説明

力率改善回路

【課題】入力電圧の高低に応じ、昇圧電圧の目標値を容易かつ高精度に自動調整することができる力率改善回路を提供する。
【解決手段】昇圧チョッパ回路16のスイッチング制御回路28と、入力電圧信号Viを出力する入力電圧検出回路44を備える。入力電圧信号Viに応じて時比率が定められる一定周期の基準パルスV46を出力する基準パルス発生器46を備える。基準パルスV46の平均化電圧V48を出力する平均化回路48を備える。平均化電圧V48に応じた目標値補正信号Ibを、昇圧電圧信号Vo1又は基準電圧V34に注入する補正信号注入抵抗50を備える。目標値補正信号Ibによって、昇圧電圧Voが整流電圧Vsの波高値Vspよりも高くなるように、昇圧電圧Voの目標値Vaが補正される。入力電圧Viが高くなるほど昇圧電圧Voが高くになるように目標値Vaが補正される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、昇圧チョッパ回路を備え、商用電源から供給される入力電流の波形を整形すると共に、所定の直流電圧を出力する力率改善回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、全世界対応の商用電圧(AC100V系、240V系等)に対応可能な広い入力電圧範囲を有する力率改善回路は、入力電圧が高い地域で使用されるときでも、昇圧チョッパ回路の主スイッチング素子がオン・オフして力率改善動作が行われるように、昇圧電圧の目標値を最高入力電圧の波高値よりも高い値に固定するのが一般的であった。そのため、入力電圧が低い地域で使用されると、入力電圧に比べて昇圧電圧が非常に高くなるので、後段に接続される負荷の負担が増加する。例えば、後段の負荷がDC−DCコンバータの場合、内部の絶縁性を向上させるために外形が大型化したり、主スイッチング素子として導通抵抗が大きい高耐圧部品を選択せざるを得なくなって効率が低下したりするという問題が生じていた。
【0003】
近年、この問題を解決するため、入力電圧が低いときは昇圧電圧が低めになり、入力電圧が高いときは昇圧電圧が高めになるように自動調整する回路技術が複数提案されている。例えば、特許文献1に開示されているように、昇圧チョッパ回路が出力する昇圧電圧と基準電圧との誤差が小さくなるように主スイッチング素子のオン・オフ駆動することによって昇圧電圧が目標値に一致するように制御する第2の制御手段と、入力電圧が高くなってその波高値が昇圧電圧の目標値に近づくと、基準電圧を可変し、昇圧電圧の目標値が入力電圧の波高値よりも高い値になるように自動補正する基準電圧可変回路とを備えた電源装置がある。そして、基準電圧可変回路の実施例として、整流回路が出力する脈流電圧をダイオードとコンデンサでピークホールドして波高値を検出し、そのピークホールド電圧を抵抗分圧し、分圧電圧を定電圧源と比較して高い方の電圧を基準電圧として出力する回路が記載されている。この電源装置によれば、入力電圧の全ての範囲で力率改善動作を行うことができ、また、入力電圧が低い地域で使用される場合には、昇圧電圧が相応に低い電圧に設定されるので、後段に接続される負荷の負担が軽減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−78469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の電源装置は、入力電圧範囲の仕様を変更する場合、基準電圧可変回路の分圧抵抗その他多くの部品の定数を変更する必要があるので、その電源装置の開発においては設計変更や再評価の手間がかかり、生産においても量産部材管理等の面で煩雑さがあった。また、同一の電源装置であっても、量産時、基準電圧可変回路、昇圧電圧の検出回路、入力電圧の検出回路等を構成する各部品の特性のばらつきにより、入力電圧に対する昇圧電圧目標値の設定が大きくばらつき、組み立てられた製品の性能が安定しないという問題があった。
