説明

制振壁構造および制振壁構造の施行方法

【課題】隣り合う柱間の距離に拘わらず、制振装置を容易に取り付けることができる制振壁構造および制振壁構造の施行方法を提供する。
【解決手段】左右一対の柱3,3間に、内部に制振装置6を備えた制振壁体(左右一対の構造材7,7、上壁部8、下壁部9、制振装置6によって構成されている)5が設けられ、この制振壁体5の構造材7の上端部と上壁部が前記横架材1にガセット10によって連結され、制振壁体5の構造材7の下端部が基礎4に連結金物15によって連結されているので、隣り合う柱6,6間の距離に拘わらず、制振装置6を容易に取り付けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物等の躯体に取り付ける制振壁構造および制振壁構造の施行方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物等の躯体に取り付ける制振装置の一例として、特許文献1に記載のものが知られている。この制振装置は、在来の木造軸組み工法で構築される建物の躯体に取り付けられるものであり、具体的には、梁と土台と左右一対の柱とで囲まれた部位に取り付けられている。
上記のような制振装置は、矩形枠状の矩形フレームと、この矩形フレームに対向して設けられた一対の支持部と、この一対の支持部間に配置され、かつ該一対の支持部によって支持された制振機構とを備えており、矩形フレームの縦方向の長さは梁と土台の間の距離より短く、矩形フレームの横方向の長さは左右の柱間の距離より短くなっている。
このような制振装置によれば、梁、土台、一対の柱によって囲まれた部位に矩形フレームをそのまま配置したうえで、左右に、矩形フレームを接合材を介して剛接合することによって、梁、土台間や左右の柱間の距離が変更されても、制振装置を設計変更する必要なく容易に躯体に取り付けることができる。
【特許文献1】特開2007−9595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前記制振装置は、既存の柱に接合材を介して剛接合することによって取り付けるようにしているので、制振装置を取り付けようとする部分の隣り合う柱間の距離が大きい場合は、制振装置と柱との間の隙間が大きくなりすぎてしまい、接合材を使用しても、制振装置を取り付けるのが困難となる。特に建物のリフォーム時に制振装置を取り付ける場合、隣り合う柱間の距離が大きいことが少なくない。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、隣り合う柱間の距離に拘わらず、制振装置を容易に取り付けることができる制振壁構造および制振壁構造の施行方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、例えば図1に示すように、制振装置6を備えた制振壁構造であって、下端部が土台2に固定され、上端部が横架材1に固定された左右一対の柱3,3間に、内部に制振装置6を備えた矩形状の制振壁体5が設けられ、この制振壁体5の上端部が前記横架材1に連結され、前記制振壁体5の下端部が前記土台2が設置された基礎4に連結されていることを特徴とする。
【0006】
前記横架材としては、梁、桁、胴差等の建物の躯体を構成し、かつ水平に配置される部材が挙げられる。胴差は、木造建築住宅で2階または3階の床を作るための横架材のことであり、建物の外周部分を回すように取りつけられる。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、隣り合う左右一対の柱3,3間に、内部に制振装置6を備えた制振壁体5が設けられ、この制振壁体5の上端部が横架材1に連結され、下端部が基礎4に連結されているので、隣り合う柱6,6間の距離に拘わらず、制振装置6を容易に取り付けることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の制振壁構造において、
前記制振壁体5の上端部は鋼製ガセット10によって前記横架材1に連結され、前記制振壁体5の下端部は連結金物15によって前記基礎4に連結されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、制振壁体5の上端部を鋼製ガセット10によって横架材1に強固に連結でき、制振壁体5の下端部を連結金物15によって基礎4に強固に連結できる。したがって、地震等の際に建物に生じる振動を制振壁体5の内部に設けられた制振装置6に作用させることができ、該制振装置6によって確実に建物の振動を制振できる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の制振壁構造において、
