制動力制御装置
【課題】ブレーキバイワイヤにおいて、ブレーキ戻し操作時における制動変化の違和感発生を抑えることが可能な制動力制御装置を提供する。
【解決手段】
運転者のブレーキペダル1の踏込みストロークに応じたマスタシリンダ圧Pを出力するマスタシリンダと、マスタシリンダ圧P及びブレーキペダルの踏込みストローク量Sに基づいて目標減速度Gを算出し該目標減速度となるようにホイルシリンダの制動力を制御する。上記目標減速度Gを算出する際の上記マスタシリンダ圧Pの寄与度合をマスタシリンダ圧Pが大きいほど大きくなるように設定する。そして、ブレーキペダル1の戻し中における目標減速度Gの一時的な上昇を制限する手段を備える。
【解決手段】
運転者のブレーキペダル1の踏込みストロークに応じたマスタシリンダ圧Pを出力するマスタシリンダと、マスタシリンダ圧P及びブレーキペダルの踏込みストローク量Sに基づいて目標減速度Gを算出し該目標減速度となるようにホイルシリンダの制動力を制御する。上記目標減速度Gを算出する際の上記マスタシリンダ圧Pの寄与度合をマスタシリンダ圧Pが大きいほど大きくなるように設定する。そして、ブレーキペダル1の戻し中における目標減速度Gの一時的な上昇を制限する手段を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスタシリンダからの作動流体圧とは別に、ブレーキバイワイヤにて各車のホイルシリンダへの作動流体圧を制御可能な制動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の制動力制御装置としては、例えば特許文献1に記載の装置がある。この装置では、マスタシリンダに対し電磁開閉弁を介して各ホイルシリンダが接続されて、マスタシリンダ圧によって制動が可能となっている。
また通常制動時にあっては、ブレーキバイワイヤでの制御(以下、単にBBW制御と呼ぶ)中では、上記電磁開閉弁を閉じてマスタシリンダとホイルシリンダとの連通を遮断した状態として、ポンプを駆動源として各輪のホイルシリンダによる制動力を制御する。
このポンプによるBBW制御の目標減速度Gは、ブレーキペダルの踏込みストローク量とマスタシリンダ圧の両方に基づき算出している。すなわち、マスタシリンダ圧に基づき第1の仮目標減速度Gpを算出すると共に踏込みストローク量に基づき第2の仮目標減速度Gsを算出し、その2つの仮目標減速度Gp、Gsに対し下記式のように寄与度αにより重み付けを行って上記最終的な目標減速度Gを算出する。
【0003】
G =α・Gp +(1−α)Gs
上記寄与度αは、前回の目標減速度(実質的にマスタシリンダ圧と同義)が大きいほどマスタシリンダ圧の寄与度合が大きくなるように設定され、ブレーキペダルが踏み込まれて所定以上のマスタシリンダ圧となった状態では、マスタシリンダ圧重視となって、たとえばマスタシリンダ圧の寄与度合が100%となる。
このような寄与度αの設定は、次の理由による。すなわち、ブレーキペダルの踏み込み開始においてマスタシリンダ圧の発生に遅れがあることから踏込みストローク量が小さい状態では踏込みストローク量の寄与度合を大きく(寄与度αを小さく)設定している。また、ブレーキペダルの踏力とストローク量と関係において、踏込みストローク量が大きいほど、踏力の増加に対するストローク量の増加が小さいことから、踏込みストローク量が大きい場合にはマスタシリンダ圧の寄与度合を大きく(寄与度αを大きく)設定している。これによって、運転者が操作するブレーキペダルの踏力を精度良く制動に反映出来るようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−301434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、目標減速度に対する寄与度合は、ブレーキペダルの踏込み量が小さくマスタシリンダ圧が小さい状態では、踏込みストローク量、つまり第2の仮目標減速度Gsの寄与度合が大きなストローク量重視となっており、また、ブレーキペダルが踏み込まれてマスタシリンダ圧が所定以上の大きな状態では、マスタシリンダ圧、つまり第1の仮目標減速度Gpの寄与度合が大きなマスタシリンダ圧重視となっている。そのストローク量重視とマスタシリンダ圧重視の間には、ストローク量重視からマスタシリンダ圧重視への移行期(寄与度の変化速度が大きい状態)が存在し、ブレーキペダルが踏み込まれてマスタシリンダ圧が上昇するにつれて、第2の仮目標減速度Gsの寄与度合が大きな状態から第1の仮目標減速度Gpの寄与度合が大きな状態への移行が滑らかに行くように上記マスタシリンダ圧と寄与度αとの関係が設定される。
【0006】
このような上記寄与度αの設定は、ブレーキペダルが踏み込まれて制動が増加するときを基準にして設定される。しかし、一般に、マスタシリンダやブレーキペダルが持つヒステリシスによって、ブレーキペダルの踏込み操作時と戻し操作時とでは、マスタシリンダ圧とペダルストロークの関係は異なり、ペダル戻し操作時は、ペダルストロークの減少速度に対してマスタシリンダ圧の低下速度は速くなる傾向にある。
【0007】
このため、ペダル戻し操作時において上記マスタシリンダ圧重視の状態からストローク量重視の状態に移行する移行期においてブレーキペダルが戻されているにもかかわらず、一時的に目標減速度Gが増加するという、ブレーキペダルを戻す際に、ブレーキペダルの操作方向と目標減速度の変化方向とが一致しない場合がある。このような現象は、運転者に対して違和感を与えることとなる。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、ブレーキバイワイヤにおいて、ブレーキ戻し操作時の違和感を低減可能な制動力制御装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、運転者のブレーキペダルの踏込みストロークに応じたマスタシリンダ圧を出力するマスタシリンダと、マスタシリンダ圧及びブレーキペダルの踏込みストローク量に基づいて目標減速度を算出し該目標減速度となるようにホイルシリンダの制動力を制御する制動制御手段と、を備え上記目標減速度を算出する際の上記マスタシリンダ圧の寄与度合をマスタシリンダ圧が大きいほど大きくなるように設定した、制動力制御装置において、ブレーキペダルの戻し中における寄与度合の変化で生じる目標減速度の一時的な上昇を制限する上昇制限手段を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、BBW制御において、ブレーキペダルの戻し操作時に発生する可能性のある、目標減速度の一時的な増加を抑える若しくは低減することができる結果、ブレーキペダル戻し時において運転者に対し違和感を与えることを低減若しくは抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に基づく第1実施形態に係る回路構成を示す概要図である。
【図2】本発明に基づく第1実施形態に係るブレーキコントローラの処理を説明する図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る踏込みストローク量Sと踏力Fsとの関係を示す図である。
【図4】本発明に基づく実施形態に係るマスタシリンダ圧Pと踏力Fpとの関係を示す図である。
【図5】本発明に基づく実施形態に係るマスタシリンダ圧Pと寄与係数αの関係を示す図である。
【図6】本発明に基づく実施形態に係る合成踏力Fpsと目標減速度Gとの関係を示す図である。
【図7】一時的な目標減速度の上昇を説明する模式図である。
【図8】本発明に基づく第1実施形態に係る作用を説明する模式図である。
【図9】本発明に基づく第1実施形態に係るタイムチャート例を示す図である。
【図10】本発明に基づく第1実施形態に係る別の構成での作用を説明する模式図である。
【図11】本発明に基づく第1実施形態に係る別の構成でのタイムチャート例を示す図である。
【図12】本発明に基づく第2実施形態に係るブレーキコントローラの処理を説明する図である。
【図13】踏込みストローク量とマスタシリンダ圧との関係を示す図である。
【図14】本発明に基づく第2実施形態に係る作用を説明する模式図である。
【図15】本発明に基づく第2実施形態に係るタイムチャート例を示す図である。
【図16】本発明に基づく第3実施形態に係るブレーキコントローラの処理を説明する図である。
【図17】本発明に基づく第2実施形態に係る作用を説明する模式図である。
【図18】本発明に基づく第2実施形態に係るタイムチャート例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る制動力制御装置の概略構成図である。
(構成)
図1中、符号1は運転者が制動操作する制動操作子を構成するブレーキペダル1であり、そのブレーキペダル1は液圧ブースタ及びマスタシリンダ2に連結する。上記マスタシリンダ2は、第1連通路5−1若しくは第2連通路5−2を通じてそれぞれのホイルシリンダ3FR〜3RRに接続されている。図1中、符号4はリザーバを示す。
本実施形態では、第1連通路5−1は、第1の電磁遮断弁6−1を通じて右前輪のホイルシリンダ3FR及び左後輪のホイルシリンダ3RRに接続される。第2連通路5−2は、第2の電磁遮断弁6−2を通じて左前輪のホイルシリンダ3FL及び右後輪のホイルシリンダ3RLに接続されている。
【0012】
ここで、上記電磁遮断弁6−1,6−2は、非通電時は開状態となり、マスタシリンダ2の液圧がホイルシリンダ3FR〜3RRに供給可能状態となっている。また、上記電磁遮断弁6−1,6−2は、切換手段を構成する。
本実施形態では、第1連通路5−1に連通する右前輪側及び左後輪側の制動が第1の制動系統を構成し、第2連通路5−2に連通する左前輪側及び右後輪側の制動が第2の制動系統を構成し、それぞれ後述のように個別のポンプ8−1、8−2によってBBW制御が可能となっている。もっとも第1の制動系統と第2の制動系統を同じポンプによって駆動する構成であっても良い。
上記第1の制動系統側及び第2の制動系統側の回路構成を説明する。第1の制動系統の回路構成と第2の制動系統の回路構成は同じ構成なので、主として第1の制動系統でその構成を説明する。
【0013】
符号7−1,7−2及び8−1、8−2は、BBW制御における制動力を発生する制動力アクチュエータ(マスタシリンダ4とは別の駆動源)である、モータ7−1,7−2及び当該モータ7−1,7−2で駆動される油圧ポンプ8−1、8−2である。モータ7−1,7−2は、アクチュエータコントローラ9−1,9−2からの制御信号(制御電流)によって作動が制御され、そのモータ7−1,7−2の回転トルクで油圧ポンプ8−1、8−2を駆動する。図1では、油圧ポンプ8−1、8−2としてギアポンプを例示している。油圧ポンプ8−1、8−2は、入力ポートが第2配管10−1、10−2を介してリザーバ4に接続し、吐出ポートが第3配管11−1、11−2を介して上記第1連通路5−1に接続されることで、リザーバ4内の作動流体を、第2配管10−1、10−2を介して吸引し、その作動流体を、第3配管11−1、11−2を介してホイルシリンダ3FR〜3RRに吐出可能となっている。第3配管11−1、11−2の途中には、電磁比例弁からなる保持弁12−1、12−2が介挿されている。また、ホイルシリンダ3FR〜3RRは、第4配管13−1、13−2を介して上記リザーバ4に連通する第2配管10−1、10−2に接続し、その第4配管13−1、13−2には電磁比例弁からなる減圧弁14−1,14−2が接続されている。符号15−1,15−2はリリーフ弁であり、符号16−1,16−2はチェック弁を示す。