【0006】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたもので、入力電圧の高低に応じ、昇圧電圧の目標値を容易かつ高精度に自動調整することができる力率改善回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、交流の入力電圧を整流して脈流の整流電圧を出力する整流回路と、チョークコイル、主スイッチング素子、整流素子及び平滑コンデンサを有し、前記整流電圧を昇圧した昇圧電圧を前記平滑コンデンサ両端に発生させ、負荷に電力供給する昇圧チョッパ回路と、前記昇圧電圧に相当する昇圧電圧信号を受け、基準電圧と前記昇圧電圧信号との差分を増幅することによって前記昇圧電圧の目標値を決定するエラーアンプと、前記エラーアンプが出力する誤差増幅信号を受け、前記昇圧電圧が前記目標値になるように前記主スイッチング素子をオン・オフ制御するスイッチング制御部とを備えた力率改善回路であって、
前記入力電圧を検出し入力電圧信号を出力する入力電圧検出回路と、一定周期の矩形波であって前記入力電圧信号に応じてハイ・レベルとロー・レベルの時比率が定められる基準パルスを出力する基準パルス発生器と、前記基準パルスの平均化電圧を出力する平均化回路と、前記平均化電圧に応じた目標値補正信号を前記昇圧電圧信号又は前記基準電圧に注入する補正信号注入回路とで構成された目標値補正部を備え、
前記目標値補正部が出力する前記目標値補正信号によって、前記入力電圧の高低にかかわらず、前記昇圧電圧が前記整流電圧の波高値よりも高くなるように前記昇圧電圧の目標値が補正されると共に、前記入力電圧が低いときには相対的に前記昇圧電圧が低くなるように、前記入力電圧が高いときには相対的に前記昇圧電圧が高くなるように、前記昇圧電圧の目標値が補正される力率改善回路である。
【0008】
また、前記目標値補正部は、前記入力電圧が所定電圧以下の範囲で、前記昇圧電圧の目標値が一定になる前記目標値補正信号を出力する。
【0009】
また、前記基準パルス発生器は、マイクロコンピュータ内に設けられ、前記基準パルスの時比率と前記入力電圧信号との関係を、プログラムの書き換えによって変更できるものであってもよい。
【0010】
また、前記昇圧電圧が過電圧基準値を超えると前記主スイッチング素子のオン・オフ動作を停止させる過電圧保護回路を備え、前記エラーアンプは、前記目標値補正信号の有無にかかわらず、前記昇圧電圧が前記過電圧基準値以下になるように前記目標値を決定する。
【0011】
また、入力電圧投入時に前記整流回路の出力から前記平滑コンデンサに向けて電流を流すダイオード及び突入電流制限抵抗の直列回路を備えている。
【発明の効果】
【0012】
この発明の力率改善回路は、上記のような入力電圧検出回路、基準パルス発生回路、平均化回路及び補正信号注入回路で構成された目標値補正部を備えているので、入力電圧範囲の仕様が異なるものを設計する場合でも、入力電圧検出回路の回路定数を変更するだけで、入力電圧と昇圧電圧目標値との関係を調整することができるので、設計や評価が容易で、変更する部品数も最小限に抑えることができる。さらに、基準パルス発生回路をマイクロコンピュータ内に設け、基準パルスの時比率と入力電圧信号との関係をプログラムの書き換えで変更できるように構成すれば、入力電圧検出回路の定数変更をも行う必要がない。
【0013】
また、上記のようにマイクロコンピュータ内に基準パルス発生回路を構成すれば、例えば、この力率改善回路が搭載された製品を量産するとき、出荷検査工程で通電試験を行い、基準パルスの時比率と入力電圧信号との関係を定義するプログラム部分を、個々の製品の特性に合うように書き換え、入力電圧と昇圧電圧の関係が規格範囲内に収まるように微調整することにより、個々の製品のばらつきを容易に補正することができ、製品精度を向上させることができるとともに、生産性も格段に向上する。また、基準パルス発生回路自体の点数も大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の第一の実施形態の力率改善回路を示すブロック図である。
