最小限に抑える最適な帯域幅を求める方法を提供する。この方法により、全てのチャネル条件(即ち、見通し(LOS)及び非LOS(NLOS)の双方の条件)下で最適な帯域幅が選択される。さらに、この方法は、一般的でありシステム依存ではないので、考慮中の信号対雑音比(SNR)に関係なく、コヒーレント受信機(例えば、整合フィルタ(MF)ベースの受信機)、非コヒーレント受信機(例えば、エネルギー検出器(ED)ベースの受信機)、及び任意のタイプの到着時間(TOA)推定器(例えば、ピーク検出又は閾値ベースTOA推定器のいずれか)に適応可能である。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、(a)2007年1月11日に出願された米国仮特許出願第60/884,569号、及び(b)2007年12月21日に出願された米国特許出願第11/963,630号に関しするものであり、これら出願の優先権を主張するものである。また、これら米国出願を、参照することにより本明細書に援用する。米国を指定国とする場合、本出願は、前述した米国特許出願第11/963,630号の継続出願である。
【発明の背景】
【0002】
1.発明の分野
【0003】
本発明は、移動体通信システムの測距アプリケーションに関するものである。より詳細には、本発明は、到着時間推定器に基づいて計算された測距誤差を低減するための移動体アプリケーションの帯域幅選択に関するものである。
【0004】
2.関連技術の説明
【0005】
近年、特に、全地球測位システム(GPS)のアクセス不能が頻繁に起こるクラッタ環境(例えば、建物内、都市部、及び群葉地)に対して、正確な位置情報特定の必要性が強まってきている。位置情報に信頼性がないと、倉庫や貨物船の商品在庫追跡、また、軍隊の「自軍位置追跡」用途(即ち、味方の軍の位置を特定する)などの多くの用途において障害となる。超広帯域(UWB)技術により、マルチパスの問題が解消され、障害物を透過できるようになるため、このようなクラッタ環境における位置特定の精度を高めるための大きな可能性が得られる。位置情報を特定するためのUWB技術の例は、(a)「Ultra−wideband precision asset location system」(R.J.Fontana and S.J.Gunderson,Proc.of IEEE Conf.on Ultra Wideband Systems and Technologies(UWBST),Baltimore,MD,May 2002,pp.147−150掲載)、(b)「An ultra wideband TAG circuit transceiver architecture」(L.Stoica,S.Tiuraniemi,A.Rabbachin and I.Oppermann,International Workshop on Ultra Wideband Systems.Joint UWBST and IWUWBS 2004,Kyoto,Japan,May 2004,pp.258−262掲載)、(c)「Pseudo−random active UWB reflectors for accurate ranging」(D.Dardari,IEEE Commun.Lett.,vol.8,no.10,pp.608−610,Oct 2004掲載)、(d)「Localization via ultrawideband radios:a look at positioning aspects for future sensor networks」(S.Gezici,Z.Tian,G.B.Giannakis,H.Kobayashi,A.F.Molisch,H.V.Poor, and Z.Sahinoglu,IEEE Signal Processing Mag.,vol.22,pp.70−84,July 2005掲載)、(e)「Analysis of wireless geolocation in a non−line−of−sight environment」(Y.Qi,H.Kobayashi,and H.Suda,IEEE Trans.Wireless Commun.,vol.5,no.3,pp.672−681,Mar.2006掲載)において記述されている。
【0006】
UWB技術に基づいた測位システムでは、UWB信号を用いて達成可能な時間分解能が微細であることから、到着時間(TOA:time−of−arrival)技術が使用されることが多い。しかしながら、測距精度は、ノイズの存在、マルチパス成分(MPC)、システム帯域幅の影響、及び見通し外(NLOS:non−line−of−sight)条件の存在により制限される。より高い測距精度を達成するために、通信システムが、シンボルレートより大きな帯域幅を送信信号に与えてもよい。したがって、高測距精度を要求する多くのTOA推定器では、より高い動作帯域幅が使用される。ナイキスト・シャノンの標本化定理(例えば、「Certain topics in telegraph transmission theory」(H.Nyquist,Proc.IEEE,vol.90,no.2,pp.280−305,Feb 2002掲載)を参照されたい)では、帯域制限された信号を、シャノン又はナイキストレート以上のレートでサンプリングする必要がある。したがって、TOA推定器では、システム帯域幅の増大に伴い、より高いサンプリングレートが要求されるため、ディジタルUWB受信機(RX)の計算の複雑性及び電力消費が増大する。しかしながら、多くの応用ではデバイスの複雑性及び電力消費に制約が課せられるので、良好な測距精度を達成するためには、RXの複雑性と動作帯域幅との間で適切なトレードオフがとられることが望ましい。
【0007】
「Modeling of the distance error for indoor geolocation」(「Alavi I」)(B.Alavi and K.Pahlavan,Proc.IEEE Wireless Commun.and Networking Conf.,vol.1,New Orleans,LO,Mar 2003,pp.668〜672掲載)という文献に、g=e/dで与えられた正規化距離誤差gが紹介されている。ここで、式中のeは、送信機(TX)とRX間の測定距離
【数1】


