説明

加熱炉へのヒータ設置方法

【課題】少ない時間及び費用で加熱炉にヒータを設置することが可能な加熱炉へのヒータ設置方法を提供する。
【解決手段】焼鈍炉の炉壁10は、炉内側に配された内側金属板11と、炉外側に配された外側金属板12と、これら両金属板11,12の間に介在する耐火物13と、で構成されている。この炉壁10に炉内と炉外を連通する貫通孔15を形成し、内側鍔部23Aと外側鍔部23Bとの間に耐火材25が取り付けられた円筒状部材21を、炉外側から挿通する。次に、外側鍔部23Bを外側金属板12に溶接等の慣用の固着手段で接合して、貫通孔15を封止した後に、円筒状部材21の内部にヒータ20を収容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉にヒータを設置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱炉へのヒータの取付構造としては、炉壁に炉内外へ貫通する貫通孔を設け、この貫通孔にヒータを炉外側から挿入する構造が知られている(例えば特許文献1,2)。既設の加熱炉にヒータを追加設置する場合においては、以下のようにして新たに貫通孔を設けて、この貫通孔に、炉内の気密性も確保しつつヒータを挿入するようにしていた。
例えば、鋼帯や鋼板を搬送しながら熱処理する焼鈍炉にヒータを設置する場合は、炉開放した後に、炉壁101に炉内と炉外を連通する貫通孔102を設け、内部にヒータ104を収容した筒状部材105を貫通孔102に挿通した上で、押さえ板106を用いて筒状部材105を炉壁101に固定していた。すなわち、押さえ板106は略中心部に孔を有する板状部材であり、貫通孔102に挿通された筒状部材105を押さえ板106の孔に通し、押さえ板106と筒状部材105とを溶接等で接合するとともに押さえ板106と炉壁101を溶接等で接合していた。そして、これを炉内側と炉外側の両側において行うことにより、筒状部材105を炉壁101に固定するとともに、炉壁101の貫通孔102を封止していた(図4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−98669号公報
【特許文献2】特表2005−532521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、ヒータを設置する場合は炉内において溶接作業を行う必要があるが、既に使用されている焼鈍炉に対して追加のヒータを設置する場合は、炉内はハースロールが設置されているためスペースが狭く且つ作業の足場がないので、ハースロールを取り外して足場を設置する必要があった。そのため、ヒータの設置作業に多くの時間や費用を要していた。また、取り外すことのできない機器が炉内に設置されている場合は、溶接作業が困難となるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、少ない時間及び費用で加熱炉にヒータを設置することが可能な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る加熱炉へのヒータ設置方法は、炉内側に配された内側金属板と、炉外側に配された外側金属板と、これら両金属板の間に介在する耐火物と、で構成された炉壁を備える加熱炉に、炉内を加熱するヒータを設置する方法であって、前記炉壁に炉内と炉外を連通する貫通孔を設ける貫通孔形成工程と、外面から径方向外方に突出する鍔部を有する筒状部材を、炉外側から前記貫通孔に挿通する挿通工程と、前記貫通孔に挿通された前記筒状部材の前記鍔部を前記外側金属板に固着して前記貫通孔を封止する固着工程と、前記筒状部材の内部にヒータを収容するヒータ収容工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
