説明

制振床構造

【課題】振動を減衰させる減衰材がクリープにより変形するのを抑制し、制振効果を長期に渡って保持可能な制振床構造を提供する。
【解決手段】この制振床構造は、平板状の床材が、互いに間隔をあけて配列された複数の鋼製横架材1により支持されている。この制振床構造では、少なくとも3本以上の鋼製横架材1に交差する交差部材2が設けられている。交差部材2は、少なくとも2本の鋼製横架材1aに対して固定されている。また、少なくとも1本の鋼製横架材1bに対して固定されずに、鋼製横架材1bに対して少なくとも上下に相対的に変位自在に貫通孔14bに挿入されている。交差部材2と、この交差部材2に交差するとともにこの交差部材2に固定されない鋼製横架材1bとの間には、これら交差部材2と鋼製横架材1とが相対的に少なくとも上下方向に変位した際にせん断力が作用するように減衰材5が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床の振動を減衰する制振床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大きな店舗や集合住宅だけでなく、住宅用の建築物、すなわち、戸建住宅においても、開放感ある大きな空間のニーズがあり、例えば、広い居間(リビングダイニングや、リビングダイニングキッチンを含む)を設けることが行われている。
この場合に、広い居間の上の階において、たとえば、床面を支持する横架材を、大きなスパンを有するものとする場合に、木材ではなく、H型鋼が用いられる機会が増えている。
【0003】
大スパンの床梁を採用する床は、振動に関して減衰が悪くなる傾向があり、歩行時等の床振動が問題となる。
そこで、床振動を低減するために、構造計算による断面性能より大きな断面を有する床梁を用いたり、床梁の配設ピッチを細かくするなどの対策が講じられている。
【0004】
また、床張用面材を支持する溝形鋼からなる床梁の下部フランジに振動吸収材を介して、鋼材を長手方向に沿って接合した床梁の振動抑制構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、床梁の床材を支持する支持位置で、床梁が防振ゴムを介して床材を支持している構造が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、床を支持する床梁の両側に、床梁の両端の下方から中央部にかけて上り勾配となる2つの直状部材を配置し、斜めに配置される直状部材の下端側を建築物側に固定し、直状部材の上端側を不動点とし、この不動点と床梁の長さ方向の中央部との間に制振装置を設けたものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−115364号公報
【特許文献2】特開2006−283372号公報
【特許文献3】特開2002−70228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の床構造では、床梁(横架材)の下部と、鋼材との相対的な変位のずれが小さく、振動吸収材による振動減衰効果が発揮され難い。例えば、振動減衰効果を期待できるようにするには、鋼材を床梁の長手方向の長さの大半の部分に対して接着しなければならず、作業性およびコストの面で問題がある。
【0008】
また、特許文献2の床構造では、防振ゴムに床重量が直接かかるため、防振ゴムにクリープが生じてしまい、耐久性に問題がある。
また、特許文献3の床構造では、床梁との間に減衰材が配置される不動点を設けるので、構造が煩雑になるとともに施工時の作業が増加することになり、製作性や、コストの面で問題がある。
【0009】
また、減衰材に直接床重量がかかる構造でなくても、減衰材に常時荷重が作用する構造となっていると、減衰材のクリープ等により床の振動を制振する構造の耐久性に問題が生じる。また、施工性の観点から見た場合に床構造の床の荷重を長期に常時受ける部分のたわみ代を想定して減衰材の厚さ等を調整して設計することになる。しかし、床のたわみは積載荷重の変化による変動があり、また、床梁等の横架材が木造の場合には横架材自体がクリープにより変形することから、長期の間に生じるたわみによる変位量を推定することが困難である。したがって、上述の設計時の減衰材の厚み等ではたわみに対応できなくなり、長期の減衰効果を期待できない虞がある。
