説明

創傷の治癒を改善するための方法及び生成物

式(I)のモルホリノ化合物(式中、R1は、モルホリノ環の2位又は3位にある、炭素数8〜16の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、R2は、α位以外が水酸基で置換された炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。)又はその薬学的に許容される塩が、創傷の治癒促進に驚くほど効果的であることを見出した。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創傷の処置に有用な方法及び生成物、特に創傷の治癒に要する時間を短縮するのに有用な方法及び生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
創傷は、皮膚又は粘膜の身体外傷である。創傷は一般に、切創、裂創、擦過傷、刺創、穿通創(penetration)、及び銃創等の「開放」創と、挫傷及び血腫等の「閉鎖」創とに分類される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
創傷の治癒は、外傷性負傷に対する緻密に制御された複雑な生理学的応答である。現代の医療技術においても、創傷の治癒を改善する、特に創傷の治癒にかかる時間を短縮する方法及び組成物が依然として強く必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、デルモピノール(delmopinol)及びその誘導体が創傷の治癒に有効であるという驚くべき発見に基づくものである。
【0005】
本発明の第1の態様によれば、創傷の治癒を促進するための医薬の製造において、下記式(I)のモルホリノ化合物又はその薬学的に許容される塩が用いられる:
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、R1は、モルホリノ環の2位又は3位にある、炭素数8〜16の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、R2は、α位以外が水酸基で置換された炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。)。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、創傷の処置方法は、下記式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩に創傷を接触させることを含む:
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、R1は、モルホリノ環の2位又は3位にある、炭素数8〜16の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、R2は、α位以外が水酸基で置換された炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。)。
【0011】
本発明の第3の態様によれば、創傷に接触させるための材料が、下記式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩でコーティング又は含浸されている:
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R1は、モルホリノ環の2位又は3位にある、炭素数8〜16の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、R2は、α位以外が水酸基で置換された炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。)。
【0014】
本発明の第4の態様によれば、衣服が、下記式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩でコーティング又は含浸されている:
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、R1は、モルホリノ環の2位又は3位にある、炭素数8〜16の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、R2は、α位以外が水酸基で置換された炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。)。
【0017】
本発明の第5の態様によれば、創傷が治癒する際の創傷の瘢痕化を予防又は低減するための医薬の製造において、下記式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩が使用される:
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、R1は、モルホリノ環の2位又は3位にある、炭素数8〜16の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、R2は、α位以外が水酸基で置換された炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、式(I)の化合物を創傷の治癒の改善に用いることができるという驚くべき発見に基づくものである。
【0021】
本明細書において、「創傷」という語は、当該技術分野での通常の意味で使用している。挫傷(打撲傷)及び血腫等の「閉鎖」創並びに「開放」創が本発明の範囲に含まれる。創傷は、皮膚又は粘膜が破壊されるか、裂けるか、焼けるか、切れるか、刺されたものである「開放」創が好ましい。好ましい種類の開放創としては、擦過傷、火傷及び熱傷、切創、裂創、穿通創、刺創、及び銃創が含まれる。
【0022】
特許請求の範囲に記載したモルホリノ化合物自体は、参照により本明細書に援用される米国特許第4,894,221号及び同第5,082,653号に開示されているように公知である。
【0023】
本発明では、モルホリノ化合物は上記の一般式(I)により定義される。本発明の好ましい実施形態では、R1基及びR2基中の炭素原子の合計は少なくとも10であり、好ましくは10〜20である。更に好ましい実施形態では、R2基 の末端は水酸基である。
【0024】
本発明に使用するための好ましいモルホリノ化合物は、デルモピノール(CAS番号79874−76−3)として一般に知られる3−(4−プロピル−ヘプチル)−4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリンである。
【0025】
