説明

加速管

【課題】 同軸度がよく、素粒子やイオン等の家電粒子のビームに乱れを生じさせることがなく、荷電粒子を所定の速度に安定的に加速することができる加速管を提供すること。
【解決手段】 加速管は、複数の環状絶縁部材1と複数の環状電極2とが同軸状に交互に接合されるとともに、環状電極2には両主面間を貫通する貫通孔2aが設けられており、貫通孔2aに当接する環状絶縁部材1の端面には凹部1aが設けられており、止め部材7が貫通孔2aを挿通するとともに凹部1aに嵌入されて、環状絶縁部材1の端面と環状電極2の主面とが接合されている。接合時に治具等を用いずに組立可能で、同軸度も向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素粒子ビーム,電子流等の荷電粒子を加速する加速管の構造に関するものであり、より詳細には、加速管を構成する環状絶縁部材と環状電極との接合部の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の加速管の斜視図を図3に、その断面図を図4に示す。図3,4において、11は環状絶縁部材、12は環状電極、13はこれら複数の環状絶縁部材11と複数の環状電極12とが同軸状に交互に接合されるとともに両端に環状絶縁部材11が位置するように構成された加速管である。
【0003】
この加速管13の両端面にフランジ15が接合され、このフランジ15を介して加速管が外部装置にボルト締め等によって取付られる。
【0004】
加速管13は、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)−コバルト(Co)合金等の金属から成る複数の環状電極12とアルミナ(Al)質セラミックス等の電気絶縁材料から成る環状絶縁部材11とから構成され、複数の環状電極12と複数の環状絶縁部材11とを同軸状に交互に挟むようにして銀(Ag)ろう等のろう材を介し接合することによって製作され、全体として円筒形状となっている。
【0005】
複数の環状電極12と複数の環状絶縁部材11とを同軸状に交互に挟むようにして接合する際には、図5に示すように、環状電極12の内周面と環状絶縁部材11の内周面とをガーボン製の治具で支持した状態でろう付け炉に投入する。
【0006】
環状電極12のうち、加速管13の両端には環状の立壁部14が設けられており、立壁部14の端面には、ステンレス鋼(SUS)等の金属から成るフランジ15が溶接されて接合固定される。
【0007】
フランジ15は外周部に複数の取付用ボルト穴が設けられており、フランジ15の取付用ボルト穴を電子顕微鏡等内に設けた取付部材にボルト締めすることによって加速管13が電子顕微鏡等の外部装置に取り付けられる。
【0008】
また加速管13の両端とフランジ15との間には立壁部14にろう付けされるとともに、フランジ15にろう付けされたAlセラミックス等の電気絶縁材料から成る補強用環状絶縁部材16が配設されている。
【特許文献1】特開平8−222160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の加速管13においては、環状絶縁部材11の内周面と環状電極12の内周面とを支持する治具,環状絶縁部材11および環状電極12の加工寸法公差と、環状絶縁部材11,環状電極12および治具のろう付け時の熱膨張差等の要因によって、環状絶縁部材11と環状電極12とを所望の組立精度でろう付け接合するのが困難であった。このため、ろう付け接合後の環状絶縁部材11と環状電極12との同軸度の精度が低下する場合があった。その結果、加速管13の中心に素粒子ビーム,電子流等を通過させる際に、素粒子やイオン等の荷電ビームに乱れが生じる、あるいは、所定の速度に加速させることができなくなるという問題点が生じていた。
【0010】
また、環状絶縁部材11の内面がカーボン製の治具に摺れて導電性のカーボン粉が付着してしまい、環状絶縁部材11の上下主面間での絶縁性が損なわれることによって、隣り合う環状電極12同士の間で電気的短絡を生じやすくなり、素粒子やイオン等の荷電ビームを加速させることができなくなるという問題点を有していた。
