説明

制御弁式鉛蓄電池

【課題】制御弁式鉛蓄電池において、出力特性とサイクル寿命特性とを高いレベルで両立した制御弁式鉛蓄電池を提供すること。
【解決手段】制御弁式鉛蓄電池において、集電耳部を除く正極板の体積V、およびこの集電耳部を除く正極格子体の質量Wにおいて、体積Vに対するWの比率(W/V)を1.20g/cm3以上とし、正極格子体マス目面積S、正極格子体マス目周囲長Lにおいて、面積Sに対する周囲長Lの比率(S/L)が2.3mm以下とし、かつ正極格子体に充填された正極活物質の見掛密度を4.0g/cm3以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御弁式鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電動カート、電動車椅子といった各種電動車が急速に普及しつつある。このような電動車用の電源としては、ニッケル水素蓄電池やリチウム2次電池に比較して安価な制御弁式鉛蓄電池が広く用いられている。
【0003】
電動車用に用いる制御弁式鉛蓄電池では、緩放電容量とともに、急放電時の電圧特性、すなわち出力特性が重視される。特に、急放電特性を改善するためには、極板やこれに用いる格子体を薄型化したり、活物質を低密度化することが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、密閉型鉛蓄電池の高率特性を高めるために、極板およびこれに用いる格子体の厚みを薄く規定し、セルパックの容積あたりの極板表面積を所定値以上に設定することが示されている。
【0005】
また、同じ文献には、活物質ペーストとして、硫酸鉛化された密度が比較的小さなものを用いることが望ましいことが示されている。
【0006】
一方、前記したような電動車用途の電池では、高いレベルのサイクル寿命特性を要求される。一般に、活物質を低密度化し、高率放電特性を高めた場合には、特に充放電サイクルによる正極活物質および正極活物質と格子体界面の劣化が著しく、容量低下が急激に進行し、必要とするサイクル寿命特性が得られない。充放電サイクルによる正極板の劣化は格子表面や活物質内にSbを添加することにより改善されるが、制御弁式鉛蓄電池ではSbの存在により電解液の枯渇や自己放電特性が大幅に低下するためSbを添加することは極めて困難である。
【0007】
また、正極活物質密度を高めることにより、前記したような活物質や格子界面の劣化は抑制されるものの、高率放電特性が急激に低下する。したがって、高率放電特性とサイクル寿命特性とを高いレベルで両立することは困難であった。
【0008】
さらに、通常、電動車用途では、車両の走行距離を伸ばすために電池に回生充電を行うことが行われている。特に、使用者の住環境によっては、走行経路が下り坂から始まったり、走行開始から放電が進行していない、浅い放電深度の状況で下り坂をなる場合がある。このような場合、自宅で満充電された電池が回生充電により、過充電される。このような過充電は、使用者の住環境によって毎回行われる。
【0009】
本発明の発明者らは、放電深度が0もしくは浅い状態からの過充電を含むサイクル寿命特性は特に制御弁式鉛蓄電池の弱点であることを新たに見出したが、有効な対処方法もなく、このような使用方法をとらざるを得ない場合、急激な寿命低下が不可避的に発生していた。
【特許文献1】特開昭63−26963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来困難であった、高率放電特性とサイクル寿命を高いレベルで両立させた、電動車用途に適した制御弁式鉛蓄電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、集電耳部を除く正極板の体積V、および前記集電耳部を除く正極格子体の質量Wにおいて、前記体積Vに対する前記Wの比率(W/V)が1.20g/cm3以上であり、前記正極格子体マス目面積S、前記正極格子体マス目周囲長Lにおいて、前記面積Sに対する前記周囲長Lの比率(S/L)が2.3mm以下であり、かつ前記正極格子体に充填された正極活物質の見掛密度を4.0g/cm3以上としたことを特徴とする制御弁式鉛蓄電池を示すものである。
【発明の効果】
【0012】
前記した本発明の構成によれば、制御弁式鉛蓄電池の出力特性とサイクル寿命特性とを顕著に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態による鉛蓄電池の構成を説明する。
【0014】
図1は本発明の請求項1に係る鉛蓄電池に用いる正極板101を示す図である。なお、図では、理解を助けるために、活物質105を一部脱落させ、格子骨103を露出した表現をしているが、実際の正極板101では、格子骨103は活物質105が充填されている。
【0015】
本発明の制御弁式鉛蓄電池では、集電耳部102を除く正極板101の体積V(cm3)、および、集電耳部102を除く、正極格子体104の質量W(g)において、体積Vに対する質量Wの比率(W/V)が1.20g/cm3以上とする。
