説明

加熱装置

【課題】本発明は、表層にフッ素樹脂層を有する回転体の表層クラックを抑制することを目的とする。
【解決手段】フッ素樹脂を含む表層を有し、かつ、両端が開放されている、可撓性の回転体と、該回転体を加熱する加熱体と、該回転体の内部に配置され、該回転体の内周面との摺動面を有する該回転体の保持部材と、該回転体と共にニップ部を形成する加圧部材と、を有し、該回転体および該加圧部材の回転により、該ニップ部において記録材を挟持し、かつ、搬送しつつ該記録材を加熱する加熱装置であって、該回転体と該保持部材の摺動面との間に、直鎖型のパーフルオロポリエーテルと側鎖型のパーフルオロポリエーテルとを含有する潤滑剤が介在させられていることを特徴とする加熱装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を用いた画像形成装置に用いられる加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真複写機やプリンターのような画像形成装置において、電子写真プロセスのような画像形成プロセスにより記録材(シート)に担持させた未定着トナー像を記録材に加熱加圧定着させる加熱定着装置としては、従来から熱ローラ方式の加熱定着装置が広く用いられている。
近年では、クイックスタートや省エネルギーの観点からフィルム加熱方式の加熱定着装置やフィルム自身を発熱させる電磁誘導加熱方式の加熱定着装置も実用化されている。
【0003】
フィルム加熱方式の加熱定着装置は、例えば、特許文献1乃至2に提案されている。
フィルム加熱方式の加熱定着装置は、加熱体としてのヒータと、このヒータに接触して加熱しつつ回転する可撓性を有する回転体としての定着フィルムと、定着フィルムを介してヒータと定着ニップ部を形成する加圧部材としての加圧ローラと、から構成される。
定着ニップ部の定着フィルムと加圧ローラとの間に未定着トナー像を担持させた記録材を導入し、定着フィルムと一緒に挟持搬送させることで、定着フィルムを介してヒータの熱を与えながら定着ニップ部の加圧力で未定着トナー像を記録材面に定着させるものである。この加熱定着装置はヒータ及び定着フィルムに低熱容量の部材を用いており、画像形成実行時のみ熱源であるヒータを通電して所定の定着温度に発熱させれば良いため、画像形成装置の電源オンから画像形成実行可能状態までの待ち時間が短く、スタンバイ時の消費電力も大幅に小さいという利点がある。
また、特許文献3は、円筒状金属素管を基層とし、外表面に離型性層を備えた加熱用金属スリーブを開示している。さらに、特許文献4は、金属または耐熱プラスチックのチューブの外面に耐熱エラストマー層が形成され、さらにその外面にシリコーンゴムまたはフッ素樹脂の層が形成された定着用ベルトを開示している。
定着フィルムの基層として、従来から用いられてきたポリイミドのような耐熱性樹脂の代わりに、樹脂よりも熱伝導率の高い金属を用いると、定着フィルム自体の熱伝導率を高くすることができるため、ヒータの熱をより効率的に記録材へ伝えることができる。そのため、画像形成装置の高速化に対応できる。また、金属を基層に用いた定着フィルムは、充分な強度を有するため、耐久性、ロバスト性が向上する。
また、従来、トナー像が定着ニップ部を通過する際に、カラー画像を多重に転写されたトナー像の形状に定着フィルム表面が追随することができないため、部分的に定着性のムラが生じるという問題があった。定着性のムラは、画像の光沢ムラとして現れたり、OHT(オーバーヘッドプロジェクタ用透明シート)においては透過性のムラとなり、投影した際に透過性のムラが画像欠陥として現れたりしてしまうというものである。これに対し、定着フィルムの基層上に弾性層を設けることで、定着フィルム表面をトナー層に沿って変形可能とし、画像上不均一に載っているトナーに対し定着フィルムから熱を包み込むように伝達できるため、均一な定着性を得ることができる。
【0004】
一方、特許文献5には、磁束によりフィルム部材に渦電流を誘導させて、そのジュール熱で定着フィルム自身を発熱させる電磁誘導加熱方式の加熱定着装置が開示されている。この加熱定着装置は誘導電流の発生を利用することで直接定着フィルムを発熱させることができ、ハロゲンランプを熱源とする熱ローラ方式の加熱定着装置よりも高効率の定着プロセスを達成している。
電磁誘導加熱方式の加熱定着装置は、定着フィルムの基層として薄い金属を用いることが多い。さらに、カラー画像形成装置に電磁誘導加熱方式の加熱定着装置を適用する場合は、基層上に弾性層を設けた定着フィルムを用いることもある。
【0005】
このように、フィルム加熱定着方式や電磁誘導加熱定着方式のような加熱定着装置が提案されているが、いずれの加熱定着装置においても、トナーが定着フィルムに付着し、再度記録材に転写してしまうことで発生するオフセット現象を抑制する必要がある。
そのために、定着フィルムの基層上または弾性層上に、ポリテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素樹脂を有する離型層を表層として設けている。
上記のような定着フィルムを用いた加熱定着装置では、定着フィルムとヒータ或いは摺動部材との間に潤滑剤(潤滑剤)を介在させることにより、定着フィルムとヒータ或いは摺動部材との間の摺動摩擦を低減し、定着フィルムの回転運動を円滑にしている。
