説明

動力伝動ベルト

【課題】優れた耐油性及び接着性を有するゴム配合物を用いた動力伝動ベルトを提供する。
【解決手段】ゴム伝動ベルトであって、ゴム成分としてアクリロニトリルブタジエンゴムとエチレン・α−オレフィンゴムを質量比で60/40〜5/95含有し、加硫剤として有機過酸化物が配合されるとともに、ゴム成分100質量部に対して補強剤のカーボンブラック20〜80質量部、シリカ10〜50質量部配合され、さらに共架橋剤として、ゴム成分100質量部に対してN,N´‐m‐フェニレンマレイミド又はキノンジオキシム類を0.5〜15質量部配合されたゴム配合物で構成される動力伝動ベルトである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は駆動装置などの動力伝動に用いられる動力伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
動力伝動に用いられるベルトにおいて、オゾン雰囲気下でのゴムの劣化が問題視されており、従来の天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴムなどから構成されているベルトではこのゴム劣化によって早期にクラックを生じるという問題が指摘されている。また、クロロプレンなどのハロゲンを含んだゴムはダイオキシンの発生につながることから、環境負荷物質であるハロゲンを含有しないゴムで製造されたベルトが近年求められている。
【0003】
このような要求に対して、最近ではエチレン−プロピレン系ゴム(EPR)あるいはエチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)等のエチレン・α−オレフィンエラストマーが、優れた耐オゾン性、耐熱性、耐寒性を有しているとともに比較的に安価なポリマーであり、脱ハロゲンという要求を満たしていることからも有望視されている。(例えば特許文献1参照)
また、エチレン・α−オレフィンエラストマーの耐油性、接着性を向上させる目的で、エチレン−ビニルエステル共重合体とのブレンド配合も検討されている。(例えば文献2参照)
【特許文献1】特開平6−345948号公報
【特許文献2】特開2005−155905号公報
【0004】
又、複写機用紙送りベルトに使用されるゴム組成物として、特許文献3には、エチレン‐プロピレン‐ジエンゴムと、アクリロニトリル‐ブタジエンゴムとを主成分とするゴム組成物からなるベルトが記載されている。このゴム組成物を使用することによって、電気抵抗値を抑え、しかも紙送り性に優れた紙送りができる記載がある。
【特許文献3】特開平6−41354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はさらに優れた耐油性、接着性を有するゴム配合物を用いた動力伝動ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願請求項1記載の発明は、ゴム伝動ベルトであって、ゴム成分としてアクリロニトリルブタジエンゴムとエチレン・α−オレフィンゴムを質量比で60/40〜5/95含有し、加硫剤として有機過酸化物が配合されるとともに、ゴム成分100質量部に対して補強剤のカーボンブラック20〜80質量部、シリカ10〜50質量部配合され、さらに共架橋剤として、ゴム成分100質量部に対してN,N´‐m‐フェニレンマレイミド又はキノンジオキシム類を0.5〜15質量部配合されたゴム配合物で構成される動力伝動ベルトにある。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記キノンオキシム類がベンゾキノンジオキシム類である請求項1に記載の動力伝動ベルトにある。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記動力伝動ベルトが歯付ベルトである請求項1又は2に記載の動力伝動ベルトにある。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、ゴム伝動ベルトであって、ゴム成分としてアクリロニトリルブタジエンゴムとエチレン・α−オレフィンゴムを質量比で60/40〜5/95含有し、加硫剤として有機過酸化物が配合されるとともに、ゴム成分100質量部に対して補強剤のカーボンブラック20〜80質量部、シリカ10〜50質量部配合され、さらに共架橋剤として、ゴム成分100質量部に対してN,N´‐m‐フェニレンマレイミド又はキノンジオキシム類を0.5〜15質量部配合されたゴム配合物で構成される動力伝動ベルトであることより、優れた耐油性、強度、通電性、接着性を有する伝動ベルトとすることが可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、前記キノンオキシム類がベンゾキノンジオキシム類である請求項1に記載の動力伝動ベルトであることから、前記ゴム配合物の耐引き裂き製を向上させることができるという効果がある。