説明

刺繍ミシンの布押え体

【課題】 刺繍材の振り角を大きくして刺繍材の千鳥縫いをより安定して行うことができる刺繍ミシンの布押え体の提供。
【解決手段】 布押え体を紐状の刺繍材を針落ち位置に案内するガイド部に対向配置する際に、布押え部の端部を略針落ち位置に近接させるように配置し、刺繍材を案内しているガイド部の先端部分を従来に比べて略針落ち位置に並ぶ位置にまでより近づけるようにした。これにより、ガイド部が案内する刺繍材の振り角を大きくすることができ千鳥縫いをより安定して行うことができる。また、縫針に通された上糸を針落ち位置の付近から離れないように案内するガイド部材を布押え部先端の上方に設けて、ガイド部の先端部分を従来に比べて略針落ち位置に並ぶ位置にまで近づけることを可能にしながらも、上糸を針落ち位置の付近に確実に案内して回転制御されるガイド部や布押え体に引っ掛かることを防止するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テープやコードなどの紐状の刺繍材を針元位置に対して縫い進み方向の左右に千鳥振りさせつつ供給して布地などの被縫製物に縫い着ける刺繍ミシンにおいて、針棒の上下動に連動して上下動し、被縫製物を押え付ける布押え体の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1、2に示すように、テープやコードなどの紐状の刺繍材を針元に対して千鳥振りさせながら供給して布地などの被縫製物に縫い着ける、所謂千鳥縫いが可能なミシンヘッドを備えた刺繍ミシンが知られている。この特許文献1、2に開示されているミシンヘッドは、下端部に縫針が装着されて上下に駆動される針棒と、針棒の上下動に連動して上下動する布押え体と、針棒の外周に該針棒と同心状に組み付けられ、その軸心回りの回転が自由な回転体と、この回転体に対してレバーピンによって揺動可能に取り付けられ、縫針の針元位置へ紐状の刺繍材を案内するガイドレバーとを備えて構成されている。
【特許文献1】特開平08−299639号公報
【特許文献2】特開2007−000501号公報
【0003】
このようなミシンヘッドを備えた刺繍ミシンでは、所定の縫いデータに基づいて被縫製物に対する縫い進み方向を算出し、この縫い進み方向に従って、レバーピンが常時縫い進み方向の前方の正面に位置するように回転体を方向制御しつつ縫い動作を行う。その際には、ガイドレバーをレバーピン回りに往復揺動させることで、刺繍材を縫針の針元に対して所定のパターンで縫い進み方向に対して左右に千鳥振りさせながら供給し、針棒を上下に駆動して本縫いにより刺繍材を被縫製物に縫い着けるようになっている。
【0004】
ところで、従来の刺繍ミシンにおいてミシンヘッドの一部を構成する布押え体は、その下端部に被縫製物を押え付ける布押え部を有しており、刺繍材を被縫製物に縫い着ける際には、この布押え部にて針落ち位置の周りの被縫製物を押え付けるようになっている。この布押え部には縫針の貫通を許容する通し孔または凹部が形成されており、また布押え部の先端は針落ち位置より長く形成されている。つまりは、針落ち位置が布押え部の先端側よりも奥側に位置するように通し孔が配置されているまたは凹部が深く形成されている。そして、上記特許文献1に開示されたミシンヘッドでは布押え体がガイドレバーと同一側に設けてあり、上記特許文献2に開示されたミシンヘッドでは布押え体がガイドレバーと対向する側に設けてある。なお、布押え体は回転体の方向制御に基づいてガイドレバーとともに回転するようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、従来の刺繍ミシンにおいて千鳥縫いを行った際に、ガイドレバーが縫い進み方向の左側に揺動した状態を表す平面概略図を図7に示す。図7において、Gはガイドレバー、Tは紐状の刺繍材、Pは縫針の針落ち位置(ステッチ位置)、Paは一つ前のステッチ位置である。この図より明らかなように、ガイドレバーGの刺繍材Tを案内している先端部分が、実線で示す位置(針落ち位置Pに遠い位置)にある場合と、想像線(二点鎖線)で示す前記実線で示した位置よりも針落ち位置Pに近い位置にある場合とでは、想像線で示す位置にある場合の方が一つ前のステッチ位置Paにより近く、実線で示す位置にある場合と比べると該一つ前のステッチ位置Paを中心とする刺繍材Tの振り角が大きくなっている。すなわち、ガイドレバーGの先端部分は針落ち位置Pに近い方が刺繍材Tの振り角が大きくなり、これにより刺繍材Tと縫針との接触を確実に防止することができ、刺繍材Tの千鳥縫いを安定して行えることとなる。