説明

加飾用フィルム

【課題】 透明性、耐熱性、成形加工性、及び印刷性に優れた加飾用フィルムを提供する。
【解決手段】 ジカルボン酸単位とジオール単位とを含みジオール単位の1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジカルボン酸単位であるポリエステル樹脂(A)1〜99重量部と、ポリカーボネート樹脂(B)99〜1重量部からなる樹脂組成物から形成された加飾用フィルムで、透明性、耐熱性、成形加工性、及び印刷性が要求される加飾分野で用いることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジカルボン酸単位とジオール単位とを含みジオール単位の1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジカルボン酸単位であるポリエステル樹脂(A)1〜99重量部とポリカーボネート樹脂(B)99〜1重量部からなる樹脂組成物から形成された加飾用フィルムに関するものである。更に詳しくは、車両内外装部品、携帯電話や携帯端末、ノートPCや家電製品等に適した透明性、耐熱性、成形加工性、及び印刷性に優れる加飾用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と言うことがある)は機械的性能、耐溶剤性、保香性、リサイクル性等にバランスのとれた樹脂であり、ボトル、シート、フィルムなどの用途を中心に大量に用いられている。しかしながら、PETは結晶性が高いため、厚みのある成形体やシートを製造しようとすると、結晶化により白化し、透明性が損なわれてしまう。また、PETのガラス転移温度は80℃程度であるため、自動車内で使用する製品、輸出入用の包装材、レトルト処理や電子レンジ加熱を行う包装材等高い耐熱性、透明性が要求される用途には利用できなかった。
【0003】
一方、PETと化学構造のよく類似した透明ポリエステル樹脂であるポリエチレンナフタレ−ト(以下「PEN」と言うことがある)は、PETのジカルボン酸単位がナフタレンジカルボン酸単位であるポリエステルであり、PETとほぼ同じ成型物(ボトル等)の加工が可能であり、そのリサイクル使用の可能性も有している。PENは剛直な分子構造を有するために、耐熱性(ガラス転移温度110℃程度)、ガスバリヤー性等の面でPETよりも優れる特長を有しているが、非常に高価であり、更にPETと同様に結晶性が高いため、厚みのある成形体やシートを製造しようとすると、結晶化により白化し、透明性が損なわれてしまう欠点がある。
【0004】
そこで、透明性を必要とする用途には1,4−シクロヘキサンジメタノールで一部共重合された変性PETやイソフタル酸で一部変性された変性PETといった低結晶性ポリエステル樹脂が用いられている。しかし、これらの樹脂のガラス転移温度は80℃前後であり、PETと比較して依然として耐熱性の改善はなされていないのが現状である。
【0005】
一方、環状アセタール骨格を有するジオールを含むポリエステル樹脂(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4)は、高い透明性を持ちながらPETやPENの耐熱性を改善したポリエステル樹脂であり、透明性と耐熱性が要求される用途での利用が可能である。また該樹脂は結晶性を抑えた樹脂であり、厚みのある成形体やシートを製造しても結晶化による白化等の不具合はなく透明な成形体を容易に得ることができる。
【0006】
プラスチックフィルムの片面又は両面に図柄層の印刷を施し、表示機能性および意匠性を高めた加飾用フィルムは、車両内外装部品、携帯電話、ノートPC、家電製品のハウジング、住設建材等に利用されており、近年、薄型化、高性能化、デザインの差別化が求められている。よって加飾用フィルムはより高い意匠性と耐久性と易成形性の両立が要求されている。プラスチックフィルムとしては、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等が例示される。プラスチックフィルムの中でもポリカーボネート樹脂フィルム及びポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムは、機械的特性、電気特性、温度特性が他のプラスチックフィルムに比べ優れていることから、数多く使用されている。
【0007】
しかし、ポリカーボネート樹脂フィルムは、耐久性(折曲げ性)が十分とはいえず繰り返し打点するとフィルムが破損することがある。また高温での熱加工が必要であるため成形時の熱劣化により色調が悪化することがある。また印刷時の耐溶剤性が十分とはいえなく印刷インキの溶剤によっては白化、クラックが発生することがある。
【0008】
一方ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムは、耐久性、熱加工性は優れているが耐溶剤性が優れすぎており印刷が密着しないという欠点を有している。加飾用フィルムとして、これらの欠点の改良したフィルムが強く要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−69165号公報
【特許文献2】特開2004−67830号公報
【特許文献3】特開2003−246925号公報
【特許文献4】特開2003−182014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前記の如き状況に鑑み、透明性、耐熱性、成形加工性、及び印刷性に優れた加飾用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討の結果、ジカルボン酸成分とジオール成分の少なくとも一方が環状アセタール骨格を有する化合物を含むポリエステル樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)からなる樹脂組成物から形成された加飾用フィルムが透明性、耐熱性、成形加工性、及び印刷性等に優れることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、ジカルボン酸単位とジオール単位とを含みジオール単位の1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジカルボン酸単位であるポリエステル樹脂(A)1〜99重量部と、ポリカーボネート樹脂(B)99〜1重量部からなる樹脂組成物から形成された加飾用フィルムである。