前記制振壁体5は、左右一対の上下に長尺な構造材7,7と、これら構造材7,7の上端部間に設けられるとともに、これら構造材7,7に固定された上壁部8と、前記構造材7,7の下端部間に設けられるとともに、前記構造材7,7に固定された下壁部9と、前記一対の構造材7,7、上壁部8、下壁部9によって囲まれた部分に設けられ、これら一対の構造材7,7、上壁部8、下壁部9に固定された外形が矩形状をなす前記制振装置6とを備え、
前記上壁部8と前記一対の構造材7,7の上端部とが前記横架材1に鋼製ガセット10によって連結され、前記一対の構造材7,7の下端部がそれぞれ前記基礎4に連結金物15によって連結されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、制振壁体5が左右一対の構造材7,7、上壁部8、下壁部9を備え、これら一対の構造材7,7、上壁部8、下壁部9に矩形状をなす前記制振装置6が固定されているので、制振壁体5の内部に容易かつ確実に制振装置6を組み込むことができる。
また、上壁部8と一対の構造材7,7の上端部とが横架材1に鋼製ガセット10によって連結されるので、制振壁体5の上端部を確実かつ強固に横架材1に連結できる。
さらに、一対の構造材7,7の下端部がそれぞれ基礎4に連結金物15によって連結されているので、制振壁体5の下端部を確実かつ強固に基礎4に連結できるとともに、構造材7,7はその側面に制振装置6が固定され、上端部が横架材1に連結され、下端部が基礎4に連結されているので、地震等の際に建物に生じる振動を制振装置6に有効に作用させることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の制振壁構造において、
前記上下に長尺な構造材7は、前記横架材1の下面と前記土台2の上面との間の距離より短く、かつ、前記土台1の上面から前記上壁部8の側方まで延在する構造材本体7aと、この構造材本体7aの上端面と、前記横架材1の下面との間に設けられ、これら構造材本体7aと横架材1とに固定される調整材7bとを備えていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、構造材7が構造材本体7aと調整材7bとを備えているので、調整材7bの長さを調整することによって、横架材1と土台2との間に上下に長尺な構造材7を隙間無くピッタリとはめ込むことができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、例えば図1〜図8に示すように、請求項3または4に記載の制振壁構造を施行する方法であって、
基礎接合金物16と取付金物17とを備えた連結金物15を用意しておき、
まず、前記左右一対の柱3,3間において前記制振壁体5の一対の構造材7を取り付ける位置に対応させて前記基礎4に前記基礎接合金物16をそれぞれ取り付ける一方で、前記構造材7の下端部に前記取付金物17を取り付けておき、
次に、前記基礎接合金物16に前記取付金物17を接合することによって、構造材7の下端部を基礎4に連結するとともに、該構造材7の上端面を前記横架材1の下面に当接し、
次に、前記一対の構造材7,7間に前記下壁部9をその側端面を構造材7の側面に当接し、かつ下端面を前記土台2の上面に当接するようにして配置したうえで、下壁部9を前記一対の構造材7,7および土台2に固定し、
次に、前記一対の構造材7,7間に前記制振装置6を、その下端面と側端面とをそれぞれ前記下壁部9の上端面と構造材7の側面とに当接するようにして配置したうえで、前記下壁部9と構造材7とに固定し、
次に、前記一対の構造材7,7間に前記上壁部8を、その側端面を構造材7の側面に当接し、かつ、下端面を前記制振装置6の上面に当接し、かつ上端面を前記横架材1の下面に当接するように配置したうえで、前記構造材7、制振装置6、横架材1に固定し、
次に、前記上壁部8と構造材4の上端部とを前記横架材1に鋼製ガセット10によって連結することを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、内部に制振装置6を備えた制振壁体5を組立てつつ、基礎4および横架材1に容易かつ確実に連結できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、左右一対の柱間に、内部に制振装置を備えた矩形状の制振壁体が設けられ、この制振壁体の上端部が横架材に連結され、制振壁体の下端部が土台が設置された基礎に連結されているので、隣り合う柱間の距離に拘わらず、制振装置を容易に取り付けることができる。