加熱定着装置は180℃以上の高温下で使用されることもあるため、潤滑剤としては高温環境のような過酷な条件下で極めて良好な安定性を示すフッ素系潤滑剤を採用している。潤滑剤は基油、増稠剤、添加剤を基本構成としており、フッ素系潤滑剤は、基油としてパーフルオロポリエーテル(PFPE)、増稠剤としてPTFEの単独重合体または共重合体、添加剤として少量の防錆剤のような添加物質から構成されている。
【0006】
PFPEは、図5の式1から式4に示すような化学構造を有し、大きく直鎖型の直鎖タイプと側鎖にトリフルオロメチル基(−CF)を有する側鎖型の側鎖タイプとに分類される。
PFPEの直鎖タイプは、図6に示すように、側鎖タイプに比べて動粘度の温度依存性が小さい。すなわち、直鎖タイプは側鎖タイプよりも低温環境下での粘度は低く、高温環境下での粘度は高くなる。加熱定着装置としては、低温環境下で冷えた状態からの起動に必要な駆動トルクを低減したいため、潤滑剤としては低温環境下での粘度は低い方が定着フィルムの回転も容易となるため好ましい。また、連続プリント時のように高温下で使用された場合に定着フィルム端部から潤滑剤が流出し、摺動摩擦部から潤滑剤が枯渇してしまうのを抑制したいため、潤滑剤としては高温環境下での粘度は高い方がはみ出しを抑制できるため好ましい。そのため、従来の加熱定着装置に採用していた潤滑剤は、直鎖タイプのPFPEを使用していた。
【0007】
しかしながら、直鎖タイプのPFPEからなる潤滑剤を用いても、定着フィルムの回転運動を長期間継続すると、定着フィルムとヒータ或いは摺動部材との間に保持されていた潤滑剤が定着フィルム端部から少なからず流出し、定着フィルム表面に回り込んでしまう。
その結果、定着フィルムの表層に用いられているPFAのようなフッ素樹脂と回り込んだ潤滑剤とが反応して、定着フィルムの表層がひび割れやクラックを引き起こすことがあった。ひび割れやクラックは画像上に横スジとなって現れてしまうため、結果として画像品質を低下させてしまうことがあった。
このメカニズムとしては、まず潤滑剤に含まれる基油としてのPFPEが、定着フィルムの表層であるPFAのようなフッ素樹脂内に浸透して、フッ素樹脂の膨潤を引き起こす。それに伴い、フッ素樹脂のポリマー同士の距離が離れるため、フッ素樹脂自体の強度が低下する。そして、回転のような定着フィルムへの機械的なストレスが加わることにより、表層にひび割れやクラックが引き起こされていると考えられている。
【0008】
このような定着フィルムの表層のひび割れやクラックに対して、特許文献6では、加圧部材の表面離型層に、ポリテトラフルオロエチレン−パーフルオロエトキシエチレン共重合体を含有させることを提案している。また、特許文献7では、弾性層上に表面層として樹脂チューブを被覆した定着ローラにおいて、該樹脂チューブの結晶化度を50%以下とすることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63−313182号
【特許文献2】特開平4−44075号
【特許文献3】特開2003−045615号
【特許文献4】特開平10−10893号
【特許文献5】特開平8−16005号
【特許文献6】特開2006−126576号
【特許文献7】特開2009−25612号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1及び特許文献2に係る発明は、材料の選択の自由度を狭め、あるいは、表層に膜厚ムラを生じさせてしまう場合があった。
【0011】
本発明者らは、フッ素樹脂にひび割れやクラックを生じさせにくい潤滑剤を得ることを目的として検討を重ねてきた。その結果、従来から潤滑剤として使用されてきた直鎖タイプのPFPEに加えて、側鎖タイプのPFPEを含有させた潤滑剤が上記の目的の達成に極めて有効であることを見出した。
本発明の目的は、潤滑剤長期間の使用によっても加熱性能が変化しにくい、耐久性に優れた加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、フッ素樹脂を含む表層を有し、かつ、両端が開放されている、可撓性の回転体と、該回転体を加熱する加熱体と、該回転体の内部に配置され、該回転体の内周面との摺動面を有する該回転体の保持部材と、該回転体と共にニップ部を形成する加圧部材と、を有し、該回転体および該加圧部材の回転により、該ニップ部において記録材を挟持し、かつ、搬送しつつ該記録材を加熱する加熱装置であって、該回転体と該保持部材の摺動面との間に、直鎖型のパーフルオロポリエーテルと側鎖型のパーフルオロポリエーテルとを含有する潤滑剤が介在させられている加熱装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、直鎖タイプと側鎖タイプとをブレンドしたPFPEからなる潤滑剤を使用することにより、定着フィルムの表層に発生するクラックやひび割れを抑制し、画像品質の低下も抑制できるとともに、耐久試験を通して記録材の搬送も安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る画像形成装置の一例の概略構成図である。
【図2】本発明に係る加熱装置を示す断面図である。
【図3】本発明に係る加熱装置を示す横側面図である。
【図4】本発明の加熱装置に用いる回転体としての定着フィルムを示す断面図である。
