説明

加齢黄斑変性症を治療するための光動力学的療法

加齢黄斑変性症を治療するシステムは、罹患組織領域に標識を付ける薬剤を含む。さらに、同システムは、レーザ光線を発生させるフェムト秒レーザ光源を含む。さらに、光学組立体が、レーザ光線を罹患組織領域内の複数の焦点に合焦し、各焦点は体積測定値約2μm×2μm×20μmを有する。比較的小体積の各焦点内の光子濃度の増大により、2つの光子が、非常に短い時間間隔(例えば、10’’13SEC)以内に標識薬剤の1つの分子と相互作用する。結果として発生する励起電子状態(例えば、3eV)は、標識薬剤に、酸素に罹患組織を殺させるように酸素を変換させるのに十分である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、人間の目の網膜の疾病の治療に関する。特に、本発明は、加齢黄斑変性症の光学的治療に関する。本発明は、排他的ではないが、特に二光子励起の使用を特徴とする、人間の目の網膜の加齢黄斑変性症を治療する光動力学的な療法のためのシステム及び方法として有用である。
【背景技術】
【0002】
加齢黄斑変性症すなわちAMDは、人間の目の網膜の中心にある黄斑の変性症状である。具体的には、AMDは、読書をしたり、自動車を運転したりなどの「正面」作業に必要なはっきりとした中心視をぼやけさせる。AMDはよく、血管新生型(滲出型)AMD又は非血管新生型(萎縮型)AMDのいずれかに分類される。萎縮型AMDは、この疾病の最も一般的な形態であり、黄斑内の感光性細胞がゆっくりと壊れていく場合に発生する。他方、滲出型AMDは、目の黄斑の下に血液及び体液が漏れることから発生し、そのため「滲出型」AMDと呼ばれる。黄斑の下の体液の増大により、黄斑は目の裏側にあるその正常な場所から盛り上がる。その結果、黄斑が変位して破損を受ける。
【0003】
滲出型AMDは萎縮型AMDよりもはるかに希であるが、より重症のAMDである。現在、滲出型AMDに対する治療の選択肢は限られており、治癒方法はない。滲出型AMDの治療に関して、利用できる最初の選択肢は光凝固術である。光凝固術の過程中、レーザ光線が漏出血管に向けられて、同血管を塞ぐか破壊するものである。不都合なことに、この外科的手法では、周囲の健康な組織への付随的な損傷が相当であり得る。さらに、この形態のレーザ手術は、疾病の深刻さ及び段階に部分的に応じて、限られた人数の滲出型AMD患者に対してしか利用することができない。
【0004】
滲出型AMDに対する第2の治療選択肢は、光動力学的療法すなわち「PDT」である。PDTは、罹患網膜組織の領域を化学薬剤すなわち「標識」薬剤で標識を付けることを含む。標識薬剤は、大半の場合、患者の血流中に注入され、この場合、標識薬剤は患者の全身血管系を通り、罹患組織に付着する。続けてレーザ光で照明されると、標識薬剤は、変換された酸素が「標識」付きの組織を殺すように酸素を変換させる。
【0005】
しかし、光動力学的療法を実施する最も普通の方法にはいくつかの制限がある。第1に、罹患組織の標識付けは正確ではないことが多い。より具体的には、罹患エリアによっては標識から外れることがあり、その一方で、健康な組織のエリアが意図せずに標識付けられてしまうことがある。また、光動力学的療法に通常使用される照明光は波長約630nmを有する。この波長の光を使用すると、吸収確率が低くなるとともに、吸収深度が深くなる(例えば、2mm)。このように吸収確率が低いと、罹患組織の殺除が不十分で不完全になる。さらに、吸収深度が深いと、罹患組織と同様に、望ましくないことに健康な組織も殺されてしまう。上述した制限に加えて、多くのレーザシステムの点像分布関数(「PSF」)が不十分である。PSFは、一定の光線の場合に達成可能な最も精細な合焦量として定義することができ、多くのレーザシステムでは、可能な限り小さなPSFは6μm×6μm×200μmのオーダである。特に、6μm×6μm×200μmというPSFは、AMD罹患組織領域の平均サイズと比較して比較的大きいとみなされる。したがって、標識付き領域の精密なイメージング及びそれに続く治療は困難である。こういった制限の影響により、従来の光動力学的療法は、長時間(例えば、90秒)にわたって網膜全体を照明することを含む。この手法の結果として、標識薬剤が存在するエリア内の、罹患網膜組織と同様に健康な網膜組織も殺される。
【0006】
