説明

励磁突入電流現象特定方法

【課題】励磁突入電流が測定不能な場合や発生源である変圧器の結線方法が不明な場合にも励磁突入電流現象を特定することである。
【解決手段】電力系統に瞬時電圧低下が発生したとき変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻及び磁気飽和終了時刻を求め、磁気飽和開始時刻と磁気飽和終了時刻との時間幅で変圧器鉄心の端子電圧を積分して磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束との差分を求め、磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束とが等しいときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定する。また、磁気飽和開始時刻と磁気飽和中点時刻とから磁気飽和終了時刻を求め、一方、変圧器鉄心の鎖交磁束が飽和開始磁束と同一の値となった時刻を求め、この時刻と磁気飽和終了時刻との差分が所定範囲内であるときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統に瞬時電圧低下が発生したとき、変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であるかどうかを特定する励磁突入電流現象特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統に瞬時電圧低下が発生すると、機器停止など様々な障害が起こる。例えば、水銀灯が消灯したり、電力を動力源とする大型機器が停止したりする。瞬時電圧低下の原因の1つに、変圧器を電力系統に連系する際に発生する変圧器系統連系時の変圧器鉄心の磁気飽和による励磁突入電流と呼ばれる過電流がある。
【0003】
瞬時電圧低下による障害対策のためには、瞬時電圧低下の原因の特定が基本である。瞬時電圧低下の原因が変圧器の励磁突入電流によるものか否かを特定するには、変圧器の一次側電流波形に第2高調波及び第4高調波が多く含まれているかを判断し、第2高調波及び第4高調波が多く含まれている場合には、励磁突入電流であると判定するようにしている。また、励磁突入電流現象は磁気飽和によることに着目し、変圧器の一次側端子電圧の積分値である鎖交磁束と電流とから、リアクタンス値の低下を検出することにより励磁突入電流現象の特定を行うようにしたものもある。
【0004】
励磁突入電流を判定するものとして、検出電流値の大きさが所定の値以上となった時の積分検出電圧値の大きさに基づいて励磁突入電流の判定を行い、積分検出電圧値の大きさが所定の判定値以上である場合には励磁突入電流検出信号を出力するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−217246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、励磁突入電流として、第2高調波や第4高調波以外の他の高調波が多く含まれるものもあり、一般の過渡現象との識別が困難となり、第2高調波や第4高調波の含有率で励磁突入電流か否かを判定することは難しい。一方、励磁突入電流現象は磁気飽和によることに着目し、電圧の積分値である鎖交磁束と電流とからリアクタンス値の低下を検出し励磁突入電流現象を特定するものでは、電流検出センサーである変流器(CT)の過電流による磁気飽和や測定系のレンジオーバーにより正確な電流値が得られない場合がある。
【0006】
また、瞬時電圧低下の被害を受けている需要家から問い合わせを受け、実際には瞬時電圧低下の影響を受ける需要家での変圧器一次電流や電圧の測定が多く、問題となる励磁突入電流はその需要家では計測されないことが多い。すなわち、励磁突入電流の発生源の変圧器が不明な場合には、励磁突入電流の発生源の変圧器の一次側電流の測定ができないだけでなく、その変圧器の結線方法も未知である。従って、リアクタンス値の低下検出による励磁突入電流現象の判定方法は適用できない。
【0007】
本発明の目的は、励磁突入電流が測定不能な場合にも励磁突入電流現象を特定でき、変圧器の結線方法も特定できる励磁突入電流現象特定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係わる励磁突入電流現象特定方法は、電力系統に瞬時電圧低下が発生したとき変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻及び磁気飽和終了時刻を求め、磁気飽和開始時刻と磁気飽和終了時刻との時間幅で変圧器鉄心の端子電圧を積分して磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束との差分を求め、磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束とが等しいときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明に係わる励磁突入電流現象特定方法は、請求項1の発明において、前記瞬時電圧低下発生前の変圧器一次電流をベース電流とし、前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流と前記ベース電流との差分を変動分電流として求め、前記変動分電流から過渡振動の影響をカットした変動分基本電流を求め、前記変動分基本電流が前記瞬時電圧低下発生後の前記ベース電流の1サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を磁気飽和開始時刻とし、前記磁気飽和開始時刻の後の直近の前記変動分基本電流の零点を磁気飽和終了時刻とし、変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻及び磁気飽和終了時刻を求めることを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明に係わる励磁突入電流現象特定方法は、請求項1の発明において、前記瞬時電圧低下発生前の系統電圧をベース電圧とし、前記瞬時電圧低下発生後の系統電圧と前記ベース電圧との差分を変動分電圧として求め、前記変動分電圧から過渡振動の影響をカットした変動分基本電圧を求め、前記変動分基本電圧が前記瞬時電圧低下発生後の前記ベース電圧の1サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を磁気飽和開始時刻とし、前記磁気飽和開始時刻の後の直近の前記変動分基本電圧の零点を磁気飽和中点時刻とし、前記磁気飽和開始時刻と前記磁気飽和中点時刻とから磁気飽和終了時刻を求めることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明に係わる励磁突入電流現象特定方法は、電力系統に瞬時電圧低下が発生したとき、瞬時電圧低下発生前の系統電圧をベース電圧として前記瞬時電圧低下発生後の系統電圧と前記ベース電圧との差分を変動分電圧として求め、前記変動分電圧から過渡振動の影響をカットした変動分基本電圧を求め、前記変動分基本電圧が前記瞬時電圧低下発生後の前記ベース電圧の1サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を磁気飽和開始時刻とし、前記磁気飽和開始時刻の後の直近の前記変動分基本電圧の零点を磁気飽和中点時刻とし、前記磁気飽和開始時刻と前記磁気飽和中点時刻とから磁気飽和終了時刻を求め、一方、変圧器鉄心の鎖交磁束が飽和開始磁束と同一の値となった時刻を求め、この時刻と磁気飽和終了時刻との差分が所定範囲内であるときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定することを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明に係わる励磁突入電流現象特定方法は、請求項3または4の発明において、前記磁気飽和中点時刻は、前記磁気飽和開始時刻の後の直近の前記変動分基本電圧の零点とすることに代えて、前記変圧器鉄心の飽和領域での前記ベース電流の零点とすることを特徴としたことを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明に係わる励磁突入電流現象特定方法は、電力系統に瞬時電圧低下が発生したとき1サイクルめの変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻及び2サイクルめの変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻を求め、1サイクルめの磁気飽和開始時刻と2サイクルめの磁気飽和開始時刻との時間幅で変圧器鉄心の端子電圧を積分して1サイクルめの磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と2サイクルめの磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束との差分を求め、1サイクルめの磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と2サイクルめの磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束との差分が所定値以下のときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定することを特徴とする。
【0014】
請求項7の発明に係わる励磁突入電流現象特定方法は、請求項6の発明において、前記瞬時電圧低下発生前の系統電圧をベース電圧とし、前記瞬時電圧低下発生後の系統電圧と前記ベース電圧との差分を変動分電圧として求め、前記変動分電圧から過渡振動の影響をカットした変動分基本電圧を求め、前記変動分基本電圧が前記瞬時電圧低下発生後の前記ベース電圧の1サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を1サイクルめの磁気飽和開始時刻とし、前記変動分基本電圧が前記瞬時電圧低下発生後の前記ベース電圧の2サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を2サイクルめの磁気飽和開始時刻とし、1サイクルめの磁気飽和開始時刻と2サイクルめの磁気飽和開始時刻とを求めることを特徴とする。
【0015】
請求項8の発明に係わる励磁突入電流現象特定方法は、請求項1乃至7のいずれか1項の発明において、電力系統に瞬時電圧低下が変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定したときは、さらに、変圧器の1次側結線がΔ結線かY結線かを特定することを特徴とする。
【0016】
請求項9の発明に係わる励磁突入電流現象特定方法は、請求項8の発明において、変圧器の1次側結線がΔ結線かY結線かの特定は、前記瞬時電圧低下発生後の系統電圧と前記瞬時電圧低下発生前の系統電圧であるベース電圧との差分である変動分電圧から過渡振動の影響をカットした変動分基本電圧を求め、変動分基本電圧の三相成分に各相基準のαβ変換を行い各相基準のα相変動分基本電圧及びβ相変動分基本電圧を求め、変圧器鉄心端子電圧の三相成分に各相基準のαβ変換を行い各相基準のα相端子電圧及びβ相端子電圧を求め、変圧器投入後の前記ベース電圧の1サイクルの区間でα相変動分基本電圧及びβ相変動分基本電圧のそれぞれの絶対値最大なる基準相を選び、前記変動分基本電圧が前記瞬時電圧低下発生後の前記ベース電圧の1サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を磁気飽和開始時刻としその前記磁気飽和開始時刻の後の直近の前記変動分基本電圧の零点を磁気飽和中点時刻とし、β相変動分基本電圧が絶対値最大の基準相でのβ相端子電圧の前記磁気飽和中点時刻における絶対値が閾値以下の場合に変圧器の1次側結線はΔ結線と判定し、α相変動分基本電圧が絶対値最大の基準相でのα相端子電圧の前記磁気飽和中点時刻における絶対値が閾値以下の場合に変圧器の1次側結線はY結線と判定することを特徴とする。
【0017】
請求項10の発明に係わる励磁突入電流現象特定方法は、請求項8の発明において、変圧器の1次側結線がΔ結線かY結線かの特定は、前記瞬時電圧低下発生後の系統電圧と前記瞬時電圧低下発生前の系統電圧であるベース電圧との差分である変動分電圧から過渡振動の影響をカットした変動分基本電圧を求め、変動分基本電圧の三相成分に各相基準のαβ変換を行い各相基準のα相変動分基本電圧及びβ相変動分基本電圧を求め、変圧器投入後の前記ベース電圧の1サイクルの区間でα相変動分基本電圧及びβ相変動分基本電圧のそれぞれの絶対値最大なる基準相を選び、前記変動分基本電圧が前記瞬時電圧低下発生後の前記ベース電圧の1サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を磁気飽和開始時刻としその前記磁気飽和開始時刻の後の直近の前記変動分基本電圧の零点を磁気飽和中点時刻とし、α相変動分基本電圧の基準相でのα相変動分基本電圧及びβ相変動分基本電圧を磁気飽和開始時刻と磁気飽和中点時刻との時間幅で積分してα相磁束変動分及びβ相磁束変動分を求め、β相磁束変動分をα相磁束変動分で除算した値が閾値以下であるときは変圧器の1次側結線はY結線であると判定し、β相変動分基本電圧の基準相でのα相変動分基本電圧及びβ相変動分基本電圧を磁気飽和開始時刻と磁気飽和中点時刻との時間幅で積分してα相磁束変動分及びβ相磁束変動分を求め、α相磁束変動分をβ相磁束変動分で除算した値が閾値以下であるときは変圧器の1次側結線はΔ結線であると判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、変圧器鉄心の鎖交磁束は、磁気飽和開始時刻での飽和開始磁束と磁気飽和終了時刻での飽和終了磁束とが等しいことに着目し、磁気飽和開始時刻と磁気飽和終了時刻との時間幅で変圧器鉄心の端子電圧を積分して、磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束との差分を求め、磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束とが等しいときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定するので、励磁突入電流が測定できない場合であっても励磁突入電流による瞬時電圧低下を判別できる。
【0019】
また、系統電圧を用いて磁気飽和中心時刻を推定して磁気飽和終了時刻を推定する場合には、1サイクルで励磁突入電流による瞬時電圧低下を判別できる。また、変圧器鉄心の鎖交磁束が飽和開始磁束と同一の値となった時刻を求め、推定した磁気飽和終了時刻とその鎖交磁束が飽和開始磁束と同一の値となった時刻との差分が所定範囲内であるときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定するので、励磁突入電流が測定できない場合であっても1サイクルで励磁突入電流による瞬時電圧低下を判別できる。
【0020】