このような本発明に係る加熱炉へのヒータ設置方法においては、前記筒状部材に前記鍔部を2個設け、前記筒状部材を前記貫通孔に挿通した際に炉内側に位置する前記鍔部を内側鍔部、炉外側に位置する前記鍔部を外側鍔部とし、前記貫通孔形成工程においては、前記内側金属板には前記筒状部材と略同径の孔を形成し、前記外側金属板及び前記耐火物には前記内側鍔部と略同径の孔を形成して前記貫通孔を設け、前記挿通工程においては、前記内側鍔部と前記外側鍔部との間に形成される空隙部内に耐火物を充填した前記筒状部材を前記貫通孔に挿通して、前記内側鍔部を前記内側金属板の炉外側の露出面に密着させるとともに、前記空隙部内に充填された耐火物で前記貫通孔内を満たし、前記固着工程においては、前記外側鍔部を前記外側金属板に固着して前記貫通孔を封止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る加熱炉へのヒータ設置方法によれば、少ない時間及び費用で加熱炉にヒータを設置することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態の加熱炉へのヒータ設置方法を説明する図であり、鍔部の間の空隙部内に耐火物が充填された円筒状部材の側面図である。
【図2】本実施形態の加熱炉へのヒータ設置方法を説明する図であり、貫通孔が形成された炉壁の断面図である。
【図3】本実施形態の加熱炉へのヒータ設置方法を説明する図であり、ヒータが取り付けられた炉壁の断面図である。
【図4】従来の加熱炉へのヒータ設置方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、鋼帯や鋼板を搬送しながら熱処理する焼鈍炉にヒータを設置する方法を、図1〜3を参照しながら詳細に説明する。
この焼鈍炉は、熱延薄板(熱延白皮材,冷間圧延用酸洗材,電磁鋼生産用酸洗材等),冷延薄板,電磁鋼板,連続溶融亜鉛メッキ鋼板等の鋼板を製造する製造ラインの焼鈍工程において既に稼働している焼鈍炉であり、その炉壁10は、炉内側に配された内側金属板11と、炉外側に配された外側金属板12と、これら両金属板11,12の間に介在する耐火物13と、で構成されている。
【0011】
内側金属板11の材質は特に限定されるものではないが、ステンレス鋼が好ましい。また、内側金属板11の厚さは、例えば0.5mmである。さらに、外側金属板12の材質は特に限定されるものではないが、一般構造用圧延鋼材が好ましい。また、外側金属板12の厚さは、例えば6mmである。さらに、耐火物13の種類は、炉内と外側金属板12とが断熱されれば特に限定されるものではないが、例えばカオウールがあげられる。また、耐火物13の厚さは、例えば100mmである。
【0012】
炉壁10には、炉内を加熱して所望の温度に昇温するためのヒータが設置されており、これらは焼鈍炉の製造時に炉壁10に取り付けられたものであるが、焼鈍炉の使用を開始した後に、追加のヒータを設置する必要が出てくる場合がある。例えば、熱処理により炉内に微量の水素が発生する場合があるが、発生した水素が溜まって一定量を超えると、炉内に酸素が侵入した際に爆発する危険性があるので、水素が微量のうちに予め燃焼させてしまうことが好ましい。このような場合には、水素が発生しやすい箇所に、水素を燃焼させるためのヒータを追加で設置する必要があるので、以下のようにして焼鈍炉の炉壁10にヒータを設置する。
【0013】
まず、ヒータ20を収容する円筒状部材21を用意する(図1,3を参照)。この円筒状部材21は、その先端部は閉口し、基端部は開口している金属製の部材である。そして、基端側の開口部21aから内部にヒータ20を収容可能となっているとともに、その外周面から径方向外方に突出する環状の鍔部23を2個備えている。これらの鍔部23は、金属製円板の略中心部に形成された孔に円筒状部材21を挿通し、溶接等の慣用の固着手段で両者を接合することによって設けるとよい。なお、これ以降においては、先端側の鍔部23(円筒状部材21を炉壁10に設置した状態で炉内側に位置する鍔部23)を内側鍔部23A、基端側の鍔部23(円筒状部材21を炉壁10に設置した状態で炉外側に位置する鍔部23)を外側鍔部23Bと記す。
【0014】
また、外側鍔部23Bは内側鍔部23Aよりも大径とされ、外側鍔部23Bと内側鍔部23Aの間隔は耐火物13の厚さと同一か又は若干(数mm程度)大きく設定されている。さらに、内側鍔部23Aと外側鍔部23Bとの間に形成される管状の空隙部内に、耐火物25を充填する。すなわち、耐火物を管状(断面ドーナツ型)に形成し、これを軸方向に沿って2等分して、その内側半円筒面で内側鍔部23Aと外側鍔部23Bとの間に位置する円筒状部材21の外周面全周を囲むように取り付ける。このとき、鍔部23A,23B間に充填された耐火物25の外径寸法は、内側鍔部23Aの外径寸法よりも若干(数mm程度)大きく設定しておくことが好ましい。なお、ここで使用する耐火物25の種類は、炉内と外側金属板12とが断熱されれば特に限定されるものではないが、炉壁10を構成する耐火物13と同種のものが好ましい。