また、本発明は、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、塩化ビニル樹脂およびポリビニルアルコール樹脂から選ばれた樹脂からなる少なくとも1層と、前記加飾用フィルムからなる少なくとも1層とからなる多層加飾用フィルムである。
さらに、本発明は、前記(多層)加飾用フィルムの少なくとも片面に印刷層を設けた加飾用フィルムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の、ジオール構成単位中に環状アセタール骨格を有するジオール単位を一定割合有するポリエステル樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)からなる樹脂組成物から形成されたフィルムは、透明性、耐熱性、成形加工性、及び印刷性に優れた加飾用フィルムとなり、車両内外装部品、携帯電話、携帯端末、ノートPC、家電製品のハウジング、タッチパネル用アイコンシート、住設建材など様々な分野において有用な素材として利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明に用いられるポリエステル樹脂は、ジカルボン酸単位とジオール単位とを含みジオール単位中1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であるポリエステル樹脂(A)である。環状アセタール骨格を有するジオール単位は下記の一般式(1)または(2)で表される化合物に由来する単位が好ましい。
【0015】
【化1】

【化2】

、R、及びRはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。
【0016】
一般式(1)及び(2)の化合物としては3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、または5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンが特に好ましい。
【0017】
また、ポリエステル樹脂(A)において、環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位としては特に制限はされないが、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテルジオール類;1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’−スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類;上記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び上記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等が例示できる。本発明のポリエステル樹脂の機械的性能、経済性等の面からエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく、特にエチレングリコールが好ましい。例示したジオール単位は単独で使用する事もできるし、複数を併用する事もできる。
【0018】
また、本発明に用いられるポリエステル樹脂(A)のジカルボン酸単位としては、特に制限はされないが、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が例示できる。本発明のフィルムの機械的性能、及び耐熱性の面からテレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および2,7−ナフタレンジカルボン酸といった芳香族ジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、およびイソフタル酸が好ましい。中でも、経済性の面からテレフタル酸がもっとも好ましい。例示したジカルボン酸は単独で使用することもできるし、複数を併用することもできる。
【0019】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)は、環状アセタール骨格を有するジオール単位を1〜60モル%、好ましくは5〜55モル%、特に好ましくは10〜50モル%の割合で有する。環状アセタール骨格を有するジオール単位の含有量が上記範囲より小さい場合には、本発明に用いるポリエステル樹脂(A)が十分な耐熱性を示さない場合があり好ましくない。また上記範囲より大きい場合には結晶性の発現により成形性が低下する場合があり、好ましくない。
【0020】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)の溶融粘度は、測定温度240℃、剪断速度100s-1で測定した際に700〜5000Pa・sの範囲であることが好ましい。溶融粘度が上記範囲にあると成形性に優れるポリエステル樹脂組成物とすることができる。
