説明

加速器の制御装置

【課題】加速器において、エネルギーの異なる複数のビームを短時間で取り出す。
【解決手段】本発明の加速器の制御装置は、磁場基準発生部と電流基準変換部とを備える。磁場基準発生部は、磁束密度が初期値から初期加速完了レベルまで増加する初期上げパターンと、所定の減少幅で磁束密度が減少する減少パターンと、磁束密度が終了値まで減少する終了パターンとを記憶しており、初期上げ指令を受けた場合には初期上げパターンに従った磁束密度情報を、初期上げパターンに従った磁束密度情報の出力後に減少指令を受けた場合には減少パターンに従った磁束密度情報を、終了指令を受けた場合には終了パターンに従った磁束密度情報を、経過時間に応じて出力する。電流基準変換部は、更新された磁束密度情報に応じた磁場を発生させるコイル電流値を求めて、これを加速器の磁場コイルの電源供給部に入力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子を加速する加速器の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シンクロトロンなどの加速器の制御装置では、陽子や炭素イオンなどの荷電粒子の加速完了時のエネルギーが(最高レベルとして)一定値となるよう加速器を運転し、その荷電粒子を取り出して利用している。
【0003】
図11は、このような加速器の制御系統の要部の従来例を示すブロック図である。図に示すように、シンクロトロン10は、偏向電磁石12と、偏向電磁石電源14と、パターンメモリ装置16と、タイミング装置18とを有する。偏向電磁石12は、荷電粒子を円形軌道に沿って周回させるための偏向磁場を発生させる。パターンメモリ装置16は、タイミング装置18からのクロック信号に応じて動作し、偏向電磁石12に供給すべき電流の値を電流指令値として偏向電磁石電源14に入力する。偏向電磁石電源14は、この電流指令値に従った大きさの電流を偏向電磁石12に供給し、偏向電磁石12は、電流値に応じた磁束密度の磁場を荷電粒子の軌道に生じさせる。
【0004】
図12は、偏向電磁石12に供給される電流により生じる磁場の磁束密度の時間変化の一従来例を上側に、入射ビームの取り込みおよび出射ビーム取り出しのタイミングを下側に示したものである。図に示すように、はじめの磁束密度が一定の期間において入射ビームの取り込みが行われる。この後、偏向電磁石12に供給される電流値が増加することで磁場の磁束密度が増加する。これに併せて高周波電力(図示せず)が供給されることで、荷電粒子のビームは、シンクロトロン10の円形軌道を周回しながら加速完了時のレベルまでエネルギーを増加させる。加速完了時において、磁場の磁束密度も荷電粒子のエネルギーも一定となり、この期間に出射ビームの取り出しが行われる。パターンメモリ装置16は、このように偏向電磁石12に供給すべき電流を電流指令値のパターンとして出力するものであり、これに関する従来技術として、特許文献1と特許文献2が知られている。
【0005】
特許文献1の従来技術では、制御回路の構成を工夫することで、荷電粒子の軌道となる磁場の磁束密度を初期レベルから加速完了レベルまで増加させる途中において定常状態(磁束密度が一定の状態)を設けている。この定常状態の間に入射ビームの取り込みと共に各種装置の調整を行い、定常状態の後、磁場の磁束密度を加速完了時のレベル(最高レベル)まで増加させている。
【0006】
特許文献2の従来技術では、パターンメモリ装置が第1のメモリおよび第2のメモリを備え、これらの一方のメモリのみを動作させ、その間に他方のメモリの内容を書き換え可能としている。これにより、加速器の動作中に他方のメモリのパターンデータを書き換え可能とし、書き換え後に一方のメモリを停止して他方のメモリを動作させることで、書き換え後のパターンでの加速器の運転を可能にしている。
【0007】
いずれの従来技術も、磁場の磁束密度が加速完了時のレベル(最高レベル)に達した定常状態において、荷電粒子のビームを一定値で取り出すことを前提としている。
【0008】
加速器の用途として、粒子線の照射による癌治療などが挙げられるが、荷電粒子のビームを照射すべき部分の体内の深さは様々であり、ビームの到達深さはビームエネルギーに依存する。ここで粒子線照射の治療の一例として、体の表面からの深さが4cmから6cmの位置に亘って癌細胞が存在し、深さ6cmの位置から順に、深さ0.4cmの間隔で深さが4cmの位置まで合計6回の照射を行う場合を考える。
【0009】