【0014】
ここで、上記各弁は、対応するアクチュエータコントローラ9−1、9−2からの指令によって制御される。
そして、BBW制御の状態では、上記遮断弁6−1,6−2が閉状態となり、かつ、増圧時には、保持弁12−1、12−2が開状態、減圧弁14−1,14−2が閉状態となって、ポンプ8−1、8−2から吐出される作動流体がホイルシリンダ3FR〜3RRに供給されて増圧され、減圧時には、保持弁12−1、12−2が閉状態、減圧弁14−1,14−2が開状態となってホイルシリンダ3FR〜3RR内の作動流体がリザーバ4に戻されて減圧される。なお、スリップ制御、前後制動力配分制御等で液圧を保持する場合には保持弁12−1、12−2を適宜閉じる。
【0015】
また、図1中、符号20はストロークシミュレータを示している。ストロークシミュレータ20は、電磁開閉弁21を介してマスタシリンダ2に接続されている。上記電磁開閉弁21は、非通電時は閉状態であって、ブレーキコントローラ22からの指令によって、上記遮断弁6−1,6−2が閉状態に切り替わるのに同期をとって開状態に制御されることで、ストロークシミュレータ20が作動する。すなわちBBW制御時に、マスタシリンダ圧Pをストロークシミュレータ20が吸収して自然なペダル踏力を実現するものである。
上記アクチュエータコントローラ9−1、9−2は、2つの制動系統毎に設けられ、各アクチュエータコントローラ9−1、9−2は、ブレーキコントローラ22からの指令に応じて、対応する制動系統の各アクチュエータの状態を制御する。
【0016】
ここで、符号24はストロークセンサであって、ブレーキペダル1の操作量を検出してブレーキコントローラ22に出力する。符号23−1、23−2は、各制動系統毎に設けられた、マスタシリンダ圧P(運転者の制動要求量相当)を検出する圧力センサであって、検出した圧力信号をブレーキコントローラ22に出力する。2つの圧力センサ23−1、23−2の検出した圧力信号は、特殊な場合を除き略同一である。符号25FR〜25RRは、各ホイルシリンダ3FR〜3RRのホイルシリンダ圧力Pwcを検出する圧力センサであって、検出した圧力信号をブレーキコントローラ22に出力する。符号26−1,26−2は、ポンプ8−1、8−2の吐出圧を検出する圧力センサであって、検出した圧力信号をブレーキコントローラ22に出力する。
【0017】
また、上記ブレーキコントローラ22は、例えば、CPU、ROM、RAM、デジタルポート、A/Dポート、各種タイマー機能を内蔵するワンチップマイコン(あるいは同機能を実現する複数チップ)によって構成される。このブレーキコントローラ22では、アクチュエータコントローラ9−1、9−2を介して、各弁およびモータ7−1,7−2に制御信号を出力する。
このブレーキコントローラ22は、通常制御時は、第2制動制御状態として各電磁遮断弁6−1,6−2を閉じて上記BBW制御状態にすると共に、ストロークシミュレータ20用の電磁開閉弁21を開状態としてストロークシミュレータ20を作動させて自然なペダル踏力を可能とする。
【0018】
また、ポンプ8−1、8−2による液圧が発生出来ないなどの故障を検出すると、第1制動制御状態として、第1の電磁遮断弁6−1及び第2の電磁遮断弁6−2を開状態とし、且つストロークシミュレータ20用の電磁開閉弁21を閉状態に戻して、マスタシリンダ2の液圧を第1連通路5−1及び第2連通路5−2を介して各ホイルシリンダ3FR〜3RRに導入する。
次に、上記ブレーキコントローラ22における第2制動制御状態の制御(BBW制御)について、図2を参照しつつ説明する。この処理が制動制御手段を構成する。
なお、以下の処理に現れないが、制動制御系統が正常に機能させることができないおそれのあるような異常を検出した場合には、各弁やモータ7−1,7−2への通電を遮断、つまり第1の電磁遮断弁6−1,6−2及び第2の電磁遮断弁6−1,6−2をともに開状態とし、且つストロークシミュレータ20用の開閉弁21を閉状態に戻して、マスタシリンダ2の液圧を第1連通路5−1及び第2連通路5−2を介して各ホイルシリンダ3FR〜3RRに導入して上記第1制動制御状態とする。
【0019】
図2に示すように、所定のサンプリング周期毎に作動し、まずステップS10にて、各種情報を入力してステップS20に移行する。
ステップS20では、図3のようなマップに基づき、踏込みストローク量Sに基づくペダル踏力Fsを算出してステップS30に移行する。踏込みストローク量Sは、大きくなるほどストローク変化に対する踏力の増加量が大きいことに鑑みて図3のようなマップに沿った値に設定している。
ステップS30では、図4のようなマップに基づき、マスタシリンダ圧Pに基づくペダル踏力Fpを算出してステップS40に移行する。マスタシリンダ圧Pは、ほぼ踏力とリニアな関係にあるため、図4のようなマップとなるように設定している。
【0020】
ステップS40では、現在のマスタシリンダ圧Pを使用して、図5のようなマップに基づき、マスタシリンダ圧Pが大きいほど大きな値をとる寄与度αを求めてステップS50に移行する。
すなわち、ブレーキペダル1の踏み込み開始時期で踏込みストローク量Sが小さいことでマスタシリンダ圧Pが小さい領域では、寄与度αを小さくして踏込みストローク量重視とし、踏込みストローク量Sが大きくて所定のマスタシリンダ圧P以上ではマスタシリンダ圧P重視として寄与度αを大きくして、所定以上のマスタシリンダ圧となって高G領域では、上記寄与度αを1(=100%)に設定している。この寄与度αは、0〜1までの値であって、マスタシリンダ圧P側の寄与度合を示し、踏込みストローク側の寄与度合は、(1−α)となる。
【0021】
ステップS50では、踏込みストローク量S及びマスタシリンダ圧Pに基づく踏力Fs及びFpを使用して、下記式に基づき、目標減速度Gを算出するための合成踏力Fpsを算出してステップS60に移行する。
Fps =α×Fp +(1−α)×Fs
ステップS60では、ブレーキペダル1が戻し中か否かを判定し、戻し中と判定すればステップS70に移行し、ブレーキペダル1が保持若しくは踏込み中と判定すればステップS100に移行する。上記判定は、踏込みストローク量Sの変化に基づき判定すればよい。変化は、前回値との比較でも良いし、変動などを考慮して過去の複数回(例えば6回)分の平均値との比較でも良い。
【0022】
ステップS70では、今回の合成踏力Fpsと最下値Fpsminとを比較して最下値Fpsminの方が大きければ、合成踏力Fpsを最下値Fpsminに代入してステップS80に移行する。なお、最下値Fpsminは、たとえば踏込み時に大きな値が初期値として設定される。
ステップS80では、上記合成踏力Fpsが増加中か否かを判定し、増加中と判定した場合にはステップS90に移行し、増加中でないと判定した場合にはステップS100に移行する。
ステップS90では、下記式のように、合成踏力Fpsに、最下値最下値Fpsminを代入することで、合成踏力Fpsの増加に制限を掛けてステップS100に移行する。
Fps =Fpsmin
【0023】
ステップS100では、図6のようなマップに基づき、上記合成踏力Fpsに対応する目標減速度Gを算出してステップS110に移行する。
ステップS110では、目標減速度Gとなる各輪のホイルシリンダ圧Pwcを演算し、そのホイルシリンダ圧Pwcとなる制御指令値をそれぞれのアクチュエータコントローラ9−1、9−2に出力して、復帰する。例えば、算出した目標減速度Gと現在の減速度の差分に基づきモータ7−1,7−2の制御電流を制御する。なお、上記各ホイルシリンダ圧Pwcは、車重、ブレーキロータ有効径、タイヤ動半径、ブレーキパッドμ、路面μ、車両姿勢などを考慮して決定される。
【0024】
ここで上記説明では、いったん、ステップS20,S30で踏込みストローク量及びマスタシリンダ圧Pに基づく各ペダル踏力Fs、Fpを算出し、その各ペダル踏力Fs、Fpに対してマスタシリンダ圧Pから求めた寄与度αにより重み付けをして合成踏力Fpsを算出して、その合成踏力Fpsを目標減速度Gに変換する処理で説明しているが、これに限定されない。ステップS20,S30で、踏込みストローク量S及びマスタシリンダ圧Pに基づく各目標減速度を算出し、その各目標減速度に対し、マスタシリンダ圧Pから求めた寄与度αにより重み付けを行って最終的な目標減速度Gを求めても良い。すなわち、上記算出した踏力Fs、Fp、Fpsは、それぞれ踏込みストローク量及びマスタシリンダ圧Pに基づく目標減速度や最終的な目標減速度と同義である。
ここで、ステップS60〜90が上昇制限手段を構成する。
【0025】
(作用効果)
上記構成の制動制御装置にあっては、ブレーキペダル1の踏込み時にあっては、目標減速度Gを、踏み込み初期には踏込みストローク量S重視で求め、所定以上のマスタシリンダ圧Pではマスタシリンダ圧P重視となるように、寄与度αを変化させることで、運転者のブレーキ踏力を精度良く減速度に反映させることが出来る。なお、ペダルフィーリングは、ストロークシミュレータによって、マスタシリンダとホイルシリンダが連通している状態に近い状態が確保されている。
上記マスタシリンダ圧Pと寄与度αとの関係は、ブレーキペダル1の踏込み時の変化を基準に設定されることで、ブレーキペダル1が踏み込まれた場合には、踏込みストローク量S重視の状態からマスタシリンダ圧P重視に移行する移行期において、なめらかに目標減速度Gが変化する。
【0026】
一方、マスタシリンダ圧Pの寄与度αが大きい状態となるまでブレーキペダル1が踏み込まれて高い制動が発生している状態から、運転者の操作によってペダルが戻された場合に、寄与度αが1の状態から0に移行する移行期(寄与度の変化が早い状態)を考えた場合に、ヒステリシスなどの関係からマスタシリンダ圧Pは踏込み時よりも戻し時の方が変化速度が大きいために、寄与度αが小さくなっていってマスタシリンダ圧P重視からストローク量重視に移行する際に、ペダル踏込み時に比べ、マスタシリンダ圧Pから求めた踏力Fpの方が、踏込みストローク量Sから求めた踏力Fsよりも早く小さくなる。このため、図7に示すように、ブレーキペダル1が戻されているにも拘わらず、合成踏力Fpsすなわち目標減速度Gが一時的に増加して運転者に違和感を与えることがある。
これに対し、本実施形態では、戻し時に合成踏力が増加すると判定した場合には、戻し時の最下値Fpsminに合成踏力Fpsを制限することで、図8に示すように、合成踏力Fpsの増加が制限、つまり目標減速度Gの増加が抑えられる。
【0027】
