説明

動力伝達系路用途のための高度に分枝したスルホネート

潤滑粘性の油および油溶性分枝鎖ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホン酸塩を含む潤滑組成物であって、ここで該アレーンスルホン部分は、約0.180より大きいChi(0)/Shadow XY比を有することによって定義される場合、高度に分枝状の基である少なくとも1つのヒドロカルビル置換基を有し、良好な動的摩擦性能を示す。本発明は、動力伝達系路装置(すなわち、機械出力トランスミッションデバイス(例えば、種々のタイプのうちのいずれかのオートマチックトランスミッション(無段変速機、デュアルクラッチトランスミッション、トラクションデバイスを含む)、マニュアルトランスミッション、およびギアボックス))を潤滑するための方法をさらに提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、アルキルアリールスルホン酸の塩に基づく界面活性剤に関する。上記アルキル基は、高度に分枝状であり、動力伝達系路用途(例えば、自動車トランスミッション流体)において優れた性能を提供する。
【0002】
自動車トランスミッション流体適用において、分枝鎖スルホネート(代表的には、ポリプロピレン−アルキル化ベンゼンに由来する)は、広く使用されている。なぜなら、それらは、これが組み込まれる処方物に安定な動的摩擦特性を付与する傾向にあるからである。それほど高価でなくより容易に利用可能な直鎖状スルホネート(ポリエチレンアルキレート(polyethylene alkylate)に由来する)は、大部分の自動車トランスミッション適用にとって容認できないほどに低い動的摩擦値を与える傾向にある。
【0003】
多くの試みが、動力伝達系路用途のための潤滑剤を処方することに行われてきた。特許文献1(Aoyagiら、2004年5月27日)は、機能的流体の摩擦特性を改善するための方法を開示する(例えば、ブレーキおよびクラッチ能力)。上記摩擦改変物質は、約20モル%より高いアルキルビニリデンおよび1,1−ジアルキル異性体を含むポリアルキレンの混合物に由来する、ポリアルケニルスルホネートもしくはアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩である。上記物質は、自動車トランスミッションにおいて有用である。例:メチルビニリデン異性体および1,1−ジメチル異性体。好ましいモノオレフィンとしては、プロピレン、ブチレン(特に、イソブチレン)、1−オクテンおよび1−デセンが挙げられる。ポリオレフィンとしては、とりわけ、ポリイソブテンを含むポリブテンが挙げられる。上記ポリイソブテンスルホネートは、Komatsuマイクロ−クラッチ摩擦試験(摩擦係数)によって測定される場合、高摩擦特性を提供する。
【0004】
特許文献2(Aoyagiら、2004年10月21日)は、摩擦改変量のポリアルケニルスルホネートを添加する工程を包含する、機能的流体のブレーキおよびクラッチ能力を改善するための方法を開示する。
【0005】
特許文献3(Kingら,2003年4月22日)は、低過塩基化アルキルアリールスルホネートを開示する。上記アルキル基は、プロピレンオリゴマーから得られるC15〜C21の分枝鎖アルキル基である。アルキルベンゼンは、プロピレンオリゴマーとベンゼンとを反応させることによって調製される。上記プロピレンオリゴマーは、平均約15〜21個の炭素原子および低いジオレフィン含有量を有する。
【0006】
特許文献4(Harrisonら,2002年6月25日)は、20モル%より多いアルキルビニリデンおよび1,1−ジアルキル異性体を含むポリアルケンの混合物から得られるポリアルケニルスルホン酸組成物を開示する。好ましい実施形態において、上記ポリアルケンは、ポリイソブテンである。
【0007】
特許文献5(Wattsら,1995年6月23日)は、約12〜約50個の総炭素原子;連結基;および窒素含有極性基を含む、油溶性の置換されたもしくは置換されていない、飽和もしくは不飽和の分枝状ヒドロカルビル基の生成物を添加することによって、油性組成物(例えば、ATF)の静止摩擦係数を増大させるための方法を開示する。
【0008】
自動車トランスミッションに適した潤滑処方物を記載する多くの他の特許および特許出願が存在する。これらの多くのうちの1つは、特許文献6(Tiptonら,2006年8月3日)である。
【0009】
スルホン酸を形成することにおいて使用するためのアルキル化されているかもしくはヒドロカルビル置換されている芳香族物質を選択し得、その結果、これらが含まれ得る上記動力伝達系路流体は、都合が良くかつ安定な動的摩擦特性を有することが望ましい。本発明は、このような物質を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0102339号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0209787号明細書
【特許文献3】米国特許第6,551,967号明細書
【特許文献4】米国特許第6,410,491号明細書
【特許文献5】国際公開第95/17489号パンフレット
