説明

加圧二酸化炭素を用いたVOCの分離回収装置及びその分離回収方法

【課題】本発明は、VOCを分離回収した後の二次的廃棄物の発生を伴わない完全な処理を実現するVOCの分離回収装置およびその分離回収方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 汚染された地下水に含有されたVOCを超臨界二酸化炭素によって抽出する。その後、VOC水溶液−加圧二酸化炭素系における平衡定数を大きく異ならしめた2つの条件下において、二酸化炭素または水を交互に抽出媒体とするVOCの抽出工程を繰りかえす。この工程を繰り返すことによって、上記平衡定数の差に対応したVOCの濃縮が実現され、最終的には、ほぼ100%のVOC相として分離することができるので、吸着剤など追加の構成を用いることなく、低コストでVOCを回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧二酸化炭素を用いたVOCの分離回収装置及びその方法に関し、より詳細には、VOCを濃縮して分離回収する装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、揮発性有機化合物(volatile oganic compounds)による環境汚染が問題となっている。特に、水よりも比重の重い揮発性有機化合物(以下、VOCという)が地盤の奥深くに浸透してしまうことによって生じる地下水汚染の問題は深刻な状況にあり、VOCによって汚染された地下水の浄化システムについて種々検討がなされている。
【0003】
従来、VOCによって汚染された地下水の浄化方法として揚水曝気法がある。揚水曝気法においては、汚染された地下水を揚水したのち空気に強制的に接触させることによって水中に溶解していたVOCを揮散させ、揮散したVOCを活性炭に吸着させることによって回収していた。しかしながら、この方法では結局のところVOCが吸着した膨大な量の活性炭が二次的な廃棄物となるため、その処理の問題が新たに発生する。
【0004】
この点につき、特開2000−140826号公報(特許文献1)は、VOCが吸着した活性炭に対し超臨界もしくは亜臨界二酸化炭素を接触させることによって、活性炭に吸着したVOCを二酸化炭素で抽出したのち、当該二酸化炭素を最終的に減圧、冷却することによってVOCを凝縮させて分離回収する方法を開示する。
【0005】
しかしながら、特許文献1が開示する方法によっては、活性炭の充填層を使用するためにシステムを小型化することができず、また、二酸化炭素を冷却凝縮するために大きなエネルギーが必要となるという問題に加え、システムの連続操作ができないという問題があった。
【特許文献1】特開2000−140826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、VOCを分離回収した後の二次的廃棄物の発生を伴わない完全な処理を実現するVOCの分離回収装置およびその分離回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、地下水等の浄化処理において、二次的廃棄物の発生を伴うことなくVOCを完全に回収処理することのできる装置につき鋭意検討した結果、VOC水溶液−加圧二酸化炭素系における平衡定数が圧力差あるいは温度差によって大きく変化することに着目し、VOC水溶液−加圧二酸化炭素系における平衡定数を大きく異ならしめた2つの条件下において、二酸化炭素または水を交互に抽出媒体とするVOCの抽出工程を繰りかえすことによって、上記平衡定数の差に対応したVOCの濃縮が実現されることを見出し、本発明に至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、揮発性有機化合物を含有する汚染水から該揮発性有機化合物を分離回収する装置であって、水が貯留され、加圧二酸化炭素の導入口と排出口を備える少なくとも4つの圧力容器と、第1の圧力容器の前記排出口と第2の圧力容器の前記導入口との間、第2の圧力容器の前記排出口と第1の圧力容器の前記導入口との間、第3の圧力容器の前記排出口と第4の圧力容器の前記導入口との