説明

制振材用エマルション組成物

【課題】高い強度を有し、優れた制振性を発揮するとともに、加熱乾燥性にも優れた塗膜を形成することができる制振材用エマルション組成物を提供する。
【解決手段】単量体成分を乳化重合してなるエマルションを含む制振材用エマルション組成物であって、該エマルションは、エマルション粒子中に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーと重合開始剤とを含有するものであり、該制振材用エマルション組成物は、水分含有量が40質量%以下の該エマルション粒子の水分散体である制振材用エマルション組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材用エマルション組成物に関する。より詳しくは、各種構造体における振動や騒音を防止して静寂性を保つために使用される制振材の材料として有用な制振材用エマルション組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
制振材は、各種構造体における振動や騒音を防止して静寂性を保つためのものであり、例えば、自動車の室内床下等に用いられている他、鉄道車両、船舶、航空機や電気機器、建築構造物、建設機器等にも広く利用されている。このような制振材に用いられる材料としては、従来、振動吸収性能及び吸音性能を有する材料を素材とする板状成形体やシート状成形体等の成形加工品が使用されているが、振動や音響の発生箇所の形状が複雑な場合には、これらの成形加工品を振動発生箇所に適用することが困難であることから、作業性を改善して制振性を充分に発揮させるための手法が種々検討されている。すなわち、例えば、自動車の室内床下等には無機粉体を含んだアスファルトシートが用いられてきたが、熱融着させる必要性があることから、作業性等の改善が望まれており、制振材を形成する種々の制振材用組成物や重合体の検討がなされている。
【0003】
そこで、このような成形加工品の代替材料として、塗布型制振材(塗料)が開発されており、例えば、該当箇所にスプレーにより吹き付けるか又は任意の方法により塗布することにより形成される塗膜により、振動吸収効果及び吸音効果を得ることが可能な制振塗料が種々提案されるに至っている。具体的には、例えば、アスファルト、ゴム、合成樹脂等の展色剤に合成樹脂粉末を配合して得られる塗膜硬度を改良した水系制振塗料の他、自動車の室内用に適するものとして、樹脂エマルションに充填剤として活性炭を分散させた制振塗料等が開発されている。
【0004】
従来の制振材用材料に関し、アクリル系単量体を必須とする単量体混合物を共重合してなる制振材又は耐チッピング材用共重合エマルションであって、単量体混合物が2個以上の官能基を有する不飽和単量体を必須とする制振材又は耐チッピング材用共重合エマルションが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、不飽和カルボン酸単量体を必須とする単量体成分を重合してなるエマルションと、架橋剤とを含んでなる制振材用エマルションが開示されている。(例えば、特許文献2参照。)。
このような制振性塗料等には、制振性及び塗膜の強度に優れることに加え、更に加熱乾燥性にも優れるものであることが求められており、これら全ての特性を高いレベルで実現する制振材が求められている。
【特許文献1】特開2003−155391号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開2003−193025号公報(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、高い強度を有し、優れた制振性を発揮するとともに、加熱乾燥性にも優れた塗膜を形成することができる制振材用エマルション組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、強度、制振性、及び、加熱乾燥性に優れた制振材用エマルション組成物について種々検討したところ、単量体成分を乳化重合して得られるエマルションの粒子の中に疎水性モノマー及び/又はオリゴマーと重合開始剤とを含ませたものとすると、エマルション粒子の中の硬化性モノマー及び/又はオリゴマーが重合して架橋体を形成することにより、この架橋体とエマルションを形成するベースとなる重合体とがIPN構造(相互進入網目構造)を形成すること、及び、このエマルションでは、エマルションを形成する重合体自身が架橋するものではないことから、エマルションが本来有している制振性が損なわれることなく発揮されるとともに、IPN構造を形成することに起因して樹脂の強度に優れ、かつ、加熱乾燥性にも優れるものとなることを見出した。また、このエマルションの分散体においては、従来、制振材用途に用いられてきたエマルション組成物よりも固形分濃度を高くすることができることを見出し、このエマルションを水分含有量40質量%以下の水分散体とすると、塗膜形成時に少ない熱量で加熱乾燥することが可能となり、従来よりも短時間で、制振性、強度を高いレベルで発揮することができる表面状態の良好な塗膜を形成することができる、より加熱乾燥性に優れた組成物となることを見出した。更に、このエマルション組成物は、垂直面に塗布し、高温を用いる熱乾燥により塗膜を乾燥した場合にも、得られる塗膜がずり落ちたりすることなく、良好な耐塗膜崩壊性を有するものとなることも見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、単量体成分を乳化重合してなるエマルションを含む制振材用エマルション組成物であって、上記エマルションは、エマルション粒子中に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーと重合開始剤とを含有するものであり、上記制振材用エマルション組成物は、水分含有量が40質量%以下の上記エマルション粒子の水分散体である制振材用エマルション組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明の制振材用エマルション組成物は、硬化性モノマー及び/又はオリゴマーと重合開始剤とを含むエマルション粒子の水分散体であって、水分含有量が40質量%以下のものであるが、該エマルション粒子の水分散体に、更に他の成分を含むものであってもよい。
また、エマルションは、硬化性モノマー又はオリゴマーのいずれか又は両方を含むもののいずれであってもよく、エマルション、硬化性モノマー及び/又はオリゴマー、及び、重合開始剤は、それぞれ1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0009】
上記エマルション粒子の水分散体は、水分含有量が40質量%以下であり、これに起因して本発明の制振材用エマルション組成物は、従来の制振材用途に用いられてきたエマルションよりも短時間で加熱乾燥が可能であるため、例えば、自動車用塗料として用いた場合に、自動車塗装ラインにおいて、従来の焼き付けを2回行う2ベークラインだけでなく、焼き付けを1回だけにした1ベークラインにも対応することが可能となる。
また、本発明におけるエマルションにおいては、更に水分量の少ない水分散体とすることが可能である。エマルション粒子の水分散体の水分含有量は、30質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、25質量%以下である。水分含有量が少ないと、塗膜の乾燥工程において必要となる熱量が少なく、より短い加熱時間で良好な塗膜を形成することが可能となる。
【0010】
