説明

加熱調理器

【課題】 鍋の性状(材質、形状等)によって鍋の温度計測に大きな誤差を与える可能性が高かった。
【解決手段】 加熱調理器は、トッププレート3に設けられ、鍋6の底面から放射される赤外線をトッププレート3の下面側に透過させる第1の測定エリア7aと、トッププレート3に設けられ、鍋6の底面から放射される赤外線を遮断し、トッププレート3の温度に起因する赤外線を放射する第2の測定エリア7bと、トッププレート3の下方に配置され、第1の測定エリア7aからの赤外線量および第2の測定エリア7bからの赤外線量を検出する赤外線量検出部7と、赤外線量検出部7により検出された第1および第2の測定エリア7a、7bの赤外線量に基づいて鍋6の温度を算出する演算部9と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクションヒーティング(以降IHと称す)式やハロゲンヒータなどを熱源に有する加熱調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の加熱調理器としては、鍋の温度検出用としてサーミスタ等の温度センサが用いられたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この温度センサは、鍋が載置されるトッププレートの下面中央部に配置され、トッププレートを介した熱伝導により鍋の底面中心温度を検出し、この検出結果に基づいて、鍋を所望の温度に温度制御するものである。
【0003】
【特許文献1】特公平6−75425号公報
【0004】
図8は、この加熱調理器の構造を示す断面図である。図8において、101は鍋102等を載置するためのトッププレートで、本体103と接着等で取り付けられている。本体103内には高周波の磁力線を発生する加熱手段であるコイル104と、このコイル104を制御する制御回路105とが内蔵され、トッププレート101の下面には感温素子106が圧着されている。そして、感温素子106からの信号が制御回路105に入力され、制御回路では、トッププレート101上の鍋102の温度上昇勾配と、通電してからの経過時間とに基づいて水の沸騰を判断し、コイル104の通電を遮断する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記のような感温センサ方式の加熱調理器では、鍋の性状(材質、形状等)によって鍋の温度計測に大きな誤差を与える可能性が高い。即ち、鍋の材質や厚さ等による熱伝導率の違いにより温度上昇勾配が異なると共に、計時手段による加熱時間も異なるため、誤差の少ない沸騰検出を実現することは難しい。また、鍋の底面形状は、フラットではなく凹んでいるもの(以下、反り鍋と称す)もあり、この場合には鍋底中央部はトッププレートに接触しないため、鍋の温度計測に大きな誤差が発生する。さらに、このような反り鍋の場合には、底面形状がフラットな鍋に比べて、温度上昇勾配に遅れが生じるため、鍋の正確な温度勾配を検出することが困難であった。
【0006】
本発明はかかる課題を解決するためになされたもので、鍋の材質や形状に影響されずに高精度な温度検出を可能とする加熱調理器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の加熱調理器は、加熱容器を上面に載置するトッププレートと、前記トッププレートの下方に配置され、前記加熱容器を加熱する通電コイルと、前記トッププレートに設けられ、前記加熱容器の底面から放射される赤外線を前記トッププレートの下面側に透過させる第1の測定エリアと、前記トッププレートに設けられ、前記加熱容器の底面から放射される赤外線を遮断し、前記トッププレートの温度に起因する赤外線を放射する第2の測定エリアと、前記トッププレートの下方に配置され、前記第1の測定エリアからの赤外線量および前記第2の測定エリアからの赤外線量を検出する赤外線量検出部と、前記赤外線量検出部により検出された前記第1および第2の測定エリアの赤外線量に基づいて前記加熱容器の温度を算出する演算部と、前記演算部により算出された加熱容器の温度に基づいて前記通電コイルを制御する制御手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る加熱調理器は、以上のように構成されているため、加熱容器の温度検出においてトッププレートで発生する赤外線量を取除くことができ、加熱容器の底面温度を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の形態1に係る加熱調理器に反り鍋を載置した状態を示す断面図である。
【図2】実施の形態1に係る加熱調理器に底がフラットな鍋を載置した状態を示す断面図である。