従来は、加速完了時のエネルギーレベルで深さ6cmに到達するように調整後、加速完了後の定常状態において同じエネルギーのビームを6回出射させ、ビーム経路に挿入するアクリル板でビームエネルギーを減衰させ、ビームの到達深さを調整していた。例えば、アクリル板無しの状態でビームを出射させて深さ6cmの位置に照射後、次はアクリル板を1枚挟んでビームを出射させて深さ5.6cmの位置に照射し、次はアクリル板を2枚挟んでビームを出射させる、といった手順で照射を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−213300号公報
【特許文献2】特開平03−78998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の粒子線照射の治療では、アクリル板の挿入作業の手間を要することに加え、アクリル板の挿入時の騒音や、アクリル板によるビームの散乱などが生じる。このため、エネルギーの異なる複数のビームを短時間で容易に取り出す技術が要望されていた。
【0012】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、荷電粒子の加速器において、エネルギーの異なる複数のビームを短時間で取り出す技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る加速器の制御装置は、電流基準情報に応じたコイル電流を磁場コイルに供給して、加速される荷電粒子の軌道に磁場を発生させる加速器の制御装置であって、上記目的を達成するために、磁場基準発生部と、電流基準変換部とを備えるものである。
【0014】
前記磁場基準発生部は、経過時間に伴って、磁束密度が初期値から初期加速完了レベルまで増加する変化である初期上げパターンと、前記初期値と前記初期加速完了レベルとの差よりも小さい減少幅で磁束密度が減少する変化である減少パターンと、磁束密度が終了値まで減少する変化である終了パターンとを記憶しており、初期上げ指令を受けた場合には前記初期上げパターンに従った磁束密度情報を経過時間に応じて出力し、前記初期上げパターンに従った磁束密度情報の出力後に減少指令を受けた場合には前記減少パターンに従った磁束密度情報を経過時間に応じて出力し、終了指令を受けた場合には前記終了パターンに従った磁束密度情報を経過時間に応じて出力する。
【0015】
前記電流基準変換部は、前記磁場基準発生部が出力する磁束密度情報が更新される毎に、更新された磁束密度情報に応じた磁場を発生させる前記コイル電流の大きさを求めて前記電流基準情報として前記磁場コイルの電源供給部に入力する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、荷電粒子の加速器において、エネルギーの異なる複数のビームを短時間で取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態における加速器の構成を示すブロック図。
【図2】磁場基準発生器に記憶され、磁場基準値として出力される磁束密度の時間変化のパターンを示す説明図。
【図3】偏向電磁石の磁場コイルに供給するコイル電流値と、発生する磁束密度との対応関係として、電流基準変換器に記憶されたデータの一例を示す図。
【図4】磁場基準値の時間変化の一例を上側に示し、そのときの入射ビームの取り込みおよび出射ビームの取り出しのタイミングと、それらのエネルギーレベルとを下側に示した図。
【図5】本発明の第2の実施形態における加速器の構成を示すブロック図。
【図6】四極電磁石の磁場コイルに供給するコイル電流値と、発生する磁束密度との対応関係として、電流基準変換器に記憶されたデータの一例を示す図。
【図7】本発明の第3の実施形態における加速器の構成を示すブロック図。
【図8】荷電粒子の軌道となる磁場の磁束密度と、供給すべき加速周波数との対応関係の一例を示すグラフ。
【図9】本発明の第4の実施形態における加速器の構成を示すブロック図。
【図10】本発明の第5の実施形態における加速器の構成を示すブロック図。
【図11】従来の加速器における制御系統の要部の構成を示すブロック図。
【図12】従来の加速器において、偏向電磁石に供給される電流により生じる磁場の磁束密度の時間変化を上側に、入射ビームの取り込みおよび出射ビーム取り出しのタイミングを下側に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、各図において同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態における加速器30の構成を示すブロック図である。図に示すように、シンクロトロンとして構成された加速器30は、イオン源32と、入射用加速器34と、電源装置36、38と、主加速部40と、高周波発生器42と、ビーム輸送系44と、ビーム照射系46と、制御装置48とを備えている。