間、および第4の圧力容器の前記排出口と第3の圧力容器の前記導入口との間に、それぞれ形成された二酸化炭素流路と、前記第2の圧力容器と前記第3の圧力容器との間に、それぞれに貯留された水を循環させるために形成された流水路とを備え、前記第1の圧力容器はさらに、前記汚染水を導入する導水口と浄化水を排出するための排水口を備え、前記第1の圧力容器内の圧力は、前記第2の圧力容器内の圧力よりも高く保持され、前記第3の圧力容器内の圧力は、前記第2の圧力容器内の圧力よりも高く保持され、前記第3の圧力容器内の圧力は、前記第4の圧力容器内の圧力よりも高く保持される、分離回収装置が提供される。
【0009】
また、発明の別の構成によれば、揮発性有機化合物を含有する汚染水から該揮発性有機化合物を分離回収する装置であって、水が貯留され、加圧二酸化炭素の導入口と排出口を備える少なくとも4つの圧力容器と、第1の圧力容器の前記排出口と第2の圧力容器の前記導入口との間、第2の圧力容器の前記排出口と第1の圧力容器の前記導入口との間、第3の圧力容器の前記排出口と第4の圧力容器の前記導入口との間、および第4の圧力容器の前記排出口と第3の圧力容器の前記導入口との間に、それぞれ形成された二酸化炭素流路と、前記第2の圧力容器と前記第3の圧力容器との間に、それぞれに貯留された水を循環させるために形成された第1の流水路および第2の流水路とを備え、前記第1の圧力容器はさらに、前記汚染水を導入する導水口と浄化水を排出するための排水口を備え、前記第1の圧力容器内の温度は、前記第2の圧力容器内の温度よりも高く保持され、前記第3の圧力容器内の温度は、前記第2の圧力容器内の温度よりも高く保持され、前記第3の圧力容器内の温度は、前記第4の圧力容器内の温度よりも高く保持される、分離回収装置が提供される。
【0010】
さらに本発明によれば、揮発性有機化合物の水溶液を濃縮して回収する方法であって、第1の圧力条件下で前記水溶液と第1の加圧二酸化炭素を接触させる工程と、前記第1の圧力よりも低い第2の圧力条件下で前記第1の加圧二酸化炭素と第1の水を接触させる工程と、前記第1の圧力条件下で前記第1の水と第2の加圧二酸化炭素を接触させる工程と、前記第2の圧力条件下で前記第2の加圧二酸化炭素と第2の水を接触させる工程と、を含む方法が提供される。
【0011】
また、本発明の別の構成によれば、揮発性有機化合物の水溶液を濃縮して回収する方法であって、第1の温度条件下で前記水溶液と第1の加圧二酸化炭素を接触させる工程と、前記第1の温度よりも低い第2の温度条件下で前記第1の加圧二酸化炭素と第1の水を接触させる工程と、前記第1の温度条件下で前記第1の水と第2の加圧二酸化炭素を接触させる工程と、前記第2の温度条件下で前記第2の加圧二酸化炭素と第2の水を接触させる工程と、を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
上述したように、本発明によれば、VOCを分離回収した後の二次的廃棄物の発生を伴わない完全な処理を実現するVOCの分離回収装置およびその分離回収方法が提供される。本発明のVOCの分離回収装置は、汚染された地下水からVOCをほぼ100%の液相として分離することができるので、吸着剤など追加の構成を用いることなく、低コストでVOCを回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。図1は、本発明の第1の実施形態である分離回収装置10の概略図を示す。以下、図1を参照して本実施形態の分離回収装置10の物理的構成について説明する。
【0014】
分離回収装置10は、第1の圧力容器12、第2の圧力容器14、第3の圧力容器16、および第4の圧力容器18を含んで構成されている。第1の圧力容器12には水を導入するための導水口20と水を排出するための排水口22が設けられており、それぞれに対し導水管24および排水管26が接続されている。ここで、導水口20側には第1の圧力容器12内に水を圧送するための加圧ポンプ28が設けられる一方、排水口22側には背圧制御弁30が設けられており、第1の圧力容器12内において一定以上の水位を保ちつつ水が貯留されながら、所定の流量をもって水が出入りすることができるように加圧ポンプ28および背圧制御弁30が調整される。
