説明

劣化試験装置及び劣化試験方法

【課題】 短時間に高精度の劣化試験を実施することができる劣化試験装置を提供する。
【解決手段】 本発明に係る劣化試験装置100は、レーザ装置10から出力されたレーザ光を液晶パネル(被検物)15に照射して劣化を生じさせ、当該被検物の劣化試験を行う装置であり、レーザ光を出力するレーザ装置10と前記液晶パネル15との間に、前記レーザ光の照度を均一化する光学補正素子26が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化試験装置及び劣化試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶パネルの信頼性評価の1つとして耐光性試験が行われている。例えば、液晶プロジェクタにおいてライトバルブとして用いられる液晶パネルは、強い光が長時間に渡って照射されて各構成要素(部品、部材)に劣化が生じやすいので、耐光性試験は所望の品質を確保する上で重要である。
このような液晶パネルの耐光性においては、長い場合には数ヶ月といったオーダでの試験期間を要する場合がある。しかし、製品開発期間の短縮化が求められる状況ではこのような長期間の試験は許容しがたい。
これに対して、評価期間を短縮する手法の1つとして、実際の使用状況よりも過酷な条件による負荷をかけて試験を行い、その結果から長期間の使用後における劣化を予測する、いわゆる加速試験が知られている。このような液晶パネルの耐光性評価に関する従来技術が、例えば特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2001−4526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の耐光性評価方法では、メタルハイドロランプ、UHPランプあるいはハロゲンランプなどの光源を用いて液晶パネルに光を照射しているため、集光性が低く、高エネルギー密度が得られず、短時間で劣化現象を発現させることが難しかった。このため、液晶パネルの耐光性の評価に長時間を要することとなり、製品開発期間の短縮化の妨げとなっていた。
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、短時間に高精度の劣化試験を実施することができる劣化試験装置、及び劣化試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記課題を解決するために、被検物にレーザ光を照射して劣化を生じさせ、当該被検物の劣化試験を行う装置であって、レーザ光を出力するレーザ光源と前記被検物との間に、前記レーザ光の照度を均一化する光学補正素子が設けられていることを特徴とする劣化試験装置を提供する。
まず、本発明の劣化試験装置では、被検物に対してレーザ光を照射して被検物の劣化処理を行っているので、極めて短時間に被検物に劣化を生じさせることができ、試験時間を著しく短縮することができる。
劣化処理用の光線としてレーザ光を用いる場合、レーザ光の強度分布は、通常は光線の中心部で高く、周辺部で低くなっているので、被検物に対してレーザ光をスポット照射すると、レーザ光照射領域の中心部で劣化が進行しやすく、結果としてレーザ光を照射した試験対象領域内に劣化度合いのムラを生じる。そして、このようなムラがあると、劣化度合いの観測を正確に行うのが難しく、測定誤差を生じやすくなる。これに対して、本発明の劣化試験装置では、上記のように被検物をレーザ光の照度分布を均一化しているので、被検物の試験対象領域を均一に劣化させることができ、正確な試験結果を容易に得ることができる。したがって、本発明の劣化試験装置によれば、短時間に高精度の劣化試験を実施することができる。
【0005】
また本発明は、液晶パネルにレーザ光を照射して劣化を生じさせ、当該液晶パネルの劣化試験を行う装置であって、レーザ光を出力するレーザ光源と前記液晶パネルとの間に、前記液晶パネルの1又は複数の画素領域内で前記レーザ光の照度を均一化する光学補正素子が設けられていることを特徴とする劣化試験装置を提供する。かかる構成の劣化試験装置は、液晶パネルにレーザ光を照射することで液晶パネルに劣化を生じさせるものである。この構成においても、前記光学補正素子を設けたことで、被検物たる液晶パネルに均一な照度分布のレーザ光を照射できるので、液晶パネルの試験対象領域を均一に劣化させることができ、正確な劣化試験を実施できるものとなる。
