説明

動力伝達チェーンおよび動力伝達装置

動力伝達チェーン1は、ピンが挿通される前後挿通部12,13を有する複数のリンク11と、一のリンク11の前挿通部12と他のリンク11の後挿通部13とが対応するようにチェーン幅方向に並ぶリンク11同士を長さ方向に屈曲可能に連結する複数のピン14および複数のインターピース15とを備えている。ピン14とインターピース15との接触位置の軌跡が円のインボリュートとされている。インボリュートの基礎円半径が異なる2種類以上のピン14およびインターピース15の組が形成され、これらのピン14およびインターピース15の組がランダムに配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、動力伝達チェーン、さらに詳しくは、自動車の無段変速機(CVT)に好適な動力伝達チェーンおよびこれを用いた動力伝達装置に関する。
【背景技術】
自動車用無段変速機として、図18に示すように、固定シーブ(2a)および可動シーブ(2b)を有しエンジン側に設けられたドライブプーリ(2)と、固定シーブ(3b)および可動シーブ(3a)を有し駆動輪側に設けられたドリブンプーリ(3)と、両者間に架け渡された無端状動力伝達チェーン(1)とからなり、油圧アクチュエータによって可動シーブ(2b)(3a)を固定シーブ(2a)(3b)に対して接近・離隔させることにより、油圧でチェーン(1)をクランプし、このクランプ力によりプーリ(2)(3)とチェーン(1)との間に接触荷重を生じさせ、この接触部の摩擦力によりトルクを伝達するものが知られている。
動力伝達チェーンとしては、特許文献1(特開平8−312725号公報)に、ピンが挿通される前後挿通部を有する複数のリンクと、一のリンクの前挿通部と他のリンクの後挿通部とが対応するようにチェーン幅方向に並ぶリンク同士を長さ方向に屈曲可能に連結する複数の第1ピンおよび複数の第2ピンとを備え、一のリンクの前挿通部に固定されかつ他のリンクの後挿通部に移動可能に嵌め入れられた第1ピンと一のリンクの前挿通部に移動可能に嵌め入れられかつ他のリンクの後挿通部に固定された第2ピンとが相対的に転がり接触移動することにより、リンク同士の長さ方向の屈曲が可能とされているものが提案されている。
上記特許文献1の動力伝達チェーンは、チェーンが連続体でないことから生じる多角形振動を抑制し、これを使用する無段変速機の騒音の低減が図られているが、例えばこれが搭載される自動車の静粛性を高めて快適性を向上するには、さらなる騒音低減が好ましい。
この発明の目的は、多角形振動をより抑え、これにより、騒音の要因を除去することができる動力伝達チェーンおよび動力伝達装置を提供することにある。
【発明の開示】
この発明による動力伝達チェーンは、ピンが挿通される前後挿通部を有する複数のリンクと、一のリンクの前挿通部と他のリンクの後挿通部とが対応するようにチェーン幅方向に並ぶリンク同士を長さ方向に屈曲可能に連結する複数の第1ピンおよび複数の第2ピンとを備え、一のリンクの前挿通部に固定されかつ他のリンクの後挿通部に移動可能に嵌め入れられた第1ピンと一のリンクの前挿通部に移動可能に嵌め入れられかつ他のリンクの後挿通部に固定された第2ピンとが相対的に転がり接触移動することにより、リンク同士の長さ方向の屈曲が可能とされている動力伝達チェーンにおいて、第1ピンと第2ピンとの転がり接触移動の軌跡が相違するピンの組が少なくとも2種類あり、これらのピンの組がランダムに配列されていることを特徴とするものである。
第1ピンおよび第2ピンは、例えば、いずれか一方の接触面が平坦面とされ、他方の接触面が相対的に転がり接触移動可能なように所要の曲面に形成される。この場合に、所要の曲面形状が少なくとも2種類(例えば相対的に曲率が大のものと相対的に曲率が小のもの)形成されることで、転がり接触移動の軌跡が相違するピンの組を得ることができる。第1ピンおよび第2ピンは、それぞれの接触面が所要の曲面に形成されるようにしてもよい。この場合に、各ピンの接触面形状がそれぞれ少なくとも2種類(例えば相対的に曲率が大のものと相対的に曲率が小のもの)形成されることで、転がり接触移動の軌跡が相違するピンの組を得ることができる。
2種類のピンの組の数は、同数またはほぼ同数であってもよいが、一方が他方の2倍程度であったり5倍程度であったりしてもよい。
第1ピンと第2ピンとの転がり接触移動の軌跡が相違するピンの組を少なくとも2種類得るには、例えば、第1ピンと第2ピンとの接触位置の軌跡が円のインボリュートとされかつインボリュートの基礎円半径が異なる2種類以上の第1ピンおよび第2ピンの組を形成すればよい。
上記の動力伝達チェーンにおいて、ピッチが異なる2種類以上のリンクが形成されており、これらのリンクがランダムに配列されていることが好ましい。
ピッチは、前後挿通部の間隔を意味し、挿通部の形状は同一のまま前後挿通部の間隔を変えることによって、異なるピッチのリンクを得ることができる。リンク自体の大きさは、ピッチに応じて変えてもよいし、変えなくてもよい。2種類のピッチ(リンク)の数は、同数またはほぼ同数であってもよいが、一方が他方の2倍程度であったり5倍程度であったりしてもよい。また、ピンの組の数と対応するようにその数を決めてもよいし、また、ピンの組の数とは無関係にその数を決めてもよい。