と、実際の距離dとの間の差として規定された距離誤差である。Alavi Iでは、解析を実行するために使用されるデータベースを生成するために、レイトレーシングソフトウェアツールが使用されている。この著者らは、見通し(LOS:line−of−sight)条件下と、障害物が存在するLOS(OLOS:obstructed−LOS)条件下とでは、gが著しく異なる特性を有することを見出している。LOS条件の場合には、gは、ゼロ平均ガウス分布によってうまくモデル化し得るが、OLOS条件の場合には、二つの分布、即ち、ゼロ平均ガウス分布と指数分布の混合が必要となる。
【0008】
「Bandwidth effect on distance error modeling for indoor geolocation」(「Alavi II」)(B.Alavi and K.Pahlavan,Proc.IEEE Int.Symp.on Personal,Indoor and Mobile Radio Commun.,vol.3,Beijing,China,Sep 2003,pp.2198−2202掲載)という文献において、この著者らは、LOS及びOLOSの両方の条件下で、システム帯域幅(w)が正規化距離誤差gに及ぼす影響に関する研究を更に進めている。Alavi Iの場合のように、Alavi IIでは、ゼロ平均ガウス分布と、ガウス分布及び指数分布の混合とを使用して、LOS及びOLOS条件下でのモデルgをそれぞれモデル化している。さらに、Alavi IIは、ゼロ平均ガウス分布の標準偏差sの変動をモデル化するための多項式を提案している。Alavi IIにおいて、標準偏差sは、LOS及びOLOSの双方の条件の帯域幅の関数として与えられる。OLOS条件の場合、指数分布の平均値lは、帯域幅で一定であると仮定される。Alavi I及びAlavi IIの双方において、レイトレーシングツールは、距離誤差モデリングのデータベースを生成する。これらのモデルは、エリアをLOS及びOLOS条件に分割することに基づいている。しかしながら、UWBアプリケーションのAlavi I及びAlavi IIのモデルの有効性は、制限され得る。
【0009】
これらの著者による次の文献、即ち、(a)「Indoor geolocation distance error modeling using UWB channel measurements」(「Alavi III」(Proc.IEEE Int.Symp.on Personal,Indoor and Mobile Radio Commun.,vol.1,Berlin,Germany,Sep 2005,pp.481−485掲載)と、(b)「Modeling of the TOA−based distance measurement error using UWB indoor radio measurements」(「Alavi IV」)(IEEE Commun.Letter,vol.10,no.4,pp.275−277,Apr 2006掲載)において、著者らは、3〜6GHzで変動する帯域幅を有するUWBシステムを考慮することによって、距離誤差のモデルを示している。Alavi III及びAlavi IVにおいて、著者らは、レイトレーシングシミュレーションの代わりに、オフィス環境から得られる測定を提示している。さらに、Alavi III及びAlavi IVのモデルは、LOS及びOLOS条件への適用エリアの分割に基づいたものではない。その代わりに、検出直接経路(DDP:detected direct path)及び非検出直接経路(UDP:undetected direct path)の概念が紹介されている。DDP及びUDPを考慮するために、距離誤差(e)は、二つの部分、即ち、(a)マルチパス誤差(e)、及びUDP誤差(e)を有するようにモデル化される。マルチパス誤差は、マルチパス分散に関し、UDP誤差は、UDP条件の発生に関する。Alavi III及びAlavi IVは、システム帯域幅に対してこれらの誤差を解析している。マルチパス誤差は、DDP及びUDPの双方の条件下で存在するのに対して、UDP誤差は、場合によっては、通常、UDP条件下で存在する。e及びeの双方は、得られる距離誤差が、二つのガウス分布の混合によって特徴付けられるように、ガウス分布によりモデル化され得る。UDP条件の確率は、距離及び帯域幅の双方とともに増大する(ひいては、それに従って、UDP誤差の確率が増大する)。しかしながら、帯域幅が増大すると、マルチパス誤差は低減する。したがって、最適なシステム帯域幅は、距離誤差を低減させる。しかしながら、このような最適化は、Alavi IIIにも、Alavi IVにも記述されていない。
