説明

制振材用重合体水性分散液、制振材用塗料及び制振材

【課題】 塗装作業性や乾燥性に優れ、高い制振性を有する制振材用重合体水性分散液、及び制振材用塗料及び制振材を提供すること。
【解決手段】 水性媒体と、該水性媒体中に分散する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有する粒子径が200〜500nmのアクリル系重合体(A)粒子と、該水性媒体中に分散する酸価が20〜80であり、且つ、粒子径が200〜500nmであるカルボキシル基含有共役ジエン系重合体(B)粒子とを必須構成成分として含有する制振材用重合体水性分散液であって、前記(A)粒子と前記(B)粒子との配合比率〔(A)/(B)〕(重量比)が40/60〜90/10であることを特徴とする制振材用重合体水性分散液、該制振材用重合体水性分散液と発泡剤と無機充填剤を含有することを特徴とする発泡性制振材用塗料、制振材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材を形成するための制振材用重合体水性分散液、制振材用塗料及び制振材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車室内の防振は、厚さ2〜4mmのアスファルトシートを自動車塗装工程の途中で自動車車体室内床面上に敷き、焼き付け、融着させることによってなされてきた。例えば、アスファルト/フィラー/アスファルト変性材を熱溶融カレンダーによりシート化、所定の形状に切断した制振性シートは、各車種の形状に合わせて切断する必要があり、複雑な型取り作業、車種ごとの分類、車種変更時の対応等、作業時の複雑な問題があった。また、制振材シートの設置作業はロボット化ができず、人手に頼っており、作業姿勢、作業環境等にも問題が多い。さらにシートを設置して融着する従来の方法では、車体床面の凹凸に対応できず、床面とシートとの密着性不良の部分ができやすく、十分な制振性が得られないという問題があった。
【0003】
このような問題の解決のために、近年は、制振材としての機能を有する制振材用水性エマルジョン系塗料に注目が集まっている。制振材用水性エマルジョン系塗料をロボット等で塗装することにより、人手による作業が不要になり、生産性が大幅に向上し、さらに床面とシートとの密着性不良の問題も解決する。しかしながら、従来の制振材用水性エマルジョン系塗料は、高膜厚の場合、ズレ、タレ、フクレ、クラックが発生し易いという欠点がある。また、連続的に長時間塗装する際に、塗料が凝集して塗装ノズルが詰まり塗装できなくなるという問題も有していた。
【0004】
さらに、得られた制振材が、特定の温度領域では高い制振性を示すが、季節の温度変化により制振性に変動が生じたり、温度変化が激しい部位に塗工した際に目的とする制振性が得られない等、温度の変化が伴う場合に制振性に変動があるという問題を有していた。
【0005】
そこで、このような問題点を解決するために、合成樹脂エマルジョンとして、固体動的粘弾性測定(DMA)のチャートにおいて、tanδのピーク温度が−5〜25℃の温度範囲内にある合成樹脂エマルジョン(A)と、tanδピーク温度が20〜50℃の温度範囲内にある合成樹脂エマルジョン(B)とをブレンドしたものを制振塗料用のベースエマルジョンとして使用すると、幅広い温度領域で優れた制振性を発現する制振塗料用合成樹脂エマルジョンが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
しかしながら、これらの技術では、制振材用塗料を連続的に長時間塗装した際に塗装ノズルが詰まる問題や、塗装した塗膜を加熱乾燥する際にズレ、タレ、フクレ、クラックが発生する問題は解決されておらず、また、制振性に関しても未だ不十分であり、満足すべき結果は得られていなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2005−187605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、塗装作業性や乾燥性に優れ、高い制振性を有する制振材用重合体水性分散液、及び制振材用塗料及び制振材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、特定の粒子径、特定の重合体組成を持った2種類の重合体粒子を、特定の比率で混合した重合体水性分散液を制振材用塗料として使用すると、塗装作業性が著しく良好であり、乾燥性に優れ、且つ、高い制振性を示すことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、水性媒体と、該水性媒体中に分散する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有する粒子径が200〜500nmのアクリル系重合体(A)粒子と、該水性媒体中に分散する酸価が20〜80であり、且つ、粒子径が200〜500nmであるカルボキシル基含有共役ジエン系重合体(B)粒子とを必須構成成分として含有する制振材用重合体水性分散液であって、
前記(A)粒子と前記(B)粒子との配合比率〔(A)/(B)〕(重量比)が40/60〜90/10であることを特徴とする制振材用重合体水性分散液を提供するものである。さらに、該制振材用重合体水性分散液と発泡剤と無機充填剤を含有することを特徴とする発泡性制振材用塗料、及び制振材を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の制振材用重合体水性分散液を用いた制振材用塗料は、機械的安定性に優れ、高膜厚で塗装した際の加熱乾燥時にも塗膜欠陥が生じず、広範な温度領域で制振性に優れる。したがって、本発明によれば、制振材用塗料を連続的に長時間塗装した際に塗装ノズルが詰まる問題や、塗装した塗膜を加熱乾燥する際にズレ、タレ、フクレ、クラックが発生する問題が回避でき、且つ高い制振性を発現する制振材を得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の制振材塗料用に用いる重合体水性分散液は、粒子径が200〜500nmの重合体(A)粒子を必須の成分として使用し、該重合体(A)は主たる重合単位として(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有するアクリル系重合体であり、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体を主体とした単量体成分を、水性媒体中で乳化重合して得られるアクリル系重合体水性分散液が挙げられる。このような重合体粒子(A)を、後述する重合体粒子(B)とともに使用することにより、制振材用塗料に高い制振性を付与することができる。