レーザシステムの先端技術をさらに考えると、適応光学の開発により、レーザ光線を患者の目の中に非常に精密に合焦することが可能である。より具体的には、適応光学系を使用する場合、レーザ光線のPSFを約2μm×2μm×20μmに低減することが可能である。そして、レーザ光線の精密な合焦により、より高密度のレーザエネルギーがより小さな体積内に提供される。より小さな体積量へより大きなエネルギー量を付与することは、更なる効率的且つ安全な網膜照明に繋がる。さらに、手術道具として超高速超短パルスレーザを同時に導入することにより、より波長の大きなレーザ光線を使用して、網膜組織のより小さな領域をより効率的に照明することに繋がる。例えば、現在、800nmオーダの波長を有するフェムト秒(fs)レーザが、外科手術においてますます使用されるようになっている。
【0007】
適応光学系とフェムト秒レーザの一適用々途は、Billeによる「High Resolution Imaging for Diagnostic Evaluation of the Fundus of the Human Eye(人間の目の深部の診断評価用の高解析画像技術)」という発明の名称の同時係属中の出願であり、本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願第10/718,406号に開示されるような第2高調波発生(「SHG」)イメージングである。SHGイメージングでは、適応光学系を使用してレーザ光線が、目の中の焦点に約2μm×2μm×20μmのPSFで合焦される。比較的小さな組織体積内に光子密度の増大することにより、2つの赤色光子が角膜組織に吸収され、1つの青色光子に変換される。複数の青色光子が、角膜組織の像の作成に使用される応答信号を構成する。
【0008】
fsレーザ及び適応光学系の使用に伴って実現される関連利点は、特定の時間的期間の間に組織の照明領域を打つ光子数が大幅に増大することである。AMDの治療に際して、光子が標識付き組織の領域に衝突する周期は、光動力学療法の有効性に影響する。例えば、罹患組織の標識付き領域を打つ1つの光子は、約1.5eVの電子状態しか有することができない。しかし、1.5eVという電子状態は、染色分子に、組織を破壊させるように酸素を変換させるのには十分ではないことがあり得る。しかし、2つの光子が標識薬剤内又は「染色」分子内で非常に短い時間間隔(例えば、10−13秒)で相互作用した場合、染色分子に対する2つの光子の効果は加算的になる。このプロセスは二光子励起として知られている。これが発生すると、非常に短い時間的期区間の間に相互作用する2つの光子の加算的効果により、約3eVの励起電子状態が生じる。重要なことに、3eVという電子状態は、染色分子に対し、周囲の標識付き組織を殺すように酸素を変換させるのに適格である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記に鑑みて、本発明の目的は、加齢黄斑変性症(「AMD」)、特に「滲出型」AMDを治療するシステムを提供することである。本発明の他の目的は、適応光学系と超高速超短パルスレーザを利用して、二光子励起を誘導する滲出型AMDを治療する光動力学療法用システムを提供することである。本発明の更に他の目的は、罹患組織領域の精密なイメージングを含む滲出型AMDを治療するシステムを提供することである。本発明の更に他の目的は、PDT中に周囲の健康な網膜組織への付随的な損傷を最低限に抑える滲出型AMDを治療するシステムを提供することである。本発明の更に他の目的は、使い易く、比較的製造が容易であり、且つ多少とも費用効率的な滲出型AMDを治療するシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
人間の目の網膜内の加齢黄斑変性症(「AMD」)疾病を治療するためのシステムは、罹患網膜組織領域に標識を付ける化学薬剤又は「標識」薬剤を含む。1つのかかる標識薬剤はベルテポルフィンである。さらに、本発明のシステムは、レーザ光線を発生するレーザ光源を含む。好ましくは、レーザ光線は、波長約800nm、パルス幅約200〜800フェムト秒範囲、及びパルスエネルギー約1ナノジュール(nJ)を有するフェムト秒レーザである。レーザ光源と連携して、レーザ光線を罹患網膜組織領域内の焦点にレーザ光線を指向させて合焦する光学組立体が動作する。さらに、光学組立体は、目の光軸の位置合わせを検出する波面センサを含むことができる。いかなる場合でも、光学組立体は適応光学系を含む。より特定すれば、光学組立体の適応光学系は、罹患組織領域内の隣接する焦点間でレーザ光線を移動させる走査ユニット、レーザ光線を補償し、光線を走査ユニットに向けるアクティブミラー、及びレーザ光線を罹患網膜組織内の焦点に合焦する複数の集束レンズを含む。