【0006】
本発明の劣化試験装置では、前記光学補正素子が、フライアイレンズ又はロッドレンズを含むことが好ましい。これらのレンズを用いれば、簡便にレーザ光の照度分布の均一化を実現でき、劣化試験装置を安価に提供することができる。
【0007】
本発明の劣化試験装置では、少なくとも前記液晶パネルの1画素領域の範囲で前記レーザ光を均一化する前記光学補正素子を備えていることが好ましい。前記光学補正素子による均一化の範囲が液晶パネルの1画素領域より狭い範囲であると、液晶パネルの1画素を試験対象領域とした場合にも当該画素内に劣化のムラを生じることになり、劣化度合いの検査において誤差を生じやすくなるためである。
【0008】
本発明の劣化試験装置では、前記被検物若しくは前記液晶パネルと、前記光学補正素子との間に、前記レーザ光の一部を遮光するマスク素子が設けられている構成とすることもできる。この構成によれば、前記マスク素子によってレーザ光の形状ないしスポット径を任意に制御できるので、前記被検物ないし液晶パネルの試験対象領域のみを選択的に劣化させることができる。これにより、試験対象領域以外の領域の劣化による影響を排除でき、より正確な劣化試験を実施可能になる。
【0009】
本発明の劣化試験装置では、前記液晶パネルに対する前記レーザ光の照射範囲を1画素領域から複数画素領域の範囲で調整する前記マスク素子を備えていることが好ましい。この構成によれば、液晶パネルの試験対象領域を1画素から複数画素の範囲で任意に設定でき、またかかる範囲の試験対象領域について選択的に均一に劣化処理を施すことができる劣化試験装置となる。
また前記レーザ光のスポット形状を略矩形状とする前記マスク素子を備えていてもよい。このようにすれば、液晶パネルの画素に対して正確にレーザ光を照射することができる。
【0010】
本発明の劣化試験装置では、前記被検物又は前記液晶パネルに照射するレーザ光の光量を測定する第1光量測定部と、前記被検物又は前記液晶パネルに照射した後のレーザ光の光量を測定する第2光量測定部とが設けられている構成とすることができる。前記第1光量部により前記被検物に照射する直前のレーザ光量を得ることができ、前記第2光量測定部により前記被検物に照射した後のレーザ光量を得ることができるので、レーザ光源から出力されるレーザ光のパラメータに応じた被検物の劣化度合いを容易に測定することができる。
【0011】
本発明の劣化試験方法は、レーザ光を液晶パネルに対して照射する第1工程と、観察光を前記液晶パネルに照射し、該液晶パネルに照射した後の観察光の状態を検出する第2工程と、前記液晶パネルに照射する前後の前記観察光の差異に基づき前記液晶パネルの耐光性を評価する第3工程と、を含み、前記第1工程において、前記レーザ光の照度分布を前記液晶パネルの1画素又は複数画素に対応する領域内で均一化し、当該均一化したレーザ光を前記液晶パネルの1画素又は複数画素に対して照射することを特徴とする。
この劣化試験方法によれば、被検物である液晶パネルに照射する前記レーザ光を、液晶パネルの1画素又は複数画素に対応する範囲で均一化するので、液晶パネルの試験対象領域内で均一な劣化処理を施すことができる。これにより、試験対象領域内の劣化状態の不均一に起因する劣化度合いの測定誤差を減少させることができ、正確な劣化試験を実施することができる。
【0012】
本発明の劣化試験方法は、前記第1工程において、前記液晶パネルに照射するレーザ光のスポット形状を、前記液晶パネルの1画素又は複数画素に対応する略矩形状に成形することが好ましい。この劣化試験方法によれば、液晶パネルの画素形状に合わせた形状のレーザ光を照射できるので、試験対象とした画素についてのみ選択的にレーザ光を照射することができ、試験対象領域以外の部分の劣化による影響を排除でき、試験の正確性向上に寄与する。
【0013】
本発明の劣化試験方法は、前記第1工程において、前記レーザ光の波長、照射エネルギー、及び照射時間の少なくとも1つを可変パラメータとして設定して前記液晶パネルに対する照射を行い、前記第3工程において、前記可変パラメータに応じた前記観察光の差異に基づき前記液晶パネルの耐光性を評価することができる。この劣化試験方法によれば、可変パラメータの変化に対する被検物の劣化度合いの変化を容易に得ることができる。
【0014】