【0013】
重合体(A)を製造する際に使用する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0014】
また、重合体(A)には、前記(メタ)アクリレート単量体の他、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルアニソール、α−ハロスチレン、ビニルナフタリン、ジビニルスチレン等の芳香族環を有するビニル化合物を共重合することが可能であり、これらを共重合すると制振材としての制振性が向上するため好ましい。これらの中でも、特にスチレンを共重合して、重合体(A)をスチレン−アクリル重合体とすると、制振性が大幅に向上するため好ましい。
【0015】
重合体(A)には、前記の単量体類の他、更に、カルボキシル基を含有する単量体単位を重合体(A)中に含有すると、制振材用塗料の塗装作業性、即ち、制振材用塗料を連続的に長時間塗装した際に塗装ノズルが詰まる問題や、塗装した塗膜を加熱乾燥する際にズレ、タレ、フクレ、クラックが発生することを抑制できるため好ましい。
【0016】
カルボキシル基を含有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルプロピオン酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、β−(メタ)ヒドロキシエチルハイドロゲンフタレートおよびこれらの塩等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸を使用すると、制振材用塗料を加熱乾燥する際のフクレやクラックが発生することを抑制する効果が大きいため好ましい。
【0017】
また、その他のエチレン性不飽和単量体として、乳化重合時の安定性、制振材用塗料の貯蔵安定性等を向上させることを目的として、スルホン酸基および/またはサルフェート基(および/またはその塩)、リン酸基および/またはリン酸エステル基(および/またはその塩)を含有するエチレン性不飽和単量体を併用することができる。そのようなその他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等のビニルスルホン酸類またはその塩、アリルスルホン酸、2−メチルアリルスルホン酸等のアリル基含有スルホン酸類またはその塩、(メタ)アクリル酸2−スルホエチル、(メタ)アクリル酸2−スルホプロピル等の(メタ)アクリレート基含有スルホン酸類またはその塩、(メタ)アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸等の(メタ)アクリルアミド基含有スルホン酸類またはその塩、リン酸基を有する「アデカリアソープPP−70、PPE−710」(旭電化工業(株)製)等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0018】
重合体(A)の分子量は特に制限をうけるものではないが、例えば、重量平均分子量で、20000〜700000の範囲の分子量であると、制振材としての制振性が向上するため好ましい。特に、重量平均分子量が30000〜200000の範囲である場合、より制振性が向上する傾向にあるため好ましい。
【0019】
重合体(A)粒子の粒子径は、200nm未満の場合、制振材用塗料を連続的に長時間塗装した際に塗装ノズルが詰まる問題や、制振材塗料の乾燥時にフクレやクラックが発生し易くなる傾向があり、粒子径が500nmを越える場合は、ズレやタレが発生し易くなる。故に、重合体(A)粒子の粒子径は、200〜500nmの範囲であることが好ましい。本発明における粒子径とは、後述する実施例に記載した方法で測定したものである。
【0020】
重合体(A)は、実用温度領域での制振性を発現するために、重合体(A)から形成される皮膜の固体動的粘弾性測定(DMA)におけるtanδのピーク温度が35〜55℃であることが好ましい。皮膜の固体動的粘弾性は、制振材としての制振性に大きく影響するため、重合体(A)の皮膜の固体動的粘弾性を上記範囲に調整することにより、後述する重合体(B)との組み合わせにおいて、実用温度領域(例えば、20〜60℃)で優れた制振性が得られる。また、皮膜の固体動的粘弾性測定(DMA)におけるtanδのピーク高さは1.5以上であることが制振性に優れるため好ましい。本発明における固体動的粘弾性測定(DMA)とは、後述する実施例に記載した方法で測定したものである。
【0021】
重合体粒子(A)の製造方法は、特に限定されるものではないが、重合体を水性媒体中で重合する乳化重合法で実施すると、重合体(A)粒子の粒子径の調整が容易であり、生産性にも優れるため好ましい。重合体を水性媒体中で製造する方法としては、水、重合性単量体混合物、重合開始剤、(必要に応じて乳化剤及び分散安定剤を用いてもよい)を一括混合して重合する方法や、水、重合性単量体、乳化剤を予め混合したものを滴下するいわゆるプレエマルジョン法や、モノマー滴下法等の方法により製造することができる。
【0022】
重合体(A)を重合する際の重合温度は、使用する単量体の種類、重合開始剤の種類等によって異なるが、水性媒体中で重合する場合は通常30〜90℃の温度範囲で行うことが好ましい。
【0023】