チェーン直線時での第1ピンと第2ピンとの接触部を原点とし、チェーン直線方向をx軸、これに直交する方向をy軸、チェーン曲線部の第1ピンと第2ピンの接触位置におけるピン接線方向とy軸のなす角をγとして、円のインボリュート曲線は、基礎円の半径をRbとして、次の式で与えられる。
x=Rb・(sinγ−γ・cosγ)
y=Rb・(cosγ+γ・sinγ)−Rb
CVT用チェーンとして使用する場合、CVT用チェーンとして使用される際のチェーン曲線部の最小半径をR、CVTの変速比をrとして、次の関係が成り立っていることが好ましい。
Rb=k・R
0.25<k<2r
すなわち、下記の式において、k=0.25としたときのインボリュート曲線(許容下限曲線)とk=2rとしたときのインボリュート曲線(許容上限曲線)との間にある任意のインボリュート曲線から2種類(必要に応じて3種類以上)のインボリュート曲線が選択されることが好ましい。
x=k・R・(sinγ−γ・cosγ)
y=k・R・(cosγ+γ・sinγ)−k・R
転がり接触移動の軌跡は、第1ピンと第2ピンとの接触位置の軌跡が円のインボリュートに限られるものではなく、k=0.25としたときのインボリュート曲線(許容下限曲線)とk=2rとしたときのインボリュート曲線(許容上限曲線)との間にある非インボリュート曲線(インボリュート類似曲線)としてもよい。
第1ピンおよび第2ピンのうちのいずれか一方は、このチェーンが無段変速機で使用される際にプーリに接触する方のピン(以下「ピン」と称す)とされ、他方は、プーリに接触しない方のピン(インターピースまたはストリップと称されており、以下では「インターピース」と称す)とされる。
リンクの前挿通部は、ピンが固定されるピン固定部およびインターピースが移動可能に嵌め入れられるインターピース可動部からなり、リンクの後挿通部は、ピンが移動可能に嵌め入れられるピン可動部およびインターピースが固定されるインターピース固定部からなるものとされる。前後挿通部は、互いに分離した前後貫通孔をリンクに形成し、前貫通孔=前挿通部および後貫通孔=後挿通部としてもよく、前後に長い1つの貫通孔をリンクに形成し、貫通孔の前部=前挿通部および貫通孔の後部=後挿通部としてもよい。
なお、この明細書において、リンクの長さ方向の一端側を前、同他端側を後としているが、この前後は便宜的なものであり、リンクの長さ方向が前後方向と常に一致することを意味するものではない。
この発明の動力伝達チェーンにおいて、転がり接触移動の軌跡が相違するピンの組の数は、2つ以上であればいくらでもよい。軌跡が相違するピンの組の数を多くすると製造コストが増大し、また、効果は数に比例しないことから、軌跡が相違するピンの組の数は、5以下で十分である。軌跡が相違するピンの組が2種類であっても、これらをランダムに配列することにより、多角形振動による共振を回避することができ、これにより、チェーンに起因する騒音を大幅に低減することができる。
また、ピッチが異なるリンクの数は、2つ以上であればいくらでもよい。ピッチをランダム化することにより、ピンとプーリ間の衝撃力のエネルギーの集中を避けることができる。
ピッチを大きくすると、振幅および進入角が大きくなることにより、振動が増大する傾向があるので、ピッチが大きいものについては、基礎円の半径を大きくして、進入角を小さくすることがより好ましい。ピッチの数を多くすると製造コストが増大し、また、効果は数に比例しないことから、ピッチの数は、5以下で十分である。ピッチが2種類であっても、軌跡が相違するピンの組をランダムに配列するとともに、ピッチについてもランダムに配列することにより、多角形振動による共振を大幅に回避することができる。
上記において、異なる形状のピンの組および異なるピッチのリンクをランダムに配列するに際しては、次の4つの条件が少なくとも1つ(好ましくは2以上)満たされていることがより好ましい。
A)任意の点を基準として±5%の範囲内に同種要素の配列数が現れない。
B)最大度数の配列数が、存在する最小度数の配列数の3倍以上とならない。
C)異種要素を含む同種要素連続配列数の種類が3種を超える。
D)60°以下の配列パターンの回転対称性を持つ部分が全体の50%を超えない。
この明細書において、「ランダム配列」とは、狭義には、上記4つの条件の少なくとも1つが満たされていることを意味するが、例えば、abbabbという配列を1カ所にだけ設け、これ以外の箇所について、A)が成り立っている場合もランダム配列と見なされるべきであり、「ランダム配列」には、各要素が全体にわたって周期性または規則性なく並んでいるものはもちろんのこと、全体の中のごく一部にだけ周期性または規則性を持たせたものも含まれるものとする。
動力伝達チェーンは、例えば、第1ピンと第2ピンとの接触位置の軌跡が円のインボリュートとされかつピッチが異なる2種類以上のリンクが形成されており、ピッチが大きいリンクにおけるインボリュートの基礎円半径がピッチが小さいリンクにおけるインボリュートの基礎円半径よりも大きくなされているものとされる。
