説明

加熱調理器具

【課題】調理器具であるマイクロ波発熱シートの耐久性、安全性の向上を図り、常に清潔な状態を維持することにより、繰り返しの使用を可能にする。
【解決手段】キュリー温度が200〜300℃の範囲の金属酸化物を用いたフェライト粉末12と、フェライト粉末12のキュリー温度以上の耐熱性を有するバインダーと非粘着性材料の混合体13でマイクロ波発熱シート11を構成し、フェライト粉末12のキュリー温度近傍でのマイクロ波吸収特性の変化を利用して、300℃以上の過昇温を防止することにより、構成材料の劣化や破損を防止するとともに、マイクロ波発熱シート11に含まれる非粘着性材料によって、食品の付着を抑制や食品の付着力を低下させ、容易に洗浄除去することができるので常に清潔な状態を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジを用いて食品を調理する加熱調理器具に関し、より具体的には、加熱調理器具が照射されたマイクロ波エネルギーを吸収することによって発熱する熱を利用して調理器具の表面の温度を高温に昇温させ、食品を短時間で調理可能とするマイクロ波発熱シートで構成した加熱調理器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子レンジのマイクロ波を利用して、魚や肉などの食品を加熱調理する調理シートが開発または実用化されている。これらの調理シートは、マイクロ波を吸収して発熱する機能を有し、この発熱した熱によって食品を焼き上げるものであり、グリルヒータなどの加熱源を必要とせず、マイクロ波の照射のみでグリル調理ができるようになっている。
【0003】
従来、この種の調理シートは、図5、図6に示されるような構成のものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記従来の技術について、図面を参照して説明する。図5は、特許文献1に記載された従来のマイクロ波発熱体が設けられた調理シートの平面図、図6は、従来のマイクロ波発熱体が設けられた調理シートの平面図A−A部の断面図であり、詳細な構造を示している。
【0005】
図5、図6に示すように、調理シート1は、支持体2と、支持体2の表面にマイクロ波発熱体3が配置され、さらに支持体2とマイクロ波発熱体3との上にはプラスチックフィルム4が配置されて構成されている。
【0006】
プラスチックフィルム4として、ポリエチレンテレフタレートなどが用いられ、このプラスチックフィルム4にアルミニウムなどの金属を蒸着することによって薄膜の金属層からなるマイクロ波発熱体3を形成し、これを紙などからなる支持体2と貼り合わせて調理シート1が製造される。
【0007】
この調理シート1に魚や餅などの食品を載置し、電子レンジの加熱室に入れてマイクロ波を照射すると、調理シート1に設けているマイクロ波発熱体3がマイクロ波を吸収し発熱する。
【0008】
発熱作用によって調理シート1の温度が高くなると、調理シート1のマイクロ波発熱体3の部分と接触している食品が熱伝導により加熱され、焦げ目が付いて調理される。
【0009】
この調理シート1が一つの場合は、食品の片面しか焼けないが、調理シート1を複数用いることにより食品全体を焼くことができるものである。
【0010】
図7は、特許文献2に記載された他の従来のマイクロ波発熱体が設けられた調理シートの要部断面図である。
【0011】
図7に示すように、調理シート5は、ポリエステルなどのプラスチックフィルム6に酸化スズインジウムなどの導電膜を蒸着して形成したマイクロ波発熱体7を紙などの補強材8に接着して構成され、さらにマイクロ波発熱体7のない側の補強材8には食品の調理中に発生する臭いを除去する脱臭剤含有層9が形成されている。
【0012】
この調理シート5のプラスチックフィルム6を内側にして袋を作製し、この袋の中に食品を配置し、電子レンジの加熱室に入れてマイクロ波を照射すると、特許文献1と同じような作用で食品が加熱調理される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2011−89719号公報