また、内部に制振装置を備えた制振壁体を組立てつつ、基礎および横架材に容易かつ確実に連結できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明に係る制振壁構造の一例を示す斜視図である。
図1において符号1は木質の建物の躯体を構成する木質の梁(横架材)、符号2は同躯体を構成する木質の土台、符号3は同躯体を構成する木質の柱、符号4は土台2が設置された鉄筋コンクリート製の基礎である。
【0018】
柱3,3は左右一対のものであり、左右に所定間隔離間して配置され、該柱3,3の上端部は梁1に固定され、他端部は土台2に固定されている。
前記柱3,3間には制振壁体5が設けられている。制振壁体5は内部に制振装置6を備えており、正面視矩形状に形成されている。制振壁体5は柱3,3に対して所定の隙間をもって配置されており、柱3,3には接合されていないし、当接もしていない。また、制振壁体5の上端部は梁1に連結され、下端部は基礎4に連結されている。
【0019】
前記制振壁体5は、左右一対の上下に長尺な木質の構造材7,7と、これら構造材7,7の上端部間に設けられるとともに、これら構造材7,7に固定された木質の上壁部8と、構造材7,7の下端部間に設けられるとともに、構造材7,7に固定された木質の下壁部9と、前記一対の構造材7,7、上壁部8、下壁部9によって囲まれた部分に設けられ、これら一対の構造材7,7、上壁部8、下壁部9に固定され、外形が矩形状をなす前記主に金属で構成された制振装置6とを備えている。
【0020】
構造材7は木製の正角部材で形成されたものであり、梁1の下面と土台2の上面との間の距離と上下の長さがほぼ等しいか、若干短めに形成されている。
また、構造材7は、構造材本体7aと、調整材7bとによって構成されている。構造材本体7aは梁1の下面と土台2の上面との間の距離より短く、かつ、土台2の上面から上壁部8の側方まで延在している。調整材7bは構造材本体7aと断面形状が等しく形成されており、構造材本体7aの上端面と梁1の下面とに固定されている。
【0021】
上壁部8はLVL(単板積層材)や合板で形成されてなる矩形板状のものであり、側端面が構造材7,7に固定され、上端面が梁1に固定され、下端面が制振装置6に固定されている。
下壁部9もLVL(単板積層材)や合板で形成されてなる矩形板状のものであり、側端面が構造材7,7に固定され、上端面が制振装置6に固定され、下端面が土台2に固定されている。
【0022】
上壁部8と一対の構造材7,7の上端部とは、梁1に鋼製ガセット10,10によって連結されている。鋼製ガセット10は、上壁部8と構造材7の表裏両面に当接し、それぞれ接着剤によって固定されるとともに、釘を鋼製ガセット10の表面から打ち込むことによって固定される。
なお、左右一対の鋼製ガセット7,7に代えて、一方の構造材7の上端部表面から上壁部8の表面をとおり、他方の構造材7の上端部表面まで延在する左右に長尺な鋼製ガセットを使用してもよい。また、梁1の厚さが薄く、梁1を挟むようにして配置された鋼製ガセット7,7に打ち込む釘がぶつかる恐れがある場合は、鋼製ガセット7,7を水平方向にずらして釘打ちする。
【0023】
また、一対の構造材7,7の下端部はそれぞれ基礎4に連結金物15によって連結されている。
連結金物15は以下のように構成されている。すなわち、図2に示すように、連結金物15は基礎4に接合される一対の基礎接合金物16,16と、構造材7の下端部に取り付けられる取付金物17とによって構成されている。
基礎接合金物16は、基礎4の側面に当接される基礎当接板18と、この基礎当接板18の上端部に水平にかつ基礎当接板18と直角に接合固定された設置板19と、基礎当接板18の側面と設置板19の下面に固定された補強板20とを備えている。
【0024】
基礎当接板18は上下に長尺な長方形板状に形成されたものであり、下端部と中央部とにそれぞれ貫通孔18a,18aが形成されている。この貫通孔18a,18aには基礎4に挿通される基礎挿通部材が挿通されるようになっている。
設置板19は矩形板状に形成されたものであり、土台2の上面に設置されるようになっている。設置板19は、基礎当接板18の上端部から左右方向に突出しているが、一方の方が長く突出し、他方が短く突出している。そして、長く突出している部分が土台2の上面に設置されるようになっている。また、設置板19には、その長く突出した部分に2つのねじ孔19a,19aが形成されている。
