説明

加硫性アクリルゴム組成物および加硫物

【課題】
金属面に粘着しにくく、混練性に優れ、加硫時にスコーチが起こりにくく、かつ、加硫物が耐金属腐食性と耐油性に優れる加硫性アクリルゴム組成物を提供する。
【解決手段】
アクリル酸エステル単量体(a)単位およびカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)単位の合計量が単量体単位の80重量%以上であり、該合計量に対してアクリル酸エステル単量体(a)単位が90〜99.9重量%を占めるアクリルゴム(A)100重量部に対し、多価一級アミン加硫剤(B)0.05〜5重量部並びに脂肪族一価二級アミン化合物(C−1)および/または脂肪族一価三級アミン化合物(C−2)0.5〜5.5重量部を含有する加硫性アクリルゴム組成物。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属面に粘着しにくく、スコーチが起こりにくい加硫性アクリルゴム組成物並びに耐金属腐食性および耐油性に優れた該組成物の加硫物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルゴムは、耐熱性、耐油性などに優れているため、自動車関連の分野などで、シール材、ホース材、防振材、チューブ材、ベルト材あるいはブーツ材のような金属部材やオイルなどと接触する部位に使用されるゴム部材として広く用いられている。このようなアクリルゴムには、優れた耐熱性および耐寒性と共に、圧縮永久ひずみが小さいことが求められているが、さらに、これらの性能と共に耐金属腐食性および耐油性がより優れたものが要望されるようになっている。
【0003】
また、アクリルゴムには、スコーチ時間が短く、スコーチが起こりやすいという問題がある。スコーチを起こしにくくするために、スコーチ時間の延長に対する要求が大きくなってきている。
【0004】
さらに、未加硫のアクリルゴムは、混練時にバンバリー、ロールといった混練機内部の金属面に粘着し、混練の後処理が必要となるため、金属面に粘着しにくくすることが求められている。
【0005】
スコーチ時間の長いゴム材料として、エチレン−アクリル酸エステル−ブテンジオン酸モノエステル共重合体が知られている(特開昭50−45031号公報)。しかし、この共重合体の加硫物は耐油性が不十分である(特開平11−92614号)。
【0006】
また、耐金属腐食性と耐油性に優れた加硫物として、フマル酸モノ低級アルキルエステルを共重合したアクリルゴムを芳香族ジアミン加硫剤とグアニジン化合物加硫促進剤を配合した加硫性ゴム組成物を加硫したものが提案されている(特開平11−92614号公報)。この加硫性ゴム組成物は、スコーチが起こりにくいが、金属面との粘着を起こす場合があった。
【0007】
金属面との粘着を起こしにくくするため、アクリルゴムにエステル系ワックス、パラフィン系ワックス、有機カルボン酸金属塩、シリコーンオイルなど、内部離型剤を添加することが行なわれている。しかし、これらの内部離型剤を配合して加硫すると、圧縮永久ひずみ性が大きくなるなど加硫物の物性を低下させる問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、混練性に優れ、加硫時にスコーチが起こりにくく、得られた加硫物が耐金属腐食性と耐油性に優れる加硫性アクリルゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するために、鋭意研究の結果、特定のアクリルゴム、加硫剤および加硫促進剤を組み合わせると、金属面に粘着しにくく、加硫時にスコーチが起こりにくいことを見出した。また、このとき、得られた加硫物の機械的強度、耐熱性、耐寒性、圧縮永久ひずみなどの特性が従来品と同等以上であり、耐金属腐食性および耐油性が従来品よりも優れる加硫性アクリルゴム組成物が得られることを見出し、この知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして、本発明によれば、アクリル酸エステル単量体(a)単位およびカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)単位の合計量が単量体単位の80重量%以上であり、該合計量に対してアクリル酸エステル単量体(a)単位が90〜99.9重量%を占めるアクリルゴム(A)100重量部に対し、多価一級アミン加硫剤(B)0.05〜5重量部並びに脂肪族一価二級アミン化合物(C−1)および/または脂肪族一価三級アミン化合物(C−2)0.5〜5.5重量部を含有する加硫性アクリルゴム組成物並びに該加硫性アクリルゴム組成物を加硫してなる加硫物が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の加硫性アクリルゴム組成物は、加硫時のスコーチ安定性に優れ、かつ加硫後の耐熱性、耐寒性、耐油性、耐金属腐食性に優れ、圧縮永久ひずみが小さい。この特性を活かして、シール材、ホース材、防振材、チューブ材、ベルト材、ブーツ材など広い範囲で使用できる。
【実施の形態】
【0012】