【0011】
本発明では、アクティブミラーは、好ましくは、J.Billeに付与された「Method for Programming an Active Mirror to Mimic a Wavefront」という発明名称の米国特許第6,220,707号に開示される種類のものである。本発明により意図されるように、アクティブミラーはビーム路上に位置決めされて、光線がミラーから反射されて走査ユニットに向けられる際にレーザ光線を補償する。当業者ならば理解できるように、レーザ光線の補償は、該光線が目を通る際に同光線に導入される収差を考慮する必要がある。より特定的には、補償は、レーザ光線が何らかの所定の角度で目を打ち、続けて角膜を通過するときに、隣接した各光線に悪影響をもたらす個々の位相シフトずれを最低限に抑える必要がある。レーザ光源及び光学組立体の両方と電子通信するコンピュータコントローラが、アクティブミラーの個々のミラー面ないし切子面の移動を指示し、それにより、光線を補償する。
【0012】
上に開示したレーザ光源及び光学組立体に加えて、本発明のシステムは、罹患組織の像を作成する画像ユニットを含む。第2高調波発生(「SHG」)イメージングにより発生する応答信号が、像の作成に使用される。さらに、ビームスプリッタが画像ユニットと光学的位置合わせされて、応答信号を画像ユニットに指向させる。コンピュータコントローラは、画像ユニットと電子通信して、像データを受信して処理する。
【0013】
本発明の作用において、罹患網膜組織領域の像は、SHGイメージングを使用して作成される。特に、波面センサが、レーザ光線が罹患組織領域内の焦点に指向されるときに、光軸の位置合わせを確認する。本発明により想定されるように、焦点は約2μm×2μm×20μmのPSFを有する。レーザ光線が焦点を照明すると、応答信号が発生し、画像ユニットは応答信号を使用して、罹患組織の像を作成する。続いて、像はコンピュータコントローラに電子通信され、その後、そのデータを使用して、続くPDT治療中にレーザ光線をより精密に合焦させる。
【0014】
罹患組織のイメージングが完了すると、標識薬剤が、多くの場合には標識薬剤を患者の腕に注入することによって患者の血流中に導入される。注入後、標識薬剤は患者の全身の血管系を通り、AMDにより損傷を受けている網膜のエリア内に集まり、それにより、治療のために罹患エリアに標識を付ける。罹患組織のイメージング及び標識付けに続き、レーザ光線が罹患組織体積内の焦点に合焦される。特に、レーザ光線は、ビーム路に沿って向けられたアクティブミラーに反射される。上に開示したように、アクティブミラーはレーザ光線を補償し、同光線を走査ユニットに向ける。アクティブミラーから反射された後、レーザ光線は走査ユニット及び集光レンズを通り、そこで、レーザ光線が網膜内の焦点に合焦される。レーザ光線を初期焦点に合焦した後、走査ユニットは、所定の走査パターンに従って光線を移動させて、複数の焦点を照明させる。より具体的には、各焦点は、約5フェムト秒レーザパルスで約1パルス/10−13秒の速度で照明される。この照明速度で、比較的小さなPSF内に高密度の光子が与えられると、二光子励起が発生する。二光子励起中、標識薬剤の線量分子が、酸素に罹患組織を殺させるように酸素を変換する。光線の走査が続くにつれ、染色分子は酸素に変換され続け、それにより、より多くの罹患組織を殺し続ける。照明は、罹患組織領域が有効に破壊されるまで続けられる。本発明のシステムが、上述したように、より小さな体積の罹患網膜組織が、周囲の健康な組織に悪影響を及ぼすことなく有効に照明され、治療されることを保証することが分かる。
【0015】
