説明

制御された直径を有するホウ素ナノ構造体の成長

物理的特性(例えば、電気的な特性及び超伝導性)だけでなく、制御された直径及び制御された化学特性(例えば、組成、添加剤添加)を備えた、例えばナノチューブ及びナノワイヤーのようなホウ素を基礎とするナノ構造体の成長のための製造方法が記載されている。そのホウ素ナノ構造体は、ほぼ4ナノメーター未満の均一な細孔直径である細孔を有する、金属が置換したMCM−41鋳型上で成長し、このホウ素ナノ構造体には、Ia族及びIIa族の電子供与性の元素を、そのナノ構造体の成長過程及び成長後に添加することができる。予備的な磁気的な感受性測定試験のデータは、マグネシウムを添加されたホウ素ナノ構造体が、絶対温度100Kのオーダーの超伝導遷移温度を有することを示唆した。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府からの出資を受けた研究開発に関する宣言
この発明は、米国科学財団により授与されたContract Number CHE−0335218―革新的な研究のための小額補助金− のもと連邦政府の支援に成し遂げられた。連邦政府は、この発明に関して一定の権利を保有している。
【0002】
例えば、ナノチューブ及びナノワイヤーというようなナノ構造体は、技術的に重要な電子的性質を有し、そしてナノスケール電子デバイス及び光学デバイス、高強度材料、電子電界放射素子、走査プローブ顕微鏡及び化学センサを含む期待できる応用を示した。
【背景技術】
【0003】
ホウ素ナノ構造体は、他の一次元性ナノ材料の性質よりも優れた特別な属性を有することが推定されるので、ホウ素ナノ構造体は、最近、注目されている。例えば、ホウ素ナノチューブは、安定と考えられ、しかも構造的なヘリシティーとは独立してカーボンナノチューブを凌駕する金属的導電性を有する。金属ナノチューブは、大きな電流密度を持ち、それ自体で電気的な相互接続器及びスィッチの供給に役立つかも知れない。
【0004】
ホウ素化合物は、さらにMgBに超伝導性があることが発見された結果、再度注目を集めている。上部臨界磁界(Hc(T))、熱力学的臨界磁場(Hc(T))及び臨界電流(J)の測定から、MgBは、絶対温度

という超伝導転移温度を有し、かつ金属間化合物超伝導体と同じ特性を有する第II種超伝導体であることを示す。この化合物におけるホウ素同位体効果の測定は、その電子―フォノン カップリングを経由して媒介される超伝導性と一致している。
【0005】
最近のバンド構造計算は、二フォノンのペアリングの重要性を示唆している。その理由は、たとえばMgBというようなホウ素化合物におけるCooper対の間の共鳴交換のためである。そのバンド構造もまた、その電子及びフォノン系の次元性に基づいていることが知られている。例えば、その電子ペアリング ポテンシャルは、MgBナノチューブにおいて、そのフォノンの状態密度の数箇所の違いにより高められ、それによって、相乗的にT及びJの両者を高める。そのような高温超伝導体は、例えば、効率がよい、損失のない、電力の伝送に重要であると期待されている。
【0006】
それゆえ、化学的及び物理的特性並びに次元性を制御された、ナノワイヤーやナノチューブ、特に単層ナノチューブなどの一次元性及び二次元性のホウ素ベースのナノ構造体を、適した枠構造物材料の内部又は表面上に成長させる製法の提供が望ましい。
また、同じ又は同様な材料から作られた三次元性構造物に見られる特性よりも優れた特性を備えた、そのようなナノワイヤー及びナノチューブを使用するデバイスの提供も同様に望ましい。
【発明の開示】
【0007】
本発明は、制御され直径、しかも狭い直径の分布、制御された化学的な性質および物理的な特性を備えた、例えばナノチューブやナノワイヤーのようなホウ素ナノ構造体の、例えばMCM−41のようなシリカメソポーラス枠構造物上での成長に関するものである。
【0008】
本発明の製法により調製されるデバイスは、低次元性に由来するユニークな電子的特性、例えば高温超伝導性というような電子的性質を示すことができる。
【0009】