本発明の加硫性アクリルゴム組成物は、アクリル酸エステル単量体(a)単位およびカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)単位の合計量が単量体単位の80重量%以上であり、該合計量に対してアクリル酸エステル単量体(a)単位が90〜99.9重量%を占めるアクリルゴム(A)100重量部に対し、多価一級アミン加硫剤(B)0.05〜5重量部並びに脂肪族一価二級アミン化合物(C−1)および/または脂肪族一価三級アミン化合物(C−2)0.5〜5.5重量部を含有する。
本発明において用いられるアクリルゴム(A)は、主構成単位として、アクリル酸エステル単量体(a)単位およびカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)単位とするものである。主構成単位の合計量が単量体単位の80重量%以上であり、主構成単位の合計量に対してアクリル酸エステル単量体(a)単位が90〜99.9重量%を占めるものである。
【0013】
アクリルゴム(A)は、カルボキシル基を含有し、その量は、好ましくは5×10-4〜4×10-1ephr、より好ましくは2×10-3〜2×10-1ephr、特に好ましくは4×10-3〜1×10-1ephrである。アクリルゴム(A)中のカルボキシル基が少なすぎると十分に加硫しないため加硫物の形状維持ができない場合があり、逆に多すぎると加硫物が硬くなってゴム弾性を失う場合がある。
【0014】
アクリル酸エステル単量体(a)としては、アルキルアクリレート単量体のみか、アルコキシアルキルアクリレート単量体とアルキルアクリレート単量体の併用が好ましく、この中でも併用することがより好ましい。
【0015】
アルキルアクリレート単量体としては、エステル基部分に炭素数1〜8のアルキル基を有するものが好ましく、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。特にアクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0016】
アルコキシアルキルアクリレート単量体としては、エステル基部分に炭素数2〜8のアルコキシアルキル基を有するものが好ましく、具体的には、アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸エトキシメチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸2−ブトキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−プロポキシエチル、アクリル酸3−メトキシプロピル、アクリル酸4−メトキシブチルなどが挙げられる。特に、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチルが好ましい。
【0017】
アクリル酸エステル単量体(a)として、アルキルアクリレートとアルコキシアルキルアクリレートとを併用する場合、アクリル酸エステル単量体(a)単位中、アルキルアクリレート単量体単位量は30〜90重量%が好ましく、40〜89重量%がより好ましく、45〜88重量%が特に好ましい。アルキルアクリレート単位が少なすぎると引張強度や伸びが劣る場合があり、逆に多すぎると耐寒性あるいは耐油性が劣る場合がある。
【0018】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸などのカルボン酸単量体;マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノ−n−ブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノ−n−ブチルなどのブテンジオン酸モノアルキルエステル単量体;などが挙げられる。カルボキシル基は無水カルボン酸基であってもよく、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などの無水カルボン酸単量体も単量体(b)として用いることができる。これらの中でも、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノ−n−ブチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノ−n−ブチルが好ましい。
【0019】
アクリルゴム(A)中、主構成単位の合計量は、単量体単位の80重量%以上、好ましくは90重量%、より好ましくは95重量%である。主構成単位の合計量が少なすぎるとゴム弾性などのゴムとしての特性が失われるという問題を生じる場合がある。
【0020】
アクリルゴム(A)中、主構成単位の合計量に対して、単量体(a)単位量は、90〜99.9重量%、好ましくは92〜99.7重量%、より好ましくは94〜99.5重量%を占め、単量体(b)単位量は、0.1〜10重量%、好ましくは0.3〜8重量%、より好ましくは0.5〜6重量%を占める。主構成単位の合計量に対して単量体(a)単位が少なすぎると加硫物の強度や伸びが劣り、逆に多すぎると十分に加硫しない場合がある。
【0021】
