刺繍糸、糸駒及び刺繍縫製可能なミシン
【課題】 糸切換え作業に要していた時間を大幅に短縮するため、複数の色からなる刺繍模様であっても糸を切換えることなく、1本の糸で刺繍縫製できるように複数の色が刺繍縫製の順に使用糸量だけ染色又は着色された刺繍糸、この刺繍糸を巻き付けた糸駒、この刺繍糸又は糸駒を用いた刺繍縫製可能なミシンを提供することである。
【解決手段】 刺繍糸2は、刺繍模様1の色毎の各部分模様11〜15の縫製順序に従って、黄色部分11A,赤色部分12A,緑色部分13A,・・・の順に着色されている。黄色部分11Aは、最初に黄色部分模様11を縫製するための必須縫製分11a、省略可能模様分11b、下打ち縫い又は仮縫い分11cで構成されており、赤色部分12A,緑色部分13A,・・・も同様である。尚、この刺繍糸2には、1本の刺繍糸で複数の刺繍模様1を縫製可能なように、前記のような染色又は着色が複数組連続的に構成されている。
【解決手段】 刺繍糸2は、刺繍模様1の色毎の各部分模様11〜15の縫製順序に従って、黄色部分11A,赤色部分12A,緑色部分13A,・・・の順に着色されている。黄色部分11Aは、最初に黄色部分模様11を縫製するための必須縫製分11a、省略可能模様分11b、下打ち縫い又は仮縫い分11cで構成されており、赤色部分12A,緑色部分13A,・・・も同様である。尚、この刺繍糸2には、1本の刺繍糸で複数の刺繍模様1を縫製可能なように、前記のような染色又は着色が複数組連続的に構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍糸、糸駒及び刺繍縫製可能なミシンに関し、特に複数の部分模様の色が縫製順序どおりに使用糸量分だけ染色又は着色された刺繍糸、この刺繍糸を糸駒本体に巻回した糸駒、この刺繍糸や糸駒を使用して刺繍縫製可能なミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1本の針棒しか備えていない刺繍縫製可能なミシンによって複数色の複数の部分模様を含む刺繍模様を縫製する際に、色毎の縫製データに基づいて、薄い色の部分模様から縫製し、次の色の部分模様に替わる毎に、糸駒を縫製データで指示された糸色の糸駒に手作業で交換し、糸掛けと糸通しを行い、順々に複数の部分模様を縫製していく。この場合、多数の色で構成された刺繍模様になると、糸駒交換の回数も増え、糸駒の交換作業に時間がかかり、作業者にとって煩雑である。
【0003】
この糸駒交換作業の煩雑さを解消するため、種々の技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、糸色の交換に伴う糸の交換を機械的構成によって実現した糸処理機が開示されている。この糸処理機では、糸巻き担持体に複数の糸色の糸を夫々巻き付けた複数の糸巻き(糸駒)が装着され、糸引き出し方向における糸巻き担持体の下流側に、圧縮空気ノズルに通じたダクト状の渦室を有する糸連結装置が設けられている。
【0004】
違う色の糸に交換する際には、最初に使用していた色の糸を切断装置により切断し、切断した糸を糸引き出し装置に係合させてから、次に使用する新しい色の糸を手動又は糸供給装置を介して渦室内へ挿入させる。次に、渦室内に圧縮空気を供給することにより、色が異なる2本の糸のフィラメントを渦巻状にして絡ませることで、2本の糸を互いに連結することが可能になっている。
【特許文献1】特開平5−179560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の糸処理機においては、糸色の切換えに伴う糸の交換を機械的構成によって一応実現できるが、違う色の糸に切換える際には、糸を切断し、他の糸と連結させるため、縫製途中で縫製作業を中断しなければならならず、糸の連結に時間も要するため、スムーズな糸替え作業は行えないという問題がある。
【0006】
一方、色の異なる複数の糸駒を糸巻き担持体に配置しておく必要があるため、機械が大型化してしまう、また、切断装置、糸連結装置、糸供給装置及び圧縮空気供給装置等の機構を設ける必要があるため、縫製装置が大型化・複雑化するという問題や、既存のミシンに適用不可能であるという問題がある。
【0007】
本発明は、糸切換え作業に要していた時間を大幅に短縮するため、複数の色からなる刺繍模様であっても糸を切換えることなく、1本の糸で刺繍縫製できるように複数の色が刺繍縫製の順に使用糸量だけ染色又は着色された刺繍糸、この刺繍糸を巻き付けた糸駒、この刺繍糸又は糸駒を用いた刺繍縫製可能なミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の刺繍糸は、少なくとも色が異なる部分模様を含む複数の部分模様からなる刺繍模様を縫製する際の前記部分模様の縫製順序と、前記部分模様の刺繍データから算出される前記部分模様の使用糸量とに基づいて、前記部分模様の色が前記縫製順序どおりに前記使用糸量分だけ染色又は着色されたことを特徴としている。
【0009】
この刺繍糸は、予め複数の部分模様の縫製順序どおりに、部分模様の刺繍データから算出される部分模様の使用糸量分だけ1本の糸が染色又は着色されて構成されているので、異なる色の複数の部分模様からなる刺繍模様を刺繍縫製することができる。この刺繍糸は、同じ刺繍模様を複数回刺繍縫製できるような構成にしてもよく、また、異なる複数の刺繍模様を刺繍縫製できるような構成としてもよい。
【0010】
請求項2の刺繍糸は、請求項1の発明において、前記使用糸量は、夫々所定糸量分だけ長く設定されていることを特徴としている。刺繍データから算出される部分模様の使用糸量は、加工布の布厚や縫目ピッチに応じて変化するため、部分模様を縫製する際に刺繍糸が不足することがないよう、予め各部分模様毎の使用糸量が所定糸量分だけ長めに染色又は着色されている。
【0011】
請求項3の糸駒は、請求項1又は2に記載の刺繍糸を糸駒本体に巻回したことを特徴としている。
【0012】
請求項4の糸駒は、前記刺繍糸の糸色情報、縫製順序情報、及び使用糸量情報の少なくとも1つの情報を読み書き可能に記憶する記憶手段を備えたことを特徴としている。
複数の部分模様についての刺繍糸の糸色情報、複数の部分模様を縫製する縫製順序情報、及び部分模様毎の使用糸量情報の少なくとも1つを読み書き可能に記憶する記憶手段を糸駒に設けたため、縫製に際してこれらの情報を活用することができる。尚、上記の情報以外に、この糸駒に特有の識別番号や、糸残量等の情報を記憶させてもよい。
【0013】
請求項5の糸駒は、請求項4の発明において、前記記憶手段は、前記情報を無線通信により送受信可能な無線タグからなることを特徴としている。この糸駒を用いて刺繍模様を縫製する際、ミシンの糸立棒に糸駒が装着されると、無線タグに記憶された情報が無線にて制御装置に送信可能になる。
【0014】
請求項6の刺繍縫製可能なミシンは、刺繍模様の刺繍データに基づいて、刺繍縫製に供する加工布を保持する刺繍枠を所定の2方向に独立に移送する刺繍枠移送機構を有する刺繍縫製可能なミシンにおいて、請求項1若しくは2の何れかに記載の刺繍糸、又は請求項3乃至5の何れかに記載の糸駒から供給された刺繍糸の縫製による糸消費量を部分模様毎に検出する糸消費量検出手段と、前記糸消費量検出手段で検出された糸消費量と前記刺繍データに基づく使用糸量とを前記部分模様毎に照合する照合手段と、前記照合手段の照合結果に基づいて、前記使用糸量の消費されていない糸残量を演算し、前記糸残量に応じて未縫製箇所の予定消費糸量を補正する糸量補正手段とを備えたことを特徴としている。
【0015】
前記刺繍糸が巻回された糸駒を用いて刺繍模様の縫製が開始されると、糸消費量検出手段は、部分模様毎にその縫製に消費された糸消費量を検出する。照合手段は、糸消費量検出手段で検出された糸消費量と、刺繍データに基づく使用糸量とを部分模様毎に照合する。糸量補正手段は、照合手段の照合結果に基づいて、使用糸量のまだ消費されていない現在縫製中の糸色の糸残量を演算し、その糸残量に応じて未縫製箇所の予定消費糸量を補正する。
【0016】
請求項7の刺繍縫製可能なミシンは、請求項6の発明において、前記糸量補正手段は、前記刺繍データの一部を変更する刺繍データ変更手段を有することを特徴としている。
【0017】
請求項8の刺繍縫製可能なミシンは、請求項6又は7の発明において、前記糸量補正手段は、前記加工布に前記刺繍模様を縫製する領域内に下打ち縫いを行う為の下打ち縫い縫製実行手段を有することを特徴としている。
【0018】
請求項9の刺繍縫製可能なミシンは、請求項6〜8の何れかの発明において、前記糸量補正手段は、前記加工布に前記刺繍模様を縫製する領域外に仮縫いを行う為の仮縫い縫製実行手段を有することを特徴としている。
【0019】
請求項10の刺繍縫製可能なミシンは、請求項6〜9の何れかの発明において、前記加工布の布厚を検出する布厚検出手段を備え、前記糸量補正手段は、前記布厚検出手段が検出する前記加工布の布厚に応じて刺繍模様の糸密度を変更する糸密度変更手段を有することを特徴としている。
【0020】
請求項11の刺繍縫製可能なミシンは、請求項6〜10の何れかの発明において、前記検出手段は、前記刺繍糸の移動量を検出するロータリエンコーダを有することを特徴としている。
【0021】
請求項12の刺繍縫製可能なミシンは、請求項6〜11の何れかの発明において、請求項5に記載の無線タグに記憶された情報を読み取るリーダと、前記無線タグに情報を書き込むライタとを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明によれば、異なる色の複数の部分模様からなる刺繍模様を1本の糸で刺繍縫製することができるように、予め複数の部分模様の縫製順序どおりに、部分模様の刺繍データから算出される部分模様の使用糸量分だけ1本の糸に染色又は着色した刺繍糸であるので、複数色の刺繍縫製の縫製に際し、複数回の糸駒の交換が不要となるので、刺繍模様の縫製時間の短縮することができ、糸駒の交換に要していた労力を解消できる。また、複数の糸色の糸駒を使用することなく1個の糸駒の刺繍糸を用いて刺繍模様を縫製できるため糸駒の費用を節減可能である。
【0023】
請求項2の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、各部分模様に使用する使用糸量が、予め所定糸量分だけ長めに設定されているので、加工布の布厚や縫目ピッチが変動しても、その各部分模様の縫製に用いる糸が縫製途中で不足することない。
【0024】
請求項3の発明によれば、請求項1又は2の刺繍糸を糸駒本体に巻回した糸駒の状態でユーザーに提供することができる。特定の刺繍模様の刺繍データと、この刺繍模様を縫製できる糸替え不要な刺繍糸の糸駒をセットでユーザーに提供することも可能であるので、特定の刺繍模様の縫製に際して、必要な複数色の複数の糸駒を全て準備する必要がなくなり、糸駒の費用を節減することができる。
【0025】
請求項4の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、請求項3の糸駒は、刺繍糸の糸色情報、縫製順序情報、及び使用糸量情報の少なくとも1つの情報を読み書き可能に記憶する記憶手段を備えているため、刺繍糸の糸色、縫製順序、及び使用糸量の少なくとも1つの情報を糸駒自体に書き込んで記憶させておくことができる。更に、これらの情報を糸駒から読み出すことで、この糸駒に巻回された刺繍糸の各種の情報を容易に認識することができる。
【0026】
請求項5の発明によれば、請求項4に記載の発明の効果に加え、前記記憶手段は、前記情報を無線通信により送受信可能な無線タグからなるので、小型の無線タグは糸駒の邪魔にならない部位に装着可能であり、安価であり、無線にて通信可能であるので通信線の接続が不要で使い易い。
【0027】
請求項6の発明によれば、複数色に着色された刺繍糸が巻回された糸駒を用いて刺繍縫製する際、糸消費量検出手段は、この糸駒から供給され縫製に消費された糸消費量を部分模様毎に検出するので、各色の糸消費量を確実に把握できる。照合手段は、糸消費量検出手段で検出された糸消費量と、刺繍データに基づく使用糸量を部分模様毎に照合する。
【0028】
糸量補正手段は、照合手段の照合結果に基づいて、使用糸量のまだ消費されていない現在縫製中の色の糸残量を演算し、その糸残量に応じてまだ未縫製箇所の縫製に必要な予定消費糸量を補正するので、現在縫製中の部分模様の縫製が終了する前にその色の刺繍糸を使い切ってしまうのを防止することができる。
【0029】
請求項7の発明によれば、請求項6に記載の発明の効果に加え、糸量補正手段は、刺繍データの一部を変更する刺繍データ変更手段を有するので、刺繍データの一部を変更することで、未縫製箇所の予定消費糸量を補正することができる。
【0030】
請求項8の発明によれば、請求項6又は7に記載の発明の効果に加え、糸量補正手段は、前記加工布に前記刺繍模様を縫製する領域内に下打ち縫いを行う為の下打ち縫い縫製実行手段を有するので、余った刺繍糸を下打ち縫製に使用することで、その刺繍糸の余剰を解消することができる。
【0031】
請求項9の発明によれば、請求項6〜8の何れかに記載の発明の効果に加え、糸量補正手段は、前記加工布に前記刺繍模様を縫製する領域外に仮縫いを行う為の仮縫い縫製実行手段を有するので、余剰の刺繍糸を用いて仮縫い縫製を行い、その仮縫いを後で切り捨てることができる。
【0032】