【0016】
また、正極格子体マス目面積S、正極格子体マス目周囲長Lにおいて、面積Sに対する周囲長Lの比率(S/L)が2.3mm以下とする。なお、本発明において、マス目周囲長Lおよび面積Sは図2に示した格子マス目201内寸側で計測した値とする。すなわち、図2において周囲長Lはl1、l2、l3およびl4の総和で表される。
【0017】
さらに、本発明では、正極格子体に充填された正極活物質の見掛密度を4.0g/cm3以上としたことを特徴とする。このような構成とすることにより、出力特性に優れ、かつ、サイクル寿命特性に優れた制御弁式鉛蓄電池を得ることができる。
【0018】
なお、比率(W/V)を1.20g/cm3未満としたり、比率(S/L)を2.3mmを超えて大きくした場合には、特に正極活物質の見掛密度が4.0g/cm3以上と比較的高いために、出力特性が急激に低下する。
【0019】
また、比率(W/V)を1.20g/cm3以上、かつ、比率(S/L)を2.3mm以下とした場合において、正極活物質の見掛密度を4.0g/cm3未満とした場合には、優れた出力特性が得られるものの、サイクル寿命特性は急激に低下するため、好ましくない。
【0020】
なお、図2に示したように、比率(S/L)をエキスパンド格子体におけるひし形の格子マス目201に適用した場合、Lを一定として、格子マス目201の2辺がなす角度、例えば、図2における角度θを変化させることにより、比率(S/L)を変化させることができる。本発明では、比率(S/L)を2.3mm以下と小さくすることにより、格子マス目201に充填された正極活物質粒子と格子骨103間の最大距離を小さく設定でき、高密度活物質においても優れた出力特性を得ることができる。
【0021】
なお、本発明の効果を得る上で、比率(S/L)を2.3mm以下、比率(W/V)を1.20g/cm3以上とすることが必要であるが、比率(S/L)を小さく、あるいは比率(W/V)を大きくするにつれて、正極格子体への活物質充填質量が減少するため、あるところを境として放電容量が低下し始める。この値は正極活物質と負極活物質との比率によっても左右されるが、比率(S/L)については、おおむね1.0mm以下、比率(W/V)については2.50g/cm3以上である。
【0022】
また、正極活物質の見掛密度は化成後の値を意味する。正極活物質の見掛密度は鉛粉を水もしくは、水と希硫酸とで練合する際のそれぞれの投入体積および希硫酸中の硫酸濃度によって調整が可能である。特に、見掛密度を低下させるためには、これらの投入体積を減少させ、あるいは希硫酸の硫酸濃度を低下させればよい。
【実施例】
【0023】
エキスパンド格子体を用いた鉛蓄電池用正極板において、前記した比率(W/V)および比率(S/L)と化成後の正極活物質の見掛密度を種々変化させた12V60Ahの制御弁式鉛蓄電池を作成し、出力特性をサイクル寿命特性を評価した。
【0024】
正極活物質ペーストはボールミル鉛粉に水と希硫酸を添加し、練合して得るが、希硫酸濃度を35質量%と一定とし、水量と希硫酸量を変化させることにより、正極活物質の見掛体積を変化させた。
【0025】
正極格子体は、Pb−1.6質量%Sn−0.06質量%Caの0.9mm厚の鉛圧延シートをレシプロエキスパンド加工して得たものであり、活物質充填部(エキスパンド網目部)の寸法は高さ115mm、幅105mmである。なお、集電耳部102と格子骨103間の上部枠骨106は集電耳部102として取扱った。また、本実施例では、下部枠骨は形成していない。
【0026】
比率(W/L)および比率(S/L)は主に、エキスパンド加工における格子骨の切幅と展開幅によって設定する。格子切幅を大きくすると比率(W/L)は大きくなる。また展開幅を大きくすると、比率(W/L)は大きくなるが、特に、角度θが90°までの領域において、(S/L)は大きくなる。
【0027】
上記の正極板11枚と負極板12枚とをガラスマットセパレータで組み合わせて、表1および表2に示す試験電池を作成した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
上記の表1および表2に示した各電池について、以下に示す条件で出力特性およびサイクル寿命特性を評価した。なお、サイクル寿命特性試験としては、電池を満充電とした後に行われる回生充電を想定した試験(サイクル寿命試験A)および回生充電を行わない試験(サイクル寿命試験B)を行った。
【0031】
(1)出力特性
出力特性は、30℃雰囲気中で、SBA 12503−1993(電気自動車用鉛蓄電池に関する技術資料)における30秒目間出力特性を求めた。試験条件は以下の通りである。
【0032】
1)3時間率放電(20A)で1.5時間放電し、放電深度(DOD)を50%に調整する。
【0033】
2)20A、60A、180A、360Aの放電を順次各5秒間行う。但し、放電と放電の間には10分間の休止を行う。
【0034】