本発明において用いられるアクリルゴム(A)は、主構成単位以外に共重合可能な単量体単位を含有していてもよい。共重合可能な単量体としては、共役ジエン系単量体、非共役ジエン系単量体、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、アミド基含有(メタ)アクリル単量体、多官能性ジ(メタ)アクリル単量体、脂肪族ビニル単量体などが例示される。共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、ブタジエン、クロロプレン、ピペリレンなどが挙げられる。非共役ジエン単量体としては、1,2−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ヘキサジエン、ノルボルナジエンなどが挙げられる。芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが例示される。アミド基含有(メタ)アクリル単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミドなどが挙げられる。多官能性ジ(メタ)アクリル単量体としては、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。脂肪族ビニル単量体としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0022】
アクリルゴム(A)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは10〜70、より好ましくは20〜60、特に好ましくは30〜50である。ムーニー粘度が小さすぎると成形加工性や加硫物の機械的強度が劣る場合があり、大きすぎると成形加工性が劣る場合がある。
【0023】
本発明で用いる多価一級アミン加硫剤(B)は、一級アミノ基を複数有する化合物またはその塩であり、アクリルゴム(A)の加硫剤として機能するものである。好ましくは脂肪族多価一級アミン化合物、芳香族多価一級アミン化合物、またはそれらの塩である。また、好ましくは二価一級アミン化合物、三価一級アミン化合物、またはそれらの塩であり、特に好ましくは二価一級アミン化合物またはその塩である。最も好ましくは、脂肪族二価一級アミン化合物、芳香族二価ジ一級アミン化合物、またはその塩である。多価一級アミン加硫剤(B)は、複数種を併用してもよい。
【0024】
多価一級アミン加硫剤(B)の具体例としては、ヘキサメチレンジアミン、エチレンジアミン、シクロヘキサンジアミンなどの脂肪族二価一級アミン化合物;ヘキサメチレンジアミンカーバメート、エチレンジアミンカーバメートなどの脂肪族二価一級アミン化合物の塩;ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、3,3’−ジアミノジプロピルアミン、シクロヘキサントリアミンなどの脂肪族三価一級アミン化合物;4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、2,2’−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニルなどの芳香族二価一級アミン化合物;N,N’,N”−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンなどの芳香族三価一級アミン化合物;などが挙げられる。これらの中でも、ヘキサメチレンジアミンカーバメイト、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、2,2’−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンなどが特に好ましい。
【0025】
アクリルゴム(A)100重量部に対する多価一級アミン加硫剤(B)の配合量は、0.05〜5重量部、好ましくは0.1〜4重量部、より好ましくは0.2〜3重量部である。多価一級アミン加硫剤(B)の配合量が多すぎると、加硫物が硬くなりすぎたり、加硫物の伸びが低下したり、熱負荷後の伸びが小さくなりすぎたりする場合がある。少なすぎると、加硫物の強度が著しく低下したり、熱負荷後の伸び変化率、引張強度変化率が大きすぎたりする場合がある。
【0026】
本発明に用いる脂肪族一価二級アミン化合物(C−1)および/または脂肪族一価三級アミン化合物(C−2)は、多価一級アミン加硫剤(B)によるアクリルゴム(A)の加硫反応を促進する作用を有する加硫促進剤である。
【0027】
本発明で用いる脂肪族一価二級アミン化合物(C−1)は、アンモニアの水素原子の二つを脂肪族炭化水素基で置換した化合物である。水素原子と置換する脂肪族炭化水素基は、好ましくは炭素数1〜30のものであり、より好ましくは炭素数8〜20のものである。具体的には、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジアリルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−t−ブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジセチルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、ジオクタデシルアミン、ジ−シス−9−オクタデセニルアミン、ジノナデシルアミンが例示される。これらの中でも、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジドデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジセチルアミン、ジオクタデシルアミン、ジ−シス−9−オクタデセニルアミン、ジノナデシルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどが好ましい。