【図5】PFPEの化学構造のバリエーションを示す式である。
【図6】基油の構造式の違いによる潤滑剤の動粘度と温度との相関を示す図である。
【図7】表面クラックが発生した回転体としての定着フィルムの例を示す図である。
【図8】回転体としての定着フィルムの表面クラックによって生ずる画像不良の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成装置の仕様、部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がないかぎりは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例】
【0016】
(1)画像形成装置
図1は、本発明に係る画像形成装置の一例の概略構成図である。
本実施例におけるフルカラー画像形成装置は、電子写真方式を用いて、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの4色のトナー像を重ね合わせることでフルカラー画像を得るものである。
本実施例における、フルカラー画像形成装置のプロセススピードは115mm/sec、一分間の印字枚数はLTRサイズ紙で20枚である。
【0017】
本実施例におけるフルカラー画像形成装置は、像担持体としての感光体ドラム(1Y、1C、1M、1K)、帯電手段としての帯電ローラ(3Y、3C、3M、3K)、静電潜像を顕像化するための現像手段たる現像ローラ(2Y、2C、2M、2K)、感光体ドラムのクリーニング手段(4Y、4C、4M、4K)のような部材をひとつの容器にまとめた、いわゆるオールインワンカートリッジを使用している。
それぞれのカートリッジは、イエロー(Y)トナーを現像器に充填したイエローカートリッジ、マゼンタ(M)トナーを現像器に充填したマゼンタカートリッジ、シアン(C)トナーを現像器に充填したシアンカートリッジ、そしてブラック(K)トナーを現像器に充填したブラックカートリッジである。そして、上記フルカラー画像形成装置には、上記4色のカートリッジが装填されている。
【0018】
本実施例に係るフルカラー画像形成装置においては、感光体ドラム(1Y、1C、1M、1K)に露光を行うことにより静電潜像を形成する光学系5が、上記4色のトナーカートリッジに対応して設けられている。光学系5としては、レーザー走査露光光学系を用いている。
光学系5より、画像データに基づいた走査光が、帯電ローラ(3Y、3C、3M、3K)により一様に帯電された感光体ドラム(1Y、1C、1M、1K)上を露光することにより、感光体ドラム(1Y、1C、1M、1K)表面に画像に対応する静電潜像が形成される。不図示のバイアス電源より現像ローラ(2Y、2C、2M、2K)に印加される現像バイアスを帯電電位と潜像(露後部)電位との間の適切な値に設定することで、負の極性に帯電されたトナーが感光体ドラム(1Y、1C、1M、1K)上の静電潜像に選択的に付着することにより、現像が行われる。
【0019】
感光体ドラム(1Y、1C、1M、1K)上に現像された単色トナー像は、該感光体ドラム(1Y、1C、1M、1K)と同期して、等速で回転する中間転写体上へ転写される。
本実施例においては、中間転写体として、駆動ローラ7によって駆動され、テンションローラ8によって張架されている中間転写ベルト6を用いている。中間転写ベルト6へ感光体ドラム(1Y、1C、1M、1K)上のトナー像を転写する、一次転写手段としては、一次転写ローラ(9Y、9C、9M、9K)を用いている。一次転写ローラ(9Y、9C、9M、9K)に対して、不図示のバイアス電源より、トナーと逆極性の一次転写バイアスを印加することにより、中間転写ベルト6に対して、トナー像が一次転写される。一次転写後、感光体ドラム(1Y、1C、1M、1K)上に転写残として残ったトナーは、クリーニング手段(4Y、4C、4M、4K)により除去される。
上記工程を中間転写ベルト6の回転に同調して、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色に対して行い、中間転写ベルト6上に、各色の一次転写トナー像を順次重ねて形成していく。単色のみの画像形成(単色モード)時には、上記工程は、目的の色についてのみ行われる。
【0020】
また、記録材供給部となる記録材カセット10にセットされた記録材Pは、給送ローラ11により給送され、二次転写部に所定のタイミングで、レジストローラ12により、中間転写ベルト6と二次転写手段の如き二次転写ローラ13とのニップ部に搬送される。中間転写ベルト6上に形成された一次転写トナー像は、二次転写手段たる二次転写ローラ13に不図示のバイアス印加手段より印加されるトナーと逆極性のバイアスにより、記録材P上に一括転写される。なお、14は二次転写ローラ対向ローラである。トナーを二次転写された記録材Pは加熱定着装置Fに搬送される。その記録材Pは、加熱定着装置Fを通過することにより加熱及び加圧され、そのトナー像が記録材P上に加熱定着される。そしてその記録材Pは、加熱定着装置Fから画像形成装置外部のトレイに排紙される。二次転写後の中間転写ベルト6上に残った二次転写残トナーは、中間転写ベルトクリーニング手段15により除去される。
【0021】
(2)加熱定着装置F
