説明

制電性ポリエステル系樹脂組成物

【課題】透明性および成形性に優れかつアウトガス発生が抑制された制電性ポリエステル系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
(A)スルホン酸塩基で置換された芳香族ジカルボン酸の残基を有するポリエーテルエステル7〜25重量部、および(B)溶融状態からの結晶化半時間が少なくとも5分のポリエステル系樹脂 93〜75重量部からなる制電性ポリエステル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性を有するポリエステル系樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、透明性および成形性に優れかつアウトガス発生が抑制された制電性ポリエステル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料は、その優れた諸特性を生かし、電気電子用部材、自動車用部材、医療用部材、生活用品、その他各種成形品として使用されている。ところで、一般にプラスチックには、電気絶縁性が高いという特徴があるが、そのためにかえって、帯電した静電気が散逸しにくく、製品へのほこりの付着、作業者への電撃、計器類やICチップ類の誤動作といった問題が生じている。そのため、プラスチック材料に対して種々の制電性付与処理がなされている。
【0003】
プラスチック材料に制電性を付与する方法としては、塗布型と内部添加型とがある。
【0004】
塗布型の方法としては、特にプラスチックフィルム及びシートに関して、界面活性剤を含む塗液をフィルム表面に塗布する方法が広く行われてきた。しかし、この方法では、水洗や拭き取りによって表面の界面活性剤が容易に脱落し、制電効果が低下するという問題がある。また、この方法では、塗布工程を必要とし、製造工程が繁雑になるために、製造プロセス上は、内部添加型の方が有利である。
【0005】
一方、内部添加型による帯電防止方法としてはこれまで、アルキルスルホン酸塩やアルキルベンゼンスルホン酸塩といったイオン性界面活性剤をポリマー中に練り込む方法が、効果や経済性に優れるために一般的に採用されてきた。
【0006】
中でも、イオン性界面活性剤としてアルキル(アリール)スルホン酸塩を利用した系はよく検討されており、制電効果の大きいものとして、例えば、アルカンのセカンダリー位をスルホン酸金属塩に置換したもの(特許文献1)、ホスホニウム塩を利用したもの(特許文献2)が開示されている。しかし、こうした低分子量の界面活性剤を利用する方法では、かかる界面活性剤が樹脂表面に染み出すために、拭いたり、水洗いしたりすることによって制電効果が低下するという問題のほかに、アウトガスが発生するという問題があり、アウトガスの発生を嫌う電子部品等には適用できない場合がある。
【0007】
他方、拭いたり、水洗いしたりしても制電効果の失われない、持続性の制電性を付与する方法として、制電性ポリマーを樹脂に混合する方法が多数報告されている。
【0008】
こうした制電性のポリマーとしては、ポリエーテルエステルアミド(特許文献3)、幹ポリマーがポリアミドであり、枝ポリマーがポリアルキレンエーテルとポリエステルとのブロックポリマーから成るグラフトポリマー(特許文献4)、カプロラクタム、イミド環を形成しうる多価カルボン酸成分、有機ジイソシアネート及びポリエチレングリコールの共重合体(特許文献5)、ポリエチレンエーテル、イソシアネート及びグリコールから成るポリマー(特許文献6)等が開示されている。しかし、こうしたポリマーは、制電効果を高めるためには比較的多くの量を樹脂に混合する必要があるため、かかる樹脂本来の有していた耐熱性や機械物性を損なってしまうという問題点がある。
【0009】
さらに、ポリアルキレングリコール、グリコール、及び多価カルボン酸からなるポリエーテルエステルを樹脂に混合することが提案されている(特許文献7)。これは、制電性の経時変化は小さいものの、かかるポリマー単独では制電性の効果(大きさ)は十分ではない。そこで、その制電効果をさらに上げるために、ドデシルスルホン酸ナトリウム等のイオン性界面活性剤を併用することについても述べられている。しかしながら、かかる剤を併用すると、水洗や拭き取りによる制電効果の低下や、アウトガス発生の問題がある。
【0010】
水洗や拭き取りによる制電効果の低下を解決するために、スルホン酸基で置換された芳香族ジカルボン酸成分を含む特定のポリエーテルエステルをABS樹脂やポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂に混合することが提案されている(特許文献8〜9)。しかし、アウトガス発生の問題がある。
【特許文献1】特開平5−222241号公報
【特許文献2】特開昭62−230835号公報
【特許文献3】特開昭62−273252号公報
【特許文献4】特開平5−97984号公報
【特許文献5】特開平3−255161号公報
【特許文献6】特開平5−222289号公報
【特許文献7】特開平6−57153号公報
【特許文献8】特開平8−283548号公報
【特許文献9】特開平10−219095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、制電効果に優れると共にアウトガス発生の問題がなく、かつ透明性および成形性に優れた樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、スルホン酸塩基で置換された芳香族ジカルボン酸の残基を含有する特定のポリエーテルエステルを、結晶化半時間が少なくとも5分であるポリエステル樹脂に特定量含有させることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は、
