加工食品の製造方法
【課題】
これまで、鯛等の魚の鰭のほとんどは廃棄されており、十分に有効活用されていなかった。そこで、本発明は、良質の旨味成分が含まれる魚の鰭を利用した加工食品の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明における加工食品の製造方法は、以下の(a)〜(c)の工程を含む。(a)は魚から鰭を分離して取得する分離工程であり、(b)は(a)で得られた鰭を乾燥する乾燥工程であり、(c)は(b)で得られた鰭を熱処理する熱処理工程である。
これまで、鯛等の魚の鰭のほとんどは廃棄されており、十分に有効活用されていなかった。そこで、本発明は、良質の旨味成分が含まれる魚の鰭を利用した加工食品の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明における加工食品の製造方法は、以下の(a)〜(c)の工程を含む。(a)は魚から鰭を分離して取得する分離工程であり、(b)は(a)で得られた鰭を乾燥する乾燥工程であり、(c)は(b)で得られた鰭を熱処理する熱処理工程である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚の鰭を用いた加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、魚を用いた加工食品が多く存在する。特に、魚の骨や鱗、内臓等の不可食部を有効に利用した加工食品の製造技術の開発が行われてきた。例えば、魚の鱗由来のコラーゲンペプチドを製造する方法(特許文献1参照)、魚の内臓からリン脂質を抽出する方法(特許文献2又は3参照)、骨付きの鯛の骨を食用に供する方法(特許文献4参照)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−206470号公報
【特許文献2】特開2006−096674号公報
【特許文献3】特開2004−002663号公報
【特許文献4】特開2006−288376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、タイ等の魚の鰭(ヒレ)は、そのほとんどが廃棄されているのが現状で、十分に有効活用されていなかった。しかし、魚の鰭には良質の旨味成分が含まれているため、これを利用した保存性や利便性の高い食品が求められていた。本発明の目的は、これらの課題を解決する加工食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の加工食品の製造方法は、以下の(a)〜(c)の工程を含む。(a)は魚から鰭を分離して取得する分離工程であり、(b)は(a)で得られた鰭を乾燥する乾燥工程であり、(c)は(b)で得られた鰭を熱処理する熱処理工程である。
【0006】
また、本発明の別の態様では、上述の工程に加えさらに以下の(x)の工程を含む加工食品の製造方法であってもよい。(x)は、鰭を、鰭表面に対し水平方向に切断する切断工程である。本工程により鰭の厚みを薄く加工することで、加工食品からの旨味成分の放出が効率よく行われる。また、本工程により鰭内部を露出することで、鰭内部の露出面が含有する旨味成分が放出される。
【0007】
また、乾燥工程(b)は、風乾を用いる乾燥工程であってもよい。風乾を用いることで、鰭が含有する旨味成分を損なうことなく鰭を乾燥することができる。
【0008】
また、熱処理工程(c)は、遠赤外線を用いて熱処理する熱処理工程であってもよい。遠赤外線により鰭の内部から加熱することができるため、旨味成分が鰭内部に凝縮される。また、熱処理工程(c)が、直火を用いて熱処理する熱処理工程であってもよい。鰭表面を直火で加熱することで旨味成分を閉じ込めることができる。さらに、遠赤外線による熱処理と直火による熱処理とを組み合わせてもよい。
【0009】
さらに、本発明の別の態様では、上述の工程に加えさらに以下の(d)〜(e)の工程を含む加工食品の製造方法である。(d)は、熱処理工程(c)で熱処理された鰭を包装材に封入する封入工程である。(e)は、封入工程(d)で鰭を封入した包装材の内部を脱気する脱気工程である。これらの工程により、本発明で製造される加工食品の長期保存が可能となる。
【0010】