本発明の劣化試験方法は、前記第1工程において、前記レーザ光の照射により前記液晶パネルに含まれる配向膜の配向性を低下させる試験方法とすることができる。光照射による液晶パネルの劣化の主たる要因は、配向膜の劣化である。したがってレーザ光照射によって配向膜に劣化を生じさせる上記の試験方法とすれば、当該劣化試験方法により液晶パネルの実際の経時劣化に即した加速試験を実施することができ、液晶パネルの耐光性や寿命をより正確に評価することができる。
【0015】
本発明の劣化試験方法は、前記液晶パネルに照射する前記レーザ光を、該液晶パネルの光入射側の偏光板の透過軸と略平行の直線偏光とすることが好ましい。液晶パネルの劣化試験を行う場合、液晶パネルに偏光板が設けられていると、液晶パネルに照射したレーザ光の一部(偏光板の吸収軸と平行な偏光成分)が偏光板に吸収されて偏光板に劣化を生じることがあり、かかる劣化因子が試験結果に混入することも考えられる。そこで、液晶パネルに入射させるレーザ光を、偏光板の透過軸と平行な直線偏光とすれば、偏光板での光吸収をほとんど生じないため、偏光板の劣化を防止でき、例えば配向膜の劣化に起因する光学特性の変化を正確に観測できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の劣化試験装置、及びそれを用いた劣化試験方法の実施の形態について説明する。なお、以下の実施形態で説明する劣化試験方法は、一対の基板間に液晶層を挟持してなる液晶パネルの劣化試験方法であり、液晶パネルに対しレーザ光を照射することで、液晶パネルに劣化を生じさせた後、レーザ光を観察光として用いて液晶パネルを光学的に観察し、上記液晶パネルの劣化度合いを評価するものである。
【0017】
(劣化試験装置)
図1は、本実施形態の劣化試験装置の概略構成図である。図1に示す劣化試験装置100は、レーザ装置(レーザ光源)10と、NDフィルタ12と、ミラー13と、集光レンズ14と、光学補正素子26とを備えたレーザ光出力部11と、被検物である液晶パネル15を支持する被検物支持部19と、被検物支持部19に支持された液晶パネル15の前面側(レーザ光出力部11側)に設けられたマスク素子16と、液晶パネル15の前段側(レーザ光出力部11側)に設けられた第1光量測定部21と、液晶パネル15の後段側(レーザ光出力部11と反対側)に設けられた第2光量測定部22とを備えて構成されている。
【0018】
また、レーザ光出力部11の光学系を一部共有する撮像部17と、撮像部17で得られた画像情報を処理、表示する画像処理部18とが設けられており、これら撮像部17及び画像処理部18は、液晶パネル15上の試験対象領域(レーザ光照射領域)と、レーザ光との位置合わせを行う位置決め手段、及び液晶パネル15の劣化度合いを評価するための画像処理手段として機能する。
【0019】
レーザ装置10は、例えば発振波長406nmの青紫レーザ光を出力するレーザ装置であり、レーザ光をその波長、照射エネルギー、及び照射時間のうち、少なくとも1つを可変パラメータとして出力可能なものとされる。本実施形態の劣化試験装置100は、レーザ光照射により液晶パネル15の配向膜等を劣化させ、液晶の配向性低下の程度を観測して液晶パネル15の耐光性を評価するものであるから、レーザ装置10には、液晶パネル15に対し短時間で所望の劣化を生じさせることができるものが用いられる。
【0020】
レーザ装置10から出力されたレーザ光は、NDフィルタ12により測定に必要な光量に絞られた後、ミラー13により反射されて集光レンズ14に入射し、集光レンズ14により所定のスポット径に調整され、さらに光学補正素子26によりその照度分布を均一化された後、被検物である液晶パネル15の試験対象領域に照射される。さらに前記レーザ光は、必要に応じて、被検物である液晶パネル15の前面側に設けられたマスク素子16により所望の形状及び大きさに成形されて液晶パネル15に照射されるようになっている。上記マスク素子16は、該マスク素子16に接続されたマスク制御部38により駆動制御されるようになっており、液晶パネル15の平面領域に対する進退動作により前記レーザ光の成形を行えるようになっている。
なお、図1に示すレーザ光出力部11は、その主要部のみを簡略化して表示したものであり、試験装置の設計に応じた構成部材の変更/追加を妨げるものではない。
【0021】