【0020】
主加速部40は、4個の偏向電磁石50と、8個の四極電磁石52と、入射用電磁石54と、出射用電磁石56と、高周波加速空洞58とを有する。
【0021】
ビーム照射系46は、ビームシャッタ60と、線量モニタ62とを有する。
【0022】
制御装置48は、パターン発生装置64と、タイミング制御装置66と、操作部68とを有する。パターン発生装置64は、磁場基準発生器70と、電流基準変換器72とを有する。磁場基準発生器70は、偏向電磁石50により発生させるべき磁場の磁束密度を経過時間に応じて磁場基準値として決定し、この磁場基準値を電流基準変換器72に入力する。
【0023】
電流基準変換器72は、磁場基準値により示される磁束密度の磁場を生じさせるためには、偏向電磁石50の磁場コイル(図示せず)にどれだけの大きさの電流を流す必要があるかを算出し、算出した値を電流基準値として電源装置36に入力する。電源装置36は、電流基準値が示す値のコイル電流を4つの偏向電磁石50の各磁場コイルに供給する(図1では煩雑となるので、電源装置36から偏向電磁石50への矢印を4本ではなく1本のみで示している)。これにより、磁場基準値に等しい磁束密度の磁場が偏向電磁石50により荷電粒子の軌道中に発生する。
【0024】
本実施形態の主な特徴は、制御装置48による上記の磁場の磁束密度の制御にあり、他の部分の機能については、従来技術と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0025】
図2は、磁場基準発生器70に記憶され、磁場基準値として出力される磁束密度の時間変化のパターンを示す説明図であり、(a)は初期上げパターン、(b)は増加パターン、(c)は減少パターン、(d)は終了パターンを示す。
【0026】
初期上げパターンでは、まず、磁束密度ゼロの状態から、入射ビームを主加速部40に取り込めるレベル(以下、入射用レベルという)まで磁束密度を増加させた後、磁束密度が一定の状態を所定期間維持する。この所定期間は、入射用加速器34から主加速部40の入射用電磁石54への入射ビームの取り込みを行うための期間である。この所定期間の経過後、磁束密度は初期加速完了レベルまで増加し、(磁束密度を増加または減少させる)次の指令に備えて磁束密度が一定の状態となる。出射用電磁石56からの出射ビームの取り出しは、磁場の磁束密度が初期加速完了レベルに達した後に行われる。
【0027】
増加パターン、減少パターン、終了パターンは、初期上げパターンの後に行われるものである。
【0028】
増加パターンは、その直前に出力していた磁場基準値と同じ磁束密度を一定期間だけ維持した状態から始まり、その後、所定の増加幅で磁束密度を増加させてから、次の指令に備えて磁束密度が一定の状態となるものである。
【0029】
減少パターンは、その直前に出力していた磁場基準値と同じ磁束密度を一定期間だけ維持した状態から始まり、その後、所定の減少幅で磁束密度を減少させてから、次の指令に備えて磁束密度が一定の状態となるものである。
【0030】
終了パターンは、その時点での磁束密度の状態を一定期間だけ維持した状態から始まり、その後、入射用レベルまで磁束密度を減少させ、所定期間、磁束密度が一定の状態を維持する。この所定期間は、タイミング制御装置66から所定の指令が入力されることにより、入射用加速器34から主加速部40へ入射ビームを再度取り込み、磁束密度を初期加速完了レベルまで再度増加させることを選択可能としたものである。この所定期間の経過後、磁束密度はゼロレベルまで減少する。
【0031】
なお、初期上げパターン、増加パターン、減少パターン、終了パターンに従った磁場基準値の出力は、それぞれ、初期上げ指令TA、増加指令TB、減少指令TC、終了指令TDがタイミング制御装置66から磁場基準発生器70に入力された場合に行われる。また、図2(a)〜(d)では煩雑となるので磁束密度の増加部分および減少部分を直線的に示したが、実際には、タイミング制御装置66から磁場基準発生器70に入力されるクロック信号CKの1周期の期間に応じて、磁場基準値が示す磁束密度は階段状に増加または減少する。
【0032】
図3は、横軸にとった磁束密度の磁場を生じさせるためには、偏光電磁石50の磁場コイルにどれだけのコイル電流を供給する必要があるかを示したグラフの一例である。電流基準変換器72は、図3に示されるコイル電流値と磁束密度との対応関係をテーブルデータあるいは関数として記憶している。このテーブルデータあるいは関数については、偏向電磁石50の設計により予め決定してもよいし、あるいは、主加速部40の完成後に測定を行って決定してもよい。