補強板20は上下に長尺な長方形板状に形成されたものであり、基礎当接板18および設置板19の双方に直角に接合されている。補強板20は基礎当接板18の左右両側部にそれぞれ接合され、さらに、設置板19の短く突出した部分の下面に接合されている。
【0025】
このような基礎接合金物16,16は、図3に示すように、基礎当接板18,18を基礎4を挟んで対向配置するとともに基礎4の側面に当接し、設置板19,19を土台2の上面に設置し、さらに、一方の基礎当接板18に形成された貫通孔18a,18a、基礎4に形成された挿通孔、他方の基礎当接板18に形成された貫通孔18a,18aに基礎挿通部材21,21を挿通し、該基礎挿通部材21,21の両端部をそれぞれ基礎当接板18,18に固定することによって、基礎4に接合固定される。なお、基礎挿通部材21は、例えば、長尺なボルトによって構成され、このボルトの先端部のねじにナットを螺合して締め付けることによって、基礎挿通部材21,21の両端部をそれぞれ基礎当接板18,18に固定することができる。
【0026】
前記取付金物17は、図2に示すように、設置板19に接合固定される接合板22と、この接合板22に立設された軸部23と、この軸部23の先端部に固定された支持板24と、この支持板24の上面に立設された挿入部25とを備えている。
接合板22は長方形板状に形成されたものであり、その幅は前記設置板19の幅とほぼ等しくなっており、長さは2枚の設置板19,19の長さより若干短くなっている。接合板22の上面の両端部には、長穴22a,22aが形成されており、この長穴22a,22aは下面に開口している。つまり、長穴22a,22aは貫通孔である。長穴22aは、設置板19に形成されたねじ孔19a,19aの設置方向に長く、かつ、該ねじ孔19a,19aに対向して形成されている。したがって、長穴22aにボルト26を挿通し、このボルト26をねじ孔19aに螺合して締め付けることによって、設置板19に接合板22を固定できるようになっている。
【0027】
軸部23は接合板22の上面中央部に立設された円柱状のものであり、その先端部に支持板24が水平に固定されている。支持板24は前記構造材7の下端面を支持するものであり、矩形板状に形成されている。支持板24は構造材7の断面とほぼ同一形状に形成されている。支持板24の中央部には前記挿入部25が立設されている。この挿入部25は円柱状に形成されたものであり、構造材7の下端面に該構造材の軸方向に沿って形成された挿入孔に挿入されることによって、構造材7に固定されるようになっている。なお、挿入部と挿入孔との間には若干の隙間があり、この隙間に接着剤が充填されるようになっている。
【0028】
上記のような構成の取付金物17は、予め工場等において、構造材7の下端部に取り付けられている。
一方、前記基礎接合金物16,16は現場で基礎4に取り付けられる。
そして、図2および図3に示すように、基礎接合金物16,16の設置板19,19に、取付金物17の接合板22を当接したうえで、長穴22a,22aにボルト26,26を挿通し、ねじ孔19a,19aに螺合して締め付けることによって、基礎接合金物16に取付金物17を接合する。これによって、一対の構造材7,7の下端部をそれぞれ基礎4に連結金物15によって連結する。
【0029】
前記制振装置6は外形が矩形状をなすものであり、図1に示すように、外形を構成する矩形枠状の矩形フレーム61と、この矩形フレーム61に対向して設けられた一対の支持部64,64と、この一対の支持部64,64間に配置され、かつ該一対の支持部64,64によって支持された制振機構とを備えている。
矩形フレーム61は、左右一対の縦フレーム62,62と、上下一対の横フレーム63,63とを矩形枠状に組み立てて形成されたものであり、縦フレーム62の端部と横フレーム63の端部はピン結合されている。したがって、矩形フレーム61は左右方向に力が作用すると平行四辺形を形成するようにして変形可能となっている。なお、縦フレーム62、横フレーム63は鉄やアルミニウム等の金属で形成されている。
また、横フレーム63には、後述する制振部材67を備えた制振ボックス69が取り付けられている。
【0030】