上記エマルション粒子中に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーと重合開始剤とを含ませた形態としては、例えば、(1)調製されたエマルション粒子に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーと重合開始剤とを吸わせた形態、(2)エマルション粒子の調製中に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーと重合開始剤とを吸わせた形態が挙げられ、これらを組み合わせた形態であってもよい。好ましくは、調製されたエマルション粒子に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーと重合開始剤とを吸わせた形態を必須とすることである。
このようにしてエマルション粒子中に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーと重合開始剤とを含ませた形態とする場合、硬化性モノマー及び/又はオリゴマー、及び、重合開始剤としては、エマルション粒子中に浸透する性質を有するものを用いることが好ましい。
【0011】
上記硬化性モノマー及びオリゴマーとしては、光、熱、電子線によって硬化又は重合するものであればよい。また、硬化性モノマー及び/又はオリゴマーとしては、エマルション粒子中に存在することができるものである限り、親水性であっても疎水性であってもよい。
本発明の場合、硬化性モノマー及び/又はオリゴマーは、エマルション粒子の調製中に吸わせることができる化合物であることが好ましい。
【0012】
上記硬化性モノマー及び/又はオリゴマーの好ましい形態としては、(1)紫外線硬化性親水性モノマー、熱硬化性親水性モノマー又は電子線硬化性モノマー、(2)紫外線硬化性疎水性モノマー、熱硬化性疎水性モノマー又は電子線硬化性疎水性モノマー、(3)紫外線硬化性親水性オリゴマー、熱硬化性親水性オリゴマー又は電子線硬化性親水性オリゴマー、(4)紫外線硬化性疎水性オリゴマー、熱硬化性疎水性オリゴマー又は電子線硬化性疎水性オリゴマーである。より好ましくは、エマルション粒子中に含浸されやすいことから、疎水性モノマー及び/又は疎水性オリゴマーである。また、硬化性モノマーとしては、硬化反応性を有する官能基を2個以上もつ多官能モノマーであることが好ましい。これにより、エマルション組成物によって形成される塗膜がより強靱なものとなり、塗膜物性を向上させることができる。すなわち、上記エマルション組成物は、紫外線、熱及び電子線の少なくとも一つで硬化又は重合することが好ましい。紫外線照射又は電子線照射後、必要に応じて加熱を行うことがより好ましい。
【0013】
上記硬化性モノマー及び/又はオリゴマーを例示すると、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ポリエチレングリコール鎖を有する多官能(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0014】
上記硬化性モノマーは、多官能(メタ)アクリレートであることが好ましい。
ポリエチレングリコール鎖を有する多官能(メタ)アクリレートとしては、下記一般式(1)により表されるポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが好適である。
【0015】
【化1】

【0016】
式中、Rは、H又はCHを表す。n=1〜6、m=1〜50、より好ましくは、n=1〜6、m=2〜30の整数である。
またポリエチレングリコールジアクリレート(商品名「SARTOMER SR−344」、巴工業社製)、トリプロピレングリコールアクリレート(商品名「アロニックスM−200」、東亜合成化学工業社製)等も好適である。更に、下記一般式(2)で表されるアクリル酸2−(2’−ビニルキシエトキシエチル)も好適である。
【0017】
【化2】

【0018】
R:H又はCH、n=2〜6、より好ましくは、n=2の整数である。
【0019】
その他の硬化性モノマー及び/又はオリゴマーとしては、例えば、以下の(A)及び(B)に例示した化合物等が挙げられる。これらは、上述した好ましい硬化性モノマー及び/又はオリゴマーと併用して用いることができる。
(A)ウレタン(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸エステルの重合体又は共重合体の側鎖に(メタ)アクロイル基含有アクリル樹脂(以下、単に(メタ)アクリル樹脂ということがある。)エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等の多官能ラジカル重合性化合物、例えば、1,4−ブタンジオール(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノヒドロキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート類;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジ−トリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等のテトラ(メタ)アクリレート類;ペンタエリスリトールペンタ/ヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(モノヒドロキシ)ペンタ(メタ)アクリレート等のペンタ(メタ)アクリレート類。
(B)ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ジビニルベンゼン、フタル酸ジアリル等、少なくとも2つ以上の重合性不飽和二重結合をもつオリゴマー、モノマーであるポリオレフィン系化合物。
【0020】
本発明の制振材用エマルション組成物において、硬化性モノマー及び/又はオリゴマーとしては、上述したものの中でも、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。上述した各種化合物の中でも、これらの化合物はより優れた硬化性を示すものであり、これらを用いると、より優れた制振性を発現する。
【0021】
本発明におけるエマルションが含有する重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、オキシ−フェニル−アセチックアシッド2−[2−オキソ−2−フェニル−アセトキシ−エトキシ]−エチルエステル、オキシ−フェニル−アセチックアシッド2−[2−ヒドロキシ−エトキシ]−エチルエステル、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]2−モルホリノプロパン−1−オン、2−モルホリノプロパン−1−オン、ヨードニウム,(4−メチルフェニル[4−(2−メチルプロピル)フェニル])−ヘキサフルオロフォスフェート、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン等の光重合開始剤;2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4’−ジメチルバレロニトリル)、ベンゾイルパーオキサイド、1、1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の油溶性開始剤、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、過酸化水素等の水溶性過酸化物、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等の水溶性アゾ化合物等の熱重合開始剤が挙げられる。これらのうら、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、油溶性開始剤が好ましい。より好ましくは、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)である。
【0022】
本発明のエマルション粒子中の重合開始剤の量は、硬化性モノマー及び/又はオリゴマー100質量%に対して、0.5〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは、1〜10質量%である。0.5重量%未満であると、重合速度が遅くなって、未反応のモノマーが残存しやすくなり、一方、10重量%を超えると、残存開始剤により塗膜欠陥が生じ、物性を低下させる原因になりうる。