【0010】
「Studying the effect of bandwidth on performance of UWB positioning systems」(「Alavi V」)(Proc.IEEE Wireless Commun.and Networking Conf.,vol.2.Las Vegas,NV,Apr 2006,pp.884−889掲載)という文献において、Alavi III及びIVの結果は、マルチパス誤差e及びUPD誤差eに及ぼす帯域幅の影響を、別々に及び組み合わせて研究することによって拡張されている。Alavi Vは、低帯域幅では、マルチパス誤差eが優勢であるのに対して、高帯域幅では、UDP誤差eが優勢であることを報告している。帯域幅が増大し、マルチパス誤差eが低減したとしても、帯域幅の増大が、UDP誤差eを増大してしまう。したがって、全誤差を低減するために、最適な帯域幅が要求される。屋内オフィス環境のUWB測定データベースに基づいて、Alavi Vは、最適な選択帯域幅が2GHzであることを見出している。
【0011】
「Performance of TOA estimation algorithms in different indoor multipath conditions」(「Alsindi」)(N.Alsindi,X.Li and K.Pahlavan,Proc.IEEE Wireless Commun.and Networking Conf,vol.1,Atlanta,GA,Mar 2004,pp.495−500掲載)という文献において、この著者らは、異なる環境(即ち、LOS、OLOS、DDP、NDDP、及びUDP条件)下での異なるTOA推定アルゴリズムと帯域幅とを比較した性能解析を提供している。比較されたTOA推定アルゴリズムは、逆フーリエ変換(IFT:inverse Fourier transform)、直接シーケンス拡散スペクトル(DSSS:direct sequence spread spectrum)、及び超解像度固有ベクトル(EV:Eigenvector)アルゴリズムである。LOS条件下において、低帯域幅では、より複雑なEVアルゴリズムが、IFTよりわずかに良好に実行されるが、DSSSとほぼ同じである。LOS条件下では、より高い帯域幅で、比較された三つのアルゴリズムの何れにおいても、特に著しい利点は見受けられない。OLOS条件下では、EVアルゴリズムは、TOA推定を著しく改善し、全ての帯域幅においてIFTとDSSSとの双方より優れている。したがって、OLOS条件下において、より複雑なTOA推定アルゴリズムにより、許容可能なレベルまで誤差が低減する。NDP条件下では、システムの帯域幅が増大し、複雑なTOA推定アルゴリズムが使用されている場合でも、実質的な誤差が、UDP条件によって導入される。したがって、距離誤差を低減させるためには、TOA推定器及び使用する帯域幅を選択する前に、チャネル条件の理解が重要である。Alsindiは、各TOA推定器の推定誤差を低減する最適な動作帯域幅について調査を行っていない。
【0012】
TOA無線測位システムは、その下で当該システムが動作しなければならない信号対雑音比(SNR)及び変動するマルチパス環境の双方によって、最終的な精度が制限される。「Enhanced time of arrival method」と題し、1998年4月21日に発行されたH.B.Sanderford,Jr.による米国特許第5,742,635号(「Sanderford」)には、マルチパスによりほとんど影響を受けていない受信信号の特徴を識別することによって、高いSNRを維持し得る技術が開示されている。この識別は、ノイズフロアを下げるために、チャネル条件に従って、システム帯域幅を増減することによって達成される。この技術では、相関ピーク情報を使用して相関関数の立ち上がりエッジを推定し、相関関数の立ち上がりエッジでの離散サンプルを強化し、高SNR読取値をもたらしている。しかしながら、Sanderfordの技術では、非常に高い帯域幅から始まり、SNRと高測距精度の双方を高めるために、それに応じて帯域幅が低減される。このような技術では、高いサンプリングレートと、非常に高速に帯域幅を変化させる適応回路の双方が要求されることで、実施コストが高くなってしまう。したがって、コスト効率の良いシステムを実施するためには、最適な測距精度を提供し得る最適帯域幅を用いた測位システムが非常に望ましい。しかしながら、Sanderfordには、あるチャネル条件下での動作に要求される最適な帯域幅を判定するための方法が開示されていない。
