説明

前駆体を四ホウ酸リチウムの存在下で熱処理することによって製造されるコアシェル型蛍光体

本発明の蛍光体は、1.5から15μmの間の平均径を有する粒子を含む前駆体が還元雰囲気下で熱処理され、前記粒子は鉱質コアおよび場合によりテルビウムでドープされた、前記鉱質コアを300nm以上の厚さにわたって均一に被覆しているランタンおよび/またはセリウムの複合リン酸塩を含有するシェルを含み、熱処理が1,050℃から1,150℃の間の温度および2時間から4時間にわたって多くとも0.2重量%の量の融剤としての四ホウ酸リチウム(Li)の存在下で行われる方法によって製造できることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前駆体を融剤としての四ホウ酸リチウムの存在下で熱処理することによって得ることのできるコアシェル型蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
ランタン、セリウムおよびテルビウムの混合リン酸塩は、これらのルミネセンス特性のために周知である。ランタン、セリウムおよびテルビウムの混合リン酸塩は、可視範囲内にある波長より短い波長を有する特定のコアエネルギー放射線によって照射される(照明装置またはディスプレイ装置に対する紫外線(UV)または真空紫外線(VUV)照射)と明るい緑色光を発光する。この特性を発揮する蛍光体は、一般に工業規模で、例えば三色蛍光ランプ、液晶ディスプレイのための背面照明装置またはプラズマ装置において使用されている。
【0003】
これらの蛍光体は、希土類を含有し、その費用は高額であり、さらに大きな変動にさらされている。このためこれらの蛍光体の費用を削減することは、重大な挑戦である。
【0004】
さらに、特定の希土類、例えばテルビウムの希少性のために、蛍光体中のこれらの量を減少させることが求められている。
【0005】
国際公開第2008/012266号は、この費用節減要件を満たすコアシェル型の生成物について記載している。これらの生成物は、事前に湿式方法によって調製された前駆体を熱処理することによって得られる。
【0006】
蛍光体のルミネセンス特性が蛍光体の結晶化度の1つの機能であることは周知である。そこで、より良好に結晶化された生成物は、一般により優れた特性、特に同一組成であるがそれ程良好に結晶化されていない生成物より優れた輝度を有する。結晶化度は、前駆体から蛍光体へと変化する際に熱処理が実施される温度に左右される。
【0007】
より良好な結晶化には高温が好都合であるが、この場合には前駆体の焼結のリスクが存在し、結果として粒径が初期前駆体の粒径より有意に大きい場合がある蛍光体が生じる可能性がある。この場合には、および特に低粒径の生成物が所望である場合には、熱処理の結果として生じた蛍光体を粉砕することが必要になることがある。このような粉砕は、過度に強度であると、蛍光体の粒子上の表面欠陥を誘導する危険性があり、ルミネセンス特性に負の影響を及ぼし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008/012266号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このため、低費用である、およびさらに改良されたルミネセンス特性を有する蛍光体が必要とされている。
【0010】
本発明の目的は、この要件を満たす蛍光体を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のためには、本発明の蛍光体は、鉱質コアおよび場合によりテルビウムを用いてドープされた、300nm以上の厚さにわたって該鉱質コアを均一に被覆しているランタンおよび/またはセリウムの混合リン酸塩をベースとするシェルを含む粒子から形成されたタイプの蛍光体であって、該蛍光体は、1.5から15μmの平均径を有する粒子を含む前駆体が低大気圧下で熱処理され、これらの粒子は鉱質コアおよび場合によりテルビウムを用いてドープされた、300nm以上の厚さにわたって該鉱質コアを均一に被覆しているランタンおよび/またはセリウムの混合リン酸塩をベースとするシェルを含み、該熱処理は1,050℃から1,150℃の温度および2時間から4時間にわたって多くとも0.2重量%の量で融剤としての四ホウ酸リチウム(Li)の存在下で行われる、1つの方法によって得られることを特徴とする。
【0012】
本発明のその他の特徴、詳細および利点は、以下の説明を読み、および下記に添付の図面を参照することでさらにより十分に明白になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】比較用蛍光体および本発明による蛍光体のX線回折図を示す図である。
【図2】先行技術による蛍光体粒子の走査電子顕微鏡法(SEM)によって得られた画像を示す図である。
【図3】本発明による蛍光体粒子のSEMによって得られた画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
さらにまた、明細書の残り部分については、他に特に指示しない限り、提示した数値の範囲または領域の全てにおいて、数値は限度値まで含まれるので、そこで規定された数値の範囲または領域は、最小で下限と同等もしくはこれより大きいおよび/または最大で上限と同等もしくはこれより小さいあらゆる数値を含んでいる。
【0015】
本明細書においては、語句「希土類」は、イットリウムによって構成される基由来の元素および周期表の57から71までの原子番号を有する元素を意味すると理解すべきである。
【0016】
語句「比表面積」は、雑誌「The Journal of the American Society,60,309(1938)」に記載されたBRUNAUER−EMMETT−TELLER(ブルナウアー−エメット−テラー:BET)法から確立された規格ASTM D3663−78に従って窒素吸着によって決定されたBET比表面積を意味すると理解される。
【0017】
本発明の蛍光体は、その調製法の結果である改良されたルミネセンス特性を有する。
【0018】
ここで、本発明はこのため蛍光体を調製するための方法、およびさらに新規生成物として本方法によって得ることのできる該蛍光体に関することに留意されたい。このため、本方法について記載する全てのことは、前記方法によって得ることのできる生成物の特徴の説明についてもまた当てはまる。
【0019】
以下では、本調製法について詳細に説明する。
【0020】
本発明の方法の主要な特徴の1つは、出発生成物として特定前駆体を使用することである。
【0021】
本前駆体の様々な実施形態について記載する。
【0022】
第1実施形態による前駆体
この第1実施形態による前駆体は、国際公開第2008/012266号に記載されている前駆体である。このため、この前駆体の特徴に関しては、前記文献の説明全体を参照することができる。
【0023】
以下では、鉱質コアおよび場合によりテルビウムを用いてドープされたランタンおよび/またはセリウムの混合リン酸塩をベースとするシェルを含む粒子の形態にあるこの前駆体の主要な特徴について述べる。
