説明

副生成物の生成を抑制する重合体の製造方法

【課題】蒸発潜熱除熱型重合槽を使用した重合体の製造において、副生成物の生成量を低減できる重合方法を提供する。
【解決手段】蒸発潜熱除熱型重合槽を用いた重合体の製造方法において、重合槽の頭頂部にあるガス抜出口と、重合槽内の気相部と液相部の界面との距離Gを、下記式(1)から算出されるH以上1.5H以下とすることを特徴とする重合体の製造方法。
H=u/117.61 (1)
(式中、Hは距離[m]であり、uは定常状態における蒸発ガスの空塔速度[m/hr]である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸発潜熱除熱型重合槽を使用した重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体の製造において、重合反応により発生する熱を除去するために、蒸発潜熱除熱型重合槽を用いる場合がある。蒸発潜熱除熱型重合槽では、重合器の気相部から蒸発ガスを抜き出し、抜き出したガスを凝縮器で凝集、冷却し、凝縮液及び非凝縮ガスを重合器に戻す。蒸発ガス内の潜熱を重合槽の外部に除去し、冷却された凝縮液を重合槽内に循環させることにより、槽内の温度を制御する。
【0003】
蒸発潜熱除熱型重合槽における溶液重合では、液相部が撹拌されているために、蒸発ガスを抜き出す際にガスとともに微粉やミストを同伴することがある(以下、エントレと称すことがある。)。同伴された微粉やミストには、重合触媒が含まれている場合があり、蒸発ガスの凝集時や循環時等に、触媒を起点として副反応物が生成することがある。副反応物は製品性状へ影響を及ぼすため、その発生を低減する必要がある。
上記の問題に対し、例えば、凝集・循環経路において、重合禁止剤を添加する方法が考えられる。しかしながら、重合禁止剤を添加した凝縮液を再度重合槽へ戻す場合、重合禁止剤が重合槽での重合に影響を及ぼさないよう、重合禁止剤失活剤を添加する工程を設ける必要があり、さらに、重合禁止剤失活剤の添加濃度の調整が必要である。そのため、製造費用を押し上げる要因となる。
尚、重合槽外部での反応を抑制するために、重合禁止剤を添加する工程を導入することについては、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−145910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、蒸発潜熱除熱型重合槽を使用した重合体の製造において、副生成物の生成量を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の重合体の製造方法が提供される。
1. 蒸発潜熱除熱型重合槽を用いた重合体の製造方法において、
前記重合槽の頭頂部にあるガス抜出口と、前記重合槽内の気相部と液相部の界面との距離Gを、下記式(1)から算出されるH以上1.5H以下とすることを特徴とする重合体の製造方法。
H=u/117.61 (1)
(式中、Hは距離[m]であり、uは定常状態における蒸発ガスの空塔速度[m/hr]である。)
2.原料であるモノマーの表面張力が0.01〜0.1N/mであることを特徴とする1に記載の重合体の製造方法。
3.前記モノマーがプロピレンであることを特徴とする2に記載の重合体の製造方法。
4.前記液相部の溶液粘度が、100〜5,000mPa・sの範囲であることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、重合禁止剤を使用することなく副反応物の生成量を抑えることができるため、重合体製品の品質を向上できる。
また、重合設備の設計時において重合槽の大きさが計算できるため、必要以上に装置を大きくする必要がなく、適切な装置規模とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】蒸発潜熱除熱型重合槽の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の重合体の製造方法では、蒸発潜熱除熱型重合槽を用いる。
図1は、本発明の実施に供する蒸発潜熱除熱型重合槽の一例の概略図である。
蒸発潜熱除熱型重合槽は、撹拌装置11を有する重合槽10に、蒸発ガスを凝縮、冷却し、凝縮液を重合槽10に循環させる循環管路20を形成したものである。
ガス抜出口21が重合槽の略頭頂部にあり、ガス抜出口21から蒸発ガスを循環管路20に導入する。蒸発ガスは循環管路20に設けられた凝縮冷却部22にて凝縮、冷却される。凝縮冷却部22は圧縮機や熱交換器により構成される。
尚、本願において、重合槽の頭頂部には、頭頂部及びその周辺を含む。また、図1において原料供給管や製品である重合体の取出管等は省略している。
【0010】
本発明の製造方法では、重合槽10の頭頂部にあるガス抜出口21と、重合槽10内の液相部12と気相部13の界面(気液界面15)との距離Gを、下記式(1)から算出されるH以上1.5H以下とすることを特徴とする。
