説明

制御方法及び無線基地局装置

【課題】無線トラフィックだけでなくネットワークトラフィックに応じた柔軟なトラフィック負荷分散をすると共に、障害発生時に障害基地局エリアの通信端末の通信不能状態を短くできる無線通信方法を提供する。
【解決手段】ネットワークI/F1が定期的にネットワークトラフィック量を測定している。測定したネットワークトラフィック量が増加して閾値より大きくなった時、ネットワークI/F1からの出力により制御部4は記憶部5に記憶された送信出力レベル対応表を参照して、無線I/F2に送信出力レベルを下げるよう指示を出し、無線I/F2は送信出力レベルを下げる。また同時に周りの基地局に対して、送信出力レベルの低下により自局の通信エリア外になったエリア範囲を補うために送信出力レベルを上げる旨の信号を送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムの送信電力制御技術に係り、ネットワークに接続された無線基地局装置で用いられる無線通信方法及び無線基地局装置並びに無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ネットワークに接続された無線通信システムにおいては、無線基地局のパフォーマンス能力や通信トラフィックによって、無線端末側における通信スループットも影響を受ける。無線基地局における通信トラフィックの負荷分散方法については、基地局同士がお互いの伝送速度を交換し、その値を使用して端末をハンドオーバさせた場合の仮伝送速度を更に計算・比較することによって、端末に対してハンドオーバを働きかける基準とする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、何らかの障害により基地局を制御するサーバとの通信が不能になった場合、サーバでそれを検知し、その旨を周りの他の基地局へ送信し、基地局を制御する方法も考えられている。障害が発生した基地局のセルと隣接しているセルを管理している無線基地局に対して下り送信電力を増加させる指示を行い、セル半径を増大することで、障害基地局のセル半径の分を補う方法(例えば、特許文献2参照)や、障害が発生した基地局の周辺基地局から障害が発生した基地局に向けて電源オフコマンドを送信して、障害が発生した基地局の電源をオフする方法があった。(例えば、特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−297621号公報
【特許文献2】特開2003−078938号公報
【特許文献3】特開平11−146033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術においては、無線基地局と無線端末との間の通信における可変の変調方式を予測して計算に使用する等、無線部に焦点を当てている。しかし、無線基地局は無線側とネットワーク回線側の2つのインターフェースを持っており、基地局の処理能力は、無線側の通信トラフィックやパフォーマンスだけではなく、ネットワーク回線側の通信トラフィックやパフォーマンスによっても制限を受ける。また実際にはネットワーク回線側の通信トラフィックも大きく変動する事が予想され、無線側の通信状態が良好であっても、ネットワーク側が不調であれば、その基地局での処理能力が落ちることでシステム全体としての通信は不調となり、必ずしもネットワークトラフィックに応じて柔軟にトラフィック負荷分散することにならないという問題があった。
【0006】
また、従来の技術ではネットワーク回線側においてサーバと、無線基地局との通信が途絶えることにより障害を検知し、ネットワーク回線側よりその旨基地局に通知することになっている。また、その基地局の障害が、ネットワーク機器等のネットワーク回線側の障害であった場合も、自分自身で検知した障害発生に合わせて基地局の通信を停止するか又は、周辺の他の基地局からの無線を通じての電源オフコマンドにより基地局の通信を停止していた。しかし、ネットワーク回線側を使用しての障害通知の場合は、ネットワークの経路によっては障害通知に時間がかかり、障害基地局のエリアをカバーするための周辺の他の基地局の送信制御も遅れることにより、障害基地局からの送信出力の電力ロスが発生するとともに、障害基地局エリア内の通信端末の通信不能状態が長くなるという問題があった。
【0007】
