説明

剥離粉除去機および伸線装置

【課題】鋼線に密着した潤滑被膜の剥離を防止しつつ、潤滑被膜の剥離粉を効率よく除去することができる剥離粉除去機および伸線装置を提供する。
【解決手段】伸線装置13は、伸線機20および剥離粉除去機30を有する。伸線機20は、容器21およびダイス22を有し、容器21内に潤滑剤23が収容される。剥離粉除去機30は、容器31および筒状体32を有する。容器31内に複数の固形物33が収容され、その複数の固形物33に筒状体32が埋設される。容器21内において線材11aの表面に潤滑剤23が付され、その線材11aがダイス22によって伸線されることにより、鋼線11bに加工されるとともに、鋼線11bの表面に潤滑剤23からなる潤滑被膜が形成される。その後、鋼線11bは、筒状体32を通過するように容器31内を通過する。このとき、筒状体32内において固形物33と接触することにより潤滑被膜の剥離粉が除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼線に付着する潤滑被膜の剥離粉を除去する剥離粉除去機およびそれを備えた伸線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間鍛造用鋼線の製造工程においては、一般に、鋼線用の線材または線材よりあらかじめ一次伸線を施した鋼線(以下、線材または線材よりあらかじめ一次伸線を施した鋼線を合わせて「線材」という。)にリン酸亜鉛および石灰石けん等による潤滑処理が施される。そして、その線材を乾燥させた後、伸線することにより冷間鍛造用の鋼線(以下、線材または線材よりあらかじめ一次伸線を施した鋼線を伸線して得られた鋼線を「鋼線」という。)に加工される。また、この伸線工程においても、上記の潤滑処理とは別に、必要に応じ、ダイス前に設けられたパウダー状の潤滑剤による潤滑処理が行われる。これらにより、潤滑被膜が形成される。これらの潤滑被膜を形成することにより、冷間鍛造における鋼線の加工性を向上させることができる。潤滑被膜が形成された鋼線は、客先において切断された後、冷間鍛造される。
【0003】
ところで、潤滑被膜を鋼線に強固に密着させた場合でも潤滑被膜の表層部は剥離しやすい。そのため、客先において潤滑被膜の表層部が剥離し、その剥離粉により工場等の環境が汚染される場合がある。そこで、従来より、このような剥離粉の発生を防止するための技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載されている線材表面の洗浄方法では、剥離粉を除去するために、線材をセラミック等の硬質粒子および洗浄液が充填された振動容器内を通過させている。特許文献1には、上記の方法において、線材に付着した剥離粉等が硬質粒子に衝突することによって物理的に剥離されると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−280178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載されている方法では、振動容器内に充填されている粒子が硬質であるため、剥離粉だけではなく潤滑被膜自体も剥離される場合がある。また、欠損等により硬質粒子の一部が鋭い形状になった場合には、その硬質粒子により潤滑被膜の下の鋼線の表面に疵がつくおそれがある。
【0007】
そこで、本発明者らは、上記の問題を解決するために、籾殻および粒状の発泡スチロール等の軟質粒子が充填された振動容器内に鋼線を通過させて剥離粉の除去を試みた。この方法によれば、潤滑被膜自体の剥離は防止することができた。しかしながら、剥離粉を十分に除去することができなかった。
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、鋼線に密着した潤滑被膜の剥離を防止しつつ、潤滑被膜の剥離粉を効率よく除去することができる剥離粉除去機および伸線装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に示す発明を要旨とする。
【0010】
第1の発明に係る剥離粉除去機は、鋼線に付着する潤滑被膜の剥離粉を除去する剥離粉除去機であって、鋼線が通過する容器と、容器に収容される複数の固形物と、容器内において複数の固形物に埋設される筒状体とを備え、固形物の硬度は鋼線の硬度よりも低く、筒状体は、鋼線の進行方向において断面積が漸次減少する内部空間を有するテーパ部を含み、鋼線がその内部空間を通過するように構成したものである。
【0011】
この剥離粉除去機においては、筒状体が複数の固形物に埋設されている。したがって、筒状体内にも複数の固形物が存在している。この場合、筒状体内の固形物の移動は筒状体の内面によって制限されるので、鋼線が筒状体内を通過することにより、鋼線と固形物との間に適度な摩擦力が発生する。それにより、鋼線の表面に付着している潤滑被膜の剥離粉を除去することができる。
