制震架構構造
【課題】制震梁の変形に起因する床スラブの破損を防止できて、地震後の補修を回避し得る床スラブを容易かつ低コストで施工できるようにする。
【解決手段】制震梁2aの側面に隣接して設けられる床スラブを、制震梁2aの材軸方向と同一方向をスパン方向とした一方向床スラブ5aとし、この一方向床スラブ5aのスパン方向両端を建物の躯体に対してピン接合とし、制震梁2aと一方向床スラブ5aを構造スリット6で縁切りし、構造スリット6にはロックウール7を充填する。
【解決手段】制震梁2aの側面に隣接して設けられる床スラブを、制震梁2aの材軸方向と同一方向をスパン方向とした一方向床スラブ5aとし、この一方向床スラブ5aのスパン方向両端を建物の躯体に対してピン接合とし、制震梁2aと一方向床スラブ5aを構造スリット6で縁切りし、構造スリット6にはロックウール7を充填する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、せん断降伏型の制震梁のような変形によって制震効果を発揮する制震梁が採用された制震架構構造に関する。
【背景技術】
【0002】
せん断降伏型の制震梁が採用された制震架構構造においては、図11に示すように、地震時に制震梁aが降伏して変形すると、これに取り付く床スラブbも制震梁aの変形に伴って変形するので、制震梁aの降伏後に発生する変形角に追随できないと、床スラブbが破損することになり、地震後、床スラブbの補修が必要となる。
【0003】
このような不都合を回避する手法の一つとして、制震梁とそれに隣接する床スラブの間に構造スリットを設けて、制震梁と床スラブを縁切りし、制震梁と床スラブの地震時挙動を分離する制震架構構造が、特許文献1、2によって提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の制震架構構造は、一対の大梁と一対の制震梁とに囲まれる領域の床スラブを、制震梁との間に設けた第1のスリットで縁切りすると共に、床スラブを、制震梁の長さ方向中央部で、第1のスリットと直交する第2のスリットで縁切りし、これらのスリットをエキスパンションジョイントとしての弾性充填材で埋め、第1のスリットと第2のスリットで縁切りされた床スラブを両側の大梁に設けた跳ね出し小梁で支持するように構成したものである。
【0005】
ところで、制震梁の変形に伴う床スラブの変形は、制震梁の近辺で最も大きく、制震梁から遠ざかるにつれて漸次減少する。従って、制震梁からある程度離れた位置では、制震梁の変形による大きな影響を受けず、床スラブの破損には至らない。
【0006】
然るに、上記の従来例では、相対向する第1のスリット間にそれらと直交する第2のスリットを設けて、一対の大梁と一対の制震梁とに囲まれる領域の床スラブを第2のスリットで二つの片持ち状の床スラブに分離してしまうため、分離した片持ち状の床スラブを支持するためには、両側の大梁から第2のスリットに向けて跳ね出した小梁を設けることが必要となり、施工が面倒でコストも増大することになる。
【0007】
尚、特許文献2には、制震梁とそれに隣接する床スラブの間に構造スリットを設けて、制震梁と床スラブを縁切りし、制震梁と床スラブの地震時挙動を分離する制震架構構造が記載されているが、縁切りした床スラブをどのように支持するか開示されていない。
【0008】
【特許文献1】特開平10−311115号公報
【特許文献2】特開2003−90098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の点に留意して成されたものであって、制震梁の変形に起因する床スラブの破損を防止できて、地震後の補修を回避し得る床スラブを容易かつ低コストで施工できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明が講じた技術的手段は、次の通りである。即ち、請求項1に記載の発明による制震架構構造は、変形によって制震効果を発揮する制震梁と、
その制震梁に隣接して設けられ且つ制震梁の材軸方向と同一方向をスパン方向とした一方向床スラブとを有し、制震梁と一方向床スラブが構造スリットにより縁切りされていることを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の制震架構構造であって、一方向床スラブのスパン方向両端が建物の躯体にピン接合されていることを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の制震架構構造であって、縁切り用の構造スリットにロックウールが充填されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、変形により地震エネルギーを吸収する制震梁とそれに隣接する床スラブを構造スリットによって縁切りし、制震梁と床スラブの地震時挙動を分離するので、地震時の制震梁の変形に起因する床スラブの破損を防止できる。