本発明のモルホリノ化合物は、遊離塩基の形態で又はその薬学的に許容される塩として用いることができる。薬学的に許容される塩のいくつかの例としては、酢酸、リン酸、ホウ酸、塩酸、マレイン酸、安息香酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、グルタル酸、ゲンチシン酸、吉草酸、没食子酸、β−レソルシクリック酸、アセチルサリチル酸、サリチル酸、過塩素酸、バルビツール酸、スルファニル酸、フィチン酸、p−ニトロ安息香酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸等の酸の塩が挙げられる。最も好ましい塩形態は塩酸塩の形態である。好ましい化合物はデルモピノールヒドロキシクロリド(CAS番号98092−92−3)である。
【0026】
特許請求の範囲に記載の化合物は、任意の公知の方法で製造することができ、例えば米国特許第5,082,653号及び国際公開第90/14342号に開示されている方法で製造することができる。
【0027】
特許請求の範囲に記載のモルホリノ化合物は、抗微生物薬と併用することが好ましい。抗微生物薬は、病原性(好ましくは感染性)微生物に対して有効な薬学的に許容される化合物であれば任意のものであってよい。したがって、特許請求の範囲に記載のモルホリノ化合物を含む組成物中で抗生物質を用いてもよい。病原性微生物に対して有効であれば如何なる抗生物質を用いてもよい。好ましくは、抗生物質は、クリンダマイシン、エリスロマイシン、ベンジルペンシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、バンコマイシン、及びリネゾリドからなる群から選択される。
【0028】
特許請求の範囲に記載の化合物は、好ましく且つ有利には、創傷中の細菌数を減少させる処置、すなわち抗菌薬と併用され、これにより細菌感染症の可能性が低下し得る。
【0029】
特許請求の範囲に記載のモルホリノ化合物を含む組成物中に抗炎症薬を用いてもよい。抗炎症薬の使用が炎症性挫瘡の処置に特に有用であることは当業者には理解されよう。コルチゾン等のステロイド系抗炎症薬、又はシクロオキシゲナーゼイソエンザイム(isoenzyme)を阻害するアスピリン及びイブプロフェン等の非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)が本発明の範囲に含まれる。
【0030】
誤解を避けるために、本明細書に記載の各材料の全ての組合せを含む組成物が本発明の範囲に含まれる。
【0031】
本発明に使用するための組成物は、粘膜又は皮膚への局所投与に適していることが好ましい。一実施形態では、組成物は、薬学的に許容されるクリーム、膏薬、軟膏、又はゲル中に含まれる特許請求の範囲に記載の化合物からなる。本発明の組成物は親水性であってもよく、疎水性であってもよい。組成物は水性組成物であってもよいが、アルコール又はその他の有機溶媒等のその他の好適な溶媒を用いてもよい。複数の溶媒を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
好適なクリームは、界面活性剤を用いて水性媒体中に分散させた軽質流動パラフィン等の局所用ビヒクル中に活性化合物を導入することで調製され得る。軟膏は、ミネラルオイル又はワックス等の局所用ビヒクルと活性化合物とを混合することで調製され得る。ゲルは、ゲル化剤を含む局所用ビヒクルと活性化合物とを混合することで調製され得る。
【0033】
また、局所投与可能な組成物は、本発明の薬学的活性化合物を分散させた基質を含んでもよく、それにより、化合物を皮膚に接触させて、化合物が経皮投与されるようにしてもよい。
【0034】
特許請求の範囲に記載のモルホリノ化合物は、症状の重症度に基づいて決定し得る有効なレベルで組成物中に含まれるべきである。本発明の化合物は、任意の好適な濃度で存在してよい。典型的には、化合物は、0.01〜20%(w/v)、例えば15%(w/v)、好ましくは0.01〜10%(w/v)、好ましくは0.1〜5%(w/v)、最も好ましくは0.1〜0.3%(w/v)、例えば0.2%(w/v)の濃度で存在する。当業者は好適なレベルを容易に選択することができる。
【0035】
組成物中に抗微生物成分、抗生物質成分、抗炎症成分、及び/又はその他の添加成分が含まれる場合、これらも当業者が容易に決定可能な有効なレベルで含まれる。
【0036】
本発明者は、創傷に式(I)の化合物を接触させると、創傷の治癒に要する時間が短縮されるという驚くべき事実を見出した。本明細書において、創傷の「治癒」とは、創傷(損傷)を受けた領域が効率的に正常状態に戻る生理学的プロセスを指す。創傷が開放創である場合、治癒とは、皮膚又は粘膜が連続的バリアーを再形成するプロセスを指す。当業者には、治癒後、創傷領域に周囲の組織と同一でない瘢痕組織が含まれる場合があることが理解されよう。式(I)の化合物の使用により、創傷の治癒に伴う瘢痕化を予防又は低減することができる。したがって、創傷に式(I)の化合物を接触させることで、創傷に式(I)の化合物を接触させずに瘢痕が形成される場合と比べて、瘢痕化が予防又は低減されるか、瘢痕組織の醜い外観が軽減され得る。
【0037】
創傷の処置方法は、創傷に式(I)の化合物を接触させることを含む。創傷の処置の一例として、式(I)の化合物を含む組成物を創傷に接触させることが挙げられる。あるいは、式(I)の化合物をコーティング又は含浸した材料を創傷に接触させることができる。創傷と式(I)の化合物を含む材料との接触は一過性でない、すなわち相当な期間の接触があることが好ましい。例えば、接触は10分以上、1時間以上、好ましくは2、3、4時間以上、例えば24時間持続され得る。式(I)の化合物を含む材料は、織られていてもよく(例えば織物)、織られていなくてもよい。好ましい材料としては、包帯、ガーゼ、プラスター、又はその他の医療用包帯材等の創傷用包帯材が挙げられる。医療環境での使用が意図されるその他の織物、例えば医学的手技中に用いられる材料又は病院若しくはその他の医療環境で用いられる材料、例えばシーツ、枕カバー、リネン、タオルが、式(I)の化合物を含み得る好ましい材料である。
【0038】
本発明の別の態様によれば、衣服に式(I)の化合物が含まれてもよい。衣服が式(I)の化合物でコーティング又は含浸されることが好ましい。医療環境、好ましくは手術環境で着用される衣服が好ましい実施形態である。そのような医療用の衣服の例としては、医師、特に外科医、及び看護師といった医療従事者が着用するユニフォーム及び衣服、並びに診察着等の患者が着用する衣服が挙げられる。創傷が発生する確率が高い場合に着用され得る衣服が好ましい。したがって、好ましい衣服は、手術中に着用されるガウン又は戦闘服(combat gear)等の軍服である。本実施形態では、衣服着用中に生じるあらゆる創傷に、創傷を覆い且つ創傷に接触する衣服によって式(I)の化合物が接触させられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷の治癒を促進するための医薬の製造における、下記式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩の使用:
【化1】

