説明

刺繍枠

【課題】レバーを傾動させることにより短時間で加工布の枠張を行うことができ、且つ任意の傾動角度に調節されたレバーが枠張された加工布を弛緩させる方向へ傾動することを防止することにより厚さが異なる加工布の枠張も短時間で行うことができる刺繍枠を提供することを目的とする。
【解決手段】環状の保持枠21と、保持枠21との間に加工布を挟着して枠張する挟着枠25とを備え、挟着枠25に切離部27を形成し、切離部27にて相対する挟着枠25の両端間25l、25rに切離部27を繋ぐ調節締結具30を架設した刺繍枠であって、調節締結具30は、操作レバー43と、操作レバー43の傾動角度に応じて切離部27の間口を連続的に拡大又は縮小する拡縮機構と、操作レバー43が枠張された加工布を弛緩させる方向へ傾動することを防止する防止機構41、45とを備えたことを特徴とする刺繍枠。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍加工に際して加工布を保持する刺繍枠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の刺繍枠は、加工布を枠張する際に外枠の調節ネジを手で回して加工布を固定するものであった。そのため、多くの加工布に刺繍を行う場合等には、加工布を交換する度に調節ネジを手で回して外枠を締めたり緩めたりすることから、面倒で時間も掛かる上に、指先を痛めるおそれがあった。
【0003】
そこで、出願人は、特許文献1、2において、ワンタッチ操作で加工布を枠張できる刺繍枠等を提案した。しかし、これらは、リンク機構を用いたものであり、二つのリンクが一直線になった状態の位置(死点)でしか固定できない(死点より手前の位置では加工途中に加工布が弛緩する、死点を過ぎた位置では加工布が弛緩して枠張される)ことから、異なる布厚(死点で固定できないくらい厚さが異なる)の加工布を枠張するためには、事前に外枠(保持枠)に設けられた調節ネジによる調節が必要となっていた。
【0004】
一方、特許文献3〜5には、布厚が異なる加工布をワンタッチ操作で枠張できる刺繍枠が提案されている。
【0005】
しかし、特許文献3に記載の刺繍枠は、布厚が異なる加工布を枠張するためには、操作部材に設けられた調節ネジを調節して、操作部材による外枠の締め付け量を調節することから、手間が掛かる上に、指先を痛めるおそれがあった。
特許文献4に記載の刺繍枠は、内枠に設けられた板バネの付勢力によって加工布を枠張することから、加工途中で加工布が弛緩するおそれがあった。
特許文献5に記載の刺繍枠は、手前に引いたアジャストレバー部が元に戻らないようにストッパー金具の先端部を袋ナット部の溝に引掛けていることから、段階的にしか調節できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−280900号公報
【特許文献2】特開2006−304909号公報
【特許文献3】特開2008−279184号公報
【特許文献4】特許第3953604号公報
【特許文献5】実用新案登録第3043342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、レバーを傾動させることにより短時間で加工布の枠張を行うことができ、且つ任意の傾動角度に調節されたレバーが枠張された加工布を弛緩させる方向へ傾動することを防止することにより厚さが異なる加工布の枠張も短時間で行うことができる刺繍枠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の刺繍枠は、環状の保持枠と、前記保持枠との間に加工布を挟着して枠張する挟着枠とを備え、前記挟着枠に切離部を形成し、前記切離部にて相対する前記挟着枠の両端間に該切離部を繋ぐ調節締結具を架設した刺繍枠であって、前記調節締結具は、傾動可能に軸着されたレバーと、前記レバーの傾動角度に応じて前記切離部の間口を連続的に拡大又は縮小することで加工布を枠張する拡縮機構と、傾動範囲内の任意の傾動角度に調節された前記レバーが枠張された加工布を弛緩させる方向へ傾動することを防止する防止機構とを備えたことを特徴とする。
【0009】