【概要】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、一般的なTOA推定器用に最適な帯域幅選択方法が提供される。最適な帯域幅選択に影響する重要なデザインパラメータは、マルチパスフェージング、SNR(又はTX−RX分離距離)、及びNLOS伝播である。本発明による方法は、これらのパラメータの影響を関係付けて、一般的なTOA推定器に最適な帯域幅を決定し、測距誤差を低減させる。
【0014】
本発明により、一般的且つシステム非依存(即ち、コヒーレント及び非コヒーレントの両方のシステムに適用可能であり)であり、SNR値とは無関係に、任意のタイプのTOA推定器(例えば、ピーク検出推定器及び閾値ベース推定器)に適用され得る方法が提供される。さらに、マルチパス及びNLOS伝播誤差の影響が考慮され、この帯域幅選択方法は、高密度のマルチパスUWB通信アプリケーションに特に適用可能である。
【0015】
適切に選択された帯域幅によって要求されるサンプリングレートを低下させることができ、その結果、従来技術よりも計算の要求が低減し、したがって、より遅いアナログ・ディジタル(A/D)変換器を使用でき、ディジタル受信機の電力消費が著しく低減されることで、このような受信機の生産コストも効率的に低下する。最適な帯域幅を常に選択することによって、過剰ではなく、必要な帯域幅量のみを使用して、リソースを効率的に使用することが可能である。ワイヤレスデバイスを測位するためだけに使われる過度の帯域幅は、多大な利益を生じず、リソースの無駄になる。このように、システム帯域幅を拡大すると、測距精度がわずかに改善されるが、UWBシステムの実施の複雑性が増大するだけである。さらに、本発明は、高精度のワイヤレスデバイス測位推定用の受信機帯域幅要求を決定するための効率的な性能指数を提供する。
【0016】
本発明の帯域幅選択方法は一般的であるため(即ち、かかる方法は、コヒーレント及び非コヒーレントシステムだけでなく、任意のタイプのTOA推定器(例えば、ピーク検出及び閾値ベース)に適用可能であるため)、多くの測距アプリケーションベースのシステムでこの方法を用いてもよい。本発明の方法は、送受信機分離距離(即ち、SNR)に関係なく、測距誤差を最小限に抑える最適な帯域幅を選択するよう、チャネル条件(即ち、LOS又はNLOS)を使用する。
【0017】
本発明は、添付の図面と共に、以下の詳細な説明を考慮することにより、さらに深く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】典型的なマルチパスチャネルインパルス応答を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態による、整合フィルタ(MF)に基づいてTOAを推定するためのコヒーレントシステム200を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態による、エネルギー検出器(ED)に基づいてTOAを推定するための非コヒーレントシステム300を示す図である。
【図4】ピーク検出TOA推定器500又は閾値ベースTOA推定器600のいずれかに基づくことが可能である図2のTOA推定器400の一つの実施例を示す図である。
【図5】図5のピーク検出TOA推定器500を実施するのに適したシングルサーチ(SS)スキーム502、サーチ及び減算(SaS)スキーム504、及びサーチ、減算、及び再調節(SSaR)スキーム506を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態による、コヒーレント及び非コヒーレントシステムの双方に閾値ベースのTOA推定器を実施するのに適した閾値ベースのTOA推定器600を示す図である。
【図7】マルチパス分散及びシステム帯域幅の双方が第1の到着経路推定に及ぼす影響を示す図である。
【図8】LOS及びNLOS条件の双方に最適な帯域幅を選択するための方法のフローチャート800を示す図である。
【好ましい実施形態の詳細な説明】
【0019】
図1は、典型的なマルチパスチャネルインパルス応答を示している。2006年12月4日に出願された「Method for Optimum Threshold Selection of Time−of−Arrival Estimators」と題する米国仮特許出願第60/868,526号(「’526仮出願」)には、位置情報を特定するために、測距システムの精度にとっては、第1の到着経路(即ち、図1の経路102)が、後続の到着経路104(最強経路106を含む)より重要であることが開示されている。本明細書は、’526仮出願の開示の内容全体を、参照することにより、援用している。
【0020】
UWBマルチパスチャネルは、以下の式、
【数2】