H=u/117.61 (1)
(式中、Hは距離[m]であり、uは定常状態における蒸発ガスの空塔速度[m/hr]である。)
【0011】
式(1)において、蒸発ガスの空塔速度(u)は下記式(2)で表わされる。
u=w/(ρ・A) (2)
(式(2)中、wは定常状態における蒸発ガス質量流量[kg/hr]であり、ρはガス密度[kg/m]であり、Aは重合槽の断面積[m]である。)
【0012】
空塔速度(u)は、上記式(2)に示すように、蒸発ガス質量流量(w)に比例する。蒸発ガス質量流量(w)は、蒸発ガスラインに設置する圧縮機やブロワー等により制御する。蒸発ガス質量流量(w)は、重合時に発生する発熱量に応じて適宜調整する。蒸発ガス質量流量(w)は、通常、1〜100000kg/hrであり、好ましくは1〜80000kg/hrであり、より好ましくは1〜50000kg/hrである。
蒸発ガス質量流量(w)が大きいと、凝縮・循環されるガス(モノマーや溶媒等)が増加する。従って、重合槽内部の外部に排気できる熱量が増加する。しかしながら、蒸発ガス質量流量(w)が大きいと、蒸発ガスを凝縮したり冷却するための熱交換器及びコンプレッサーが大きくなるため、経済的に不利となる。
【0013】
重合槽内のガス密度(ρ)は、槽内の圧力等により制御できる。ガス密度は通常10〜60kg/mである。好ましくは15〜50kg/mであり、より好ましくは20〜40kg/mである。ガス密度が低い場合、蒸発ガスを凝縮器で凝縮することが困難になるため、潜熱の除熱による重合槽の温度制御が困難となる。一方、ガス密度が高いと、設備の高圧対応が必要となり、設備費が高くなるため、経済的に不利となる。
【0014】
重合槽の断面積(A)は、重合槽中心部の横断面の面積を意味し、通常、0.01〜30mである。好ましくは、1〜30mであり、より好ましくは、5〜25mである。断面積(A)が小さいと、生産量が低く、実際の工業生産には現実的ではない。一方、断面積(A)が大きいと、重合槽が大きくなりすぎ設備費が高くなるため、経済的に不利となる。
【0015】
上述した蒸発ガス質量流量(u)、ガス密度(ρ)及び重合槽の断面積(A)により、空塔速度(u)を決定する。空塔速度(u)により、式(1)からHが算出できる。
本発明では、ガス抜出口21と、重合槽内の気相部13と液相部12の界面との距離Gを、H以上1.5H以下(H≦G≦1.5H)とする。距離GがHよりも小さいと、循環管路20に導入されるミストや微粉等の同伴量が増えるため、循環管路20内で副生成物が生成し、得られる重合体の品質低下の原因となる。一方、距離Gが1.5Hよりも大きいと、重合槽が不要に大きくなるため、重合槽の費用が高くなるため、製造費が増加するため好ましくない。
距離Gは、H〜1.25Hであることが好ましく、特に、H〜1.2Hであることが好ましい。
尚、ガス抜出口21と気液界面15の距離Gは、オーバーフロー抜出等、公知を方法により制御できる。
【0016】
式(1)は図1に示す蒸発潜熱除熱型重合槽に類似する装置により、蒸発ガスに含まれるエントレ量(ミストや微粉等)について検討した結果から得られた式である。本発明者は実験結果から、[エントレ流量/蒸発ガス流量](e)と、[空塔速度(u)/距離(H)](u/H)が下記式(3)で示される比例関係にあることを見出した。
e=3.978−12×(u/H)3.133 (3)
(eはエントレ流量/蒸発ガス流量[kg/kg]であり、uはガス空塔速度[m/s]であり、Hは距離[m]である。)
【0017】
また、[エントレ流量/蒸発ガス流量](e)と得られる重合体中における副生成物の量の関係は下記式(4)で表されることがわかった。
副生成物量[wtppm]=8.20×10e (4)
(eはエントレ流量/蒸発ガス流量[kg/kg]である。)
【0018】
上記式(3)及び(4)より、副生成物量を設定すると、u/Hが決定される。通常、重合体における副生成物量が100wtppm未満程度であれば、製品の品質に影響しない。従って、副生成物の量を100wtppmに設定することにより下記式(5)を得る。
(u/H)3.133=3.067×10 (5)
(式中、Hは距離[m]であり、uは定常状態における蒸発ガスの空塔速度[m/hr]である。)
式(5)からHを求めると、下記式(1)が得られる。
H=u/117.61 (1)
【0019】
本発明の製造方法は、各種重合体に適用できるが、特に、ポリオレフィンの製造に適している。また、単独重合でも共重合体の重合にも適用できる。
原料モノマーの具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン等が挙げられる。
特に、モノマーの表面張力が0.01〜0.1N/mであるものが好ましい。
【0020】
重合方式は、溶液重合である。重合触媒、溶媒、重合条件等については、特に制限はない。例えば、国際公開第WO2006−117983を参照することができる。