【0014】
殊に、制震梁に隣接して設けられる床スラブを、制震梁の材軸方向と同一方向(制震梁の長手方向)をスパン方向とした一方向床スラブとしたので、制震梁と縁切りされた床スラブが両端支持の状態となり、片持ち状の床スラブを支持する場合のような跳ね出し小梁を設ける必要がないので、床スラブを容易かつ低コストで施工できる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、上記の効果に加え、一方向床スラブのスパン方向両端が建物の躯体にピン接合されているので、スラブには地震時に端部応力が発生せず、端部応力による一方向床スラブの破損を防止できるという効果がある。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、上記の効果に加え、縁切り用の構造スリットにロックウールが充填されているので、防火区画としての床性能を確保できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1、図2は、本発明の制震架構構造が採用された、鉄筋コンクリート造(以下、RC造)を主体とする制震構造建物を示す。この制震構造建物は、建物外周架構を、基礎や地下階等の下部構造物Aに対して剛接合された柱1と、柱1に剛接合された梁2とから成るRC造を主体とした剛接柱梁架構Bとし、四周のRC造を主体とした剛接柱梁架構Bにおける一部の梁を短スパン梁にすると共に、これらの短スパン梁を、変形によって制震効果を発揮するせん断降伏型の制震梁2aとし、建物内部には、建物外周の相対向するRC造を主体とした剛接柱梁架構B,B間に長大スパンのプレストレストコンクリート梁3を架設して無柱空間を形成したものである。尚、「RC造を主体とした」とは、建築構造物の構造種別は主として鉄筋コンクリート造とし、必要に応じて、適宜一部を鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造とする場合があることを包含する意味である。
【0018】
前記プレストレストコンクリート梁3は、図2に示すように、建物中央部に2列に配置されており、2列のプレストレストコンクリート梁3は、相対向する制震梁2aの両端を支持する柱1a,1a間に架設されている。
【0019】
RC造を主体とした剛接柱梁架構Bのうち、柱1と短スパン部分以外の梁2はRC造であるが、短スパン梁(制震梁2a)が架設される柱1aは、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)とされている。また、この実施形態においては、せん断降伏型の制震梁2aとして、図6に示すように、S造(鉄骨造)とし、梁部材中央部のウエブに低降伏点鋼を用いたせん断降伏型履歴ダンパーが採用されている。4aは柱1と短スパン部分以外の梁2に囲まれた大きな開口、4bは柱1aと短スパンの制震梁2aに囲まれた小さな開口であり
、何れも採光可能なガラスを主体とする外装材(図示せず)で閉塞されている。
【0020】
このように、建物外周架構をRC造を主体とした剛接柱梁架構Bとし、RC造を主体とした剛接柱梁架構Bにおける一部の梁を地震時にせん断力が集中し易い短スパン梁とし、その短スパン梁をせん断降伏型の制震梁2aとする一方、建物内部には、プレストレストコンクリート梁3の採用により無柱空間を形成して、RC造を主体とした剛接柱梁架構Bの剛性を弱め、制震梁2aの変形を助長するように構成することによって、地震エネルギーの吸収能力を高めることができる。
【0021】
また、建物外周架構をRC造を主体とした剛接柱梁架構Bとすることによって、建物外周面に柱1と梁2で囲まれた大きな開口4aを確保でき、建物内部に十分な光を採り込めるため、建物中央部に採光用の大規模な吹抜空間を形成する必要がなく、建物内部の空間を有効に利用できる。
【0022】
この実施形態は、上記のRC造を主体とする制震構造建物における制震梁2a周辺の床スラブに下記の制震架構構造を適用したものである。
【0023】