【0023】
本発明の制振材用エマルション組成物におけるエマルションは、ガラス転位温度(Tg)が、−20〜30℃であることが好ましい。Tgがこのような範囲であると、実用温度域(20〜60℃)で高い制振性を発現できる。より好ましくは、−20〜20℃である。
【0024】
上記エマルションは、粒子径が50〜500nmであることが好ましい。エマルションの粒子径がこのような範囲であると、安定性が良好である。より好ましくは、100〜400nmである。
平均粒子径は、例えば、エマルションを蒸留水で希釈し充分に攪拌混合した後、ガラスセルに約10ml採取し、これを動的光散法による粒度分布測定器(Particle Sizing Systems社製「NICOM P Model 380」)で測定することにより求めることができる。
【0025】
上記平均粒子径を有するエマルション粒子は、標準偏差をその体積平均粒子径で割った値(標準偏差/体積平均粒子径×100)で定義される粒度分布が40%以下であることが好ましい。より好ましくは、30%以下である。粒度分布が40%を超えると、エマルション粒子の粒子径分布の幅が非常に広いものとなり、一部に粗大粒子を含むものとなるために、そのような粗大粒子の影響で制振材用エマルション組成物の安定性不良となり沈殿物などが生じるおそれがある。
【0026】
上記エマルションは、重量平均分子量が20000〜500000であることが好ましい。20000未満であると、制振性が充分なものとはならず、得られる制振材用エマルション組成物を塗料配合した状態での安定性が充分なものとはならないおそれがある。500000を超えると、例えば、2種以上のアクリル共重合体を使用した場合に相溶性が充分とはならないため制振性のバランスを充分に保つことができず、特に30〜40℃域での制振性を向上することができないおそれがあり、また、塗料に配合した状態での低温における造膜性が充分とはならないおそれがある。より好ましくは25000〜400000であり、更に好ましくは、30000〜300000である。
なお、重量平均分子量は、例えば、以下の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定する。
【0027】
本発明の制振材用エマルション組成物のpHは、特に制限されないが、例えば、2〜10であることが好ましい。より好ましくは、3〜9である。エマルションのpHは、エマルションに、アンモニア水、水溶性アミン類、水酸化アルカリ水溶液等を添加することによって調整することができる。
pHは、pHメーター(堀場製作所社製「F−23」)等により測定することができる。
【0028】
本発明の制振材用エマルション組成物の粘度は、特に制限されないが、例えば、10〜10000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは、50〜5000mPa・sである。
なお、粘度は、B型回転粘度計を用いて、25℃、20rpmの条件下で測定することができる。
【0029】
本発明の制振材用エマルション組成物の必須成分であるエマルションは、通常の乳化重合によって製造されたものであればよい。例えば、乳化剤により、水中に形成されたミセル中のモノマー及び必要により他のモノマーを含むモノマー(単量体)成分が重合開始剤によって重合し、形成されたものであればよい。
上記制振材用エマルション組成物は、乳化重合によって製造されたエマルションのTgと制振材用エマルション組成物が示すMFT(最低造膜温度)の差が10〜100℃であることが好ましい。ここで、MFTは、後述する測定方法により求めることが好ましい。エマルションのTgは、計算Tgであることが好ましい。計算Tg(ガラス転移温度)は、以下のFoxの式により求めるものとする。なお、計算Tgを計算する場合、MFT0℃以下は、0℃として取り扱うものとする。
Fox式:1/Tg=Σ(Wn/Tgn)/100
ここで、Wnは、単量体nの重量%、Tgnは単量体nからなるホモポリマーのTg(絶対温度)を示す。なお、ポリエチレングリコールジアクリレートを含む重合性単量体成分については、これらを除いて算出したTgを、該重合体単量体成分のガラス転移温度とした。
【0030】
上記エマルションは、全単量体成分100質量%に対して、スチレンを35質量%以上含有するアクリル系エマルションであることが好ましい。エマルションがアクリル系エマルションであると、ポリマー間の相溶性に優れ、高い制振性を発現しうる。また、後述するように、全単量体成分に対して35質量%以上のスチレンを含むことにより、エマルションが充分な硬化性と粒子の安定性を有するものとなる。なお、アクリル系エマルションとは、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸系誘導体(以下、アクリル系単量体と記載)を含む単量体成分から得られるエマルションであり、単量体成分がアクリル系単量体を含む限り、その他の単量体を含んでいてもよい。
【0031】
上記アクリル系単量体としては、以下のような化合物等が好適である。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜20のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素数4〜20のシクロアルキル(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の炭素数3〜20のアラルキル(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル系単量体。
【0032】
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートへのε−カプロラクトン付加物であるPlaccelFA−1、PlaccelFA−4、PlaccelFM−1、PlaccelFM−4(ダイセル化学(株)製)、(メタ)アクリロキシポリオキシアルキレン等の水酸基含有アクリル系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα、β−エチレン性不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸無水物;(メタ)アクリロキシエチルホスフェート、(メタ)アクリロキシエチルスルホン酸等の酸性基含有(メタ)アクリレート;不飽和カルボン酸、酸性基含有(メタ)アクリレートの塩(アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等)。
【0033】
無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物と炭素数1〜20の直鎖又は分岐のアルコールとのハーフエステル;イソシアネート基含有化合物とヒドロアルキル(メタ)アクリレートの反応物等であるウレタン結合を含むウレタン(メタ)アクリレート化合物;γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリレート基含有オルガノポリオキシロキサン等の(メタ)アクリル酸基含有シリコーンマクロマー;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の塩基性不飽和単量体類。
【0034】
