説明

刺繍ミシン

【課題】 回動可能なY方向移動機構を備えた刺繍ミシンにおいて、回動動作を簡単に行うことが可能な刺繍ミシンを提供することを目的とする。
【解決手段】
刺繍時に、Y方向移動アーム1をほぼ90度引き出し、刺繍枠取付片19に刺繍枠(図示せず)を固定し、刺繍を実行する。Y方向移動アーム1は連結部2の機構により、押上げレバー24を押せば、回動軸21が押し上げられ、固定用突起22と溝43、44との係合が解除され、この時同時に回動バネ5により突起基部26が押されて、回動基板2が所定量回動する。そのため、アーム1の回動操作が簡単である。また、固定用突起22はXキャリッジの上面に係止されるから、溝43,44に再び嵌合することがなく、押上げレバー24は一度押して回動させれば、離しても良く、操作性が良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、刺繍ミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
刺繍ミシンは布を刺繍枠に装着し、この刺繍枠をXY方向に移動させて刺繍を行うものであるが、刺繍枠をXY方向に移動させるための機構には種々のものがある。その中の1つは、XY移動機構をミシン本体とは別のアタッチメントとし、刺繍時に該アタッチメントを取り付けて刺繍を行う外装型の刺繍ミシンである。他の1つは、XY移動機構をすべてミシン本体の内部に納める内蔵型である。
またXY移動機構を固定せず、Y方向移動機構を回動させて折りたたみ可能として、コンパクトに収納可能に構成したものも提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−237478号公報
【特許文献2】米国特許公開公報US2002/0083872A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したY方向移動機構を回動可能とした構成の場合、回動操作が面倒であり、特に収納状態にある時は通常ミシン本体に沿って収納され、また係止手段により係止されているため、係止を解除すると同時に手動で回動させるのは操作性が悪く、作業がむずかしい問題があった。
本発明は上記した従来の刺繍ミシンの問題点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、刺繍対象物を保持する保持装置を、ミシン本体の幅方向に沿うX方向とミシン本体の奥行き方向に沿うY方向とに移動させて刺繍縫いを実行させる刺繍ミシンにおいて、前記保持装置をX方向に移動させるためのX方向移動機構と、前記X方向移動機構に接続してX方向に移動可能であり、前記保持装置を接続して、該保持装置をY方向に移動させることが可能であるY方向移動機構と、を備え、前記Y方向移動機構は、Y方向に突出して刺繍を実行する停止位置と前記X方向に沿って収納される停止位置との間を回動可能であり、該Y方向移動機構が少なくとも前記一方の停止位置にある時、該Y方向移動機構の回動を係止する係止装置と、該係止装置の係止を解除する解除装置と、該解除装置により係止解除の時、該解除動作と同時に前記Y方向移動機構を他方の停止位置方向に所定量回動させる回動装置と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の上記構成によれば、係止解除と同時にY方向移動機構が所定量回動するから、操作性が向上する効果がある。特にY方向移動機構が本体に沿って収納された停止位置にある時は、係止解除と同時に回動して本体から所定量離れて隙間が生じるため、該隙間に指を入れる等により該Y方向移動機構を簡単に回動させることが可能になり、操作性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る刺繍ミシンを前側(操作者側)から見た斜視図であり、ベッド前面92側が表れている。ベースBの上にベッド90が設けられ、ベッド90からアーム立上部96が立ち上がり、アーム95に続いている。アーム95には表示部98が設けられ、また縫い針部Nが設置され、縫製と刺繍縫いを実行するようになっている。
ベッド90は、フリーアーム94、取外部97、固定部99に区分され、これらの上面は同一レベルに保たれて、全体でベッド上面91を形成するようになっている。このベッド上面91が縫製時に作業面となる。
取外部97を取り外すことにより、フリーアーム94はフリーアームとして機能するように構成されている。