【図2】第一の実施形態の力率改善回路の具体的な構成を示す回路図である。
【図3】第一の実施形態の力率改善回路の動作を説明するグラフである。
【図4】この発明の第二の実施形態の力率改善回路の具体的な構成を示す回路図である。
【図5】第二の実施形態の力率改善回路の動作を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の力率改善回路の第一の実施形態について、図1〜図3に基づいて説明する。この実施形態の力率改善回路10は、図1のブロック図に示すように、入力端14aに商用電源12が接続され、交流の入力電圧Viを全波整流した整流電圧Vsを出力する整流回路14を備えている。整流回路14の出力段には、整流電圧Vsを断続して整流平滑することによって昇圧電圧Voを出力する昇圧チョッパ回路16が接続されている。そして、昇圧チョッパ回路16の出力端16aに、一般の電子機器やDC−DCコンバータ等である負荷18が接続され、昇圧電圧Voを供給している。
【0016】
昇圧チョッパ回路16は、一端が整流回路14の出力に接続されたチョークコイル20と、チョークコイル20の他の一端とグランドとの間に接続された主スイッチング素子22と、主スイッチング素子22の両端に発生する断続電圧を整流する整流ダイオード24と、整流ダイオード24の出力を平滑し直流の昇圧電圧Voを発生させる平滑コンデンサ26とで構成されている。
【0017】
主スイッチング素子22のオン・オフは、スイッチング制御回路28によって制御される。スイッチング制御回路28は、商用電源から供給される入力電流の波形を整形して力率を改善すると共に、昇圧電圧Voが所定の目標値Vaになるように主スイッチング素子16のオン時間とオフ時間を決定する。
【0018】
昇圧電圧Voを安定化する制御系は、昇圧電圧検出回路30、エラーアンプ32、基準電圧源34、目標値補正部36、およびスイッチング制御回路28で構成されている。昇圧電圧検出回路30は、昇圧電圧Voを検出して昇圧電圧信号Vo1を出力する。エラーアンプ32は、昇圧電圧信号Vo1を受け、基準電圧源34の基準電圧V34と昇圧電圧信号Vo1との差分を増幅することによって昇圧電圧Voの目標値Vaを決定する。目標値補正部36は、整流電圧Vsの波高値Vspを検出し、それに応じた目標値補正信号Ibを出力する。そして、目標値補正信号Ibを昇圧電圧検出回路30に注入することによって昇圧電圧信号Vo1を変化させ、目標値Vaを補正する働きをする。スイッチング制御回路28は、エラーアップ34の出力を受け、昇圧電圧Voが補正された目標値Vaに一致するように主スイッチング素子16をオン・オフ制御する。
【0019】
また、力率改善回路10には、何らかの理由で昇圧電圧Voが目標値Vaよりも高い電圧値である過電圧基準値V38を超えると、スイッチング制御回路28に信号を送って主スイッチング素子16のオン・オフを停止させ、負荷18に過大電圧の印加が継続することを防止する過電圧保護回路38が設けられている。さらに、入力電圧Viが投入されたときに、整流回路14の出力から平滑コンデンサ26に向けて電流を流すダイオード40と突入電流制限抵抗42の直列回路を備えている。
【0020】
次に、昇圧電圧検出回路30、目標値補正部36、エラーアンプ32、および基準電圧源34の具体的な構成について、図2の回路図に基づいて説明する。昇圧電圧検出回路30は、昇圧電圧Voが発生する平滑コンデンサ26の両端に並列接続された抵抗30a,30b,30cの直列回路であり、グランド側の抵抗30b,30cに発生する電圧の合計値を昇圧電圧信号Vo1として出力する。
【0021】
目標値補正部36は、入力電圧検出回路44、基準パルス発生器46、平均化回路48、および補正信号注入回路である補正信号注入抵抗50を備えている。入力電圧検出回路44は、入力電圧Viの高低が等しく現れる整流電圧Vsを検出し、波高値Vspの高低に対応した入力電圧信号Vi1を出力する。