また、封入工程(d)は、脱酸素剤を鰭と共に封入する封入工程であってもよい。脱酸素剤が包装材に封入された酸素を吸収するため、加工食品の劣化を防ぎ、さらなる長期保存が可能となる。
【0011】
また、封入工程(d)が、複数の鰭を包装材に封入する封入工程であってもよい。複数の鰭を封入した後に脱気工程(e)を行うことで、運搬中等に鰭同士がこすれあうことで生じる表面の損傷を防ぐことができる。
【0012】
さらに、本発明の別の態様では、鰭を取得する魚はタイである。これまでタイの鰭は廃棄されるものがほとんどで、有効活用されてこなかった。本発明によってタイの鰭を有効利用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、これまで十分に有効活用されてこなかった魚の鰭を加工して食品を製造する方法を提供する。本発明の方法により製造された加工食品には、アミノ酸や核酸等の魚の旨味成分が凝縮されており、該加工食品を熱水等に浸すことで旨味成分が放出される。したがって、本発明により製造された加工食品を用いて、吸い物や鍋、釜飯等の料理に用いる出汁や、鰭酒等を容易に作製することができる。また、魚の鰭は旨味成分に加えてタウリン等の健康増進成分を含むため、本発明の方法により製造された加工食品は消費者の健康に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。
【0016】
本発明は、魚の鰭を有効利用した加工食品の製造方法である。本発明に用いられる魚としては、タイ、マグロ、ブリ(ハマチ)、カンパチ、ヒラメ、カレイ、カワハギ、フグ等の食用の魚が挙げられるが、タイ(鯛)が好ましい。タイ(鯛)とは、主にスズキ目スズキ亜目タイ科に属する生物をいうが、それ以外の目又は科に分類される魚であって一般的にタイ(鯛)と呼称されるものも含む。なかでも、マダイ(真鯛、学名:Pagrus major)を用いることが好ましい。マダイは古くから食用として消費者に好まれており、養殖で大量に生産されている。また、マダイの可食部は切り身等の食品に加工されるが、現状では鰭のほとんどが廃棄されており、本発明を用いることで有効に利用することができる。
【0017】
また、従来から、マダイから得られる出汁(ダシ)は高級品として多くの料理に利用されてきた。本発明によれば、これまで廃棄されてきたマダイの鰭を用いて製造された加工食品から、容易且つ安価にマダイの出汁を得ることができる。
【0018】
本発明に用いられる鰭(ヒレ)は、魚が水中を移動する際に用いられる部位である。鰭は、その場所により胸鰭、背鰭、腹鰭、臀鰭、尾鰭等に分類される。本発明においては、尾鰭を用いることが好ましい。尾鰭は、他の鰭に比べて表面積が大きいため、旨味成分を容易に得ることができるためである。
【0019】
次に、本発明の方法に含まれる工程について説明する。本発明の一例では、本発明の方法は、分離工程(a)、乾燥工程(b)及び熱処理工程(c)を含む。
【0020】
分離工程(a)とは、魚から鰭を分離して鰭を取得する工程である。魚の肉部はタンパク質を豊富に含むが、タンパク質は変性し易く長期保存が難しい。したがって、該部を加工食品に含めないことで、加工食品の保存性を高めることができる。また、魚から鰭を分離する手段は特に限定されないが、ハサミや包丁、ナイフ等の刃物を用いることが好ましい。
【0021】
乾燥工程(b)とは、分離工程(a)で得られた鰭を乾燥することにより、鰭に含まれる水分を除去する工程である。鰭を乾燥する時間は限定されないが、1時間〜48時間が好ましい。
【0022】
乾燥する手段は特に限定されないが、天日干しや日陰干し、風乾等を用いることができる。なかでも風乾を用いることが好ましい。風乾により、鰭が含有する旨味成分を損なうことなく鰭を乾燥することができる。また、乾燥の温度は限定されないが、5℃〜35℃で乾燥することが好ましく、室温で乾燥することがさらに好ましい。乾燥の温度が高過ぎる場合には、鰭の旨味を損ねる場合があり、温度が低すぎる場合には、水分の除去が十分でない場合があるためである。
【0023】
熱処理工程(c)とは、乾燥工程(b)で得られた鰭を熱処理する工程である。鰭に含まれる旨味成分を凝縮して鰭の中に閉じ込め、さらに得られた加工食品が旨味成分を放出し易くなる。熱処理の時間は特に限定されないが、10分〜1時間が好ましい。