2−スルホン酸エチル(メタ)アクリレート及びその塩等の不飽和スルホン酸類;(メタ)アクリル酸のカプロラクトン変性物;t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、アジリジニルエチル(メタ)アクリレート、ピロジニル(メタ)アクリレート、ピペリジニルエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド、N−モノメチル(メタ)アクリルアミド、N−モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシ(メタ)アクリルアミド、N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類。
【0035】
ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリアシルシアヌート等の重合性の不飽和結合を2つ以上有する単量体;4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のピペリジン系重合等の光安定基を有する重合性単量体。
【0036】
2−ヒドロキシ−4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系重合性単量体;2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[ヒドロキシ−5−(メタクリロイルオキシメチル)フェニル]−2H−1,2,3−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシメチル)フェニル]−5−シアノ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシメチル)フェニル]−5−t−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系重合性単量体等の紫外線吸収性基を有する重合性単量体。
【0037】
上記アクリル系単量体としては、炭素数1〜20のアルキル(メタ)アクリレート、炭素数4〜20のシクロアルキル(メタ)アクリレートが、耐水性及び耐候性等の観点から好ましい。より好ましくは、炭素数4〜10のアルキル(メタ)アクリレート、炭素数6〜10のシクロアルキル(メタ)アクリレートであり、更に好ましくは、炭素数4〜6のアルキル(メタ)アクリレート、炭素数6〜8のシクロアルキル(メタ)アクリレートである。また、光安定性基を有する重合性単量体及び/又は紫外線吸収性基を有する重合性単量体であることが好ましい。
すなわち、本発明におけるエマルションの好ましい実施形態としては、炭素数4〜20のシクロアルキル(メタ)アクリレート、並びに、光安定性基及び/又は紫外線吸収基を有する重合性単量体の少なくとも一種を必須とする単量体成分から形成される形態が挙げられる。すなわち、炭素数4〜20のシクロアルキル(メタ)アクリレートのみを必須とする単量体成分から形成される形態でもよく、光安定性基及び/又は紫外線吸収基を有する重合性単量体のみを必須とする単量体成分から形成される形態でもよい。
なお、これらのアルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレートは、上述したアクリル系単量体と組み合わせて用いてもよいが、アルキル(メタ)アクリレート及びシクロアルキル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上、更に2種以上を用いることが最も好ましい。
【0038】
上記アルキル(メタ)アクリレート及び/又はシクロアルキル(メタ)アクリレートの使用量としては、例えば、全単量体の合計使用量に対して、5〜60重量%とすることが好ましく、10〜50重量%がより好ましく、20〜40重量%が更に好ましい。また、光安定性基を有する単量体を用いる場合は、全単量体の合計使用量に対して0.1〜10重量%とすることが好ましく、0.5〜5重量%がより好ましい。
【0039】
上記単量体成分が含むアクリル系単量体以外のその他の単量体としては、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、モノメチルマイエート、モノエチルマイエート等の不飽和カルボン酸類又はその誘導体;スチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。その他の単量体としては、これらの中でも、スチレンが好ましく、その好適使用量は全単量体成分100質量%に対し、30質量%以上、より好ましくは、35質量%以上である。30質量%以下であると、粒子の疎水性が低下することで硬化性モノマーや重合開始剤の吸収が低下してしまい、硬化不足となる可能性がある。また、硬化性モノマーを吸収した際のエマルション粒子が膨張しやすくなり、粒子の安定性が低下する恐れがある。
【0040】
本発明においては、上記単量体成分が、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1〜20質量%及び他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体99.9〜80質量%を含んでなることが好ましい。エチレン系不飽和カルボン酸単量体を含むことにより、本発明の制振材用エマルションを必須とする制振材配合物において、無機粉体等の充填剤の分散性が向上し、制振性がより向上することになる。また、その他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体を含むことにより、エマルションの酸価、Tgや物性等を調整しやすくなる。上記単量体成分において、エチレン系不飽和カルボン酸単量体が0.1質量%未満であっても、20質量%を超えても、いずれも、エマルションが安定に共重合できないおそれがある。
本発明におけるエマルションでは、これらの単量体から形成される単量体単位の相乗効果により、水系制振材において優れた加熱乾燥性と制振性とをより充分に発揮することが可能となる。
なお上記質量割合は、全単量体成分100質量%に対する質量割合である。
【0041】
上記エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、特に制限されないが、上述した単量体成分に含まれる化合物の中で、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、モノメチルマイエート、モノエチルマイエート等の不飽和カルボン酸類又はその誘導体が挙げられる。また、他の共重合可能なエチレン系不飽和単量体としては、上述したアクリル系単量体のうち、(メタ)アクリル酸以外のもの等が挙げられる。
【0042】
本発明において、エマルションを形成する単量体成分は、ホモポリマーのガラス転位温度が0℃以下である重合性単量体を1種以上含むものであることが好ましい。より好ましくは2種以上含むことである。ホモポリマーのガラス転位温度が0℃以下である重合性単量体としては、ブチルアクリレートや2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。
すなわち、本発明において、単量体成分を乳化重合してなるエマルションの粒子を形成する単量体成分は、ブチルアクリレート及び/又は2−エチルヘキシルアクリレートを含んでなるものであることが好ましい。単量体成分がブチルアクリレート及び/又は2−エチルヘキシルアクリレートを含んでなるものであると、幅広い温度領域での制振性が向上する。
より好ましくは、単量体成分がブチルアクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートを含むことである。
【0043】
上記単量体成分がブチルアクリレートを含むものである場合、ブチルアクリレートの含有量は、エマルションを形成する単量体成分100質量%に対して、10〜60質量%であることが好ましい。より好ましくは、20〜50質量%である。
上記単量体成分が2−エチルヘキシルアクリレートを含むものである場合、2−エチルヘキシルアクリレートの含有量は、アクリル共重合体を形成する単量体成分100質量%に対して、5〜55質量%であることが好ましい。より好ましくは、10〜50質量%である。