【0015】
さらに、第1の圧力容器12の鉛直方向下方には二酸化炭素を導入するための二酸化炭素導入口32が設けられ、第1の圧力容器12の鉛直方向上方には二酸化炭素を排出するための二酸化炭素排出口34が設けられている。二酸化炭素導入口32から導入された二酸化炭素は、細かい気泡となって水に接触しながら鉛直方向上方に移動したのち、二酸化炭素排出口34から第1の圧力容器12の外部に排出される。なお、本発明においては、VOCの抽出剤として用いる二酸化炭素は、超臨界状態または亜臨界状態にある二酸化炭素を用いることが好ましいが、本発明における二酸化炭素は、これに限定されて定義されるものではなく、液体状態を含めた加圧状態にある二酸化炭素であればよい。
【0016】
第2の圧力容器14は、その内部に所定の水位まで水が貯留されており、また、第1の圧力容器12と同様に、その鉛直方向下方および上方に、それぞれ二酸化炭素導入口36および二酸化炭素排出口38が設けられている。上述した点については、後述する第3の圧力容器16および第4の圧力容器18についても同様である。
【0017】
第1の圧力容器12の二酸化炭素排出口34と第2の圧力容器14の二酸化炭素導入口36とが二酸化炭素流路40によって接続され、第2の圧力容器14の二酸化炭素排出口38と第1の圧力容器12の二酸化炭素導入口32とが二酸化炭素流路42によって接続されている。その結果、図1に示すように、第1の圧力容器12、二酸化炭素流路40、第2の圧力容器14、および二酸化炭素流路42を経て、二酸化炭素が循環することができるように構成されている。ここで、二酸化炭素は、二酸化炭素導入口32側に設けられた加圧ポンプ44によって、第1の圧力容器12に圧送される一方で、第1の圧力容器12の二酸化炭素排出口34側に設けられた背圧制御弁46の作用を経て、第2の圧力容器14の二酸化炭素導入口36から導入される。第2の圧力容器14に導入された二酸化炭素は、細かい気泡となって水に接触しながら第2の圧力容器14内部を鉛直方向上方に移動し、二酸化炭素排出口38から第2の圧力容器14の外部に排出され、再び二酸化炭素流路42を通って第1の圧力容器12に導入される。この際、二酸化炭素は、加圧ポンプによって再び第1の圧力容器12に圧送される。以上説明した加圧ポンプ44および背圧制御弁46の作用によって、第1の圧力容器12内の圧力Xと第2の圧力容器14内の圧力Yに一定の差が生じる。すなわち、第1の圧力容器12内の圧力Xが第2の圧力容器14内の圧力Yよりも一定の差をもって大きくなるように加圧ポンプ44および背圧制御弁46が調整される。
【0018】
一方、第3の圧力容器16の二酸化炭素排出口48と第4の圧力容器18の二酸化炭素導入口50とが二酸化炭素流路52によって、第4の圧力容器18の二酸化炭素排出口54と第3の圧力容器16の二酸化炭素導入口56とが二酸化炭素流路58によってそれぞれ接続されており、第1および第2の圧力容器について上述したのと同様に、加圧ポンプ60および背圧制御弁62の作用によって、第3の圧力容器16内の圧力と第4の圧力容器18内の圧力に一定の差が生じており、第3の圧力容器16内が第1の圧力容器12の圧力と同じ圧力Xに、第4の圧力容器18内が第2の圧力容器14内の圧力と同じ圧力Yとなるように加圧ポンプ60および背圧制御弁62が調整される。
【0019】
さらに、第2の圧力容器14および第3の圧力容器16には、それぞれに導水口および排水口が設けられており、第2の圧力容器14の排水口63と第3の圧力容器16の導水口64が流水管65によって接続され、第2の圧力容器14の導水口66と第3の圧力容器16の排水口67が流水管68によって接続されている。
【0020】
ここで、流水管62には第2の圧力容器14から第3の圧力容器16に水を圧送するための加圧ポンプ70が設けられる一方、流水管68には背圧制御弁72が設けられており、第2の圧力容器14内および第3の圧力容器16のそれぞれにおいて一定以上の水位を保ちつつ、第2の圧力容器14、流水管65、第3の圧力容器16、および流水管68を経て、水が循環することができるように加圧ポンプ70および背圧制御弁72が調整される。