(A)スルホン酸塩基で置換された芳香族ジカルボン酸の残基を有するポリエーテルエステル7〜25重量部、および
(B)溶融状態からの結晶化半時間が少なくとも5分のポリエステル系樹脂 93〜75重量部
からなる制電性ポリエステル系樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、制電性に優れると共にアウトガス発生の問題がなく、かつ透明性および成形性に優れる。したがって、OA機器、電子部材、自動車のハウジング、医療用部材、各種容器、カバー等に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0016】
(A)ポリエーテルエステル
本発明に使用するポリエーテルエステル(A)は、スルホン酸塩基で置換された芳香族ジカルボン酸の残基を有する。
上記ポリエーテルエステルは、スルホン酸塩基で置換された芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸成分、ポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分およびグリコール成分を重縮合することによって得られる。好ましくは、上記ポリエーテルエステルは、(A1)芳香族ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、(A2)数平均分子量200〜50000のポリ(アルキレンオキシド)グリコール、および(A3)炭素数2〜10のグリコールを重縮合して得られ、(A1)が、(A1a)テレフタル酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、2,7―ナフタレンジカルボン酸およびビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ならびにそれらのエステル形成性誘導体から選ばれる1種または2種以上の炭素数8〜20の化合物および(A1b)下記式(1)で表される、スルホン酸塩基で置換された芳香族ジカルボン酸および/またはそのエステルを含む。
【0017】
[化1]

−OOC−Ar−COO−R (1)

SO

[式(1)中、Arは炭素数6〜12の3価の芳香族基、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を表し、Mは金属イオン、テトラアルキルホスホニウムイオン又はテトラアルキルアンモニウムイオンを表す。]
【0018】
(A1a)は、得られる組成物の透明性の点から、テレフタル酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、2,7―ナフタレンジカルボン酸およびビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ならびにそれらのエステル形成性誘導体から選ばれ、これらを単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。これらは、芳香環にアルキル基、ハロゲン等の置換基を有していてもよい。
テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、アルキル基の炭素数が1〜6のジアルキルテレフタレートが挙げられ、具体的には、ジメチルテレフタレート、ジエチルテレフタレート、ジプロピルテレフタレート、ジペンチルテレフタレートおよびジヘキシルテレフタレートが挙げられる。
【0019】
また、(A1a)は、ポリエーテルエステル(A)のガラス転移温度及び結晶性を低下させない範囲内で、例えば、(A1a)の全量の30モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下の量で、他の(すなわち、上記炭素数8〜20の化合物以外の)炭素数4〜20のジカルボン酸を含んでいてもよい。かかる他の炭素数4〜20のジカルボン酸としては、こはく酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はそれらのエステル形成性誘導体を挙げることができる。上記エステル形成性誘導体としては、こはく酸ジメチル、こはく酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジエチル等の脂肪族ジカルボン酸アルキルエステルを挙げることができる。
【0020】
(A1b)は、上記式(1)で表される化合物である。式(1)において、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を示し、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基等の炭素数1〜3のアルキル基である。
【0021】
上記式(1)において、Mは金属イオン、テトラアルキルホスホニウムイオンおよびテトラアルキルアンモニウムイオンから選ばれるイオンを表す。例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、亜鉛イオン、テトラブチルホスホニウムイオン、テトラメチルホスホニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン等が挙げられる。これらの中で、アルカリ金属イオン、テトラブチルアンモニウムイオンがより好ましい。ただし、2価の金属イオンの場合には、スルホン酸基2モルに対して金属イオン1モルが対応するものとする。
