説明

前立腺癌を治療する方法及び組成物

アンドロゲン結合領域を含むポリペプチドであって、哺乳類被験体へのポリペプチドの投与に際して生物学的に利用可能なアンドロゲンのレベルが減少するように、十分な親和性又は結合活性でアンドロゲンに結合することができるアンドロゲン結合領域を含むポリペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に腫瘍学分野に関し、より詳細には、前立腺癌の予防又は治療におけるポリペプチド及びポリペプチド複合体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は世界中で著しい罹患率及び死亡率をもたらす疾患である。最も優勢な形(前立腺腺癌)は、前立腺の分泌腺房を裏打ちする上皮細胞の悪性形質転換及びクローン性増殖から生じる。移行上皮癌、間葉腫瘍及びリンパ腫を含む、他の前立腺細胞タイプから生じる癌は、あまり一般的ではない。
【0003】
前立腺腺癌は、アフリカの一部に加えて、北アメリカ、北西ヨーロッパ、オーストラリア及びニュージーランドにおいて、最も一般に診断される男性の内臓の悪性腫瘍である。650,000を超える新しい症例が2002年に世界中で診断され、30%を超える死亡率であった。オーストラリアにおいて、11,191の新しい症例が2001年に診断され(100,000あたり128.5の年齢調整発生率)、2,718人の男性がその疾患で死亡した。発生率はアメリカ合衆国においてより高く(1年あたり100,000あたり173.8)、230,000を超える新しい症例の診断及び30,000を超える死亡が2005年に推定された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この疾患の有病率及び重要性を考慮して、前立腺癌の制御又は治癒の達成に向けて重要な研究が行なわれてきた。当技術分野において公知の多数の治療があり、それらのすべては少なくとも1つの有害な副作用を有する。
【0005】
領域リンパ節郭清あり又はなしの根治的前立腺摘除による前立腺の外科切除が、他のすべての治療法を評価する尺度である。標準的な恥骨後式アプローチは1980年代に再普及し、高治癒率及び低罹患率の手順へと改良された。注意深い患者選択により、75%の10年間生化学的無再発率が報告される。骨盤の解剖学の(特に前立腺尖部及び神経血管束の走行の)理解の改善により、2つの最も一般的な合併症(失禁及びインポテンス)は減少したが、これらの副作用は重要な問題のままである。
【0006】
外部ビーム放射線療法は、前立腺腫瘍に照射された総線量に比例した好結果で、幾人かの患者において長期生存を達成することができる。直腸及び泌尿器の毒性のために中央線量が限定される初期のシリーズでは、生化学的再発が患者の50%以上で生じた。原体照射プロトコール又は強度変調プロトコールの使用などの放射線計画及び照射における改善は、標的体積が腫瘍体積に一致する精度を増加させ、より高い線量の放射線療法を合併症の増加なしに照射することを可能にする。最新のシリーズは、根治的前立腺摘除と同様の10年間生化学的無再発生存を有している。有効率は神経温存手術により達成されたものと大幅に異ならないが、主な差は、少なくとも短期では、より低いリスクの尿失禁及びインポテンスに関する放射線療法による副作用プロフィールである。慢性的な放射線性膀胱炎又は放射線性直腸炎などの重篤な毒性は、生じた場合管理することが特に困難になりえる。
【0007】
近接照射療法は、前立腺の中への放射性シードの経会陰的な直接的配置を含んでおり、高度に選択された症例のための根治的前立腺摘除に類似する生化学的無再発生存率が報告されている。2つのタイプの放射線源が使用され、それらの両方には短距離の作用があり、それらは典型的には前立腺に永続的に配置されるヨウ素−125シード又はパラジウム−103シードの低エネルギー源、及び一時的に配置されるイリジウム−192シードなどの高エネルギー源である。外部ビーム放射線療法を上回るこの技術の主な利点は、経直腸超音波制御下で、正確な術前のコンピューター断層撮影計画及び適切なシード配置により、直腸及び神経脈管の副作用のより低い発生率で、はるかに高い放射線量の照射をもたらす高い原体照射線量分布を達成することができるということである。主な問題点の1つは、最新手段でさえ、シードの移動、個々のシードの異方性及び不正確なニードル配置のために、計画された移植と実際の移植との間の線量測定においてミスマッチが起こることである。不十分な線量測定が術後の画像追加移植で疑われる症例において、又は高リスクの症例のために、補助的低線量外部ビーム放射線療法を追加できる。主な合併症は、急性尿閉を引き起こしうる腺浮腫に起因する閉塞性尿路症状である。形式的な経尿道的切除術に続く尿失禁の高いリスクもまたある。
【0008】
一旦癌細胞が前立腺から遠隔領域に転移してしまったならば、腺の摘出は過剰である。PSA検査による早期診断の機会があるにもかかわらず、米国における患者の少なくとも14%はなお前立腺の外側に広がった疾患を示し、もはや治癒的療法は適用可能ではないことが推定される。更に、最初に治癒目的で治療された患者の30〜40%は最終的には成功しないだろう。アンドロゲン枯渇療法(ADT)は、転移性疾患に罹患する患者のための通常の第一選択治療である。初期の無作為化試験から、ADTによる進行性前立腺癌の治療は、症状を改善し、進行を遅延させ、恐らく85〜95%の報告された寛解率で生存を延長することが立証された。
【0009】
疾患のいくつかのステージでの前立腺癌細胞の増殖はアンドロゲンの存在に依存しうる。血液中のアンドロゲンのレベルを変化させる方法は長年の間の集中的な研究の対象であり、標的とされうるアンドロゲン内分泌軸中の多数の部位を明らかにし、最も強力な方法は両側精巣摘除又は去勢手術であった。長年、この手順はアンドロゲン枯渇の達成のために「最も基準となる方法」だった。精巣の摘出に続いて、血清テストステロンは急速に落ち、9時間以内に去勢レベル(<50ng/ml)に達する。副作用は、このテストステロンの減少に対する二次的なものであり、顔面紅潮、性的衝動減少、疲労及び勃起障害を含む。骨粗鬆症、体重増加、筋肉量の減量、貧血及び認知機能の低下を含む中長期合併症が認められるようになる。比較的低い費用であるにもかかわらず、去勢手術は、その不可逆的性質及び患者に対する有害な心理的影響のために支持されない。
【0010】
アンドロゲンレベルは、LHRHのアゴニスト及びアンタゴニストを使用して低下させることができる。ロイプロリド、ゴセレリン及びトリプトレリンを含む薬剤は、LHRHのペプチドアナログであり、1〜4か月ごとに皮下デポー注射として与えられる。パルス様式で視床下部から放出された場合、LHRHは、下垂体前葉からのLHの放出、及びそれにより睾丸でのテストステロンの産生を刺激する。しかしながら、超生理学的レベルの長期投与は、テストステロン分泌が最初に増加した後に、その同族受容体のダウンレギュレーション及びLH放出の抑制を導く。テストステロンの去勢レベルは3〜4週間以内に見られる。最初の「テストステロンフレア反応」のために、最初にLHRHアゴニストを開始するときには、重篤な腫瘍沈着を持った患者は抗アンドロゲンにより保護されていなければならない。LHRHのアゴニスト及びアンタゴニストによる治療の副作用は、両側精巣摘除後に見られる副作用と同一である。
【0011】
他のクラスの薬物は抗アンドロゲンである。これらの薬剤は、テストステロン及びジヒドロテストステロン(DHT)とアンドロゲン受容体(AR)結合を競合するが、それ自体は受容体を活性化しない。ビカルタミド、フルタミド及びニルタミドなどの非ステロイド性抗アンドロゲン剤は、アンドロゲン受容体(テストステロンが古典的な負のフィードバックループでLHRH分泌を阻害する視床下部に含まれる)のレベルにのみ作用する。LH分泌及び従って血清テストステロンは高いままであり、去勢により発症した性的副作用は減少する。しかしながら、テストステロンのエストラジオールへの末梢組織における芳香環化のために、女性化乳房及び乳房痛は一般的であり厄介である。プロゲスチン酢酸シプロテロンなどのステロイド性抗アンドロゲン剤はLH分泌もまた阻害するが、外科的及び内科的去勢の性的副作用に関連する。少なくとも、転移性疾患において、抗アンドロゲン剤の単独療法は、去勢より劣っていることが示され、その使用は、従って、アンドロゲン抑制の副作用を許容することができないか、又は副作用を嫌がる患者に限定されている。
【0012】
抗アンドロゲン剤をLHRHアゴニストと長期間組合せることは、このレジメンが副腎に由来するテストステロンの残りの5〜10%の効果を阻害するので、最大のアンドロゲン遮断と呼ばれる。去勢単独と比較した生存の改善はいくつかの研究で報告されるが、第一選択ホルモン療法としてのルーチン使用は費用の増加及び副作用プロフィールのためにたいていは推奨されない。
【0013】
エストロゲンもまたアンドロゲンを枯渇させる能力について当技術分野において公知である。最初はホルモンが最適治療であるが、ジエチルスチルベストロール(視床下部からのLHRHの放出の阻害によってテストステロン産生を抑制する)は、心臓血管毒性に対する懸念のために第一選択薬剤としては現在まれにしか使用されない。
【0014】
従って先行技術は、前立腺癌細胞の物理的な摘出又は破壊のいずれかの多数の治療様式について記述する。他のアプローチは、外科的又は化学的な手段によって血中循環テストステロンの量を制限することに集中する。先行技術の前述の説明から、すべての治療が少なくとも1つの問題を有しており、従って、特定のクラスの患者のためには不適当でありうることは明らかである。本発明の態様は、前立腺癌のための代わりの治療の提供によって先行技術の問題を克服又は解決するものである。
【0015】
先行技術として与えられる特許文献又は他の物質に対する本明細書における参照は、その文献又は物質が、オーストラリアで公知であったか、又はそれが含む情報が、任意の請求項の優先日の時点で共通一般知識の一部であったという承認として理解することはできない。
【0016】
明細書の説明及び請求項の全体にわたって、単語「含む(comprise)」ならびに「含むこと(comprising)」及び「含む(comprises)」などの単語の変化は、他の添加物、成分、整数又は工程を除外するようには意図されない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
1つの態様において、本発明は、アンドロゲン結合領域を含むポリペプチドであって、哺乳類被験体へのポリペプチドの投与に際して生物学的に利用可能なアンドロゲンのレベルが減少するように、十分な親和性又は結合活性でアンドロゲンに結合することができるアンドロゲン結合領域を含むポリペプチドを提供する。出願人は、身体中のアンドロゲン(例えばテストステロン又はジヒドロテストステロン)を隔離可能なポリペプチドの投与が前立腺癌の治療において有効性を有しうることを提唱する。
【0018】
本発明に関連して、生物学的に利用可能なアンドロゲンのレベルは、被験体の血液中で、又は前立腺細胞及び特に前立腺上皮細胞内で測定することができる。本発明の1つの形態において、ポリペプチドは、被験体の前立腺癌細胞の増殖を減少又は実質的に停止させるように、生物学的に利用可能なアンドロゲンのレベルを減少させることができる。
【0019】
ポリペプチドは、アンドロゲンと性ホルモン結合グロブリンなどのテストステロンに天然に結合するタンパク質との間の親和性以上のテストステロンに対する親和性を有することができる。ポリペプチドは、テストステロンと、前立腺上皮細胞中に存在する5−αレダクターゼ酵素又は前立腺上皮細胞中に存在するアンドロゲン受容体との間の親和性以上のテストステロンに対する親和性を有することができる。
【0020】
本発明の他の形態において、ポリペプチドは、ジヒドロテストステロンと前立腺上皮細胞中に存在するアンドロゲン受容体との間の親和性以上のジヒドロテストステロンに対する親和性を有する。
【0021】
ポリペプチドの1つの形態において、アンドロゲン結合領域は、ヒトアンドロゲン受容体からのアンドロゲン結合ドメイン、又は性ホルモン結合グロブリンからのアンドロゲン結合ドメインを含む。
【0022】
本発明の1つの形態において、ポリペプチドは単一のアンドロゲン結合領域を有する。他の形態において、ポリペプチドは、ヒトIgGのFc領域などの担体領域を含む。ポリペプチドのさらなる形態は多量体化ドメインを含む。ポリペプチドは、融合タンパク質、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、又は一本鎖抗体の形態をとることができる。
【0023】
ポリペプチドは前立腺細胞、及び特に前立腺上皮細胞に侵入することが可能でありえる。
【0024】
他の態様において、本発明は、本明細書において記述されるようなポリペプチドをコードすることができる核酸分子を提供する。本発明のさらなる態様は、本明細書において記述されるような核酸分子を含むベクターを提供する。
【0025】
他の態様において、本発明は、本明細書において記述されるようなポリペプチド及び薬学的に許容される担体を含む組成物を提供する。
【0026】
本発明のなおさらなる態様は、被験体中の前立腺癌を治療又は予防するための方法であって、その必要性のある被験体に、被験体中の生物学的に利用可能なアンドロゲンのレベルが減少するように、被験体中のアンドロゲンを結合可能なリガンドの有効量を投与することを含む方法を提供する。本方法の1つの実施形態において、リガンドは本明細書において記述されるようなポリペプチドである。
【0027】
本発明の他の態様は前立腺癌を治療又は予防する方法であって、その必要性のある被験体に、本明細書において記述されるような核酸分子、又は本明細書において記述されるようなベクターの有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0028】
なおさらなる態様において、本発明は、その必要性のある被験体に本明細書において記述されるようなポリペプチドの有効量を投与することを含むテストステロンフレアを治療又は予防する方法を提供する。
【0029】
本発明のなおさらなる態様は、前立腺癌又はテストステロンフレアの治療又は予防のための医薬品の製造における本明細書において記述されるようなポリペプチドのその使用を提供する。
【0030】
他の態様において、本発明は、前立腺癌又はテストステロンフレアの治療又は予防のための医薬品の製造における本明細書において記述されるような核酸分子の使用を提供する。