【0022】
基準パルス発生器46は、一定周期の矩形波であって、入力電圧信号Vi1に応じてハイ・レベルとロー・レベルの時比率が定められる基準パルスV46を出力する。ここで、基準パルス発生器46は、マイクロコンピュータ内に設けられており、基準パルスV46の時比率と入力電圧信号Vi1との関係がプログラムで定義され、当該定義を変更するときは、プログラムを書き換えることによって自在に行うことができる。基準パルスV46の時比率Dと入力電圧信号Vi1との関係については、後の動作説明の中で詳しく述べる。
【0023】
平均化回路48は、基準パルスV46を分圧する抵抗48a,48bと、グランド側の抵抗48bに並列接続されたコンデンサ48cとで構成され、コンデンサ48cの両端に、基準パルスV46を平均化した直流の平均化電圧V48を出力する。
【0024】
補正信号注入抵抗50は、平均化回路48の出力と、昇圧電圧検出回路30の抵抗30b,30cの中点との間に接続されている。ここでは、補正信号注入抵抗50の抵抗値は、抵抗30cの抵抗値よりも十分大きな抵抗値に設定され、抵抗値30cの抵抗値は、自己の両端に発生する電圧が平均化電圧V48よりも低くなるように設定されている。従って、補正信号注入抵抗50を介して昇圧電圧検出回路30に注入される電流信号である目標値補正信号Ibは、式(1)のように表わすことができる。
【数1】

【0025】
ここで、R50は補正信号注入抵抗50の抵抗値である。この目標値補正信号Ibが抵抗30cに流れると、昇圧電圧信号Vo1が変化し、その変化量ΔVo1は、式(2)のように表わすことができる。
【数2】

ここで、R30cは、抵抗30cの抵抗値である。
【0026】
エラーアンプ32は、反転入力端子に基準電圧信号Vo1が入力され、非反転入力端子に基準電圧V34が入力され、その差分を増幅して出力する反転増幅回路である。基準電圧信号Vo1と基準電圧V34とが等しいとき、エラーアンプ32は一定の電圧を出力し、それを受けたスイッチング制御回路28は、昇圧電圧Voが目標値Vaと等しくなっていると判断し、主スイッチング素子22のオンの時比率をそのまま継続する。基準電圧信号Vo1が基準電圧V34よりも高くなると、エラーアンプ32の出力が低下し、それを受けたスイッチング制御回路28は、昇圧電圧Voが目標値Vaよりも高くなっていると判断し、主スイッチング素子22のオンの時比率を小さくして昇圧電圧Voが低くなるように制御する。反対に、基準電圧信号Vo1が基準電圧V34よりも低くなると、エラーアンプ32の出力が上昇し、それを受けたスイッチング制御回路28は、昇圧電圧Voが目標値Vaよりも低くなっていると判断し、主スイッチング素子22のオンの時比率を大きくして昇圧電圧Voが高くなるように制御する。
【0027】
目標値補正信号Ibが変化すると、目標値Vaが新たな目標値Vaに補正されることになる。例えば、昇圧電圧Voが目標値Vaと等しくなっている状態で目標値補正信号Ibが減少すると、式(2)に基づいて昇圧電圧信号Vo1が低下し、基準電圧信号Vo1が基準電圧V34よりも低くなるので、エラーアンプ32の出力が上昇し、それを受けたスイッチング制御回路28は、昇圧電圧Voが目標値Vaよりも低いと判断し、主スイッチング素子22のオンの時比率を大きくして昇圧電圧Voが高くなるように制御する。すなわち、目標値補正信号Ibが減少すれば、目標値Vaは昇圧電圧Voを高くする方向に補正されることになり、反対に、目標値補正信号Ibが増加すれば、目標値Vaは昇圧電圧Voが低くなる方向に補正されることになる。
【0028】
なお、エラーアンプ32及び基準電圧34は、目標値補正部36の出力である目標値補正信号Ibの有無にかかわらず、目標値Vaの上限値が過電圧基準値Vovp以下になるように設定されている。
【0029】
