説明

副甲状腺ホルモン受容体の活性化と造血前駆細胞の増殖

本発明は造血前駆細胞および関連産物を操作する方法に関する。一態様では本発明は、in vivoおよびin vitroで造血前駆細胞の増殖および維持を促進し、細胞を骨髄にターゲッティングする効率を改善し、および/または造血前駆細胞機能を調節する、PTH/PTHrP受容体を活性化する物質の用途に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
国庫補助
本発明につながる研究は米国国立衛生研究所から契約/助成金番号HL65909、CA86355、DK60317、およびAR44855によって一部の資金提供を受けた。したがって、米国政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明は、造血前駆細胞および関連産物を操作する方法を含む。より詳細には、本発明は、in vivoおよびin vitroの両方で造血前駆細胞の増殖および維持を促進し、造血前駆細胞の動員を促進し、細胞を骨髄にターゲッティングする効率を改善し、および/または造血前駆細胞の機能を調節するための方法および製品を含む。
【背景技術】
【0003】
赤血球、白血球、血小板、およびリンパ球といった循環する血球は、造血と呼ばれる過程において、前駆細胞の最終分化から生じる。胎児期には、造血は細網内皮系の全体で生じる。正常な成体では、前駆細胞の最終分化は、軸骨格の骨髄腔のみで生じ、近位大腿骨および上腕骨にいくらか拡大している。これらの前駆細胞(precursor cells)は、前駆細胞(progenitors)、幹細胞、または造血細胞と呼ばれる未熟な細胞に由来する。
【0004】
造血前駆細胞は、移植レシピエントにおいて血液および免疫細胞機能を回復する能力、および脳、筋肉、および肝臓といった他の組織のための細胞を生じる潜在能力の結果として、治療的可能性を有する(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。ヒトの自家および同種異系骨髄移植法は現在、白血病、リンパ腫、およびその他の生命に関わる病気のような疾患の治療法として用いられている。これらの手続のためには、移植用に十分な細胞があることを確実にするために、多量のドナー骨髄を単離しなければならない。骨髄移植のための造血前駆細胞の増殖は、ヒト骨髄の長期培養物をその治療上の有用性のために作成するための可能性のある方法である。いくつかの研究が、造血前駆細胞の単離および精製を報告しているが(例えば、特許文献1を参照)、それら方法のいずれも完全には成功していない。
【0005】
前駆細胞の局在化の原理を特定することは、それら細胞の治療的可能性を最大にするのに重要である。発生の間に、造血は胎児肝臓から骨髄へ移行し、骨髄はその後、成体期を通じて造血の場であり続ける。いったん造血が骨髄で確立されると、造血前駆細胞は骨髄腔全体に無作為には分布しない。造血前駆細胞は骨内表面のごく近傍に見出され(非特許文献4;非特許文献5)、このことは、注射された精製造血前駆細胞が注射の約10時間後に骨内表面に優先的に局在化するのが見出された際に確認された観察である(非特許文献6)。より成熟した前駆細胞(CFU−C活性による測定で)は、骨表面からの距離が遠くなるにつれて数が増えた。最終的に、骨の中心の縦軸が近づくと、成熟細胞の最終分化が生じることが示されている(非特許文献4;非特許文献7;非特許文献8)。
【0006】
造血前駆細胞と骨の内表面との間の関係を考えると、造血で役割を果たすことに関与している一つの細胞型が骨芽細胞である(非特許文献9)。骨芽細胞は、局所刺激およびホルモン刺激に反応して、骨マトリクスの産生および石灰化を担う骨格細胞である(非特許文献10)。加えて、これらの細胞は、造血起源の骨再吸収細胞である破骨細胞の形成および活性を、RANK/RANKリガンド系を通じて調節することによって、骨再構成を調節する(非特許文献11)。G−CSFおよびその他の増殖因子の放出を通じて、骨芽細胞は原始的な造血細胞の増殖を支持することができることを研究が実証している(非特許文献12; 非特許文献13; 非特許文献14)。
【0007】
前駆細胞を操作する能力は、移植された細胞の生着の効率を改善しうる。現在、移植技術は極めて非効率である。その巨大な治療的可能性を考えると、造血前駆細胞がどのように調節されているか、例えば、何の因子が細胞の局在化、増殖、などを引き起こすかについて、比較的わずかしか知られていない。いくつかの研究は、骨髄腔への前駆細胞の局在化がケモカイン依存性であることを示唆している。例えば、SDF−1またはその受容体であるCXCR−4のどちらかが存在しないことが、発生途上のマウスにおいて骨髄への造血の局在化を不可能にすることがわかった(非特許文献15; 非特許文献16; 非特許文献17)。 さらに、CXCR−4の操作は、成体マウスにおいて前駆細胞のホーミングおよび保持を変化させ、その決定的な役割をさらに支持する(非特許文献18;非特許文献19)。セレクチンおよびインテグリンもまたこの過程に参加すると考えられており、in vivoまたはin vitroでの骨髄への原始細胞の保持または接着の媒介因子として同定されている(非特許文献20;非特許文献21;非特許文献22;非特許文献23;非特許文献24;非特許文献25)。しかしながら、これらの研究は、前駆細胞の局在化の完全な理解はもたらしていない。
【0008】
前駆細胞集団の増殖に寄与しうる外因性シグナル伝達分子を理解することは、治療手順を定めるのに重要である。
【特許文献1】米国特許第5,061,620号明細書
【非特許文献1】Choi, 1998 Biochem Cell Biol 76, 947-56; Eglitis and Mezey, 1997 Proc Natl Acad Sci U S A 94, 4080-5
【非特許文献2】Gussoniet al., 1999 Nature 401, 390-4
【非特許文献3】Theise et al., 2000 Hepatology 32,11-6
【非特許文献4】Lord et al., 1975, Blood, 46; 65-72
【非特許文献5】Gong et al., 1978, Science, 199; 1443-1445
【非特許文献6】Nilsson, et al., 2001, Blood, 97; 2293-2299
【非特許文献7】Cui et al., 1996, Cell Prolif., 29; 243-257
【非特許文献8】Lord et al., 1990, Int. J. Cell Clon., 8; 317-331
【非特許文献9】Taichman and Emerson, 1998, Stem Cells, 16; 7-15
【非特許文献10】Ducy, et al., 2000, Science, 289; 1501-1504
【非特許文献11】Teitelbaum et al., 2000, Science, 289; 1504-1508
【非特許文献12】Taichman and Emerson, 1994, J. Exp. Med., 179:1677-1682
【非特許文献13】Taichman et al., 1996, Blood, 87;518-524
【非特許文献14】Taichman et al., 2001, Br. J. Haematol., 112;438-448
【非特許文献15】Nagasawa et al., 1996, Nature, 382; 635-8
【非特許文献16】Su et al., 1999, J Immunol., 162; 7128-7132
【非特許文献17】Zou et al., 1998, Nature, 393; 595-9
【非特許文献18】Ma et al, 1999, Immunity, 10;463-71
【非特許文献19】Peled et al., 1999, Science, 283;845-8
【非特許文献20】Greenberg et al., 2000, Blood, 95;478-86
【非特許文献21】Naiyer et al, 1999, Blood, 94;4011-9
【非特許文献22】Rood et al., 1999, Exp. Hematol., 27; 1306-14
【非特許文献23】van der Loo et al., 1998, J. Clin. Invest. 102;1051-61
【非特許文献24】Williams et al.,1991, Nature, 352;438-41
【非特許文献25】Zanjani et al, 1999, Blood, 94;25 15-22
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は一部の態様では造血前駆細胞を操作する方法に関する。造血前駆細胞は、個体発生中に発生段階特異的に移動し、最終的に成体骨髄に存在する。この高度に再生性の細胞集団の成体期を通じた維持は、骨髄の微小環境に依存する。驚くべきことに、本発明に記載の微小環境を形成する細胞中の副甲状腺ホルモン/副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTH/PTHrP)受容体の活性化は、造血前駆細胞の増殖(自己再生の増加/数的増加を含む)および/または維持の促進につながることが発見された。
【0010】
したがって、一態様では本発明は、造血前駆細胞の増殖または維持を促進する方法に関する。その方法は、PTH/PTHrP受容体を発現している細胞を、造血前駆細胞の増殖または維持を支持するのに有効な量でPTH/PTHrP受容体を活性化する物質と接触させることを含む。重要な実施態様では、PTH/PTHrP受容体を発現している細胞は、造血前駆細胞の直ぐ周辺に存在する。一実施態様では,そのPTH/PTHrP受容体を発現している細胞はリンパ網間質細胞である。別の一実施態様では、そのPTH/PTHrP受容体を発現している細胞は造血前駆細胞である。PTH/PTHrP受容体を発現している細胞の、PTH/PTHrP受容体を活性化する物質との接触は、in vitro またはin vivoで行いうる。重要な実施態様では、PTH/PTHrP受容体を活性化する物質は、PTH(組み換え合成ヒトPTH(1−34)および活性なPTH断片を含む)、PTHアナログ、またはPTH/PTHrP受容体作用因子である。造血前駆細胞の増殖または維持は、in vitroまたはin vivoで生じうる。
【0011】
本発明の別の一態様では、造血前駆細胞自己再生を誘導する方法が提供される。その方法は、造血前駆細胞を、PTH/PTHrP受容体を発現している細胞と共培養し、PTH/PTHrP受容体を発現している細胞を、PTH/PTHrP受容体を活性化する物質と接触させ、造血前駆細胞の自己再生を誘導することを含む。共培養はin vitroまたはex vivoで生じうる。
【0012】
本発明の別の一態様では、個体において造血前駆細胞の増殖または維持を促進する方法が提供される。その方法は、そのような治療が必要な個体に、個体のPTH/PTHrP受容体を発現している細胞中のPTH/PTHrP受容体を活性化する物質を、造血前駆細胞の増殖または維持を支持するのに有効な量で投与することを含む。一部の実施態様では、PTH/PTHrP受容体を発現している細胞はリンパ網間質細胞である。一部の実施態様では、PTH/PTHrP受容体を発現している細胞は造血前駆細胞である。重要な実施態様では、PTH/PTHrP受容体を活性化する物質は、PTH、PTHアナログ、またはPTH/PTHrP受容体作用因子である。別の重要な実施態様では、そのような治療が必要な個体は骨髄ドナーである。骨髄ドナーは、骨髄を提供しているかまたはまだ骨髄を提供していない。一部の実施態様では、そのような治療が必要な個体は骨髄移植レシピエントである。一実施態様では、そのような治療が必要な個体は、環境ストレスを受けた造血前駆細胞を有する個体である。環境ストレスは、温度上昇(例えば、発熱)、身体外傷、酸化的、浸透圧性、および化学的ストレス(例えば化学治療剤)、および/または放射線(例えば紫外線(UV)、X線、ガンマ線、アルファ線、またはベータ線)を含む。
【0013】
別の実施態様では、そのような治療が必要な個体は、免疫系の不全症を有する個体である。免疫系の不全症は、慢性感染症患者、放射線または化学療法で治療された患者、CD4細胞数の異常低値がある患者、遺伝性免疫不全症の患者を含む。個体はまた、単球、マクロファージ、好中球、T細胞、B細胞、赤血球、血小板、好塩基球の異常減少といった造血細胞欠乏症のいずれか一つ以上を有する患者であることができる。
【0014】
本発明の別の一態様に記載の、造血前駆細胞の動員を促進する方法が提供される。その方法は、そのような治療が必要な個体に、PTH/PTHrP受容体を活性化する物質を、個体中の造血前駆細胞の動員を促進するのに十分な量で投与することを含む。重要な実施態様では、個体は骨髄ドナーである。
【0015】
別の一態様によると、本発明はPTHで処理した細胞の単離された集団を提供する。その細胞集団は好ましくは間質細胞集団である。細胞は、個体から単離されたex vivo細胞であることができる。または、細胞はin vitroで培養された細胞であることができる。一実施態様では、単離された細胞は均一である。代替的な一実施態様では、単離された細胞は不均一であり二種類以上の細胞型を含む。その細胞型のうち一つは好ましくは間質細胞である。
【0016】
本発明の制限のそれぞれは本発明のさまざまな実施態様を包含しうる。したがって、任意の一要素または要素の組合せを含む本発明の制限のそれぞれは、本発明の各態様に含まれうると予想される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
造血前駆細胞を操作する新しい方法が本発明に従って特定されている。これらの方法および関連産物は重大な治療上のおよび研究上の価値を有する。例えば、造血前駆細胞は、免疫不全患者の免疫系を補うための移植に用いられている。これらの細胞は多数の別の治療上の用途を有する。本発明以前は、しかし、造血前駆細胞を単離し精製する能力は限られていた。これらの細胞は骨髄に存在し、その単離を技術的に複雑な手順にしている。さらに、標本中のこれらの細胞を同定するための商業的に実行可能な方法は多くない。本発明はこれらの問題の多数を解決している。
【0018】
本発明の一部の態様によれば、副甲状腺ホルモン/副甲状腺ホルモン関連タンパク質受容体(PTH/PTHrP)の活性化の結果として、造血前駆細胞の増殖(自己再生の増加/数的増加を含む)または維持の促進が生じることが発見されている。この効果は、骨髄微小環境中に存在する、その受容体を発現する細胞によって媒介されると考えられている。その受容体を活性化する物質(例えば副甲状腺ホルモン(PTH))は、したがって、前駆細胞産生をin vivoおよびin vitroで促進する刺激物質として作用しうる。このことは、前駆細胞移植の分野のための重要な臨床的示唆を有する予期しない発見を示す。