【0024】
熱処理の手段は特に限定されないが、遠赤外線や直火等の手段を用いることが好ましい。熱処理工程(c)が、遠赤外線を用いて熱処理する熱処理工程であった場合は、鰭の内部から加熱することができるため、旨味成分を鰭内部に効率的に凝縮することができる。また、熱処理工程(c)が、ガスバーナ等の直火を用いて熱処理する熱処理工程であった場合は、鰭表面の表面を炭化させることで旨味成分を閉じ込めることができる。遠赤外線による熱処理と、直火による熱処理とを両方行うことが好ましく、遠赤外線による熱処理の後に直火による熱処理を行うことがさらに好ましい。遠赤外線により凝縮された旨味成分を、直火によって閉じ込めることができるためである。
【0025】
また、本発明の一例では、上記の工程に加えて封入工程(d)及び脱気工程(e)を含む。
【0026】
封入工程(d)は、熱処理した鰭を包装材に封入する工程である。包装材は、ポリアミド、ポリビニルアルコール、エチレン―ビニルアルコール共重合体等、酸素が透過しにくい材質からなるものを用いることが好ましい。本発明により製造される加工食品の劣化を防ぎ、長期間の保存が可能となるためである。
【0027】
また、封入工程(d)では、1枚の鰭を1つの包装材に封入してもよく、複数の鰭を1つの包装材に封入してもよい。封入工程(d)で複数の鰭を封入した場合には、脱気工程(e)を行うことで、運搬中等に鰭同士がこすれあうことで生じる表面の損傷を防ぐことができる。
【0028】
また、包装材には、鰭と共に脱酸素剤を封入することが好ましい。脱酸素剤が、包装材に含まれる酸素を吸収し、好気性微生物や昆虫の増殖や加工食品の酸化を防ぐためである。脱酸素剤としては、鉄や有機物の酸化反応を利用したもの等を用いることができる。
【0029】
脱気工程(e)は、(c)で封入した包装材の内部を脱気する工程である。鰭に触れる酸素量を低減することで、劣化を防ぐことができる。本工程では、ポンプにより包装材内の空気を吸引する方法等を用いることができる。
【0030】
さらに、本発明の一例では、切断工程(x)を含む。切断工程(x)とは、鰭を、鰭表面に対し水平方向に切断する工程である。切断工程(x)は、鰭の厚み方向の中間部分を表面に沿って薄切りする工程や、鰭をスライスする工程を含む。
【0031】
切断工程(x)により鰭の厚みを薄くすることがでるため、旨味成分の放出を効率よく行うことができる。また、切断工程(x)により鰭内部を露出することができるため、鰭内部の露出面から旨味成分が放出される。
【0032】
また、切断工程(x)は、分離工程(a)により鰭を取得した後であれば上記いずれの工程の後に行ってもよいが、分離工程(a)に続けて行うことが好ましい。鰭を薄く切断することで、乾燥工程(b)や熱処理工程(c)に要する時間を短縮し、製造を効率化することができるためである。
【0033】
本発明に用いる鰭は尾鰭であることが好ましい。マダイ等の尾鰭は2対の鰭が重なって構成されているため、容易に切断することができるためである。
【実施例】
【0034】
本発明を、実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
包丁を用いてマダイの尾部から尾鰭を切除して分離した。その際、尾鰭に付着した魚肉は取り除いた[(a)分離工程]。得られた尾鰭を、鰭表面に対して水平方向に2つに切断した[(x)切断工程]。さらに、切断した尾鰭を、冷風乾燥機(三菱電機株式会社製)を用いて25℃・18時間風乾した[(b)乾燥工程]。その後、冷蔵にて放置した。
【0036】
得られた尾鰭を、遠赤外線装置で20分間遠赤外線を照射して熱処理を行った[(c)熱処理工程1]。続いて、ガスバーナの直火を用いて尾鰭表面を焼成し[(c)熱処理工程2]、室温で冷却した。さらに、上記の方法で得られた2個の尾鰭を、脱酸素剤(三菱ガス化学株式会社製)と共に包装材に封入し[(d)封入工程]、脱気装置を用いて脱気した[(e)脱気工程]。以上の工程により加工食品が製造された。
【0037】
旨味成分の測定
本発明の方法により製造された加工食品が放出する旨味成分を測定した。用いた加工食品は、実施例1に記載の方法で製造した加工食品(実施例1)、直火で焼いた鯛の鰭(比較例1)、及び天日で干した鯛の鰭(比較例2)である。