【0031】
なおさらなる態様は、前立腺癌又はテストステロンフレアの治療又は予防のための医薬品の製造における本明細書において記述されるようなベクターの使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】pFUSE−hIgG1−Fc2のマップを示した図である。
【図2】pFUSE−hIgG1e2−Fc2のマップを示した図である。
【図3】pFUSE−mIgG1−Fc2のマップを示した図である。
【図4】AR IgG1 Fc融合タンパク質及びIgG1 Fc対照融合タンパク質のウエスタンブロットを示した図である。
【図5】カルセイン蛍光測定によって査定される、様々な培地及び処理の存在下におけるヒト前立腺癌細胞株LNCaPの5日にわたる増殖を示す棒グラフである。
【図6A】既知の遊離テストステロン濃度の標準曲線vs対照マウス血清の遊離テストステロン濃度、及びAR−IgG1 Fc融合タンパク質を注射したマウスからの血清の遊離テストステロン濃度を図示するグラフである。
【図6B】AR IgG Fc融合タンパク質(25ng)を注射したマウス、又は注射しないマウスのいずれかの血清中の遊離テストステロンレベルの平均値を示す棒グラフである。
【図6C】AR−LBD IgG1 Fc融合タンパク質(1ng/μlを200μl)又は対照IgG1 Fcタンパク質(1ng/μlを200μl)のいずれかを注射したSCID/NODマウスの血清中の遊離テストステロンレベルの平均値を示す棒グラフである。
【図6D】AR−LBD IgG1 Fc融合タンパク質(1ng/μlを200μl)又は対照IgG1 Fcタンパク質(1ng/μlを200μl)を注射したSCID/NODマウスの血清中の遊離テストステロンレベルの平均パーセンテージ値を示す棒グラフである。
【図7A】対照IgG1 Fcタンパク質又はAR−LBD IgG1 Fc融合タンパク質のいずれかを2回注射したヌードマウスの最終的な前立腺腫瘍サイズの代表的な画像を図示したものである。
【図7B】対照IgG1 Fcタンパク質又はAR−LBD IgG1 Fc融合タンパク質のいずれかを2回注射したオスのヌードマウスの実験の時間経過を通じての前立腺腫瘍体積のグラフである。
【図7C】対照IgG1 Fcタンパク質(IgG)又はAR−LBD IgG1 Fc融合タンパク質(AR)のいずれかを2回注射したオスのヌードマウスの最終的な前立腺腫瘍重量(mg)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
第1の態様において、本発明は、アンドロゲン結合領域を含むポリペプチドであって、哺乳類被験体へのポリペプチドの投与に際して生物学的に利用可能なアンドロゲンのレベルが減少するように、十分な親和性又は結合活性でアンドロゲンに結合することができるアンドロゲン結合領域を含むポリペプチドを提供する。出願人は、アンドロゲンに結合する能力を有するポリペプチドが、前立腺癌細胞中のアンドロゲン受容体を生物学的に刺激することができるテストステロン及びジヒドロテストステロンなどのホルモンのレベルを減少させるのに有用であることを提唱する。事象の正常な過程において、アンドロゲン受容体はテストステロン又はその活性代謝物のジヒドロテストステロンを結合する。熱ショックタンパク質の解離の後に、受容体は内因性の核移行シグナルを介して核へ侵入する。ステロイドホルモンの結合(それは細胞質中で、又は核中で生じうる)と同時に、アンドロゲン受容体は、アンドロゲン標的遺伝子の上流プロモーター配列中のエンハンサーとして存在する特異的なDNA要素へホモ二量体として結合する。次の工程は、転写機構の受容体及び複数の構成要素との間のコミュニケーションの橋渡しを形成できるコアクチベーターの動員である。RNAポリメラーゼII、TATAボックス結合タンパク質(TBP)、TBP会合因子、及び基本転写因子などの転写機構の複数の構成要素とのアンドロゲン受容体複合体の直接的及び間接的なコミュニケーションは、核シグナル伝達における鍵となるイベントである。このコミュニケーションは、続いてmRNAの合成、及び従ってタンパク質合成を引き起こし、それは最終的にアンドロゲン反応をもたらす。
【0034】
前立腺上皮細胞におけるアンドロゲン受容体の活性化は、G1を通した進行を駆動するcdk2及びcdk4などのタンパク質をコードする遺伝子の転写を増加させることによって細胞増殖を刺激し、Rb低リン酸化及び細胞分裂へのコミットメントを最終的に導く。アンドロゲン受容体活性化は、src/raf/ERK及びPI3K/AKTを含む多数の細胞分裂促進性カスケードの非ゲノム性活性化をもたらすことが最近示された。これらの経路の活性化は急速に生じ、リガンド依存性であり、受容体と上流のキナーゼとの間の直接的な相互作用に由来する。細胞増殖のこの刺激は前立腺におけるホメオスタシスを維持するのに必要であるが(1週間あたり管腔分泌細胞の1〜2%は減少又は損傷を介して失われる)、増殖反応は、癌性前立腺において見られる制御されない増殖を防ぐように調節されなくてはならない。
【0035】
本明細書において記述されるポリペプチドは、アンドロゲンによってアンドロゲン受容体の活性化を限定又は予防することが提唱されており、その結果として前立腺細胞の増殖を減少又は実質的に停止させる。本発明は、テストステロンの産生の減少を目指す、先行技術のアプローチとは別である。背景部分において本明細書で検討されるように、これは、精巣の摘出、又はGnRH/LHRHアゴニスト、GnRHアンタゴニスト、及び酢酸シプロテロン(CPA)などの化合物を使用して精巣によるテストステロンの産生を減少させることによって達成された。先行技術においてはケトコナゾール及びコルチコステロイドなどの化合物が使用されて、副腎によるテストステロン前駆体の産生を減少させる。それに反して、本発明のポリペプチドは、精巣又は副腎によるアンドロゲンの産生を直接妨害しない。
【0036】
本発明は、5−αレダクターゼ(テストステロンをジヒドロテストステロンに変換する前立腺細胞中に存在する酵素)を遮断するように作用する先行技術治療ともまた区別される。テストステロン及びジヒドロテストステロンの両方はアンドロゲン受容体を結合することができるが、ジヒドロテストステロンはより強力なリガンドである。従って、フィナステライド及びデュタステライドなどの化合物は前立腺細胞におけるジヒドロテストステロンのレベルを限定することができるが、それらはアンドロゲン受容体へテストステロンの結合に直接影響することができない。本発明の1つの実施形態において、本発明のポリペプチドはテストステロン及びジヒドロテストステロンの両方を結合することが提唱されており、その結果として、5−αレダクターゼ阻害剤の問題を克服する。
【0037】
本発明のポリペプチドは、アンドロゲン受容体へ結合するCPA、ビカルタミド、ニルタミド及びフルタミドなどの先行技術の化合物ともまた異なる。これらの化合物は受容体の遮断におけるある程度の有効性を有するが、それらは(単独療法として)アンドロゲンシグナリングを十分に限定することはできない。前述のように、抗アンドロゲン剤単独療法は転移性疾患における長期生存で去勢より劣っていることが実証されている。更に、ホルモン抵抗性前立腺癌患者の約10%は、先行技術の化合物がアンドロゲン受容体の部分アゴニストとして作用しうるような、アンドロゲン受容体遺伝子中の1つ又は複数の変異を有する。
【0038】
それに反して、本発明のポリペプチドは、定められた化学構造を有する分子と結合し、「エスケープ」変異型を考える必要はない。
【0039】
本発明の1つの形態において、ポリペプチドは血液中に存在するテストステロンへ結合することができる。血液中のテストステロンの大部分は、ステロイドホルモン結合グロブリン(SHBG)及びアルブミンなどのタンパク質に結合する。残存するテストステロン(約1〜2%のみ)が生物学的に利用可能である。前立腺細胞中のアンドロゲン受容体の活性化のために利用可能なものは、この未結合又は「遊離」テストステロンである。
【0040】
本発明の他の形態において、ポリペプチドは前立腺細胞、及び特に前立腺上皮細胞に侵入することができる。本明細書において使用されるように、用語「前立腺細胞」は、実際の前立腺内の細胞もしくはそれに関連する細胞、又は腺から転移し遠隔地に定着して二次腫瘍を形成する細胞を含むように意図される。この用語は、前立腺から二次腫瘍の最終定着部位へ移動中である細胞もまた含むように意図される。細胞に侵入することができるポリペプチドの利点は、テストステロン及び/又はジヒドロテストステロンのすべてを結合する機会が増加するということである。アンドロゲン除去療法の後に、血清テストステロンレベルは>90%減少するが、前立腺中のジヒドロテストステロンの濃度が60%しか減少しないことに注目することは適切である(Labrie, F et al.、ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニストによる前立腺癌の治療。(Treatment of prostate cancer with gonadotropin releasing hormone agonists.)Endocr review, 1986. 7(1): 67-74)。前立腺中のアンドロゲンのより完全な除去が達成されないのは、オートクライン様式で作用することができるアンドロゲンの蓄積を保持する器官中の細胞のためかもしれない。ホルモン抵抗性前立腺癌細胞が、血中循環前駆体分子からアンドロゲンを合成できることを示唆する証拠もまたある。先行技術のアンドロゲン受容体遮断剤が単純な競合的阻害剤であるとすれば、前立腺内のステロイド産生はアンドロゲン濃度の局所的な増加を導き、その結果としてこれらの療法の失敗の少なくとも部分的な一因となるだろう。出願人は、細胞内アンドロゲンを直接標的とすることによって、アンドロゲンのより完全な除去が本明細書において記述されるポリペプチドを使用して可能であることを提唱する。前立腺細胞の中への侵入を容易にする特色を含むポリペプチドの特定の形態を、以下に開示する。
【0041】
本発明のさらなる形態において、ポリペプチドは、血液及び前立腺の細胞中の両方に存在するアンドロゲンに結合することができる。典型的には、細胞に侵入する能力を有するポリペプチドは、血液中でもまた作動可能である。
【0042】
被験体における前立腺癌細胞の増殖を減少又は実質的に停止させるように、受容体への結合に利用可能なアンドロゲンのレベルが減少するように、ポリペプチドがテストステロンを取り除くことができることが提唱されている。
【0043】
典型的には、ポリペプチドは、哺乳類被験体へのポリペプチドの投与と同時に、被験体の血液又は前立腺細胞中の生物学的に利用可能なアンドロゲンを、ポリペプチドがポリペプチドの投与の前に被験体において示されたレベルよりも低いレベルへ減少させることができるように、十分に高いアンドロゲンに対する親和性又は結合活性を有する。本明細書において使用されるように、用語「生物学的に利用可能なアンドロゲン」はその生物学的活性を発揮することができるアンドロゲンを意味する。理解されるように、本発明は、被験体の前立腺細胞中のアンドロゲン受容体への結合に利用可能なアンドロゲンのレベルを減少させることができるポリペプチドに関する。従って、アンドロゲンがテストステロンである場合、本発明の文脈において、用語「生物学的に利用可能な」は、テストステロンがジヒドロテストステロン(それはアンドロゲン受容体に続いて結合する)への転換のために遊離していることを意味する。アンドロゲンがジヒドロテストステロン(典型的には細胞内に位置する)である場合、用語「生物学的に利用可能な」ジヒドロテストステロンがアンドロゲン受容体に自由に結合することができることを意味する。
【0044】
血液中の循環テストステロンの大部分は、約98%が血清タンパク質に結合されるという点で生物学的に利用可能ではない。男性において、血清タンパク質に結合されたテストステロンのおよそ40%は性ホルモン結合グロブリン(SHBG)と会合し、それは約1×109L/molの会合定数(Ka)を有する。残存するおよそ60%のものは、約3×104L/molのKaでアルブミンに弱く結合する。
【0045】
上述のように、ポリペプチドは生物学的に利用可能なアンドロゲンを減少させることができる。この点において、血液中の全テストステロンのレベル(すなわち結合テストステロンに加えて遊離テストステロン)を測定するアンドロゲン分析は、ポリペプチドが生物学的に利用可能なアンドロゲンを減少させることができるかどうかの査定に適切でないかもしれない。より適切な分析は遊離テストステロンを測定するものであるだろう。これらの分析は、透析手順による未結合テストステロンのパーセンテージの決定、全テストステロンの推定、及び遊離テストステロンの計算を必要とする。全テストステロン、SHBG、及びアルブミンの濃度が既知であるならば、遊離テストステロンもまた計算することができる(Sodergard et al、体温でのヒト血漿タンパク質に対するテストステロン及びエストラジオール17sの遊離画分及び結合画分の計算。(Calculation of free and bound fractions of testosterone and estradiol-17s to human plasma proteins at body temperature.)J Steroid Biochem. 16:801-810;その内容は参照することにより本明細書に組み入れられる)。また、方法は透析を伴わないで遊離テストステロンの決定のために利用可能である。特にテストステロンレベルが低く、SHBGレベルが上昇するときに、これらの測定は透析工程を含む測定ほど正確ではないかもしれない(Rosner W. 1997血漿遊離テストステロンの測定の誤差。(Errors in measurement of plasma free testosterone.)J Clin Endocrinol Metabol. 82:2014-2015;その内容は参照することにより本明細書に組み入れられる;Giraudi et al. 1988.直接的な遊離テストステロン分析の信頼性に対する血清タンパク質に対するトレーサー結合の効果。(Effect of tracer binding to serum proteins on the reliability of a direct free testosterone assay.)Steroids. 52:423-424;その内容は参照することにより本明細書に組み入れられる)。しかしながら、これらの分析はポリペプチドが生物学的に利用可能なテストステロンを減少させることができるかどうかを、それにもかかわらず決定することができうる。
