説明

前立腺特異的抗原(PSA)に対する免疫応答の発生

【課題】前立腺特異的抗原(PSA)に対する免疫応答を発生させるための方法の提供。
【解決手段】前立腺特異的抗原(PSA)に対する免疫応答を発生させるための方法であって、第1のポックスウイルスベクターの十分量を宿主に導入して免疫応答を刺激する工程を包含し、ここで該ポックスウイルスベクターが該宿主において発現し得るプロモーターに作動可能に連結されたPSAをコードするDNAセグメントを含む少なくとも1つの挿入部位を有する、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に、哺乳動物の前立腺特異的抗原(PSA)に対する細胞性免疫応答および体液性免疫応答の発生に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
前立腺のガンは、男性において最も一般に診断されるガンであり、そして第2の最も一般的なガン死因である(Carterら、1990;Armbrusterら、1993)。初期段階で検出される場合、前立腺ガンは潜在的に治癒可能である。しかし、症例の大部分は、一次腫瘍の転移が既に起きた、より後期段階で診断される(Wangら、1982)。初期診断でさえも問題である。なぜなら、これらのスクリーニングにおいて陽性の試験結果を示す個体が全てガンを発達させるとは限らないからである。前立腺ガンの現在の処置として、根治的な前立腺切除術、放射線治療、またはホルモン治療が挙げられる。全身性治療は、ホルモン抵抗性疾患の症例において生存を明らかに改善しなかった。外科的処置による腫瘍の完全な根絶は、必ずしも達成されるとは限らず、そして観察されるガンの再発(12〜68%)は、最初の臨床的腫瘍段階に依存する(Zietmanら、1993)。従って、予防または防止を含む処置の代替法が所望される。
【0003】
前立腺特異的抗原(PSA)は、腺性カリクレイン遺伝子ファミリーの240アミノ酸メンバーである(Wangら、1982;Wangら、1979;Bilhartzら、1991)。PSAは、セリンプロテアーゼであり、正常な前立腺組織により産生され、そして前立腺腺房および前立腺管を裏打ちする上皮細胞によりもっぱら分泌される(Wangら、1982;Wangら、1979;Liljaら、1993)。前立腺特異的抗原は、前立腺ガンの臨床的な証拠を有さない健康な男性の血清において低レベルで検出され得る。しかし、腫瘍性状態の間、この抗原の循環レベルは劇的に増加し、これは疾患の臨床状態と相関する(Schellhammerら、1993;Huangら、1993;Kleerら、1993;Oesterlingら、1991)。現在、前立腺特異的抗原は、最も広く使用される前立腺ガンのマーカーである。この抗原の組織特異性は、特に、根治的な前立腺切除術を受けた患者において(ここで、身体のPSAを発現する組織のみが転移性沈着物に存在するはずである)、PSAを有効な特異的免疫治療(Armbrusterら、1993;Brawerら、1989)のための潜在的な標的抗原にする。インビトロ免疫を用いる最近の研究は、PSAに特異的なCD4細胞およびCD8細胞の発生を示した(Peaceら、1994;Correaleら、1995)。しかし、弱いナチュラルキラー細胞の応答が前立腺ガン患者において時々示されたが(Choeら、1987)、インビボで免疫応答を発生させる試みは、限定された成功を受けている。例えば、BacillusCalmette-Guerin(BCG)と混合した前立腺ガン細胞で患者を能動的に免疫するいくつかの試みにより、治療的利益は、ほとんどまたは全くないことが示された(Donovanら、1990)。インビボでのPSAに対する曝露の結果として免疫応答を誘発する能力は、非常に有用である。
【0004】
ワクシニアウイルスは、天然痘の世界的な根絶において使用されている。このウイルスは、いくつかの腫瘍関連遺伝子(例えば、p97、HER-2/neu、p53およびETA)を含む、広範な範囲の挿入された遺伝子を発現することが示されている(Paolettiら、1993)。複数の遺伝子の発現に有用であるとして示唆されている他のポックスウイルスとして、ニワトリポックスのようなトリポックスが挙げられる。組換えバクテリアウイルスによって発現されるサイトカインとして、IL-1、IL-2、IL-5、IL-6、TNF-αおよびIFN-γが挙げられる(Paolettiら、1993)。組換えポックスウイルス(例えば、ワクシニアウイルス)は、ガンの治療における使用について考慮されている。なぜなら、弱い免疫原と高い免疫原性のポックスウイルスタンパク質との同時提示は、挿入された遺伝子産物に対する強い免疫応答を誘発し得ることが、動物モデルにおいて示されているからである(Kaufmanら、1991;Paolettiら、1993;Kantorら、1992a;Kantorら、1992b;Irvineら、1993;Mossら、1993)。ヒトのガン胎児性抗原遺伝子を含む組換えワクシニアウイルスは、ガン患者におけるフェーズI臨床試験をちょうど完了しており、野生型天然痘ワクチンで観察された毒性以外の毒性の形跡はなかった(Kantorら、1992b)。
【0005】
現在、前立腺治療薬の評価のモデルとして、イヌ(McEnteeら、1987)およびDunningラット(Isaacsら、1986)が挙げられる;しかし、これらのモデルのいずれも、ヒトPSAに対するラットPSAおよびイヌPSAの非常に低い相同性のために、PSA組換えワクチンの研究に実用的でない(Karrら、1995;Schroderら、1982)。対照的に、アカゲザルの前立腺は、構造的におよび機能的にヒト前立腺と類似している(Wakuiら、1992)。分子レベルにおいて、アカゲザルPSAのアミノ酸配列または核酸配列のいずれか(Gauthierら、1993)とヒト前立腺特異的抗原のそれらの配列(Karrら、1995;Lundwallら、1987)との間には94%の相同性がある。従って、ヒトPSAは、アカゲザルにおいて本質的に自己抗原である。従って、アカゲザルは、自己抗PSA免疫反応のモデルとして働き得る。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
本発明によって、以下が提供される:
(1)前立腺特異的抗原(PSA)に対する免疫応答を発生させるための方法であって、第1のポックスウイルスベクターの十分量を宿主に導入して免疫応答を刺激する工程を包含し、ここで該ポックスウイルスベクターが該宿主において発現し得るプロモーターに作動可能に連結されたPSAをコードするDNAセグメントを含む少なくとも1つの挿入部位を有する、方法。
(2)前記第1のポックスウイルスベクターの導入後、少なくとも1つの定期的な間隔で、前記宿主とさらなるPSAまたはその細胞傷害性T細胞誘発エピトープとを接触させる工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(3)前記宿主が、該宿主において発現し得るプロモーターに作動可能に連結されたPSAをコードするDNAセグメントを含む少なくとも1つの挿入部位を有する第2のポックスウイルスベクターを該宿主に導入することにより、さらなるPSAと接触される、項目2に記載の方法。
(4)宿主において前立腺特異的抗原(PSA)に対する免疫応答を発生させるための方法であって、以下の工程:
a)該宿主とPSAまたはその細胞傷害性T細胞誘発エピトープの十分量とを接触させる工程;および
b)その後少なくとも1つの定期的な間隔で、該宿主とさらなるPSAまたはその細胞傷害性T細胞誘発エピトープとを接触させる工程、
を包含する、方法。
(5)前記宿主が、該宿主において発現し得るプロモーターに作動可能に連結されたPSAまたはその細胞傷害性T細胞誘発エピトープをコードするDNAセグメントを含む少なくとも1つの挿入部位を有するポックスウイルスベクターを該宿主に導入することにより、さらなるPSAと接触される、項目4に記載の方法。
(6)前記ポックスウイルスがスイポックス、トリポックス、ヤギポックス、およびオルトポックスウイルス属からなるポックスウイルスの群から選択される、項目1または5に記載の方法。
(7)前記オルトポックスウイルス属がワクシニアである、項目6に記載の方法。
(8)前記トリポックスがニワトリポックス、カナリヤポックス、およびハトポックスである、項目7に記載の方法。
(9)前記スイポックスがブタポックスである、項目8に記載の方法。
(10)第1のポックスウイルスベクターがワクシニアであり、そして第2のポックスウイルスベクターがスイポックス、トリポックス、ヤギポックス、およびオルトポックスウイルス属からなるポックスウイルスの群より選択される、項目3に記載の方法。
(11)前記PSAまたはT細胞誘発エピトープがアジュバントで処方されるか、またはリポソーム処方物中に処方される、項目2または4に記載の方法。
(12)前記アジュバントがRIBI Detox、QS21、および不完全フロイントアジュバントからなる群から選択される、項目11に記載の方法。
(13)宿主とPSAの細胞傷害性T細胞誘発エピトープとを接触させる工程を包含する、PSAに対して免疫応答を発生させるための方法。