本発明の一局面によれば、一次元性超伝導性デバイスは、100ナノメートル未満の直径であり、電子供与元素が植え付けられているホウ素ナノ構造体を含む。そのようなホウ素ナノ構造体は、絶対温度36K以上の超伝導転移温度を示す。
【0010】
本発明の他の面によれば、超伝導性単層ホウ素ナノチューブの配合物は、予め設定された次元的な、ホウ素ナノチューブの直径又は断面積に対して所定の寸法上のとの関連を有する細孔の大きさである細孔を有するメソポーラスシリカからなる枠構造物を含む。ホウ素錯体を形成することのできる元素は、その細孔中に分散しており、単層ホウ素ナノチューブは、その枠構造物の細孔中に配置され、そして一つの電子供与性元素により添加されている。そのホウ素ナノチューブは、絶対温度36Kを超える超伝導転移温度を示す。
【0011】
本発明のさらにもう一つの面によれば、ホウ素ナノ構造体を製造する方法は、そのホウ素ナノ構造体の直径又は断面積を設定する工程、そのホウ素ナノ構造体の直径又は断面積に対して所定の寸法上の関連を有する細孔の大きさである細孔を有し、ホウ素と錯体を形成しうる元素を含む枠構造物を選ぶ工程、反応容器中で、特定の直径又は断面積を有するホウ素ナノ構造体を製造するのに十分な温度でホウ素前駆体と枠構造物を接触させる工程を含む。
【0012】
本発明の実施態様は、以下の特色の一つ又はそれ以上を含むかもしれない。その電子供与性元素は、元素周期律表のIa族又はIIa族の元素であり、例えばリチウム、ベリリウム及び/又はマグネシウムであり、例えば金属蒸気の状態であってよい。
【0013】
ホウ素ナノ構造体は、例えば50ナノメートル未満の直径を有するナノワイヤー、又は例えば10ナノメートル未満の直径の、例えば単層ナノチューブのようなナノチューブであることができる。
【0014】
そのホウ素ナノ構造体は、また例えば1ナノメートル未満の直径のナノファイバーであることができる。そのナノファイバーのホウ素原子は、ナノファイバーを平行又は絡み合うように整列させた状態で、ポリエチレン様の鎖状構造に配列させることができる。
【0015】
成長させたばかりのホウ素ナノ構造体を、マグネシウムを含む環境に曝すと、結晶状態で絶対温度約35Kという超伝導転移温度が報告された超伝導体であるマグネシウムジボリド(MgB)を形成することができる。
【0016】
細孔に分散されている元素は、ホウ素と錯体を形成する傾向がある、Mg、B、Ni、Pd、Ce、Co、Mn、Mo及び/又はAl、又はそれらの混合物であってよい。そのナノ構造体の成長の前に、メソポーラスシリカを、任意に水素を添加して、電子供与性元素の前駆体に曝すことができる。
【0017】
ナノチューブに対する選択性を増加させるため、ナノワイヤー、繊維及び針も含まれている可能性のある、成長させたばかりのナノ構造体を、酸化させ、ついで、例えばNaOHと、エタノール/水との混合物のようなアルカリ性溶液に曝すと、主にホウ素ナノチューブを残すことができる。
【0018】
本発明の更なる特徴及び利点は、次の好ましい実施態様及び請求の範囲の記載から明らかになるであろう。
ここに解説された製法は、とりわけ、制御された直径、制御された化学的な特性(例えば、組成及び添加物)及び物理的な特性(電気的特性及び超伝導的特性)を備えたホウ素ベースのナノチューブ及びナノワイヤーの成長に向けられている。
制御されかつ均一な直径のホウ素ナノチューブの成長のための製法は、均一な直径を有する、整列された単層カーボンナノチューブの成長に、成功裏に適用された製法と類似したナノチューブ合成のための鋳型法を使用する。
【0019】
このカーボンナノチューブの製造方法は、例えば、共通に譲渡された、2002年12月18日に出願された米国特許出願番号10/328857及び2003年12月2日に出願された米国特許出願番号10/726394の米国特許出願に開示されている。この米国出願の開示内容は、完全な形で参照によりここに援用した。
【特許文献1】米国特許出願第10/328857号公報
【特許文献2】米国特許出願第10/726394号公報
【0020】