また、励磁突入電流が測定できない場合であっても、励磁突入電流による瞬時電圧低下の原因となっている変圧器の1次側結線がΔ結線かY結線かを特定できるので、励磁突入電流の発生源の変圧器が瞬時電圧低下の影響を受ける需要家の変圧器か他の需要家の変圧器かの判定が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明の実施の形態に係わる励磁突入電流現象特定方法の一例を示すフローチャートである。瞬時電圧低下の被害を受けている需要家に接続される電力系統に瞬時電圧低下が発生したか否かを判定する(S1)。これは、瞬時電圧低下の被害を受けている需要家に接続される電力系統に電圧計を設置して電力系統の電圧を監視することにより行う。
【0022】
ここで、変圧器を電力系統に連系したときの変圧器系統連系時に発生する励磁突入電流は、変圧器鉄心の磁気飽和時に発生し電力系統に瞬時電圧低下を発生させる。従って、電圧変動時に磁気飽和が発生していれば、励磁突入電流現象であることが分る。
【0023】
ただし、磁気飽和に関しては、次の2つ飽和開始磁束Φ、残留磁束Φが未知の問題がある。このため、磁気飽和開始時刻T、磁気飽和終了時刻Tで鉄心の鎖交磁束Φ(t)に、(1)式の関係が成立することに着目した。
【数1】

【0024】
上記の(1)式を変形すれば(2)式となり飽和開始磁束Φの値を知る必要がなくなる。
【数2】

【0025】
また、電磁誘導則より、鉄心の鎖交磁束Φ(t)は変圧器鉄心の端子電圧v(t)の積分で与えられので、(2)式は(3)式のように定積分となり、初期値に相当する残留磁束Φは不要となる。
【数3】

