説明

加飾成形部材

【課題】外観が金属研磨面調意匠を呈する加飾成形部材を提供することによって、光沢が強すぎず、鈍く光る質感の金属研磨面調意匠を容易に実現すること。
【解決手段】加飾成形部材20は、表面に複数の微細凹部1aを有する基材1と、基材1の表面形状に沿って基材1の表面側に形成された金属光沢層2と、金属光沢層2の表面側に形成された透明又は半透明の樹脂層からなる表面層3とを備える。平面視での微細凹部1aの面積は10−3〜10μmである。平面視での単位面積当たりの微細凹部1aの面積率は1〜80%である。金属光沢層2のJIS−Z−8701で規定されるXYZ表色系における刺激値(Y45°)は10000以上である。表面層3の表面側の表面粗さは、Ra2μm以下、かつRmax4μm以下又はSm50μm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車内装部品等に使用され得る加飾成形部材の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
例えばドアハンドル等の自動車内装部品に高級感を演出するための金属調意匠が要求されることがある。そのため、光沢に優れるクロムめっきや、いぶし銀調のサテンめっき等が知られている。しかし、クロムめっきは鏡面性が高すぎて自動車室内の雰囲気に調和しない場合がある。一方、サテンめっきは落ち着いた質感であるが工程が複雑である。
【0003】
そこで、光沢が強すぎず、鈍く光る質感の金属研磨面調意匠を容易に実現する技術が求められている。そのための1つの方策として、光学特性が金属研磨面に近く、外観が金属研磨面調意匠を呈する加飾成形部材が提案される。そのような加飾成形部材は、例えば転写フイルムのベース材に各機能を有する層を印刷や塗装等し、あるいは、表面層となるクリアフイルムに各機能を有する層を印刷や塗装等し、そして、得られたフイルム構造体を基材表面に転写や接着等することによって容易に得ることができる。得られた加飾成形部材は、基材の表面側にフイルム構造体が形成され、基材が金属研磨面調に加飾されたものである。もしくは、基材表面に直接フイルム構造体の各機能を有する層を印刷や塗装等してもよい。
【0004】
特許文献1には、高屈折率薄膜層、低屈折率薄膜層及び/又は純金属薄膜層からなる光吸収層を備える光学薄膜層を基材上に設けることによって、反射明度及び反射彩度が十分に大きい金属光沢を有する光吸収層を備える光学薄膜積層体を得ることが開示されている。しかし、この技術は、反射明度が大きい金属光沢を基材に付加する技術であって、光沢が抑制された金属研磨面調意匠を基材に付加するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−83183号公報(要約、図1〜図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、外観が金属研磨面調意匠を呈する加飾成形部材を提供し、もって、光沢が強すぎず、鈍く光る質感の金属研磨面調意匠を容易に実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面は、表面に複数の微細凹部を有する基材と、基材の表面形状に沿って基材の表面側に形成された金属光沢層と、金属光沢層の表面側に形成された透明又は半透明の樹脂層からなる表面層とを備え、平面視での微細凹部の面積が10−3〜10μmであり、平面視での単位面積当たりの微細凹部の面積率が1〜80%であり、金属光沢層のJIS−Z−8701で規定されるXYZ表色系における刺激値(Y45°)が10000以上であり、表面層の表面側の表面粗さが、Ra2μm以下、かつRmax4μm以下又はSm50μm以上である、加飾成形部材である。
【0008】
ここで、JIS−Z−8701で規定されるXYZ表色系における金属光沢層の刺激値(Y45°)は、試料面の法線方向に対する照明光軸角度を−45±2°とし、受光反射光軸角度を45±2°として、JIS−Z−8701で規定されるXYZ表色系における反射による物体色の三刺激値の定義に従ってY値を計算したものである。