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたミシンヘッドにおいては、布押え体がガイドレバーと同一側に設けてあるため、ガイドレバーの先端部分を針落ち位置に近づける場合にガイドレバーの先端部分が布押え体の背面と干渉しない位置までしか近づけることができない。一方、上記特許文献2に開示されたミシンヘッドにおいては、布押え体がガイドレバーに対向して設けてあるため、ガイドレバーの先端部分を上記特許文献1に開示されたミシンヘッドよりは針落ち位置に近づけることができるものの、上記したように布押え体の布押え部の先端は針落ち位置より長く形成されていることから、ガイドレバーの先端部分をその布押え部の先端と干渉しない位置までしか近づけることができない。このように、従来ではガイドレバーの先端部分をより針落ち位置に近づけようとする場合、ガイドレバーの先端を布押え体に干渉しないように針落ち位置からは少し離れた位置までしか近づけることができずに、それ以上にガイドレバーの先端部分を針落ち位置に近づけることは不可能な構造であった。
【0007】
また、上述したように、布押え体の布押え部には縫針の貫通を許容する通し孔または凹部が形成されているが、この通し孔または凹部は縫針から被縫製物に延びる上糸を針落ち位置の付近に案内する役目もしている。しかしながら、上記特許文献2に開示されているように、縫針の貫通を許容する部分が凹部である場合には、その前端部が開放しているために大きく刺繍枠を移動したときなどに凹部から上糸が外れてしまい、縫針から被縫製物に延びる上糸が傾斜した状態となることがある。この上糸が傾斜した状態のときに、互いに対向して設けてあるガイドレバー及び布押え体が回転制御されると、傾斜した上糸がガイドレバーや布押え体に引掛かり糸切れや針折れが発生する不具合があった。
【0008】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、ガイドレバー(ガイド部)の先端部分を従来に比べて針落ち位置により近づけて刺繍材の振り角を大きくし、刺繍材の千鳥縫いをより安定して行うことができるようにした刺繍ミシンを提供しようとするものである。
また、ガイドレバー(ガイド部)の先端部分を従来に比べて針落ち位置により近づけることを可能としながらも、上糸を針落ち位置の付近に確実に案内するようにした刺繍ミシンを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る布押え体は、千鳥縫いを行う刺繍ミシンの布押え体であって、下端に形成した被縫製物を押え付ける水平な布押え部の端部の上方には縫針に通された上糸を針落ち位置から離れないように案内するガイド部材を設けてなり、前記布押え部の端部を、針落ち位置に近接させるとともに、紐状の刺繍材を前記針落ち位置に案内するガイド部に対向配置したことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、千鳥縫いを行う刺繍ミシンの布押え体であって、該布押え体は下端に形成した被縫製物を押え付ける水平な布押え部の端部の上方に、縫針に通された上糸を針落ち位置から離れないように案内するガイド部材を設けてなる。そして、該布押え体は布押え部の端部を針落ち位置に近接させて、紐状の刺繍材を針落ち位置に案内するガイド部に対向して配置する。このようにして、布押え部の端部を略針落ち位置に近接させるように配置すると、刺繍材を案内しているガイド部の先端部分を従来に比べて略針落ち位置に並ぶ位置にまでより近づけることが可能となり、刺繍材の振り角を大きくして刺繍材の千鳥縫いをより安定して行えるようになる。また、ガイド部材を布押え部の端部の上方に設けると、針落ち位置に近づけたガイド部の先端部分とガイド部材とが干渉することがないので、往復駆動するガイド部の先端部分を針落ち位置により近づけることを可能としながらも、回転制御されるガイド部や布押え体に引っ掛かることのないように上糸を針落ち位置の付近に確実に案内することができる。
【0011】