請求項10の発明によれば、請求項6〜9の何れかに記載の発明の効果に加え、加工布の布厚を検出する布厚検出手段を備え、糸量補正手段は、前記布厚検出手段が検出する加工布の布厚に応じて刺繍模様の糸密度を変更する糸密度変更手段を有するので、糸密度を変更することで、消費糸量を適宜変更することができる。
【0033】
請求項11の発明によれば、請求項6〜10の何れかに記載の発明の効果に加え、糸消費量検出手段は、前記刺繍糸の移動量を検出するロータリエンコーダを有するので、正確に糸量を検出することができる。
【0034】
請求項12の発明によれば、請求項6〜11の何れかに記載の発明の効果に加え、請求項5の無線タグに記憶された情報を読み取るリーダと、前記無線タグに情報を書き込むライタとを備えたので、無線タグの情報を読み取ったり、無線タグに情報を書き込んだりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面に基づいて説明する。
本願発明は、糸駒を交換することなく、1本の糸で複数色の刺繍模様を縫製できるように縫製順に複数の色が順に染色又は着色されている刺繍糸と、この刺繍糸を巻回した糸駒と、この糸駒を装着して刺繍模様を縫製可能なミシンに関するものである。
【実施例1】
【0036】
最初に、1本の糸で刺繍縫製できるように、複数の色が縫製順に複数の部分模様の使用糸量分だけ染色又は着色された刺繍糸(複数色刺繍糸)について説明する。
本実施例の刺繍糸は、例えば、図1に示す刺繍模様を1本の刺繍糸で刺繍縫製できるように複数の色が縫製順に複数の部分模様の使用糸量だけ染色又は着色された刺繍糸である。
但し、刺繍模様のサイズに応じて必要な刺繍糸の長さが変化するため、本実施例の刺繍模様は、所定の標準サイズの刺繍模様を対象としている。
【0037】
図1に刺繍模様の一例を示す。刺繍模様1は、黄色、赤色、緑色、青色、黒色の5色の部分模様11〜15からなる。黄色部分模様11,赤色部分模様12,緑色部分模様13,青色部分模様14,黒色部分模様15をこの順に全て刺繍縫製すると刺繍模様1が完成する。
【0038】
図2(a)は、前記各色の部分模様11〜15を縫製する刺繍データにおける針数、縫目ピッチ、これらに基づいて算出された基本使用糸量を示すテーブルである。図2(b)は、布厚と補正係数k1の関係を予め設定したテーブルであって、縫製対象の加工布の布厚が「厚物」、「普通」、「薄物」に応じて、補正係数k1は「2.5」、「2.0」、「1.2」に設定されている。図2(c)は、補正方法と補正係数k2の関係を予め設定したデーブルであって、次に縫製する次色の部分模様の領域に「下打ち縫い」が可能である場合には、例えば、補正係数k2=1.5、前記下打ち縫いが可能でなく、刺繍模様を縫製する刺繍領域以外の領域に「仮縫い」する場合には、例えば、補正係数k2=1.2 に設定されている。
【0039】
ここで、「下打ち縫い」とは、加工布の縫い縮みを防止したり、刺繍模様に適当な膨らみ(立体感)を与える為に、刺繍縫製の前にこの刺繍縫製領域内を粗く縫製するものである。例えば、図4に示すように、部分模様12を縫製する前に、部分模様12の領域内を粗く縫製するものである。また、「仮縫い」とは、操作者が、縫目を簡単に切断して除去できるように縫製するものである。例えば、図5に示すように、刺繍模様1から離れた箇所に縫目を簡単に切断して除去できるように縫製するものである。
【0040】
ここで、下打ち縫いに適するか否かは、次に縫製する部分模様11〜15の刺繍領域の大きさ(面積)に基づいて判定するものとする。即ち、刺繍模様1の場合、緑色部分模様13と黒色部分模様15は、刺繍領域の大きさ(面積)が小さくて下打ち縫いに適さないと判定し、赤色部分模様12と青色部分模様14では、次色下打ち縫いではなく、仮縫いを設定することになる。
【0041】
図2のテーブルのように算出した各部分模様11〜15の基本使用糸量に補正係数k1,k2を乗じて得た使用糸量分だけ、黄色、赤色、緑色、青色、黒色の順序で刺繍糸を染色又は着色することで、刺繍模様1の為の糸替え不要な刺繍糸2(複数色刺繍糸)が得られる。
【0042】
図3は、刺繍糸2の染色又は着色状態を説明する図であり、説明の都合上、長さ方向を縮小して示してある。刺繍糸2は、刺繍模様1の色毎の各部分模様11〜15の縫製順序に従って、黄色部分模様11を縫製するための黄色部分11A、赤色部分模様12を縫製するための赤色部分12A、緑色部分模様13を縫製するための緑色部分13A、青色部分模様14を縫製するための青色部分14A、黒色部分模様15を縫製するための黒色部分15Aの順に染色又は着色されている。なお、青色部分14Aと黒色部分15Aは図を省略する。
【0043】
黄色部分11Aは、黄色部分模様11を縫製するための必須縫製分11a、省略可能模様分11b、下打ち縫い又は仮縫い分11cで構成されている。黄色部分の次の赤色部分12Aも同様に、最初に赤色部分模様12を縫製するための必須縫製分12a、省略可能模様分12b、下打ち縫い又は仮縫い分12cで構成され、その次の緑色部分13Aも同様に、最初に緑色部分模様13を縫製するための必須縫製分13a、省略可能模様分13b、下打ち縫い又は仮縫い分13cで構成されている。そして、青色部分14A、黒色部分15Aについても同様である。ここで、必須縫製分とは、部分模様を縫製するために必ず必要である部分(部分模様の必須箇所の縫製分)のことであり、省略可能模様分とは、部分模様の一部を省略して縫製しても模様形状に影響が少ない部分のことである。
尚、この刺繍糸2は、刺繍模様1を複数個縫製可能なように、前記のような染色又は着色が複数組連続的に構成されている。
【0044】
このように、刺繍糸2は異なる色の複数の部分模様11〜15からなる刺繍模様1を1本の糸で刺繍縫製することができるように、予め複数の部分模様11〜15の縫製順序どおりに、部分模様の刺繍データから算出される部分模様の使用糸量分だけ1本の糸に染色又は着色されているので、複数色の刺繍模様1を縫製する際、複数回の糸駒の交換が不要となり、刺繍模様1の縫製時間を短縮することができる。また、刺繍糸2の各部分模様11〜15に使用する使用糸量は、予め所定糸量分だけ長めに設定されて着色されているので、加工布の布厚や縫目ピッチが変動しても、その各部分模様11〜15の縫製に用いる糸が縫製途中で不足することはない。
【0045】
次に、上記糸替え不要な刺繍糸2を巻回した糸駒6、糸駒6に設けられた無線タグ7について説明する。図6は糸駒6の正面図であり、図7は糸駒6の側面図である。図8は無線タグ7の電気的構成を示すブロック図である。
【0046】
図6、図7に示すように、糸駒6には、糸替え不要な刺繍糸2であって複数の刺繍模様1を縫製可能な刺繍糸2が巻回されているが、この刺繍縫製する順序の遅い色の糸ほど内側になるように巻回されている。糸駒6は、略円柱形状の糸駒本体61を有し、糸駒本体61の両端には円形側面62が形成され、糸駒本体61の内部を貫通し且つ円形側面62の中心に開口する軸穴63が設けられている。
【0047】
図7に示すように、糸駒6の1つの円形側面62には無線タグ7が埋設されている。無線タグ7は、軸穴63の周りに渦巻き状に貼り付けられたコイル状のアンテナ71と、アンテナ71の一端に接続されたIC回路部72とを有する。
【0048】
次に、無線タグ7の電気的構成について説明する。
図8に示すように、無線タグ7は、アンテナ71とIC回路部72とを有する。アンテナ71は、後述のタグリーダライタ100(図13参照)のアンテナ(図示外)との間で、無線電波により非接触で信号の送受信を行うものである。前記IC回路部72は、アンテナ71に接続された整流部73、整流部73に接続された電源部74、アンテナ71に接続されたクロック抽出部75、アンテナ71に接続された変復調部76、クロック抽出部75及び変復調部76に接続された制御部77、及び制御部77に接続されたメモリ部78を備えている。尚、電源部74から各部に電力が供給される。
【0049】
整流部73は、アンテナ71によって受信した搬送波を整流する。電源部74は、整流部73による整流された搬送波の電気エネルギを蓄積し駆動電源とする。クロック抽出部75は、アンテナ71で受信された搬送波からクロック信号を抽出して制御部77に供給する。変復調部76は、タグリーダライタ100から搬送波に乗せて送信され、アンテナ71によって受信された受信信号の復調を行うと共に、制御部77からの応答信号に基づき、変調した搬送波をアンテナ71に出力する。このように無線タグ7は、タグリーダライタ100との間で無線にて情報の送受信が可能になっている。
【0050】
制御部77は、変復調部76により復調された受信信号を解読し、メモリ部78に記憶された情報信号に基づいて返信信号を生成し、変復調部76等を介して返信する等、無線タグ7の基本的な作動を制御する。メモリ部78(「記憶手段」に相当する。)には、糸駒6を識別する糸駒識別番号、刺繍模様を特定する刺繍模様番号、刺繍模様のサイズを示すサイズ情報、複数色の糸色情報(縫製順に並べてある)、縫製順序情報(例えば、黄色、赤色、緑色、青色、黒色の縫製順に並べた色情報)、刺繍データから夫々算出された複数色の色別の使用糸量情報、糸消費量情報(例えば、縫製した刺繍模様の数、縫製途中の刺繍模様については各色の糸消費量など)、縫製可能な刺繍模様の数を示す模様数情報、加工布の設定布厚などが記憶されている。尚、糸消費量情報は、縫製の進行に応じて最新の情報に更新される。
【0051】
このように、刺繍糸2を巻回した糸駒6には、記憶手段としての無線タグ7が設けられているので、刺繍糸2の糸色情報、縫製順序情報、及び使用糸量情報などの情報を読み書き可能に記憶させることができる。
【0052】
次に、前記の刺繍糸2を用いて刺繍縫製可能なミシンMについて説明する。
図9に示すように、刺繍縫製可能なミシンMは、ベッド部8と、ベッド部8の右端部から立設された脚柱部9と、脚柱部9の上端から左方へ延びるアーム部10とを有する。
ベッド部8の針板(図示略)の下側には、送り歯を上下動させる送り歯上下動機構(図示略)と、送り歯を前後動させる送り歯前後動機構(図示略)と、下糸ボビンを着脱自在に装着する釜機構(図示略)と、少なくとも上糸を切断する自動糸切り機構(図示略)等が設けられている。
【0053】
ベッド部8のフリーアーム部分には、加工布(図示略)を展張保持する刺繍枠21を用いて刺繍縫製する為の刺繍装置20が着脱可能に装着される。刺繍装置20は、本体カバー22内に収容され且つ刺繍枠21をX方向(左右方向)に移動させるX方向駆動機構及びX方向駆動モータ93(図13参照)と、キャリッジカバー23内に収容され且つ刺繍枠21をY方向(前後方向)に移動させるY方向駆動機構及びY方向駆動モータ94(図13参照)等を有する。脚柱部9の前面には、カラーの液晶ディスプレイ24が設けられ、この液晶ディスプレイ24には、メニュー画面や模様選択画面や刺繍模様等が表示される。
【0054】
この液晶ディスプレイ24の前面には、透明電極からなる複数のタッチキーをマトリックス状に設けた操作用のタッチパネル24aが設けられている。そこで、模様選択や縫製機能を指示する場合、ユーザーが該当するタッチキーを指で押圧操作することにより、液晶ディスプレイ24に表示された複数の縫製模様の中から所望の模様選択や縫製機能の実行指示が可能になっている。
【0055】
アーム部10には、ミシンモータ91(図13参照)で回転駆動される左右方向に延びる主軸(図示略)と、この主軸を手動操作で回転可能なハンドプーリ(図示略)と、下端に縫針33を装着した針棒25を主軸の駆動力で昇降させる針棒昇降機構(図示略)と、
下端に押え足42が取り付けられた押え棒41を昇降させる昇降機構40(図10、図11参照)と、針棒25を布送り方向と直交する方向に揺動させる針棒揺動機構(図示略)等が設けられている。
【0056】
アーム部10の上部には、アーム部10の左右全長にわたって開閉カバー26が取り付けられている。この開閉カバー26は、図9に示すように開いた状態と、アーム部10の上面を閉じた状態とに開閉できるようにアーム部10に枢支されている。開閉カバー26を開くと、アーム部10の上面中央部近傍には、刺繍糸2が巻回された糸駒6を収容する糸駒収容部28が形成されており、この糸駒収容部28に糸駒6を回転可能に支持するための糸立棒29が設けられ、糸立棒29は糸駒収容部28の右端からアーム部10に平行に延びている。
【0057】
アーム部10の頭部には縫針33が装着された針棒25が設けられている。アーム部10には、糸駒6から引き出される刺繍糸2を、糸調子機構(図示外)、糸取りバネ(図示外)、天秤(図示外)等の糸道経路を経由して縫針33まで案内する糸案内溝30、及び上糸量検出装置80(図12参照)が設けられている。
【0058】
アーム部10には、糸駒6の無線タグ7の情報を読み取るタグリーダライタ100(図13参照)が設けられている。アーム部10の前面には、縫製動作の開始及び停止を指示するためのスタート・ストップスイッチ31、その他各種の縫製動作を指示するための複数の操作スイッチ32が設けられている。
【0059】
次に、昇降機構40、及び布厚検出装置について説明する。