本発明はかかる課題を解決するためになされたもので、無線トラフィックだけでなくネットワークトラフィックに応じた柔軟なトラフィック負荷分散をすると共に、障害発生時に障害基地局エリアの通信端末の通信不能状態を短くする事ができる無線通信方法及び無線基地局装置並びに無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、第1の特徴は、他の無線基地局装置に対して情報を送信することが可能な無線基地局装置における制御方法であって、前記無線基地局装置は、前記他の無線基地局装置に対して、当該無線基地局装置の送信電力レベルが所定レベルよりも小さいか否かを示す情報を送信することを特徴とする制御方法である。また、ネットワークに接続されると共に、無線端末との間において無線通信を行う無線基地局装置における無線通信方法において、前記ネットワーク側の通信状態を検出する第1のステップと、前記第1のステップの検出結果に基づいて、無線送信出力を制御する第2のステップと、前記第2のステップにおいて無線送信出力を下げるときまたはゼロに変更するときには、他の無線基地局装置へ向けて、当該他の無線基地局装置が無線送信出力を上げるために必要な情報を送信する第3のステップとを含む事を特徴とする無線通信方法である。
【0009】
また、第2の特徴は、前記通信状態は通信トラフィックまたは受信レベルであり、前記第2のステップは、前記第1のステップにおいて検出された通信トラフィックまたは受信レベルがゼロの場合に、自局の無線送信出力をゼロとする事を特徴とする請求項1に記載の無線通信方法である。
【0010】
また、第3の特徴は、前記通信状態は通信トラフィックまたは受信レベルであり、前記第2のステップは、前記第1のステップにおいて検出された通信トラフィックまたは受信レベルが予め設定された閾値以上または閾値より大の場合に、自局の無線送信出力を下げる事を特徴とする請求項1に記載の無線通信方法である。
【0011】
また、第4の特徴は、ネットワークに接続されると共に、無線通信端末との間において無線通信を行う無線基地局装置において、前記ネットワーク側の通信状態を検出する検出手段と、前記検出手段における検出結果に基づいて無線送信出力を制御する送信出力制御手段と、を具備する事を特徴とする無線基地局装置である。
【0012】
また、第5の特徴は、前記送信出力制御手段が無線送信出力を下げる時、他の無線基地局装置へ向けて、当該他の無線基地局装置が無線送信出力を上げるために必要な情報を送信する信号送信手段をさらに設けた事を特徴とする無線基地局装置である。
【0013】
また、第6の特徴は、無線通信端末と、ネットワークに接続されると共に前記無線端末との間において無線通信を行う無線基地局装置とからなる無線通信システムにおいて、前記無線基地局装置は、前記ネットワーク側の通信状態を検出する検出手段と、前記検出手段における検出結果に基づいて無線送信出力を制御する送信出力制御手段と、前記送信出力制御手段が無線送信出力を下げる時、他の無線基地局装置へ向けて、当該他の無線基地局装置が無線送信出力を上げるために必要な情報を送信する信号送信手段と、を具備する事を特徴とする無線通信システムである。
【発明の効果】
【0014】
第1の特徴によれば、無線トラフィックだけでなくネットワークトラフィックに応じた柔軟なトラフィック負荷分散をすることができる。
【0015】
第2の特徴によれば、ネットワーク回線障害発生時に障害基地局エリアの通信端末の通信不能状態が短くする事ができる。
【0016】
第3の特徴によれば、通信トラフィックが一定量以上増加した時に、スムーズにトラフィック負荷分散をすることができる。
【0017】
第5の特徴によれば、ネットワークトラフィックに応じた柔軟なトラフィック負荷分散を実現する無線基地局装置を提供することができる。
【0018】
第6の特徴によれば、ネットワークに接続された無線基地局装置と無線端末とのシステム構成で、柔軟なトラフィック負荷分散を実現する無線通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態にかかる無線基地局装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる無線基地局装置で使用するネットワークI/F統計情報の例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる無線基地局装置の記憶部5に記憶された送信出力レベル対応表の例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態にかかる無線基地局装置を含む無線通信ネットワークの全体構成を示す模式図である。