【0019】
骨髄由来前駆細胞の数を増やすことは、血液疾患および癌疾患における移植のために利用可能な前駆細胞の数の不足に対して長い間求められてきた解決である。有益な効果は少なくとも下記の条件で想定することができる;(i) 前駆細胞数のin vivoでの増加;これは前駆細胞の取得を容易にするために採取前、または前駆細胞の回復を加速するために骨髄移植後であることができ、および/または(ii)採取した幹細胞のex vivo 増殖。前駆細胞数をin vivoで増やす方法は、骨髄/末梢前駆細胞採取に伴う時間および不快感を減少させ、および前駆細胞ドナーのプールを増加させる可能性がある。現在、自家ドナー移植の約25%が、十分な前駆細胞が無いために禁じられている。加えて、組織適合ドナーを見つけることができるのは、同種異系移植が必要である患者の25%未満である。臍帯血バンクは現在存在し、一般人口の幅広い人種的構成に及ぶが、標本中の前駆細胞数の不足のために、現在は小児への使用に制限されている。前駆細胞数を増やす方法は、臍帯血を成人患者にとって有用にし、それによって同種異系移植の使用を拡大する。
【0020】
本発明によると、造血前駆細胞の増殖または維持を促進する方法が提供される。その方法は、PTH/PTHrP受容体を発現している細胞を、造血前駆細胞の増殖または維持を支持するのに有効な量でPTH/PTHrP受容体を活性化する物質と接触させることを含む。
【0021】
ここで用いられる「造血前駆細胞」(または造血幹細胞)は、自己再生能力および、顆粒球(例えば、前骨髄球、好中球、好酸球、好塩基球)、赤血球(例えば、網状赤血球、赤血球)、栓球(例えば、巨核芽球、血小板形成巨核球、血小板)、および単球(例えば、単球、マクロファージ)を含むより成熟した血球(ここでは「子孫」ともいう)に分化する能力を有する未熟な血球をいう。造血前駆細胞は本明細書を通じて互換的に「幹細胞」と記載される。そのようなCD34細胞を含むかまたは含まないことができることが本分野で知られている。CD34細胞は下記の「血液製剤」中に存在する未熟な細胞であり、CD34細胞表面マーカーを発現し、および上記に定義された「前駆細胞」特性を有する細胞の部分集団を含むと考えられている。造血前駆細胞は、多能性幹細胞、多能性前駆細胞(例えば、リンパ系幹細胞)、および/または特定の造血細胞系譜に決定された前駆細胞を含むことが本分野でよく知られている。その特定の造血細胞系譜に決定された前駆細胞は、T細胞系譜、B細胞系譜、樹状細胞系譜、ランゲルハンス細胞系譜および/またはリンパ系組織特異性マクロファージ細胞系譜でありうる。
【0022】
造血前駆細胞は血液製剤から得ることができる。本発明で用いられる「血液製剤」は、体または造血起源の細胞を含む体の器官から得られた製剤を定義する。そのような起源は、未分画骨髄、臍帯、末梢血、肝臓、胸腺、リンパ、および脾臓を含む。前記の粗血液製剤または未分画血液製剤のすべては、「造血前駆細胞」の特徴を有する細胞をいくつかの方法で濃縮することができることが当業者に明らかとなる。例えば、血液製剤はより分化した子孫から取り出すことができる。より成熟した、分化した細胞は、それらが発現している表面分子を介して、選択して除くことができる。さらに、血液製剤は、CD34細胞について選択することによって分画することができる。前述の通り、CD34細胞は自己再生および多能性の能力を有する細胞の部分集合を含むと本分野で考えられている。そのような選択は、例えば、市販の磁気抗CD34ビーズ(Dynal, Lake Success, NY)を用いて達成することができる。未分画血液製剤は、ドナーから直接得ることができ、または低温保存物から回収することができる。
【0023】
重要な実施態様では、PTH/PTHrP受容体を発現している細胞は、造血前駆細胞の直接の周辺に存在する。一部の実施態様では、そのPTH/PTHrP受容体を発現している細胞はリンパ網間質細胞である。ここで用いられる「リンパ網間質細胞」は、例えば、骨芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、中皮細胞、樹状細胞、脾細胞、およびマクロファージといった、リンパ球またはリンパ球前駆体または前駆細胞ではないリンパ系組織中に存在するすべての細胞型を含みうるがそれらに限定されない。リンパ網間質細胞はまた、子孫を含めた造血前駆細胞の維持、増殖および/または分化に必要な因子を分泌するかまたは細胞表面に発現するように遺伝子操作されている繊維芽細胞といった、通常はリンパ網間質細胞として機能しない細胞も含む。リンパ網間質細胞は、リンパ系組織の一部の解離に由来する(下記の考察を参照)。本発明に記載のそのような細胞は、in vitroで子孫を含めた造血前駆細胞の維持、増殖および/または分化を支持することができる。「リンパ系組織」によって、骨髄、末梢血(動員末梢血を含む)、臍帯血、胎盤血、胎児肝臓、胚細胞(胚性幹細胞を含む)、大動脈−性腺−中腎由来細胞、およびリンパ系軟組織を含むことが意図される。ここで用いられる「リンパ系軟組織」は、胸腺、脾臓、肝臓、リンパ節、皮膚、扁桃、アデノイド、およびパイエル板といった組織およびその組合せを含むがそれらに限定されない。
【0024】
リンパ網間質細胞は、完全なリンパ系組織中の支持微小環境を、子孫を含めた造血前駆細胞の維持、増殖および/または分化のために提供する。微小環境は、リンパ網間質を構成するさまざまな細胞型によって発現される可溶性因子および細胞表面因子を含む。一般的に、リンパ網間質細胞が提供する支持は、接触依存性および非接触依存性の二つとして特徴づけることができる。
【0025】
リンパ網間質細胞は、造血前駆細胞または抗原提示細胞に関して、自家(「自己」)または非自家(「非自己」、例えば、同種異系、同系、または異種)である。ここで用いられる「自家」は、同一の個体に由来する細胞をいう。ここで用いられる「同種異系」は、比較する細胞とは遺伝的に異なる同一生物種の細胞をいう。ここで用いられる「同系」は、比較する細胞と遺伝的に同一である別の個体の細胞をいう。ここで用いられる「異種」は、比較する細胞とは異なる生物種の細胞をいう。リンパ網間質細胞は、造血前駆細胞の維持増殖および/または分化を支持できる段階(すなわち、成熟段階)へ発生した後の任意の時点で、ヒトまたは非ヒト個体のリンパ系組織から得ることができる。その段階は器官/組織の間で、および個体の間で異なる。霊長類では、例えば、胸腺発生の成熟段階は妊娠中期に達成される。発生のこの段階で、胸腺は、チミュリン、αおよびβサイモシン、およびサイモポエチンといったペプチドホルモン、およびT細胞分化のために適切な微小環境を提供するために必要な他の因子を産生することができる。異なる器官/組織および異なる個体間での異なる成熟段階は本分野でよく知られている。
【0026】
リンパ網間質細胞は、好ましくはPTH/PTHrP受容体を発現する。リンパ網間質細胞が由来するリンパ系組織が、通常は造血前駆細胞が取る細胞系譜決定を左右し、結果として、分化した子孫の細胞系譜特異性を生じる。一部の実施態様では、リンパ網間質細胞は胸腺間質細胞であり、多能性前駆細胞および/または系譜決定した前駆細胞はT細胞系譜に決定されている。別の実施態様では、リンパ網間質細胞は脾臓間質細胞であり、多能性前駆細胞および/または系譜決定した前駆細胞はB細胞系譜に決定されている。また驚くべきことは、本発明によれば、分化した子孫の最高収量はヒト造血前駆細胞が異種(非ヒト)リンパ網間質細胞の存在下で培養される場合に生じるという発見である。好ましくはその異種リンパ網間質細胞はげっ歯類起源である。
【0027】
リンパ網間質細胞が遺伝子操作される、さまざまな他の実施態様が提供されている。一部の実施態様では、リンパ網間質細胞は、好ましくはPTH/PTHrP受容体を発現する(固有にまたは遺伝子改変によって)。リンパ網間質細胞には、例えば、ここで別に記載する造血増殖因子の一つをコードする外因性DNAを導入することができる。
【0028】
前述の通り、リンパ網間質細胞はリンパ系組織の一部の解離に由来し、細胞懸濁液を形成する。好ましくは、単細胞懸濁液が生じる。これらのリンパ網間質細胞懸濁液を直接用いることができ、または組織培養分野で標準の手順によって非分裂化することができる。そのような方法の例は、ガンマ線源を用いてリンパ網間質細胞を照射する方法、または細胞を有糸分裂的に不活性にするのに十分な時間細胞をマイトマイシンCとインキュベーションする方法である。リンパ網間質細胞がヒト起源である場合、分裂不活性化が好ましい(懸濁液中に存在しうる前駆細胞を除去するため)。次に、リンパ網間質細胞を本発明の三次元マトリクス中に播種し、その多孔質の固体マトリクスの表面に付着させることができる。あるいは、後日の使用のために、または保存および遠隔地への輸送のために、例えばキットの販売と関連した用途のために、リンパ網間質細胞を低温保存することができる。in vitroで培養された細胞の低温保存は本分野で良く確立されている。細胞試料の単離(および/または分裂不活性化)に続いて、まず細胞を低温保存培地に懸濁し、次に細胞懸濁液を徐々に冷凍することによって、細胞を低温保存することができる。冷凍細胞は典型的には液体窒素中でまたは同等の温度にて、血清およびジメチルスルホキシドといった低温保存料を含む培地中で保存される。
【0029】
造血前駆細胞(およびその子孫)とリンパ網間質細胞との共培養は、本発明の一部の態様によると、好ましくは、造血前駆細胞に由来するリンパ系組織起源細胞の数の増殖率を生じるのに十分な条件下で行われる。用いられる条件は、本分野で既知である条件の組合せを参照する(例えば、温度、COおよびO含量、栄養培地、時間の長さ、など)。細胞数の増殖を生じるのに十分な時間は、当業者が容易に測定することができる時間であり、播種した細胞の最初の数に依存して変化しうる。多孔質固体マトリクス中に最初に導入された造血前駆細胞およびリンパ網間質細胞の量(および続いて播種された量)は、実験のニーズに従って変化しうる。理想的な量はニーズに基づいて当業者によって容易に決定されうる。造血前駆細胞は異なる数で加えることができる。一例として、ある期間にわたる培地の変色を集密の指標として用いることができる。さらに、そしてより正確に、異なる数の造血前駆細胞または異なる量の血液製剤を同一条件下で培養することができ、そして細胞を一定の時間間隔で採取し計数することができ、それによって「対照曲線(control curves)」を生成することができる。これらの「対照曲線」を用いて、その後の測定で細胞数を推定することができる。
【0030】
コロニー形成能を測定するための条件は同様に決定される。コロニー形成能は、細胞が子孫を形成する能力である。その測定法は当業者によく知られており、細胞を半固体マトリクスに播種し、それを増殖因子で処理し、そしてコロニー数を計数することを含む。
【0031】
本発明の好ましい実施態様では、造血前駆細胞を採取することができる。造血前駆細胞を「採取する」とは、マトリクスからの細胞の遊離または分離と定義される。これは、酵素的、非酵素的、遠心分離、電気的、またはサイズを基礎とする方法といったいくつかの方法を用いて、または好ましくは培地(例えば細胞を培養している培地)を用いて細胞を洗浄することによって達成することができる。さらに細胞を回収し、分離し、そしてさらに増殖させて、分化した子孫のさらに大きな集団を生じることができる。
【0032】
上記の通り、造血前駆細胞,およびその子孫を遺伝子操作することができる。造血前駆細胞の遺伝子改変は、外因性遺伝物質の添加によって作られる、細胞遺伝物質のすべての一過性および安定した変化を含む。遺伝子改変の例は、例えば変異遺伝子または発現されない遺伝子を置換するための機能性遺伝子の導入、優性阻害遺伝子産物をコードするベクターの導入、リボザイムを発現するよう操作されたベクターの導入、および治療遺伝子産物をコードする遺伝子の導入といった任意の遺伝子治療手順を含む。何の物質の導入も伴わない、T細胞受容体遺伝子の自然再構成といった自然の遺伝子改変はこの実施態様には含まれない。外因性遺伝物質は、造血前駆細胞に導入された、天然または合成の核酸またはオリゴヌクレオチドを含む。外因性遺伝物質は、その細胞中に天然に存在するもののコピーであってよく、またはその細胞中に天然には見出されないものであってもよい。外因性遺伝物質は典型的には、ベクター構造中のプロモーターの調節可能な制御下にある、天然に存在する遺伝子の少なくとも一部である。
【0033】
核酸を細胞に導入するためにさまざまな技術を用いることができる。そのような技術は、核酸−CaPO沈澱の遺伝子導入、DEAEを伴う核酸の遺伝子導入、目的の核酸を含むレトロウイルスを用いた遺伝子導入、リポソーム媒介遺伝子導入、などを含む。一部の用途には、核酸を特定の細胞にターゲッティングすることが好ましい。そのような場合に、本発明に記載の核酸を細胞へ送達するために用いられる媒体(例えば、レトロウイルス、または別のウイルス;リポソーム)は、それに結合したターゲッティング分子を持つことができる。例えば、標的細胞上の表面膜タンパク質に特異的な抗体または標的細胞上の受容体のリガンドといった分子を、核酸送達媒体に結合することができ、またはその中に組み込むことができる。例えば、本発明の核酸を送達するのにリポソームが用いられる場合、エンドサイトーシスに関連する表面膜タンパク質と結合するタンパク質を、ターゲッティングのためにおよび/または取り込みを促進するために、リポソーム処方に組み込むことができる。そのようなタンパク質は、特定の細胞型に向性であるタンパク質またはその断片、サイクリングで内部移行を受けたタンパク質に対する抗体、細胞内局在化を標的とし細胞内半減期を増大させるタンパク質、などを含む。当業者に知られている通り、核酸を細胞内へ順調に送達するために、高分子送達系もまた用いられている。そのような系は、核酸の経口送達を可能にさえする。
【0034】
本発明では、外因性遺伝物質を造血細胞へ導入する好ましい方法は、in situにてマトリクス上で非増殖性レトロウイルスを用いて細胞に形質導入することによる。非増殖性レトロウイルスは、すべてのビリオンタンパク質の合成を指示することができるが、感染性粒子を作ることができない。したがって、これらの遺伝子操作されたレトロウイルスベクターは、培養細胞での高効率遺伝子導入に一般的に有用であり、本発明の方法に特に有用である。レトロウイルスは細胞に遺伝物質を送るために広く用いられてきている。非増殖性レトロウイルスを作製するための標準手順(外因性遺伝物質のプラスミドへの組み込み、パッケージング細胞株のプラスミドを用いた遺伝子導入、パッケージング細胞株による組み換えレトロウイルスの産生、組織培養培地からのウイルス粒子の回収、およびウイルス粒子を用いた標的細胞の感染の段階を含む)は本分野で提供されている。