ここで、保持枠には、全周が閉じた無端枠を使用できるほか、従来と同様、切離部を粗調節ネジで接続して環状にした枠を使用できる。保持枠の形状は、特に限定されず、四角形、多角形、円形、楕円形等を例示できる。挟着枠は切離部を備えた有端枠であり、保持枠と相似する形状で成形することができる。保持枠と挟着枠の組み合わせは、特に限定されず、保持枠の内側に挟着枠を組み付けてもよく、保持枠の外側に挟着枠を組み付けてもよい。
【0010】
調節締結具の態様としては、特に限定はされないが、挟着枠の両端に取着された一対の片部を備える態様等が例示できる。また、挟着枠の両端に取着された一対の片部を備える場合には、両方の片部を切離部の間口方向へ案内する案内機構を備える態様等が例示できる。
【0011】
レバーの態様としては、特に限定はされないが、水平方向に傾動するものであってもよいし、垂直方向に傾動するものであってもよい。但し、垂直方向に傾動するものである場合には、レバーがミシンのヘッド等と干渉しないよう、調節締結具はミシンの手前側に設けられる。なお、水平方向に傾動するものである場合には、レバーがミシンのヘッド等と干渉しないことから、調節締結具はミシンの手前側又は奥側のどちらかに設けることができる。
【0012】
拡縮機構の態様としては、特に限定はされないが、挟着枠の一端に取着されレバーの傾動とともに回動するカムと、挟着枠の他端に設けられカムに押圧される押圧部とを備える態様等が例示できる。例えば、調節締結具が挟着枠の両端に取着された一対の片部を備える場合には、この一対の片部の一方の片部にカムを設け、他方の片部に押圧部を設ける態様があげられる。
【0013】
防止機構の態様としては、特に限定はされないが、レバーの傾動とともに回動する円柱体と、枠張された加工布を弛緩させる方向へレバーが傾動すると円柱体を緊締する、円柱体に外嵌されたねじりコイルバネとを備える態様等が例示できる。ここで、円柱体は中実であってもよいし、中空であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レバーを傾動させることにより短時間で加工布の枠張を行うことができ、且つ厚さが異なる加工布の枠張も短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例の刺繍枠の平面図及び端面拡大図である。
【図2】同刺繍枠の外枠及び内枠の平面図である。
【図3】同刺繍枠の調節締結具付近の斜視図及び断面図である。
【図4】同調節締結具の分解斜視図である。
【図5】同調節締結具のロックバネと偏心カムの斜視図である。
【図6】同調節締結具の動きを示す平面図である。
【図7】同調節締結具の解除レバーの動きを示す平面図である。
【図8】同調節締結具のロックバネの変位を示す平面図である。
【図9】同調節締結具の偏心レバーと解除レバーの動きを示す平面図である。
【図10】布厚が異なる加工布を枠張したときの同調節締結具の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例を図1〜図10に基づいて説明する。図1に示すように、この実施例の刺繍枠20は刺繍ミシンの枠駆動機構12に取り付けられる。枠駆動機構12は、ミシンベッド13の上方に左右一対のアーム14と、アーム14を左右方向へ駆動するX駆動枠15と、X駆動枠15を前後方向へ駆動するY駆動枠16とを備えている。刺繍枠20は、アーム14の取付部17に着脱可能に取り付けられ、X駆動枠15とY駆動枠16の移動に伴い、針板18の針孔19を中心に前後左右方向へ駆動される。
【0017】
図1、図2に示すように、刺繍枠20は略四角形の保持枠としての外枠21と、外枠21と相似する形状の挟着枠としての内枠25とを備えている。外枠21は、従来と同様、四隅の一箇所に外切離部22が設けられ、この外切離部22を粗調節ネジ24で接続することで環状となっている。なお、外枠は、外切離部がなく全周が閉じた無端環状であってもよい。
【0018】