【0046】
生物学的に利用可能なテストステロンを測定する他の方法は、Nankin et al 1986によって開示される(加齢した正常及びインポテンスの男性における生体利用可能なテストステロンの減少。(Decreased bioavailable testosterone in aging normal and impotent men.)J Clin Endocrinol Metab. 63:1418-1423;その内容は参照することにより本明細書に組み入れられる)。この方法は、SHBGに結合されないテストステロンの量を決定し、非タンパク質性結合のもの及びアルブミンへ弱く結合するものを含む。このアッセイ方法は、低濃度(50%)の硫酸アンモニウムによって、アルブミンよりもSHBGが沈殿するという事実に依存する。従って、50%硫酸アンモニウムにより血清試料を沈殿させて上澄み液中のテストステロン値を測定することによって、非SHBG結合テストステロン又は生物学的に利用可能なテストステロンを測定する。全テストステロン、SHBG、及びアルブミンのレベルが既知のならば、テストステロンのこの画分もまた計算することができる。
【0047】
生物学的に利用可能なテストステロンのレベルを決定するさらなる例示的な方法は、de Ronde et al., 2006中で開示される(男性における生体利用可能な遊離テストステロンの計算:5つの出版済みアルゴリズムの比較。(Calculation of bioavailable and free testosterone in men: a comparison of 5 published algorithms.)Clin Chem 52(9):1777-1784;その内容は参照することにより本明細書に組み入れられる)。
【0048】
ポリペプチドが生物学的に利用可能なアンドロゲンを減少させることができるかの決定において、当業者は、個体において生じるアンドロゲンレベルの自然変動の説明が必要かもしれないことを理解するだろう。アンドロゲンレベルは、日中の時間及び実行された運動の量を含む多数の因子に従って個体中で変動することが公知である。例えば、テストステロンレベルは、夜に採取されたサンプルと比較して、朝においてより高いことが典型的には観察される。これらの変化の考察においてでさえ、サンプル採取を注意深く計画することによって、又は個体から得られた測定の調整によって、個体(及び前立腺癌増殖の結果として生じた効果)における生物学的に利用可能なアンドロゲンのレベルが、本明細書において記述されるようなポリペプチドの投与によって、影響されるかどうかを確認することは可能だろう。
【0049】
本発明の1つの形態において、ポリペプチドは、身体中のアンドロゲンの天然の担体について言及される親和性又は結合活性以上のアンドロゲンに対する親和性又は結合活性を有する。上述のように、血液中の天然の担体はSHBG及び血清アルブミンを含む。これらの天然の担体に対するテストステロンの結合が可逆的であること、及びテストステロンの結合形態と未結合形態との間で平衡が存在することが理解されるだろう。本発明の1つの形態において、正常に存在するレベルより下まで生物学的に利用可能なテストステロンのレベルを減少させるために(すなわち1〜2%未満)、ポリペプチドは、SHBGとテストステロン、又はアルブミンとテストステロンとの間の親和性又は結合活性よりも大きいテストステロンに対する親和性又は結合活性を有する。従って、本発明の1つの実施形態において、ポリペプチドは、SHBG又はアルブミンなどのテストステロンの天然の担体についての親和性又は結合活性よりも大きいテストステロンについての会合定数を有する。
【0050】
本発明の他の形態において、ポリペプチドは、SHBG又はアルブミンなどのテストステロンの天然の担体についての会合定数にほぼ等しいか又はそれよりも少ないテストステロンについての会合定数を有する。この実施形態において、遊離テストステロンは、ポリペプチドに優先してSHBG又はアルブミンに結合しうるが、血中循環へのポリペプチドの追加はいっそう生物学的に利用可能なテストステロンのレベルを減少させることができうる。ポリペプチドのアンドロゲンに対する親和性又は結合活性が低い場合には、アンドロゲンのレベルが十分に枯渇することを保証するように、より多い量のポリペプチドを投与することが必要でありえる。
【0051】
本発明の他の形態において、ポリペプチドは、それが前立腺細胞(より詳細には前立腺上皮細胞)内のテストステロンレベルを減少したレベルで維持することができるように、テストステロンに対する十分に高い親和性又は結合活性を有する。ポリペプチドの投与は、従って、テストステロンがほとんど又はまったく前立腺細胞に侵入することができないように、血中循環におけるテストステロンのレベルを枯渇させることによって、この結果を達成することができる。更に又はあるいは、ポリペプチドは前立腺細胞に侵入すること、ならびに細胞内のテストステロン及び/又はジヒドロテストステロンへ結合するができる。
【0052】
本発明の他の形態は、テストステロンが前立腺の細胞中でジヒドロテストステロンへと変換されるとすれば、ポリペプチドが、前立腺細胞内のジヒドロテストステロン濃度を減少したレベルで維持することができるように、ジヒドロテストステロンに対する十分に高い親和性又は結合活性を有すると定めている。ポリペプチドのこれらの形態は、前立腺細胞内のアンドロゲン受容体へのテストステロン及び/又はジヒドロテストステロンの結合を妨害する。テストステロン及びジヒドロテストステロンは一般的な標的(例えばアンドロゲン受容体)に結合することができ、従って本明細書において記述されるポリペプチドがテストステロン及びジヒドロテストステロンの両方に結合することができることが提唱される。上述のように、癌性前立腺細胞の増殖は、細胞のアンドロゲン反応の阻害によって減少又は停止できる。
【0053】
本発明のさらなる形態において、ポリペプチドは、テストステロンと前立腺細胞中に存在する5−αレダクターゼ酵素との間の親和性又は結合活性以上のテストステロンに対する親和性又は結合活性を有する。上述のように、前立腺細胞の中へのテストステロンの侵入と同時に、ステロイドは、酵素5−αレダクターゼによって典型的にはジヒドロテストステロンに変換される。細胞内テストステロンが酵素と会合する機会を減少させるために、ポリペプチドはテストステロンのための酵素よりも大きな親和性を有する。テストステロンがポリペプチドに優先して結合することによって、テストステロンのジヒドロテストステロンへの転換のための機会は限定される。しかしながら、ポリペプチドとテストステロンの可逆的会合の能力を考慮すると、テストステロンはすべて最終的にはジヒドロ型に変換されうる。その場合、ポリペプチドがテストステロン及びジヒドロテストステロンに結合することができること、又は2つのポリペプチド種を使用すること(1つはテストステロン結合のため、他のものはジヒドロテストステロン結合のため)が望ましい。本発明のこの実施形態において、5−αレダクターゼ触媒反応の前駆体及び産物は、ポリペプチドに結合されやすく、最終的な結果はアンドロゲン受容体への結合のために利用可能な両方の分子の濃度を低下させるものであった。
【0054】
さらなる実施形態において、ポリペプチドは、ジヒドロテストステロンに対するアンドロゲン受容体の親和性又は結合活性以上のジヒドロテストステロンに対する親和性又は結合活性を有する。他の実施形態において、ポリペプチドは、テストステロンに対するアンドロゲン受容体の親和性又は結合活性以上のテストステロンに対する親和性又は結合活性を有する。
【0055】
本発明の1つ形態において、ポリペプチドのアンドロゲン結合領域は、ヒトアンドロゲン受容体に由来する1つ又は複数の配列を含む。受容体をコードする遺伝子は、長さ90kb以上であり、3つの主な機能ドメインを有するタンパク質をコードする。N末端ドメイン(それは修飾機能を果たす)は、エクソン1(1,586bp)によってコードされる。DNA結合ドメインは、エクソン2及び3(それぞれ152及び117bp)によってコードされる。ステロイド結合ドメインは、131〜288bpのサイズで変化する5つのエクソンによってコードされる。ヒトアンドロゲン受容体タンパク質のアミノ酸配列は以下の配列(配列番号:1)によって記述される。
【0056】
mevqlglgrv yprppsktyr gafqnlfqsv reviqnpgpr hpeaasaapp gasllllqqq qqqqqqqqqq qqqqqqqqet sprqqqqqqg edgspqahrr gptgylvlde eqqpsqpqsa lechpergcv pepgaavaas kglpqqlpap pdeddsaaps tlsllgptfp glsscsadlk dilseastmq llqqqqqeav segsssgrar easgaptssk dnylggtsti sdnakelcka vsvsmglgve alehlspgeq lrgdcmyapl lgvppavrpt pcaplaeckg sllddsagks tedtaeyspf kggytkgleg eslgcsgsaa agssgtlelp stlslyksga ldeaaayqsr dyynfplala gpppppppph phariklenp ldygsawaaa aaqcrygdla slhgagaagp gsgspsaaas sswhtlftae egqlygpcgg gggggggggg gggggggggg ggeagavapy gytrppqgla gqesdftapd vwypggmvsr vpypsptcvk semgpwmdsy sgpygdmrle tardhvlpid yyfppqktcl icgdeasgch ygaltcgsck vffkraaegk qkylcasrnd ctidkfrrkn cpscrlrkcy eagmtlgark lkklgnlklq eegeasstts pteettqklt vshiegyecq piflnvleai epgvvcaghd nnqpdsfaal lsslnelger qlvhvvkwak alpgfrnlhv ddqmaviqys wmglmvfamg wrsftnvnsr mlyfapdlvf neyrmhksrm ysqcvrmrhl sqefgwlqit pqeflcmkal llfsiipvdg lknqkffdel rmnyikeldr iiackrknpt scsrrfyqlt klldsvqpia relhqftfdl likshmvsvd fpemmaeiis vqvpkilsgk vkpiyfhtq
【0057】
本発明は、また本明細書において記述されるような配列の機能的等価物を含んでいる。理解されるように、塩基又はアミノ酸残基はポリペプチドの生物学的活性を実質的に影響せずに、置換、反復、欠失、又は追加することができる。従って、上の配列との厳密な一致が必ずしも必要とされないことは理解されるだろう。
【0058】
1つの実施形態において、アンドロゲン結合領域は、ヒトアンドロゲン受容体のステロイド結合ドメインを含むか又はそれからなるが、ステロイド結合に関与しない受容体の領域は欠いている。アンドロゲン受容体のステロイド結合ドメインの同一性は、多くの研究の対象であった(Ai et al, Chem Res Toxicol 2003, 16, 1652-1660; Bohl et al, J Biol Chem 2005, 280(45) 37747-37754; Duff and McKewan, Mol Endocrinol 2005, 19(12) 2943-2954; Ong et al, Mol Human Reprod 2002, 8(2) 101-108; Poujol et al, J Biol Chem 2000, 275(31) 24022-24031; Rosa et al, J Clin Endocrinol Metab 87(9) 4378-4382; Marhefka et al, J Med Chem 2001, 44, 1729-1740; Matias et al, J Biol Chem 2000, 275(34) 26164-26171; McDonald et al, Cancer Res 2000, 60, 2317-2322; Sack et al, PNAS 2001, 98(9) 4904-4909; Steketee et al, Int J Cancer 2002, 100, 309-317;すべての前述の出版物の内容は参照することにより本明細書に組み入れられる)。ステロイド結合のために必須の厳密な残基は公知ではないが、この分子のC末端中のおよそ250アミノ酸残基にわたる領域が関与することは一般的に受け入れられる(Trapman et al (1988). Biochem Biophys Res Commun 153, 241-248、その内容は参照することにより本明細書に組み入れられる)。
【0059】
本発明の1つの実施形態において、アンドロゲン結合領域は、配列番号:1(すなわち配列dnnqpd ... iyfhtq)の230C末端アミノ酸によって定義された配列を含むか又はそれからなる。いくつかの研究は、合成ステロイドとの複合体におけるヒトアンドロゲン受容体のステロイド結合ドメインの結晶構造を検討した、例えば、Sack et al(同書)は、受容体の三次元構造が典型的な核内受容体リガンド結合ドメインの折り畳みを含むことを提唱する。他の研究は、ステロイド結合ポケットが、リガンドと相互作用する18の(隣接しない)アミノ酸残基からなることを提唱する(Matias et al、同書)。この研究は、実際のジヒドロテストステロンではなく合成ステロイドリガンド(R1881)を利用したことが強調される。ジヒドロテストステロンのための結合ポケットは、R1181について示されたものと同一の残基又は異なる残基を含むことができる。
【0060】
アゴニストと共に複合体を形成したステロイド結合ドメインについてのさらなる結晶学的データーは、いわゆるヘリカルサンドイッチパターンにアレンジされた、2つの逆平行β−シートを備えた11のヘリックス(ヘリックス2はない)を予測する。アゴニストに結合したコンフォーメーションにおいて、カルボキシ端末のヘリックス12は、ステロイド結合ポケットの閉鎖を可能にする配向で位置する。ホルモン結合に際して、リガンド結合ドメインの折り畳みは、コアクチベーターのような相互作用タンパク質の結合のための相互作用面を備えた球状構造をもたらす。