【0009】
この構成によれば、表面層側から加飾成形部材に入射した光は、表面層の表面側の表面粗さによって一部が拡散反射し、金属光沢層の微細凹部(この金属光沢層の微細凹部は、金属光沢層が基材の表面形状に沿って形成されることにより、基材表面の微細凹部の形状が金属光沢層の表面に現れたものである。)内に生じる金属光沢層の影によって一部が吸光され、金属光沢層によって一部が正反射(鏡面反射)する。また、金属光沢層の微細凹部の周縁部によっても光の一部が拡散反射する。このような光の拡散反射、吸光、正反射があいまって、光沢が強すぎず、鈍く光る質感の金属研磨面調意匠が実現し、光学特性が金属研磨面に近く、外観が金属研磨面調意匠を呈する加飾成形部材が得られる。
【0010】
その場合に、表面層の表面側の表面粗さとして、Ra(算術平均粗さ)を2μm以下とすることにより、金属研磨面調意匠を実現するために十分な拡散反射が確実に得られる。Rmax(最大高さ)を4μm以下又はSm(凹凸の平均間隔)を50μm以上とすることによっても、金属研磨面調意匠を実現するために十分な拡散反射が確実に得られる。
【0011】
金属光沢層のJIS−Z−8701で規定されるXYZ表色系における刺激値(Y45°)を10000以上とすることにより、金属研磨面調意匠を実現するために十分な正反射ないし金属光沢が確実に得られる。
【0012】
平面視での基材表面の微細凹部の面積を10−3μm以上とすることにより、微細凹部が小さくなりすぎず、金属光沢層表面の微細凹部内に生じる金属光沢層の影による吸光が確実に達成される。平面視での基材表面の微細凹部の面積を10μm以下とすることにより、平面視での単位面積当たりの基材表面の微細凹部の面積率を一定としたときに、微細凹部の数が増えるから、微細凹部の周縁長が長くなり、金属光沢層表面の微細凹部の周縁部による拡散反射が確実に行われる。
【0013】
平面視での単位面積当たりの基材表面の微細凹部の面積率を1%以上とすることにより、平面視での単位面積当たりの金属光沢層の微細凹部の面積率が十分大きくなり、金属光沢層の微細凹部内に生じる金属光沢層の影が十分大きくなるから、光沢が強すぎず、鈍く光る質感の金属研磨面調意匠を実現するために十分な吸光が確実に達成される。平面視での単位面積当たりの基材表面の微細凹部の面積率を80%以下とすることにより、平面視での単位面積当たりの金属光沢層の微細凹部の面積率が過度に大きくならず、金属光沢層の微細凹部内に生じる金属光沢層の影が過度に大きくならないから、吸光が過剰になりすぎず、加飾成形部材の過度の明度及び/又は刺激値の低下が抑制される。
【0014】
金属光沢層の微細凹部内に生じる金属光沢層の影のJIS−Z−8729で規定されるCIE1976明度(L)は80以下が好ましい。光沢が強すぎず、鈍く光る質感の金属研磨面調意匠を実現するために十分な吸光が確実に達成されるからである。より好ましくは、50以下である。
【0015】
ここで、JIS−Z−8729で規定される影のCIE1976明度(L)は、JIS−Z−8729に従い、JIS−Z−8722に規定される幾何条件a(試料面の法線方向に対する照明光軸角度:−45±2°、受光反射光軸角度:0±2°)で測定したものである。
【0016】
前記加飾成形部材においては、基材表面の微細凹部の面積率が1〜60%であることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、吸光が過剰になりすぎず、加飾成形部材の過度の明度及び/又は刺激値の低下がより一層抑制される。
【0018】
前記加飾成形部材においては、金属光沢層のJIS−Z−8701で規定されるXYZ表色系における刺激値(Y45°)が20000以上であることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、金属研磨面調意匠を実現するために十分な正反射ないし金属光沢がより一層確実に得られる。
【0020】
前記加飾成形部材においては、表面層の表面側の表面粗さが、Ra1μm以下、かつRmax2μm以下又はSm100μm以上であることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、金属研磨面調意匠を実現するために十分な拡散反射がより一層確実に得られる。