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記ガイド部材はワイヤ状であって、ガイド部先端に設けられたガイド筒の刺繍材導出口と干渉しない高さに、縫針の挿通を許容するとともに該縫針に通された上糸を通す半円部を有する形状に形成されてなり、縫針の上昇時において前記縫針から被縫製物へと繋がっている上糸を前記半円部内に位置させて、上糸を針落ち位置から離れないように案内することを特徴とする。このように、ワイヤ状のガイド部材を布押え部先端の上方にガイド部先端に設けられたガイド筒の刺繍材導出口と干渉しない高さに設けるといった簡易な構成で、ガイド部の先端部分を針落ち位置により近づけることを可能にしたうえで、上糸が回転制御されるガイド部や布押え体に引っ掛かることを防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、縫針に通された上糸を針落ち位置から離れないように案内するガイド部材を布押え部の端部の上方に設けてなる布押え体を、紐状の刺繍材を針落ち位置に案内するガイド部に対向するようにして配置する際に、布押え部の端部を略針落ち位置に近接させるように配置して、刺繍材を案内しているガイド部の先端部分を従来に比べて略針落ち位置に並ぶ位置にまでより近づけるようにしたことから、ガイド部が案内する刺繍材の振り角を大きくすることができ千鳥縫いをより安定して行うことができるようになる。
また、上糸を針落ち位置の付近から離れないように案内するガイド部材を布押え部先端の上方に設けるようにしたことによって、ガイド部の先端部分を従来に比べて略針落ち位置に並ぶ位置にまでより近づけることを可能にしながらも、上糸を針落ち位置の付近に確実に案内して回転制御されるガイド部や布押え体に引っ掛かることを防止することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に従って詳細に説明する。
【0014】
図1及び図2は、テープやコードなどの紐状の刺繍材を針落ち位置に対して縫い進み方向の左右に千鳥振りさせつつ供給して布地などの被縫製物に縫い着ける所謂千鳥縫いが可能な刺繍ミシンのミシンヘッドHの一実施例を示す図であり、図1はその正面図であり、図2はその一部破断側面図である。ミシンヘッドHには、軸方向が上下方向(垂直方向)に延びるように配置された針棒2が設けられている。針棒2は、ミシン主軸1の回転によって上下方向に往復駆動されるようになっている。針棒2の下端部には縫針3が装着されている。また、針棒2の外周には支持筒4が取り付けられている。支持筒4は、ミシンヘッドHの下部に固定された固定スリーブ5の内周面で案内されて、針棒2に対する相対的な昇降動作及び針棒2の軸心回りの回転動作が可能になっている。また、支持筒4の上端部外周には係合リング6が固定されており、係合リング6にはモータ7の駆動によって上下動する駆動アーム8が係合している。一方、支持筒4の下端には布押え支持体9が固定されている。布押え支持体9はその下端部が二股に分岐した形状に形成されており、一方の脚部の外側面にはその長手方向が上下方向に延びるキー溝9aが形成され、他方の脚部の下端部には布押え体10が取り付けられている。
【0015】
前記布押え体10の下端部には、縫い時に被縫製物を押え付ける布押え部10aがガイドレバー20側に突出した形状に形成してあり、この布押え部10aはその先端が略針落ち位置と並ぶ長さに設定してある。そして、布押え部10aの先端部には縫針3の挿通を許容する凹部10b(貫通部)が形成されているとともに、布押え部10aの先端部上方において半円部を有する形状に形成されたワイヤ状の糸ガイド10c(ガイド部材)が固定されている(詳しくは後述する図4参照)。前記糸ガイド10cは、その形成する半円部が本ミシン上方から見て前記凹部10bに対向する位置に配置されるよう固定される。
【0016】
固定スリーブ5の外周には、回転筒11が取り付けられている。回転筒11は、針棒2と同心状に取り付けられており、針棒2の軸心回りの回転動作のみが可能になっている。回転筒11の上端部外周にはタイミングプーリ部12が形成されており、このタイミングプーリ部12とモータ13の回転軸13aに固定された駆動プーリ14との間にタイミングベルト15が架けられている。これにより、モータ13が駆動されて駆動プーリ14が回転すると、タイミングベルト15及びタイミングプーリ部12を介してその回転が伝達されて、回転筒11が回転するようになっている。一方、回転筒11の下端には布押え支持体9のキー溝9aに係合するキー部材16が固定されている。したがって、布押え体10は支持筒4の上下動に伴って上下動するとともに、回転筒11の回転に伴って針棒2の軸心回りで回転するようになっている。
【0017】