【0024】
一般に、該コアは、0.5から15μm、例えば0.5から14μmの平均径、典型的にはおよそ1から10μm、特に2から9μmのオーダーを有する。
【0025】
該前駆体粒子の鉱質コアは、有利にはリン酸塩または鉱質酸化物をベースとする。
【0026】
語句「をベースとする」は、コアが問題の材料を少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、およびより好ましくは少なくとも80重量%、または90重量%も含むことを意味すると理解される。1つの特定実施形態によると、該コアは、本質的に前記材料(即ち、少なくとも95重量%、例えば少なくとも98重量%、または少なくとも99重量%もの含量を有する。)から形成されてよい。
【0027】
リン酸塩の中では、特に希土類、例えばランタン、ランタンおよびセリウム、イットリウム、ガドリニウムのリン酸塩、特にオルトリン酸塩またはこれらの混合リン酸塩および希土類もしくはアルミニウムのポリリン酸塩を挙げることができる。
【0028】
さらに、アルカリ土類金属リン酸塩、例えばCa、リン酸ジルコニウムZrPおよびアルカリ土類金属ハイドロキシアパタイトもまた挙げることができる。
【0029】
酸化物の中では、特に、ジルコニウム、亜鉛、チタン、ケイ素、アルミニウムおよび希土類(特に、Y、GdおよびCeO)の酸化物を挙げることができる。
【0030】
さらに、他の無機化合物、例えばバナジウム酸塩(YVO)、ゲルマニウム酸塩、シリカ、ケイ酸塩、特に場合により希土類、例えばバリウムおよび/またはマグネシウムアルミン酸塩、例えばMgAl、BaAlもしくはBaMgAl1017、硫酸塩(例えば、BaSO)、ホウ酸塩(例えば、YBO、GdBO)、炭酸塩およびチタン酸塩(例えば、BaTiO)を用いてドープされた、ケイ酸亜鉛もしくはケイ酸ジルコニウム、タングステン塩、モリブデン酸塩、アルカリ土類金属アルミン酸塩などもまた適合する場合がある。
【0031】
最後に、先行化合物、例えば特に希土類の混合酸化物、例えばジルコニウムおよびセリウムの混合酸化物、特に希土類の混合リン酸塩およびホスホバナジウム酸塩から結果として生じる化合物が適合する可能性がある。
【0032】
特に、該コアの材料は、特定の光学特性、特に紫外線反射特性を有する可能性がある。
【0033】
1つの特定実施形態によると、該コアは、希土類リン酸塩、例えば非ドープ化リン酸ランタンまたは酸化アルミニウムをベースとする。
【0034】
1つの特定実施形態によると、該前駆体粒子の鉱質コアは、本質的にリン酸ランタンLaPOから形成される。
【0035】
該コアは、実際には一般に十分に結晶化された材料、さもなければ低比表面積を有する材料に対応する高密度材料から製造されてよい。
【0036】
語句「低比表面積」は、多くとも5m/g、より詳細には多くとも2m/g、より詳細には多くとも1m/g、特に多くとも0.6m/gの比表面積を意味すると理解される。
【0037】
該コアは、さらにまた温度安定性材料をベースとしてよい。これは、高温の融点を有し、この同一温度で蛍光体としての適用のために問題となる可能性がある副生成物には分解せず、結晶のままに留まり、このため同様にこの同一温度で非晶質材料には転換されない材料を意味する。ここで意図される高温は、少なくとも900℃を超える、好ましくは少なくとも1,000℃を超える、およびより好ましくはさらに少なくとも1,200℃の温度である。
【0038】
1つの可能性は、該コアとして、先行する特徴を兼ね備える材料、即ち低比表面積を有する温度安定性材料を使用することにある。
【0039】
該鉱質コアの表面では、該前駆体は、場合によりテルビウムを用いてドープされた、一般には少なくとも0.3μmの平均厚さを有する、ランタンおよび/またはセリウムの混合リン酸塩(LAP)をベースとする層を含んでいる。この層の厚さは、より詳細には少なくとも500nmであってよい。この層の厚さは、2,000nm(2μm)以下であってよく、より詳細には1,000nm以下であってよい。
【0040】
この厚さは、特に0.3から1μmの間、より詳細には0.5から0.8μmの間であってよい。
【0041】
該コアおよび該前駆体のシェルの寸法は、特に粒子の断面のSEM写真上で測定することができる。これは、以下で詳述する他の実施形態による前駆体にもまた当てはまる。
【0042】
該前駆体粒子中では、リン酸塩(LAP)は、均一層の形態で存在する。語句「均一層」は、該コアを完全に被覆し、その厚さは好ましくは決して300nm未満ではない連続相を意味すると理解される。混合リン酸塩の分布の均一性は、特に走査型電子顕微鏡写真上で見ることができる。X線回折法(XRD)測定値は、コアおよびシェルの2つの別個の組成物の存在を証明している。
【0043】
該前駆体粒子のシェル中に存在するリン酸塩(LAP)は、以下の一般式(I):に対応する可能性がある。
【0044】
La(1−x−y)CeTbPO (I)
(式中、
xは、場合によりゼロであり、0から0.95までの間であり;
yは、0.05から0.3までの間であり;および
合計(x+y)は、1以下である。)
原則として、合計(x+y)が厳密には1未満のままである、即ち式(I)の化合物が一部のランタンを含有するのが好ましい。しかし、この合計が1に等しい場合も除外されないが、この場合には、化合物(I)はランタンを含有していないセリウムおよびテルビウムの混合リン酸塩である。
【0045】
1つの特に有利な実施形態によると、前駆体粒子の外層上に存在する混合リン酸塩は、以下の式(Ia):
La(1−x−y)CeTbPO (Ia)
(式中、
xは、0.1から0.5までの間であり;
yは、0.1から0.3までの間であり;および
合計(x+y)は、0.4から0.6までの間である。)
に対応するセリウムLAPである。
【0046】
また別の考えられる実施形態によると、該前駆体粒子の外層上に存在する混合リン酸塩は、以下の式(Ib):
La(1−y)TbPO (Ib)
(式中、
yは、0.05から0.3までの間である。)
に対応するセリウム非含有LAPである。
【0047】
さらにまた別の考えられる実施形態によると、該前駆体粒子の外層上に存在する混合リン酸塩は、以下の式(Ic):
La(1−y)CePO (Ic)
(式中、
yは、0.01から0.3までの間である。)
に対応するテルビウム非含有LAPである。
【0048】
該層は、上述した該混合リン酸塩の他に、他の化合物、例えば希土類のポリリン酸塩を一般には例えば5%を超えないわずかな量で含んでよいことに留意されたい。
【0049】
該シェルのリン酸塩は、従来的には特にルミネセンス特性に関して促進剤として、または元素のセリウムおよびテルビウムの酸化状態を安定化するための安定剤として作用する他の元素を含むことができる。他のこのような元素の例としては、特にホウ素および他の希土類、例えばスカンジウム、イットリウム、ルテニウムおよびガドリニウムを挙げることができる。ランタンが存在する場合は、上述した希土類が、より詳細にはこの元素の置換物として存在してよい。これらの促進剤または安定剤元素は、ホウ素の場合には該シェルのリン酸塩の総重量に比較して一般に多くとも1重量%、および他の上述した元素の場合には一般に多くとも30重量%の量で存在している。