【0021】
以上、本実施形態の分離回収装置10の物理的構成について説明してきたが、再び図1を参照しながら分離回収装置10によって、汚染水から二酸化炭素を用いてVOCを抽出し、その後、二酸化炭素中のVOCを段階的に濃縮する機構について以下説明する。
【0022】
最初に、たとえばVOCによって汚染された地下水などの被処理水が導水管24から加圧ポンプ28を経て第1の圧力容器12内に圧送され、第1の圧力容器12内に一定以上の水位をもって被処理水が貯留される。第1の圧力容器12には二酸化炭素導入口32から二酸化炭素が導入される。このとき、上述したように第1の圧力容器12内の圧力は圧力Xに保たれている。ここで、本発明者らは、下記式(1)に示すK−値が、圧力の増加あるいは温度の増加に対応して大きくなり、その増分には有意な差があるという知見を得た。
【0023】
【数1】

【0024】
図2は、代表的なVOCの例であるトリクロロエチレンにおける圧力(MPa)とK−値の関係を示す図である。図2(a)は、二酸化炭素の臨界温度である32℃未満の温度条件(20℃、25℃、30℃)における関係を示し、図2(b)は、二酸化炭素の臨界温度である32℃超の温度条件(35℃、40℃)における関係を示す。なお、図2(a)および(b)においては、●、■、◆は、それぞれの温度における実際の測定値をプロットしたものであり、実線は、理論値を示すものとする。図2(a)を参照すると、25℃等温で、圧力を4.5MPaから8MPaに変化させることによって、K−値を「6」から「100」に、10倍以上大きく変化させることができることが理解されよう。この圧力とK−値の関係は、図2(b)に示されるように、32℃超の超臨界状態においてよりリニアになる。
【0025】
すなわち、圧力Xは、第1の圧力容器12内の気相(二酸化炭素)および液相(水)の二相において、上述したK−値が十分に大きくなるような値に設定されるため、圧力Xに保たれた第1の圧力容器12内に導入された二酸化炭素が被処理水に接触すると、被処理水に溶解していたVOCが二酸化炭素に抽出されることになる。このようにしてVOCを抽出した二酸化炭素は、その後、第1の圧力容器12内部を鉛直方向上方に移動したのち、二酸化炭素排出口34から二酸化炭素流路40を経て、第2の圧力容器14内に貯留された水に導入される。
【0026】
ここで、第2の圧力容器14内の圧力Yは、上述したように、背圧制御弁46の作用によって第1の圧力容器12内の圧力Xよりも一定の差で小さくなるように調整されている。すなわち、圧力Yは、第2の圧力容器14内の気相(二酸化炭素)および液相(水)の二相において、上述したK−値が十分に小さくなるような値に設定されるため、圧力Yに保たれた第2の圧力容器14内に導入された二酸化炭素が水に接触すると、二酸化炭素に溶解していたVOCが今度は水のほうに抽出されることになる。このようにして第1の圧力容器12内で二酸化炭素によって抽出されたVOCは、二酸化炭素流路40を通って第2の圧力容器14に移動し、第2の圧力容器14内の水に対して溶解する。
【0027】
次に、第2の圧力容器14内のVOC溶液は、加圧ポンプ70および背圧制御弁72の作用によって第2の圧力容器14と第3の圧力容器16の間を、流水管62および流水管68を経て循環する。ここで、第3の圧力容器16内の圧力は、上述したように加圧ポンプ60および背圧制御弁62の作用によって、第1の圧力容器12の圧力と同じ圧力Xに保たれているため、第3の圧力容器16内の気相(二酸化炭素)および液相(水)の二相においてK−値が十分に大きくなっており、その結果、第3の圧力容器16内においては、溶液中のVOCが二酸化炭素導入口56から供給される二酸化炭素によって抽出される。このようにしてVOCを抽出した二酸化炭素は、二酸化炭素排出口48から二酸化炭素流路52を経て、第4の圧力容器18内に貯留された水に導入される。
【0028】