【0035】
レトロウイルスを用いることの主な利点は、ウイルスが、治療剤をコードする遺伝子の単一コピーを宿主細胞ゲノム中に効率的に挿入し、それによって外因性遺伝物質が細胞の子孫へ分裂の際に伝えられるようにすることである。加えて、LTR領域中の遺伝子プロモーター配列が、挿入されたコード配列の発現を、さまざまな細胞型において促進することが報告されている。レトロウイルス発現ベクターを用いることの主な不利益は、(1)挿入突然変異誘発、すなわち、例えば調節されない細胞増殖につながる、標的細胞ゲノム中の望ましくない位置への治療遺伝子の挿入、および(2)ベクターによって運ばれる治療遺伝子が標的ゲノムに組み込まれるために標的細胞増殖を要することである。これらの明らかな限界にもかかわらず、レトロウイルスを介した治療上有効な量の治療剤の送達は、遺伝子導入の効率が高いおよび/または遺伝子導入に利用することができる標的細胞の数が大きい場合には有効であろう。
【0036】
造血細胞の形質転換のための発現ベクターとして有用なさらに別の候補ウイルスは、二本鎖DNAウイルスの、アデノウイルスである。レトロウイルスのように、すなわち、ウイルス自身の産生を調節する遺伝情報を除去することによって、アデノウイルスゲノムは遺伝子導入のための発現ベクターとしての用途に適用可能である。アデノウイルスは通常は染色体外で機能するため、組み換えアデノウイルスは挿入突然変異誘発の理論上の問題を有しない。その一方で、標的造血細胞のアデノウイルス形質転換は、結果として安定な遺伝子導入を生じない可能性がある。しかし、より最近に、ある種のアデノウイルス配列がキャリヤー配列に染色体内結合特異性を与え、したがって外因性遺伝物質の安定な遺伝子導入を生じると報告されている。
【0037】
このように、当業者に明らかであるように、外因性遺伝物質を造血細胞へ送るためにさまざまな適当なベクターが利用可能である。遺伝子置換治療に敏感な特定症状用の治療剤を送達するための適当なベクターの選択、および選択された発現ベクターの細胞への挿入のための条件の最適化は、当業者の必要以上の試験を要しない範囲内である。プロモーターは特徴的に、転写を開始するのに必要な特定のヌクレオチド配列を有する。必要に応じて、外因性遺伝物質はさらに、目的の遺伝子転写活性を得るのに必要な別の配列(すなわち、エンハンサー)を含む。この考察の目的のためには、「エンハンサー」とは、コード配列と連続して働き(cisで)、プロモーターによって支配される基礎転写レベルを変化させる、任意の翻訳されないDNA配列である。好ましくは、プロモーターおよびコード配列が調節可能に連鎖してコード配列の転写を可能にするように、外因性遺伝物質は、造血細胞ゲノム中のプロモーターのすぐ下流に導入される。好ましいレトロウイルス発現ベクターは、挿入された外因性遺伝子の転写を調節する、外因性プロモーター配列を含む。そのような外因性プロモーターは、構成的プロモーターおよび誘導性プロモーターの両方を含む。
【0038】
天然に存在する構成的プロモーターは、必須の細胞機能の発現を調節する。結果として、構成的プロモーターの調節下にある遺伝子は、細胞増殖のすべての条件下で発現される。典型的な構成的プロモーターは、ある種の構成的または「ハウスキーピング」機能をコードする下記の遺伝子についてのプロモーターを含む;ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)(Scharfmann et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88; 4626-4630)、アデノシンデアミナーゼ、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)、ピルビン酸キナーゼ、ホスホグリセロールムターゼ、アクチンプロモーター(Lai et al., 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86; 10006-10010)、および当業者に既知であるその他の構成的プロモーター。加えて、多数のウイルスプロモーターは真核細胞中で構成的に機能する。これらは、とりわけ下記を含む;SV40の初期および後期プロモーター;Moloney白血病ウイルスおよびその他のレトロウイルスの長末端反復(LTRS);および単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーター。このように、上記の構成的プロモーターのうち任意のものを、異種遺伝子挿入の転写を調節するために用いることができる。
【0039】
誘導性プロモーターの調節下にある遺伝子は、誘導物質の存在下でのみ、またはより高い程度発現される(例えば、メタロチオネインプロモーターの調節下にある転写はある種の金属イオンの存在下で大幅に増加する)。誘導性プロモーターは、誘導因子が結合した場合に転写を刺激する応答配列(REs)を含む。例えば、血清因子、ステロイドホルモン、レチノイン酸、および環状AMPに対するREsが存在する。誘導性反応を得るために特定のREを含むプロモーターを選択することができ、一部の場合にはそのRE自体を別のプロモーターに結合し、それによって組み換え遺伝子に誘導性を与えることができる。このように、適当なプロモーターを選択することによって(構成的対誘導性;強い対弱い)、遺伝子組み換えした造血細胞において、治療剤の存在、および発現のレベルの両方を調節することが可能である。特定の治療剤の治療上有効な量の送達のためのこれらの因子の選択および最適化は、上記に開示された因子および患者の臨床プロファイルを考慮して、当業者の必要以上の試験を要しない範囲内であるとされる。
【0040】
少なくとも一のプロモーターおよび治療剤をコードする少なくとも一の異種核酸に加えて、発現ベクターは好ましくは、発現ベクターを用いて遺伝子導入または形質導入された造血細胞の選択を容易にする選択遺伝子、例えばネオマイシン耐性遺伝子を含む。あるいは、造血細胞は、二つ以上の発現ベクター、すなわち治療剤をコードする遺伝子を含む少なくとも一のベクター、および選択遺伝子を含む他方のベクターを用いて遺伝子導入される。適当なプロモーター、エンハンサー、選択遺伝子および/またはシグナル配列(下記)の選択は、当業者の必要以上の試験を要しない範囲内であるとされる。
【0041】
単離された造血細胞で特定の遺伝子産物を発現するための特定の発現ベクターの選択および最適化は、遺伝子を、好ましくは一つ以上の適当な調節領域(例えば、プロモーター、挿入配列)と共に得ること;当該遺伝子が挿入されたベクターを含むベクター構造を調製すること;当該ベクター構造を用いて培養造血細胞にin vitroで遺伝子導入または形質導入すること;および、当該培養細胞中に当該遺伝子産物が存在するかどうかを判定することによって達成される。
【表1】

【0042】
前記(表1)は、本発明の方法に従って送達することができる遺伝子の例だけを表す。そのような遺伝子に対する適当なプロモーター、エンハンサー、ベクター、などは、前記の臨床試験に関連する文献に公表されている。一般的に、有用な遺伝子は機能を置換するかまたは補足し、臨床試験でアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症を治療するのに用いられているADAといった欠けた酵素、およびインシュリンおよび凝固第VIII因子といったコファクターをコードする遺伝子を含む。調節に影響を及ぼす遺伝子もまた、単独で、または特定の機能を補足または置換する遺伝子と組み合わせて投与することができる。例えば、特定のタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制するタンパク質をコードする遺伝子を投与することができる。本発明は、ウイルス抗原、腫瘍抗原、サイトカイン(例えば腫瘍壊死因子)、およびサイトカインの誘導物質(例えばエンドトキシン)をコードする遺伝子を含む、免疫反応を刺激する遺伝子を送達するのに特に有用である。
【0043】
下記により詳しく説明する培養条件を用いて、本発明に基づき、造血前駆細胞を保存しそして造血前駆細胞数の拡大および/または単位コロニー形成能を刺激することが可能である。いったん拡大すると、例えば、患者の造血前駆細胞集団を補足、補充、などするために細胞を体に戻すことができる。これは例えば、個人が化学療法を受けた後に適当でありうる。造血前駆細胞数が減少するある種の遺伝的条件が存在し、本発明の方法をこれらの状況で同様に用いることができる。
【0044】
本発明に従って産生された造血前駆細胞の増加数を取ってそれを、造血細胞維持、増殖および/または分化を促進しまた細胞局在化にも影響を及ぼす造血増殖物質で刺激し、より成熟した血球をin vitroで得ることもまた可能である。血球のそのような増殖した集団は、上記の通りin vivoで使用することができ、または当業者に認識される通り実験的に用いることができる。そのような分化した細胞は、上記のもの、およびT細胞、形質細胞、赤血球、巨核球、好塩基球、多形核白血球、単球、マクロファージ、好酸球、および血小板を含む。
【0045】
本発明に記載のin vitroおよびex vivo培養方法のすべてにおいて、別に指定の無い限り、使用された培地は細胞の培養用に従来用いられるものである。例はRPMI、DMEM、Iscove's、などを含む。典型的にはこれらの培地はヒトまたは動物血漿または血清が添加されている。そのような血漿または血清は少量の造血増殖因子を含みうる。本発明に記載の使用培地は、しかし、先行技術で従来用いられるものを離れることができる。
【0046】
本発明と関連して特に興味深い増殖物質は造血増殖因子である。造血増殖因子によって、造血前駆細胞の生存、増殖、または分化に影響を及ぼす因子を意味する。生存および増殖のみに影響するが、分化を促進しないと考えられている増殖物質は、インターロイキン3、6、および11、幹細胞因子、およびFLT−3リガンドを含む。分化を促進する造血増殖因子は、GMCSF、GCSF、MCSF、Tpo、Epo、オンコスタチンMといったコロニー刺激因子、ならびに、IL−3、6、および11以外のインターロイキンを含む。前記の因子は当業者によく知られている。大部分は市販されている。それらは精製によって、または組み換え方法によって得ることができ、または合成によって得ることができる。
【0047】
「間質細胞条件培地」は、その中で前記リンパ網間質細胞が培養される培地をいう。培養は、間質細胞に培地中に因子を分泌させるのに十分な期間実施される。そのような「間質細胞条件培地」はその後、造血前駆細胞の培養に補足し、その増殖および/または分化を促進するのに用いることができる。
【0048】
したがって、細胞が前記の物質のいずれも伴わずに培養される場合、血清、通常の栄養培地中に存在しうる、あるいは造血前駆細胞を含む未分画または分画血液製剤単離物中に存在しうるものを除く、そのような物質の添加無しで細胞を培養することをここでは意味する。
【0049】
本発明に記載の造血細胞機能を調節するための一つの方法は、PTH/PTHrP受容体を活性化する物質を用いることによる、造血前駆細胞の動員を促進する方法である。骨髄移植中の現在の方法は、ドナー個体の骨髄および/または末梢血からの骨髄細胞の単離を含む。これらの個体のうち約三分の一は、骨髄および/または末梢血から十分な造血前駆細胞の「収量」がないため、骨髄が移植のために適当であると考えることができる。本発明の方法を用いて、「収量」を増大させることができる。例えば、PTH/PTHrP受容体を活性化する物質は、結果として造血前駆細胞の「動員」を生じることができ、そのような物質で処理された個体からの造血前駆細胞単離の効率が改善しうる(特に個体の末梢血から)。これは、ひいては、移植に使用することができるドナー試料の数の増加を結果として生じる。
【0050】
したがって、一部の態様では、個体中の造血細胞の動員を促進する方法が提供される。その方法は、PTH/PTHrP受容体を活性化する物質を個体に投与し、個体中の造血細胞の動員を促進することを含む。
【0051】
ここで用いられる個体とは、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコまたはげっ歯類である。ヒト造血前駆細胞およびヒト個体は特に重要な実施態様である。
【0052】
ここで用いられる「PTH/PTHrP受容体を活性化する物質」は、副甲状腺ホルモン(PTH)、副甲状腺関連タンパク質(PTHrP)、およびそのアナログを含む化合物である。
【0053】
PTHの正常な機能は、細胞外液カルシウム濃度を維持することである。PTHは、骨および腎臓に対して直接的に、および腸に対して間接的に作用する。健常人においてPTH産生は、血清イオン化カルシウムの濃度によって厳密に調節されている。例えばカルシウム欠乏食によって誘導される低カルシウム血症へ向かう傾向は、PTH分泌の増加によって均衡が保たれる。PTHレベルの上昇は、骨再吸収の速度を増大させてそれによって血中へのカルシウム流量を増加させ、カルシウムの腎クリアランスを減少させ、そして腸でのカルシウム吸収の効率を増大させる。
【0054】
副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)の生理学的役割はよくわかっていないが、主に傍分泌または自己分泌因子として作用すると考えられている。PTHrPは胚発生でおよび成体生理で役割を果たす。PTHrPは、脳、膵臓、心臓、肺、記憶組織、胎盤、内皮、および平滑筋細胞を含む多数の細胞型によって産生される。成体では、PTHrPは疾患状態においてを除いてカルシウム恒常性とはほとんど関係が無いと考えられている。
【0055】
PTHおよびPTHrPは異なるタンパク質であり、異なる遺伝子の産物である。しかし、それらは同様の生物活性プロファイルおよびごく限られた配列ホモロジーを共有し、それらが共通の祖先遺伝子から進化した可能性があることを示す。N末端の最初の13個のアミノ酸残基のうち8個が同一である。84アミノ酸残基ペプチドであるPTH、および139ないし173アミノ酸残基ペプチドであるPTHrPの両方が、PTH受容体(しばしばPTH/PTHrP受容体という)に結合し、および同一の細胞内シグナル伝達経路を刺激する。
【0056】