図10、図11に示すように、昇降機構40は、針棒25の後側にミシン機枠に昇降可能に支持された押え棒41と、その下端部に装着された押え足42を昇降させるものである。この昇降機構40は、押え棒41の上端側部分に昇降可能に外嵌されたラック形成部材43と、押え棒41の上端に固定された止め輪41aと、押え棒41を昇降させる為にラック形成部材43のすぐ右側においてミシン機枠に固定された押え棒昇降用パルスモータ45(昇降用アクチュエータに相当する)と、その出力軸に連結された駆動ギヤ45aと、駆動ギヤ45aに噛合する中間ギヤ46と、押え棒41の高さ方向中段部に固定された押え棒抱き47と、ラック形成部材43と押え棒抱き47の間の押え棒41に外装された押えバネ48などを備えている。尚、押え棒41を昇降可能に案内する案内部44も設けられている。
【0060】
中間ギヤ46は小径のピニオン46aを一体的に有し、そのピニオン46aがラック形成部材43のラック(図示略)に噛合している。また、昇降機構40の近傍には、手動操作により押え棒41を昇降させる押え上げレバー49が設けられ、この押え上げレバー49の一端部が枢支ピン49aに枢支され、押え上げレバー49は上下方向に回動可能に支持されており、押え上げレバー49を反時計回り方向に回転させるように押し上げると、押え棒抱き47の突出部47aが押し上げられて押え棒41が所定距離だけ上昇移動する。
【0061】
押え棒昇降用パルスモータ45より、押え棒41と押え足42を昇降駆動する場合、押え棒昇降用パルスモータ45を駆動すると、その駆動力が中間ギヤ46、ピニオン46aに伝達されてラック形成部材43を昇降移動させ、押えバネ48に生じる弾性力を介して押え棒41が昇降移動して、押え足42を上昇位置と下降位置の範囲において昇降させることができる。
【0062】
押え棒41のすぐ左側には、縫製対象の加工布の布厚を検出する為のポテンショメータ50が設けられている。ポテンショメータ50の回動軸から右方向に延びるレバー部50aは、押え棒抱き47の左方に突出する突出部47bの上面に当接し、押え棒41と押え棒抱き47の昇降移動に応じて回動し、その抵抗値が変化するように構成されている。制御装置C(図13参照)により、押え足42の下側に加工布がある時の抵抗値と、加工布がない時との抵抗値の差を演算することで、押え足42の高さの差、つまり加工布の布厚が検出される。このように、ポテンショメータ50と制御装置Cとで「布厚検出手段」が構成されている。
【0063】
次に、糸駒6から供給されて刺繍縫製に消費された刺繍糸2(上糸)の量を検出する糸消費量検出装置51について説明する。図12に示すように、このアーム部4内部に設けられた糸消費量検出装置51は、糸駒6から糸調子機構(図示外)に至る糸道経路の途中部に設けられ、糸駒6から繰り出された刺繍糸2の糸消費量を検出する。
【0064】
図12に示すように、糸消費量検出装置51の取付け台52にはエンコーダ53がビス54を介して取り付けられ、エンコーダ53の回転軸53aに第1ギヤ55が固着されている。第1ギヤ55に噛み合う第2ギヤ56は、回転軸56aにより取付け台52に回転可能に支持されている。第2ギヤ56には回転ローラ57が固着され、第2ギヤ56と一体に回転するように構成されている。
【0065】
揺動レバー60は、取付け台52に固着された枢支軸58に揺動可能に枢支され、この揺動レバー60には第1腕部60aと第2腕部60bと第3腕部60cが夫々形成されている。第1腕部60aと取付け台52とに亙って引張りバネ59が張架され、揺動レバー60は常に反時計方向に回動付勢されている。第2腕部60bには略三角形状のローラホルダ64の一端部が枢支軸58bにより回動可能に連結され、ローラホルダ64の他端部に形成された長孔に回転ローラ57が挿通している。
【0066】
このローラホルダ64の他端部の近傍部には、ゴム製の従動ローラ65がローラホルダ64に固着した枢支軸64aに回転可能に支持され、ゴム製の従動ローラ66がローラホルダ64に固着した枢支軸64bに回転可能に支持されている。従って、揺動レバー60の反時計方向への回動付勢により、1対の従動ローラ65,66はローラホルダ64を介して矢印67方向に付勢され、回転ローラ57に押圧されている。
【0067】
第3腕部60cは押え棒41に作動的に連結されており、前記押え上げレバー49を操作して押え足42を上昇位置へ上昇させたときには、揺動レバー60は引張りバネ59のバネ力に抗して時計方向に回動し、1対の従動ローラ65,66は回転ローラ57から夫々離隔する。
【0068】
糸駒6から糸道経路に刺繍糸2を掛けるときには、押え上げレバー49を操作して押え足42を上昇位置へ上昇させると、1対の従動ローラ65,66は回転ローラ57から夫々離隔する。このとき、糸調子機構の糸調子皿(図示略)も開放され、刺繍糸2が糸掛け可能な状態となる。この状態で、所定の糸道経路に刺繍糸2を掛けてゆくと、1対の従動ローラ65,66と回転ローラ57との間に刺繍糸2が掛けられる。次に、押え上げレバー49を操作して押え足42を下降位置へ降下させると、1対の従動ローラ65,66と回転ローラ57とで上糸が挟持される。
【0069】
ここで、刺繍縫製により刺繍糸2が繰り出されると、それに伴って回転ローラ57が回転し、その回転が第2ギヤ56、第1ギヤ55を介してエンコーダ53に伝達される。このエンコーダ53で検出される回転量から回転ローラ57の回転量を演算することで、刺繍糸2が繰り出された糸消費量が検出される。この糸消費量検出装置51が「糸消費量検出手段」に相当する。
【0070】
次に、刺繍縫製可能なミシンMの制御系について説明する。
図13に示すように、制御装置Cは、CPU81とROM82とRAM83と電気的に書換え可能な不揮発性のEEPROM84とを含むマイクロコンピュータと、このマイクロコンピュータにデータバスなどを介して接続された入力I/F85及び出力I/F86等を有する。
【0071】
入力I/F85には、スタート・ストップスイッチ31、エンコーダ53、タッチパネル24a、ポテンショメータ50、タグリーダライタ100がそれぞれ接続されている。 出力I/F86には、送り歯による加工布の送り量を調整するための送り量調整用パルスモータ90、ミシンモータ91、針棒25を左右方向に揺動させる針棒揺動機構を駆動する針振り用パルスモータ92、液晶ディスプレイ24、刺繍枠21をX方向に移動させる左右移動機構を駆動するX方向駆動モータ93、刺繍枠21をY方向に移動させる前後移動機構を駆動するY方向駆動モータ94、タグリーダライタ100及び昇降機構40のパルスモータ45等が、それぞれ駆動回路101〜108を介して電気的に接続されている。尚、コネクタ87には、CD−ROMドライブ等の外部記憶装置88を接続することができる。
【0072】
ROM82には、実用模様を縫製する為の制御プログラムと、刺繍データに基づいて刺
繍縫製する為の制御プログラムと、液晶ディスプレイ24に各種情報を表示させる表示制御プログラムと、液晶ディスプレイ24に表示される複数の縫製模様の中から任意の縫製模様を選択する模様選択制御プログラム、後述する糸量補正処理の制御プログラム等が予め格納されている。
【0073】
EEPROM84には、複数の縫製模様の刺繍データが予め格納され、ミシンMにて縫製処理を行う際には、選択された縫製模様の刺繍データが、このEEPROM84から読み出されてRAM83のデータメモリに格納される。RAM83には、縫製に供する刺繍データがEEPROM84から読み込まれて記憶されるデータメモリと、種々のワークメモリが設けられている。
【0074】
次に、制御装置Cにより実行される本案特有の刺繍縫製制御と糸量補正処理について、図14,図15のフローチャートに基づいて説明する。尚、この糸量補正処理を実行するためのプログラムは、ROM82に予め記憶されている。また、図中Si(i=1,2,3・・・)は各ステップを示す。
【0075】
縫製対象の加工布を挟持した刺繍枠21を刺繍装置20にセットした状態において、液晶ディスプレイ24に表示された模様選択画面で、タッチパネル24aが押圧操作されて刺繍模様1が選択されると、刺繍模様1の刺繍データがEEPROM84から読み込まれてRAM83のワークメモリに展開され(S1)、最初に縫製する黄色部分模様11が液晶ディスプレイ24に表示される。ここで、刺繍データに付随する情報には、複数部分模様11〜15の色、複数の部分模様11〜15の縫製順序、部分模様11〜15別の予定使用糸量、部分模様11〜15別の省略可能模様(必須箇所以外の部分)の指定データ、設定布厚のデータ等が含まれる。
【0076】
次に、黄色部分模様11の縫製が行われ(S2)、その黄色部分模様11の縫製に消費された刺繍糸2の黄色部分の糸消費量がエンコーダ53の検出信号に基づいて検出されて、更新しながらRAM83のメモリに格納される(S3)。黄色部分模様11の必須箇所の縫製が終了するまでS2,S3が繰り返される(S4;No)。黄色部分模様11の必須箇所の縫製が終了すると(S4;Yes)、刺繍データによる糸量補正処理が実行される(S5)(図15参照)。
【0077】
刺繍データによる糸量補正処理の後、最後の部分模様(黒色部分模様)の縫製が終了したか否か判定され(S6)、その判定がNoのときは、S2へ移行してS2〜S6が繰り返えされ、赤色、緑色、青色、黒色の部分模様12〜15が、順次縫製され、最後の部分模様(黒色部分模様)の縫製が終了したときは(S6;Yes)、刺繍模様1の刺繍縫製が完了し、この制御が終了する。尚、制御を終了する際には、糸消費量の最新のデータがRAM83にメモリに格納される。
【0078】
次に、各部分模様の必須箇所の縫製が終了したときに、糸残量に応じて縫製内容を変更して予定消費糸量を補正する糸量補正処理について図15に基づいて説明する。尚、糸量補正処理は各部分模様11〜15のそれぞれの必須箇所の縫製が終了したときに行われる。但し、図15の説明では、刺繍糸2の黄色部分で黄色部分模様を縫製する場合を例として説明する。
【0079】
図15に示すように、黄色部分模様11の必須箇所の縫製が終了し、糸量補正処理が開始されると、刺繍糸2の黄色部分の長さである使用糸量(基本使用糸量)と、黄色部分模様11の必須箇所の縫製で使用した糸消費量とから黄色部分の糸残量が演算される(S11)。具体的には、使用糸量から糸消費量を減算して糸残量が算出される。次に、黄色部分模様11の必須箇所以外の未縫製箇所の刺繍縫製データに基づいて、未縫製箇所を縫製するために必要な糸量である予定消費糸量が演算される(S12)。
【0080】
次に、糸残量が「0」であるか否か判定され(S13)、糸残量が「0」のとき(S13;Yes)は、刺繍糸2の黄色部分の糸が全て消費されており、次の縫製順序の赤色部分模様12を縫製する赤色に刺繍糸2の色が切り換わるため、この糸量補正処理が終了し、図14のS6へリターンする。
【0081】
糸残量が「0」でないとき(S13;No)は、糸残量と予定消費糸量が等しいか否か判定され(S14)、その判定がYesのときは、黄色部分模様11の未縫製箇所の縫製が行われ(S15)、その後S11へ戻る。S14の判定がNoのときは、黄色部分の糸は余っているか、不足していることになるので、次のS16において糸残量が予定消費糸量より多いか否か判定される。
【0082】
糸残量が予定消費糸量より少ない場合(S16;No)、黄色部分の糸が不足する可能性があるので、省略可能模様が縫製される(S17)。即ち、黄色部分模様11の未縫製箇所を刺繍データの指示どおりに縫製すると、黄色部分の糸が不足して途中で次の色である赤色の糸に切換わってしまう。そこで、例えば同じ箇所を2回縫製する2重縫いに設定されている刺繍データを1回縫製する1重縫いの刺繍データに補正するなど、糸を節約可能な刺繍データに補正してから、刺繍縫製する。ここで、省略可能模様とは、部分模様の一部を省略して縫製しても模様形状に影響が少ない部分のことである。省略可能模様を糸を節約して縫製するには、上述の2重縫いを1重縫いに変更する他、サテン縫いを走り縫いに変更したり、縫製範囲を縮小して縫製するようにしてもよい。尚、省略可能模様を縫製すると、糸残量及び予定消費糸量の値が変動するのでS11へ戻り、S11以降が繰り返される。尚、S14及びS16が「照合手段」に相当し、S17が「刺繍データ変更手段」に相当する。
【0083】
糸残量が予定消費糸量より多い場合(S16;Yes)、黄色部分の糸が余る可能性があるので、S18以降の処理が行われる。まず、黄色部分模様11の未縫製箇所があるか否か判定され(S18)、未縫製箇所がある場合(S18;Yes)、未縫製箇所の縫製が行われ(S19)、未縫製箇所の縫製が行われると、黄色部分の糸の糸残量が及び予定消費糸量が変動するため、S11へ戻りS11以降の処理が繰り返し実行される。
【0084】
糸残量が予定消費糸量より多い場合(S16;Yes)であって、未縫製箇所がない場合(S18;No)は、黄色部分模様11の縫製が完了したが黄色部分の糸が余っているため、次の縫製順序である赤色部分模様12を縫製する前に、黄色部分の糸を消費するためのS20〜S22の処理が実行される。
【0085】
未縫製箇所がない場合(S18;No)、次に下打ち縫製できるか否かが判別され(S20)、下打ち縫製出来る場合(S20;Yes)、刺繍模様1の縫製領域内に下打ち縫製が行われ(S21)、その後S11へ戻る。下打ち縫製が行われると、黄色部分の糸の糸残量と予定消費糸量が変動するため、S11へ戻ってS11以降の処理が繰り返し実行される。一方、下打ち縫製出来ない場合(S20;No)、黄色部分の糸を消費するために、刺繍模様1の縫製領域外に仮縫い(捨て縫い)縫製が行われ(S22)、その後S6へ戻る。尚、S21が「下打ち縫い縫製実行手段」に相当し、S22が「仮縫い縫製実行手段」に相当する。
【0086】