(14)前記T細胞誘発エピトープがアジュバントで処方されるか、またはリポソーム処方物中に処方される、項目13に記載の方法。
(15)前記アジュバントがRIBI Detox、QS21、および不完全フロイントアジュバントからなる群から選択される、項目12に記載の方法。
(16)プロモーターに作動可能に連結したPSAをコードするDNAセグメントを含む少なくとも1つの挿入部位を有するポックスウイルスベクターおよび薬学的キャリアを含む薬学的組成物。
本発明者らは、宿主において発現し得るプロモーターに作動可能に連結した、組換えウイルスベクター、好ましくは前立腺特異的抗原(PSA)またはその細胞傷害性T細胞誘発エピトープをコードするDNAセグメントを含む少なくとも1つの挿入部位を有するポックスウイルスベクターを使用することにより、PSAに対する特異的な体液性免疫応答および細胞性免疫応答を発生し得ることを発見した。好ましくは、この方法は、組換えポックスウイルスベクターの十分量を宿主に導入して免疫応答を刺激する工程、およびその後定期的な間隔で、宿主とさらなるPSAとを接触させる工程を包含する。さらなるPSAまたはその細胞傷害性T細胞誘発エピトープは、異なるポックス属由来の第2のポックスウイルスベクターを用いることにより添加され得る。別の実施態様において、さらなるPSAは、種々の他の方法により宿主とPSAとを接触させることにより添加され得、これは1つの好ましい実施態様においてPSAを添加する工程を包含する。PSAは、アジュバントで処方され得るか、またはリポソーム処方物中に処方され得る。
【0007】
さらなる実施態様において、PSAに対する免疫応答は、最初に宿主とPSAまたはその細胞傷害性T細胞誘発エピトープの十分量とを接触して免疫応答を刺激し、その後定期的な間隔で、宿主とさらなるPSAとを接触させることにより発生され得る。さらなるPSAまたはその細胞傷害性T細胞発生フラグメントは、上記のようなポックスウイルスベクターを用いて添加され得る。
【0008】
本発明者らはまた、PSAに特異的なヒト細胞傷害性T細胞はPSAの細胞傷害性T細胞誘発エピトープを用いて産生され得ること、およびこれらの細胞はPSA発現ヒト前立腺ガン細胞を溶解する能力を有することを発見した。
【0009】
本明細書中で使用する用語「前立腺特異的抗原」は、天然のタンパク質(天然の供給源から精製されたか、または組換え技術により作製されたとしても)、ならびに天然の立体配座的に正しいPSAに対して免疫応答を発生し得る任意のポリペプチド、ムテイン、またはそれらから得られた部分を包含する。例えば、天然のPSAも認識する抗体を産生する組換え体を使用する能力に有害に影響することなく、分子中に保存的アミノ酸置換を作製し得る。
【0010】
ポックスウイルスは、好ましくは、スイポックス、トリポックス、ヤギポックス、およびオルトポックスウイルス属からなるポックスウイルスの群から選択される。好ましいオルトポックスとして、ワクシニア、ウサギポックス、およびアライグマポックスを包含する。好ましいトリポックスとして、ニワトリポックス、カナリヤポックス、およびハトポックスを包含する。より好ましいトリポックスは、ニワトリポックスである。好ましいスイポックスは、ブタポックスである。
【0011】
ワクシニアウイルスベクターは、強力な抗体応答を誘発し得る。従って、ワクシニアベクターを用いた多くの追加免疫は可能であるが、その反復使用は特定の場合において好ましくないかもしれない。本発明者らは、追加免疫するために異なる属由来のポックスを使用することにより、この感受性問題が最小化され得ることを発見した。本発明によれば、このような問題を避けるために、好ましくは、第1または最初のポックスウイルスベクターはワクシニアである場合、第2のおよびその後のポックスウイルスベクターは、異なる属由来のポックスウイルス(例えば、スイポックス、トリポックス、ヤギポックス、またはワクシニアとは免疫原的に異なるオルトポックス)から選択される。
【0012】
アジュバントとして、例えば、RIBI Detox、QS21、および不完全フロイント(Freund)アジュバントが挙げられる。リポソーム処方物もまた使用され得る。
【0013】
本発明に従って産生された、PSAに特異的なヒト細胞傷害性T細胞は、ヒト宿主から単離され得る。これらの細胞は、薬物アッセイ(細胞傷害性T細胞誘発抗原エピトープをマッピングするために使用される)において、または養子細胞治療において使用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本発明者らは、PSA遺伝子を組換えウイルスベクター、即ち、ワクシニアウイルスなどのポックスベクターに配置することによって、アカゲザルモデルにおいてPSAに特異的な免疫応答を誘導した。
【0015】
さらに、PSAに対する免疫応答は、まず、宿主を十分な量のPSAまたはそのエピトープを顕在化させる細胞傷害性T細胞と接触させ、免疫応答を刺激し、その後、周期的な間隔で宿主をさらなるPSAと接触させることによって生成され得る。さらなるPSAまたはそのフラグメントを生成する細胞傷害性T細胞は、ポックスウイルスベクターを用いて添加され得る。
【0016】
ヒトPSAのオープンリーディングフレームをコードするDNAフラグメントは、例えば、ヒト転移前立腺腺癌細胞系LNCaP_FGC(CRL1740、American Type Cell Culture(ATCC)、Rockville、MD)から、PSA特異的オリゴヌクレオチドプライマー5'TCTAGAAGCCCCAAGCTTACCACCTGCA3'(配列番号:1)、5'TCTAGATCAGGGGTTGGCCACGATGGTGTCCTTGATCCACT3'(配列番号: 2)を用いる逆転写酵素PCRによって抽出される全RNAから得られ得る。PSAcDNAのヌクレオチド配列には公開されている(Lundwallら、1987)。
【0017】
組換えヒトPSAは、Beiら、J.Clin. Lab. Anal., 9:261〜268(1995)の方法に従ってバキュロウイルス発現系を用いて得られ得る。この開示を本願では参考のために援用する。
【0018】
ウイルスベクター
癌腫自己関連抗原またはエピトープを顕在化する細胞傷害性T細胞をコードする異種DNA配列を含む組換えDNAウイルスを調製するための基本的な技術は、当業者に公知であり、例えば、ドナープラスミド内のDNA配列の側面に位置するウイルスDNA配列と、親ウイルス内に存在する相同配列との間の相同性組合せを含む(Mackettら、Proc.Natl. Acad. Sci. USA 79: 7415〜7419(1982))。例えば、ポックスウイルスベクターなどの組換えウイルスベクターは、遺伝子を送達するのに用いられ得る。ベクターは、例えば、米国特許第5,093,258号に記載されるニワトリウイルスの合成組換え体を形成する方法に類似した当該技術分野で公知の工程で構築され得る。この開示を本願では参考のために援用する。他の技術は、天然に存在するユニークな制限エンドヌクレアーゼ部位、または親ウイルスベクター内に人工的に挿入され、異種DNAを挿入するユニークな制限エンドヌクレアーゼ部位を用いることを含む。
【0019】
本発明を実施するのに有用なポックスウイルスとしては、オルトポックスウイルス属、スイポックスウイルス属、トリポックスウイルス属、およびヤギポックスウイルス属が挙げられる。
【0020】
オルトポックスとしては、ワクシニア、エクトロメリア、およびアライグマポックスが挙げられる。好ましいオルトポックスは、ワクシニアである。
【0021】
トリポックスとしては、ニワトリポックス、カナリヤポックス、ハトポックスが挙げられる。好ましいトリポックスはニワトリポックスである。
【0022】
ヤギポックスとしては、ヤギポックス(goatpox)およびヒツジポックスが挙げられる。
【0023】
好ましいスイポックスは、ブタポックスである。
【0024】
使用され得る他のウイルスベクターとしては、ヘルペスウイルスおよびアデノウイルスなどの他のDNAウイルス、ならびにレトロウイルスおよびポリオなどのRNAウイルスが挙げられる。
【0025】
例えば、ウイルスに挿入されるDNA遺伝子配列は、ドナープラスミド、例えば、E.coliプラスミド構築物に配置され得る。ドナープラスミドには、DNAが挿入されるポックスウイルスの挿入部位のDNAセクションなどと相同なDNAが挿入されている。これとは個別に、挿入されるDNA遺伝子配列は、プロモータに連結される。プロモーター遺伝子結合は、プラスミド構築物内に位置し、所望の挿入領域であるポックスDNAの領域の側面に位置するDNA配列と相同なDNAがプロモーター遺伝子結合の両端部に配置される。ポックスプロモーターは、親ポックスウイルスベクターと共に用いられる。次に、結果として得られるプラスミド構築物は、E.coliバクテリア内での増殖によって増幅され、そして単離される。好ましくは、プラスミドはまた、複製の起源(例えば、複製のE.coli起源)、およびE.coli内での選択および増殖用の抗生物質耐性遺伝子などのマーカーを含む。
【0026】
第2に、挿入されるDNA遺伝子配列を含む単離されたプラスミドは、親ウイルス(例えば、ポックスウイルス)と共に細胞培養物(例えば、ニワトリ胚線維芽細胞)にトランスフェクトされる。プラスミド内の相同なポックスDNAと、ウイルスゲノムとの組換えによって、ウイルスの生存力に影響を与えない部位で、ゲノム内のプロモーター遺伝子構築物の存在によって改変される組換えポックスウイルスがそれぞれ形成される。