【図3】アレイ赤外線センサおよび演算部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図4】実施の形態2の加熱調理器に反り鍋を載置した状態を示すブロック図である。
【図5】(a)は、実施の形態3の加熱調理器に反り鍋を載置した状態を示すブロック図である。(b)は、実施の形態3の加熱調理器が備える通電コイルおよびアレイ赤外線センサの配置を示す図である。
【図6】実施の形態4の加熱調理器に反り鍋を載置した状態を示すブロック図である。
【図7】実施の形態5の加熱調理器に反り鍋を載置した状態を示すブロック図である。
【図8】従来の加熱調理器の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る加熱調理器の好適な実施の形態について添付図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る加熱調理器に反り鍋を載置した状態を示す断面図である。また図2は、実施の形態1に係る加熱調理器に底がフラットな鍋を載置した状態を示す断面図である。
【0011】
図1及び図2より、実施の形態1の加熱調理器は、箱状の筐体2内に収容され、一平面内に渦巻き状に巻回された通電コイル1と、この通電コイル1の上方に近接して配置され、筐体2の上面を構成する平面状のトッププレート3と、通電コイル1に流れる高周波の交番電流の電流量を増減させる能力制御手段4と、筐体2の上面前端に配置され、能力制御部4に対する加熱/停止の信号や被加熱物の温度設定等の信号を入力させる操作パネル5とを備えている。
【0012】
ここで、トッププレート3には、結晶化ガラス等の透過性の耐熱絶縁材料が用いられているが、その他の透過性材料を用いてもよい。また、トッププレート3の上面には、被加熱物が収容された鍋(加熱容器)6を、通電コイル1と対向する位置に載置させることができる。鍋6は、一般には鉄等の金属材料で構成され、通電コイル1への通電に伴いコイル周辺に形成される交番磁界中に置かれた状態となる。その結果、鍋6の内部を流れる渦電流の作用により、鍋6全体が加熱源となって、鍋6に収容された被加熱物が加熱される。なお、図1では底面が凹状の反り鍋を、図2では底面がフラットな鍋を用いている。
【0013】
また、実施の形態1の加熱調理器は、鍋6の載置位置の略中央部でトッププレート3の下方に配置され、近接する第1の測定エリア7a及び第2の測定エリア7bからの赤外線量を検出するアレイ赤外線センサ(赤外線量検出部)7と、トッププレート3下面の第2の測定エリア7bに塗布された赤外線放射率が1に近い黒体塗料層8と、アレイ赤外線センサ7で検出された赤外線量に基づいて、鍋6の底面温度を算出する演算部9と、筐体2の前面に配置され、演算部9で算出される温度情報や操作パネル5で設定される加熱/停止状態及び温度設定の情報などを表示する表示パネル10とを備えている。
【0014】
次に、図3のブロック図を用いて、アレイ赤外線センサ7および演算部9の詳細な構成を説明する。図3において、アレイ赤外線センサ7は、ライン状に配列された一対の受光素子11a,11bと、これらの受光素子11a,11bの前面に配置され、第1の測定エリア7aからの赤外線を受光素子11aに集光させると共に、第2の測定エリア7bからの赤外線を受光素子11bに集光させる集光レンズ12とを備えている。ここで、集光レンズ12は、トッププレート3の第1の測定エリア7aとほぼ同一の赤外線透過波長を有する材料で構成されている。即ち、一般的プレート材として用いられる結晶化ガラスは、約0.5μmから約2.5μmの波長を約90%透過する特性を有しているため、上記集光レンズ12は、少なくとも約0.5μmから約2.5μmの波長を透過する材料で構成されている。
【0015】
このように、トッププレート3の第1の測定エリア7aと、ほぼ同一の赤外線透過波長を有する材料で集光レンズ12を構成することにより、第1の測定エリア7aを透過したほとんどの赤外線が集光レンズ12で反射することなくアレイ赤外線センサ7に到達する。その結果、第1の測定エリア7aからの赤外線は、途中の光路で損失することなしにアレイ赤外線センサ7で検出できるようになり、アレイ赤外線センサ7の検出精度は向上する。
【0016】
また、アレイ赤外線センサ7は、受光素子11a,11bからの出力信号をアドレス信号(後述する)によって選択するスキャン部13と、このスキャン部13で選択された出力信号を所定レベルまで増幅する増幅部14と、受光素子11a,11bの冷接点に近接して配置されるサーミスタ等からなる接触型の基準温度素子15と、基準温度素子15からの出力信号を所定レベルまで増幅する増幅部16と、増幅部14で増幅された信号と増幅部16で増幅された出力信号とを入力して比較増幅する差動増幅部17とを備えている。