【0022】
前記加飾成形部材においては、基材は樹脂成形部材であることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、光学特性が金属研磨面に近く、外観が金属研磨面調意匠を呈する加飾成形部材の形状の自由度を高くすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、外観が金属研磨面調意匠を呈する加飾成形部材が提供されるから、光沢が強すぎず、鈍く光る質感の金属研磨面調意匠を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る加飾成形部材の層構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明者等は、光沢が強すぎず、鈍く光る質感の金属研磨面調意匠を、基材表面に複数の機能層を積層した構成の加飾成形部材によって実現することを目標として検討を重ねた。その結果、金属研磨面調意匠の実現のためには、加飾成形部材に入射した光の拡散反射と、吸光と、正反射(鏡面反射)とが重要な要素であることに着目した。そして、拡散反射は、加飾成形部材の表面層の表面粗さによって再現が可能、吸光は、明度が相対的に低い無彩色層によって再現が可能、正反射は、刺激値が相対的に高い金属光沢層によって再現が可能であることを見出した。また、後述するように、金属光沢層を微細凹部を有する構成とした場合に、拡散反射は、金属光沢層の微細凹部の周縁部によっても再現が可能であることを見出した。
【0027】
しかしながら、表面層を透明又は半透明としても、単に無彩色層と金属光沢層とを積層しただけでは、光の拡散反射と吸光と正反射とがあいまった外観を得ることは困難である。例えば、無彩色層の下に金属光沢層を配置すると、金属光沢層が無彩色層の下に隠れて見え難くなるため、光の正反射ないし金属光沢が実現され難くなる。逆に、金属光沢層の下に無彩色層を配置すると、無彩色層が金属光沢層の下に隠れて見え難くなるため、光の吸光が実現され難くなる。
【0028】
そこで、本発明者等は、無彩色層を省略し、代わりに金属光沢層を複数の微細凹部を有する構成とし、この微細凹部内に生じる金属光沢層の影によって吸光が行われるようにすることを着想した。そして、まず、基材表面に金属光沢層を形成し、この金属光沢層に微細凹部を形成することを試みたが、加飾成形部材の見栄えを低下させないほどに微細な凹部を金属光沢層に形成することは困難であった。その後、試行を重ねた結果、予め基材表面に微細凹部を形成しておき、この基材表面に金属光沢層を形成すると、基材表面の微細凹部の形状が金属光沢層の表面に現れて、加飾成形部材の見栄えを低下させないほどに微細な凹部を金属光沢層に良好に形成することができた。その結果、金属光沢層の微細凹部内に生じる金属光沢層の影によって吸光を行うことが可能となり、無彩色層を省略することができた。本発明は、このような知見と創意工夫とに基いて完成されたものである。
【0029】
すなわち、図1に示すように、本実施形態に係る加飾成形部材20は、表面に複数の微細凹部1a…1aを有する基材1と、基材1の表面形状に沿って基材1の表面側に形成された金属光沢層2と、金属光沢層2の表面側に形成された透明又は半透明の樹脂層からなる表面層3とを備えている。
【0030】
ここで、表面層3は拡散反射機能を有し、金属光沢層2は正反射機能及び拡散反射機能を有し、金属光沢層2の微細凹部2a…2a(この微細凹部2a…2aは、金属光沢層2が基材1の表面形状に沿って形成されることにより、基材1表面の微細凹部1a…1aの形状が金属光沢層2の表面に現れたものである。)内に生じる金属光沢層2の影Sは吸光機能を有する。
【0031】