【0011】
したがって、本発明は上記従来の問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、素粒子やイオン等の荷電粒子のビームに乱れを生じさせることがなく、荷電粒子を所定の速度に安定的に加速することができる加速管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の加速管は、複数の環状絶縁部材と複数の環状電極とが同軸状に交互に接合された加速管であって、前記環状電極には両主面間を貫通する貫通孔が設けられているとともに、該貫通孔に当接する前記環状絶縁部材の端面に凹部が設けられており、止め部材が前記貫通孔を挿通するとともに前記凹部に嵌入されて、前記環状絶縁部材の端面と前記環状電極の主面とが接合されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の加速管は、上記構成において好ましくは、前記環状電極の前記貫通孔および前記環状部材の前記凹部は、少なくとも2箇所に設けられていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の加速管は、上記構成において好ましくは、前記止め部材が絶縁材料から成っていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の加速管は、複数の環状絶縁部材と複数の環状電極とが同軸状に交互に接合され、環状電極には両主面間を貫通する貫通孔が設けられているとともに、この貫通孔に当接する環状絶縁部材の端面に凹部が設けられており、止め部材が貫通孔を挿通するとともに凹部に嵌入されて、環状絶縁部材の端面と環状電極の主面とが接合されていることから、治具を用いずとも、止め部材によって環状絶縁部材および環状電極の位置関係が拘束され、特に止め部材を少なくとも2箇所に用いることによって正確に位置決めされ、環状絶縁部材と環状電極とを同軸状にろう付け接合することが可能な加速管となる。その結果、環状絶縁部材および環状電極の接合時の組立精度を乱す要因が少なくなって、高精度な加速管とすることができ、加速管の中心に素粒子やイオン等の荷電ビームを通過させた際に、ビームに乱れを生じさせることがなく、荷電粒子を所定の速度に加速することができる加速管を提供できる。
【0016】
また、従来のように環状絶縁部材の内面がカーボン製の治具に摺れて導電性のカーボンが付着するということがなくなり、環状絶縁部材の上下主面間での絶縁性が損なわれることがない。したがって、環状電極同士が付着したカーボンを介して電気的に短絡してしまうことがなくなるので、素粒子やイオン等の荷電粒子を所定の速度に加速することができる。
【0017】
以上により、素粒子やイオン等の荷電ビームに乱れを生じさせることなく荷電粒子を所定の速度に安定的に加速可能な加速管とすることができる。
【0018】
また、本発明の加速管は、好ましくは、止め部材が絶縁材料から成っていることから、環状絶縁部材の凹部に止め部材を嵌入させ、環状電極に電圧を印加させても、環状絶縁部材を介して隣接する止め部材同士間で放電破壊が発生する虞が少ない。即ち、環状電極間で電気的短絡が生じにくいので、素粒子やイオン等の荷電粒子をビーム状にしてより確実に所定の速度に加速することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の加速管について以下に詳細に説明する。図1は本発明の加速管の実施の形態の一例を示す斜視図であり、図2は図1の中央部で縦に一部破断させた断面図である。これらの図において、1は環状絶縁部材、2は環状電極、7は止め部材であり、主としてこれらで加速管3が構成され、素粒子やイオン等の荷電粒子を加速する機能を果たす。以下では、荷電粒子の一つの例として電子を加速する場合を例に説明する。なお、本明細書において、上下左右という場合、単に図面上の位置関係を説明するものであり、実際の使用時における位置関係を意味するものではない。
【0020】