その鋳型としては、1.5−3.5ナノメートルの範囲に、所定の細孔の直径を集中させた、非常に狭い直径の分布を有する円筒形の細孔の並列システム(±0.1ナノメートル半値幅(FWHM))を備えたメソポーラスシリカ枠構造物、例えばMCM−41を利用することができる。
【0021】
その枠構造物の細孔のサイズは、その枠構造物の調製過程で使用される界面活性剤及び膨張剤による制御することができる。上記に引用した特許出願に開示されたカーボンナノチューブの成長は、原子を分散させる触媒又は触媒の前駆体を、MCM−41材料の細孔壁の中又はその上にある置換部位に取り込ませることにより開始される。その鋳型の細孔の直径は、その細孔の化学的な組成とは関係なく、独自に変更することができる。
【0022】
ホウ素ナノチューブが、3.6(±0.1)ナノメートルという均一な細孔の直径を有する、マグネシウムにより置換されたMCM−41鋳型を使用することにより成長した。新たに調製されたMg−MCM−41鋳型 200ミリグラムを、内径6ミリメートル水晶製反応容器 アルミナ プラグ上に担持して、装填した。その反応容器を電気炉に入れ、水素ガスを連続して供給下温度870℃まで加熱した。温度が安定して保たれた時点で、エア プロダクツ アンド ケミカルズ インク.(Air Products and Chemicals, Inc.)製のBCl(純度:99.9重量パーセント;フォスゲン不純物含量:10ppmw)をその反応容器に供給し、その枠構造物の上を45分間に亘り、およそ体積比で1:6であるBClとHで、その枠構造物の上を45分間に亘り流した。反応中のすべての流速は、1.5リットル/分(標準温度及び標準圧力)である。
【0023】
つぎに、その反応容器を、ヘリウムを流しながら、室温にまで冷却した。その反応容器から回収された物質はやや灰色がかった色を示し、新たに調製したMg−MCM−41の試料に比べ、著しい硬さを示した。このことは、金属性ホウ素がその鋳型材料中に埋め込まれていることを示唆していた。
【0024】
ここに記載した反応条件は、ホウ素フィルムを作るためのBClと水素との反応の他の研究で使用される反応条件よりも、著しく穏やかであることを、ここで述べられるべきである。実験結果は、このMg−MCM−41のマグネシウムは単層ホウ素ナノチューブの成長のための触媒又は触媒の前駆体であることを示唆している。なぜならば、純粋のシリカを含むMCM−41触媒は、同じような反応条件下ではホウ素ナノチューブを生じさせなかったからである。この反応段階は、ドラフトチャンバー内で行い、未反応のBClは、水素炎中で燃焼させて、毒性が非常に強いBClが大気中に放出されるのを防止した。
【0025】
このホウ素が詰められた鋳型は、瑪瑙製乳鉢ですりつぶされ、ついでエタノールに懸濁させ、そしておよそ30分間超音波処理された。この懸濁液の0.05ミリットルは、非晶質の穴の開いたカーボン・フィルムにより覆われた銅製のメッシュ上に落とされ、透過電子顕微鏡(TEM)分析に先立って、エタノールを蒸発させた。
【0026】
図1は、前記の製法で成長した典型的なホウ素単層ナノチューブの高分解能透過電子顕微鏡の画像を示す。
【0027】
図2は、より高温下で成長し、そしておよそ20ナノメートルの厚さの層(層の厚さが3ノナメートルから40ノナメートルであるナノパイプが観察された。)を有するホウ素ナノパイプの高分解能透過電子顕微鏡の画像を示す。
【0028】
図3は、ナノパイプよりも大きな外径を有するナノワイヤーの束の高分解能透過電子顕微鏡の画像を示す。
【0029】
図4は、均一な直径を有することが成し遂げられたことを示す一群のナノチューブの高分解能透過電子顕微鏡の画像を示す。
【0030】
ホウ素ナノチューブは、そのMg−MCM−41シリカ鋳型から、わずかに酸性又はアルカリ性の何れかである水中で沸騰させることにより除去されうる。試験によれば、NaOHのエタノール/水は、ホウ素ナノチューブを傷つけることなく、そのシリカを除去するに使用されうることが示された。そのMgは、その鋳型の中に、殆ど原子的に分散しているが、穏やかなHCl処理で洗い流すことができる。