【0033】
図4は、磁場基準値の時間変化の一例を上側に示し、そのときの入射ビームの取り込みおよび出射ビームの取り出しのタイミングと、それらのエネルギーレベルとを下側に示したタイミング図である。
【0034】
図4では加速器30の動作の一例として、400MeV、390MeV、360MeV、370MeVの出射ビームを順に取り出す場合を示している。従って、荷電粒子の軌道の磁束密度が初期加速完了レベルである場合に、高周波電力によって荷電粒子のビームエネルギーが約400MeV(メガ・エレクトロンボルト)に相当するものとしている。また、増加パターンの磁束密度の増加幅と減少パターンの磁束密度の減少幅とは絶対値が等しく、この幅で荷電粒子の軌道の磁束密度が増減した場合に、高周波電力の増減によってビームエネルギーが10MeV増減するものとしている。
【0035】
上記のように400MeV、390MeV、360MeV、370MeVの出射ビームを順に取り出すため、本実施形態では、各指令の出力タイミングを予めタイミング制御装置66に書き込んでおく。具体的には、タイミング制御装置66が初期上げ指令TAを出力する時刻t0を基準として、t4秒後に出射可能信号TPを、t5秒後に減少指令TCを、t7秒後に出射可能信号TPを、t8秒後とt10秒後とt12秒後に減少指令TCを、t14秒後に出射可能信号TPを、t15秒後に増加指令TBを、t17秒後に出射可能信号TPを、t18秒後に終了指令TDを出力するように書き込んでおく。
【0036】
なお、タイミング制御装置66から出力される出射可能信号TPは、主加速部40やビーム照射系46の各部に入力されるが、図1では煩雑となるので、その信号線を省略している(後述の第2〜第5の実施形態における図5、図7、図9、図10についても同様)。また、初期加速完了レベルや増加幅、減少幅については、磁場基準発生器70に対して任意に書き換え可能であり、減少指令TC、増加指令TB、出射可能信号TP、終了指令TDの出力タイミングについても、タイミング制御装置66に対して任意に書き換え可能である。
【0037】
以下、図1を適宜参照しながら、図4に示した時刻t0〜t19のタイミングに従って、本実施形態の加速器30の動作について説明する。
【0038】
まず、操作部68のスタートボタン(図示せず)が押されると、イオン源32は荷電粒子を生成し、入射用加速器34は、生成された荷電粒子を主加速部40で加速可能なエネルギーレベルまで加速する。一方で、タイミング制御装置66は、磁場基準発生器70に対しクロック信号CKの入力を開始し、時刻t0において、初期上げ指令TAを磁場基準発生器70に入力する。磁場基準発生器70は、初期上げ指令TAの入力に同期して、初期上げパターンに従った磁場基準値を時刻t0からの経過時間に応じて電流基準変換器72に入力し始める。磁場基準発生器70が出力する磁場基準値は、クロック信号CKの入力のサイクル毎に更新される。
【0039】
電流基準変換器72は、磁場基準値が更新される毎に、図3で説明したコイル電流値と磁束密度との対応関係に従って、磁場基準値が示す磁束密度の磁場を生じさせるコイル電流の値を算出し、算出値を電流基準値として電源装置36に入力する。電源装置36は、電流基準値が示す値のコイル電流を各偏向電磁石50の磁場コイルに供給する。これにより、磁場基準値に等しい磁束密度の磁場が荷電粒子の軌道中に発生する。
【0040】
時刻t1において、電流基準変換器72に入力される磁場基準値は入射用レベルとなり、時刻t2まで磁場基準値は一定となる。このとき、主加速部40内の円形軌道の磁場は、ビームの取り込みに適した磁束密度となっており、入射用加速器34からの入射用電磁石54に荷電粒子のビームが取り込まれる。同時に、高周波発生器42は、高周波加速空洞58を介して荷電粒子の軌道に高周波電力を供給している。
【0041】
時刻t2において、電流基準変換器72に入力される磁場基準値は増加し始める。高周波発生器42は、磁場の磁束密度に対応した高周波電力を高周波加速空洞58を介して供給し、荷電粒子は、この高周波電力によりエネルギーを得て加速する。
【0042】
時刻t3において、磁場基準値は初期加速完了レベルに達し、タイミング制御装置66からの次の指令(増加指令TB、減少指令TC、終了指令TD、リセット指令REのいずれか)が電流基準変換器72に入力されるまで、磁場基準値は初期加速完了レベルを維持する。
【0043】