本発明の加速管3は、複数の環状絶縁部材1と複数の環状電極2とが同軸状に交互に接合されており、環状電極2には少なくとも1箇所、好ましくは2箇所以上に環状電極2の上下両主面間を貫通する貫通孔2aが設けられているとともに、貫通孔2aに当接する環状絶縁部材1の端面に凹部1aが設けられており、止め部材7が貫通孔2aを挿通するとともに凹部1aに嵌入されて、環状絶縁部材1の端面と環状電極2の主面とが接合されたものである。
【0021】
本発明における環状絶縁部材1は、Al質セラミックス等の電気絶縁材料から成る例えば円環状(円筒状)、楕円形の環状、長円形の環状等の環状または筒状の部材である。この環状絶縁部材1はその両端面に位置する環状電極2同士を電気的に絶縁する機能を有する。環状絶縁部材1は、例えば、その両端面に予めモリブデン(Mo),マンガン(Mn),タングステン(W)等のメタライズ層が施されており、その上にNi等の金属から成る金属層が被着されている。そして、その金属層にAgろうやAg−銅(Cu)ろう等のろう材を介して環状電極2が接合される。なお、環状絶縁部材1の環状電極2に臨む端面には、少なくとも1箇所、好ましくは2箇所以上に止め部材7を嵌入するための凹部1aが形成されている。
【0022】
この環状絶縁部材1は、例えばAl質セラミックスから成る場合、Al、シリカ(SiO)、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)等の原料粉末を所定形状の金型内に充填するとともにこれを一定圧力で押圧して円筒状の成形体を成形し、しかる後、この成形体を約1600℃の高温で焼成することによって製作される。
【0023】
環状絶縁部材1の両端面にメタライズ層を施す場合は、成型体を焼成の後に、W,Mo,Mn等の金属粉末に適当なバインダ,溶剤を混合して成る導体ペーストを、環状絶縁部材1の両端面にスクリーン印刷法などにより印刷塗布し、約1500℃の温度で焼成することによってメタライズ層を形成する。好ましくは、このメタライズ層に電解メッキ法または無電解メッキ法等によりNi等の金属から成る金属層を被着させておくのがよく、この構成によりメタライズ層が酸化や腐食等により劣化するのを防止できる。
【0024】
環状電極2は、それぞれの間に高電圧が印加されることにより加速管3の内部空間に電子流を加速するための電場を形成する機能を有し、Fe−Ni−Co合金やチタン(Ti)等の金属材料で作製される。環状電極2には少なくとも1箇所、好ましくは2箇所以上に環状電極2の上下主面間を貫通するようにして止め部材7を挿通させるための貫通孔2aが設けられる。
【0025】
環状絶縁部材1に形成される凹部1aおよび環状電極2に形成される貫通孔2aをそれぞれ2箇所以上に設けると、環状絶縁部材1と環状電極2との中心軸が一致するように同軸状に配置させることができ、電子流等に乱れを生じさせずに所定の速度に加速することができる。凹部1aおよび貫通孔2aは、それぞれ環状絶縁部材1の端面および環状電極2の主面における周方向のどの位置に設けてもよく、例えば、環状絶縁部材1の端面および環状電極2の主面の1箇所に設けられた凹部1aおよび貫通孔2aから1/4周だけ離れた位置に2箇所目の凹部1aおよび貫通孔2aを設けてもよい。しかしながら、相互にできるだけ距離が離れる位置、すなわち平面視して中心点を通る直線が交わる位置に設けるのが好ましい。また、2箇所より多く設ける場合は、環状絶縁部材1および環状電極2の周囲を均等に分割する位置、例えば円環状の場合の3箇所に設ける場合は、これらが正三角形を成す位置に設けるのが好ましい。
【0026】
この環状電極2は、例えばFe−Ni−Co合金等のインゴット(塊)を圧延加工法や打ち抜き加工法等、従来周知の金属加工法により所定の円環状、楕円形の環状、長円形の環状等の環状に加工することによって製作される。
【0027】