内枠25には、接続片23を介してアーム14の取付部17に着脱される左右一対の把手26が設けられている。また、内枠25の奥側中央には、外枠21との間に加工布2を拘束しない切離部27が形成されている。すなわち、切離部27では、内枠25が切れていて、外枠21との間に加工布2を挟着しないようになっている。図3〜図5に示すように、切離部27にて相対する内枠25の左端25lと右端25rとの間には、外枠21の外側で内枠25を繋ぐ調節締結具30が架設されている。そして、調節締結具30には、外枠21を跨ぐとともに、左右両端25l、25rに取着されこの両端を繋ぐ一対の片部としての左右一対のブラケット31、32と、一方のブラケット31に軸着され水平方向に傾動可能に設けられた操作レバー43と、操作レバー43の傾動角度に応じて切離部27の間口を連続的に拡大又は縮小し、切離部27の間口を拡大することで加工布2を枠張する拡縮機構と、傾動範囲内の任意の傾動角度に調節された操作レバー43が内枠25を縮小させる方向(枠張された加工布2を弛緩させる方向)へ傾動することを防止する防止機構と、左右一対のブラケット31、32を切離部27の間口方向へ案内する案内機構とが設けられている。なお、この実施例では、内枠25が合成樹脂の弾性材料で長辺が約45.5cm、短辺が約34.5cmの平面視略長方形に成形され、切離部27が約0.3cm〜約1.1cmの間口寸法で拡縮するようになっている。
【0019】
一対のブラケット31、32は、互いに略左右対称な形状に板金形成されものであり、基端部31a、32aがネジ35で内枠25の内面に固着されている。また、各ブラケット31、32の先端は、左右方向に長い略矩形状の平板部31b、32bになっている。第一ブラケット31の先端の平板部31bには、偏心ピン36と、互いに離間した二つのガイドカラー37とがネジ36c、37cにより上面に鋲着されている。第二ブラケット32の先端の平板部32bには、ガイドカラー37の対応する位置に左右方向に長い長円状の開口のガイド溝38が二つ設けられている。そして、二つのガイド溝38には、それぞれガイドカラー37の先端部37eが摺動可能に嵌合している。このガイド溝38とガイドカラー37とが案内機構を構成している。また、平板部32bの長辺方向の中間の偏心ピン36の対応する位置には、略矩形状の切欠部39が形成されている。
【0020】
偏心ピン36には、偏心ピン36を中心として回動する偏心カム40が外嵌されている。また、偏心ピン36の先端は、板金形成されたピンサポート49によって支持されている。ピンサポート49は、両端がネジ49cによって二つのガイドカラー37に固着されている。
【0021】
偏心カム40は、内部に偏心ピン36が挿通された中空円柱状の円柱部41と、円柱部41の基端側にあり、中心が偏心ピン36の軸心から偏心している円形板状のカム部42とからなり、円柱部41とカム部42とは偏心ピン36を中心に一体として回動するようになっている。カム部42は切欠部39に内挿され、カム部42の側面は切欠部39の左右の両内側面39l、39rに当接している。そのため、この左右の両内側面39l、39rは、偏心カム40の回動によりカム部42の側面に押圧されることから、押圧部となっている。カム部42には、円柱部41を挿通するための開口を有し、板金形成された操作レバー43がネジ43cによって固着されている。そのため、操作レバー43は偏心ピン36を傾動中心として傾動可能に第一ブラケット31に軸着されている。また、偏心カム40は、操作レバー43の傾動とともに偏心ピン36を中心として回動可能になっている。また、この偏心カム40と切欠部39の左右の両内側面39l、39rとが拡縮機構を構成している。
【0022】
操作レバー43の上には、円柱部41を挿通するための開口を有し、板金形成された解除レバー44がワッシャー47を介装して設けられている。解除レバー44は偏心ピン36を傾動中心として傾動可能に第一ブラケット31に軸着されている。
【0023】
解除レバー44とピンサポート49との間には、図5に示すような左巻きのねじりコイルバネ(トーションバネ)であるロックバネ45が挿入されている。ロックバネ45の上端部45uはネジ45cによりピンサポート49に鋲着され、下端部45dはネジ44cにより解除レバー44に鋲着されている。また、ロックバネ45のコイル部46は、円柱部41の先端が圧入により内挿されるとともに偏心ピン36が挿通されている。コイル部46の内径(約7.8mm)は円柱部41の外径(約8mm)より一回り小さいことから、円柱部41が圧入されたコイル部46の部位は拡径して円柱部41を外嵌している。そのため、円柱部41はロックバネ45により緊締されている。そして、このロックバネ45と円柱部41が防止機構を構成している。