動力伝達チェーンは、ピンが挿通される前後挿通部を有する複数のリンクと、一のリンクの前挿通部と他のリンクの後挿通部とが対応するようにチェーン幅方向に並ぶリンク同士を長さ方向に屈曲可能に連結する複数の第1ピンおよび複数の第2ピンとを備え、一のリンクの前挿通部に固定されかつ他のリンクの後挿通部に移動可能に嵌め入れられた第1ピンと一のリンクの前挿通部に移動可能に嵌め入れられかつ他のリンクの後挿通部に固定された第2ピンとが相対的に転がり接触移動することにより、リンク同士の長さ方向の屈曲が可能とされている動力伝達チェーンにおいて、第1ピンと第2ピンとの接触位置の軌跡が円のインボリュートとされかつインボリュートの基礎円半径/ピンの高さ=5〜20とされていることがある。
インボリュートの基礎円半径は、これを大きくすることにより進入角を小さくすることができ、この進入角減少の効果により、チェーンの騒音および振動を低減することができる。ピンの高さは、自動車用の無段変速機においては、4から20mm程度であり、基礎円半径は、この5〜20倍が好ましく、9〜17倍がより好ましく、11〜15倍がさらに好ましい。第1ピンと第2ピンとは、ほぼ同じ高さであり、基準とするピンは、どちらのピンでもよいが、より厳密には、長い方のピンすなわち端面が無段変速機のプーリの円錐状シーブ面に接触する方のピンが基準とされる。第1ピンと第2ピンとの接触位置の軌跡が円のインボリュートとされかつインボリュートの基礎円半径/ピンの高さ=5〜20とされているものでは、ピンの組が1種類の場合でも、多角形振動を効果的に抑えることができ、これにより、騒音の要因を除去することができる。
インボリュートの基礎円半径/ピンの高さ=5〜20とされている構成は、ピンの組が2種類の動力伝達チェーンと組み合わされることにより、多角形振動を抑えることができ、騒音の要因をさらに除去することができる。
相対的に転がり接触移動するピン同士の接触位置の軌跡を円のインボリュート曲線とするには、例えば、一方のピンの接触面が、断面において半径Rbの基礎円を持つインボリュート形状を有し、他方のピンの接触面が平坦面(断面形状が直線)とすればよい。
ピン同士の接触位置の軌跡は、両方のピンの接触面がともに曲面であっても円のインボリュート曲線とすることができ、例えば、第1ピンおよび第2ピンの断面形状が同一とされかつ第1ピンと第2ピンとの接触位置の軌跡が円のインボリュート曲線とされているようにしてもよい。この場合、ピン側の接触面の断面曲線g1(y)とインターピース側の接触面の断面曲線g2(y)のx方向相対距離をLx=f(y)(x:チェーン進行方向座標、y:径方向座標)としたとき、g1=−g2でかつ、Lxが円のインボリュート曲線とされる。
上記の動力伝達チェーンは、いずれか一方のピン(インターピース)が他方のピン(ピン)よりも短くされ、長い方のピンの端面が無段変速機のプーリの円錐状シーブ面に接触し、この接触による摩擦力により動力を伝達するものであることが好ましい。各プーリは、円錐状のシーブ面を有する固定シーブと、固定シーブのシーブ面に対向する円錐状のシーブ面を有する可動シーブとからなり、両シーブのシーブ面間にチェーンを挟持し、可動シーブを油圧アクチュエータによって移動させることにより、無段変速機のシーブ面間距離したがってチェーンの巻き掛け半径が変化し、スムーズな動きで無段の変速を行うことができる。
この発明による動力伝達装置は、円錐面状のシーブ面を有する第1のプーリと、円錐面状のシーブ面を有する第2のプーリと、これら第1および第2のプーリに掛け渡される動力伝達チェーンとを備えたもので、動力伝達チェーンが上記いずれかに記載のものとされる。
この動力伝達装置は、自動車の無段変速機としての使用に好適なものとなる。
【図面の簡単な説明】
図1は、この発明による動力伝達チェーンの一部を示す平面図である。
図2は、同拡大斜視図である。
図3は、同拡大側面図である。
図4は、接触面の基礎円半径を説明する図である。
図5は、ピンの運動軌跡を示す図である。
図6は、等ピッチ配列を採用したときの音圧レベルを示すグラフである。
図7は、異なる形状のピンがランダムに配列された一例を示す図である。
図8は、異なる形状のリンクがランダムに配列された一例を示す図である。
図9は、この発明による動力伝達チェーンの基礎円半径とランダム配列の一例を示す図である。
図10は、この発明による動力伝達チェーンのピッチおよび基礎円半径とランダム配列の一例を示す図である。
図11は、ピッチと振幅および進入角との関係を示す図である。
図12は、基礎円半径と振幅および進入角との関係を示す図である。
図13は、この発明による動力伝達チェーンの噛み込み前後のピンの状態を示す図である。
図14は、この発明による動力伝達チェーンのピンの好ましい接触面形状の範囲を示す図である。
図15は、この発明による動力伝達チェーンの異なる実施形態を示す図3に相当する図である。
図16は、この発明による動力伝達チェーンの異なるリンク形状の実施形態を示す図である。
図17は、動力伝達チェーンがプーリに取り付けられた状態を示す正面図である。
図18は、この発明による動力伝達チェーンが使用される一例の無段変速機を示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。以下の説明において、図3の左を前、右を後というものとする。