【0026】
ただし、変圧器鉄心の端子電圧v(t)は各鉄心脚の1次巻線の端子電圧なので、変圧器の1次側結線がΔ結線では線間電圧であり、変圧器の1次側結線がY結線では相電圧である。
【0027】
以上のことから、ステップS2では、電力系統に瞬時電圧低下が発生した場合には、磁気飽和開始時刻T及び磁気飽和終了時刻Tを特定する(S2)。そして、ステップS3において、(3)式に示すように、磁気飽和開始時刻Tsと磁気飽和終了時刻Tとの時間幅で変圧器鉄心の端子電圧v(t)を積分して、磁気飽和開始時刻Tsの変圧器鉄心の鎖交磁束(飽和開始磁束Φ)と磁気飽和終了時刻Tの変圧器鉄心の鎖交磁束との差分を求める(S3)。
【0028】
そして、ステップS3で求めた差分の絶対値が所定値以下であるかどうかを判定する(S4)。磁気飽和開始時刻Tの変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻Tの変圧器鉄心の鎖交磁束とは等しいので、通常は、ステップS3で求めた差分が零であるかどうかを判定することになるが、誤差分を見込んで、差分の絶対値が所定値以下であるかどうかで判定する。ステップS3で求めた差分の絶対値が所定値以下であるときは、変圧器の励磁突入電流現象であると判定し、変圧器の励磁突入電流現象による瞬時電圧低下であると判定する(S5)。
【0029】
次に、ステップS2での磁気飽和開始時刻Ts及び磁気飽和終了時刻Tの推定について説明する。図2は励磁突入電流を用いて磁気飽和開始時刻T及び磁気飽和終了時刻Tを推定する場合の一例を示すフローチャートである。以下の説明では、変圧器1次側はΔ結線でありVW相が飽和した場合を例に取り説明する。
【0030】
励磁特入電流を発生させている変圧器について、予め過去の電流測定データにより磁気飽和開始時刻T及び磁気飽和終了時刻Tを推定する。励磁特入電流を発生している変圧器の電流i(t)の測定データを用意する(S11)。
【0031】
図3は励磁突入電流i(t)の測定波形の一例を示す波形図であり、図3(a)は三相電流のうちのU相電流i、図3(b)はV相電流i、図3(c)はW相電流iである。図3に示すように、時点t(t=0)で変圧器を投入したとすると、時点t(t=0)の直後で1.2kHz程度の高次過渡振動が発生し、磁気飽和開始時刻Tの推定が煩雑なことが分かる、また、変圧器を投入後の電流には、変圧器の投入前の電流も混在するので励磁突入電流を精度よく得るに変圧器の投入前の電流の分離が必要である。
【0032】
そこで、(4)式に定義される投入直前の電流1サイクル分をベース電流iとして導入する。ただし、fは商用周波数の50Hzである。
【数4】

【0033】
このベース電流iを用い、例えば、変圧器の投入直後の1サイクルめの変動分電流Δi(t)を(5)式から求める(S12)。2サイクルめ以降も同様に変動分電流iとの差より変動分電流を求める。
【数5】

【0034】
さらに、変動分電流Δi(t)に低域フィルタを適用し、過渡振動除去を行った変動分基本電流ΔI(t)を求める(S13)。
【0035】
図4はW相の変動分電流Δi(t)と変動分基本電流ΔI(t)との波形の一例を示す波形図である。図4中の点線は変動分電流Δi(t)であり、実線は変動分基本電流ΔI(t)である。図4から分かるように、磁気飽和開始時刻T及び磁気飽和終了時刻Tは、変動分基本電流ΔI(t)の零点とほぼ一致することが分かる。すなわち、磁気飽和開始時刻Tは、変動分基本電流ΔI(t)が瞬時電圧低下発生後のベース電流の1サイクルの間(t=0〜t=20ms)の零点のうちマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点であり、磁気飽和終了時刻Tは磁気飽和開始時刻Tの後の直近の変動分基本電流ΔI(t)の零点であることが分かる。
【0036】
そこで、変動分基本電流ΔI(t)が瞬時電圧低下発生後のベース電流の1サイクルの間(t=0〜t=20ms)の零点のうちマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を磁気飽和開始時刻Tとし(S14)、磁気飽和開始時刻Tの後の直近の変動分基本電流ΔI(t)の零点を磁気飽和終了時刻Tとする(S15)。
【0037】
図5は変動分基本電流ΔI(t)と変圧器鉄心の鎖交磁束Φ(t)との波形の一例を示す波形図である。いま、変圧器1次側はΔ結線でVW相が飽和しているとすると、変圧器の投入時の磁束は零であるので、飽和相の鎖交磁束Φvwは(6)式から求められる。
【数6】

【0038】
図5に示すように、飽和相の鎖交磁束Φvwは磁気飽和開始時刻Tで磁気飽和の影響を受け始め、磁気飽和終了時刻Tで磁気飽和の影響から解放される特性を示す。そして、磁気飽和開始時刻Ts1の鎖交磁束Φvw(Ts1)と、磁気飽和終了時刻Tとで鉄心の鎖交磁束Φvw(Te1)が等しいことが分かり、励磁突入電流現象の条件式である(3)式が満足されることが分かる。変圧器の投入後の2サイクルめの飽和開始磁束Φvw(Ts2)も1サイクルめの磁気飽和開始時刻Ts1の鎖交磁束Φvw(Ts1)と同一値であることも分かる。これにより、変動分基本電流ΔI(t)の零点で決まる磁気飽和開始時刻Tと磁気飽和終了時刻Tとで変圧器鉄心の鎖交磁束Φ(t)が等しくなることを確認できる。
【0039】
以上の説明では、ステップS2での磁気飽和開始時刻T及び磁気飽和終了時刻Tの推定は、励磁突入電流を用いて推定するようにしたが、励磁突入電流の発生源の変圧器が不明な場合には、突入電流測定ができず磁気飽和開始時刻T及び磁気飽和終了時刻Tの推定ができない。そこで、励磁突入電流による線路での電圧降下に着目し、系統電圧のみで推定する場合について説明する。
【0040】
図6は系統電圧を用いて磁気飽和開始時刻T及び磁気飽和終了時刻Tを推定する場合の一例を示すフローチャートである。瞬時電圧低下の被害を受けている需要家に接続される電力系統の系統電圧v(t)を検出する(S21)。そして、電流i(t)の場合と同様にベース電圧vb1(t)を用い、系統電圧v(t)とベース電圧v(t)との差分を変動分電圧Δv(t)として求め(S22)、変動分電圧Δv(t)に低域フィルタを適用して過渡振動分を除去し変動分基本電圧ΔV(t)を求める(S23)。
【0041】
図7は変動分基本電圧ΔVの波形を変動分基本電流ΔIの波形と比較して示した一例の波形図である。図7では変圧器1次側はΔ結線でありVW相が飽和した場合の波形を一例として示している。
【0042】
図7から分かるように、変動分基本電圧ΔVvw(t)は変動分基本電流ΔI(t)と同様に、磁気飽和開始時刻Tでは零点となっているが、磁気飽和終了時刻Tでは明確な特徴が見られない。これは電力系統の線路がRL回路で、変動分基本電流ΔI(t)と変動分基本電圧ΔVvw(t)とで位相差が生じるためと推定される。
【0043】
そこで、変圧器鉄心の飽和領域でのベース電圧vb,vwの零点が飽和領域中央の近傍であることに着目した。図8に示すように、変動分基本電流ΔIは変圧器鉄心の飽和領域を表わし、系統電圧vvw(t)は変圧器鉄心の飽和領域中央で零近傍の値を示し、ベース電圧vb,vwは、変圧器鉄心の飽和領域中央の近傍で零点である。
【0044】
ベース電圧vb,vwが変圧器鉄心の飽和領域中央の近傍で零点となるのは、次のよう推定される。励磁突入電流が無ければベース電圧vb,vw(t)=0の時刻T’において、鉄心の鎖交磁束Φvwは最大量鎖交磁束Φvw,maxとなる。そこで、磁気飽和時にも時刻T’の近傍が最大量鎖交磁束Φvw,maxとなると推定される。最大量鎖交磁束Φvw,maxは、ほぼ変圧器鉄心の飽和領域の中央の変動分基本電流ΔIの最大時と近接している。この性質は非飽和時の最大量鎖交磁束Φvw,maxでも成立すると考えられ、ベース電圧vb,vwの飽和領域零点が変圧器鉄心の領域中央の近傍になると考えられる。
【0045】
これより、時刻T’を磁気飽和中点時刻Tとする。また、変動分基本電圧ΔVとベース電圧vb,vwの零点は近接するので、変動分基本電圧ΔVの零点を磁気飽和中点時刻Tとして代用できる。そして、磁気飽和開始時刻T及び磁気飽和中点時刻Tから、(7)式により磁気飽和終了時刻Tの近似値Te,bを求める。
【数7】