図9にそのときのタイムチャート例を示す。このタイムチャート例のように、ブレーキ戻し中は、順次更新される最下値Fpsmin以下に合成踏力つまり目標減速度Gの値が制限されることで、当該目標減速度Gの一時的な増加が抑えられる。
このように、ペダル戻し中において、踏込みストローク量Sとマスタシリンダ圧Pに基づきそれぞれ算出する踏力Fs、Fp(目標減速度Gと同義)にズレがあっても、移行期に、合成踏力Fpsつまり目標減速度Gの一時的な上昇の発生を制限することが出来る。
この結果、ペダル戻し時の違和感を無くすことが出来る。
特に、本実施形態では、合成踏力Fpsが上昇しようとすると、ペダル戻し中の最下値Fpsminに制限することで、確実に目標減速度Gの上昇を抑えることが出来る。すなわち、踏込みストローク量Sとマスタシリンダ圧Pに基づきそれぞれ算出する各踏力(目標減速度Gと同義)のズレは、ブレーキペダル1の戻し速度が速いほど大きくなる傾向にあるが、そのような傾向などに関係無く、最下値Fpsminに上昇を制限することで、確実に目標減速度Gの上昇を抑えることが出来る。
【0028】
ここで、上記実施形態では、ブレーキペダル1の戻し中であれば常に目標減速度Gの上昇を制限するようにしているが、寄与度αが1よりも小さくなっているときのみ行うようにしても良い。上記一時的な目標減速度Gの上昇は、寄与度αが1よりも小さくなる移行期に発生するためである。
ここで、ペダル戻し中(踏込みストローク量Sの減少中)に上記目標減速度Gが上昇する若しくは上昇すると推定すると、その目標減速度Gの上昇を制限する上昇制限手段として最下値Fpsminに制限する場合を例示しているが、これに限定されない。例えば、上記実施形態において、ペダル戻し中にも拘わらず目標減速度Gが上昇すると判定したときに、そのときの寄与度αの値を小さくして目標減速度Gの一時的な上昇を制限するようにしても良い。
【0029】
または、ペダル戻し中にも拘わらず目標減速度Gが上昇すると判定したときに、ブレーキペダル1が再度踏み込まれるまでやストロークがゼロとなるまで、前回の寄与度α(目標減速度Gが増加前の寄与度)で寄与度αの値を固定して、ストローク重視への移行を中止して目標減速度Gの一時的な上昇を制限するようにしても良い。また、このとき前回値ではなく、例えば寄与度αを0.5などに固定することで、ストローク重視への移行を中止して目標減速度Gの一時的な上昇を制限するようにしても良い。移行期の途中で寄与度αを固定することで、ブレーキペダル1の戻し中における寄与度変化に伴う目標減速度Gの上昇を抑えられる。
【0030】
図10はそのときの模式図を、図11はそのタイムチャート例を示すものである。目標減速度Gの上昇が始まる前や始まり初期に寄与度αを固定にすることで、目標減速度Gの上昇が無いか小さく制限することができることが分かる。
また、上記実施形態では、制動系統が2つの場合を例示しているが、1つでも良いし3つ以上にホイルシリンダを区分して3系統以上に制動系統を分類しても良い。
また、上記実施形態では、流体圧を利用したブレーキバイワイヤを行っているが、これに限定されるものではない。ブレーキバイワイヤに関しては制動力制御を行うことができればよいので、電動アクチュエータを駆動制御することで、ディスクロータをブレーキパッドで挟圧したり、ブレーキドラムの内周面にブレーキシューを押圧したりする電動ブレーキや、回生モータブレーキ等、電子制御可能なエネルギー源を備えていれば、如何なるブレーキでもよい。
【0031】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記実施形態と同様な装置などについては同一の符号を付して説明する。
本実施形態の基本構成は、上記第1実施形態と同様であるが、上記ブレーキコントローラ22における第2制動制御状態の制御(BBW制御)が異なる。
その処理について、図12を参照しつつ説明する。この処理が制動制御手段を構成する。
所定のサンプリング周期毎に作動し、まずステップS200にて、各種情報を入力してステップS210に移行する。
【0032】
ステップS210では、ブレーキペダルが戻し中か否かを判定し、戻し中と判定すればステップS220に移行し、ブレーキペダルが保持若しくは踏込み中と判定すればステップS230に移行する。上記判定は、踏込みストローク量Sの変化に基づき判定すればよい。
ステップS220では、入力したマスタシリンダ圧Pにフィルタを掛けて、減少速度を制限する。フィルタとしては、例えば一次遅れ関数を使用すれば良い。
ここで、上記フィルタ強度を、踏込みストローク量Sの変化速度の大きさによって変化させることが好ましい。具体的には、踏込みストローク量Sの変化速度が大きいほどフィルタ強度を上げて上記減少速度を制限する。
【0033】
同様に、上記フィルタ強度を、踏込みストローク量Sの基準からの偏差の大きさによって変化させることが好ましい。具体的には、踏込みストローク量Sの基準からの偏差が大きいほどフィルタ強度を上げて減少速度を制限する。
ここで、上記基準とは、図13のような、通常走行状態で一番使用されると想定される平均的な踏込み速度でブレーキペダルが踏み込まれたときの踏込みストローク量Sとマスタシリンダ圧Pとの関係を使用し、現在のマスタシリンダ圧Pに対応する踏込みストローク量が基準のストローク量S0となる。上記関係に基づいて図5のような寄与度αの関係が求められる。また、基準からの偏差は、上記基準のストローク量得S0よりも大きいときを正とする。
【0034】
ステップS230では、図3のようなマップに基づき、踏込みストローク量Sに基づくペダル踏力Fsを算出してステップS240に移行する。踏込みストローク量Sは、大きくなるほどストローク変化に対する踏力の増加量が大きいことに鑑みて図3のようなマップに沿った値に設定している。
ステップS240では、図4のようなマップに基づき、マスタシリンダ圧Pに基づくペダル踏力Fpを算出してステップS250に移行する。マスタシリンダ圧Pは、ほぼ踏力とリニアな関係にあるため、図4のようなマップとなるように設定している。
ステップS250では、現在のマスタシリンダ圧Pを使用して、図5のようなマップに基づき、マスタシリンダ圧Pが大きいほど大きな値をとる寄与度αを求めてステップS260に移行する。
【0035】
すなわち、ブレーキペダル1の踏み込み開始時期で踏込みストローク量Sが小さくてマスタシリンダ圧Pが小さい領域では、寄与度αを小さくして踏込みストローク量S重視とし、踏込みストローク量Sが大きくて所定のマスタシリンダ圧P以上ではマスタシリンダ圧P重視として寄与度αを大きくして、所定以上のマスタシリンダ圧となって高G領域では、上記寄与度αを1(=100%)に設定している。この寄与度αは、0〜1までの値であって、マスタシリンダ圧P側の寄与度αを示し、踏込みストローク側の寄与度αは、(1−α)となる。
ステップS260では、踏込みストローク量S及びマスタシリンダ圧Pに基づく踏力Fs及びFpを使用して、下記式に基づき、目標減速度Gを算出するための合成踏力Fpsを算出してステップS270に移行する。
Fps =α×Fp +(1−α)×Fs
【0036】
ステップS270では、図6のようなマップに基づき、上記合成踏力Fpsに対応する目標減速度Gを算出してステップS280に移行する。
ステップS280では、目標減速度Gとなる各輪のホイルシリンダ圧Pwcを演算し、そのホイルシリンダ圧Pwcとなる制御指令値をそれぞれのアクチュエータコントローラ9−1、9−2に出力して、復帰する。例えば、算出した目標減速度Gと現在の減速度の差分に基づきモータ7−1,7−2の制御電流を制御する。なお、上記各ホイルシリンダ圧Pwcは、車重、ブレーキロータ有効径、タイヤ動半径、ブレーキパッドμ、路面μ、車両姿勢などを考慮して決定される。
ここで、ステップS210及びS220が上昇制限手段を構成する。
【0037】
(作用効果)
上述のように、ヒステリシスなどの関係から、マスタシリンダ圧Pは踏込み時よりも戻し時の方が変化速度が大きいために、ペダルが戻されて寄与度αが徐々に小さくなってマスタシリンダ圧P重視からストローク量重視に移行する際に、マスタシリンダ圧Pから求めた踏力の方が、踏込みストローク量Sから求めた踏力よりも早く小さくなることで、マスタシリンダ圧Pから求めた踏力と踏込みストローク量Sとから求めた踏力とにズレが発生して、合成踏力すなわち目標減速度Gが一時的に増加して運転者に違和感を与えることがある(図7参照)。
【0038】
これに対し、本実施形態では、ペダル戻し時に、図14に示すように、マスタシリンダ圧Pの減少速度に制限を掛けてペダル踏込み時のマスタシリンダ圧Pの変化速度に近づけることで、マスタシリンダ圧P重視から踏込みストローク量S重視に移行する際における、マスタシリンダ圧Pから求めた踏力と踏込みストローク量Sとから求めた踏力のズレを低減することで、上記戻し時における合成踏力すなわち目標減速度Gの一時的な上昇を小さく抑えることが可能となる。
ここで、ブレーキペダル1の戻し速度が速いほど上記ズレが大きくなるが、本実施形態では、ブレーキペダル1の戻し速度が速いほど上記戻し時におけるマスタシリンダ圧Pの戻り速度の制限を大きくすることで、ズレの増加を防止することが出来る。この結果、どのような踏み戻し速度であって、運転者のブレーキ操作に応じた適切な目標減速度Gを演算可能となる。
【0039】
また、上記マスタシリンダ圧Pと寄与度αとの関係を設定する際に使用したマスタシリンダ圧Pと踏込みストローク量Sとの関係に対し、現在の踏込みストローク量Sが大きいほど、つまり、現在のマスタシリンダ圧Pに対応する基準とする踏込みストローク量Sよりも現在の吹込ストローク量の方が大きいほど、上記移行期において、踏込みストローク量Sによって求められる踏力Fs(目標減速度Gと同義)とマスタシリンダ圧Pによって求められる踏力Fp目標減速度Gと同義)とのズレは大きくなる。これに対し、本実施形態では、本実施形態では、踏込みストローク量Sの基準との偏差量が大きいほど上記戻し時におけるマスタシリンダ圧Pの戻り速度の制限を大きくすることで、ズレの増加を防止することが出来る。この結果、どのような踏み戻し速度であって、運転者のブレーキ操作に応じた適切な目標減速度Gを演算可能となる。
【0040】
図15にタイムチャート例を示す。このタイムチャート例のように、ペダル戻し時のマスタシリンダ圧Pの減少速度に制限をかけて当該減少速度を遅くして踏込み時の変化速度に近づけることで、マスタシリンダ圧に基づく踏力Fp及び踏込みストローク量Sに基づく踏力Fsの変化速度が踏込み時に近づき、目標減速度Gの一時的な上昇を抑えることが出来る。
その他の構成や作用効果について上記実施形態と同様である。
【0041】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記実施形態と同様な装置などについては同一の符号を付して説明する。
本実施形態の基本構成は、上記第1及び第2実施形態と同様であるが、上記ブレーキコントローラ22における第2制動制御状態の制御(BBW制御)が異なる。
その処理について、図16を参照しつつ説明する。この処理が制動制御手段を構成する。