【0061】
上述のことから、アンドロゲンの結合のために必要とされる最小の残基の同一性が本出願の出願日で確立されていないことは理解されるだろう。従って、本発明は、上述のようなアンドロゲン受容体の任意の特異的な領域を含むポリペプチドに限定されない。従って、本発明の範囲は、必ずしも本明細書において詳述されるような任意の特異的な残基に限定されていないことが理解されるべきである。
【0062】
任意の事象において、アンドロゲン受容体のステロイド結合ドメインは一般的によく保存されているが、当業者は様々な変化が配列のステロイド結合能力を完全になくさずに行えることを理解する。実際、ドメインのアンドロゲン結合能力を高めるように配列を変化させることは可能かもしれない。従って、本発明の範囲は、アンドロゲン受容体のステロイド結合ドメインの機能的誘導体に及ぶ。ドメインのアンドロゲン結合能力に実質的に影響せずに、アンドロゲン受容体のリガンド結合ドメイン配列に対して特定の変化を作製できることが期待される。例えば、特定のアミノ酸残基を欠失、置換、又は反復する可能性が存在する。更に、配列はC末端及び/又はN末端で短縮することができる。更に追加の塩基を配列内に導入することができる。実際、アミノ酸配列への多数の変化を試みることによって、アンドロゲンに対する親和性が増加した配列を達成することが可能でありうる。当業者は、アンドロゲンによる標準的会合分析によって結合の効果(正又は負のどちらか)を前述されるように確認することができるだろう。
【0063】
本発明の1つの形態において、ポリペプチドのアンドロゲン結合領域は、ヒト性ホルモン結合タンパク質のステロイド結合ドメインに由来する1つ又は複数の配列を含む。ヒトSHBGの配列は以下の配列(配列番号:2)によって記述される。
【0064】
esrgplatsr llllllllll rhtrqgwalr pvlptqsahd ppavhlsngp gqepiavmtf dltkitktss sfevrtwdpe gvifygdtnp kddwfmlglr dgrpeiqlhn hwaqltvgag prlddgrwhq vevkmegdsv llevdgeevl rlrqvsgplt skrhpimria lggllfpasn lrlplvpald gclrrdswld kqaeisasap tslrscdves npgiflppgt qaefnlrdip qphaepwafs ldlglkqaag sghllalgtp enpswlslhl qdqkvvlssg sgpgldlplv lglplqlkls msrvvlsqgs kmkalalppl glapllnlwa kpqgrlflga lpgedsstsf clnglwaqgq rldvdqalnr sheiwthscp qspgngtdas h
【0065】
本発明の範囲は上述のタンパク質配列の断片及び機能的同等物に及ぶ。
【0066】
上述のように、SHBGは血清中のテストステロンの大部分の結合に関与する。従って、本発明の1つの実施形態において、ポリペプチドのステロイド結合ドメインは、SHBGのテストステロン結合ドメインを含む。このドメインは、およそアミノ酸残基18〜177によって定義された領域を含む。
【0067】
ポリペプチドは1つ以上のアンドロゲン結合領域を有することができるが、本発明の1つの形態において、ポリペプチドは単一のアンドロゲン結合領域のみを有する。ポリペプチドのこの形態は、分子の小さなサイズのために有利である可能性がある。より小さなポリペプチドは血中循環中でのより長い半減期を有することができるか、又は身体中でより低いレベルの免疫応答を誘発することができる。より小さなポリペプチドは、細胞内アンドロゲンを中和するように前立腺細胞に侵入するより高い能力もまた有することができる。
【0068】
ポリペプチドのステロイド結合領域は任意の特異的配列又は本明細書において記述された配列に対して限定されないことが重視される。ドメインは、任意の担体タンパク質、酵素、受容体又は抗体を含む、アンドロゲンを結合可能な他の分子(天然又は合成)への参照によって決定されてもよい。
【0069】
本発明の1つの形態において、ポリペプチドは担体領域を含む。担体領域の役割は、すべて担体領域を含んでいないポリペプチドと比較して、生体利用率、毒性及び半減期を含むポリペプチドの薬理学的性質を一般的に改善すること;免疫応答による拒絶又は破壊を限定すること;組換え形態で産生されたときのポリペプチドの発現又は精製を容易にすること;の任意の1つ又は複数の機能を実行することである。
【0070】
本発明の1つの形態において、担体領域は、IgG分子のFc領域の1つ又は複数の配列を含む。Fc融合タンパク質の生成のための方法は当技術分野において公知であり、インビボジェン(Invivogen)社(サンディエゴ、カリフォルニア)などの社によるキット形態で多数が利用可能である。インビボジェン社システムは、Fc融合タンパク質の構造を容易にするようにデザインされた発現プラスミドのコレクションを含むベクターのpFUSE−Fc範囲に基づく。
【0071】
プラスミドが別個の性質を示すように、様々な種及びアイソタイプからの野生型Fc領域を含む。プラスミドは、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のヒト野生型Fc領域からの配列を含む。更に、改変された性質を示す操作されたヒトFc領域が利用可能である。
【0072】
pFUSE−Fcプラスミドは、2つの特有のプロモーター(Fc融合を駆動するEF1プロモーター/HTLV 5'UTR、及び選択可能なマーカーゼオシンを駆動するCMVエンハンサー/FerLプロモーター)を備えた骨格を特色とする。プラスミドは、天然に分泌されないタンパク質に由来するFc融合物の生成のためのIL2シグナル配列もまた含むことができる。
【0073】
Fc領域は、リソソームによる分解から融合タンパク質を保護し、循環系における半減期を増加させる、サルベージ受容体FcRnに結合される。例えば、ヒトIgG3 Fc領域を含む融合タンパク質の血清半減期はおよそ1週間である。本発明の他の形態において、Fc領域は、血清半減期をおよそ3週間に増加させるヒトIgG1、IgG2又はIgG4配列を含む。血清半減期及びエフェクター機能(所望されるならば)は、FcRn、FcγRs及びC1qへのそれぞれの結合を増加又は減少させるようにFc領域を操作することによって修飾することができる。
【0074】
治療用抗体の血清持続性を増加させることは、より高い血中循環レベル、投与頻度の減少、及び用量の減少を可能にする、有効性の改善の一方法である。これは新生仔FcR(FcRn)へのFc領域の結合の促進によって達成することができる。FcRn(それは内皮細胞の表面上に発現される)はpH依存的様式でIgGを結合し、分解から保護する。CH2及びCH3のドメインとの間の境界面に位置する複数の変異はIgG1の半減期を増加させることが示された(Hinton PR. et al., 2004.霊長類においてより長い血清半減期を備えた操作されたヒトIgG抗体。(Engineered human IgG antibodies with longer serum half-lives in primates.)J Biol Chem. 279(8):6213-6;その内容は参照することにより本明細書に組み入れられる、Vaccaro C. et al., 2005.インビボの抗体レベルを修飾する免疫グロブリンGのFc領域の操作。(Engineering the Fc region of immunoglobulin G to modulate in vivo antibody levels.)Nat Biotechnol. 23(10):1283-8;内容は参照することにより本明細書に組み入れられる)。
【0075】
本発明の1つの形態において、以下の配列(配列番号:3)、又はその機能的同等物によって記述されるように、担体領域は野生型ヒトFc IgG1領域の配列を含む。
【0076】
thtcppcpap ellggpsvfl fppkpkdtlm isrtpevtcv vvdvshedpq vkfnwyvdgv qvhnaktkpr eqqynstyrv vsvltvlhqn wldgkeykck vsnkalpapi ektiskakgq prepqvytlp psreemtknq vsltclvkgf ypsdiavewe sngqpennyk ttppvldsdg sfflyskltv dksrwqqgnv fscsvmheal hnhytqksls lspg
【0077】
ポリペプチドは、前述されたような融合タンパク質でありえるが、血液又は前立腺細胞中のアンドロゲンのレベルが減少されるように、ポリペプチドがアンドロゲンを結合する目的を達成できる任意の形態をとりうることが理解される。
【0078】
例えば、ポリペプチドは治療用抗体でありえる。所定の標的に結合することができ、十分な期間の間血中循環に残存し、宿主部分に対して最小の有害反応を引き起こす、治療用抗体をデザインする多数の方法が、当業者に利用可能である(Carter, Nature Reviews (Immunology) Volume 6, 2006;内容は参照することにより本明細書に組み入れられる)。
【0079】
1つの実施形態において、治療用抗体は、ハイブリドーマ細胞を含む細胞株から産生される特異的抗体の単一クローンである。治療用抗体の4つの分類があり、それらはマウス抗体;キメラ抗体;ヒト化抗体;及び完全なヒト抗体である。これらの異なるタイプの抗体は、抗体を構成するヒト部分に対するマウスのパーセンテージによって識別可能である。マウス抗体は100%のマウス配列を含み、キメラ抗体はおよそ30%のマウス配列を含み、ヒト化抗体及び完全にヒト抗体は5〜10%のみのマウス残基を含む。
【0080】
完全なマウス抗体は移植拒絶及び結腸直腸癌に対するヒト使用のために承認された。しかしながら、これらの抗体はヒト免疫系によって外来のものと見なされ、治療法として許容されるようにさらなる操作を必要としうる。
【0081】
キメラ抗体は、ヒト抗体部分とマウス抗体部分の遺伝子操作による融合である。一般的に、キメラ抗体はおよそ33%のマウスタンパク質及び67%のヒトタンパク質を含む。それらは、ヒト抗体の効率的なヒト免疫系相互作用とマウス抗体の特異性を組み合わせたものである。キメラ抗体は免疫応答を引き起こすことができ、治療法として使用する前にさらなる操作を必要としうる。本発明の1つの形態において、ポリペプチドはおよそ67%のヒトタンパク質配列を含む。
【0082】
マウス抗体からの最小のマウス部分がヒト抗体上に移植されるように、ヒト化抗体は遺伝子操作される。典型的には、ヒト化抗体は5〜10%のマウス及び90〜95%のヒトである。ヒト化抗体は、マウス及びキメラ抗体において見られる有害な免疫応答を無効にする。市場で取引されるヒト化抗体及び臨床試験中のヒト化抗体からのデーターは、ヒト免疫系が、ヒト化抗体に対して最小の反応又は無反応を示すことを表わす。ヒト化抗体の例はエンブレル(Enbrel)(登録商標)及びレミケード(Remicade)(登録商標)を含む。本発明の1つの形態において、ポリペプチドは、エンブレル(登録商標)又はレミケード(登録商標)抗体中に含まれるリガンド特異的でない配列に基づく。
【0083】
完全なヒト抗体は、ヒト抗体遺伝子を保有するトランスジェニックマウス、又はヒト細胞に由来する。この例はヒュミラ(Humira)(登録商標)抗体である。本発明の1つの形態において、本発明のポリペプチドは、ヒュミラ(登録商標)抗体中に含まれるリガンド特異的でない配列に基づく。
【0084】
ポリペプチドは、ペプチドリンカーによって結合された重鎖及び軽鎖の可変領域を含む操作された抗体誘導体である一本鎖抗体(scFv)でありえる。ScFv抗体断片は、未修飾のIgG抗体よりも効果的な可能性がある。27〜30kDaに減少したサイズは、組織及び固形腫瘍の浸透をより容易に可能にする。(Huston et al. (1993). Int. Rev. Immunol. 10, 195-217;内容は参照することにより本明細書に組み入れられる)。活性についてのscFvライブラリーの産生及びスクリーニングのための方法は当技術分野において公知であり、開示される例示的な方法はWalter et al 2001、表面に提示された遺伝産物のハイスループットスクリーニング(High-throughput screening of surface-displayed gene products)Comb Chem High Throughput Screen; 4(2):193-205によって開示され;内容は参照することにより本明細書に組み入れられる。
【0085】
多量体の形態であるならば、ポリペプチドは治療法としてより大きな有効性を有することができる。ホモ二量体、ホモ三量体もしくはホモ四量体として;又はヘテロ二量体、ヘテロ三量体もしくはヘテロ四量体として存在するときに、ポリペプチドは効果的であるか又は改善した有効性を有することができる。これらの場合において、ポリペプチドは、単量体単位の適切な会合を促進する多量体化配列を必要とすることができる。従って、1つの実施形態において、ポリペプチドは多量体化領域を含む。ポリペプチドのステロイド結合領域がSHBGからの配列を含んでいる場合には、多量体化領域が含まれうることが予想される。
【0086】
他の態様において、本発明は、薬学的に許容される担体と組み合わせた本発明のポリペプチドを含む組成物を提供する。当業者は、組成物中に含まれる1つ又は複数の適切な担体を選択することができるだろう。可能性である適切な担体は、ポリペプチドと共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又は媒質を含む。希釈剤は、落花生油、大豆油、鉱物油、胡麻油及び同種のもののような、石油起源、動物起源、植物起源又は合成起源のものを含む水及び油脂のような滅菌された液体を含む。適切な医薬品賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール、及び同種のものを含む。組成物は、所望されるならば、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、又はpHバッファー剤もまた含むことができる。これらの組成物は、溶液、懸濁物、エマルジョン、タブレット、ピル、カプセル、粉末、徐放性製剤及び同種のものの形態をとることができる。適切な薬学的担体の例は、E. W. Martinによる「レミントンの薬学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」中に記述されている。