副甲状腺ホルモン(PTH)は、通常は副甲状腺から分泌される、84アミノ酸ポリペプチドである。PTHは、血清カルシウムを狭い範囲内に維持する重要な生理学的役割を有する。さらに、PTHは間欠的に投与された場合に同化作用を有する。このことはいくつかの動物実験および非対照臨床試験で記録されており、最近、Dempster, D. W. et al.によって総説が出された(Endocrine Reviews 1993, vol. 14,690- 709)。PTHは骨に対して多数の効果を有する。その一部は再構成サイクルを介する。PTHは活性化頻度の増加およびサイクル当たりのプラスのバランスの両方を引き起こす。ヒトPTHは、ペプチド合成を通じて、または遺伝子組み換えされた酵母、細菌、または哺乳類の宿主細胞から得ることができる。合成ヒトPTHはBachem Inc., Bubendorf, Switzerlandから市販されている。組み換えヒト副甲状腺ホルモンの製造は、例えば欧州特許第0383751号明細書に開示されている。
【0057】
副甲状腺ホルモンの成熟循環型は84アミノ酸残基から成る。骨関連活性の大部分について、PTHの切断型であるPTH(1−34)は、未変化の84アミノ酸ホルモンのように完全な作用因子である。アミノ末端切断の結果として、PTH刺激されたアデニル酸シクラーゼの競合拮抗因子であるポリペプチドが生じる。例えば、[Tyr34]bPTH(7−34)NHは、腎PTH受容体に対する中等度の親和性を保っているが、作用因子活性を全く有しない;弱い受容体結合活性が、PTH(25−34)ほど小さい断片に保持されている(M. Rosenblatt, et al., 1980, Endocrinol., 107; 545-550)。対照的に、PTH(1−34)のカルボキシル末端切断は、次第に低くなる活性を有する作用因子を生じる。PTH(1−25)は本質的に不活性であると報告されている(Segre, G. V. et al., 1979, J. Biol. Chem., 254; 6980-6996 ; Rosenblatt, M., 1982, Endocrinology of Calcium Metabolism; Parsons, J. A., ed. Ravens Press, NY, 103-142; Tregear, et al., 1973, Endocrinol. 93; 1349- 1353)。PTHの主要な受容体結合ドメインはアミノ酸残基25−34を含むと報告されており、主要な活性化ドメインはアミノ酸残基1〜6を含むと報告されている。
【0058】
「副甲状腺ホルモン」(PTH)の語は、天然に存在するヒトPTH、および合成または組み換えPTH(rPTH)を包含する。さらに、「副甲状腺ホルモン」の語は、完全長PTH(1−84)およびPTH断片を包含する。したがって、PTH変異体の断片は、PTH(1−84)と同等の生物学的活性を与える量で、必要に応じて本発明に記載の処方に組み込むことができると理解される。これに関連して、「生物学的に活性な」の語句は、ここに記載の方法に従ったPTH活性についての生物測定において十分な反応を導くことと理解されるべきである。PTHの断片は少なくとも、完全なPTHのものと同様な生物学的活性に必要であるPTHのアミノ酸残基を組み込む。そのような断片の例は、PTH(1−31)、PTH(1−34)、PTH(1−36)、PTH(1−37)、PTH(1−38)、PTH(1−41)、PTH(28−48)、およびPTH(25−39)である。
【0059】
「副甲状腺ホルモン」の語はまた、PTHの変異体および機能性アナログを包含する。本発明はしたがって、置換、欠失、挿入、逆位または環状化のような修飾を持つがそれにもかかわらず実質的に副甲状腺ホルモンの生物学的活性を有する、そのようなPTH変異体および機能性アナログを含む医薬処方を含む。安定性が増幅されたPTHの変異体は例えば国際公開第92/11286号および国際公開第93/20203号から本分野で知られている。PTHの変異体は例えば、8位および/または18位のメチオニン残基の置換、および16位のアスパラギンの置換といった、PTH安定性および半減期を改善するアミノ酸置換を組み込む。環状化PTHアナログは、例えば国際公開第98/05683号に開示されている。
【0060】
ある状況下では、PTHは骨同化物質であり、骨形成を促進する。しかし、PTHは同じく骨再吸収を刺激することができる。PTHの高用量の連続投与の結果として骨質量が減少するが、PTHの低用量の間欠的投与は骨質量を増加させうることが報告されている。連続的に投与されたPTHは、報告によれば破骨細胞を含む骨細胞の数の増加、および骨再構成の増加を引き起こす。これらの増加は報告によればPTH投与後の数時間の内に明らかになり、PTHが中止されてから何時間も持続する。ヒトおよび動物における間欠的に数日にわたるPTH投与は、報告によれば骨形成の正味の促進につながる。例えば、Neer et al., 2001, N. Engl. J. Med., 344; 1434-1441を参照。対照的に、高レベルのPTHへの連続的曝露は、破骨細胞媒介性骨再吸収につながる。いくつかのグループが、骨粗鬆症を治療するための薬剤としてのPTHおよびPTHrPアナログの使用を研究している。これらの試みは、米国特許第5,747,456号;米国特許第5,849,695号;米国特許第4,656,250号;米国特許第6,051,686号;および米国特許第6,316,410号に記載されている。
【0061】
一実施態様では個体は骨髄ドナーである。骨髄細胞の動員を促進することによって、骨髄単離の必要性を除くことができる。この動員の結果として、骨髄細胞は骨髄を離れて、処置を受けている個体の血液循環に入る。循環する骨髄細胞はその後、本発明の技術または本分野で既知の別の方法を用いて容易に単離することができる。例えば、これらの方法は、治療手順のための多量の骨髄提供の必要性を低下させうる。本方法は、骨髄から血液への局在化を促進することによって末梢血からの造血幹細胞の単離を可能にし、したがって、骨髄提供の必要性を無くす。
【0062】
当業者は末梢血から造血幹細胞を単離する方法を承知している。例えばPBS中の血液を(Ficoll-Paque, Amersham)の試験管に負荷し、1500rpmにて25〜30分間遠心分離する。遠心分離後、白色の中央の輪を、造血幹細胞を含むとして回収する。
【0063】
造血前駆細胞操作はまた、化学療法の補完療法として有用であり、例えば、造血前駆細胞を末梢血中に局在化させ、次いで化学療法を受ける個体から単離し、そして化学療法後に細胞を戻すことができる(例えばex vivo療法を単離細胞に対して実施することもできる)。このように、一部の実施態様において個体は、化学療法のような免疫細胞を激減させる治療を受けているかまたは受けることになっている個体である。使用される化学療法薬の大部分は、細胞分裂を経験中の細胞をすべて殺すことによって作用する。骨髄は体内で最もよく増殖する組織の一つであり、したがってしばしば化学療法薬によって最初に障害される器官である。そのため、血球産生は化学療法中に速やかに破壊され、化学療法を終了して、患者を化学療法で再治療する前に造血系に血球の供給を補充させなければならない。これは本発明の方法を用いることによって避けることができる。
【0064】
いったん造血前駆細胞が骨髄から末梢血へ動員されると、造血前駆細胞を得るために血液試料を単離することができる。これらの細胞は直ちに移植することができ、またはまずin vitroで処理することができる。例えば、細胞をin vitroで増殖させることができ、および/または細胞を単離または濃縮手順に供することができる。粗血液製剤または未分画血液製剤は、「造血前駆細胞」の特徴を有する細胞について濃縮することができることは当業者に明らかとなる。濃縮する方法のいくつかは、例えば、血液製剤をより分化した子孫から取り出すことを含む。より成熟した、分化した細胞は、それらが発現している表面分子を介して、選択して除くことができる。さらに、血液製剤は、CD34細胞について選択することによって分画することができる。そのような選択は、例えば、市販の磁気抗CD34ビーズ(Dynal, Lake Success, NY)を用いて達成することができる。好ましい実施態様では、しかし、本発明の方法は造血前駆細胞を単離するのに用いることができる。
【0065】
本発明はさらに、個人において感染症に対して免疫化および/または治療する方法を提供する。その方法は一般的に、本発明の化合物を、造血を刺激するのに有効な量で個体に投与することを含む。
【0066】
ここで用いられる「治療」「治療する」、などの語は、目的の薬理的および/または生理的効果を得ることをいう。その効果は、疾患またはその症状を完全にまたは部分的に防ぐ点で予防的であることができ、および/または、疾患および/または その疾患が原因である悪影響についての部分的または完全な治癒の点で治療的であることができる。ここで用いられる「治療」は、哺乳類、特にヒトにおける疾患の任意の治療を個体とし、下記を含む;(a)疾患の素因を有しうるがその疾患を有するとはまだ診断されていない個体において、疾患が生じるのを防ぐこと;(b)疾患を抑制すること、すなわち、その進行を停止させること;および(c)疾患を緩和すること、例えば疾患の退行を生じさせ、例えば疾患の症状を完全にまたは部分的に除去すること。
【0067】
同じく本発明の方法を用いた治療に適当なのは、健康な、完全な免疫系を有するが、免疫不全になるリスクがある人である(「有リスク」者)。有リスク者は、免疫不全になることの、一般人口よりも大きな可能性を有する人を含むがこれに限定されない。免疫不全になるリスクがある人は、HIV感染者との性行為が原因でHIV感染のリスクがある人;静脈注射薬物使用者;HIV感染血液,血液製剤,またはその他のHIV汚染体液に曝露された可能性がある人;HIVに感染した母親によって授乳された乳児;例えば化学療法または放射線療法によって、以前に癌の治療を受け、以前に治療を受けた癌の再発を監視されている人;および骨髄移植またはその他の何らかの器官移植を受けた人、を含むがこれらに限定されない。
【0068】
正常な個体と比較した免疫機能のレベル低下は、白血病、腎不全のための免疫抑制状態;全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、自己免疫性甲状腺炎、強皮症、炎症性腸疾患を含むがこれらに限定されない自己免疫疾患;さまざまな癌および腫瘍;ヒト免疫不全ウイルス(HIV)を含むがこれに限定されないウイルス感染;細菌感染;および寄生虫感染を含むさまざまな障害、疾患感染症または症状の結果生じうる。
【0069】
正常な個体と比較した免疫機能のレベル低下はまた、遺伝的起源の、または加齢が原因の、免疫不全疾患または障害の結果生じうる。これらの例は、加齢に伴う免疫不全疾患および遺伝的起源の免疫不全疾患であり、高免疫グロブリンM症候群、CD40リガンド欠損症、IL−2受容体欠損症、γ鎖欠損症、分類不能型免疫不全症、チェディアック・東症候群、およびWiskott−Aldrich症候群を含むがこれらに限定されない。
【0070】
正常な個体と比較した免疫機能のレベル低下はまた、癌を治療するための化学治療剤;一部の免疫治療剤;放射線治療;骨髄移植に関連して用いられる免疫抑制剤;および器官移植に関連して用いられる免疫抑制剤、を含むがこれらに限定されない特定の医薬品を用いた治療の結果生じうる。
【0071】
「免疫系不全症」は、例えば個体中の腫瘍または癌(例えば、脳、肺(例えば、小細胞および非小細胞)、卵巣、乳房、前立腺、大腸の腫瘍、およびその他の癌および肉腫)または感染を排除するために、個体の免疫反応を高めることが有用である疾患または障害を意味するものとする。
【0072】
本発明の化合物は、単独で、または腫瘍抗原、ウイルス、細菌、または真菌抗原といった抗原、またはその他の治療薬と組み合わせて個体に投与することができる。
【0073】
感染性ウイルスの例は下記を含む;Retroviridae(例えば、HTLV−III・LAV・またはHTLV−III/LAVともいうHIV−1、またはHIV−IIIといったヒト免疫不全ウイルス;およびその他の分離株、例えばHIV−LP;Picornaviridae(例えば、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス;エンテロウイルス、ヒトコクサッキーウイルス、ライノウイルス、エコーウイルス);Calciviridae(例えば、胃腸炎を引き起こす株);Togaviridae(例えば、ウマ脳炎ウイルス、風疹ウイルス);Flaviridae(例えば、デングウイルス、脳炎ウイルス、黄熱ウイルス);Coronaviridae(例えば、コロナウイルス);Rhabdoviridae(例えば、水胞性口炎ウイルス、狂犬病ウイルス);Fidoviridae(例えば、エボラウイルス);Paramyxoviridae(例えば、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス);Orthomyxoviridae(例えば、インフルエンザウイルス);Bungaviridae(例えば、ハンタウイルス、ブンガウイルス、フレボウイルスおよびナイロウイルス);Arenaviridae(出血熱ウイルス);Reoviridae(例えば、レオウイルス、オルビウイルス、およびロタウイルス);Birnaviridae;Hepadnaviridae(B型肝炎ウイルス);Parvoviridae(パルボウイルス);Papovaviridae(パピローマウイルス、ポリオーマウイルス);Adenoviridae(大部分のアデノウイルス);Herperviridae(単純ヘルペスウイルス(HSV)1および2、帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス);Poxviridae(天然痘ウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス);およびIridoviridae(例えば、アフリカ豚コレラウイルス);および未分類ウイルス(例えば、海綿状脳症の病原体、デルタ肝炎の病原体(B型肝炎ウイルスの不完全なサテライトと考えられている)、非A、非B型肝炎の病原体(クラス1−経口感染;クラス2−非経口感染(すなわち、C型肝炎);ノーウォークおよび関連ウイルス、およびアストロウイルス)。
【0074】