ナノチューブ以外の、不要なホウ素構造体は、精製されたホウ素ナノ材料から化学的な方法で除去されうる。例えば、ホウ素ナノパイプ及びワイヤーは、時が経てば空気中で酸化されるが、ホウ素ナノチューブは、多くの月が経過しても空気中で安定であることが見出されている。
それゆえ、酸化的環境によるその試料の処理を用いて、そのナノワイヤー/パイプをボロンオキサイドに転化させ、このボロンオキサイドを、シリカ鋳型の除去に使用されているのと同種の沸騰アルカリ溶液に溶解させることができる。
【0031】
反応物から又は次の化学的な処理から、ホウ素ナノ構造体の成長とホウ素ナノ構造体の物理学的特性に作用する微量の材料を除くことに注意を払わなければならない。なぜならば、ホウ素は、短い共有結合半径及びπタイプ原子価軌道を有するため、ホウ素は多く他の化合物と安定な化合物を形成するからである。この理由のため、特に酸素、窒素及び炭素の供給源は、除去されるべきである。
【0032】
図5Aは、その化学的な組成を決定するため、炭素により被覆された支持物の上に置かれたホウ素ナノワイヤーの高分解能透過電子顕微鏡の画像を示す。
【0033】
図5Bは、そのナノ構造体が、確かにホウ素から構成されていることを明確に示しているホウ素K−edgeにおけるX線吸収画像を示す。
【0034】
図5Cは、炭素K−edgeにおいて検出された吸収についてのX線吸収画像を示す。この実験結果は、窒化ホウ素標準により検証されている。
【0035】
管状の構造の存在もまた、500cm−1より下の波長におけるラマン・ブリージング・モード(原語:Raman breathing mode)領域のスペクトルの特徴の存在で確認された。
【0036】
図6に示されるスペクトルは、532ナノメートル励起波長を用いるOlympus 共焦点顕微鏡を付設したラマン分光分析装置で、反応容器から取り出された、精製及び前処理を施されていない触媒試料により記録された。210cm−1(図3においてaと表示)におけるピークは、管構造の特徴であり、特徴的なラジアル・ブリージング・モード(原語:radial breathing mode)に合致する。300cm−1と500cm−1(図3において、bと表示)との間のスペクトルの特徴もまた、おそらく管構造に起因する。なぜならば、同じようなピークが、単層カーボンナノチューブに報告されたからである。しかしながら、1580−1600cm−1の領域に見ることができる、整然とした炭素のタンジェンシャル・バイブレーション・モード(原語:tangential vibration mode)に特徴的なラマン ピークが存在しないことは、その管構造は、炭素でないということを示した。525cm−1及びそれ以上の周波数で観察されるピークは、α−ボロン クラスターに起因すると考えられる。図3における挿入図は、明確に、明白に単層管構造を備えたホウ素ナノチューブを示す。
【0037】
この試料で見出された、すべてのホウ素ナノチューブは、Mg−MCM−41鋳型の支持物に近接して現れている。このことは、そのナノチューブの成長は、鋳型の支持物の、それもおそらくはで開始され、細孔壁に取り入れられたマグネシウム部位で、開始されることを示唆している。
【0038】
Mg−MCM−41枠構造物の代わりに、B−MCM−41枠構造物、すなわち細孔にホウ素が詰め込まれたMCM−41枠構造物もまた、鋳型として使用されうる。純粋なMCM−41枠構造物上では、ナノファイバーの成長は検出されているが、ホウ素ナノチューブの成長は、観察されなかった。MCM−41枠構造物の細孔の孔壁の中又は上にホウ素及びマグネシウムを取り入れることに加え、例えば、Ni、Pd、Ce、Co、Mn、Mo、Al及びそれらの混合物のような他の金属もまた、取り入れられる。これの金属原子は、例えばホウ化物のような、ホウ素との結合物を形成する。このホウ素との結合物は、十分に低い分解温度、例えば、およそ温度950℃未満の分解温度を有し、その枠構造物の構造的な均一性を乱すことなく、MCM−41細孔構造に取り込まれるほど十分に小さい。言い換えると、細孔壁の上又は中にある核生成部位とホウ素前駆体との間の強い相互作用が、MCM−41枠構造物により提供される鋳型法を利用するために、及びそれによって形成される構造を制御するためには、望ましい。