【0046】
以上のことから、変動分基本電圧ΔV(t)がマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を磁気飽和開始時刻Tとする(S24)。一方、磁気飽和開始時刻Tの後の変動分基本電圧ΔV(t)の零点、または変圧器鉄心の飽和領域でのベース電圧vb,vwの零点T’を磁気飽和中点時刻Tとし(S25)、磁気飽和開始時刻Tと磁気飽和中点時刻Tとから(7)式により磁気飽和終了時刻Tを求める(S26)。
【0047】
また、(7)式に代えて、図9に示すように、磁気飽和開始時刻T以降において、変圧器鉄心の鎖交磁束Φ(t)が飽和開始磁束Φ(T)と同一の値となった時刻Te,Φを磁気飽和終了時刻Tとしてもよい。この場合、(7)式で求めた時刻Te,bと時刻Te,Φとの差が許容誤差内にあるときに励磁突入電流が原因と推定できる。
【0048】
図10は本発明の実施の形態に係わる励磁突入電流現象特定方法の他の一例を示すフローチャートである。図1に示した一例ではベース電流i(t)やベース電圧v(t)の1サイクルで励磁突入電流現象を判定するようにしたが、図10の一例では、ベース電圧v(t)の2サイクルで励磁突入電流現象を判定するようにしたものである。
【0049】
図5に示すように、変圧器の投入後の2サイクルめの飽和開始磁束Φvw(Ts2)は、1サイクルめの磁気飽和開始時刻Ts1の鎖交磁束Φvw(Ts1)と同一値であることに着目し、(8)式の関係により励磁突入電流現象現象と特定する。
【数8】

【0050】
ここで、磁気飽和開始時刻Tの添え字1、2は変圧器の投入後のサイクル数を示す。
【0051】
図10において、電力系統に瞬時電圧低下が発生したか否かを判定し(S31)、電力系統に瞬時電圧低下が発生しているときは、1サイクルめの変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻Ts1及び2サイクルめの変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻Ts2を求める(S32)。そして、1サイクルめの磁気飽和開始時刻Ts1と2サイクルめの磁気飽和開始時刻Ts2との時間幅で変圧器鉄心の端子電圧v(t)を積分して1サイクルめの磁気飽和開始時刻Ts1の変圧器鉄心の鎖交磁束Φ(Ts1)と2サイクルめの磁気飽和開始時刻Ts2の変圧器鉄心の鎖交磁束Φ(Ts2)との差分を求め(S33)、1サイクルめの磁気飽和開始時刻Ts1の変圧器鉄心の鎖交磁束Φ(Ts1)と2サイクルめの磁気飽和開始時刻Ts2の変圧器鉄心の鎖交磁束Φ(Ts2)との差分の絶対値が所定値以下かどうかを判定する(S34)。
【0052】
1サイクルめの磁気飽和開始時刻Ts1の変圧器鉄心の鎖交磁束Φ(Ts1)と2サイクルめの磁気飽和開始時刻Ts2の変圧器鉄心の鎖交磁束Φ(Ts1)とは等しいので、通常は、ステップS33で求めた差分が零であるかどうかを判定することになるが、誤差分を見込んで、差分の絶対値が所定値以下であるかどうかで判定する。ステップS33で求めた差分の絶対値が所定値以下であるときは、変圧器の励磁突入電流現象であると判定し、変圧器の励磁突入電流現象による瞬時電圧低下であると判定する(S35)。
【0053】
図11は系統電圧を用いて1サイクルめの磁気飽和開始時刻Ts1及び1サイクルめの磁気飽和開始時刻Ts2を推定する場合の一例を示すフローチャートである。瞬時電圧低下の被害を受けている需要家に接続される電力系統の系統電圧v(t)を検出する(S41)。そして、ベース電圧v(t)を用い、系統電圧v(t)とベース電圧v(t)との差分を変動分電圧Δv(t)として求め(S42)、変動分電圧Δv(t)に低域フィルタを適用して過渡振動分を除去し変動分基本電圧ΔV(t)を求める(S43)。そして、変動分基本電圧ΔV(t)が瞬時電圧低下発生後のベース電圧v(t)の1サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を1サイクルめの磁気飽和開始時刻Ts1とし(S44)、変動分基本電圧ΔV(t)が瞬時電圧低下発生後のベース電圧v(t)の2サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を2サイクルめの磁気飽和開始時刻Ts2とする(S45)。なお、この場合には、変圧器の投入後のベース電圧v(t)の2サイクル分の測定データが必要となる。
【0054】
次に、励磁突入電流を発生した変圧器の1次側の結線法の特定について説明する。実際には、瞬時電圧低下の影響を受ける需要家での電圧測定が多く、その場合、励磁突入電流の発生源の変圧器の結線法は未知となる。そこで、励磁突入電流の発生源の変圧器が瞬時電圧低下の影響を受ける需要家の変圧器か他の需要家の変圧器かの判定するためにも、励磁突入電流の発生源の変圧器の結線法の特定が必須となる。以下に、励磁突入電流の発生源の変圧器1次側結線法の特定方法について述べる。
【0055】
図12は、変圧器1次側がΔ結線で飽和相がVW相である場合の変圧器の端子電圧vvw、変動分基本電圧ΔVvw、鎖交磁束Φvwの波形を示す波形図である。図12から分かるように、磁気飽和開始時刻Tより磁気飽和が始まり、変圧器鉄心の鎖交磁束Φvw値は抑制され、変圧器鉄心の端子電圧vvwは急激に零電圧に近づく。変圧器鉄心の端子電圧vvwは多少オーバーシュートする場合もある。この傾向は電圧基本成分ΔVvwでの零点T(鎖交磁束最大時刻T)でも続くので、時刻t=Tで変圧器の端子電圧vvwが閾値以下ならば変圧器1次側の結線法はΔ結線であることが分かる。
【0056】
ここで、飽和相の判別の仕方及び閾値の定め方に対応するために、αβ変換を適用する。(9)式に示すように、三相の変動分基本電圧ΔV、ΔV、ΔVに対してαβ変換を行い、各相基準(U相基準、V相基準、W相基準)のα相変動分基本電圧ΔVα及びβ相変動分基本電圧ΔVβを求める。
【数9】