【0050】
通常は、該前駆体粒子中では、存在するほぼ全ての混合LAPリン酸塩は該コアを取り囲んでいる層中に所在することを強調しておかなければならない。
【0051】
該前駆体粒子は、さらに、1.5から15μmの間、例えば3から8μmの間、より詳細には3から6μmまたは4から8μmの間の総平均径を有する。
【0052】
さらに、前駆体粒子は、有利には低分散指数を有しており、この分散指数は一般に0.6未満、好ましくは多くとも0.5、より詳細には0.4未満である。
【0053】
参照される平均径は、粒子集団の直径の容積平均値である。
【0054】
本明細書および本明細書の残りに提示した粒径値は、レーザー粒径分析装置、特にコールター(Coulter)またはマルバーン(Malvern)レーザータイプのレーザー粒径分析装置によって測定される。
【0055】
粒子集団についての用語「分散指数」は、本明細書の状況内においては、以下に規定する比率σ/mを意味すると理解される:
σ/m=(φ84−φ16)/(2×φ50)、
(式中、φ84は、粒子の84%がφ84未満の直径を有する粒子の直径であり;
φ16は、粒子の84%がφ16未満の直径を有する粒子の直径であり;および
φ50は、粒子の50%がφ50未満の直径を有する粒子の直径である。)
この第1実施形態による前駆体は、国際公開第2008/012266号に記載された方法によって調製することができる。
【0056】
第2実施形態による前駆体
本発明の別の特定実施形態によると、該前駆体は、鉱質コアおよびランタン、セリウムおよびテルビウムの混合リン酸塩をベースとするシェルを含む粒子の形態にあり、これらの粒子は3から6μmの間、およびより詳細には3μmから5μmの間の平均径を有し、ランタン、セリウムおよびテルビウムの該リン酸塩は以下の一般式(II):
La(1−x−y)CeTbPO (II)
(式中、xおよびyは、以下の条件:
0.4≦x≦0.7;
0.13≦y≦0.17
を満たす。)
に対応する。
【0057】
より詳細には、該シェルのランタン、セリウムおよびテルビウムのリン酸塩は、一般式(II)(式中、xは、条件:0.43≦x≦0.60およびより詳細には0.45≦x≦0.60を満たす。)に対応し得る。
【0058】
さらにより詳細には、該シェルのランタン、セリウムおよびテルビウムのリン酸塩は、一般式(II)(式中、yは、条件0.13≦y≦0.16およびより詳細には0.15≦y≦0.16を満たす。)に対応し得る。
【0059】
この第2実施形態の変形によると、xおよびyは、上記に提示した2つの特定条件を同時に満たす。
【0060】
この第2実施形態による前駆体のコアは、特に1から5.5μmの間、より詳細には2から4.5μmの間の平均径を有してよい。
【0061】
この第2実施形態による前駆体の別の特徴は、第1実施形態による前駆体の特徴と同一である。これは本明細書では該鉱質コアの性質および組成、該層の厚さおよび均一性を意味すると理解される。このため第1実施形態に記載されたことは、第2実施形態にも同様に当てはまる。
【0062】
この第2実施形態による前駆体は、国際公開第2008/012266号に記載された方法によって調製することができる。
【0063】
この第2実施形態の前駆体から得られた蛍光体は、微細粒径および完全に満足できるルミネセンス特性を同時に有するという利点を有する。
【0064】
第3実施形態による前駆体
以下では本発明の蛍光体を調製するために使用できる前駆体の別の特定実施形態について説明する。これらの前駆体は、鉱質コアおよび少なくとも1つの希土類(Ln)の混合リン酸塩をベースとするシェルを有するが、Lnはセリウム、セリウムとテルビウムとの組み合わせまたはランタンとセリウムおよび/またはテルビウムとの組み合わせを意味し、これらはカリウムまたはナトリウムを多くとも7,000ppmの含量で含有する。これらの前駆体は、硝酸塩またはアンモニアを全くまたは少量しか使用しない調製方法によって得ることができ、その際に、得られた生成物のルミネセンス特性に負の影響を及ぼさないという利点を有している。
【0065】
この第3の特定実施形態についての残りの説明においては、語句「ナトリウム前駆体」はナトリウムを含有する前駆体を意味し、語句「カリウム前駆体」はカリウムを含有する前駆体を意味する。
【0066】
さらに本明細書およびこの実施形態の説明の全体においては、ナトリウムまたはカリウムの含量は2つの技術に従って測定されると規定されている。第1の技術は、X線蛍光技術であり、少なくともおよそ100ppmであるナトリウムまたはカリウムの含量を測定することを可能にする。この技術は、より詳細にはナトリウムまたはカリウム含量が最高である前駆体に使用される。第2の技術は、ICP(誘導結合プラズマ)−AES(原子発光分光法)またはICP−OES(発光分光法)技術である。この技術は、より詳細には本明細書ではナトリウムまたはカリウム含量が最低であり、特におよそ100ppm未満の含量の前駆体に使用される。
【0067】
該シェルのリン酸塩は、本発明のこの実施形態の変形に依存して3つのタイプの結晶構造を有することができる。これらの結晶構造は、XRDによって決定できる。
【0068】
第1変形によると、該シェルのリン酸塩は、まずモナザイト結晶構造を有することができる。
【0069】
第2変形によると、該リン酸塩は、ラブドフェーン構造を有することができる。
【0070】
最後に、第3変形によると、該シェルのリン酸塩は、混合ラブドフェーン/モナザイト構造を有することができる。
【0071】
モナザイト構造は、これらの調製後に、ナトリウム前駆体の場合には一般に少なくとも600℃、およびカリウム前駆体の場合には少なくとも650℃の温度での熱処理を受けた前駆体に対応する。
【0072】
ラブドフェーン構造は、これらの調製後に、熱処理を受けていない、または一般に400℃を超えない温度での熱処理を受けている前駆体に対応する。
【0073】
熱処理を受けていない前駆体のための該シェルのリン酸塩は、一般に水和している。しかし、例えば60℃から100℃の間で実施される単純な乾燥作業は、この残留水の大部分を除去し、実質的に無水の希土類リン酸塩を生じさせるために十分であり、残っている少量の水は約400℃を超えるより高温で実施される焼成によって除去される。
【0074】
混合ラブドフェーン/モナザイト構造は、少なくとも400℃、場合により最大600℃の温度であり、400℃から500℃の間でよい温度での熱処理を受けている前駆体に対応する。
【0075】
好ましい変形によると、該シェルのリン酸塩は純粋相であり、即ちXRD回折図は変形に依存して、単一および固有のモナザイト相またはラブドフェーン相単独を明らかにする。しかし、該リン酸塩は純粋相でなくてもよく、この場合には、生成物のXRD回折図は極めて小さな残留相の存在を示す。