図2(a)及び図2(b)は、それぞれ光学補正素子26の第1構成例及び第2構成例を示す側面構成図である。まず、図2(a)に示す第1構成例の光学補正素子26Aは、対向配置された2枚のフライアイレンズ31,32と、フライアイレンズ32の光射出側に配置された集光レンズ33とを備えて構成されている。本実施形態では、フライアイレンズ31,32として、複数の小型のレンズを平面的に配列したものを図示しているが、複数のロッドレンズを束ねた形状のものを用いることもできる。
【0022】
一方、図2(b)に示す第2構成例の光学補正素子26Bは、ロッドレンズ34と、ロッドレンズ34の光射出側に配置された集光レンズ35とを備えて構成されている。ロッドレンズ34としては、透明な棒状の導光体(例えば、ガラス棒)、もしくは内面が反射面とされた管状の導光体(例えば、複数の反射ミラーを内側に向けて管状に配置した万華鏡)などが用いられる。
【0023】
上記各構成例の光学補正素子26A、26Bを図1に示した光学補正素子26として用いることで、集光レンズ14から射出されたレーザ光LBの照度分布を均一化することができ、液晶パネル15の試験対象領域を均一に劣化させることができる。したがって、液晶パネル15の劣化度合いを測定する際には、試験対象領域内における測定位置によらず一定の試験結果を得ることができ、液晶パネル15について高精度の劣化試験を実施することができるようになっている。
【0024】
図3は、図2(a)に示した光学補正素子26Aを用いた場合のマスク素子16の動作を説明するための側面構成図である。図3に示すように、光学補正素子26Aにより照度分布を均一化されたレーザ光は、マスク素子16を介して液晶パネル15に照射されるようになっている。マスク素子16は、マスク制御部38により駆動されて液晶パネル15の前面側に対して進退自在であり、マスク素子16によって光学補正素子26Aから射出されたレーザ光を部分的に遮光することで、液晶パネル15の任意の領域に対して選択的にレーザ光を照射することができる。このようなマスク素子16を備えていることで、液晶パネル15の不要な箇所にまで劣化が生じるのを防止することができる。
【0025】
レーザ光路に対して液晶パネル15の前面及び背面に設けられた第1光量測定部21、第2光量測定部22は、それぞれパワーメータ23,24に接続されており、液晶パネル15に入射する直前のレーザ光の光量を第1光量測定部21で検出してパワーメータ23により読み取ることができ、液晶パネル15を透過したレーザ光の光量を第2光量測定部22で検出してパワーメータ24により読み取ることができるようになっている。したがって、パワーメータ23で読み取ったレーザ光量と、パワーメータ24で読み取ったレーザ光量とを比較することで、液晶パネル15の透過率を測定することができる。
【0026】
なお、液晶パネル15前段側の第1光量測定部21は、レーザ光の光路に対して進退自在に設けられており、液晶パネル15へのレーザ光照射を行う前にレーザ光路上に配置されて光量を検出し、液晶パネル15に劣化を生じさせる際、及び液晶パネル15の透過率を測定する際には、レーザ光路から後退するようになっている。
【0027】
上記第1光量測定部21とレーザ装置10との間には、液晶パネル15に入射させるレーザ光を所定の偏光状態とするための偏光子を設けることができる。一般的に液晶パネル15の外面側には偏光板が設けられているので、このような偏光子を設けて液晶パネル15の偏光板の透過軸と平行な直線偏光を入射させるようにすれば、液晶パネル15の偏光板での光吸収を無くすことができる。これにより、光吸収による偏光板の加熱劣化を防止でき、液晶パネル15で生じる劣化のうち偏光板の劣化に係る部分を排除できるので、液晶パネル15のうち特定箇所(配向膜)の劣化を高精度に検出できるようになる。なお、液晶パネル15に偏光板が設けられていない場合には、上記前段側の偏光子とともに、液晶パネル15後段側にも偏光子が設けられる。
【0028】
被検物である液晶パネル15を支持する被検物支持部19には、液晶パネル15の温度制御を行う温度制御部を設けることができる。かかる温度制御部により液晶パネル15を冷却ないし加熱し、試験中の液晶パネル15の温度を一定に保持するようにすることで、レーザ光照射での加熱に起因する液晶パネル15の劣化を抑制しつつ劣化試験を行うことができるので、液晶パネル15の劣化因子から熱に起因する部分を排除し、光照射による液晶パネル15の劣化現象を正確に観測することが可能になる。