【特許文献6】米国特許出願公開第2006−0172899号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、(a)潤滑粘性の油および(b)分枝鎖ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホン酸塩を含む潤滑組成物を提供し、ここで上記アレーンスルホン部分は、0.175より大きいもしくは0.180より大きいChi(0)/Shadow XY比を有することによって定義される場合、高度に分枝状の基である少なくとも1つのヒドロカルビル置換基を有し、上記塩は、上記油に可溶性である。
【0012】
本発明は、動力伝達系路装置(すなわち、機械出力トランスミッションデバイス(mechanical power transmission device)(例えば、種々のタイプのうちのいずれかのオートマチックトランスミッション(無段変速機、デュアルクラッチトランスミッション、トラクションデバイスを含む)、マニュアルトランスミッション、およびギアボックス))を潤滑するための方法をさらに提供し、上記方法は、上記動力伝達系路に潤滑組成物を提供する工程を包含し、上記潤滑組成物は、(a)潤滑粘性の油および(b)分枝鎖ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホン酸塩を含み、ここで上記アレーンスルホン部分は、約0.165より大きいChi(0)/Shadow XY比を有することによって定義される場合、高度に分枝状の基である少なくとも1つのヒドロカルビル置換基を有し、上記塩は、上記油に可溶性である。
【0013】
本発明はまた、分枝鎖ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホネートを調製するための方法を提供し、ここで上記ヒドロカルビル基は、0.175もしくは0.180より大きいChi(0)/Shadow XY比を有することによって定義される場合、高度に分枝状の基であり、上記方法は、(a)ポリオレフィン、または上記所望のヒドロカルビル置換基に対応し、0.175もしくは0.180より大きいChi(0)/Shadow XY比を有する置換されたポリオレフィンもしくはヘテロ原子が介在するポリオレフィンを選択する工程;(b)上記ポリオレフィンまたは置換されたポリオレフィンもしくはヘテロ原子が介在するポリオレフィンと芳香族化合物(例えば、トルエン)とを、ルイス酸(例えば、アルミニウムハライド(例えば、AlBr))の存在下で10℃未満の温度で接触させて、ヒドロカルビル置換された中間体を形成する工程;(c)上記ヒドロカルビル置換された中間体とSOもしくはその供給源とを接触させて、スルホン酸を形成する工程;ならびに(d)上記スルホン酸を中和する工程を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
種々の好ましい特徴および実施形態は、非限定的な例示によって以下に記載される。
【0015】
本発明の組成物の1成分は、潤滑粘性の油である。本発明の潤滑油組成物において使用される基油は、American Petroleum Institute (API) Base Oil Interchangeability Guidelinesにおいて特定される場合、グループI〜Vにおける基油のうちのいずれかから選択され得る。上記5種の基油グループは、以下のとおりである:

基油カテゴリー 硫黄(%) 飽和(%) 粘性指数
グループI >0.03 および/もしくは <90 80〜120
グループII <0.03 および >90 80〜120
グループIII <0.03 および >90 >120
グループIV 全てポリαオレフィン(PAO)
グループV グループIにも、グループIIにも、グループIIIにも、
グループIVにも含まれない他の全てのもの。
【0016】

グループI、IIおよびIIIは、鉱油ベースストックである。次いで、上記潤滑粘性の油は、天然もしくは合成の潤滑油およびその混合物を含み得る。鉱油および合成油(特に、ポリαオレフィン油)およびポリエステル油の混合物が、しばしば使用される。
【0017】
天然油としては、動物性油および植物性油(例えば、ひまし油、ラード油および他の植物酸エステル)、ならびにミネラル潤滑油(例えば、液化石油(liquid petroleum oil)およびパラフィンタイプ、ナフテンタイプもしくは混合パラフィン−ナフテンタイプの溶媒処理もしくは酸処理したミネラル潤滑油)が挙げられる。水素処理した油もしくは水素化分解した油は、潤滑粘性の有用な油の範囲内に含まれる。
【0018】
石炭もしくは頁岩由来の潤滑粘性の油はまた、有用である。合成潤滑油としては、炭化水素油およびハロ置換された炭化水素油(例えば、重合されたおよび共重合された(interpolymerized)オレフィンならびにこれらの混合物、アルキルベンゼン、ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、およびアルキル化ポリフェニル)、アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィドならびにこれらの誘導体、アナログおよびホモログが挙げられる。