(式中、R1は、モルホリノ環の2位又は3位にある、炭素数8〜16の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、R2は、α位以外が水酸基で置換された炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。)。
【請求項2】
前記創傷が開放創である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記開放創が、擦過傷、切創、裂創、穿通創、刺創、又は銃創である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記式(I)の化合物が、前記創傷の治癒にかかる時間を短縮する、先行する請求項のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記創傷に式(I)の化合物を接触させることを含む、創傷の処置方法。
【請求項6】
前記創傷に式(I)の化合物を接触させることで、該創傷の治癒に要する時間が短縮される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記創傷が、請求項2又は請求項3に定義されるものである、請求項5又は6に記載の創傷の処置方法。
【請求項8】
下記式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩がコーティング又は含浸されている、創傷に接触させるための材料:
【化2】

(式中、R1は、モルホリノ環の2位又は3位にある、炭素数8〜16の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、R2は、α位以外が水酸基で置換された炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。)。
【請求項9】
前記材料が創傷用包帯材である、請求項8に記載の材料。
【請求項10】
前記創傷用包帯材が、包帯、ガーゼ、プラスター、又はその他の医療用包帯材である、請求項9に記載の材料。
【請求項11】
下記式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩がコーティング又は含浸されている、衣服:
【化3】

(式中、R1は、モルホリノ環の2位又は3位にある、炭素数8〜16の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、R2は、α位以外が水酸基で置換された炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。)。
【請求項12】
創傷が治癒する際の創傷の瘢痕化を予防又は低減するための医薬の製造における、下記式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩の使用:
【化4】

(式中、R1は、モルホリノ環の2又は3位の、炭素数8〜16の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、R2は、α位以外が水酸基で置換された炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。)。

【公表番号】特表2010−534230(P2010−534230A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517477(P2010−517477)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002493
【国際公開番号】WO2009/013475
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(508022067)シンクレア ファーマシューティカルズ リミテッド (7)
【Fターム(参考)】