【0012】
また、この剥離粉除去機においては、筒状体が容器内に収容された固形物に埋設され、その固形物と鋼線との間の摩擦力により固形物が筒状体内に誘導(循環)される。この場合、固形物を誘導(循環)するための装置を剥離粉除去機に設ける必要が無い。それにより、剥離粉除去機の製造コストを低減することができる。また、固形物の入れ替えおよび筒状体のメンテナンスも容易に行うことができる。
【0013】
また、筒状体には、鋼線の進行方向において内部空間の断面積が漸次減少するテーパ部が形成されているので、鋼線の進行に従って固形物を円滑に誘導することができる。それにより、適切な量の固形物を筒状体内に常時供給することができるので、鋼線の表面の剥離粉を効率よく除去することができる。
【0014】
また、テーパ部においては、内部空間の断面積が漸次減少するので、鋼線と固形物との間の摩擦力を鋼線の表面全体において徐々に大きくすることができる。それにより、鋼線の表面全体において効率よく剥離粉を除去することができるので、剥離粉が鋼線の表面に部分的に残留することを防止することができる。
【0015】
また、固形物の硬度は鋼線の硬度よりも低い。この場合、固形物との接触によって鋼線に密着している潤滑被膜の剥離を防止できるとともに、鋼線の表面に疵が付くことを防止することができる。
【0016】
以上の結果、鋼線に密着した潤滑被膜の剥離を防止しつつ、潤滑被膜の剥離粉を効率よく除去することが可能となる。
【0017】
テーパ部の内部空間の軸方向の任意の位置におけるその軸方向に垂直な断面の形状は略相似形状であってもよい。この場合、鋼線と固形物との間の摩擦力を鋼線の表面全体において略均一な割合で増加させることができる。それにより、鋼線の表面全体においてより効率よく剥離粉を除去することができるので、剥離粉が鋼線の表面に部分的に残留することを十分に防止することができる。
【0018】
筒状体は、テーパ部の進行方向側に形成され鋼線の進行方向において断面積が略一定の内部空間を有する定常部を含んでもよい。この場合、定常部を適度な大きさにすることにより、固形物を鋼線の表面全体に適切な圧力で接触させることができる。それにより、定常部において潤滑被膜の剥離粉を十分に除去することができる。
【0019】
筒状体の軸方向に垂直な断面の形状は、鋼線の軸方向に垂直な断面の形状と略相似形状であってもよい。この場合、筒状体内において、固形物を鋼線の表面全体に略均一な圧力で接触させることができる。それにより、鋼線の表面全体においてより効率よく剥離粉を除去することができるので、剥離粉が鋼線の表面に部分的に残留することを十分に防止することができる。
【0020】
第2の発明に係る伸線装置は、線材を伸線することにより鋼線に加工する伸線機と、伸線機において加工された鋼線に付着する潤滑被膜の剥離粉を除去する剥離粉除去機とを備え、剥離粉除去機は、鋼線が通過する容器と、容器に収容される複数の固形物と、容器内において複数の固形物に埋設される筒状体とを有し、固形物の硬度は鋼線の硬度よりも低く、筒状体は、鋼線の進行方向において断面積が漸次減少する内部空間を有するテーパ部を含み、鋼線がその内部空間を通過するように構成したものである。
【0021】
この伸線装置は、第1の発明に係る剥離粉除去機と同様の構成の剥離粉除去機を備えている。したがって、この伸線装置によれば、潤滑被膜の剥離が防止されかつ潤滑被膜の剥離粉が十分に除去された鋼線を製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、鋼線に密着した潤滑被膜の剥離を防止しつつ、潤滑被膜の剥離粉を効率よく除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】伸線工程を示す図である。
【図2】図1の筒状体を示す斜視図である。
【図3】図2の筒状体のA矢視図である。
【図4】筒状体の他の形状を示す図である。
【図5】筒状体のさらに他の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しつつ、線材コイルを素材として伸線を行なう場合を例として、本発明の実施の形態に係る剥離粉除去機および伸線装置について説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施の形態に係る伸線装置の使用方法を説明するための図である。なお、図1には、伸線工程が示されている。
【0026】
図1に示すように、伸線工程においては、保持手段10に保持された線材コイル11から線材11aが巻き取り装置12によって引き出される。そして、この線材11aが伸線装置13において伸線されることにより鋼線11bに加工される。なお、線材11aの表面には、例えば、リン酸塩および石けん(石灰石けん)等からなる潤滑被膜が形成されている。また、保持手段10としては、例えば、ステムが用いられる。以下、伸線装置13の詳細を説明する。