時刻t4において、タイミング制御装置66は、主加速部40やビーム照射系46の各部に出射可能信号TPを入力する。この後、ビーム照射系46は、対象物に400MeVのビームを照射する。より詳細には、主加速部40で加速した荷電粒子は、出射用電磁石56から出射して、治療室等にあるビーム照射系46までビーム輸送系44により輸送される。ビーム照射系46は、線量モニタ62で荷電粒子ビームパルスの線量を測定し、その積算値が規定値に達した時点でビームシャッタ60を閉鎖して照射を止めることにより、照射量を制御する。
【0044】
この後、時刻t5において、タイミング制御装置66は、減少指令TCを磁場基準発生器70に入力する。ここで、磁場基準発生器70に記憶された増加パターン、減少パターン、終了パターンの磁場基準値の開始レベルは、磁場基準値が初期加速完了レベルに達した後に増加指令TBと減少指令TCとが既に何回ずつ入力されたかにより異なる。このため、磁場基準発生器70は、初期加速完了レベルに達した後に増加指令TBと減少指令TCとが既に何回ずつ入力されたかを記憶しており、増加指令TB、減少指令TC、終了指令TDのいずれかが入力された場合の磁場基準値の開始レベルを算出して更新している。
【0045】
磁場基準値が初期加速完了レベルに達した時刻t3から、時刻t5の直前までにおいて、増加指令TBも減少指令TCも入力されていないので、時刻t5において磁場基準発生器70は、増加指令TB、減少指令TC、終了指令TDのいずれかが入力された場合の磁場基準値の開始レベルを初期加速完了レベルに設定している。
【0046】
従って、磁場基準発生器70は、時刻t5での減少指令TCの入力に同期して、磁場基準値が初期加速完了レベルから減少幅だけ減少するように、減少パターンに従った磁場基準値を時刻t5からの経過時間に応じて電流基準変換器72に入力し始める。この後、磁場基準値の減少に併せて電流基準値も減少し、荷電粒子の軌道の磁束密度も減少し、磁束密度の減少に併せて、高周波発生器42から供給される高周波電力も減少する。
【0047】
時刻t6において荷電粒子のエネルギーは、初期加速完了レベルに対応する400MeVから、減少幅に対応する10MeVだけ減少した状態となり、磁場基準値も荷電粒子のエネルギーも一定値を維持した状態に入る。
【0048】
この後、時刻t7において、タイミング制御装置66は、前記同様に出射可能信号TPを出力し、ビーム照射系46は、対象物に390MeVのビームを照射する。
【0049】
この後、タイミング制御装置66は、時刻t8、t10、t12においてそれぞれ、減少指令TCを磁場基準発生器70に入力する。この3回の減少指令TCにより、上記同様の動作が行われ、荷電粒子のエネルギーは30MeV減少する。具体的には、時刻t9における荷電粒子のエネルギーは、390MeVであった時刻t8のときよりも10MeV減少して380MeVとなり、時刻t11での荷電粒子のエネルギーは370MeVとなり、時刻13での荷電粒子のエネルギーは360MeVとなる。
【0050】
この後、時刻t14において、タイミング制御装置66は、前記同様に出射可能信号TPを出力し、ビーム照射系46は、対象物に360MeVのビームを照射する。
【0051】
この後、時刻t15においてタイミング制御装置66は、増加指令TBを磁場基準発生器70に入力する。ここで、磁場基準値が初期加速完了レベルに達した時刻t3から、時刻t15の直前までにおいて、増加指令TBは入力されていないが減少指令TCが4回入力されているので、時刻t15において磁場基準発生器70は、増加指令TB、減少指令TC、終了指令TDのいずれかが入力された場合の磁場基準値の開始レベルを初期加速完了レベルよりも減少幅の4倍分低いレベルに設定している。
【0052】
そして、磁場基準発生器70は、時刻t15での増加指令TBの入力に同期して、増加パターンに従った磁場基準値を時刻t15からの経過時間に応じて電流基準変換器72に入力し始める。これにより、磁場基準値の増加に併せて電流基準値も増加し、時刻t16において荷電粒子のエネルギーは、増加幅に対応する10MeVだけ増加した370MeVとなる。
【0053】
この後、時刻t17において、タイミング制御装置66は、前記同様に出射可能信号TPを出力し、ビーム照射系46は、対象物に370MeVのビームを照射する。
【0054】
この後、時刻t18において、タイミング制御装置66は、終了指令TDを磁場基準発生器70に入力する。ここで、磁場基準値が初期加速完了レベルに達した時刻t3から、時刻t18の直前までにおいて、増加指令TBが1回、減少指令TCが4回入力されているので、磁場基準発生器70は、磁場基準値の開始レベルを初期加速完了レベルよりも減少幅の3倍分だけ低いレベルに設定している。
【0055】