【特許文献2】実公平5−23145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来の調理用シートに用いられているマイクロ波発熱体は、金属層もしくは金属酸化物の導電層であり、マイクロ波を照射し続けると、マイクロ波発熱体がマイクロ波を吸収し続けるものである。
【0015】
この場合、調理シートに食品が配置され、食品とマイクロ波発熱体の部分が接触状態であれば、マイクロ波を照射しても食品の熱容量にマイクロ波発熱体の温度は適度な温度上昇となるが、食品と接触していない部分、あるいは人為的なミスによって食品を入れないでマイクロ波を照射すると、マイクロ発熱体は高温になり、調理シートに用いているプラスチック材料や紙が熱によって劣化することによる機械的強度の低下や、調理用シートの溶損などが発生し、繰り返しの使用が出来なくなる、調理性能が低下するなどの可能性を有する。
【0016】
また、調理シートに用いられている食品と接触するプラスチックフィルムは、非粘着性が劣り、食品の表面層の一部がプラスチックシートに強固に付着するため、調理シートを洗剤などで洗浄しても完全に除去することが困難であり、再使用すると所定の調理性能が得られなくなる可能性があるとともに、強固に接着した付着物を無理やり除去すると、調理シートが破損し、再使用できなくなるという課題を有していた。
【0017】
さらに、食品が付着した調理シートの保管することは衛生面で好ましくなく、長期の保管ができないため、使い捨てになるという課題を有している。
【0018】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、調理器具の過昇温の防止と高い防汚性を実現し、耐久性、安全性、衛生性に優れ、長期間の再使用が可能である加熱調理器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の加熱調理器具は、キュリー温度が200〜300℃の範囲の金属酸化物を用いたフェライト粉末と、前記フェライト粉末のキュリー温度以上の耐熱性を有するバインダーと、非粘着性材料と、必要に応じて補強材料を含む可撓性を有するマイクロ波発熱シートで構成している。
【0020】
これによって、キュリー温度が300℃以下の金属酸化物のフェライトは、マイクロ波の吸収によって発熱するが、キュリー温度に近づくとマイクロ波の吸収が低下し、発熱しなくなるので食品が配置されていない状態や、食品と接触していない箇所が存在しても300℃以上の過昇温が防止され、加熱調理器具を構成するマイクロ波発熱シートの劣化や破損を防止することができる。
【0021】
また、マイクロ波発熱シートは、非粘着性材料を含有させているので、食品がマイクロ波発熱シートへの強固な付着を少なくすることができるとともに、付着しても食品の接着
力が弱いため、洗浄によって容易に除去することが可能で、清潔な状態を維持することができ、衛生的である。
【0022】
さらに、加熱調理器具のマイクロ波発熱シートに補強材料を含有させることにより、引っ張りや屈曲などの機械的強度を一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の加熱調理器具は、加熱調理器具を構成する材料の耐熱温度以上の昇温を防止することができるので加熱調理器具の劣化や破損を防止することができ、高い耐久性、安全性を実現することができるとともに、加熱調理器具への食品の付着の抑制や、付着した食品を容易に洗浄除去することができるので長期間の再利用が可能となり、かつ常に優れた調理性能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態1における加熱調理器具を構成するマイクロ波発熱シートの平面図
【図2】本発明の実施の形態1における加熱調理器具を構成するマイクロ波発熱シートのB−B部の要部断面図
【図3】本発明の実施の形態2における加熱調理器具を構成するマイクロ波発熱シートの要部断面図
【図4】本発明の実施の形態3における加熱調理器具を構成するマイクロ波発熱シートの要部断面図
【図5】従来のマイクロ波発熱体が設けられた調理シートの平面図
【図6】従来のマイクロ波発熱体が設けられた調理シートの平面図のA−A部の断面図
