説明

剥離シートおよびその製造方法

【課題】非シリコーン系であって、粘着剤層との剥離性が良好で、且つ剥離剤層を低温で形成することができ、耐溶剤性を有する剥離シートを提供する。
【解決手段】基材フィルムと剥離剤層からなり、剥離剤層が分子内開裂型光重合開始剤を含むジエン系ポリマーに活性エネルギー線を照射することにより得られた硬化層である剥離シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は剥離シートおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は電子部品の接着やラベル用途、および半導体ウェハ加工用粘着シートなど、粘着剤面に移行したシリコーンが問題となる用途において好適に用いられる剥離シートおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、粘着シートは、セラミックコンデンサー、ハードディスクドライブ、半導体装置等の精密電子機器の製造工程の種々の段階、形式で使用されている。
このような精密電子機器の製造工程で使用される粘着シートにおいては、シリコーン系粘着剤は含有する低分子量のシリコーン化合物により電子部品がトラブルを起こすおそれがあるため、一般に、非シリコーン系の粘着剤、例えばアクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤などが用いられる。
この非シリコーン系の粘着シートは、使用時まで粘着剤層を保護するためは、基材上に剥離剤層を設けてなる剥離シートが積層されている。
【0003】
このように現在電子材料分野で用いられる粘着シートには主にシリコーン系剥離剤が使用されているが、シリコーン系剥離剤に粘着シートを貼合すると粘着剤面へシリコーンの転移が少なからず生じる。このような粘着シートを例えばハードディスク(HDD)用ラベルとして利用すると、粘着面に転移した微少なシリコーンが、上記ディスク内で不具合を起こすといった問題が生じる。
このため剥離シートからのシリコーンの転移を減少させる検討が行われている。また、非シリコーン系剥離剤として知られているアルキド系の樹脂(例えば、特許文献1参照)、長鎖アルキル系の樹脂(例えば、特許文献2参照)およびポリオレフィン樹脂(例えば、特許文献3参照)を剥離剤層に使用することが試みられている。
しかしながら、これらの樹脂を剥離剤層に用いた場合、粘着剤層との剥離力が高くて、粘着剤層と剥離剤層とが剥離しない場合があるという問題が生じる。
また、電子材料分野においては、基材との関係から剥離剤層を低温で形成することや、有機溶剤への耐性が要求されることが多い。
【0004】
【特許文献1】特開昭57−49685号公報
【特許文献2】特開2002−249757号公報
【特許文献3】特開2002−59515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、非シリコーン系であって、粘着剤層との剥離性が良好で、且つ剥離剤層を低温で形成することができ、耐溶剤性を有する剥離シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、基材フィルム上に分子内開裂型光重合開始剤及びジエン系ポリマーを含む剥離剤液を塗工・乾燥して、活性エネルギー線を照射した後、硬化させて剥離剤層を形成することにより、上記特性を有する剥離シートが得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の剥離シートおよびその製造方法を提供するものである。
(1)基材フィルムと剥離剤層からなり、剥離剤層が分子内開裂型光重合開始剤を含むジエン系ポリマーに活性エネルギー線を照射することにより得られた硬化層であることを特徴とする剥離シート。
(2)活性エネルギー線が紫外線である(1)の剥離シート。
(3)ジエン系ポリマー100質量部に対する分子内開裂型光重合開始剤の割合が0.01〜10質量部である(1)又は(2)の剥離シート。
(4)剥離剤層の厚みが0.02〜5.0μmである(1)〜(3)のいずれかの剥離シート。
(6)基材フィルム上に分子内開裂型光重合開始剤及びジエン系ポリマーを含む剥離剤液を塗工し乾燥した後、活性エネルギー線照射して硬化させることにより剥離剤層を形成することを特徴とする剥離シートの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の剥離シートは、上記のような構成とすることにより、粘着剤層面へのシリコーンの移行が無く、且つ優れた剥離性を有する。また本発明の剥離シートの製造方法では、低温での剥離層を形成することが可能であることから耐熱性に乏しい基材上への剥離層の形成が可能である。更に本発明の剥離シートは、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)といった有機溶剤への耐性に優れるといった特性を有しており、粘着剤の転写塗工への対応も可能である。よって本発明の剥離シートは、電子部品の接着やラベル用途、および半導体ウェハ加工用粘着シートなど、粘着剤層面に移行したシリコーンが問題となる用途において好適に用いることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の剥離シートは、基材フィルム上に、分子内開裂型光重合開始剤を含むジエン系ポリマーに活性エネルギー線を照射することにより得られた硬化層からなる剥離剤層を設けたものである。