所定のサンプリング周期毎に作動し、まずステップS400にて、各種情報を入力してステップS410に移行する。
ステップS410では、図3のようなマップに基づき、踏込みストローク量Sに基づくペダル踏力Fsを算出してステップS420に移行する。踏込みストローク量Sは、大きくなるほどストローク変化に対する踏力の増加量が大きいことに鑑みて図3のようなマップに沿った値に設定している。
【0042】
ステップS420では、図4のようなマップに基づき、マスタシリンダ圧Pに基づくペダル踏力Fpを算出してステップS430に移行する。マスタシリンダ圧Pは、ほぼ踏力とリニアな関係にあるため、図4のようなマップとなるように設定している。
ステップS430では、ブレーキペダル1が戻し中か否かを判定し、戻し中と判定すればステップS440に移行し、ブレーキペダル1が保持若しくは踏込み中と判定すればステップS450に移行する。上記判定は、踏込みストローク量Sの変化に基づき判定すればよい。
ステップS440では、現在のマスタシリンダ圧Pを使用して、図5のようなマップに基づき、マスタシリンダ圧Pが大きいほど大きな値をとる寄与度αを求めてステップS460に移行する。
【0043】
すなわち、ブレーキペダル1の踏み込み開始時期で踏込みストローク量Sが小さくてマスタシリンダ圧Pが小さい領域では、寄与度αを小さくして踏込みストローク量S重視とし、踏込みストローク量Sが大きくて所定のマスタシリンダ圧P以上ではマスタシリンダ圧P重視として寄与度αを大きくして、所定以上のマスタシリンダ圧P0となって高G領域では、上記寄与度αを1(=100%)に設定している。この寄与度αは、0〜1までの値であって、マスタシリンダ圧P側の寄与度αを示し、踏込みストローク側の寄与度αは、(1−α)となる。このマスタシリンダ圧Pと寄与度αの設定は、踏込み時における所定の踏込み速度(通常一番使用されると想定される踏込み速度)における、踏込みストローク量Sとマスタシリンダ圧Pとの関係を求めておき、その関係に基づき、ストローク量重視の寄与度αからマスタシリンダ圧P重視の寄与度αへの移行が出来るだけ滑らかに行くような観点から設定されている(上述の第1及び第2実施形態にあっても同様)。
【0044】
ステップS450では、上記図5から求まる寄与度αに対してフィルタを掛けて、寄与度αの減少速度を制限してステップS460に移行する。フィルタとしては、例えば一次遅れ関数を使用すれば良い。
ここで、上記フィルタ強度を、踏込みストローク量Sの変化速度の大きさによって変化させることが好ましい。具体的には、踏込みストローク量Sの変化速度が大きいほどフィルタ強度を上げて上記減少速度を制限する。
同様に、上記フィルタ強度を、踏込みストローク量Sの基準からの偏差の大きさによって変化させることが好ましい。具体的には、踏込みストローク量Sの基準からの偏差が大きいほどフィルタ強度を上げて減少速度を制限する。
【0045】
ここで、上記基準とは、図13のような、通常走行状態で一番使用されると想定される踏込み速度でブレーキペダル1が踏み込まれたときの踏込みストローク量Sとマスタシリンダ圧Pとの関係を使用し、現在のマスタシリンダ圧Pに対応する踏込みストローク量Sが基準のストローク量となる。上記関係に基づいて図5のような寄与度αの関係が求められる。また、基準からの偏差は、上記基準のストローク量よりも大きいときを正とする。
また、上記実施形態では、上記寄与度α自身にフィルタを掛けて減少速度を遅らせるようにしているが、上記図5とは別の当該図5の関係よりも減少速度を遅らせたマップを別途用意して、その別のマップを使用して最終的な寄与度αを決定しても良い。
ステップS460では、踏込みストローク量S及びマスタシリンダ圧Pに基づく各踏力Fs及びFpを使用して、下記式に基づき、目標減速度Gを算出するための合成踏力Fpsを算出してステップS470に移行する。
【0046】
Fps =α×Fp +(1−α)×Fs
ステップS470では、図6のようなマップに基づき、上記合成踏力Fpsに対応する目標減速度Gを算出してステップS480に移行する。
ステップS480では、目標減速度Gとなる各輪のホイルシリンダ圧Pwcを演算し、そのホイルシリンダ圧Pwcとなる制御指令値をそれぞれのアクチュエータコントローラ9−1、9−2に出力して、復帰する。例えば、算出した目標減速度Gと現在の減速度の差分に基づきモータ7−1,7−2の制御電流を制御する。なお、上記各ホイルシリンダ圧Pwcは、車重、ブレーキロータ有効径、タイヤ動半径、ブレーキパッドμ、路面μ、車両姿勢などを考慮して決定される。
ここで、ステップS430及びステップS450が上昇制限手段を構成する。
【0047】
(作用効果)
上述のように、ヒステリシスなどの関係から、マスタシリンダ圧Pは踏込み時よりも戻し時の方が変化速度が大きいために、ペダルが戻されて寄与度αが徐々に小さくなってマスタシリンダ圧P重視からストローク量重視に移行する際に、マスタシリンダ圧Pから求めた踏力の方が、踏込みストローク量Sから求めた踏力よりも早く小さくなることで、寄与度αの移行期に、マスタシリンダ圧Pから求めた踏力Fpと踏込みストローク量Sとから求めた踏力Fsとにズレが発生して、合成踏力Fpsすなわち目標減速度Gが一時的に増加して運転者に違和感を与えることがある(図7参照)。
【0048】
これに対し、本実施形態では、ペダル戻し時に、図17に示すように、寄与度αの減少速度に制限を掛けてマスタリンダ圧に基づく踏力の変化速度を制限して踏込み時の変化速度に近づけることで、マスタシリンダ圧P重視から踏込みストローク量S重視に移行する際における、マスタシリンダ圧Pから求めた踏力Fpと踏込みストローク量Sとから求めた踏力Fsのズレを低減することで、上記戻し時における合成踏力Fpsすなわち目標減速度Gの一時的な上昇を小さく抑えることが可能となる。
ここで、ブレーキペダル1の戻し速度が速いほど上記ズレが大きくなるが、本実施形態では、ブレーキペダル1の戻し速度が速いほど上記戻し時における寄与度αの減少速度の制限を大きくすることで、ズレの増加を防止することが出来る。この結果、どのような踏み戻し速度であって、運転者のブレーキ操作に応じた適切な目標減速度Gを演算可能となる。
【0049】
また、上記マスタシリンダ圧Pと寄与度αとの関係を設定する際に使用したマスタシリンダ圧Pと踏込みストローク量Sとの関係に対し、現在の踏込みストローク量Sが大きいほど、つまり、現在のマスタシリンダ圧Pに対応する基準とする踏込みストローク量Sよりも現在の踏込みストローク量得得Sの方が大きいほど、上記移行期において、踏込みストローク量Sによって求められる踏力Fs(目標減速度Gと同義)とマスタシリンダ圧Pによって求められる踏力Fp(目標減速度Gと同義)とのズレは大きくなる。これに対し、本実施形態では、本実施形態では、踏込みストローク量Sの基準との偏差量が大きいほど上記ペダル戻し時における寄与度αの減少速度の制限を大きくすることで、ズレの増加を防止することが出来る。この結果、どのような踏み戻し速度であって、運転者のブレーキ操作に応じた適切な目標減速度Gを演算可能となる。
【0050】
図18にタイムチャート例を示す。このタイムチャート例のように、ペダル戻し時の寄与度αの減少速度に制限をかけて当該減少速度を遅くすることで、マスタシリンダ圧に基づく踏力Fp及び踏込みストローク量Sに基づく踏力Fsの変化速度が踏込み時に近づき、目標減速度Gの一時的な上昇を抑えることが出来る。
その他の構成や作用効果について上記実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0051】
1 ブレーキペダル
2 マスタシリンダ
3FR〜3RR ホイルシリンダ
5−1 第1連通路
5−2 第2連通路
6−1,6−2 電磁遮断弁
7−1,7−2 モータ(別の駆動源)
8−1、8−2 ポンプ(別の駆動源)
9−1,9−2 アクチュエータコントローラ
22 ブレーキコントローラ
S 踏込みストローク量
P マスタシリンダ圧
α 寄与度
G 目標減速度
Fs 踏込みストローク量に基づく踏力
Fp マスタシリンダ圧に基づく踏力
Fps 合成踏力
Fpsmin 最低値
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスタシリンダからの作動流体圧とは別に、ブレーキバイワイヤにて各車のホイルシリンダへの作動流体圧を制御可能な制動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の制動力制御装置としては、例えば特許文献1に記載の装置がある。この装置では、マスタシリンダに対し電磁開閉弁を介して各ホイルシリンダが接続されて、マスタシリンダ圧によって制動が可能となっている。
また通常制動時にあっては、ブレーキバイワイヤでの制御(以下、単にBBW制御と呼ぶ)中では、上記電磁開閉弁を閉じてマスタシリンダとホイルシリンダとの連通を遮断した状態として、ポンプを駆動源として各輪のホイルシリンダによる制動力を制御する。
このポンプによるBBW制御の目標減速度Gは、ブレーキペダルの踏込みストローク量とマスタシリンダ圧の両方に基づき算出している。すなわち、マスタシリンダ圧に基づき第1の仮目標減速度Gpを算出すると共に踏込みストローク量に基づき第2の仮目標減速度Gsを算出し、その2つの仮目標減速度Gp、Gsに対し下記式のように寄与度αにより重み付けを行って上記最終的な目標減速度Gを算出する。
【0003】
G =α・Gp +(1−α)Gs
上記寄与度αは、前回の目標減速度(実質的にマスタシリンダ圧と同義)が大きいほどマスタシリンダ圧の寄与度合が大きくなるように設定され、ブレーキペダルが踏み込まれて所定以上のマスタシリンダ圧となった状態では、マスタシリンダ圧重視となって、たとえばマスタシリンダ圧の寄与度合が100%となる。
このような寄与度αの設定は、次の理由による。すなわち、ブレーキペダルの踏み込み開始においてマスタシリンダ圧の発生に遅れがあることから踏込みストローク量が小さい状態では踏込みストローク量の寄与度合を大きく(寄与度αを小さく)設定している。また、ブレーキペダルの踏力とストローク量と関係において、踏込みストローク量が大きいほど、踏力の増加に対するストローク量の増加が小さいことから、踏込みストローク量が大きい場合にはマスタシリンダ圧の寄与度合を大きく(寄与度αを大きく)設定している。これによって、運転者が操作するブレーキペダルの踏力を精度良く制動に反映出来るようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−301434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、目標減速度に対する寄与度合は、ブレーキペダルの踏込み量が小さくマスタシリンダ圧が小さい状態では、踏込みストローク量、つまり第2の仮目標減速度Gsの寄与度合が大きなストローク量重視となっており、また、ブレーキペダルが踏み込まれてマスタシリンダ圧が所定以上の大きな状態では、マスタシリンダ圧、つまり第1の仮目標減速度Gpの寄与度合が大きなマスタシリンダ圧重視となっている。そのストローク量重視とマスタシリンダ圧重視の間には、ストローク量重視からマスタシリンダ圧重視への移行期(寄与度の変化速度が大きい状態)が存在し、ブレーキペダルが踏み込まれてマスタシリンダ圧が上昇するにつれて、第2の仮目標減速度Gsの寄与度合が大きな状態から第1の仮目標減速度Gpの寄与度合が大きな状態への移行が滑らかに行くように上記マスタシリンダ圧と寄与度αとの関係が設定される。