なお、図示するようにミシン本体の幅方向をX方向、ミシン本体の奥行き方向をY方向とする。
【0008】
図2に示すように、ベッド背面93側にはY方向移動アーム1が装着されている。このY方向移動アーム1はベッド90に形成された切欠部3に収まるようになっており、常態ではミシン本体と一体化している。そして、そのアーム上面10もベッド上面91と同一レベルになっており、ベッド上面91と連続した平面を形成している。
【0009】
Y方向移動アーム1は回動可能になっており、図3に示すようにベッド背面93側の奥行き方向(Y方向)に突出するようになっている。Y方向移動アーム1はこの位置で、稼働状態となり、刺繍枠をY方向移動アーム1に設けられた刺繍枠取付片19に装着するように構成されている。
Y方向移動アーム1は後述するように、ミシン本体内に納められたX方向移動装置4に連結し、該X方向移動装置4によりミシン本体の幅方向(X方向)に動かされ、また刺繍枠取付片19をY方向に移動し、ここに装着された刺繍枠をY方向に移動する。この動作により刺繍枠をXY方向に移動させて刺繍を行うようになっている。
【0010】
切欠部3は、Y方向移動アーム1の外形に倣う形状の切欠部であり、Y方向移動アーム1を回動して収納したときに、Y方向移動アーム1の上面はベッド上面91とほぼ同一レベルの面になるようになっている。
Y方向移動アーム1は、この切欠部3において、X方向移動装置4と連結し、X方向に移動するようになっている。
切欠部3は、隙間36を残して、カバー30に覆われており、そのカバー上面35、35もアーム上面10と同一レベルの面になっている。また、刺繍枠取付片19もこれらと同一レベルの面になっている。
隙間36は、フリーアーム94との間に隙間を確保するために設けられており、この隙間36によりフリーアーム機能を確保している。隙間36をベッド上面91と同一面とするためのアダプタなど設けることも可能である。
【0011】
図3に示すように、カバー30にはY方向移動アーム1の外形とほぼ同一形状の収納部31と刺繍枠取付片19の外形とほぼ同一形状の凹部32が形成され、Y方向移動アーム1をミシン本体と一体化して収納するようになっている。
該カバー30は、Y方向移動アーム1と一緒にX方向に移動するようになっている。
【0012】
Y方向移動アーム1はアーム立上部96側を基部12とし、該基部12側をX方向移動装置4に連結し、基部12側を軸として回動し、先端部11側が開いてY方向に突出するように構成されている。アーム立上部96側にY方向移動アーム1を位置させることにより、アーム立上部96と刺繍枠との干渉を防止でき、刺繍枠を大きくすることが可能になるためである。
【0013】
図4により、Y方向移動アーム1の構成を更に詳細に説明する。図4はY方向移動アーム1のカバーリングを取り外した状態を示している。
Y方向移動アーム1はYガードレール13を有し、このYガードレール13上をYキャリッジ14が移動するようになっている。Yキャリッジ14には前記した刺繍枠取付片19が装着され、刺繍枠取付片19を介して刺繍枠が装着される。
Yキャリッジ14はYガードレール13の下側に設けられたY駆動ベルト18に固定され、Y駆動ベルト18の駆動により移動するようになっている。
Y駆動ベルト18はY駆動歯車16とYプーリ17の間に掛けわたされており、Yモータ15の稼働により回動するように構成されている。
【0014】
前記したY方向移動アーム1の基部12、即ちYガードレール13の基部12は、図5に示すように連結部2に結合され、この基部12側を軸に、ほぼ90度回動する。連結部2は回動基板20を備えており、該回動基板20が回動することによりY方向移動アーム1を回動させるようになっている。
図5では、Y方向移動アーム1はベッド背面93からほぼ90度方向に突出した位置にあり、この位置が刺繍を行う位置である。刺繍を行わない場合、Y方向移動アーム1を約90度回動させて、前記切欠部3に納める。この状態を図6に示す。
【0015】
一方X方向移動装置4の前記Xキャリッジ40は、図7示すように2本のX案内軸41、41上を移動するように構成されており、駆動ベルト45に連結している。該駆動ベルト45はXモータ46により駆動され、これによりXキャリッジ40はX方向に移動するようになっている。
以上のX方向移動装置4の機構は、ベースB上に装着されている。
【0016】
前記連結部2は該Xキャリッジ40上に装着されている。