【図7】従来の他の調理シートの要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
第1の発明は、キュリー温度が200〜300℃の範囲の金属酸化物を用いたフェライト粉末と、前記フェライト粉末のキュリー温度以上の耐熱性を有するバインダーと、非粘着性材料と、必要に応じて補強材料を含む可撓性を有するマイクロ波発熱シートで構成することにより、フェライト粉末がキュリー温度に近づくとマイクロ波による発熱作用が無くなり、300℃以上の過昇温が防止され、加熱調理器具を構成するマイクロ波発熱シートの劣化や破損を防止することができ、耐久性、安全性に優れた加熱調理器具を実現することができる。
【0026】
また、マイクロ波発熱シートに含有させている非粘着性材料が、食品の付着を抑制することや食品の付着力を低下させるため、洗浄によって容易に除去することができ、常に清潔な状態を維持することができるので長期間再利用することができる。
【0027】
さらに、加熱調理器具のマイクロ波発熱シートに補強材料を含有させることにより、引っ張りや屈曲などの機械的強度をさらに高めることができ、加熱調理器具としての耐久性を一層向上させることができる。
【0028】
第2の発明は、特に、第1の発明のマイクロ波発熱シートの厚みが、0.7〜2.0mmであるとすることにより、マイクロ波を吸収するフェライト粉末の量を多くすることができるので、発熱性能を向上させることができるとともに、マイクロ波発熱シートの可撓性を低下させることがないので食品との接触がよくなり、高い調理性能を実現することができる。
【0029】
第3の発明は、特に、第1または第2の発明のマイクロ波発熱シートのキュリー温度が200〜300℃の範囲の金属酸化物を用いたフェライト粉末の含有量が60〜80重量%であるとすることにより、マイクロ波を吸収するフェライト粉末の量を多くすることができるので、発熱性能に優れ、かつ可撓性に優れたマイクロ波発熱シートで構成した加熱調理器具を実現することができる。
【0030】
第4の発明は、特に、第1〜3のいずれか1つの発明のキュリー温度が200〜300℃の範囲の金属酸化物を用いたフェライト粉末が、鉄、マンガン、亜鉛の複合金属酸化物であるとしたことにより、マイクロ波の吸収率を高くすることができるので、発熱性能に優れたマイクロ波発熱シートで構成した加熱調理器具を実現することができる。
【0031】
第5の発明は、特に、第1〜4のいずれか1つの発明のフェライト粉末のキュリー温度以上の耐熱性を有するバインダーが、架橋されたシリコーンゴムを含むとしたことにより、可撓性を損なわずフェライト粉末の含有量を多くすることができるとともに耐熱性を高くすることができ、加熱調理器具としての耐久性や発熱性能を向上させることができる。
【0032】
第6の発明は、特に、第1〜5のいずれか1つの発明の非粘着性材料が、フッ素樹脂を含むとしたことにより、フッ素樹脂の持つ優れた撥水、撥油の性質を利用することができるため、マイクロ波発熱シートの非粘着性を高くすることができ、優れた食品の付着に対する防汚性、付着した食品の除去性能を向上させることができ、加熱調理器としての繰り返し使用の期間を大幅に伸ばすことできる。
【0033】
第7の発明は、特に、第6の発明のフッ素樹脂を含む非粘着性材料が、マイクロ波発熱シートの表面に形成された非粘着性被覆膜であるとすることにより、マイクロ波発熱シートの全表面を非粘着性とすることができるので、食品の付着がより少なくなり、防汚性を向上させることができるとともに、洗浄による付着した食品の除去性能を一段と向上させることができる。
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本発明の各実施の形態特有の構成を適宜組み合わせることができる。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0035】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における加熱調理器具を構成するマイクロ波発熱シートの平面図であり、本発明の加熱調理器具は、マイクロ波発熱シート11で構成されている。