【0021】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)を製造する方法は特に制限はなく、従来公知の方法を適用することができる。例えばエステル交換法、直接エステル化法等を挙げることができる。エステル交換及びエステル化触媒は従来公知のものを使用することができ、特に限定されるものではないが、例えばナトリウム、マグネシウムのアルコキサイド、亜鉛、鉛、セリウム、カドミウム、マンガン、コバルト、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ニッケル、マグネシウム、バナジウム、アルミニウム、チタニウム、ゲルマニウム、アンチモン、スズ等の脂肪酸塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、塩化物、酸化物、金属マグネシウムなどが挙げられる。これらの触媒は単独で用いても良いし、複数を組み合わせても良い。重縮合触媒は従来公知のものを用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば上述したものを用いることができる。これらの触媒は単独で用いても良いし、複数を組み合わせて用いても良い。
【0022】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂(B)は、下記一般式(1)及び/又は(2)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートであることが好ましい。
【化3】

【化4】

(ただし、式中R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の非環状炭化水素基、炭素数5〜10の脂環式炭化水素基から選ばれる。かかるR1及びR2としては、メチル、エチル、プロピル、ノルマルプロピル、イソブチル、ペンチル、シクロヘキシル基等を例示できる。R3およびR4は、それぞれ独立に、炭素数1〜10の非環状炭化水素基、ハロゲン原子、フェニル基から選ばれる。かかるR3およびR4としては、メチル、エチル、プロピル、ノルマルブチル、イソブチル、ペンチル、フェニル基、塩素原子、臭素原子等を例示できる。m及びnはそれぞれ独立に、0、1または2であり、kは4または5である。)
【0023】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂(B)を構成する芳香族ヒドロキシ化合物としては特に制限はないが、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(テトラブロモビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニルプロパン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、1,1−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)アリールアルカン類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル等で例示されるジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホン類;ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的性能、経済性等の面から、ビスフェノールAが特に好ましく、すなわちポリカーボネート樹脂(B)がビスフェノールAのポリ炭酸エステルであることが特に好ましい。
【0024】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(B)は、分岐構造を有していてもよく、このような分岐構造を有した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、フロログルシン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−3−ヘプテン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−2−ヘプテン、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾール、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、α,α’,α”−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン等で例示されるポリヒドロキシ化合物、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチンビスフェノール、5,7−ジクロルイサチンビスフェノール、5−ブロムイサチンビスフェノール等を使用すればよい。
【0025】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂(B)は、その粘度平均分子量Mvが10,000以上であることが機械的強度を維持する上で好ましく、30,000以下であることが成形性の点から好ましいが、12,000以上28,000以下であることがより好ましい。粘度平均分子量を上記範囲とすることで、機械的強度及び成形性は優れたものとなる。
【0026】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂(B)は、通常塩化メチレン等の溶媒中において公知の酸受容体や分子量調節剤の存在下、対応するビスフェノールとホスゲンのようなカーボネート前駆体との反応により(界面重合法)、あるいは対応するビスフェノールとジフェニルカーボネートのようなカーボネート前駆体とのエステル交換反応(溶融重合法)などによって製造される。
【0027】
ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)との混合、混練には公知の装置を用いることができ、例えばタンブラー、高速ミキサー、ナウターミキサー、リボン型ブレンダー、ミキシングロール、ニーダー、インテンシブミキサー、単軸押出機、二軸押出機などの混合、混練装置を挙げることができる。また、ゲートミキサー、バタフライミキサー、万能ミキサー、ディゾルバー、スタティックミキサーなどの液体混合装置を用いることもできる。