重合体(A)を重合する際の水性媒体としては、特に限定されるものではないが、水のみを使用してもよいし、或いは、水と水溶性溶剤の混合溶液を使用してもよい。ここで用いる水溶性溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルカルビトール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のアルコール類、N−メチルピロリドン等の極性溶剤が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。
【0024】
重合体(A)の重合の際に用いる重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が用いられ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類、過酸化水素等があり、これら過酸化物のみを用いてラジカル重合するか、或いは前記過酸化物と、アスコルビン酸、ホルムアルデヒドスルホキシラートの金属塩、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、塩化第二鉄等のような還元剤を併用したレドックス重合開始剤系によっても重合でき、また、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ系開始剤を使用することも可能であり、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。
【0025】
上記の重合体(A)の重合の際に用いる重合開始剤の内、有機過酸化物類としては、例えば、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。
【0026】
また、上記の重合体(A)の重合の際に用いる重合開始剤の内、還元性有機化合物としては、例えば、アスコルビン酸およびその塩、エリソルビン酸およびその塩、酒石酸およびその塩、クエン酸およびその塩、ホルムアルデヒドスルホキシラートの金属塩等が挙げられ、上記有機過酸化物類と併用して、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。
【0027】
本発明において、重合体(A)の分子量を調整する必要がある場合は、分子量調整剤として連鎖移動能を有する化合物、例えば、ラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸、チオグリセリン等のメルカプタン類、またはα−メチルスチレン・ダイマー等を添加してもよい。
【0028】
本発明では、重合体(A)粒子を水性媒体中で重合する際に乳化剤を使用することができる。使用する乳化剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤等が挙げられ、さらに具体的には、陰イオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルコールの硫酸エステル及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩等が挙げられ、非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、アセチレンジオール系界面活性剤等が挙げられ、陽イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルアンモニウム塩等が挙げられ、両性イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル(アミド)ベタイン、アルキルジメチルアミンオキシド等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができるが、本発明では、後述する無機充填剤との混和性に優れる点から、陰イオン性界面活性剤及び/または非イオン性界面活性剤を使用することが好ましい。
【0029】
また、上記の界面活性剤の他に、特殊界面活性剤として、フッ素系界面活性剤や、シリコーン系界面活性剤を使用することもできる。更に、一般的に「反応性乳化剤」と称される重合性不飽和基を分子内に有する乳化剤を使用することも出来る。本発明で使用出来る反応性乳化剤としては、例えば、スルホン酸基及びその塩を有する「ラテムルS−180」(花王(株)製)、「エレミノールJS−2、RS−30」(三洋化成工業(株)製)等;硫酸基及びその塩を有する「アクアロンKH−10、HS−10」(第一工業製薬(株)製)、「アデカリアソープSE−10、SE−20」(旭電化工業(株)製)等;リン酸基を有する「ニューフロンティアA−229E」(第一工業製薬(株)製)等;非イオン性親水基を有する「アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50」(第一工業製薬(株)製)等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。
【0030】
さらに、乳化剤の他、乳化剤以外の分散安定剤を使用することもでき、例えば、ポリビニルアルコール、繊維素エーテル、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ポリアミド樹脂、水性ポリウレタン樹脂等の合成或いは天然の水溶性高分子物質が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0031】
重合体(A)にカルボキシル基を含有する場合は、該カルボキシル基が塩基性物質で中和されていてもよく、中和剤として使用する塩基性物質としては、通常のものが使用でき、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属化合物;アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジメチルプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等の水溶性有機アミン類等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0032】