【0029】
<液晶パネル>
被検物である液晶パネル15には、種々の構成のものを被検物とすることができる。ここで、図4(a)に液晶パネル15の一例を示して説明する。図4(a)は、TNモードの液晶層を具備したTFTアクティブマトリクス型の液晶パネル15の部分断面構成図である。なお、図4では、3つの画素P1〜P3のみを示しているが、実際には画素P1〜P3と同様の構成の画素が平面視マトリクス状に配列形成された構成を備えている。また、各画素P1〜P3に対応して設けられるスイッチング素子であるTFT(薄膜トランジスタ)についての図示は省略している。
【0030】
図4(a)に示す液晶パネル15は、液晶層155を挟持して対向する一対の基板151,152を備えている。基板151,152は、石英、ガラス、プラスチック等の透明基板であり、両基板の対向面に介在させた図示略のスペーサにより所定の間隔に離間されている。基板151の内面側(液晶層155側)に、複数の画素電極156と、画素電極156を覆う配向膜153とが形成されており、基板151の外面側には、偏光板159が配設されている。基板152の内面側に、遮光膜(ブラックマトリクス)158と、対向電極157と、配向膜154とが積層形成されており、基板152の外面側には、偏光板160が配設されている。
【0031】
液晶層155は、ネマチック液晶を主体としてなり、配向膜153、154の配向規制力によって、基板151,152間でツイスト配向している。配向膜153,154は、ポリイミド膜や酸化シリコン膜により形成することができ、ポリイミド膜を用いる場合には、液晶を所望の方向に配向させるためのラビング処理を施される。また、酸化シリコン膜を用いる場合には、斜方蒸着法等によって膜面に凹凸形状を付与し、かかる形状に起因する配向規制力により液晶を配向させる。
【0032】
画素電極156は、各画素ごとに形成されて、当該領域内の液晶層155に駆動電圧を印加する。画素
電極156は、例えばITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電膜を基板151上に成膜し、パターニングすることによって形成できる。そして、各画素電極156には、図示しないTFT(スイッチング素子)が電気的に接続され、かかるTFTのスイッチング動作に基づき画像信号に応じた電圧が書き込まれるようになっている。対向電極157は、上記の各画素電極156と共に液晶層155に電圧を印加するものであり、基板152上の略全面に形成されている。この対向電極157は、各画素に共用される共通電極となっており、接地電位等の所定電位に接続される。対向電極157についても、ITO等の透明導電膜により形成することができる。
【0033】
遮光膜158は、各画素の境界を覆い、当該領域における漏れ光を遮断するためのものであり、基板152上に形成されている。この遮光膜158には、低反射の金属材料(例えばクロム)が用いられ、各画素に対応する領域に開口部を有する平面視略格子状に形成されている。
【0034】
<劣化試験方法>
上記構成を具備した劣化試験装置100を用いて、液晶パネル15に対して波長、照射時間等の条件を種々に設定してレーザ光を照射して劣化を生じさせ、並行して当該レーザ光を観察光として用いて透過光をモニタすることにより、被検物である液晶パネル15の耐光性を評価することができる。例えば、レーザ光の照射時間を横軸にとり、液晶パネル15を通過する光の強度(透過率)を縦軸にとったグラフをプロットすることにより、液晶パネルの耐光性の評価が可能である。かかる評価結果から加速係数を算出することにより、液晶パネル15の耐用時間を推定することができる。
【0035】
具体的には、まず図4(b)に示すように、レーザ光出力部11から射出したレーザ光LBをその波長、照射エネルギー又は照射時間のうち少なくとも1つを可変パラメータとして設定して、液晶パネル15の試験対象領域に照射する(第1工程)。試験対象領域は任意に設定可能であり、例えば図示の場合では液晶パネル15の1画素P2に対応する領域を設定している。レーザ光LBを用いて比較的高いエネルギーを液晶パネル15に与えることにより、液晶パネル15の画素P2に含まれる各部材(例えば配向膜や液晶分子等)に劣化が生じる。このとき、液晶パネル15の劣化の度合いは、レーザ光LBの可変パラメータの設定内容によって異なることとなる。本実施形態では、主として、レーザ光LBの照射によって画素P2内の配向膜を変質させ、液晶分子の配向性を局所的に低下させるという態様の劣化を想定する。レーザ光LBを連続波(CW)とすることにより、エネルギーをより効率よく与えることが可能である。