前記矩形フレーム61は、一対の構造材7,7、上壁部8、下壁部9によって囲まれた部分に設けられ、これら一対の構造材7,7、上壁部8、下壁部9に固定されている。矩形フレーム61を構成する縦フレーム62は構造材7,7の内側を向く側面に接着剤や木ねじで固定され、上の横フレーム62は上壁部8の下端面に、下の横フレーム62が下壁部9の上端面に、それぞれ接着剤や木ねじで固定されている。
【0031】
前記制振機構は、前記一対の支持部64,64によって支持されて、該一対の支持部64,64が変位した場合に、該一対の支持部64,64間の略中央部を中心として振れるように構成された振り子部材66と、この振り子部材66の端部と前記矩形フレーム61との間に設けられた制振部材67とを備えている。
【0032】
振り子部材66は鉄やアルミニウム等の金属製のものであり、上下に長尺な板状に形成され、長手方向を上下に向けて配置されている。振り子部材66の中央部の左半分は、一方の支持部64に軸68によって回動自在に支持されており、右半分は他方の支持部64に軸68によって回動自在に支持されている。
このように、一対の支持部64,64の先端部によって振り子部材66の長手方向中央部が軸68,68によって回動自在に支持されているので、この振り子部材66は、地震等の振動によって矩形フレーム61が変形して一対の支持部64,64が変位した場合に、該一対の支持部64,64間の略中央部を中心として左右に振れるように構成されている。
なお、前記軸68,68のうち一方の軸68は左右にも若干スライドできるようになっている。
【0033】
前記制振ボックス69の内側面には、例えば高減衰ゴムによって形成された粘弾性体からなる制振部材67が取り付けられており、この制振部材67には、プレート(図示略)が固着されている。そして、このプレートが前記振り子部材66の端部にボルトによって連結されている。したがって、制振部材67は、プレートを介して振り子部材66の端部に取り付けられ、また、制振ボックス69を介して横フレーム63に取り付けられている。
【0034】
前記制振装置6では、地震等の振動によって建物躯体に変形が生じると、一対の構造材7,7から矩形フレーム61を介して、一対の支持部64,64が変位する。一対の支持部64,64が変位することによって、振り子部材66が一対の支持部64,64間の略中央部を中心として振り子のように振れ、この振り子部材66の端部は振れが増幅され、これによって、前記一対の支持部64,64の変位が増幅される。
したがって、振り子部材66の端部と矩形フレーム61との間に設けられている制振部材67の変形を増幅できるので、建物躯体の小さな変形から制振機能を有効に働かせることができるとともに、この制振部材によって振り子部材66の振動を制振し、これによって、矩形フレーム61の振動を制振するようになっている。そして、この矩形フレーム61を制振することによって、構造材7,7を介して建物の振動を制振するようになっている。
【0035】
次に、上記構成の制振壁構造を施行する方法について説明する。
まず、図4に示すように、左右一対の柱間において制振壁体の一対の構造材を取り付ける位置に対応させて基礎4に連結金物15を構成する基礎接合金物16それぞれ取り付ける。図4〜図8においては、図1に示す左右一対の柱3,3は省略してある。
基礎接合金物16は基礎4を挟むようにして、1本の構造材7に対して2つ取り付ける。制振壁体5は2本の構造材7,7を備えているので、基礎接合金物16は合計4つ基礎4に取り付ける。
【0036】
基礎4を挟むようにして設けられた基礎接合金物16,16は、基礎4の両側面にそれぞれ基礎当接板18,18を当接し、設置板19,19を土台2の上面に設置し、さらに、一方の基礎当接板18に形成された18a,18a、基礎4に形成された挿通孔、他方の基礎当接板18に形成された18a,18aに基礎挿通部材21,21を挿通し、該基礎挿通部材21,21の両端部をそれぞれ基礎当接板18,18に固定することによって、基礎4に接合固定する。なお、対向する基礎接合金物16,16の設置板19,19どうしは互いに突き当てた状態としておく。
【0037】
一方、図2に示すように、構造材7の下端部に前記取付金物17を工場等において予め取り付けておく。この場合、取付金物17の支持板24を構造材7の下端面に当接するとともに、挿入部25を構造材7の下端面に形成された挿入孔に挿入し、さらに、挿入部と挿入孔との間の隙間に接着剤が充填することによって、構造材7の下端部に前記取付金物17を取り付ける。
【0038】
次に、図5に示すように、基礎接合金物16,16に取付金物17を接合することによって、構造材7の下端部を基礎4に連結するとともに、該構造材7の上端面を梁1の下面に当接する。