本発明の新規の特徴並びに本発明自体が、構造及び動作の両方に関して、添付の説明に関連する同様の参照文字が同様の部品を指す添付図面から最良に理解されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明によるシステムを図1に示し、全体的に10で表す。図示のように、システム10は、レーザ光線14をビーム路16に沿って向けるレーザ光源12を含む。特に、レーザ光源12は、調整可能なフェムト秒(fs)レーザ光源12である。より具体的には、レーザ光源12は、波長約800nm、パルス幅約200〜800フェムト秒範囲、及びパルスエネルギー約1nJを有するレーザ光線14を発生させる。
【0017】
レーザ光源12と連携して、レーザ光線14を目22内の焦点20に合焦する光学組立体18が動作する。本発明により意図されるように、光学組立体18は、レーザ光線14をより精密に合焦する適応光学系を含む。より具体的には、光学組立体18は、レーザ光源12と光学的に位置合わせされて、光線14がミラー24から反射される際にレーザ光線14を補償するアクティブミラー24を含む。当業者は理解できるように、アクティブミラー24は、光線14が目22の角膜26を通る際に光線14に導入される収差に関してレーザ光線14を補償しなければならない。言い換えれば、アクティブミラー24は、レーザ光線14が角膜26を通る際に隣接した各光線に悪影響をもたらす個々の位相シフトずれを最低限に抑えることにより、レーザ光線14を補償しなければならない。そして、補償は、レーザ光線14を目22のより小さな焦点20に合焦できるようにし、それにより、より高い密度の光を体積のより小さな組織にもたらす。
【0018】
なお、図1を参照すると、光学組立体18は、レーザ光線14を罹患組織30(図2)内の複数の焦点間で移動させる走査ユニット28も含む。走査ユニット28が、レーザ光線14を所定の光線路16に沿って合焦することが可能な当該技術分野において周知の種類のいずれであってもよいことは認識できる。図1に示すように、走査ユニット28は、アクティブミラー24と光学的に位置合わせされて、光線14がミラー24から反射される際にレーザ光線14を受ける。好ましくは、光学組立体18は、罹患組織30の領域のイメージング及び続く治療の前に、目22の光軸34の位置合わせを検出する波面センサ32も含む。走査ユニット28及び波面センサ32に加えて、光学組立体18は複数の集光レンズを含み、レンズ36a及び36bは複数の集光レンズの単なる例示にすぎない。レンズ36a及び36bは、走査ユニット28と光学的に位置合わせされて、レーザ光線14を角膜26内の焦点20に合焦する。
【0019】
本発明により意図されるように、システム10は、罹患組織30の第2高調波発生イメージング中に発生するリターン信号40を受信して処理する画像装置38を含む。さらに、ビームスプリッタ42がアクティブミラー24及び画像ユニット38と光学的に位置合わせされて、リターン信号40を画像ユニット38に向ける。図1にさらに示されるように、コンピュータコントローラ44が、電気ケーブル46、48、及び50を介して光学組立体18、レーザ光源12、及び画像ユニット38とそれぞれ電子的に通信する。
【0020】
上述した本発明の要素に加えて、本発明の重要な側面は、罹患組織30の領域に標識を付ける化学薬剤又は「標識」薬剤(図示せず)である。標識薬剤を患者(図示せず)の血流中に導入して、患者の血管系を通り、視神経を通って目22に入ることができることが分かる。
【0021】
本発明の動作に際して、本発明のシステム10はまず、SHGイメージングを使用して罹患組織30の領域の像を作成するために使用される。特に、レーザ光源12はフェムト秒レーザ光線14を発生させ、このフェムト秒レーザ光線14が光学組立体18、特にアクティブミラー24に向けられる。アクティブミラー24がコンピュータコントローラ44により、レーザ光線14がミラー24の表面52から反射される際にレーザ光線14を補償するようにプログラムされることが分かる。重要なことに、アクティブミラー24が適宜プログラムされるために、コンピュータコントローラ44は、目20の光軸34の厳密な位置合わせを知らなければならない。好ましくは、波面センサ32が必要な位置合わせデータを提供する。ミラー24がプログラムされた後、レーザ光線14はミラー24から反射され、走査ユニット28を通り、続けて集光レンズ36a及び36bの方向に出射する。レーザ光線14が集光レンズ36a及び36bを通るときに、レーザ光線14は罹患組織30の領域内の所望の焦点20に合焦される。光学組立体18の適応光学系の使用を通して、レーザ光線14は、約2μm×2μm×20μm(図2)のPSFで焦点20に精密に合焦される。レーザ光線14は罹患網膜組織30の領域を照明し、応答信号40が発生する。そして、応答信号40は、光学組立体18を逆に通り、ビームスプリッタ42により画像ユニット38内に向けられる。本発明により意図されるように、画像ユニット38により作成される像データは、コンピュータコントローラ44に送信され、コンピュータコントローラ44において、データが使用されて、罹患網膜組織30の領域の位置及びサイズが確認される。