また、ブチルアクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートの両方を含むものである場合、ブチルアクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレート合計の含有量は、アクリル共重合体を形成する単量体成分100質量%に対して、20〜60質量%であることが好ましい。より好ましくは、30〜50質量%である。
【0044】
本発明におけるエマルションは、単量体を乳化重合して得られるものであるが、乳化重合に用いる乳化剤としては、例えば、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤、高分子乳化剤等を使用することができる。
上記アニオン性乳化剤としては、例えば、アンモニウムドデシルスルフォネート、ナトリウムドデシルスルフォネート等のアルキルスルフォネート塩;アンモニウムドデシルベンゼンスルフォネート、ナトリウムドデシルナフタレンスルフォネート等のアルキルアリールスルフォネート塩;ポリオキシエチレンアルキルスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬(株)製、ハイテノール18E等);ポリオキシエチレンアルキルアリールスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬(株)製、ハイテノールN−08等);ジアルキルスルホコハク酸塩;アリールスルホン酸ホルマリン縮合物;アンモニウムラウリート、ナトリウムステアリレート等の脂肪酸塩;等が挙げられる。
【0045】
上記ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、三洋化成工業(株)製、ナロアクティ−N−200等);ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、三洋化成工業(株)製、ノニポール−200等);ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの縮合物;ソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル:脂肪酸モノグリセライド;ポリアミド;エチレンオキサイドと脂肪族アミンの縮合生成物;等が挙げられる。
上記カチオン性乳化剤としては、例えば、ドデシルアンモニウムクロライド等のアルキルアンモニウム塩;等が挙げられる。
【0046】
上記両性乳化剤としては、例えば、ベタインエステル型乳化剤等が挙げられる。
上記高分子乳化剤としては、例えば、ポリアクリル等ナトリウム等のポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリヒドロキシエチルアクリレート等のポリヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;又はこれらの重合体を構成するモノマーのうちの1種以上を共重合成分とする共重合体;等が挙げられる。
【0047】
上記乳化剤の種類としては、耐水性を重視する場合には、重合性基を有する乳化剤を使用するのが好ましい。重合性基を有するアニオン性乳化剤としては、例えば、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化スルフォネート塩(例えば、日本乳化剤(株)製、アントックスMS−60等)、プロペニル−アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩(例えば、三洋化成工業(株)製、エレミノールRS−30等)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテルスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬(株)製、アクアロンHS−10等)、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬(株)製、アクアロンKH−10等)、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレンのスルフォネート塩(例えば、旭電化工業(株)製、アデカリアソープSE−10等)、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン硫酸エステル塩(例えば、旭電化工業(株)製、アデカリアソープ−SR−10N等)等のアリル基を有する硫酸エステル(塩)等が挙げられる。重合性基を有するノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(例えば、第一工業製薬(株)製、アクアロンRN−20等)、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、旭電化工業(株)製、アデカリアソープNE−10等)、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、旭電化工業(株)製、アデカリアソープER−10等)等が挙げられる。
上記乳化剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
上記乳化剤の使用量としては、特に限定されず、例えば、モノマーの合計使用量に対して、好ましくは、0.5〜5重量%、より好ましくは1〜3重量%である。使用量が多すぎると、塗膜の耐水性が低下する恐れがあり、一方、少なすぎると、重合安定性が低下することとなる。
【0049】
上記乳化重合の開始剤としては、特に限定されず、例えば、2,2’−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ハイドロクロライド等のアゾ化合物;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素等の過酸化物等が挙げられる。なお、重合開始剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
上記重合開始剤の使用量は、特に限定されず、好ましくは、全モノマー成分の合計使用量に対して0.05〜1重量%とするのがよく、より好ましくは、0.1〜0.5重量%とするのがよい。0.05重量%未満であると、重合速度が遅くなって、未反応のモノマーが残存しやすくなり、一方、1重量%を超えると、形成される塗膜の耐水性が低下する傾向がある。なお、重合開始剤は、得られる樹脂粒子を細かくするために、初期重合で全使用量の40〜100重量%添加するのが好ましい。
【0051】
上記重合開始剤を添加する方法は、特に制限はなく、例えば、一括仕込み、分割仕込み、連続滴下等のいずれの方法であってもよい。更に、重合の完了を早めるために、最終段のモノマー成分の滴下終了前後に重合開始剤の一部を添加してもよい。
上記乳化重合においては、重合開始剤の分解を促進する目的で、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤や硫酸第一鉄等の遷移金属塩を添加してもよい。
【0052】
上記乳化重合工程で用いることができる水性媒体としては、水が好適であるが、例えば、メタノール等の低級アルコール等の親水性溶媒を併用することもできる。
上記乳化重合で用いることができる添加剤としては、例えば、pH緩衝剤、(例えば、t−ドデシルメルカプタン等のチオール基を有する化合物等)等の公知の添加剤等が挙げられる。
【0053】
上記乳化重合における重合温度としては、特に限定されず、好ましくは、0〜100℃、より好ましくは、40〜95℃とするのがよい。重合時間についても、特に限定されず、反応の進行状況に応じて適宜設定すればよいが、例えば、重合開始から終了まで2〜8時間の範囲とすることが好ましい。重合時の雰囲気については、光重合開始剤の効率を高めるため、窒素雰囲気下で行うのが一般的である。