【0038】
実施例及び比較例を沸騰水に5分間浸し、沸騰水中に放出されるタウリン濃度をHPLC法により分析した。タウリンはアミノ酸の一種であり、旨味成分として知られている。また、タウリンは肝機能向上等の健康増進効果をも有する。得られた沸騰水をトリクロロ酢酸で処理してタンパク質を沈殿させて精製しサンプルを得た。サンプルを、公知の4℃のインキュベータから35℃に維持したカラムに160分間流し、遊離タウリン量を測定した。
【0039】
結果を表1に示す。実施例1で製造された加工食品は、比較例に比べて約2倍のタウリンを放出することが確認された。したがって、本発明によれば、有効な成分を多く放出する加工食品を製造することが可能であると考えられる。
【0040】
【表1】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚の鰭を用いた加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、魚を用いた加工食品が多く存在する。特に、魚の骨や鱗、内臓等の不可食部を有効に利用した加工食品の製造技術の開発が行われてきた。例えば、魚の鱗由来のコラーゲンペプチドを製造する方法(特許文献1参照)、魚の内臓からリン脂質を抽出する方法(特許文献2又は3参照)、骨付きの鯛の骨を食用に供する方法(特許文献4参照)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−206470号公報
【特許文献2】特開2006−096674号公報
【特許文献3】特開2004−002663号公報
【特許文献4】特開2006−288376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、タイ等の魚の鰭(ヒレ)は、そのほとんどが廃棄されているのが現状で、十分に有効活用されていなかった。しかし、魚の鰭には良質の旨味成分が含まれているため、これを利用した保存性や利便性の高い食品が求められていた。本発明の目的は、これらの課題を解決する加工食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の加工食品の製造方法は、以下の(a)〜(c)の工程を含む。(a)は魚から鰭を分離して取得する分離工程であり、(b)は(a)で得られた鰭を乾燥する乾燥工程であり、(c)は(b)で得られた鰭を熱処理する熱処理工程である。
【0006】
また、本発明の別の態様では、上述の工程に加えさらに以下の(x)の工程を含む加工食品の製造方法であってもよい。(x)は、鰭を、鰭表面に対し水平方向に切断する切断工程である。本工程により鰭の厚みを薄く加工することで、加工食品からの旨味成分の放出が効率よく行われる。また、本工程により鰭内部を露出することで、鰭内部の露出面が含有する旨味成分が放出される。
【0007】
また、乾燥工程(b)は、風乾を用いる乾燥工程であってもよい。風乾を用いることで、鰭が含有する旨味成分を損なうことなく鰭を乾燥することができる。
【0008】
また、熱処理工程(c)は、遠赤外線を用いて熱処理する熱処理工程であってもよい。遠赤外線により鰭の内部から加熱することができるため、旨味成分が鰭内部に凝縮される。また、熱処理工程(c)が、直火を用いて熱処理する熱処理工程であってもよい。鰭表面を直火で加熱することで旨味成分を閉じ込めることができる。さらに、遠赤外線による熱処理と直火による熱処理とを組み合わせてもよい。
【0009】
さらに、本発明の別の態様では、上述の工程に加えさらに以下の(d)〜(e)の工程を含む加工食品の製造方法である。(d)は、熱処理工程(c)で熱処理された鰭を包装材に封入する封入工程である。(e)は、封入工程(d)で鰭を封入した包装材の内部を脱気する脱気工程である。これらの工程により、本発明で製造される加工食品の長期保存が可能となる。
【0010】
また、封入工程(d)は、脱酸素剤を鰭と共に封入する封入工程であってもよい。脱酸素剤が包装材に封入された酸素を吸収するため、加工食品の劣化を防ぎ、さらなる長期保存が可能となる。
【0011】
また、封入工程(d)が、複数の鰭を包装材に封入する封入工程であってもよい。複数の鰭を封入した後に脱気工程(e)を行うことで、運搬中等に鰭同士がこすれあうことで生じる表面の損傷を防ぐことができる。