そして、環状絶縁部材1の各凹部1aに止め部材7を嵌入するとともに、環状電極2を、環状電極2の貫通孔2aに止め部材7を挿通させて載置し、さらに、その上に環状絶縁部材1の各凹部1aに止め部材7を嵌入するように上側の環状絶縁部材1を載置する。そして、これを順次繰り返して所定の段数を積み上げる。なお、環状絶縁部材1と環状電極2との間にAgろうやAg−Cuろう等のろう材を挟んで配置しておく。このように環状絶縁部材1の各凹部1aに止め部材7が嵌入されるとともに、止め部材7に環状電極2の貫通孔2aが挿通されることで、環状絶縁部材1と環状電極2の中心軸が実質的に一致するように同軸状に配置されることになる。そして、ろう材を加熱溶融することによって環状絶縁部材1と環状電極2とがろう付け接合され、加速管3が作製される。
【0028】
かくして、止め部材7によって環状絶縁部材1と環状電極2との位置が所定の位置に正確に位置決めされることになり、治具を用いずに環状絶縁部材1と環状電極2とを正確に同軸状にろう付け接合することが可能となる。その結果、加速管3の中心に電子を通過させた際に、電子流に乱れを生じさせることがなく、電子を所定の速度に加速することができる加速管を得ることができる。
【0029】
また、従来のように環状絶縁部材1の内面がカーボン製の治具に摺れるということがなくなり、導電性のカーボンが付着して環状絶縁部材1の両端面間での絶縁性が損なわれることがない。したがって、環状電極2同士が付着したカーボンを介して環状絶縁部材1の沿面で電気的に短絡してしまうことがなく、電子流を所定の速度に加速することができる。
【0030】
以上により、電子流等の荷電粒子に乱れを生じさせることなく荷電粒子を所定の速度に安定的に加速可能な加速管とすることができる。
【0031】
なお、止め部材7はAl質セラミックス等の電気絶縁材料またはFe−Ni−Co合金,Ti等の金属材料で作製された棒状または板状等の部材であり、その横断面の寸法は凹部1aおよび貫通孔2aの横断面寸法よりもわずかに(0.03mm〜0.1mm程度)小さく作製されている。凹部1aおよび貫通孔2aの横断面寸法よりもわずかに小さくすることで、凹部1aおよび貫通孔2a内への止め部材7の嵌め合わせを可能とするとともに、凹部1aおよび貫通孔2aの内面に対しての止め部材7のガタつきを抑え、止め部材7によって環状絶縁部材1と環状電極2との位置決めを正確なものとすることができる。そして、環状絶縁部材1と環状電極2とを正確に同軸状に配置させることができ、加速管3の中心に電子流等の荷電粒子を通過させた際に、電子流等に乱れを生じさせることなく、所定の速度に加速することができる。
【0032】
また、止め部材7の長さは、凹部1aの深さおよび貫通孔2a部の環状電極2の厚さを合わせた長さよりも短くするのがよい。これによって、止め部材7が凹部1aおよび貫通孔2a内に収まりきらず、環状絶縁部材1と環状電極2との間に空隙が生じたり、環状絶縁部材1と環状電極2とのろう付け接合時に止め部材7の熱膨張により、環状絶縁部材1と環状電極2との間が十分密着せず、強固に接合されなくなったりするのを防止することができる。
【0033】
止め部材7の形状は、棒状または環状絶縁部材1の周方向に幅を有する板状、その他、環状絶縁部材1および環状電極2を係止可能で、位置決めに適したものであればよい。例えば、紡錘形であったり、上下端面が突出した曲面状、多角錘状に尖らせた柱状や板状のものであったりしてもよい。上下端面をこのような先細り形状にすることによって、止め部材を凹部1aに嵌入させたり、貫通孔2aに挿通させたりしやすくなり、また、凹部1aの底面をこれと当接する曲面や凹面とすることにより、環状絶縁部材1を位置決めしやすくなる。なお、位置決めできればよいので、強度的に問題がなければ、板状でなくても棒状(柱状)で十分である。
【0034】
止め部材7は環状絶縁部材1と熱膨張係数が同一または近似した材料から成るのがよい。環状絶縁部材1と環状電極2とのろう付け接合時に止め部材7が凹部1a内で大きく熱膨張または熱収縮しないので、環状絶縁部材1と環状電極2とのろう付け接合部に熱膨張差による応力が作用するのを低減でき、環状絶縁部材1のクラック等による破損を防止することができる。例えば、環状絶縁部材1がAl質セラミックスから成る場合、環状絶縁部材1と熱膨張係数が同一または近似した材料としては、Al質セラミックス,Fe−Ni−Co合金,Ti等が挙げられる。
【0035】