【0019】
アルキレンオキシドポリマーならびにその内部ポリマーおよび誘導体、ならびに末端ヒドロキシル基が、例えば、エステル化もしくはエーテル化によって修飾されているものは、使用され得る公知の合成潤滑油の他のクラスを構成する。
【0020】
使用され得る合成潤滑油の別の適したクラスは、ジカルボン酸のエステルおよびC〜C12モノカルボン酸から作製されるエステル、ならびにポリオールもしくはポリオールエーテルを含む。
【0021】
他の合成潤滑油としては、リン含有酸の液体エステル、ポリマーテトラヒドロフラン、ケイ素ベースの油(例えば、ポリ−アルキル−シロキサン油、ポリアリール−シロキサン油、ポリアルコキシ−シロキサン油、もしくはポリアリールオキシ−シロキサン油、およびシリケート油)が挙げられる。
【0022】
水素処理したナフテン油はまた、公知でありかつ使用され得る。他の油としては、水素異性化した(hydroisomerized)ワックス(Fischer−Tropsch GTL合成手順(gas−to−liquid synthetic procedure)によって調製される油を含む)が挙げられる。
【0023】
本明細書中上記に開示されるタイプの天然もしくは合成(ならびにこれらのうちのいずれかの2種以上の混合物)いずれかの未精製油、精製油および再精製油は、本発明の組成物において使用され得る。未精製油は、天然供給源もしくは合成源からさらに精製せずに直接得られるものである。精製油は、1以上の精製工程においてさらに処理されて、1種以上の特性を改善していることを除いて、未精製油に類似である。再精製油は、既に使用された精製油に対して適用される、精製油を得るために使用されるものに類似のプロセスによって得られる。このような再精製油は、しばしば、消費された添加剤および油分解生成物を除去するために指向される技術によってさらに処理される。
【0024】
本発明の特定の実施形態において、上記基油は、ポリαオレフィン(例えば、4センチストークポリαオレフィン(すなわち、100℃において4mm/秒の名目粘性を有する))のような合成油である。特定の実施形態において、合成基油およびミネラル基油の混合物が使用される。特定の実施形態において、上記潤滑粘性の油のうちの少なくとも50重量%、もしくは少なくとも80重量%、もしくは少なくとも90重量%は、合成油である。
【0025】
本発明の別の成分は、分枝鎖ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホン酸塩である。このような塩は、界面活性剤として一般に言及される。上記アレーンスルホン酸塩は、0.175もしくは0.180または他の適切な値(以下に記載される)より大きいChi(0)/Shadow XY比を有するヒドロカルビル基を有することによって定義される。上記スルホネートは、一般には、(a)0.175もしくは0.180または他の値(以下に記載される)より大きいChi(0)/Shadow XY比を有する、上記所望のヒドロカルビル置換基に対応するポリオレフィンまたは置換されたポリオレフィンもしくはヘテロ原子が介在するポリオレフィンを選択する工程;(b)上記ポリオレフィンまたは置換されたポリオレフィンもしくはヘテロ原子が介在するポリオレフィンと芳香族化合物(例えば、トルエン、ベンゼン、もしくはフェノール)とを、触媒(例えば、ルイス酸触媒(AlClもしくはAlBrのようなアルミニウムハライドを含む))の存在下で代表的には10℃未満の温度で接触させて、ヒドロカルビル置換された芳香族中間体を形成する工程;(c)上記ヒドロカルビル置換された中間体と、SOもしくはその供給源とを接触させて、スルホン酸を形成する工程;ならびに(d)上記スルホン酸を中和する工程、を包含する方法によって調製され得る。「中和する」とは、以下に記載されるように過塩基化する工程を包含することを意図し、この工程は、代表的には、測定可能な塩基度を有する生成物を生じ得る。従って、上記生成物は、pHの観点で厳密に中性である必要はない。
【0026】
界面活性剤は、代表的には、過塩基化物質(他の方法では、過塩基化水もしくは超塩基化といわれる)であり、これは、一般に、金属および上記金属と反応される特定の酸性有機化合物の化学量論に従う中和のために存在する過剰量の金属によって特徴づけられる、単相の均一なニュートン系である。上記過塩基化物質は、酸性物質(代表的には、無機酸もしくは低級カルボン酸(好ましくは、二酸化炭素))と、酸性有機化合物(この場合では、上記分枝鎖ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホン酸)を含む混合物、上記酸性有機物質のための少なくとも1種の不活性有機溶媒(鉱油、ナフサ、トルエン、キシレンなど)を含む反応媒体、化学量論的過剰の金属塩基、および助触媒(例えば、フェノールもしくはアルコール)とを反応させることによって、調製される。上記酸性有機物質は、通常、油中でのある程度の溶解度を提供するために十分な数の炭素原子を有する。過剰な金属の量は、一般に、金属比の点で表される。用語「金属比」とは、上記酸性有機化合物の当量に対する上記金属の総当量の比である。中性金属塩は、金属比1を有する。通常の塩に存在するより4.5倍程度を有する塩は、3.5当量金属過剰であり、すなわち、比率4.5を有する。このような界面活性剤の塩基度はまた、総塩基数(TBN)の観点から表され得る。総塩基数は、上記過塩基化物質の塩基度の全てを中和するために必要とされる強酸(過塩素酸もしくは塩酸)の量である。酸の量は、水酸化カリウム単位(サンプル1gあたりのmg KOH)として表される。上記過塩基化物質は、少なくとも20、もしくは少なくとも100、もしくは少なくとも200、最大600、もしくは500まで、もしくは400まで(代表的には、約50% 油を含むサンプルに対して測定される;薄めていない場合には、上記TBNは、対応してより高くなる)の総塩基数を有し得る。