【0012】
さらに、本発明の別の態様では、鰭を取得する魚はタイである。これまでタイの鰭は廃棄されるものがほとんどで、有効活用されてこなかった。本発明によってタイの鰭を有効利用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、これまで十分に有効活用されてこなかった魚の鰭を加工して食品を製造する方法を提供する。本発明の方法により製造された加工食品には、アミノ酸や核酸等の魚の旨味成分が凝縮されており、該加工食品を熱水等に浸すことで旨味成分が放出される。したがって、本発明により製造された加工食品を用いて、吸い物や鍋、釜飯等の料理に用いる出汁や、鰭酒等を容易に作製することができる。また、魚の鰭は旨味成分に加えてタウリン等の健康増進成分を含むため、本発明の方法により製造された加工食品は消費者の健康に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。
【0016】
本発明は、魚の鰭を有効利用した加工食品の製造方法である。本発明に用いられる魚としては、タイ、マグロ、ブリ(ハマチ)、カンパチ、ヒラメ、カレイ、カワハギ、フグ等の食用の魚が挙げられるが、タイ(鯛)が好ましい。タイ(鯛)とは、主にスズキ目スズキ亜目タイ科に属する生物をいうが、それ以外の目又は科に分類される魚であって一般的にタイ(鯛)と呼称されるものも含む。なかでも、マダイ(真鯛、学名:Pagrus major)を用いることが好ましい。マダイは古くから食用として消費者に好まれており、養殖で大量に生産されている。また、マダイの可食部は切り身等の食品に加工されるが、現状では鰭のほとんどが廃棄されており、本発明を用いることで有効に利用することができる。
【0017】
また、従来から、マダイから得られる出汁(ダシ)は高級品として多くの料理に利用されてきた。本発明によれば、これまで廃棄されてきたマダイの鰭を用いて製造された加工食品から、容易且つ安価にマダイの出汁を得ることができる。
【0018】
本発明に用いられる鰭(ヒレ)は、魚が水中を移動する際に用いられる部位である。鰭は、その場所により胸鰭、背鰭、腹鰭、臀鰭、尾鰭等に分類される。本発明においては、尾鰭を用いることが好ましい。尾鰭は、他の鰭に比べて表面積が大きいため、旨味成分を容易に得ることができるためである。
【0019】
次に、本発明の方法に含まれる工程について説明する。本発明の一例では、本発明の方法は、分離工程(a)、乾燥工程(b)及び熱処理工程(c)を含む。
【0020】
分離工程(a)とは、魚から鰭を分離して鰭を取得する工程である。魚の肉部はタンパク質を豊富に含むが、タンパク質は変性し易く長期保存が難しい。したがって、該部を加工食品に含めないことで、加工食品の保存性を高めることができる。また、魚から鰭を分離する手段は特に限定されないが、ハサミや包丁、ナイフ等の刃物を用いることが好ましい。
【0021】
乾燥工程(b)とは、分離工程(a)で得られた鰭を乾燥することにより、鰭に含まれる水分を除去する工程である。鰭を乾燥する時間は限定されないが、1時間〜48時間が好ましい。
【0022】
乾燥する手段は特に限定されないが、天日干しや日陰干し、風乾等を用いることができる。なかでも風乾を用いることが好ましい。風乾により、鰭が含有する旨味成分を損なうことなく鰭を乾燥することができる。また、乾燥の温度は限定されないが、5℃〜35℃で乾燥することが好ましく、室温で乾燥することがさらに好ましい。乾燥の温度が高過ぎる場合には、鰭の旨味を損ねる場合があり、温度が低すぎる場合には、水分の除去が十分でない場合があるためである。
【0023】
熱処理工程(c)とは、乾燥工程(b)で得られた鰭を熱処理する工程である。鰭に含まれる旨味成分を凝縮して鰭の中に閉じ込め、さらに得られた加工食品が旨味成分を放出し易くなる。熱処理の時間は特に限定されないが、10分〜1時間が好ましい。
【0024】