【0006】
このような上記寄与度αの設定は、ブレーキペダルが踏み込まれて制動が増加するときを基準にして設定される。しかし、一般に、マスタシリンダやブレーキペダルが持つヒステリシスによって、ブレーキペダルの踏込み操作時と戻し操作時とでは、マスタシリンダ圧とペダルストロークの関係は異なり、ペダル戻し操作時は、ペダルストロークの減少速度に対してマスタシリンダ圧の低下速度は速くなる傾向にある。
【0007】
このため、ペダル戻し操作時において上記マスタシリンダ圧重視の状態からストローク量重視の状態に移行する移行期においてブレーキペダルが戻されているにもかかわらず、一時的に目標減速度Gが増加するという、ブレーキペダルを戻す際に、ブレーキペダルの操作方向と目標減速度の変化方向とが一致しない場合がある。このような現象は、運転者に対して違和感を与えることとなる。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、ブレーキバイワイヤにおいて、ブレーキ戻し操作時の違和感を低減可能な制動力制御装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、運転者のブレーキペダルの踏込みストロークに応じたマスタシリンダ圧を出力するマスタシリンダと、マスタシリンダ圧及びブレーキペダルの踏込みストローク量に基づいて目標減速度を算出し該目標減速度となるようにホイルシリンダの制動力を制御する制動制御手段と、を備え上記目標減速度を算出する際の上記マスタシリンダ圧の寄与度合をマスタシリンダ圧が大きいほど大きくなるように設定した、制動力制御装置において、ブレーキペダルの戻し中における寄与度合の変化で生じる目標減速度の一時的な上昇を制限する上昇制限手段を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、BBW制御において、ブレーキペダルの戻し操作時に発生する可能性のある、目標減速度の一時的な増加を抑える若しくは低減することができる結果、ブレーキペダル戻し時において運転者に対し違和感を与えることを低減若しくは抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に基づく第1実施形態に係る回路構成を示す概要図である。
【図2】本発明に基づく第1実施形態に係るブレーキコントローラの処理を説明する図である。
【図3】本発明に基づく実施形態に係る踏込みストローク量Sと踏力Fsとの関係を示す図である。
【図4】本発明に基づく実施形態に係るマスタシリンダ圧Pと踏力Fpとの関係を示す図である。
【図5】本発明に基づく実施形態に係るマスタシリンダ圧Pと寄与係数αの関係を示す図である。
【図6】本発明に基づく実施形態に係る合成踏力Fpsと目標減速度Gとの関係を示す図である。
【図7】一時的な目標減速度の上昇を説明する模式図である。
【図8】本発明に基づく第1実施形態に係る作用を説明する模式図である。
【図9】本発明に基づく第1実施形態に係るタイムチャート例を示す図である。
【図10】本発明に基づく第1実施形態に係る別の構成での作用を説明する模式図である。
【図11】本発明に基づく第1実施形態に係る別の構成でのタイムチャート例を示す図である。
【図12】本発明に基づく第2実施形態に係るブレーキコントローラの処理を説明する図である。
【図13】踏込みストローク量とマスタシリンダ圧との関係を示す図である。
【図14】本発明に基づく第2実施形態に係る作用を説明する模式図である。
【図15】本発明に基づく第2実施形態に係るタイムチャート例を示す図である。
【図16】本発明に基づく第3実施形態に係るブレーキコントローラの処理を説明する図である。
【図17】本発明に基づく第2実施形態に係る作用を説明する模式図である。
【図18】本発明に基づく第2実施形態に係るタイムチャート例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る制動力制御装置の概略構成図である。
(構成)
図1中、符号1は運転者が制動操作する制動操作子を構成するブレーキペダル1であり、そのブレーキペダル1は液圧ブースタ及びマスタシリンダ2に連結する。上記マスタシリンダ2は、第1連通路5−1若しくは第2連通路5−2を通じてそれぞれのホイルシリンダ3FR〜3RRに接続されている。図1中、符号4はリザーバを示す。
本実施形態では、第1連通路5−1は、第1の電磁遮断弁6−1を通じて右前輪のホイルシリンダ3FR及び左後輪のホイルシリンダ3RRに接続される。第2連通路5−2は、第2の電磁遮断弁6−2を通じて左前輪のホイルシリンダ3FL及び右後輪のホイルシリンダ3RLに接続されている。
【0012】
ここで、上記電磁遮断弁6−1,6−2は、非通電時は開状態となり、マスタシリンダ2の液圧がホイルシリンダ3FR〜3RRに供給可能状態となっている。また、上記電磁遮断弁6−1,6−2は、切換手段を構成する。
本実施形態では、第1連通路5−1に連通する右前輪側及び左後輪側の制動が第1の制動系統を構成し、第2連通路5−2に連通する左前輪側及び右後輪側の制動が第2の制動系統を構成し、それぞれ後述のように個別のポンプ8−1、8−2によってBBW制御が可能となっている。もっとも第1の制動系統と第2の制動系統を同じポンプによって駆動する構成であっても良い。
上記第1の制動系統側及び第2の制動系統側の回路構成を説明する。第1の制動系統の回路構成と第2の制動系統の回路構成は同じ構成なので、主として第1の制動系統でその構成を説明する。
【0013】
符号7−1,7−2及び8−1、8−2は、BBW制御における制動力を発生する制動力アクチュエータ(マスタシリンダ4とは別の駆動源)である、モータ7−1,7−2及び当該モータ7−1,7−2で駆動される油圧ポンプ8−1、8−2である。モータ7−1,7−2は、アクチュエータコントローラ9−1,9−2からの制御信号(制御電流)によって作動が制御され、そのモータ7−1,7−2の回転トルクで油圧ポンプ8−1、8−2を駆動する。図1では、油圧ポンプ8−1、8−2としてギアポンプを例示している。油圧ポンプ8−1、8−2は、入力ポートが第2配管10−1、10−2を介してリザーバ4に接続し、吐出ポートが第3配管11−1、11−2を介して上記第1連通路5−1に接続されることで、リザーバ4内の作動流体を、第2配管10−1、10−2を介して吸引し、その作動流体を、第3配管11−1、11−2を介してホイルシリンダ3FR〜3RRに吐出可能となっている。第3配管11−1、11−2の途中には、電磁比例弁からなる保持弁12−1、12−2が介挿されている。また、ホイルシリンダ3FR〜3RRは、第4配管13−1、13−2を介して上記リザーバ4に連通する第2配管10−1、10−2に接続し、その第4配管13−1、13−2には電磁比例弁からなる減圧弁14−1,14−2が接続されている。符号15−1,15−2はリリーフ弁であり、符号16−1,16−2はチェック弁を示す。
【0014】
ここで、上記各弁は、対応するアクチュエータコントローラ9−1、9−2からの指令によって制御される。
そして、BBW制御の状態では、上記遮断弁6−1,6−2が閉状態となり、かつ、増圧時には、保持弁12−1、12−2が開状態、減圧弁14−1,14−2が閉状態となって、ポンプ8−1、8−2から吐出される作動流体がホイルシリンダ3FR〜3RRに供給されて増圧され、減圧時には、保持弁12−1、12−2が閉状態、減圧弁14−1,14−2が開状態となってホイルシリンダ3FR〜3RR内の作動流体がリザーバ4に戻されて減圧される。なお、スリップ制御、前後制動力配分制御等で液圧を保持する場合には保持弁12−1、12−2を適宜閉じる。
【0015】
また、図1中、符号20はストロークシミュレータを示している。ストロークシミュレータ20は、電磁開閉弁21を介してマスタシリンダ2に接続されている。上記電磁開閉弁21は、非通電時は閉状態であって、ブレーキコントローラ22からの指令によって、上記遮断弁6−1,6−2が閉状態に切り替わるのに同期をとって開状態に制御されることで、ストロークシミュレータ20が作動する。すなわちBBW制御時に、マスタシリンダ圧Pをストロークシミュレータ20が吸収して自然なペダル踏力を実現するものである。
上記アクチュエータコントローラ9−1、9−2は、2つの制動系統毎に設けられ、各アクチュエータコントローラ9−1、9−2は、ブレーキコントローラ22からの指令に応じて、対応する制動系統の各アクチュエータの状態を制御する。
【0016】
ここで、符号24はストロークセンサであって、ブレーキペダル1の操作量を検出してブレーキコントローラ22に出力する。符号23−1、23−2は、各制動系統毎に設けられた、マスタシリンダ圧P(運転者の制動要求量相当)を検出する圧力センサであって、検出した圧力信号をブレーキコントローラ22に出力する。2つの圧力センサ23−1、23−2の検出した圧力信号は、特殊な場合を除き略同一である。符号25FR〜25RRは、各ホイルシリンダ3FR〜3RRのホイルシリンダ圧力Pwcを検出する圧力センサであって、検出した圧力信号をブレーキコントローラ22に出力する。符号26−1,26−2は、ポンプ8−1、8−2の吐出圧を検出する圧力センサであって、検出した圧力信号をブレーキコントローラ22に出力する。
【0017】
また、上記ブレーキコントローラ22は、例えば、CPU、ROM、RAM、デジタルポート、A/Dポート、各種タイマー機能を内蔵するワンチップマイコン(あるいは同機能を実現する複数チップ)によって構成される。このブレーキコントローラ22では、アクチュエータコントローラ9−1、9−2を介して、各弁およびモータ7−1,7−2に制御信号を出力する。
このブレーキコントローラ22は、通常制御時は、第2制動制御状態として各電磁遮断弁6−1,6−2を閉じて上記BBW制御状態にすると共に、ストロークシミュレータ20用の電磁開閉弁21を開状態としてストロークシミュレータ20を作動させて自然なペダル踏力を可能とする。
【0018】
また、ポンプ8−1、8−2による液圧が発生出来ないなどの故障を検出すると、第1制動制御状態として、第1の電磁遮断弁6−1及び第2の電磁遮断弁6−2を開状態とし、且つストロークシミュレータ20用の電磁開閉弁21を閉状態に戻して、マスタシリンダ2の液圧を第1連通路5−1及び第2連通路5−2を介して各ホイルシリンダ3FR〜3RRに導入する。
次に、上記ブレーキコントローラ22における第2制動制御状態の制御(BBW制御)について、図2を参照しつつ説明する。この処理が制動制御手段を構成する。