感染性細菌の例は下記を含む;Helicobacter pyloris、Borelia burgdoiferi、Legionella pneumophilia、Mycobacteria sps(例えば、M. tuberculosis、M. avium、M. Intracellulare、M.kansaii、M. gordonae)、Staphylococcus aureus、Neisseria gonorrhoeae、Neisseria meningitidis、Listeriamonocytogenes、Streptococcus pyogenes(A群連鎖球菌)、Streptococcus agalactiae(B群連鎖球菌)、Streptococcus(viridans群)、Streptococcus faecalis、Streptococcus bovis、Streptococcus(嫌気性種)、Streptococcus pneumoniae、病原性Campylobacter sp.、Enterococcus sp.、Haemophilus influenzae、Bacillus antracis、corynebacterium diphtheriae、corynebacteium sp.、Erysipelothrix rhusiopathiae、Clostridium perfringers、Clostridium tetani、Enterobacter erogenes、Klebsiella pneuomiae、Pasturella multicoda、Bacteroides sp.、Fusobacterium nucleatum、Sreptobacillus moniliformis、Treponema pallidium、Treponema pertenue、Leptospira、およびActinomeyces israelli。
【0075】
感染性真菌の例は下記を含む;Cryptococcus neoformans、Histoplasma capsulatum、Coccidioides immitis、Blastomyces dermatitidis、Chlamydia trachomatis、Candida albicans。その他の感染性生物(すなわち、原生生物)は;Plasmodium falciparumおよびToxoplasma gondiiを含む。
【0076】
本発明の細胞またはPTHのようないずれかの化合物(治療用組成物と称する)が個体に投与される場合、治療用組成物は医薬品として許容される調製物として投与することができる。そのような調製物は通常、医薬品として許容される濃度の塩、緩衝剤、保存料、適合性キャリヤー、および必要に応じて他の治療剤を含みうる。
【0077】
治療用組成物は、注射または長時間にわたる徐々の輸液を含む任意の従来の経路によって投与することができる。投与は、投与される組成物に依存して、例えば、経口、肺、静脈内、腹腔内、筋肉内、空洞内、皮下、または経皮であることができる。有効成分を含むエアロゾル送達系を調製する技術は当業者によく知られている。一般的に、そのような系は、有効成分の生物学的特性を大きく損なわない成分を利用すべきである(例えば、Sciarra and Cutie,"Aerosols,「in Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th edition, 1990, pp 1694-1712;引用により本開示に含まれる、を参照)。当業者は必要以上の試験を用いることなく、エアロゾルを作製するためのさまざまなパラメータおよび条件を容易に決定することができる。アンチセンス調製物を用いる場合は、静脈内または経口投与が好ましい。組成物は有効量で投与される。「有効量」は、単独でまたは別の投与量と合わせて、目的の反応を生じる、例えば結果として骨髄における造血前駆細胞の増加を生じる、組成物の量である。「治療用組成物」の語は「活性化合物」、「有効成分」または「活性組成物」の語と同義に用いられ、ここで用いられる通り、生物学的効果を生じる本発明の活性化合物のうち任意のもの、例えば、PTH、参照により本開示に含まれる米国特許第4,086,196号、米国特許第6,541,450号、および国際公開第93/06845号に開示されるもののようなPTHアナログ、濃縮造血幹細胞調製物、などをいう。免疫不全症によって特徴づけられる特定の疾患または症状を治療する場合は、目的の反応は免疫系機能における何らかの改善である。これは、単に造血幹細胞の実数における増加、免疫系機能障害から生じる感染症の発症または進行の減速を一時的に含みうるが、より好ましくは、それは疾患の防止における実際の改善を永続的に含む。これは通常の方法によって監視することができる。
【0078】
そのような量は、もちろん、治療されている特定の症状、その症状の重症度、個々の患者の年齢、身体状態、サイズおよび体重といったパラメータ、治療の期間、(あれば)同時治療の性質、具体的な投与経路、および健康保険従事者の知識と専門技能の範囲内の同様の因子に依存する。これらの因子は当業者によく知られており、通常の試験だけで対処することができる。個々の成分またはその組合せの最高用量、すなわち、健全な医学的判断に従った最高安全用量を用いることが一般的に 好ましい。しかし、患者が医学的理由、心理学的理由、または事実上任意のその他の理由のために、より低い用量または耐用量を主張しうることは当業者に理解される。
【0079】
前記の方法で用いられる医薬組成物は好ましくは無菌であり、目的の反応を生じるために有効な量の治療用組成物を、患者への投与に適した重量単位または容量単位中に含む。反応は、例えば、治療用組成物の投与後の細胞動員に対する効果をレポーター系を介して測定することによって、または細胞を単離して移動性をin vitroで測定することによって、測定することができる。その他の測定法は当業者に理解され、反応のレベルを測定するために使用することができる。
【0080】
投与された場合、本発明の医薬調製物は、医薬品として許容される量で、医薬品として許容される組成物中で投与される。そのような調製物は通常、塩、緩衝剤、保存料、適合性キャリヤー、および必要に応じて他の治療剤を含みうる。医薬品に使用される場合、塩は医薬として許容可能であるべきであるが、医薬品として許容されない塩を便利に使用して医薬として許容されるその塩を調製することができ、本発明の範囲から除外されない。そのような生理学的におよび医薬として許容される塩は、下記の酸から調製されるものを含むがそれらに限定されない;塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、コハク酸、ナフタレン−2−スルホン酸、パモ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、およびベンゼンスルホン酸。また、医薬品として許容される塩は、カルボン酸基のナトリウム、アンモニウム、マグネシウム、カリウム、またはカルシウム塩といった、アルカリ金属塩またはアルカリ土類塩として調製することができる。
【0081】
適当な緩衝剤は;酢酸およびその塩(1〜2%W/V);クエン酸およびその塩(1〜3%W/V);ホウ酸およびその塩(0.5〜2.5%W/V);ならびにリン酸およびその塩(0.8〜2%W/V)を含む。
【0082】
適当な保存料は塩化ベンザルコニウム(0.003〜0.03%W/V);クロロブタノール(0.3〜0.9%W/V);パラベン(0.01〜0.25%W/V)およびチメロサール(0.004〜0.02%W/V)を含む。
【0083】
さまざまな投与経路が利用可能である。選択される特定の様式は、もちろん、選択される治療剤の特定の組合せ、治療または予防される症状または障害の重症度、患者の状態、および治療上の有効性に必要な投与量に依存する。本発明の方法は、一般的に言って、医学的に許容される任意の投与様式、つまり臨床的に許容できない副作用を引き起こすことなく活性化合物の有効レベルを生じる任意の様式を意味するが、を用いて実施することができる。そのような投与様式は、経口、直腸、局所、経皮、舌下または筋肉内、輸液、非経口、静脈内、筋肉内、空洞内、飼料添加物として、エアロゾルとして、口腔内、耳(例えば点耳剤によって)、鼻内、吸入、または皮下を含む。直接注射もまた、傷害部位への局所送達のために好ましい。
【0084】
現在のところ皮下投与がPTHおよび/またはPTHrPの投与に通常用いられているが、個体(患者)および投与予定の利便性のために、経口投与が治療用に好ましい可能性がある。一般的に、活性化合物の経口一日量は、1日当たり約0.1マイクログラムから1日当たり1000マイクログラムとなる。0.5ないし50マイクログラムの範囲の経口用量が、1日当たり1回かまたは数回の投与で、目的の結果を与えると予想される。投与量は、局所または全身の、投与様式に応じて、目的の薬物レベルを達成するのに適当に調節することができる。例えば、静脈内投与は経口投与と比較して1日当たり一桁から数桁低い用量となることが予想される。個体における反応がそのような用量では不十分である場合は、さらにより高い用量(または別の、より局在化した送達経路による有効なより高い用量)を、患者の耐容能が許す程度まで使用することができる。
【0085】
好ましくは本発明のポリペプチドは間欠的に投与され、それはPTH、PTHrP、およびそのアナログの同化効果を促進することが本分野で知られている。好ましい間欠的投与スケジュールは、毎日、二日ごと、三日ごと、週二回、四日ごと、五日ごと、六日ごと、および週一回を含む。
【0086】
組成物は便利に単位剤形で提供することができ、製薬学の分野でよく知られた方法の任意のものによって調製することができる。すべての方法は、本発明の化合物を、一つ以上の副成分を構成するキャリヤーと合わせる段階を含む。一般的に、組成物は本発明の化合物を液体キャリヤー、微細に分割された固体キャリヤー、または両方と均一におよび密に合わせ、次いで必要に応じて製剤を整形することによって調製される。
【0087】
非経口投与に適した組成物は、本発明の化合物の無菌の水系調製物を便利に含む。この調製物は好ましくはレシピエントの血液と等張である。この水系調製物は、既知の方法に従って、適当な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて処方することができる。無菌注射用調製物はまた、例えば1,3−ブタンジオール溶液として、無毒性の非経口的に許容しうる希釈剤または溶媒中の無菌注射用溶液または懸濁液であることができる。使用することができる許容しうる賦形剤および溶媒には、水、リンゲル液、および等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、無菌の不揮発性油が溶媒または懸濁媒として便利に用いられる。この目的のためには、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む任意の無菌の不揮発製油を用いることができる。加えて、オレイン酸のような脂肪酸が注射用剤の調製に用いられる。経口、皮下、静脈内、筋肉内、などに適したキャリヤー処方は本分野でよく知られている。
【0088】
経口投与に適した組成物は、カプセル剤、カシェ剤、錠剤、シロップ剤、エリキシル剤またはトローチ剤といった、それぞれが本発明の化合物の規定量を含む、独立の単位で提供することができる。任意の肺送達に適した組成物は典型的には、ネブライザーに処方および/または詰められている。
【0089】
その他の送達系は、徐放性、遅放性、または持続放出性送達系を含むことができる。そのような系は、本発明の化合物の反復投与を避けることができ、個体および医師にとっての利便性を向上させるが、それでもなお本発明のポリペプチドの同化的利益を提供するように構成されている。多数の種類の放出送達系が利用可能であり、当業者に既知である。それらは、ポリ乳酸およびポリグリコール酸、ポリ無水物、およびポリカプロラクトンといったポリマーを基礎とする系、コレステロールといったステロール、リポソームを含む脂質である非ポリマー系;リン脂質;ハイドロゲル放出系;シラスティック系;ペプチドを基礎とする系;インプラントなどを含む。具体的な例は下記を含むがこれらに限定されない;(a)米国特許第4,452,775号、第4,675,189号、および第5,736,152号にみられる、ポリペプチドがマトリクス内の形で含まれる侵食系、および(b)米国特許第3,854,480号、第5,133,974号、および第5,407,686号に記載されているような、活性成分がポリマーから調節された速度で浸透する拡散系。加えて、ポンプを基礎とする送達系を使用することができ、その一部は埋め込みに適用されている。
【0090】
長期徐放性インプラントの使用は、慢性症状の治療に特に適当でありうる。
【0091】
ここで用いられる「長期」放出は、インプラントが少なくとも7日間、好ましくは30〜60日間、およびより好ましくはさらに長期間(例えば、12ヶ月以上)、治療濃度の有効成分を送達するように構築され準備されていることを意味する。インプラントは傷害の部位に配置することができるが、その必要は無い。長期徐放性インプラントは当業者によく知られており、上記の放出系の一部を含む。そのようなインプラント系の一つが米国特許第6,159,490号に記載されている。
【0092】
治療用組成物の投与のためのその他の手順は当業者に理解され、投与量、注射スケジュール、注射部位、投与様式、などが前記とは異なる。例えば試験目的または獣医学上の治療目的のための、ヒト以外の哺乳類への治療用組成物の投与は、上記と実質的に同一の条件下で実施される。
【0093】
実施した実験の下記の説明は典型的なものであり、請求される本発明の範囲を制限しない。
【実施例】
【0094】
造血幹細胞頻度は、細胞自律的、内在性および細胞非自律的、外因性因子によって影響される。内在性因子は、造血幹細胞または制限前駆細胞の頻度を調節するマウスゲノムの特定領域にマッピングされる(de Haan & van Zant, 1997, J. Exp. Med.,186 ; 529-536)が、両方ではない(Morrison et al, 2002, J. Immunol., 168; 635-642)。造血幹細胞(p21)または前駆細胞(p27)プールサイズの分化段階特異的媒介分子である細胞周期依存性キナーゼ阻害因子(CDKIs)が同定されている(Cheng et al., 2000, Nature Med., 6; 1235-1240 ; Cheng et al., 2000, Science, 287; 1804-1808)。しかし、CDKI発現が、微小環境的刺激によって与えられる細胞外因性の合図によって影響される程度はよくわかっていないままである。前駆細胞において細胞周期の入口のCDKIによる遮断を乗り越えることは、骨髄中の複数の細胞型によって産生された、血清中に測定可能なレベルであるいくつかのサイトカインによってex vivoで容易に達成される。対照的に、成体骨髄由来造血幹細胞は一般的にex vivoで増殖するのは難しく、in vivoでの明確な 幹細胞 増殖の結果を生じている操作はほとんど無い。その中に、細胞表面Notch1およびWnt(Reya et al., 2003, Nature, 423;409-414; Murdoch et al., 2003, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100;3422-3427)受容体(Stier et al., 2002, Blood, 99;2369-2378)の活性化、および抗アポトーシスタンパク質bcl−2(Weissman I et al., 2000, J. Exp. Med., 191;253-264)またはホメオボックスタンパク質HoxB4(Humphries et al., 1999, Blood, 94;2605-2612)の過剰発現がある。これらの分子が生理的背景で変化しているかどうかは、しかし明確にされておらず、また、造血微小環境内のどの細胞型がin vivoで幹細胞数を変化させることに関与しているかは以前に特徴づけられていない。ここに示すデータは、活性化受容体の骨芽細胞特異的発現が、骨および骨髄の微小環境の両方に重要な影響を及ぼすことができ、骨量および造血幹細胞プールサイズを変化させることを実証する。ここに示すデータは、骨芽細胞がマウスにおいて造血幹細胞ニッチの調節成分であることを示す。PPR活性化によるこれらの細胞の数およびおそらく機能における動揺は、見かけ上自己再生の増加によって、幹細胞数の増加に繋がる。ニッチとの原始造血細胞の物理的相互作用が必要であり、Notchシグナル伝達経路が関与している。これらの結果は、骨芽細胞を造血の調節因子と定義し、骨と骨髄との間のin vivoの決定的な相互作用を支持する。