次に、本発明における重合体(B)粒子について述べる。重合体(B)粒子は、本発明の制振材用塗料において、塗装作業性を付与することを主目的として使用される。特に、重合体(B)粒子を使用すると、制振材用塗料を連続的に長時間塗装した際に塗装ノズルが詰まる問題を回避することが可能となる。即ち、特定の粒子径、酸価を有するカルボキシル基含有共役ジエン系重合体(B)から構成される重合体(B)粒子を使用することにより、制振材用塗料の機械的安定性が大幅に向上し、その結果、制振材用塗料を連続的に長時間塗装した際に塗装ノズルが詰まる問題を回避することが可能であることを見いだした。また、重合体(B)粒子を使用すると、制振材用塗料を加熱乾燥する際にフクレやクラックの発生が抑制できることも見いだした。さらに、重合体(B)粒子を使用することにより、制振材としての制振性を広範な温度領域で高めることが可能であることも見いだした。
【0033】
重合体(B)粒子は、粒子径が200〜500nm、重合体(B)が、主たる重合単位として共役ジエン系単量体単位を有し、且つ、酸価が20〜80であるカルボキシル基含有共役ジエン系重合体であり、例えば、共役ジエン系単量体と、カルボキシル基を含有する単量体を含む単量体成分を、水性媒体中で乳化重合して得られるカルボキシル基含有共役ジエン系重合体水性分散液が挙げられる。このような共役ジエン系重合体(B)粒子を使用することにより、アクリル系重合体(A)粒子単独では付与することが困難であった制振材用塗料の機械的安定性を大幅に向上し、その結果、制振材用塗料を連続的に長時間塗装した際に塗装ノズルが詰まる問題を回避することが可能となる。
【0034】
重合体(B)粒子中のカルボキシル基含有共役ジエン系重合体(B)は、例えば、共役ジエン系単量体と、カルボキシル基を含有する単量体、及びその他の単量体の単量体混合物を水性媒体中で乳化重合して得ることができる。ここで、共役ジエン系単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロル−1,3−ブタジエン等が挙げられるが、これらの中でも1,3−ブタジエン、イソプレンを使用すると、制振材塗料の機械的安定性の向上効果が大きいため好ましい。重合体(B)中の共役ジエン系単量体単位の含有量は、特に制限を受けないが、後述する固体動的粘弾性の特性が容易に得られる点で、重合体(B)の固形分全重量中共役ジエン系単量体が20〜50重量%となる範囲が好ましい。
【0035】
次に、上記共役ジエン系単量体と共重合するカルボキシル基を含有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルプロピオン酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、β−(メタ)ヒドロキシエチルハイドロゲンフタレートおよびこれらの塩等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸を使用すると、制振材用塗料の機械的安定性が大幅に向上し、その結果、制振材用塗料を連続的に長時間塗装した際に塗装ノズルが詰まる問題を回避することが可能となるため好ましい。ここで、カルボキシル基を含有する単量体の使用量は、重合体(B)の酸価が20〜80となる範囲で使用することが好ましい。即ち、重合体(B)の酸価が20未満の場合、制振材用塗料の機械的安定性を向上する効果が乏しく、重合体(B)の酸価が80を越えると、制振材用塗料の粘度が高くなり過ぎて塗装が困難になる場合や、制振材塗料を加熱乾燥する際にクラックが発生し易くなることがある。本発明における酸価とは、後述する実施例に記載した方法で測定した値である。
【0036】
さらに、その他の単量体として、共役ジエン系単量体及びカルボキシル基を含有する単量体と共重合性を有する単量体を使用して、後述する重合体(B)から形成される皮膜の固体動的粘弾性測定におけるtanδのピーク温度を調整すると、制振材として制振性に優れた性質を付与することができるため好ましい。その他の単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルアニソール、α−ハロスチレン、ビニルナフタリン、ジビニルスチレン等の芳香族環を有するビニル化合物等が挙げられる。
【0037】
これらの中でも特に、その他の単量体としてスチレンを用いると、後述する重合体(B)から形成される皮膜の固体動的粘弾性測定におけるtanδのピーク温度の調整が容易であるため好ましい。
【0038】
さらに、その他の単量体としてスチレンに加え、メチルメタクリレートを使用すると皮膜の固体動的粘弾性測定におけるtanδのピーク温度の調整が容易であり、且つ、制振材用塗料としての機械的安定性が大幅に向上し、その結果、制振材用塗料を連続的に長時間塗装した際に塗装ノズルが詰まる問題を回避することが可能となるため好ましい。
【0039】
また、その他のエチレン性不飽和単量体として、乳化重合時の安定性、制振材用塗料の貯蔵安定性等を向上させることを目的として、スルホン酸基および/またはサルフェート基(および/またはその塩)、リン酸基および/またはリン酸エステル基(および/またはその塩)を含有するエチレン性不飽和単量体を併用することができる。そのようなその他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等のビニルスルホン酸類またはその塩、アリルスルホン酸、2−メチルアリルスルホン酸等のアリル基含有スルホン酸類またはその塩、(メタ)アクリル酸2−スルホエチル、(メタ)アクリル酸2−スルホプロピル等の(メタ)アクリレート基含有スルホン酸類またはその塩、(メタ)アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸等の(メタ)アクリルアミド基含有スルホン酸類またはその塩、リン酸基を有する「アデカリアソープPP−70、PPE−710」(旭電化工業(株)製)等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0040】