【0087】
本発明のポリペプチドは中性形態又は塩形態として製剤化することができる。薬学的に許容される塩は、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来したもののような遊離アミノ基により形成されたもの、及びナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来したもののような遊離カルボキシル基により形成されたものを含む。
【0088】
更に、本発明の方法の実行のために有用な水性組成物は、生理学的に適合性のあるpH及び浸透圧を有する。1つ又は複数の生理学的に許容されるpH調整剤及び/又はバッファー剤は、本発明の組成物中に含むことができ、酢酸、ホウ酸、クエン酸、乳酸、リン酸及び塩酸のような酸;水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウム、硼酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及び乳酸ナトリウムのような塩基;ならびにクエン酸/デキストロース、炭酸水素ナトリウム及び塩化アンモニウムのようなバッファーを含む。かかる酸、塩基及びバッファーは、生理学的に許容される範囲において組成物のpHを維持するのに必要な量で含まれる。1つ又は複数の生理学的に許容される塩は、組成物の浸透圧を許容域へと導くのに十分な量で組成物で含むことができる。かかる塩は、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン又はアンモニウムカチオン、及び塩素アニオン、クエン酸アニオン、アスコルビン酸アニオン、ホウ酸アニオン、リン酸アニオン、重炭酸アニオン、硫酸アニオン、チオ硫酸アニオン又は重亜硫酸アニオンを有するものを含んでいる。
【0089】
他の態様において、本発明は、被験体中の前立腺癌を治療又は予防する方法であって、その必要性のある被験体に、被験体中の生物学的に利用可能なアンドロゲンのレベルが減少するように、被験体中のアンドロゲンを結合可能なリガンドの有効量を投与することを含む方法を含む。方法の1つの形態において、リガンドは本明細書において記述されるようなポリペプチドである。
【0090】
その意図された治療用使用に効果的であるポリペプチドの量は、臨床医に周知の標準的臨床技術によって決定することができる。一般的に、静脈内投与のために適切な投与量範囲は、一般的にキログラム体重あたり約20〜500マイクログラムの活性化合物である。効果的な用量は、インビトロの試験システム又は動物モデル試験システムに由来する用量応答曲線から推定することができる。
【0091】
全身投与のための治療上効果的な用量は、インビトロの分析から最初に推定することができる。例えば、用量は細胞培養において決定されるようなIC50を含む血中循環濃度範囲を達成するように動物モデルにおいて公式化することができる。かかる情報は、より正確にヒトにおける有用な用量を決定するために使用することができる。初期投与量もまた、当技術分野における周知の技術を使用して、インビボのデーター(例えば動物モデル)から推定することができる。当業者は、動物データーに基づいてヒトに対する投与を容易に最適化することができるだろう。
【0092】
投与の量及び間隔は、治療効果を維持するのに十分な化合物の血漿レベルを提供するように個別に調整することができる。局所投与又は選択的な取り込みの場合において、化合物の効果的な局所濃度は血漿濃度と関連しなくてもよい。当業者は、不必要な実験を伴わないで治療上効果的な局所的投与量を最適化することができるだろう。
【0093】
投与量レジームは臨床医の部分的なルーチン実験によって達することができるかもしれない。一般的に、治療法の目的は、血液及び前立腺細胞中の遊離アンドロゲンのすべて又は大部分をポリペプチドに結合することだろう。効果的な用量の決定において、ポリペプチドの量を、低いレベルから、生物学的に利用可能なテストステロンのレベルが検出不能なレベルまで、タイトレーションすることができるかもしれない。本明細書における他の部分で検討されるように、生物学的に利用可能なテストステロンを分析する方法は当技術分野において公知である。あるいは、遊離テストステロンをすべて実質的に中和するのに必要なポリペプチドの量を理論上推定すること(例えばモーラーベースで)は可能でありえる。あるいは、投与量を臨床効果と比較する試験の実行によって、その量を経験的に確認することができるかもしれない。これは、成功した治療法についてmg/kg体重で表示された投与量を与えることができる。
【0094】
治療の継続期間及び投与量の規則性もまた、理論的な方法によって、又は患者における生物学的に利用可能なテストステロンのレベル及び/又は臨床効果の参照によって達することができるかもしれない。
【0095】
本方法の1つの形態において、生物学的に利用可能なアンドロゲンのレベルは、被験体の血液中で及び/又は被験体の前立腺細胞(及び特に前立腺上皮細胞)中で測定される。
【0096】
前立腺癌がアンドロゲン依存相である場合、本治療方法は最も効果的であるだろう。しかしながら、前立腺癌が診断される前に、ポリペプチドが予防上使用できることは理解される。ポリペプチドは、前立腺癌の強い家族歴のある人、又はその疾患に対する他の素質のある人に対してこの方法で投与することができる。
【0097】
治療及び予防の方法は、単独療法として本明細書において記述されるようなポリペプチドの使用、又は前立腺癌の予防の治療で使用される少なくとも1つの他の治療法と組み合わせた使用を含むことが意図される。組合せ療法の一部として本明細書において記述されるようなポリペプチドの本発明使用のいくつかの形態は、利点を提供することが提案される。利点は、本発明のポリペプチドが治療法として作用する特有のメカニズムのためでありえる。本明細書において検討されるように、ポリペプチドは、血液及び/又は前立腺細胞中の生物学的に利用可能なアンドロゲンのレベルを減少させるように、アンドロゲンに結合して作用する。これは、典型的には、身体によって分泌されたアンドロゲンの量を減少させることによって作用する先行技術の治療法とは異なる。従って、組合せの使用によって、相加効果又は相乗効果が実現できることが提案される。
【0098】
組合せ療法の非限定例として、アンドロゲンアゴニスト及び本発明のポリペプチドを、疾患の初期のアンドロゲン依存相における患者に共投与することができる。アンドロゲンアゴニスト薬(ロイプロリドのような)は、血液中のアンドロゲンの去勢レベルを誘導する目的で典型的には投与される。これは血清テストステロンのレベルでは90%の減少として典型的には定義される。しかしながら、血清テストステロンが去勢レベルより上のレベルまで減少(例えば、約25%〜約75%の減少)されるように、低レベルのアンドロゲンアゴニスト薬が投与される場合には、優れていると予測される。この場合、ポリペプチドは残存するテストステロンを中和する目的で投与される。このアプローチの利点は、ポリペプチドは血清テストステロンのすべてを中和しないが正常なレベルの25〜50%のみを中和したので、ポリペプチドの規定の用量についてより長い半減期が生じるということである。
【0099】
本発明のポリペプチドを含む組合せ治療は、残存するテストステロンを物理的に隔離することによって更に血清テストステロンのレベルを減少させるだろう。この例において、2つの治療剤の異なるがなお相補的な作用機序は、前立腺癌細胞中のアンドロゲン受容体に結合するために利用可能な血清テストステロンの優れた枯渇をもたらすことができる。組合せ療法はまた、改善された副作用プロフィールを提供するか、又はアンドロゲンアゴニストのより低い投与量の使用を可能にしうる。
【0100】
患者に血清テストステロンの去勢レベルを提供するのに十分なアンドロゲンアゴニストの投与量を投与し、疾患がアンドロゲン不応期まで進行した場合には、組合せ療法はまた有用でありうる。この状況において、血清テストステロンレベルは非常に低いレベルまで減少しているが、前立腺癌細胞内に存在するアンドロゲンが腫瘍の増殖をなお刺激することができることが提唱されている。この治療法の目的が癌細胞内の生物学的に利用可能なアンドロゲンのレベルを減少させることであるとすれば、ポリペプチドが細胞質に侵入する能力を有することは有利だろう。更に、いくつかの前立腺癌上皮細胞は周囲の前立腺癌上皮細胞によって取り込まれるテストステロンを分泌することもまたでき、本ポリペプチド薬は、このポリペプチド薬が前立腺癌上皮細胞を直接侵入することができるかどうかに関係なく、アンドロゲンのこのソースを吸い上げることができるだろう。
【0101】
本発明の1つの形態において、治療又は予防の方法は、前立腺癌の治療において有用な少なくとも1つの他の化学療法薬と組み合わせた本発明のポリペプチドの投与を含む。適切な化合物は、細胞静止剤又は細胞毒性剤を含むが、これらに限定されない。細胞静止剤の非限定例は、(1)タキサン、パクリタキセル、ドセタセル、エポチロン及びラウリマライドのようなものであるが、これらに限定されない微小管安定化剤;(2)キナーゼ阻害剤(これらの説明的な例は、イレッサ(Iressa)(登録商標)、グリーベック、タルセバ(Tarceva)(商標)(エルロチニブ塩酸)、BAY−43−9006、スプリットキナーゼドメイン受容体チロシンキナーゼのサブグループの阻害剤(例えば15 PTK787/ZK 222584及びSU11248)を含む));(3)受容体キナーゼ標的抗体(これらはトラスツズマブ(ハーセプチン(Herceptin )(登録商標))、セツキシマブ(エルビタックス(Erbitux )(登録商標))、ベバシズマブ(アバスチン(Avastin)(商標))、リツキシマブ(リツサン(ritusan)(登録商標))、パーツズマブ(オムニターグ(Omnitarg)(商標))を含むが、これらに限定されない);(4)mTOR経路阻害剤(これらの説明的な実施例はラパマイシン及びCCI−778を含む);(5)Apo2L/Trail、エンドスタチンのようなものであるがこれに限定されない抗血管新生剤、コンブレスタチン、アンジオスタチン、20トロンボスポンジン及び血管内皮増殖阻害因子(VEGI);(6)抗新生物性免疫療法ワクチン(それらの代表的な実施例は活性化T細胞、非特異的免疫ブースト剤(すなわちインターフェロン、インターロイキン)を含む);(7)ドキソルビシン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、エピルビシン、マイトマイシン及びミトザントロンのようなものであるが、これらに限定されない抗生細胞毒性剤;(8)アルキル化剤(それらの説明的な実施例はメルファラン、カルムスチン、ロムスチン、シクロホスファミド、イホスファミド、クロラムブチル、ホテムスチン、ブスルファン、テモゾロマイド及びチオテパを含む);(9)ホルモン性抗腫瘍薬(それらの非限定例はニルタミド、酢酸シプロテロン、アナストロゾール、エキセメスタン、タモキシフェン、ラロキシフェン、ビカルタミド、アミノグルテチミド、酢酸リュープロレリン、クエン酸トレミフェン、レトロゾール、フルタミド、酢酸メゲストロール及び酢酸ゴセレリンを含む);(10)酢酸シプロテロン及び酢酸メドキシプロゲステロン(Medoxyprogesterone acetate)のようなものであるが、これらに限定されない生殖腺ホルモン;(11)抗代謝剤(それらの説明的な実施例はサイトシンアラビノサイド、フルオロウラシル、ゲムシタビン、トポテカン、ヒドロキシウレア、チオグアニン、メトトレキサート、コラスパーゼ、ラルチトレキセド及びカピシタビン(Capicitabine)を含む);(12)ナンドロロンのようなものであるが、これらに限定されない同化剤;(13)副腎ステロイドホルモン(それらの説明的な実施例は酢酸メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン及びプレドニゾンを含む);(14)イリノテカン、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、エトポシド及びダカルバジンのようなものであるが、これらに限定されない新生物剤;及び(15)トポイソメラーゼ阻害剤(それらの説明的な実施例はトポテカン及びイリノテカンを含む)から選択される。
【0102】
いくつかの実施形態において、細胞静止剤は、核酸分子(適切にはアンチセンス組換え核酸分子又はsiRNA組換え核酸分子)である。他の実施形態において、細胞静止剤はペプチド又はポリペプチドである。更に他の実施形態において、細胞静止剤は低分子である。細胞静止剤は、薬剤の取り込み又は送達を促進するために適切に修飾される細胞毒性剤でありえる。かかる修飾細胞毒性剤の非限定例は、PEG付加細胞毒性薬又はアルブミン標識細胞傷害薬を含むが、これらに限定されない。
【0103】
特異的な実施形態において、細胞静止剤は、微小管安定化剤、特にタキサン及び好ましくはドセタセルである。いくつかの実施形態において、細胞毒性剤は、イダルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン及びミトザントロンなどのアントラサイクリン類、シクロホスファミドならびにメトトレキサート及び5−フルオロウラシルなどのCMF剤、又はシスプラチン、カルボプラチン、ブレオマイシン、トポテカン、イリノテカン、メルファラン、クロラムブチル、ビンクリスチン、ビンブラスチン及びマイトマイシンCなどの他の細胞毒性剤から選択される。
【0104】
化学的ホルモン除去療法のための説明的な薬剤は、セトロレリクスなどのGnRHのアゴニスト又はアンタゴニスト、ビカルタミドなどの非ステロイド剤及びシプロテロンなどのステロイド剤を含むアンドロゲン受容体妨害剤、ならびにケトコナゾールなどのステロイド生合成妨害剤を含む。前立腺癌のためのホルモン除去療法として、ポリペプチド及び薬学的に許容される塩と組み合わせた使用のために適切な化学薬剤は、ニルタミド、ビカルタミド及びフルタミドなどの非ステロイド性抗アンドロゲン剤;酢酸ゴセレリン、リュープロレリン及びトリプトレリンなどのGnRHアゴニスト;フィナステライドなどの5−αレダクターゼ阻害剤;ならびに酢酸シプロテロンを含むが、これらに限定されない。