そして、磁場基準発生器70は、終了指令TDの入力に同期して、終了パターンに従って磁場基準値を時刻t18からの経過時間に応じて電流基準変換器72に入力し始める。これにより、磁場基準値は、時刻t19において入射用レベルまで減少して、時刻t19から所定期間、一定状態を保つ。その後、磁場基準値は磁束密度ゼロまでさらに減少する。これにより、電流基準値も磁場の磁束密度も減少し、高周波発生器42から高周波加速空洞58を介して供給される高周波電力も併せて減少し、荷電粒子のエネルギーもゼロとなる。
【0056】
この後、操作部68の終了ボタン(図示せず)が押されると、タイミング制御装置66は、磁場基準発生器70にリセット指令REを入力する。これにより、パターン発生装置64は初期状態に戻るので、操作部66のスタートボタンを押すことにより、上記の動作を繰り返すことができる。
【0057】
以上が本実施形態の動作説明であり、以下、従来技術との違いを説明する。従来技術では、出射ビームのエネルギーが一定であるため、異なるエネルギーのビームを取り出すためには、偏向電磁石に供給すべき電流指令値のパターンを出射ビームのエネルギーレベル毎に書き換える必要があった。具体的には、磁場の磁束密度を初期レベルから加速完了レベルまで立ち上げ、そこで一旦ビームを出射させてから磁場の磁束密度を終了値に立ち下げた後、加速完了レベルが変わるように電流指令値のパターンを書き換え、再度磁場の磁束密度を初期レベルから加速完了レベルまで立ち上げ、ビームを出射させることになる。この場合、ビームエネルギーの立ち上げおよび立ち下げの動作を2度以上行うため、エネルギーの異なる複数のビームを短時間で取り出すことはできなかった。
【0058】
一方、本実施形態では、タイミング制御装置66に対し時刻t0を基準とした増加指令TBおよび減少指令TCの入力タイミングを予め設定しておくだけで、エネルギーを所望の回数だけ変えてビームを取り出すことができる。即ち、ビームエネルギーの立ち上げおよび立ち下げの動作を2度行うことなく、エネルギーの異なる複数のビームを短時間で容易に取り出すことができる。
【0059】
従って、粒子線照射の治療において、到達深さを変えた複数のビームを短い時間間隔で照射することができるため、患者の負担は軽減する。この結果、アクリル板の挿入作業の手間や、アクリル板の挿入時の騒音、アクリル板によるビームの散乱といった従来課題は解消し、粒子線の照射治療が格段に行い易くなる。
【0060】
また、減少幅、増加幅を小さく設定しておくことでビームの到達深さの間隔を細かく変えることもでき、減少幅、増加幅を大きく設定しておくことでビームの到達深さの間隔を大きくすることもできる。
【0061】
さらに、従来はアクリル板の挿入によりビームエネルギーを下げる調整しかできなかったが、本実施形態では、増加指令TBおよび増加パターンによりビームエネルギーを上げる調整も可能となる。
【0062】
[第2の実施形態]
図5は、本発明の第2の実施形態における加速器30Aの構成を示すブロック図である。第1の実施形態との違いは、電流基準変換器72に代えて、2つの電流基準値を生成して各電源装置36、38に入力する電流基準変換器72Aを配置した点のみであるので、第1の実施形態との違いのみを説明する。この電流基準変換器72Aは、磁場基準値に基づいて、第1の実施形態の電流基準値と同じである第1電流基準値を求めて電源装置36に入力すると共に、第2電流基準値を電源装置38に入力する。以下、この第2電流基準値について説明する。
【0063】
図6は、横軸にとった磁束密度の磁場を生じさせるためには、各々の四極電磁石52の磁場コイルにどれだけのコイル電流を供給する必要があるかを示したグラフの一例である。電流基準変換器72Aは、図6に示す四極電磁石52に流すコイル電流値とこれにより生じる磁束密度との対応関係に加え、図3に示した偏向電磁石50に流すコイル電流値とこれにより生じる磁束密度との対応関係をテーブルデータあるいは関数として記憶している。
【0064】
電流基準変換器72Aは、四極電磁石52のコイル電流値と、生じる磁束密度との対応関係に基づいて、四極電磁石52が磁場基準値に等しい磁束密度の磁場を発生させるように、第2電流基準値を電源装置38に入力する。電源装置38は、第2電流基準値に等しいコイル電流を四極電磁石52に供給し、これにより四極電磁石52は、磁場基準値に等しい磁束密度の磁場を発生させる。
【0065】
以上、第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第2の実施形態では、偏向電磁石50に対する第1電流基準値に加え、四極電磁石52に対する第2電流基準値も同時に生成および出力するので、複数の電磁石によりそれぞれ発生する磁場の磁束密度を同期して調整できる。即ち、荷電粒子の周回ビームを作るための電磁石電流の調整および修正が容易となる。