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、前記動力伝動ベルトが歯付ベルトである請求項1又は2に記載の動力伝動ベルトであることから、特に、自動車用或いは一般産業用に用いられる高負荷用の歯付ベルトにおいて、耐油性、耐引裂き抵抗性、接着性のバランスのとれた本発明に使用するゴム組成物を使用することによって長寿命化を図ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る歯付ベルトの断面斜視図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の歯付ベルト1は、ベルト長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部2、及び、複数の心線3が埋設された背部4とを有するベルト本体と、複数の歯部2の表面を被覆する歯布5とを有する。
【0014】
複数の歯部2と背部4とを有するベルト本体10は、ゴムを基材とする。このベルト本体10に使用される原料ゴムは、ゴム成分としてアクリロニトリルブタジエンゴムとエチレン・α−オレフィンゴムを質量比で60/40〜5/95含有し、加硫剤として有機過酸化物が配合されるとともに、ゴム成分100質量部に対して補強剤のカーボンブラック20〜80質量部、シリカ10〜50質量部配合され、さらに共架橋剤として、ゴム成分100質量部に対してN,N´‐m‐フェニレンマレイミド又はキノンジオキシム類を0.5〜15質量部配合されたゴム配合物で構成される。
【0015】
ここで、アクリロニトリルブタジエンゴムが60質量部を越えると、耐熱性、耐オゾン性が低下するという問題があり、5質量部より少なくなると耐油性が低下するという問題がある。
【0016】
又、本発明の動力伝動ベルトを構成するゴム配合物には、ゴム100質量部に対して補強剤のカーボンブラックが20〜80質量部、シリカ10〜50質量部配合される。ここで、カーボンブラックの量が20質量部より少ないと、体積抵抗率が大きくなり通電性が低下するという問題があり、80質量部を越えるとゴム硬度上昇により、屈曲性が低下するという問題がある。さらに、シリカの量が10質量部より少ないと接着性が低下するという問題があり、又、50質量部を越えると粘度が上昇し、成形性が低下するという問題がある。
【0017】
エチレン・α−オレフィンゴムとしては、エチレンとα−オレフィン(プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテンなど)の共重合体、あるいは、エチレンと上記α−オレフィンと非共役ジエンの共重合体などがあり、具体的にはエチレン・プロピレンゴム(EPM)やエチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)などのゴムをいう。上記ジエン成分としては、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネンなどの炭素原子数5〜15の非共役ジエンが挙げられる。
【0018】
また、上記ゴム組成物には、架橋剤として有機過酸化物が配合されている。有機過酸化物としては、例えばジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−モノ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等を挙げることができる。この有機過酸化物は、単独もしくは混合物として、ゴム100質量部に対して0.5〜8質量部の範囲で好ましく使用される。
【0019】
更に、前記ゴム組成物は、共架橋剤がエチレン・α−オレフィンゴム100質量部に対して0.5〜15質量部配合されている。0.5質量重量部未満では添加による効果が顕著でなく、15重量部を超えると引裂き力並びに接着力が急激に低下する。
【0020】
ベルト本体10の背部4には、それぞれベルト長手方向に延在する複数の心線3が、ベルト幅方向に並べて背部4に埋設されている。この心線3は、化学繊維からなる下撚りコードを多数撚り合わせた太径撚糸心線である。又、心線3を構成する化学繊維として、例えばPBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、ポリアリレート繊維、アラミド繊維、炭素繊維等を好適に使用できる。
【0021】