【0105】
本発明のポリペプチドが血清及び/又は前立腺癌細胞中の生物学的に利用可能なアンドロゲンのレベルを減少させることができるように提唱されているとすれば、組合せ療法は相加効果又は相乗効果を提供することができる。
【0106】
他の態様において、本発明は、前立腺癌を治療又は予防する方法であって、その必要性のある被験体に本明細書において開示されるようなポリペプチドをコードする核酸分子又はベクターの有効量を投与することを含む方法を提供する。本発明は、インビトロ及びインビボでの細胞のトランスフェクションのための本発明のポリペプチドをコードする核酸の使用を包含する。これらの核酸は、標的の細胞及び生物のトランスフェクションのための多数の周知のベクターのいずれかの中へ挿入することができる。核酸は、ベクターと標的細胞の相互作用を介して、細胞の中へエクスビボ及びインビボでトランスフェクションされる。組成物は、治療効果を誘発するのに十分な量で被験体に(例えば筋肉の中への注射によって)投与される。これを成し遂げるのに適切な量は、「治療上効果的な用量又は量」として定義される。ヒト疾患の治療又は予防における遺伝子療法手順について、例えば、Van Brunt (1998) Biotechnology 6:1149 1154(その内容は参照することにより本明細書に組み入れられる)を参照。前述の核酸分子及びベクターを含む治療又は予防の方法は、前立腺癌の治療において有用な他の化合物との治療を含むことができる。適切な化合物は、前述されたものを含むが、これらに限定されない。
【0107】
さらなる態様において、本発明は、その必要性のある被験体に本明細書において記述されるようなポリペプチドの有効量を投与することを含む、テストステロンフレアを治療又は予防する方法を提供する。LHRH薬は、最終的にはテストステロンの抑制をもたらすが、これが起こる前にテストステロンの産生はしばらくの間実際には増加する。LHRHのアゴニスト又はアンタゴニストによる治療の最初の週の間に、非常に増加したテストステロン産生は癌を広げうる。
【0108】
なおさらなる態様において、本発明は、前立腺癌又はテストステロンフレアの治療又は予防のための医薬品の製造における本明細書において記述されるようなポリペプチドの使用を提供する。
【0109】
他の態様において、本発明は、前立腺癌又はテストステロンフレアの治療又は予防のための医薬品の製造における本明細書において記述されるような核酸分子の使用を提供する。
【0110】
なおさらなる態様は、前立腺癌又はテストステロンフレアの治療又は予防のための医薬品の製造における本明細書において記述されるようなベクターの使用を提供する。
【0111】
本発明は、ここで、以下の非限定的実施例を参照することによってより完全に記述されるだろう。
【実施例】
【0112】
実施例1
アンドロゲン結合ポリペプチドのコンストラクション。
ヒトアンドロゲン受容体リガンド結合ドメイン(690bp)についての以下のコード領域(配列番号:4)は、EcoRI及びBglIIの制限酵素部位を使用して、様々なベクター(インビボジェン社からのpFUSE−hIgG1−Fc2、pFUSE−hIgG1e2−Fc2、pFUSE−mIgG1−Fc2)の中へサブクローン化される(図1〜3を参照)。
【0113】
gacaacaaccagcccgacagcttcgccgccctgctgtccagcctgaacgagctgggcgagaggcagctggtgcacgtggtgaagtgggccaaggccctgcccggcttcagaaacctgcacgtggacgaccagatggccgtgatccagtacagctggatgggcctgatggtgttcgctatgggctggcggagcttcaccaacgtgaacagcaggatgctgtacttcgcccccgacctggtgttcaacgagtacaggatgcacaagagcaggatgtacagccagtgcgtgaggatgaggcacctgagccaggaatttggctggctgcagatcaccccccaggaatttctgtgcatgaaggccctgctgctgttcagcatcatccccgtggacggcctgaagaaccagaagttcttcgacgagctgcggatgaactacatcaaagagctggacaggatcatcgcctgcaagaggaagaaccccacctcctgcagcagaaggttctaccagctgaccaagctgctggacagcgtgcagcccatcgccagagagctgcaccagttcaccttcgacctgctgatcaagagccacatggtgtccgtggacttccccgagatgatggccgagatcatcagcgtgcaggtgcccaagatcctgagcggcaaggtcaagcccatctacttccacacccag
【0114】
この配列は、配列番号:1として本明細書において開示されるヒトアンドロゲン受容体タンパク質の230のC末端残基をコードする。
【0115】
様々なベクターをCHO細胞の中へ個別にトランスフェクションし、分泌タンパク質を回収した。様々な時間のインキュベーション後の細胞培養上清を4℃で15分間10,000〜13,000rpmで遠心し、使用の前に濾過/濃縮した。
【0116】
細胞株
哺乳類CHO細胞培養は、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(ギブコ(Gibco)社)中で37℃で10%二酸化炭素によりフォーマ・サイエンティフィックのインキュベーター中で維持した。ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)及びアンフォテリシンB(25ng/ml)(ギブコ・インビトロゲン(Gibco Invitrogen)社#15240−062)を、標準として培地に追加した。ルーチンとして、特別の指示の無い限り、細胞は5%又は10%のウシ胎仔血清(ギブコ・インビトロゲン社#10099−141)の存在下で維持した。サブコンフルエントになった細胞を、0.5%トリプシン−EDTA(ギブコ・インビトロゲン社#15400−054)により継代した。
【0117】
DNAコンストラクションの増殖
DNA発現コンストラクトはスーパーコンピテントDH5α大腸菌(E.Coli)(ストラタジーン(Stratagene)社)中で増殖した。細菌を形質転換するために、1μgのプラスミドDNAをマイクロフュージチューブ中の200μlの細菌に追加し、20分間氷上に置いた。細菌は1.5分間42℃で熱ショックし、次に更に5分間氷上に再び置いた。次に抗生物質なしの1mlのルリア−ベルターニ培養液(LB)を追加し、細菌を1時間ヒートブロック上で37℃でインキュベートした。次にこれは50μg/mlのペニシリンと共に200mlのLBに追加し、バイオライン(Bioline)シェーカー(エドワーズ・インストルメント(Edwards Instrument)社、オーストラリア)中で撹拌しながら37℃で一晩インキュベートした。翌朝、細菌培養液を大きな遠心分離チューブに移し、15分間10,000rpmで遠心した。上清を取り除き、ブロッティングペーパー上でチューブを反転することによってペレットを乾燥した。次にプラスミドDNAを、ミディプレップ(Midipreps)DNA精製システム(プロメガ社#A7640)ウィザード(登録商標)プラスを使用して回収した。ペレットを3mlの細胞再懸濁溶液(50mMトリス塩酸(pH7.5)、10mM EDTA、100μg/ml RNaseA)中に再懸濁し、等容積の細胞溶解溶液(0.2M NaOH、1%SDS)を追加した。これを転倒によって4回混合した。次に3mlの中和溶液(1.32M酢酸カリウム(pH4.8))を追加し、溶液を再び転倒によって混合した。これを4℃で15分間14,000gで遠心分離した。次に上清は、モスリン生地を通してこして新しいチューブに注意深くデカントした。10mlの再懸濁したDNA精製樹脂をDNA溶液に追加し、完全に混合した。ミディカラムチップを真空ポンプの中へ挿入し、DNA溶液/樹脂混合物をカラムに追加し、真空を適用した。一旦溶液がカラムを通して通過したならば、15mlのカラム洗浄溶液を追加し、溶液が通って出るまで真空を適用することによって2回洗浄した。最後の洗浄の後に、カラムをきちんと切開してカラムリザーバーを単離し、マイクロフュージチューブに移し、2分間13,000rpmで遠心して任意の残存する洗浄溶液を取り除いた。100μlの前加熱したヌクレアーゼ不含有水を追加し、新鮮なチューブ中で20秒間13,000rpmで遠心分離することによってDNAを溶出した。DNA濃度は吸収分光法(パーキン・エルマー(Perkin Elmer)社MBA2000)によって測定した。
【0118】
ゲル電気泳動によるDNA産物の検討
ポリメラーゼ連鎖反応のDNA産物又はプラスミドDNAの制限酵素消化物は、アガロースゲル電気泳動によって分析した。アガロース(1〜1.2%)を、0.5μg/mlエチジウムブロマイドを含むTAEバッファー(40mMトリス酢酸、2mM EDTA(pH8.5))中で溶解した。0.2%w/vキシレンシアノール、0.2%ブロモフェノールブルー、40mMトリス酢酸、2mM EDTA(pH8.5)及び50%グリセロールからなるDNAローディング色素を、電気泳動前にサンプルへ追加した。電気泳動を1×TAE中でおよそ100Vで行った。DNAサンプルは紫外線光(254nm)下で可視化された。
【0119】
CHO細胞におけるポリペプチド融合タンパク質のトランスフェクション及び発現
AR−LBD−IgG1FC ポリペプチド融合タンパク質をコードするpFUSE−AR−hIgG1e2−Fc2プラスミドを、Fugene HD(ロッシュ(Roche)社、カタログ番号:04709691001)を使用して、CHO細胞(ATCC)の中へトランスフェクションし、ゼオシン(インビトロゲン社、カタログ番号:R250−01)により選択した。次に2〜5×106細胞を、100〜250mlのCHO−S−SFM II無血清懸濁培地(インビトロゲン社、カタログ番号:12052−062)中で、4〜7日間増殖させた。細胞培養を遠心し、上清を濃縮する(アミコン(Amicon)ウルトラ15〜50kDa濃縮器、ミリポア(Millipore)社カタログ番号UFC905024を使用して)。
【0120】
融合タンパク質発現レベルの分析
8μlの濃縮したAR−LBD IgG Fc又はER−LBD IgG Fcの上清濃縮物、及び1μlの濃縮したIgG Fc対照上清を、12%SDS−PAGEゲルにロードし、70分間170Vで流した。電気泳動したタンパク質を、標準的技術を使用してニトロセルロースに転写(90分間100V)した。次にニトロセルロース膜は、1:20,000希釈で抗Hu IgG Fc−HRPコンジュゲート(ピアース(Pierce)社、カタログ番号:31413)でプロービングし、製造業者説明書に従ってスーパーシグナルウエストフェムト現像キット(Super Signal West femto developing kit)(ピアース社、カタログ番号:34094)を使用して現像した。結果は図4において図示される。おおよそ55kDの大きさの単一の主なポリペプチドの明瞭な発現が、ER−IgG1 Fc融合タンパク質と同様にAR−IgG1 Fc融合タンパク質の両方について観察された。適切な大きさ(28kD)の対照IgG1 Fc対照タンパク質もまた明瞭に見られた(図4)。
【0121】
実施例2
インビトロの分析によるポリペプチドの有効性。
ヒトのホルモン感受性前立腺癌細胞株(LNCaP)を、実施例1中で記述されているようなAR−LBD−IgG1FC融合タンパク質に暴露した。細胞の増殖及び増加に対するポリペプチドの効果を次に査定した。
【0122】
ホルモン除去療法のための対照として、細胞をホルモン枯渇血清(活性炭で取り除いた血清、CSS)中で培養し、同様に正常なレベルのアンドロゲン中での増殖を示すために正常血清中で培養した。更にLNCaP細胞を、また非ステロイド性抗アンドロゲン剤ニルタミドの存在下において培養した。
【0123】
細胞培養。
ヒト前立腺癌細胞株(LNCaP)をアメリカンタイプティッシュコレクション(ATCC)から得て、10%ウシ胎仔血清(FBS、ギブコ社)及び1%抗生剤/抗真菌剤混合物(インビトロゲン社、オークランド、ニュージーランド)を追加した、フェノールレッド含有RPMI1640増殖培地(インビトロゲン社、オークランド、ニュージーランド)中でルーチンに培養した。細胞を5%のCO2中で37℃で維持した。
【0124】
インビトロの増殖増加研究。
10%ウシ胎仔血清(FBS、ギブコ社)及び1%抗生剤/抗真菌剤混合物(インビトロゲン社、オークランド、ニュージーランド)を追加したフェノールレッド含有RPMI1640(インビトロゲン社、オークランド、ニュージーランド)増殖培地中で、5%のCO2/37℃で、ファルコン96ウェルプレート中で、1ウェルあたり2×103のLNCaP細胞をプレーティングした。細胞を、AR−LBD IgG1Fc融合タンパク質(12ng/ml)又はIgG1Fc対照タンパク質(12ng/ml)のいずれかにより処理した。更に対照として、6ウェルは非ステロイド性抗アンドロゲン剤ニルタミド(0.1μM)により処理し、同様にステロイド不含有条件を模倣するために、10%の活性炭で取り除いた血清により6ウェルを処理した。培養の120時間後に、細胞をPBSにより一回洗浄し、PBS中の最終濃度1mMのカルセイン(C1430、モレキュラー・プローブス(Molecular Probes)社、オレゴン、アメリカ)により標識した。カルセイン陽性細胞を、フルオスターオプティマ(FLUOstar OPTIMA)プレートリーダー(BGMラブテック(BMG Labtech)社、ビクトリア、オーストラリア)を使用して検出した。実験は各々の処理条件につき6つの重複測定で実行した。
【0125】
統計分析
データーは、特別の指示の無い限り、平均±標準誤差として示される。
【0126】
結果
AR IgG1 Fc融合タンパク質によるヒトホルモン感受性前立腺癌LNCaP細胞の処理は、蛍光カルセイン取り込み分析による査定として、5日の暴露後に増殖に対する劇的効果を生じた。10%の完全な血清(FBS)含有培地中で増殖したLNCaP細胞と比較して、AR IgG1 Fc融合タンパク質により処理したウェルにおいて、生存LNCaP細胞の94%減少が観察された(図5、表1)。