【0036】
次に、図4(c)に示すように、観察光OBを液晶パネル15に照射し、当該液晶パネル15を通過した当該観察光OBの状態を図1に示した第2光量測定部22により検出する(第2工程)。本実施形態では、検出対象とする観察光OBの状態(光学的特性)として光量(光強度)を想定しているが、これに限定されず、偏光状態、分光特性など種々のものが考えられる。すなわち、観察光OBの状態として検出したい内容に応じて観察光OBを出力する光源と、その検出手段を用意すれば、種々の検出対象について測定が可能になる。検出対象(光量、偏光状態、分光特性等)を変更したとしても、液晶パネル15の試験対象領域に劣化が生じていれば、レーザ光LBを照射する前後で異なる光学的特性が検出されるので、液晶パネル15の劣化度合いを観測することができる。
【0037】
ここで、図5は、上記第2工程で、液晶パネル15を透過する観察光OBの光量を検出対象として測定を行う場合の説明図であり、図5(a)は、レーザ光LBを照射する前(劣化しない状態)の液晶パネル15について上記第2工程を実施する場合について示す図であり、図5(b)は、レーザ光LBを照射した後(液晶パネル15を劣化させた後)の液晶パネル15について上記第2工程を実施する場合について示す図である。
【0038】
図5(a)に示すように、液晶パネル15の光入射側及び光射出側には、それぞれ偏光板159、160が配置されている。液晶パネル15に偏光板が設けられていない場合には、偏光板159、160に対応する偏光素子を液晶パネル15の両側にそれぞれ配置する。
偏光板159と偏光板160とは、互いの透過軸が略直交するように配置されており、光入射側の偏光板159の透過軸は、液晶パネル15の基板151側における液晶分子の平均的配向方向(ダイレクタ)と略平行となるように配置されている。また、偏光板160の透過軸は、液晶パネル15の基板152側における前記ダイレクタと略平行となるように配置されている。
【0039】
レーザ光出力部11から出力されて偏光板159に入射した観察光OBは、当該偏光板159の光学的主軸に沿った振動成分のみが通過し、直線偏光となる。この直線偏光となった観察光OBは、液晶層155を透過する際に、液晶層155の旋光作用によりその偏光方向が90度回転されて液晶層155から射出される。その後、観察光OBの偏光方向と平行な透過軸を有する偏光板160を透過し、第2光量測定部22にて光量検出される。
【0040】
一方、図5(b)に示す場合では、図4(c)に示したように、レーザ光LBの照射によって配向膜153,154に劣化を生じているので、画素P2においては配向膜153,154の配向規制力低下に起因する液晶の配向乱れが生じている。そしてこれに伴って入射光に対する偏光変換作用がが低下するため、液晶層155を透過した後の観察光OBの偏光状態は、例えば図示のように楕円偏光となり、図5(a)に示したものと異なった状態となる。そのため、観察光OBのうち偏光板160を透過できる偏光成分が減少し、第2光量測定部22で検出される光量も低下する。
【0041】
このようにして、液晶パネル15にレーザ光LBを照射する前後においてそれぞれ液晶パネル15を透過する観察光OBの光量を検出することができる。なお、図6ではレーザ光出力部11から液晶パネル15に入射させる観察光OBの偏光状態を制御していないが、レーザ光出力部11から射出するレーザ光LB及び観察光OBを、液晶パネル15の光入射側の偏光板159と平行な直線偏光とすることが好ましい。このような構成とすれば、偏光板159においてレーザ光の吸収が生じなくなるので、発熱や光照射による偏光板159の劣化を防止でき、偏光板159に係る劣化因子を測定結果から排除することができる。
【0042】
その後、レーザ光LBの可変パラメータの設定内容に応じた観察光OBの状態の差異に基づいて液晶パネルの耐光性を評価する(第3工程)。例えば、レーザ光LBの照射時間の長短による観察光OBの状態の差異を比較することにより経時劣化を評価できる。また、レーザ光LBの照射エネルギーの大小による観察光OBの状態の差異を比較することにより、光強度に対する耐性を評価できる。