そして、前記ゴム組成物には、エチレン・α−オレフィンゴム100重量部に対して、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、綿等の短繊維などが配合されても良い。繊維長は繊維種によって異なるが、1〜10mmの短繊維が適当であり、具体的にはアラミド繊維では3〜5mm、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維または綿では5〜10mmのものを使用することができる。なかでも、耐摩耗性、補強性などを考慮するとアラミド繊維を選択することが好ましい。アラミド短繊維は、例えば商品名コーネックス、ノーメックス、ケブラー、テクノーラ、トワロン等である。
【0022】
尚、繊維はゴムとの接着が困難であることから、接着処理を施すことが望ましい。接着処理としては公知の処理方法が適用できるが、例えばニトリルゴム変性エポキシ樹脂及びアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂を含む接着処理液で処理した後、レゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックス(RFL)液で処理する方法がある。またアラミド短繊維も、RFL液などを用いた公知の方法で接着処理を施されることが好ましい。
【0023】
ここで用いるRFL液は、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスを混合した処理液である。この場合、レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比は3/1〜1/3にすることが接着力を高める上で好適である。また、RFL液の固形分付着量が3〜10重量%であることがRFL液による接着力の効果を高める上で好ましい。1/1を超えると、短繊維の凝集力が大きくなって分散性が悪くなり、逆に1/5未満になると、ゴムと短繊維との接着力が低下し、引張強さも低下する恐れがある。更に、RFL液の固形分付着量が10重量%を超えると、処理液が固まって短繊維のフィラメント同士が分割しにくくなり、逆に3重量%未満の場合にはRFL液による分散性及び引張強さの向上効果が顕著ではない。また、ゴムラテックスとしては、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン三元共重合体、クロロスルフォン化ポリエチレン、水素化ニトリルゴム、エピクロルヒドリン、天然ゴム、SBR、クロロプレンゴム、オレフィン−ビニルエステル共重合体、EPDM等のラテックスが挙げられる。尚、接着処理を施す際の処理液の温度は5〜40°Cに調節し、また浸漬時間は0.5〜30秒であり、200〜250°Cに調節したオーブンに1〜3分間通して熱処理されることが望ましい。また、RFL処理の前にプレディップ処理を施したり、RFL処理の後にオーバーコート処理することも可能である。
【0024】
そして該ゴム組成物には、必要に応じてカーボンブラック、シリカのような増強剤、炭酸カルシウム、タルクのような充填剤、可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤のような通常のゴム配合に用いるものを配合することができる。尚、カーボンブラックをゴム100重量部に対して20〜70重量部配合することが望ましい。
【0025】
歯布5は、ベルト幅方向に延在する経糸とベルトの長手方向に延在する緯糸7とを織成してなる繊維織物を基材とする。又、この繊維織物は、平織物や綾織物,朱子織物などからなる。この繊維織物を構成する繊維材料としては、例えば、アラミド繊維、ウレタン弾性糸、脂肪族繊維糸(6ナイロン、66ナイロン、ポリエステル、ポリビニルアルコール等)を使用できる。
【0026】
本発明で用いるゴム組成物を作製する方法としては、まず第1ステップのマスターバッチ練りとして、バンバリミキサーのような密閉式混練機に、エチレン・α−オレフィンゴムに短繊維と軟化剤を投入して混練した後、混練したマスターバッチをいったん放出し、これを20〜50°Cまで冷却する。これはゴムのスコーチを防止するためである。次いで、得られたマスターバッチに所定量の補強剤、充填剤、老化防止剤、加硫促進剤、加硫剤等をバンバリミキサー、オープンロールを用いて仕上げ練りする。また、ゴム種によっては混練したマスターバッチをいったん放出し、冷却する必要はなく、連続して仕上げ練りを行うことも可能である。
【0027】
尚、混練り方法としては、上記方法に限るものでなく、また混練り手段も例えばバンバリーミキサー、ロール、ニーダー、そして押出機等限定するものでなく、適宜公知の手段、方法によって混練することができる。また加硫方法も限定されるものでなく、モールド加熱、熱空気加熱、回転ドラム式加硫機、射出成形機等の加硫装置を用いた公知の手段で加硫される。
【0028】
前記の如く配合剤を添加したゴム組成物の有機過酸化物系架橋物で歯ゴム層を構成することにより、耐引き裂き性、耐側圧性が向上し、また耐摩耗効果がある高寿命な伝動ベルトを提供することができる。更に、低温下においても、良好な耐久性を呈する。
【0029】