【0036】
図2は、マイクロ波発熱シート11の詳細な構造を示すものであり、図1のB−B部における要部断面図を示すものである。
【0037】
図1、図2において、加熱調理器具を構成するマイクロ波発熱シート11は、マイクロ波を吸収して発熱するフェライト粉末12と、バインダーと非粘着性材料の混合体13(バインダーと非粘着性材料は固体粒子ではないので明確に区別できない)を含む組成であり、フェライト粉末12は、バインダーと非粘着性材料の混合体13の中に均一に分散した状態となっている。なお、必要に応じて分散剤やゴムの老化防止剤、酸化防止剤などが添加される。
【0038】
フェライト粉末12は、マイクロ波を吸収して発熱する作用を有するが、ある温度以上になると、強磁性体が常磁性体に転移することによってフェライト粉末12の自発磁化が消失し、マイクロ波を吸収しなくなる。強磁性体が常磁性体に転移する温度をキュリー温
度という。
【0039】
通常、ハンバーグや魚などの高温を必要とする食品の調理温度は、200℃前後であり、本発明で適用されるフェライト粉末12のキュリー温度は、200℃の調理温度以上であることが望ましい。
【0040】
一方、可撓性を有するマイクロ波発熱シート11を実現するためには、有機化合物を用いたバインダーとフェライト粉末12との複合組成物とする必要がある。
【0041】
有機化合物を用いたバインダーの耐熱性は、高いものでも300℃であり、300℃以上に温度が上昇すると、有機化合物を用いたバインダーの熱分解が起こり、耐久性が低下するという問題が発生する。
【0042】
以上のことから、マイクロ波発熱シート11は、発熱性能と耐久性を両立する温度範囲で使用される必要があり、これを達成するためのフェライト粉末12のキュリー温度は、200〜300℃の範囲であることが望ましい。
【0043】
また、本実施の形態で用いられるフェライト粉末12は、特に、主成分が鉄、マンガン、亜鉛の複合金属酸化物であるMn−Zn系フェライトが好適である。Mn−Zn系フェライトは、磁束密度が高く、磁性損失が大きいのでマイクロ波の吸収率を高くすることができるため、このMn−Zn系のフェライト粉末12を含有させたマイクロ波発熱シート11は、昇温速度を速くすることができ、優れた発熱性能を実現することができる。
【0044】
マイクロ波発熱シート11に用いられるフェライト粉末12のキュリー温度以上の耐熱性を有するバインダーとしては、シリコーンゴムやフッ素ゴムが挙げられる。中でもシリコーンゴムは、フェライト粉末12との分散性に優れ、フェライト粉末12を多量に含有させることができるのでマイクロ波の吸収率を高くすることができ、発熱性能に優れたマイクロ波発熱シート11を実現することができる。
【0045】
また、フェライト粉末12は含有量が多くてもシリコーンゴムとの馴染みがよいので、優れた可撓性と高い引張強度を維持することができ、マイクロ波発熱シート11を強い力で擦ったり、落下させても簡単に破損することはない。
【0046】
また、シリコーンゴムを架橋剤によって架橋させることにより、高い耐熱性や優れた耐化学薬品性を発現させることができるので、耐久性、信頼性の高いマイクロ波発熱シート11で構成した加熱調理器具を実現することができる。
【0047】
非粘着性材料としては、フッ素樹脂が有用である。フッ素樹脂は耐熱性が高く、撥水性、撥油性に優れているため、フッ素樹脂をマイクロ波発熱シート11に含有させることにより、マイクロ波発熱シート11の非粘着性を高くすることができ、調理中の食品の付着を抑制するとともに、食品が付着しても付着力を弱める作用を有するので付着した食品を洗浄によって容易に除去することができる。
【0048】
したがって、マイクロ波発熱シート11を加熱調理器具として常に清潔で衛生な状態を保つことができるので、再利用(繰り返し使用)の期間を大幅に伸ばすことできる。
【0049】
次に、本発明のマイクロ波発熱シート11で構成した加熱調理器具の製造方法の一例について述べる。
【0050】
オープンロールやニーダーなどの混練加工装置を用い、所定の配合量のフェライト粉末