【0017】
なお、アレイ赤外線センサ13は、受光素子11a,11b、スキャン部13、増幅部14,16、基準温度素子15および差動増幅部17をキャンパッケージ等に内包し、このパッケージの表面に集光レンズ12を配置した構成としてもよい。このように構成することにより、少スペースで低コストな装置を提供できる。
【0018】
次に、演算部9を構成するマイクロコンピューター(以下、マイコンと称す)18について説明する。マイコン18は、所定のタイミングでスキャン部13に受光素子11a,11bのアドレス信号を選択出力する信号出力部19と、アレイ赤外線センサ13の差動増幅部17からの出力信号を受け取り、受光素子11a,11bの選択・切替を行なうマルチプレクサ20と、マルチプレクサ20からの電圧出力をデジタル信号に変換するA/D変換部21とを備えている。また、マイコン18は、A/D変換部21のデジタル信号出力を記憶する記憶部22と、信号出力部19と記憶部22とからの出力信号を受け取り、その目的に応じて演算処理を行う鍋温度算出部23と、鍋底温度算出部23からの出力信号を受け取り、能力制御手段4への制御量を決定する能力制御決定部24とを備えている。
【0019】
なお、記憶部22は、受光素子11a,11bの2素子に対応する記憶バッファを有している。また、鍋温度算出部23では、受光素子11aに集光された第1の測定エリア7aからの赤外線量と、受光素子11bに集光された第2の測定エリア7bからの赤外線量との2つの出力から鍋6の底面温度を算出している。さらに、能力制御決定部24の出力結果と操作パネル5に入力された運転条件とによって、能力制御手段4を介して通電コイル1の通電量制御が可能となる。また、鍋温度算出部23で算出した鍋6の底面温度の出力は、表示パネル9へと送信され、現在検出温度として表示パネル9に表示される。
【0020】
次に、実施の形態1の加熱調理器の動作について説明する。まず、被加熱物が収容された鍋6がトッププレート3に載置され、操作パネル5から目標温度設定等の調理選択が行われると、被加熱物の調理がスタートする。このスタート信号を受け、能力制御手段4とアレイ赤外線センサ7とが動作を開始する。能力制御手段4は、高周波の交番電流を温度設定に合わせた電流量で通電コイル1に通電する。通電コイル1の内部を流れる渦電流の作用によって鍋6の全体が加熱源として加熱され、鍋6内の被加熱物が加熱される。
【0021】
鍋6内の被加熱物が加熱されると鍋6は温まり、鍋6の底面から赤外線が放射される。放射された赤外線はトッププレート3の第1の測定エリア7aを透過して、集光レンズ12によって受光素子11a上に集光される。鍋6が温まることによって鍋6を載置したトッププレート3も温まり、トッププレート3の第1の測定エリア7aで赤外線が発生する。そして、トッププレート3の第1の測定エリア7aで発生した赤外線は、集光レンズ12によって受光素子11a上に集光される。
【0022】
一方、トッププレート3の第2の測定エリア7bには黒体塗料層8が塗布されているので、鍋6の底面から放射された赤外線は黒体塗料層8で遮断され、トッププレート3を透過することはない。このため、第2の測定エリア7bからはトッププレート3で発生した赤外線のみが放射され、集光レンズ12によって受光素子11b上に集光される。赤外線の集光によって受光素子11a,11bの温度が変化し、熱電対の温接点と冷接点との間に発生した温度差が電圧に変換され出力される。このとき、信号出力部19から出力されるアドレス信号により、スキャン部13は受光素子11の中の一つ、例えば受光素子11aからの出力電圧を選択して、増幅部14へ電圧を出力する。
【0023】
また、受光素子11の冷接点付近に配置された基準温度素子15は、周囲温度を検出し増幅部16へ電圧を出力する。これらの増幅部14,16で増幅された出力電圧は、差動増幅部17で比較・増幅されるため、周囲温度が変化しても鍋6の底面とトッププレート3の第1および第2の測定エリア7a,7bの温度を電圧値として正確に検出することができる。
【0024】
この差動増幅部17で比較・増幅された電圧は、マイコン18に内蔵されるA/D変換部21にマルチプレクサ20を介して入力されてデジタル信号となり、このデジタル信号が記憶部22に記憶される。このような動作をシーケンシャルに行うことにより、全ての受光素子11a,11bで検出された赤外線量データを記憶部22に記憶させることができる。なお、記憶部22を複数設けることによって、時系列毎の受光素子11a,11bの赤外線量データをそれぞれ記憶させることが可能となる。