【0054】
本発明の制振材用エマルション組成物は、必要に応じて顔料、発泡剤、及び、増粘剤等の他成分とともに、制振材配合物を構成することができるものである。上述のように、本発明の制振材用エマルション組成物は、従来の制振材用エマルション組成物に比較して、水分含有量が少ないものであることから、この制振材用エマルション組成物を用いた制振材配合物もまた、水分含有量が少なく、固形分濃度の高いものとすることができる。このような本発明の制振材用エマルション組成物、顔料、発泡剤、及び、増粘剤を必須成分とする制振材配合物であって、固形分濃度が制振材配合物100質量%中、70〜90質量%である制振材配合物もまた、本発明の1つである。
なお、制振材配合物の固形分とは、上述した単量体成分のから得られるエマルションポリマーや後述する他の成分等、制振配合物を塗布して加熱乾燥した場合に、揮発せずに残る成分のことである。
【0055】
本発明の制振材用エマルション組成物や制振材配合物において、エマルションや硬化性モノマー及び/又はオリゴマーが、紫外線照射によって硬化されて使用される場合、その硬化方法は、使用する光重合開始剤、紫外線を発生させる光源の種類、光源と塗布面との距離などの条件によっても異なってくるが、例えば波長1,000〜8,000オングストロームの紫外線を通常数秒間、長くとも数十秒間照射する方法を挙げることができる。
電子線照射によって硬化されて使用される場合には、例えば通常50〜1000kev、好ましくは100〜300kevの加速電圧で、吸収線が1〜20Mrad程度となるように電子線を照射する方法を挙げることができる。電子線照射は大気中で行ってもよいが、窒素などの不活性ガス中で行うのが好ましい。吸収線量については、被膜中に残存する重合性二重結合が被膜物性に影響しないまで照射することができる。紫外線照射又は電子線照射後、必要に応じて加熱を行い、硬化を一層進行させてもよい。
熱によって硬化されて使用される場合、50〜180℃の乾燥機で0.5〜10分乾燥させる方法を挙げることができる。上記乾燥工程前に基材をプレヒートしたり、1〜10分室温にてセッティングする手法を併用してもよい。乾燥機は、ジェットオーブン、熱風乾燥機など一般的に使用されているものを使用することができる。
また、電子線にて硬化させる場合、熱又は光重合開始剤を必要としないため、得られた塗膜は耐候性、耐水性等塗膜性能を向上させることができる。
【0056】
本発明の制振材配合物は、発泡剤を混合することにより、制振材の均一な発泡構造の形成と厚膜化等の効果が発揮され、それに起因して充分な加熱乾燥性や高制振性が発現することとなる。
【0057】
上記発泡剤としては特に限定されず、例えば、低沸点炭化水素内包の加熱膨張カプセル、有機発泡剤、無機発泡剤等が好適であり、これらの1種又は2種以上を使用することができる。加熱膨張カプセルとしては、例えば、マツモトマイクロスフィアーF−30、F−50(松本油脂社製);エクスパンセルWU642、WU551、WU461、DU551、DU401(日本エクスパンセル社製)等が挙げられ、有機発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、N,N−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p−トルエンスルホニルヒドラジン、p−オキシビス(ベンゼンスルホヒドラジド)等が挙げられ、無機発泡剤としては、例えば、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、シリコンハイドライド等が挙げられる。
上記発泡剤の配合量としては、制振材用エマルション100質量%に対し、0.5〜5.0質量%とすることが好ましい。より好ましくは、1.0〜3.0質量%である。
【0058】
本発明の制振材配合物はまた、無機顔料を含んでなることが好適であり、これにより、上述したような加熱乾燥性や高制振性の発現性をより充分に確認することが可能となる。
上記無機顔料としては特に限定されず、例えば、後述する無機の着色剤や無機の防錆顔料等の1種又は2種以上を使用することができる。
上記無機顔料の配合量としては、制振材用エマルション100質量%に対し、50〜700質量%とすることが好ましい。より好ましくは、100〜550質量%部である。
【0059】
上記増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース系誘導体、ポリカルボン酸系樹脂等が挙げられる。増粘剤の配合量としては、制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、固形分で0.01〜2重量部とすることが好ましい。より好ましくは、0.05〜1.5重量部、更に好ましくは、0.1〜1重量部である。
上記充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、タルク、硫酸バリウム、アルミナ、酸化鉄、酸化チタン、ガラストーク、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、タルク、珪藻土、クレー等の無機質の充填剤;ガラスフレーク、マイカ等の鱗片状無機質充填剤;金属酸化物ウィスカー、ガラス繊維等の繊維状無機質充填剤等が挙げられる。無機質充填剤の配合量としては、制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、50〜700重量部とすることが好ましい。より好ましくは、100〜550重量部である。
【0060】
本発明の制振材配合物が含む他成分としては、上述した顔料、発泡剤、増粘剤以外に、例えば、溶媒;可塑剤;安定剤;湿潤剤;防腐剤;発泡防止剤;充填剤;着色剤;分散剤;消泡剤;老化防止剤;防黴剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、充填剤を含むことが好ましい。
なお、上記他の成分は、例えば、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、スパイラルミキサー、ニーダー、ディゾルバー等を用いて、上記制振材用エマルション等と混合され得る。
【0061】
上記溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。溶剤の配合量としては、制振材配合物中の制振材用エマルションの固形分濃度が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。
【0062】
上記着色剤としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、弁柄、ハンザイエロー、ベンジンイエロー、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド等の有機又は無機の着色剤が挙げられる。
上記分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等の無機質分散剤及びポリカルボン酸系分散剤等の有機質分散剤が挙げられる。
上記防錆顔料としては、例えば、リン酸金属塩、モリブデン酸金属塩、硼酸金属塩等が挙げられる。
上記消泡剤としては、例えば、シリコン系消泡剤等が挙げられる。
【0063】
上記他成分としては更に、多価金属化合物を用いてもよい。この場合、多価金属化合物により、制振材配合物の安定性、分散性、加熱乾燥性や、制振材配合物から形成される制振材の制振性が向上することとなる。多価金属化合物としては特に限定されず、例えば、酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記多価金属化合物の形態は特に限定されず、例えば、粉体、水分散体や乳化分散体等であってよい。中でも、制振材配合物中への分散性が向上することから、水分散体又は乳化分散体の形態で使用することが好ましく、より好ましくは乳化分散体の形態で使用することである。また、多価金属化合物の使用量は、制振材配合物中の固形分100質量%に対して、0.05〜5.0質量%とすることが好ましい。より好ましくは0.05〜3.5質量%である。