ここで、第4の圧力容器18内の圧力Yは、上述したように、加圧ポンプ60および背圧制御弁62の作用によって第3の圧力容器16内の圧力Xよりも一定の差で小さくなるように調整されている。すなわち、圧力Yは、第4の圧力容器18内の気相(二酸化炭素)および液相(水)の二相において、上述したK−値が十分に小さくなるような値に設定され、圧力Yに保たれた第4の圧力容器18内に導入された二酸化炭素が水に接触すると、二酸化炭素に溶解していたVOCが今度は水のほうに抽出されることになる。このようにして第3の圧力容器16内で二酸化炭素によって抽出されたVOCは、二酸化炭素流路52を通って第4の圧力容器18に移動し、第4の圧力容器18内の水に対して飽和するまで溶解する。
【0029】
ここで仮に、第1の圧力容器12におけるK−値(あるいは第3の圧力容器16におけるK−値)が第2の圧力容器14におけるK−値(あるいは第4の圧力容器18におけるK−値)の10倍となるように圧力Xおよび圧力Yの値を設定した場合、第4の圧力容器18内のVOC溶液の濃度は、第2の圧力容器14および第3の圧力容器16内を循環しているVOC溶液の濃度に比較して10倍に濃縮されることになる。濃縮されたVOC溶液は、排水管74によって排出され適宜処理される。
【0030】
なお、本実施形態においては、便宜上、本発明の基本構成をもって説明したが、本発明において、たとえば、上述した第4の圧力容器18を圧力Xに保持された第5の圧力容器と接続し、さらに当該第5の圧力容器を圧力Yに保持された第6の圧力容器と接続するといった具合に本実施形態の基本構成を段階的に繰り返して展開することができることは容易に理解されよう。この方法による抽出工程をn段階繰り返すことによって、VOC溶液が10倍に濃縮され、VOC溶液の濃度はVOC−水の液液平衡濃度に達する。最終的には、ほぼ100%のVOC相としてこれを回収することが可能となる。
【0031】
以上、本発明を第1の実施形態をもって説明してきたが、本発明は、上述した圧力容器間に圧力差を設けてVOCを濃縮する構成に限定されるものではない。既述したように、K−値は、圧力の増加に対応して大きくなる傾向にあると同時に、温度の増加にも対応して大きくなる。再び図2(a)を参照すると、圧力を4.5MPaに保持した場合、温度を25℃(■)から30℃(●)に変化させることによって、K−値を「3」から「30」に、10倍以上大きく変化させることができることが理解されよう。本発明は、この点に着目し、圧力容器間に温度差を設けてVOCを濃縮する構成を採用するものである。以下、本発明の第2の実施形態について、図3を参照して説明する。
【0032】
図3は、本発明の第2の実施形態である分離回収装置80の概略図を示す。なお、図3において、先に説明した第1の実施形態である分離回収装置10と共通する構成要素については同じ符号を用い、その説明を省略するものとする。
【0033】
本実施形態の分離回収装置80において、先に説明した分離回収装置10と異なる点は、第1の圧力容器12、第2の圧力容器14、第3の圧力容器16、および第4の圧力容器18がほぼ同じ圧力に保たれることである。したがって、分離回収装置80においては、圧力差を生じさせるための加圧ポンプは必要なく、水あるいは二酸化炭素を循環させる仕事をすることができる機構があれば足りる。よって分離回収装置80においては、加圧ポンプのかわりに循環ポンプ82、84、86、88、90、92が設けられている。
【0034】
さらに、分離回収装置80においては、第1の圧力容器12と第2の圧力容器14の間、および、第3の圧力容器16と第4の圧力容器18の間に温度差を生じさせるための構成をさらに含む。すなわち、分離回収装置80における水および二酸化炭素の流路には適宜熱交換機が設けられ、当該熱交換機によって上述した温度差を実現する。具体的には、第1の圧力容器12に導入される水および二酸化炭素は、それぞれ加熱用の熱交換機100および102によって加熱され所定の温度Hに保持され、その結果、第1の圧力容器12内の温度が温度Hに保持される。同じく、第3の圧力容器16に導入される水および二酸化炭素は、それぞれ加熱用の熱交換機104および106によって加熱され、その結果、第3の圧力容器16内の温度が温度Hに保持される。一方、第2の圧力容器14に導入される水および二酸化炭素は、それぞれ冷却用の熱交換機108および110によって冷却され所定の温度Cに保持され、その結果、第2の圧力容器14内の温度が温度Cに保持される。