【0127】
それに比べて、AR LBD領域を欠く対照IgG1 Fcタンパク質は総細胞数の6%の減少のみであり、LNCaP細胞の増殖に対するごくわずかな効果のみを有しており(図5、表1)、増殖抑制効果が融合タンパク質のアンドロゲン結合ドメインを介して仲介されることを示す。ステロイド欠損培地(活性炭で取り除いた血清(CSS))中のLNCaP細胞の増殖には、分析時間フレームにおいて、LNCaP細胞増加を減少させる中等度効果(18%の低下が観察された)があるのみであった(図5、表1)。興味深いことには、AR IgG1 Fc融合タンパク質は、LNCaP細胞増加の減少において、抗アンドロゲン剤ニルタミド(ニルタミドは前立腺癌細胞増加を80%減少させる)よりも優れた有効性を示した(図5、表1)。
【0128】
これらの結果は、AR IgG1 Fc融合タンパク質が前立腺癌細胞のアンドロゲン仲介性増殖を抑制できることを示す。しかしながら、ステロイドを完全に欠損させた培地中のLNCaP細胞の増殖には細胞増殖に中等度効果があるのみであったので、この抑制は、外来培地中の遊離アンドロゲンレベルの枯渇を介してだけでなく起こっている。ステロイドを取り除いた血清中の増殖と比較して、AR IgG1Fcタンパク質のこの優れた効果は、融合タンパク質が、LNCaP細胞によって産生される内在性アンドロゲンを内部的に又は外部的に隔離できることを示す。
【0129】
実施例3
インビボの分析によるポリペプチドの有効性。血中循環遊離テストステロンレベルにおける迅速な減少
オスのbalb/c無胸腺ヌードマウス(6週齢)を動物資源センター、パース、ウェスタンオーストラリアから購入し、マイクロアイソレーター中で飼育した。マウスは、すべての実験の全体にわたって、標準的げっ歯類固型飼料及び飲料水の自由摂取を与えられた。
【0130】
5匹の動物に、AR−LBD IgG1Fc融合タンパク質(200μlのPBS中に25ng)を静脈内尾静脈注射で投与した。注射の3時間後に、5匹のマウスすべての血液を、リチウム/ヘパリンチューブ中に下顎採血(1匹の動物あたりおおよそ100μLの血液)によって回収/プールした。更に、5匹の対照の同一の性別及び年齢のオスのbalb/c無胸腺ヌードマウスは同様に同時に採血し、サンプルをプールした。次に凝固していない血液を5分間2500rpmで遠心して、血清から赤血球を分離した。次に100μlのプールした血清のサンプルは、コート−ア−カウントフリーテストステロンキット(Coat−a−count Free testosterone kit)(シーメンス(Siemens)社、カタログ番号:TKTF1)の製造業者明細書に従って実行した。
【0131】
結果は図6A、B及び表2中に図示される。対照マウスの血清中の遊離テストステロンレベルは、平均39.44pg/mlであった。しかしながら、AR IgG1 Fc融合タンパク質を注射したマウスの遊離テストステロンレベルは、わずか7.23pg/mlであった。これは、注射後わずか3時間で、生体利用可能なテストステロンレベルの82%の劇的な低下を示す。
【0132】
さらなる実験において、6匹のSCID/NODオスマウス(5週齢)を、動物資源センター、パース、ウェスタンオーストラリアから購入し、マイクロアイソレーター中で飼育した。マウスは、すべての実験の全体にわたって、標準的げっ歯類固型飼料及び飲料水の自由摂取を与えられた。次に動物を3匹のマウスの2群へと分割した。1群中の3匹の動物に、AR−LBD IgG1 Fc融合タンパク質(200μlのPBSで1ng/μl)を静脈内尾静脈注射で投与した。次に他の対照群中の3匹のマウスに、対照IgG1 Fcタンパク質(200μlのPBSで1ng/μl)を静脈内尾静脈注射で投与した。注射の4時間後に、6匹のマウスすべての血液を、リチウム/ヘパリンチューブ中に下顎採血(1匹の動物あたりおおよそ100μlの血液)によって回収した。次に凝固していない血液を5分間2500rpmで遠心して、血清から赤血球を分離した。次に100μlのプールした血清のサンプルは、コート−ア−カウントフリーテストステロンキット(シーメンス社、カタログ番号:TKTFI)の製造業者明細書に従って実行した。
【0133】
結果は図6C及びD中に図示される。対照IgG1 Fcタンパク質を注射した対照マウスの血清中の遊離テストステロンレベルは、平均2.8pg/mlであった。しかしながら、AR−LBD lgG1 Fc融合タンパク質を注射したマウスの遊離テストステロンレベルは、わずか0.2pg/mlであった。これは、注射後わずか4時間で、生体利用可能なテストステロンレベルの93%の劇的な低下を示す。
【0134】
実施例4
インビボの分析によるポリペプチドの有効性。
アンドロゲン依存性腫瘍の異種移植動物モデルをインビボで有効性を査定するために使用する。5〜7週齢のオスのSCID(重症複合免疫不全症)マウス又はbalb/c無胸腺ヌードマウスを、動物資源センター、パース、ウェスタンオーストラリアから購入し、マイクロアイソレーター中で飼育した。マウスは、すべての実験の全体にわたって、標準的げっ歯類固型飼料及び飲料水の自由摂取を与えられた。
【0135】
皮下腫瘍モデル
横腹に前立腺腫瘍を確立するために、4×105の洗浄したLNCaP細胞を50μlのPBS中に再懸濁し、等容積のマトリゲル(BD#354234)と混合し、23ゲージの針により6週齢のオスのヌードマウスの右側横腹の中へ皮下注射した。腫瘍細胞の注射に続いて、100μlの1ng/μl対照IgG1 Fcを3匹のマウスの横腹へと注射し、100μlの1ng/μl AR−LBD IgG1 Fc融合タンパク質を残りの3匹のマウスの横腹へと注射した。7日後に、横腹への2回目の注射は、200μlの1ng/μl IgG1 Fcを対照群中の3匹の動物に投与し、200μlの1ng/μl AR−LBD IgG1 Fc融合タンパク質を積極的治療群中の3匹の動物に投与した。それ以上の治療は与えず、動物はモニタリングして腫瘍サイズを繰り返し測定した。実験は最初の腫瘍細胞注射の5週間後に終結し、最終的な腫瘍の体積及び重量を記録した。
【0136】
結果は図7A、B及びC中に図示される。IgG1 Fcタンパク質を注射した対照マウスの最終的な腫瘍体積は平均182.9mm3であった。しかしながら、AR−LBD lgG1 Fc融合タンパク質を注射したマウスの最終的な腫瘍体積はわずか7.3mm3であった(図7A及びB)。実験の全体にわたる前立腺腫瘍増殖の阻害においてもまた、AR−LBD lgG1 Fc融合タンパク質は有意な効果があり、アンドロゲン結合融合タンパク質により治療された動物のみ実験の終了時で非常に小さな腫瘍を発生した(図7B)。これは、腫瘍をはるかに早期に発生し、実験の終了時に腫瘍がはるかに大きい、対照IgG1タンパク質を注射した動物とは好対照であった(図7B)。
【0137】
IgG1 Fcタンパク質を注射した対照マウスは平均重量94mgであったが、AR−LBD lgG1 Fc融合タンパク質はわずか8mgの平均重量の最終腫瘍重量で、非常に大きな効果が同様にあった(図7C)。
【0138】
ホルモン依存性前立腺癌の同所性モデル
以下のように同所性腫瘍を確立する。マウス(治療群あたり6〜10匹の間)は、ケタミン100mg/kg及びキシラジン20mg/kgの混合物を腹腔内に注射して麻酔をかけ、小さな横の下腹部切開を行なうことを可能にする。膀胱、精嚢及び前立腺を傷の中へ摘出し、マトリゲルと共に20μlの細胞培養培地中の1×106のLNCaP細胞を29ゲージの針により側背の前立腺の中に注射した。注射は×10の拡大で手術用顕微鏡の補助によって実行する。技術的に満足できる注射は、被膜下の水疱の形成及び目視可能な漏れの欠如によって確認される。下部尿路を元の場所へ戻し、前腹壁を4/0絹糸により閉じた。皮膚は外科用ステープルにより合わせる。手術後に、動物は、麻酔前重量の3〜5%の計算された体積の生理食塩水を腹膜腔内注射する。マウスが完全に動けるようになるまで、放射加熱ランプ下で回復させる。
【0139】
動物を6〜10匹のマウスの治療群へと分割し、腫瘍細胞注射後の異なる期間の後に、異なる濃度(インビトロの実験結果から最適化された)のポリペプチドを静脈内尾静脈注射で投与する。実験の終了時にマウスを炭酸ガスナルコーシスによって屠殺する。前立腺、精嚢及び膀胱を一括して取り出し、肉眼で見て関係していなければ、付属物は前立腺を含む腫瘍から注意深く切り分ける。前立腺を含む腫瘍を量り、直径はノギスにより三次元で測定した。腹膜後腔は、腎静脈のレベルに拡大下で頭側から(cephadally)調査する。傍大動脈及び傍腸骨の領域中に見出されるリンパ節を剥離し、それらの長軸を測定した。免疫組織化学的染色のための組織はOCT中に包埋し、液体窒素で冷却したイソペンタンで凍結する。腫瘍は分析まで−70℃で保存する。
【0140】
去勢手術
ホルモン除去療法のための対照として、マウスは、ケタミン100mg/kg及びキシラジン20mg/kgの混合物を腹腔内に注射して麻酔をかけ、小さな横の下腹部切開を行なうことを可能にする。下部尿生殖器官を傷の中へ摘出し、輸精管及び縦隔大血管柄を4/0絹糸により結紮し、精巣を切除した。腹部は皮膚をクリップと共に4/0絹糸により閉じる。完全に回復するまで、マウスは加温パッド上で回復させる。
【0141】
ADPCの同所性モデルにおける局所的腫瘍増殖
接種後の指定された時間(25〜42日目から)で、マウスを一酸化炭素麻酔によって安楽死させ、剖検を行なった。腹部を中線で胸骨から恥骨に開き引き込み、腹部器官を調査する。拡大下で、尿道を前立腺尖部で横に切開し、尿管及び精管を両側とも同定し、前立腺に接近して分割する。次に試料を拡大下で一括して取り出し、精嚢及び膀胱を剥離する。次に前立腺を含む腫瘍を量り、その寸法を3つの軸でノギスにより測定する。不連続の結節が見出される場合には、これは離して切り分け、個別に量る。
【0142】
これらの測定の後に、前立腺又は腫瘍をOCT中に包埋し、液体窒素で冷却したイソペンタン中で急冷凍結し、使用まで−70℃で保存した。肉眼的腫瘍のない前立腺は連続切片を作成し組織学的に分析して、腫瘍の存在を確認する。前立腺を含む腫瘍の体積は式a*b*cを使用して計算し、ここでa、b及びcは、互いに対して直角の三次元でノギスにより測定した腺の最大の長さを表わす。
【0143】
実施例5
ヒト被験体におけるポリペプチドの安全性及び有効性。
この実施例は、初期のホルモン抵抗性前立腺癌(HRPC)に罹患する患者に関する。ホルモン依存性腫瘍に罹患する患者においてポリペプチドを試験することが可能(及び望ましい)かもしれないが、HRPCに罹患する患者を道義的理由のために第一に使用する。HRPC患者は、第一選択のホルモン除去療法が不成功であり、化学療法が選択肢になる場合、転移に進行するまで他の治療選択肢がない。更に、これらの患者は低レベルの血中循環テストステロンを有し(典型的にはアンドロゲンアンタゴニスト薬ではなく、アンドロゲン除去療法を続けているので)、PSAのレベルはちょうど上昇し始めている。このアプローチは、ポリペプチドの耐容性が良好かどうかの査定、生物学的に利用可能なテストステロンレベル、及びまたPSAのレベルに対する効果の査定を可能にする。
【0144】
目的
この試験の主要目的は、HRPCに罹患する患者におけるポリペプチド結合タンパク質の静脈内注入の安全性及び耐用性を決定し、単一の静脈内注入として3週ごとに1回与えたときの薬物動態プロフィールを評価することである。副次的目的は、ポリペプチド結合タンパク質による治療が、HRPCに罹患する患者において血清PSAによって決定されるような臨床反応を導くことができるかどうか決定することと;PSAの応答(減少)の継続期間を推定することと;無増悪生存率を推定することと;ポリペプチド結合タンパク質による治療がHRPCに罹患する患者において生物学的応答を導くことができるかどうか決定することと;ポリペプチド結合タンパク質療法の前に、及びその療法の間にPSA勾配を評価することとを含む。
【0145】
試験計画
この試験は非盲検第I相用量漸増試験について記述する。インフォームドコンセントへの署名後に、患者は適格性を確認するためにベースライン検査を行う。次に患者はポリペプチド結合タンパク質による治療を開始し、単一の静脈内注入として3週ごとに1回投与した(1サイクル)。療法の4サイクル後に(12週)、疾患が安定的又は応答性であり、試験の継続を希望する患者は、更に4サイクルまで治療を延長される。すべての患者は試験薬の最後の用量の28日後に安全性について査定され、可能な場合には試験薬の最終治療の3か月後に評価される。合計で、12〜15人の患者(用量レベルあたり4患者)が様々な学際的な泌尿器腫瘍科病院から組入れられる。
【0146】
患者適格性
患者は、以下の組入れ基準及び除外基準に基づいた試験適格性についてスクリーニングされる。
【0147】
登録に適格であるには、患者は以下の基準を満たさなければならない。
1.明文化されたインフォームドコンセントが供与される
2.男性で18年歳以上
3.測定の間隔が少なくとも2週で、去勢血清テストステロンレベルであること、及び少なくとも3回PSAレベルが高く上昇することによって確認されるホルモン抵抗性前立腺癌である
4.PSAレベルは試験加入時に5μg/lよりも大きくなくてはならない
5.患者は無症候性か、又は前立腺癌に起因する軽症状のみを有しうる
6.WHO一般状態≦2
7.抗アンドロゲン療法が試験加入の少なくとも4週間前に中止され、この時の後にPSAの上昇の継続が実証されなくてはならない。LHRHのアゴニスト又はアンタゴニストは継続されるべきであり、同時に許可される
8.少なくとも6か月の平均寿命
以下のいずれかで試験からの除外基準と見なされる。
1.ホルモン抵抗性前立腺癌に対する以前の細胞毒性化学療法
2.以前のストロンチウム療法
3.過去4週間における治験薬による治療
4.非黒色腫皮膚癌を例外とした、他の共存する悪性腫瘍又は過去5年以内に診断された悪性腫瘍
5.以前の抗癌療法からのCTCグレード2よりも大きな任意の非消散性慢性毒性
6.以前の手術からの不完全な治癒
7.絶対好中球数<1×109/l又は血小板<100×109/l
8.血清ビリルビン>参照範囲の上限(ULRR)の1.25倍
9.研究者の見解で、重症又は非抑制の全身性疾患の任意の証拠(例えば不安定又は非代償性の呼吸器疾患、心臓疾患、肝臓疾患又は腎臓疾患)がある
10.血清中クレアチニン>ULRRの1.5倍
11.アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)又はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)>ULRRの2.5倍