【0066】
[第3の実施形態]
図7は、本発明の第3の実施形態における加速器30Bの構成を示すブロック図である。第1の実施形態との違いは、周波数基準変換器80をさらに設けた点のみである。この周波数基準変換器80は、磁場基準発生器70からの磁場基準値の入力を受けて、磁場基準値に応じた周波数基準値を求め、この周波数基準値を高周波発生器42に入力する。高周波発生器42は、高周波加速空洞58を介して、加速周波数が周波数基準値に等しくなるように高周波電力を供給する。
【0067】
より詳細には、荷電粒子ビームは、同じ軌道を周回するので、高周波発生器42から高周波加速空洞58を介して供給される加速電圧で加速されるに従って周回周波数が高くなり、この加速に応じて加速電圧の加速周波数を高くする必要がある。また、荷電粒子ビームの加速に伴ってそのエネルギーが増加すれば、その軌道を円形に曲げるための磁場の磁束密度も大きいものである必要がある。
【0068】
そこで本実施形態では、主加速器40における荷電粒子の軌道となる磁場が取り得る範囲の磁束密度に対して、与えるべき加速周波数を公知の計算式により予め求めておく。求めた磁束密度と加速周波数との対応関係は、例えばテーブルデータとして周波数基準変換器80に記憶されている。周波数基準変換器80は、この対応関係に基づいて、磁場基準値が示す磁束密度に対応する加速周波数を決定し、決定した加速周波数を周波数基準値として高周波発生器42に入力する。図8は、荷電粒子の軌道となる磁場の磁束密度と、供給すべき加速周波数との対応関係の一例を示すグラフである。
【0069】
以上、第3の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第3の実施形態では、磁場基準値を与えれば、電流基準値と共に周波数基準値を生成するため、荷電粒子のビームエネルギーをタイミング制御装置66により予め設定した値にするためのパターンデータの調整および修正が容易となる。
【0070】
[第4の実施形態]
図9は、本発明の第4の実施形態における加速器30Cの構成を示すブロック図である。第1の実施形態との違いは、ログメモリ84をさらに設けた点のみである。このログメモリ84は、磁場基準発生器70からの磁場基準値の入力を受けて、磁場基準値の変化を経過時間と共に記録する。かかる構成においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第4の実施形態では、ログメモリ84に記録された磁場基準値の時間変化に基づいて、どの程度のエネルギーのビームを取り出すための運転を行おうとしたかを後から確認することができる。これを用いれば、例えば粒子線の照射治療において、実際に患者に照射されたビームの強度が治療計画通りであったのか(即ち、タイミング制御装置66から出力された各指令通りのものであったのか)、あるいは、何らかの理由で計画外の強度となってしまったのかを検証することができる。
【0071】
[第5の実施形態]
図10は、本発明の第5の実施形態における加速器30Dの構成を示すブロック図である。第2の実施形態との違いは、第3の実施形態で説明した周波数基準変換器80と、第4の実施形態で説明したログメモリ84とをさらに設けた点である。かかる構成では、第1〜第4の実施形態の全ての効果を得ることができる。
【0072】
以上、本発明の各実施形態について説明してきたが、エネルギーが異なる複数のビームを短時間で取り出す本発明の技術は、粒子線照射の治療用に限定されるものではない。例えば、J−PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)のような大強度陽子加速器にも適用可能である。
【0073】
最後に、請求項で用いた用語と実施形態との対応関係を説明する。なお、以下に示す対応関係は、参考のために示した一解釈であり、本発明を限定するものではない。
【0074】
初期上げパターンの開始時点の磁場基準値が示す磁束密度(第1の実施形態では一例として磁束密度ゼロとして説明した)は、請求項記載の初期値の一例である。
終了パターンの終了時点の磁場基準値が示す磁束密度(第1の実施形態では一例として磁束密度ゼロとして説明した)は、請求項記載の終了値の一例である。
電流基準値、第1電流基準値、第2電流基準値は、請求項記載の電流基準情報の一例である。
磁場基準値は、請求項記載の磁束密度情報の一例である。
磁場基準発生器70は、請求項記載の磁場基準発生部の一例である。
電源装置36、38は、請求項記載の電源供給部の一例である。
偏光電磁石50の磁場コイルおよび四極電磁石52の磁場コイルの内、一方が請求項記載の第1の磁場コイルの一例であり、他方が請求項記載の第2の磁場コイルの一例である。