回転筒11の外周には、連動部材17が上下動可能かつ回転可能に設置されている。連動部材17には連結片18が固定されており、連結片18は回転筒11の外周に形成された係合溝11aに係合している。これにより、連動部材17は回転筒11の回転に伴って回転筒11と一体に回転するようになっている。また、回転筒11にはブラケット19を介してガイドレバー20(ガイド部)が取り付けられている。ガイドレバー20は、ブラケット19の外側面に取り付けたレバーピン21を支点として、回転筒11に対して針棒2の軸方向の左右に揺動自在に取り付けられている。
【0018】
ガイドレバー20は、レバーピン21の位置から側方に延びる一方の腕部22aと下方に延びる他方の腕部22bとを備えて略L字型に形成されたベース部材22と、ベース部材22の腕部22bの下端に連結されたガイドアーム23とを備えて構成されている。ガイドアーム23の下端には、紐状の刺繍材Tを縫針3の針落ち位置(針元位置)へ供給するためのガイド筒24が取り付けられている。ガイド筒24の下端部は、刺繍材Tが導出される刺繍材導出口24aになっている。このガイド筒24が布押え体10と対向するようにして、ガイドレバー20の配置位置が設定されている。そして、前述のように布押え体10の布押え部10aの先端は略針落ち位置と並ぶ長さに設定してあり、ガイド筒24はその刺繍材導出口24aを可能な限り針落ち位置に近づけて固定してある。なお、布押え部10aの先端の上方に糸ガイド10cによって形成される半円部は、後述するようにして千鳥縫い時に左右方向(水平方向)に往復揺動されるガイド筒24の刺繍材導出口24aと干渉しない高さ(刺繍材導出口24aの往復動作を妨げない高さ)に設定されている。
【0019】
一方、ベース部材22の腕部22aの先端にはコロ25が取り付けられており、コロ25は連結片18の連係溝18aに係合してある。また、回転筒11の外周にはボビンブラケット26が固定されており、このボビンブラケット26には紐状の刺繍材Tを巻回したボビン27が回転自在に支持されている。
【0020】
針棒2に隣接する位置には、図1に示すように、その軸方向が上下方向(垂直方向)に延びるように配置されたガイド軸28が配置されている。ガイド軸28には昇降部材29が取り付けられている。昇降部材29は、図示しない駆動伝達機構を介して千鳥振りモータ30の回転による駆動力が伝達されることで、ガイド軸28で案内されながらその軸方向に沿って上下動(昇降移動)するようになっている。昇降部材29には針棒2に向かって略水平に突出するフォーク部29aが形成されており、このフォーク部29aが連動部材17の外周に形成された溝部17aに係合している。したがって、昇降部材29の上下動によって連動部材17及び連結片18が上下動し、連結片18の上下動が連係溝18a及びコロ25を介してガイドレバー20の揺動に変換される。こうして、ガイドレバー20の下端部に固定されたガイド筒24が、千鳥振りモータ30からガイドアーム23に至る揺動機構の働きにより、レバーピン21を支点として縫い進み方向に対して左右に直線的に往復揺動するようになっている。
【0021】
上記の図1では、昇降部材29が上限位置にあってガイドレバー20が左側一杯に揺動した状態を示している。一方、図3はミシンヘッドHの下部を正面から見た部分図であり、昇降部材29が下限位置にあってガイドレバー20が右側一杯に揺動した状態を示す図である。ガイドレバー20のガイド筒24は、図1に示す位置と図3に示す位置との間で、針棒2の往復動に同期して左右に往復揺動するようになっている。これにより、ガイド筒24の先端に設けた刺繍材導出口24aから出た刺繍材Tが、所定のパターンで縫い進み方向に対して左右に千鳥振りされつつ針落ち位置へ供給されて、順次被縫製物に縫い付けられるようになっている。なお、上記した各図において、31は周知の針板である。
【0022】
ここで、上記構成のミシンヘッドHにおいて、本縫いにより刺繍材Tを被縫製物に縫い着ける作業について説明する。まず、刺繍材Tを巻回したボビン27をボビンブラケット26にセットするとともに、刺繍材Tをボビン27から繰り出してガイド筒24に通し、刺繍材導出口24aから縫針3の針落ち位置へ導く。この状態で、刺繍枠(つまりは被縫製物)を所定の刺繍データに基づきXY方向へ移動制御するとともに、針棒2を上下に駆動して縫針3と図示しない釜との機能によって周知の本縫いを行う。この際に、モータ7の駆動によって、布押え体10が針棒2の上下駆動に対して所定のタイミングで上下動されて、布押え体10の下端部に設けられている布押え部10aが被縫製物を押え付ける布押えの機能を果たすようになっている。