【0022】
罹患組織30の領域のSHGイメージングが完了すると、標識薬剤が患者の血流中に導入される。本発明の構想によれば、標識薬剤は目22に入り、網膜54に集まる。図2を参照することによって分かるように、標識薬剤は、罹患組織30の領域を含む組織の領域(線56によって画定される)の輪郭を描く。罹患組織30の領域の外縁境界は、線58によって画定される。図2に示されるように、標識薬剤によって意図せずに標識された健康な組織のエリア、特に線56と線58との間の組織エリアがある。標識薬剤によるこの「重なり」により、レーザ光線14により照明された場合、健康な組織が意図せずに破壊されてしまう恐れがある。したがって、イメージングの際に光学組立体18を使用してレーザ光線14を合焦したのと略同じように、光学組立体18を使用して、レーザ光線14をPDT治療のための焦点20に精密に合焦する。
【0023】
これより、PDT治療をさらに詳細に考えると、上述したフェムト秒レーザ光線14は、目22の網膜54内の焦点20に合焦される。図2に示されるように、レーザ光線14は、一連の赤色光子として表すことができ、光子60a及び60bはその例示である。フェムト秒レーザ光源12及び本発明の光学組立体18の使用を通して、所与の時間期間にわたって網膜54内の焦点20に衝突する赤色光子の密度又は数は、大幅に増大する。重要なことに、焦点20を照明する赤色光子60a及び60bの密度の増大に伴い、非常に短い時間間隔(例えば、10−13秒)以内に、2つの光子60a及び60bが標識薬剤の1つの染色分子62と相互作用することが起こり得る。この二光子相互作用が発生すると、1つの染色分子62に衝突する2つの光子60a及び60bの効果は加算的になる。言い換えれば、各光子60a及び60bが単独では電子状態約1.5eVを有するが、光子60a及び60bの両方の加算的効果により、励起電子状態約3eVが発生する。1.5eVという電子状態は、罹患組織30の領域を殺すために必要な酸素変換を誘発させるのに不十分なことがある。しかし、3eVという励起電子状態は、染色分子62と周囲の罹患組織30との所望の効果、すなわち罹患組織30を殺す酸素変換を発生させるのに十分である。本発明の2つの光子60a及び60bの励起が、罹患組織30の非常に薄い、例えば約5ミクロンの深さの層に非常に高いエネルギー吸収確率をもたらすことを理解されたい。したがって、焦点20内の非常に小さな体積の罹患組織を精密に3次元で照明して殺すことができる。さらに、健康な領域への付随する損傷が最低限に抑えられる。
【0024】
これより図3を参照して、ビーム路16に沿って見た罹患組織30の領域の上面図を提示する。本発明により意図されるように、光学組立体18は、レーザ光線14を罹患組織30の領域内の開始点64に合焦する。コンピュータコントローラ44によって送信される走査順66に従って、走査ユニット28は、レーザ光線14を初期焦点20から一連の隣接する焦点に順次移動させる。68a、68b、及び68cは一連の隣接する焦点の例示である。より具体的には、各焦点は、約5フェムト秒レーザパルスで約1パルス/10−13秒の速度で照明される。本発明により意図されるように、走査順66は、罹患組織30の領域が有効に殺されるまで続く。
【0025】
本明細書において図示し詳細に説明された加齢黄斑変性症を治療する特定の光線力学的療法は完全に、本明細書において上述した目的を達成し、利点を提供することが可能であるが、これは本発明の現在好ましい実施形態の単なる例示であり、添付の特許請求の範囲に記載される以外、本明細書に示される構成及び設計の詳細への制限が意図されないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】システム構成要素の相互関係を示す本発明のシステムの概略図である。