【0095】
PPR活性化が造血に影響を及ぼすことができるいくつかの機構が存在する。骨梁部間隙の骨内膜表面との造血幹細胞の結びつきを考えると、活性化PPRは骨形成の増加による骨髄の構造の変化を誘導し、幹細胞の支持のための上面部分に影響することができた。幹細胞を維持する能力がある物理的ニッチの拡大を通じて、幹細胞数の比例した増加が結果として生じうる。解離したcol1−caPPR骨髄間質は、そのような物理的ニッチで同様の増加を与えるとは予想されないが、しかし、幹細胞支持をex vivoで増加させることができる。PTHがex vivoでLTC−ICを増加させる能力は、その測定のために用いられた間質の二次元単層培養中に三次元ニッチ構造が誘導される可能性が同様に低いため、この説明にさらに反駁する。代替的なより可能性の高い説明は、PPR刺激の、骨芽細胞活性化を誘導しそれによって間接的に造血を刺激する能力である。
【0096】
骨形成要素は造血とどんな利益のために結びついているのか?発生の背景では、発生上の要請がおそらく間違い無く、宿主を出生後の生存に備えさせることである妊娠中期の間に、骨の石灰化および骨量の増加が生じる。造血組織内では、このことは、主に赤血球および血小板の産生から、先天性免疫系および適応免疫系の細胞成分の生成への転換を含む。造血細胞産生は、肝臓が肝細胞集団および機能を獲得すると胎児肝臓から移動する。骨髄および胸腺への造血の移動は相対的に一緒に生じ、血液成分の細胞系譜分化プロファイルに変化を生じる。成熟細胞集団の重点の変化と共に、初期の細胞系譜の結果は調整され、幹細胞の細胞周期は、胎児肝臓での旺盛な増殖から、骨髄でのより不活発な周期へ移行する。幹細胞は最終的に、成熟動物の長期維持に必要である相対的な休止を獲得する(Cheng et al., 2000, Science, 287; 1804-1808)。骨髄への移動は、幹細胞の周期および分化における移行を伴う。これらの現象が骨格の構築と同時に生じることは、外界に出会うための出生前の必要として、およびおおよそ体重と比例的に対応する必要と大まかに見ることができる。移動の異常または大理石骨病のどちらかが原因の、骨髄造血を達成することの失敗は、誘発する分子異常によって直接的に影響されないと考えられる細胞系譜においてを含む、重度の造血 障害を伴う(Ma Q et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95; 9448-9453; Dai XM et al., 2002, Blood, 99; 111-120)。骨髄との造血の繋がりは、正常な血液恒常性に決定的であるように見える。
【0097】
造血は、細胞レパートリーを拡大するにつれ、幹細胞機能にフィードバックすることができ、ストレスに反応して造血を修正する細胞集団を生じる。骨芽細胞は、骨髄組織の成熟した子孫に相当する程度に、別の成熟した骨髄由来細胞成分によって規定されたパラダイムに当てはまる。単球/マクロファージおよびT細胞は、それらの活性化の産物の中に造血にプラスおよびマイナスの影響を及ぼすサイトカインがあることがよく知られている。PTHrPは動物モデルでエンドトキシンストレスに反応して増加し(Funk JL et al., 1997, Endocrinology, 138; 2665)、骨芽細胞の活性化は、ストレス条件下でのPTHr刺激によって高めることができる(Ryder KD et al., 2000, Calcif. Tissu. Int., 67; 241-246)。したがって、骨芽細胞は、出生後のさまざまな環境において造血に対して調節効果を提供することができ、肝細胞の直接の微小環境においてその調節を提供することができる、骨髄由来細胞の一つでありうる。骨芽細胞は、間葉性幹細胞産物である可能性があり、それが生じる細胞のフィードバック調節を含む多面的な作用を有する細胞と考えることができる。
【0098】
走化性刺激として作用すると共に、SDF−1αはアポトーシス経路の阻害および細胞を細胞周期へ促すことを介して造血幹/前駆細胞数および機能を高めることが示されている(Lataillade et al., 2000, Blood, 95; 756-768; Lataillade et al., 2002, Blood, 99; 1117-1129)。SDF−1αタンパク質を過剰発現するように操作されている造血細胞は、成体マウスで数の増加を示す(Onai et al., 2000, Blood, 96; 2074-2080)。
【0099】
造血前駆細胞は個体発生中に発生段階特異的に移動し、最終的に成体骨髄に存在する。この高度に再生性の細胞集団の、成体期を通じた維持は、幹細胞の相対的な休止に依存する。下記の実施例は、よりよい治療目的のために造血幹細胞を操作するための新しい方法を示す。試験は、骨芽細胞に対するPTH作用が、骨芽細胞が造血を支持する能力を変化させることができるかどうかに焦点を当てた。造血は、構成的活性PPRが骨芽細胞系譜の細胞で発現している、以前に記載された遺伝子導入マウスモデル系で特徴づけられた(Calvi et al., 2001, J. Clin. Invest., 107; 277-286)。
【0100】
実施例1:材料および方法
遺伝子導入マウスの種類。マウスα1(I)コラーゲンプロモーターの2.3kb断片の調節下にある構成的活性PPRを発現しているマウス(Rossert et al., 1995, J. Cell. Biol., 129; 1421-1432)が以前に作製された(Calvi et al, 2001, J. Clin. Invest., 107; 277-286)。導入遺伝子構造(図1a)は、マウスα1(I)コラーゲンプロモーターの2.3kb断片、ヒト変異PPR HKrk−H223Rをコードする1,880 bp(Calvi et al., 2001, J. Clin. Invest., 107;277-286)、およびpcDNAIベクター由来の750bp(スプライス配列およびHKrk−H223RをコードするcDNAには存在しない共通ポリアデニル化シグナルを提供する)を含んだ。遺伝子型分析および導入遺伝子の挿入部位数の測定は記載の通り実施した(Calvi et al., 2001, J. Clin. Invest., 107;277-286)。実施したすべての試験は施設内動物管理委員会の承認を受けた。
【0101】
導入遺伝子発現。in situハイブリダイゼーションによって導入遺伝子発現を確認するため、596bpのプローブ(DT7)を、逆方向プライマーA1(5'−TAATACGACTCACTATAGGGCGATAAACAAGTTAACAACAACAAT−3'、配列ID番号;1)および順方向プライマーS2(5'−CTTTGTGAAGGAACCTTACT−3'、配列ID番号;2)を用いて、導入遺伝子構造中のpcDNAIベクター配列の PCR増幅によって作製した(Calvi et al., 2001, J. Clin. Invest., 107;277-286)。A1逆方向プライマー配列はまた、T7 RNAポリメラーゼ結合部位を含む。PCR条件は下記の通りであった;94℃にて1分間、58℃にて45分間、72℃にて1分間、および45サイクルの終了時に追加の10分間を72℃にて。In situハイブリダイゼーションは、間質細胞における導入遺伝子mRNAの発現を検出するため、DT7 PCR産物から転写した相補35S−標識リボプローブを用いて記載の通り実施した(Calvi et al., 2001, J. Clin. Invest., 107;277-286)。
【0102】
試料調製および組織学的分析。組織学的分析用に、遺伝子導入マウスおよび性別を合わせた野生型同腹仔を頸椎脱臼によって12週齢で屠殺した。遺伝子導入および野生型の同腹仔に由来する組織は、記載の通り固定し保存した(Calvi et al., 2001, J. Clin. Invest, 107;277-286)。後肢を脱灰し(Calvi et al., 2001, J. Clin. Invest., 107;277-286)、標準の組織学的手順によってパラフィンブロックを調製した。
【0103】
免疫組織化学用には、野生型および遺伝子導入マウス由来の脱灰した切片を、抗IL−6 gAb M−19(1;100希釈)、抗SCF gAb G−19(1;100希釈)、抗SDF−1 gAb C−19(1;50希釈)、抗オステオポンチンgAb P−18(1;200希釈)、および抗Jagged1rAb H−114(1;100希釈)(Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, California)を用いて染色した。免疫組織化学染色は、ビオチニル化ウサギ抗ヤギまたはヤギ抗ウサギ二次Ab(Vector Labs, Burlingame, California)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン(Jackson Immuno Research, West Grove, Pennsylvania)、およびAEC Chromogen(Biocare Medical, Walnut Creek, California)、またはベクターABCアルカリホスファターゼキット(Vector Labs, Burlingame, California)を用いて実施した。スライドはマイヤーヘマトキシリンを用いて対比染色した。
【0104】
細胞学的検査。細胞学的検査用に、安楽死させた野生型および遺伝子導入同腹仔から後肢を解剖して取り、10%ウシ胎仔血清(Gibco)および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むαーMEMで長骨を洗浄することによって細胞調製物を得た。細胞は組織培養フラスコで初濃度5x10細胞/mlで培養した。培地は2週間にわたって、または間質層が集密になるまで、3日ごとに交換した。付着した細胞をその後トリプシン処理し、10細胞/mlの濃度でマルチウェルチャンバーに播種して7、14、28日間培養し、3日ごとに培地を交換した。in situハイブリダイゼーション用には、細胞をPBSで3回洗浄し、次いで1時間室温にて3.7%PBS緩衝ホルムアルデヒドで固定した。免疫組織化学用には、細胞をTBS. Ca(1mM CaCl、50mMTris/HCl pH7.4。50mM NaCI)で4回洗浄し、アセトンとメタノールの1:1溶液を用いて室温にて1分間固定した。
【0105】
免疫細胞化学。免疫細胞化学染色をアセトン;メタノール固定間質細胞について実施した。マルチウェルプレートで増殖させた細胞を、1;50希釈抗SDF−1ヤギポリクローナルAb(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)と共に60分間室温にて、およびフルオレセイン結合二次抗体と共に45分間インキュベートした。細胞をエバンスブルーで対比染色した。DAPIを含むVectashield(Vector Laboratories, Burlingame, CA)と共にカバーグラスを掛け、スライドを適当なフィルターを付けた蛍光顕微鏡を用いて検査した。
【0106】
骨髄間質層の調製。マウスをCO窒息によって安楽死させ、続いて大腿骨と脛骨を採取し、長期培地(12.5%ウマ血清、12.5%ウシ胎仔血清、0.2 mM i−イノシトール、20μM葉酸、10−4M 2−メルカプトエタノール、2mM L−グルタミンおよび10−6Mヒドロコルチゾンを含むα−MEM; M5300 Stem Cell Technologies)を用いて洗浄した。単核球をその後、組織培養フラスコで5×10細胞/mlの初濃度で培養した。培地は2週間にわたって、または間質層が集密になるまで、3日ごとに交換した。
【0107】
フローサイトメトリー分析。骨髄単核球を上記の通り単離した。単細胞懸濁液を次いで、ビオチニル化細胞系譜抗体(CD3、CD4、CD8、Ter119、Gr−1、Mac−1およびB220)およびフィコエリトリン結合抗Sca−1および抗c−Kit(Pharmingen, San Diego, CA)を用いて染色した。細胞をその後二次フルオレセインイソチオシアネート結合ストレプトアビジンで標識化し、FACScaliburサイトメーター(Becton Dickinson and Co.,Franklin Lakes, New Jersey)で、Cell Questソフトウェアを用いて分析した。初期集団における細胞周期を評価するために、骨髄単核球(BMMNC)を、細胞系譜抗体、抗Sca−1、PyroninY(RNA色素)およびヘキスト33342(DNA色素)を用いて記載の通り染色した(Cheng et al., 2000, Nature Med., 6; 1235-1240)。細胞内NICD染色については、linSca−1c−Kit細胞を、Fix and Perm細胞透過処理キット(Caltag)を用いて取扱説明書に従って透過処理し、抗NICD抗体1μgとインキュベートした。二次ヤギ抗マウス抗体を次いで用いて抗NICDを検出した。
【0108】
コロニー形成単位測定。単核球を骨髄から単離し、10細胞/mlにて下記の培地中で培養した;0.9%メチルセルロース、15%FBS、1%BSA、10μg/ml rhインシュリン、200 ng/mlヒトトランスフェリン、10−4M 2−メルカプトエタノール、2mM L−グルタミン、50 ng/ml rmSCF、10 ng/ml rmIL−3、10 ng/ml rhIL−6および3units/ml rhEpo(M3434; Stem Cell Technologies, Vancouver, Canada)。10日目に、コロニーの総数を計数し、総CFU−Cとして記録した。