【0015】
一方、炉壁10には、図2に示すように、炉内と炉外を連通する貫通孔15を形成する(貫通孔形成工程)。すなわち、内側金属板11及び外側金属板12の一部を円形に溶断して取り外すとともに、耐火物13の一部を取り除いて円柱状の孔を形成する。この作業は、外側金属板12,耐火物13,内側金属板11の順序で取り除けば、炉外側から全て行うことができるので、炉内では何ら作業を行う必要はない。
【0016】
ただし、内側金属板11を取り除く際には、溶断した部分を炉内側に落とさないように注意する必要がある。例えば、溶断して取り外される部分に予め針金等を接合してから溶断を行い、溶断した部分が炉内側に落下しないようにするとよい。針金の接合方法は特に限定されるものではないが、接着剤や溶接で接合する方法があげられる。また、内側金属板11に小孔をあけ、そこに針金を通して針金の先端で内側金属板11の炉内側の面を押さえて落下を防止しつつ溶断を行ってもよい。
【0017】
なお、貫通孔形成工程において内側金属板11に形成される孔15aの直径は、円筒状部材21の外径寸法(鍔部23が形成されていない部分の外径寸法)と同じか又は若干大径(数mm程度)とすることが好ましい。また、耐火物13に形成される孔15bの直径は、内側鍔部23Aの外径寸法と同じか又は若干大径(数mm程度)とすることが好ましい。さらに、外側金属板12に形成される孔15cの直径は、前述の鍔部23A,23B間に充填された耐火物25の外径寸法と同じか又は若干大径(数mm程度)とすることが好ましい。さらに、外側金属板12に形成される孔15cの直径は、外側鍔部23Bの外径寸法よりも小径とすることが好ましい。
【0018】
上記寸法の一例を示すと、円筒状部材21の外径寸法(鍔部23が形成されていない部分の外径寸法)が90mm、内側金属板11に形成される孔15aの直径が92mm、耐火物13に形成される孔15b及び外側金属板12に形成される孔15cの直径が200mm、内側鍔部23Aの外径寸法が200mm、鍔部23A,23B間に充填された耐火物25の外径寸法が205mmである。また、外側鍔部23Bと内側鍔部23Aの間隔が104mmである。
【0019】
次に、耐火材25が取り付けられた円筒状部材21、すなわち、内側鍔部23Aと外側鍔部23Bとの間に位置する円筒状部材21の外周面が管状の耐火材25で囲まれた円筒状部材21を、炉外側から貫通孔15に挿通する(挿通工程)。円筒状部材21の先端部は、図3に示すように炉内に突出させるが、炉内の加熱を十分に行えるならば炉内に突出させなくてもよい。
【0020】
また、内側金属板11に形成される孔15aの直径よりも耐火物13に形成される孔の直径の方が大径であるため、内側金属板11に形成される孔15aの周辺部分については、内側金属板11の炉外側表面が露出している。そして、外側鍔部23Bと内側鍔部23Aの間隔が耐火物13の厚さよりも若干大きく設定されているので、円筒状部材21の先端側に配された内側鍔部23Aは、内側金属板11の炉外側の露出面11aに押し付けられ密着する。さらに、円筒状部材21の基端側に配された外側鍔部23Bは、外側金属板12の炉外側表面12aにほぼ接触する。
【0021】
さらに、鍔部23A,23B間に充填された耐火物25の外径寸法は、耐火物13に形成されている孔の直径よりも若干(数mm程度)大きく設定されているが、耐火物13,25は若干の弾性を有しているため問題なく挿通することができる。そして、円筒状部材21に取り付けられた耐火物25で貫通孔15内が満たされるとともに、両耐火物13,25は締め代を有して嵌め合わされることとなるため、耐火物13,25による断熱性が向上する。
【0022】
次に、外側鍔部23Bを外側金属板12に溶接等の慣用の固着手段で接合し、貫通孔15を封止する(固着工程)。外側鍔部23Bの外周部分の全周が接合されているので、気密性が非常に高く、空気等の炉外の雰囲気が貫通孔15を通じて炉内に侵入することが防止される。なお、焼鈍炉を稼働する際に炉内に炉圧が作用した状態で、石鹸水を用いる方法等によって上記接合部分の気密性を確認するとよい。
【0023】
そして、円筒状部材21の基端側の開口部21aからヒータ20(例えばグローヒータ)を入れ、内部に収容し、開口部21aを封止しつつ固定する(ヒータ収容工程)。ただし、先に円筒状部材21の内部にヒータ20を収容して、ヒータ20を備える円筒状部材21を貫通孔15に挿通してもよい。