【0025】
記憶部22に記憶された赤外線量データと信号出力部19からのアドレス信号データが鍋温度算出部23に入力され、鍋温度算出部23では、受光素子11aで検出された赤外線量データと、受光素子11bで検出された赤外線量データとから鍋6の底面の温度を算出する。上述したように、受光素子11aには、鍋6の底面から放射された赤外線と、トッププレート3で発生した赤外線とが集光されるため、受光素子11aで検出された赤外線量データは、これらの赤外線を合計した赤外線量となる。これに対して、受光素子11bには、トッププレート3で発生した赤外線のみが集光されるため、受光素子11bで検出された赤外線量データは、トッププレート3で発生した赤外線のみの赤外線量である。
【0026】
従って、受光素子11aで検出された赤外線量データから受光素子11bで検出された赤外線量データを減算することにより、鍋6の底面から放射された赤外線量のみを抽出することができる。なお、第1の測定エリア7aと第2の測定エリア7bとでは赤外線の放射率が異なるため、上述の減算では、放射率の比をパラメーターとして用い、トッププレート3の赤外線量を一致させるものとする。以上の演算によって、トッププレート3の昇温で発生する赤外線を確実にキャンセルすることができ、鍋6の底面温度を極めて正確に検出することができる。
【0027】
鍋温度算出手段23で算出された温度データは能力制御決定部24に入力され、操作パネル5からの温度設定に合わせた交番電流量が生成されるために、被加熱物は目標温度で加熱調理される。また、鍋温度算出手段23で算出された温度データは表示パネル9にも入力され、加熱中の鍋6の現在温度等がLCDの画面等に表示され使用者に知らしめることができる。
【0028】
さらに、調理終了後にトッププレート3から鍋6を取り去った時には、受光素子11aの出力が受光素子11bの出力より小さくなるため(第1の測定エリア7aに比べて第2の測定エリア7bの方が放射率が高いため)、これを検出して鍋6がない時でもトッププレート3面の高温温度表示を行い使用者に警告表示を行ったり、トッププレート3が高温時に次の調理を行う連続運転時にも、受光素子11a,11bの温度変化や差分によって正確な温度検出と制御、及び表示・警告等が可能となる。
【0029】
以上のように、鍋6の底面から放射された赤外線の赤外線量に基づいて、鍋6の底面温度を算出しているので、反り鍋のように鍋6の底面とトッププレート3との間に隙間がある場合でも、正確に温度検出を行うことができる。
【0030】
また、第1の測定エリア7aからの赤外線量は、鍋6の底面から放射された赤外線がトッププレート3を透過した赤外線量と、トッププレート3で発生した赤外線の赤外線量とを加えた値であり、第2の測定エリア7bからの赤外線量は、トッププレート3で発生した赤外線の赤外線量のみである。従って、第1の測定エリア7aからの赤外線量と、第2の測定エリア7bからの赤外線量との差を、鍋温度算出部23で計算することにより、鍋6の底面温度の真値を正確に算出することができる。
【0031】
さらに、第1の測定エリア7aと第2の測定エリア7bとは近接して配設されているため、第1の測定エリア7aで発生する赤外線と、第2の測定エリア7bで発生する赤外線との赤外線量はほぼ同一である。従って、鍋温度算出部23では、トッププレート3の昇温分の赤外線量を容易にキャンセルすることができ、鍋6の底面温度の真値を正確に算出することができる。
【0032】
なお、本実施の形態では、アレイ赤外線センサ7を用い、1つのセンサで複数の集光エリアを構成する例を説明したが、複数の赤外線センサを近接箇所に配置して計測しても良い。またIH調理器を例として説明したが、ハロゲンヒータやシーズヒータを加熱源とした加熱調理器にも適用できることは言うまでもない。さらに、黒体塗料層8はトッププレート3の上面にあってもよく、トッププレート3が2枚のプレートから構成されている場合には、これらのプレートに挟み込まれていてもよい。
【0033】
さらに、鍋温度算出部23では、第1の測定エリア7aからの赤外線量が所定量未満の場合に、アレイ赤外線センサ7で検出された第1の測定エリア7aからの赤外線量に基づいて、鍋6の温度を推論し、第1の測定エリア7aからの赤外線量が所定量以上の場合に、アレイ赤外線センサ7で検出された第1の測定エリア7aからの赤外線量と第2の測定エリア7bからの赤外線量との差分値に基づいて、鍋6の温度を推論してもよい。このように制御することにより、トッププレート3自身の赤外線量が少ない低温の間は、第1の測定エリア7aの赤外線量だけを用いて鍋温度算出部23で演算処理を行うので、鍋温度算出部23の処理を単純化することができる。
【0034】
実施の形態2.