この制震架構構造は、図3〜図8に示すように、制震梁2aの側面に隣接して設けられる床スラブを、制震梁2aの材軸方向と同一方向(制震梁長手方向)をスパン方向(スラブ支持方向)としたS造(鉄骨造)の一方向床スラブ5aとし、この一方向床スラブ5aのスパン方向両端を建物の躯体に対してピン接合とし、制震梁2aと一方向床スラブ5aを構造スリット6により縁切りし、構造スリット6にロックウール7を充填した点に特徴がある。図4〜図6における矢印Pは制震梁2aの材軸方向、図4、図5、図7における矢印Qは一方向床スラブ5aのスパン方向(スラブ支持方向)を示す。
【0024】
具体的には、図5、図7に示すように、制震梁2aの両端を支持する柱1aの相対向する側面とそれに連なる梁2やプレストレストコンクリート梁3の相対向する側面に、制震梁2aと直交する方向のアングル材等から成る床支持材8a,8bを取り付け、これらの床支持材8a,8bに一方向床スラブ5aのスパン方向両端を載置することにより、建物の躯体(例えば、柱1a、梁2、プレストレストコンクリート梁3等である。)に対して一方向床スラブ5aのスパン方向両端をピン接合としてある。
【0025】
前記一方向床スラブ5aは、図5、図7、図8に示すように、周囲四辺に立上り板部9を有し、上面に複数本のスパン方向の補強用アングル材10を固着した矩形状の鋼板11によって構成されている。鋼板11の上面には耐火床としての性能を持たせるために仕上げコンクリート12が打設されており、仕上げコンクリート12にはひび割れ防止用の鉄筋13が埋設されている。図示を省くが、鋼板11の下面には耐火被覆が施されている。仕上げコンクリート12は、一方向床スラブ5aに隣接する床スラブ(一方向床スラブ5以外の床スラブ)5bの上面と同一レベルに打設されている。制震梁2aの上フランジの上面にも、耐火床としての性能を持たせるために仕上げコンクリート14が一方向床スラブ5aの仕上げコンクリート12上面と同一レベルに打設されている。
【0026】
一方向床スラブ5aにおける制震梁2aに沿った立上り板部9と、制震梁2aの上フランジ側縁及び仕上げコンクリート14との間には、縁切り用の構造スリット6が形成されている。そして、構造スリット6にはロックウール7を充填し、防火区画としての床性能を確保してある。
【0027】
尚、図示の実施形態においては、図7に示すように、一方向床スラブ5aにおけるスパン方向両端の立上り板部9と建物の躯体との間や、図8に示すように、一方向床スラブ5aにおける制震梁2aとは反対側の立上り板部9と床スラブ5bとの間にも、構造スリッ
ト6が形成され、構造スリット6にロックウール7が充填されているが、これらの構造スリット6を省略して実施することも可能である。但し、この場合、一方向床スラブ5aの仕上げコンクリート12を床スラブ5bのコンクリートと一体にならないように打設することが必要である。また、床スラブ5b、一方向床スラブ5aの仕上げコンクリート12、制震梁2aの仕上げコンクリート14等の上には、図6、図7、図8に仮想線で示すように、床仕上げ材15が設けられている。床仕上げ材14としては、例えば、OAフロア(二重床)とカーペットが用いられる。
【0028】
上記の構成によれば、制震梁2aの変形に起因する床スラブの破損を防止できて、地震後の補修を回避し得る床スラブを容易かつ低コストで施工できる。即ち、せん断降伏型の制震梁2aとその側面に隣接する床スラブを構造スリット6によって縁切りし、制震梁2aと床スラブの地震時挙動を分離するので、地震時の制震梁2aの変形に起因する床スラブの破損を防止できる。
【0029】
しかも、制震梁2aの側面に隣接して設けられる床スラブを、制震梁2aと同一方向をスパン方向とした一方向床スラブ5aとしたので、制震梁2aと縁切りされた床スラブ(一方向床スラブ5a)が両端支持の状態となり、片持ち状の床スラブを支持する場合のような跳ね出し小梁を設ける必要がないので、制震梁2aに隣接して設けられる床スラブを容易かつ低コストで施工できることになる。
【0030】
また、一方向床スラブ5aのスパン方向両端が建物の躯体にピン接合されているので、スラブには地震時に端部応力が発生せず、端部応力による一方向床スラブ5aの破損を防止できる。
【0031】
図9、図10は、本発明の他の実施形態を示し、一方向床スラブ5aのスパン方向両端を建物の躯体に形成した段差部16a,16bに載置して、ピン接合とした点に特徴がある。図示の一方向床スラブ5aは、コンクリートの現場打ちによるRC造であるが、プレキャストコンクリート製でもよく、先の実施形態と同じS造の一方向床スラブであってもよい。その他の構成、作用は、先の実施形態と同じであるため、同一構成部材に同一符号を付し、説明を省略する。
【0032】