【0057】
この一例の場合は、変圧器1次側がΔ結線で飽和相がVW相であるので、電流iはV相とW相との間を流れる。従って、VW相短絡(U相基準)と同様に変動分基本電圧ΔV、ΔV、ΔVの条件は以下の(10)式のように定められる。
【数10】

【0058】
(9)式及び(10)式より、次の関係が得られる。
【数11】

【0059】
この(11)式より、各相基準(U相基準、V相基準、W相基準)のβ相変動分基本電圧ΔVβ,u、ΔVβ,v、ΔVβ,wのうち、絶対値が最も大きいβ相変動分基本電圧|ΔVβ,max|を選択する。絶対値最大のβ相変動分基本電圧|ΔVβ,max|(最大量が重要なので以下の説明では絶対値記号を略す)は、U相基準のΔVβ,u(=2/√3)である。β相変動分基本電圧ΔVβ,maxがU相基準なのでVW相が飽和相であることが分かる。
【0060】
さらに、各相基準(U相基準、V相基準、W相基準)のα相変動分基本電圧ΔVα,u、ΔVα,v、ΔVα,wのうち、絶対値が最も大きいα相変動分基本電圧ΔVα,maxを選択する。絶対値最大のα相変動分基本電圧ΔVα,maxは、V相基準のΔVα,v(=1)またはW相基準のΔVα,w(=1)である。いま、W相基準のΔVα,w(=1)を絶対値最大のα相変動分基本電圧ΔVα,maxとして選択する。
【0061】
そして、(12)式に示すように、絶対値最大のβ相変動分基本電圧ΔVβ,maxと絶対値最大のα相変動分基本電圧ΔVα,maxとの比較を行う。
【数12】

【0062】
(12)式が成立するときは変圧器の結線法はΔ結線であることが分かる。この場合、ΔVβ,max(=2/√3)、ΔVα,max(=1)であり、大小比較の基準の差は15%程度である。実用上はノイズなどの影響があるので、大小比較の基準の差の定量的な余裕が必要となる。
【0063】
同様に、三相の変圧器の端子電圧v(t)についてもαβ変換を行う。そこで、図13に示すように、絶対値最大のβ相変動分基本電圧ΔVβ,maxに対応するβ相端子電圧vβ,u(添え字uは基準相)に着目する。図13は変圧器の結線法がΔ結線である場合のβ相の変動分基本電圧ΔVβ及び変圧器の端子電圧vβ,uの波形図であり、図14は変圧器の結線法がΔ結線である場合のα相の変動分基本電圧ΔVα及び変圧器の端子電圧vα,wの波形図である。
【0064】
図13に示すように、β相端子電圧vβ,uは磁気飽和中点時刻(変動分基本電圧ΔVの零点)Tで零近傍である。これに対し、α相変動分基本電圧ΔVα,maxに対するα相端子電圧vα,wは、図14に示すように磁気飽和中点時刻(変動分基本電圧ΔVの零点)Tで電圧ピーク値の約1/2である。
【0065】
これは、変動分基本電圧ΔVは突入電流の影響のみを受ける量なのでα、β相の磁気飽和中点時刻(変動分基本電圧ΔVの零点)Tは同一であり、変圧器の端子電圧vは相により同一時刻でも値が異なるからである。
【0066】
図15は三相平衡時の変圧器端子電圧v、v、vのα,β相端子電圧の基準相がU相、W相である場合のベクトル図であり、図15(a)は三相平衡時の変圧器端子電圧v、v、vのベクトル図、図15(b)はα,β相端子電圧の基準相がU相、W相である場合のベクトル図である。
【0067】
図15(b)に示すように、W相基準のα相端子電圧vα,wは、U相基準のβ相端子電圧vβ,uに対し150°(5π/6)だけ遅れている。従って、U相基準のβ相端子電圧vβ,uがほぼ零(vβ,u≒0)であるときの磁気飽和中点時刻(変動分基本電圧ΔVの零点)Tでは(13)式が成り立つ。
【数13】

【0068】
(13)式より、W相基準のα相端子電圧vα,w(T)が電圧ピーク値Vの約1/2の一般性が分かる。これにより、余裕は15%から50%と大きくなり実用性が向上する。
【0069】
次に、Y結線の場合について説明する。図16は変圧器の結線法がY結線でW相が飽和である場合のαβ変換した変動分基本電圧ΔV及び変圧器の端子電圧vの波形を示す波形図であり、図16(a)はβ相の変動分基本電圧ΔVβ及び変圧器の端子電圧vβ,uの波形図、図16(b)はα相の変動分基本電圧ΔVα及び変圧器の端子電圧vα,wの波形図である。
【0070】
変圧器の結線法がΔ結線である場合の図13及び図14と、図16(a)及び図16(b)とを比較すると、α相とβ相との交換だけのことが分かる。これは例示のケースでは、電流iはW相に流入しU,V相から流出するので、変動分基本電圧ΔV、ΔV、ΔVの条件は以下の(14)式のようになる。
【数14】

【0071】
この(14)式と(9)式とから、次の(15)式に示す関係が得られる。
【数15】

【0072】
(15)式より、最大変動は飽和相であるW相の変動分基本電圧ΔVであるので、絶対値最大のα相変動分基本電圧ΔVα,maxは当然にW相基準のα相変動分基本電圧Vα,wとなる。一方、絶対値最大のβ相変動分基本電圧ΔVβ,maxは、W相の変動分基本電圧ΔVを含むU相基準のβ相変動分基本電圧ΔVβ,uかV相基準のβ相変動分基本電圧ΔVβ,vとなるが、ここでの一例はU相であり、図10のベクトル図から、U相基準のβ相端子電圧vβ,uがW相基準のα相端子電圧vα,wに対し150°進みなのでΔ結線の関係の(13)式と同様に次の(16)式が成立する。
【数16】