【0028】
また、本発明で用いる脂肪族一価三級アミン化合物(C−2)は、アンモニアの三つ全ての水素原子を脂肪族炭化水素基で置換した化合物である。水素原子と置換する脂肪族炭化水素基は、好ましくは炭素数1〜30のものであり、より好ましくは炭素数1〜22のものである。具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリアリルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリ−t−ブチルアミン、トリ−sec−ブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリノニルアミン、トリデシルアミン、トリウンデシルアミン、トリドデシルアミン、トリトリデシルアミン、トリテトラデシルアミン、トリペンタデシルアミン、トリセチルアミン、トリ−2−エチルヘキシルアミン、トリオクタデシルアミン、トリ−シス−9−オクタデセニルアミン、トリノナデシルアミン、N,N−ジメチルデシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルテトラデシルアミン、N,N−ジメチルセチルアミン、N,N−ジメチルオクタデシルアミン、N,N−ジメチルベヘニルアミン、N−メチルジデシルアミン、N−メチルジドデシルアミン、N−メチルジテトラデシルアミン、N−メチルジセチルアミン、N−メチルジオクタデシルアミン、N−メチルジベヘニルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミンなどが例示される。これらの中でも、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルテトラデシルアミン、N,N−ジメチルセチルアミン、N,N−ジメチルオクタデシルアミン、N,N−ジメチルベヘニルアミンなどが好ましい。
【0029】
アクリルゴム(A)100重量部に対する脂肪族一価二級アミン化合物(C−1)および/または脂肪族一価三級アミン化合物(C−2)の配合量は0.5〜5.5重量部、好ましくは1〜5重量部、より好ましくは1.5〜4.5重量部である。脂肪族一価二級アミン化合物(C−1)および/または脂肪族一価三級アミン化合物(C−2)の配合量が少なすぎると加硫物の強度が著しく低下したり、圧縮永久ひずみが大きくなったりする場合がある。多すぎると加硫物表面に脂肪族一価二級アミン化合物(C−1)および/または脂肪族一価三級アミン化合物(C−2)がブルーミングしたり、加硫物の熱負荷後の硬さ変化率が大きすぎたりする場合がある。
【0030】
本発明の加硫性アクリルゴム組成物は、必要に応じて、補強材、充填剤、老化防止剤、光安定剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、帯電防止剤、着色剤などの添加剤を含有してもよい。
【0031】
また、加硫性アクリルゴム組成物は、必要に応じて、アクリルゴム(A)以外のゴム、エラストマー、樹脂などをさらに配合してもよい。例えば、天然ゴム、アクリルゴム(A)以外のアクリルゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムなどのゴム;オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリシロキサン系エラストマーなどのエラストマー;ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などの樹脂;などを配合することができる。
【0032】
加硫性アクリルゴム組成物の調製にあたっては、ロール混合、バンバリー混合、スクリュー混合、溶液混合などの適宜の混合方法が採用できる。配合順序は特に限定されないが、熱で分解しにくい成分を充分に混合した後、熱で反応しやすい成分あるいは分解しやすい成分、例えば、多価一級アミン加硫剤(B)などを反応または分解しにくい温度で、短時間に混合すればよい。
【0033】
加硫性アクリルゴム組成物の成形方法は、特に限定されない。圧縮成形、射出成形、トランスファー成形あるいは押出成形など、いずれの方法を用いることも可能である。また、加硫方法は、加硫物の形状などに応じて選択すればよく、成形と加硫を同時に行う方法、成形後に加硫を行う方法のいずれでもよい。
【0034】
本発明の加硫物は、上記加硫性アクリルゴム組成物を加熱することにより得られる。加熱温度は、好ましくは130〜220℃以上、より好ましくは140℃〜200℃、加硫時間は好ましくは30秒〜5時間である。加熱方法としては、プレス加熱、蒸気加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの加硫に用いられる方法を適宜選択すればよい。また、一度加硫した後に、加硫物の内部まで確実に加硫させるために、時間をかけて加熱する後加硫を行ってもよい。後加硫は、加熱方法、加硫温度、形状などにより異なるが、好ましくは1〜48時間行う。加熱方法、加熱温度は適宜選択すればよい。
【実施例】
【0035】