【0023】
ガイドレバー20は、千鳥振りモータ30の駆動によって図1に示す位置と図3に示す位置との間で所定のタイミングで左右に往復揺動される。この動作に伴いガイド筒24により縫針3の針落ち位置へと案内されている刺繍材Tは、例えば針棒2の一往復毎(一縫い毎)に針落ち位置の左右に振られることとなる。これによって刺繍材Tは、千鳥縫いによって順次被縫製物に縫い着けられることとなる。この際に、回転筒11はモータ13の駆動によって回転され、レバーピン21は被縫製物の移動に基づくミシンヘッドHの相対的な進行方向の前面に位置するように制御される。
【0024】
図4は、上記千鳥縫いのときの千鳥振りの動作を説明するもので、ガイドレバー20が左側に揺動した状態(図1に対応)を上から見た平面概略図で示している。なお、図4には従来知られた刺繍ミシンにおいて同じように左側に揺動した状態にある刺繍材導出口24a′の位置が一点鎖線で示してある。本発明に係る刺繍ミシンのミシンヘッドHにおいて、布押え体10とガイドレバー20とは互いに対向する位置にそれぞれ配置され、布押え部10aはその先端が略針落ち位置と並ぶ長さに設定してあるので、この図より明らかなように、刺繍材導出口24aが略針落ち位置Pと並ぶぐらいの近い位置まで、ガイド筒24を布押え体10に近づけて配置することができるようになる。
【0025】
このようにして、刺繍材導出口24aを針落ち位置Pにより近い位置に近づけると、一つ前のステッチ位置Paに刺繍材導出口24aを近づけることにもなって、該一つ前のステッチ位置Paを中心とする刺繍材Tの振り角が、従来の位置に配置された刺繍材導出口24a′から繰り出される刺繍材T′の振り角よりも大きくなる。したがって、刺繍材Tは針落ち位置Pからより大きく離れることになるので、刺繍材Tと縫針3との接触を確実に防止することができて、刺繍材Tの千鳥縫いを従来に比べ安定して行えることとなる。
【0026】
図5はミシンヘッドHの下部を示した側面拡大図であって、Uは上糸、Sは被縫製物である。千鳥縫いの第1針にて針棒2(縫針3)が下降すると、縫針3に通された上糸Uは縫針3とともに布押え体10の糸ガイド10cの半円部と凹部10bとの内側に通される。第1針のステッチが形成されて針棒2が上昇されると、図5に示すように、縫針3から被縫製物Sへ繋がる上糸Uは糸ガイド10cの半円部と凹部10bとの内側に位置した状態のまま、すなわち上糸Uが糸ガイド10c、凹部10bにて針落ち位置の付近から離れることなく案内されることとなる。これにより、被刺繍物Sを保持した刺繍枠(図示せず)が大きく移動されたときでも、上糸Uは凹部10bから外れることはあっても糸ガイド10cからは外れることがないため、常に上糸Uは確実に針落ち位置の付近に案内されている状態となる。したがって、従来の刺繍ミシンのようにして上糸Uが回転制御されるガイドレバー20や布押え体10に引っ掛かることがなく、それによる糸切れや針折れなどが発生することがない。さらに、この糸ガイド10cで形成された半円部は布押え部10bの上方に設けてあるため、略針落ち位置Pと並ぶぐらいまで針落ち位置Pに近い位置に配置したガイド筒24の刺繍材導出口24aが直線的に往復揺動されても、刺繍材導出口24aは糸ガイド10cを含む布押え体10と干渉することがない。
【0027】
図6は、本発明に係る刺繍ミシンのミシンヘッドHの一部を構成する布押え体の別の実施例を示す概略図であり、(a)は側面図であり、(b)は平面図である。この布押え体32は板状部材を折り曲げ加工して形成されており、32aが布押え部、32bが凹部(貫通部)、32cが糸ガイド(ガイド部材)である。なお、布押え部32aの先端部分は、略針落ち位置にて上方に折り曲げられてクランク状に形成されている。この図6に示すようにして、糸ガイド32cを布押え部32aとともに一体形成するようにしてよい。
【0028】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書、図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお、直接明細書及び図面に記載のない何れの形状・構造・材質であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。例えば、上記実施形態では、刺繍材Tとしてコードやテープを例に挙げたが、コードやテープ以外にも、例えばビーズ紐などの他の刺繍材であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る千鳥縫いが可能な刺繍ミシンのミシンヘッドHの一実施例を示す正面図である。