【0027】
上記のように、遺伝子は、結果として得られる組換えウイルスのウイルス生存力に影響を与えないウイルス内の領域(挿入領域)に挿入される。当業者は、例えば、組換え体のウイルス生存力に深刻な影響を与えずに組換え体形成を可能にする領域についてウイルスDNAのセグメントをランダムにテストすることによって、ウイルスにおけるこのような領域を容易に同定し得る。容易に用いられ、多くのウイルス内に存在する1つの領域としては、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子が挙げられる。例えば、TK遺伝子は、調べられたすべてのポックスウイルスゲノムにおいて見いだされている[レポリポックスウイルス:Uptonら、J. Virology,60:920 (1986)(ショープ線維腫ウイルス); ヤギポックスウイルス属:Gershonら、J.Gen. Virol., 70:525 (1989)(ケニアヒツジ−1); オルトポックスウイルス属:Weirら、J.Virol., 46:530 (1983)(ワクシニア); Espositoら、Virology,135:561 (1984)(サルポックスウイルスおよび痘瘡ウイルス); Hrubyら、PNAS,80:3411 (1983)(ワクシニア); Kilpatrickら、Virology, 143:399 (1985)(ヤバサル腫瘍ウイルス); トリポックスウイルス属:Binnsら、J.Gen. Virol. 69:1275 (1988) (ニワトリポックス); Boyleら、Virology, 156:355 (1987)(ニワトリポックス);Schnitzleinら、J. Virological Methods, 20:341 (1988) (ニワトリポックス、ウズラポックス); 昆虫ポックス(Lytvynら、J.Gen. Virol. 73:3235〜3240(1992)]。
【0028】
ワクシニアにおいては、TK領域に加えて、他の挿入領域は、例えば、HindIII Mフラグメントを含む。
【0029】
ニワトリポックスにおいては、TK領域に加えて、他の挿入領域は、例えば、BamHI Jフラグメント [Jenkinsら、AIDS Research and HumanRetroviruses 7:991〜998 (1991)] 、EPO出願第0 308 220 A1号に記載されるEcoRI-HindIIIフラグメント、EcoRV-HindIIIフラグメント、BamHIフラグメントおよびHindIIIフラグメント[Calvertら、J. of Virol. 67: 3069〜3076 (1993); Taylorら、Vaccine 6:497〜503 (1988);Spehnerら、(1990)およびBoursnellら、J. of Gen. Virol. 71:621〜628 (1990)]を含む。
【0030】
ブタポックスにおいては、好ましい挿入部位は、チミジンキナーゼ遺伝子領域を含む。
【0031】
遺伝子を挿入領域に挿入するという要件に加えて、改変されたポックスウイルスで挿入遺伝子をうまく発現させるには、所望の遺伝子に作動可能に結合される(即ち、挿入された遺伝子と適切な関係にある)プロモーターの存在が必要である。プロモーターは、発現される遺伝子の上流に位置するように配置されなければならない。プロモーターは、当該技術分野で周知であり、標的にしたい宿主および細胞型に応じて容易に選択され得る。例えば、ポックスウイルスにおいては、ワクシニア7.5K、ワクシニア40K、またはニワトリポックスプロモーター(例えば、FPV C1A)などのポックスウイルスプロモーターを用いるべきである。エンハンサー要素もまた、発現のレベルを増加させるために組み合わせて用いられ得る。さらに、当該技術分野で周知の誘導可能なプロモーターをいくつかの実施態様において用いることは好ましい。
【0032】
PSAに対して特異的な免疫応答は、上記のように構築された約105〜109pfuの間組換えポックスウイルスを宿主に投与することによって発生され得る。より好ましくは、107pfuの組換えポックスウイルスが用いられる。好ましい宿主はヒトである。その後少なくとも1回の間隔で、好ましくは1ヶ月から3ヶ月後に、さらに抗原を宿主に投与することによって免疫応答は増加する。第1回めの増加後1ヶ月から3ヶ月後に少なくとも第2回目の「増加(boost)」をさせるのがより好ましい。抗原は、同一のポックスウイルスベクターを用いて投与され得る。抗原は、異なるポックス種からの第2のポックスウイルスベクターを用いて投与され得るか、または、例えばアジュバントもしくはリポソームを用いて直接投与され得るのが好ましい。サイトカイン(例えば、IL-2、IL-6、IL-12)または共刺激性分子(例えば、B7.1、B7.2)は、生物学的アジュバントとして用いられ得、宿主に全身投与され得るかまたは分子をコードする遺伝子の挿入を介して組換えポックスベクターに共投与され得る。
【0033】
アジュバントには、例えば、RIBI Detox(Ribi Immunochemical)、OS21および不完全フロイトアジュバントが挙げられる。
【0034】
細胞傷害性T細胞の発生
PSAに特異的な細胞傷害性T細胞は、上記のように免疫化された宿主から得られた末梢血単核細胞(PBMC)から確立され得る。例えば、PBMCは、先に記載したように、リンパ球分離培地勾配(OrganonTeknika、Durham、NC、USA)を用いて分離され得る[Boyumら、Scand J. Clin Lab Invest 21:77-80(1968)]。洗浄されたPBMCは、完全培地(例えば、10%のプールヒトAB血清(Pel-Freeze Clinical System、BrownDear、WI、USA)、2mMのグルタミン、100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン(GIBCO)で補充されたRPMI1640(GIBCO))中で再懸濁される。例えば100μlの容量の完全培地中の濃度約2×10細胞のPBMCが、96ウェルの平底アッセイプレート(Costar、Cambridge、MA、USA)の各ウェルに添加される。抗原またはペプチドは、約50μg/mlの最終濃度で、培養物に添加され、そして5%のCOを含有する加湿雰囲気中で37℃で5日間インキュベートされる。培地を含有するペプチドを取り除いた後、培養物に、5日後に新鮮なヒトIL-2(10U/ml)を与え、そして3日毎に培地を含有するIL-2を補給する。初代培養物を、16日目に同じペプチド(50μg/ml)で再刺激する。5×10の照射された(4,000rad)オートロガスPBMCを、抗原提示細胞(APC)として、約50μlの容量の完全培地に添加する。約5日後、培養物に、上述のように培地を含有するヒトIL-2を加える。細胞は、16日の間隔で5日間再刺激される。
【0035】
エピトープマッピング
本発明の細胞傷害性T細胞は、細胞傷害性T細胞を誘発するPSAのエピトープの決定に使用され得る。例えば、PSAを多数のペプチドフラグメントに切断し得る。あるいは、フラグメントは、化学的に合成され得る。次に、細胞傷害性T細胞はプレートされ得、異なるフラグメントが異なるウェルに添加され得る。事前に選択されたペプチドフラグメントの1つをエピトープとして認識するT細胞のみが増殖し続け、それによって、即座の識別が可能となる。
【0036】
次に、全タンパク質を用いる代わりに、これらのフラグメントが、細胞傷害性T細胞を誘発するために使用され得る。さらに、エピトープを含有する他のフラグメントを調製し、それによって、細胞傷害性T細胞応答を誘発する能力が向上され得る。これらのフラグメントに対する改変は、当業者には周知であり、接合体、シスチン等の特定のアミノ酸残基の使用を含む。
【0037】
薬物アッセイ
細胞傷害性T細胞は、細胞傷害性T細胞応答を生じさせる抗原の能力を向上させる化合物のスクリーニングにも使用され得る。例えば、細胞傷害性T細胞は、例えば、マイクロタイタープレートで選択されたエピトープと共にインキュベートされ得る。検査される化合物、例えば薬物は、次にウェルに添加され、T細胞の増殖が測定される。T細胞の増殖は、検査の化合物がT細胞応答を向上させることを示す。このような化合物は、さらに評価され得る。
【0038】
治療
細胞傷害性T細胞は、その数を増幅させるために培養され得、次に、様々な手段を用いて、宿主に注入し戻され得る。一般的に、1回の注入につき、1×10と2×1011との間の細胞傷害性T細胞が、例えば、200から250mlの1回から3回の注入で、各注入ごとに30分から60分の期間にわたって、投与され得る。注入が完了した後、患者は、体重1キログラムにつき720,000IUの用量で静脈内に8時間ごとに組換えインターロイキン−2で処置され得る;薬物に対する患者の耐性に応じて、一部の用量は抜かれ得る。加えて、注入後、エピトープを誘発するT細胞を含有する追加的抗原またはフラグメントが患者に投与されて、T細胞の数がさらに増加し得る。抗原またはエピトープは、アジュバントを用いて製剤され得る、および/または、リポソーム製剤中に存在し得る。