電流基準変換器72、72Aは、請求項記載の電流基準変換部の一例である。
高周波発生器42および高周波加速空洞58は、請求項記載の周波数制御部の一例である。
周波数基準変換器80は、請求項記載の周波数基準変換部の一例である。
周波数基準値は、請求項記載の周波数基準情報の一例である。
ログメモリ84は、請求項記載の記録部の一例である。
【符号の説明】
【0075】
10 シンクロトロン
12 偏向電磁石
14 偏向電磁石電源
16 パターンメモリ装置
18 タイミング装置
30、30A、30B、30C、30D 加速器
32 イオン源
34 入射用加速器
36、38 電源装置
40 主加速部
42 高周波発生器
44 ビーム輸送系
46 ビーム照射系
48、48A、48B、48C、48D 制御装置
50 偏向電磁石
52 四極電磁石
54 入射用電磁石
56 出射用電磁石
58 高周波加速空洞
60 ビームシャッタ
62 線量モニタ
64、64A、64B、64C、64D パターン発生装置
66 タイミング制御装置
68 操作部
70 磁場基準発生器
72、72A 電流基準変換器
80 周波数基準変換器
84 ログメモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流基準情報に応じたコイル電流を磁場コイルに供給して、加速される荷電粒子の軌道に磁場を発生させる加速器の制御装置であって、
経過時間に伴って、磁束密度が初期値から初期加速完了レベルまで増加する変化である初期上げパターンと、前記初期値と前記初期加速完了レベルとの差よりも小さい減少幅で磁束密度が減少する変化である減少パターンと、磁束密度が終了値まで減少する変化である終了パターンとを記憶しており、初期上げ指令を受けた場合には前記初期上げパターンに従った磁束密度情報を経過時間に応じて出力し、前記初期上げパターンに従った磁束密度情報の出力後に減少指令を受けた場合には前記減少パターンに従った磁束密度情報を経過時間に応じて出力し、終了指令を受けた場合には前記終了パターンに従った磁束密度情報を経過時間に応じて出力する磁場基準発生部と、
前記磁場基準発生部が出力する磁束密度情報が更新される毎に、更新された磁束密度情報に応じた磁場を発生させる前記コイル電流の大きさを求めて前記電流基準情報として前記磁場コイルの電源供給部に入力する電流基準変換部と
を備えていることを特徴とする加速器の制御装置。
【請求項2】
前記磁場基準発生部は、経過時間に伴って磁束密度が所定の増加幅で増加する変化である増加パターンも記憶しており、前記初期上げパターンに従った磁束密度情報の出力後に増加指令を受けた場合には前記増加パターンに従った磁束密度情報を経過時間に応じて出力することを特徴とする請求項1記載の加速器の制御装置。
【請求項3】
前記加速器は、第1の前記電流基準情報に応じた前記コイル電流を第1の前記磁場コイルに供給すると共に第2の前記電流基準情報に応じた前記コイル電流を第2の前記磁場コイルに供給するものであり、
前記電流基準変換部は、前記磁場基準発生部が出力する磁束密度情報が更新される毎に、更新された磁束密度情報に応じた磁場を前記第1の磁場コイルによって発生させる前記コイル電流の大きさを前記第1の電流基準情報として前記第1の磁場コイルの前記電源供給部に入力すると共に、更新された磁束密度情報に応じた磁場を前記第2の磁場コイルによって発生させる前記コイル電流の大きさを前記第2の電流基準情報として前記第2の磁場コイルの前記電源供給部に入力することを特徴とする請求項1記載の加速器の制御装置。
【請求項4】
前記加速器は、前記荷電粒子を周回させるために、周波数基準情報に応じた加速周波数の電力を供給する周波数制御部を備えたものであり、
前記磁場基準発生部が出力する磁束密度情報が更新される毎に、更新された磁束密度情報に応じた加速周波数を求めて、求めた加速周波数を前記周波数基準情報として前記周波数制御部に入力する周波数基準変換部を備えていることを特徴とする請求項1記載の加速器の制御装置。
【請求項5】
前記磁場基準発生部が出力する磁束密度情報の変化を経過時間と共に記録する記録部を備えていることを特徴とする請求項1記載の加速器の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−124149(P2011−124149A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282029(P2009−282029)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】