連結部2は図8と図9に示すように回動基板20と回動軸21とを備え、該回動軸21がXキャリッジ40に設けられた回動孔42に貫挿し、回動するように構成されている。
回動基板20の下側には角形状の突起基部26が設けられ、その下端の一端側と他端側とに一対の固定用突起22、22が形成されている。
回動軸21は、近接手段であるバネ23により常態では下方向に押し下げられており、前記一対の固定用突起22、22が張出時固定溝43又は収納時固定溝44に嵌挿され、且つバネ23の押し下げ力により近接する方向に力を加えられ、Xキャリッジ40上に固定されるようになっている。この状態ではY方向移動アーム1は回動しないようになっている。
【0017】
Xキャリッジ40には図10に示すように、90度の角度を有する張出時固定溝43又は収納時固定溝44が設けられており、回動基板20に180度対向して設けられた一対の固定用突起22、22が嵌挿されるようになっている。
Yガードレール13がY方向に突出し、刺繍を実行する停止位置に来た時には固定用突起22、22は張出時固定溝43に嵌挿し、Yガードレール13が切欠部3に収納される停止位置に来たときには、固定用突起22、22は収納時固定溝44に嵌挿されるように構成されている。
【0018】
回動軸21は押上げレバー24を押し下げると、押上げリンク25によりバネ23の押し下げ力に抗して、上に持ち上げられるようになっており、この押上げレバー24の操作による持ち上げにより、前記固定用突起22、22と張出時固定溝43又は収納時固定溝44の係合が解除されて、Y方向移動アーム1が回動できる状態となる。この押上げレバー24と押上げリンク25により係止解除装置を形成している。
押上げレバー24は図2に示すように、その先端がミシン本体の側面から露出している。
【0019】
Xキャリッジ40上には、回動バネ5、5が設けられている。この回動バネ5は、突起基部26の側壁を押圧して、固定用突起22、22と張出時固定溝43又は収納時固定溝44の嵌合が解除された時に、回動基板20を所定量回動させるためのものである。
【0020】
回動バネ5は図10に示すように、Y方向移動アーム1が収納される停止位置にある時に、突起基部26に当接して、押圧する位置に配置されている。この押圧方向は、Y方向移動アーム1をベッド背面93側に張り出す方向、即ち刺繍を実行する停止位置方向に回動させる方向である。
他方の回動バネ5’はY方向移動アーム1が刺繍停止位置にある時に突起基部26に当接して、Y方向移動アーム1を収納停止位置方向に回動する方向に押圧するようになっている。
【0021】
図2に示すように、Y方向移動アーム1が上記した収納停止位置にあるとする。この時、図11(A)に示すように固定用突起22は収納時固定溝44に嵌合した状態である。この状態から上記押上げレバー24により回動軸21が押し上げられると、固定用突起22と溝44との係合が解除され、この時同時に回動バネ5により突起基部26が押されて、回動基板2が所定量回動する。
この状態が図11の(B)である。この時、図12に示すようにY方向移動アーム1は回動して、収納部31から少しせり出す。そして該収納部31との隙間に指を入れて、手動でアーム1を回動させることにより、簡単に刺繍位置にセットすることができる。
また、固定用突起22は図11(B)に示すようにXキャリッジの上面に係止されるから、溝44に再び嵌合することがない。従って、押上げレバー24は一度押して回動させれば、離しても良く、操作性がきわめてよくなる。
なお、上記動作は、固定用突起22と溝43が嵌合する刺繍停止位置から収納位置に戻すときも同じである。
【0022】
以上の構成において、通常縫いの場合には、図2に示すようにY方向移動アーム1を切欠部3に収納しておく。この時、Y方向移動アーム1のアーム上面10はベッド上面91と同一面になるから、縫製作業を阻害することがなく、逆にベッド上面91を拡大することになるから利便性が向上する。また、カバー上面35、35、刺繍枠取付片19も同一面を形成するから、全体的に均一な作業面を得ることができる。
刺繍時には、図3に示すようにY方向移動アーム1をほぼ90度引き出し、刺繍枠取付片19に刺繍枠(図示せず)を固定し、刺繍を実行する。Y方向移動アーム1はミシン本体のY方向長さよりも大きくすることが可能であるから、Y方向の移動量を従来に内蔵型のものより大幅に増加することが可能になり、大型の刺繍を実現することが可能である。