図1および図2は、この発明による動力伝達チェーンの一部を示しており、動力伝達チェーン(1)は、チェーン長さ方向に所定間隔をおいて設けられた前後挿通部(12)(13)を有する複数のリンク(11)と、チェーン幅方向に並ぶリンク(11)同士を長さ方向に屈曲可能に連結する複数のピン(第1ピン)(14)およびインターピース(第2ピン)(15)とを備えている。
図3に示すように、前挿通部(12)は、ピン(14)(実線で示す)が固定されるピン固定部(12a)およびインターピース(15)(二点鎖線で示す)が移動可能に嵌め入れられるインターピース可動部(12b)からなり、後挿通部(13)は、ピン(14)(二点鎖線で示す)が移動可能に嵌め入れられるピン可動部(13a)およびインターピース(15)(実線で示す)が固定されるインターピース固定部(13b)からなる。そして、チェーン幅方向に並ぶリンク(11)を連結するに際しては、一のリンク(11)の前挿通部(12)と他のリンク(11)の後挿通部(13)とが対応するようにリンク(11)同士が重ねられ、ピン(14)が一のリンク(11)の前挿通部(12)に固定されかつ他のリンク(11)の後挿通部(13)に移動可能に嵌め入れられ、インターピース(15)が一のリンク(11)の前挿通部(12)に移動可能に嵌め入れられかつ他のリンク(11)の後挿通部(13)に固定される。そして、このピン(14)とインターピース(15)とが相対的に転がり接触移動することにより、リンク(11)同士の長さ方向(前後方向)の屈曲が可能とされる。
ピン(14)を基準としたピン(14)とインターピース(15)との接触位置の軌跡は、円のインボリュートとされており、この実施形態では、ピン(14)の接触面(14a)が、図4に示すように、断面において半径Rb、中心Mの基礎円を持つインボリュート形状を有し、インターピース(15)の接触面(15a)が平坦面(断面形状が直線)とされている。これにより、各リンク(11)がチェーン(1)の直線部分から円弧部分へまたは円弧部分から直線部分へと移行する際、前挿通部(12)においては、インターピース(15)がインターピース可動部(12b)内を固定状態のピン(14)に対してその接触面(15a)がピン(14)の接触面(14a)に転がり接触(厳密には若干のすべり接触を含む転がり接触(転がり滑り接触)となっている)しながら移動し、後挿通部(13)においては、ピン(14)が固定状態のインターピース(15)に対してその接触面(14a)がインターピース(15)の接触面(15a)に転がり接触(厳密には若干のすべり接触を含む転がり接触(転がり滑り接触)となっている)しながらピン可動部(13a)内を移動する。なお、図3において、符号AおよびBで示す箇所は、チェーン(1)の直線部分においてピン(14)とインターピース(15)とが接触している線(断面では点)であり、AB間の距離がこの明細書におけるピッチとされている。
このような動力伝達チェーン(1)では、図5に示すピンの運動軌跡に伴う多角形振動が生じる。図5において、ピン(四角印で示す)が直線部分からプーリと接触する円弧状部分に移行する噛込位置においては、プーリの接線方向とピン進入方向とが異なっており(これらの方向同士のなす角が進入角)、ピンは下降しながらプーリと接触する。プーリと接触する際のピンの下降量が初期噛込位置変化量として示されている。直線部分にあるピンも噛込位置におけるピンの下降の影響を受けて上下移動し、この上下移動量が振幅となる。このようなピンの上下移動の繰り返しにより、多角形振動が生じる。
ピン(14)とインターピース(15)とが相対的に転がり接触移動しかつピン(14)を基準としたピン(14)とインターピース(15)との接触位置の軌跡が円のインボリュートとされていることにより、ピンおよびインターピースの接触面がともに円弧面である場合などと比べて、上記の振幅を小さくすることができる。しかしながら、この構成であっても、リンク(11)、ピン(14)およびインターピース(15)を1種類とし、振動軽減対策を行わなかった場合、図6に示すように、大きな音圧レベルのピークが生じ、これが人間には騒音として感じられる。したがって、接触位置の軌跡が円のインボリュートとされているものにおいても、多角形振動のより一層の減少が望まれている。
そこで、この発明による動力伝達チェーンにおいては、すべてのリンク(11)、ピン(14)およびインターピース(15)が同一形状になされているのではなく、多角形振動による共振を回避するために、図7に示すように、異なる基礎円半径R1またはR2を有する複数種類のピン(14A)(14B)およびインターピース(15A)(15B)の組が使用されており、好ましくは、さらに、図8に示すように、異なるピッチP1またはP2のリンク(11A)(11B)が使用されている。
この発明による動力伝達チェーン(1)の第1実施形態では、従来、図9(c)に示すように、すべてのリンク、ピンおよびインターピースが同じピッチP1で同じ基礎円半径R1を有しているのに対し、図9(a)に示すように、図7に示した2種類のピン(14A)(14B)を使用し、ピッチP1はすべて同じとされるとともに、第1組のピン(14A)のインボリュートの基礎円半径がR1であれば、第2組のピン(14B)のインボリュートの基礎円半径がR2、第3組のピン(14B)のインボリュートの基礎円半径がR2、第4組のピン(14A)のインボリュートの基礎円半径がR1というように、基礎円の大きさが変更されしかも不規則な順で(ランダムに)配列されている。