【図5】無線通信ネットワークにおいて、無線基地局装置B4の通信トラフィックが増加した時の図である。
【図6】無線通信ネットワークにおいて、無線基地局装置B4のネットワーク回線に回線障害が発生した時の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は本実施形態による無線基地局装置の構成を示すブロック図である。図1の無線基地局装置は、ネットワーク網に接続されるネットワークI/F(Interface)1(検知手段に対応)と、ネットワークI/F1と接続され、送信出力制御や送受信態様の制御を行うための無線I/F2(信号送信手段に対応)と、無線I/F2に接続されたアンテナ3と、ネットワークI/F1及び無線I/F2の制御を行う制御部4(送信出力制御手段に対応)と、送信出力制御に用いる送信出力レベル対応表が記憶された記憶部5とから構成されている。
【0021】
図2は本実施形態で用いられるネットワークI/F統計情報の例である。ここではMIB(Management Information Base)2による統計情報の例を示している。ネットワークI/F1は統計情報を収集するための機能を備えているものとする。無線基地局のネットワーク回線側のネットワークトラフィック量を測る目安として、ifInOctets(受信オクテット数)と、ifOutOctets(送信オクテット数)との和を使用する。ネットワークI/F1は一定時間内に送受信したネットワークトラフィック量を常に認識しておく。
【0022】
図3は記憶部5に記憶された送信出力レベル対応表の例である。ここでネットワークトラフィック量を混雑度に応じて5段階に分け、段階毎に無線基地局の送信出力レベルを対応させる。各段階を区切る閾値は、経験もしくは計算に基づいた所定の値を割り当てる。閾値0〜閾値1のネットワークトラフィック量が最も少ない段階では、送信出力レベルは一番強いレベル1に対応させ、閾値1〜閾値2の範囲では、送信出力レベルはレベル2に対応させるというように、ネットワークトラフィック量が大きくなるにつれ、送信出力レベルが小さくなるように設定する。
【0023】
ネットワークトラフィックが全くない場合は、ネットワークI/F1に異常があることが考えられるのでここに含めず、正常動作時の最小ネットワークトラフィックを閾値0とする。なお、本実施形態ではネットワークトラフィック量の段階として5つの段階を設けているが、これに限るものではない。
【0024】
図4は本実施形態による無線基地局装置を含む無線システムの全体構成を示す模式図である。図4は、無線基地局B1〜B5及び無線基地局B1〜B5とネットワーク網とを接続する経路R1〜R5と、無線基地局B4のエリア内にある無線通信端末C1とから構成されている。また各無線基地局B1〜B5を取り囲む円は、各無線基地局B1〜B5がカバーしている通信エリアを模式的に表したものである。無線基地局B1〜B5は、経路R1〜R5を通してネットワーク網に接続され上がり下り方向のデータ通信を行うものとする。経路R1〜R5にはルータ、スイッチ等の複数のネットワーク機器が含まれていても良い。
【0025】
次に本実施形態の動作について説明する。ここでは図5のように無線通信基地局B4のネットワークトラフィック量が増加して閾値に達して、送信出力レベルを低下させる場合について述べる。まず、無線通信基地局B4のネットワークI/F1は定期的にネットワークトラフィック量を測定している。測定したネットワークトラフィック量が増加して閾値より大きくなったとする。
【0026】
ネットワークI/F1からのネットワークトラフィック量の出力を受け、制御部4は記憶部5に記憶された送信出力レベル対応表を参照し、無線I/F2に送信出力レベルを下げるよう指示し、無線I/F2が送信出力レベルを下げる。また同時に周りの無線基地局B3、B5に対しては、送信出力レベルの低下により無線基地局B4の通信エリア外になったエリア範囲を補うために無線基地局B3、B5の送信出力レベルを上げる旨の信号を送信する。
【0027】
この無線基地局B4による無線基地局B3、B5へ送信出力を上げる旨の信号の送信は、例えば、次のように行う。すなわち、無線基地局B4は、ネットワークI/F1がネットワークトラッフィック量を測定し、測定したネットワークトラッフィック量が増加して閾値よりも大きくなった場合には、制御部4がネットワークI/F1に対してネットワーク網との通信を中断させるように制御し、さらに、無線I/F2を制御して、当該無線I/F2が無線通信端末からの信号の受信タイミングでも信号を送信する事ができるように送受信態様を変更させる。