【0073】
(16)式より、U相基準のβ相端子電圧vβ,u(T)が電圧ピーク値Vの約1/2の一般性が分かる。これにより、Y結線の場合もΔ結線の場合と同様に、余裕は15%から50%と大きくなり実用性が向上する。
【0074】
図17は、励磁突入電流の発生源の変圧器1次側結線法の特定方法の一例を示すフローチャートである。三相の変動分基本電圧ΔV、ΔV、ΔVを求める(S51)。三相の変動分基本電圧ΔV、ΔV、ΔVは、前述したように、瞬時電圧低下発生後の三相の系統電圧vと瞬時電圧低下発生前の系統電圧である三相のベース電圧vとの差分である変動分電圧Δvから低域フィルタを適用して過渡振動の影響をカットして求められる。
【0075】
三相の変動分基本電圧ΔV、ΔV、ΔVの三相成分に対して、(9)式により各相基準のαβ変換を行い、各相基準(U相基準、V相基準、W相基準)のα相変動分基本電圧ΔVα,u、ΔVα,v、ΔVα,w及びβ相変動分基本電圧ΔVβ,u、ΔVβ,v、ΔVβ,wを求める(S52)。
【0076】
同様に、三相の変圧器鉄心の端子電圧v、v、vの三相成分に対して、(9)式により各相基準のαβ変換を行い、各相基準(U相基準、V相基準、W相基準)のα相端子電圧vα,u、vα,v、vα,w及びβ相変動分基本電圧vβ,u、vβ,v、vβ,wを求める(S53)。
【0077】
そして、変圧器投入後のベース電圧vの1サイクルの区間でα相変動分基本電圧ΔVα及びβ相変動分基本電圧ΔVβのそれぞれの絶対値最大なる基準相を選び出す(S54)。
【0078】
一方、変動分基本電圧ΔVが瞬時電圧低下発生後のベース電圧vの1サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を磁気飽和開始時刻Tとし、その磁気飽和開始時刻Tの後の直近の変動分基本電圧ΔVの零点を磁気飽和中点時刻Tとする(S55)。
【0079】
そして、絶対値最大のβ相変動分基本電圧ΔVβ(例えばβ相変動分基本電圧ΔVβ,u)が基準相である場合のβ相端子電圧vβ,uの磁気飽和中点時刻Tにおける絶対値vβ,u(T)が閾値以下か否かを判定する(S56)。これは、図13におけるβ相端子電圧vβ,u(T)が零近傍であるかどうかを判定することに相当する。β相端子電圧vβ,u(T)が閾値以下である場合には、変圧器の結線はΔ結線であると判定する(S57)。
【0080】
一方、ステップS56の判定で、β相端子電圧vβ,u(T)が閾値以下でない場合には、絶対値最大のα相変動分基本電圧ΔVα(例えばα相変動分基本電圧ΔVα,w)が基準相である場合のα相端子電圧vα,wの磁気飽和中点時刻Tにおける絶対値vα,w(T)が閾値以下か否かを判定する(S58)。これは、図16(b)におけるα相端子電圧vα,w(T)が零近傍であるかどうかを判定することに相当する。α相端子電圧vα,w(T)が閾値以下である場合には、変圧器の結線はY結線であると判定する(S59)。
【0081】
以上の説明では、変圧器の結線法の特定として、三相の変動分基本電圧ΔVをαβ変換して、絶対値最大のα相変動分基本電圧ΔVα及びβ相変動分基本電圧ΔVβを求め、それらに対応するα相端子電圧vα,w、β相端子電圧vβ,uの磁気飽和中点時刻Tにおける値vα,w(T)、vβ,u(T)に基づいて、Δ結線法であるかY結線法であるかと判定したが、別指標として、(11)式のβ相変動分基本電圧ΔVβ,maxのU相基準で、α相変動分基本電圧ΔVα,u(=0)に着目し、ノイズ誤差の緩和を積分形で行うことを考慮し、指標γを次の(17)式で定義することも可能である。
【数17】

【0082】
指標γβが閾値以下ならばΔ結線、逆に指標γαが閾値以下ならばY結線と推定する。ちなみに、ここまでの一例より、図18に示す絶対値最大のα相変動分基本電圧ΔVα,maxと絶対値最大のβ相変動分基本電圧ΔVβ,maxとの相を基準として求めた指標γ値を表1に比較表示する。
【表1】