【0109】
長期培養開始細胞分析。集密培養由来のマウス骨髄間質細胞を放射線照射し(15Gy)、20,000細胞/ウェルの濃度で96ウェルプレートに長期培養培地中に播種した。細胞を次いで2倍段階限界希釈でプレートに播種し、33℃/5%COにて加湿雰囲気中で培養した。培養は、ウェルの培地の半分を毎週交換して、5週間維持した。この後、培地を上記の通り組み換えサイトカインを添加したメチルセルロース含有培地と交換し、次いでコロニー増殖についてその培地の添加後10日間採点した。
【0110】
PTHを用いたin vitro処理。野生型間質および造血細胞を用いてLTC−IC測定を実施した。ラットPTH(1−34)(Bachem, Torrance, California)または溶媒を、各培地交換に、間質の構築中および/または培養の維持中、終濃度10−7 Mとなるよう添加した。培地は2週間にわたって、または間質層が集密になるまで、3日ごとに交換した。アルカリホスファターゼ染色については、野生型およびまたは遺伝子導入同腹仔から上記の通り得られた一次単核球を次いで24ウェルプレートで初濃度5×10細胞/mlにて培養した。播種から10または14日後、培地を吸引除去し、接着した細胞をPBSで穏やかに2回洗浄した。10%中性ホルマリン緩衝液中で30分間室温にて固定後、アルカリホスファターゼ活性は組織化学的に、45分間室温にて0.1mg/mlナフトールAS−MXリン酸(Sigma)、0.5%N,N−ジメチルホルムアミド、0.6mg/mlレッドバイオレットLB塩(Sigma)の混合物を含む0.1MTris−HCI(pH8.5)を用いたインキュベートによって測定した。アルカリホスファターゼ陽性細胞を培養10日目に計数し、このとき培養は集密未満であり個々の細胞を識別可能であった。γ−セクレターゼ活性の阻害については、DMSOに溶解した30μMのγ−セクレターゼ阻害因子II(Calbiochem)を長期培地に添加し、LTC−IC測定を記載の通り実施した。非接触LTC−ICについては、骨髄間質細胞層を96ウェルプレートに、記載の通り播種した。孔径0.2μm膜の組織培養インサート(Nunc,Naperville, IL)をウェルに入れ、骨髄細胞を培養インサート上に播種した。
【0111】
In vivo PTH投与。PTH投与には、6〜8週齢の野生型C57/B雄マウスを用いた。ラットPTH(1−34)(80μg/体重Kg)を腹腔内に週5回、4週間注射した(n=5)。対照マウス(n=4)には等量の溶媒を注射した。治療期間の終了時に、イオン化血清カルシウムをCiba/Corning 634Ca++/pHアナライザーによって測定し、安楽死後に後肢および前肢を切除して細胞学的および組織学的分析に使用した。
【0112】
SDF−1 ELISA。細胞培養上清中に放出されたSDF−1の量をELISAによって推定した。SDF−1濃度は、遺伝子導入および野生型同腹仔由来の集密未満の一次間質細胞培養からの条件培地について、Quantikine SDF−1イムノアッセイ(R & D Systems, Inc, Minneapolis, MN)を用いて測定した。
【0113】
骨髄移植。競合的移植試験用には、CD45.1B6.SJL(Jackson Laboratories, Bar Harbor, ME)マウスから得た4x10個のBMMNCを、ブランクを注射したかまたはPTHを注射したCD45.2C57B1/6マウスに由来する2x10個の細胞と混合した。24時間前に10Gyの放射線(137Cs線源)を用いて致死的に照射されたレシピエントB6.SJLマウスに細胞を注射した。6 週間後、マウスはCOで安楽死させ、BMを採取して完全添加イスコフ培地で洗浄した。異なる細胞起源由来の生着の相対的寄与は、抗CD45.1および抗CD45.2抗体(Pharmingen, San Diego, CA)を利用したフローサイトメトリーによって評価した。移植後のPTH投与の効果を評価するため、レシピエントC57B1/6マウスに致死量を照射し、次いでドナーB6.SJLマウス由来の2x10個のBM MNCを注射した。細胞の注射の24時間後、マウス に上記の通り、4週間にわたってPTHまたはブランクを注射した。
【0114】
統計解析。結果は平均値±標準誤差で表す。データは本データセットに適した、スチューデントの対応のない両側t検定を用いて分析した。P<0.05を有意と考えた。
【0115】
実施例2:遺伝子導入マウス実験
構成的活性PPRを骨芽細胞系譜の細胞で発現している遺伝子導入マウスは骨髄線維症および貧血を有する。2週齢および12週齢で、col1−mutPPRマウスの長骨は多量の骨梁および骨髄線維症によって特徴づけられた。12週齢で、col1−caPPRマウスの長骨は組織学的に検査され、多量の骨梁と、骨幹端部の骨髄空間の量の減少を示した。長骨の総骨髄空間に対する骨幹端部の貢献の小ささを考えると、遺伝子導入マウス成体の長骨中の総骨髄空間における減少の程度は最小限であった。オステオカルシン、アルカリホスファターゼ、I型コラーゲン、オステオポンチンおよびMMP−13を用いた染色によって明らかになった、骨梁の骨芽細胞集団の増殖があった(Calvi et al., 2001, J. Clin. Invest., 107; 277-286)。造血細胞は骨梁の間の狭い領域に見出され、脂肪細胞はほとんど見られなかった。遺伝子導入マウスは軽度の貧血があり(ヘマトクリット、野生型、n=5;41±0.2%;遺伝子導入、n=4;35.9±0.6%、P<0.005)、この知見はまた重度の原発性副甲状腺機能亢進症を有するヒトでも見られる(Kotzmann et al., 1997, Horm. Metab. Res., 29; 387-392;Sikole, 2000, Med. Hypoteses, 54; 236-238)。この特有の表現型は、骨芽細胞系譜の細胞におけるPPRの構成的活性化は、間質細胞集団に影響することによって正常造血を変化させうることを示唆する。遺伝子導入マウス由来の骨髄間質細胞は、培養中でヒト変異PPRのmRNAを発現する。
【0116】
遺伝子導入マウスは骨髄中の造血幹細胞の数が増加している。遺伝子導入マウスにおける骨芽細胞の活性および数の増大の、造血幹細胞に対する影響を解明するために、骨髄中の造血幹細胞の頻度をフローサイトメトリーによって最初に調べた。骨髄単核球全体からの、細胞のSca−1lin細胞部分集団の頻度の分析は、遺伝子導入マウスで候補幹細胞の数に有意な増加があることを実証した(P=<0.01、図2a)。この比例的な増加は、絶対数に対応する増加があった(後肢当たりの平均絶対数、野生型;32,500±8,000、対、遺伝子導入;65,700±7,500)。これが機能性表現型と対応するかどうか調べるため、in vivo造血幹細胞(HSC)機能と直線的に相関する、定量的な、限界希釈長期培養開始細胞(LTC−IC)測定を用いた(Ploemacher et al., 1991, Blood, 78; 2527-2533)。造血幹細胞頻度は、骨髄単核球のlin画分中のLTC−IC頻度の機能性測定を用いて調べた。これは、遺伝子導入動物におけるLTC−ICの頻度のほぼ等しい程度の増加を確認した(P=<0.0001,図2b)。増加の程度は、免疫表現型的に定義された原始細胞で見られる増加に相当した。この幹細胞頻度の増加が、遺伝子導入動物における細胞周期プロファイルの変化から生じた可能性があるため、G期に対してG期の Sca−1lin細胞の比率を次に分析した。遺伝子導入マウスと野生型マウスとの間に有意差はみられなかった(P=0.768、図2c)。同様に、CFU−C測定を用いた造血前駆細胞の頻度の測定は、遺伝子導入動物と野生型動物との間に有意差を示さなかった(P=0.573;図2d)。これらのデータは、造血幹細胞レベルになるための増殖の特異性を実証する。特に、これらのデータは、細胞増殖は分化した部分集合にわたって全体的ではなく、原始細胞に明白に制限されていたことを実証する。
【0117】
間質細胞に対するPPRを介したPTH作用は造血幹細胞の数をinvitroで増加させるのに十分である。遺伝子導入マウスで造血幹細胞の頻度の増加が見られたため、この増大の機構を調査した。骨髄間質細胞がLTC−ICを支持する能力を評価して、遺伝子導入マウス由来の間質細胞が、野生型動物由来の間質細胞と比較して高いLTC−IC支持を示したことが見出された(P=<0.005、図3a)。したがって、col1−caPPRマウスにおける原始細胞の数の増加は間質に決定され、造血細胞遺伝子型とは独立していた。構成的活性PTH/PTHrP受容体を持つ遺伝子導入マウスのために、次いで外因性PTHの添加が前の観察結果を模倣できるかどうかを決定した。これらの実験では、間質細胞集団をPTHの存在下で拡大し、またはLTC−IC測定をPTHを用いて長期培地で実施した。骨髄由来間質集団の増殖中のPTHの存在は、間質がLTC−ICを支持する能力を高めたことが見出された。
【0118】
実施例3:遺伝子導入細胞実験
PPR遺伝子導入骨芽細胞はIL−6、SCF、およびSDF−1を高度に発現する。免疫組織化学を用いて、骨幹端骨梁の間の遺伝子導入細胞におけるインターロイキン6(IL−6)、kitリガンドすなわち幹細胞因子(SCF)、および間質由来因子1(SDF−1)のレベルを測定した。これらの細胞は、骨芽細胞の不均一な集団であることがin situハイブリダイゼーションによって以前に示されており(Calvi et al., 2001)、また骨芽細胞マーカーであるオステオポンチンに対する免疫組織化学がこれらのデータを確認している。野生型動物では、少数の骨芽細胞だけがこれらの因子を発現する。対照的に、高レベルのIL−6が遺伝子導入動物の骨芽細胞に不均一に検出された。SDF−1の発現は広汎であった一方、SCFは主に骨梁を覆うより成熟した細胞で高レベルに存在した。原始細胞に対する効果を、拡散性サイトカインが説明できるかどうかに対処するため、支持細胞をBM MNCと分離する半透膜を用いてLTC−ICを実施し(非接触培養)、活性化PPRからの利益の消失を認めた(P=0.982、図4)。これらのデータは、細胞−細胞の接触、またはニッチ細胞またはマトリクス成分との原始造血細胞相互作用の必要性を示す。SCFは膜結合性でありうると同時に遊離して分泌されうる。しかし、幹細胞増殖のその他の膜結合性媒介因子候補を調べた。
【0119】
遺伝子導入骨芽細胞は高レベルのNotchリガンドJagged1を産生する。Notchシグナル伝達系は、幅広い系で細胞運命決定を調節するが(Artavanis-Tsakonas et al, 1999, Science, 284; 770-776)、HSC 自己再生に影響すると考えられている(Stier et al., 2002, Blood, 99; 2369-2378; Varnum-Finney et al., 2003, Blood, 101; 1784-1789; Varnum-Finney et al., 2000, Nat. Med., 6; 1278-1281; Karanu et al., 2000, J. Exp. Med., 192; 1365-1372; Karanu et al., 2001, Blood, 97; 1960-1967)。Notchシグナル伝達の操作は、成熟細胞を増殖させることなく幹細胞数を増加させることが示されている(Stier et al., 2002, Blood, 99;2369-2378; Karanu et al., 2000, J. Exp. Med., 192;13651372)。さらに、NotchリガンドJagged1は、骨髄間質細胞(Karanu et al., 2000, J. Exp. Med., 192;1365-1372; Li et al., 1998, Immunity, 8;43-55)およびマウス骨芽細胞(Pereira et al., 2002, J. Cell Biochem., 85;252-258) によって発現されていることが示されている。Notchおよびサイトカインに誘導されるシグナル伝達経路は、造血細胞運命を調節する組合せ効果を有することが示されている(Varnum-Finney et al., 2003, Blood, 101;1784-1789)。したがって、遺伝子導入マウスの骨髄でJagged1タンパク質レベルが変化しているかどうかが調べられ、Jagged1の全体のレベルが劇的に上昇したことが免疫組織化学によって観察された。Jagged1を発現する細胞は、形態学的特徴および抗オステオポンチンでの染色によって示された通り、骨芽細胞であった。遺伝子導入動物におけるJagged1の発現増加に造血幹細胞が反応するかどうかを調べるため、Notch細胞内ドメイン(NICD)のレベルを野生型および遺伝子導入マウス由来のlinSca−1c−KitHSCsで評価した。抗NICD抗体は、Notch1の細胞内活性化型を選択的に検出することが以前に示されている(Huppert et al., 2000, Nature, 405 ;966-970)。野生型マウスがアイソタイプ対照と比較してNICDについて最小限の染色を示した一方、遺伝子導入マウス由来のlinSca−1c−Kit細胞ではNICDのレベルに明白な増加があった(図3b)。これらのデータは、骨芽細胞集団中のPPRの活性化が骨芽細胞の数およびその全体のJagged1産生を増加させるモデルを示唆する。これは今度は原始造血細胞でNotch1を活性化し、その結果として原始造血細胞部分の増殖を生じうる。
【0120】
実施例4:In vitro PTH投与
in vitroでのPTH処理はcol1−caPPR効果を再現する。col1−caPPRマウスが、内因性リガンドによって活性化することもできる受容体を活性化する遺伝的手段に相当したため、次にPTHへの野生型間質の曝露によってcol1−caPPR間質の効果を再現することができるかどうかを試験した。LTC−IC測定は、in vitroでPTHの存在下または非存在下で増殖させたC57B1/6間質を用いて実施し、その後PTHの存在下または非存在下で間質に造血細胞を導入した。PTHを含む培地中で間質を増殖させた場合、col1−caPPR間質を使用したLTC−IC結果によく似て、LTC−ICが増加した(P=0.004、図5a)。注目すべきことに、その効果は、PTHの非存在下で増殖させた間質細胞を用いたとき、またはPTHを造血細胞と同時に加えた場合には見られず、間質がin vitroで成熟する際の間質の組成または活性に対する影響を示唆した。PTH処理した培養間質細胞において骨芽細胞数が増加するかどうかを評価するために、溶媒またはPTHで処理したマウス一次培養間質細胞のアルカリホスファターゼ染色を実施した。14日後、培養は集密かつ均一であり、PTH処理培養ではアルカリ陽性細胞が増加し(図5b)、PPRの活性化が骨芽細胞数の増加を誘導することを立証した。原始造血細胞に対するPPR活性化の効果がNotch経路活性化によるかどうかをさらに評価するために、Notch1切断を阻害することができるγ−セクレターゼ阻害因子の存在下または非存在下での長期共培養(Wolfe et al., 1999, Biochemistry, 38;4720-4727)を実施した。阻害因子の添加はPTH処理間質の支持能力をベースライン水準まで低下させた(図5c)。したがって、原始造血細胞において骨芽細胞に誘導される増加にはNotch1活性化が必要である。総合すると、これらの結果は、PPR活性化が骨芽細胞を増加させることができ、結果として原始造血細胞のNotch1媒介性増殖を生じるというモデルをさらに支持する。