【0064】
本発明の制振材配合物は、例えば、基材に塗布して乾燥することにより制振材となる塗膜を形成することができる。基材としては特に限定されるものではない。また、制振材配合物を基材に塗布する方法としては、例えば、刷毛、へら、エアスプレー、エアレススプレー、モルタルガン、リシンガン等を用いて塗布することができる。
上記制振材配合物の塗布量は、用途や所望する性能等により適宜設定すればよいが、乾燥時の塗膜の膜厚が、0.5〜8mmとなるようにすることが好ましい。より好ましくは、3〜6mmである。
本発明の制振材組成物は、加熱乾燥性に優れるものであることから、膜厚3〜6mmのような厚い塗膜を形成しても、乾燥時に膨張やクラックが生じにくく、しかも傾斜面の塗料のずり落ちも発生しにくい良好な塗膜を得ることができる。このような、本発明の制振材配合物を加熱乾燥後の膜厚が3〜6mmとなるように塗布して得られる制振材もまた、本発明の1つである。
【0065】
上記制振材配合物はまた、乾燥時(後)の塗膜の面重量が1.0〜7.0kg/mとなるように塗布することも好ましい。より好ましくは、2.0〜6.0kg/mである。
これによっても、乾燥時に膨張やクラックが生じにくく、しかも傾斜面の塗料のずり落ちも発生しにくい良好な塗膜を得ることができる。
このような、乾燥時の塗膜の膜厚が、3〜6mmとなるように塗工し、乾燥する制振材配合物の塗工方法や、乾燥後の塗膜の面重量が2.0〜6.0kg/mとなるように塗工し、乾燥する制振材配合物の塗工方法もまた、本発明の好ましい実施形態のひとつである。
【発明の効果】
【0066】
本発明の制振材用エマルション組成物は、樹脂強度が高く、高い制振性を発揮するエマルションを含むものであって、また、加熱乾燥性にも優れることから、制振材用途に好適に用いることができる組成物であるだけでなく、水系の樹脂組成物であることから、環境問題の点からも好ましいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0067】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0068】
なお、以下の実施例において、各種物性等は以下のように評価した。
<不揮発分(NV)>
得られた水性樹脂分散体約1gを秤量、熱風乾燥機で110℃×1時間後、乾燥残量を不揮発分として、乾燥前質量に対する比率を質量%で表示した。
<pH>
pHメーター(堀場製作所社製「F−23」)により25℃での値を測定した。
<粘度>
B型回転粘度計を用いて、25℃、20rpmの条件下で測定した。
【0069】
<平均粒子径、粒度分布>
動的光散乱法による粒度分布測定器(Particle Sizing Systems社製「NICOM P Model 380」)を用い、体積平均粒子径を測定した。
また、標準偏差をその体積平均粒子径で割った値(標準偏差/体積平均粒子径×100)を粒度分布として算出した。
【0070】
<重量平均分子量>
以下の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定した。
【0071】
(製造例1)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水339部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにスチレン400部、メタクリル酸メチル105部、2−エチルへキシルアクリレート135.0部、ブチルアクリレート350部、アクリル酸10.0部、t−ドデシルメルカプタン4.0部、予め20%水溶液に調整したニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸アンモニウム塩:日本乳化剤社製)180.0部及び脱イオン水164.0部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を75℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの27.0部、5%過硫酸カリウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。40分後、反応系内を80℃維持したまま、残りの単量体乳化物を210分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液95部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液90部を210分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分同温度を維持し、重合を終了した。
得られた反応液を室温まで冷却後、2−ジメチルエタノールアミン16.7部を添加し、不揮発分54.9%、pH8.1、粘度460mPa・s、粒子径230nm(粒度分布24%)、重量平均分子量49000のアクリル系エマルション粒子を得た。
【0072】
(製造例2)
製造例1で滴下ロートに仕込む単量体スチレン400部、メタクリル酸メチル105部、2−エチルへキシルアクリレート135部、ブチルアクリレート350部、アクリル酸10部を、スチレン350部、メタクリル酸メチル155部、2−エチルへキシルアクリレート135部、ブチルアクリレート350部、アクリル酸10部にした以外は製造例1と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、pH7.9部、粘度250mPa・s、粒子径215nm(粒度分布22%)、重量平均分子量42000のアクリル系エマルション粒子を得た。
【0073】
(製造例3)
製造例1で滴下ロートに仕込む単量体スチレン400部、メタクリル酸メチル105部、2−エチルへキシルアクリレート135部、ブチルアクリレート350部、アクリル酸10部を、スチレン250部、メタクリル酸メチル255部、2−エチルへキシルアクリレート135部、ブチルアクリレート350部、アクリル酸10部にした以外は製造例1と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、pH8.0、粘度290mPa・s、粒子径238nm(粒度分布25%)、重量平均分子量48000のアクリル系エマルション粒子を得た。
【0074】
(製造例4)
製造例1で滴下ロートに仕込む単量体スチレン400部、メタクリル酸メチル105部、2−エチルへキシルアクリレート135部、ブチルアクリレート350部、アクリル酸10部を、スチレン505部、2−エチルへキシルアクリレート135部、ブチルアクリレート350部、アクリル酸10部にした以外は製造例1と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、pH7.8、粘度180mPa・s、粒子径205nm(粒度分布21%)、重量平均分子量40000のアクリル系エマルション粒子を得た。
【0075】
(実施例1)
製造例1において得られたエマルション粒子100部に、硬化性モノマーとしてポリエチレングリコールジアクリレート(商品名、サートマーSR−344:サートマー社製)を20部、重合開始剤として2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)(商品名、ABN−E:日本ヒドラジン工業社製)1部を混ぜ、エマルション型のポリマー粒子1を得た。
【0076】
(実施例2〜6)
実施例2〜6については、硬化性モノマー又は硬化性オリゴマーを表1に示すものを用いた以外は、同様の操作を繰り返してエマルション型のポリマー粒子2〜6を得た。
【0077】
【表1】

【0078】
(実施例7)