【0022】
上記式(1)中のArは、ベンゼン環、ナフタレン環等の炭素数6〜12の3価の芳香族基であり、これらはまた、アルキル基、フェニル基、ハロゲン、アルコキシ基等の置換基を有していてもよい。
【0023】
式(1)で表される芳香族ジカルボン酸としては、4−ナトリウムスルホ−イソフタル酸、5−ナトリウムスルホ−イソフタル酸、4−カリウムスルホ−イソフタル酸、5−カリウムスルホ−イソフタル酸、2−ナトリウムスルホ−テレフタル酸、2−カリウムスルホ−テレフタル酸、4−スルホ−イソフタル酸亜鉛、5−スルホ−イソフタル酸亜鉛、2−スルホ−テレフタル酸亜鉛、4−スルホ−イソフタル酸テトラアルキルホスホニウム塩、5−スルホ−イソフタル酸テトラアルキルホスホニウム塩、4−スルホ−イソフタル酸テトラアルキルアンモニウム塩、5−スルホ−イソフタル酸テトラアルキルアンモニウム塩、2−スルホ−テレフタル酸テトラアルキルホスホニウム塩、2−スルホ−テレフタル酸テトラアルキルアンモニウム塩、4−ナトリウムスルホ−2、6−ナフタレンジカルボン酸、4−ナトリウムスルホ−2、7−ナフタレンジカルボン酸、4−カリウムスルホ−2、6−ナフタレンジカルボン酸、4−スルホ−2、6−ナフタレンジカルボン酸亜鉛塩、4−スルホ−2、6−ナフタレンジカルボン酸テトラアルキルホスホニウム塩、4−スルホ−2、7−ナフタレンジカルボン酸テトラアルキルホスホニウム塩等を挙げることができる。また、式(1)で表される芳香族ジカルボン酸エステルとしては、上記に具体的に列記した芳香族ジカルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル等を挙げることができる。
【0024】
これらの中で、R及びRがともにメチル基またはエチル基であり、Arがベンゼン環であり、Mがナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオンであることが、重合性、機械特性、色調等の面でより好ましい。
【0025】
具体的には、例えば、4−ナトリウムスルホ−イソフタル酸ジメチル、5−ナトリウムスルホ−イソフタル酸ジメチル、4−カリウムスルホ−イソフタル酸ジメチル、5−カリウムスルホ−イソフタル酸ジメチル、2−ナトリウムスルホ−テレフタル酸ジメチル、2−カリウムスルホ−テレフタル酸ジメチル等がさらに好ましい。
【0026】
芳香族ジカルボン酸成分(A1)は、上記(A1a)及び(A1b)をそれぞれ、98〜70モル%及び2〜30モル%の割合で含む。言い換えると、スルホン酸塩基で置換された芳香族ジカルボン酸(A1b)は、芳香族ジカルボン酸成分(A1)全体の2〜30モル%を占める。(A1b)の割合が2モル%未満では、(i)本発明における制電効果が十分でなかったり、(ii)本発明の制電効果をより高めるために、イオン性界面活性剤を併用した場合には、水洗や拭き取りに対する制電効果の耐久性が不足する場合がある。なお、かかるイオン性界面活性剤を併用すると、ポリエーテルエステル(A)中のイオン性の基である、上記式(1)で表される化合物に由来するスルホン酸塩基とイオン性界面活性剤との相互作用が生じる結果、制電効果が相乗的に向上し、しかも、従来からの問題点であった、イオン性の界面活性剤の流出による、制電効果の減少が大きく抑制され、かかる効果が永久的に保持されるためであると推定される。一方、(A1b)の割合が30モル%を越えると、重合反応が困難になり、十分な重合度のポリエーテルエステル(A)を得にくくなる場合がある。さらに、ポリエーテルエステル(A)の結晶性を低下させてしまい、乾燥が不十分になったり、取り扱い性が悪化する。本発明における芳香族ジカルボン酸成分(A1)は、好ましくは、(A1a)97〜71モル%及び(A1b)3〜29モル%からなり、より好ましくは(A1a)95〜73モル%及び(A1b)5〜27モル%からなり、特に好ましくは(A1a)91〜75モル%及び(A1b)9〜25モル%からなる。
【0027】
本発明におけるポリエーテルエステル(A)の構成成分の一つであるポリ(アルキレンオキシド)グリコール(A2)としては、ポリエチレングリコールから主としてなるポリアルキレングリコールが好ましく、その場合、ポリプロピレングリコール等を共重合成分として含んでいてもよい。
【0028】
上記ポリ(アルキレンオキシド)グリコールは、数平均分子量が200〜50000のものである。かかる分子量が200に満たない場合には、十分な制電効果が得られない。また、実用性の点からは、かかる分子量の上限は50000程度である。ポリ(アルキレンオキシド)グリコールの好ましい分子量は500〜30000であり、更に好ましくは1000〜20000である。
【0029】
さらに、上記分子量の範囲内において、かかるポリ(アルキレンオキシド)グリコールは、芳香族環を分子内に有していてもよい。そのようなポリ(アルキレンオキシド)グリコールとしては、例えば下記式(2)または(3)の構造を有するものが挙げられる。
【0030】
[化2]
H(O−CHCHO−Ar−O(CHCH−O)

・・・(2)
H(O−CHCHO−Ph−X−Ph−O(CHCH−O)

・・・(3)
【0031】
上記式(2)および(3)中、Arは、ベンゼン環、ナフタレン環等の炭素数6〜12の3価の芳香族基であり、Phはベンゼン環である。これらはまた、アルキル基、フェニル基、ハロゲン、アルコキシ基等の置換基を有していてもよい。また、p、q、r及びsは2〜60までの整数を表し、−X−は、炭素数1〜5のアルキレン基、炭素数5〜10のシクロアルキレン基、−O−、−S−、−SO−である。これらは、ポリエーテルエステル(A)の構成成分の一つであるポリ(アルキレンオキシド)グリコール(A2)そのものとして利用してもよいし、また、上記ポリ(アルキレンオキシド)グリコールの一部として用いてもよい。