【0027】
伸線装置13は、伸線機20および剥離粉除去機30を有する。伸線機20は、容器21およびダイス22を有する。容器21内には、パウダー状の潤滑剤23が収容されている。潤滑剤23としては、例えば、石灰粉末と石けん粉末の混合物等が用いられる。
【0028】
剥離粉除去機30は、容器31および筒状体32を有する。容器31内には、複数の固形物33が収容されている。筒状体32は、複数の固形物33に埋設されている。固形物33としては、鋼線11bよりも軟質の材料が用いられ、例えば、籾殻、おがくず、木球、植物性加工物(例えば、紙などの植物性の繊維質を圧力で押し固めたもの)、球状、多角形状、カットワイヤ形状もしくはカットチューブ形状のプラスチック、ゴム、ワックス、発砲スチロールまたは複合材料(例えば、紙などの植物性の繊維質を樹脂で固めたもの)等の一種以上を用いることができる。固形物33と鋼線11bを擦り合わせて鋼線11bに疵がつかないことを確認することによって、固形物33の硬度が鋼線11bの硬度よりも低いことを調べることができる。
【0029】
上記のような構成において、線材11aが容器21内を通過する際に、線材11aの表面に潤滑剤23が付される。そして、その線材11aがダイス22によって伸線されることにより、鋼線11bに加工されるとともに、鋼線11bの表面に潤滑剤23からなる潤滑被膜が形成される。次に、鋼線11bは、筒状体32を通過するように容器31内を通過する。このとき、筒状体32内において、固形物33によって潤滑被膜の剥離粉が除去される。以下、剥離粉の除去について詳細に説明する。
【0030】
図2は、図1の筒状体32を示す斜視図である。また、図3は、図2の筒状体32のA矢視図である。図2および図3に示すように、筒状体32は、頂部を切り取った円錐状のテーパ部32aおよび略一定の内径を有する円筒状の定常部32bからなる。筒状体32の軸方向に垂直な断面の形状は円であり、鋼線11bの軸方向に垂直な断面の形状の円と相似形状である。また、テーパ部32aは頂部を切り取った円錐状の形状をしているため、テーパ部32aの内部空間の軸方向の任意の位置における前記軸方向に垂直な断面の形状は全て円の相似形状である。定常部32bの内径は、例えば、2つまたは3つ以上の固形物33が同時に通過可能な大きさに設定される。また、定常部32bの内径は、内部空間の断面積が鋼線11bの断面積の20倍以下になるように設定されることが好ましい。
【0031】
上述したように、本実施の形態においては、筒状体32は、複数の固形物33(図1参照)に埋設されている。そして、筒状体32内にも複数の固形物33が存在している。この場合、筒状体32内の固形物33の移動は筒状体32の内面によって制限されるので、鋼線11bが筒状体32内を通過することにより、鋼線11bと固形物33との間に適度な摩擦力が発生する。それにより、鋼線11bの表面に付着している潤滑被膜の剥離粉を除去することができる。
【0032】
また、本実施の形態においては、筒状体32が容器31内に収容された固形物33に埋設され、その固形物33と鋼線11bとの間の摩擦力により固形物33が筒状体32内に誘導(循環)される。この場合、固形物33を誘導(循環)するための装置を剥離粉除去機30に設ける必要が無いので、剥離粉除去機30の製造コストを低減することができる。また、固形物33の入れ替えおよび筒状体32のメンテナンスも容易に行うことができる。
【0033】
また、図2に示すように、筒状体32には、鋼線11bの進行方向において内径(内部空間の断面積)が漸次減少するテーパ部32aが形成されている。それにより、鋼線11bの進行に従って、固形物33をテーパ部32aから定常部32bに円滑に導くことができる。その結果、定常部32b内に適切な量の固形物33を常時供給し、固形物33を鋼線11bの表面全体に適切な圧力で接触させ、鋼線11bの表面の剥離粉を効率よく除去することができる。
【0034】
また、テーパ部32aにおいては、内部空間の断面積が漸次減少するので、鋼線11bと固形物33との摩擦力を鋼線11bの表面全体において徐々に大きくすることができる。それにより、鋼線11bの表面全体においてより効率よく剥離粉を除去することができる。また、定常部32bを適度な大きさに設定することにより、固形物33を鋼線11bの表面全体に適切な圧力で接触させ続けることができる。それにより、定常部32bにおいて潤滑被膜の剥離粉を確実に除去することができるので、剥離粉が鋼線11bの表面に部分的に残留することを防止することができる。
【0035】
また、本実施の形態においては、固形物33として鋼線11bよりも軟質の材料が用いられている。この場合、固形物33との接触によって鋼線11bに密着している潤滑被膜が剥離することを防止することができるとともに、鋼線11bの表面に疵が付くことを防止することができる。