製造例1において得られたエマルション粒子100部に、硬化性モノマーとしてポリエチレングリコールジアクリレート(商品名、サートマーSR−344:サートマー社製)を40部、重合開始剤として2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)(商品名、ABN−E:日本ヒドラジン工業社製)1部を混ぜ、エマルション型のポリマー粒子7を得た。
【0079】
(実施例8)
製造例2において得られたエマルション粒子100部に、硬化性モノマーとしてポリエチレングリコールジアクリレート(商品名、サートマーSR−344:サートマー社製)を20部、重合開始剤として2,2’アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)(商品名、ABN−E:日本ヒドラジン工業社製)1部を混ぜ、エマルション型のポリマー粒子8を得た。
【0080】
(実施例9)
製造例3において得られたエマルション粒子100部に、硬化性モノマーとしてポリエチレングリコールジアクリレート(商品名、サートマーSR−344:サートマー社製)を20部、重合開始剤として2,2’アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)(商品名、ABN−E:日本ヒドラジン工業社製)1部を混ぜ、エマルション型のポリマー粒子9を得た。
【0081】
(実施例10)
製造例4において得られたエマルション粒子100部に、硬化性モノマーとしてポリエチレングリコールジアクリレート(商品名、サートマーSR−344:サートマー社製)を20部、重合開始剤として2,2’アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)(商品名、ABN−E:日本ヒドラジン工業社製)1部を混ぜ、エマルション型のポリマー粒子10を得た。
【0082】
(比較例1)
製造例1で得られたアクリル系エマルション粒子100部に、粒子間架橋剤として、酸化亜鉛水分散体(商品名、アクリセットEMN−AZO−50:日本触媒社製)3部を添加後撹拌し、エマルション型のポリマー粒子11を得た。
【0083】
(比較例2)
製造例1において使用した単量体(メタクリル酸メチル505部、2−エチルヘキシルアクリレート135.0部、ブチルアクリレート350部、アクリル酸10.0部)に更に多官能単量体としてトリメチロールプロパントリメタクリレート0.5部を加えた以外は同様の操作をして、エマルション型のポリマー粒子12を得た。
【0084】
(比較例3)
製造例1において得られたエマルション粒子100部に、硬化性モノマーとしてポリエチレングリコールジアクリレート(商品名、サートマーSR−344:サートマー社製)を10部、重合開始剤として2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)(商品名、ABN−E:日本ヒドラジン工業社製)1部を混ぜ、エマルション型のポリマー粒子13を得た。
【0085】
(比較例4)
製造例1において、初期に反応器に仕込む脱イオン水339部を123部にした以外は同様の操作を繰り返し、不揮発分62.0%、pH8.3、粘度2800mPa・s、粒子径210nm(粒度分布26%)、重量平均分子量52000のエマルション型ポリマー粒子14を得た。
【0086】
(制振材配合物の調製)
実施例1〜10、及び、比較例1〜4で得られたエマルション型ポリマー粒子を下記の通り配合し、制振材配合物として機械安定性、乾燥塗膜表面状態、耐塗膜崩壊性、及び、制振性を下記の方法に従い評価した。結果を表2に示す。
エマルション型ポリマー粒子 359部
炭酸カルシウムNN#200* 620部
分散剤 アクアリックDL−40S*2 6部
増粘剤 アクリセットWR−650*3 4部
消泡剤 ノプコ8034L*4 1部
発泡剤 F−30*5 6部
*1:日東粉化工業株式会社製 充填剤
*2:株式会社日本触媒製 ポリカルボン酸型分散剤(有効成分44%)
*3:株式会社日本触媒製 アルカリ可溶性のアクリル系増粘剤(有効成分30%)
*4:サンノプコ株式会社製 消泡剤(主成分:疎水性シリコーン+鉱物油)
*5:松本油脂社製 発泡剤
【0087】
<機械安定性>
制振材配合物100gに純水30gを添加し、充分に攪拌・混合し、100メッシュ金網でろ過した後、その70gを用い、マーロン試験安定性試験機(熊谷理機工業社製)にて、機械安定性試験をおこなった。(JIS K6828:1996に準じる、台ばかり目盛り10Kg,円盤回転数1000min−1、回転時間5分、試験温度25℃)試験終了後、その制振材配合物を直ちに100メッシュ金網でろ過し、110℃オーブンで1時間乾燥させた。以下の式にて凝集率を算出し、評価を行った。
凝集率(%)=(乾燥後の金網の質量(g)−乾燥前の金網の質量(g))/70(g)×100
評価基準
◎:0.0001%未満
○:0.001以上、0.0001%未満
△:0.01以上、0.001%未満
×:0.1以上、0.01%未満
【0088】
<耐塗膜崩壊性試験>
関西ペイント社製カチオン電着塗料エレクロン「KG−400」を用いて電着塗装した0.8*70*150の鋼板(ED鋼板)に、上記により得られた塗料配合物をwet膜厚6mmになるように塗布し、直ちに塗布面を垂直にして、120℃×30分間の焼き付けを行って、得られた塗膜を目視により観察して、塗膜崩壊性の評価を行った。
評価基準
塗布面上端から塗料が崩壊した長さ(mm)
◎:Omm
○:1〜2mm
△:3〜5mm
×:6mm以上
【0089】
<制振性試験I>
制振材配合物を冷間圧延鋼板(SPCC・15mm幅×250mm長さ×厚み1.5mm)上に3mmの厚みで塗布して150℃で30分間乾燥し、冷間圧延鋼板上に面密度4.0Kg/mの制振材被膜を形成した。制振性の測定は、片持ち梁法(株式会社小野測機製損失係数測定システム)を用いて評価した。
評価基準(相対評価)
◎:制振性極めて良好
○:制振性良好
△:制振性不良
<制振性試験II>
制振性試験Iにおいて、加熱乾燥条件を150℃で15分とした以外は同様の操作を行い、制振性を評価した。
評価基準(相対評価)
◎:制振性極めて良好
○:制振性良好
△:制振性不良
×:測定不可能
【0090】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体成分を乳化重合してなるエマルションを含む制振材用エマルション組成物であって、
該エマルションは、エマルション粒子中に硬化性モノマー及び/又はオリゴマーと重合開始剤とを含有するものであり、
該制振材用エマルション組成物は、水分含有量が40質量%以下の該エマルション粒子の水分散体である
ことを特徴とする制振材用エマルション組成物。
【請求項2】
前記エマルションは、全単量体成分100質量%に対して、スチレンを35質量%以上含有するアクリル系エマルションである
ことを特徴とする請求項1に記載の制振材用エマルション組成物。
【請求項3】
前記硬化性モノマー及び/又はオリゴマーは、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の制振材用エマルション組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の制振材用エマルション組成物、顔料、発泡剤、及び、増粘剤を必須成分とする制振材配合物であって、
固形分濃度が制振材配合物100質量%中、70〜90質量%である
ことを特徴とする制振材配合物。
【請求項5】
請求項4に記載の制振材配合物を加熱乾燥後の膜厚が3〜6mmとなるように塗布して得られることを特徴とする制振材。

【公開番号】特開2009−114231(P2009−114231A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285497(P2007−285497)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】