以下に実施例、比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0036】
なお、ゴムの単量体単位組成の%は、重量基準である。
【0037】
なお、アクリルゴムのムーニー粘度は、JIS K6300に従って、100℃で測定した。
【0038】
金属面との粘着性の評価として、SUS表面をクロムメッキした金属板に1cm×3cm×0.8cmの未加硫の加硫性ゴム組成物試験片を密着させ、70℃、5分間の3MPaのプレスを行った後、金属板と試験片を引き離すのに要する応力を測定した。応力値が低いほど、金属面に粘着しにくい。
【0039】
耐油性の評価として、JIS K6258に従い、IRM903試験油を用いて、150℃の環境下で70時間の油中浸せき試験を行い、体積変化率を測定した。
【0040】
耐金属腐食性の評価として、被汚染材に亜鉛、銅、真鍮およびSUSの4種類の金属板を用い、これらの金属板に試験片を密着させ、温度40℃、湿度80%の環境下で一週間放置し、腐食面積の占める割合を測定し、腐食面積が10%以上を占めるものを腐食あり、10%未満のものを腐食なしと判定した。なお、亜鉛およびSUSについては、実施例および比較例において、腐食が認められるものがなかったので、評価結果は省略した。
【0041】
得られた加硫性アクリルゴム組成物について、JIS K6300に従い、125℃の測定条件下でムーニースコーチ時間t5(分)を測定した。
【0042】
加硫物の引張強度、伸びおよび硬さは、JIS K6251に従いを測定した。
【0043】
耐熱性の評価として、JIS K6257に従い、175℃の環境下で70時間の空気加熱老化を行い、加硫物の引張強度変化率、伸び変化率、硬さ変化量を測定した。
【0044】
耐寒性の評価として、JIS K6261に従い、低温ねじり試験を行い、ゲーマンT10値を測定した。
【0045】
圧縮永久ひずみ性は、Oリングを25%圧縮させた後、175℃の環境下で70時間放置した後、圧縮を開放し、温度23℃、湿度50%の環境下で30分間放置し、圧縮永久ひずみ率を測定した。
【0046】
実施例1
アクリルゴムA1(アクリル酸エチル単位含有量47%、アクリル酸n−ブチル単位含有量34%、アクリル酸2−メトキシエチル単位含有量14%、マレイン酸モノ−n−ブチル単位含有量5%(単量体(a)単位含有量95%、単量体(b)単位5%、単量体(a)単位に対するアクリルアクリレート単位含有量85.3%)、カルボキシル基含有量8×10-3ephr、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)35)100部、カーボンブラック(ASTM D1765による分類;N550)60部、ステアリン酸(カーボンブラックの分散剤、軟化剤)2部および4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(老化防止剤)2部を50℃にてバンバリーで混練し、その後、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(加硫剤、芳香族二価一級アミン化合物)0.6部およびジドデシルアミン(脂肪族一価二級アミン化合物)を加えて、40℃にてオープンロールで混練して、加硫性アクリルゴム組成物を調製した。
【0047】
この加硫性アクリルゴム組成物を用いて、ムーニースコーチ時間を測定した。また、この加硫性アクリルゴム組成物を170℃、20分間の10MPaのプレスによって成形、加硫し、15cm×15cm×2mmの試験片を作製し、さらに後加硫のために、170℃に4時間放置した。この試験片を用いて、加硫物の耐油性、耐金属腐食性、引張強度、伸び、硬さ、耐熱性、耐寒性を評価、測定した。また、加硫性アクリルゴム組成物を170℃、20分間の10MPaのプレスによって成形、加硫し、さらに後加硫のために、170℃に4時間放置し、径3.1mmのOリングを作成し、加硫物の圧縮永久ひずみ性を評価した。結果を表1に示す。
【0048】
実施例2
ジドデシルアミンの量を2部から1部に変える以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表1に示す。
【0049】
実施例3
ジドデシルアミンの量を2部から4部に変える以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表1に示す。
【0050】
実施例4
ジドデシルアミンに代わりにジオクタデシルアミン(脂肪族一価二級アミン化合物)を用いる以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表1に示す。
【0051】
実施例5
4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの代わりにヘキサメチレンジアミンカーバメート(脂肪族二価一級アミン化合物の炭酸塩)0.6部を用い、ジドデシルアミンの量を2部から4部に変える以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表1に示す。
【0052】
実施例6
4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの量を0.6部から0.3部に変える以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表1に示す。