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、低コストで容易に施工が可能で、振動を減衰させる減衰材がクリープにより変形するのを抑制し、床梁等の横架材の床からの長期の荷重の影響によるたわみやクリープにも対応し、制振効果を長期に渡って保持可能な制振床構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の制振床構造は、平板状の床材が、互いに間隔をあけて配列された複数の鋼製横架材により支持されている制振床構造であって、
少なくとも3本以上の鋼製横架材に交差する交差部材が設けられ、
前記鋼製横架材のうちの前記交差部材が貫通する鋼製横架材に、この交差部材が貫通する貫通孔が形成され、
前記交差部材は、少なくとも2本の前記鋼製横架材に対して固定され、かつ、少なくとも1本の前記鋼製横架材に対して固定されずに、当該鋼製横架材に対して少なくとも上下に相対的に変位自在に前記貫通孔に挿入され、
前記交差部材と、この交差部材に交差するとともにこの交差部材に固定されない前記鋼製横架材との間には、これら交差部材と鋼製横架材とが相対的に少なくとも上下方向に変位した際にせん断力が作用するように減衰材が設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項1に記載の発明においては、床上を人が歩行するなどして床に衝撃が加えられると、床梁としての鋼製横架材が弓形にたわむように上下方向に変形し、それにより鋼製横架材が振動することになるが、これを交差部材と減衰材とにより減衰することができる。
すなわち、各鋼製横架材は、その位置の違いにより床が振動した際に、振動に位相差が生じ、各鋼製横架材に変位差が生じている。交差部材は、少なくとも2本の鋼製横架材に固定されているので、交差部材の離れた2点がそれぞれ鋼製横架材の変位と同様に変位することになる。この場合、交差部材が固定される2本の鋼製横架材に振動の位相差が小さければ、交差部材は略上下に移動し、鋼製横架材の振動の位相差が大きければ、交差部材が斜めとなるように回転移動する状態となる。
【0013】
この交差部材と、交差部材に固定されずに交差部材との間に減衰材が介在する鋼製横架材との間にも変位差が生じており、交差部材に固定されていない鋼製横架材と、交差部材との間に生じる変位差が減衰されることで、鋼製横架材の振動が減衰されて振動が抑制される。この際に交差部材の変位も減衰されるので、交差部材に固定されている鋼製横架材の振動も減衰させられる。これにより、床の振動を抑制することができる。
【0014】
また、減衰材は、交差部材と、この交際部材と交差して固定されていない鋼製横架材との間に配置される際に、例えば、交差部材の垂直な面と、鋼製横架材の垂直な面との間に配置され、交差部材と鋼製横架材とで上下方向の変位に変位差が生じた場合に上下方向のせん断力に基づくせん断変形が生じるようになっている。また、交差部材は、床梁となる鋼製横架材どうしに架け渡されて配置されるが、床の荷重は作用しておらず、鋼製横架材に支持されている状態なので、減衰材の部分に床の荷重が作用することがない。したがって、減衰材が床の荷重で押し潰されたり、クリープするようなことがなく、減衰材の耐久性に問題が生じるのを防止できる。
【0015】
また、長期使用により各鋼製横架材のたわみ量が多くなるような場合でも、各鋼製横架材でたわみ量に大きな差が生じる可能性が低く、各鋼製横架材のたわみ量が増加するとともに、交差部材の位置も下がることになる。また、各鋼製横架材でたわみ量に差が生じた場合でも、予め、交差部材の外周面と、交差部材が貫通する鋼製横架材の貫通孔の内周面との間に十分な間隔を確保することで、貫通孔を貫通する交差部材が貫通孔を有する鋼製横架材に対して相対的に上下に変位不可能となることがなく、長期に渡って振動抑制効果を維持することが可能である。
【0016】
また、床の振動の減衰に係る主な部材が、一部の鋼製横架材に固定される交差部材と、この交差部材に固定されていない鋼製横架材と交差部材との間に配置される減衰材とであり、不動点を設けるために、床構造以外の部分に繋がるような部材を必要としないことから施工コストの低減と施工性の向上を図ることができる。
【0017】
請求項2に記載の制振床構造は、請求項1に記載の発明において、前記交差部材が固定される前記鋼製横架材と、前記交差部材との間に前記減衰材が設けられている前記鋼製横架材とでは、剛性が異なることを特徴とする。
【0018】