【0024】
次に、この刺繍枠20に加工布2を枠張する仕方について説明する。先ずは、操作レバー43の傾動角度に応じて切離部27の間口を連続的に拡大又は縮小する機能について説明する。図6に示すように、操作レバー43を傾動させることにより、その傾動に従って、偏心カム40は、偏心ピン36を中心として、切欠部39内で回動する。カム部42は偏心ピン36の軸心から偏心しているとともに、その側面が切欠部39の左右の両内側面39l、39rに当接していることから、偏心カム40が回動することにより、第一ブラケット31と第二ブラケット32との相対位置が連続的に変位する。一方、第一ブラケット31の上面に取着された二つのガイドカラー37の先端部37eは、それぞれ第二ブラケット32の二つのガイド溝38に摺動可能に嵌合していることから、第一ブラケット31と第二ブラケット32とは、互いにガイド溝38に沿った方向、即ち、左右方向でもある切離部27の間口が拡大又は縮小する方向に変位するようになっている。そのため、操作レバー43を傾動させることにより、切離部27の間口が連続的に拡大又は縮小して、内枠25が連続的に拡大又は縮小する。
【0025】
具体的には、操作レバー43を右回り方向(図6のaの矢印x1の方向)に傾動させることにより、切離部27の間口が拡がり、内枠25が拡大する。この逆に、操作レバー43を左回り方向(図6のcの矢印x1の方向)に傾動させることにより、切離部27の間口が狭まり、内枠25が縮小する。より具体的には、図6のaに示すように、最も縮小した状態(切離部27の間口が約3mm)の内枠25の操作レバー43を右回り方向に傾動させることにより、カム部42の側面が切欠部39の右内側面39rを押圧し、内枠25が拡大して、図6のbに示すように、内枠25と外枠21との隙間が小さくなる。そして、操作レバー43をさらに右回り方向に傾動させることにより、内枠25がさらに拡大して、図6のcに示すように、最も拡大した状態(切離部27の間口が約11mm)の内枠25となることで、内枠25と外枠21との隙間がなくなり、内枠25が外枠21に内接する。これとは逆に、図6のcに示すように、拡大して、外枠21に内接している状態の内枠25の操作レバー43を左回り方向に傾動させることにより、カム部42の側面が切欠部39の左内側面39lを押圧し、内枠25が縮小して、図6のbに示すように、内枠25と外枠21との間に隙間が生じる。そして、操作レバー43をさらに左回り方向に傾動させることにより、内枠25がさらに縮小して、図6のaに示すように、内枠25と外枠21との隙間が大きくなる。
【0026】
次に、ロックバネ45により操作レバー43の傾動を防止する機能について説明する。図5に示すように、ロックバネ45のコイル部46の一部が偏心カム40の円柱部41に拡径して外嵌し互いに密接していることから、ロックバネ45のコイル部46は偏心カム40の円柱部41を緊締しており、ロックバネ45のコイル部46と偏心カム40の円柱部41との間には強い摩擦が生じている。また、ロックバネ45は、上端部45uをピンサポート49に取着していることから、ロックバネ45は偏心カム40とともに回動しにくくなっている。そのため、操作レバー43は、ロックバネ45により傾動することを防止されている。
【0027】
次に、解除レバー44の傾動により、ロックバネ45による偏心カム40の円柱部41の緊締を解除する機能について説明する。図7、図8に示すように、ロックバネ45の下端部45dは、解除レバー44に取着している。そのため、解除レバー44を押圧して、図7のaに示す状態から、右回り方向(図7のaの矢印の方向)に傾動させて、図7のbに示す状態にすると、ロックバネ45の下端部45dの位置も、図7のa及び図8のaに示す位置から、図7のb及び図8のbに示す位置へと変位する。このように下端部45dの位置が変位することで、図8に示すように、ロックバネ45のコイル部46(特に、下端部45dに近いことから、円柱部41が圧入された部位)が拡径し、図8のbに示すように、円柱部41とコイル部46との間に隙間が生じる。または、隙間が生じないまでもロックバネ45のコイル部46による円柱部41の締め付けが緩む。そのため、ロックバネ45のコイル部46による偏心カム40の円柱部41の緊締が解除され、偏心カム40は回動可能になり、操作レバー43も傾動可能となる。一方、前記の解除レバー44の押圧を止めると、ロックバネ45の弾性により、コイル部46(特に、下端部45dに近いことから、大きく拡径した円柱部41が圧入された部位)は縮径し、図8のaに示すように、円柱部41を再び緊締する。また、コイル部46が縮径することで、下端部45dの位置が変位し、解除レバー44は左回り方向(図7のbの矢印の方向)に傾動する。