【0028】
本発明の加飾用フィルムは、任意の方法によってフィルム状に形成することができる。例えば、Tダイから押出した溶融樹脂を、挟持加圧若しくは片面タッチ方式の複数個の冷却ロールで冷却してフィルムに成形する。この際使用する装置としては特別な装置である必要はなく、フィルムまたはシートの製造に使用される装置が任意に採用される。
【0029】
ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)からなる樹脂組成物から形成された少なくとも1層と多層化可能な樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、1,4−シクロヘキサンジメタノール変性ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート−スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂等が挙げられるが、技術的に容易に多層化できる樹脂としてポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等)、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂が好ましく、アクリル樹脂、ABS樹脂が特に好ましく用いられる。
【0030】
本発明の加飾用フィルムと他樹脂のフィルムとを多層化する方法としては、共押出法、共押出ラミネート法、押出ラミネート法、ドライラミネート法等の公知の積層化技術を用いることができる。またこれらの積層化のために樹脂間に適した接着剤、あるいは接着性樹脂を用いても良い。
【0031】
本発明の加飾用フィルムの厚みは、用途等に応じて決められるが、通常は0.01〜5mmであり、好ましくは0.02〜3mm、特に好ましくは0.05〜2mmである。また、多層フィルムの総厚みは用途、層を形成する樹脂の種類、層の数等により異なり、例えば、食品向けシートでは0.1〜1mm、建材、商品ディスプレイ用等の厚物シートでは1〜40mmの厚みで使用される。本発明の加飾用フィルムと他樹脂フィルムとの層数の合計は通常6層までである。
【0032】
本発明で使用されるポリエステル樹脂(A)及びポリカーボネート樹脂(B)には、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、増量剤、艶消し剤、乾燥調節剤、帯電防止剤、沈降防止剤、界面活性剤、流れ改良剤、乾燥油、ワックス類、フィラー、着色剤、補強剤、難燃剤、発泡剤、表面平滑剤、レベリング剤、硬化反応促進剤などの各種添加剤、成形助剤を添加することができる。また、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、アクリロニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリイミド、AS樹脂等の樹脂、オリゴマーを添加することもできる。
【0033】
本発明の加飾用フィルムには片面または両面に印刷層を設けることもできる。印刷層は、通常1〜30μmであり、市販の印刷用インキを使用することができる。
【0034】
かかる市販の印刷用インキにおいて、従来使用されているバインダー樹脂としては、ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂等が挙げられ、これらの樹脂がバインダー樹脂として使用されているインキと希釈剤等とを調合して、熱可塑性樹脂フィルム等のベースフィルムに印刷すると優れた仕上がりの印刷フィルムが得られる。
【0035】
印刷用インキは、上記バインダー樹脂と染・顔料を所望の溶剤に溶解して作製される。印刷インキにおいて使用される染・顔料としては、例えばアントラキノン系、ナフトキノン系等の染料、酸化チタン、カーボンブラック、炭酸カルシウム等の無機顔料、アゾ顔料、フタロシアニン顔料等の有機顔料等が挙げられる。これらの染・顔料はインキ中に溶解あるいは分散した状態でバインダー樹脂と共に存在する。
【0036】
インキ調製のための溶剤としては、ジオキサン、イソホロン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、シクロヘキサノン等が挙げられ、なかでもジオキサン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、シクロヘキサノンが好ましく用いられる。また溶剤は単独で用いても、2種以上の混合溶剤で用いても良い。
【0037】
上記インキにはバインダー及び染・顔料の他に必要に応じて、有機及び無機微粒子、離型剤、酸化防止剤、可塑剤、分散剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング剤等を添加しても良い。
【0038】
また、インキ中のバインダー樹脂の配合量は1〜70重量%が好ましく、5〜50重量%がより好ましい。バインダー樹脂の濃度がかかる範囲内であると、溶剤に溶け易く作業性も向上し好ましい。
【0039】
上記インキは本発明のフィルムに塗布される。インキをフィルムに塗布する方法としては、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷等が挙げられるが、塗布するインキ層の膜厚範囲が広く、インキ層を厚くすることができる点から、スクリーン印刷が特に好ましい。スクリーン印刷とは、スクリーンと称する網目状に組まれた絹、ナイロン、テトロン等によるスクリーンの四周を版枠に、緊張、固定した上に、手工的または光化学的な方法で図柄に応じてインキの通過を防ぐ被膜(レジスト)を構成して、これを版とし、船状になった版枠内にインキを入れ、スクイジーと称するゴム状の「ヘラ」で版内面を加圧、摺動すると、インキはスクリーン目を通し、レジストのない部分(画線部)より版の外に押出され、版の下におかれた被印刷体面には印刷される印刷方式であり、例えば、平面印刷機、ロータリーシステム印刷機、シリンダータイプの印刷機の曲面印刷機等を使用して行うことができ、乾燥方法としては、自然放置、冷・温送風、赤外線照射、加熱焼付、紫外線照射等が採用される。