【0083】
図19は、(17)式で定義される指標を用いて励磁突入電流の発生源の変圧器1次側結線法を特定する一例を示すフローチャートである。三相の変動分基本電圧ΔV、ΔV、ΔVを求める(S61)。三相の変動分基本電圧ΔV、ΔV、ΔVは、前述したように、瞬時電圧低下発生後の三相の系統電圧vと瞬時電圧低下発生前の系統電圧である三相のベース電圧vとの差分である変動分電圧Δvから低域フィルタを適用して過渡振動の影響をカットして求められる。三相の変動分基本電圧ΔV、ΔV、ΔVの三相成分に対して、(9)式により各相基準のαβ変換を行い、各相基準(U相基準、V相基準、W相基準)のα相変動分基本電圧ΔVα,u、ΔVα,v、ΔVα,w及びβ相変動分基本電圧ΔVβ,u、ΔVβ,v、ΔVβ,wを求める(S62)。
【0084】
そして、変圧器投入後のベース電圧vの1サイクルの区間でα相変動分基本電圧ΔVα及びβ相変動分基本電圧ΔVβのそれぞれの絶対値最大なる基準相を選び出す(S63)。一方、変動分基本電圧ΔVが瞬時電圧低下発生後のベース電圧vの1サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を磁気飽和開始時刻Tとし、その磁気飽和開始時刻Tの後の直近の変動分基本電圧ΔVの零点を磁気飽和中点時刻Tとして、磁気飽和開始時刻T及び磁気飽和中点時刻Tを求める(S64)。
【0085】
次に、α相変動分基本電圧ΔVαの基準相でのα相変動分基本電圧ΔVα及びβ相変動分基本電圧ΔVβを磁気飽和開始時刻Tと磁気飽和中点時刻Tとの時間幅で積分してα相磁束変動分ΔΦα及びβ相磁束変動分ΔΦβを求める(S65)。β相磁束変動分ΔΦβをα相磁束変動分ΔΦαで除算した値が閾値ε1以下であるかどうかを判定し(S66)、閾値ε1以下であるときは変圧器の1次側結線はY結線であると判定する(S67)。
【0086】
一方、ステップS66の判定で閾値ε1以下でないときは、β相変動分基本電圧ΔVβの基準相でのα相変動分基本電圧ΔVα及びβ相変動分基本電圧ΔVβを磁気飽和開始時刻Tと磁気飽和中点時刻Tとの時間幅で積分してα相磁束変動分ΔΦα及びβ相磁束変動分ΔΦβを求める(S68)。α相磁束変動分ΔΦαをβ相磁束変動分ΔΦβで除算した値が閾値ε2以下であるかどうかを判定し(S69)、閾値ε2以下であるときは変圧器の1次側結線はΔ結線であると判定する(S70)。
【0087】
本発明の実施の形態によれば、変圧器鉄心の鎖交磁束Φ(t)は、磁気飽和開始時刻Tでの飽和開始磁束と磁気飽和終了時刻Tでの飽和終了磁束とが等しいことに着目し、磁気飽和開始時刻Tと磁気飽和終了時刻Tとの時間幅で変圧器鉄心の端子電圧v(t)を積分して、磁気飽和開始時刻Tの変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻Tの変圧器鉄心の鎖交磁束との差分を求め、その差分が所定値以下のときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定するので、励磁突入電流が測定できない場合であっても励磁突入電流による瞬時電圧低下を判別できる。
【0088】
瞬時電圧低下発生直前の電圧の1サイクル分であるベース電圧と、瞬時電圧低下発生後の電圧との差を用い、さらに、低域フィルタにより変圧器投入による過渡振動の影響をカットした変動分基本電圧を求め、1サイクルめの変動分基本電圧の零の時刻を磁気飽和開始時刻とし、そのときの鎖交磁束と次の2サイクルめの磁気飽和開始時刻での鎖交磁束の値が等しい場合に瞬時電圧低下発生原因が励磁突入電流であると判定するので、励磁突入電流が測定できない場合であっても励磁突入電流による瞬時電圧低下を判別できる。
【0089】
また、1サイクル分の電圧測定データのみで励磁突入電流による瞬時電圧低下を見分ける方法として、ベース電圧と飽和領域との零クロス時刻Tが飽和領域の中央付近なので、T≒T +2(T−T)と近似し、一方、鎖交磁束Φ(Ts)と同一なΦの値の時刻もTと考えられるので、この2つのT値の差が許容誤差内にあるときに、励磁突入電流が原因と判別することができる。
【0090】
さらに、励磁突入電流現象が発生した変圧器の1次側結線(Δ巻線、Y巻線)により、現象の様相が異なるため、1次側結線を特定するために、まず,三相成分に各相基準のαβ変換を行い3種類のΔVα,ΔVβを求め、同様にして系統電圧vもαβ変換して3種の電圧vα,vβを求め、次いで、投入後1サイクルの区間でα相変動分基本電圧ΔVα、β相変動分基本電圧ΔVβのそれぞれのΔV極値の絶対値で最大となる基準相を選び、例えばΔVβの絶対値最大の基準相でのΔVβ,vβを用い、vβ(T) の絶対値が閾値以下の場合にΔ結線とし、他方、ΔVαの絶対値最大の基準相でvα(T)の絶対値が閾値以下の場合にY結線とするので、励磁突入電流の発生源の変圧器が瞬時電圧低下の影響を受ける需要家の変圧器か他の需要家の変圧器かの判定が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施の形態に係わる励磁突入電流現象特定方法の一例を示すフローチャート。
【図2】本発明の実施の形態に係わる励磁突入電流現象特定方法の一例で、励磁突入電流を用いて磁気飽和開始時刻及び磁気飽和終了時刻を推定する場合の一例を示すフローチャート。
【図3】励磁突入電流の測定波形の一例を示す波形図。
【図4】励磁突入電流のW相の変動分電流と変動分基本電流との波形の一例を示す波形図。
【図5】励磁突入電流の変動分基本電流と変圧器鉄心の鎖交磁束との波形の一例を示す波形図。
【図6】本発明の実施の形態に係わる励磁突入電流現象特定方法の一例で、系統電圧を用いて磁気飽和開始時刻及び磁気飽和終了時刻を推定する場合の一例を示すフローチャート。
【図7】励磁突入電流の変動分基本電圧の波形を変動分基本電流の波形と比較して示した一例の波形図。
【図8】変圧器鉄心の飽和領域でのベース電圧と励磁突入電流の変動分基本電流と端子電圧との波形の一例を示す波形図。
【図9】励磁突入電流の変動分基本電圧の波形を変圧器鉄心の鎖交磁束の波形と比較して示した一例の波形図。
【図10】本発明の実施の形態に係わる励磁突入電流現象特定方法の他の一例を示すフローチャート。
【図11】本発明の実施の形態に係わる励磁突入電流現象特定方法の他の一例で、系統電圧を用いて1サイクルめの磁気飽和開始時刻及び1サイクルめの磁気飽和開始時刻を推定する場合の一例を示すフローチャート。
【図12】変圧器1次側がΔ結線で飽和相がVW相である場合の変圧器の端子電圧、変動分基本電圧、鎖交磁束の波形を示す波形図。
【図13】変圧器の結線法がΔ結線である場合のβ相の変動分基本電圧及び変圧器の端子電圧の波形図。
【図14】変圧器の結線法がΔ結線である場合のα相の変動分基本電圧及び変圧器の端子電圧の波形図。
【図15】三相平衡時の変圧器端子電圧のα,β相端子電圧の基準相がU相、W相である場合のベクトル図。
【図16】変圧器の結線法がY結線でW相が飽和である場合のαβ変換した変動分基本電圧及び変圧器の端子電圧の波形を示す波形図。
【図17】励磁突入電流の発生源の変圧器1次側結線法の特定方法の一例を示すフローチャート。
【図18】絶対値最大のα相変動分基本電圧と絶対値最大のβ相変動分基本電圧との相を基準として求めた波形図。
【図19】(17)式で定義される指標を用いて励磁突入電流の発生源の変圧器1次側結線法を特定する一例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0092】
…磁気飽和開始時刻、T…磁気飽和終了時刻、f…商用周波数、Φs…飽和開始磁束、v(t)…電圧、Φ(t)…鎖交磁束、i…ベース電流、Δi…変動分電流、ΔI…変動分基本電流、v…ベース電圧、Δv…変動分電圧、ΔV変動分基本電圧、T…磁気飽和中点時刻、ΔVα…α相変動分基本電圧、ΔVβ…β相変動分基本電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に瞬時電圧低下が発生したとき変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻及び磁気飽和終了時刻を求め、磁気飽和開始時刻と磁気飽和終了時刻との時間幅で変圧器鉄心の端子電圧を積分して磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束との差分を求め、磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と磁気飽和終了時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束とが等しいときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定することを特徴とする励磁突入電流現象特定方法。