【0028】
次に、操作レバー43の傾動について説明する。図9のaに示すように、操作レバー43を右回り方向(図9のaの矢印x1の方向、なお、この方向に操作レバー43を傾動させることで内枠25は拡大する)に傾動させようとすると、ロックバネ45のコイル部46と偏心カム40の円柱部41との強い摩擦により、ロックバネ45を右回り方向に回動させようとするトルク(操作レバー43及び偏心カム40を右回り方向に傾動・回動させようとするトルクでもある)が偏心カム40からロックバネ45へと伝わり、ロックバネ45は右回り方向へ偏心カム40と連れ動こうとする。そのため、ロックバネ45のコイル部46が自身の弾性力に抗して拡径しようとして、ロックバネ45による偏心カム40の緊締が緩み、操作レバー43は右回り方向へ傾動可能となる。そして、操作レバー43を右回り方向へ傾動させることで、偏心カム40との連れ動きにより、ロックバネ45の下端部45dは偏心ピン36を中心として右回り方向に回動する。そのため、下端部45dが取着している解除レバー44は右回り方向に傾動する。
【0029】
ところで、コイル部46が拡径することで、ロックバネ45と偏心カム40との摩擦は小さくなることから、ロックバネ45へと偏心カム40から伝わる前記トルクは小さくなる。そのため、ロックバネ45の下端部45dは、偏心カム40から伝わるトルクとコイル部46の弾性力とが均衡するところまで変位する。そして、図9のbに示すように、解除レバー44は、ロックバネ45が均衡を維持する位置(右回り方向に約5°傾動した位置)まで操作レバー43とともに傾動する。その後、図9のcに示すように、解除レバー44はその状態を維持しながら、操作レバー43のみが右回り方向へ傾動させられる。そして、図9のcに示すように、操作レバー43の傾動を止めると、解除レバー44が、コイル部46の拡径により生じたロックバネ45の弾性力により左回り方向(図9のcの矢印の方向)に傾動して、図9のdに示す状態になり、ロックバネ45のコイル部46により偏心カム40の円柱部41が緊締される。なお、拡径したコイル部46は左回り方向に回動しながら縮径することから、ロックバネ45の縮径に伴って操作レバー43が左回り方向に傾動する場合には、ロックバネ45が縮径するまで操作レバー43を手等で押さえておく。
【0030】
一方、図9のdに示すように、操作レバー43を左回り方向(図9のdの矢印の方向)に傾動させようとすると、ロックバネ45を左回り方向に回動させようとするトルクも加わることから、ロックバネ45のコイル部46による偏心カム40の円柱部41の緊締はより一層固くなるとともに、摩擦もより一層強くなる。そのため、解除レバー44は、ロックバネ45により止められたまま、左回り方向への傾動ができなくなっている。
【0031】
次に、布厚が異なる二種類の加工布2、3を刺繍枠20に枠張するときについて説明する。
先ずは、図6のcに示すように、内枠25が最も拡大したときに(操作レバーの傾動角度が180°のときに)、内枠25との間に隙間が生じないように予め粗調節ネジ24により外枠21の大きさを調節しておく。
次に、加工布2(厚さt2)を枠張するときは、操作レバー43を右回り方向に傾動させて内枠25を拡大していくと、図10のaに示すように、操作レバー43の傾動角度が180°より小さい角度のα2のとき、操作レバー43が重くなり、外枠21と内枠25との間で加工布2を挟着して、加工布2が枠張される。また、ロックバネ45により偏心カム40が緊締されていることから、この状態で加工布2は弛緩することなく枠張されている。また、枠張された加工布2を刺繍枠20から外すときは、解除レバー44を右回り方向に傾動することで、ロックバネ45による偏心カム40の緊締が解除され、左回り方向の傾動が可能になった操作レバーを左回り方向に傾動し、外枠21と内枠25との隙間を大きくして、加工布2を刺繍枠20から外す。