【0076】
この第3実施形態の前駆体の1つの重要な特徴は、ナトリウムまたはカリウムの存在である。
【0077】
本発明のこの第3実施形態の好ましい変形によると、ナトリウムまたはカリウムは、大部分(これはナトリウムまたはカリウムの少なくとも50%を意味する。)がシェル内に、好ましくは本質的に(これはナトリウムまたはカリウムの少なくともおよそ80%を意味する。)シェル内に、または完全にシェル内に存在する。
【0078】
ナトリウムまたはカリウムは、ナトリウムまたはカリウムがシェル内に存在する場合は、単純に該シェルのリン酸塩の他の構成成分との混合物として存在するのではなく、該リン酸塩の1つ以上の構成成分の化学元素との化学結合を形成すると考えることができる。この結合の化学的性質は、大気圧下での純水を用いた単純な洗浄では該シェルのリン酸塩中に存在するナトリウムまたはカリウムを除去しないという事実によって証明することができる。
【0079】
上述したように、該ナトリウムまたはカリウム含量は、特にナトリウムの場合には多くとも7,000ppm、より詳細には多くとも6,000ppmおよびさらにより詳細には多くとも5,000ppmである。この含量は、本明細書およびこの第3実施形態の説明を通して、該前駆体の総質量に比較したナトリウムまたはカリウム元素の質量として表示される。
【0080】
さらにより詳細には、該前駆体のこのナトリウムまたはカリウム含量は、上述した変形、即ち該シェルのリン酸塩の結晶構造に左右される可能性がある。
【0081】
そこで、該シェルのリン酸塩がモナザイト構造である場合は、この含量は、カリウムの場合にはより詳細には多くとも4,000ppmおよびより詳細には多くとも3,000ppmであってよい。
【0082】
ラブドフェーンまたは混合ラブドフェーン/モナザイト構造を有するシェルのリン酸塩の場合には、ナトリウムまたはカリウム含量は、先行例における含量より高くてよい。ナトリウムまたはカリウム含量は、さらにより詳細には多くとも5,000ppmであってよい。
【0083】
最小ナトリウムまたはカリウム含量は、特に重要ではない。最小ナトリウムまたはカリウム含量は、ナトリウム含量を測定するために使用される分析技術によって検出可能な最小値に対応してよい。しかし一般には、この最小含量は、特に該シェルのリン酸塩の結晶構造が何であろうと少なくとも300ppmである。
【0084】
この含量は、より詳細には少なくとも1,000ppmであってよく、およびさらにより詳細には少なくとも1,200ppmであってよい。
【0085】
1つの好ましい実施形態によると、ナトリウム含量は1,400ppmから2,500ppmの間であってよく、カリウム含量は3,000ppmから4,000ppmの間であってよい。
【0086】
本発明のこの第3の特定実施形態の変形によると、該前駆体は、アルカリ金属元素としてナトリウム単独またはカリウム単独を含有している。
【0087】
この第3の特定実施形態では、シェルのリン酸塩は、本質的に以下の一般式(III):
LaCeTbPO (III)
(式中、x+y+zの合計は1に等しく、xはより詳細には0.2から0.98の間、およびさらにより詳細には0.4から0.95の間であってよい。)
に対応する生成物を含むことができる。
【0088】
好ましくは、zは多くとも0.5であり、zは0.05から0.2の間、およびより詳細には0.1から0.2の間であってよい。
【0089】
yおよびzがどちらも0ではない場合は、xは0.2から0.7の間、およびより詳細には0.3から0.6の間であってよい。
【0090】
zが0に等しい場合は、yはより詳細には0.02から0.5の間、およびさらにより詳細には0.05から0.25の間であってよい。
【0091】
xが0に等しい場合は、zは特別には0.1から0.4の間であってよい。
【0092】
下記のより特別な組成物は、純粋に実施例として言及することができる:
La0.44Ce0.43Tb0.13PO
La0.57Ce0.29Tb0.14PO
La0.94Ce0.06PO
ここでもまた、この第3実施形態による前駆体の別の特徴は、第1実施形態による前駆体の特徴と同一である。ここでもまたこれらの特徴は、特に鉱質コアの性質および組成、該層の厚さおよび均一性を意味すると理解される。このため第1実施形態に記載されたことは、第2実施形態にも同様に当てはまる。
【0093】
第3実施形態による前駆体を調製する方法
以下ではナトリウム前駆体を調製するための方法について説明する。
【0094】
この前駆体を調製する方法は、以下の:
1つ以上の希土類(Ln)の塩化物を含有する第1溶液を、該鉱質コアおよびリン酸塩イオンの粒子を含有して2未満の初期pHを有する第2溶液中へ連続的に導入する工程;
該第1溶液を該第2溶液に導入する間に、このようにして得られた媒質のpHを2未満の一定値に維持し、これにより沈降物を得る工程であって、該第2溶液のpHを該第1工程のためのpHより2低く設定する操作または該第2工程のためのpHを維持する操作、またはこれらの操作の両方が少なくとも部分的に水酸化ナトリウムを使用して実施される工程;
このようにして得られた該沈降物が回収される工程;および
該シェルの希土類リン酸塩がモナザイト結晶構造を有する前駆体を調製する場合には、該リン酸塩が少なくとも600℃の温度で焼成される工程;
または、該シェルの希土類リン酸塩がラブドフェーンまたは混合ラブドフェーン/モナザイト結晶構造を有する前駆体を調製する場合には、該リン酸塩が600℃未満の温度で焼成され得る工程のいずれか;および
得られた生成物は温水中に再分散させられ、その後に液状媒質から分離される工程
を含むことを特徴とする。
【0095】
以下では、本方法の様々な工程について詳述する。
【0096】
本発明によると、希土類(Ln)リン酸塩は、維持されたpHで、1つ以上の希土類(Ln)であって、これらの元素が所望の組成を有する生成物を得るために必要な比率で存在する希土類の塩化物を含有する第1溶液を、リン酸塩イオンおよび該鉱質コアの粒子であって、これらの粒子が該溶液中で分散状態で維持されている鉱質コアを含有する第2溶液と反応させる工程によって、直接的に沈降させられる。
【0097】
コアは、調製される組成物の粒子に適切な粒径を有する粒径の形態で選択される。そこで、特に1から10μmの間の平均粒径を有する、および特に多くとも0.7または多くとも0.6の分散指数を有するコアを使用できる。好ましくは、これらの粒子は、等方性、有利には実質的に球状の形態を有する。
【0098】
本方法の第1の重要な特徴によると、該反応物質を導入する特定の順序は遵守されなければならず、さらにより正確には、1つ以上の希土類の塩化物の溶液は該リン酸塩イオンを含有する溶液中に徐々に連続的に導入されなければならない。
【0099】
本発明による方法の第2の重要な特徴によると、該リン酸塩イオンを含有する溶液の初期pHは、2未満および好ましくは1から2の間でなければならない。
【0100】
第3の特徴によると、沈降媒質のpHは、次に2未満および好ましくは1から2の間のpH値で維持しなければならない。