【0036】
なお、筒状体32の形状は上記の例に限定されない。例えば、図4に示すように、テーパ部32aと定常部32bとが滑らかに連続する形状であってもよく、図5に示すように、テーパ部32aの傾斜角度が2段階で変化する形状であってもよい。また、定常部32bは形成されなくてもよく、筒状体32の一端から他端に向かって内部空間の断面積が漸次減少してもよい。また、筒状体32の内部空間の断面形状は円形に限定されず、筒状体32の断面形状は略正四角形または他の略正多角形であってもよい。また、筒状体32の断面形状は、鋼線11bの断面形状の相似形状であってもよい。例えば、鋼線11bの断面形状が略楕円形である場合には、筒状体32の断面形状が略楕円形であってもよい。なお、筒状体32の内部空間の任意の位置における断面形状(軸方向に垂直な断面の形状)は互いに相似形状であることが好ましい。
【0037】
また、上記実施の形態においては、伸線装置13においてパウダー状の潤滑剤23を用いて潤滑被膜が形成されている例で説明したが、パウダー状の潤滑剤23は用いなくてもよい。この場合でも、線材11aに予め形成されているリン酸塩および石けん(石灰石けん)等からなる潤滑被膜の剥離粉を剥離粉除去機30において適切に除去することができる。なお、この場合には、容器21(図1参照)および潤滑剤23(図1参照)は設けなくてよい。また、上記実施の形態においては、線材コイルを素材として伸線を行なう場合を例としたが、線材よりあらかじめ一次伸線を施した鋼線コイルを素材とする場合であっても、同様の効果が得られることは言うまでもない。また、上記実施の形態においては、容器31内に1つの筒状体32が設けられる場合を例としたが、容器31内に2つ以上の筒状体32が設けられてもよい。また、2つ以上の筒状体32を設ける場合には、巻き取り装置12側(鋼線11bの進行方向側)に設置される筒状体32の内径を伸線機20側に設置される筒状体32の内径よりも小さくすることが好ましい。この場合、鋼線11bと固形物33との間の摩擦力は、巻き取り装置12側に設置される筒状体32内においてより大きくなるので、鋼線11bの表面の剥離粉をより効率よく除去することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、鋼線に密着した潤滑被膜の剥離を防止しつつ、潤滑被膜の剥離粉を効率よく除去することが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
10 保持手段
11 線材コイル
11a 線材
11b 鋼線
12 巻き取り装置
13 伸線装置
20 伸線機
21 容器
22 ダイス
23 潤滑剤
30 剥離粉除去機
31 容器
32 筒状体
33 固形物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼線に付着する潤滑被膜の剥離粉を除去する剥離粉除去機であって、
鋼線が通過する容器と、
前記容器に収容される複数の固形物と、
前記容器内において前記複数の固形物に埋設される筒状体とを備え、
前記固形物の硬度は鋼線の硬度よりも低く、
前記筒状体は、鋼線の進行方向において断面積が漸次減少する内部空間を有するテーパ部を含み、鋼線が前記内部空間を通過するように構成したことを特徴とする剥離粉除去機。
【請求項2】
前記テーパ部の内部空間の軸方向の任意の位置における前記軸方向に垂直な断面の形状は略相似形状であることを特徴とする請求項1に記載の剥離粉除去機。
【請求項3】
前記筒状体は、テーパ部の前記進行方向側に形成され前記進行方向において断面積が略一定の内部空間を有する定常部を含むことを特徴とする請求項1または2記載の剥離粉除去機。
【請求項4】
前記筒状体の軸方向に垂直な断面の形状は、鋼線の軸方向に垂直な断面の形状と略相似形状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の剥離粉除去機。
【請求項5】
線材を伸線することにより鋼線に加工する伸線機と、
前記伸線機において加工された鋼線に付着する潤滑被膜の剥離粉を除去する剥離粉除去機とを備え、
前記剥離粉除去機は、
鋼線が通過する容器と、
前記容器に収容される複数の固形物と、
前記容器内において前記複数の固形物に埋設される筒状体とを有し、
前記固形物の硬度は鋼線の硬度よりも低く、
前記筒状体は、鋼線の進行方向において断面積が漸次減少する内部空間を有するテーパ部を含み、鋼線が前記内部空間を通過するように構成したことを特徴とする伸線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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