なお、以下の処理に現れないが、制動制御系統が正常に機能させることができないおそれのあるような異常を検出した場合には、各弁やモータ7−1,7−2への通電を遮断、つまり第1の電磁遮断弁6−1,6−2及び第2の電磁遮断弁6−1,6−2をともに開状態とし、且つストロークシミュレータ20用の開閉弁21を閉状態に戻して、マスタシリンダ2の液圧を第1連通路5−1及び第2連通路5−2を介して各ホイルシリンダ3FR〜3RRに導入して上記第1制動制御状態とする。
【0019】
図2に示すように、所定のサンプリング周期毎に作動し、まずステップS10にて、各種情報を入力してステップS20に移行する。
ステップS20では、図3のようなマップに基づき、踏込みストローク量Sに基づくペダル踏力Fsを算出してステップS30に移行する。踏込みストローク量Sは、大きくなるほどストローク変化に対する踏力の増加量が大きいことに鑑みて図3のようなマップに沿った値に設定している。
ステップS30では、図4のようなマップに基づき、マスタシリンダ圧Pに基づくペダル踏力Fpを算出してステップS40に移行する。マスタシリンダ圧Pは、ほぼ踏力とリニアな関係にあるため、図4のようなマップとなるように設定している。
【0020】
ステップS40では、現在のマスタシリンダ圧Pを使用して、図5のようなマップに基づき、マスタシリンダ圧Pが大きいほど大きな値をとる寄与度αを求めてステップS50に移行する。
すなわち、ブレーキペダル1の踏み込み開始時期で踏込みストローク量Sが小さいことでマスタシリンダ圧Pが小さい領域では、寄与度αを小さくして踏込みストローク量重視とし、踏込みストローク量Sが大きくて所定のマスタシリンダ圧P以上ではマスタシリンダ圧P重視として寄与度αを大きくして、所定以上のマスタシリンダ圧となって高G領域では、上記寄与度αを1(=100%)に設定している。この寄与度αは、0〜1までの値であって、マスタシリンダ圧P側の寄与度合を示し、踏込みストローク側の寄与度合は、(1−α)となる。
【0021】
ステップS50では、踏込みストローク量S及びマスタシリンダ圧Pに基づく踏力Fs及びFpを使用して、下記式に基づき、目標減速度Gを算出するための合成踏力Fpsを算出してステップS60に移行する。
Fps =α×Fp +(1−α)×Fs
ステップS60では、ブレーキペダル1が戻し中か否かを判定し、戻し中と判定すればステップS70に移行し、ブレーキペダル1が保持若しくは踏込み中と判定すればステップS100に移行する。上記判定は、踏込みストローク量Sの変化に基づき判定すればよい。変化は、前回値との比較でも良いし、変動などを考慮して過去の複数回(例えば6回)分の平均値との比較でも良い。
【0022】
ステップS70では、今回の合成踏力Fpsと最下値Fpsminとを比較して最下値Fpsminの方が大きければ、合成踏力Fpsを最下値Fpsminに代入してステップS80に移行する。なお、最下値Fpsminは、たとえば踏込み時に大きな値が初期値として設定される。
ステップS80では、上記合成踏力Fpsが増加中か否かを判定し、増加中と判定した場合にはステップS90に移行し、増加中でないと判定した場合にはステップS100に移行する。
ステップS90では、下記式のように、合成踏力Fpsに、最下値最下値Fpsminを代入することで、合成踏力Fpsの増加に制限を掛けてステップS100に移行する。
Fps =Fpsmin
【0023】
ステップS100では、図6のようなマップに基づき、上記合成踏力Fpsに対応する目標減速度Gを算出してステップS110に移行する。
ステップS110では、目標減速度Gとなる各輪のホイルシリンダ圧Pwcを演算し、そのホイルシリンダ圧Pwcとなる制御指令値をそれぞれのアクチュエータコントローラ9−1、9−2に出力して、復帰する。例えば、算出した目標減速度Gと現在の減速度の差分に基づきモータ7−1,7−2の制御電流を制御する。なお、上記各ホイルシリンダ圧Pwcは、車重、ブレーキロータ有効径、タイヤ動半径、ブレーキパッドμ、路面μ、車両姿勢などを考慮して決定される。
【0024】
ここで上記説明では、いったん、ステップS20,S30で踏込みストローク量及びマスタシリンダ圧Pに基づく各ペダル踏力Fs、Fpを算出し、その各ペダル踏力Fs、Fpに対してマスタシリンダ圧Pから求めた寄与度αにより重み付けをして合成踏力Fpsを算出して、その合成踏力Fpsを目標減速度Gに変換する処理で説明しているが、これに限定されない。ステップS20,S30で、踏込みストローク量S及びマスタシリンダ圧Pに基づく各目標減速度を算出し、その各目標減速度に対し、マスタシリンダ圧Pから求めた寄与度αにより重み付けを行って最終的な目標減速度Gを求めても良い。すなわち、上記算出した踏力Fs、Fp、Fpsは、それぞれ踏込みストローク量及びマスタシリンダ圧Pに基づく目標減速度や最終的な目標減速度と同義である。
ここで、ステップS60〜90が上昇制限手段を構成する。
【0025】
(作用効果)
上記構成の制動制御装置にあっては、ブレーキペダル1の踏込み時にあっては、目標減速度Gを、踏み込み初期には踏込みストローク量S重視で求め、所定以上のマスタシリンダ圧Pではマスタシリンダ圧P重視となるように、寄与度αを変化させることで、運転者のブレーキ踏力を精度良く減速度に反映させることが出来る。なお、ペダルフィーリングは、ストロークシミュレータによって、マスタシリンダとホイルシリンダが連通している状態に近い状態が確保されている。
上記マスタシリンダ圧Pと寄与度αとの関係は、ブレーキペダル1の踏込み時の変化を基準に設定されることで、ブレーキペダル1が踏み込まれた場合には、踏込みストローク量S重視の状態からマスタシリンダ圧P重視に移行する移行期において、なめらかに目標減速度Gが変化する。
【0026】
一方、マスタシリンダ圧Pの寄与度αが大きい状態となるまでブレーキペダル1が踏み込まれて高い制動が発生している状態から、運転者の操作によってペダルが戻された場合に、寄与度αが1の状態から0に移行する移行期(寄与度の変化が早い状態)を考えた場合に、ヒステリシスなどの関係からマスタシリンダ圧Pは踏込み時よりも戻し時の方が変化速度が大きいために、寄与度αが小さくなっていってマスタシリンダ圧P重視からストローク量重視に移行する際に、ペダル踏込み時に比べ、マスタシリンダ圧Pから求めた踏力Fpの方が、踏込みストローク量Sから求めた踏力Fsよりも早く小さくなる。このため、図7に示すように、ブレーキペダル1が戻されているにも拘わらず、合成踏力Fpsすなわち目標減速度Gが一時的に増加して運転者に違和感を与えることがある。
これに対し、本実施形態では、戻し時に合成踏力が増加すると判定した場合には、戻し時の最下値Fpsminに合成踏力Fpsを制限することで、図8に示すように、合成踏力Fpsの増加が制限、つまり目標減速度Gの増加が抑えられる。
【0027】
図9にそのときのタイムチャート例を示す。このタイムチャート例のように、ブレーキ戻し中は、順次更新される最下値Fpsmin以下に合成踏力つまり目標減速度Gの値が制限されることで、当該目標減速度Gの一時的な増加が抑えられる。
このように、ペダル戻し中において、踏込みストローク量Sとマスタシリンダ圧Pに基づきそれぞれ算出する踏力Fs、Fp(目標減速度Gと同義)にズレがあっても、移行期に、合成踏力Fpsつまり目標減速度Gの一時的な上昇の発生を制限することが出来る。
この結果、ペダル戻し時の違和感を無くすことが出来る。
特に、本実施形態では、合成踏力Fpsが上昇しようとすると、ペダル戻し中の最下値Fpsminに制限することで、確実に目標減速度Gの上昇を抑えることが出来る。すなわち、踏込みストローク量Sとマスタシリンダ圧Pに基づきそれぞれ算出する各踏力(目標減速度Gと同義)のズレは、ブレーキペダル1の戻し速度が速いほど大きくなる傾向にあるが、そのような傾向などに関係無く、最下値Fpsminに上昇を制限することで、確実に目標減速度Gの上昇を抑えることが出来る。
【0028】
ここで、上記実施形態では、ブレーキペダル1の戻し中であれば常に目標減速度Gの上昇を制限するようにしているが、寄与度αが1よりも小さくなっているときのみ行うようにしても良い。上記一時的な目標減速度Gの上昇は、寄与度αが1よりも小さくなる移行期に発生するためである。
ここで、ペダル戻し中(踏込みストローク量Sの減少中)に上記目標減速度Gが上昇する若しくは上昇すると推定すると、その目標減速度Gの上昇を制限する上昇制限手段として最下値Fpsminに制限する場合を例示しているが、これに限定されない。例えば、上記実施形態において、ペダル戻し中にも拘わらず目標減速度Gが上昇すると判定したときに、そのときの寄与度αの値を小さくして目標減速度Gの一時的な上昇を制限するようにしても良い。
【0029】
または、ペダル戻し中にも拘わらず目標減速度Gが上昇すると判定したときに、ブレーキペダル1が再度踏み込まれるまでやストロークがゼロとなるまで、前回の寄与度α(目標減速度Gが増加前の寄与度)で寄与度αの値を固定して、ストローク重視への移行を中止して目標減速度Gの一時的な上昇を制限するようにしても良い。また、このとき前回値ではなく、例えば寄与度αを0.5などに固定することで、ストローク重視への移行を中止して目標減速度Gの一時的な上昇を制限するようにしても良い。移行期の途中で寄与度αを固定することで、ブレーキペダル1の戻し中における寄与度変化に伴う目標減速度Gの上昇を抑えられる。
【0030】
図10はそのときの模式図を、図11はそのタイムチャート例を示すものである。目標減速度Gの上昇が始まる前や始まり初期に寄与度αを固定にすることで、目標減速度Gの上昇が無いか小さく制限することができることが分かる。
また、上記実施形態では、制動系統が2つの場合を例示しているが、1つでも良いし3つ以上にホイルシリンダを区分して3系統以上に制動系統を分類しても良い。
また、上記実施形態では、流体圧を利用したブレーキバイワイヤを行っているが、これに限定されるものではない。ブレーキバイワイヤに関しては制動力制御を行うことができればよいので、電動アクチュエータを駆動制御することで、ディスクロータをブレーキパッドで挟圧したり、ブレーキドラムの内周面にブレーキシューを押圧したりする電動ブレーキや、回生モータブレーキ等、電子制御可能なエネルギー源を備えていれば、如何なるブレーキでもよい。
【0031】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記実施形態と同様な装置などについては同一の符号を付して説明する。
本実施形態の基本構成は、上記第1実施形態と同様であるが、上記ブレーキコントローラ22における第2制動制御状態の制御(BBW制御)が異なる。
その処理について、図12を参照しつつ説明する。この処理が制動制御手段を構成する。
所定のサンプリング周期毎に作動し、まずステップS200にて、各種情報を入力してステップS210に移行する。
【0032】
ステップS210では、ブレーキペダルが戻し中か否かを判定し、戻し中と判定すればステップS220に移行し、ブレーキペダルが保持若しくは踏込み中と判定すればステップS230に移行する。上記判定は、踏込みストローク量Sの変化に基づき判定すればよい。