ここで、下打ち縫製について、黄色部分模様11の縫製が終了したが、黄色部分の糸が余っている場合を例にして図4に基づいて説明する。
次の縫製順序である赤色部分模様12の刺繍領域内の下打ち部分11a及び11bが、黄色部分の糸で下打ち縫製されて、黄色部分の糸が全て消費される。下打ち縫製部分11a及び11bを黄色部分の糸で縫製した場合、次に縫製する赤色部分模様12を赤色部分の糸で縫製すると、黄色部分の糸が赤色部分の糸の下に隠れてしまうので、赤色部分模様12の外観に影響を及ぼすことはなく、この場合は下打ち縫製が可能である。
【0087】
次に、仮縫い縫製について、赤色部分模様12の縫製が終了したが、赤色部分の糸が余っている場合を例にして図5に基づいて説明する。緑色部分模様13の様に、縫製領域が小さい部分模様は縫製領域からはみ出してしまう虞があり、下打ち縫製に適さないので、仮縫い縫製を行うことになる。赤色部分模様12の全縫製領域の縫製が終了したが、赤色部分の糸が余っている場合、刺繍領域外に移動して、仮縫い縫製部分12aが仮縫い縫製されて赤色部分の糸が全て消費される。仮縫い縫製部分12aは、刺繍模様1の縫製が全て完成した後に、切り捨てるので刺繍模様1の出来ばえに影響を及ぼすことはない。尚、この糸量補正処理(S5,図15)の制御プログラムを含む制御装置Cが、「糸量補正手段」に相当する。
【0088】
このように、糸量補正処理は、糸消費量検出装置51で検出された糸消費量と、刺繍データに基づく使用糸量を部分模様毎に照合した結果に基づいて、使用糸量のまだ消費されていない現在縫製中の色の糸残量を演算し、その糸残量に応じてまだ未縫製箇所の縫製に必要な予定消費糸量を補正するので、現在縫製中の部分模様の縫製が終了する前にその色の刺繍糸を使い切ってしまうのを防止することができる。
【0089】
また、糸量補正処理は、糸残量と予定消費糸量が等しいときは、補正せずに未縫製箇所を縫製するが、糸残量が予定消費糸量より少ないときは、省略可能模様の刺繍データを補正して縫製し(図15のS17参照)、糸残量が予定消費糸量より大きいときは、下打ち縫い縫製実行処理(図15のS21参照)による下打ち縫製や仮縫い縫製実行処理(図15のS22参照)による仮縫い縫製を行うように補正して縫製するので、現在縫製中の部分模様の縫製が終了する前にその色の刺繍糸が不足し、或いは余ってしまうことを確実に防止することができる。
【実施例2】
【0090】
次に、前記制御装置Cにより実行される糸量補正処理における、布厚に応じて刺繍模様の糸密度を補正する「糸密度による糸量補正処理」ついて、図16,図17に基づいて説明する。尚、実施例1の図14に示すフローチャートと同じステップについては同一のステップ番号を付し説明を省略する。また、この補正処理は、刺繍模様のタタミ縫い部分の糸密度を補正するものとする。
【0091】
図16に示すように、S1において刺繍データが読み込まれてから、糸密度による糸量補正処理が実行される(S30)。この糸密度による糸量補正処理は図17のフローチャートに示されている。この処理が開始されると、最初に、ポテンショメータ50からの検出信号により布厚が検出される(S31)。このとき、昇降機構40のパルスモータ45を駆動制御することで、押え棒41が下降駆動されて押え足42が加工布の上面に当接状態にされ、このときのポテンショメータ50の検出信号から布厚が検出される。
【0092】
次に、検出された布厚が設定布厚とほぼ等しいか否か判定され(S32)、その判定がYesの場合は、図16のS2へ戻り、S32の判定がNoの場合は、検出された布厚が糸密度補正可能範囲か否か判定される(S33)。この場合、例えば、α=検出布厚/設定布厚として、α≦2.0の場合には糸密度補正可能範囲内と判定されてS34へ移行し、α>2.0の場合には糸密度補正可能範囲外と判定されてS37においてエラーメッセージが液晶ディスプレイ24に表示される。
【0093】
S34においては次のようにして糸密度補正が実行される。2.0≧α>1.0 の場合には、タタミ縫いの糸密度を低く補正し、その補正後の針数から予定使用糸量を演算する。ここで、β=予定使用糸量/色別の糸駒糸量として、β>1.2の場合にはタタミ縫いの糸密度を低く補正し、その補正後の針数から予定使用糸量を演算するのを繰り返す。他方、1>αの場合には、タタミ縫いの糸密度を高く補正し、その補正後の針数から予定使用糸量を演算し、β<0.8の場合にはタタミ縫いの糸密度を高く補正し、その補正後の針数から予定使用糸量を演算するのを繰り返す。尚、上記の補正後の糸密度データはRAM83のメモリに格納される。
【0094】
上記の糸密度補正の結果、β=0.8〜1.2の範囲になると糸密度補正処理が終了してS35へ移行し、予定使用糸量が演算され(S35)、次に前記の処理が全ての糸色について終了したか否か判定され(S36)、その判定がNoのときはS34へ戻り、S36の判定がYesになると図16のS2へリターンする。
【0095】
以上のように、前記のα、βをパラメータとして、タタミ縫いの糸密度を補正するため、各色の予定使用糸量を、糸駒6に保有している各色の刺繍糸の糸量に適合させることができるため、色毎に刺繍糸の著しい過不足を解消して刺繍糸の無駄を招くことなく、刺繍縫製を行うことができる。また、刺繍模様のサテン縫い部分の糸密度を補正するようにしてもよい。
【0096】
尚、刺繍模様のサイズを所定の標準サイズよりも拡大又は縮小する場合にも、糸密度による糸量補正を実行するようにしてもよい。
【0097】
このように、ポテンショメータ50を含む布厚検出装置を備えたので、加工布の布厚を検出することができ、糸量補正処理は、布厚検出装置が検出する加工布の布厚に応じて刺繍模様の糸密度を変更することで、消費糸量を適宜変更することができる。
【実施例3】
【0098】
次に、前記制御装置Cにより実行される糸量補正制御における、「無線タグ付き糸駒の場合の処理」について、図18,図19に基づいて説明する。尚、実施例1の図14に示すフローチャートと実質的に同じステップについては同一のステップ番号を付し説明を省略する。図18に示すように、S1の刺繍データの読み込み後に、S40においてこの無線タグ付き糸駒の場合の処理(図19参照)が実行される。
【0099】
図19に示すように、最初に、糸駒6に設けられた無線タグ7のメモリ部78に記憶されている糸色、縫製順序、及び使用糸量等の種々の糸情報が、タグリーダライタ100により読み込まれる(S41)。次に、EEPROM84に記憶されている刺繍データ付随情報と、無線タグ7から読み込んだ糸情報が照合され(S42)、それらの情報が一致しているか否か判定される(S43)。その判定がNoのときは、S44において液晶ディスプレイ24にエラーメッセージが表示される。S43の判定がYesの場合には、無線タグ7から読み込んだ糸情報がRAM83のメモリに格納され(S45)、その後図18のS2へ移行する。
【0100】
S2〜S6の処理は実施例1の図14と同一であるので説明は省略する。次に、図18のS6の判定がYesになった場合には、次のS7においてRAM83のメモリに格納していた情報がタグリーダライタ100により無線タグ7に書き込まれ、その後制御は終了する。
【0101】
このように、無線タグ付き糸駒6を採用する場合、S40の処理を実行することにより、刺繍縫製しようとする刺繍模様と、その刺繍模様の縫製に使用する糸駒6とが合致しているか否かが確実に判別できるので、間違った糸駒6を用いて無駄な刺繍縫製をするのを確実に防止することができる。
【0102】
また、縫製終了時に、無線タグ7に、糸消費量、糸残量等の最新の情報を含む種々の情報を書き込むようにしてもよい。この場合、次回にその糸駒6を用いて刺繍縫製する際に、糸消費量等の最新の情報を無線タグ7から読み込んで活用することができる。
【0103】
また、無線タグ7に、糸駒6を識別する糸駒識別番号、刺繍模様を特定する刺繍模様番号、刺繍模様のサイズを示すサイズ情報、刺繍模様の数を示す模様数情報、加工布の設定布厚等の各種の情報も記憶させるようにしてもよい。
【0104】
次に、前記実施例1,2,3を部分的に変更した変更例について説明する。
1)前記実施例では、刺繍糸2が同じ刺繍模様を複数回刺繍縫製できるよう着色された場合を例に説明したが、刺繍糸2が異なる複数の刺繍模様を連続的に刺繍縫製できるよう着色されていてもよい。
【0105】
2)前記実施例では、刺繍糸2が黄色部分11A,赤色部分12A,緑色部分13A,・・・のように、各色との境目が区別できるように着色された場合を例に説明したが、刺繍糸2が各色同士の境目が目立たないグラデーションとなるように染色又は着色されていてもよい。
【0106】
3)前記実施例では、刺繍糸2の黄色に着色された黄色部分11Aが余剰した場合の糸量補正処理として、下打ち縫い縫製処理や仮縫い縫製処理を行うことで、黄色部分11Aの糸残量を消費する場合を例に説明したが、これに限定されるものでなく、すでに縫製した黄色部分模様11の縫製範囲内で重ね縫い縫製処理を行うことで、黄色部分11Aの糸残量を消費するようにしてもよい。
4)その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能で、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の実施例に係る刺繍模様の説明図である。
【図2】(a)は部分模様の色と針数と縫目ピッチと基本使用糸量の図表であり、(b)は布厚と補正係数k1の関係を示す図表であり、(c)は次色下打ち及び仮縫いと補正係数k2の関係を示す図表である。
【図3】刺繍糸の複数の染色又は着色部分を説明する説明図である。
【図4】下打ち縫いを説明する説明図である。
【図5】仮縫いを説明する説明図である。
【図6】糸駒の正面図である。
【図7】糸駒の側面図である。
【図8】無線タグの構成を示すブロック図である。
【図9】刺繍縫製可能なミシンの全体斜視図である。
【図10】押え棒を昇降させる昇降機構の正面図である。
【図11】前記昇降機構の側面図である。
【図12】糸消費量検出装置の正面図である。
【図13】前記ミシンの制御系の構成図である。
【図14】刺繍縫製制御と糸量補正処理のフローチャートである。
【図15】図14の刺繍データによる糸量補正処理のフローチャートである。
【図16】実施例2に係る図14相当図である。
【図17】図16の糸密度による糸量補正処理のフローチャートである。
【図18】実施例3に係る図14相当図である。
【図19】図18の無線タグ付き糸駒の場合の処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0108】
2 刺繍糸
6 糸駒
7 無線タグ
M ミシン
C 制御装置
50 ポテンショメータ
53 エンコーダ
82 ROM
83 RAM
84 EEPROM
100 タグリーダライタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍糸、糸駒及び刺繍縫製可能なミシンに関し、特に複数の部分模様の色が縫製順序どおりに使用糸量分だけ染色又は着色された刺繍糸、この刺繍糸を糸駒本体に巻回した糸駒、この刺繍糸や糸駒を使用して刺繍縫製可能なミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1本の針棒しか備えていない刺繍縫製可能なミシンによって複数色の複数の部分模様を含む刺繍模様を縫製する際に、色毎の縫製データに基づいて、薄い色の部分模様から縫製し、次の色の部分模様に替わる毎に、糸駒を縫製データで指示された糸色の糸駒に手作業で交換し、糸掛けと糸通しを行い、順々に複数の部分模様を縫製していく。この場合、多数の色で構成された刺繍模様になると、糸駒交換の回数も増え、糸駒の交換作業に時間がかかり、作業者にとって煩雑である。
【0003】
この糸駒交換作業の煩雑さを解消するため、種々の技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、糸色の交換に伴う糸の交換を機械的構成によって実現した糸処理機が開示されている。この糸処理機では、糸巻き担持体に複数の糸色の糸を夫々巻き付けた複数の糸巻き(糸駒)が装着され、糸引き出し方向における糸巻き担持体の下流側に、圧縮空気ノズルに通じたダクト状の渦室を有する糸連結装置が設けられている。
【0004】
違う色の糸に交換する際には、最初に使用していた色の糸を切断装置により切断し、切断した糸を糸引き出し装置に係合させてから、次に使用する新しい色の糸を手動又は糸供給装置を介して渦室内へ挿入させる。次に、渦室内に圧縮空気を供給することにより、色が異なる2本の糸のフィラメントを渦巻状にして絡ませることで、2本の糸を互いに連結することが可能になっている。
【特許文献1】特開平5−179560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の糸処理機においては、糸色の切換えに伴う糸の交換を機械的構成によって一応実現できるが、違う色の糸に切換える際には、糸を切断し、他の糸と連結させるため、縫製途中で縫製作業を中断しなければならならず、糸の連結に時間も要するため、スムーズな糸替え作業は行えないという問題がある。
【0006】
一方、色の異なる複数の糸駒を糸巻き担持体に配置しておく必要があるため、機械が大型化してしまう、また、切断装置、糸連結装置、糸供給装置及び圧縮空気供給装置等の機構を設ける必要があるため、縫製装置が大型化・複雑化するという問題や、既存のミシンに適用不可能であるという問題がある。