熱処理の手段は特に限定されないが、遠赤外線や直火等の手段を用いることが好ましい。熱処理工程(c)が、遠赤外線を用いて熱処理する熱処理工程であった場合は、鰭の内部から加熱することができるため、旨味成分を鰭内部に効率的に凝縮することができる。また、熱処理工程(c)が、ガスバーナ等の直火を用いて熱処理する熱処理工程であった場合は、鰭表面の表面を炭化させることで旨味成分を閉じ込めることができる。遠赤外線による熱処理と、直火による熱処理とを両方行うことが好ましく、遠赤外線による熱処理の後に直火による熱処理を行うことがさらに好ましい。遠赤外線により凝縮された旨味成分を、直火によって閉じ込めることができるためである。
【0025】
また、本発明の一例では、上記の工程に加えて封入工程(d)及び脱気工程(e)を含む。
【0026】
封入工程(d)は、熱処理した鰭を包装材に封入する工程である。包装材は、ポリアミド、ポリビニルアルコール、エチレン―ビニルアルコール共重合体等、酸素が透過しにくい材質からなるものを用いることが好ましい。本発明により製造される加工食品の劣化を防ぎ、長期間の保存が可能となるためである。
【0027】
また、封入工程(d)では、1枚の鰭を1つの包装材に封入してもよく、複数の鰭を1つの包装材に封入してもよい。封入工程(d)で複数の鰭を封入した場合には、脱気工程(e)を行うことで、運搬中等に鰭同士がこすれあうことで生じる表面の損傷を防ぐことができる。
【0028】
また、包装材には、鰭と共に脱酸素剤を封入することが好ましい。脱酸素剤が、包装材に含まれる酸素を吸収し、好気性微生物や昆虫の増殖や加工食品の酸化を防ぐためである。脱酸素剤としては、鉄や有機物の酸化反応を利用したもの等を用いることができる。
【0029】
脱気工程(e)は、(c)で封入した包装材の内部を脱気する工程である。鰭に触れる酸素量を低減することで、劣化を防ぐことができる。本工程では、ポンプにより包装材内の空気を吸引する方法等を用いることができる。
【0030】
さらに、本発明の一例では、切断工程(x)を含む。切断工程(x)とは、鰭を、鰭表面に対し水平方向に切断する工程である。切断工程(x)は、鰭の厚み方向の中間部分を表面に沿って薄切りする工程や、鰭をスライスする工程を含む。
【0031】
切断工程(x)により鰭の厚みを薄くすることがでるため、旨味成分の放出を効率よく行うことができる。また、切断工程(x)により鰭内部を露出することができるため、鰭内部の露出面から旨味成分が放出される。
【0032】
また、切断工程(x)は、分離工程(a)により鰭を取得した後であれば上記いずれの工程の後に行ってもよいが、分離工程(a)に続けて行うことが好ましい。鰭を薄く切断することで、乾燥工程(b)や熱処理工程(c)に要する時間を短縮し、製造を効率化することができるためである。
【0033】
本発明に用いる鰭は尾鰭であることが好ましい。マダイ等の尾鰭は2対の鰭が重なって構成されているため、容易に切断することができるためである。
【実施例】
【0034】
本発明を、実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
包丁を用いてマダイの尾部から尾鰭を切除して分離した。その際、尾鰭に付着した魚肉は取り除いた[(a)分離工程]。得られた尾鰭を、鰭表面に対して水平方向に2つに切断した[(x)切断工程]。さらに、切断した尾鰭を、冷風乾燥機(三菱電機株式会社製)を用いて25℃・18時間風乾した[(b)乾燥工程]。その後、冷蔵にて放置した。
【0036】
得られた尾鰭を、遠赤外線装置で20分間遠赤外線を照射して熱処理を行った[(c)熱処理工程1]。続いて、ガスバーナの直火を用いて尾鰭表面を焼成し[(c)熱処理工程2]、室温で冷却した。さらに、上記の方法で得られた2個の尾鰭を、脱酸素剤(三菱ガス化学株式会社製)と共に包装材に封入し[(d)封入工程]、脱気装置を用いて脱気した[(e)脱気工程]。以上の工程により加工食品が製造された。
【0037】
旨味成分の測定
本発明の方法により製造された加工食品が放出する旨味成分を測定した。用いた加工食品は、実施例1に記載の方法で製造した加工食品(実施例1)、直火で焼いた鯛の鰭(比較例1)、及び天日で干した鯛の鰭(比較例2)である。
【0038】
実施例及び比較例を沸騰水に5分間浸し、沸騰水中に放出されるタウリン濃度をHPLC法により分析した。タウリンはアミノ酸の一種であり、旨味成分として知られている。また、タウリンは肝機能向上等の健康増進効果をも有する。得られた沸騰水をトリクロロ酢酸で処理してタンパク質を沈殿させて精製しサンプルを得た。サンプルを、公知の4℃のインキュベータから35℃に維持したカラムに160分間流し、遊離タウリン量を測定した。