次に、力率改善回路10の動作について、図3に基づいて説明する。基準パルス発生器46には、上述したように、基準パルスV46の時比率Dと入力電圧信号Vi1との関係がプログラムで定義されている。具体的には、図3に示すように、入力電圧ViがVk以下の範囲では時比率Dは変化せず一定の値であり、入力電圧ViがVkを超えると時比率Dが徐々に小さくなるように定義されている。従って、入力電圧Viが電圧Vk以下の範囲では平均化電圧V48は変化せず、昇圧電圧Voの目標値Vaは一定の値を示し、入力電圧ViがVkを超えると平均化電圧V48が徐々に低下し、目標値Vaが徐々に上昇する。このとき、目標値Vaは、常に整流電圧Vsの波高値Vspよりも高い値になるように設定されているので、昇圧チョッパ回路16は、入力電圧Viの全範囲で主スイッチング素子22がオン・オフして力率改善を行うことができる。
【0030】
以上説明したように、力率改善回路10は、例えば、入力電圧範囲の仕様が異なるものを設計する場合、マイクロコンピュータ内に設けた基準パルス発生回路36のプログラムを書き換え、入力電圧Viと目標値Va(昇圧電圧Vo)との関係を適正に変更するだけでよいので、設計や評価が容易で、変更する部品数も最小限に抑えることができる。
【0031】
また、力率改善回路10が搭載された製品を量産するとき、出荷検査工程で通電試験を行い、基準パルスV46の時比率Dと入力電圧信号Vi1との関係を定義するプログラム部分を、組み立てられた製品個々の特性に合わせて書き換え、昇圧電圧Voと入力電圧Viとの関係が規格範囲内に収まるように微調整すれば、個々の製品のばらつきを容易に補正することができ、製品精度を高めることができるとともに、量産性も向上する。また、基準パルス発生回路の部品点数も大幅に削減することができる。
【0032】
また、入力電圧ViがVk以下の範囲で使用されたとき、目標値Vaが所定の値に固定され一定以上の昇圧電圧Voが確保されるので、入力電圧Viが遮断された後、昇圧電圧Voが低下するまで、一定以上の保持時間を確保することができる。
【0033】
また、昇圧電圧Voが過電圧基準値Vovpに達したときに昇圧チョッパ回路16の動作を停止させる過電圧保護回路38が設けられ、かつ、エラーアンプ32及び基準電圧34は、目標値補正部36の出力である目標値補正信号Ibの有無にかかわらず、目標値Vaの上限値が過電圧基準値Vovp以下になるように構成されている。従って、特定の故障モードで昇圧電圧Voが上昇した場合は、過電圧に対する保護が二重に設けられることになるので、製品の信頼性や安全性がさらに向上する。また、上述したように通電試験で昇圧電圧Voと入力電圧Viとの関係を微調整する場合、昇圧電圧の制御系を構成する部品の特性が最もばらついたとしても、微調整前の段階で過電圧保護回路38が働くことがないので、微調整の作業を支障なく行うことができる。
【0034】
また、入力電圧Viの投入時に整流回路14の出力から平滑コンデンサ26に向けて電流を流すダイオード40と突入電流制限抵抗42との直列回路で構成された突入電流防止回路を付加する場合、昇圧電圧Voの目標値Vaが常に整流電圧Vsの波高値Vspよりも高くなるので、定常動作中はダイオード40と突入電流制限抵抗42に電流が流れず、この直列回路では損失が発生しない。従って、大電力用のダイオード40や突入電流制限抵抗42を採用したり、突入電流制限抵抗42の両端を短絡するための短絡スイッチ等を設けたりする等の措置が不要になり、突入電流防止回路をコンパクトで安価に構成することができる。
【0035】
なお、上述したように、力率改善回路10では、補正信号注入抵抗50は、抵抗30cよりも十分大きな抵抗値に設定され、抵抗値30cの抵抗値が、自己の両端に発生する電圧が平均化電圧V48よりも低くなるように設定されている。従って、式(1)で規定される目標値補正信号Ibを、抵抗30cに流れ込む方向にのみ発生させることができる。しかし、補正信号注入抵抗50と抵抗30cの抵抗値の大小関係を変更すれば、目標値補正信号Ibを双方向に発生させることも可能である。そうすれば、基準パルスV46の時比率を変更して平均化電圧V48を昇降させることによって、昇圧電圧Vo1を高くする動作だけでなく、低くする動作も自在に行うことができる。