【0032】
ポリ(アルキレンオキシド)グリコール(A2)は、(A1)、(A2)及び(A3)を重縮合して得られるポリエーテルエステル(A)の10〜60重量%を(A2)由来の残基が占めるような量で、言い換えると、実際上、(A1)、(A2)及び(A3)の仕込みの合計量の10〜60重量%の量で使用される。10重量%より少ないと制電効果が十分でなく、60重量%より多い場合には、取り扱い性や耐熱性が低下する場合がある。(A2)の好ましい使用量は、(A2)由来の残基がポリエーテルエステル(A)全体の15〜55重量%、より好ましくは20〜50重量%となる量、すなわち、(A1)、(A2)及び(A3)の合計量の15〜55重量%、より好ましくは20〜50重量%である。
【0033】
本発明におけるポリエーテルエステル(A)を構成する炭素数2〜10のグリコール(A3)は、具体的にはエチレングリコール、1、4−ブタンジオール、プロピレングリコール、1、6−ヘキサンジオール、3−メチル−1、5−ペンタンジオール等の脂肪族グリコールを例示できる。これらは、ジエチレングリコールのようにエーテル結合を含んでいてもよく、また、チオジエタノールのようにチオエーテル結合を含んでいてもよい。これらの化合物は、単独で、もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記グリコールのうち、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールが、制電効果、結晶性および取り扱い性の点で好ましい。
【0034】
ポリエーテルエステル(A)は、フェノール/テトラクロロエタン(重量比60/40)の混合溶媒中35℃で測定した還元粘度(濃度1.2g/dl)が0.2以上であることが好ましい。還元粘度が0.2より低いと制電効果が十分でない場合があり、耐熱性や機械物性の低下の原因ともなり得る。還元粘度の上限は、ポリエーテルエステル(A)が実質的に線状の重合体であるので、機械物性の点で、高い方が好ましい。還元粘度は好ましくは0.3以上であり、より好ましくは0.4以上であり、更に好ましくは0.5以上である。
【0035】
ポリエーテルエステル(A)は、上記成分(A1)〜(A3)をエステル交換触媒の存在下、150〜300℃で加熱溶融し重縮合反応せしめることによって得ることができる。
【0036】
エステル交換触媒としては通常のエステル交換反応に使用できるものなら特に制限はない。こうしたエステル交換触媒としては、三酸化アンチモンといったアンチモン化合物、酢酸第一錫、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジアセテートといった錫化合物、テトラブチルチタネートといったチタン化合物、酢酸亜鉛のような亜鉛化合物、酢酸カルシウムといったカルシウム化合物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのようなアルカリ金属塩等を例示することができる。これらのうちテトラブチルチタネートが好ましく用いられる。
【0037】
上記触媒の使用量としては、通常のエステル交換反応における使用量でよく、概ね、使用するジカルボン酸成分1モルに対し、0.01〜0.5モル%が好ましく、0.03〜0.3モル%がさらに好ましい。
【0038】
また、反応時には酸化防止剤等の各種安定剤を併用することも好ましい。
【0039】
上記(A1)〜(A3)の化合物を加熱溶融し重縮合する温度としては、初期反応として、150〜250℃で数十分から十数時間エステル化反応及び/又はエステル交換反応を、留出物を留去しながら行った後、反応物を高分子量化する重合反応を180〜300℃で行う。180℃より温度が低いと重合反応が進まず、300℃より温度が高いと、分解などの副反応が起こり易くなるためである。重合反応温度は200〜280℃がさらに好ましく、220〜260℃が更に好ましい。重合反応の反応時間は、反応温度や触媒量にもよるが、通常は数十分〜数十時間程度である。
【0040】
ポリエーテルエステル(A)の市販品の例としては、例えば、エレカットR01、エレカットR02(竹本油脂社製)が挙げられる。
【0041】
(B)ポリエステル系樹脂
本発明に使用するポリエステル系樹脂(B)は、溶融状態からの結晶化半時間が少なくとも5分のものであれば、特に制限されない。なお本明細書で使用する用語「ポリエステル」はコポリエステルも含むものとする。好ましくは、結晶化半時間が少なくとも12分のポリエステル樹脂であり、特に、無限の結晶化半時間を有する無定形ポリエステルが好ましい。
【0042】
本発明は、(B)成分としての上記特定のポリエステル系樹脂を(A)成分と組合せて含むことにより、制電性に優れるとともに、アウトガスの発生が少なく、かつ成形性および透明性に優れた組成物を得ることができたものである。(B)成分として、上記ポリエステル系樹脂以外の樹脂、例えば結晶性ポリエステル樹脂、ABS樹脂またはポリカーボネート樹脂、を使用すると、アウトガス量が増加したり、成形性や透明性が低下する。
【0043】
本発明における結晶化半時間は、パーキン・エルマー(Perkin-Elmer)モデルDSC−2示差走査熱量計を使用して、以下のように決定される値である。15.0mgのサンプルをアルミニウムパンの中に密封し、約320℃/分の速度で加熱し、290℃に達すると、この温度で2分間保持する。次いで、サンプルを、所定の等温結晶化温度まで約320℃/分(装置として不可能な場合は20℃/分)の速度で、ヘリウムの存在下に、直ちに冷却する。結晶化半時間は、等温結晶化温度(165℃)に達してからDSC曲線上の結晶化ピークの点までの時間間隔として決定される。