同じく、第4の圧力容器に導入される二酸化炭素は、冷却用の熱交換機112によって冷却され所定の温度Cに保持され、その結果、第4の圧力容器18内の温度が温度Cに保持される。ここで仮に、第1の圧力容器12におけるK−値(あるいは第3の圧力容器16におけるK−値)が第2の圧力容器14におけるK−値(あるいは第4の圧力容器18におけるK−値)の10倍となるように温度Hおよび温度Cを設定した場合、第4の圧力容器18内のVOC溶液の濃度は、第2の圧力容器14および第3の圧力容器16を循環しているVOC溶液の濃度に比較して10倍に濃縮されることになる。
【0035】
本発明をより具体的に説明するために、VOCとして代表的なトリクロロエチレンの分離回収工程について図4を参照して説明する。図4は、地下水からトリクロロエチレンを分離回収する浄化装置をシミュレーションした図である。図4に示した浄化装置は、符号(1)〜(12)で示す12個の圧力容器を含んで構成されており、すべての圧力容器の温度は25℃に保たれ、さらに、奇数の符号(1)、(3)、(5)、(7)、(9)、(11)が示す圧力容器の圧力は8Mpa、偶数の符号(2)、(4)、(6)、(8)、(10)が示す圧力容器の圧力は5Mpaに保たれているとする。
【0036】
上述した条件の浄化装置に対して、トリクロロエチレン濃度が0.5ppmの地下水(原水)が導入される。圧力容器(1)に導入された原水は、二酸化炭素によって処理されたのち環境基準の0.03ppmまで浄化され圧力容器(1)から排出される場合を想定する。ここで、再び図2を参照すると、上述した温度・圧力条件においては、奇数の符号(1)、(3)、(5)、(7)、(9)、(11)が示す圧力容器におけるK−値をほぼ「100」に、偶数の符号(2)、(4)、(6)、(8)、(10)が示す圧力容器におけるK−値をほぼ「10」に保つことができることが」理解されよう。ここで、圧力容器(1)に導入される二酸化炭素空塔速度を1cm/sとする。圧力容器(1)に流入する加圧二酸化炭素中のトリクロロエチレン(TCE)のモル分率を4.11×10-7以下に保つ必要があるが,そのためには圧力容器(2)および(3)を循環する水中のTCEのモル分率を4.11×10-8以下に保つ必要がある(圧力容器(2)でのK-値は10である)。圧力容器(3)の圧力は8Mpaに保たれK-値は100であるので圧力容器(3)出口の加圧二酸化炭素中のTCEのモル分率は4.11×10-6達することができる。この加圧二酸化炭素を圧力が5MPaの圧力容器(4)に導き加圧二酸化炭素中のTCEを水中に移動させる。圧力容器(4)の水中のTCEのモル分率は4.11×10-7に達する。この操作1回繰り返すごとに液相中のTCE濃度は奇数符号の圧力容器と偶数符号の圧力容器のK-値の比(この例の場合は100/10=10)で濃縮される。上述した操作を6回繰り返すと水中のTCE濃度は10倍濃縮されてTCEの水に対する飽和濃度に達して100%TCE(少量の水を含む)を地下水中から取り出すことが出来る。仮に、奇数符号の圧力容器と偶数符号の圧力容器のK-値の比が100になる条件を見つけることが出来れば、この操作の繰り返し工程は3回に半減し、プラント大きさを1/2にすることが出来る。なお、上述したシミュレーションは、本発明の圧力差を用いた機構に基づいて展開したが、本発明の別の構成である温度差を用いた機構によっても同様の結果が得られることは容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施形態である分離回収装置10の概略図。
【図2】トリクロロエチレンにおける圧力(MPa)とK−値の関係を示す図。
【図3】本発明の第2の実施形態である分離回収装置80の概略図。
【図4】地下水からトリクロロエチレンを分離回収する浄化装置のシミュレーションを示した図。
【符号の説明】
【0038】