【請求項2】
前記瞬時電圧低下発生前の変圧器一次電流をベース電流とし、前記瞬時電圧低下発生後の変圧器一次電流と前記ベース電流との差分を変動分電流として求め、前記変動分電流から過渡振動の影響をカットした変動分基本電流を求め、前記変動分基本電流が前記瞬時電圧低下発生後の前記ベース電流の1サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を磁気飽和開始時刻とし、前記磁気飽和開始時刻の後の直近の前記変動分基本電流の零点を磁気飽和終了時刻とし、変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻及び磁気飽和終了時刻を求めることを特徴とする請求項1記載の励磁突入電流現象特定方法。
【請求項3】
前記瞬時電圧低下発生前の系統電圧をベース電圧とし、前記瞬時電圧低下発生後の系統電圧と前記ベース電圧との差分を変動分電圧として求め、前記変動分電圧から過渡振動の影響をカットした変動分基本電圧を求め、前記変動分基本電圧が前記瞬時電圧低下発生後の前記ベース電圧の1サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を磁気飽和開始時刻とし、前記磁気飽和開始時刻の後の直近の前記変動分基本電圧の零点を磁気飽和中点時刻とし、前記磁気飽和開始時刻と前記磁気飽和中点時刻とから磁気飽和終了時刻を求めることを特徴とする請求項1記載の励磁突入電流現象特定方法。
【請求項4】
電力系統に瞬時電圧低下が発生したとき、瞬時電圧低下発生前の系統電圧をベース電圧として前記瞬時電圧低下発生後の系統電圧と前記ベース電圧との差分を変動分電圧として求め、前記変動分電圧から過渡振動の影響をカットした変動分基本電圧を求め、前記変動分基本電圧が前記瞬時電圧低下発生後の前記ベース電圧の1サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を磁気飽和開始時刻とし、前記磁気飽和開始時刻の後の直近の前記変動分基本電圧の零点を磁気飽和中点時刻とし、前記磁気飽和開始時刻と前記磁気飽和中点時刻とから磁気飽和終了時刻を求め、一方、変圧器鉄心の鎖交磁束が飽和開始磁束と同一の値となった時刻を求め、この時刻と磁気飽和終了時刻との差分が所定範囲内であるときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定することを特徴とする励磁突入電流現象特定方法。
【請求項5】
前記磁気飽和中点時刻は、前記磁気飽和開始時刻の後の直近の前記変動分基本電圧の零点とすることに代えて、前記変圧器鉄心の飽和領域での前記ベース電圧の零点とすることを特徴とする請求項3または4記載の励磁突入電流現象特定方法。
【請求項6】
電力系統に瞬時電圧低下が発生したとき1サイクルめの変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻及び2サイクルめの変圧器鉄心の磁気飽和開始時刻を求め、1サイクルめの磁気飽和開始時刻と2サイクルめの磁気飽和開始時刻との時間幅で変圧器鉄心の端子電圧を積分して1サイクルめの磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と2サイクルめの磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束との差分を求め、1サイクルめの磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束と2サイクルめの磁気飽和開始時刻の変圧器鉄心の鎖交磁束との差分が所定値以下のときは変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定することを特徴とする励磁突入電流現象特定方法。
【請求項7】
前記瞬時電圧低下発生前の系統電圧をベース電圧とし、前記瞬時電圧低下発生後の系統電圧と前記ベース電圧との差分を変動分電圧として求め、前記変動分電圧から過渡振動の影響をカットした変動分基本電圧を求め、前記変動分基本電圧が前記瞬時電圧低下発生後の前記ベース電圧の1サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を1サイクルめの磁気飽和開始時刻とし、前記変動分基本電圧が前記瞬時電圧低下発生後の前記ベース電圧の2サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を2サイクルめの磁気飽和開始時刻とし、1サイクルめの磁気飽和開始時刻と2サイクルめの磁気飽和開始時刻とを求めることを特徴とする請求項5記載の励磁突入電流現象特定方法。
【請求項8】
電力系統に瞬時電圧低下が変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下であると判定したときは、さらに、変圧器の1次側結線がΔ結線かY結線かを特定することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の励磁突入電流現象特定方法。
【請求項9】
変圧器の1次側結線がΔ結線かY結線かの特定は、前記瞬時電圧低下発生後の系統電圧と前記瞬時電圧低下発生前の系統電圧であるベース電圧との差分である変動分電圧から過渡振動の影響をカットした変動分基本電圧を求め、変動分基本電圧の三相成分に各相基準のαβ変換を行い各相基準のα相変動分基本電圧及びβ相変動分基本電圧を求め、変圧器鉄心端子電圧の三相成分に各相基準のαβ変換を行い各相基準のα相端子電圧及びβ相端子電圧を求め、変圧器投入後の前記ベース電圧の1サイクルの区間でα相変動分基本電圧及びβ相変動分基本電圧のそれぞれの絶対値最大なる基準相を選び、前記変動分基本電圧が前記瞬時電圧低下発生後の前記ベース電圧の1サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を磁気飽和開始時刻としその前記磁気飽和開始時刻の後の直近の前記変動分基本電圧の零点を磁気飽和中点時刻とし、β相変動分基本電圧が絶対値最大の基準相でのβ相端子電圧の前記磁気飽和中点時刻における絶対値が閾値以下の場合に変圧器の1次側結線はΔ結線と判定し、α相変動分基本電圧が絶対値最大の基準相でのα相端子電圧の前記磁気飽和中点時刻における絶対値が閾値以下の場合に変圧器の1次側結線はY結線と判定することを特徴とする請求項8記載の励磁突入電流現象特定方法。
【請求項10】
変圧器の1次側結線がΔ結線かY結線かの特定は、前記瞬時電圧低下発生後の系統電圧と前記瞬時電圧低下発生前の系統電圧であるベース電圧との差分である変動分電圧から過渡振動の影響をカットした変動分基本電圧を求め、変動分基本電圧の三相成分に各相基準のαβ変換を行い各相基準のα相変動分基本電圧及びβ相変動分基本電圧を求め、変圧器投入後の前記ベース電圧の1サイクルの区間でα相変動分基本電圧及びβ相変動分基本電圧のそれぞれの絶対値最大なる基準相を選び、前記変動分基本電圧が前記瞬時電圧低下発生後の前記ベース電圧の1サイクルの間でマイナスからプラスまたはプラスからマイナスへ大きく変化するときの零点を磁気飽和開始時刻としその前記磁気飽和開始時刻の後の直近の前記変動分基本電圧の零点を磁気飽和中点時刻とし、α相変動分基本電圧の基準相でのα相変動分基本電圧及びβ相変動分基本電圧を磁気飽和開始時刻と磁気飽和中点時刻との時間幅で積分してα相磁束変動分及びβ相磁束変動分を求め、β相磁束変動分をα相磁束変動分で除算した値が閾値以下であるときは変圧器の1次側結線はY結線であると判定し、β相変動分基本電圧の基準相でのα相変動分基本電圧及びβ相変動分基本電圧を磁気飽和開始時刻と磁気飽和中点時刻との時間幅で積分してα相磁束変動分及びβ相磁束変動分を求め、α相磁束変動分をβ相磁束変動分で除算した値が閾値以下であるときは変圧器の1次側結線はΔ結線であると判定することを特徴とする請求項8記載の励磁突入電流現象特定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−148018(P2009−148018A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320445(P2007−320445)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【Fターム(参考)】