【0039】
細胞傷害性T細胞はまた、TNFをコードするDNAを含有するウイルスベクターの導入によっても改変され得、そして細胞の抗腫瘍活性を向上させる目的で、宿主に再導入され得る。他のサイトカインもまた用いられ得る。
【0040】
組換えベクターは、例えば、皮内、皮下、筋肉内、静脈内、または腹腔内での、例えば乱切および注射を含む任意の受容可能な経路を用いて投与され得る。
【0041】
非経口投与の場合、組換えベクターは、典型的には、無菌の水溶液または非水溶液、懸濁液または乳濁液中で、生理食塩水等の薬学的に受容可能なキャリアと共に注入される。
【0042】
参照実施例1
ベクターの構築
ポックスウイルス
多数のポックスウイルスが、生ウイルスベクターとして異種タンパク質の発現用に開発されている(Cepkoら、Cell 37:1053-1062 (1984);Morinら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA84:4626-4630 (1987);Loweら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、84:3896-3900 (1987);PanicaliおよびPaoletti、Proc.Natl. Acad. Sci. USA、79:4927-4931 (1982);Mackettら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、79:7415-7419(1982))。代表的なニワトリポックスウイルスおよびブタポックスウイルスは、それぞれ、受託番号VR-229およびVR-363下でATCCより入手可能である。
【0043】
親ウイルスでのインビボ組換えのためのDNAベクター
所望の癌腫関連抗原をコードする遺伝子を、それらが親ウイルスタンパク質の正常な相補物の発現を伴ってポックスウイルスにより発現され得る様式で、ポックスウイルスのゲノム中に挿入する。これは、ポックスウイルスでのインビボ組換えのためのDNAドナーベクターの最初の構築により達成され得る。
【0044】
一般に、DNAドナーベクターは、以下のエレメントを含有する:
(i)原核生物性の複製起点、これにより、ベクターは原核生物宿主中で増幅され得る
(ii)マーカーをコードする遺伝子、これはベクターを含有する原核生物宿主細胞の選択を可能にする(例えば、抗生物質耐性をコードする遺伝子)。
(iii)転写プロモーターに近接した所望のタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子。転写プロモーターはこの遺伝子の発現を指向し得る;および
(iv)外来遺伝子が挿入される親ウイルスゲノムの領域に相同なDNA配列、これはエレメント(iii)の構築物に隣接する。
【0045】
複数の外来遺伝子をポックスウイルス導入するためのドナープラスミドを構築する方法がWO91/19803に記載され、この技術は本明細書中で参考として援用される。一般に、ドナーベクターの構築のための全てのDNAフラグメント(転写プロモーターを含有するフラグメント、および外来遺伝子が挿入されるべき親ウイルスゲノムの領域に相同な配列を含有するフラグメントを含む)は、ゲノムDNAまたはクローン化DNAフラグメントから得られ得る。ドナープラスミドは、一価、二価、または多価であり得る(すなわち、1つ以上の挿入された外来遺伝子配列を含み得る)。
【0046】
ドナーベクターは、好ましくは、さらなる遺伝子を含有する。この遺伝子は、挿入された外来DNAを含有する組換えウイルスの同定を可能にするマーカーをコードする。いくつかのタイプのマーカー遺伝子が使用されて、組換えウイルスの同定および単離を可能にし得る。これらは、抗生物質または化学薬品耐性をコードする遺伝子(例えば、Spyropoulosら、J.Virol.、62:1046 (1988);FalknerおよびMoss.、J. Virol.、62:1849 (1988);Frankeら、Mol.Cell. Biol.、5;1918 (1985)を参照のこと)、ならびに比色定量アッセイにより組換えウイルスプラークの同定を可能にするE. colilacZ遺伝子(Panicaliら、Gene、47:193-199 (1986))のような遺伝子を包含する。
【0047】
外来DNA配列のウイルスゲノム中への組み込みおよび組換え体の単離
感染細胞におけるドナープラスミドDNAとウイルスDNAとの間の相同組換えは、所望のエレメントを組み込む組換えウイルスの形成をもたらす。インビボ組換えのための適切な宿主細胞は、一般に、ウイルスで感染され得る真核生物細胞およびプラスミドベクターでトランスフェクトされ得る真核生物細胞である。ポックスウイルスとの使用に適切なこのような細胞の例は、ニワトリ胚線維芽細胞、HuTK143(ヒト)細胞、ならびにCV-1およびBSC-40(共にサルの腎臓)細胞である。ポックスウイルスでの細胞の感染およびプラスミドベクターでのこれらの細胞のトランスフェクションは、当該分野で標準的な技術により達成される(PanicaliおよびPaoletti、米国特許第4,603,112号、WO89/03429)。
【0048】
インビボ組換えに続いて、組換えウイルス後代を、いくつかの技術のうちの1つにより同定し得る。例えば、DNAドナーベクターを設計して、外来遺伝子を親ウイルスチミジンキナーゼ(TK)遺伝子中に挿入する場合、組み込まれたDNAを含有するウイルスはTK-であり、そしてこれに基づいて選択され得る(Mackettら、Proc.Natl. Acad. Sci. USA、79:7415(1982))。あるいは、マーカーまたは指標遺伝子をコードする遺伝子と目的の外来遺伝子との同時組み込みを使用して、上記のように、組換え後代を同定し得る。1つの好ましい指標遺伝子は、E.coli lacZ遺伝子である:βガラクトシダーゼを発現する組換えウイルスを、その酵素の色素生産性基質を用いて選択し得る(Panicaliら、Gene、47:193(1986))。
【0049】
組換えウイルスにより発現されるウイルス抗原の特徴付け
一旦組換えウイルスが同定されると、種々の方法を用いて挿入遺伝子によりコードされるポリペプチドの発現をアッセイし得る。これらの方法は、ブラックプラークアッセイ(ウイルス性プラーク上で行われるインサイチュ酵素免疫アッセイ)、ウエスタンブロット解析、放射性免疫沈降法(RIPA)、および酵素免疫アッセイ(EIA)を包含する。
【0050】
実施例1
PSA特異的免疫応答の発生
材料および方法
組換えワクシニアウイルス
ヒト前立腺特異的抗原の全オープンリーディングフレームをコードする786bpのDNAフラグメントを、ヒト転移性前立腺ガン細胞株であるLNCaP.FGC(CRL 1740,アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC),Rockville, MD)から抽出した全RNAから逆転写酵素PCR(GeneAmp RNA PCR Kit, Perkin Elmer, Norwalk,CT)により増幅した。PSAコード配列から誘導される推定アミノ酸配列は、公開された配列(Lundwallら、1987)とほとんど同一(220位でのアスパラギンからチロシンへの変化に関してのみ異なる)であることが示された。PSAの全コード配列、5'非翻訳領域の41ヌクレオチド、および3'非翻訳領域の520ヌクレオチドを含むPSADNAフラグメントを、ワクシニアウイルス移入ベクターpT116のXbaI制限エンドヌクレアーゼ切断部位に挿入した。得られるプラスミド(pT1001と命名する)は、ワクシニアウイルス40Kプロモーター(Gritzら、1990)の制御下でPSA遺伝子を、そしてニワトリポックスウイルスC1プロモーター(Jenkinsら、1991)の制御下でE.colilacZ遺伝子を含む。外来の遺伝子に、ワクシニアゲノムのHindIII M領域由来のDNA配列が隣接する。ワクシニアのWyeth(New York CityBoard of Health)株からプラーク精製された単離物を、組換えワクシニアウイルスの構築において親ウイルスとして用いた。組換えワクシニアウイルスの作製を、Wyethワクシニアゲノムのワクシニア配列と、pT1001でトランスフェクトされたワクシニア感染RK13細胞(CCL37, ATCC)中のpT1001の対応する配列との間の相同組換えにより達成した。組換えウイルスを、インサイチュでウイルスプラークに対して行った色素産生性アッセイ用いて同定した。このアッセイは、以前に記載されたように(Panacaliら、1986)、ハロゲン化されたインドリル-β-D-ガラクトシド(Blue gal)の存在下で、lacZ遺伝子産物の発現を検出する。適切な青色組換えウイルスを、4回のプラーク精製により精製した。感染RK13細胞溶解物を澄明化し、その後36%スクロースクッションを通して遠心分離することにより、ウイルスストックを調製した。
【0051】
組換えウイスルの特徴付け
DNA組換えのサザン分析
組換えワクシニアゲノムを、ウイルスDNA抽出、HindIIIでの制限エンドヌクレアーゼ消化、およびサザンブロッティングにより、以前に記載のように分析した(Kaufmanら、1991)。