ステップS220では、入力したマスタシリンダ圧Pにフィルタを掛けて、減少速度を制限する。フィルタとしては、例えば一次遅れ関数を使用すれば良い。
ここで、上記フィルタ強度を、踏込みストローク量Sの変化速度の大きさによって変化させることが好ましい。具体的には、踏込みストローク量Sの変化速度が大きいほどフィルタ強度を上げて上記減少速度を制限する。
【0033】
同様に、上記フィルタ強度を、踏込みストローク量Sの基準からの偏差の大きさによって変化させることが好ましい。具体的には、踏込みストローク量Sの基準からの偏差が大きいほどフィルタ強度を上げて減少速度を制限する。
ここで、上記基準とは、図13のような、通常走行状態で一番使用されると想定される平均的な踏込み速度でブレーキペダルが踏み込まれたときの踏込みストローク量Sとマスタシリンダ圧Pとの関係を使用し、現在のマスタシリンダ圧Pに対応する踏込みストローク量が基準のストローク量S0となる。上記関係に基づいて図5のような寄与度αの関係が求められる。また、基準からの偏差は、上記基準のストローク量得S0よりも大きいときを正とする。
【0034】
ステップS230では、図3のようなマップに基づき、踏込みストローク量Sに基づくペダル踏力Fsを算出してステップS240に移行する。踏込みストローク量Sは、大きくなるほどストローク変化に対する踏力の増加量が大きいことに鑑みて図3のようなマップに沿った値に設定している。
ステップS240では、図4のようなマップに基づき、マスタシリンダ圧Pに基づくペダル踏力Fpを算出してステップS250に移行する。マスタシリンダ圧Pは、ほぼ踏力とリニアな関係にあるため、図4のようなマップとなるように設定している。
ステップS250では、現在のマスタシリンダ圧Pを使用して、図5のようなマップに基づき、マスタシリンダ圧Pが大きいほど大きな値をとる寄与度αを求めてステップS260に移行する。
【0035】
すなわち、ブレーキペダル1の踏み込み開始時期で踏込みストローク量Sが小さくてマスタシリンダ圧Pが小さい領域では、寄与度αを小さくして踏込みストローク量S重視とし、踏込みストローク量Sが大きくて所定のマスタシリンダ圧P以上ではマスタシリンダ圧P重視として寄与度αを大きくして、所定以上のマスタシリンダ圧となって高G領域では、上記寄与度αを1(=100%)に設定している。この寄与度αは、0〜1までの値であって、マスタシリンダ圧P側の寄与度αを示し、踏込みストローク側の寄与度αは、(1−α)となる。
ステップS260では、踏込みストローク量S及びマスタシリンダ圧Pに基づく踏力Fs及びFpを使用して、下記式に基づき、目標減速度Gを算出するための合成踏力Fpsを算出してステップS270に移行する。
Fps =α×Fp +(1−α)×Fs
【0036】
ステップS270では、図6のようなマップに基づき、上記合成踏力Fpsに対応する目標減速度Gを算出してステップS280に移行する。
ステップS280では、目標減速度Gとなる各輪のホイルシリンダ圧Pwcを演算し、そのホイルシリンダ圧Pwcとなる制御指令値をそれぞれのアクチュエータコントローラ9−1、9−2に出力して、復帰する。例えば、算出した目標減速度Gと現在の減速度の差分に基づきモータ7−1,7−2の制御電流を制御する。なお、上記各ホイルシリンダ圧Pwcは、車重、ブレーキロータ有効径、タイヤ動半径、ブレーキパッドμ、路面μ、車両姿勢などを考慮して決定される。
ここで、ステップS210及びS220が上昇制限手段を構成する。
【0037】
(作用効果)
上述のように、ヒステリシスなどの関係から、マスタシリンダ圧Pは踏込み時よりも戻し時の方が変化速度が大きいために、ペダルが戻されて寄与度αが徐々に小さくなってマスタシリンダ圧P重視からストローク量重視に移行する際に、マスタシリンダ圧Pから求めた踏力の方が、踏込みストローク量Sから求めた踏力よりも早く小さくなることで、マスタシリンダ圧Pから求めた踏力と踏込みストローク量Sとから求めた踏力とにズレが発生して、合成踏力すなわち目標減速度Gが一時的に増加して運転者に違和感を与えることがある(図7参照)。
【0038】
これに対し、本実施形態では、ペダル戻し時に、図14に示すように、マスタシリンダ圧Pの減少速度に制限を掛けてペダル踏込み時のマスタシリンダ圧Pの変化速度に近づけることで、マスタシリンダ圧P重視から踏込みストローク量S重視に移行する際における、マスタシリンダ圧Pから求めた踏力と踏込みストローク量Sとから求めた踏力のズレを低減することで、上記戻し時における合成踏力すなわち目標減速度Gの一時的な上昇を小さく抑えることが可能となる。
ここで、ブレーキペダル1の戻し速度が速いほど上記ズレが大きくなるが、本実施形態では、ブレーキペダル1の戻し速度が速いほど上記戻し時におけるマスタシリンダ圧Pの戻り速度の制限を大きくすることで、ズレの増加を防止することが出来る。この結果、どのような踏み戻し速度であって、運転者のブレーキ操作に応じた適切な目標減速度Gを演算可能となる。
【0039】
また、上記マスタシリンダ圧Pと寄与度αとの関係を設定する際に使用したマスタシリンダ圧Pと踏込みストローク量Sとの関係に対し、現在の踏込みストローク量Sが大きいほど、つまり、現在のマスタシリンダ圧Pに対応する基準とする踏込みストローク量Sよりも現在の吹込ストローク量の方が大きいほど、上記移行期において、踏込みストローク量Sによって求められる踏力Fs(目標減速度Gと同義)とマスタシリンダ圧Pによって求められる踏力Fp目標減速度Gと同義)とのズレは大きくなる。これに対し、本実施形態では、本実施形態では、踏込みストローク量Sの基準との偏差量が大きいほど上記戻し時におけるマスタシリンダ圧Pの戻り速度の制限を大きくすることで、ズレの増加を防止することが出来る。この結果、どのような踏み戻し速度であって、運転者のブレーキ操作に応じた適切な目標減速度Gを演算可能となる。
【0040】
図15にタイムチャート例を示す。このタイムチャート例のように、ペダル戻し時のマスタシリンダ圧Pの減少速度に制限をかけて当該減少速度を遅くして踏込み時の変化速度に近づけることで、マスタシリンダ圧に基づく踏力Fp及び踏込みストローク量Sに基づく踏力Fsの変化速度が踏込み時に近づき、目標減速度Gの一時的な上昇を抑えることが出来る。
その他の構成や作用効果について上記実施形態と同様である。
【0041】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記実施形態と同様な装置などについては同一の符号を付して説明する。
本実施形態の基本構成は、上記第1及び第2実施形態と同様であるが、上記ブレーキコントローラ22における第2制動制御状態の制御(BBW制御)が異なる。
その処理について、図16を参照しつつ説明する。この処理が制動制御手段を構成する。
所定のサンプリング周期毎に作動し、まずステップS400にて、各種情報を入力してステップS410に移行する。
ステップS410では、図3のようなマップに基づき、踏込みストローク量Sに基づくペダル踏力Fsを算出してステップS420に移行する。踏込みストローク量Sは、大きくなるほどストローク変化に対する踏力の増加量が大きいことに鑑みて図3のようなマップに沿った値に設定している。
【0042】
ステップS420では、図4のようなマップに基づき、マスタシリンダ圧Pに基づくペダル踏力Fpを算出してステップS430に移行する。マスタシリンダ圧Pは、ほぼ踏力とリニアな関係にあるため、図4のようなマップとなるように設定している。
ステップS430では、ブレーキペダル1が戻し中か否かを判定し、戻し中と判定すればステップS440に移行し、ブレーキペダル1が保持若しくは踏込み中と判定すればステップS450に移行する。上記判定は、踏込みストローク量Sの変化に基づき判定すればよい。
ステップS440では、現在のマスタシリンダ圧Pを使用して、図5のようなマップに基づき、マスタシリンダ圧Pが大きいほど大きな値をとる寄与度αを求めてステップS460に移行する。
【0043】
すなわち、ブレーキペダル1の踏み込み開始時期で踏込みストローク量Sが小さくてマスタシリンダ圧Pが小さい領域では、寄与度αを小さくして踏込みストローク量S重視とし、踏込みストローク量Sが大きくて所定のマスタシリンダ圧P以上ではマスタシリンダ圧P重視として寄与度αを大きくして、所定以上のマスタシリンダ圧P0となって高G領域では、上記寄与度αを1(=100%)に設定している。この寄与度αは、0〜1までの値であって、マスタシリンダ圧P側の寄与度αを示し、踏込みストローク側の寄与度αは、(1−α)となる。このマスタシリンダ圧Pと寄与度αの設定は、踏込み時における所定の踏込み速度(通常一番使用されると想定される踏込み速度)における、踏込みストローク量Sとマスタシリンダ圧Pとの関係を求めておき、その関係に基づき、ストローク量重視の寄与度αからマスタシリンダ圧P重視の寄与度αへの移行が出来るだけ滑らかに行くような観点から設定されている(上述の第1及び第2実施形態にあっても同様)。
【0044】
ステップS450では、上記図5から求まる寄与度αに対してフィルタを掛けて、寄与度αの減少速度を制限してステップS460に移行する。フィルタとしては、例えば一次遅れ関数を使用すれば良い。
ここで、上記フィルタ強度を、踏込みストローク量Sの変化速度の大きさによって変化させることが好ましい。具体的には、踏込みストローク量Sの変化速度が大きいほどフィルタ強度を上げて上記減少速度を制限する。
同様に、上記フィルタ強度を、踏込みストローク量Sの基準からの偏差の大きさによって変化させることが好ましい。具体的には、踏込みストローク量Sの基準からの偏差が大きいほどフィルタ強度を上げて減少速度を制限する。
【0045】
ここで、上記基準とは、図13のような、通常走行状態で一番使用されると想定される踏込み速度でブレーキペダル1が踏み込まれたときの踏込みストローク量Sとマスタシリンダ圧Pとの関係を使用し、現在のマスタシリンダ圧Pに対応する踏込みストローク量Sが基準のストローク量となる。上記関係に基づいて図5のような寄与度αの関係が求められる。また、基準からの偏差は、上記基準のストローク量よりも大きいときを正とする。
また、上記実施形態では、上記寄与度α自身にフィルタを掛けて減少速度を遅らせるようにしているが、上記図5とは別の当該図5の関係よりも減少速度を遅らせたマップを別途用意して、その別のマップを使用して最終的な寄与度αを決定しても良い。
ステップS460では、踏込みストローク量S及びマスタシリンダ圧Pに基づく各踏力Fs及びFpを使用して、下記式に基づき、目標減速度Gを算出するための合成踏力Fpsを算出してステップS470に移行する。
【0046】
Fps =α×Fp +(1−α)×Fs
ステップS470では、図6のようなマップに基づき、上記合成踏力Fpsに対応する目標減速度Gを算出してステップS480に移行する。