【0039】
B−MCM−41及びMg−MCM−41鋳型の細孔は、一次元性の物理学的特性を促進するのに十分小さい直径を有するナノワイヤー及びナノチューブの成長のために、幾何学的な束縛をもたらす。温度700℃−900℃の範囲の温度で、Mg又はBのいずれかを添加されたMCM−41鋳型の上で、BClと水素との反応が起きると、単層ホウ素ナノチューブ及び他の興味深いホウ素ナノ構造体が出来る。Mg−MCM−41は、単層ナノチューブに対して最も選択性が高いことが発見された。
【0040】
一つの提案された成長のメカニズムは、幾何学的に制限された細孔の環境において形成されたホウ素錯体の分解が、その細孔により制御された直径を備えた、均一なナノ構造体の形成へと導くということである。代表的なデータは、およそ3.5ナノメートルの細孔のサイズについてのみ提供されているが、他の細孔のサイズを備えたMg−MCM−41枠構造物により得られた実験結果は、作り出されたホウ素ナノチューブの直径は、その鋳型の細孔サイズと一致していることを示した。上記のように、例えば、細孔のサイズは、例えば、MCM−41鋳型の調製に使用する界面活性剤又は膨張剤を適宜選択することにより、制御することができる。
【0041】
ナノチューブ及びナノワイヤーの成長のための反応剤は、ジボラン及び/又はBClであるが、このとき共反応剤としてHを使用してもよい。反応容器内の基本圧力をより高くすると、より長いホウ素ナノチューブに対する選択性がより高くなった。
【0042】
前記の実験で使用された、Mg−MCM−41枠構造物は、1%のMg装填を含んでいた。より高濃度Mgは、細孔サイズを変えることなく取り込まれうる。鋳型の合成時のpHを変更すると、細孔壁の表面の特性を変えることができる。全合成工程を通じてpHを、例えばpH=11±0.1に保持することにより、均一な細孔のサイズの分布を±0.1ナノメートル半値幅(FWHM)以内に制御することができる。消泡剤を添加すると、枠構造物の構造的な状態が改善される。
【0043】
特定のホウ素ナノ構造体に対する選択性は、成長の温度により影響され、ナノチューブについては、最も低い、およそ温度700℃と温度875℃の間の温度で形成され、ナノパイプについては、中間的な、およそ温度900℃で形成され、ナノワイヤーについては、それよりも高い温度で形成される。その選択性は、より高い温度においてクラスターを形成するというホウ素の性向により引き起こされるのかもしれない。純粋なホウ素ナノ構造体は、本質的に安定ではないかもしれない。なぜならば、ホウ素の結合は、Wade則を満たすためには、2個の電子が不足しているからである。しかし、それらは、安定な構造を形成するためには、Wade則に十分近い。ホウ素ナノ構造体、すなわちナノチューブ及びナノワイヤーを安定化する一つの方法は、ナノ構造体の成長の間に、例えば、元素周期律表のIa族及びIIa族からの元素のような、電子供与体をナノ構造体に組入れることである。適当な供与体原子は、例えばリチウム、ベリリウム及びマグネシウムである。代替的に又はさらに加えて、成長させたばかりのナノチューブ及びナノワイヤーもまた、これらの元素及び/又はそれの混合物を含む環境に置くことができる。ホウ素前駆体(ボロンハライド、ジボラン)は、その供与体元素を含む化合物と同様に、例えば光分解により活性化されうる。
【0044】
例えば前記のホウ素ナノチューブのような金属ナノチューブは、リソグラフィーの範囲を超えて、非常に小さい寸法での輪郭規定を達成する無二の機会を提供する。金属ナノチューブにおける輪郭規定効果は、直径、キラリティー、添加物及び温度における変化を通じて、調整されうる。単層ナノチューブのフォトン及び電子構造の両方の劇的な変化は、より高い次元のナノ構造体では到達できない新規な超伝導体挙動の可能性を与える。
【0045】