12と、フェライト粉末12のキュリー温度以上の耐熱性を有するバインダーとして選択したシリコーンゴムと、非粘着性材料として選択したフッ素樹脂が均一に分散するまで混練し、その後、架橋剤を添加し、再度混練する。
【0051】
混練された組成物の固まり、もしくはオープンロールでシート状に分出ししたものを必要量採取し、ホットプレスで一次架橋処理を兼ねた加圧成形を行う。その後、ホットプレスからシート状の成形体を取り出し、二次架橋処理を行うことによってマイクロ波発熱シート11が製造され、所定の大きさに加工することによって加熱調理器具が得られる。
【0052】
なお、混練の際にマイクロ波発熱シート11の耐熱性を向上させるための耐熱性剤、老化防止剤や、柔軟性を付与するための油脂剤などを必要に応じて添加してもよい。
【0053】
次に、電子レンジを用い、マイクロ波発熱シート11で構成した加熱調理器具の動作と作用について説明する。
【0054】
食品を載置したマイクロ波発熱シート11で構成した加熱調理器具を電子レンジの加熱室に配置し、開閉扉を閉めた状態で電子レンジ加熱の指示操作を行うと、加熱室内にマイクロ波が照射される。
【0055】
照射されたマイクロ波は、マイクロ波発熱シート11に含有するフェライト粉末12が吸収して熱に変換し、変換された熱によってマイクロ波発熱シート11全体が高温に加熱され、載置している食品が加熱調理される。
【0056】
加熱調理器具は、マイクロ波発熱シート11のみで構成しているので、軽量であることにより熱容量を小さくすることができるため、マイクロ波発熱シート11の昇温が速く、短時間で調理温度に到達させることが可能となり、食品の調理時間を大幅に短縮することができ、優れた省エネ効果を実現することができる。
【0057】
また、調理時間を短縮できることによって、食品の乾燥を抑制することができ、ジューシーさ、おいしさの向上など優れた調理性能を実現することができる。
【0058】
マイクロ波発熱シート11の食品と接触していない部分は、接触している箇所より、温度が高くなる。しかし、マイクロ波発熱シート11に用いているフェライト粉末12は、キュリー温度近傍に昇温すると強磁性体が常磁性体に転移し、自発磁化が消失し、マイクロ波を吸収しなくなる。
【0059】
したがって、マイクロ波発熱シート11に、200〜300℃のキュリー温度を有するフェライト粉末12を含有させることにより、300℃以上の過昇温が防止され、バインダーであるシリコーンゴムや非粘着性材料であるフッ素樹脂などの劣化が防止されるため、マイクロ波発熱シート11の破損や溶損が無くなり、加熱調理器具としての耐久性を向上させることができる。
【0060】
フェライト粉末12は、キュリー温度以上でマイクロ波を吸収しなくなるが、温度が下がると、フェライト粉末12に自発磁化が現れるため、磁束密度、透磁率、磁性損失が大きくなり、マイクロ波を吸収し、発熱するようになる。
【0061】
以上のことから、フェライト粉末12を含有するマイクロ波発熱シート11は、材料自身が自己温度制御の機能を有するため、マイクロ波発熱シート11の温度を検知してマイクロ波電力を制御して過昇温を防止するという安全装置を用いなくとも安全を確保することができる。
【0062】
また、安全装置を必要としないため、マイクロ波を照射する電子レンジに複雑な電子制御・制御デバイスが不要となり、すべての電子レンジで使用することができ、汎用性の高い加熱調理器具を提供することができる。
【0063】
フェライト粉末12としては、加熱調理器具であるマイクロ波発熱シート11を所定の温度に飽和させるために、磁性損失以外の発熱作用が無いフェライト材料、もしくは所定の飽和温度を変化させない程度の発熱作用を有するフェライト材料であることが好ましい。
【0064】
また、フェライト粉末12としては、Mn−Zn系フェライトの他に、Mg−Zn系、Ni−Zn系のフェライトが挙げられ、本発明の目的を達成できる磁性特性、キュリー温度であれば適用できる。
【0065】
本実施の形態の加熱調理器具であるマイクロ波発熱シート11は、膜厚が厚くなると可撓性が低下するため、耐衝撃性や引張強度が低下し、膜厚が薄くなるとフェライト粉末12の量が少なくなり、マイクロ波の吸収量が低下して昇温速度が遅くなる。