好ましくは、止め部材7は、環状絶縁部材1と同じ材質、例えばAl質セラミックス等の絶縁材料から成っているのがよく、この構成により、環状絶縁部材1の凹部1aに止め部材7を嵌入させ、環状電極2に電圧を印加させても、環状絶縁部材1の内部において両端の隣接する止め部材7同士間で絶縁破壊する虞がない。即ち、環状電極2間で電気的短絡が生じにくいので、電子流等をより確実に所定の速度に加速することができる。また、環状絶縁部材1と同じ材質であるので、熱膨張差による問題も生じない。
【0036】
次に、本発明の加速管において、立壁部4は、加速管3をフランジ5に取り付けるための取付用部材としての機能を有し、Fe−Ni−Co合金やTi等の金属材料で作製される。
【0037】
この立壁部4は、例えばFe−Ni−Co合金等のインゴットを圧延加工法や絞り加工法、打ち抜き加工法等、従来周知の金属加工法により所定の円環状、楕円形の環状、長円形の環状等の環状に形成され、加速管3の両端面にろう付けされるとともに、立壁部4の両端面には、SUS等の金属から成るフランジ5が溶接されて接合固定される。立壁部4は作製する際に絞り加工法やプレス加工法等の従来周知の金属加工法を施すことによって形成される。
【0038】
フランジ5は平面視形状が円や四角形状で中央部に円形、楕円形、長円形の貫通孔が設けられた環状の部材であり、電子顕微鏡等の電子装置への取付部材としての機能を成し、SUS等の金属材料で作製される。
【0039】
そして、フランジ5と立壁部4とは両者の接合端面をTIG溶接法や電子ビーム溶接法等の溶接法によって溶接され、加速管3の両端にフランジ5が取り付けられた製品としての加速管となる。
【0040】
フランジ5の外周部付近には、例えば複数の取付用ボルト穴が設けられており、この取付用ボルト穴を電子顕微鏡内等に設けられた取付部材にボルト締めすることにより加速管3が電子顕微鏡等の電子装置内に装着される。
【0041】
かくして、加速管3が電子顕微鏡等の電子装置内に装着され、各環状電極2間に約10kV〜50kVの高電圧を印加して加速管3内部に所定の電場を形成するとともにこの加速管3の内部空間に電子流を通過させれば、電子流は電場によって所定方向に、所定速度に加速され、これによって電子の加速管として機能する。
【0042】
また、加速管3が立壁部4にAgろうやAg−Cuろう等のろう材を介して気密に接合され、さらに立壁部4がフランジ5に気密に溶接接合されるので、加速管3をフランジ5に気密に接合でき、加速管3の内部空間の雰囲気を真空等の常に一定の気密雰囲気とすることができる。そして、加速管3内の電子流を乱れさせることなく所定の速度に安定的に加速することができる。
【0043】
上記構成の加速管において、好ましくは、図1に示すように、立壁部4にろう付けされるとともに、フランジ5にろう付けされたAl質セラミックス等の電気絶縁材料から成る補強用環状絶縁部材6が配設されている。補強用環状部材6を加速管3の両端に位置する立壁部4とフランジ5との両方に接合することによって立壁部4の弾性変形を阻止する作用を為す。
【0044】
この構成により、加速管3がフランジ5に、より強固に固定され、立壁部4が弾性変形するのを確実に防止し、立壁部4の弾性変形によって加速管3が振動するのを確実に防止することができる。そして、加速管3内の電子流に乱れが生じるのを防止し、電子流を所定の速度に安定的に加速することができる。
【0045】
補強用環状部材6は環状絶縁部材1の熱膨張係数に近似する材料、または全く同一の熱膨張係数を有する材料から成るのがよく、さらに環状絶縁部材1と同様の円環状、楕円形の環状、長円形の環状等の環状部材で、立壁部4を介して環状絶縁部材1に対向する位置に配置されるのがよい。
【0046】
この補強用環状部材6により、立壁部4の熱膨張による変形が抑制され、立壁部4の熱膨張差が環状絶縁部材1にそのまま加わるのを緩和できるので、環状絶縁部材1に加わる立壁部4との熱膨張差による応力を軽減でき、環状絶縁部材1にクラック等の破損が生じるのを確実に防止することができる。すなわち、加速管3内部を確実に気密に保持し得るものとなる。
【0047】