炭素化合物では、πバンド電子は、Fermi海の最上位にあり、例えばC60ブリージング・モードのような強力な帯状に集中したフォノンに対してのみ弱々しく結び付くことが知られている。逆に、超伝導体であるMgBにおいて、σ−バンドにおける穴は、ホウ素の層の、平面状の結合の伸縮振動に対して非常に強力に(及び選択的に)結び付く、第一の電荷のキャリヤーである。
【0046】
A1−B型の化合物は、本質的に等電子型のグラファイトであり、カチオンから注入された電荷により安定化されているグラファイト様のホウ素平面を備えているので、この超伝導のメカニズムは、他のグラファイト関連化合物についての興味ある可能性を示唆しているかもしれない。例えば、超伝導性が、ホウ素を添加されたダイヤモンドでは絶対温度4Kより下であること、そしてLiを添加されたαホウ素では、絶対温度35Kであることが報告された。ホウ素ナノチューブに、様々なカチオンを貼り付けたり又は組み入れたりできることは、有用な超伝導材料のための、今までにない可能性を提供しうるであろう。
【0047】
前記のように、ホウ素ナノ構造体に付加された、例えばLi、Be及びMgのような電子供与原子は、それらの電子的特性及び超伝導性に影響を及ぼすことが期待される。純粋なホウ素ナノチューブは、850℃から1000℃の間の温度で、Mg蒸気中で加熱することにより、MgBに変換されうる。ナノチューブをB−MCM−41鋳型又はMg−MCM−41鋳型から除かれた状態、又は依然としてその鋳型に結びつけられた状態のいずれにおいても、この変換をおこなうことができる。後者の場合、ナノチューブを有する鋳型を、900℃から1000℃の間の温度に加熱する。同じ方法で、ナノワイヤー及びナノパイプもまた、MgB構造に変換される。
【0048】
ホウ素ナノ構造体には、水素化ホウ素リチウム、または、例えばt−ブチルリチウムリチウムのような有機リチウム試薬を用いて、リチウムを添加することもできる。水素化ホウ素リチウムは、Mg蒸気よりも揮発性が高いので、反応器は、フロー型反応器よりもむしろ密閉反応器であり、その反応器で、ナノチューブが水素化ホウ素リチウムと混合され、ナノチューブがその鋳型の中に在る間、すなわち、合成後であって、しかし鋳型の除去以前に、400℃から1000℃の間の温度に加熱される。
【0049】
ベリリウムは、例えば、有機ベリリウム化合物により開始する同じような方法により取り入れられ、そして同じような物理学的な特性を生じる。しかしながら、この添加原子を取り入れるための特有な方法は、添加剤及び選択された前駆体に依存するということが理解されるであろう。理想的には、前駆体は、取り込まれる金属及び水素及び/又はホウ素のみを含むべきである。供与体である金属ハライドもまた、製造されたナノ構造体に有害な影響をほとんど有しないことが示された。帯磁率測定に基づいた予備的なデータは、Mgを添加されたホウ素ナノチューブの超伝導転移温度T(H=0)は、多結晶MgB、及びより厚みのあるMgBワイヤー(直径約100マイクロメートル)について観察された、絶対温度約36Kである転移温度よりも、顕著に高い(絶対温度100Kくらい)ことを示した。
【0050】
本発明は、詳細に示され且つ記載された好ましい実施態様に関連して開示され、そして一方、それについての種々の修正及び改良は、当業者にとって容易に明らかである。したがって、本発明の精神及び範囲は、次の特許請求の範囲によってのみ制限されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
次の図は、本発明の例証となる実施態様を示す。この実施態様における類似した参照番号は、同様な要素を示す。これらの開示された実施態様は、本発明の実例として理解され、そして、決して限定されるものではない。
【図1】図1は、Mg−MCM−41上で成長した典型的なホウ素単層ナノチューブの高分解能透過電子顕微鏡の画像を示す。
【図2】図2は、図1のナノチューブよりも高温下で成長したホウ素ナノパイプの高分解能透過電子顕微鏡の画像を示す。
【図3】図3は、ナノワイヤーの束の高分解能透過電子顕微鏡の画像を示す。
【図4】図4は、均一な直径を有する一群のナノチューブの高分解能透過電子顕微鏡の画像を示す。