基礎接合金物16,16に取付金物17を接合する場合、図2および図3に示すように、基礎接合金物16,16の設置板19,19に、取付金物16の接合板22を当接したうえで、長穴22a,22aにボルト26,26を挿通し、ねじ孔19a,19aに螺合して締め付けることによって、基礎接合金物16,16に取付金物17を接合する。これによって、構造材7,7の下端部をそれぞれ基礎4に連結金物15によって連結する。
なお、長穴22a,22aに挿通されたボルト26,26は設置板19,19の略中央部に形成されたねじ孔19a,19aに螺合するが、基礎4が厚く、設置板19,19どうしを突き当てて設置できない場合は、設置板19,19の先端部に形成されたねじ孔19a,19aに螺合する。
また、構造材7の上端面を梁1の下面に当接する場合、構造材7の上端部を、基礎接合金物16の設置部19の上面と梁1の下面との間の実測寸法に合わせて切り落とす。
【0039】
なお、構造材7を、梁1の下面と土台2の上面との間の距離より短く、かつ、土台2の上面からこれから取り付けるべき上壁部8の側方まで延在する構造材本体7aと、この構造材本体7aの上端面と、梁1の下面との間に設けられ、これら構造材本体7aと梁1とに固定される調整材7bとを備えた構成とした場合、構造材本体7aの上端部を切り落とすことなく、調整材7bの長さを調整することによって、構造材7の上端面を梁1の下面に当接する。
【0040】
次に、図6(a)に示すように、一対の構造材7,7間に下壁部9をその側端面を構造材7,7の側面に当接し、かつ下端面を土台2の上面に当接するようにして配置したうえで、下壁部9を前記一対の構造材7,7および土台2に固定する。
この場合、図6(b)に示すように、土台2の上面と、構造材7,7の下端部の対向する側面にそれぞれ接着剤Sを塗布し、この接着剤によって接着固定するとともに、図6(a)に示すように、スクリュー釘Kを斜め打ちすることによって固定する。スクリュー釘Kは下壁部9の上端面から構造材7に向けて斜め打ちするとともに、構造材7の外側を向く側面から下壁部9に向けて斜め打ちする。
【0041】
次に、図7に示すように、一対の構造材7,7間に前記制振装置6を、その下端面と側端面とをそれぞれ下壁部9の上端面と構造材7,7の側面とに当接するようにして配置したうえで、下壁部9と構造材7,7とに固定する。
この場合、下壁部9の上端面と、構造材7,7の側面とに接着剤を塗布し、この接着剤によって接着固定するとともに、制振装置6の縦フレーム62,62から構造材7,7に木ねじをねじ込むとともに、下の横フレーム63から下壁部9に木ねじをねじ込むことによって固定する。
【0042】
次に、図8に示すように、一対の構造材7,7間に上壁部8を、その側端面を構造材7,7の側面に当接し、かつ、下端面を制振装置6の上面に当接し、かつ上端面を梁1の下面に当接するように配置したうえで、構造材7,7、制振装置6、梁1に固定する。
この場合、上壁部8の下面と、構造材7,7の上端部の対向する側面にそれぞれ接着剤を塗布し、この接着剤によって接着固定するとともに、スクリュー釘Kを斜め打ちすることによって固定する。スクリュー釘Kは上壁部8から構造材7に、構造材7から上壁部8に、梁1から上壁部8に、梁1から構造材7に向けて斜め打ちする。また、制振装置6の上の横フレーム63に接着剤を塗布し、この接着剤によって上壁部8を横フレーム63に接着固定するとともに、横フレーム63から上壁部8に木ねじをねじ込むことによって固定する。
【0043】
最後に、図1に示すように、上壁部8と構造材7,7の上端部とを下梁1に鋼製ガセット10,10によって連結する。この場合、鋼製ガセット10,10を、上壁部8と構造材7の表裏両面に当接し、それぞれ接着剤によって固定するとともに、釘を鋼製ガセット10の表面から打ち込むことによって固定する。
このようにして、内部に制振装置6を備えた制振壁体5を組立てつつ、基礎4および梁1に容易かつ確実に連結できる。
【0044】
本実施の形態によれば、下端部が土台2に固定され、上端部が梁1に固定された左右一対の柱3,3間に、内部に制振装置6を備えた矩形状の制振壁体5が設けられ、この制振壁体5の上端部が梁1に連結され、制振壁体5の下端部が土台2が設置された基礎4に連結されているので、隣り合う柱3,3間の距離に拘わらず、制振装置6を容易に取り付けることができる。