【0036】
次に、この発明の力率改善回路の第二の実施形態について、図4、図5に基づいて説明する。ここで、第一の実施形態の力率改善回路10と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。第二の実施形態の力率改善回路60は、力率改善回路10の構成と比べると、過電圧保護回路38が削除され、ダイオード40と突入電流制限抵抗42との直列回路が削除され、さらに目標値補正部36に代えて目標値制御部62が設けられている点が異なる。
【0037】
ここで、力率改善回路60が昇圧電圧Voを供給する負荷18aは、過大な電圧が入力されると自己の破損を防止するための安全装置を具備しているので、力率改善回路60に負荷保護用の過電圧程回路38を設ける必要なく、削除されている。また、力率改善回路60は、平滑コンデンサ26の静電容量が比較的小さく、入力投入時の突入電流のエネルギーが小さいので、チョークコイル20の巻線に存在する抵抗成分を利用すれば突入電流を容易に抑制することができる。そこで、力率改善回路60では、突入電流制限抵抗42とダイオード40の直列回路が削除されている。
【0038】
以下、目標値補正部36に代えて設けられている目標値補正部62を中心に、昇圧電圧Voの制御系の構成について詳しく説明する。昇圧電圧Voを安定化する制御系は、昇圧電圧検出回路30、目標値補正部62、エラーアンプ32、および基準電圧源34で構成されている。
【0039】
昇圧電圧検出回路30は、昇圧電圧Voが発生する平滑コンデンサ26の両端に並列接続された抵抗30a,30b,30cの直列回路で構成され、グランド側の抵抗30b,30cに発生する電圧の合計値を昇圧電圧信号Vo1として出力する。抵抗30b,30cは、いずれか一方を削除してもよいが、ここでは、抵抗30aとの分圧比を微調整する目的で抵抗2本が直列に設けられている。
【0040】
目標値補正部62は、入力電圧検出回路44、基準パルス発生器54、平均化回路48、および補正信号注入回路である補正信号注入バッファ66を備えている。すなわち、上記の目標値補正部36の構成と比べると、基準パルス発生器46及び補正信号注入抵抗50に代えて基準パルス発生器64及び補正信号注入バッファ66が設けられている点が異なる。
【0041】
入力電圧検出回路44は、入力電圧Viの高低が等しく現れる整流電圧Vsを検出し、波高値Vspの高低に対応した入力電圧信号Vi1を出力する。
【0042】
基準パルス発生器64は、一定周期の矩形波であって、入力電圧信号Vi1に応じてハイ・レベルとロー・レベルの時比率Dが定められる基準パルスV64を出力する。基準パルス発生器64は、基準パルス発生器46と同様に、マイクロコンピュータ内に設けられており、基準パルスV64の時比率Dと入力電圧信号Vi1との関係がプログラムで定義され、当該関係を変更するときは、プログラムを書き換えることによって自在に行うことができる。基準パルスV64の時比率Dと入力電圧信号Vi1との関係については、後の動作説明の中で述べる。
【0043】
平均化回路48は、基準パルスV46を分圧する抵抗48a,48bと、グランド側の抵抗48bに並列接続されたコンデンサ48cとで構成され、コンデンサ48cの両端に、基準パルスV64を平均化した直流の平均化電圧V48を出力する。
【0044】
補正信号注入バッファ66は、平均化回路48が出力する平均化電圧V48を高インピーダンスに受け、基準電圧源34のマイナス出力端子とグランドの間に低インピーダンスに出力する。ここでは補正信号注入バッファ66の増幅率は1倍なので、基準電圧源34に注入される目標値補正信号Vbは平均化電圧V48に等しくなる。この目標値補正信号Vbが発生すると、後述するエラーアンプ32の一方の端子電圧である基準電圧V34が変化し、その変化量ΔV34は、式(3)のように表わすことができる。
【数3】

【0045】