【0044】
成分(B)は好ましくは、粘度(固有粘度の値)が0.65〜0.85である。
【0045】
成分(B)は、当業界において公知の材料であり、例えば特許第3280374号明細書に開示されている。また、成分(B)は、例えば米国特許5,340,907号明細書記載の方法に従って製造することができる。例えば、テレフタル酸、ジメチルテレフタル酸等のジカルボン酸とエチレングリコール等のジオールとを主成分とし、エステル化反応を経て重縮合反応させることによって製造することができる。また、上記主成分の他に、第3成分を共重合させた共重合体タイプのものも成分(B)として包含される。第3成分としては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、テレフタル酸、イソフタル酸等が好適である。成分(B)の特に好ましい組成は、ジカルボン酸成分としてのテレフタル酸100モル%、ジオール成分としてのエチレングリコール50〜90モル%(好ましくは60〜80モル%)および第3成分としての1,4−シクロヘキサンジメタノール10〜50モル%(好ましくは20〜40モル%)である。
【0046】
成分(B)の市販品の例としては、イーストマンケミカル社製のEastar PETG 6763、GS1、GS2、GS3、GS4やSKケミカル社製のSKYGREEN S2008が挙げられる。
【0047】
本発明の樹脂組成物は、成分(A)7〜25重量部と成分(B)93〜75重量部とから主としてなる。成分(A)が上記下限より少ないと、得られる樹脂組成物の制電効果が不十分になることがある。上記上限を超えると、アウトガス量が増加したり、透明性が低下することがある。好ましい割合は、成分(A)9〜22重量部および成分(B)91〜78重量部である。より好ましい割合は、成分(A)12〜18重量部および成分(B)88〜82重量部である。
【0048】
成分(B)は、その40重量%を越えない範囲で、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、あるいはポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリ(スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン)系共重合体(ABS樹脂)、ポリ(アクリロニトリル−スチレン)系共重合体(AS樹脂)あるいはハイインパクトポリスチレン(HIPS)等のスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリアミド樹脂等で置き換えることができる。これらは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
本発明の樹脂組成物は、上記成分(A)および(B)の他に、所望により、イオン性界面活性剤(C)を含むことができる。成分(C)を添加することにより、制電効果をさらに向上させることができる。
【0050】
樹脂に制電効果を付与するために界面活性剤を添加することは従来公知の方法であるが、かかる方法では、通常、水洗や拭き取りにより制電効果が低下してしまう。一方、成分(A)を含む本発明の樹脂組成物では、驚くべきことに、イオン性界面活性剤を添加することによって向上した制電効果は、水洗や拭き取りによっても損なわれることはない。
【0051】
上記イオン性界面活性剤としては、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩等のスルホン酸塩が好ましい。
【0052】
上記アルキルスルホン酸塩としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸カリウム、デシルスルホン酸ナトリウム、デシルスルホン酸カリウム、セチルスルホン酸ナトリウム、セチルスルホン酸カリウム等の炭素数6〜20の長鎖アルキルスルホン酸アルカリ金属塩を例示することができる。
【0053】
上記アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸カリウム、セチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、セチルベンゼンスルホン酸カリウム等の長鎖アルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩を例示することができる。
【0054】
上記アルキルナフタレンスルホン酸塩としては、例えばイソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム、イソプロピルナフタレンスルホン酸カリウム、オクチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、オクチルナフタレンスルホン酸カリウム、ドデシルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ドデシルナフタレンスルホン酸カリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸アルカリ金属塩を挙げることができる。
【0055】
上記イオン性界面活性剤は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