次に、実施の形態2に係る加熱調理器を説明する。図4は、実施の形態2の加熱調理器を示すブロック図である。この実施の形態2が図1に示す実施の形態1と異なるのは、鍋6の底面に中心部から所定領域に亘って設けられた鍋底黒体塗料層26を備えている点である。その他の構成については実施の形態1と同一又は同等である。なお、実施の形態1と同一又は同等な構成部分については同一符号を付し、その説明は省略する。
【0035】
鍋底黒体塗料層26は、赤外線放射率がほぼ1の黒体材料を塗布または貼付して形成されている。この鍋底黒体塗料層26は、鍋6をトッププレート3の所定位置に載置した際に、第1の測定エリア7aに対向するように形成位置が調整されている。
【0036】
次に、実施の形態2に係る加熱調理器の動作について説明する。なお、本実施の形態の特徴である鍋底黒体塗料層26以外の構成は、実施の形態1と同等であるため、基本的な動作説明は省略し、鍋底黒体塗料層26に関する説明を中心に行う。
【0037】
実施の形態1で説明したような赤外線センサ方式では、加熱容器である鍋6の性状(材質・表面状態)による放射率の違いが計測に少なからず影響を与える。一般に被測定物体から赤外線センサに入射するエネルギーは、放射率(物体自身)+反射率(周囲から物体に入射して反射)+透過率(物体を透過)=1で表される。例えば黒体の放射率ε=1を基準とした場合、ガラスは0.90〜0.95、18−8ステンレスは0.16、アルミ光沢は0.095、アルミ酸化物は0.76と大きく異なる放射率を持つ。金属製の鍋6の場合には透過率を無視することができ、例えばステンレスの鍋6を例にすると反射率が0.84と高くなる。このため、周囲から物体に入射した外乱温度もアレイ赤外線センサ7で計測されてしまうことがあり、鍋6の底面温度をより高精度に検出しようとした場合には対応が必要となる。
【0038】
本実施の形態では、鍋6の底面に黒体を模擬した鍋底黒体塗料層26を形成しているので、鍋6の底面での放射率ε≒1を実現することができ、鍋6の底面での反射率はほぼ0となる(放射率+反射率+透過率=1のため)。その結果、鍋6の底面からの反射光による外乱温度がアレイ赤外線センサ7で計測されることが殆ど無くなり、安定した温度が計測可能となる。
【0039】
以上のように、本実施の形態においては、鍋6の底部外側下面に、放射率がほぼ1の材質を塗布または貼付することにより、鍋6の底面からの反射光を無くすことができるため、鍋6の材質及び表面状態に影響されることなく、鍋6の底面温度を正確に検出することができる。
【0040】
実施の形態3.