【0040】
印刷層を有したフィルムは、インモールド成形品やメンブレンスイッチパネルに有用である。かかるインモールド成形は、あらかじめ加飾されたフィルムを射出成形機に金型の内面に装着し静電法や吸引法でなどで固定しておく。次に一般の射出成形と同様に金型を閉じ溶融した合成樹脂を射出してキャビティー内に充填して成形品本体を成形するとともに、成形品本体の表面にフィルムを積層一体化する製造方法である。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0042】
本実施例及び比較例で使用した原料を以下に示す。
(1)ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET):日本ユニペット(株)製、商品名:UNIPET553C
(2)ポリカーボネート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ユーピロンS−3000(粘度平均分子量Mv23,000)
【0043】
〔評価方法〕
本実施例及び比較例の評価方法は以下の通りである。
(1)曇価、全光線透過率、YI値:押出成形にて得た0.3mm厚のシートを用いて日本電色工業社製の曇価測定装置(型式:COH−300A)にて測定を行った。
(2)荷重たわみ温度:長さ127mm、幅12.7mm、厚み3.2mmの射出成形体を用いてASTM D648に準じ、1.82MPa荷重下で測定した。
(3)ガラス転移温度:ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tgm)は、(株)島津製作所製、DSC/TA−50WSを使用し、試料約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(30ml/min)気流中、昇温速度20℃/minで測定した。DSC曲線の転移前後における基線の差の1/2だけ変化した温度をガラス転移温度とした。
(4)成形性:押出成形にて得た厚み0.3mmのシートを真空圧空成形した際(絞り比1.5)の賦形性を目視にて以下の基準に従い評価した。
○:金型どおりに賦形
△:賦形が十分でない
×:真空圧空成形できず
(5)印刷性:押出成形にて得た厚み0.3mmのシートにインキ(帝国インキ製造(株)製、13−00215 ホワイト 遅乾D3N25−P)と溶剤(帝国インキ製造(株)製 Z−603)を100:30(重量比)で混合したものをアプリケーターで厚さ60μmに塗布し、10分間風乾後更に80℃で10分間乾燥させた際に試料のインキ部分のクラック発生割合を測定した(試験数5)。
【0044】
〔ポリエステル樹脂(A−1)、(A−2)の製造〕
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、攪拌機、過熱装置、窒素導入管を備えた150リットルのポリエステル樹脂製造装置に表1に記載量のテレフタル酸とエチレングリコールを仕込み、常法にてエステル化反応を行った。得られたエステルに表1に記載量の解重合用エチレングリコールと、二酸化ゲルマニウムを加え、225℃、窒素気流下で解重合を行なった。生成する水を留去しつつ3時間反応を行った後、215℃、13.3kPaでエチレングリコールを留去した。得られたエステルに表1に記載量のテトラ−n−ブチルチタネート、酢酸カリウム、リン酸トリエチル、SPGを添加し、225℃13.3kPaで3時間反応を行った。得られたエステルを昇温、減圧し、最終的に270℃、高真空下(300Pa以下)で重縮合反応を行い、所定の溶融粘度となったところで反応を終了しポリエステル樹脂(A)を得た。
尚、表中の略記の意味は下記の通りである。
・PTA:テレフタル酸
・SPG:3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエテチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン
・EG:エチレングリコール
・GeO2:二酸化ゲルマニウム
・TBT:テトラ−n−ブチルチタネート
・AcOK:酢酸カリウム
・TEP:リン酸トリエチル
【0045】
ポリエステル樹脂(A−1)、(A−2)の評価方法は以下の通りである。
(1)環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合
ポリエステル樹脂中の環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合は、ポリエスエル樹脂20mgを1gの重クロロホルムに溶解し、H−NMR測定、ピーク面積比から算出した。測定装置は日本電子(株)製JNM−AL400を用い、400MHzで測定した。
(2)ガラス転移温度
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は島津製作所製DSC/TA−50WSを使用し、試料約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(30ml/min)気流中昇温速度20℃/minで測定し、DSC曲線の転移前後における基線の差の1/2だけ変化した温度をガラス転移温度とした。
(3)分子量(数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mn)