エラーアンプ32は、反転入力端子に基準電圧信号Vo1が入力され、非反転入力端子に基準電圧V34が入力され、その差分を増幅して出力する反転増幅回路である。基準電圧信号Vo1と基準電圧V34とが等しいとき、エラーアンプ32は一定の電圧を出力し、それを受けたスイッチング制御回路28は、昇圧電圧Voが目標値Vaと等しくなっていると判断し、主スイッチング素子22のオンの時比率を継続する。基準電圧V34が基準電圧信号Vo1よりも低くなると、エラーアンプ32の出力が低下し、それを受けたスイッチング制御回路28は、昇圧電圧Voが目標値Vaよりも高くなっていると判断し、主スイッチング素子22のオンの時比率を小さくして昇圧電圧Voが低くなるように制御する。反対に、基準電圧V34が基準電圧信号Vo1よりも高くなると、エラーアンプ32の出力が上昇し、それを受けたスイッチング制御回路28は、昇圧電圧Voが目標値Vaよりも低くなっていると判断し、主スイッチング素子22のオンの時比率を大きくして昇圧電圧Voが高くなるように制御する。
【0046】
目標値補正信号Vbが変化すると、目標値Vaが新たな目標値Vaに補正されることになる。例えば、昇圧電圧Voが目標値Vaと等しくなっている状態で目標値補正信号Vbが上昇すると、式(3)に基づいて基準電圧V34が上昇し、基準電圧V34が基準電圧信号Vo1よりも高くなるので、エラーアンプ32の出力が上昇し、それを受けたスイッチング制御回路28は、昇圧電圧Voが目標値Vaよりも低いと判断し、主スイッチング素子22のオンの時比率を大きくして昇圧電圧Voを高くなるように制御する。すなわち、目標値補正信号Vbが上昇すれば、目標値Vaが昇圧電圧Voを高くする方向に補正されることになり、反対に、目標値補正信号Vbが低下すれば、目標値Vaは昇圧電圧Voが低くなる方向に補正されることになる。
【0047】
次に、力率改善回路60の動作について、図5に基づいて説明する。基準パルス発生器64には、上述したように、基準パルスV64の時比率Dと入力電圧信号Vi1との関係がプログラムで定義されている。具体的には、図5に示すように、入力電圧ViがVk以下の範囲では時比率Dは変化せず一定の値であり、入力電圧Viが電圧Vkを超えると時比率Dが徐々に大きくなるように定義されている。従って、入力電圧ViがVk以下の範囲では平均化電圧V48は変化せず、昇圧電圧Voの目標値Vaは一定の値を示し、入力電圧ViがVkを超えると平均化電圧V48が徐々に上昇し、目標値Vaが徐々に上昇する。このとき、目標値Vaは、常に整流電圧Vsの波高値Vspよりも高い値になるように設定されているので、昇圧チョッパ回路16は、入力電圧Viの全範囲で主スイッチング素子22がオン・オフして力率改善を行うことができる。
【0048】
以上説明したように、力率改善回路60は、力率改善回路10と異なる目標値補正部62を有しているものの、ほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0049】
なお、本発明の力率改善回路は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、入力電圧検出回路は、スイッチング制御回路が力率改善のために具備する入力電圧検出回路と兼用することができる。また、入力電圧Viの高低を精度よく検出することができれば、整流回路が出力する整流電圧を観測する方法に代えて、整流回路の前段の交流電圧や、昇圧チョッパ回路のチョークコイルの両端電圧等を観測する方法を採用してもよい。
【0050】
また、基準パルス発生器は、入力電圧信号を基準パルスの時比率に変換する動作を高精度に行うことができるものであれば、マイクロコンピュータに代えて、複数のディスクリート部品を組み合わせて構成してもよい。また、入力電圧信号と基準パルスの時比率との関係は、厳密に直線的な関係である必要はなく、力率改善回路が設置される地域や使用条件に鑑みて、曲線的な関係や階段状の関係に定義してもよい。
【0051】