重合体(B)粒子の粒子径は、200nm未満の場合、制振材用塗料の機械的安定性を改善する効果が低くなり、制振材用塗料を連続的に長時間塗装した際に塗装ノズルが詰まる問題や、制振材用塗料の乾燥時にフクレやクラックが発生し易くなる傾向にある。一方、粒子径が500nmを越える場合は、制振材塗料を加熱乾燥する際にズレやタレが発生し易くなる。故に、重合体(B)粒子の粒子径は、200〜500nmの範囲であることが好ましい。本発明における粒子径とは、後述する実施例に記載した方法で測定したものである。
【0041】
重合体(B)は、実用温度領域での制振性を発現するために、重合体(B)から形成される皮膜の固体動的粘弾性測定(DMA)におけるtanδのピーク温度が15〜50℃であることが好ましい。皮膜の固体動的粘弾性は、制振材としての制振性に大きく影響するため、重合体(B)の皮膜の固体動的粘弾性を上記範囲に調整することにより、重合体(A)との組み合わせにおいて、実用温度領域(例えば、20〜60℃)で優れた制振性が得られる。また、皮膜の固体動的粘弾性測定(DMA)におけるtanδのピーク高さは0.3以上であることが制振性に優れるため好ましい。重合体(A)と重合体(B)の各々の皮膜の固体動的粘弾性測定(DMA)のおけるtanδ曲線が、15〜50℃の温度範囲で重複するように調整すると、実用温度領域(例えば、20〜60℃)でより高い制振性が得られるため好ましい。本発明における固体動的粘弾性測定(DMA)とは、後述する実施例に記載した方法で測定したものである。
【0042】
重合体(B)の分子量は特に制限をうけるものではないが、例えば、重合体(B)分子がある程度架橋して三次元化していると、制振材用塗料の機械的安定性が向上するため好ましい。重合体(B)分子が架橋した度合いを表す指標として、トルエンに不溶解な重合体の比率(ゲル分率)が挙げられるが、このゲル分率が20重量%以上であれば、制振材用塗料の機械的安定性が向上する傾向にあり、一方、ゲル分率が80重量%以下であれば、制振材用塗料を加熱乾燥する際にフクレやクラックが発生しにくくなる傾向がある。即ち、重合体(B)のゲル分率が、20〜80重量%の範囲であれば、制振材用塗料の機械的安定性に優れ、且つ、乾燥時のフクレやクラックの問題が発生し難くなるため好ましい。本発明におけるゲル分率とは、後述する実施例に記載した方法で測定したものである。
【0043】
重合体(B)を架橋させ、上記の性能を得るためには、重合体(B)を重合する際に重合性不飽和基を2つ以上持つ多官能性単量体を使用することもできる。重合性不飽和基を2つ以上持つ多官能性単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0044】
重合体粒子(B)の製造方法は、特に限定されるものではないが、前述の重合体(A)粒子の製造方法と同様にして実施することができ、水性媒体中で乳化重合する方法が、粒子径の調整が容易であり、生産性に優れるため好ましい。但し、重合体(B)の重合に沸点の低い共役ジエン系単量体成分を使用する場合は、製造設備として耐圧型反応容器を使用することが好ましい。
【0045】
重合体(B)を製造する際の水性媒体、重合する際の重合温度、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、中和剤等は前述した重合体(A)を製造する際に用いられるものを使用することができる。
【0046】
本発明においては、重合体(A)粒子と重合体(B)粒子を混合して使用するが、重合体(A)粒子と重合体(B)粒子の比率は、重合体(A)粒子と重合体(B)粒子の固形分重量比で40/60〜90/10の範囲であることが、制振材用塗料の機械的安定性や、制振性の点から好ましい。即ち、重合体(A)粒子の比率が40重量%未満の場合、制振材としての制振性が低いものとなり、一方、重合体(B)粒子の比率が10重量%未満の場合、制振材用塗料としての機械的安定性が低くなりやすいため、重合体(A)粒子と重合体(B)粒子の比率は、前記の40/60〜90/10の範囲であることが好ましい。
【0047】
また、本発明では、重合体(A)粒子と重合体(B)粒子の他、その他の樹脂成分を併用することも可能であるが、その他の樹脂成分の比率は、前述の如き理由から、全樹脂成分(重合体(A)粒子と重合体(B)粒子とその他の樹脂成分の固形分重量の合計)中、重合体(A)粒子の比率が40重量%以上であり、且つ、重合体(B)粒子の比率が10重量%以上であるが好ましい。
【0048】
本発明の制振材用重合体水性分散液に、無機充填剤を配合することにより本発明の制振材用塗料を製造することができる。かかる無機充填剤としては、例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、カーボンブラック、酸化チタン、セピオライト等が挙げられる。無機充填剤の使用量は、重合体水性分散液固形分100重量部に対して5〜250重量部であることが好ましく、特に10〜200重量部であると、制振材用塗料乾燥時に優れた皮膜形成性と耐ブロッキング性が得られ、且つ、制振材とした時の制振性に優れるため好ましい。
【0049】
また、無機充填剤の他、発泡剤を配合すると制振材を厚膜化することができ、その結果、制振性を高めることが可能となるため好ましい。発泡剤としては、例えば、加熱膨張型有機中空状充填剤や有機発泡剤が挙げられる。加熱膨張型有機中空粒子状充填剤としては、例えば、塩化ビニリデン、アクリロニトリル等の有機合成樹脂からなるプラスチックバルーン等が挙げられ、有機発泡剤としては、ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ系発泡剤、ベンゼンスルホニルヒドラジド、P−トルエンスルホニルヒドラジド等のスルホニルヒドラジド発泡剤、アゾビスイソブチロニトリル、アゾカルボアミドなどのアゾ系発泡剤などが挙げられる。また、フロン系液体がカプセル内に充填された発泡剤も使用することができる。発泡剤の使用量は、重合体水性分散液固形分100重量部に対して1〜5重量部であることが好ましい。