図2は像加熱装置としての加熱定着装置Fを示す断面図である。なお、図2は記録材Pの搬送方向に沿った断面図である。また、図3は加熱定着装置Fの横側面図である。ここでは、まず加熱定着装置Fの概略構成について説明を行い、構成部品の詳細については後述する。
【0022】
加熱定着装置Fは、加熱部材としての定着部材(加熱アセンブリ)20と、加圧部材としての加圧ローラ30と、を備える。この定着部材20と加圧ローラ30とを加圧した状態で接触(圧接)させることによりニップ部としての定着ニップ部Nを形成させている。
【0023】
定着部材20は、加熱体としてのヒータ21と、保持部材としてのガイド22と、ヒータ21により加熱される回転体としての定着フィルム23と、規制部材としての端部フランジ24(以下、定着フランジと記す)と、を有する。ヒータ21は、ガイド22の下面に固定して配置してある。定着フィルム23は、ガイド22に対して外嵌させて配置してある。定着フランジ24は、ガイド22の長手方向両端部側に装着されて、両端が開放されている定着フィルム23の両端部を規制する役目をする。ここで、定着装置Fや定着部材20、ガイド22のような部材における長手方向とは、両端が開放されている定着フィルム23が回転する際に想定される回転軸が伸びる方向をいい、記録材Pの搬送方向と直交する記録材Pのシート幅方向でもある。
そして、定着部材20の長手方向両端部において、定着フランジ24に加圧バネ25を縮設させている。この加圧バネ25により定着部材20を所定の加圧力をもって、加圧ローラ30の上面に対して、定着フィルム23の有する後述の弾性層232の弾性と加圧ローラ30の有する弾性層302の弾性とに抗して押圧させて、所定幅の定着ニップ部Nを形成させている。なお、加圧ローラ30は後述する芯金301部を支持部材26にて受けることにより回転可能に固定されている。定着ニップ部Nでは、定着部材20の加圧ローラ30に対する加圧により、定着フィルム23がヒータ21と加圧ローラ30との間に挟まれてヒータ21の下面の扁平面に倣って撓む。これにより定着フィルム23の内面がヒータ21の下面の扁平面、具体的には後述する保護層213に密着した状態になる。ガイド22は定着フィルム23の内部に配置され、定着フィルム23の内周面との摺動面を有する。加圧ローラ30は定着フィルム23と共に定着ニップ部Nを形成する。
この加圧ローラ30の回転駆動に伴って、定着ニップ部Nにおける加圧ローラ30と定着部材20側の定着フィルム23との摩擦力で定着フィルム23に回転力が作用する。そして、定着フィルム23がその内側にあるヒータ21の下面と密着し、そして摺動面にて摺動移動しながら、ガイド22の外周を時計回り方向に、加圧ローラ30の回転に従動することで回転状態になる(加圧ローラ駆動式)。
なお、加圧部材の形態としては、本実施例における加圧ローラ30以外に、回動ベルトのようなベルトの形態でも構わない。
【0024】
定着フィルム23は、内部のヒータ21及びガイド22と摺擦しながら回転するため、ヒータ21及びガイド22と定着フィルム23との間の摩擦抵抗を小さく抑える必要がある。このため、ヒータ21及びガイド22の表面、例えばヒータ21やガイド22の摺動面と定着フィルム23との間に耐熱性を有する潤滑剤Gを少量介在させてある。
【0025】
ヒータ21は、記録材P上のトナー像Tを溶融定着させる定着ニップ部Nの加熱を行う。
定着フィルム23を摺動面にて摺動移動させながら、言い換えると、加圧ローラ30の回転により定着フィルム23が回転しながら、ヒータ21に対する通電によりヒータ21の温度が所定の温度に立ち上がって温調される。この状態において、未定着トナー像Tを担持した記録材Pが、不図示の定着入口ガイドに沿って定着ニップ部Nの定着フィルム23と加圧ローラ30との間に搬送される。そして、その記録材Pが定着ニップ部Nで挟持し搬送されることで、記録材P上(被加熱材上)の未定着トナー像Tが定着フィルム23を介してヒータ21の熱で加熱されて記録材P上(シート上)に熱定着される。定着ニップ部Nを通過した記録材Pは、定着フィルム23の外面から分離して、不図示の耐熱性の定着排紙ガイドに案内されて、排出トレイ上に排出される。
【0026】
(2a)ヒータ21
ヒータ21は、定着フィルム23の内側に配置される加熱体である。ヒータ21は、図2に示すように、例えばアルミナ(酸化アルミニウム)、AlN(窒化アルミニウム)のような高絶縁性のセラミックスや、ポリイミド、PPS、液晶ポリマーのような耐熱性樹脂からなる細長い基板211を有する。そしてこの基板211の表面に、例えばAg/Pd(銀パラジウム)、RuO、TaNのような発熱ペースト層を印刷した発熱体212と、この発熱体212の保護と絶縁性とを確保するための耐圧ガラスのような保護層213と、を順次形成したものである。
【0027】
ヒータ21上の発熱ペーストへの給電は、不図示の給電部から不図示のコネクタを介してなされる。ヒータ21の背面には、発熱ペーストの発熱に応じて昇温したヒータ21の温度を検知するためのサーミスタのような温度検知素子214が配置されている。この温度検知素子214の信号に応じて、ヒータ21の長手方向端部にある不図示の給電部の電極部から発熱ペーストに印加される電圧のデューティー比や波数のようなファクターを適切に制御することで、定着ニップ部N内での温調温度を略一定に保つ。これにより、ヒータ21は定着フィルム23を介して記録材P上の未定着トナー像Tを定着するのに必要な加熱を行う。温度検知素子214から不図示の温度制御部へのDC通電は、不図示のDC通電部及びDC電極部を介して不図示のコネクタによりなされる。