また、補正信号注入回路は、昇圧電圧検出回路や基準電圧源の構成に合わせ、目標値補正信号を注入しやすい回路手段を自由に選択することができる。
【符号の説明】
【0052】
10,60 力率改善回路
14 整流回路
16 昇圧チョッパ回路
22 主スイッチング素子
28 スイッチング制御回路
30 昇圧電圧検出回路
32 エラーアンプ
34 基準電圧源
36,62 目標値補正部
38 過電圧保護回路
40 ダイオード
42 突入電流制限抵抗
44 入力電圧検出回路
46,64 基準パルス発生器
48 平均化回路
50 補正信号注入抵抗
66 補正信号注入バッファ
D 時比率
Ib,Vb 目標値補正信号
Va 昇圧電圧の目標値
Vi 入力電圧
Vi1 入力電圧信号
Vo 昇圧電圧
Vo1 昇圧電圧信号
Vs 整流電圧
V34 基準電圧
V48 平均化電圧
V46,V64 基準パルス


【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流の入力電圧を整流して脈流の整流電圧を出力する整流回路と、
チョークコイル、主スイッチング素子、整流素子及び平滑コンデンサを有し、前記整流電圧を昇圧した昇圧電圧を前記平滑コンデンサ両端に発生させ、負荷に電力供給する昇圧チョッパ回路と、
前記昇圧電圧に相当する昇圧電圧信号を受け、基準電圧と前記昇圧電圧信号との差分を増幅することによって前記昇圧電圧の目標値を決定するエラーアンプと、
前記エラーアンプが出力する誤差増幅信号を受け、前記昇圧電圧が前記目標値になるように前記主スイッチング素子をオン・オフ制御するスイッチング制御部とを備えた力率改善回路において、
前記入力電圧を検出し入力電圧信号を出力する入力電圧検出回路と、
一定周期の矩形波であって、前記入力電圧信号に応じてハイ・レベルとロー・レベルの時比率が定められる基準パルスを出力する基準パルス発生器と、
前記基準パルスの平均化電圧を出力する平均化回路と、
前記平均化電圧に応じた目標値補正信号を前記昇圧電圧信号又は前記基準電圧に注入する補正信号注入回路とで構成された目標値補正部を備え、
前記目標値補正部が出力する前記目標値補正信号によって、
前記入力電圧の高低にかかわらず、前記昇圧電圧が前記整流電圧の波高値よりも高くなるように前記昇圧電圧の目標値が補正されると共に、
前記入力電圧が低いときには前記昇圧電圧が相対的に低くなるように、前記入力電圧が高いときには前記昇圧電圧が相対的に高くなるように、前記昇圧電圧の目標値が補正されることを特徴とする力率改善回路。
【請求項2】
前記目標値補正部は、前記入力電圧が所定電圧以下の範囲で、前記昇圧電圧の目標値が一定になる前記目標値補正信号を出力する請求項1記載の力率改善回路。
【請求項3】
前記基準パルス発生器は、マイクロコンピュータ内に設けられ、前記基準パルスの時比率と前記入力電圧信号との関係を、プログラムの書き換えによって変更できる請求項1又は2記載の力率改善回路。
【請求項4】
前記昇圧電圧が過電圧基準値を超えると前記主スイッチング素子のオン・オフ動作を停止させる過電圧保護回路を備え、
前記エラーアンプは、前記目標値補正信号の有無にかかわらず、前記昇圧電圧が前記過電圧基準値以下になるように前記目標値を決定する請求項1乃至3のいずれか記載の力率改善回路。
【請求項5】
入力電圧投入時に前記整流回路の出力から前記平滑コンデンサに向けて電流を流すダイオード及び突入電流制限抵抗の直列回路を備えた請求項1乃至3のいずれか記載の力率改善回路。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−223819(P2011−223819A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92791(P2010−92791)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000103208)コーセル株式会社 (80)
【Fターム(参考)】