【0027】
上記界面活性剤の金属部分は、代表的には、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属(例えば、ナトリウム、カルシウム、カリウムおよびマグネシウム)である。代表的には、上記界面活性剤は、過塩基化されており、このことは、中性金属塩を形成するために必要とされるよりも化学量論的に過剰の金属が存在することを意味する。上記過塩基化の過剰金属は、上記潤滑剤を構成し得かつ動摩擦係数を増大させるように作用する酸を中和するという効果を有する。代表的には、上記過剰な金属は、当量ベースで最大30:1まで、もしくは5:1〜18:1の比で上記アニオンを中和するために必要とされるものより多く存在する。
【0028】
一実施形態において、上記分枝鎖ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホン酸塩は、中性のもしくは過塩基化されたカルシウムポリイソブテン置換されたトルエンスルホネートを含む。
【0029】
その生じる界面活性剤は、種々の薬剤(例えば、ホウ酸もしくはリンの酸)のうちのいずれかと反応させることによって後処理され得る。ホウ酸化界面活性剤およびホウ酸化されていない過塩基化界面活性剤は、これらの調製方法を含め、周知であり、多くの米国特許(米国特許第5,403,501号および同第4,792,410号が挙げられる)においてより詳細に記載されている。スルホン酸および他の酸の塩基性塩を作製するための技術を記載している他の特許としては、米国特許第2,501,731号;同第2,616,905号;同第2,616,911号;同第2,616,925号;同第2,777,874号;同第3,256,186号;同第3,384,585号;同第3,365,396号;同第3,320,162号;同第3,318,809号;同第3,488,284号;および同第3,629,109号が挙げられる。
【0030】
上記ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホン酸が酸性形態であろうと中和された形態であろうと、本発明の目的のために、これらは、そのヒドロカルビル置換基を基準にして具体的に選択される。特に、上記ヒドロカルビル置換基は、0.165より高いか、もしくは特定の実施形態においては、0.175より高いか、もしくは0.180より高いかもしくは0.195より高いChi(0)/Shadow XY比を有することによって定義される場合、高度の分枝を有する分枝鎖ヒドロカルビル基である。
【0031】
これらのパラメーターは、分子の分枝状態の数学的モデルから導出され得る。上記モデルにおいて使用される最初のこのようなパラメーターである、Chi(0)(χ(0)とも書かれる)とは、Kier and Hallの分子連結指数(Kier and Hall molecular connectivity index)をいう。上記Chi指数は、最初は、Randicによって1975年に定義され、その後、KierおよびHallによって1976年に正確にされた(詳細については、Molecular Connectivity in Chemistry and Drug Research,L.B.Keir and L.H.Hall,Academic Press,New York,1976,Volume 14 of Medicinal Chemistry,series editor G.deStevensを参照のこと;33〜39頁および46〜65頁を参照)、上記Chi(0)指数は、本発明の文脈においては、ヒドロカルビル基における「頂点」数の関数である。上記ヒドロカルビル基中の各原子(水素原子以外)は、性質(property)δに割り当てられ、δは、隣接する水素原子へのσ結合を除いて、その骨格の隣り合う原子へのσ結合におけるそれ自体の電子数である。従って、
δ=σ−h
ここでσは、σ結合における原子自体の電子の総数であり、hは、上記原子に結合される水素原子数である。この計算式について、各σ結合は2つの原子を含むが、1つの原子だけが、問題の原子(代表的には、炭素原子)によって寄与されると考えられる。各頂点(すなわち、各非水素原子)に割り当てられた連結重み(connectivity weight)cは、c=δ1/2である。そこで、ヒドロカルビル基についての上記Chi(0)値は、上記基中の全ての非水素原子についての全ての連結重みcの合計である。
【0032】
【化1】