【0101】
用語「維持されたpH」は、沈降媒質のpHが特定、一定またはほぼ一定の数値で、該リン酸塩イオンを含有する溶液への塩基性化合物の添加によって維持されることを意味すると理解されるが、この添加は該希土類塩化物を含有する溶液の該溶液中への導入と同時に行われる。媒質のpHはそこで、設定されたセットポイント値の周囲で多くとも0.5pH単位、およびより好ましくはこの数値の周囲で多くとも0.1pH単位変動することになる。設定されたセットポイント値は、有利には、該リン酸塩イオンを含有する溶液の初期pH(2未満)に対応する。
【0102】
沈降は、好ましくは、特に重要ではないが、有利には室温(15℃から25℃)から100℃の間の温度で、水性媒質中で実施される。この沈降は、反応媒質が攪拌されている間に行われる。
【0103】
第1溶液中の希土類塩化物の濃度は、広範囲で変動してよい。そこで、全希土類濃度は、0.01mol/Lから3mol/Lの間であってよい。
【0104】
最後に、希土類塩化物溶液は、さらに他の金属塩、特に塩化物、例えば上述した促進剤もしくは安定剤元素、即ちホウ素および他の希土類の塩を含有することができることに留意されたい。
【0105】
希土類塩化物溶液と反応させることが意図されたリン酸塩イオンは、純粋もしくは溶解化合物、例えばリン酸、アルカリ金属リン酸塩または、希土類と結合したアニオン類とともに可溶性化合物を生じさせる他の金属元素のリン酸塩によって提供することができる。
【0106】
リン酸塩イオンは、2つの溶液間に1より大きい、および有利には1.1から3のPO/Lnのモル比が存在するような量で存在する。
【0107】
本明細書の最初に強調したように、該リン酸塩イオンおよび該鉱質コアの粒子を含有する溶液は、最初に(即ち、希土類塩化物溶液の導入が開始される前に)2未満および好ましくは1から2の間のpHを有していなければならない。このため、使用される溶液が自然にこのようなpHを有していない場合は、この溶液は塩基性化合物の添加または酸(例えば、高過ぎるpHを有する初期溶液の場合には塩酸)の添加のいずれかによって所望の適切な数値にされる。
【0108】
その後、希土類塩化物を含有する溶液が導入されるにつれて、該沈降媒質のpHは、徐々に低下する。このため、本発明による方法の本質的特徴の1つによると、該沈降媒質のpHを、2未満および好ましくは1から2の間でなければならない一定の所望の作業値で維持するためには、塩基性化合物がこの媒質中へ同時に導入される。
【0109】
本発明の方法の別の特徴によると、該リン酸塩イオンを含有する第2溶液の初期pHを2未満の数値にさせる、または沈降中のpHを維持するいずれかのために使用される塩基性化合物は、少なくとも一部には、水酸化ナトリウムである。語句「少なくとも一部には」は、少なくともこの内の1つは水酸化ナトリウムである塩基性化合物の混合物を使用することが可能であることを意味すると理解される。他の塩基性化合物は、例えば水酸化アンモニウムであってよい。1つの好ましい実施形態によると、水酸化ナトリウムである塩基性化合物が使用され、別のさらにより好ましい実施形態によると、水酸化ナトリウムは単独で、ならびに上述した操作両方のため、即ち第2溶液のpHを適切な数値にする、および沈降pHを維持するための両方のために使用される。これら2つの好ましい実施形態では、塩基性化合物、例えば水酸化アンモニウムから発生する可能性がある窒素生成物の放出は、減少または排除される。
【0110】
沈降工程の直後に得られるのは、鉱質コア粒子上にシェルとして沈着した希土類(Ln)リン酸塩であり、他の元素が加えられている可能性がある。次に最終沈降媒質中の希土類の総濃度は、有利には0.25mol/Lより高い。
【0111】
沈降後、成熟操作は、場合により上記で得られた該反応媒質を、該沈降が発生する範囲の同一温度範囲内の温度で、例えば15分間から1時間の範囲内であってよい時間にわたって維持することによって実施することができる。
【0112】
沈降物は、それ自体は公知の任意の手段、特に単純な濾過によって回収することができる。詳細には、本発明による方法の条件下で、濾過可能な非ゼラチン状希土類リン酸塩を含む化合物が沈降させられる。
【0113】
回収された生成物は、次に例えば水を用いて洗浄され、その後に乾燥させられる。
【0114】
本生成物は、次に焼成または熱処理にかけることができる。
【0115】
この焼成は、場合により、得ようとするリン酸塩の構造に依存して様々な温度で実施することができる。
【0116】
焼成時間は、一般に温度が高いほど短い。単に例示するためだけであるが、この時間は1から3時間の間であってよい。
【0117】
熱処理は、一般に空気中で実施される。
【0118】
一般に、焼成温度は、該シェルのリン酸塩がラブドフェーン構造を有する生成物の場合には高くとも約400℃であり、この構造はさらにまた沈降の結果として生じる非石灰化生成物の構造である。該シェルのリン酸塩が混合ラブドフェーン/モナザイト構造を有する生成物の場合には、焼成温度は、一般には少なくとも400℃および600℃以下であってよい。焼成温度は、400℃から500℃の間であってよい。
【0119】
該シェルのリン酸塩がモナザイト構造を有する前駆体を得るためには、焼成温度は、少なくとも600℃および約700℃から1,000℃以下、より詳細には高くとも約900℃の温度であってよい。
【0120】
本調製法のまた別の重要な特徴によると、熱処理が行われない場合における焼成または沈降後の生成物は、次に温水中に再分散させられる。
【0121】
この再分散操作は、該固体生成物を攪拌しながら水中に導入する工程によって実施される。このようにして得られた懸濁液は、約1から6時間の間、より詳細には約1から3時間の間であってよい時間にわたり攪拌し続けられる。
【0122】
水の温度は、大気圧下で少なくとも30℃、より詳細には少なくとも60℃、および約30℃から90℃の間、好ましくは60℃から90℃の間であってよい。この操作は、圧力下、例えばオートクレーブ内において、100℃から200℃の間、より詳細には100℃から150℃の間であってよい温度で実施することが可能である。
【0123】
最終工程では、該固体は、液体培地からそれ自体は公知の任意の手段によって、例えば単純な濾過によって分離される。再分散させる工程は、場合により1回以上、上述した条件下で、ことによると第1の再分散させる工程が実施された温度とは相違する温度で繰り返すことができる。
【0124】
分離された生成物は、特に水を用いて洗浄し、乾燥させることができる。
【0125】
以下ではカリウム前駆体を調製するための方法について説明する。
【0126】
本方法は、以下の:
1つ以上の希土類(Ln)の塩化物を含有する第1溶液を、該鉱質コアおよびリン酸塩イオンの粒子を含有して2未満の初期pHを有する第2溶液中へ連続的に導入する工程;
該第1溶液を該第2溶液に導入する間に、このようにして得られた媒質のpHを2未満の一定値に維持し、これにより沈降物を得る工程であって、該第2溶液のpHを該第1工程のためのpHより2低く設定する操作または該第2工程のためのpHを維持する操作、またはこれらの操作の両方が少なくとも部分的に水酸化カリウムを使用して実施される工程;