3)前記の各放電末期電圧における5秒面電圧(V)と放電電流(I)をプロットし、V−I特性を求める。
【0035】
4)V−I特性においてI=0となるV0を外挿して求め、さらにV0から(2V0/3)を求める。V−I特性において、(2V0/3)に対応するIをIp値として求める。
【0036】
5)上記の放電電流Ipで30秒間放電し、平均放電電圧Vaを求める。
【0037】
6)出力(W)=Ip×Vaとして出力を求める。
【0038】
(2)サイクル寿命特性(A)
1)放電:
放電20A7分休止3分で構成されたパルス放電を電池電圧が9.9Vに低下 するまで繰り返す。
【0039】
2)充電1:
以下の3段定電流充電方式による充電
1段目 12A定電流(電池電圧が14.4Vで2段目に移行)
2段目 6A定電流(電池電圧が14.4Vで3段目に移行)
3段目 1.5A定電流2.5時間
3)休止1:
休止10分
4)充電2:
2kW定電力充電 1分
5)休止2:
休止10分
上記の操作1)〜5)を1サイクルとし、このサイクルを繰り返して行い、1)における放電容量が初期の80%となった時点でのサイクル数を寿命サイクル数とした。なお、サイクル寿命試験(B)は上記のサイクル寿命試験(A)において、充電2を行わない条件である。
【0040】
上記の出力密度測定結果およびサイクル寿命試験結果を表3および表4に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
・サイクル寿命試験(A)について
表3および表4に示した結果から、正極活物質の見掛密度を4.0g/cm3以上とした場合においても、比率(W/V)を1.20g/cm3以上とし、かつ比率(S/L)を2.3mm以下とすることにより、出力特性のした場合、正極活物質見掛密度の増加による出力特性の低下が抑制され、出力特性と回生充電を考慮したサイクル寿命特性を高いレベルで両立できることがわかる。
【0044】
正極活物質の見掛密度を3.6g/cm3とした比較例の電池では、正極活物質自体の軟化と活物質−格子体界面の剥離が進行しており、比率(W/V)や比率(S/L)を様々に変化させても、良い寿命特性を得ることはできなかった。
【0045】
一方、正極活物質の見掛密度を4.0、4.6g/cm3とした比較例の電池では、活物質の軟化自体はそれほど進行していないが、格子−活物質界面の剥離や高抵抗層の形成が認められ、この正極板の要因により寿命低下していた。
【0046】
本発明の電池では、正極における格子−活物質界面の劣化は殆ど進行しておらず、正極活物質の軟化が主要因であった。
【0047】
・サイクル寿命試験(B)について
回生充電を考慮しない、サイクル寿命試験Bにおいては、正極活物質密度の見掛密度を3.6g/cm3とした比較例の電池の寿命特性が比較的良化していた。したがって、回生充電がない場合では、正極活物質密度の低下によるサイクル寿命特性の低下が抑制されていた。また、活物質界面の劣化もサイクル寿命試験(A)の場合に比較して緩和されていた。
【0048】
しかしながら、サイクル寿命(B)に関しても、サイクル寿命(A)と同様、優れたサイクル寿命特性と、出力特性とを両立することができる。
【0049】
以上、本発明によれば、制御弁式鉛蓄電池の出力特性とサイクル寿命特性とを極めて高いレベルで両立できる。特に、電動車用のように、回生充電によって、従来、寿命特性が大幅に低下するような使用モードにおいける寿命特性を顕著に改善できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、出力特性とサイクル寿命特性を高いレベルで両立できることから、これらの性能が要求される、電動車用等の制御弁式鉛蓄電池に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】正極板を示す図
【図2】格子マス目を示す図
【符号の説明】
【0052】
101 正極板
102 集電耳部
103 格子骨
104 正極格子体
105 活物質
106 上部枠骨
201 格子マス目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電耳部を除く正極板の体積V、および前記集電耳部を除く正極格子体の質量Wにおいて、前記体積Vに対する前記Wの比率(W/V)が1.20g/cm3以上であり、前記正極格子体マス目面積S、前記正極格子体マス目周囲長Lにおいて、前記面積Sに対する前記周囲長Lの比率(S/L)が2.3mm以下であり、かつ前記正極格子体に充填された正極活物質の見掛密度を4.0g/cm3以上としたことを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−157613(P2007−157613A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−354415(P2005−354415)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】