【図2】本発明に係る千鳥縫いが可能な刺繍ミシンのミシンヘッドHの一実施例を示す一部破断側面図である。
【図3】ミシンヘッドHの下部を正面から見た部分図で、昇降部材29が下限位置にあってガイドレバー20が右側一杯に揺動した状態を表す示す図である。
【図4】千鳥縫いのときの千鳥振りの動作を説明する平面概略図で、ガイドレバー20が左側に揺動した状態を示す図である。
【図5】ミシンヘッドHの下部を示した側面拡大図である。
【図6】布押え体32の別の実施例を示す概略図で、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図7】従来の刺繍ミシンにおいて千鳥縫いを行った際に、ガイドレバーGが縫い進み方向の左側に揺動した状態を示す平面概略図である。
【符号の説明】
【0030】
1…ミシン主軸
2…針棒
3…縫針
4…支持筒
5…固定スリーブ
6…係合リング
7(13,30)…モータ
8…駆動アーム
9…布押え支持体
10(32)…布押え体
10a(32a)…布押え部
10b(32b)…凹部
10c(32c)…糸ガイド
11…回転筒
12…タイミングプーリ部
13a…回転軸
14…駆動プーリ
15…タイミングベルト
16…キー部材
17…連動部材
17a…溝部
18…連結片
18a…連係溝
19…ブラケット
20(G)…ガイドレバー
21…レバーピン
22…ベース部材
22a(22b)…腕部
23…ガイドアーム
24…ガイド筒
24a(24a´)…刺繍材導出口
25…コロ
26…ボビンブラケット
27…ボビン
28…ガイド軸
29…昇降部材
29a…フォーク部
30…千鳥振りモータ
H…ミシンヘッド
T(T´)…刺繍材
P…針落ち位置(ステッチ位置)
Pa…一つ前のステッチ位置
U…上糸
S…被縫製物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
千鳥縫いを行う刺繍ミシンの布押え体であって、
下端に形成した被縫製物を押え付ける水平な布押え部の端部の上方には縫針に通された上糸を針落ち位置から離れないように案内するガイド部材を設けてなり、
前記布押え部の端部を、針落ち位置に近接させるとともに、紐状の刺繍材を前記針落ち位置に案内するガイド部に対向配置したことを特徴とする刺繍ミシンの布押え体。
【請求項2】
前記ガイド部材はワイヤ状であって、ガイド部先端に設けられたガイド筒の刺繍材導出口と干渉しない高さに、縫針の挿通を許容するとともに該縫針に通された上糸を通す半円部を有する形状に形成されてなり、
縫針の上昇時において前記縫針から被縫製物へと繋がっている上糸を前記半円部内に位置させて、上糸を針落ち位置から離れないように案内することを特徴とする請求項1に記載の刺繍ミシンの布押え体。
【請求項3】
前記布押え体は板状部材であって、該板状部材を曲成することによって前記布押え部と前記ガイド部材とを一体形成することを特徴とする請求項1に記載の刺繍ミシンの布押え体。
【請求項4】
布押え体を縫針が装着された針棒の昇降駆動に同期させて昇降駆動し、かつ被縫製物に縫い付ける紐状の刺繍材を針落ち位置に案内するガイド部を往復駆動するとともに、前記布押え体と前記ガイド部を前記針棒の軸心回りで方向制御して千鳥縫いを行う形式の刺繍ミシンであって、
前記布押え体は下端に形成した被縫製物を押え付ける水平な布押え部の端部の上方に、縫針に通された上糸を針落ち位置から離れないように案内するガイド部材を設けてなり、
前記布押え部の端部を、針落ち位置に近接させるとともに、紐状の刺繍材を前記針落ち位置に案内するガイド部に対向配置したことを特徴とする刺繍ミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−35990(P2010−35990A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205836(P2008−205836)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000219749)東海工業ミシン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】