により与えらる。ここで、Lは、MPCの総数であり、α及びtは、それぞれl番目のMPCのマルチパスゲイン係数及びTOAである。式(1)に基づいて、マルチパスチャネルの後に受信した信号r(t)は、以下の式、
【数3】


によって与えられる。ここで、p(t)は、継続時間Tの送信信号パルスであり、
【数4】


及び
【数5】


は、それぞれp(t)の受信振幅及びTOAであり、n(t)は、ゼロ平均及び両側パワースペクトル密度N/2を有する加法的白色ガウス雑音(AWGN:additive white Gaussian noise)である。
【0021】
高精度の測距のために着目するパラメータは、最強経路tmaxではなく、第1の到着経路のTOAtである。雑音のある過酷な環境において、通例、第1の到着経路は弱く、このような弱い信号を高密度のマルチパスチャネルで検出することは、非常に困難なことがある。図2は、本発明の一実施形態による、整合フィルタ(MF)に基づいてTOAを推定するためのコヒーレントシステム200を示している。図3は、本発明の一実施形態による、エネルギー検出器(ED)に基づいてTOAを推定するための非コヒーレントシステム300を示している。コヒーレントシステム200において、第1の到着経路のTOAtを推定するためには、TOA推定器400は、図4に示すように、ピーク検出TOA推定器500又は閾値ベースのTOA推定器600の何れに基づいたものであってもよい。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、ピーク検出TOA推定器500は、三つの推定スキームのうちの一つを用いて実施され得る。これらのスキームは、複雑性が増すにつれて、例えば図5に例示したシングルサーチ(SS)スキーム502、サーチ及び減算(SaS)スキーム504、及びサーチ、減算、及び再調節(SSaR)スキーム506である。これらのスキームの例は、「Time of arrival estimation for UWB localizers in realistic environments」(C.Falsi,D.Dardari,L.Mucchi,and M.Z.Win,EURASIP J.Appl.Signal Processing,vol.2006,pp.1−13)という文献において記述されている。これらのアルゴリズムは全て、相関器の出力のN個の最大値(ここで、Nは、サーチに際し考慮される経路数である)を検出し、対応する時間位置tk1,tk2,...,tkNを求める。
【0023】
SSスキーム502において、TOA及びその振幅は、単一のロックで推定される。まず、相関器出力のN個の最大ピークが求められる。次に、時間位置
【数6】


の最小値が求められる。この最小時間位置は、直接経路のTOAの遅延推定値
【数7】


として設定される。
【0024】
SaSスキーム504は、非分離チャネルにおいてMPCを検出する方法を提供し、マルチユーザ検出において使用される連続した干渉除去技術に類似している。SaSスキーム504の下では、相関器出力の最大ピークに対応するサンプル
【数8】


が求められる。次に、サンプル
【数9】


のインデクスを用いて、対応する時間位置を導き出し、当該時間位置から、最強経路の遅延推定値
【数10】


が得られる。上述したように、最強経路は、必ずしも第1の到着経路とは一致しない。次に、第2の最強経路の遅延推定値
【数11】


が同様に求められる。このプロセスは、すべてのN個の最強経路が求められるまで繰り返される。時間位置
【数12】


の最小値
【数13】


は、直接経路のTOAの推定値として設定される。
【0025】
SaSスキーム504とは異なり、SSaRスキーム506では、選択された全ての最強経路の振幅が、各ステップでまとめて推定される。同じプロセスが、N個の最強経路が求められるまで繰り返され、次いで、時間位置
【数14】


の最小値
【数15】


が、直接経路のTOAの推定値として設定される。SSスキーム502及びSaSスキーム504は共に、各ステップにおいて各経路の遅延及び振幅を別々に推定し、一方、SSaRスキーム506は、異なる経路の振幅をまとめて推定する。
【0026】
図6は、本発明の一実施形態による、コヒーレント及び非コヒーレントシステムの双方に閾値ベースのTOA推定器を実施するのに適した閾値ベースのTOA推定器600を例示している。閾値ベースのTOA推定器600を実施するのに適した閾値ベースTOA推定器は、例えば、’526仮出願に説明されている。これらの閾値ベースのTOA推定器は、計算の複雑性要件が低い。MFを有するコヒーレントシステム(例えば、図2のコヒーレントシステム200)の場合、相関器出力は、閾値lと比較される。図6に示すように、まず、第1の閾値交差点
【数16】