「shadow XY」値は、上記ヒドロカルビル基の形状を特徴づける幾何的記述子(geometric descriptor)である。その分子形状およびその対応する炭化水素分子の最低エネルギーコンホメーションが最初に計算される。これは、CambridgeSoft Corporationから市販されているプログラム「Chem3D」において利用される「MOPAC」として公知の半経験的量子力学プログラム、ならびに他の供給元(例えば、Accelrys Software,Inc.)からの類似プログラムを使用して行われ得る。さらなる参考文献については、J.E.Ridley,M.C.Zerner,Theoret.Chim.Acta,42,223,1976;A.D.Bacon,M.C.Zerner,Theoret.Chim.Acta,53,21,1979;M.C.Zerner,G.H.Loew,R.F.Kirchner,U.T.Mueller−Westerhoff,J.Am.Chem.Soc.,102,589,1980を参照のこと。このように計算された分子構造は、その主慣性モーメントがX軸として定義されかつその二次慣性モーメントがY軸として定義されるように調整(align)される。その後、上記「shadow XY」は、上記基の分子表面を上記XY平面に投影することによって計算される。これは、Rohrbaugh and Jurs,Anal.Chem.,1987,59,1048−1054においてより詳細に記載されている。Shadow XYは、Å(Åの二乗)の単位で表され得る。当業者に明らかであるように、他の計算法も使用され得る。
【0033】
そこで、比 χ(0)/shadow XYが、炭化水素分子、拡げると(by extension)、その対応するヒドロカルビル基の分枝程度の有用な定量的記載を提供することが、見いだされた。上記比はまた、上記ヒドロカルビル鎖の長さとは比較的無関係である。特定の物質の値は、以下の表Iに示される:
【0034】
【表1】

【0035】
さらに、認められた程度もしくは分枝の拡張性に対して良好な直感的に分かる関係を有する前述の比から「分枝指数(branching index)」パラメーターを定義することは可能である。上記「分枝指数」、すなわち、BIは、本明細書において以下のように定義される。
【0036】
BI=60.283×(Chi(0)/Shadow XY比)−8.453
特定のモノマーのオリゴマー化から得られるヒドロカルビル基について計算されたChi(0)/Shadow XY比および「分枝指数」の例は、以下の表IIに報告される。斜体で示された記載事項は、個々に計算さ入れ廷内が、周辺もしくは類似の記載事項に基づいて予測もしくは内挿(interpolate)される。
【0037】
【表2】

特定の実施形態において、上記Chi(0)/Shadow XY比は、0.165より大きく(もしくは約1.49より大きい分枝指数)、エチレンおよびプロピレンを除いて、表IIに列挙されるモノマー全てからのオリゴマーを包含する。他の実施形態において、上記Chi(0)/Shadow XY比は、0.175もしくは0.180より大きく(またはそれぞれ、約2.10もしくは2.40より大きい分枝指数)、例えば、1−ヘキセンもしくは1−ペンテンオリゴマーより大きな分枝程度を有する、表II中のモノマーからのオリゴマーを包含する。そして他の実施形態において、上記Chi(0)/Shadow XY比は、0.195より大きく(または約3.30より大きい分枝指数)、イソブテン、3−メチルブタ−1−エン、イソプレン、プロピレンダイマー、およびスチレンからのオリゴマー、ならびに類似の分枝指数のオリゴマー(もしくはポリマー)を包含する。
【0038】
従って、上記ヒドロカルビル基は、ポリアルケン基であり得、そして上記ポリアルケンは、特定の実施形態において、2−ブテン、イソブテン、シクロペンテン、2−ペンテン、3−メチルブタ−1−エン、イソプレン、シクロヘキセン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、4−メチルペンタ−2−エン、2−オクテン、もしくは3−オクテンのポリマーもしくはオリゴマーからなり得る。
【0039】
上記ヒドロカルビル基の長さは、上記スルホン酸塩に油溶性を付与するために十分な長さである。溶解度は、特に、室温で1週間静置した後に、視覚的に透明な組成物を提供する、APIグループIの油中の上記塩の0.1重量%の混合物として特徴づけられ得る。このような溶解度を提供するために不必要な上記ヒドロカルビル基の長さは、上記基の具体的な構造に依存し得るが、一般に、上記ヒドロカルビル基が長いほど、上記溶解度はより良好になる。代表的には、本発明の塩は、少なくとも12個の炭素原子、もしくは少なくとも16個もしくは18個もしくは20個もしくは30個もしくは35個もしくは40個の炭素原子のヒドロカルビル基(上記アレーンスルホン酸部分を除いて)を有する。上記ヒドロカルビル基のサイズに関する上限は、特に重要ではないが、実質的な理由から、120個もしくは80個もしくは60個もしくは40個の炭素原子の種々の上限が有用であり得る。特定の実施形態において、上記ヒドロカルビル基中の炭素原子数は、上記ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホン酸塩全体が、ASTM D 3712によって測定される場合、少なくとも500もしくは600もしくは700の数平均分子量を有するようなものである。このような分子量は、上記ヒドロカルビル基において約24個もしくは30個もしくは40個の炭素原子に対応し得る。