尚、本発明における一方向床スラブ5aは、上記の両実施形態を通して明らかな通り、S造、RC造の何れでもよく、図示しないが、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)であってもよい。また、本発明における一方向床スラブ5aは、デッキプレート、エンボス加工を施したデッキプレート、鉄板の上に鉄筋トラスを溶接した鉄筋トラス付きデッキ等と、その上に現場打ちした、若しくは、工場で打設したコンクリートとから成る合成スラブであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の制震架構構造が採用された制震構造建物の概略正面図である。
【図2】制震構造建物の概略横断平面図である。
【図3】制震構造建物にける基準階床伏図である。
【図4】一方向床スラブの要部拡大平面図である。
【図5】一方向床スラブの仕上げコンクリート打設前の状態を示す要部拡大平面図である。
【図6】図4のA−A線断面図である。
【図7】図4のB−B線断面図である。
【図8】図4のC−C線断面図である。
【図9】本発明の他の実施形態を示す要部の縦断側面図である。
【図10】図9のD−D線断面図である。
【図11】地震による制震梁及び床スラブの変形を説明する図である。
【符号の説明】
【0034】
A 下部構造物
B RC造を主体とした剛接柱梁架構
P 制震梁の材軸方向
Q 一方向床スラブのスパン方向(スラブ支持方向)
1,1a 柱
2 梁
2a 制震梁(短スパン梁)
3 プレストレストコンクリート梁
4a 大きな開口
4b 小さな開口
5a 一方向床スラブ
5b 床スラブ
6 構造スリット
7 ロックウール
8a,8b 床支持材
9 立上り板部
10 補強用アングル材
11 鋼板
12 仕上げコンクリート
13 ひび割れ防止用の鉄筋
14 仕上げコンクリート
15 床仕上げ材
16a,16b 段差部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、せん断降伏型の制震梁のような変形によって制震効果を発揮する制震梁が採用された制震架構構造に関する。
【背景技術】
【0002】
せん断降伏型の制震梁が採用された制震架構構造においては、図11に示すように、地震時に制震梁aが降伏して変形すると、これに取り付く床スラブbも制震梁aの変形に伴って変形するので、制震梁aの降伏後に発生する変形角に追随できないと、床スラブbが破損することになり、地震後、床スラブbの補修が必要となる。
【0003】
このような不都合を回避する手法の一つとして、制震梁とそれに隣接する床スラブの間に構造スリットを設けて、制震梁と床スラブを縁切りし、制震梁と床スラブの地震時挙動を分離する制震架構構造が、特許文献1、2によって提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の制震架構構造は、一対の大梁と一対の制震梁とに囲まれる領域の床スラブを、制震梁との間に設けた第1のスリットで縁切りすると共に、床スラブを、制震梁の長さ方向中央部で、第1のスリットと直交する第2のスリットで縁切りし、これらのスリットをエキスパンションジョイントとしての弾性充填材で埋め、第1のスリットと第2のスリットで縁切りされた床スラブを両側の大梁に設けた跳ね出し小梁で支持するように構成したものである。
【0005】
ところで、制震梁の変形に伴う床スラブの変形は、制震梁の近辺で最も大きく、制震梁から遠ざかるにつれて漸次減少する。従って、制震梁からある程度離れた位置では、制震梁の変形による大きな影響を受けず、床スラブの破損には至らない。
【0006】
然るに、上記の従来例では、相対向する第1のスリット間にそれらと直交する第2のスリットを設けて、一対の大梁と一対の制震梁とに囲まれる領域の床スラブを第2のスリットで二つの片持ち状の床スラブに分離してしまうため、分離した片持ち状の床スラブを支持するためには、両側の大梁から第2のスリットに向けて跳ね出した小梁を設けることが必要となり、施工が面倒でコストも増大することになる。
【0007】
尚、特許文献2には、制震梁とそれに隣接する床スラブの間に構造スリットを設けて、制震梁と床スラブを縁切りし、制震梁と床スラブの地震時挙動を分離する制震架構構造が記載されているが、縁切りした床スラブをどのように支持するか開示されていない。
【0008】
【特許文献1】特開平10−311115号公報
【特許文献2】特開2003−90098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の点に留意して成されたものであって、制震梁の変形に起因する床スラブの破損を防止できて、地震後の補修を回避し得る床スラブを容易かつ低コストで施工できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明が講じた技術的手段は、次の通りである。即ち、請求項1に記載の発明による制震架構構造は、変形によって制震効果を発揮する制震梁と、