【0052】
タンパク質発現のウエスタン分析
コンフルエントなBSC-40細胞を、2%ウシ胎児血清を含むDulbecco'sModified Eagle's Medium中でMOI1において、親野生型ワクシニアウイルス(V-Wyethと命名)または組換えワクシニア-PSA(rV-PSAと命名)のいずれかで感染させた。一晩の感染の後、培地を細胞から取り出し、そしてアリコートをメタノール沈澱し、分泌されたPSAの存在についてアッセイした。感染した細胞を、低張溶解緩衝液(150mMNaCl, 0.05% EDTA, 10mM KCl, 1mM PMSF)中で溶解し、次いで超音波処理した。細胞溶解物および培養培地をSDS-10%アクリルアミドゲル上で電気泳動した。タンパク質をニトロセルロースへトランスブロット(transblot)し、そしてこのブロットをPSAに特異的なウサギ抗体(PO798,Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)と共に室温で4時間インキュベートし、洗浄し、次いでヤギ抗ウサギホスファターゼ標識二次抗体(AP,Kirkegaard & Perry Laboratories, Gaithersburg, MD)と共にインキュベートし、そして製造者の説明書に従い発色させた。
【0053】
B細胞株の生成
サル自己Bリンパ芽球細胞株(BLCL)を、1×105個の新たに単離したPBMCをL-グルタミン、ゲンタマイシン、および10%FCS(Biofluids,Rockville, MD)で補充した100mlのRPMI 1640中で、S594細胞(M.D. Miller博士, Harvard MedicalSchool, New England Regional Primate Research Center, Southborough, MAにより好意で提供された)由来の100mlの上清(これは、ヒヒヘルペスウイルスであるHerpespapioを含む)で、96ウェル平底プレート(Costar, Cambridge, MA)中で感染させることにより樹立した。形質転換の後、細胞を拡大し、そして週に一度培地を取り替えた。
【0054】
サルの免疫化
年齢が1から2歳の12頭の若年の雄性アカゲザル(Macaca mulatta)を、各4頭の動物を含む3つのワクチン接種群に割り当てた。各群から1頭の動物を前立腺切除した。動物を、1日目、29日目、そして57日目に3回免疫化した。1×107PFUまたは1×108PFUいずれかの用量のrV-PSAを、4頭の動物に皮膚乱切により投与した。V-Wyeth(1×108PFU)をコントロールとして4頭の動物に投与した。これらの動物を、ToxicologyResearch Laboratory, University of Illinois at Chicago (TRL/UIC)で、NationalCancer Institute Animal Care and Use Committeeのガイドライン、ならびにGuide for the Careand Use of Laboratory Animals(Department of Health and Human ServicesPublication NIH 85-23、FDA Center for Biologics Evaluation and Research Officeof Biological Product Review, Division of Product Quality Control, Pathologyand Primatology Laboratory, Bethesda, MDにより1985年に改訂)に従い飼育し、そして維持した。
【0055】
毒物学
身体試験を、ケタミン(ケタミン(R)HCl、10mg/kg I.M.)で鎮静した動物について行った。直腸温度および体重を、各サルについて毎週記録した。ワクチン接種部位を観察し、紅斑および腫大をノギスで測定した。各動物を局所リンパ節腫大、肝腫、および脾腫について検査した。他のいかなる大きな異常もまた記録した。
【0056】
血液を、それぞれの免疫化の前後に、ケタミンで鎮静した動物の大腿静脈から静脈穿刺により得た。全血球算定、分画、ならびに肝臓および腎臓の化学的性質の評価を、各サルについてTRL/UICによって行った。結果を、正常な霊長類の値(Kantorら、1992b)と比較した。免疫化の前後のPSAの循環レベルを、ラジオイムノアッセイ(TandemTM,Hybritech, San Diego, CA) によって分析した。
【0057】
抗体力価の測定
各免疫化の前および各免疫化の2週間後に、抗PSA抗体をELISAにより定量化した。マイクロタイタープレートを、PBS中の精製PSA(100ng/ウェル、Calbiochem,La Jolla, CA)、オボアルブミン(100ng/ウェル、Sigma)、または1×107PFU/ウェルのUV不活性化V-Wyethでコートした。プレートをPBS中の2%BSAでブロックし、乾燥し、そして-20℃で使用するまで貯蔵した。プレートを1:5に希釈した血清、ならびに標準コントロールとしてのPSAに対するモノクローナル抗体(DAKOM750、Denmark)と共に、24時間4℃でインキュベートした。プレートを、1%BSAを含むPBSで数回洗浄し、そして西洋ワサビペルオキシターゼ結合ヤギ抗ヒトIgGまたはIgM重鎖特異的抗血清(1:8000)(SouthernBiotechnology Associates, Birmingham, AL)と共に37℃で45分間インキュベートし、そして抗体を、製造者の説明書に従って、HRP基質系(Kirkegaard& Perry Laboratories, Gaithersburg, MD)により検出した。各ウェルの吸光度を、Bio-Tek EL310マイクロプレートELISAリーダー(Winooski,VT)を用いて405nmで読んだ。
【0058】
リンパ球増殖アッセイ
自己サルBLCLを、3×106細胞/ウェルの密度で24ウェルプレートに、160mg/ウェルの精製PSA(Fitzgerald,Concord, MA)または160mg/ウェルのオボアルブミン(Sigma)と共に、37℃で24時間播種した。次いで、細胞をγ照射し(14000rad)、収集し、洗浄し、そして最終濃度1×107個/mlで懸濁した。最後の免疫化から6週間〜7ヶ月後に、ヘパリン処理した血液由来の新たなサルPBMCを、リンパ球分離培地(OrganonTeknika, West Chester, PA) で単離した。リンパ球増殖応答を、1.5×105個の細胞を、10%熱不活性化仔ウシ血清で補充したRPMI16400.2ml中の5×105細胞/ウェルの自己BLCLと、平底96ウェルプレート(Costar)中で5日間同時培養することにより評価した。PBMCを、リコール(recall)抗原としての2×107PFU/mlのUV不活性化V-Wyethまたは陽性コントロールとしての2mg/mlのCon-Aと共に培養した。細胞を、1mCi/ウェルの[3H]チミジン(NewEngland Nuclear, Wilmington, DE)でインキュベーションの最後の12〜18時間に標識し、そしてPHDセルハーベスター(CambridgeTechnology, Cambridge, MA)で収集した。取り込まれた放射活性を液体シンチレーション計数(LS 6000IC; Beckman,Duarte, CA) により測定した。3連のウェルからの結果を、平均化し、そして平均値±標準偏差として記録した。
【0059】
結果
組換えウイルスの作製および特徴付け
ヒトPSAのオープンリーディングフレームをコードするcDNAフラグメントを、PSA特異的オリゴヌクレオチドプライマー5'TCTAGAAGCCCCAAGCTTACCACCTGCA 3'(配列番号1)、5'TCTAGATCAGGGGTTGGCCACGATGGTGTCCTTGATCCACT 3'(配列番号2)を用いた逆転写酵素PCRにより得、そしてワクシニアウイルス移入ベクターpT106へ連結した。このベクターは、挿入された遺伝子産物の合成を駆動するために、マルチクローニング部位の上流に、強力なワクシニアウイルス初期/後期プロモーター(P40と命名)を含む。PSADNAフラグメントの結合および配向、ならびにプロモーターの位置を、PCRおよび配列決定により確認した。キメラベクター構築物を、ワクシニアウイルスゲノムHindIIIM部位に、以前報告されたように(Kaufmanら、(1991))相同組換えにより挿入し、そしてPSA配列およびHind III M領域のワクシニア配列に対応する32P放射標識DNAでプローブするサザン分析により確認した(データ示さず)。ワクシニアウイルスクローン中のPSAの全cDNA配列は、公開された配列(Lundwallら、1987)とほとんど同一であることが示された。
【0060】