次に、実施の形態3に係る加熱調理器を説明する。図5(a)は、実施の形態3の加熱調理器を示すブロック図である。また、図5(b)は、実施の形態3の加熱調理器が備える通電コイルおよびアレイ赤外線センサの配置を示す図である。この実施の形態3が図1に示す実施の形態1と異なるのは、通電コイル1の代わりに2分割通電コイル27を備えている点と、2組のアレイ赤外線センサ7,28を備えている点とである。その他の構成については実施の形態1と同一又は同等である。なお、実施の形態1と同一又は同等な構成部分については同一符号を付し、その説明は省略する。
【0041】
図5(a)(b)に示すように、2分割通電コイル27は、半径方向に向かい内側の束と外側の束に分けて構成され、これらの束の間には空間部が設けられている。アレイ赤外線センサ28は、この空間部に設けられており、トッププレート3に設けられた第1の測定エリア28a及び第2の測定エリア28bからの赤外線量を検出する。
【0042】
次に、実施の形態3に係る加熱調理器の動作について説明する。なお、本実施の形態の特徴である2分割通電コイル27および2組のアレイ赤外線センサ7,28以外の構成は、実施の形態1と同様であるため、基本的な動作説明は省略する。2分割通電コイル27の中心に配置されたアレイ赤外線センサ7と半径方向の空間部に配置されたアレイ赤外線センサ28とは、トッププレート3に載置された鍋6の中心部での赤外線量と周辺部での赤外線量とを検出する。図5(a)に示すように、反り鍋が載置された場合、中心部は鍋6とトッププレート3に接触しない領域、半径方向部はトッププレート3と接触している領域を検出することとなり、当然のことながらトッププレート3と接触している鍋6を検知しているアレイ赤外線センサ28の方が赤外線量が多くなる。
【0043】
このような場合、鍋温度算出手段9は、アレイ赤外線センサ7とアレイ赤外線センサ28との出力結果の比較を行う。具体的には、第1の測定エリア7aからの赤外線量と第2の測定エリア7bからの赤外線量との差分値、および第1の測定エリア28aからの赤外線量と第2の測定エリア28bからの赤外線量との差分値を演算部9で算出して、得られた差分値同士の比較処理を行う。この比較処理は、基本的には差分値の高い方を選択して鍋6の温度を算出するが、加熱時間が長くなるに従い鍋6の底面温度は漸近的に一定温度に近づくために、両者の差分値の平均値を計算して鍋6の温度を決定してもよい。また、載置される鍋6が小径で通電コイル27の中心に置かれなかった場合等においても、2つのアレイ赤外線センサ7,28のどちらかによって、鍋6の温度を検出することもできる。
【0044】
以上のように、本実施の形態においては、2分割通電コイル27の中心と半径方向の空間部にアレイ赤外線センサを2箇所配置することにより、鍋6の底面温度をより正確に検出することができる。また、鍋の形状、大きさ、載置場所に影響されることなく、鍋6の正確な底面温度を検出することができる。
【0045】
実施の形態4.
次に、実施の形態4に係る加熱調理器を説明する。図6は、実施の形態4の加熱調理器を示すブロック図である。この実施の形態4が図1に示す実施の形態1と異なるのは、アレイ赤外線センサ7の代わりに単眼赤外線センサ30および接触式温度センサ31を備えている点である。その他の構成については実施の形態1と同一又は同等である。なお、実施の形態1と同一又は同等な構成部分については同一符号を付し、その説明は省略する。
【0046】
図6に示すように、単眼赤外線センサ30は、鍋6の載置位置の略中央部でトッププレート3下方に配設されており、鍋6の底面30aから放射されてトッププレート3を透過する赤外線の赤外線量を検出する。単眼赤外線センサ30の集光レンズは、トッププレート3の透過エリア(集光レンズに入射される赤外線がトッププレート3を透過するエリア)と同等の少なくとも約0.5μmから約2.5μmの波長を透過させる材料で構成されている。また、接触式温度センサ31は、上記透過エリアの直近で、且つトッププレート3の下面に圧接されて設けられており、この接触式温度センサ31によりトッププレート3の下面温度を直接計測することができる。
【0047】
次に、実施の形態4に係る加熱調理器の動作について説明する。なお、本実施の形態の特徴である単眼赤外線センサ30と接触式温度センサ31以外の構成は、実施の形態1と同等であるため、基本的な動作説明は省略する。まず、鍋6内の被加熱物が加熱されると鍋6は温まり、鍋6の底面30aから赤外線が放射される。放射された赤外線はトッププレート3を透過して、単眼赤外線センサ30に入射される。鍋6が温まることによって鍋6を載置したトッププレート3も温まり、トッププレート3で赤外線が発生する。そして、トッププレート3で発生した赤外線も、単眼赤外線センサ30に入射される。