【0053】
実施例7
アクリルゴムA1の代わりにアクリルゴムA2(アクリル酸エチル単位含有量49%、アクリル酸n−ブチル単位含有量34%、アクリル酸2−メトキシエチル単位含有量14%、フマル酸モノ−n−ブチル単位含有量3%(単量体(a)単位含有量97%、単量体(b)単位含有量3%、単量体(a)単位に対するアクリルアクリレート単位含有量85.6%)、カルボキシル基含有量1.3×10-2ephr、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)35)を用いる以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表1に示す。
【0054】
実施例8
アクリルゴムA1の代わりにアクリルゴムA2を、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの代わりに4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン(芳香族二価一級アミン化合物)1部を用いる以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表1に示す。
【0055】
実施例9
アクリルゴムA1の代わりにアクリルゴムA2を、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの代わりに2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(芳香族二価一級アミン化合物)1部を用いる以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表1に示す。
【0056】
実施例10
アクリルゴムA1の代わりにアクリルゴムA2を、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの代わりに2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン2.5部を用いる以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表1に示す。
【0057】
実施例11
ジドデシルアミンの代わりにN,N−ジメチルオクタデシルアミン(脂肪族族一価三級アミン化合物)を用いる以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表1に示す。
【0058】
比較例1
ジドデシルアミンの量を2部から0.3部に変える以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表2に示す。
【0059】
比較例2
ジドデシルアミンの量を2部から6部に変える以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表2に示す。
【0060】
比較例3
アクリルゴムA1の代わりにアクリルゴムA2を、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの代わりにジフェニルメタン−ビス−(4,4’−カルバモイル−ε−カプロラクタム)(二級アミンおよび三級アミンを複数個有するブロック化イソシアネート化合物)1.2部を用いる以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表2に示す。
【0061】
比較例4
アクリルゴムA1の代わりにアクリルゴムA2を、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの代わりに2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(芳香族二価一級アミン化合物)6部を用いる以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表2に示す。
【0062】
比較例5
アクリルゴムA1の代わりにアクリルゴムA2を、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの代わりに2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン1部を、ジドデシルアミンの代わりにジ−o−トリルグアニジン(グアニジンを用いる以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表2に示す。
【0063】
比較例6
アクリルゴムA1の代わりにアクリルゴムA2を4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの代わりに2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン1部をジドデシルアミンの代わりにN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(二級アミンを有する脂肪族以外の化合物)を用いる以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表2に示す。
【0064】