このようにして得られた該沈降物が回収される工程;および
該シェルの希土類リン酸塩がモナザイト結晶構造を有する前駆体を調製する場合には、該リン酸塩が少なくとも650℃、より詳細には700℃から900℃の間の温度で焼成される工程;
または、該シェルの希土類リン酸塩がラブドフェーンまたは混合ラブドフェーン/モナザイト結晶構造を有する前駆体を調製する場合には、該リン酸塩が650℃以下の温度で焼成され得る工程のいずれか;および
得られた生成物は温水中に再分散させられ、その後に液状媒質から分離される工程
を含んでいる。
【0127】
以上のように、本方法は、ナトリウム前駆体の調製について記載された方法と極めて類似するが、相違は主として焼成温度にある。このためナトリウム前駆体の調製について上述した全てのことは、水酸化カリウムが水酸化ナトリウムの代わりに使用されているカリウム前駆体の全てに該当する。
【0128】
本発明の蛍光体を調製するための方法
本発明の蛍光体を調製するための方法は、上記の様々な実施形態に従って記載した前駆体の熱処理を含んでいる。
【0129】
この熱処理は、還元性雰囲気(例えば、H、N/HまたはAr/H)下で実施される。
【0130】
本発明の本質的な特徴によると、熱処理は、フラックスまたは四ホウ酸リチウム(Li)である融剤の存在下で実施される。融剤は、融剤+前駆体のアッセンブリに対して多くとも0.2重量%の量の四ホウ酸中で処理すべき前駆体と混合される。この量は、より詳細には0.1から0.2重量%の間であってよい。
【0131】
この処理の温度は、1,050℃から1,150℃の間である。処理時間は2から4時間の間であるが、この時間は上記に提示した温度での全時間を意味すると理解される。
【0132】
処理後、該粒子は、できる限り純粋である、および脱凝集化もしくは低凝集化状態にある蛍光体を得ることができるように、有利には洗浄される。後者の場合には、蛍光体を例えばボールミルを用いる温和な条件下で脱凝集処理にかけることによって該蛍光体を脱凝集化させることが可能である。
【0133】
このようにして得られた蛍光体は、1.5から15μmの間、より詳細には4から8μmの間の平均径を有する粒子から形成される。
【0134】
さらに、これらの粒子は、通常は0.6未満、例えば0.5未満の分散指数を備える極めて均一な粒径分布を有する。
【0135】
本発明の方法による熱処理は、前駆体の粒子の粒径と蛍光体の粒径との間のわずかな変動を誘導すると言及することができる。この変動は、一般には多くとも20%、より詳細には多くとも10%である。このため、その平均粒径を初期前駆体の平均粒径にさせるために該蛍光体を粉砕することは必要ではない。粉砕は、例えば10μ未満の平均粒径を有する微細な蛍光体を調製することが望ましい場合には、特に有利である。
【0136】
蛍光体を調製する方法における粉砕および単純脱凝集化を実行しなければ、表面欠損を有していない生成物を得ることを可能にし、これらの生成物のルミネセンス特性を改良するために役立つ。本生成物のSEM顕微鏡写真は実際に、これらの表面が実質的に平滑であることを証明している。詳細には、これは生成物と水銀との相互作用を限定する作用を有するので、このため後者が水銀蒸気ランプに使用されている場合にはこれらの使用において利点を構成する。
【0137】
本発明の蛍光体の表面が実質的に平滑であるという事実は、さらにまたこれらの蛍光体の比表面積測定値によっても証明できる。実際に、このためコアシェル構造を有するこれらの蛍光体は、実質的に本発明の方法によって調製されていない生成物の比表面積より、例えばおよそ30%小さい比表面積を有する。
【0138】
本発明の特定の組成および粒径の蛍光体は、同一組成および同一サイズの蛍光体と比較して、優れた結晶化度およびこのため優れたルミネセンス特性を有する。この改良された結晶化度は、該シェルに対応するXRD回折ピークの強度I1が該コアに対応するピークの強度I2に比較された場合に証明することができる。同一組成であるが本発明の方法によって調製されていない比較生成物と比較して、比率I1/I2は本発明による生成物の方が高い。
【0139】
本発明の蛍光体は、生成物の様々な吸光領域に対応する電磁励起に対して緑色において強度のルミネセンス特性を有する。
【0140】
そこで、本発明のセリウムおよびテルビウムをベースとする蛍光体は、紫外線範囲内(200から280nm)、例えばほぼ254nmにある励起光原を有する照明装置またはディスプレイ装置において使用できる。特に、管状形またはフラット形にある背面照明液晶装置(LCD背面照明)のための水銀蒸気三色ランプについて注目されたい。
【0141】
本発明のテルビウムをベースとする蛍光体は、さらに、真空紫外線(または「プラズマ」)励起装置、例えばプラズマスクリーンおよび水銀を含まない三色ランプ、特にキセノン励起ランプ(管状形またはフラット形)のための緑色蛍光としての優れた候補である。
【0142】
本発明の蛍光体は、発光ダイオード励起装置における緑色蛍光体として使用することもできる。本発明の蛍光体は、特に近紫外線において励起できる装置において使用できる。
【0143】
本発明の蛍光体は、紫外線励起マーキング装置においても使用できる。
【0144】
本発明の蛍光体は、ランプおよびスクリーン装置において、周知の技術によって、例えばスクリーン印刷、エレクトロフォレーシスまたは沈降法によって適用することができる。
【0145】
本発明の蛍光体は、さらに有機基質(例えば、紫外線下などで透明であるポリマーのプラスチック基質または基質)、鉱質基質(例えば、シリカ基質)または混合有機−鉱質基質中に分散させることもできる。
【0146】
本発明は、別の態様によると、上述したタイプの発光装置であって、本発明の蛍光体(L)を緑色発光光源として含む発光装置にさらに関する。
【0147】
これらの装置は、紫外線励起装置、特別には三色ランプ、特に水銀蒸気三色ランプ、液晶装置、プラズマスクリーンを背面照明するためのランプ、キセノン励起ランプ、発光ダイオード励起装置および紫外線励起マーキング装置であってよい。
【0148】
以下では実施例を提供する。
【0149】
以下の実施例では、調製された生成物は、粒径、形態および組成に関して下記の方法によって特徴付けられる。
【0150】
粒径の測定
粒径は、Coulterレーザー粒径分析装置(Malvern 2000)を使用して水中に分散させて5分間にわたり超音波(100W)にかけた粒子のサンプル上で測定された。
【0151】
電子顕微鏡
SEM顕微鏡写真は、高分解能JEOL 2010 FEG SEM顕微鏡を使用して粒子の断面(ミクロトーム法)から得た。EDS(エネルギー分散分光法)による化学組成測定のための機器の空間分解能は、2nm未満であった。観察された形態および測定された化学組成の相関は、コアシェル構造を証明すること、および顕微鏡写真上でシェルの厚さを測定することを可能にした。