組換えタンパク質の発現を、rV-PSA感染BSC-40細胞由来の上清液およびタンパク質抽出物のウエスタンブロット分析で確認した。これらの細胞は、組換えワクシニア産物の評価のために日常的に用いられる(Mossら、1993)。ウサギ抗PSA抗体とのrV-PSA感染細胞由来の細胞上清ブロットのインキュベーションは、単一の約33,000ダルトンの免疫反応性ポリぺプチドを明らかにした(図1、レーン2〜4)。同様に、rV-PSA感染細胞由来のタンパク質抽出物ブロットのインキュベーションは、同一の分子量の単一バンドを明らかにした(図1、レーン7〜9)。これは、PSA分子の予想されるサイズ(Armbrusterら、1993;Wangら、1982)と一致する。親株V-Wyethで感染させた細胞由来の細胞上清ブロット(レーン1)またはタンパク質抽出物ブロット(レーン6)は、PSAの発現に関して陰性のままであった。従って、これらの結果は、組換えワクシニアウイルスが、ヒトPSA遺伝子産物を忠実に発現し得ることを実証する。
【0061】
アカゲザルモデル
アカゲザルの前立腺は、ヒト前立腺と構造的および機能的に類似している(Wakuiら、1992)。分子レベルにおいて、アカゲザルPSA(Gauthierら、1993)およびヒト前立腺特異的抗原(Karrら、1995;Lundwallら、1987)のアミノ酸配列間および核酸配列間の両方に94%の相同性がある。ヒトPSAは、アカゲザル中で本質的に自己抗原である。
【0062】
実験設計
表1は、12頭のアカゲザルの、rV-PSAまたはコントロールV-Wyethのいずれかを用いた皮膚乱切による免疫化において用いたプロトコルを概説する。4頭の動物の3つの群を、1×107PFU/用量でのrV-PSA、1×108PFU/用量でのrV-PSA、または108PFU/用量でのV-Wyethのいずれかで、4週間間隔で3回免疫化した。これらの用量を、安全性のための最大の許容用量を確認するため、ならびにPSAに対する最大の体液性および細胞媒介性応答を得るために選択した。
【0063】
アカゲザルを、3つの群に分けた:高用量V-Wyeth、低用量rV-PSA、および高用量rV-PSA。各群の動物の1頭を、外科的に前立腺切除し、ヒトにおける可能な治療に関しての以下の2つの状況を平行させた:(a)前立腺無傷で、原発性および/または転移性の疾患を有する;あるいは、(b)前立腺ガン転移性沈着を有する前立腺切除された患者。無傷の前立腺の存在は、おそらく抗原「巣(sink)」として働き得、抗原の持続を通してアネルギーを誘導するか、または反応性の細胞または抗体を隔絶することによって免疫学的効果をマスクするかのいずれかであり得る。
【0064】
免疫化の身体的結果
rV-PSAまたはV-Wyethにより誘導された病変の領域を、各接種後7日目に分析した。一般的に、2回目の接種に比較して、より多くの硬化が最初の接種の後に見られた(図2A)。3回目の接種の後、ワクチン接種部位の腫大は存在しなかった。各免疫化後の病変の持続期間は、接種に度により短くなった(図2B)。ワクチン接種後の局所的リンパ節の腫大は、1回目の免疫化の後が、2回目、または3回目の免疫化に比較して、ほとんどのサルにおいて大きかった(図2C)。一般的に、rV-PSAまたはV-Wyethを用いた場合、これらのパラメーターには何の差異も見られなかった。V-Wyethを受けたサルを、rV-PSAを受けたサルと、体質的な徴候に関して比較した。わずかな体温の上昇が、ワクチン接種の後、全ての動物において見られた。体重の減少、肝腫または脾腫の証拠はいずれの動物においても存在しなかった。そして、V-WyethまたはrV-PSAで処置した動物の間に何ら差異はなかった(データ示さず)。動物を、全血球算定、分画、ならびに肝臓および腎臓の化学的性質について試験した。全血球算定は、V-WyethおよびrV-PSAで免疫化した動物の両方について研究を通して、正常な限度内のままであった(表2)。肝臓および腎臓の機能を、免疫化の前および最初の免疫化の12週間後に評価した(表3)。分析したパラメーターには、アルカリホスファターゼ、血中尿素窒素、アラニンアミノトランスフェラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、ならびにクレアチンおよびクレアチンキナーゼのレベルが含まれた。V-WyethまたはrV-PSAを受けた動物の間で有意な差異はなかった。いかなる免疫化の後にも、これらいずれのサルの循環中には検出可能なPSAは存在しなかった(検出限界は、0.1ng/mlであった)。現在の時点(これは、全ての免疫化の54週間後)で、いかなる群のサル(前立腺切除されたサルを含む)にも毒性は観察されなかった。
【0065】
PSA特異的体液性応答
表1に示すように、サル1〜4には、V-Wyethを投与し、サル5〜12にはrV-PSAを投与した。これらのサルの各々由来の血清を、PSAまたはUV-不活性化V-Wyeth、およびコントロール抗原としてのオボアルブミンに対する免疫反応性に関してELISAによって分析した。ワクチン接種の前にサルから得た血清は、PSAに対する反応性に関して陰性であった(表4、PI)。最初の免疫化の15日後に、1×108用量および1×107用量のrV-PSA群の両方のサルが、PSAに特異的な低力価IgM抗体を発達させた(力価は1:5血清希釈で測定した)。抗体の他のアイソタイプ(isotope)(IgG、IgA、IgM)を分析したが、270日の観察期間を通して、IgMだけがrV-PSAによって誘導された。抗体力価は、次の接種前に4週間にわたって減少した。29日目の2回目のワクチン接種前に、1×107rV-PSA群の動物においては4頭のうちの3頭がPSA抗体に関して陽性のままであったが、1×108rV-PSA群の動物においては4頭のうちの4頭が陽性のままであった。抗PSA抗体力価は、29日目の2回目のワクチン接種後に増加したが、57日目の3回目のワクチン接種後には静止したままであった。最初の免疫化の270日後まで、全ての動物はPSAIgM抗体に関して陰性のままであった。サルは、観察期間を通し、PSAに特異的なIgGについて陰性であった(データ示さず)。rV-PSA用量と抗PSAIgM力価との間には何の相関もなく、またいかなる見かけの前立腺切除の効果もなかった。全てのサル血清が、すべての時点でオボアルブミンに対するIgGについてもIgMについても陰性であった;しかし、陽性コントロールとして、3つすべての処置群のおけるワクシニアウイルスに対するIgG力価は、早くも最初の免疫化後の29日目で1:2000よりも高かった(データ示さず)。
【0066】
一般的に、ワクシニアウイルスは、弱いヒト病原体である(Paolettiら、1993)。ワクチン接種後において、局所的な紅斑、硬化、低程度発熱、および局所リンパ節腫大は一般的である。ウイルスは、皮膚の上皮細胞で複製し、そしてこのウイルスは通常14日以内に消滅する。全てのサルは(V-WyethまたはrV-PSAのいずれが与えられようと)、ワクシニアウイルス感染の通常の低程度の体質的な徴候を呈した(図2)。血球算定、分画、肝臓および腎臓の化学的性質における変化に示されるように、いかなる有害な効果の証拠もなかった(表2〜3)。サルは、54週間の観察を通して健康に見え、毒性の身体的な徴候は無かった。
【0067】
rV-PSA構築物は、抗PSAIgG応答を誘発し得なかったが、PSA特異的IgM応答は、用量レベルに関わらず全てのrV-PSA免疫化サルにおいて認められた(表4)。これらの抗体応答は、低力価で、短期間であり、そして追加免疫され得なかった。このことは、記憶B細胞または親和性成熟の誘導ではなく一次応答の誘導を示す。
【0068】
PSA特異的リンパ球増殖アッセイ
rV-PSAまたはV-Wyethで免疫化したサルのPSA特異的T細胞応答を、リンパ球増殖アッセイを用いて分析した。表5に見られるように、分析した全てのサル由来のPBMCが、それらがrV-PSAまたはV-Wyethを受けたかどうかに関わらず、リンパ球マイトジェンであるコンカナバリンA、ならびにリコール抗原であるUV不活性化V-Wyethに応答した。培地単独またはオボアルブミンへの応答に対するPSAへの応答の差異が、1×107PFUのrV-PSA群の1頭の動物(6番)において見られた。しかし、1×108PFUのrV-PSA群の動物由来の全てのPBMCが、このアッセイにおいてPSAに応答した。この実験を、5回繰り返し、類似の結果を得た。表5に示すデータは、最初の免疫化の270日後にサルから単離したPBMCからのものである。前立腺切除したサルにおいて、PSA特異的T細胞応答には何ら違いは見られなかった。
【0069】
rV-PSAの投与に対する細胞媒介応答を調べるために、組換えワクチンを受けた動物由来のPBMCを用いて、リンパ球増殖アッセイを行った。リンパ球増殖アッセイにより示されるように、低用量のrV-PSA(1×107PFU)を受けた4頭のサルのうち1頭、およびより高い用量(1×108PFU)を受けた4頭のうち4頭が、PSAタンパク質に対する特異的T細胞応答を、最初の免疫化の270日後まで維持した(表5)。前立腺切除は、rV-PSAを受けたサルの体液性または細胞内の応答のいずれに対しても影響を及ぼさないようであった。成熟抗体アイソタイプ(isotope)を有さないサルにおけるPSA特異的T細胞応答の証拠は、rV-PSAでのワクチン接種後の以下の2つの異なる事象に起因し得る:IgM産生を導くT細胞非依存性事象、および特異的リンパ球増殖応答を導くT細胞依存性事象。
【0070】
【表1】