【0050】
また、本発明の制振材用塗料には、無機顔料、有機顔料等の着色剤、キレート剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、圧縮回復剤、消泡剤、殺菌剤、防腐剤、湿潤剤、架橋剤、酸化亜鉛・硫黄・加硫促進剤等の加硫剤、タック防止剤、起泡剤、整泡剤、浸透剤、撥水・撥油剤・ブロッキング防止剤、難燃剤、充填剤、増粘剤等を添加することができ、これらの添加剤の選択、添加量、添加順序等は、制振材用塗料の製造条件、作業性、安定性、更に加工適性、塗布量等を考慮して、適宜に選択して使用することができる。
【0051】
本発明の制振材用塗料は、自動車の室内の他、鉄道車両、航空機、船舶などの室内や、冷蔵庫、洗濯機、掃除機等の家電製品などの広範な対象物の制振部位に塗装され、対象物の振動や振動音を抑制ないし防止し、生活環境や作業環境を静粛に保つことができる。本発明の制振材用塗料を基材に塗装する方法は、特に限定されるものではなく、必要に応じた方法を適宜とることができるが、エアレススプレー、スリットノズル押し出し等の方法が制振材の膜厚を厚く塗装でき、制振性が向上するため好ましい。制振材用塗料の乾燥条件は、特に限定されず、対象基材や塗装膜厚などを考慮して適宜設定すればよいが、例えば乾燥温度70〜150℃、乾燥時間20〜60分の乾燥条件とすることができる。本発明の制振材用塗料を使用して形成された制振材は、塗膜の膜厚が5〜8mm程度の厚さとなる場合でも、フクレやクラックが無く均一に造膜した膜となるので、優れた制振性のみならず、平滑な表面をもつ美麗な外観を呈する。
【0052】
本発明における制振材用重合体水性分散液及び制振材用塗料における、制振材用塗料を連続的に長時間塗装した際に塗装ノズルが詰まる問題は、制振材用重合体水性分散液及び制振材用塗料の機械的安定性の測定で代用できる。即ち、後述する実施例により測定される方法による制振材用重合体水性分散液及び制振材用塗料の機械的安定性の数値が小さければ、長時間塗装時のノズル詰まりが発生し難いということが示唆される。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、実施例中における部及び%は特に断らない限り、重量基準である。
【0054】
[粒子径の測定方法]
粒子径は動的光散乱法により測定したものであり、日機装(株)製マイクロトラックUPA型粒度分布測定装置にて測定した粒子径(50%メジアン径)の値を求めた。
【0055】
[酸価の測定方法]
酸価は、重合体に含まれるカルボキシル基の量を表す数値で、重合体1g中に含まれる遊離カルボキシル基を中和するために要する水酸化カリウムのmg数である。ガラス板上に3mil(ミル)アプリケーターで試料を塗工し、常温で1時間乾燥して半乾きの被膜を作成後、得られた被膜をガラス板から剥がし、この被膜1gを精秤してテトラヒドロフラン(THF)100gに溶解したものを測定試料とした。測定方法は、水酸化カリウム水溶液による中和滴定法で行った。尚、THFに不溶の試料については、本方法での測定が不可能であるので、重合体製造時に使用したカルボキシル基含有単量体の仕込量から求めた計算値を重合体の酸価として算出した。
【0056】
[皮膜の固体動的粘弾性(DMA)におけるtanδの測定方法]
重合体水性分散液を乾燥後の膜厚が0.5mmとなるようにガラス板に塗工し、40℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離し、更に120℃で20分間乾燥したものを5mm幅の短冊状に切り出して試料とした。この試料を用いて、RHEOMETRICS社製の固体粘弾性測定装置「RSA−2」にて損失角正接(tanδ)を測定した。
測定条件:周波数1Hz、測定温度−50〜150℃、昇温速度:3℃/分
【0057】
[ゲル分率の測定方法]
ゲル分率は重合体のトルエン不溶解分率として測定した。ガラス板上に乾燥後の膜厚が0.5mmとなるように試料を塗工し、40℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離し、更に140℃で5分間乾燥したものを50mm角に切り取り、試料とした。次に、予め試料のトルエン浸漬前の重量(G1)を測定しておき、トルエン溶液中に常温で24時間浸漬した後の試料のトルエン不溶解分を300メッシュ金網で濾過することにより分離し、110℃で1時間乾燥した後の残さの重量(G2)を測定し、以下の式に従ってゲル分率を求めた。
【0058】
ゲル分率(重量%)=〔(G2/G1)〕×100
【0059】
[機械的安定性の測定方法]
後記実施例で得られた重合体水性分散液及び制振材用塗料を試料として、テスター産業(株)製マーロン型機械的安定性試験器にて測定した。試料50gを試験用容器に秤取し、10kg/cmの圧力下、回転数1000rpmで10分間回転した後、凝集物の発生量を測定した。予め、上記試料50gに含まれる固形分の重量(M1)を算出しておき、機械的安定性試験を上記条件で実施した後、凝集物を300メッシュ金網で濾過して集め、110℃で1時間乾燥した後の残さの重量(M2)を測定し、以下の式に従って凝集物の発生率を求めた。
【0060】
凝集物発生率(重量%)=〔(M2/M1)〕×100
【0061】
[制振材用塗料加熱乾燥時の塗膜欠陥の評価方法]
厚さ0.8mm、長さ150mm、幅70mmのED鋼板に、乾燥後の膜厚が4mmになるように制振材用塗料を塗布し、90℃×20分間と120℃×20分間の乾燥条件で乾燥した後の塗膜のフクレやクラックの状態を観察した。
【0062】
[制振性:損失係数の測定方法]
厚さ0.8mm、長さ215mm、幅16mmのED鋼板(電着塗装された鋼板)に、乾燥後の膜厚が2mmになるように制振材用塗料を塗布し、90℃×20分間、120℃×20分間の乾燥条件で乾燥して試料とした。松下インターテクノ(株)社製ME8068システム(測定系:ME3930型複素弾性係数測定装置,加振器:MM0002型電磁型変換器+2639型増幅器)を用い、試料の保持形式を片端固定(片持ち梁)とし、それぞれの温度(20〜60℃)における損失係数を定常加振法により測定した。損失係数は半値幅法で算出した。損失係数が大きいほど制振性が良好であることを示す。