を検出することによって、粗い推定602が実行され、直接経路のTOAが粗く推定される。次に、微細な推定604が、粗い推定の付近にあるパルス間隔T内のピークを探す。ピーク位置は、直接経路にTOAの最終推定値
【数17】


を与える。
【0027】
EDを有する非コヒーレントスキームの場合(例えば、非コヒーレントTOA推定器300)、TOA推定器は、第1の閾値交差点
【数18】


を検出するために、立ち上がりエッジの検出を実行する。
【0028】
閾値ベースのTOA推定器において、閾値lに適した値の選択は重要であり、困難な場合もある。例えば、閾値lが非常に低く設定されれば、高い誤警報確率が雑音から生じることで、早期のTOA推定値を生じてしまうこともある。一方で、閾値lが非常に高く設定されれば、間違った経路を選択することが原因で、より低い検出確率が生じてしまい、遅いTOA推定値を生じてしまうこともある。さらに、閾値lを非常に高く設定すると、見逃された検出確率が高くなることで(即ち、すべての経路を見逃す)、TOA推定値が生じないこともある。検出の見逃しを回避するために、通例、中間点法又は最大点法などの見逃し経路の方策を用いて、TOA推定値
【数19】


を求める。このような方策では、上述したように参照することにより援用した’526仮出願に提案された閾値技術を採用することによって、最適化された閾値loptが設定される。この技術では、閾値lは、チャネル動作条件(例えば、SNR、TX−RX分離距離、及びLOS妨害)に従って最適化される。
【0029】
一般に、TOA測距誤差ετは、以下のように規定されてもよい。
【数20】


式中、τは、通常、測定環境の地形に基づいて得られる第1の到着経路のTOAであり(例えば、
【数21】


であり、式中、dは、TXとRXとの間の実際の分離距離であり、cは、光速である)、
【数22】


は、上述したように、ピーク検出TOA推定器又は閾値ベースのTOA推定器を用いて得られた第1の到着経路の推定TOAである。
【0030】
測距誤差は、例えば、マルチパスフェージング、SNR(又はTX−RX分離距離)、及びNLOS伝播から生じ得る。測距誤差εは、TX−RX分離距離d(又はSNR)及びシステム帯域幅wの関数として、以下のように明確に表し得る。
【数23】


式中、ε(・)及びεnlos(・)は、それぞれマルチパス誤差及びNLOS伝播誤差である。式(4)は、システム帯域幅w及びSNRの双方が、距離測距誤差εに影響を及ぼす重要なパラメータであることを示す。このように、本発明の一実施形態によれば、測距誤差を低減するために、最適な帯域幅選択方法が提案される。
【0031】
図7は、マルチパス分散及びシステム帯域幅の双方が第1の到着経路推定に及ぼす影響を例示している。理論上、帯域幅が増大すると、チャネルインパルス応答は理想の状態に近くなるため、測距誤差は低減する。図7に示すように、プロット701は、測距誤差が最大となる最小帯域幅を有し、一方、プロット702は、測距誤差が最小になる最大帯域幅を有する。しかしながら、実際には、帯域幅を無制限に増大すると、測距誤差が必ずしも低減するわけではない。したがって、あるSNR条件下で最適な動作帯域幅を選択する方法が必須である。
【0032】
このように、システム帯域幅wは、任意のTOA推定器のデザインを最適化する際に慎重に選択することが重要となるデザインパラメータである。
【0033】
LOS条件下において、εnlos(w,d)=0であり、したがって、ε(w,d)=ε(w,d)である。εに及ぼすSNRの影響を調べるために、εの値は、固定帯域幅で計算されてもよい。このような条件下において、本願発明者らは、εがdで事実上一定である(即ち、SNR値に関係なく一定である)ことを見い出した。したがって、LOS条件下では、ε(w,d)≒ε(w)である。
【0034】
以下、帯域幅がマルチパス誤差に及ぼす影響について検討する。帯域幅wがεに及ぼす影響を調べるために、εの平均値
【数24】