【0043】
以上詳細に説明した試験方法では、液晶パネル15とレーザ装置10との間に光学補正素子26が配設されており、さらに光学補正素子26と液晶パネル15との間にマスク素子16が配設されている本発明に係る劣化試験装置100を用いているので、先の第1工程において液晶パネル15に照射するレーザ光LBについて、光学補正素子26により照度分布を均一化することができ、また必要に応じてマスク素子16により部分的遮光して所望の形状、大きさに成形することができる。これにより、液晶パネル15の試験対象領域のみに正確に前記均一化されたレーザ光LBを照射することができ、図4(b)に示す例についてみると、試験対象の画素P2のみに対して正確に均一な照度分布を有するレーザ光LBを照射することが可能である。したがって、本実施形態の劣化試験装置100を用いた劣化試験では、レーザ光の照度分布の不均一によって画素P2の劣化状態にムラが生じたり、隣接する画素P1、P3まで劣化してしまうのを防止することができる。
【0044】
観察対象である1画素領域内に劣化のムラがあると、劣化度合いを検査するための透過率測定において、測定箇所の僅かなずれにより測定値がばらついてしまう。また、劣化度合いの検査を目視観察により簡易に行う場合には、検査者の見方や個人差により観測結果に差異が生じてしまう。これに対して、本実施形態の劣化試験方法によれば、上記のように観察対象の画素領域を均一に劣化させることができるので、このような誤差が生じるのを効果的に防止することができ、正確な劣化試験を実施することができる。
【0045】
また、本実施形態では、図4(c)に示すように、観察光OBをレーザ光出力部11から出力しており、レーザ光LBを観察光OBとして兼用している。この場合には上記第1工程及び第2工程を並行して行うこともできる。またかかる構成とすれば、観察光OBを出力する光源が不要になり、劣化試験装置100全体でのコンパクト化を図ることができる。
さらに、液晶パネル15の温度を制御する温度制御部が設けられた劣化試験装置を用いるならば、劣化試験中の液晶パネル15の温度を一定に保つことができるので、レーザ光LBによる液晶パネル15の加熱を抑え、熱に起因する劣化因子を排除することができ、光照射による劣化度合いのみを正確に評価することが可能になる。
【0046】
なお、上記実施形態の説明では、液晶パネル15がTN(Twisted Nematic)モードのものである場合について説明したが、被検物としての液晶パネルは、STN(Super Twisted Nematic)モードや、VAN(Vertical Aligned Nematic)モード等の液晶モードのものであってもよく、その駆動形式(アクティブマトリクス型/パッシブマトリクス型)にも限定されない。また液晶パネルは、透過型に限らず、反射型、半透過反射型のものであってもよい。反射型の液晶パネルの劣化試験を行う場合にも、観察光の検出手段の配置を変更するのみで容易に対応できる。
【0047】
また上記実施形態では観察光OBの検出対象として光量(光強度)を採用しているが、これ以外にも偏光状態、分光特性、リタデーションなど種々のものが採用可能であり、検出対象に応じた検出手段を、第2光量測定部22に代えて用いればよい。例えば、偏光状態の変化を検出対象とするのであれば検出手段としてエリプソメータを用いればよく、分光特性を検出対象とするのであれば検出手段として分光測定機を用いればよい。
【0048】
なお、上記実施形態では、被検物が液晶パネルである場合について説明したが、本発明に係る劣化試験装置は、液晶パネル以外のものを被検物とした場合にも、レーザ光照射の前後、ないし加熱処理の前後に渡る光学的特性の変化を観測して被検物の耐光性、耐熱性等を評価することができる。例えば、液晶パネル以外の電気光学装置(有機EL装置等)や、偏光板、位相差板等の光学フィルム、染料や顔料等の色材等を被検物とした劣化加速試験に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の劣化試験装置の概略構成図。
【図2】図1の光学補正素子について2つの構成例を示す図。
【図3】マスク素子の動作説明図。
【図4】液晶パネルの断面構成、及び劣化試験の原理を説明する図。
【図5】液晶パネルの劣化度合いを観測する方法を説明する図。
【符号の説明】
【0050】