請求項2に記載の発明においては、上述のように一部の鋼製横架材に固定された交差部材と、交差部材に固定されていない鋼製横架材との間に、各鋼製横架材の振動の位相差等により変位差が生じる。さらに、交差部材が固定される鋼製横架材と、交差部材との間に減衰材が設けられている鋼製横架材とでは、剛性が異なることから、床が振動した際の変位量に差がでることになる。すなわち、剛性が低い鋼製横架材の方が、それより剛性が高い鋼製横架材と比較して大きく曲がることになり、これによっても一部の鋼製横架材に固定された交差部材と、交差部材に固定されていない鋼製横架材との間に変位差が生じ、上述の減衰材により床の振動を効率的に減衰することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の制振床構造によれば、一部の鋼製横架材に固定される交差部材と、交差部材に固定されていない鋼製横架材との間に減衰材を介在させることで鋼製横架材の振動を効率的に減衰することができ、床の振動を抑制することができる。
また、減衰材の部分には、圧縮力ではなく、せん断力が作用するようになっており、長期使用によるクリープの発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係る制振床構造の鋼製横架材と交差部材を示す概略平面図である。
【図2】前記鋼製横架材の側面図である。
【図3】前記鋼製横架材の交差部材が交差する部分の断面図である。
【図4】前記制振床構造の変形例である制振床構造の交差部材が交差する部分の断面図である。
【図5】前記制振床構造の長期荷重の影響を説明するための図であって、(a)は施工直後の制振床構造を示す要部断面であり、(b)は施工から長期の期間経過後の制振床構造を示す要部側面図である。
【図6】比較例の制振床構造の長期荷重の影響を説明するための図であって、(a)は施工直後の制振床構造を示す要部断面であり、(b)は施工から長期の期間経過後の制振床構造を示す要部側面図である。
【図7】前記制振床構造の別の変形例を示す概略平面図である。
【図8】前記制振床構造における交差部材と鋼製横架材との固定と非固定のパターンを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1に示すように、この実施の形態の制振床構造は、互いに間隔をあけて平行に配置された3本以上の鋼製横架材1(1a,1b)と、これらの鋼製横架材1a、1bの上面上に配置されてこれらの鋼製横架材1a,1bに接合される平板状の床材(図示略、例えば床合板)と、少なくとも3本以上の鋼製横架材1a,1bに渡って、これら鋼製横架材1a,1bと交差して配置される交差部材2とを備えている。
【0022】
この制振床構造は、木造建築物に鉄骨からなる床梁としての鋼製横架材1a,1bを用いたものであり、例えば、木造建築物の2階や3階の床を構築するためのものである。
【0023】
鋼製横架材1a,1bは、上フランジ11と、下フランジ12とそれらを繋ぐウェブ13とからなり、その両端部が柱、梁(胴差し)、構造壁等の構造体3に支持されている。
また、少なくとも3本以上の鋼製横架材1a,1bが互いに平行に間隔をあけて配置さている。鋼製横架材1a,1bの上側のフランジ11の上面は、同じ高さレベルに配置され、平板状の床材を支持するようになっている。
【0024】
図2および図3に示すように、各鋼製横架材1(1a,1b)のウェブ13には、交差部材2が貫通する例えば円形の貫通孔14(14a,14b)が形成されている。各鋼製横架材1a,1bに対して直交して配置される交差部材2に対応して、貫通孔14a,14bの中心位置は、各鋼製横架材1a,1bにおいて、軸方向に沿った位置と、高さ位置とが同じとなっている。
【0025】
この実施形態の鋼製横架材1a,1bには、交差部材2に固定される固定鋼製横架材1aと、交差部材2に固定されず、直接的に交差部材2に接触しない非固定鋼製横架材1bとがある。なお、複数の交差部材2を配置する場合に、交差部材2によって、交差部材2に固定される固定鋼製横架材1aと、交差部材2に固定されない非固定鋼製横架材1bとが異なる場合がある。
【0026】