このような構成により、表面層3側から加飾成形部材20に入射した光は、表面層3の表面側の表面粗さによって一部が拡散反射し、金属光沢層2の微細凹部2a内に生じる金属光沢層2の影Sによって一部が吸光され、金属光沢層2によって一部が正反射(鏡面反射)し、また微細凹部2aの周縁部によって一部が拡散反射する。このような光の拡散反射、吸光、正反射があいまって、光沢が強すぎず、鈍く光る質感の金属研磨面調意匠が実現し、光学特性が金属研磨面に近く、外観が金属研磨面調意匠を呈する加飾成形部材20が得られる。
【0032】
本実施形態において、拡散反射機能とは、外部から入射角45度で入射された可視光(波長:420〜670nm、広がり角:実質零度)を反射するとき、反射光強度の20%以上を正反射角±3度以内の方向以外の方向に反射する機能をいう。あるいは、外部から入射角90度で入射された可視光(波長:380〜780nm、広がり角:実質零度)を透過するとき、透過光強度の5%以上を正透過方向角±3度以内の方向以外の方向に変角する機能をいう。
【0033】
本実施形態において、吸光機能とは、外部から入射角90度で入射された可視光(波長:420〜670nm、広がり角:実質零度)の強度の20%以上を吸収又は透過する機能をいう。好ましくは、入射された可視光を反射するとき、波長ごと(420〜670nm)の反射率の差が±10%以内である。
【0034】
本実施形態において、正反射機能とは、外部から入射角45度で入射された可視光(波長:420〜670nm、広がり角:実質零度)を反射するとき、反射光強度の90%以上を正反射角±3度以内の方向に反射する機能をいう。
【0035】
本実施形態においては、表面層3の表面側の表面粗さ(Ra、Rmax、Sm)、金属光沢層2の刺激値(Y45°)、基材1表面の微細凹部1aの面積、基材1表面の微細凹部1aの面積率、金属光沢層2の微細凹部2a内に生じる影Sの明度(L)を調整することによって、加飾成形部材20の金属研磨面調意匠における光の拡散反射の程度、光の正反射の程度、光の吸収の程度をそれぞれ独立して所望の値に調整することができる。
【0036】
本実施形態においては、表面層3の表面側の表面粗さは、Ra2μm以下、かつRmax4μm以下又はSm50μm以上である。Ra(算術平均粗さ)を2μm以下とすることにより、金属研磨面調意匠を実現するために十分な拡散反射が確実に得られる。Rmax(最大高さ)を4μm以下又はSm(凹凸の平均間隔)を50μm以上とすることによっても、金属研磨面調意匠を実現するために十分な拡散反射が確実に得られる。
【0037】
表面層3の表面側の表面粗さは、より好ましくは、Ra1μm以下、かつRmax2μm以下又はSm100μm以上である。これにより、金属研磨面調意匠を実現するために十分な拡散反射がより一層確実に得られる。
【0038】
本実施形態においては、金属光沢層2のJIS−Z−8701で規定されるXYZ表色系における刺激値(Y45°)は10000以上である。金属光沢層2の刺激値(Y45°)を10000以上とすることにより、金属研磨面調意匠を実現するために十分な正反射ないし金属光沢が確実に得られる。
【0039】
金属光沢層2の刺激値(Y45°)は、より好ましくは、20000以上である。これにより、金属研磨面調意匠を実現するために十分な正反射ないし金属光沢がより一層確実に得られる。
【0040】
本実施形態においては、平面視での基材1表面の微細凹部1aの面積は10−3〜10μmである。基材1表面の微細凹部1aの面積を10−3μm以上とすることにより、微細凹部1aが小さくなりすぎず、金属光沢層2表面の微細凹部2a内に生じる金属光沢層2の影Sによる吸光が確実に達成される。基材1表面の微細凹部1aの面積を10μm以下とすることにより、平面視での単位面積当たりの基材1表面の微細凹部1aの面積率を一定としたときに、微細凹部1aの数が増えるから、微細凹部1aの周縁長が長くなり、金属光沢層2表面の微細凹部2aの周縁部による拡散反射が確実に行われる。
【0041】