成分(C)の量は好ましくは、成分(A)および(B)から成る樹脂組成物100重量部当たり、0.5〜12重量部、さらに好ましくは1〜6重量部である。上記量が0.5重量部より少ないと、添加による制電効果が十分発揮されないことがあり、12重量部を超えると、樹脂組成物の物性低下を生じる原因になったり、取り扱い性の低下を招くことがある。
【0057】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、各種の添加剤を含み得る。かかる添加剤としては、ガラス繊維、金属繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、チタン酸カリウィスカー、炭素繊維、アスベストのような繊維状強化剤、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、酸化チタン、酸化アルミニウム、ガラスフレーク、ミルドファイバー、金属フレーク、金属粉末のような各種充填剤、リン酸エステル、亜リン酸エステルに代表されるような熱安定剤あるいは触媒失活剤、酸化安定剤、光安定剤、滑剤、顔料、難燃化剤、難燃助剤、可塑剤などが挙げられる。
【0058】
本発明の樹脂組成物は、成分(A)および(B)ならびに必要に応じて成分(C)および各種添加剤を、任意の混合順序で溶融混練することにより製造することができる。成分(C)を用いる場合、(A)〜(C)の3成分を同時に混合する方法、2成分をあらかじめ混合しておいた後、他の1成分と混合する方法等が挙げられる。こうした方法の中では、3成分を同時に混合する方法、あるいは(A)及び(C)成分をあらかじめ混合しておいた後、(B)成分及び必要に応じて各種添加剤を混合する方法が好ましいが、制電効果の永久性の点から、後者の方法が特に好ましい。
【0059】
溶融混練は、一軸あるいは二軸の溶融押出機を用いて従来公知の方法で行うことができるが、中でも二軸溶融押出機を使用する溶融混練が好ましい。溶融混練温度は、約180〜260℃であり、好ましくは190〜250℃である。
【0060】
こうして得られる本発明の樹脂組成物は、制電性に優れると共にアウトガス発生の問題がなく、かつ透明性および成形性に優れる。従って、OA機器、電子精密機器、家庭電気製品等の部材として有用であり、例えば、半導体部品輸送用容器材料として好適に用いることができる。また、自動車等の車両部材として、例えばメーター等の計器類の前面板あるいは文字板(銘板)、単車風防、窓材等として用いることができる。その他、育苗ハウスや養鰻ハウス等の各種温室被覆材等、農業資材としても有用である。
【0061】
制電性は、下記に述べるように、表面抵抗率(Ω/sq.)および体積抵抗率(Ω・cm)の測定によって評価することができ、上記抵抗率の値が共に、1×10以上1×1013未満、特に1×1010以上1×1012未満であるのが好ましい。
【0062】
アウトガス量は、下記に述べるように、加熱脱着法によってアウトガスを捕集し、ガスクロマトグラフ−質量分析法(GC−MS)により分析されるとき、1μg/g以下であることが好ましい。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例を挙げて本発明の好ましい態様について記載するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中、「部」は「重量部」を意味する。
【0064】
成分(A)の製造例
製造例1
74.0部の5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、145.5部のジメチルテレフタレート、180.0部の1,4−ブタンジオール、50部のポリエチレングリコール(数平均分子量20000)、及び0.1部のテトラブチルチタネートを精留塔及び撹拌装置を備えた反応器に入れ、容器内を窒素置換した後、常圧下、200℃に昇温した。200℃でメタノールを留去しながら180分間反応を行った後、反応物を撹拌装置を備えた真空留出系を有する反応器に入れ、常圧下、反応留出物を留去しながら120分かけて240℃まで昇温した。その時点で徐々に反応系内を減圧し、70分後30mmHgとし、高粘度の重合体を得た。得られたポリエーテルエステルの還元粘度は0.20、Tmは195℃であり、Tgは検出できなかった。
【0065】
製造例2
44.4部の5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、164.9部のジメチルテレフタレート、160部の1,4−ブタンジオール、90部のポリエチレングリコール(数平均分子量20000)、及び0.1部のテトラブチルチタネートを精留塔及び撹拌装置を備えた反応器に入れ、容器内を窒素置換した後、常圧下、200℃に昇温した。200℃でメタノールを留去しながら180分間反応を行った後、反応物を撹拌装置を備えた真空留出系を有する反応器に入れ、常圧下、反応留出物を留去しながら120分かけて240℃まで昇温した。その時点で徐々に反応系内を減圧し、70分後1.0mmHgとし、重合体を得た。得られたポリエーテルエステルの還元粘度は0.32、Tmは45℃と197℃であり、Tgは検出できなかった。
【0066】
製造例3