【0048】
一方、接触式温度センサ31では、前記透過エリアに近いトッププレート3の温度を計測する。そして、単眼赤外線センサ30と接触式温度センサ31の出力は、演算部9に出力される。演算部9では、単眼赤外線センサ30で検出された赤外線量データと、接触式温度センサ31で検出された温度データとから鍋6の底面の温度を算出する。上述したように、単眼赤外線センサ30には、鍋6の底面から放射された赤外線と、トッププレート3で発生した赤外線とが入射されるため、単眼赤外線センサ30で検出された赤外線量データは、これらの赤外線を合計した赤外線量となる。
【0049】
従って、接触式温度センサ31で計測したトッププレート3の温度をリファレンスとし、単眼赤外線センサ30の出力と接触式温度センサ31の出力との差分を演算部9で算出することにより、トッププレート3の昇温で発生する赤外線を確実にキャンセルすることができる。その結果、鍋6の底面温度を極めて正確に検出することができる。
【0050】
以上のように、本実施の形態においては、近接する赤外線センサ30と接触式温度センサ31とにより、トッププレート3を透過する赤外線量とトッププレート3の温度をそれぞれ計測し、2つの出力の差分を算出することにより、鍋6の底面温度を正確に検出することができる。また、接触式温度センサ31は、一般的には赤外線センサ30より簡便且つ低コストで構成できるために、簡単で安価な加熱調理器を提供することができる。
【0051】
さらに、接触式温度センサ31は、単眼赤外線センサ30に入射する赤外線の透過エリアに近いトッププレート3の温度を計測しているため、透過エリアで発生する赤外線量より得られる温度と、接触式温度センサ31で計測される温度とはほぼ同一である。従って、鍋温度算出部23では、トッププレート3の昇温分の赤外線量を容易にキャンセルすることができ、鍋6の底面温度の真値を正確に算出することができる。
【0052】
実施の形態5.
次に、実施の形態5に係る加熱調理器を説明する。図7は、実施の形態5の加熱調理器を示すブロック図である。この実施の形態5が図1に示す実施の形態1と異なるのは、アレイ赤外線センサ7の周囲を囲む筒状ガイド32を備えている点である。その他の構成については実施の形態1と同一又は同等である。なお、実施の形態1と同一又は同等な構成部分については同一符号を付し、その説明は省略する。
【0053】
図7に示すように、筒状ガイド32は、アレイ赤外線センサ7の周囲を囲み、上端面がトッププレート3に密着して取り付けられている。このように、筒状ガイド32の上端面がトッププレート3に密着しているため、アレイ赤外線センサ7、特に集光レンズ12に埃等の赤外線遮蔽物が付着しない構成を得ることができる。
【0054】
また、本実施の形態ではアレイ赤外線センサ7を囲う構成としたが、実施の形態4に示したような、単眼赤外線センサ30と接触式温度センサ31を囲う構成としてもよく、実施の形態3に示したような複数の赤外線センサ7,28を囲ってもよい。さらに、この筒状ガイド32の筒の内側面が黒色の艶消し材等が塗布されることが望ましく、筒状ガイド32を構成する部材としては黒色の強磁性体であるフェライト材が望ましい。
【0055】
次に、実施の形態5に係る加熱調理器の動作について説明する。なお、本実施の形態の特徴である筒状ガイド32以外の構成は、実施の形態1と同等であるため、基本的な動作説明は省略する。筒状ガイド32は、筐体2内で発生する塵埃、特に通電コイル1等の冷却用ファンにより外気を吸引する際に発生する塵埃が、アレイ赤外線センサ7の集光レンズ12に付着させない構成を得ることができる。また、筒の内側面を黒色とすることにより、アレイ赤外線センサ7が集光する赤外線量の外乱反射を抑制することができる。さらに、筒状ガイド32を強磁性体であるフェライト材で構成することにより、通電コイル1の周辺に発生する磁界は筒状ガイド32に吸収されるため、アレイ赤外線センサ7の検出信号を磁界による外乱ノイズから効果的に防止することができる。
【0056】
以上のように、本実施の形態においては、アレイ赤外線センサ7の周囲を囲み、上端面が前記トッププレート3に密着して構成された筒状ガイド32を設けることにより、アレイ赤外線センサ7の集光レンズ12に塵埃等を付着させない構成を得ることができる。このため、アレイ赤外線センサ7による赤外線量の検出精度の低下を抑制することができる。
【0057】
また、筒状ガイド32の内側面を黒色とすることにより、アレイ赤外線センサ7に集光する赤外線量の外乱反射を効果的に抑制することができる。さらに、筒状ガイド32を強磁性体であるフェライト材で構成して、通電コイル1の周辺に発生する磁界を筒状ガイド32で吸収させることにより、アレイ赤外線センサ7の検出信号を磁界による外乱ノイズから効果的に防止することができる。その結果、鍋6の底面温度を高い精度で検出することができる。