ポリエステル樹脂2mgを20gのクロロホルムに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレンで検量したものをMn、Mw/Mnとした。GPCは東ソー株式会社製TOSOH 8020に東ソー株式会社製カラムGMHHR−Lを2本、TSK G5000HRを1本接続し、カラム温度40℃で測定した。溶離液はクロロホルムを1.0ml/minの流速で流し、UV検出器で測定した。
(4)溶融粘度
測定装置は東洋精機製 Capirograph1C(キャピログラフ)を用い、温度:240℃、予熱時間:1min、ノズル径:1mm、ノズル長:10mm、剪断速度:100(1/sec)で測定を行った。
【0046】
【表1】

【0047】
〔シートの製造方法〕
実施例1〜7はポリエステル樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B)をタンブラーにてドライブレンドし、65mmベント式二軸押出機を用いたTダイ押出法によりシリンダー温度260〜290℃で0.3mm厚のフィルムを作製した。
比較例1及び2はポリエチレンテレフタレート樹脂又はポリカーボネート樹脂(B)を、65mmベント式二軸押出機を用いたTダイ押出法によりシリンダー温度260〜290℃で0.3mm厚のフィルムを作製した。
比較例3はポリカーボネート樹脂(B)、ポリエチレンテレフタレート樹脂をタンブラーにてドライブレンドし、65mmベント式二軸押出機を用いたTダイ押出法によりシリンダー温度260〜290℃で0.3mm厚のフィルムを作製した。
【0048】
[実施例1〜7、比較例1〜3]
評価結果を表2〜4に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の加飾用フィルムは、ポリエステル樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)からなる層が透明性、耐熱性、成形加工性、及び印刷性に優れることから、例えば、車両内外装部品、携帯電話、携帯端末、ノートPC、家電製品等のハウジング、タッチパネル用アイコンシート、住設建材など様々な分野において幅広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸単位とジオール単位とを含みジオール単位の1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジカルボン酸単位であるポリエステル樹脂(A)1〜99重量部とポリカーボネート樹脂(B)99〜1重量部からなる樹脂組成物から形成された加飾用フィルム。
【請求項2】
ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、塩化ビニル樹脂およびポリビニルアルコール樹脂から選ばれた樹脂からなる少なくとも1層と、請求項1に記載の加飾用フィルムからなる少なくとも1層とからなる多層加飾用フィルム。
【請求項3】
測定温度240℃、剪断速度100s-1で測定した際のポリエステル樹脂(A)の溶融粘度が700〜5000Pa・sの範囲である請求項1または2に記載の加飾用フィルム。
【請求項4】
該環状アセタール骨格を有するジオール単位が一般式(1):
【化1】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
または一般式(2):
【化2】

(式中、Rは前記と同様であり、Rは炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
で表されるジオールに由来するジオール単位である請求項1〜3のいずれかに記載の加飾用フィルム。
【請求項5】
該環状アセタール骨格を有するジオール単位が3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンに由来するジオール単位、または5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンに由来するジオール単位である請求項1〜3のいずれかに記載の加飾用フィルム。
【請求項6】
環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位がエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる1種以上のジオールに由来するジオール単位である請求項1〜5のいずれかに記載の加飾用フィルム。
【請求項7】
ジカルボン酸単位がテレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および2,7−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上のジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位である請求項1〜6のいずれかに記載の加飾用フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の加飾用フィルムの少なくとも片面に印刷層を設けた加飾用フィルム。
【請求項9】
車両内外装部品用として使用してなる請求項1〜8に記載の加飾用フィルム。
【請求項10】
携帯電話、携帯端末用として使用してなる請求項1〜8に記載の加飾用フィルム。
【請求項11】
ノートPC、家電製品等のハウジング用として使用してなる請求項1〜8に記載の加飾用フィルム。
【請求項12】
タッチパネル用アイコンシート用として使用してなる請求項1〜8に記載の加飾用フィルム。
【請求項13】
住設建材用として使用してなる請求項1〜8に記載の加飾用フィルム。

【公開番号】特開2011−219667(P2011−219667A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92064(P2010−92064)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】