【図5】図5Aは、炭素で被覆した格子上のホウ素ナノ構造体の高分解能電子顕微鏡の画像を示す。図5Bは、図5Aのホウ素ナノ構造体のホウ素K−edge地図である。図5Cは、図5Aのホウ素ナノ構造体の炭素K−edge地図である。
【図6】図6は、ナノチューブの原子配列を示す二つの励起波長におけるホウ素ナノ構造体のラマン・スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100ナノメートル未満の直径を有し、そして電子供与元素を染みこませたホウ素ナノ構造体であって、絶対温度36K超える超伝導転移温度を有する前記のホウ素ナノ構造体からなることを特徴とする一次元超伝導デバイス。
【請求項2】
電子供与元素が、元素周期律表のIa族又はIIa族の元素から選ばれることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
電子供与元素が、リチウム、ベリリウムおよびマグネシウムからなる群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
ホウ素ナノ構造体が、ナノワイヤーを包含することを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
ナノワイヤーが、50ナノメートル未満の直径を有することを特徴とする請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
ホウ素ナノ構造体が、ナノチューブを包含することを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
ナノチューブが、10ナノメートル未満の直径を有することを特徴とする請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
ナノチューブが、単層ナノチューブであることを特徴とする請求項6に記載のデバイス。
【請求項9】
電子供与元素が、マグネシウムを含み、ホウ素ナノ構造体を二ホウ化マグネシウム(MgB)に変換するような濃度でホウ素ナノ構造体に取り込まれていることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
ホウ素ナノ構造体が、ナノファイバーを包含することを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
ナノファイバーが、1ナノメートル未満の直径を有することを特徴とする請求項6に記載のデバイス。
【請求項12】
ホウ素ナノ構造体が、平行又は絡み合って整列している、複数のナノファイバーを包含することを特徴とする請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
ナノファイバーが、ポリエチレン様の鎖状構造に配列されたホウ素原子を包含することを特徴とする請求項11に記載のデバイス。
【請求項14】
ホウ素ナノチューブの直径又は断面積に対して所定の寸法上の関連を有する細孔サイズを有する細孔を備え、さらに、ホウ素と錯体を形成することができ、かつ細孔中に分散される元素を包含する、メソポーラスシリカからなる枠構造物と、
該枠構造物の細孔に配置され、かつ電子供与元素を添加された単層ホウ素ナノチューブと
を含み、
前記ナノチューブが絶対温度36Kより高い超伝導転移温度を有することを包含することを特徴とする超伝導単層ホウ素ナノチューブの配合物。
【請求項15】
細孔に分散された元素が、Mg、B、Ni、Pd、Ce、Co、Mn、Mo、Al及びそれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項14に記載の配合物。
【請求項16】
電子供与元素が、元素周期律表のIa族又はIIa族から選ばれる元素を包含することを特徴とする請求項14の配合物。
【請求項17】
電子供与元素が、リチウム、ベリリウム、マグネシウム又はそれの混合物を包含することを特徴とする請求項14の配合物。
【請求項18】
ホウ素ナノ構造体の直径又は断面積を規定するステップと、