なお、加熱体であるヒータ21はセラミックヒータに限られるものではなく、例えば鉄板のような強磁性物質を含む電磁誘導発熱部材のような発熱部材にすることもできる。
【0028】
本実施例では、基板211としてアルミナと、発熱体212としてAg/Pdと、発熱体の保護層213として耐圧ガラスと、からなるヒータ21を使用している。
【0029】
(2b)ガイド22
保持部材としてのガイド22は、ヒータ21を支持する役目や、加圧部材の役目、定着ニップ部Nとの反対方向への放熱を防ぐための断熱部材の役目をしている。このガイド22は、剛性・耐熱性・断熱性の部材であり、液晶ポリマー、フェノール樹脂、PPS、PEEKのような材料により形成されている。ガイド22は、定着フィルム23の内部に配置される。
本実施例では、ガイド22の素材として液晶ポリマーを使用している。
【0030】
(2c)加圧ローラ30
加圧ローラ30は、定着フィルム23を介在させてヒータ21と対向配置される加圧部材である。加圧ローラ30は、図2に示すように、ステンレス、SUM、Alのような金属製の芯金301と、芯金301の外側にシリコーンゴムやフッ素ゴムのような耐熱ゴムあるいはシリコーンゴムを発泡して形成された弾性層302と、を有する。さらに、離型性と耐磨耗性を向上させるため、弾性層302を覆うようにPFA、PTFE、ポリテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)のような離型層303を形成してあってもよい。
【0031】
本実施例では、芯金301としてAlと、弾性層302としてシリコーンゴムと、離型層303としてPFAと、からなる外径20mmの加圧ローラ30を使用している。
【0032】
(2d)定着フィルム23
定着フィルム23は、ヒータ21と加圧ローラ30との間に介在し、加圧ローラ30と接触する定着ニップ部Nで記録材Pを挟持搬送しつつヒータ21の熱を記録材Pに与える回転体である。
定着フィルム23は、図4に示すように両端が開放されており、小熱容量で可撓性を有するエンドレスベルトからなる基層231と、この基層231を覆うように配置された弾性を有する弾性層232と、弾性層232を覆うように配置された離型性を有する離型層233と、から構成される。
【0033】
基層231は、クイックスタートを可能にするために膜厚は200μm以下の厚さで、耐熱性、高熱伝導性を有するステンレス、Al、Ni、Cu、Znのような金属部材を単独、あるいは合金部材からなり、可撓性を有している。一方で、長寿命の定着フィルム23を構成するために充分な強度を持ち、耐久性に優れた基層231として、膜厚は15μm以上の厚さが必要である。ヒータ21と接触する基層231の内面に、摺動性の高いフッ素樹脂層、ポリイミド層、ポリアミドイミド層のような層を形成してあっても良い。
また、基層231は、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PESのような可撓性を有する耐熱性樹脂であっても良い。樹脂製の基層231の場合には、BN、アルミナ、Alのような高熱伝導性粉末を混入してあっても良い。膜厚は金属製の場合と同様に、15μm以上200μm以下の厚さが必要である。
【0034】
弾性層232は、高画質化やカラー化対応として、トナーの定着性を充分に満足し、かつ定着ムラも防止するよう、記録材P上の未定着トナー像Tに対し、熱を包み込むように伝達させるため、シリコーンゴムのような耐熱性の弾性体からなる。熱の包み込み効果による高画質化やカラー化対応のために、膜厚は30μm以上の厚さが必要である。一方で、クイックスタートを可能にするために、膜厚は500μm以下の厚さが必要である。また、熱伝導率を向上させるために、熱伝導性フィラーのような添加剤を含有している。
【0035】
定着フィルム23の表層の離型層233は、離型性と耐磨耗性を向上させるため、PFAやPTFE、FEPのようなフッ素樹脂をチューブ成型、或いはコーティングにより弾性層232上に配置している。離型層233は、通紙による記録材Pとの耐磨耗性のために膜厚は5μm以上の厚さが必要であり、一方、クイックスタートを可能にするために膜厚は100μm以下の厚さが必要である。
【0036】
本実施例では、基層231として厚さ30μmのステンレスと、弾性層232として厚さ200μmの高熱伝導性シリコーンゴムと、離型層233として厚さ20μmのPFAチューブと、からなる外径18mmの定着フィルム23を使用している。
【0037】
(2e)潤滑剤G
定着フィルム23とヒータ21及びガイド22との間の摩擦抵抗を小さく抑え、加熱定着装置Fの寿命を通じて安定した摺動性を維持させるために、ヒータ21やガイド22の摺動面と定着フィルム23との間に潤滑剤Gを塗布している。ヒータ21は180℃以上の温度で使用されることもあるので、潤滑剤Gとしては高温環境のような過酷な条件下で極めて良好な安定性を示すフッ素系潤滑剤を使用している。潤滑剤Gは基油と増稠剤から構成され、防錆剤のような添加剤を加えても良い。