また、Y方向移動アーム1は前記した連結部2の機構により、確実に固定されるため、確実な動作を得ることが可能になる。また、押上げレバー24を押せば、回動軸21が押し上げられ、固定用突起22と溝43、44との係合が解除され、この時同時に回動バネ5により突起基部26が押されて、回動基板2が所定量回動する。そのため、アーム1の回動操作が簡単である。また、固定用突起22はXキャリッジの上面に係止されるから、溝43,44に再び嵌合することがなく、押上げレバー24は一度押して回動させれば、離しても良く、操作性が良い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態を示す正面側の斜視図。
【図2】本発明の一実施形態を示す背面側の斜視図。
【図3】本発明の一実施形態の動作を示す背面側の斜視図。
【図4】本発明の一実施形態におけるY方向移動アーム1の構成を示す斜視図。
【図5】本発明の一実施形態におけるY方向移動アーム1とX方向移動装置4の構成を示す斜視図。
【図6】本発明の一実施形態における連結部2の構成を示す斜視図。
【図7】本発明の一実施形態におけるX方向移動装置4の構成を示す斜視図。
【図8】本発明の一実施形態における連結部2の構成を示す概略断面図。
【図9】本発明の一実施形態における連結部2の構成を示す他の斜視図。
【図10】本発明の一実施形態における回動基板20の構成を示す概略平面図。
【図11】本発明の一実施形態における回動バネ5による動作説明図。
【図12】本発明の一実施形態におけるアームの回動動作説明図。
【符号の説明】
【0024】
1:Y方向移動アーム、2:連結部、3:切欠部、4:X方向移動装置、5:回動バネ、10:アーム上面、11:先端部、12:基部、13:Yガードレール、14:Yキャリッジ、15:Yモータ、16:Y駆動歯車、17:Yプーリ、18:Y駆動ベルト、19:刺繍枠取付片、20:回動基板、21:回動軸、22:固定用突起、23:バネ、24:押上げレバー、25:押上げリンク、26:突起基部、30:カバー、31:収納部、32:凹部、35:カバー上面、36:隙間、40:Xキャリッジ、41:X案内軸、42:回動孔、43:張出時固定溝、44:収納時固定溝、45:駆動ベルト、46:Xモータ、90:ベッド、91:ベッド上面、92:ベッド前面、93:ベッド背面、94:フリーアーム、95:アーム、96:アーム立上部、97:取外部、98:表示部、99:固定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺繍対象物を保持する保持装置を、ミシン本体の幅方向に沿うX方向とミシン本体の奥行き方向に沿うY方向とに移動させて刺繍縫いを実行させる刺繍ミシンにおいて、
前記保持装置をX方向に移動させるためのX方向移動機構と、
前記X方向移動機構に接続してX方向に移動可能であり、前記保持装置を接続して、該保持装置をY方向に移動させることが可能であるY方向移動機構と、を備え、
前記Y方向移動機構は、Y方向に突出して刺繍を実行する停止位置と前記X方向に沿って収納される停止位置との間を回動可能であり、
該Y方向移動機構が少なくとも前記一方の停止位置にある時、該Y方向移動機構の回動を係止する係止装置と、
該係止装置の係止を解除する解除装置と、
該解除装置により係止解除の時、該解除動作と同時に前記Y方向移動機構を他方の停止位置方向に所定量回動させる回動装置と、
を有することを特徴とする刺繍ミシン。
【請求項2】
前記係止装置が;
前記Y方向移動機構に設けられた突起部と、
前記X方向移動機構に設けられ、Y方向移動機構が停止位置にある時、前記突起部を嵌合する溝と、
前記突起部と溝を互いに近接させる方向に力を加える近接手段と、を備え、前記解除装置が、前記近接手段の力に抗して、前記突起部と溝の嵌合を解き、
前記回動装置が、前記突起部と溝の嵌合が解かれた時に、Y方向移動機構を少なくとも前記突起部と溝が嵌合しない位置まで回動させる、
請求項1に記載の刺繍ミシン。
【請求項3】
前記回動装置が、バネを有し、該バネにより前記Y方向移動機構を回動させる、
請求項1又は2に記載の刺繍ミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−340959(P2006−340959A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170730(P2005−170730)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000002244)蛇の目ミシン工業株式会社 (79)
【Fターム(参考)】