本発明の剥離シートにおける基材フィルムとしては、特に制限はなく、従来剥離シートの基材フィルムとして知られている公知の基材フィルムの中から、適宜選択して用いることができる。そのような基材フィルムとしては、例えばグラシン紙、コート紙、キャストコート紙、無塵紙などの紙基材フィルム、これらの紙基材フィルムにポリエチレンなどの熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙、あるいはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレンやポリメチルペンテンなどのポリオレフィンフィルム、ポリカーボネートフィルム、酢酸セルロース系フィルムなどのプラスチックフィルムや、これらを含む積層シートなどが挙げられる。この基材フィルムの厚さとしては特に制限はないが、通常10〜150μmが望ましい。
【0010】
基材フィルムとしてプラスチックフィルムを用いる場合には、プラスチックフィルムと剥離剤層との密着性を向上させるなどの目的で、所望により、該プラスチックフィルムの剥離剤層が設けられる側の面に、酸化法や凹凸化法などの物理的又は化学的表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は、基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が、効果及び操作性などの面から、好ましく用いられる。また、プライマー処理を施すこともできる。
なお、本発明の剥離シートにおいては、基材フィルムと剥離剤層の間に密着性を向上させたり、特定の特性を付与するために、アンダーコート層を設けてもよい。
【0011】
本発明の剥離シートは、上記の如き基材フィルムと、分子内開裂型光重合開始剤を含むジエン系ポリマーに活性エネルギー線を照射することにより得られた硬化層からなる剥離剤層を有するものである。剥離剤層に使用するジエン系ポリマーとしては比較的軽剥離が得られるという観点から、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレンなどのジエン系ホモポリマーが用いられるが、特にポリブタジエン、ポリイソプレンが好適に用いられる。また、ポリスチレン−ポリブタジエン、ポリスチレン−ポリイソプレンなどのジエン系コポリマーを用いても良い。
【0012】
本発明においては光重合開始剤としては、活性エネルギー線の照射によりラジカルを発生させるラジカル系分子内開裂型光重合開始剤が用いられる。ラジカル系光重合開始剤には分子内開裂型と水素引き抜き型のラジカル発生機構があるが、ジエン系ポリマーの硬化効率の点から、分子内開裂型が用いられる。すなわちジエン系ポリマーをラジカル重合することにより3次元に架橋させることができ、耐溶剤性を有する剥離剤層を得るのに有効である。
分子内開裂型光重合開始剤としては、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタノン-1、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル]-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノンなどが挙げられる。
ジエン系ポリマー100質量部に対する分子内開裂型光重合開始剤の割合は好ましくは0.01〜10質量部、更に好ましくは0.05〜1.5質量部である。0.01質量部以上とすることにより剥離剤の十分な硬化性が得られ、逆に10質量部以下とすることにより重剥離化するなどの剥離性への影響を回避できる。
【0013】
本発明において剥離剤層を形成する場合には、酸化防止剤を含有させることが好ましい。酸化防止剤としては、特に制限はなく、公知のフォスファイト系酸化防止剤、有機イオウ系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等の何れもが使用可能である。
本発明において、剥離剤層は、上記のような材料を有機溶剤に溶解させた剥離剤液を塗工、乾燥した後に活性エネルギー線照射をすることにより形成することができる。
この際用いられる有機溶剤としては、ジエン系ポリマーに対する溶解性が良好である公知の溶剤の中から適宜選択して用いることができる。このような有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、メタノール、エタノール、イソブタノール、n−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
剥離剤液は、塗工の利便さから、これらの有機溶剤を使用して、固形分濃度が0.1〜15質量%の範囲になるように調製するのが好ましい。
剥離剤液の前記基材フィルム上への塗工は、例えばバーコート法、リバースロールコート法、ナイフコート法、ロールナイフコート法、グラビアコート法、エアドクターコート法、ドクターブレードコート法など、従来公知の塗工方法により行なうことができる。
【0015】
本発明において剥離剤層は、このように剥離剤液を前記基材フィルム上へ塗工し、乾燥後、活性エネルギー線を照射することにより形成される。用いられる活性エネルギー線としては、例えば電子線や紫外線が挙げられ、用いる分子内開裂型光重合開始剤の吸収波長や、基材劣化のダメージといった点から紫外線が好適である。
紫外線照射に使用する紫外線ランプとしては、従来公知の高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプ、無電極ランプなどが使用できるが、ジエン系ポリマーの硬化性の点で無電極ランプが最も適している。
【0016】
紫外線の照射量は、剥離シート基材と剥離剤との高密着性を得るという観点及び軽剥離を得るという観点からは、10〜150mJ/cm2 の範囲が好ましい。
剥離剤層の厚みは、剥離剤液を基材フィルム上へ塗工し、乾燥し硬化させた状態で、0.02〜5.0μmとすることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜1.5μmである。0.02μm以上とすることにより十分な剥離性が得られ、また、5.0μm以下とすることにより剥離シートの背面と剥離剤層とのブロッキング等の不具合を生じる恐れがない。