【0063】
[合成例1]重合体(A)水性分散液[1]の製造
撹拌装置を備えた容器に、水20部、乳化剤として「ニューコール707SF」[日本乳化剤(株)製ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩:有効成分30%]6.7部、ブチルアクリレート50部、メチルメタクリレート48部、メタクリル酸2部、t−ドデシルメルカプタン0.5部を混合して単量体混合液を調整した。
【0064】
撹拌装置、窒素導入管、滴下装置を備えた反応容器に、水50部と、前記単量体混合液1.3部を仕込み、反応容器内に窒素を吹き込みながら反応容器内液温度を80℃まで昇温した。反応容器内液温度80℃で過硫酸アンモニウムの5%水溶液2部を添加して1時間反応させた。次いで、反応容器内液温度を80℃に保ち撹拌しながら、残りの単量体混合液と、過硫酸アンモニウムの5%水溶液10部を各々別の滴下装置から4時間かけて連続的に反応容器に滴下した。滴下終了後、80℃で2時間撹拌して反応させた。その後、反応容器内液温度を25℃まで冷却し、アンモニア水を加えてpH8に調整した後、水で固形分濃度を52%に調整して本発明で使用する重合体(A)粒子の重合体水性分散液を得た。重合体(A)粒子の粒子径は、280nmであった。
【0065】
[合成例2]重合体(A)水性分散液[2]の製造
撹拌装置を備えた容器に、水20部、乳化剤として「ニューコール707SF」[日本乳化剤(株)製ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩:有効成分30%]6.7部、2−エチルヘキシルアクリレート38部、スチレン60部、メタクリル酸2部、t−ドデシルメルカプタン0.5部を混合して単量体混合液を調整した。
【0066】
撹拌装置、窒素導入管、滴下装置を備えた反応容器に、水40部と、前記単量体混合液1.3部を仕込み、反応容器内に窒素を吹き込みながら反応容器内液温度を80℃まで昇温した。反応容器内液温度80℃で過硫酸アンモニウムの5%水溶液2部を添加して1時間反応させた。次いで、反応容器内液温度を80℃に保ち撹拌しながら、残りの単量体混合液と、過硫酸アンモニウムの5%水溶液10部を各々別の滴下装置から4時間かけて連続的に反応容器に滴下した。滴下終了後、80℃で2時間撹拌して反応させた。その後、反応容器内液温度を25℃まで冷却し、アンモニア水を加えてpH8に調整した後、水で固形分濃度を52%に調整して本発明で使用する重合体(A)粒子の重合体水性分散液を得た。重合体(A)粒子の粒子径は、240nmであった。
【0067】
[合成例3]重合体(B)水性分散液[1]の製造
撹拌装置を備えた耐圧型容器に、水20部、乳化剤として「ニューコール707SF」[日本乳化剤(株)製ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩:有効成分30%]6.7部、ブタジエン32部、スチレン64部、アクリル酸4部、t−ドデシルメルカプタン0.5部を混合して単量体混合液を調整した。
【0068】
撹拌装置、窒素導入管、滴下装置を備えた耐圧型反応容器に、水40部と、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩0.1部を仕込み、反応容器内の空気を窒素で置換して密閉した。その後、前記単量体混合液1.3部を反応容器に圧入し、反応容器内液温度を80℃まで昇温した。反応容器内液温度80℃で過硫酸アンモニウムの5%水溶液2部を圧入して1時間反応させた。次いで、反応容器内液温度を80℃に保ち撹拌しながら、残りの単量体混合液と、過硫酸アンモニウムの5%水溶液20部を各々別の滴下装置から6時間かけて連続的に反応容器に滴下した。滴下終了後、90℃に昇温して3時間撹拌して反応させた。その後、反応容器内液温度を25℃まで冷却し、アンモニア水を加えてpH8に調整した後、水で固形分濃度を50%に調整して本発明で使用する重合体(B)粒子の重合体水性分散液を得た。重合体(B)粒子の粒子径は、310nmであった。
【0069】
[合成例4]重合体(B)水性分散液[2]の製造
撹拌装置を備えた耐圧型容器に、水20部、乳化剤として「ニューコール707SF」[日本乳化剤(株)製ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩:有効成分30%]6.7部、ブタジエン32部、スチレン50部、メチルメタクリレート14部、アクリル酸4部、t−ドデシルメルカプタン0.5部を混合して単量体混合液を調整した。
【0070】
撹拌装置、窒素導入管、滴下装置を備えた耐圧型反応容器に、水40部と、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩0.1部を仕込み、反応容器内の空気を窒素で置換して密閉した。その後、前記単量体混合液1.3部を圧入し、反応容器内液温度を80℃まで昇温した。反応容器内液温度80℃で過硫酸アンモニウムの5%水溶液2部を圧入して1時間反応させた。次いで、反応容器内液温度を80℃に保ち撹拌しながら、残りの単量体混合液と、過硫酸アンモニウムの5%水溶液20部を各々別の滴下装置から6時間かけて連続的に反応容器に滴下した。滴下終了後、90℃に昇温して3時間撹拌して反応させた。その後、反応容器内液温度を25℃まで冷却し、アンモニア水を加えてpH8に調整した後、水で固形分濃度を50%に調整して本発明で使用する重合体(B)粒子の重合体水性分散液を得た。重合体(B)粒子の粒子径は、330nmであった。
【0071】
[合成例5]比較用重合体水性分散液[1]の製造
撹拌装置を備えた容器に、水20部、乳化剤として「ニューコール707SF」[日本乳化剤(株)製ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩:有効成分30%]6.7部、2−エチルヘキシルアクリレート38部、スチレン60部、メタクリル酸2部、t−ドデシルメルカプタン0.5部を混合して単量体混合液を調整した。