尚、前記ゴム組成物は、歯付ベルトの構成に限定されるものではなく、Vベルト、コグドVベルト、Vリブドベルト等の摩擦伝動ベルトの圧縮ゴム層、伸張ゴム層にも適用できる。また伝動ベルトとしては、コグドVベルトに限定されるものではなく、コグが形成されていないVベルトやVリブドベルトなどにも適用可能である。
【0030】
尚、動力伝動ベルトの伝動面となるゴム層を該ゴム組成物で構成することについて述べたが、いうまでもなく動力伝動ベルト本体を構成するゴム組成物全てを該ゴム組成物で構成することが可能である。
【実施例】
【0031】
以下、具体的な実施例を伴って説明する。
【0032】
表1に示す配合のゴム組成物のムーニー粘度をJIS K6300−1に準じて測定した。また165℃で30分間プレス架橋した架橋ゴム物性を評価した。得られた架橋ゴムの硬度(JIS−A)をJIS K6253に、をJIS K6253、引き裂き力(JIS−A:N/mm)をJIS K6252に従って測定した。またガラス心線(φ0.77)とゴムとの接着力を測定した。また、加硫ゴムシートの体積抵抗率を測定した。
【0033】
また該ゴム組成物を用いて、歯付ベルトを作製した。本実施例で作成した歯付ルトは、背面及び歯部にゴム層、両ゴム層の間にガラスロープからなるφ0.77の心線を埋設している。また、歯部はナイロン製の帆布で覆われている。
【0034】
ここで背面及び歯部を形成するゴムシートを、表1に示すゴム配合にて調製し、バンバリーミキサーで混練後、カレンダーロールで圧延したものを用いた。
【0035】
ベルトの製造方法は公知の方法であり、まず、所定の間隔で溝部を設けた円筒状ドラムの周面に1プライの帆布、ガラス心線、未加硫ゴムシートを巻き付けた後、この上に心線となるロープを螺旋状にスピニングし、これを加硫して加硫ベルトスリーブを得る。このようにして得られた加硫ベルトスリーブをカッターによって所定に幅に切断し、60S5M350のベルトに仕上げた。
【0036】
このようにして得られる歯付ベルトの耐久性を評価した。ベルト耐久試験では、上記ベルトを図2に示すレイアウトからなる2軸の横型走行試験機に懸架し、23°Cの雰囲気温度下、従動プーリに478wの負荷をかけ、駆動プーリを3600rpmで回転させて、ベルトの走行寿命を測定した。尚、打切り時間は480時間とし、寿命に達した場合はその故障原因を確認した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
比較例1はEPDM単独配合であるため、耐油性があまり良くなかった。比較例3はカーボンブラック量が不足しているため抵抗値が高く、シリカ量が不足しているため接着性が悪かった。比較例4はコエージェントとしてTAICを使用しているため、引裂きが実施例よりやや低く走行寿命も目標の400hをクリアしているが実施例よりやや低めとなった。
一方、実施例は、NBR、カーボン、シリカの効果で耐油性、抵抗、接着性のバランスの取れた配合となっており、走行寿命も480h打切となりノンハロゲンで、CR同等のベルトが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明にかかる動力伝動用ベルトは自動車用あるいは一般産業用の駆動装置などに装着できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る動力伝動ベルトである歯付ベルトの断面斜視図である。
【図2】耐久試験の評価に用いた試験機のレイアウトである。
【符号の説明】
【0042】
1 歯付ベルト
2 歯部
3 心線
4 背部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム伝動ベルトであって、ゴム成分としてアクリロニトリルブタジエンゴムとエチレン・α−オレフィンゴムを質量比で60/40〜5/95含有し、加硫剤として有機過酸化物が配合されるとともに、ゴム成分100質量部に対して補強剤のカーボンブラック20〜80質量部、シリカ10〜50質量部配合され、さらに共架橋剤として、ゴム成分100質量部に対してN,N´‐m‐フェニレンマレイミド又はキノンジオキシム類を0.5〜15質量部配合されたゴム配合物で構成されることを特徴とした動力伝動ベルト。
【請求項2】
前記キノンオキシム類がベンゾキノンジオキシム類である請求項1に記載の動力伝動ベルト。
【請求項3】
前記動力伝動ベルトが歯付ベルトである請求項1又は2に記載の動力伝動ベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−19663(P2009−19663A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181473(P2007−181473)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】