具体的に、重合温度は製品グレードや分子量により適宜調整されるが、50℃〜100℃が一般的であり、好ましくは、60℃〜90℃である。
また、重合圧力は、0.5〜3MPaGであり、好ましくは、1〜2MPaGである。低圧では、凝縮器でプロピレンが凝縮しづらく、高圧では、設備費増加し経済性から好ましくない。
【0021】
本発明の製造方法は、重合槽内における液相部の溶液粘度が、100〜5,000mPa・sの範囲において、特に、効果を発揮する。溶液粘度が100mPa・sより低いと、蒸発ガスに含まれるエントレ量(ミストや微粉等)が少ないため、本発明の効果が表れにくい。一方、5,000mPasより高いと、粘度が高すぎて良好な撹拌状態が得られず、大きな撹拌動力が必要となり現実的ではない。
溶液粘度は、150〜4、000mPa・sの範囲であることがより好ましく、特に200〜3、000mPa・sの範囲であることが好ましい。
尚、溶液粘度は、ブルックフィールド粘度計で測定した値である。
【0022】
本発明では、蒸発ガス抜出口と、重合槽内の気相部と液相部の界面との距離Gを、H〜1.5Hとすることにより、蒸発ガスに同伴された触媒による副反応物の生成を低減できる。従って、製品の品質を向上できる。また、循環管路で重合禁止剤を使用しないため生産性の改善が期待される。
【実施例】
【0023】
実施例1
プロピレンを重合した。プロピレンの表面張力は0.02N/mである。
表1に示すように、蒸発ガス質量流量(u)、ガス密度(ρ)及び重合槽の断面積(A)を調整した。その結果、蒸発ガス空塔速度は0.034m/s(122.4m/hr)であった。
液相部の溶液粘度を、1,000mPa・sとし、蒸発ガス抜出口と、重合槽内の気相部と液相部の界面との距離Gを1.0m付近に制御して重合した。その結果、得られた重合体に含まれる副生成物の割合は100wtppmであり、製品物性への影響は無視できる程度であった。
【0024】
実施例2
重合槽断面積Aを7.7mとし、距離Gを1.5m付近に制御して重合した他は、実施例1と同様にした。その結果、蒸発ガス空塔速度uは0.049m/sとなり、得られた重合体に含まれる副生成物の割合は100wtppmであった。
【0025】
実施例3
重合槽断面積Aを23mとした他は、実施例1と同様にした。その結果、蒸発ガス空塔速度uは0.016m/sとなり、得られた重合体に含まれる副生成物の割合は100wtppmであった。
【0026】
比較例1
距離Gを4.0m付近に制御して重合した他は、実施例1と同様にした。その結果、得られた重合体に含まれる副生成物の割合は1wtppmと低下したものの、重合槽の重量が82トンと大型化した。
【0027】
比較例2
距離Gを0.3m付近に制御して重合した他は、実施例1と同様にした。その結果、重合槽の重量は54トンと多少小型化したが、得られた重合体に含まれる副生成物の割合は5000wtppmとなり、製品物性に悪影響が現れた。
【0028】
比較例3
重合槽断面積Aを3.8mとした他は、実施例1と同様にした。その結果、蒸発ガス空塔速度uは0.1m/s、得られた重合体に含まれる副生成物の割合は3000wtppmであり、製品物性に悪影響が現れた
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の重合体の製造方法は、蒸発潜熱除熱型重合槽を用いた各種重合体の製造方法として好適である。
【符号の説明】
【0031】
10 重合槽
11 撹拌装置
12 液相部
13 気相部
15 気液界面
20 循環管路
21 ガス抜出口
22 凝縮冷却部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発潜熱除熱型重合槽を用いた重合体の製造方法において、
前記重合槽の頭頂部にあるガス抜出口と、前記重合槽内の気相部と液相部の界面との距離Gを、下記式(1)から算出されるH以上1.5H以下とすることを特徴とする重合体の製造方法。
H=u/117.61 (1)
(式中、Hは距離[m]であり、uは定常状態における蒸発ガスの空塔速度[m/hr]である。)
【請求項2】
原料であるモノマーの表面張力が0.01〜0.1N/mであることを特徴とする請求項1に記載の重合体の製造方法。
【請求項3】
前記モノマーがプロピレンであることを特徴とする請求項2に記載の重合体の製造方法。
【請求項4】
前記液相部の溶液粘度が、100〜5,000mPa・sの範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の重合体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−236392(P2011−236392A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111347(P2010−111347)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】