【0066】
キュリー温度が200〜300℃のフェライト粉末12を用いる、すなわち、マイクロ波発熱シート11の飽和温度を200〜300℃とする場合には、上記の課題を解決するためのマイクロ波発熱シート11の膜厚は0.7〜2mmであることが望ましい。
【0067】
また、高い調理温度を得るために、マイクロ波発熱シート11の飽和温度を260〜300℃とした場合、マイクロ波発熱シート11のマイクロ波エネルギーの吸収量と放熱量のバランス幅が狭くなるため、マイクロ波発熱シート11の膜厚は、1.0〜1.5mmの範囲が適している。
【0068】
また、フェライト粉末12のバインダーに対する含有量は、多くなると可撓性が低下するため、耐衝撃性や引張強度が低下し、含有量が少なくなるとフェライト粉末12のマイクロ波の吸収量が低下して昇温速度が遅くなる。
【0069】
マイクロ波発熱シート11の飽和温度を200〜300℃とする場合には、上記の課題を解決するためのフェライト粉末12の含有量は60〜80重量%が適している。
【0070】
また、高い調理温度を得るために、マイクロ波発熱シート11の飽和温度を260〜300℃とした場合、マイクロ波発熱シート11のマイクロ波エネルギーの吸収量と放熱量のバランス幅が狭くなるため、フェライト粉末12の含有量は65〜80重量%の範囲が適している。
【0071】
(実施の形態2)
図3は、本発明の第2の実施の形態における加熱調理器具を構成するマイクロ波発熱シートの要部断面図を示すものである。実施の形態1と異なる点は、マイクロ波を吸収して発熱するフェライト粉末と、バインダーと、非粘着性材料とを用いた組成に、補強材料を加えた組成でマイクロ波発熱シートを構成した点であり、図中、実施の形態1と同一材料は同じ符号を付している。
【0072】
図3において、加熱調理器具を構成するマイクロ波発熱シート14は、マイクロ波を吸収して発熱するフェライト粉末12と、バインダーと非粘着性材料の混合体13(バインダーと非粘着性材料は固体粒子ではないので明確に区別できない)を含む組成に、補強材料15が添加されており、フェライト粉末12と、補強材料15は、バインダーと非粘着
性材料の混合体13の中に均一に分散した状態となっている。なお、必要に応じて分散剤やゴムの老化防止剤、酸化防止剤などが添加される。
【0073】
実施の形態1で述べたマイクロ波発熱シート11は、食品に巻いて使用する場合や調理後の洗浄の際に、抗張力が加えられることがある。このような力が加えられると、マイクロ波発熱シート11は、破れや亀裂が入るなどの破損が発生する可能性を有する。
【0074】
補強材料15を添加したマイクロ波発熱シート14は、実施の形態1のマイクロ波発熱シート11よりも機械的強度を向上させ、外力が加わってもシートの破損を防止できるようにしたものである。
【0075】
補強材料15は、繊維状の形状を有し、これをマイクロ波発熱シート14の中に分散させることにより、バインダーとの接着力を向上させることができるため、マイクロ波発熱シート14の抗張力を高くすることができ、機械的強度を一層向上させることができる。
【0076】
補強材料15としては、繊維状の300℃以上の耐熱性を有する材料がよく、アルミナ、シリカのなどのセラミック繊維、ガラス繊維が好適である。
【0077】
これらの補強材料15の含有量は、多くなると可撓性が著しく低下するため、可撓性を維持するために5〜30重量%であることが望ましい。
【0078】
(実施の形態3)
図4は、本発明の第3の実施の形態における加熱調理器具を構成するマイクロ波発熱シートの要部断面図を示すものである。
【0079】
実施の形態1と異なる点は、マイクロ波を吸収して発熱するフェライト粉末と、バインダーとを用いた組成のシートの表面に非粘着性被覆膜を設けてマイクロ波発熱シートを構成した点であり、図中、実施の形態1と同一材料は同じ符号を付している。
【0080】
図4において、加熱調理器具を構成するマイクロ波発熱シート16は、マイクロ波を吸収して発熱するフェライト粉末12と、バインダー17を含む組成でシート18を構成し、このシート18の表面に非粘着性被覆膜19が形成されている。フェライト粉末12は、バインダー17の中に均一に分散した状態となっている。なお、必要に応じて分散剤やゴムの老化防止剤、酸化防止剤などが添加される。