【0032】
一方、加工布2より厚手の加工布3(厚さt3、t3>t2)を枠張するときは、操作レバー43を右回り方向に傾動させていくと、図10のbに示すように、操作レバー43の傾動角度がα2より小さい角度のα3とき、即ち、加工布2を枠張するときよりも内枠25が小さいときに、操作レバー43が重くなり、外枠21と内枠25との間で加工布3を挟着して、加工布3が枠張される。また、ロックバネ45により偏心カム40が緊締されていることから、この状態で加工布3は弛緩することなく枠張されている。また、枠張された加工布3を外すときは、加工布2のときと同じように行う。
【0033】
本実施例によれば、次の効果が得られた。
・内枠25を拡大する方向(右回り方向)に操作レバー43を傾動することで、内枠25を拡大でき、容易に且つ短時間で加工布2を刺繍枠20に枠張することができた。
・内枠25を縮小する方向(左回り方向)への操作レバー43の傾動はロックバネ45による偏心カム40の緊締により防止されていることから、加工途中等に弛緩することなく加工布2を枠張することができた。
・内枠25を拡大する方向への操作レバー43の傾動はロックバネ45による偏心カム40の緊締により防止されないことから、片手で加工布2の挟着を行うことができた。
・解除レバー44を右回り方向に傾動することでロックバネ45による偏心カム40の緊締が解除され、内枠25を縮小する方向へ操作レバー43を傾動して、内枠25を縮小できることから、容易に且つ短時間で加工布2を刺繍枠20から外すことができた。
・内枠25を縮小する方向への操作レバー43の傾動はロックバネ45による偏心カム40の緊締により防止されていることから、加工布2より厚い加工布3を枠張するときでも、内枠25を拡大する方向への操作レバー43の傾動角度を小さくすることだけで加工布3の枠張が行えた。
・そのため、加工布2より厚い加工布3を枠張するときでも、粗調節ネジ24により外枠21の大きさを調節しなくて済み、粗調節ネジ24を回動させることによる指先への負担がなくなり、指先を痛めることがなくなった。
【0034】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【符号の説明】
【0035】
2 加工布
3 加工布(厚手)
20 刺繍枠
21 外枠
25 内枠
25l 左端
25r 右端
27 切離部
30 調節締結具
31 第一ブラケット
32 第二ブラケット
36 偏心ピン
37 ガイドカラー
38 ガイド溝
39 切欠部
39l 左内側面
39r 右内側面
40 偏心カム
41 円柱部
42 カム部
43 操作レバー
44 解除レバー
45 ロックバネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の保持枠と、前記保持枠との間に加工布を挟着して枠張する挟着枠とを備え、前記挟着枠に切離部を形成し、前記切離部にて相対する前記挟着枠の両端間に該切離部を繋ぐ調節締結具を架設した刺繍枠であって、
前記調節締結具は、傾動可能に軸着されたレバーと、前記レバーの傾動角度に応じて前記切離部の間口を連続的に拡大又は縮小することで加工布を枠張する拡縮機構と、傾動範囲内の任意の傾動角度に調節された前記レバーが枠張された加工布を弛緩させる方向へ傾動することを防止する防止機構とを備えたことを特徴とする刺繍枠。
【請求項2】
前記防止機構は、前記レバーの傾動とともに回動する円柱体と、枠張された加工布を弛緩させる方向へ前記レバーが傾動すると前記円柱体を緊締する、前記円柱体に外嵌されたねじりコイルバネとを備えている請求項1記載の刺繍枠。
【請求項3】
前記拡縮機構は、前記挟着枠の一端に取着され前記レバーの傾動とともに回動するカムと、前記挟着枠の他端に設けられ前記カムに押圧される押圧部とを備えている請求項1又は2記載の刺繍枠。
【請求項4】
前記調節締結具は、挟着枠の両端に取着された一対の片部と、該一対の片部を前記切離部の間口方向へ案内する案内機構とを備えている請求項1〜3のいずれか一項に記載の刺繍枠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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