比較例7
アクリルゴムA1の代わりにアクリルゴムA2を4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの代わりに2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン1部をジドデシルアミンの代わりに2−メチルイミダゾール(三級アミンを有する脂肪族以外の化合物)を用いる以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表2に示す。
【0065】
比較例8
アクリルゴムA1の代わりにアクリルゴムa3(アクリル酸エチル単位含有量50%、アクリル酸n−ブチル単位含有量28%、アクリル酸2−メトキシエチル単位含有量20%、クロロ酢酸ビニル単位含有量2%(単量体(b)単位含有量0%)、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)35)を、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの代わりに2,4,6−トリメルカプト−s−トリアジン0.5部を、ジドデシルアミンの代わりにジブチルジチオカルバミン酸亜鉛1.5部を用いる以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表2に示す。
【0066】
比較例9
アクリルゴムA1の代わりにアクリルゴムa4(Vamac G、DuPont社製、エチレン−アクリル酸エステル−ブテンジオン酸モノエステル共重合体、エチレン単位含有量30%以上含有)、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)16)を、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルの量を0.6部から1.6部に変え、ジドデシルアミンの量を2部から4部に変える以外は実施例1と同様に処理し、評価した。結果を表2に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
脂肪族一価二級アミン化合物および/または脂肪族一価三級アミン化合物を少量しか配合していない加硫性アクリルゴム組成物の加硫物は、圧縮永久ひずみが大きい(比較例1)。逆に、脂肪族一価二級アミン化合物および/または脂肪族一価三級アミン化合物を多量に配合した加硫性アクリルゴム組成物の加硫物では、空気加熱老化試験後の硬さ変化量が大きい(比較例2)。加硫剤としてブロック化イソシアネート化合物を配合した加硫性アクリルゴム組成物の加硫物は、圧縮永久ひずみが大きい(比較例3)。芳香族二価一級アミン化合物を多量に配合した加硫性アクリルゴム組成物の加硫物は、耐熱性に劣り、圧縮永久ひずみが大きい(比較例4)。加硫促進剤としてグアニジン化合物を配合した加硫性アクリルゴム組成物は、金属面に粘着しやすい(比較例5)。加硫促進剤としてスルフェンアミド化合物を配合した加硫性アクリルゴム組成物は、金属面に粘着しやすく、加硫物の圧縮永久ひずみも大きい(比較例6)。また、加硫促進剤としてイミダゾール化合物を配合した加硫性アクリルゴム組成物では、スコーチ安定性に劣り、金属面に粘着しやすい(比較例7)。加硫点としてカルボキシル基に代えて塩素原子を含有するアクリルゴム組成物は、加硫点に応じた加硫剤などを用いても、金属面に粘着しやすく、得られた加硫物は、圧縮永久ひずみが大きく、耐金属腐食性に劣る(比較例8)。また、エチレン−アクリル酸エステル−ブテンジオン酸モノエステル共重合体を用いたアクリルゴム組成物の加硫物は、耐油性に劣る(比較例9)。
【0070】
それに対し、本発明の加硫性アクリルゴム組成物は、金属面に粘着しにくく、スコーチが起こりにくく、かつ加硫後の耐油性および耐金属腐食性に優れる。(実施例1〜12)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸エステル単量体(a)単位およびカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(b)単位の合計量が単量体単位の80重量%以上であり、該合計量に対してアクリル酸エステル単量体(a)単位が90〜99.9重量%を占めるアクリルゴム(A)100重量部に対し、多価一級アミン加硫剤(B)0.05〜5重量部並びに脂肪族一価二級アミン化合物(C−1)および/または脂肪族一価三級アミン化合物(C−2)0.5〜5.5重量部を含有する加硫性アクリルゴム組成物。
【請求項2】
請求項1記載の加硫性アクリルゴム組成物を加硫してなる加硫物。
【請求項3】
シール材、ホース材、防振材、チューブ材、ベルト材またはブーツ材である請求項2記載の加硫物。

【公開番号】特開2008−63584(P2008−63584A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286562(P2007−286562)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【分割の表示】特願2002−21913(P2002−21913)の分割
【原出願日】平成14年1月30日(2002.1.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】