その制震梁に隣接して設けられ且つ制震梁の材軸方向と同一方向をスパン方向とした一方向床スラブとを有し、制震梁と一方向床スラブが構造スリットにより縁切りされていることを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の制震架構構造であって、一方向床スラブのスパン方向両端が建物の躯体にピン接合されていることを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の制震架構構造であって、縁切り用の構造スリットにロックウールが充填されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、変形により地震エネルギーを吸収する制震梁とそれに隣接する床スラブを構造スリットによって縁切りし、制震梁と床スラブの地震時挙動を分離するので、地震時の制震梁の変形に起因する床スラブの破損を防止できる。
【0014】
殊に、制震梁に隣接して設けられる床スラブを、制震梁の材軸方向と同一方向(制震梁の長手方向)をスパン方向とした一方向床スラブとしたので、制震梁と縁切りされた床スラブが両端支持の状態となり、片持ち状の床スラブを支持する場合のような跳ね出し小梁を設ける必要がないので、床スラブを容易かつ低コストで施工できる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、上記の効果に加え、一方向床スラブのスパン方向両端が建物の躯体にピン接合されているので、スラブには地震時に端部応力が発生せず、端部応力による一方向床スラブの破損を防止できるという効果がある。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、上記の効果に加え、縁切り用の構造スリットにロックウールが充填されているので、防火区画としての床性能を確保できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1、図2は、本発明の制震架構構造が採用された、鉄筋コンクリート造(以下、RC造)を主体とする制震構造建物を示す。この制震構造建物は、建物外周架構を、基礎や地下階等の下部構造物Aに対して剛接合された柱1と、柱1に剛接合された梁2とから成るRC造を主体とした剛接柱梁架構Bとし、四周のRC造を主体とした剛接柱梁架構Bにおける一部の梁を短スパン梁にすると共に、これらの短スパン梁を、変形によって制震効果を発揮するせん断降伏型の制震梁2aとし、建物内部には、建物外周の相対向するRC造を主体とした剛接柱梁架構B,B間に長大スパンのプレストレストコンクリート梁3を架設して無柱空間を形成したものである。尚、「RC造を主体とした」とは、建築構造物の構造種別は主として鉄筋コンクリート造とし、必要に応じて、適宜一部を鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造とする場合があることを包含する意味である。
【0018】
前記プレストレストコンクリート梁3は、図2に示すように、建物中央部に2列に配置されており、2列のプレストレストコンクリート梁3は、相対向する制震梁2aの両端を支持する柱1a,1a間に架設されている。
【0019】
RC造を主体とした剛接柱梁架構Bのうち、柱1と短スパン部分以外の梁2はRC造であるが、短スパン梁(制震梁2a)が架設される柱1aは、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)とされている。また、この実施形態においては、せん断降伏型の制震梁2aとして、図6に示すように、S造(鉄骨造)とし、梁部材中央部のウエブに低降伏点鋼を用いたせん断降伏型履歴ダンパーが採用されている。4aは柱1と短スパン部分以外の梁2に囲まれた大きな開口、4bは柱1aと短スパンの制震梁2aに囲まれた小さな開口であり
、何れも採光可能なガラスを主体とする外装材(図示せず)で閉塞されている。
【0020】
このように、建物外周架構をRC造を主体とした剛接柱梁架構Bとし、RC造を主体とした剛接柱梁架構Bにおける一部の梁を地震時にせん断力が集中し易い短スパン梁とし、その短スパン梁をせん断降伏型の制震梁2aとする一方、建物内部には、プレストレストコンクリート梁3の採用により無柱空間を形成して、RC造を主体とした剛接柱梁架構Bの剛性を弱め、制震梁2aの変形を助長するように構成することによって、地震エネルギーの吸収能力を高めることができる。