100 劣化試験装置、10 レーザ装置(レーザ光源)、11 レーザ光出力部、12 NDフィルタ、13 ミラー、14 集光レンズ、15 液晶パネル(被検物)、16 マスク素子、17 撮像部、18 画像処理部、19 被検物支持部、21 第1光量測定部、22 第2光量測定部、23,24 パワーメータ、LB レーザ光、OB 観察光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物にレーザ光を照射して劣化を生じさせ、当該被検物の劣化試験を行う装置であって、
レーザ光を出力するレーザ光源と前記被検物との間に、前記レーザ光の照度を均一化する光学補正素子が設けられていることを特徴とする劣化試験装置。
【請求項2】
液晶パネルにレーザ光を照射して劣化を生じさせ、当該液晶パネルの劣化試験を行う装置であって、
レーザ光を出力するレーザ光源と前記液晶パネルとの間に、前記液晶パネルの1又は複数の画素領域内で前記レーザ光の照度を均一化する光学補正素子が設けられていることを特徴とする劣化試験装置。
【請求項3】
前記光学補正素子が、フライアイレンズ又はロッドレンズを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の劣化試験装置。
【請求項4】
少なくとも前記液晶パネルの1画素領域の範囲で前記レーザ光を均一化する前記光学補正素子を備えていることを特徴とする請求項2又は3に記載の劣化試験装置。
【請求項5】
前記被検物若しくは前記液晶パネルと、前記光学補正素子との間に、前記レーザ光の一部を遮光するマスク素子が設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の劣化試験装置。
【請求項6】
前記液晶パネルに対する前記レーザ光の照射範囲を1画素領域から複数画素領域の範囲で調整する前記マスク素子を備えていることを特徴とする請求項4に記載の劣化試験装置。
【請求項7】
前記被検物又は前記液晶パネルに照射するレーザ光の光量を測定する第1光量測定部と、前記被検物又は前記液晶パネルに照射した後のレーザ光の光量を測定する第2光量測定部とが設けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の劣化試験装置。
【請求項8】
レーザ光を液晶パネルに対して照射する第1工程と、
観察光を前記液晶パネルに照射し、該液晶パネルに照射した後の観察光の状態を検出する第2工程と、
前記液晶パネルに照射する前後の前記観察光の際に基づき前記液晶パネルの耐光性を評価する第3工程と、
を含み、
前記第1工程において、前記レーザ光の照度分布を前記液晶パネルの1画素又は複数画素に対応する領域内で均一化し、当該均一化したレーザ光を前記液晶パネルの1画素又は複数画素に対して照射することを特徴とする劣化試験方法。
【請求項9】
前記第1工程において、前記液晶パネルに照射するレーザ光のスポット形状を、前記液晶パネルの1画素又は複数画素に対応する略矩形状に成形することを特徴とする請求項8に記載の劣化試験方法。
【請求項10】
前記第1工程において、前記レーザ光の波長、照射エネルギー、及び照射時間の少なくとも1つを可変パラメータとして設定して前記液晶パネルに対する照射を行い、
前記第3工程において、前記可変パラメータに応じた前記観察光の差異に基づき前記液晶パネルの耐光性を評価することを特徴とする請求項8又は9に記載の劣化試験方法。
【請求項11】
前記第1工程において、前記レーザ光の照射により前記液晶パネルに含まれる配向膜の配向性を低下させることを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の劣化試験方法。
【請求項12】
前記液晶パネルに照射する前記レーザ光を、該液晶パネルの光入射側の偏光板の透過軸と略平行の直線偏光とすることを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載の劣化試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−322831(P2006−322831A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146708(P2005−146708)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】