【0007】
本発明は、糸切換え作業に要していた時間を大幅に短縮するため、複数の色からなる刺繍模様であっても糸を切換えることなく、1本の糸で刺繍縫製できるように複数の色が刺繍縫製の順に使用糸量だけ染色又は着色された刺繍糸、この刺繍糸を巻き付けた糸駒、この刺繍糸又は糸駒を用いた刺繍縫製可能なミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の刺繍糸は、少なくとも色が異なる部分模様を含む複数の部分模様からなる刺繍模様を縫製する際の前記部分模様の縫製順序と、前記部分模様の刺繍データから算出される前記部分模様の使用糸量とに基づいて、前記部分模様の色が前記縫製順序どおりに前記使用糸量分だけ染色又は着色されたことを特徴としている。
【0009】
この刺繍糸は、予め複数の部分模様の縫製順序どおりに、部分模様の刺繍データから算出される部分模様の使用糸量分だけ1本の糸が染色又は着色されて構成されているので、異なる色の複数の部分模様からなる刺繍模様を刺繍縫製することができる。この刺繍糸は、同じ刺繍模様を複数回刺繍縫製できるような構成にしてもよく、また、異なる複数の刺繍模様を刺繍縫製できるような構成としてもよい。
【0010】
請求項2の刺繍糸は、請求項1の発明において、前記使用糸量は、夫々所定糸量分だけ長く設定されていることを特徴としている。刺繍データから算出される部分模様の使用糸量は、加工布の布厚や縫目ピッチに応じて変化するため、部分模様を縫製する際に刺繍糸が不足することがないよう、予め各部分模様毎の使用糸量が所定糸量分だけ長めに染色又は着色されている。
【0011】
請求項3の糸駒は、請求項1又は2に記載の刺繍糸を糸駒本体に巻回したことを特徴としている。
【0012】
請求項4の糸駒は、前記刺繍糸の糸色情報、縫製順序情報、及び使用糸量情報の少なくとも1つの情報を読み書き可能に記憶する記憶手段を備えたことを特徴としている。
複数の部分模様についての刺繍糸の糸色情報、複数の部分模様を縫製する縫製順序情報、及び部分模様毎の使用糸量情報の少なくとも1つを読み書き可能に記憶する記憶手段を糸駒に設けたため、縫製に際してこれらの情報を活用することができる。尚、上記の情報以外に、この糸駒に特有の識別番号や、糸残量等の情報を記憶させてもよい。
【0013】
請求項5の糸駒は、請求項4の発明において、前記記憶手段は、前記情報を無線通信により送受信可能な無線タグからなることを特徴としている。この糸駒を用いて刺繍模様を縫製する際、ミシンの糸立棒に糸駒が装着されると、無線タグに記憶された情報が無線にて制御装置に送信可能になる。
【0014】
請求項6の刺繍縫製可能なミシンは、刺繍模様の刺繍データに基づいて、刺繍縫製に供する加工布を保持する刺繍枠を所定の2方向に独立に移送する刺繍枠移送機構を有する刺繍縫製可能なミシンにおいて、請求項1若しくは2の何れかに記載の刺繍糸、又は請求項3乃至5の何れかに記載の糸駒から供給された刺繍糸の縫製による糸消費量を部分模様毎に検出する糸消費量検出手段と、前記糸消費量検出手段で検出された糸消費量と前記刺繍データに基づく使用糸量とを前記部分模様毎に照合する照合手段と、前記照合手段の照合結果に基づいて、前記使用糸量の消費されていない糸残量を演算し、前記糸残量に応じて未縫製箇所の予定消費糸量を補正する糸量補正手段とを備えたことを特徴としている。
【0015】
前記刺繍糸が巻回された糸駒を用いて刺繍模様の縫製が開始されると、糸消費量検出手段は、部分模様毎にその縫製に消費された糸消費量を検出する。照合手段は、糸消費量検出手段で検出された糸消費量と、刺繍データに基づく使用糸量とを部分模様毎に照合する。糸量補正手段は、照合手段の照合結果に基づいて、使用糸量のまだ消費されていない現在縫製中の糸色の糸残量を演算し、その糸残量に応じて未縫製箇所の予定消費糸量を補正する。
【0016】
請求項7の刺繍縫製可能なミシンは、請求項6の発明において、前記糸量補正手段は、前記刺繍データの一部を変更する刺繍データ変更手段を有することを特徴としている。
【0017】
請求項8の刺繍縫製可能なミシンは、請求項6又は7の発明において、前記糸量補正手段は、前記加工布に前記刺繍模様を縫製する領域内に下打ち縫いを行う為の下打ち縫い縫製実行手段を有することを特徴としている。
【0018】
請求項9の刺繍縫製可能なミシンは、請求項6〜8の何れかの発明において、前記糸量補正手段は、前記加工布に前記刺繍模様を縫製する領域外に仮縫いを行う為の仮縫い縫製実行手段を有することを特徴としている。
【0019】
請求項10の刺繍縫製可能なミシンは、請求項6〜9の何れかの発明において、前記加工布の布厚を検出する布厚検出手段を備え、前記糸量補正手段は、前記布厚検出手段が検出する前記加工布の布厚に応じて刺繍模様の糸密度を変更する糸密度変更手段を有することを特徴としている。
【0020】
請求項11の刺繍縫製可能なミシンは、請求項6〜10の何れかの発明において、前記検出手段は、前記刺繍糸の移動量を検出するロータリエンコーダを有することを特徴としている。
【0021】
請求項12の刺繍縫製可能なミシンは、請求項6〜11の何れかの発明において、請求項5に記載の無線タグに記憶された情報を読み取るリーダと、前記無線タグに情報を書き込むライタとを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明によれば、異なる色の複数の部分模様からなる刺繍模様を1本の糸で刺繍縫製することができるように、予め複数の部分模様の縫製順序どおりに、部分模様の刺繍データから算出される部分模様の使用糸量分だけ1本の糸に染色又は着色した刺繍糸であるので、複数色の刺繍縫製の縫製に際し、複数回の糸駒の交換が不要となるので、刺繍模様の縫製時間の短縮することができ、糸駒の交換に要していた労力を解消できる。また、複数の糸色の糸駒を使用することなく1個の糸駒の刺繍糸を用いて刺繍模様を縫製できるため糸駒の費用を節減可能である。
【0023】
請求項2の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、各部分模様に使用する使用糸量が、予め所定糸量分だけ長めに設定されているので、加工布の布厚や縫目ピッチが変動しても、その各部分模様の縫製に用いる糸が縫製途中で不足することない。
【0024】
請求項3の発明によれば、請求項1又は2の刺繍糸を糸駒本体に巻回した糸駒の状態でユーザーに提供することができる。特定の刺繍模様の刺繍データと、この刺繍模様を縫製できる糸替え不要な刺繍糸の糸駒をセットでユーザーに提供することも可能であるので、特定の刺繍模様の縫製に際して、必要な複数色の複数の糸駒を全て準備する必要がなくなり、糸駒の費用を節減することができる。
【0025】
請求項4の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、請求項3の糸駒は、刺繍糸の糸色情報、縫製順序情報、及び使用糸量情報の少なくとも1つの情報を読み書き可能に記憶する記憶手段を備えているため、刺繍糸の糸色、縫製順序、及び使用糸量の少なくとも1つの情報を糸駒自体に書き込んで記憶させておくことができる。更に、これらの情報を糸駒から読み出すことで、この糸駒に巻回された刺繍糸の各種の情報を容易に認識することができる。
【0026】
請求項5の発明によれば、請求項4に記載の発明の効果に加え、前記記憶手段は、前記情報を無線通信により送受信可能な無線タグからなるので、小型の無線タグは糸駒の邪魔にならない部位に装着可能であり、安価であり、無線にて通信可能であるので通信線の接続が不要で使い易い。
【0027】
請求項6の発明によれば、複数色に着色された刺繍糸が巻回された糸駒を用いて刺繍縫製する際、糸消費量検出手段は、この糸駒から供給され縫製に消費された糸消費量を部分模様毎に検出するので、各色の糸消費量を確実に把握できる。照合手段は、糸消費量検出手段で検出された糸消費量と、刺繍データに基づく使用糸量を部分模様毎に照合する。
【0028】
糸量補正手段は、照合手段の照合結果に基づいて、使用糸量のまだ消費されていない現在縫製中の色の糸残量を演算し、その糸残量に応じてまだ未縫製箇所の縫製に必要な予定消費糸量を補正するので、現在縫製中の部分模様の縫製が終了する前にその色の刺繍糸を使い切ってしまうのを防止することができる。
【0029】
請求項7の発明によれば、請求項6に記載の発明の効果に加え、糸量補正手段は、刺繍データの一部を変更する刺繍データ変更手段を有するので、刺繍データの一部を変更することで、未縫製箇所の予定消費糸量を補正することができる。
【0030】
請求項8の発明によれば、請求項6又は7に記載の発明の効果に加え、糸量補正手段は、前記加工布に前記刺繍模様を縫製する領域内に下打ち縫いを行う為の下打ち縫い縫製実行手段を有するので、余った刺繍糸を下打ち縫製に使用することで、その刺繍糸の余剰を解消することができる。
【0031】
請求項9の発明によれば、請求項6〜8の何れかに記載の発明の効果に加え、糸量補正手段は、前記加工布に前記刺繍模様を縫製する領域外に仮縫いを行う為の仮縫い縫製実行手段を有するので、余剰の刺繍糸を用いて仮縫い縫製を行い、その仮縫いを後で切り捨てることができる。
【0032】
請求項10の発明によれば、請求項6〜9の何れかに記載の発明の効果に加え、加工布の布厚を検出する布厚検出手段を備え、糸量補正手段は、前記布厚検出手段が検出する加工布の布厚に応じて刺繍模様の糸密度を変更する糸密度変更手段を有するので、糸密度を変更することで、消費糸量を適宜変更することができる。
【0033】
請求項11の発明によれば、請求項6〜10の何れかに記載の発明の効果に加え、糸消費量検出手段は、前記刺繍糸の移動量を検出するロータリエンコーダを有するので、正確に糸量を検出することができる。
【0034】
請求項12の発明によれば、請求項6〜11の何れかに記載の発明の効果に加え、請求項5の無線タグに記憶された情報を読み取るリーダと、前記無線タグに情報を書き込むライタとを備えたので、無線タグの情報を読み取ったり、無線タグに情報を書き込んだりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面に基づいて説明する。
本願発明は、糸駒を交換することなく、1本の糸で複数色の刺繍模様を縫製できるように縫製順に複数の色が順に染色又は着色されている刺繍糸と、この刺繍糸を巻回した糸駒と、この糸駒を装着して刺繍模様を縫製可能なミシンに関するものである。
【実施例1】
【0036】
最初に、1本の糸で刺繍縫製できるように、複数の色が縫製順に複数の部分模様の使用糸量分だけ染色又は着色された刺繍糸(複数色刺繍糸)について説明する。
本実施例の刺繍糸は、例えば、図1に示す刺繍模様を1本の刺繍糸で刺繍縫製できるように複数の色が縫製順に複数の部分模様の使用糸量だけ染色又は着色された刺繍糸である。
但し、刺繍模様のサイズに応じて必要な刺繍糸の長さが変化するため、本実施例の刺繍模様は、所定の標準サイズの刺繍模様を対象としている。
【0037】
図1に刺繍模様の一例を示す。刺繍模様1は、黄色、赤色、緑色、青色、黒色の5色の部分模様11〜15からなる。黄色部分模様11,赤色部分模様12,緑色部分模様13,青色部分模様14,黒色部分模様15をこの順に全て刺繍縫製すると刺繍模様1が完成する。
【0038】
図2(a)は、前記各色の部分模様11〜15を縫製する刺繍データにおける針数、縫目ピッチ、これらに基づいて算出された基本使用糸量を示すテーブルである。図2(b)は、布厚と補正係数k1の関係を予め設定したテーブルであって、縫製対象の加工布の布厚が「厚物」、「普通」、「薄物」に応じて、補正係数k1は「2.5」、「2.0」、「1.2」に設定されている。図2(c)は、補正方法と補正係数k2の関係を予め設定したデーブルであって、次に縫製する次色の部分模様の領域に「下打ち縫い」が可能である場合には、例えば、補正係数k2=1.5、前記下打ち縫いが可能でなく、刺繍模様を縫製する刺繍領域以外の領域に「仮縫い」する場合には、例えば、補正係数k2=1.2 に設定されている。
【0039】
ここで、「下打ち縫い」とは、加工布の縫い縮みを防止したり、刺繍模様に適当な膨らみ(立体感)を与える為に、刺繍縫製の前にこの刺繍縫製領域内を粗く縫製するものである。例えば、図4に示すように、部分模様12を縫製する前に、部分模様12の領域内を粗く縫製するものである。また、「仮縫い」とは、操作者が、縫目を簡単に切断して除去できるように縫製するものである。例えば、図5に示すように、刺繍模様1から離れた箇所に縫目を簡単に切断して除去できるように縫製するものである。
【0040】
ここで、下打ち縫いに適するか否かは、次に縫製する部分模様11〜15の刺繍領域の大きさ(面積)に基づいて判定するものとする。即ち、刺繍模様1の場合、緑色部分模様13と黒色部分模様15は、刺繍領域の大きさ(面積)が小さくて下打ち縫いに適さないと判定し、赤色部分模様12と青色部分模様14では、次色下打ち縫いではなく、仮縫いを設定することになる。
【0041】
図2のテーブルのように算出した各部分模様11〜15の基本使用糸量に補正係数k1,k2を乗じて得た使用糸量分だけ、黄色、赤色、緑色、青色、黒色の順序で刺繍糸を染色又は着色することで、刺繍模様1の為の糸替え不要な刺繍糸2(複数色刺繍糸)が得られる。
【0042】