【0039】
結果を表1に示す。実施例1で製造された加工食品は、比較例に比べて約2倍のタウリンを放出することが確認された。したがって、本発明によれば、有効な成分を多く放出する加工食品を製造することが可能であると考えられる。
【0040】
【表1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、加工食品の製造方法。
(a)魚から鰭を分離して取得する分離工程
(b)前記(a)で得られた前記鰭を乾燥する乾燥工程
(c)前記(b)で得られた前記鰭を熱処理する熱処理工程
【請求項2】
前記工程に加えさらに以下の工程を含む、請求項1に記載の加工食品の製造方法
(x)前記鰭を、鰭表面に対し水平方向に切断する切断工程
【請求項3】
前記乾燥工程(b)が、風乾を用いる乾燥工程である、
請求項1又は2に記載の加工食品の製造方法
【請求項4】
前記熱処理工程(c)が、遠赤外線を用いて熱処理する熱処理工程である、
請求項1〜3いずれか一項に記載の加工食品の製造方法
【請求項5】
前記熱処理工程(c)が、直火を用いて熱処理する熱処理工程である、
請求項1〜4いずれか一項に記載の加工食品の製造方法
【請求項6】
前記工程に加えさらに以下の工程を含む、請求項1〜5いずれか一項に記載の加工食品の製造方法。
(d)前記(c)で熱処理された前記鰭を包装材に封入する、封入工程
(e)前記(d)で前記鰭を封入した前記包装材の内部を脱気する、脱気工程
【請求項7】
前記封入工程(d)が、脱酸素剤を前記鰭と共に封入する封入工程である、
請求項6に記載の加工食品の製造方法
【請求項8】
前記封入工程(d)が、複数の前記鰭を包装材に封入する封入工程である、
請求項6又は7に記載の加工食品の製造方法
【請求項9】
前記魚がタイである、請求項1〜8いずれか一項に記載の加工食品の製造方法
【請求項1】
以下の工程を含む、加工食品の製造方法。
(a)魚から鰭を分離して取得する分離工程
(b)前記(a)で得られた前記鰭を乾燥する乾燥工程
(c)前記(b)で得られた前記鰭を熱処理する熱処理工程
【請求項2】
前記工程に加えさらに以下の工程を含む、請求項1に記載の加工食品の製造方法
(x)前記鰭を、鰭表面に対し水平方向に切断する切断工程
【請求項3】
前記乾燥工程(b)が、風乾を用いる乾燥工程である、
請求項1又は2に記載の加工食品の製造方法
【請求項4】
前記熱処理工程(c)が、遠赤外線を用いて熱処理する熱処理工程である、
請求項1〜3いずれか一項に記載の加工食品の製造方法
【請求項5】
前記熱処理工程(c)が、直火を用いて熱処理する熱処理工程である、
請求項1〜4いずれか一項に記載の加工食品の製造方法
【請求項6】
前記工程に加えさらに以下の工程を含む、請求項1〜5いずれか一項に記載の加工食品の製造方法。
(d)前記(c)で熱処理された前記鰭を包装材に封入する、封入工程
(e)前記(d)で前記鰭を封入した前記包装材の内部を脱気する、脱気工程
【請求項7】
前記封入工程(d)が、脱酸素剤を前記鰭と共に封入する封入工程である、
請求項6に記載の加工食品の製造方法
【請求項8】
前記封入工程(d)が、複数の前記鰭を包装材に封入する封入工程である、
請求項6又は7に記載の加工食品の製造方法
【請求項9】
前記魚がタイである、請求項1〜8いずれか一項に記載の加工食品の製造方法
【図1】
【公開番号】特開2011−234678(P2011−234678A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109420(P2010−109420)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(503018353)秀長水産株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(503018353)秀長水産株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
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