【0071】
全ての動物が4週間の間隔で3回の免疫化を受けた。
【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
a全てのサルの血清が全ての時点でPSAに対するIgGに関して陰性であった;
71日目において全ての血清がワクシニアウイルスに対するIgGに関して陽性であった(>1:2000)。
bサルは、1、29、および57日目にワクチン接種を受けた。血清(1:5)をELISAによって試験した。力価を、0.4のO.D.を用いて計算した。
c動物を前立腺切除した。
dPI、免疫前
e追加免疫前に動物を放血した。
fND、検出不可能;検出限界は、<1:5希釈であった。
gNT、試験せず。
【0076】
【表5】

【0077】
a抗原の濃度は以下の通りであった:Con a(2μg/ml); オボアルブミン(100μg/ml);UV-Wyeth(2×107pfu/ml);およびPSA(100μg/ml)。各値は、3連のサンプルの平均CPMを表す。標準偏差は、10%を決して越えなかった。
bNT、試験せず。B細胞は、この動物については形質転換されなかった。
c動物を前立腺切除した。
d太字の値は、それらのそれぞれの培地コントロール値と比較した場合、有意である(p<0.001)。
【0078】
実施例II
潜在的な前立腺特異的抗原(PSA)特異的T細胞エピトープの同定
ヒトPSAの全アミノ酸配列が公知であり、そしてヒトクラス1HLA A2コンセンサスモチーフが記載されているので、クラス1 A2分子に潜在的に結合する一連のペプチドを同定するための研究を行った。A2を選択したのは、A2は、北アメリカ系カフカス人の約50%およびアフリカ系アメリカ人の34%に代表される最も一般的なHLAクラス1分子であるからである。従って、PSAのペプチド配列を、HLAA2結合ペプチドのコンセンサスモチーフとの適合について試験した。ペプチドを、それらの配列が、PSA関連ヒト腺性カリクレイン(HGK)遺伝子および膵臓性カリクレイン抗原(PKA)配列と十分に異なる場合にのみ選択した。
【0079】
ヒトPSAのアミノ酸配列を、アンカー残基についての検索と全ての位置での全ての残基に対する数の割り当て(numericalassignment)とを組み合わせる予測的なアルゴリズムを用いて細かく調べた。次いで、T2細胞結合アッセイを用いて、どのペプチドがヒトHLA A2分子と結合したか決定した。表6から理解され得るように、PSAペプチド141-150、154-163、および146-154がこのアッセイにおいて陽性を獲得した(Nijman,H.W.ら、Eur. J. Immunol. 23:1215-1219、1993)。表7はこれらのペプチドのアミノ酸配列を提供し、そしてそれらをHGKおよびPKAの対応する配列と比較する。
【0080】
【表6】