補強用環状部材6は、例えば、環状絶縁部材1がAl質セラミックスから成る場合、補強用環状部材6もAl質セラミックスから成るのが好ましく、またはFe−Ni−Co合金等Al質セラミックスと熱膨張係数が近似する材料から成るのがよい。
【0048】
補強用環状部材6は、例えばAl質セラミックスから成る場合、その両端面に予めMo,Mn,W等のメタライズ層が施され、その上にNi等の金属から成る金属層が被着されて、AgろうやAg−Cuろう等のろう材を介して立壁部4とフランジ5に接合される。
【0049】
この補強用環状部材6は、例えばAl質セラミックスから成る場合、上記の環状絶縁部材1の作製方法と同様に作製すればよい。
【0050】
また補強用環状部材6がFe−Ni−Co合金等の金属から成る場合、例えばFe−Ni−Co合金等のインゴットを圧延加工法や打ち抜き加工法等、従来周知の金属加工法により所定の円環状、楕円形の環状、長円形の環状等の環状に加工することによって製作される。
【0051】
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内であれば種々の変更を行なうことは何等支障ない。例えば、環状電極2はCu等の電気的抵抗の小さい材料から成っていてもよく、環状電極2に高い電圧をかけても熱が発生することがなく、環状電極2の変形をより有効に防止できる。また、加速管3とフランジ5との接合は立壁部4を介して接合される場合について示したが、立壁部4を介さずに両者が直接接合される形態であっても構わないし、フランジ5自体が設けられずに加速管3が電子顕微鏡等の電子装置に直接取り付けられていても構わない。
【0052】
また、上記において止め部材は環状絶縁部材1とは別体のものとして示したが、環状絶縁部材1と一体のものであっても何等支障がなく、例えば、環状絶縁部材1の成形時に環状絶縁部材1の上側端面に止め部材1となる突起を一体に設けておき、この突起が貫通孔2aを挿通するとともに、上側の環状絶縁部材1の下側端面に設けられた凹部1aに嵌入されて、環状絶縁部材1の端面と環状電極2の主面とが接合されたものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の加速管の実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図2】図1の加速管の実施の形態の一例を示す一部断面斜視図である。
【図3】従来の加速管の例を示す斜視図である。
【図4】図3の加速管の断面図である。
【図5】従来の加速管の組立方法の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1:環状絶縁部材
2:環状電極
3:加速管
4:立壁部
5:フランジ
6:補強用環状部材
7:止め部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の環状絶縁部材と複数の環状電極とが同軸状に交互に接合された加速管であって、前記環状電極には両主面間を貫通する貫通孔が設けられているとともに、該貫通孔に当接する前記環状絶縁部材の端面に凹部が設けられており、止め部材が前記貫通孔を挿通するとともに前記凹部に嵌入されて、前記環状絶縁部材の端面と前記環状電極の主面とが接合されていることを特徴とする加速管。
【請求項2】
前記環状電極の前記貫通孔および前記環状部材の前記凹部は、少なくとも2箇所に設けられていることを特徴とする請求項1記載の加速管。
【請求項3】
前記止め部材が絶縁材料から成っていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の加速管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−87846(P2007−87846A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277256(P2005−277256)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】