12.患者の試験への参加を所望しないようにする、他の有意な臨床的障害又は検査所見の証拠
13.患者は未承認治療薬又は植物性生薬を前立腺癌のために使用しない
14.研究者の見解で、試験手順に準拠する患者の能力を低下させるアルコール中毒症、薬物依存症、又は任意の精神状態の既往
【0148】
試験薬剤
ポリペプチドは実施例1に従って産生される。すべての製剤及び試験薬剤パックは、保健省薬品・医薬品行政局(オーストラリア)によって指定されるような研究医薬製造品に適用可能な最新の医薬品最適製造基準(GMP)に従い、ヒトで使用される適用基準を満たす。
【0149】
治療計画
3用量レベルのポリペプチド結合タンパク質を調査する(0.3、1.0及び3.0mg/kg)。0.3mg/kgのコホートの登録が完了した後、1.0mg/kgのコホートが開始される前に2週間の待機期間がある。1.0mg/kgのコホートが登録された後、3.0mg/kgのコホートの登録が開始される前にもまた2週間の待機期間がある。
【0150】
個別の患者用量は、0.9%の塩化ナトリウムによりポリペプチド結合タンパク質(25mg/ml)の適切な体積を希釈することによって調製し、4mg/mlの最終濃度を産出する。調製した溶液の体積は、患者の用量及び体重に依存して25〜150mlである。ポリペプチドは、試験研究者のうちの一人の指導下で登録正看護師又は医療補助者によって1時間以上の期間にわたって注入される。更に、内科専門医又は麻酔専門医は、試験薬剤の投与及び有害事象管理の補助を監視するように存在する。
【0151】
有害事象はすべて、有害事象のための一般的な用語基準(Common Terminology Criteria for Adverse Events)バージョン3.0(癌療法評価プログラム、DCTD、NCI、NIH、DHHS、2003年3月31日、http://ctep.cancer.gov)に従って類別される。DRT及びDLTは治療の最初の3週間に基づく。DRTは、任意のグレード2非血液毒性又はグレード3血液毒性として定義される。DLTは、任意のグレード3/4非血液毒性又はグレード4血液毒性として定義される。新しい転移性病巣に対する放射線療法、手術又は化学療法などの進行性前立腺癌のための他の治療を必要とする患者は、試験から除外し補充しない。≧グレード2の血液毒性及び/又は非血液毒性ならば、治療は投与されないだろう。一旦毒性が≦グレード1になったならば、治療は、最大2週間治療を遅延させて再開始することができる。治療遅延のない状態において、治療は、最大4サイクル又は疾患進行が存在する;併発性疾病が治療のさらなる投与を妨げる;許容できない有害事象が起こる;患者が試験から辞退することを決定する;又は試験研究者の判断で、患者の条件の一般的又は特異的な変化が患者をさらなる治療に許容できなくする、まで継続できる。
【0152】
前治療及び治療評価
試験加入時に、患者は、胸部、腹部及び骨盤部の放射性核種骨シンチグラフィー及びコンピューター断層撮影によって測定可能な疾患についてスクリーニングされる。測定可能な疾患に罹患する患者において、腫瘍反応は固形腫瘍における反応評価基準に従って査定される(Therasse, P., et al., J Natl Cancer Inst, 2000. 92(3): p. 205-16)。患者が登録される疾患のステージを考慮すると、大部分が試験加入の時に測定可能な疾患を有していないであろうことは予想される。しかしながら、患者は上昇したPSA(3週間ごとに試験の期間の間測定される)を有するだろう。従って放射線学的に検討できる疾患に罹患していない患者において、PSAの反応は腫瘍反応の代理マーカーとして使用され、少なくとも4週間隔で少なくとも2回報告された、試験加入時に測定されたレベルの少なくとも50%以下のPSAの減少として定義される。PSAの進行は、ベースラインの50%≧の最初のPSA減少から、そのレベル以上のPSAの増加までの時間として定義される。毒性は、有害事象のための一般的な用語基準バージョン3.0に従って評価される。
【0153】
サンプル採取
ポリペプチド結合タンパク質についての集団の薬物動態パラメーターを決定するサンプル採取は試験に帰属する患者において実行される。連続的な血液サンプル(10ml/サンプル)は、前用量(試験薬の投与前の60分以内)及び30分、1、2、4、6、24、48及び72時間での後用量で回収される。更に、トラフサンプルを、7、14及び21日目、週で採取する。血液サンプルを、セレン酸ナトリウムステータスの査定のためにヘパリン処理バキュテイナーの中へ回収する。血漿は遠心分離(15分間4℃で2000g)によって分離される。遠心分離に続いて、血漿を3つの小分け(各々およそ1ml)へと分割し、同一にラベル付けしたポリプロピレンチューブ中に置く。サンプルは分析まで−80℃で凍結する。
【0154】
試験完了
4サイクルの治療後の主要評価項目についての評価に続いて、患者は試験を完了したと判断される。しかしながら、試験を継続しさらなる治療を受ける患者はフォローを受け、データーは回収された。可能な場合には、すべての患者は3か月ごとに評価される。最終の患者がこの最後の検討を受けたときに試験を打ち切る。試験薬剤の少なくとも1つのサイクルを受けた患者は、安全性ならびに臨床的及び生物学的な応答について検討できる。PSAの反応率は95%の信頼区間と共に比率によって要約される。無増悪生存率の比率及び継続期間はカプラン−マイヤー法によって要約される。毒性は有害事象のための一般的な用語基準バージョン3.0に従って要約される。
【0155】
最終的に、様々な他の修飾及び/又は変更が、本明細書において略述されるように本発明の趣旨から逸脱せずに行われてもよいことは理解されるべきである。今後の特許出願は、本出願に基づいて又は本出願の優先権を主張して、オーストラリア又は外国において出願することができる。以下の仮請求項がほんの一例として提供され、かかる今後の任意の出願において請求範囲を限定するようには意図されないことが理解されるべきである。
【0156】
特色は、本発明を更に定義又は再定義するように、後日に仮請求項に追加又は仮請求項から省くことができる。
【0157】
【表1】

【0158】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンドロゲン結合領域を含むポリペプチドであって、前記アンドロゲン結合領域が、哺乳類被験体への該ポリペプチドの投与に際して生物学的に利用可能なアンドロゲンのレベルが減少するように、十分な親和性又は結合活性でアンドロゲンに結合することができることを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
生物学的に利用可能なアンドロゲンの前記レベルが、被験体の血液中で測定される、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
生物学的に利用可能なアンドロゲンの前記レベルが、被験体の前立腺細胞において測定される、請求項1又は請求項2のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記前立腺細胞が、前立腺上皮細胞である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
生物学的に利用可能なアンドロゲンの前記レベルが、被験体における前立腺癌細胞の増殖を減少又は実質的に停止させるように減少する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
アンドロゲンとアンドロゲンに天然に結合するタンパク質との間の親和性以上のアンドロゲンに対する親和性を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
テストステロンと性ホルモン結合グロブリンとの間の親和性以上のテストステロンに対する親和性を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
テストステロンと前立腺上皮細胞中に存在する5−αレダクターゼ酵素との間の親和性以上のテストステロンに対する親和性を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項9】
テストステロンと前立腺上皮細胞中に存在するアンドロゲン受容体との間の親和性以上のテストステロンに対する親和性を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
ジヒドロテストステロンと前立腺上皮細胞中に存在するアンドロゲン受容体との間の親和性を以上のジヒドロテストステロンに対する親和性を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項11】
前記アンドロゲン結合領域が、ヒトアンドロゲン受容体からのアンドロゲン結合ドメインを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項12】
前記アンドロゲン結合領域が、性ホルモン結合グロブリンからのアンドロゲン結合ドメインを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項13】
単一のアンドロゲン結合領域を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項14】
担体領域を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項15】
前記担体が、ヒトIgGのFc領域である、請求項14に記載のポリペプチド。
【請求項16】
前立腺細胞に侵入することができる、請求項1〜15のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項17】
前記前立腺細胞が、前立腺上皮細胞である、請求項16に記載のポリペプチド。
【請求項18】
融合タンパク質、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及び一本鎖抗体からなる群から選択される、請求項1〜17のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項19】
多量体化ドメインを含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードすることができる核酸分子。
【請求項21】
請求項20に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれか一項に記載のポリペプチド及び薬学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項23】
被験体中の前立腺癌を治療又は予防する方法であって、その必要性のある被験体に、ポリペプチドの投与前の被験体中に存在する生物学的に利用可能なアンドロゲンのレベルと比較して、被験体中の生物学的に利用可能なアンドロゲンのレベルが減少するように、被験体中のアンドロゲンに結合可能なリガンドの有効量を投与することを含む方法。
【請求項24】
生物学的に利用可能なアンドロゲンの前記レベルが、被験体の血液中で測定される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
生物学的に利用可能なアンドロゲンの前記レベルが、被験体の前立腺細胞において測定される、請求項23又は請求項24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記前立腺細胞が前立腺上皮細胞である、請求項23〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記前立腺癌が、アンドロゲン依存相である、請求項23〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記リガンドが、請求項1〜19のいずれか一項に記載のポリペプチドである、請求項23〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前立腺癌を治療又は予防する方法であって、その必要性のある被験体に請求項20に記載の核酸分子又は請求項21に記載のベクターの有効量を投与することを含む方法。
【請求項30】
その必要性のある被験体に請求項1〜19のいずれか一項に記載のポリペプチドの有効量を投与することを含む、LHRHアゴニスト又はLHRHアンタゴニストによる被験体の治療におけるテストステロンフレアを治療又は予防する方法。
【請求項31】
前立腺癌の治療又は予防のための医薬品の製造における、請求項1〜19のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項32】
テストステロンフレアの治療又は予防のための医薬品の製造における、請求項1〜19のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項33】
前立腺癌の治療又は予防のための医薬品の製造における、請求項20に記載の核酸分子の使用。
【請求項34】
テストステロンフレアの治療又は予防のための医薬品の製造における、請求項20に記載の核酸分子の使用。
【請求項35】
前立腺癌の治療又は予防のための医薬品の製造における、請求項21に記載のベクターの使用。
【請求項36】
テストステロンフレアの治療又は予防のための医薬品の製造における、請求項21に記載のベクターの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【公表番号】特表2010−537623(P2010−537623A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500022(P2010−500022)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【国際出願番号】PCT/AU2008/000424
【国際公開番号】WO2008/116262
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(509268598)
【出願人】(509268587)
【出願人】(509268602)
【Fターム(参考)】