74.0部の5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、145.5部のジメチルテレフタレート、150部の1,4−ブタンジオール、90部のポリエチレングリコール(数平均分子量20000)、及び0.1部のテトラブチルチタネートを精留塔及び撹拌装置を備えた反応器に入れ、容器内を窒素置換した後、常圧下、200℃に昇温した。200℃でメタノールを留去しながら180分間反応を行った後、反応物を撹拌装置を備えた真空留出系を有する反応器に入れ、常圧下、反応留出物を留去しながら120分かけて240℃まで昇温した。その時点で徐々に反応系内を減圧し、70分後1.2mmHgとし、重合体を得た。得られたポリエーテルエステルの還元粘度は0.25、Tmは195℃であり、Tgは検出できなかった。
【0067】
製造例4
数平均分子量4000のポリエチレングリコール90部を用いた以外は製造例3と同様にして重合体を得た。得られたポリエーテルエステルの還元粘度は0.23、Tmは180℃であり、Tgは検出できなかった。
【0068】
製造例5
133部の5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、883部のジメチルテレフタレート、885部の1、6−ヘキサメチレングリコール、857部のポリエチレングリコール(数平均分子量2000)、及び1.4部のテトラブチルチタネートを精留塔及び撹拌装置を備えた反応器に入れ、容器内を窒素置換した後、常圧下、220℃に昇温した。220℃でメタノールを留去しながら5時間反応を行った後、反応物を撹拌装置を備えた真空留出系を有する反応器に入れ、45分間で240℃まで昇温した。その時点で徐々に反応系内を減圧し、60分後0.3mmHgとし、6時間後に高粘度の重合体を得た。得られたポリエーテルエステル((A)成分)の還元粘度は1.81、Tmは120℃であった。さらにそこへ(C)成分としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム430部を加え、容器内を窒素置換した後、240℃で減圧下1時間撹拌した。得られた組成物のTmは115℃であった。
【0069】
上記製造例において、還元粘度、融点およびガラス転移温度の測定法は以下の通りである。
【0070】
(1)還元粘度:
フェノール/テトラクロロエタン(重量比60/40)の混合溶媒中において濃度1.2(g/dl)、35℃にて測定した。
【0071】
(2)融点(Tm):
JIS K7121に準拠し、パーキン・エルマー(Perkin-Elmer)モデルDSC−7示差走査熱量計によるDSCによって、融点(融解ピーク温度)を求めた。DSC測定は、サンプル5mgをアルミニウムパン中に密封し、窒素ガス雰囲気中30℃で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で210℃まで加熱することによって行った。
【0072】
(3)ガラス転移温度(Tg):
JIS K7121に準拠し、パーキン・エルマー(Perkin-Elmer)モデルDSC−7示差走査熱量計によるDSCによって、ガラス転移温度を求めた。DSC測定は、サンプル10mgをアルミニウムパン中に密封し、窒素ガス雰囲気中30℃で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で210℃まで加熱することによって行った。
【0073】
実施例1〜8および比較例1〜9
表1および2に示す量の成分を、45mmφ同方向回転2軸押出混練機を用いて、ポリマー温度180〜220℃の条件下で溶融混練して樹脂組成物を得、これをペレット化した。得られたペレットを用いて下記試験を行った。結果を表1および2に示す。
なお、比較例8では、ポリマー温度220〜250℃にて溶融混練した。
【0074】
評価試験
(1)成形性:
得られたペレットを、型締め力120tonの射出成形機を用いて成形し、幅6cm×長さ6cm×厚み3mmの試験片を作製した。成形条件は、シリンダー温度=180〜210℃、金型温度=30℃であり、幅40mm×厚み0.5mmのフィルムゲートを使用した。
得られた試験片についてヒケの有無を目視観察して成形性を評価した。
なお、比較例8では、シリンダー温度=220〜240℃にて成形した。
【0075】
(2)表面抵抗率および体積抵抗率(制電性):
上記(1)と同様に射出成形を行って、幅6cm×長さ6cm×厚み3mmの試験片を作製した。この試験片を、室温23±2℃、相対湿度50%中で24時間調整した後、三菱化学株式会社製のハイレスタ(商標)を用いて、温度23℃、湿度50%、印加電圧500Vの条件にて抵抗率の測定を行った。
【0076】
(3)アウトガス量:
パーキンエルマー社製の加熱脱着式ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて、以下に述べるように、加熱脱着法によってアウトガスを捕集し、ガスクロマトグラフ−質量分析法(GC−MS)により分析した。まず、上記で得られた樹脂組成物を冷凍粉砕して2mm角以下の粉砕物とし、その0.1gをサンプルホルダに入れて試料サンプルとした。このサンプルを100℃で10分間加熱し、発生した揮発性物質を、キャリアガスとしてヘリウムガスを使用して、5℃に保たれた冷却トラップ管に捕集した。次いで、冷却トラップ管を40℃/秒の昇温速度で300℃まで加熱して離脱するガスをGC−MS装置に供給し、試料から発生した揮発性物質(アウトガス)量を定量測定した。なお、アウトガス量の定量は、n−デカンの標準溶液について同様に測定してアウトガス量と積分値との検量線を作成し、この検量線を用いて行った。上記検量線の作成では、アセトンにn−デカンを溶解した溶液を捕集剤としてのTenaxTAに含浸させてサンプルホルダに入れて標準サンプルとし、これを120℃で10分間加熱して揮発性物質を発生させた以外は、上記試料サンプルの場合と同様に測定を行った。
【0077】
(4)透明性(ヘイズ値):