また、この発明による動力伝達チェーン(1)の第2実施形態では、図9(b)に示すように、3種類のピン(図示略)を使用し、ピッチP1はすべて同じとされるとともに、第1組のピンのインボリュートの基礎円半径がR1であれば、第2組のピンのインボリュートの基礎円半径がR2、第3組のピンのインボリュートの基礎円半径がR1、第4組のピンのインボリュートの基礎円半径がR3というように、基礎円の大きさが変更されしかも不規則な順で(ランダムに)配列されている。
基礎円の半径が異なるピン(14A)(14B)およびインターピース(15A)(15B)の組を2種類製作するには、例えば、リンク(11)の形状は挿通部(12)(13)を含めて同一形状とし、ピン(14A)の接触面(14a)を半径R1の基礎円を持つインボリュート形状に、ピン(14B)の接触面(14a)を半径R2の基礎円を持つインボリュート形状に形成し、インターピース(15A)(15B)は、その接触面(15a)が平坦面のもの1種類とすればよい。ピン(14A)(14B)とインターピース(15A)(15B)とはその断面形状を逆にしてもよく、ピンとインターピースとの接触位置の軌跡が円のインボリュートとなりかつピンとインターピースとが同じ断面形状を有するようにしてもよい。
この発明による動力伝達チェーンの他の実施形態では、従来、図10(c)に示すように、すべてのリンク、ピンおよびインターピースが同じピッチP1で同じ基礎円半径R1を有しているのに対し、図10(a)(b)に示すように、ピッチがランダム化されており、これに対応して基礎円半径が変更されている。
この発明による動力伝達チェーン(1)の第3実施形態では、図10(a)に示すように、図8に示した2種類のリンク(11A)(11B)と図7に示した2種類のピン(14A)(14B)およびインターピース(15A)(15B)とを使用し、第1のリンク(11A)のピッチがP1であれば、第2のリンク(11B)のピッチがP2、第3のリンク(11B)のピッチがP2、第4のリンク(11A)のピッチがP1というように、ピッチの大きさが変更されしかも不規則な順で(ランダムに)配列されている。そして、ピッチがP1の場合には、ピン(14A)のインボリュートの基礎円半径がR1とされ、ピッチがP2の場合には、ピン(14B)のインボリュートの基礎円半径がR2(ただし、P1<P2のとき、R1<R2)とされている。
この発明による動力伝達チェーン(1)の第4実施形態では、図10(b)に示すように、3種類のリンク、ピンおよびインターピース(図示略)を使用し、第1のリンクのピッチがP1であれば、第2のリンクのピッチがP2、第3のリンクのピッチがP1、第4のリンクのピッチがP3というように、ピッチの大きさが変更されしかも不規則な順で(ランダムに)配列されている。そして、ピッチがP1の場合には、ピンのインボリュートの基礎円半径がR1とされ、ピッチがP2の場合には、ピンのインボリュートの基礎円半径がR2とされ、ピッチがP3の場合には、ピンのインボリュートの基礎円半径がR3(ただし、P1<P2<P3のとき、R1<R2<R3)とされている。
なお、ピッチと基礎円との関係については、P1<P2のとき、R1<R2という条件を満たす必要はなく、P1<P2のとき、R1>R2としても同様の効果を得ることができる。しかしながら、ピッチを大きくすると、図11(a)に示すように、振幅が大きくなるとともに、図11(b)に示すように、進入角も大きくなり、振幅および進入角が大きいことにより振動が増大するというデメリットが生じる。
基礎円半径と振幅および進入角との関係については、図12(a)に示すように、基礎円半径を大きくしても振幅はそれほど増加せず、また、図12(b)に示すように、基礎円半径を大きくすると、進入角を小さくすることができ、結局、基礎円半径を大きくすることにより、進入角減少に伴う振動改良効果を得ることができる。そこで、第3および第4実施形態の動力伝達チェーン(1)では、P1<P2のときR1<R2またはP1<P2<P3のときR1<R2<R3とし、ピッチが大きいものについては、基礎円の半径が大きくかつ進入角が小さくなされており、これによって、ピッチ大に伴うデメリットが解消されている。なお、図12において、回転半径大は、R=73.859であり、回転半径小は、R=31.65mmとされている。また、同図は、ピンの高さが6mmの場合であり、この場合には、Rb>51mmが好ましく、Rb≧70mmがより好ましいことが分かる。
インボリュートの形状は、Rb:基礎円半径、γ:角度として、x=Rb・(sinγ−γ・cosγ)およびy=Rb・(cosγ+γ・sinγ)−Rbにより表され、インボリュート形状の長さLe(γ)は、Le(γ)=∫(x+y1/2dγであり、これをγ=0からγまで積分することにより、Le(γ)=Rbγが得られる。ピンの高さhは、Leの長さに比例するとすると、aを係数として、