、偏り
【数25】


、及び二乗平均誤差(RMSE)
【数26】


を以下のように計算し得る。
【数27】


【数28】


【数29】


ここで、n=1,...,Nである。TOA推定器に最適な帯域幅を選択するために、偏り及びRMSEは最小限に抑えられる。本願発明者らは、帯域幅wを有する平均値
【数30】


の変動は、dとは無関係であることを見出し、これにより、εがdと無関係であることを確認している。さらに、
【数31】


の絶対値(即ち、
【数32】


)は、以下の式によって与えられる指数関数
【数33】


によってモデル化し得る。
【数34】



式中、
【数35】


及び
【数36】



【数37】



用のパラメータであり、最小二乗法を用いて推定され得る。
【数38】


は、dとは無関係であるため、εには、単一のパラメータセットで十分である。このように、LOS条件下では、SNR値に関係なく、TOA推定器に最適な帯域幅が、パラメータ
【数39】


及び
【数40】


によって求められる。
【0035】
εは、dとは無関係であるため、NLOS条件下での測距誤差は、以下のように簡潔に表すこともできる。
【数41】


ε及びεnlosは共に、NLOS条件下で存在するので、分離することはできない。w及びdがεnlosに及ぼす影響が独立している仮定すると、式(9)は、以下のように書き換えられ得る。
【数42】


式中、εm,nlos(w)=ε(w)+εnlos(w)である。dがεnlosに及ぼす影響を調べるために、εの値は、固定の帯域幅を用いて計算されてもよい。解析により、dの値が異なる場合にεnlos(及びε)のより大きな変動が示された。これらの変動はランダムであり、εnlosとdとの間に相関性は観察されない。NLOS条件下でのεnlosの変動は、LOS経路を妨害する異なる材料(例えば、ドア、壁、及び家具)によって導入される正の偏りが主な原因である。LOS経路を妨害する材料の首里は、εnlosの値に影響する。このように、NLOS伝播誤差は、dとは無関係と想定され得るが、LOS経路を妨害する材料の透過係数χに依存する(即ち、εnlos(d)≒εnlosχ)。
【0036】
帯域幅wがε(w,d)に及ぼす影響を調べるために、LOS条件に関して上述したものと同様のアプローチが適用されてもよく、この場合、εm,nlosの平均値
【数43】


、偏り
【数44】


、及び二乗平均誤差(RMSE)
【数45】


が計算される。解析により、εm,nlosの特性が、LOS条件下でのεと比較すると実質的に異なるにもかかわらず、εの指数形は、εm,nlosに存在したままであり、この場合、指数関数の形が、NLOS伝播誤差により変動することが示されている。このように、各チャネル条件に、異なるパラメータセットが要求される。NLOS条件下において、SNR値とは関係なく、TOA推定器に最適な帯域幅が、パラメータ
【数46】



【数47】


、及びχによって求められる。
【0037】
図8は、LOS及びNLOSの両方の条件に最適な帯域幅を選択するための方法のフローチャート800を示す。フローチャート800は、LOS及びNLOS条件に対して上述した帯域幅選択方法を要約したものである。
【0038】
上に示したように、測距精度は、帯域幅とともに増大する。しかしながら、帯域幅が増大するとともに測距誤差が減少するものとして規定された帯域幅ゲインは、測定帯域幅とともに小さくなる。測距誤差の減少(即ち、帯域幅ゲイン)は、帯域幅が500MHzから2.5GHzへ増大すると最大になり、帯域幅が更に増大すると減少することが分かっており、帯域幅ゲインと帯域幅との間の関係が非線形であることを示している。帯域幅がマルチパスクラッタからの直接経路を識別できるほど十分に大きければ、帯域幅を更に増大しても、測距分解能の更なるゲインが得られない。
【0039】
上述した詳細な記載は、本発明の特定の実施形態を説明するために与えられたものであって、限定的になるように意図されたものではない。本発明の範囲内の多数の変形及び修正も可能である。本発明は、以下の特許請求の範囲に示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測距誤差の低減方法であって、
到着時間(TOA)推定器を用いて、帯域幅の関数として測距誤差を推定するステップと、
推定された前記測距誤差から、測距誤差の平均値、偏り、及び二乗平均誤差を計算するステップと、
前記偏り及び前記二乗平均誤差を最小限に抑える帯域幅を選択するステップと、
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−515920(P2010−515920A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545623(P2009−545623)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/050399
【国際公開番号】WO2008/088961
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】