【0040】
上記の分枝鎖の界面活性剤は、代表的には、これに適切な洗浄性を提供する量において潤滑処方物中で使用される。これがオートマチックトランスミッション流体中で使用される場合、上記流体の安定な動的摩擦特性を供給もしくは改善するために適切な量で使用される。このような適用のための代表的な量は、油なしのベースで0.01〜5重量%(例えば、0.025〜3%、もしくは0.05〜3%、もしくは0.1〜1.0%である(油なしのベースで)。
【0041】
オートマチックトランスミッション潤滑剤において有用な他の物質としては、二級アミンもしくは三級アミンのような摩擦改変剤(上記の分枝鎖ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホン酸塩に加えて)が挙げられる。このようなアミンは、少なくとも2つの置換基ヒドロカルビル基(例えば、アルキル基)を含む。上記アミンは、以下の式によって表され得る。
【0042】
NR
ここでRおよびRは、各々独立して、少なくとも6個の炭素原子(例えば、8〜20個もしくは10〜18個もしくは12〜16個の炭素原子)のアルキル基であり、Rは、ヒドロキシル含有アルキル基、ヒドロキシル含有アルコキシアルキル基、アミン含有アルキル基、ヒドロカルビル基、もしくは水素であり、ただし、RがHである場合、RおよびRのうちの少なくとも一方は、8〜16個の炭素原子(例えば、10〜16個の炭素原子もしくは12〜14個の炭素原子)のアルキル基である。
【0043】
他の摩擦改変剤としては、米国特許第4,792,410号において期さされるもののうちのいずれかが挙げられる。米国特許第5,110,488号は、脂肪酸の金属塩および特に、亜鉛塩(これはまた、摩擦改変剤として有用である)を開示する。他の摩擦改変剤の列挙としては、脂肪ホスファイト、脂肪酸アミド、脂肪エポキシド、ホウ酸過脂肪エポキシド、脂肪アミン、グリセロールエステル、ホウ酸過グリセロールエステル、アルコキシル化脂肪アミン、ホウ酸化アルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸の金属塩、硫化オレフィン、脂肪イミダゾリン、カルボン酸とポリアルキレン−ポリアミンとの縮合生成物、アルキルサリチレートの金属塩、アルキルリン酸のアミン塩、およびこれらの混合物が挙げられる。摩擦改変剤のこれらタイプの各々の代表は、公知でありかつ市販されている。オートマチックトランスミッション流体中の摩擦改変剤量は、その最終流体処方物の0.01〜10.0重量%であり得る。代替の量は、0.02%〜5%、もしくは0.1%〜3%、もしくは0.1〜2%、もしくは0.5〜1.5%を含む。
【0044】
存在し得る他の物質としては、分散剤が挙げられる。カルボン酸の(carboxylic)分散剤の例は、多くの米国特許において記載され、以下の米国特許が挙げられる:米国特許第3,219,666号、同第3,316,177号、同第3,340,281号、同第3,351,552号、同第3,381,022号、同第3,433,744号、同第3,444,170号、同第3,467,668号、同第3,501,405号、同第3,542,680号、同第3,576,743号、同第3,632,511号、同第4,234,435号、再発行第26,433号、および米国特許第6,165,235号、ならびにEP 0355895。スクシンイミド分散剤(カルボン酸分散剤の1種)は、ヒドロカルビル置換されたスクシン無水物(もしくはその反応性等価物(例えば、酸、酸ハライド、もしくはエステル))と、アミン(代表的には、ポリ(エチレンアミン))との反応によって調製される。上記ヒドロカルビル置換基は、一般に、平均して、少なくとも8個、もしくは20個、もしくは30個、もしくは35個から、最大350個まで、もしくは200個まで、もしくは100個までの炭素原子を含む。
【0045】
「Mannich分散剤」は、アルキルフェノール(ここで上記アルキル基は、少なくとも30個の炭素原子を含む)と、アルデヒド(特に、ホルムアルデヒド)およびアミン(特に、ポリアルキレンポリアミン)との反応生成物である。以下の米国特許第に記載される物質は、例示である:米国特許第3,036,003号、同第3,236,770号、同第3,414,347号、同第3,448,047号、同第3,461,172号、同第3,539,633号、同第3,586,629号、同第3,591,598号、同第3,634,515号、同第3,725,480号、同第3,726,882号、および同第3,980,569号。
【0046】