【0028】
なお、周りの無線基地局B3、B5がそれ以上送信出力を大きくできない要因が有る場合や、周りの無線基地局B3、B5のネットワークトラフィック量が多く、これ以上のネットワークトラフィック量を処理できない場合は、送信出力レベルの変更を行わないものとする。これとは逆に無線基地局B4のネットワークトラフィック量が減少して、閾値に達した場合は、無線基地局B4は送信出力レベルを上げると共に周りの無線基地局B3、B5にカバーエリアの復旧要求を送信し、送信出力レベルを増加させていた周りの無線基地局B3、B5側では送信出力レベルを元に戻す処理を行う。
【0029】
本実施形態の無線基地局装置において図6のように、無線基地局B4のネットワーク回線側の部分において障害が発生したとする。無線基地局B4のネットワーク回線側の部分に障害が発生した事を制御部4が検知すると、制御部4からの指示により無線I/F2はアンテナを介し周りの無線基地局B3、B5に対して障害が発生した旨の信号を送信する。
【0030】
この場合の無線基地局B4による無線基地局B3、B5へ送信出力を上げる旨の信号の送信は、例えば、次のように行う。すなわち、無線基地局B4は、制御部4がネットワーク回線側に障害が発生した事を検知した場合には、当該制御部4がネットワークI/F1に対してネットワーク網との通信を中断させるように制御し、さらに、当該無線I/F2が無線通信端末からの信号の受信タイミングでも信号を送信する事ができるように送受信態様を変更させる。
【0031】
周りの無線基地局B3、B5は障害発生の通知を受信した後、障害発生した無線基地局B4が隣接した無線基地局である場合は送信出力レベルを変更し、障害発生した無線基地局B4の通信エリアを補完するよう送信出力レベルを上げる。通信エリアが補完された後、障害発生した無線基地局B4の制御部4は無線I/F2に送信出力を停止するよう指示することで速やかに出力を停止し、自分の通信エリアにいる無線端末からの誤通信を防ぐ。
【0032】
障害発生した無線基地局B4が修理などの作業を経て復旧した場合も同様に、速やかに周りの無線基地局B3、B5に対して復旧通知を行うものとする。なお、この場合の復旧通知は無線通信により行っても、ネットワーク側回線を通じて行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、無線通信システムの送信電力制御技術に係り、ネットワークに接続された無線基地局装置で用いられる無線通信方法に用いて好適である。
【符号の説明】
【0034】
1…ネットワークI/F(検知手段)
2…無線I/F(信号送信手段)
3…アンテナ
4…制御部(送信出力制御手段)
5…記憶部
B1〜B5…無線基地局装置
C1…無線端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の無線基地局装置に対して情報を送信することが可能な無線基地局装置における制御方法であって、
前記無線基地局装置は、当該無線基地局装置のセルにおける送信出力を停止した後、前記セルにおける送信出力を再開する場合には、前記他の無線基地局装置に対して、前記送信出力を再開することを示す情報を送信することを特徴とする制御方法。
【請求項2】
他の無線基地局装置に対して情報を送信することが可能な無線基地局装置であって、
前記無線基地局装置のセルにおける送信出力を停止した後で、前記セルにおける送信出力を再開する場合には、前記他の無線基地局装置に対して、前記送信出力を再開することを示す情報を送信することを特徴とする無線基地局装置。
【請求項3】
第1基地局と、第2基地局と、前記第1基地局と前記第2基地局との間で規定された通信手段と、を含む通信システムにおける制御方法であって、
前記第1基地局のセルにおける送信出力が停止されてから当該送信出力が再開されることを示す情報を、前記第2基地局へ送るステップを含む制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−48475(P2013−48475A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−238193(P2012−238193)
【出願日】平成24年10月29日(2012.10.29)
【分割の表示】特願2011−21238(P2011−21238)の分割
【原出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】