h=a×Le=aRbγ
この式から、hはRbにも比例することが分かる。自動車の無段変速機で使用されるピンの高さは、h=4〜20mm程度であり、Rb/h=5〜20であることが好ましく、Rb/h=9〜17がより好ましく、Rb/h=11〜15がさらに好ましい範囲となる。
第3および第4実施形態の動力伝達チェーン(1)を製作するには、ピン(14A)の接触面(14a)を半径R1の基礎円を持つインボリュート形状に、ピン(14B)の接触面(14a)を半径R2の基礎円を持つインボリュート形状に形成し、挿通部(12)(13)の形状は同一のまま前後挿通部(12)(13)同士の間隔(したがってピッチ)が異なるリンク(11A)(11B)を2種類製作し、これらの2種類のリンク(11A)(11B)と2種類のピン(14A)(14B)とを適宜組み合わせて連続させていけばよい。
上記各実施形態の動力伝達チェーン(1)によると、接触位置の軌跡をインボリュート曲線とすることにより、図13に示すように、ピン(14)(15)がプーリ(2)に噛み込まれても同図に一点鎖線で示す直線Lの方向にチェーン(1)が引き続けられることにより、噛み込む位置と噛み込み後の移動によるチェーン(1)の多角形振動を最小限に抑えることができる。そして、第1および第2実施形態のものでは、第1ピン(14A)(14B)と第2ピン(15A)(15B)との接触位置の軌跡が円のインボリュートとされかつインボリュートの基礎円半径が異なる2種類の第1ピン(14A)(14B)および第2ピン(15A)(15B)の組が設けられるとともに、これらのピン(14A)(14B)(15A)(15B)の組がランダムに配列されていることにより、打音発生の周期がずれ、音のエネルギが異なる周波数帯に分散されるので、音圧レベルのピークを低減することができる。そして、第3および第4実施形態のものでは、第1ピン(14A)(14B)と第2ピン(15A)(15B)との接触位置の軌跡が円のインボリュートとされかつインボリュートの基礎円半径が異なる2種類の第1ピン(14A)(14B)および第2ピン(15A)(15B)の組が設けられているのに加えて、ピッチが異なる2種類のリンク(11A)(11B)がランダムに配列されているので、より一層、音圧レベルのピークを低減することができる。こうして、図6における鋭いピークは、その音のエネルギが異なる周波数帯へ分散させられることで、大幅に低減され、人間が感じる騒音が減少する。
図13において、チェーンの曲線部の中心を原点、チェーンの直線部の方向をX軸、これに直交する方向をY軸、原点とチェーン曲線部のピン転がり中心とを結ぶ線とY軸とのなす角をθとする。また、チェーン直線時でのピン(14A)(14B)とインターピース(15)との接触部を原点とし、チェーン直線方向をx軸、これに直交する方向をy軸、チェーン曲線部のピン(14A)(14B)とインターピース(15)の接触位置におけるピン接線方向とy軸のなす角をγとすると、円のインボリュート曲線は、基礎円の半径をRbとして、次の式で与えられる。
x=Rb・(sinγ−γ・cosγ)
y=Rb・(cosγ+γ・sinγ)−Rb
基礎円半径Rbは、例えば、CVT用チェーンとして使用される際の最小半径とされる。
インボリュート曲線は、基礎円半径に応じて無数にあり、基礎円半径が変化しても同様の効果を維持できるので、RをCVT用チェーンの最小半径として、インボリュート曲線の許容範囲は、次の式で表される。
x=k・R・(sinγ−γ・cosγ)
y=k・R・(cosγ+γ・sinγ)−k・R
ここで、CVT用チェーンとして使用される際のチェーン曲線部の最小半径をR、CVTの変速比をrとして、kを次の範囲とすることが好ましい。
0.25<k<2r
すなわち、図14に示すように、k=0.25としたときのインボリュート曲線(許容下限曲線)とk=2rとしたときのインボリュート曲線(許容上限曲線)との間にある任意のインボリュート曲線から2種類(必要に応じて3種類以上)のインボリュート曲線を選択することで、騒音を低減することができる。
転がり接触移動の軌跡は、第1ピンと第2ピンとの接触位置の軌跡が円のインボリュートに限られるものではなく、k=0.25としたときのインボリュート曲線(許容下限曲線)とk=2rとしたときのインボリュート曲線(許容上限曲線)との間にある非インボリュート曲線(インボリュート類似曲線)としてもよい。
上記の動力伝達チェーンは、図18に示したCVTで使用されるが、この際、図17に示すように、インターピース(15)がピン(14)よりも短くされ、インターピース(15)の端面がプーリ(2)の固定シーブ(2a)および可動シーブ(2b)の各円錐状シーブ面(2c)(2d)に接触しない状態で、ピン(14)の端面がプーリ(2)の円錐状シーブ面(2c)(2d)に接触し、この接触による摩擦力により動力が伝達される。ピン(14)とインターピース(15)とは、上述のように、転がり接触移動するので、プーリ(2)のシーブ面(2c)(2d)に対してピン(14)はほとんど回転しないことになり、摩擦損失が低減し、高い動力伝達率が確保される。