後処理した分散剤もまた、使用され得る。これらは、一般に、カルボン酸分散剤、アミン分散剤もしくはMannich分散剤と、試薬(例えば、尿素、チオ尿素、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換されたスクシン無水物、ニトリル、エポキシド、ホウ素化合物(例えば、ホウ酸(「ホウ素化分散剤」を与えるため))、リン化合物(例えば、リンの酸もしくはリン含有無水物)、または2,5−ジメルカプトチアジアゾール(DMTD))とを反応させることによって得られる。分散剤の混合物もまた、使用され得る。
【0047】
本発明の組成物中の分散剤の量は、一般に、上記最終のブレンドされた流体処方物の0.3〜10重量%、もしくは0.5〜7%もしくは1〜5%であり得る。
【0048】
存在し得る別の成分は、粘性改変剤である。粘性改変剤(VM)および分散・粘性改変剤(dispersant viscosity modifier)(DVM)は、周知である。VMおよびDVMの例は、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリオレフィン、スチレン−マレイン酸エステル(styrene−maleic ester)コポリマー、および類似のポリマー物質(ホモポリマー、コポリマーおよびグラフトコポリマーを含む)である。
【0049】
市販のVM、DVMおよびそれらの化学的タイプの例としては、以下が挙げられる:ポリイソブチレン(例えば、BP Amoco製のIndopolTMもしくはExxonMobil製のParapolTM);オレフィンコポリマー(例えば、Lubrizol製のLubrizolTM 7060、7065、および7067ならびにUniroyal製のTrileneTM CP−40およびCP−60);水素化スチレン−ジエンコポリマー(例えば、Shell製のShellvisTM 40および50ならびにLubrizol製のLZ(登録商標) 7341、7351、および7441);分散剤コポリマーであるスチレン/マレエートコポリマー(例えば、Lubrizol製のLZ(登録商標) 3702、3715、および3703);ポリメタクリレート(そのうちのいくつかは、分散剤性質を有する(例えば、RohMax製のAcryloidTMシリーズおよびViscoplexTMシリーズ、Texaco製のTLATMシリーズ、ならびにLubrizol製のLZ 7702TMおよびLZ 7720TMにおけるもの));オレフィン−グラフト−ポリメタクリレートポリマー(例えば、Rohm GmbH製のViscoplexTM 2−500および2−600);ならびに水素化ポリイソプレンスターポリマー(例えば、Shell製のShellvisTM 200および260)。粘性改変剤の最近のまとめは、米国特許第5,157,088号、同第5,256,752号および同第5,395,539号において見いだされ得る。上記VMおよび/もしくはDVMは、15重量%まで(例えば、1〜12%もしくは3〜10%)のレベルで、完全に処方された組成物へと組み込まれ得る。
【0050】
上記潤滑処方物はまた、少なくとも1種のリンの酸、リンの酸塩、リンの酸エステルもしくはその誘導体(0.002〜1.0重量%の量で硫黄含有アナログを含む)を含み得る。上記リンの酸、またはその塩、エステルもしくは誘導体は、リン酸、亜リン酸、リンの酸エステルもしくはその塩、ホスファイト、リン含有アミド、リン配列含有カルボン酸もしくはエステル、リン含有エーテル、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0051】
一実施形態において、上記リンの酸、エステルもしくは誘導体は、有機もしくは無機のリンの酸、リンの酸エステル、リンの酸塩、もしくはその誘導体であり得る。上記リンの酸としては、上記亜リン酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、およびチオリン酸(ジチオリン酸、ならびに上記モノチオリン酸、チオホスフィン酸およびチオホスホン酸を含む)が挙げられる。リン化合物の1グループは、以下の式によって表されるようなアルキルリン酸モノアルキル一級アミン塩である:
【0052】
【化2】

ここでR、R、Rは、アルキルもしくはヒドロカルビル基であるか、またはRおよびRのうちの一方はHであり得る。上記物質は、ジアルキルリン酸エステルとモノアルキルリン酸エステルとの1:1混合物であり得る。このタイプの化合物は、米国特許第5,354,484号に記載されている。
【0053】
85% リン酸は、完全に処方された組成物に対して追加するのに適した物質であり得、上記組成物の重量に基づいて、0.01〜0.3重量%、もしくは0.03〜0.2もしくは0.03〜0.1%のレベルで含まれ得る。
【0054】