【0021】
また、建物外周架構をRC造を主体とした剛接柱梁架構Bとすることによって、建物外周面に柱1と梁2で囲まれた大きな開口4aを確保でき、建物内部に十分な光を採り込めるため、建物中央部に採光用の大規模な吹抜空間を形成する必要がなく、建物内部の空間を有効に利用できる。
【0022】
この実施形態は、上記のRC造を主体とする制震構造建物における制震梁2a周辺の床スラブに下記の制震架構構造を適用したものである。
【0023】
この制震架構構造は、図3〜図8に示すように、制震梁2aの側面に隣接して設けられる床スラブを、制震梁2aの材軸方向と同一方向(制震梁長手方向)をスパン方向(スラブ支持方向)としたS造(鉄骨造)の一方向床スラブ5aとし、この一方向床スラブ5aのスパン方向両端を建物の躯体に対してピン接合とし、制震梁2aと一方向床スラブ5aを構造スリット6により縁切りし、構造スリット6にロックウール7を充填した点に特徴がある。図4〜図6における矢印Pは制震梁2aの材軸方向、図4、図5、図7における矢印Qは一方向床スラブ5aのスパン方向(スラブ支持方向)を示す。
【0024】
具体的には、図5、図7に示すように、制震梁2aの両端を支持する柱1aの相対向する側面とそれに連なる梁2やプレストレストコンクリート梁3の相対向する側面に、制震梁2aと直交する方向のアングル材等から成る床支持材8a,8bを取り付け、これらの床支持材8a,8bに一方向床スラブ5aのスパン方向両端を載置することにより、建物の躯体(例えば、柱1a、梁2、プレストレストコンクリート梁3等である。)に対して一方向床スラブ5aのスパン方向両端をピン接合としてある。
【0025】
前記一方向床スラブ5aは、図5、図7、図8に示すように、周囲四辺に立上り板部9を有し、上面に複数本のスパン方向の補強用アングル材10を固着した矩形状の鋼板11によって構成されている。鋼板11の上面には耐火床としての性能を持たせるために仕上げコンクリート12が打設されており、仕上げコンクリート12にはひび割れ防止用の鉄筋13が埋設されている。図示を省くが、鋼板11の下面には耐火被覆が施されている。仕上げコンクリート12は、一方向床スラブ5aに隣接する床スラブ(一方向床スラブ5以外の床スラブ)5bの上面と同一レベルに打設されている。制震梁2aの上フランジの上面にも、耐火床としての性能を持たせるために仕上げコンクリート14が一方向床スラブ5aの仕上げコンクリート12上面と同一レベルに打設されている。
【0026】
一方向床スラブ5aにおける制震梁2aに沿った立上り板部9と、制震梁2aの上フランジ側縁及び仕上げコンクリート14との間には、縁切り用の構造スリット6が形成されている。そして、構造スリット6にはロックウール7を充填し、防火区画としての床性能を確保してある。
【0027】
尚、図示の実施形態においては、図7に示すように、一方向床スラブ5aにおけるスパン方向両端の立上り板部9と建物の躯体との間や、図8に示すように、一方向床スラブ5aにおける制震梁2aとは反対側の立上り板部9と床スラブ5bとの間にも、構造スリッ
ト6が形成され、構造スリット6にロックウール7が充填されているが、これらの構造スリット6を省略して実施することも可能である。但し、この場合、一方向床スラブ5aの仕上げコンクリート12を床スラブ5bのコンクリートと一体にならないように打設することが必要である。また、床スラブ5b、一方向床スラブ5aの仕上げコンクリート12、制震梁2aの仕上げコンクリート14等の上には、図6、図7、図8に仮想線で示すように、床仕上げ材15が設けられている。床仕上げ材14としては、例えば、OAフロア(二重床)とカーペットが用いられる。
【0028】
上記の構成によれば、制震梁2aの変形に起因する床スラブの破損を防止できて、地震後の補修を回避し得る床スラブを容易かつ低コストで施工できる。即ち、せん断降伏型の制震梁2aとその側面に隣接する床スラブを構造スリット6によって縁切りし、制震梁2aと床スラブの地震時挙動を分離するので、地震時の制震梁2aの変形に起因する床スラブの破損を防止できる。
【0029】
しかも、制震梁2aの側面に隣接して設けられる床スラブを、制震梁2aと同一方向をスパン方向とした一方向床スラブ5aとしたので、制震梁2aと縁切りされた床スラブ(一方向床スラブ5a)が両端支持の状態となり、片持ち状の床スラブを支持する場合のような跳ね出し小梁を設ける必要がないので、制震梁2aに隣接して設けられる床スラブを容易かつ低コストで施工できることになる。