上記(1)と同様に射出成形を行って幅6cm×長さ6cm×厚み3mmの試験片を作製し、JIS−K7136に準じて、濁度計(曇り度計)[日本電色工業(株)製 NDH2000]を用いてヘイズを測定した。
【0078】
上記製造例で調製した成分(A)以外に使用した材料は以下の通りである。
(A)成分:
エレカットR02:スルホン酸塩基で置換された芳香族ジカルボン酸を含有するポリエーテルエステル、竹本油脂社製
(A)成分の比較用:
ペレスタット6321NC:ポリエーテルエステルアミド(スルホン酸塩基で置換された芳香族ジカルボン酸の残基を含有しない)、三洋化成社製
【0079】
(B)成分:
PETG樹脂:Eastar PETG 6763(イーストマンケミカル社製、結晶化半時間5分以上のポリエステル系樹脂)
(B)成分の比較用:
PET樹脂:Eastpak PET 9921(イーストマンケミカル社製、結晶性ポリエステル系樹脂、結晶化半時間1分以下)
ABS樹脂:TE−20S(電気化学社製)
ポリカーボネート樹脂:ユーピロンS−2000R(三菱エンジニアリングプラスチック社製)
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
表1から明らかなように、本発明のポリエステル系樹脂組成物は、制電性を有するとともにアウトガス量が少なく、かつ成形性および透明性に優れる。一方、(A)成分の量が本発明の範囲未満である比較例1および2の組成物は、制電性に劣る。(A)成分の量が本発明の範囲を超える比較例3〜5の組成物は、アウトガス量が多く、また、成形品にヒケを生じ、透明性にも劣る。(B)成分として、結晶化半時間が5分未満である結晶性ポリエステル樹脂を使用した比較例6の組成物は、成形品に部分的ヒケ現象(俗称:メラ)を生じ、また、透明性に劣る。(B)成分としてABS樹脂を使用した比較例7の組成物は、アウトガス量が多く、また、透明性に劣る。(B)成分としてポリカーボネート樹脂を使用した比較例8の組成物は、アウトガス量が多い。(A)成分として、スルホン酸塩基で置換された芳香族ジカルボン酸の残基を含有しないポリエーテルエステルを使用した比較例9の組成物は、アウトガス量が多く、また透明性に劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)スルホン酸塩基で置換された芳香族ジカルボン酸の残基を有するポリエーテルエステル7〜25重量部、および
(B)溶融状態からの結晶化半時間が少なくとも5分のポリエステル系樹脂 93〜75重量部
からなる制電性ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項2】
ポリエーテルエステル(A)が、(A1)芳香族ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、(A2)数平均分子量200〜50000のポリ(アルキレンオキシド)グリコール、および(A3)炭素数2〜10のグリコールを重縮合して得られるポリエーテルエステルであって、(A1)が、(A1a)テレフタル酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、2,7―ナフタレンジカルボン酸およびビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ならびにそれらのエステル形成性誘導体から選ばれる1種または2種以上の炭素数8〜20の化合物98〜70モル%および(A1b)下記式(1)で表される、スルホン酸塩基で置換された芳香族ジカルボン酸および/またはそのエステル2〜30モル%からなり、かつポリエーテルエステル(A)における(A2)由来の残基の含有量が10〜60重量%である、請求項1記載の組成物。
[化1]

−OOC−Ar−COO−R (1)

SO

[式(1)中、Arは炭素数6〜12の3価の芳香族基、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を表し、Mは金属イオン、テトラアルキルホスホニウムイオン又はテトラアルキルアンモニウムイオンを表す。]
【請求項3】
成分(A)および(B)の合計100重量部に対して、
(C)イオン性界面活性剤0.5〜12重量部
をさらに含む、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
(C)イオン性界面活性剤が、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩及びアルキルナフタレンスルホン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
(A)ポリエーテルエステルが、フェノール/テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒中、35℃で測定した還元粘度(濃度1.2g/dl)が0.2以上である、請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
(A1a)が、(A1a)の全量の30モル%以下の量で、上記炭素数8〜20の化合物以外の炭素数4〜20のジカルボン酸および/またはそのエステルを含む、請求項2〜5のいずれか1項記載の組成物。

【公開番号】特開2009−1618(P2009−1618A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161723(P2007−161723)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】