また、制振壁体5の上端部は鋼製ガセット10によって梁1に連結され、制振壁体5の下端部は連結金物15によって基礎4に連結されているので、制振壁体5の上端部を梁1に強固に連結でき、制振壁体5の下端部を基礎4に強固に連結できる。したがって、地震等の際に建物に生じる振動を制振壁体5の内部に設けられた制振装置6に作用させることができ、該制振装置6によって確実に建物の振動を制振できる。
さらに、制振壁体5が左右一対の構造材7,7、上壁部8、下壁部9を備え、これら一対の構造材7,7、上壁部8、下壁部9に矩形状をなす制振装置6が固定されているので、制振壁体5の内部に容易かつ確実に制振装置6を組み込むことができる。
【0045】
また、上壁部8と一対の構造材7,7の上端部とが梁1に鋼製ガセット10によって連結されるので、制振壁体5の上端部を確実かつ強固に梁1に連結できる。
加えて、一対の構造材7,7の下端部がそれぞれ基礎4に連結金物15,15によって連結されているので、制振壁体5の下端部を確実かつ強固に基礎4に連結できるとともに、構造材7,7はその側面に制振装置6が固定され、上端部が梁1に連結され、下端部が基礎4に連結されているので、地震等の際に建物に生じる振動を制振装置5に有効に作用させることができる。
また、構造材7を構造材本体7aと調整材7bとを備えた構成し、調整材7bの長さを調整することによって、梁1と土台2との間に上下に長尺な構造材7を隙間無くピッタリとはめ込むことができる。
【0046】
なお、本実施の形態では、取付金物17を予め工場等において構造材7の下端部に取り付けておいたが、現場で取り付けてもよい。また、現場で基礎接合金物16に取付金物17を取り付けておき、この取付金物17に構造材7の下端部を取り付けてもよい。
【0047】
また、本実施の形態では、連結金物15を基礎接合金物16,16と、取付金物17とによって構成したが、基礎接合金物16の代わりに、図9および図10に示すような基礎接合金物30を使用してもよい。
基礎接合金物30は、基礎4の側面に当接される基礎当接板31と、この基礎当接板31の上端部に水平にかつ基礎当接板31と直角に接合固定された設置板19と、基礎当接板31の側面と設置板19の下面に固定された補強板32,32とを備えている。
【0048】
基礎当接板31は上下に長尺な長方形板31aと、この長方形板31aの下端部に左右に長尺に形成された長方形板31bとで構成された略逆T字状に形成されたものであり、左右に長尺な長方形板31bの両端部にはそれぞれ貫通孔31c,31cが形成されている。この貫通孔31c,31cには基礎4に挿通される基礎挿通部材21が挿通されるようになっている。
設置板19は矩形板状に形成されたものであり、土台2の上面に設置されるようになっている。設置板19は、基礎当接板18の上端部から左右方向に突出しているが、一方の方が長く突出し、他方が短く突出している。そして、長く突出している部分が土台2の上面に設置されるようになっている。また、設置板19には、その長く突出した部分に2つのねじ孔19a,19aが形成されている。
補強板32は上下に長尺な長方形板状に形成されたものであり、基礎当接板31および設置板19の双方に直角に接合されている。補強板32は基礎当接板31の左右両側部にそれぞれ接合され、さらに、設置板19の短く突出した部分の下面に接合されている。
【0049】
このような基礎接合金物30,30は、図10に示すように、基礎当接板31,31を基礎4を挟んで対向配置するとともに基礎4の側面に当接し、設置板19,19を土台2の上面に設置し、さらに、一方の基礎当接板31に形成された貫通孔31c,31c、基礎4に形成された挿通孔、他方の基礎当接板18に形成された貫通孔31c,31cに基礎挿通部材21,21を挿通し、該基礎挿通部材21,21の両端部をそれぞれ基礎当接板30,30に固定することによって、基礎4に接合固定される。なお、基礎挿通部材21は、例えば、長尺なボルトによって構成され、このボルトの先端部のねじにナットを螺合して締め付けることによって、基礎挿通部材21,21の両端部をそれぞれ基礎当接板30,30に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る制振壁構造の一例を示すもので、斜視図である。
【図2】同、連結金物を示す斜視図である。
【図3】同、構造材を連結金物によって基礎に連結した状態を示す要部の斜視図である。
【図4】同、基礎に基礎接合金物を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図5】同、連結金物によって構造材を基礎に連結した状態を示す斜視図である。