【0152】
EDSによる化学組成測定は、HAADF−STEMによって生成された顕微鏡写真上でのX線回折分析によって実施された。測定値は、少なくとも2つのスペクトルにわたって取られた平均値に対応する。組成に対する空間分解能は、コアおよびシェルの組成を識別するために十分である。
【0153】
X線回折
X線回折図は、Bragg−Brentano法に従って対陰極としての銅を用いるKα線を使用して生成した。分解能は、LaPO:Ce,Tb線をLaPO線から分離するために十分であるように選択するが、好ましくは、この分解能はΔ(2θ)<0.02°であった。
【実施例】
【0154】
[実施例1]
本実施例は、リン酸ランタンコアおよびリン酸ランタンセリウムテルビウムシェルを有するコアシェル型前駆体の調製に関する。
【0155】
工程1:リン酸ランタンコアの調製
500mLの硝酸ランタン溶液(1.5mol/L)を、1時間にわたって、事前に水酸化アンモニウムの添加によってpH1.8にさせられた500mLのリン酸HPO溶液(1.725mol/L)に加え、60℃に加熱した。沈降中のpHは、水酸化アンモニウムの添加によって1.9に調整した。
【0156】
沈降工程の終了時に、反応媒質は再び60℃で1時間にわたり保持した。次に沈降物は濾過によって容易に回収し、水で洗浄し、次に60℃の空気中で乾燥させた。得られた粉末は次に、900℃の空気中で熱処理にかけた。
【0157】
このようにして得られ、X線回折によって特徴付けられた生成物は、モナザイト構造のオルトリン酸ランタンLaPOであった。粒径(D50)は5.0μmであり、分散指数は0.4であった。
【0158】
粉末は次に、1,200℃の空気中で4時間にわたり焼成した。その後、5.3μmの粒径(D50)を0.4の分散指数とともに有するモナザイト相の希土類リン酸塩が得られた。本生成物は、次に4.3μmの平均粒径(D50)が得られるまでボールミル内で脱凝集化させた。本生成物は、1m/gの比表面積を有している。
【0159】
工程2:LaPO−LaCeTbPOコアシェル型前駆体の合成
1Lのビーカー内で、希土類硝酸塩の溶液(溶液A)を下記のとおりに調製した:29.37gのLa(NOの2.8M(d=1.678g/L)溶液、20.84gのCe(NOの2.88M(d=1.715g/L)溶液および12.38gのTb(NOの2M(d=1.548g/L)溶液および462mLの脱イオン水を混合すると、計0.1molの組成式(La0.49Ce0.35Tb0.16)(NOの希土類硝酸塩が作成された。
【0160】
2Lの反応装置内へ、13.27gのNormapurである85%のHPO(0.115mol)および次に28%水酸化アンモニウムNHOHを加えた340mLの脱イオン水(溶液B)を加えると1.5のpHが達成された。この溶液を60℃へ加熱した。次に、このようにして調製したストック液に、工程1からの23.4gのリン酸ランタンを加えた。pHは、28%のNHOHを用いて1.5に調整した。事前に調製した溶液Aをこの混合液に攪拌しながら10mL/分、温度(60℃)で蠕動ポンプを使用して加え、pHを1.5へ調整した。得られた混合液は、1時間にわたり60℃で成熟させた。成熟させる工程の終了時に、溶液は乳白色の外観を有していた。溶液を放置して30℃に冷却させ、生成物を排液させた。生成物を次に焼結ガラスに通して濾過し、2体積の水で洗浄し、次に乾燥させ、2時間にわたり900℃の空気中で焼成した。
【0161】
次に別個の組成、即ちLaPOおよび(La,Ce,Tb)POの2つのモナザイト結晶相を有するモナザイト相の希土類リン酸塩が得られた。粒径(D50)は6.3μmであり、分散指数は0.5であった。
【0162】
本生成物は、生成物の断面上でのSEM観察によると、コアシェル型の典型的な形態を有していた。本生成物は、蛍光体1kg当たり66gのTbのテルビウム量を有していた。
【0163】
[比較例2]
本実施例は、本発明の方法によって得られていないコアシェル型蛍光体の調製に関する。
【0164】
実施例1の工程2の終了時に得られた前駆体粉末は、1,100℃の温度のAr/H(5%水素)雰囲気中において2時間にわたり焼成した。この工程の終了時に、コアシェル型蛍光体が得られた。粒径(D50)は6.8μmであり、分散指数は0.38であった。
【0165】
得られた蛍光体は、コアシェル型化合物に特徴的なXRD図を有していた。ピークの位値は、該シェルの組成が実施例1の工程2の結果として生じる前駆体のシェルの組成と同一であることを示している。
【0166】
該蛍光体は、0.54m/gの比表面積を備える前駆体の形態に類似する表面形態を有する。
【0167】
図2は、これらの表面が平滑ではないことを示す該蛍光体の粒子のSEM顕微鏡写真である。
【0168】
[比較例3]
本実施例は、本発明の方法によって得られていないコアシェル型蛍光体を得ることに関する。
【0169】
実施例1の工程2の終了時に得られた前駆体は、該前駆体の量に対して0.5重量%のホウ酸リチウムLiの存在下のAr/H(5%水素)還元雰囲気下で3時間にわたり1,025℃で焼成した。
【0170】
該粒子は、平滑な表面および6.8μmのD50を有している。測定された比表面積は、0.26m/gである。
【0171】
[実施例4]
本実施例は、本発明によるコアシェル型蛍光体を得ることに関する。
【0172】
実施例1の工程2の終了時に得られた前駆体は、該前駆体の量に対して0.1重量%のホウ酸リチウムLiの存在下のAr/H(5%水素)還元雰囲気下で4時間にわたり1,100℃で焼成した。
【0173】
得られた蛍光体は、コアシェル型化合物に特徴的なXRD図を有している。
【0174】
該粒子は、平滑な表面および6.8μmのD50を有している。測定された比表面積は、0.28m/gである。該シェルの500nmの平均厚さは、TEMによって測定された。
【0175】
図3は、これらの表面が平滑であることを示す該蛍光体の粒子のSEM顕微鏡写真である。
【0176】
[比較例5]
本実施例は、本発明の方法によって得られていないコアシェル型蛍光体を得ることに関する。
【0177】
実施例1の工程2の終了時に得られた前駆体を、コアシェル型前駆体の量に対して1重量%のホウ酸リチウムLiの存在下のAr/H(5%水素)還元雰囲気下で2時間にわたり1,100℃で焼成する。
【0178】
得られた蛍光体は、コアシェル型化合物に特徴的なXRD図を有している。
【0179】
該粒子は、平滑な表面および8.3μmのD50を有している。測定された比表面積は、0.24m/gである。
【0180】
下記の表には、実施例の生成物の様々な特徴を表示する。
【0181】
【表1】

PLは、フォトルミネセンス収率を示している。表中において、実施例2からの、100の数値を備える蛍光体の収率は参照として取り上げられている。測定は、Jobin−Yvon分光計上で測定された、254nmでの励起下での450nmから700nmの間の発光スペクトルの積分によって行われた。
【0182】