固定鋼製横架材1aと、非固定鋼製横架材1bとを同じH形鋼からなるものとしても良いが、この実施形態では、図3に示すように、固定鋼製横架材1aと、非固定鋼製横架材1bとで断面形状、すなわち、フランジ11,12や、ウェブ13の厚みが異なるものとしている。さらに、フランジ11,12や、ウェブ13の幅が異なるものとしてもよい。これにより、固定鋼製横架材1aと非固定鋼製横架材1bとで、剛性が異なるものとなっている。なお、図3においては、固定鋼製横架材1aよりフランジ11,12の厚みが薄くされていることによって剛性が低くなっている非固定鋼製横架材1bが、床振動時に大きく変位し、固定鋼製横架材1aと、非固定鋼製横架材1bとの間に変位差が生じた状態が図示されている。
【0027】
また、固定鋼製横架材1aに形成される貫通孔14は、その内径が、交差部材2を挿入できる程度のクリアランス分だけ交差部材2の外径より大きくなっている。すなわち、鋼製横架材1aの貫通孔14の内径は、交差部材2の外径と略同様となっている。
【0028】
それに対して、非固定鋼製横架材1bに形成される貫通孔14は、その内径が、交差部材2の外径より大きく、交差部材2の外周面と、鋼製横架材1bの貫通孔14の内周面とが接触しない構成となっている。
また、後述のように、交差部材2と、非固定鋼製横架材1bとにおいては、床が振動した場合に、変位差が生じるので、この変位差によって、交差部材2の外周面と、貫通孔14の内周面とが接触しないように、これらの間の間隔が設定されている。
【0029】
さらに、鋼製横架材1bのたわみが長期的に大きくなるのを見込んで、各鋼製横架材1bのたわみ量にずれが生じた状態で交差部材2と鋼製横架材1bに上述の変位差が生じても、交差部材2の外周面と、鋼製横架材1bの貫通孔14の内周面とが接触しない程度に、交差部材2の外周面と、貫通孔14の内周面との間の間隔が設定されている。
ただし、基本的には、全ての鋼製横架材1a,1bにおいて、長期的にたわみが増大する傾向となるので、各鋼製横架材1a,1bに大きなたわみ量の差が生じることはない。
【0030】
複数の鋼製横架材1a,1bに対して1本以上の交差部材2が配置されている。この実施形態において、交差部材2は、例えば、円管状の鋼材(パイプ、鋼管)であり、鋼製横架材1のウェブ13を貫通した状態に配置されている。なお、交差部材2としては、各種形鋼(鋼材)を用いることができるとともに、交差部材2を木製としてもよい。
【0031】
図1から図3に図示された制振床構造においては、左右の構造体3に対して、3本の鋼製横架材1の左右端部がそれぞれ固定されている。
したがって、鋼製横架材1a,1bは、左右の鋼製横架材1aと、中央の鋼製横架材1bとからなり、交差部材2は、3本の鋼製横架材1a,1bに交差するとともに、これら鋼製横架材1a、1bのウェブ13部分を貫通している。また、交差部材2は、左右の鋼製横架材1aに固定され、中央の鋼製横架材1bには固定されていない。
【0032】
これによって、交差部材2に対して、左右の鋼製横架材1aが固定鋼製横架材1aとなり、中央の鋼製横架材1bが非固定鋼製横架材1bとなる。固定鋼製横架材1aのウェブ13の貫通孔14aに交差部材2が貫通した状態で、交差部材2の外周面に固定される2つの環状の固定部材21がウェブ13を間に挟んで配置されている。環状の固定部材21は、内周面が交差部材2の外径と略同様の内径を有し、固定部材21の内側に交差部材2が挿入された状態となっている。
【0033】
固定部材21と交差部材2とは溶接や接着により固定されている。交差部材2の一対の固定部材21は、交差部材2に固定された状態で、上述のように鋼製横架材1のウェブ13を挟むように配置されて、ウェブ13に固定されている。これにより、交差部材2が固定部材21を介して固定鋼製横架材1aに固定されている。
【0034】
交差部材2は、非固定鋼製横架材1bの貫通孔14bを貫通している。上述のように固定鋼製横架材1aに固定された状態で、交差部材2の中心が、非固定鋼製横架材1bの貫通孔14bの略中心に配置されている。この交差部材2の外周面と、貫通孔14bの内周面との間には、上述のように間隔があいた状態となっている。これにより、非固定鋼製横架材1bに対して、交差部材2が非固定鋼製横架材1bの軸方向に直交する方向に移動可能となっている。
【0035】
交差部材2の非固定鋼製横架材1bのウェブ13の左右にはそれぞれ、環状の摩擦減衰材5が配置されている。環状の摩擦減衰材5の内周側を交差部材2が貫通した状態となっているとともに、摩擦減衰材5が交差部材2に取り付けられている。摩擦減衰材5は、交差部材2に対して、交差部材2に直交する方向に一体に移動可能となっている必要があるが、交差部材2の軸方向に摩擦減衰材5が移動自在となっていてもよい。
【0036】