【図6a】同、連結金物によって構造材を基礎に連結した状態を示す斜視図である。
【図6b】同、構造材間に下壁部を組み込んだ状態を示す斜視図である。
【図7】同、構造材間に制振装置を組み込んだ状態を示す斜視図である。
【図8】同、構造材間に上壁部を組み込んだ状態を示す斜視図である。
【図9】同、基礎接合金物の他の例を示す斜視図である。
【図10】同、構造材を連結金物によって基礎に連結した状態を示す要部の斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
1 梁(横架材)
2 土台
3 柱
4 基礎
5 制振壁体
6 制振装置
7 構造材
8 上壁部
9 下壁部
10 鋼製ガセット
15 連結金物
16,30 基礎接合金物
17 取付金物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端部が土台に固定され、上端部が横架材に固定された左右一対の柱間に、内部に制振装置を備えた矩形状の制振壁体が設けられ、この制振壁体の上端部が前記横架材に連結され、前記制振壁体の下端部が前記土台が設置された基礎に連結されていることを特徴とする制振壁構造。
【請求項2】
請求項1に記載の制振壁構造において、
前記制振壁体の上端部は鋼製ガセットによって前記横架材に連結され、前記制振壁体の下端部は連結金物によって前記基礎に連結されていることを特徴とする制振壁構造。
【請求項3】
請求項2に記載の制振壁構造において、
前記制振壁体は、左右一対の上下に長尺な構造材と、これら構造材の上端部間に設けられるとともに、これら構造材に固定された上壁部と、前記構造材の下端部間に設けられるとともに、前記構造材に固定された下壁部と、前記一対の構造材、上壁部、下壁部によって囲まれた部分に設けられ、これら一対の構造材、上壁部、下壁部に固定された外形が矩形状をなす前記制振装置とを備え、
前記上壁部と前記一対の構造材の上端部とが前記横架材に鋼製ガセットによって連結され、前記一対の構造材の下端部がそれぞれ前記基礎に連結金物によって連結されていることを特徴とする制振壁構造。
【請求項4】
請求項3に記載の制振壁構造において、
前記上下に長尺な構造材は、前記横架材の下面と前記土台の上面との間の距離より短く、かつ、前記土台の上面から前記上壁部の側方まで延在する構造材本体と、この構造材本体の上端面と、前記横架材の下面との間に設けられ、これら構造材本体と横架材とに固定される調整材とを備えていることを特徴とする制振壁構造。
【請求項5】
請求項3または4に記載の制振壁構造を施行する方法であって、
基礎接合金物と取付金物とを備えた連結金物を用意しておき、
まず、前記左右一対の柱間において前記制振壁体の一対の構造材を取り付ける位置に対応させて前記基礎に前記基礎接合金物をそれぞれ取り付ける一方で、前記構造材の下端部に前記取付金物を取り付けておき、
次に、前記基礎接合金物に前記取付金物を接合することによって、構造材の下端部を基礎に連結するとともに、該構造材の上端面を前記横架材の下面に当接し、
次に、前記一対の構造材間に前記下壁部をその側端面を構造材の側面に当接し、かつ下端面を前記土台の上面に当接するようにして配置したうえで、下壁部を前記一対の構造材および土台に固定し、
次に、前記一対の構造材間に前記制振装置を、その下端面と側端面とをそれぞれ前記下壁部の上端面と構造材の側面とに当接するようにして配置したうえで、前記下壁部と構造材とに固定し、
次に、前記一対の構造材間に前記上壁部を、その側端面を構造材の側面に当接し、かつ、下端面を前記制振装置の上面に当接し、かつ上端面を前記横架材の下面に当接するように配置したうえで、前記構造材、制振装置、横架材に固定し、
次に、前記上壁部と構造材の上端部とを前記横架材に鋼製ガセットによって連結することを特徴とする制振壁構造の施行方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6a】
image rotate

【図6b】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−2080(P2009−2080A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165267(P2007−165267)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(307042385)ミサワホーム株式会社 (569)
【Fターム(参考)】