10…分離回収装置、12…第1の圧力容器、14…第2の圧力容器、16…第3の圧力容器、18…第4の圧力容器、20,64,66…導水口、22,63,67…排水口、24…導水管、26,74…排水管、28,44,60,70…加圧ポンプ、30,46, 62,72…背圧制御弁、32,36,50,56…二酸化炭素導入口、34,38,48,54…二酸化炭素排出口、40,42,52,58…二酸化炭素流路、65,68…流水管、80…分離回収装置、82,84,86,88,90,92…循環ポンプ、100,102,104,106…加熱用の熱交換機、108,110,108,110,112…冷却用の熱交換機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物を含有する汚染水から該揮発性有機化合物を分離回収する装置であって、
水が貯留され、加圧二酸化炭素の導入口と排出口を備える少なくとも4つの圧力容器と、
第1の圧力容器の前記排出口と第2の圧力容器の前記導入口との間、第2の圧力容器の前記排出口と第1の圧力容器の前記導入口との間、第3の圧力容器の前記排出口と第4の圧力容器の前記導入口との間、および第4の圧力容器の前記排出口と第3の圧力容器の前記導入口との間に、それぞれ形成された二酸化炭素流路と、
前記第2の圧力容器と前記第3の圧力容器との間に、それぞれに貯留された水を循環させるために形成された流水路とを備え、
前記第1の圧力容器はさらに、前記汚染水を導入する導水口と浄化水を排出するための排水口を備え、
前記第1の圧力容器内の圧力は、前記第2の圧力容器内の圧力よりも高く保持され、前記第3の圧力容器内の圧力は、前記第2の圧力容器内の圧力よりも高く保持され、前記第3の圧力容器内の圧力は、前記第4の圧力容器内の圧力よりも高く保持される、
分離回収装置。
【請求項2】
揮発性有機化合物を含有する汚染水から該揮発性有機化合物を分離回収する装置であって、
水が貯留され、加圧二酸化炭素の導入口と排出口を備える少なくとも4つの圧力容器と、
第1の圧力容器の前記排出口と第2の圧力容器の前記導入口との間、第2の圧力容器の前記排出口と第1の圧力容器の前記導入口との間、第3の圧力容器の前記排出口と第4の圧力容器の前記導入口との間、および第4の圧力容器の前記排出口と第3の圧力容器の前記導入口との間に、それぞれ形成された二酸化炭素流路と、
前記第2の圧力容器と前記第3の圧力容器との間に、それぞれに貯留された水を循環させるために形成された第1の流水路および第2の流水路とを備え、
前記第1の圧力容器はさらに、前記汚染水を導入する導水口と浄化水を排出するための排水口を備え、
前記第1の圧力容器内の温度は、前記第2の圧力容器内の温度よりも高く保持され、前記第3の圧力容器内の温度は、前記第2の圧力容器内の温度よりも高く保持され、前記第3の圧力容器内の温度は、前記第4の圧力容器内の温度よりも高く保持される、
分離回収装置。
【請求項3】
揮発性有機化合物の水溶液を濃縮して回収する方法であって、
第1の圧力条件下で前記水溶液と第1の加圧二酸化炭素を接触させる工程と、
前記第1の圧力よりも低い第2の圧力条件下で前記第1の加圧二酸化炭素と第1の水を接触させる工程と、
前記第1の圧力条件下で前記第1の水と第2の加圧二酸化炭素を接触させる工程と、
前記第2の圧力条件下で前記第2の加圧二酸化炭素と第2の水を接触させる工程と、
を含む方法。
【請求項4】
揮発性有機化合物の水溶液を濃縮して回収する方法であって、
第1の温度条件下で前記水溶液と第1の加圧二酸化炭素を接触させる工程と、
前記第1の温度よりも低い第2の温度条件下で前記第1の加圧二酸化炭素と第1の水を接触させる工程と、
前記第1の温度条件下で前記第1の水と第2の加圧二酸化炭素を接触させる工程と、
前記第2の温度条件下で前記第2の加圧二酸化炭素と第2の水を接触させる工程と、
を含む方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−296179(P2008−296179A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147360(P2007−147360)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【出願人】(505165251)学校法人幾徳学園神奈川工科大学 (14)
【Fターム(参考)】