なお、上記の動力伝達チェーン(1)の各実施形態の説明に際しては、図3に示したリンク(11)、前後挿通部(12)(13)、ピン(14)およびインターピース(15)を使用するものとして説明したが、リンク(11)、前後挿通部(12)(13)、ピン(14)およびインターピース(15)の形状は、図3に示したものに限定されるものではなく、両者が相対的に転がり接触移動し得る範囲で種々の変更が可能である。その実施形態を図15および図16に示す。
図15に示す実施形態において、動力伝達チェーン(1)は、チェーン長さ方向に所定間隔をおいて設けられた前後挿通部(22)(23)を有する複数のリンク(21)と、チェーン幅方向に並ぶリンク(21)同士を長さ方向に屈曲可能に連結する複数のピン(第1ピン)(24)およびインターピース(第2ピン)(25)とを備えており、これらのリンク(21)、ピン(24)およびインターピース(25)が図1および図2に示したように組み立てられたものである。前後挿通部(22)(23)は、対称状に設けられており、ピン(24)およびインターピース(25)は同じ断面形状とされて、同じ型を用いて引き抜き加工されている。
前挿通部(22)は、ピン(24)(実線で示す)が固定されるピン固定部(22a)およびインターピース(25)(二点鎖線で示す)が移動可能に嵌め入れられるインターピース可動部(22b)からなり、後挿通部(23)は、ピン(24)(二点鎖線で示す)が移動可能に嵌め入れられるピン可動部(23a)およびインターピース(25)(実線で示す)が固定されるインターピース固定部(23b)からなる。ピン(24)とインターピース(25)とが同じ断面形状であることから、前挿通部(22)のピン固定部(22a)と後挿通部(23)のインターピース固定部(23b)が同じ形状(対称形状)とされ、前挿通部(22)のピン可動部(22a)と後挿通部(23)のインターピース固定部(23b)が同じ形状(対称形状)とされている。そして、チェーン幅方向に並ぶリンク(21)を連結するに際しては、一のリンク(21)の前挿通部(22)と他のリンク(21)の後挿通部(23)とが対応するようにリンク(21)同士が重ねられ、ピン(24)が一のリンク(21)の前挿通部(22)に固定されかつ他のリンク(21)の後挿通部(23)に移動可能に嵌め入れられ、インターピース(25)が一のリンク(21)の前挿通部(22)に移動可能に嵌め入れられかつ他のリンク(21)の後挿通部(23)に固定される。そして、このピン(24)とインターピース(25)とが相対的に転がり接触移動することにより、リンク(21)同士の長さ方向(前後方向)の屈曲が可能とされる。
ピン(24)のインターピース(25)に対向する面(24a)およびインターピース(25)のピン(24)に対向する面(25a)は、いずれも曲面とされ、ピン(24)を基準としたピン(24)とインターピース(25)との接触位置の軌跡が円のインボリュート曲線となるような同一断面形状とされている。すなわち、ピン(24)の接触面(24a)の断面曲線をg1(y)、インターピース(25)の接触面(25a)の断面曲線をg2(y)としたとき、g1=−g2であり、また、ピン(24)の接触面(24a)の断面曲線とインターピース(25)の接触面(25a)の断面曲線とのx方向相対距離をLx=f(y)としたとき、Lxがインボリュート曲線とされている。この結果、ピン(24)とインターピース(25)とは、転がり接触しながら、相対的に移動することができ、一般的なサイレントチェーンに比べて多角形振動を大幅に減少することができる。
また、上記各実施形態において、前挿通部(12)(22)と後挿通部(13)(23)とは、それぞれ独立の貫通孔とされているが、これらの挿通部(12)(22)(13)(23)を得るための貫通孔は、孔縁の応力集中を緩和するために、図16(a)(b)に示す形状とされてもよい。図16(a)において、リンク(31)には、前後に長い1つの貫通孔(31a)が形成されており、貫通孔(31a)の前部が前挿通部(32)および貫通孔(31a)の後部が後挿通部(33)とされている。貫通孔(31a)は、図3に示した前後挿通部(12)(13)同士を連通部(34)によって連通させた形状とされており、図16(a)に示す前後挿通部(32)(33)の形状は、図3に示した前後挿通部(12)(13)と同一形状とされている。したがって、図3に示したピン(14)およびインターピース(15)と組み合わせることで、上記の動力伝達チェーン(1)の各実施形態と同じ動力伝達チェーンを得ることができる。連通部(34)の高さは、例えば、挿通部(32)(33)の高さの数分の1程度の高さとされてもよく、図16(b)に示すように、ピンの動きに悪影響を与えない範囲で、挿通部(32)(33)の高さに近い高さとされてもよい。図16(b)において、リンク(31)には、前後に長い1つの貫通孔(31b)が形成されており、貫通孔(31b)の前部が前挿通部(32)および貫通孔(31b)の後部が後挿通部(33)とされている。貫通孔(31b)は、図3に示した前後挿通部(12)(13)同士を連通部(35)によって連通させた形状とされており、図16(b)に示す前後挿通部(32)(33)の形状は、図3に示した前後挿通部(12)(13)と同一形状とされている。したがって、図3に示したピン(14)およびインターピース(15)と組み合わせることで、上記の動力伝達チェーン(1)の各実施形態と同じ動力伝達チェーンを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