【0030】
また、一方向床スラブ5aのスパン方向両端が建物の躯体にピン接合されているので、スラブには地震時に端部応力が発生せず、端部応力による一方向床スラブ5aの破損を防止できる。
【0031】
図9、図10は、本発明の他の実施形態を示し、一方向床スラブ5aのスパン方向両端を建物の躯体に形成した段差部16a,16bに載置して、ピン接合とした点に特徴がある。図示の一方向床スラブ5aは、コンクリートの現場打ちによるRC造であるが、プレキャストコンクリート製でもよく、先の実施形態と同じS造の一方向床スラブであってもよい。その他の構成、作用は、先の実施形態と同じであるため、同一構成部材に同一符号を付し、説明を省略する。
【0032】
尚、本発明における一方向床スラブ5aは、上記の両実施形態を通して明らかな通り、S造、RC造の何れでもよく、図示しないが、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)であってもよい。また、本発明における一方向床スラブ5aは、デッキプレート、エンボス加工を施したデッキプレート、鉄板の上に鉄筋トラスを溶接した鉄筋トラス付きデッキ等と、その上に現場打ちした、若しくは、工場で打設したコンクリートとから成る合成スラブであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の制震架構構造が採用された制震構造建物の概略正面図である。
【図2】制震構造建物の概略横断平面図である。
【図3】制震構造建物にける基準階床伏図である。
【図4】一方向床スラブの要部拡大平面図である。
【図5】一方向床スラブの仕上げコンクリート打設前の状態を示す要部拡大平面図である。
【図6】図4のA−A線断面図である。
【図7】図4のB−B線断面図である。
【図8】図4のC−C線断面図である。
【図9】本発明の他の実施形態を示す要部の縦断側面図である。
【図10】図9のD−D線断面図である。
【図11】地震による制震梁及び床スラブの変形を説明する図である。
【符号の説明】
【0034】
A 下部構造物
B RC造を主体とした剛接柱梁架構
P 制震梁の材軸方向
Q 一方向床スラブのスパン方向(スラブ支持方向)
1,1a 柱
2 梁
2a 制震梁(短スパン梁)
3 プレストレストコンクリート梁
4a 大きな開口
4b 小さな開口
5a 一方向床スラブ
5b 床スラブ
6 構造スリット
7 ロックウール
8a,8b 床支持材
9 立上り板部
10 補強用アングル材
11 鋼板
12 仕上げコンクリート
13 ひび割れ防止用の鉄筋
14 仕上げコンクリート
15 床仕上げ材
16a,16b 段差部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形によって制震効果を発揮する制震梁と、その制震梁に隣接して設けられ且つ制震梁の材軸方向と同一方向をスパン方向とした一方向床スラブとを有し、制震梁と一方向床スラブが構造スリットにより縁切りされていることを特徴とする制震架構構造。
【請求項2】
一方向床スラブのスパン方向両端が建物の躯体にピン接合されていることを特徴とする請求項1に記載の制震架構構造。
【請求項3】
縁切り用の構造スリットにロックウールが充填されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の制震架構構造。
【請求項1】
変形によって制震効果を発揮する制震梁と、その制震梁に隣接して設けられ且つ制震梁の材軸方向と同一方向をスパン方向とした一方向床スラブとを有し、制震梁と一方向床スラブが構造スリットにより縁切りされていることを特徴とする制震架構構造。
【請求項2】
一方向床スラブのスパン方向両端が建物の躯体にピン接合されていることを特徴とする請求項1に記載の制震架構構造。
【請求項3】
縁切り用の構造スリットにロックウールが充填されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の制震架構構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−215784(P2009−215784A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60546(P2008−60546)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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