【0058】
なお、筒状ガイド32の代わりにアレイ赤外線センサ7の周辺に配置され、通電コイル1の周辺に発生する磁界を遮断する遮蔽部材を用いてもよい。遮蔽部材の形状は、平板状、円弧板状、筒状など、磁界の遮断が可能ないずれの形状であってもよい。遮蔽部材を配置することにより、通電コイル1の周辺に発生する磁界は遮蔽部材に吸収されるため、アレイ赤外線センサ7の検出信号を磁界による外乱ノイズから効果的に防止することができる。
また、実施の形態4で示した単眼赤外線センサ30と接触式温度センサ31の周辺に上記遮蔽部材を配置してもよく、実施の形態3に示した複数の赤外線センサ7,28の周辺に上記遮蔽部材を配置してもよい。これらの場合にも、通電コイル1の周辺に発生する磁界は遮蔽部材に吸収されるため、アレイ赤外線センサ7の検出信号を磁界による外乱ノイズから効果的に防止することができる。
【符号の説明】
【0059】
1…通電コイル、3…トッププレート、4…能力制御手段、6…鍋、7…アレイ赤外線センサ、7a,28a…第1の測定エリア、7b,28b…第2の測定エリア、8…黒体塗料層、9…演算部、10…表示パネル、11a,11b…受光素子、12…集光レンズ、13…スキャン部、14…増幅部、15…基準温度素子、18…マイクロコンピュータ、22…記憶部、23…鍋温度算出部、24…能力制御決定部、26…鍋底黒体塗料層、27…分割通電コイル、28…アレイ赤外線センサ、29…黒体塗料層、30…単眼赤外線センサ、31…接触式温度センサ、32…筒状ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱容器を上面に載置するトッププレートと、
前記トッププレートの下方に配置され、前記加熱容器を加熱する通電コイルと、
前記トッププレートに設けられ、前記加熱容器の底面から放射される赤外線を前記トッププレートの下面側に透過させる第1の測定エリアと、
前記トッププレートに設けられ、前記加熱容器の底面から放射される赤外線を遮断し、前記トッププレートの温度に起因する赤外線を放射する第2の測定エリアと、
前記トッププレートの下方に配置され、前記第1の測定エリアからの赤外線量および前記第2の測定エリアからの赤外線量を検出する赤外線量検出部と、
前記赤外線量検出部により検出された前記第1および第2の測定エリアの赤外線量に基づいて前記加熱容器の温度を算出する演算部と、を備えたことを特徴とする加熱調理器。
【請求項2】
前記演算部は、前記第1の測定エリアからの赤外線量が所定量以上の場合に、前記赤外線量検出部で検出された前記第1の測定エリアからの赤外線量と前記第2の測定エリアからの赤外線量との差分値に基づいて、前記加熱容器の温度を推論することを特徴とする請求項1記載の加熱調理器。
【請求項3】
前記トッププレートの第2の測定エリアには、赤外線の放射率がほぼ1の材料が塗布または貼付されたことを特徴とする請求項1または2記載の加熱調理器。
【請求項4】
前記演算部が前記第1の測定エリアからの赤外線量が第2の測定エリアからの赤外線量より小さくなったことを検出した場合に、前記加熱容器が前記トッププレート上から取り去られたと判断されることを特長とする請求項1から3のいずれかに記載の加熱調理器。
【請求項5】
前記演算部が前記第1の測定エリアからの赤外線量が第2の測定エリアからの赤外線量より小さくなったことを検出した場合に、前記トッププレートの表面が高温であることを警告する表示を行う表示部を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の加熱調理器。
【請求項6】
前記演算部が前記第1の測定エリアからの赤外線量が第2の測定エリアからの赤外線量より小さくなったことを検出した場合に、前記加熱容器が前記トッププレート上から取り去られたと判断し、その後は該判断に基づいて前記通電コイルの制御を行う制御手段を備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−103125(P2010−103125A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6734(P2010−6734)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【分割の表示】特願2006−190582(P2006−190582)の分割
【原出願日】平成14年9月13日(2002.9.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000176866)三菱電機ホーム機器株式会社 (1,201)
【Fターム(参考)】