本実施形態においては、平面視での単位面積当たりの基材1表面の微細凹部1aの面積率は1〜80%である。基材1表面の微細凹部1aの面積率を1%以上とすることにより、平面視での単位面積当たりの金属光沢層2の微細凹部2aの面積率が十分大きくなり、金属光沢層2の微細凹部2a内に生じる金属光沢層2の影Sが十分大きくなるから、光沢が強すぎず、鈍く光る質感の金属研磨面調意匠を実現するために十分な吸光が確実に達成される。基材1表面の微細凹部1aの面積率を80%以下とすることにより、平面視での単位面積当たりの金属光沢層2の微細凹部2aの面積率が過度に大きくならず、金属光沢層2の微細凹部2a内に生じる金属光沢層2の影Sが過度に大きくならないから、吸光が過剰になりすぎず、加飾成形部材20の過度の明度及び/又は刺激値の低下が抑制される。
【0042】
基材1表面の微細凹部1aの面積率は、より好ましくは、1〜60%である。これにより、吸光が過剰になりすぎず、加飾成形部材20の過度の明度及び/又は刺激値の低下がより一層抑制される。
【0043】
本実施形態においては、金属光沢層2の微細凹部2a内に生じる金属光沢層2の影SのJIS−Z−8729で規定されるCIE1976明度(L)は0〜80が好ましい。影Sの明度(L)を80以下とすることにより、光沢が強すぎず、鈍く光る質感の金属研磨面調意匠を実現するために十分な吸光が確実に達成されるからである。
【0044】
影Sの明度(L)は、より好ましくは、0〜50である。これにより、光沢が強すぎず、鈍く光る質感の金属研磨面調意匠を実現するために十分な吸光がより一層確実に達成される。
【0045】
本実施形態においては、表面層3及び金属光沢層2の厚みは、特に限定されない。状況に応じて、例えば1μm〜1mmの範囲内の厚みとすることができる。
【0046】
表面層3は、透明又は半透明である限り、無色でも有色でもよい。表面層3の色を調整することによって、加飾成形部材20の金属研磨面調意匠における金属の種類(例えばアルミニウム等)を所望のものに調整することができる。
【0047】
金属光沢層2の材料は、特に限定されない。例えば樹脂や金属が好ましい。金属光沢層2の色を調整することによっても、加飾成形部材20の金属研磨面調意匠における金属の種類(例えばアルミニウム等)を所望のものに調整することができる。
【0048】
本実施形態においては、加飾成形部材20は、およそ次のようにして容易に得ることができる。すなわち、表面に複数の微細凹部1a…1aを有する基材1の表面に、基材1の表面形状に沿って金属光沢層2を印刷や塗装等することによって形成する。その後、金属光沢層2の表面に、透明又は半透明の樹脂を印刷や塗装等することによって表面層3を形成するのである。
【0049】
このようにして、光学特性が金属研磨面に近く、外観が金属研磨面調意匠を呈する加飾成形部材20が得られる。この加飾成形部材20は、例えばドアハンドル等の自動車内装部品、家電部品、パーソナルコンピュータ部品、携帯電話部品、事務用部品、スポーツ用具部品、計測機器部品、雑貨部品等に好適である。
【0050】
本実施形態においては、基材1は樹脂成形部材であることが好ましい。光学特性が金属研磨面に近く、外観が金属研磨面調意匠を呈する加飾成形部材20の形状の自由度を高くすることができるからである。
【0051】
なお、図1において、金属光沢層2を基材1表面に接着するための接着層(図示せず)を金属光沢層2と基材1表面との間に設けてもよい。さらに、金属光沢層2が接着層によって侵食されあるいは腐食するのを防ぐための保護層(図示せず)を金属光沢層2と接着層との間に設けてもよい。
【0052】
また、本発明の作用効果を損なわない範囲で、加飾成形部材20の外表面に、透明又は半透明の、無色又は有色の、保護層を設けてもよい。この保護層は、例えば、表面層3の上に直接設けられる。この保護層は、加飾成形部材20の表面保護のために設けられる。また、この保護層は、表面層3の表面側の表面粗さ(Ra、Rmax、Sm)を調整するために設けられるものであってもよい。したがって、本発明でいう、表面層3の表面側の表面粗さ(Ra、Rmax、Sm)には、この保護層で調整された表面粗さ(Ra、Rmax、Sm)が包含される。
【0053】