基油としてはパーフルオロポリエーテル(PFPE)を使用している。PFPEは、図5の式1から式4に示すような化学構造を有し、大きく直鎖型の直鎖タイプ(式1、式2)と側鎖にトリフルオロメチル基(−CF)を有する側鎖型の側鎖タイプ(式3、式4)とに分類される。そして本発明に係る潤滑剤Gは、基油として、直鎖タイプのPFPEと側鎖タイプのPFPEとを混合したものを用いる。
【0038】
本実施例では、式1に示す直鎖タイプの基油と、式3に示す側鎖タイプの基油と、を所定の比率でブレンドした基油を使用している。一方、増稠剤としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の平均粒径が30μm以下の微粉末を使用している。潤滑剤Gとしての所定の稠度に合わせるために、増稠剤は20重量%以上50重量%以下となるように基油と配合される。本実施例では、稠度が265以上295以下(JIS K2220規格)の潤滑剤Gを使用している。
【0039】
(3)定着フィルム23の離型層233に発生するクラックの検討
加熱定着装置Fを長期間使用すると、定着フィルム23とヒータ21やガイド22との間に介在されていた潤滑剤が定着フィルム23端部から流出し、定着フィルム23表面に回り込んでしまう。ここで、当該潤滑剤が、直鎖タイプのPFPEのみを基油として含む潤滑剤である場合、定着フィルム23の表層の離型層233に用いられているPFAチューブと回り込んだ当該潤滑剤とが反応して、定着フィルム23の表層の離型層233に、図7に示すようなクラックを引き起こすことがあった。クラックは、図8に示すように、横スジとなって画像に現れてしまうため、画像品質を低下させてしまうことがあった。クラックに起因する横スジは定着フィルム23のクラックの位置に対応し、定着フィルム23の外径が18mmのため、画像には約56.5mmピッチで同様の横スジが繰り返される。また、この横スジはトナー量の多いベタ画像のような画像で見えやすく、OHTのような透明シートで光を透過させるとさらに見えやすくなる。
【0040】
このメカニズムとしては、プリント時における定着フィルム23の表面温度、すなわち定着フィルムの表層の離型層233の温度は120℃以上の高温に達するため、離型層233を形成するPFAのガラス転移点を越える。そのため、潤滑剤に含まれる基油としての直鎖タイプのPFPEがPFA内に浸透しやすく、かつPFAの膨潤も発生しやすくなる。それに伴い、PFAのポリマー同士の距離が離れるため、PFA自体の強度が低下する。その状態でプリントを停止させ、定着フィルム23の表面温度を室温程度まで下げると、PFAの強度が低下した状態で剛性が高くなる。そのため、その後の室温状態からのプリントのような操作で、定着フィルム23の表面温度が低い状態、すなわちPFAが脆い状態で定着フィルム23に回転駆動のような機械的なストレスが加わることにより、離型層233にクラックが引き起こされていると考えられている。
【0041】
(3a)各種潤滑剤の調製
まず、実施例1〜3に係る潤滑剤として、直鎖タイプのPFPE(図5の式1)と側鎖タイプ(図5の式3)のPFPEとをブレンドした基油を含む潤滑剤を用意した。実施例1〜3に係る潤滑剤の基油中の直鎖タイプのPFPEおよび側鎖タイプのPFPEの分子量および配合比率を表1に示す。
また、比較例1〜3に係る潤滑剤として、従来例である直鎖タイプ(図5の式1)の基油のみからなる潤滑剤(比較例1と2)と、側鎖タイプ(図5の式3)の基油のみからなる潤滑剤(比較例3)を用意した。比較例1〜3に係る潤滑剤の基油中のPFPEの分子量及び組成比を表1に示す。なお、各潤滑剤において増稠剤は全て同一のものを使用した。
【0042】
(3b)定着フィルムの加速試験
上記(3a)で用意した実施例1〜3および比較例1〜3に係る潤滑剤によって定着フィルムにクラックが発生するか否かを評価するために以下の方法で加速試験を行った。
1)図2に示す加熱定着装置Fの定着フィルム23の表面に潤滑剤を直接塗布する。
2)記録材Pを通紙しない状態で、加熱定着装置Fを200℃温調で10分間空回転する。
3)空回転停止後、1時間静置して加熱定着装置Fを室温程度にまで冷却する。
4)OHTを用紙としてイエロー単色のベタ画像をプリントし、画像上に図8に示すような横スジの有無(クラックの有無)を確認する。
5)もしクラックの発生が無い場合は、上記1)から4)を5回繰り返してクラックの発生を確認する。
その結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、比較例1、2の直鎖タイプの基油のみからなる潤滑剤の場合、分子量を変えても加速試験の1回目でクラックが発生した。一方、比較例3の側鎖タイプの基油のみからなる潤滑剤の場合、加速試験を5回行ってもクラックは発生しなかった。
一方、本実施例のブレンドタイプの基油からなる潤滑剤の場合、実施例1に係る、直鎖タイプの配合比率が80%と大きい潤滑剤を用いた場合には加速試験の3回目でクラックが発生した。しかし、実施例2〜3に係る、直鎖タイプの配合比率が50%を下回る潤滑剤を用いた場合には、加速試験を5回行ってもクラックは発生しなかった(実施例2、3)。
【0045】
このように、実施例1のように直鎖タイプの基油に側鎖タイプの基油を少量ブレンドしただけでも、比較例1、2のような直鎖タイプのみの基油の場合と比べて、クラックの発生を格段に抑制させることができた。これは、基油であるPFPEの化学構造によるものと考えられている。直鎖タイプのPFPEは化学構造的に立体障害が無いため、PFAに浸透しやすい性質を有する。