【0081】
マイクロ波発熱シート16の表面に非粘着性被覆膜19を形成することにより、マイクロ波発熱シート16の表面のすべてを非粘着性とすることができる。これによって食品のマイクロ波発熱シート16への付着をより少なくすることができるとともに、付着した食品の洗浄による除去性能を一層向上させることができる。
【0082】
この非粘着性被覆膜19は、フェライト粉末12とバインダー17でシート18を作製した後、非粘着性材料を被覆処理して形成される。非粘着性被覆膜19の材料としては、実施の形態1で用いたフッ素樹脂が挙げられ、フッ素樹脂を適当な溶媒で希釈し、スプレーなどの方法で塗布することによって作製される。
【0083】
この非粘着性被覆膜19は、実施の形態2のマイクロ波発熱シートにも適用可能であり、同様な効果を実現することができる。
【0084】
なお、実施の形態1〜5で述べたマイクロ波発熱シートにおいて、マイクロ波発熱シートを手で持つ部位が高温にならないように、例えば、マイクロ波発熱シートの一部にフェ
ライト粉末を含まないシートを融着するか、耐熱性部材を取り付けることにより、マイクロ波発熱シートを安全に調理機器から取り出すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上詳細に説明してきたように、本発明にかかる加熱調理器具であるマイクロ波発熱シートは、マイクロ波のみの照射によってグリル調理を可能とすることができるので、ユーザーがすでに購入しているグリル機能を持たない電子レンジなどのマイクロ波加熱装置に適用可能であるとともに、乾燥機など調理機器以外のマイクロ波加熱機器のヒータとしても適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
11、14、16 マイクロ波発熱シート
12 フェライト粉末
13 バインダーと非粘着性材料の混合体
15 補強材料
17 バインダー
19 非粘着性被覆膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キュリー温度が200〜300℃の範囲の金属酸化物を用いたフェライト粉末と、
前記フェライト粉末のキュリー温度以上の耐熱性を有するバインダーと、
非粘着性材料と、
必要に応じて補強材料を含む可撓性を有するマイクロ波発熱シートで構成した加熱調理器具。
【請求項2】
マイクロ波発熱シートの厚みが、0.7〜2.0mmである請求項1に記載の加熱調理器具。
【請求項3】
マイクロ波発熱シートのキュリー温度が200〜300℃の範囲の金属酸化物を用いたフェライトの含有量が、60〜80重量%である請求項1または2に記載の加熱調理器具。
【請求項4】
キュリー温度が200〜300℃の範囲の金属酸化物を用いたフェライト粉末が、鉄、マンガン、亜鉛の複合金属酸化物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の加熱調理器具。
【請求項5】
フェライト粉末のキュリー温度以上の耐熱性を有するバインダーが、架橋されたシリコーンゴムを含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の加熱調理器具。
【請求項6】
非粘着性材料が、フッ素樹脂を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の加熱調理器具。
【請求項7】
フッ素樹脂を含む非粘着性材料が、前記マイクロ波発熱シートの表面に形成された非粘着性被覆膜である請求項6に記載の加熱調理器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−85915(P2013−85915A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232422(P2011−232422)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】