該シェルの結晶化度指数は、結晶化度比I1/I2によって測定され、このときI2はコアの回折ピーク(28.4から28.6度の間の最大ピーク)の強度であり、I1はシェルのピーク(28.6から29度の間の最大ピーク)の強度である。明確に結晶化したシェルは、高い結晶化度指数によって特徴付けられる。
【0183】
図1に見いだされるのは、実施例2から5からの蛍光体についての回折図である。
【0184】
表のデータは、本発明の生成物の有利な特性、および比較点として先行技術の方法によって得られた実施例2からの生成物を取り上げた場合に、この調製方法によって提供される利点もまた明白に示す。
【0185】
そこで、本発明による実施例4からの生成物は、実施例2からの生成物に比較して、改良されたフォトルミネセンス収率を備える優れた結晶化度および焼成中の焼結の欠落を表示する実施例2からの生成物の粒径と同一の粒径を有する。
【0186】
実施例3からの生成物は、本発明の方法の特徴の全てを有する方法によっては得られなかった。この生成物は良好に結晶化しているが、比較生成物と比較してフォトルミネセンス収率の損失を有する。
【0187】
同様に本発明の方法の特徴の全てを有する方法によって得られなかった実施例5からの生成物もまた、フォトルミネセンス収率の低下、およびとりわけ、粒径および前駆体の焼成中の粒子の焼結の結果である分散指数における全ての有意な増加を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱質コアおよび場合によりテルビウムを用いてドープされた、300nm以上の厚さにわたって鉱質コアを均一に被覆しているランタンおよび/またはセリウムの混合リン酸塩をベースとするシェルを含む粒子から形成された蛍光体であって、1.5から15μmの間の平均径を有する粒子を含む前駆体が低大気圧下で熱処理され、前記粒子は鉱質コアおよび場合によりテルビウムを用いてドープされた、300nm以上の厚さにわたって鉱質コアを均一に被覆しているランタンおよび/またはセリウムの混合リン酸塩をベースとするシェルを含み、前記熱処理は1,050℃から1,150℃の間の温度および2時間から4時間にわたって多くとも0.2重量%の量で融剤としての四ホウ酸リチウム(Li)の存在下で行われる、方法によって得られることを特徴とする、蛍光体。
【請求項2】
前駆体粒子のシェルが0.3から1μmの間、より詳細には0.5から0.8μmの間の厚さにわたって鉱質コアを被覆する上記方法によって得られることを特徴とする、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前駆体粒子の鉱質コアがリン酸塩または鉱質酸化物、より詳細には希土類リン酸塩または酸化アルミニウムをベースとする上記方法によって得られることを特徴とする、請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前駆体粒子のシェルの混合リン酸塩が以下の一般式(I):
La(1−x−y)CeTbPO (I)
(式中、
xは、0から0.95の間であり;
yは、0.05から0.3の間であり;および
合計(x+y)は、1以下である。)
に対応する上記方法によって得られることを特徴とする、請求項1から3の一項に記載の蛍光体。
【請求項5】
前駆体粒子のシェルの混合リン酸塩が以下の一般式(Ia):
La(1−x−y)CeTbPO (Ia)
(式中、
xは、0.1から0.5の間であり;
yは、0.1から0.3の間であり;および
合計(x+y)は、0.4から0.6の間である。)
に対応する上記方法によって得られることを特徴とする、請求項1から4の一項に記載の蛍光体。
【請求項6】
前駆体粒子のシェルの混合リン酸塩が以下の一般式(Ib):
La(1−y)TbPO (Ib)
(式中、
yは、0.05から0.3の間である。);
そうでなければ以下の式(Ic):
La(1−y)CePO (IC)
(式中、
yは、0.01から0.3の間である。)
に対応する上記方法によって得られることを特徴とする、請求項1から5の一項に記載の蛍光体。
【請求項7】
前駆体粒子が3から6μmの間の平均径を有する上記方法によって得られること、およびランタン、セリウムおよびテルビウムのリン酸塩が以下の一般式(II):
La(1−x−y)CeTbPO (II)
(式中、xおよびyは、以下の条件:
0.4≦x≦0.7;
0.13≦y≦0.17
を満たす。)
に対応することを特徴とする、請求項1から3の一項に記載の蛍光体。
【請求項8】
前駆体のシェルが少なくとも1つの希土類(Ln)の混合リン酸塩をベースとし、Lnはセリウム、セリウムとテルビウムとの組み合わせ、またはランタンとセリウムおよび/またはテルビウムとの組み合わせを意味し、前駆体がカリウムまたはナトリウムを多くとも7,000ppmの含量で含有する上記方法によって得られることを特徴とする、請求項1から3の一項に記載の蛍光体。
【請求項9】
1.5から15μmの間、より詳細には4から8μmの間の平均径および0.6未満の分散指数を有する粒子から形成されることを特徴とする、請求項1から8の一項に記載の蛍光体。
【請求項10】
1.5から15μmの間の平均径を有する粒子を含む前駆体が熱処理され、これらの粒子は鉱質コアおよび場合によりテルビウムを用いてドープされた、300nm以上の厚さにわたって鉱質コアを均一に被覆しているランタンおよび/またはセリウムの混合リン酸塩をベースとするシェルを含み、熱処理は1,100℃から1,150℃の間の温度および2時間から4時間にわたって多くとも0.2重量%の量で融剤としての四ホウ酸リチウム(Li)の存在下で行われることを特徴とする、請求項1から9の一項に記載の蛍光体を調製する方法。
【請求項11】
紫外線励起装置、特に三色ランプ、特に水銀蒸気三色ランプ、液晶装置、プラズマスクリーンの背面照明のためのランプ、キセノン励起ランプ、発光ダイオード励起装置および紫外線励起マーキング装置における、請求項1から9の一項に記載の蛍光体の使用。
【請求項12】
緑色発光の光源として請求項1から9の一項に記載の蛍光体を含む発光装置。
【請求項13】
紫外線励起装置、特に三色ランプ、特に水銀蒸気三色ランプ、液晶装置、プラズマスクリーンの背面照明のためのランプ、キセノン励起ランプ、発光ダイオード励起装置および紫外線励起マーキング装置であることを特徴とする、請求項12に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−521358(P2013−521358A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555379(P2012−555379)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【国際出願番号】PCT/EP2011/052896
【国際公開番号】WO2011/107422
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(508183151)ロデイア・オペラシヨン (70)
【Fターム(参考)】