図3は、刺繍糸2の染色又は着色状態を説明する図であり、説明の都合上、長さ方向を縮小して示してある。刺繍糸2は、刺繍模様1の色毎の各部分模様11〜15の縫製順序に従って、黄色部分模様11を縫製するための黄色部分11A、赤色部分模様12を縫製するための赤色部分12A、緑色部分模様13を縫製するための緑色部分13A、青色部分模様14を縫製するための青色部分14A、黒色部分模様15を縫製するための黒色部分15Aの順に染色又は着色されている。なお、青色部分14Aと黒色部分15Aは図を省略する。
【0043】
黄色部分11Aは、黄色部分模様11を縫製するための必須縫製分11a、省略可能模様分11b、下打ち縫い又は仮縫い分11cで構成されている。黄色部分の次の赤色部分12Aも同様に、最初に赤色部分模様12を縫製するための必須縫製分12a、省略可能模様分12b、下打ち縫い又は仮縫い分12cで構成され、その次の緑色部分13Aも同様に、最初に緑色部分模様13を縫製するための必須縫製分13a、省略可能模様分13b、下打ち縫い又は仮縫い分13cで構成されている。そして、青色部分14A、黒色部分15Aについても同様である。ここで、必須縫製分とは、部分模様を縫製するために必ず必要である部分(部分模様の必須箇所の縫製分)のことであり、省略可能模様分とは、部分模様の一部を省略して縫製しても模様形状に影響が少ない部分のことである。
尚、この刺繍糸2は、刺繍模様1を複数個縫製可能なように、前記のような染色又は着色が複数組連続的に構成されている。
【0044】
このように、刺繍糸2は異なる色の複数の部分模様11〜15からなる刺繍模様1を1本の糸で刺繍縫製することができるように、予め複数の部分模様11〜15の縫製順序どおりに、部分模様の刺繍データから算出される部分模様の使用糸量分だけ1本の糸に染色又は着色されているので、複数色の刺繍模様1を縫製する際、複数回の糸駒の交換が不要となり、刺繍模様1の縫製時間を短縮することができる。また、刺繍糸2の各部分模様11〜15に使用する使用糸量は、予め所定糸量分だけ長めに設定されて着色されているので、加工布の布厚や縫目ピッチが変動しても、その各部分模様11〜15の縫製に用いる糸が縫製途中で不足することはない。
【0045】
次に、上記糸替え不要な刺繍糸2を巻回した糸駒6、糸駒6に設けられた無線タグ7について説明する。図6は糸駒6の正面図であり、図7は糸駒6の側面図である。図8は無線タグ7の電気的構成を示すブロック図である。
【0046】
図6、図7に示すように、糸駒6には、糸替え不要な刺繍糸2であって複数の刺繍模様1を縫製可能な刺繍糸2が巻回されているが、この刺繍縫製する順序の遅い色の糸ほど内側になるように巻回されている。糸駒6は、略円柱形状の糸駒本体61を有し、糸駒本体61の両端には円形側面62が形成され、糸駒本体61の内部を貫通し且つ円形側面62の中心に開口する軸穴63が設けられている。
【0047】
図7に示すように、糸駒6の1つの円形側面62には無線タグ7が埋設されている。無線タグ7は、軸穴63の周りに渦巻き状に貼り付けられたコイル状のアンテナ71と、アンテナ71の一端に接続されたIC回路部72とを有する。
【0048】
次に、無線タグ7の電気的構成について説明する。
図8に示すように、無線タグ7は、アンテナ71とIC回路部72とを有する。アンテナ71は、後述のタグリーダライタ100(図13参照)のアンテナ(図示外)との間で、無線電波により非接触で信号の送受信を行うものである。前記IC回路部72は、アンテナ71に接続された整流部73、整流部73に接続された電源部74、アンテナ71に接続されたクロック抽出部75、アンテナ71に接続された変復調部76、クロック抽出部75及び変復調部76に接続された制御部77、及び制御部77に接続されたメモリ部78を備えている。尚、電源部74から各部に電力が供給される。
【0049】
整流部73は、アンテナ71によって受信した搬送波を整流する。電源部74は、整流部73による整流された搬送波の電気エネルギを蓄積し駆動電源とする。クロック抽出部75は、アンテナ71で受信された搬送波からクロック信号を抽出して制御部77に供給する。変復調部76は、タグリーダライタ100から搬送波に乗せて送信され、アンテナ71によって受信された受信信号の復調を行うと共に、制御部77からの応答信号に基づき、変調した搬送波をアンテナ71に出力する。このように無線タグ7は、タグリーダライタ100との間で無線にて情報の送受信が可能になっている。
【0050】
制御部77は、変復調部76により復調された受信信号を解読し、メモリ部78に記憶された情報信号に基づいて返信信号を生成し、変復調部76等を介して返信する等、無線タグ7の基本的な作動を制御する。メモリ部78(「記憶手段」に相当する。)には、糸駒6を識別する糸駒識別番号、刺繍模様を特定する刺繍模様番号、刺繍模様のサイズを示すサイズ情報、複数色の糸色情報(縫製順に並べてある)、縫製順序情報(例えば、黄色、赤色、緑色、青色、黒色の縫製順に並べた色情報)、刺繍データから夫々算出された複数色の色別の使用糸量情報、糸消費量情報(例えば、縫製した刺繍模様の数、縫製途中の刺繍模様については各色の糸消費量など)、縫製可能な刺繍模様の数を示す模様数情報、加工布の設定布厚などが記憶されている。尚、糸消費量情報は、縫製の進行に応じて最新の情報に更新される。
【0051】
このように、刺繍糸2を巻回した糸駒6には、記憶手段としての無線タグ7が設けられているので、刺繍糸2の糸色情報、縫製順序情報、及び使用糸量情報などの情報を読み書き可能に記憶させることができる。
【0052】
次に、前記の刺繍糸2を用いて刺繍縫製可能なミシンMについて説明する。
図9に示すように、刺繍縫製可能なミシンMは、ベッド部8と、ベッド部8の右端部から立設された脚柱部9と、脚柱部9の上端から左方へ延びるアーム部10とを有する。
ベッド部8の針板(図示略)の下側には、送り歯を上下動させる送り歯上下動機構(図示略)と、送り歯を前後動させる送り歯前後動機構(図示略)と、下糸ボビンを着脱自在に装着する釜機構(図示略)と、少なくとも上糸を切断する自動糸切り機構(図示略)等が設けられている。
【0053】
ベッド部8のフリーアーム部分には、加工布(図示略)を展張保持する刺繍枠21を用いて刺繍縫製する為の刺繍装置20が着脱可能に装着される。刺繍装置20は、本体カバー22内に収容され且つ刺繍枠21をX方向(左右方向)に移動させるX方向駆動機構及びX方向駆動モータ93(図13参照)と、キャリッジカバー23内に収容され且つ刺繍枠21をY方向(前後方向)に移動させるY方向駆動機構及びY方向駆動モータ94(図13参照)等を有する。脚柱部9の前面には、カラーの液晶ディスプレイ24が設けられ、この液晶ディスプレイ24には、メニュー画面や模様選択画面や刺繍模様等が表示される。
【0054】
この液晶ディスプレイ24の前面には、透明電極からなる複数のタッチキーをマトリックス状に設けた操作用のタッチパネル24aが設けられている。そこで、模様選択や縫製機能を指示する場合、ユーザーが該当するタッチキーを指で押圧操作することにより、液晶ディスプレイ24に表示された複数の縫製模様の中から所望の模様選択や縫製機能の実行指示が可能になっている。
【0055】
アーム部10には、ミシンモータ91(図13参照)で回転駆動される左右方向に延びる主軸(図示略)と、この主軸を手動操作で回転可能なハンドプーリ(図示略)と、下端に縫針33を装着した針棒25を主軸の駆動力で昇降させる針棒昇降機構(図示略)と、
下端に押え足42が取り付けられた押え棒41を昇降させる昇降機構40(図10、図11参照)と、針棒25を布送り方向と直交する方向に揺動させる針棒揺動機構(図示略)等が設けられている。
【0056】
アーム部10の上部には、アーム部10の左右全長にわたって開閉カバー26が取り付けられている。この開閉カバー26は、図9に示すように開いた状態と、アーム部10の上面を閉じた状態とに開閉できるようにアーム部10に枢支されている。開閉カバー26を開くと、アーム部10の上面中央部近傍には、刺繍糸2が巻回された糸駒6を収容する糸駒収容部28が形成されており、この糸駒収容部28に糸駒6を回転可能に支持するための糸立棒29が設けられ、糸立棒29は糸駒収容部28の右端からアーム部10に平行に延びている。
【0057】
アーム部10の頭部には縫針33が装着された針棒25が設けられている。アーム部10には、糸駒6から引き出される刺繍糸2を、糸調子機構(図示外)、糸取りバネ(図示外)、天秤(図示外)等の糸道経路を経由して縫針33まで案内する糸案内溝30、及び上糸量検出装置80(図12参照)が設けられている。
【0058】
アーム部10には、糸駒6の無線タグ7の情報を読み取るタグリーダライタ100(図13参照)が設けられている。アーム部10の前面には、縫製動作の開始及び停止を指示するためのスタート・ストップスイッチ31、その他各種の縫製動作を指示するための複数の操作スイッチ32が設けられている。
【0059】
次に、昇降機構40、及び布厚検出装置について説明する。
図10、図11に示すように、昇降機構40は、針棒25の後側にミシン機枠に昇降可能に支持された押え棒41と、その下端部に装着された押え足42を昇降させるものである。この昇降機構40は、押え棒41の上端側部分に昇降可能に外嵌されたラック形成部材43と、押え棒41の上端に固定された止め輪41aと、押え棒41を昇降させる為にラック形成部材43のすぐ右側においてミシン機枠に固定された押え棒昇降用パルスモータ45(昇降用アクチュエータに相当する)と、その出力軸に連結された駆動ギヤ45aと、駆動ギヤ45aに噛合する中間ギヤ46と、押え棒41の高さ方向中段部に固定された押え棒抱き47と、ラック形成部材43と押え棒抱き47の間の押え棒41に外装された押えバネ48などを備えている。尚、押え棒41を昇降可能に案内する案内部44も設けられている。
【0060】
中間ギヤ46は小径のピニオン46aを一体的に有し、そのピニオン46aがラック形成部材43のラック(図示略)に噛合している。また、昇降機構40の近傍には、手動操作により押え棒41を昇降させる押え上げレバー49が設けられ、この押え上げレバー49の一端部が枢支ピン49aに枢支され、押え上げレバー49は上下方向に回動可能に支持されており、押え上げレバー49を反時計回り方向に回転させるように押し上げると、押え棒抱き47の突出部47aが押し上げられて押え棒41が所定距離だけ上昇移動する。
【0061】
押え棒昇降用パルスモータ45より、押え棒41と押え足42を昇降駆動する場合、押え棒昇降用パルスモータ45を駆動すると、その駆動力が中間ギヤ46、ピニオン46aに伝達されてラック形成部材43を昇降移動させ、押えバネ48に生じる弾性力を介して押え棒41が昇降移動して、押え足42を上昇位置と下降位置の範囲において昇降させることができる。
【0062】
押え棒41のすぐ左側には、縫製対象の加工布の布厚を検出する為のポテンショメータ50が設けられている。ポテンショメータ50の回動軸から右方向に延びるレバー部50aは、押え棒抱き47の左方に突出する突出部47bの上面に当接し、押え棒41と押え棒抱き47の昇降移動に応じて回動し、その抵抗値が変化するように構成されている。制御装置C(図13参照)により、押え足42の下側に加工布がある時の抵抗値と、加工布がない時との抵抗値の差を演算することで、押え足42の高さの差、つまり加工布の布厚が検出される。このように、ポテンショメータ50と制御装置Cとで「布厚検出手段」が構成されている。
【0063】
次に、糸駒6から供給されて刺繍縫製に消費された刺繍糸2(上糸)の量を検出する糸消費量検出装置51について説明する。図12に示すように、このアーム部4内部に設けられた糸消費量検出装置51は、糸駒6から糸調子機構(図示外)に至る糸道経路の途中部に設けられ、糸駒6から繰り出された刺繍糸2の糸消費量を検出する。
【0064】
図12に示すように、糸消費量検出装置51の取付け台52にはエンコーダ53がビス54を介して取り付けられ、エンコーダ53の回転軸53aに第1ギヤ55が固着されている。第1ギヤ55に噛み合う第2ギヤ56は、回転軸56aにより取付け台52に回転可能に支持されている。第2ギヤ56には回転ローラ57が固着され、第2ギヤ56と一体に回転するように構成されている。
【0065】
揺動レバー60は、取付け台52に固着された枢支軸58に揺動可能に枢支され、この揺動レバー60には第1腕部60aと第2腕部60bと第3腕部60cが夫々形成されている。第1腕部60aと取付け台52とに亙って引張りバネ59が張架され、揺動レバー60は常に反時計方向に回動付勢されている。第2腕部60bには略三角形状のローラホルダ64の一端部が枢支軸58bにより回動可能に連結され、ローラホルダ64の他端部に形成された長孔に回転ローラ57が挿通している。
【0066】
このローラホルダ64の他端部の近傍部には、ゴム製の従動ローラ65がローラホルダ64に固着した枢支軸64aに回転可能に支持され、ゴム製の従動ローラ66がローラホルダ64に固着した枢支軸64bに回転可能に支持されている。従って、揺動レバー60の反時計方向への回動付勢により、1対の従動ローラ65,66はローラホルダ64を介して矢印67方向に付勢され、回転ローラ57に押圧されている。
【0067】
第3腕部60cは押え棒41に作動的に連結されており、前記押え上げレバー49を操作して押え足42を上昇位置へ上昇させたときには、揺動レバー60は引張りバネ59のバネ力に抗して時計方向に回動し、1対の従動ローラ65,66は回転ローラ57から夫々離隔する。