【0072】
撹拌装置、窒素導入管、滴下装置を備えた反応容器に、水50部と、乳化剤として「ニューコール707SF」[日本乳化剤(株)製ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩:有効成分30%]2部、前記単量体混合液4部を仕込み、反応容器内に窒素を吹き込みながら反応容器内液温度を80℃まで昇温した。反応容器内液温度80℃で過硫酸アンモニウムの5%水溶液2部を添加して1時間反応させた。次いで、反応容器内液温度を80℃に保ち撹拌しながら、残りの単量体混合液と、過硫酸アンモニウムの5%水溶液10部を各々別の滴下装置から4時間かけて連続的に反応容器に滴下した。滴下終了後、80℃で2時間撹拌して反応させた。その後、反応容器内液温度を25℃まで冷却し、アンモニア水を加えてpH8に調整した後、水で固形分濃度を52%に調整して重合体水性分散液を得た。重合体粒子の粒子径は、150nmであった。
【0073】
[合成例6]比較用重合体水性分散液[2]の製造
撹拌装置、窒素導入管、滴下装置を備えた耐圧型反応容器に、水120部と、乳化剤として「ネオペレックスF−25」[(株)花王製アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム:有効成分25%]4.8部を仕込み、反応容器内の空気を窒素で置換して密閉した。ブタジエン37部、スチレン60部、アクリル酸3部、t−ドデシルメルカプタン0.5部の混合液を一括して反応容器に圧入した。その後、反応容器内液温度を70℃まで昇温した。反応容器内液温度80℃で過硫酸アンモニウムの5%水溶液6部を圧入し、10時間反応させた。その後、反応容器内液温度を25℃まで冷却し、アンモニア水を加えてpH8.5に調整した後、水で固形分濃度を45%に調整して重合体水性分散液を得た。重合体粒子の粒子径は、130nmであった。
【0074】
下記第1表に、上記合成例1〜6で得られた重合体水性分散液の原料モノマー組成、酸価、粒子径、ゲル分率、各重合体水性分散液から作成した皮膜の固体動的粘弾性(DAM)におけるtanδの測定結果を記載する。
【0075】
【表1】

【0076】
実施例1
重合体(A)粒子の重合体水性分散液として、上記合成例1の重合体水性分散液を固形分重量基準で50部と、重合体(B)粒子の重合体水性分散液として、上記合成例3の重合体水性分散液を固形分重量基準で50部配合し、本発明の制振材用重合体水性分散液を得た。この水性分散液の固形分重量基準で100部に対し、下記配合比率で充填剤(炭酸カルシウム)、分散剤、消泡剤、増粘剤を配合して本発明の制振材用塗料を得た。
重合体水性分散液 : 100.0部(配合部数は何れも固形分の部数である)
炭酸カルシウム : 300.0部
分散剤 : 1.5部
消泡剤 : 0.5部
増粘剤 : 1.0部
・分散剤:サンノプコ(株)製分散剤ノプコ44C
・消泡剤:サンノプコ(株)製分散剤ノプコ8034L
・増粘剤:日本アクリル化学(株)製プライマルTT−935
【0077】
上記のようにして得られた制振材用塗料について、制振材用塗料を連続的に長時間塗装した際に塗装ノズルが詰まる問題の指標として機械的安定性の測定を実施し、制振性の指標として損失係数の測定を実施した。これらの測定結果を第2表に制振材用塗料の加熱乾燥時の塗膜欠陥の評価を記載する。
【0078】
実施例2〜5及び比較例1〜3
重合体水性分散液として第2表に記載したものを使用した以外は実施例1と同様にして実施例2〜5及び比較例1〜3を実施した。これらの測定結果を第2表に記載する。
【0079】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体と、該水性媒体中に分散する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有する粒子径が200〜500nmのアクリル系重合体(A)粒子と、
該水性媒体中に分散する酸価が20〜80であり、且つ、粒子径が200〜500nmであるカルボキシル基含有共役ジエン系重合体(B)粒子とを必須構成成分として含有する制振材用重合体水性分散液であって、
前記(A)粒子と前記(B)粒子との配合比率〔(A)/(B)〕(重量比)が40/60〜90/10であることを特徴とする制振材用重合体水性分散液。
【請求項2】
重合体(A)が、重合体(A)から形成される皮膜の固体動的粘弾性測定(DMA)におけるtanδのピーク温度が35〜55℃であり、重合体(B)が重合体(B)から形成される皮膜の固体動的粘弾性測定におけるtanδのピーク温度が15〜50℃である請求項1に記載の制振材用重合体水性分散液。
【請求項3】
重合体(A)が、更に、重合単位としてスチレン単量体単位を有するスチレン−アクリル系重合体である請求項1または2に記載の制振材用重合体水性分散液。
【請求項4】
重合体(B)が、重合体単位としてスチレン単量体単位を有する重合体である請求項1に記載の制振材用重合体水性分散液。
【請求項5】
重合体(B)が、更に、重合体単位としてメチルメタクリレート単量体単位を有する重合体である請求項4に記載の制振材用重合体水性分散液。
【請求項6】
重合体(B)がトルエンに不溶解分(ゲル分率)を、重合体(B)粒子全量の20〜80重量%含有するものである請求項1に記載の制振材用重合体水性分散液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の制振材用重合体水性分散液と無機充填剤を含有する制振材用塗料。
【請求項8】
基材上に請求項7に記載の制振性塗料の制振性塗膜を形成して成る制振材。

【公開番号】特開2008−133357(P2008−133357A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320056(P2006−320056)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】