ホウ素ナノ構造体の直径又は断面積に対して所定の寸法上の関連を有する細孔サイズを有する細孔を備えた枠構造物であって、ホウ素と錯体を形成することが可能な元素を包含する前記構造体を選択するステップと、
規定された直径又は断面積を有するホウ素ナノ構造体を製造するために充分な温度で、ホウ素前駆体と枠構造物を反応器中で接触させるステップと
を包含することを特徴とするホウ素ナノ構造体の製造方法。
【請求項19】
枠構造物が、メソポーラスシリカを包含することを特徴とする請求項に記載18の製造方法。
【請求項20】
メソポーラスシリカが、MCM−41を包含することを特徴とする請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
ホウ素と錯体を形成する元素が、Mg、B、Ni、Pd、Ce、Co、Mn、Mo及びAlからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を包含することを特徴とする請求項19に記載の製造方法。
【請求項22】
ホウ素と錯体を形成する元素が、メソポーラスシリカにおいてケイ素に対して同形で置換されることを特徴とする請求項21に記載の製造方法。
【請求項23】
ホウ素と錯体を形成する元素を、メソポーラスシリカに染みこませることを特徴とする請求項21に記載の製造方法。
【請求項24】
メソポーラスシリカを電子供与元素の前駆体に曝すことを、さらに包含することを特徴とする請求項19に記載の製造方法。
【請求項25】
ホウ素前駆体と枠構造物を接触させる工程において、ホウ素前駆体に水素の流れを付加することを包含することを特徴とする請求項18に記載の製造方法。
【請求項26】
電子供与元素の前駆体が電子供与元素の蒸気であることを特徴とする請求項24に記載の製造方法。
【請求項27】
電子供与元素が、元素周期律表のIa族又はIIa族から選ばれることを特徴とする請求項24に記載の製造方法。
【請求項28】
電子供与元素が、リチウム、ベリリウム及びマグネシウムのみからなる群から選ばれることを特徴とする請求項24に記載の製造方法。
【請求項29】
製造されたホウ素ナノ構造体を、マグネシウムを包含する環境に曝し、それによって二ホウ化マグネシウム(MgB)を形成することをさらに含めることを特徴とする請求項18に記載の製造方法。
【請求項30】
ホウ素ナノ構造体が、ナノワイヤーを包含することを特徴とする請求項18に記載の製造方法。
【請求項31】
ナノワイヤーが、50ナノメートル未満の直径を有することを特徴とする請求項30に記載の製造方法。
【請求項32】
ホウ素ナノ構造体が、ナノチューブを包含することを特徴とする請求項18に記載の製造方法。
【請求項33】
ナノチューブが、10ナノメートル未満の直径を有することを特徴とする請求項32に記載の製造方法。
【請求項34】
ナノチューブが、単層ナノチューブであることを特徴とする請求項32に記載の製造方法。
【請求項35】
製造されたナノ構造体を酸化させるステップと、酸化されたナノ構造体をアルカリ性溶液に曝し、それによって製造されたナノ構造体のうちのホウ素ナノチューブのみを保持するステップとをさらに包含することを特徴とする請求項18に記載の製造方法。
【請求項36】
アルカリ性の溶液が、NaOHと、エタノール及び水のうちの少なくとも一つとの混合物を包含することを特徴とする請求項35に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−521664(P2007−521664A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544069(P2006−544069)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【国際出願番号】PCT/US2004/041649
【国際公開番号】WO2005/078814
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(503469393)イエール ユニバーシティ (11)
【Fターム(参考)】