一対の摩擦減衰材5はそれぞれ、貫通孔14aを有するウェブ13の左右側面において、貫通孔14aの周囲の部分に面接触した状態となっている。また、一対の摩擦減衰材5は、ボルト61とナット62により、ウェブ13を挟んで締め付けられた状態となっているが、固定されるほど強くは締め付けられず、摩擦減衰材5に対してウェブ13が移動可能となっている。したがって、交差部材2と、非固定鋼製横架材1bとの間に上述の変位差が生じた場合に、摩擦減衰材5が交差部材2と一体に、非固定鋼製横架材1bに対して相対的に変位することになる。この際に、摩擦減衰材5とウェブ13との間に摩擦力が作用するようになっている。したがって、床が振動した際に、交差部材2と非固定鋼製横架材1bとの間に変位差が生じると、摩擦減衰材5により摩擦力で振動が減衰させられる。
また、摩擦減衰材5は、ウェブ13に対して押し付けられて摩擦力が作用する状態で、交差部材2と一体にウェブ13に対して変位するので、上下方向にせん断力が作用することになる。
【0037】
このような制振床構造の施工においては、予め鋼製横架材1a,1bに貫通孔14a,14bを設け、この鋼製横架材1a,1bを対向する構造体3間に架け渡して固定する。次いで、貫通孔14a,14bに交差部材2を挿入させる。この際に、順次、固定部材21および摩擦減衰材5に交差部材2を挿入させることで、固定部材21および摩擦減衰材5が鋼製横架材1a、1b間の所定位置に配置されるようにする。
【0038】
次いで、交差部材2の固定鋼製横架材1aのウェブ13の左右にそれぞれ固定部材21を固定するとともに、固定部材21をウェブ13に固定し、交差部材2に固定鋼製横架材1aを固定する。
また、摩擦減衰材5を鋼製横架材1bのウェブ13の左右に配置し、摩擦減衰材5を交差部材2と一体に交差部材2の軸方向と直交する方向に移動自在とする。また、ウェブ13を挟んだ状態の一対の摩擦減衰材5どうしをボルト61とナット62により締め付けて、一対の摩擦減衰材5とそれらの間のウェブ13とに圧力をかけてこれらの間に摩擦力が作用するようにする。
【0039】
この制振床構造にあっては、交差部材2が固定鋼製横架材1aに離れた2点を固定されることで、歩行等により床が振動した際に、これら固定鋼製横架材1aの変位に対応して変位する。また、非固定鋼製横架材1bも変位する。この際に、各鋼製横架材1a,1bは、それらの位置の違いによる位相差と、剛性の違いによる変位量の違いとにより、交差部材2と非固定鋼製横架材1bとの間に変位差が生じる。これにより、摩擦減衰材5と非固定鋼製横架材1bとの間に摩擦力が発生し、交差部材2と非固定鋼製横架材1bとの間の変位差を有する振動を効率的に減衰する。これにより、床の振動が抑制される。
【0040】
また、振動の減衰に摩擦力を利用し、摩擦減衰材5に床の荷重が直接作用せず、摩擦減衰材5とウェブ13との間にせん断方向の力が作用するだけなので、摩擦減衰材5がクリープ等の影響を受けることがない。言い換えると、摩擦減衰材5と非固定鋼製横架材1bのウェブ13との間で上下方向のせん断力が作用する状態とすることで、摩擦による減衰が可能となり、減衰に弾性体や粘弾性体を使用しない構成とできるので、弾性体や粘弾性体のクリープによる影響を受けない。
【0041】
また、上述のように交差部材2の外周面と、非固定鋼製横架材1bの貫通孔14bの内周面に十分な間隔(上下方向の間隔)を確保しておけば、鋼製横架材1a,1bのたわみが大きくなるように長期的に変形するとともに、各鋼製横架材1a,1bのたわみ量に差が生じても、交差部材2と非固定鋼製横架材1bとが直接的に接触することがない。これにより、長期的に制振機能を維持することができる。
【0042】
また、鋼製横架材1a、1bに対して交差するように交差部材2を配置し、それぞれの鋼製横架材1a、1bに対して、固定したり減衰材を介在させたりすることで、制振床構造が構築されるので、建築物の他の部分から不動点を設け、不動点と鋼製横架材1a,1bとの間に減衰材を配置するより、スペース効率を向上できるとともに、低コストで容易に施工可能とすることができる。
【0043】
なお、減衰材は摩擦による摩擦減衰材5に限られず、オイル等の粘性体を利用する減衰装置や、弾性体または粘弾性体を用いたもの等を用いることができる。
図4は、制振床構造の変形例を示すもので、交差部材2と非固定鋼製横架材1bとの間に減衰材51として粘弾性体が用いられている。
【0044】