【0081】
ペプチドを50μg/mlの濃度で使用した
a 平均チャンネル蛍光強度。
【0082】
CIRA2細胞株を、抗A2染色のためのポジティブコントロールとして使用した[99.4(241.15)]。
【0083】
表7
PSAペプチドアミノ酸配列
【0084】
【表7】

【0085】
実施例III
PSAを発現するヒト腫瘍細胞を細胞溶解するヒトT細胞株の樹立
HLA A2クラス1対立遺伝子を発現する正常な健康ドナー由来のPBMCを、PSA特異的ペプチドがヒトに対して免疫原性であるかどうかを決定するための試みにおいて使用した。ペプチド141-150および154-163をこの研究で使用した。これらの細胞株の樹立のために使用した方法論は、前記のように、PBMCとペプチドおよびIL-2とをパルスすることを包含する(Tsang,K.Y.ら、JNCI、印刷中、および米国特許出願第08/396,385号、これらの開示は本明細書中で参考として援用される)。T細胞株を、PSAペプチド141-150を用いて5/6正常ドナーから、およびPSAペプチド154-163を用いて6/6通常ドナーから樹立し得る。さらに、PBMCを2人の前立腺ガン患者から得た。T細胞株を、これらのPBMC培養物からペプチド154-163を用いて樹立した。
【0086】
これらのT細胞株のいくつかについて表現型を決定した。表8に示すように、T-866と称される1つの細胞株(これはペプチド141-150でパルスすることにより得られた)は、かなりの量のCD4+/CD8+二重陽性細胞を含み、そしてペプチド154-163でパルスすることにより得られたT-1538と称される別の細胞株は、同様の表現型を示す。
【0087】
次いで、3人の異なる個体から得られたT細胞株のうちの4つを、それらのヒト細胞を溶解する能力についてアッセイした(表9)。表9に示すように、ペプチド141-150から得られたT-866と称されるT細胞株は、適切なペプチド(141-150)でパルスした場合、T2細胞を溶解し得た。PSA陰性ヒト結腸ガン細胞株COLO-205を用いた場合、溶解は観察されなかった。一方、ヒト前立腺ガン細胞株を含むLNCAPPSAを用いた場合、80%の溶解が観察された。NK標的K562を用いた場合(これはNK細胞活性による非特異的溶解を測定する)、わずか23%の溶解が得られた。PSAペプチド154-163でパルスすることにより得られた、同じ患者から得られる異なるT細胞株を用いた場合、同様の結果が観察された。ペプチド154-163から得られた2つのさらなるT細胞株もまた解析した。1つは正常ドナー由来であり(T-1538)、そして1つは前立腺ガン患者由来であった(T-PC2)。表9から理解し得るように、これらのT細胞株の両方を用いた場合、T2細胞株をペプチド154-163でパルスした場合に増大した溶解が観察され、そしてPSAを発現する前立腺特異的細胞株LNCAPを用いた場合、COLO-205またはK562と比較して、増大した溶解が観察された。これらの研究は、本明細書によりもたらされるペプチドおよびプロトコルを用いて、PSAを発現するヒトプロテアーゼ癌腫細胞を溶解する能力を有するT細胞株を樹立し得ることを示す。
【0088】
【表8】

【0089】
【表9−1】

【0090】
【表9−2】

【0091】
a 111In特異的放出のパーセント
24時間の細胞傷害性アッセイ(E:T比、25:1)(SD<2.5%)
【0092】
【数1−1】

【0093】
【数1−2】

【0094】
【数1−3】

【0095】
【数1−4】

【0096】
【数1−5】


【0097】
本発明は、詳細に記載されており、その好ましい実施態様を包含する。しかし、当業者は、本発明の開示を考慮すれば、請求の範囲に記載される本発明の精神および範囲を逸脱することなく、その改変および改良をなし得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は、rV-PSA感染BSC-40細胞からのPSAのウェスタンブロットを示す。レーン2〜4は、1のMOIでrV-PSAに一晩感染させた細胞の上清液からの抽出物であり、一方レーン7〜9は対応する感染細胞からの抽出物である。レーン1および7は、V-Wyeth感染細胞からの上清抽出物および細胞抽出物である。ブロットを、ヒトPSAに特異的なMAbを用いて発色させた。このブロットは、rV-PSAに感染した細胞が33kDPSAタンパク質を確実に発現し、そして分泌することを示す。
【図2】図2A、2Bおよび2Cは、rV-PSA免疫の発現を示す。図2Aにおいて、病変の領域を、V-Wyeth(白丸)またはrV-PSA(黒丸)のいずれかでのアカゲザルの各接種の7日後に測定した。図2Bにおいて、病変の持続時間を、瘡蓋の消失の時間としてモニターした。図2Cにおいて、ワクシニアウイルスで接種した7日後に、リンパ節の腫大の程度を記録し、そして非常な腫大(3+)、すなわち2つより多くの腋窩節が腫大している;腫大(2+)、すなわち1または2つの節が容易にわかる;わずかな腫大(1+)、すなわち1つの節がかろうじてわかる;または腫大なし(0)として特徴づけた。各記号は1匹のサルを示す。
【0099】
(配列表)
【数2−1】

【0100】
【数2−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
実施例に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−197938(P2006−197938A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38681(P2006−38681)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【分割の表示】特願平9−505834の分割
【原出願日】平成8年6月26日(1996.6.26)
【出願人】(398029739)セリオン バイオロジクス コーポレイション (2)
【出願人】(505270979)アメリカ合衆国 (5)
【Fターム(参考)】