本発明の剥離シートに適用される粘着剤としては特に制限はなく、例えば、例えばアクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤などの、従来公知の粘着剤の中から適宜選択することができる。
【0017】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、次の方法により、剥離力、シリコーン転移量の測定および耐溶剤性の評価を行った。
【0018】
(1)剥離力の測定:
剥離層に粘着シート(日東電工製31Bテープ)を貼り合わせ、温度23℃、相対湿度50%の条件下で30分放置後の剥離力を測定した(180°ピール、剥離速度0.3m/分)。
(2)シリコーン転移量の測定:
剥離シートと貼合された粘着シートから剥離シートを剥離した粘着層面において、X線光電子分光法(XPS)を用いて表面に存在するSi原子比率(原子%)を下記の条件で測定した。
測定装置:アルバックファイ製 Quantera SXM
X線源:AlKα(1486.6 eV)
取出し角度: 45度
測定元素:シリカ(Si)及び炭素(C)
なお、Si量は、Si/(Si+C)の値に100を乗じて、「原子%」で表示した。
(3)耐溶剤性の評価:
メチルエチルケトン(MEK)、トルエンまたは酢酸エチルを含浸させた3種のウェスにて剥離シートの剥離剤層を10回擦った後、粘着シート(日東電工製31Bテープ)を貼り合わせ、前記剥離力を測定し、剥離した際の処理面の剥離性の変化を確認し、次のように評価した。
○:剥離力に変化が殆ど見られないもの、 ×:重剥離化が生じたもの
なお、剥離力が1000mN/20mmを超えると重剥離化しており、実質的に使用不可である。
【0019】
実施例1
ジエン系ポリマー(ポリブタジエン、日本ゼオン社製、商品名:ニポール1241)100質量部に、分子内開裂型光重合開始剤として1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(チバガイギー社製、商品名:イルガキュア184)を0.05質量部添加し、固形分濃度が約0.5質量%になるようにトルエンにて希釈した。この剥離剤溶液をマイヤーバーを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムと略す。三菱化学ポリエステルフィルム社製、商品名:PET38T−100)の片面に塗工した後、90℃で約1分間溶剤乾燥させ、無電極ランプにて紫外線照射(約100mJ/cm2)を行い、剥離剤層を硬化させて膜厚が0.1μmの剥離シートを得た。剥離力、シリコーン転移量の測定結果および耐溶剤性の評価結果を第1表に示す。
【0020】
実施例2
分子内開裂型光重合開始剤の添加量を1.0質量部とした以外は実施例1と同様にして剥離シートを得た。剥離力、シリコーン転移量の測定結果および耐溶剤性の評価結果を第1表に示す。
【0021】
実施例3
剥離剤層の膜厚を約1.0μmとした以外は実施例1と同様にして剥離シートを作製した。剥離力、シリコーン転移量の測定結果および耐溶剤性の評価結果を第1表に示す。
【0022】
実施例4
ジエン系ポリマー(ポリイソプレン、クラレ社製、商品名:LIR30)を使用した以外は実施例1と同様にして剥離シートを得た。剥離力、シリコーン転移量の測定結果および耐溶剤性の評価結果を第1表に示す。
【0023】
比較例1
剥離剤液に分子内開裂型光重合開始剤を添加しなかった以外は実施例1と同様にして剥離シートを得た。剥離力、シリコーン転移量の測定結果および耐溶剤性の評価結果を第1表に示す。
【0024】
比較例2
付加反応型シリコーン樹脂(信越化学社製、商品名:KS−847H)100質量部及び塩化白金酸系架橋剤(信越化学製、商品名:CAT−PL−50T)1.0質量部をトルエンにて固形分濃度が約1.1%となるように希釈して剥離剤塗工溶液を調製した。この剥離剤塗工溶液をマイヤーバーを用いて乾燥後の膜厚が約0.1μmとなるようにPETフィルム(三菱化学ポリエステルフィルム社製、商品名:PET38T−100)の片面に塗工した後、130℃で約1分間乾燥させ剥離シートを得た。剥離力、シリコーン転移量の測定結果および耐溶剤性の評価結果を第1表に示す。
【0025】
比較例3
分子内開裂型光重合開始剤に代えて水素引き抜き型光重合開始剤のベンゾフェノン(東京化成工業社製)を0.05質量部添加した以外は実施例1と同様に行った。剥離力、シリコーン転移量の測定結果および耐溶剤性の評価結果を第1表に示す。
【0026】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと剥離剤層からなり、剥離剤層が分子内開裂型光重合開始剤を含むジエン系ポリマーに活性エネルギー線を照射することにより得られた硬化層であることを特徴とする剥離シート。
【請求項2】
活性エネルギー線が紫外線である請求項1に記載の剥離シート。
【請求項3】
ジエン系ポリマー100質量部に対する分子内開裂型光重合開始剤の割合が0.01〜10質量部である請求項1又は2に記載の剥離シート。
【請求項4】
剥離剤層の厚みが0.02〜5.0μmである請求項1〜3のいずれかに記載の剥離シート。
【請求項5】
基材フィルム上に分子内開裂型光重合開始剤及びジエン系ポリマーを含む剥離剤液を塗工し乾燥した後、活性エネルギー線照射して硬化させることにより剥離剤層を形成することを特徴とする剥離シートの製造方法。

【公開番号】特開2007−268846(P2007−268846A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97137(P2006−97137)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】