金属光沢層2の微細凹部2a内に生じる影Sが金属研磨面調意匠を実現するために十分な吸光機能を有するためには、基材1表面の微細凹部1aの面積は、前述したように、平面視で10−3μm以上が好ましいが、10μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、基材1表面の微細凹部1aの深さ又は金属光沢層2の微細凹部2aの深さは、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。
【0054】
また、光の入射角が0°又は90°に近くても金属光沢層2の微細凹部2a内に影Sが生じるという点で、基材1表面の微細凹部1a又は金属光沢層2の微細凹部2aは、図1に示したように、加飾成形部材20の表面の法線に平行な縦壁を周壁として有することが好ましい。さらに、周壁としての縦壁は、金属光沢層2の微細凹部2aの周縁部が微細凹部2aに対してオーバーハングするように傾斜していてもよい。
【0055】
基材1表面の微細凹部1a又は金属光沢層2の微細凹部2aの平面視での形状は特に限定されない。例としては円形や矩形等が挙げられ、不定形でも構わない。
【0056】
基材1表面の微細凹部1aは、例えばショットブラストやサンドブラストあるいはエッチング等の従来知られた物理的又は化学的な粗面化処理等で形成することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を通して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何等限定されるものではない。
【0058】
[加飾成形部材の作製]
(試験番号1〜6、8〜10)
図1に示した構成の加飾成形部材20を表1に示す仕様により作製した。基材1として、無彩色のABS樹脂板(板厚3mm)を用い、エキシマレーザにて基材1の表面に微細凹部1aを形成した。微細凹部1aを形成した基材1の表面にスプレイ塗装にて金属光沢層2(厚み0.6μm)を形成した。金属光沢層2の形成には、ハリマ化成社製のインキ「銀ペーストインキ」を用いた。次に、金属光沢層2の表面にスプレイ塗装にて表面層3(厚み20μm)を形成した。表面層3の形成には、日本ペイント社製のインキ「naxマルチエコクリヤー」を用いた。以上により、表面層3側から観察したときにアルミニウムの研磨面調の外観を呈する加飾成形部材20が得られた。
【0059】
(試験番号7)
基材1の表面に微細凹部1aを形成しなかった他は、試験番号1〜6、8〜10と同様にして加飾成形部材を作製した。
【0060】
(試験番号12、13)
金属光沢層2の形成に、日本ビー・ケミカル社製の高輝度シルバーインキを用いた他は、試験番号1〜6、8〜10と同様にして加飾成形部材20を作製した。
【0061】
(試験番号11)
基材1の表面に微細凹部1aを形成しなかった他は、試験番号12、13と同様にして加飾成形部材を作製した。
【0062】
[加飾成形部材の外観評価]
作製した加飾成形部材20の外観を光学的に評価した。すなわち、表面層3側から加飾成形部材20に入射角45度で可視光(波長:420〜670nm、広がり角:実質零度)を照射し、正反射角の刺激値Y、つまり正反射(鏡面反射)の刺激値(Y45°)と、正反射角−5度の刺激値Y、つまり拡散反射の刺激値(Y40°)とを村上色彩技術研究所製の変角分光光度計を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0063】
ここで、正反射の刺激値(Y45°)は、試料面の法線方向に対する照明光軸角度を−45±2°とし、受光反射光軸角度を45±2°として、JIS−Z−8701で規定されるXYZ表色系における反射による物体色の三刺激値の定義に従ってY値を計算したものである。また、拡散反射の刺激値(Y40°)は、試料面の法線方向に対する照明光軸角度を−45±2°とし、受光反射光軸角度を40±2°として、JIS−Z−8701で規定されるXYZ表色系における反射による物体色の三刺激値の定義に従ってY値を計算したものである。
【0064】