この発明による動力伝達チェーンは、多角形振動をより抑え、これにより、騒音の要因を除去することができるので、例えば、これを無段変速機などの自動車の動力伝達装置に適用した際、自動車の静粛性を高めて快適性を向上することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピンが挿通される前後挿通部を有する複数のリンクと、一のリンクの前挿通部と他のリンクの後挿通部とが対応するようにチェーン幅方向に並ぶリンク同士を長さ方向に屈曲可能に連結する複数の第1ピンおよび複数の第2ピンとを備え、一のリンクの前挿通部に固定されかつ他のリンクの後挿通部に移動可能に嵌め入れられた第1ピンと一のリンクの前挿通部に移動可能に嵌め入れられかつ他のリンクの後挿通部に固定された第2ピンとが相対的に転がり接触移動することにより、リンク同士の長さ方向の屈曲が可能とされている動力伝達チェーンにおいて、
第1ピンと第2ピンとの転がり接触移動の軌跡が相違するピンの組が少なくとも2種類あり、これらのピンの組がランダムに配列されていることを特徴とする動力伝達チェーン。
【請求項2】
ピッチが異なる2種類以上のリンクが形成されており、これらのリンクがランダムに配列されていることを特徴とする請求項1の動力伝達チェーン。
【請求項3】
チェーン直線時での第1ピンと第2ピンとの接触部を原点とし、チェーン直線方向をx軸、これに直交する方向をy軸、チェーン曲線部の第1ピンと第2ピンの接触位置におけるピン接線方向とy軸のなす角をγとして、転がり接触移動の軌跡は、次の式で与えられる基礎円半径Rbの円のインボリュート曲線とされている請求項1または2の動力伝達チェーン。
x=Rb・(sinγ−γ・cosγ)
y=Rb・(cosγ+γ・sinγ)−Rb
【請求項4】
CVT用チェーンとして使用される際のチェーン曲線部の最小半径をR、CVTの変速比をrとして、次の関係が成り立っている請求項3の動力伝達チェーン。
Rb=k・R
0.25<k<2r
【請求項5】
チェーン直線時での第1ピンと第2ピンとの接触部を原点とし、チェーン直線方向をx軸、これに直交する方向をy軸、チェーン曲線部の第1ピンと第2ピンの接触位置におけるピン接線方向とy軸のなす角をγ、CVT用チェーンとして使用される際のチェーン曲線部の最小半径をR、CVTの変速比をrとして、転がり接触移動の軌跡は、次の式で与えられる許容下限の円のインボリュート曲線と許容上限の円のインボリュート曲線との範囲内にある非インボリュート曲線である請求項1または2の動力伝達チェーン。
許容下限 x=0.25R・(sinγ−γ・cosγ)
y=0.25R・(cosγ+γ・sinγ)−0.25R
許容上限 x=2r・R・(sinγ−γ・cosγ)
y=2r・R・(cosγ+γ・sinγ)−2r・R
【請求項6】
第1ピンと第2ピンとの接触位置の軌跡が円のインボリュートとされ、ピッチが大きいリンクにおけるインボリュートの基礎円半径がピンチが小さいリンクにおけるインボリュートの基礎円半径よりも大きくなされていることを特徴とする請求項2の動力伝達チェーン。
【請求項7】
ピンが挿通される前後挿通部を有する複数のリンクと、一のリンクの前挿通部と他のリンクの後挿通部とが対応するようにチェーン幅方向に並ぶリンク同士を長さ方向に屈曲可能に連結する複数の第1ピンおよび複数の第2ピンとを備え、一のリンクの前挿通部に固定されかつ他のリンクの後挿通部に移動可能に嵌め入れられた第1ピンと一のリンクの前挿通部に移動可能に嵌め入れられかつ他のリンクの後挿通部に固定された第2ピンとが相対的に転がり接触移動することにより、リンク同士の長さ方向の屈曲が可能とされている動力伝達チェーンにおいて、第1ピンと第2ピンとの接触位置の軌跡が円のインボリュートとされかつインボリュートの基礎円半径/ピンの高さ=5〜20とされていることを特徴とする動力伝達チェーン。
【請求項8】
インボリュートの基礎円半径/ピンの高さ=5〜20とされていることを特徴とする請求項3から6までのいずれかの動力伝達チェーン。
【請求項9】
円錐面状のシーブ面を有する第1のプーリと、円錐面状のシーブ面を有する第2のプーリと、これら第1および第2のプーリに掛け渡される動力伝達チェーンとを備え、動力伝達チェーンが請求項1から8までのいずれかに記載のものである動力伝達装置。

【国際公開番号】WO2005/045280
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【発行日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515325(P2005−515325)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016456
【国際出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】