【図2】罹患し標識付けられた網膜組織領域内の3次元焦点の概略図である。
【図3】罹患し標識付けられた網膜組織領域内の焦点の上面図の代表図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加齢黄斑変性症の光動力学療法治療用のシステムであって、
罹患網膜組織体積に標識を付ける薬剤と、
複数のレーザパルスを有するレーザ光線を発生させる手段と、
前記レーザ光線を前記罹患網膜組織体積内の焦点に指向させて合焦せしめる光学手段と、を具備し、
前記複数のレーザパルスの各パルスは複数の光子及び波長約800nm、パルス幅200〜800フェムト秒範囲及びパルスエネルギー約1ナノジュール(nJ)を有するレーザ光線を発生させ、
前記各パルスからの前記複数の光子が相互作用して、励起電子状態を発生させ、該励起電子状態は前記標識手段に対し酸素を変換せしめ、該変換された酸素が、前記罹患組織を殺すシステム。
【請求項2】
前記標識薬剤がベルテポルフィンである、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記光学手段は、
アクティブミラーと、
前記レーザ光線を前記罹患網膜組織体積内の一焦点から隣接する焦点に定期的に移動させて、前記レーザ光線を前記罹患組織内の複数の焦点に合焦する走査ユニットと、
前記レーザ光線を前記焦点に合焦する複数の集光レンズと、
前記レーザ光線のビーム路と前記目の光軸の位置合わせを示すデータを生成する波面センサと、
前記波面センサから前記データを受信し、前記レーザ光線を前記焦点に指向させるように前記アクティブミラーを制御する際に使用するコンピュータと、
を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記焦点は約2μm×2μm×20μmの体積測定値を有する、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記罹患網膜組織の体積像が、第2高調波発生イメージングを使用して作成され、さらに、前記像は、前記コンピュータに電子通信されて、前記レーザ光線の合焦を前記罹患網膜組織の前記体積内における前記焦点に指向させる際に使用される、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
人間の目の網膜の黄斑変性症を治療するためのシステムであって、
罹患組織の領域に標識を付ける標識薬剤と、
複数の光子を有するレーザ光線をビーム路に沿って向けるレーザ光源と、
前記ビーム路に位置決めされ、前記レーザ光線を前記罹患組織の標識付き領域内の焦点に合焦する光学組立体と、を具備し、
前記レーザ光線からの前記複数の光子は相互作用して励起電子状態を発生させ、該励起電子状態は前記標識薬剤に酸素を変換させ、更に、該変換された酸素が前記罹患組織を殺す、システム。
【請求項7】
前記標識薬剤がベルテポルフィンである、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記レーザ光線はフェムト秒レーザ光線であり、さらに、該フェムト秒レーザ光線は波長約800nm、パルス幅約200〜800フェムト秒範囲、及びパルスエネルギー約1ナノジュール(nJ)を有する、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
前記光学組立体は、
アクティブミラーと、
前記レーザ光線を前記罹患網膜組織の体積内の一焦点から隣接する焦点に定期的に移動させて、前記レーザ光線を前記罹患組織内の複数の焦点に合焦せしめる走査ユニットと、
前記レーザ光線を前記罹患組織の前記体積内の前記焦点に合焦させる複数の集光レンズと、
を含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記レーザ光線のビーム路と前記目の光軸との位置合わせを表示するデータを生成する波面センサと、
前記波面センサから前記データを受信し、前記レーザ光線を前記焦点に指向させるように前記アクティブミラーを制御する際に使用するコンピュータと、
を更に備える、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