なお、本物のアルミニウムの研磨面及びサテンめっきの正反射の刺激値(Y45°)及び拡散反射の刺激値(Y40°)を同様にして測定したところ、アルミニウムの研磨面の正反射の刺激値(Y45°)は35000〜55000の範囲(例えば38306)、拡散反射の刺激値(Y40°)は900〜1300の範囲(例えば925)であり、サテンめっきの正反射の刺激値(Y45°)は10000〜75000の範囲(例えば31977)、拡散反射の刺激値(Y40°)は900〜2600の範囲(例えば1784)であった。
【0065】
表1から明らかなように、基材1の表面に微細凹部1aを形成しなかった試験番号7、11に比べて、試験番号1〜6、8〜10、12、13の加飾成形部材20は、正反射の刺激値(Y45°)、拡散反射の刺激値(Y40°)、及び/又は、正反射刺激値(Y45°)に対する拡散反射刺激値(Y40°)の比(拡散反射刺激値(Y40°)/正反射刺激値(Y45°))が、本物のアルミニウムの研磨面のそれに近い値であった。
【0066】
なお、正反射刺激値(Y45°)に対する拡散反射刺激値(Y40°)の比(拡散反射刺激値(Y40°)/正反射刺激値(Y45°))は、0.007以上、あるいは0.008以上、あるいは0.01以上が好ましく、0.25以下、あるいは0.13以下、あるいは0.06以下が好ましい。この比が小さすぎると、鈍く光る質感に対して光沢が強すぎる傾向となる。逆に、この比が大きすぎると、鈍く光る質感が過剰となり光沢が弱すぎる傾向となる。
【0067】
また、正反射刺激値(Y45°)は、4000以上、あるいは7000以上、あるいは10000以上が好ましく、100000以下、あるいは75000以下、あるいは50000以下が好ましい。この値が小さすぎると、暗すぎ、光沢が弱すぎる傾向となる。逆に、この値が大きすぎると、明るすぎ、光沢が強すぎる傾向となる。
【0068】
特に、光沢が強すぎず、鈍く光る質感の金属研磨面調意匠の実現のためには、正反射刺激値(Y45°)に対する拡散反射刺激値(Y40°)の比(拡散反射刺激値(Y40°)/正反射刺激値(Y45°))が小さすぎないこと(例えば0.007未満でないこと)が重要因子の1つである。
【0069】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、自動車内装部品等に使用され得る加飾成形部材の技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0071】
1 基材
1a 微細凹部
2 金属光沢層
2a 金属光沢層の微細凹部
3 表面層
20 加飾成形部材
S 影

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数の微細凹部を有する基材と、
基材の表面形状に沿って基材の表面側に形成された金属光沢層と、
金属光沢層の表面側に形成された透明又は半透明の樹脂層からなる表面層とを備え、
平面視での微細凹部の面積が10−3〜10μmであり、平面視での単位面積当たりの微細凹部の面積率が1〜80%であり、
金属光沢層のJIS−Z−8701で規定されるXYZ表色系における刺激値(Y45°)が10000以上であり、
表面層の表面側の表面粗さが、Ra2μm以下、かつRmax4μm以下又はSm50μm以上である、
加飾成形部材。
【請求項2】
微細凹部の面積率が1〜60%である請求項1に記載の加飾成形部材。
【請求項3】
金属光沢層のJIS−Z−8701で規定されるXYZ表色系における刺激値(Y45°)が20000以上である請求項1又は2に記載の加飾成形部材。
【請求項4】
表面層の表面側の表面粗さが、Ra1μm以下、かつRmax2μm以下又はSm100μm以上である請求項1から3のいずれか1項に記載の加飾成形部材。
【請求項5】
基材は樹脂成形部材である請求項1から4のいずれか1項に記載の加飾成形部材。

【図1】
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【公開番号】特開2013−35127(P2013−35127A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170176(P2011−170176)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】