【0068】
糸駒6から糸道経路に刺繍糸2を掛けるときには、押え上げレバー49を操作して押え足42を上昇位置へ上昇させると、1対の従動ローラ65,66は回転ローラ57から夫々離隔する。このとき、糸調子機構の糸調子皿(図示略)も開放され、刺繍糸2が糸掛け可能な状態となる。この状態で、所定の糸道経路に刺繍糸2を掛けてゆくと、1対の従動ローラ65,66と回転ローラ57との間に刺繍糸2が掛けられる。次に、押え上げレバー49を操作して押え足42を下降位置へ降下させると、1対の従動ローラ65,66と回転ローラ57とで上糸が挟持される。
【0069】
ここで、刺繍縫製により刺繍糸2が繰り出されると、それに伴って回転ローラ57が回転し、その回転が第2ギヤ56、第1ギヤ55を介してエンコーダ53に伝達される。このエンコーダ53で検出される回転量から回転ローラ57の回転量を演算することで、刺繍糸2が繰り出された糸消費量が検出される。この糸消費量検出装置51が「糸消費量検出手段」に相当する。
【0070】
次に、刺繍縫製可能なミシンMの制御系について説明する。
図13に示すように、制御装置Cは、CPU81とROM82とRAM83と電気的に書換え可能な不揮発性のEEPROM84とを含むマイクロコンピュータと、このマイクロコンピュータにデータバスなどを介して接続された入力I/F85及び出力I/F86等を有する。
【0071】
入力I/F85には、スタート・ストップスイッチ31、エンコーダ53、タッチパネル24a、ポテンショメータ50、タグリーダライタ100がそれぞれ接続されている。 出力I/F86には、送り歯による加工布の送り量を調整するための送り量調整用パルスモータ90、ミシンモータ91、針棒25を左右方向に揺動させる針棒揺動機構を駆動する針振り用パルスモータ92、液晶ディスプレイ24、刺繍枠21をX方向に移動させる左右移動機構を駆動するX方向駆動モータ93、刺繍枠21をY方向に移動させる前後移動機構を駆動するY方向駆動モータ94、タグリーダライタ100及び昇降機構40のパルスモータ45等が、それぞれ駆動回路101〜108を介して電気的に接続されている。尚、コネクタ87には、CD−ROMドライブ等の外部記憶装置88を接続することができる。
【0072】
ROM82には、実用模様を縫製する為の制御プログラムと、刺繍データに基づいて刺
繍縫製する為の制御プログラムと、液晶ディスプレイ24に各種情報を表示させる表示制御プログラムと、液晶ディスプレイ24に表示される複数の縫製模様の中から任意の縫製模様を選択する模様選択制御プログラム、後述する糸量補正処理の制御プログラム等が予め格納されている。
【0073】
EEPROM84には、複数の縫製模様の刺繍データが予め格納され、ミシンMにて縫製処理を行う際には、選択された縫製模様の刺繍データが、このEEPROM84から読み出されてRAM83のデータメモリに格納される。RAM83には、縫製に供する刺繍データがEEPROM84から読み込まれて記憶されるデータメモリと、種々のワークメモリが設けられている。
【0074】
次に、制御装置Cにより実行される本案特有の刺繍縫製制御と糸量補正処理について、図14,図15のフローチャートに基づいて説明する。尚、この糸量補正処理を実行するためのプログラムは、ROM82に予め記憶されている。また、図中Si(i=1,2,3・・・)は各ステップを示す。
【0075】
縫製対象の加工布を挟持した刺繍枠21を刺繍装置20にセットした状態において、液晶ディスプレイ24に表示された模様選択画面で、タッチパネル24aが押圧操作されて刺繍模様1が選択されると、刺繍模様1の刺繍データがEEPROM84から読み込まれてRAM83のワークメモリに展開され(S1)、最初に縫製する黄色部分模様11が液晶ディスプレイ24に表示される。ここで、刺繍データに付随する情報には、複数部分模様11〜15の色、複数の部分模様11〜15の縫製順序、部分模様11〜15別の予定使用糸量、部分模様11〜15別の省略可能模様(必須箇所以外の部分)の指定データ、設定布厚のデータ等が含まれる。
【0076】
次に、黄色部分模様11の縫製が行われ(S2)、その黄色部分模様11の縫製に消費された刺繍糸2の黄色部分の糸消費量がエンコーダ53の検出信号に基づいて検出されて、更新しながらRAM83のメモリに格納される(S3)。黄色部分模様11の必須箇所の縫製が終了するまでS2,S3が繰り返される(S4;No)。黄色部分模様11の必須箇所の縫製が終了すると(S4;Yes)、刺繍データによる糸量補正処理が実行される(S5)(図15参照)。
【0077】
刺繍データによる糸量補正処理の後、最後の部分模様(黒色部分模様)の縫製が終了したか否か判定され(S6)、その判定がNoのときは、S2へ移行してS2〜S6が繰り返えされ、赤色、緑色、青色、黒色の部分模様12〜15が、順次縫製され、最後の部分模様(黒色部分模様)の縫製が終了したときは(S6;Yes)、刺繍模様1の刺繍縫製が完了し、この制御が終了する。尚、制御を終了する際には、糸消費量の最新のデータがRAM83にメモリに格納される。
【0078】
次に、各部分模様の必須箇所の縫製が終了したときに、糸残量に応じて縫製内容を変更して予定消費糸量を補正する糸量補正処理について図15に基づいて説明する。尚、糸量補正処理は各部分模様11〜15のそれぞれの必須箇所の縫製が終了したときに行われる。但し、図15の説明では、刺繍糸2の黄色部分で黄色部分模様を縫製する場合を例として説明する。
【0079】
図15に示すように、黄色部分模様11の必須箇所の縫製が終了し、糸量補正処理が開始されると、刺繍糸2の黄色部分の長さである使用糸量(基本使用糸量)と、黄色部分模様11の必須箇所の縫製で使用した糸消費量とから黄色部分の糸残量が演算される(S11)。具体的には、使用糸量から糸消費量を減算して糸残量が算出される。次に、黄色部分模様11の必須箇所以外の未縫製箇所の刺繍縫製データに基づいて、未縫製箇所を縫製するために必要な糸量である予定消費糸量が演算される(S12)。
【0080】
次に、糸残量が「0」であるか否か判定され(S13)、糸残量が「0」のとき(S13;Yes)は、刺繍糸2の黄色部分の糸が全て消費されており、次の縫製順序の赤色部分模様12を縫製する赤色に刺繍糸2の色が切り換わるため、この糸量補正処理が終了し、図14のS6へリターンする。
【0081】
糸残量が「0」でないとき(S13;No)は、糸残量と予定消費糸量が等しいか否か判定され(S14)、その判定がYesのときは、黄色部分模様11の未縫製箇所の縫製が行われ(S15)、その後S11へ戻る。S14の判定がNoのときは、黄色部分の糸は余っているか、不足していることになるので、次のS16において糸残量が予定消費糸量より多いか否か判定される。
【0082】
糸残量が予定消費糸量より少ない場合(S16;No)、黄色部分の糸が不足する可能性があるので、省略可能模様が縫製される(S17)。即ち、黄色部分模様11の未縫製箇所を刺繍データの指示どおりに縫製すると、黄色部分の糸が不足して途中で次の色である赤色の糸に切換わってしまう。そこで、例えば同じ箇所を2回縫製する2重縫いに設定されている刺繍データを1回縫製する1重縫いの刺繍データに補正するなど、糸を節約可能な刺繍データに補正してから、刺繍縫製する。ここで、省略可能模様とは、部分模様の一部を省略して縫製しても模様形状に影響が少ない部分のことである。省略可能模様を糸を節約して縫製するには、上述の2重縫いを1重縫いに変更する他、サテン縫いを走り縫いに変更したり、縫製範囲を縮小して縫製するようにしてもよい。尚、省略可能模様を縫製すると、糸残量及び予定消費糸量の値が変動するのでS11へ戻り、S11以降が繰り返される。尚、S14及びS16が「照合手段」に相当し、S17が「刺繍データ変更手段」に相当する。
【0083】
糸残量が予定消費糸量より多い場合(S16;Yes)、黄色部分の糸が余る可能性があるので、S18以降の処理が行われる。まず、黄色部分模様11の未縫製箇所があるか否か判定され(S18)、未縫製箇所がある場合(S18;Yes)、未縫製箇所の縫製が行われ(S19)、未縫製箇所の縫製が行われると、黄色部分の糸の糸残量が及び予定消費糸量が変動するため、S11へ戻りS11以降の処理が繰り返し実行される。
【0084】
糸残量が予定消費糸量より多い場合(S16;Yes)であって、未縫製箇所がない場合(S18;No)は、黄色部分模様11の縫製が完了したが黄色部分の糸が余っているため、次の縫製順序である赤色部分模様12を縫製する前に、黄色部分の糸を消費するためのS20〜S22の処理が実行される。
【0085】
未縫製箇所がない場合(S18;No)、次に下打ち縫製できるか否かが判別され(S20)、下打ち縫製出来る場合(S20;Yes)、刺繍模様1の縫製領域内に下打ち縫製が行われ(S21)、その後S11へ戻る。下打ち縫製が行われると、黄色部分の糸の糸残量と予定消費糸量が変動するため、S11へ戻ってS11以降の処理が繰り返し実行される。一方、下打ち縫製出来ない場合(S20;No)、黄色部分の糸を消費するために、刺繍模様1の縫製領域外に仮縫い(捨て縫い)縫製が行われ(S22)、その後S6へ戻る。尚、S21が「下打ち縫い縫製実行手段」に相当し、S22が「仮縫い縫製実行手段」に相当する。
【0086】
ここで、下打ち縫製について、黄色部分模様11の縫製が終了したが、黄色部分の糸が余っている場合を例にして図4に基づいて説明する。
次の縫製順序である赤色部分模様12の刺繍領域内の下打ち部分11a及び11bが、黄色部分の糸で下打ち縫製されて、黄色部分の糸が全て消費される。下打ち縫製部分11a及び11bを黄色部分の糸で縫製した場合、次に縫製する赤色部分模様12を赤色部分の糸で縫製すると、黄色部分の糸が赤色部分の糸の下に隠れてしまうので、赤色部分模様12の外観に影響を及ぼすことはなく、この場合は下打ち縫製が可能である。
【0087】
次に、仮縫い縫製について、赤色部分模様12の縫製が終了したが、赤色部分の糸が余っている場合を例にして図5に基づいて説明する。緑色部分模様13の様に、縫製領域が小さい部分模様は縫製領域からはみ出してしまう虞があり、下打ち縫製に適さないので、仮縫い縫製を行うことになる。赤色部分模様12の全縫製領域の縫製が終了したが、赤色部分の糸が余っている場合、刺繍領域外に移動して、仮縫い縫製部分12aが仮縫い縫製されて赤色部分の糸が全て消費される。仮縫い縫製部分12aは、刺繍模様1の縫製が全て完成した後に、切り捨てるので刺繍模様1の出来ばえに影響を及ぼすことはない。尚、この糸量補正処理(S5,図15)の制御プログラムを含む制御装置Cが、「糸量補正手段」に相当する。
【0088】
このように、糸量補正処理は、糸消費量検出装置51で検出された糸消費量と、刺繍データに基づく使用糸量を部分模様毎に照合した結果に基づいて、使用糸量のまだ消費されていない現在縫製中の色の糸残量を演算し、その糸残量に応じてまだ未縫製箇所の縫製に必要な予定消費糸量を補正するので、現在縫製中の部分模様の縫製が終了する前にその色の刺繍糸を使い切ってしまうのを防止することができる。
【0089】
また、糸量補正処理は、糸残量と予定消費糸量が等しいときは、補正せずに未縫製箇所を縫製するが、糸残量が予定消費糸量より少ないときは、省略可能模様の刺繍データを補正して縫製し(図15のS17参照)、糸残量が予定消費糸量より大きいときは、下打ち縫い縫製実行処理(図15のS21参照)による下打ち縫製や仮縫い縫製実行処理(図15のS22参照)による仮縫い縫製を行うように補正して縫製するので、現在縫製中の部分模様の縫製が終了する前にその色の刺繍糸が不足し、或いは余ってしまうことを確実に防止することができる。
【実施例2】
【0090】
次に、前記制御装置Cにより実行される糸量補正処理における、布厚に応じて刺繍模様の糸密度を補正する「糸密度による糸量補正処理」ついて、図16,図17に基づいて説明する。尚、実施例1の図14に示すフローチャートと同じステップについては同一のステップ番号を付し説明を省略する。また、この補正処理は、刺繍模様のタタミ縫い部分の糸密度を補正するものとする。
【0091】
図16に示すように、S1において刺繍データが読み込まれてから、糸密度による糸量補正処理が実行される(S30)。この糸密度による糸量補正処理は図17のフローチャートに示されている。この処理が開始されると、最初に、ポテンショメータ50からの検出信号により布厚が検出される(S31)。このとき、昇降機構40のパルスモータ45を駆動制御することで、押え棒41が下降駆動されて押え足42が加工布の上面に当接状態にされ、このときのポテンショメータ50の検出信号から布厚が検出される。
【0092】
次に、検出された布厚が設定布厚とほぼ等しいか否か判定され(S32)、その判定がYesの場合は、図16のS2へ戻り、S32の判定がNoの場合は、検出された布厚が糸密度補正可能範囲か否か判定される(S33)。この場合、例えば、α=検出布厚/設定布厚として、α≦2.0の場合には糸密度補正可能範囲内と判定されてS34へ移行し、α>2.0の場合には糸密度補正可能範囲外と判定されてS37においてエラーメッセージが液晶ディスプレイ24に表示される。
【0093】