一方、側鎖タイプのPFPEは化学構造的に側鎖にトリフルオロメチル基を有しており、その側鎖が立体障害となって、PFAに浸透する際に側鎖タイプのPFPEはPFA内で詰まりやすいため、PFAに浸透する量としては直鎖タイプよりも少なくなる性質を有する。PFAに浸透する量により膨潤の程度も変わるため、浸透する量が多い直鎖タイプのPFPEの方がPFAの強度を低下させやすい、すなわち定着フィルム23の離型層233のクラックを引き起こしやすいのである。
【0046】
ここで、本実施例のように、直鎖タイプと側鎖タイプとのPFPEをブレンドした場合、側鎖タイプは直鎖タイプに比べて動粘度の温度依存性が大きいため、高温環境下での流動性が高い。そのため、側鎖タイプのPFPEは定着フィルム23の離型層233であるPFAに対して、直鎖タイプよりも先に浸透しやすい性質を有する。上述したように、側鎖タイプのPFPEはPFAに浸透しても側鎖の立体障害によりPFA内で詰まりやすいため、PFAに先に側鎖タイプのPFPEが浸透することで、後から直鎖タイプのPFPEが浸透するのをブロックするような機能を発揮していると考えられている。すなわち、潤滑剤として少量でも側鎖タイプのPFPEを有することで、定着フィルム23の離型層233であるPFAのクラックを抑制することができるのである。
【0047】
今回の比較検討において、実施例1は加速試験の3回目でクラックが発生したが、これは加速試験の結果であり、本実施例の画像形成装置を用いた10万枚の通紙耐久試験ではクラックは発生しなかった。一方、加速試験の1回目でクラックが発生した比較例1では、通紙耐久試験においてもクラックが発生した。つまり、加速試験の結果はクラック抑制に対する相対的な優劣を示すものであり、加速試験でクラックが発生しても相対的にクラックが発生しにくいものに関しては、使用する加熱定着装置F及び画像形成装置の仕様により実用上クラックを発生させないことが可能である。このように、加熱定着装置F及び画像形成装置の仕様により、クラック抑制に効果のあるPFPEの直鎖タイプと側鎖タイプとの配合比率は異なるため、本発明としてはPFPEの直鎖タイプと側鎖タイプとの配合比率は特に制限を設けず、少なくとも側鎖タイプのPFPEを有することとする。
【0048】
なお、本実施例では、定着フィルム23の離型層233としてPFAを用いて説明したが、フッ素樹脂であれば制限は無く、PTFEやFEPのような材料でも良い。樹脂によってガラス転移点や結晶状態が異なるため、クラックの発生条件や発生レベルは異なるが、本実施例によりPFPEの浸透を抑制する効果は同様に得ることができる。
また、本実施例では、定着フィルム23の離型層233としてPFAのチューブ成型品を用いて説明したが、コーティング品を用いても良い。チューブ成型品の方が成型時や被覆時に延伸を伴う製法のため、延伸による樹脂の配向によりクラックを引き起こしやすい性質はあるが、コーティング品でもPFPEの浸透により膨潤するため、コーティング条件によってはクラックを引き起こすことがある。少なくとも、PFPEの浸透による膨潤により、定着フィルム23の離型層233の表面性や強度、耐磨耗性を低下させているため、本実施例による効果は同様に得ることはできる。
【0049】
(4)低温環境下における加熱定着装置Fの起動トルク比較
次に、潤滑剤の基油として側鎖タイプのPFPEを使用した場合の懸念点として考えられる低温環境下での加熱定着装置Fの起動トルクについて、上述の潤滑剤を用いて比較検討を行った。
加熱定着装置Fの起動トルクとしては、15℃の低温環境下で、かつ加熱定着装置Fが冷えた状態からの駆動トルクを測定した。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示すように、比較例1、2の直鎖タイプの基油のみからなる潤滑剤の場合、分子量を大きくすると起動トルクは上昇した。一方、比較例3の側鎖タイプの基油のみからなる潤滑剤の場合、ほぼ同じ分子量である直鎖タイプ(比較例1)に比べて、かなり起動トルクは上昇した。本実施例のブレンドタイプの基油からなる潤滑剤の場合、側鎖タイプの配合比率が80%と大きくても、側鎖タイプのみの比較例3に比べると起動トルクはかなり低く(実施例3)、さらに側鎖タイプの配合比率が50%を下回ると、直鎖タイプのみの比較例1とほぼ同等の起動トルクとなった(実施例1、2)。
【0052】
このように、実施例3のように側鎖タイプの基油に直鎖タイプの基油を少量ブレンドしただけでも、比較例3のような側鎖タイプのみの基油の場合と比べて、低温環境下における加熱定着装置Fの起動トルクを格段に抑制することができた。これは、側鎖タイプの基油の中に少量でも動粘度の温度依存性が小さい直鎖タイプの基油をブレンドし、低温環境下でも部分的に流動性の良い領域を存在させることで、その領域を発端に潤滑剤としての流動性が向上しているためと考えている。
【0053】
すなわち、潤滑剤の基油として側鎖タイプのPFPEを使用した場合の懸念点として考えられていた低温環境下での加熱定着装置Fの起動トルクは、直鎖タイプのPFPEを少量でもブレンドさせることで抑制することができるのである。本実施例においては、直鎖タイプのPFPEの配合比率を少なくとも20%以上とすれば、低温環境下での加熱定着装置Fの起動トルクは実用上問題が無い。