【0121】
実施例5:In vivo PTH投与
正常マウスの間欠的PTH処理。PTHを用いた間質細胞の処理が、間質細胞 集団が造血 幹細胞を支持する能力の上昇につながったため、これらの効果がin vivoで再現できるかどうかを調べた。野生型C57B1/6マウスに、骨芽細胞を増加させることが知られている間欠的投与スケジュールを用いてPTHを毎日注射し、骨髄中のLTC−ICの頻度を測定した。2週間のPTH処理期間の結果として造血幹細胞集団の有意な増加は生じなかった一方、PTHを用いた4週間のマウスの処理は、ブランクを注射したマウスに対して造血幹細胞の有意な増加を結果として生じた。4週間までに、ブランク処理対照と比較してlinSca−1c−Kitのより高い頻度および絶対数を有するPTH処理マウスについて有意差がみられた(P=<0.01、図5d)。さらに、限界希釈LTC−IC測定は、幹様細胞の増加を実証した(P=<0.005、図5e)。PTH処理後に機能性幹細胞が増加したことをさらに明確にするため、二次レシピエントへの競合的移植のin vivo 測定を用い、HSCsの2倍を超える増加が記録された(P=<0.05、図5f)。これらのデータは、PTHによって誘導されたHSCsの増加の証拠を提供し、またこれらの試験に用いられたin vitroおよびin vivo測定の合理的な整合性を評価するのに役立つ。遺伝子導入動物での観察と一致して、PTH治療はCFU−C測定によって評価された造血前駆細胞のレベルに影響しなかった(P=0.780、図5g)。したがって、PPRの薬理的活性化は幹細胞数を増加させたが、幅広い造血細胞増殖を伴わずにその増加を行ったように見える。これらのデータは、Notch活性化の結果として生じることが知られている現象である自己再生促進によるHSC増殖と非常に良く合致する。注目すべきことは、PTH処理動物の血清カルシウム測定によると高カルシウム血症の証拠は無かった。
【0122】
骨髄移植後のin vivo PTH投与。PPR刺激が、ヒトでの幹細胞の臨床使用に関係するモデルに影響しうるかどうかを評価するため、骨髄機能廃絶および骨髄移植を受けた動物に対するPTH投与の影響を評価した。治療上の必要性の設定を模倣するため、限られた数の骨髄由来ドナー細胞を使用した。骨髄移植後にブランク注射を受けた対照マウスにおける30日目の生存率は40%であった。はっきりと対照的に、PTHの長間隔投与を受けた動物では100%生存という顕著に改善した結果であった(図6)。
【0123】
前記の明細書は当業者が本発明を実施するのに十分であると考えられる。実施例は本発明の一態様の一つの説明と意図されるため本発明は提供した実施例によって範囲が制限されず、他の機能的に同等な実施態様は本発明の範囲内である。ここに示し説明したものに加え本発明のさまざまな改変が前記の説明から当業者に明らかとなり、付属の請求項の範囲に入る。本発明の利点および目的は必ずしも本発明の個々の実施態様によって包含されない。
【0124】
本明細書中に列挙された参考文献、特許および特許広報はその全体が参照により本開示に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】hPTH/PTHrP受容体構造を示す図。
【図2】a)骨髄単核細胞全体からのSca−1lin部分集団細胞の頻度を示すグラフ。b)骨髄単核球のlin画分の造血幹細胞頻度を示すグラフ。c)G対G期におけるSca−1lin細胞の割合を示すプロット。d)CFU−C測定を用いた造血幹細胞の頻度を示すグラフ。
【図3】a)遺伝子導入マウス由来間質細胞の支持を示すグラフ。b)linSca−1c−Kit造血幹細胞中のNICDのレベルを示すプロット。
【図4】非接触培養条件下でのLTC−IC測定を示すグラフ。
【図5】a)PTHの非存在下および存在下でのC57B1/6間質増殖のLTC−IC測定を示すグラフ。b)アルカリホスファターゼ陽性細胞を示す写真。c)PTHの存在下および非存在下でのLTC−ICの阻害を示すグラフ。d)ブランクを注射したマウスおよびPTHを注射したマウスにおける骨髄中のlinSca−1c−Kit細胞の割合を示すグラフ。e)ブランクを注射したマウスおよびPTHを注射したマウスにおける骨髄単核球中のLTC−ICの増加を示すグラフ。f)ブランクを注射したマウスおよびPTHを注射したマウスにおける骨髄中のCD45.2細胞の割合を示すグラフ。g)ブランクを注射したマウスおよびPTHを注射したマウスにおける骨髄単核球中のCFU−Cを示すグラフ。
【図6】ブランクを注射したマウスおよびPTHを注射したマウスの生存率を示すプロット。
【配列表】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血前駆細胞の増殖または維持を促進するために細胞集団を調製する方法であって、
PTH/PTHrP受容体を発現している細胞を、造血前駆細胞の増殖または維持を支持するのに有効な量のPTH/PTHrP受容体を活性化する物質と接触させる工程を含む方法。
【請求項2】
前記PTH/PTHrP受容体を発現している細胞が、造血前駆細胞に近接して存在することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記PTH/PTHrP受容体を発現している細胞が、骨芽細胞、リンパ網間質細胞、および骨芽細胞とリンパ網間質細胞の混合物から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記PTH/PTHrP受容体を発現している細胞をPTH/PTHrP受容体を活性化する物質と接触させる工程が、in vitroで行われることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記PTH/PTHrP受容体を発現している細胞をPTH/PTHrP受容体を活性化する物質と接触させる工程が、in vivoで行われることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記PTH/PTHrP受容体を活性化する物質が、PTH、PTHアナログ、またはPTH/PTHrP受容体作用因子であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
造血前駆細胞の増殖および維持がin vitroで生じることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
造血前駆細胞の増殖および維持がin vivoで生じることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
造血前駆細胞の増殖および維持を促進する方法であって、
造血前駆細胞を、PTH/PTHrP受容体を発現している細胞と接触させ、さらに
PTH/PTHrP受容体を発現している細胞を、PTH/PTHrP受容体を活性化する物質と接触させて、造血前駆細胞の自己再生を誘導する工程を含む方法。
【請求項10】
接触がin vitroで生じることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
接触がex vivoで生じることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項12】
個体において造血前駆細胞の増殖または維持を促進する方法であって、
造血細胞の増殖または維持を必要とする個体に、造血前駆細胞の増殖または維持を支持するのに有効な量で、該個体のPTH/PTHrP受容体を発現している細胞のPTH/PTHrP受容体を活性化する物質を投与する工程を含む方法。
【請求項13】
前記PTH/PTHrP受容体を発現している細胞が、骨芽細胞、リンパ網間質細胞、および骨芽細胞とリンパ網間質細胞の混合物から選択されることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記PTH/PTHrP受容体を発現している細胞が造血前駆細胞であることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記PTH/PTHrP受容体を活性化する物質が、PTH、PTHアナログ、またはPTH/PTHrP受容体作用因子であることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項16】
前記造血細胞の増殖または維持を必要とする個体が、骨髄ドナーであることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項17】
前記造血細胞の増殖または維持を必要とする個体が、骨髄を提供していることを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記造血細胞の増殖または維持を必要とする個体が、まだ骨髄を提供していないことを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記造血細胞の増殖または維持を必要とする個体が、骨髄移植レシピエントであることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項20】
前記造血細胞の増殖または維持を必要とする個体が、環境ストレスを受けた造血前駆細胞を有する個体であることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項21】
前記造血細胞の増殖または維持を必要とする個体が、貧血を有する個体であることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項22】
造血前駆細胞の動員を促進する方法であって、
そのような治療を必要とする個体に、該個体において造血前駆細胞の動員を促進するのに十分な量で、PTH/PTHrP受容体を活性化する物質を投与する工程を含む方法。
【請求項23】
造血前駆細胞を調製する方法であって、
個体において造血前駆細胞の増殖、維持、または動員を促進するのに十分な量で、PTH/PTHrP受容体を活性化する物質を個体に投与し、次いで該個体から造血前駆細胞を採取する工程を含む方法。
【請求項24】
造血前駆細胞が血液から採取されることを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項25】
PTHで処理された単離間質細胞集団。
【請求項26】
免疫細胞の増殖を刺激する方法であって、
免疫細胞を、PTH/PTHrP受容体を発現している細胞と接触させ、さらにPTH/PTHrP受容体を発現している細胞を、PTH/PTHrP受容体を活性化させる物質と接触させて、免疫細胞増殖を誘導する工程を含む方法。
【請求項27】
接触がin vitroで生じることを特徴とする請求項26記載の方法。
【請求項28】
接触がex vivoで生じることを特徴とする請求項26記載の方法。
【請求項29】
個体において免疫細胞の増殖を促進する方法であって、
免疫細胞の増殖を必要とする個体に、免疫細胞の増殖を支持するのに有効な量で、該個体のPTH/PTHrP受容体を発現している細胞のPTH/PTHrP受容体を活性化する物質を投与する工程を含む方法。
【請求項30】
前記PTH/PTHrP受容体を発現している細胞が前駆細胞であることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記PTH/PTHrP受容体を活性化する物質が、PTH、PTHアナログ、またはPTH/PTHrP受容体作用因子であることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項32】
前記免疫細胞の増殖を必要とする個体が、B細胞の増殖を必要とすることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項33】
前記免疫細胞の増殖を必要とする個体が、T細胞の増殖を必要とすることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項34】
前記免疫細胞の増殖を必要とする個体が、血小板の増殖を必要とすることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項35】
前記免疫細胞の増殖を必要とする個体が、好塩基球の増殖を必要とすることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項36】
前記免疫細胞の増殖を必要とする個体が、好中球の増殖を必要とすることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項37】
前記免疫細胞の増殖を必要とする個体が、マクロファージの増殖を必要とすることを特徴とする請求項29記載の方法。
【請求項38】
造血細胞を、骨芽細胞について濃縮した細胞集団と接触させる工程を含む、造血細胞の増殖または維持をin vitroで促進する方法。
【請求項39】
骨芽細胞を、PTH、PTHアナログ、またはPTH/PTHrP受容体作用因子と接触させることをさらに含む、請求項38記載の方法。
【請求項40】
造血細胞を、Notch−1受容体作用因子と接触させることをさらに含む、請求項38記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−512897(P2006−512897A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−524880(P2004−524880)
【出願日】平成15年7月25日(2003.7.25)
【国際出願番号】PCT/US2003/023425
【国際公開番号】WO2004/011484
【国際公開日】平成16年2月5日(2004.2.5)
【出願人】(300052453)ザ・ジェネラル・ホスピタル・コーポレイション (24)
【Fターム(参考)】