S34においては次のようにして糸密度補正が実行される。2.0≧α>1.0 の場合には、タタミ縫いの糸密度を低く補正し、その補正後の針数から予定使用糸量を演算する。ここで、β=予定使用糸量/色別の糸駒糸量として、β>1.2の場合にはタタミ縫いの糸密度を低く補正し、その補正後の針数から予定使用糸量を演算するのを繰り返す。他方、1>αの場合には、タタミ縫いの糸密度を高く補正し、その補正後の針数から予定使用糸量を演算し、β<0.8の場合にはタタミ縫いの糸密度を高く補正し、その補正後の針数から予定使用糸量を演算するのを繰り返す。尚、上記の補正後の糸密度データはRAM83のメモリに格納される。
【0094】
上記の糸密度補正の結果、β=0.8〜1.2の範囲になると糸密度補正処理が終了してS35へ移行し、予定使用糸量が演算され(S35)、次に前記の処理が全ての糸色について終了したか否か判定され(S36)、その判定がNoのときはS34へ戻り、S36の判定がYesになると図16のS2へリターンする。
【0095】
以上のように、前記のα、βをパラメータとして、タタミ縫いの糸密度を補正するため、各色の予定使用糸量を、糸駒6に保有している各色の刺繍糸の糸量に適合させることができるため、色毎に刺繍糸の著しい過不足を解消して刺繍糸の無駄を招くことなく、刺繍縫製を行うことができる。また、刺繍模様のサテン縫い部分の糸密度を補正するようにしてもよい。
【0096】
尚、刺繍模様のサイズを所定の標準サイズよりも拡大又は縮小する場合にも、糸密度による糸量補正を実行するようにしてもよい。
【0097】
このように、ポテンショメータ50を含む布厚検出装置を備えたので、加工布の布厚を検出することができ、糸量補正処理は、布厚検出装置が検出する加工布の布厚に応じて刺繍模様の糸密度を変更することで、消費糸量を適宜変更することができる。
【実施例3】
【0098】
次に、前記制御装置Cにより実行される糸量補正制御における、「無線タグ付き糸駒の場合の処理」について、図18,図19に基づいて説明する。尚、実施例1の図14に示すフローチャートと実質的に同じステップについては同一のステップ番号を付し説明を省略する。図18に示すように、S1の刺繍データの読み込み後に、S40においてこの無線タグ付き糸駒の場合の処理(図19参照)が実行される。
【0099】
図19に示すように、最初に、糸駒6に設けられた無線タグ7のメモリ部78に記憶されている糸色、縫製順序、及び使用糸量等の種々の糸情報が、タグリーダライタ100により読み込まれる(S41)。次に、EEPROM84に記憶されている刺繍データ付随情報と、無線タグ7から読み込んだ糸情報が照合され(S42)、それらの情報が一致しているか否か判定される(S43)。その判定がNoのときは、S44において液晶ディスプレイ24にエラーメッセージが表示される。S43の判定がYesの場合には、無線タグ7から読み込んだ糸情報がRAM83のメモリに格納され(S45)、その後図18のS2へ移行する。
【0100】
S2〜S6の処理は実施例1の図14と同一であるので説明は省略する。次に、図18のS6の判定がYesになった場合には、次のS7においてRAM83のメモリに格納していた情報がタグリーダライタ100により無線タグ7に書き込まれ、その後制御は終了する。
【0101】
このように、無線タグ付き糸駒6を採用する場合、S40の処理を実行することにより、刺繍縫製しようとする刺繍模様と、その刺繍模様の縫製に使用する糸駒6とが合致しているか否かが確実に判別できるので、間違った糸駒6を用いて無駄な刺繍縫製をするのを確実に防止することができる。
【0102】
また、縫製終了時に、無線タグ7に、糸消費量、糸残量等の最新の情報を含む種々の情報を書き込むようにしてもよい。この場合、次回にその糸駒6を用いて刺繍縫製する際に、糸消費量等の最新の情報を無線タグ7から読み込んで活用することができる。
【0103】
また、無線タグ7に、糸駒6を識別する糸駒識別番号、刺繍模様を特定する刺繍模様番号、刺繍模様のサイズを示すサイズ情報、刺繍模様の数を示す模様数情報、加工布の設定布厚等の各種の情報も記憶させるようにしてもよい。
【0104】
次に、前記実施例1,2,3を部分的に変更した変更例について説明する。
1)前記実施例では、刺繍糸2が同じ刺繍模様を複数回刺繍縫製できるよう着色された場合を例に説明したが、刺繍糸2が異なる複数の刺繍模様を連続的に刺繍縫製できるよう着色されていてもよい。
【0105】
2)前記実施例では、刺繍糸2が黄色部分11A,赤色部分12A,緑色部分13A,・・・のように、各色との境目が区別できるように着色された場合を例に説明したが、刺繍糸2が各色同士の境目が目立たないグラデーションとなるように染色又は着色されていてもよい。
【0106】
3)前記実施例では、刺繍糸2の黄色に着色された黄色部分11Aが余剰した場合の糸量補正処理として、下打ち縫い縫製処理や仮縫い縫製処理を行うことで、黄色部分11Aの糸残量を消費する場合を例に説明したが、これに限定されるものでなく、すでに縫製した黄色部分模様11の縫製範囲内で重ね縫い縫製処理を行うことで、黄色部分11Aの糸残量を消費するようにしてもよい。
4)その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能で、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の実施例に係る刺繍模様の説明図である。
【図2】(a)は部分模様の色と針数と縫目ピッチと基本使用糸量の図表であり、(b)は布厚と補正係数k1の関係を示す図表であり、(c)は次色下打ち及び仮縫いと補正係数k2の関係を示す図表である。
【図3】刺繍糸の複数の染色又は着色部分を説明する説明図である。
【図4】下打ち縫いを説明する説明図である。
【図5】仮縫いを説明する説明図である。
【図6】糸駒の正面図である。
【図7】糸駒の側面図である。
【図8】無線タグの構成を示すブロック図である。
【図9】刺繍縫製可能なミシンの全体斜視図である。
【図10】押え棒を昇降させる昇降機構の正面図である。
【図11】前記昇降機構の側面図である。
【図12】糸消費量検出装置の正面図である。
【図13】前記ミシンの制御系の構成図である。
【図14】刺繍縫製制御と糸量補正処理のフローチャートである。
【図15】図14の刺繍データによる糸量補正処理のフローチャートである。
【図16】実施例2に係る図14相当図である。
【図17】図16の糸密度による糸量補正処理のフローチャートである。
【図18】実施例3に係る図14相当図である。
【図19】図18の無線タグ付き糸駒の場合の処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0108】
2 刺繍糸
6 糸駒
7 無線タグ
M ミシン
C 制御装置
50 ポテンショメータ
53 エンコーダ
82 ROM
83 RAM
84 EEPROM
100 タグリーダライタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも色が異なる部分模様を含む複数の部分模様からなる刺繍模様を縫製する際の前記部分模様の縫製順序と、前記部分模様の刺繍データから算出される前記部分模様の使用糸量とに基づいて、前記部分模様の色が前記縫製順序どおりに前記使用糸量分だけ染色又は着色されたことを特徴とする刺繍糸。
【請求項2】
前記使用糸量は、夫々所定糸量分だけ長く設定されていることを特徴とする請求項1に記載の刺繍糸。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の刺繍糸を糸駒本体に巻回したことを特徴とする糸駒。
【請求項4】
前記刺繍糸の糸色情報、縫製順序情報、及び使用糸量情報の少なくとも1つの情報を読み書き可能に記憶する記憶手段を備えたことを特徴とする請求項3に記載の糸駒。
【請求項5】
前記記憶手段は、前記情報を無線通信により送受信可能な無線タグからなることを特徴とする請求項4に記載の糸駒。
【請求項6】
刺繍模様の刺繍データに基づいて、刺繍縫製に供する加工布を保持する刺繍枠を所定の2方向に独立に移送する刺繍枠移送機構を有する刺繍縫製可能なミシンにおいて、
請求項1若しくは2の何れかに記載の刺繍糸、又は請求項3乃至5の何れかに記載の糸駒から供給された刺繍糸の縫製による糸消費量を部分模様毎に検出する糸消費量検出手段と、
前記糸消費量検出手段で検出された糸消費量と前記刺繍データに基づく使用糸量とを前記部分模様毎に照合する照合手段と、
前記照合手段の照合結果に基づいて、前記使用糸量の消費されていない糸残量を演算し、前記糸残量に応じて未縫製箇所の予定消費糸量を補正する糸量補正手段と、
を備えることを特徴とする刺繍縫製可能なミシン。
【請求項7】
前記糸量補正手段は、前記刺繍データの一部を変更する刺繍データ変更手段を有することを特徴とする請求項6に記載の刺繍縫製可能なミシン。
【請求項8】
前記糸量補正手段は、前記加工布に前記刺繍模様を縫製する領域内に下打ち縫いを行う為の下打ち縫い縫製実行手段を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の刺繍縫製可能なミシン。
【請求項9】
前記糸量補正手段は、前記加工布に前記刺繍模様を縫製する領域外に仮縫いを行う為の仮縫い縫製実行手段を有することを特徴とする請求項6〜8の何れかに記載の刺繍縫製可能なミシン。
【請求項10】
前記加工布の布厚を検出する布厚検出手段を備え、
前記糸量補正手段は、前記布厚検出手段が検出する前記加工布の布厚に応じて刺繍模様の糸密度を変更する糸密度変更手段を有することを特徴とする請求項6〜9の何れかに記載の刺繍縫製可能なミシン。
【請求項11】
前記糸消費量検出手段は、前記刺繍糸の移動量を検出するロータリエンコーダを有することを特徴とする請求項6〜10の何れかに記載の刺繍縫製可能なミシン。
【請求項12】
請求項5に記載の無線タグに記憶された情報を読み取るリーダと、前記無線タグに情報を書き込むライタとを備えたことを特徴とする請求項6〜11の何れかに記載の刺繍縫製可能なミシン。
【請求項1】
少なくとも色が異なる部分模様を含む複数の部分模様からなる刺繍模様を縫製する際の前記部分模様の縫製順序と、前記部分模様の刺繍データから算出される前記部分模様の使用糸量とに基づいて、前記部分模様の色が前記縫製順序どおりに前記使用糸量分だけ染色又は着色されたことを特徴とする刺繍糸。
【請求項2】
前記使用糸量は、夫々所定糸量分だけ長く設定されていることを特徴とする請求項1に記載の刺繍糸。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の刺繍糸を糸駒本体に巻回したことを特徴とする糸駒。
【請求項4】
前記刺繍糸の糸色情報、縫製順序情報、及び使用糸量情報の少なくとも1つの情報を読み書き可能に記憶する記憶手段を備えたことを特徴とする請求項3に記載の糸駒。
【請求項5】
前記記憶手段は、前記情報を無線通信により送受信可能な無線タグからなることを特徴とする請求項4に記載の糸駒。
【請求項6】
刺繍模様の刺繍データに基づいて、刺繍縫製に供する加工布を保持する刺繍枠を所定の2方向に独立に移送する刺繍枠移送機構を有する刺繍縫製可能なミシンにおいて、
請求項1若しくは2の何れかに記載の刺繍糸、又は請求項3乃至5の何れかに記載の糸駒から供給された刺繍糸の縫製による糸消費量を部分模様毎に検出する糸消費量検出手段と、
前記糸消費量検出手段で検出された糸消費量と前記刺繍データに基づく使用糸量とを前記部分模様毎に照合する照合手段と、
前記照合手段の照合結果に基づいて、前記使用糸量の消費されていない糸残量を演算し、前記糸残量に応じて未縫製箇所の予定消費糸量を補正する糸量補正手段と、
を備えることを特徴とする刺繍縫製可能なミシン。
【請求項7】
前記糸量補正手段は、前記刺繍データの一部を変更する刺繍データ変更手段を有することを特徴とする請求項6に記載の刺繍縫製可能なミシン。
【請求項8】
前記糸量補正手段は、前記加工布に前記刺繍模様を縫製する領域内に下打ち縫いを行う為の下打ち縫い縫製実行手段を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の刺繍縫製可能なミシン。
【請求項9】
前記糸量補正手段は、前記加工布に前記刺繍模様を縫製する領域外に仮縫いを行う為の仮縫い縫製実行手段を有することを特徴とする請求項6〜8の何れかに記載の刺繍縫製可能なミシン。
【請求項10】
前記加工布の布厚を検出する布厚検出手段を備え、
前記糸量補正手段は、前記布厚検出手段が検出する前記加工布の布厚に応じて刺繍模様の糸密度を変更する糸密度変更手段を有することを特徴とする請求項6〜9の何れかに記載の刺繍縫製可能なミシン。
【請求項11】
前記糸消費量検出手段は、前記刺繍糸の移動量を検出するロータリエンコーダを有することを特徴とする請求項6〜10の何れかに記載の刺繍縫製可能なミシン。
【請求項12】
請求項5に記載の無線タグに記憶された情報を読み取るリーダと、前記無線タグに情報を書き込むライタとを備えたことを特徴とする請求項6〜11の何れかに記載の刺繍縫製可能なミシン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−114551(P2009−114551A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285046(P2007−285046)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】
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