【0054】
(5)耐久試験後の画像形成装置の状態比較
次に、潤滑剤の基油として側鎖タイプのPFPEを使用した場合のもう一つの懸念点として考えられる加熱定着装置Fの耐久性について、上述の潤滑剤を用いて比較検討を行った。
加熱定着装置Fの耐久性としては、各実施例および各比較例に係る潤滑剤を用いた画像形成装置によって10万枚の電子写真画像を形成する耐久試験後における、定着フィルム23の内周面と摺動するヒータ21面に残っている潤滑剤の状態を目視により確認した。そして、潤滑剤の劣化具合から画像形成装置の耐久性の比較を行った。
ここで潤滑剤の劣化とは、耐久試験での潤滑剤の流出による摺動摩擦部における潤滑剤の枯渇により、定着フィルム23やガイド22の摺動面から定着フィルム23やガイド22のような部材の削り粉が生じ、その削り粉が潤滑剤と混ざることよって潤滑剤が変色し粘度が増大し、定着フィルム23の回転運動を安定して行えない状態を示す。結果を表3に示す。
表3中の潤滑剤の状態を表す記号の定義は以下の通りである。
A:は潤滑剤の劣化が軽微で問題の無いレベル。
B:潤滑剤の劣化は若干あるが実用上は問題の無いレベル。
C:潤滑剤が劣化しておりヒータ21と定着フィルム23との間の摺動性の低下により記録材Pの搬送性が不安定になると思われるレベル。
【0055】
【表3】

【0056】
表3に示すように、比較例1、2の直鎖タイプの基油のみからなる潤滑剤の場合、耐久試験後の潤滑剤の状態は良好であった。一方、比較例3の側鎖タイプの基油のみからなる潤滑剤の場合、耐久試験後の潤滑剤の状態は悪かった。本実施例のブレンドタイプの基油からなる潤滑剤の場合、側鎖タイプの配合比率が80%と大きくても側鎖タイプのみの比較例3に比べると潤滑剤の状態は良好で、実用上は問題の無いレベルであった(実施例3)。さらに、側鎖タイプの配合比率が50%を下回ると、直鎖タイプのみの比較例1、2とほぼ同等のレベルで潤滑剤の状態は良好であった(実施例1、2)。
【0057】
このように、実施例3のように側鎖タイプの基油に直鎖タイプの基油を少量ブレンドしただけでも、比較例3のような側鎖タイプのみの基油の場合と比べて、耐久試験後のヒータ面上の潤滑剤の状態を実用上問題の無いレベルまで良化させることができた。これは、側鎖タイプの基油の中に少量でも動粘度の温度依存性が小さい直鎖タイプの基油をブレンドし、高温環境下でも部分的に高い粘度を維持できる領域を存在させることで、定着フィルム23端部からの潤滑剤の流出を抑制しているためと考えている。
すなわち、潤滑剤の基油として側鎖タイプのPFPEを使用した場合の懸念点として考えられていた加熱定着装置Fの耐久性は、直鎖タイプのPFPEを少量でもブレンドさせることで実用上問題の無いレベルにすることができるのである。本実施例においては、直鎖タイプのPFPEの配合比率を少なくとも20%以上とすれば、加熱定着装置Fの耐久性は実用上問題が無い。
【0058】
なお、本発明の像加熱装置は、加熱定着装置に限られず、仮定着する像加熱装置や画像を担持した記録材を再加熱してつやのような画像表面性を改質する像加熱装置のような像加熱装置としても使用できる。
以上説明したように、本発明によれば、直鎖タイプと側鎖タイプとをブレンドしたPFPEからなる潤滑剤を使用することにより、定着フィルムの表層に発生するクラックやひび割れを抑制し、画像品質の低下も抑制できる。また、耐久試験を通して記録材の搬送も安定して行うことができる。
【符号の説明】
【0059】
N・・・定着ニップ部
F・・・加熱定着装置
P・・・記録材
T・・・トナー像
G・・・潤滑剤(グリース)
20・・・定着部材
21・・・ヒータ
22・・・ガイド
23・・・定着フィルム
30・・・加圧ローラ
211・・基板
212・・発熱体
213・・保護層
214・・温度検知素子
301・・芯金
302・・弾性層
303・・離型層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂を含む表層を有し、かつ、両端が開放されている、可撓性の回転体と、
該回転体を加熱する加熱体と、
該回転体の内部に配置され、該回転体の内周面との摺動面を有する該回転体の保持部材と、
該回転体と共にニップ部を形成する加圧部材と、を有し、
該回転体および該加圧部材の回転により、該ニップ部において記録材を挟持し、かつ、搬送しつつ該記録材を加熱する加熱装置であって、
該回転体と該保持部材の摺動面との間に、直鎖型のパーフルオロポリエーテルと側鎖型のパーフルオロポリエーテルとを含有する潤滑剤が介在させられていることを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記側鎖型のパーフルオロポリエーテルは、側鎖にトリフルオロメチル基を有する請求項1に記載の加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−123374(P2012−123374A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244699(P2011−244699)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】