ステップS480では、目標減速度Gとなる各輪のホイルシリンダ圧Pwcを演算し、そのホイルシリンダ圧Pwcとなる制御指令値をそれぞれのアクチュエータコントローラ9−1、9−2に出力して、復帰する。例えば、算出した目標減速度Gと現在の減速度の差分に基づきモータ7−1,7−2の制御電流を制御する。なお、上記各ホイルシリンダ圧Pwcは、車重、ブレーキロータ有効径、タイヤ動半径、ブレーキパッドμ、路面μ、車両姿勢などを考慮して決定される。
ここで、ステップS430及びステップS450が上昇制限手段を構成する。
【0047】
(作用効果)
上述のように、ヒステリシスなどの関係から、マスタシリンダ圧Pは踏込み時よりも戻し時の方が変化速度が大きいために、ペダルが戻されて寄与度αが徐々に小さくなってマスタシリンダ圧P重視からストローク量重視に移行する際に、マスタシリンダ圧Pから求めた踏力の方が、踏込みストローク量Sから求めた踏力よりも早く小さくなることで、寄与度αの移行期に、マスタシリンダ圧Pから求めた踏力Fpと踏込みストローク量Sとから求めた踏力Fsとにズレが発生して、合成踏力Fpsすなわち目標減速度Gが一時的に増加して運転者に違和感を与えることがある(図7参照)。
【0048】
これに対し、本実施形態では、ペダル戻し時に、図17に示すように、寄与度αの減少速度に制限を掛けてマスタリンダ圧に基づく踏力の変化速度を制限して踏込み時の変化速度に近づけることで、マスタシリンダ圧P重視から踏込みストローク量S重視に移行する際における、マスタシリンダ圧Pから求めた踏力Fpと踏込みストローク量Sとから求めた踏力Fsのズレを低減することで、上記戻し時における合成踏力Fpsすなわち目標減速度Gの一時的な上昇を小さく抑えることが可能となる。
ここで、ブレーキペダル1の戻し速度が速いほど上記ズレが大きくなるが、本実施形態では、ブレーキペダル1の戻し速度が速いほど上記戻し時における寄与度αの減少速度の制限を大きくすることで、ズレの増加を防止することが出来る。この結果、どのような踏み戻し速度であって、運転者のブレーキ操作に応じた適切な目標減速度Gを演算可能となる。
【0049】
また、上記マスタシリンダ圧Pと寄与度αとの関係を設定する際に使用したマスタシリンダ圧Pと踏込みストローク量Sとの関係に対し、現在の踏込みストローク量Sが大きいほど、つまり、現在のマスタシリンダ圧Pに対応する基準とする踏込みストローク量Sよりも現在の踏込みストローク量得得Sの方が大きいほど、上記移行期において、踏込みストローク量Sによって求められる踏力Fs(目標減速度Gと同義)とマスタシリンダ圧Pによって求められる踏力Fp(目標減速度Gと同義)とのズレは大きくなる。これに対し、本実施形態では、本実施形態では、踏込みストローク量Sの基準との偏差量が大きいほど上記ペダル戻し時における寄与度αの減少速度の制限を大きくすることで、ズレの増加を防止することが出来る。この結果、どのような踏み戻し速度であって、運転者のブレーキ操作に応じた適切な目標減速度Gを演算可能となる。
【0050】
図18にタイムチャート例を示す。このタイムチャート例のように、ペダル戻し時の寄与度αの減少速度に制限をかけて当該減少速度を遅くすることで、マスタシリンダ圧に基づく踏力Fp及び踏込みストローク量Sに基づく踏力Fsの変化速度が踏込み時に近づき、目標減速度Gの一時的な上昇を抑えることが出来る。
その他の構成や作用効果について上記実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0051】
1 ブレーキペダル
2 マスタシリンダ
3FR〜3RR ホイルシリンダ
5−1 第1連通路
5−2 第2連通路
6−1,6−2 電磁遮断弁
7−1,7−2 モータ(別の駆動源)
8−1、8−2 ポンプ(別の駆動源)
9−1,9−2 アクチュエータコントローラ
22 ブレーキコントローラ
S 踏込みストローク量
P マスタシリンダ圧
α 寄与度
G 目標減速度
Fs 踏込みストローク量に基づく踏力
Fp マスタシリンダ圧に基づく踏力
Fps 合成踏力
Fpsmin 最低値
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のブレーキペダルの踏込みストロークに応じたマスタシリンダ圧を出力するマスタシリンダと、マスタシリンダ圧及びブレーキペダルの踏込みストローク量に基づいて目標減速度を算出し該目標減速度となるようにホイルシリンダの制動力を制御する制動制御手段と、を備え上記目標減速度を算出する際の上記マスタシリンダ圧の寄与度合をマスタシリンダ圧が大きいほど大きくなるように設定した、制動力制御装置において、
上記制動制御手段は、ブレーキペダルの戻し中における目標減速度の一時的な上昇を制限する上昇制限手段を備えることを特徴とする制動力制御装置。
【請求項2】
上記上昇制限手段は、ブレーキペダルの戻し中に上記目標減速度が上昇する若しくは上昇すると推定すると、その目標減速度の上昇を制限することを特徴とする請求項1に記載した制動力制御装置。
【請求項3】
上記上昇制限手段は、目標減速度を一定値に保持することで上昇を制限することを特徴とする請求項2に記載した制動力制御装置。
【請求項4】
上記上昇制限手段は、ブレーキペダルの戻し中に上記目標減速度が上昇する若しくは上昇すると推定すると、寄与度を固定することで目標減速度の上昇を制限することを特徴とする請求項2に記載した制動力制御装置。
【請求項5】
上記上昇制限手段は、上記目標減速度を演算するためのマスタシリンダ圧についてブレーキペダルの戻し時の減少速度を制限することで、目標減速度の一時的な上昇を制限することを特徴とする請求項1に記載した制動力制御装置。
【請求項6】
上記減少速度の制限は、踏込みストローク量の減少速度が速いほど当該制限を大きくすることを特徴とする請求項5に記載した制動力制御装置。
【請求項7】
予め設定したマスタシリンダ圧と踏込みストローク量との関係を備え、
上記減少速度の制限は、上記関係を使用して求められる現在のマスタシリンダ圧に対応する基準の踏込みストローク量よりも現在の踏込みストローク量が大きいほど、当該制限を大きくすることを特徴とする請求項5または請求項6に記載した制動力制御装置。
【請求項8】
上記上昇制限手段は、マスタシリンダ圧の変化に対する寄与度合の変化を、ブレーキペダルの踏込み中と戻し中とで異ならせることで、目標減速度の一時的な上昇を制限することを特徴とする請求項1に記載した制動力制御装置。
【請求項9】
上記上昇制限手段は、ブレーキペダルの戻し中における寄与度合の減少速度を制限することで、ブレーキペダルの踏込み中と戻し中とで異ならなることを特徴とする請求項8に記載した制動力制御装置。
【請求項10】
上記寄与度合の減少速度の制限は、踏込みストローク量の減少速度が速いほど当該制限を大きくすることを特徴とする請求項9に記載した制動力制御装置。
【請求項11】
予め設定したマスタシリンダ圧と踏込みストローク量との関係を備え、
上記寄与度合の減少速度の制限は、上記関係を使用して求められる現在のマスタシリンダ圧に対応する踏込みストローク量よりも現在の踏込みストローク量が大きいほど、当該制限を大きくすることを特徴とする請求項9または請求項10に記載した制動力制御装置。
【請求項1】
運転者のブレーキペダルの踏込みストロークに応じたマスタシリンダ圧を出力するマスタシリンダと、マスタシリンダ圧及びブレーキペダルの踏込みストローク量に基づいて目標減速度を算出し該目標減速度となるようにホイルシリンダの制動力を制御する制動制御手段と、を備え上記目標減速度を算出する際の上記マスタシリンダ圧の寄与度合をマスタシリンダ圧が大きいほど大きくなるように設定した、制動力制御装置において、
上記制動制御手段は、ブレーキペダルの戻し中における目標減速度の一時的な上昇を制限する上昇制限手段を備えることを特徴とする制動力制御装置。
【請求項2】
上記上昇制限手段は、ブレーキペダルの戻し中に上記目標減速度が上昇する若しくは上昇すると推定すると、その目標減速度の上昇を制限することを特徴とする請求項1に記載した制動力制御装置。
【請求項3】
上記上昇制限手段は、目標減速度を一定値に保持することで上昇を制限することを特徴とする請求項2に記載した制動力制御装置。
【請求項4】
上記上昇制限手段は、ブレーキペダルの戻し中に上記目標減速度が上昇する若しくは上昇すると推定すると、寄与度を固定することで目標減速度の上昇を制限することを特徴とする請求項2に記載した制動力制御装置。
【請求項5】
上記上昇制限手段は、上記目標減速度を演算するためのマスタシリンダ圧についてブレーキペダルの戻し時の減少速度を制限することで、目標減速度の一時的な上昇を制限することを特徴とする請求項1に記載した制動力制御装置。
【請求項6】
上記減少速度の制限は、踏込みストローク量の減少速度が速いほど当該制限を大きくすることを特徴とする請求項5に記載した制動力制御装置。
【請求項7】
予め設定したマスタシリンダ圧と踏込みストローク量との関係を備え、
上記減少速度の制限は、上記関係を使用して求められる現在のマスタシリンダ圧に対応する基準の踏込みストローク量よりも現在の踏込みストローク量が大きいほど、当該制限を大きくすることを特徴とする請求項5または請求項6に記載した制動力制御装置。
【請求項8】
上記上昇制限手段は、マスタシリンダ圧の変化に対する寄与度合の変化を、ブレーキペダルの踏込み中と戻し中とで異ならせることで、目標減速度の一時的な上昇を制限することを特徴とする請求項1に記載した制動力制御装置。
【請求項9】
上記上昇制限手段は、ブレーキペダルの戻し中における寄与度合の減少速度を制限することで、ブレーキペダルの踏込み中と戻し中とで異ならなることを特徴とする請求項8に記載した制動力制御装置。
【請求項10】
上記寄与度合の減少速度の制限は、踏込みストローク量の減少速度が速いほど当該制限を大きくすることを特徴とする請求項9に記載した制動力制御装置。
【請求項11】
予め設定したマスタシリンダ圧と踏込みストローク量との関係を備え、
上記寄与度合の減少速度の制限は、上記関係を使用して求められる現在のマスタシリンダ圧に対応する踏込みストローク量よりも現在の踏込みストローク量が大きいほど、当該制限を大きくすることを特徴とする請求項9または請求項10に記載した制動力制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−235896(P2011−235896A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188887(P2011−188887)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【分割の表示】特願2006−310331(P2006−310331)の分割
【原出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【分割の表示】特願2006−310331(P2006−310331)の分割
【原出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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