なお、焼鈍炉の稼働時には、炉内に突出する円筒状部材21の先端部に設けられた孔21bから炉内の雰囲気が円筒状部材21の内部に入り、ヒータ20によって加熱される。また、ヒータ20の放射熱によって円筒状部材21も高温となるため、円筒状部材21の外周面によっても炉内の雰囲気が加熱される。円筒状部材21の外周面による加熱のみでも炉内を昇温することが可能であるので、孔21bは設けなくてもよい。
【0024】
以上説明したような方法によれば、炉内作業を全く行うことなく炉外作業のみでヒータ20を設置することができる。よって、炉内作業を行うために炉内に設置されているハースロールを撤去して作業の足場を設置する必要がないので、少ない時間及び費用で焼鈍炉にヒータ20を追加設置することが可能である。また、取り外すことのできない機器が炉内に設置されている場合でも、焼鈍炉にヒータ20を追加設置することが可能である。
【0025】
従来は、ハースロールの撤去、作業の足場の設置、貫通孔の形成、及びヒータの設置に対して、24時間以上の時間を要する場合があったが、本実施形態のヒータ設置方法であればヒータ1基当たり5時間程度で全作業を完了することが可能である。また、コストに関しても、従来と比べてヒータ1基当たり約50万円安価にヒータ設置工事を行うことができる。
【0026】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、ヒータ20を円筒状部材21の内部に収容して貫通孔15に挿通したが、略棒状,略柱状のヒータであれば、円筒状部材21を用いることなくヒータの外周面に鍔部を形成し、ヒータを貫通孔15に直接挿通してもよい。
【0027】
また、ヒータ20の種類は特に限定されるものではなく、グローヒータの他、一般的な種類のヒータを問題なく使用することができる。
さらに、本実施形態においては、焼鈍炉の炉壁10にヒータ20を設置する方法について説明したが、加熱炉の種類は焼鈍炉に限定されるものではなく、いかなる種類の加熱炉に対しても適用することができる。
【0028】
さらに、本発明は、既に稼働している加熱炉に対して追加のヒータを設置する際に特に有効な方法であるが、新たに加熱炉を製造する際に用いても差し支えない。
【符号の説明】
【0029】
10 炉壁
11 内側金属板
12 外側金属板
13 耐火物
15 貫通孔
20 ヒータ
21 円筒状部材
23A 内側鍔部
23B 外側鍔部
25 耐火物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内側に配された内側金属板と、炉外側に配された外側金属板と、これら両金属板の間に介在する耐火物と、で構成された炉壁を備える加熱炉に、炉内を加熱するヒータを設置する方法であって、
前記炉壁に炉内と炉外を連通する貫通孔を設ける貫通孔形成工程と、
外面から径方向外方に突出する鍔部を有する筒状部材を、炉外側から前記貫通孔に挿通する挿通工程と、
前記貫通孔に挿通された前記筒状部材の前記鍔部を前記外側金属板に固着して前記貫通孔を封止する固着工程と、
前記筒状部材の内部にヒータを収容するヒータ収容工程と、
を備えることを特徴とする加熱炉へのヒータ設置方法。
【請求項2】
前記筒状部材に前記鍔部を2個設け、前記筒状部材を前記貫通孔に挿通した際に炉内側に位置する前記鍔部を内側鍔部、炉外側に位置する前記鍔部を外側鍔部とし、
前記貫通孔形成工程においては、前記内側金属板には前記筒状部材と略同径の孔を形成し、前記外側金属板及び前記耐火物には前記内側鍔部と略同径の孔を形成して前記貫通孔を設け、
前記挿通工程においては、前記内側鍔部と前記外側鍔部との間に形成される空隙部内に耐火物を充填した前記筒状部材を前記貫通孔に挿通して、前記内側鍔部を前記内側金属板の炉外側の露出面に密着させるとともに、前記空隙部内に充填された耐火物で前記貫通孔内を満たし、
前記固着工程においては、前記外側鍔部を前記外側金属板に固着して前記貫通孔を封止することを特徴とする請求項1に記載の加熱炉へのヒータ設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−21763(P2011−21763A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164459(P2009−164459)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】