罹患網膜組織の領域の像が、第2高調波発生イメージングを使用して作成され、かつ、前記像は、前記コンピュータに電子通信されて、前記レーザ光線の合焦を前記罹患網膜組織領域内の前記焦点に指向させる際に使用される、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
更に、画像ユニットとビームスプリッタを備え、該画像ユニットは前記罹患組織の前記第2高調波イメージング中に発生する応答信号を受信すると共に前記応答信号は、前記罹患組織の領域の前記像を作成するために使用され、
前記ビームスプリッタは、前記画像ユニットと光学的に位置合わせされ、前記応答信号を前記画像ユニットに指向させる、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
加齢黄斑変性症を治療する方法であって、
標識薬剤を使用して罹患網膜組織の領域に標識を付けるステップと、
複数の光子を有するレーザ光線を前記罹患網膜組織の前記領域内の焦点に合焦するステップを備え、前記焦点が、体積測定値約2μm×2μm×20μmを有し、
前記レーザ光線からの前記複数の光子は互いに相互作用して、励起電子状態を発生させ、該励起電子状態が前記標識薬剤に酸素を変換させ、さらに、該変換された酸素が前記罹患網膜組織を殺す、方法。
【請求項14】
前記標識を付けるステップは、前記標識薬剤を患者の血流中に注入するステップをさらに含み、前記標識薬剤はベルテポルフィンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記合焦するステップは、
フェムト秒レーザ光線を発生させるステップと、
前記レーザ光線を前記罹患網膜組織領域内の前記焦点にレーザ光線合焦用の光学組立体を介して前記フェムト秒レーザ光線を指向させるステップと、
をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記フェムト秒レーザ光線は、波長約800nm、200〜800フェムト秒範囲のパルス幅、約1ナノジュール(nJ)のパルスエネルギーを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記光学組立体は、
アクティブミラーと、
前記レーザ光線を前記罹患網膜組織体積内の一焦点から隣接する焦点に定期的に移動させて、前記レーザ光線を前記罹患組織内の複数の焦点に合焦する走査ユニットと、
前記レーザ光線を前記罹患組織体積内の前記焦点に合焦する複数の集光レンズと、
を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記光学組立体は、前記レーザ光線のビーム路と前記目の光軸との位置合わせを表すデータを生成する波面センサをさらに備える、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記光学組立体はコンピュータコントローラを更に備え、かつ、該コンピュータコントローラは、前記波面センサと電子通信し、前記波面センサからデータを受信し、前記アクティブミラーを制御する際に使用する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
第2高調波発生イメージングを使用して前記罹患網膜組織の像を生成するステップをさらに含み、前記像は、前記コンピュータコントローラに電子的に送信され、前記レーザ光線を前記罹患網膜組織の領域内の前記焦点に合焦する際に使用する、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−545519(P2009−545519A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511610(P2009−511610)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【国際出願番号】PCT/IB2007/003151
【国際公開番号】WO2007/138490
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(508345829)ハイデルベルク エンジニアリング ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (9)
【Fターム(参考)】