この変形例においては、交差部材2の非固定鋼製横架材1bのウェブ13の左右にそれぞれ環状の対向部材52が固定されている。環状の対向部材52の内周側に交差部材2が貫通した状態で、対向部材52が交差部材2の外周面に固定されている。
【0045】
また、一対の対向部材52と、ウェブ13との間には、間隔があけられ、この間隔に粘弾性体からなる減衰材51が介在している。この減衰材51は、環状に形成され内側の孔に交差部材2が貫通している。また、減衰材51は、対向部材52のウェブ13を向く側面に接着等により固定されるとともに、ウェブ13の貫通孔14bより外側の部分に接着等により固定されている。
【0046】
上述のように交差部材2が非固定鋼製横架材1bに対して相対的に上下方向に変位した場合に、粘弾性体からなる減衰材51にせん断力が作用し、これら減衰材51がせん断方向に変形することで、非固定鋼製横架材1bと、交差部材2に固定された固定鋼製横架材1aとの間の相対的振動を減衰することができる。なお、図4においては、図3の場合と同様に、固定鋼製横架材1aよりフランジ11,12の厚みが薄くされていることによって剛性が低くなっている非固定鋼製横架材1bが、床振動時に大きく変位し、固定鋼製横架材1aと、非固定鋼製横架材1bとの間に変位差が生じた状態が図示されている。
【0047】
この制振床構造においては、前記実施の形態の制振床構造と同様に効率的に床の振動を減衰することができる。
ただし、前記実施の形態において、摩擦により振動を減衰していたのに対して、この制振床構造では、粘弾性体からなる減衰材51を用いていることから、長期的に見た場合に、減衰材51のクリープ等が懸念される。しかし、減衰材51には、直接的に床の荷重が作用することなく、交差部材2と、非固定鋼製横架材1bとの間の変位差に基づくせん断力が作用するだけであり、床にかかる荷重に基づいて減衰材51にクリープが生じることがない。また、減衰材51がせん断方向に変形することにより効率的に交差部材2と非固定鋼製横架材1bとの間に、上下方向の変位差を生じる振動を減衰することができる。
【0048】
また、上述のように各鋼製横架材1a,1bにおけるたわみ量が長期的に変化するとともに、各鋼製横架材1a,1bの間でたわみ量に差がでた場合に、減衰材51は、図5(a)に示す施工直後の状態から、図5(b)に示す施工から長期の期間経過後の状態に変化する。すなわち、交差部材2と非固定鋼製横架材1bとの間で相対的に上下方向に変位が生じることで、減衰材51に変形が生じるが、これによって粘弾性体からなる減衰材51の減衰機能が大きく損なわれることがなく、長期に渡って床の振動を抑止する機能を維持することができる。
【0049】
ここで、図6に示す比較例においては、鋼製横架材1の下側に鋼製横架材1の軸方向に直交して両端部が建物に固定された支持部材7が配置されている。この比較例では、支持部材7の上面の不動点と鋼製横架材1の下フランジ12の下面との間に粘弾性体からなる減衰材8が配置されている。
【0050】
この比較例において、鋼製横架材1の振動時には、減衰材8には圧縮力と引張力が作用し、長期の期間経過後には、鋼製横架材1のたわみ量の増加により圧縮力が作用する。この際には、支持部材7の上面と鋼製横架材1の下フランジ12の下面との間隔が狭くなってしまい、減衰材8が押し潰された状態となる。これにより、減衰材8による減衰機能が低下し、減衰材8による振動の減衰機能が十分に機能しない。したがって、比較例では、長期に渡る振動抑制効果を期待できない。
これに対して、この制振床構造では、床の振動時および鋼製横架材1のたわみ量が変化した場合に、上述のように減衰材には圧縮力ではなくせん断力が作用するので、減衰機能の低下を防止することができる。
【0051】
前記実施の形態では、鋼製横架材1を三本としたが、鋼製横架材1は、3本以上であればよい。
例えば、図7に示すように、制振床構造において、5本の鋼製横架材1を配置するものとしてもよい。図7の制振床構造においては、左右それぞれの端に配置された鋼製横架材1aに交差部材2が上述のように固定され、中央の鋼製横架材1bと交差部材2との間に上述のように減衰材51(摩擦減衰材5)が配置されている。
【0052】
また、左右の端の鋼製横架材1aと、中央の鋼製横架材1bとの間にそれぞれ配置される鋼製横架材1に対して、交差部材2は、固定されることがない。また、これらの鋼製横架材1と交差部材2との間に減衰材51が配置されないようになっている。
したがって、5本の鋼製横架材1のうちの3本の鋼製横架材1a,1bにおいて、振動の減衰が行われることにより、床の振動を抑制する構造となっている。なお、交差部材2を3本以上の鋼製横架材1に固定するものとしてもよいが、2本の鋼製横架材1に交差部材2を固定することが好ましい。
【0053】
また、交差部材2は、上述のように少なくとも2本の鋼製横架材1aに固定され、少なくとも1本の鋼製横架材1bとの間に減衰材51(摩擦減衰材5)が配置されていればよく、図8に示すように、様々なパターンで鋼製横架材1bに対して交差部材2を配置することができる。
【0054】
図8においては、パターンP1〜P4を示す。また、交差部材2と鋼製横架材1とが固定されている交点を交点aとし、固定されずに減衰材51が配置されている交点を交点bとし、固定されず減衰材51も配置されていない交点を交点cとする。
パターンP1は、交差部材2が3本の鋼製横架材1と交差し、図1に示す制振床構造と同様の構造である。
【0055】
パターンP2は、交差部材2が5本の鋼製横架材1と交差している。このパターンP2では、交差部材2の一方の端部がこの端部に対応する端の鋼製横架材1に固定され、交差部材2の他方の端部は対応する端の鋼製横架材1に固定されず、それより一本内側の鋼製横架材1が、交差部材2の端部より内側の部分に固定されている。また、残りの3本の鋼製横架材1と交差部材2との間には、全て減衰材51が配置されている。
【0056】
パターンP3は、交差部材2が5本の鋼製横架材1と交差している。このパターンP3では、交差部材2の両方の端部がそれぞれ、これらの端部に対応する端の鋼製横架材1に固定されておらず、交差部材2の端部より内側の部分が、両端の鋼製横架材1よりそれぞれ一本内側の鋼製横架材1に固定されている。また、交差部材2の両端部と、これら両端部にそれぞれ対応する両端の鋼製横架材1との間にはそれぞれ、減衰材51が配置されている。また、中央の鋼製横架材1と、交差部材2とは固定されず、減衰材51も配置されていない。
【0057】
パターンP4は、交差部材2が4本の鋼製横架材1と交差している。このパターンP4では、交差部材2の両端部がそれぞれ対応する鋼製横架材1に固定されている。また、交差部材2に固定された鋼製横架材1の間に配置される2本の鋼製横架材1と交差部材とは固定されずに、これらの間に減衰材51が配置されている。
なお、制振床構造における固定や減衰材の配置のパターンは、パターンP1〜P4に限定されるものではなく、上述のように交差部材2が、少なくとも2本の鋼製横架材1aに固定され、少なくとも1本の鋼製横架材1bとの間に減衰材51が配置されていればよい。また、交差部材2の端部を鋼製横架材1aに固定する場合に、交差部材2が鋼製横架材1aを貫通せずに固定されていてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1(1a,1b) 鋼製横架材
2 交差部材
5 摩擦減衰材
14(14a,14b) 貫通孔
51 減衰材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の床材が、互いに間隔をあけて配列された複数の鋼製横架材により支持されている制振床構造であって、
少なくとも3本以上の鋼製横架材に交差する交差部材が設けられ、
前記鋼製横架材のうちの前記交差部材が貫通する鋼製横架材に、この交差部材が貫通する貫通孔が形成され、
前記交差部材は、少なくとも2本の前記鋼製横架材に対して固定され、かつ、少なくとも1本の前記鋼製横架材に対して固定されずに、当該鋼製横架材に対して少なくとも上下に相対的に変位自在に前記貫通孔に挿入され、
前記交差部材と、この交差部材に交差するとともにこの交差部材に固定されない前記鋼製横架材との間には、これら交差部材と鋼製横架材とが相対的に少なくとも上下方向に変位した際にせん断力が作用するように減衰材が設けられていることを特徴とする制振床構造。
【請求項2】
前記交差部材が固定される前記鋼製横架材と、前記交差部材との間に前記減衰材が設けられている前記鋼製横架材とでは、剛性が異なることを特徴とする請求項1に記載の制振床構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−256572(P2011−256572A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130978(P2010−130978)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】