他の物質は、必要に応じて、本発明の組成物に含まれ得る。このような物質としては、抗酸化剤(すなわち、酸化インヒビター)が挙げられ、抗酸化剤としては、ヒンダードフェノール性抗酸化剤、二級芳香族アミン抗酸化剤(例えば、ジノニルジフェニルアミン、ならびにモノノニルジフェニルアミンおよび他のアルキル置換基(例えば、モノオクチルもしくはジオクチル)とのジフェニルアミンのような周知の改変体)、硫化フェノール性抗酸化剤、油溶性銅化合物、リン含有抗酸化剤、ならびに有機性のスルフィド、ジスルフィド、およびポリスルフィド(例えば、2−ヒドロキシアルキル、アルキルチオエーテルもしくは1−t−ドデシルチオ−2−プロパノールもしくは硫化4−カルボブトキシシクロヘキサンまたは他の硫化オレフィン)が挙げられる。他の選択肢的成分としては、シール膨張組成物(例えば、イソデシルスルホランもしくはフタレートエステル)が挙げられ、これらは、シールを柔軟に保持するように設計される。強要されるのはまた、流動点降下剤(例えば、アルキルナフタレン、ポリメタクリレート、ビニルアセテート/フマレートもしくは/マレエートコポリマー、およびスチレン/マレエートコポリマー)である。別の物質は、耐摩耗剤(例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛)である。これら選択肢的物質は当業者に公知であり、一般に市販されており、公開欧州特許出願761,805号により詳細に記載されている。また、腐食防止剤(例えば、トリルトリアゾール、ジメルカプトチアジアゾール)、色素、流動化剤、臭いマスキング剤(odor masking agent)、および消泡剤のような公知の物質が含まれ得る。有機ホウ酸エステルおよび有機ホウ酸塩もまた、含まれ得る。
【0055】
上記成分は、完全に処方された潤滑剤の形態においてか、または少量の潤滑油内の濃縮物の形態において存在し得る。上記成分が濃縮物中に存在する場合、それらの濃度は、一般に、最終ブレンドにおいてより希釈された形態におけるそれらの濃度に直接比例する。
【0056】
本明細書において使用される場合、用語「ヒドロカルビル置換基」もしくは「ヒドロカルビル基」は、当業者に周知である、その通常の意味において使用される。具体的には、上記用語は、上記分子の残りに結合されかつ主に炭化水素特性を有する炭素原子を有する基をいう。ヒドロカルビル基の例としては、以下が挙げられる:
炭化水素置換基(すなわち、脂肪族(例えば、アルキルもしくはアルケニル)置換基、脂環式(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、ならびに芳香族置換された、脂肪族置換された、および脂環式置換された芳香族置換基、ならびに環式置換基(ここで上記環は、上記分子の別の部分を介して完成される(例えば、2つの置換基が一緒になって環を形成する));
置換された炭化水素置換基(すなわち、本発明の文脈において、上記置換基の主に炭化水素の性質を変えない非炭化水素基(例えば、ハロ(特に、クロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、およびスルホキシ)を含む置換基);
ヘテロ置換基(すなわち、主に炭化水素特性を有する一方で、本発明の文脈において、環もしくは鎖の中の炭素原子以外(他は、炭素原子から構成される)を含み、そしてピリジル、フリル、チエニルおよびイミダゾリルとして置換基を含む置換基)。ヘテロ原子としては、硫黄、酸素、窒素が挙げられる。一般に、わずか2個、好ましくは、わずか1個の非炭化水素置換基は、上記ヒドロカルビル基において、10個の炭素原子ごとに存在する;代表的には、上記ヒドロカルビル基中に非炭化水素置換基は存在しない。
【0057】
上記物質のうちのいくらかは、最終処方物中で相互作用し得、その結果、上記最終処方物の成分は、最初に添加されたものとは異なり得ることが公知である。例えば、金属イオン(例えば、界面活性剤のもの)は、他の分子の他の酸性部位もしくはアニオン部位に移動し得る。それによって形成される生成物(本発明の組成物をその意図した用途で使用する際に形成される生成物を含む)は、簡単な記載ができないかもしれない。にもかかわらず、全てのこのような改変および反応生成物は、本発明の範囲内に含まれる;本発明は、上記に記載される成文を混合することによって調製される組成物を包含する。
【実施例】
【0058】
(実施例1.ポリイソブテン置換されたトルエンスルホネート(カルシウム塩)の合成)
スターラー、冷却器(乾燥チューブ付き)、サーモウェルおよび追加漏斗を装備した2Lの4ツ首フラスコに、750g トルエンおよび500g ポリイソブテン(Glissopal 550TM,M 約593)を装填する。上記装填したものを4℃に冷却し、30g トルエン中の5.4g AlBr溶液を、それに21分間かけて滴下する。約0℃でさらに32分間攪拌した後、さらなる触媒溶液(30g トルエン中の5.46g AlBr)の添加を開始する。添加し始めた直後に、発熱反応が明らかになり、その温度は6℃へと上昇し、そしてその系は、触媒の少量ずつの添加に敏感になっている。上記触媒の添加は、1時間5分にわたって完了し、その混合物を、約0℃でさらに1時間攪拌した。そのアルキル化中間体を、塩基(20g Ca(OH)および5mL NHOH)の添加によって中和し、濾過し、そして真空ストリッピングして、トルエンを除去し、次いで、濾過、少量の塩基(3g Ca(OH))の添加、さらに真空ストリッピングによって単離する。その残渣468gを、濾過補助器具を使用して濾過して、わずかに濁った黄色油(中間体1a)を得る。
【0059】
類似のフラスコに、400gの上記中間体1aおよび200g ヘキサン溶媒を装填する。その混合物を、56℃に加熱する。SO,93.6gを、エバポレーターに装填し、それから、上記フラスコに、水面下チューブを介して、3時間27分にわたって、14L/時間(0.5 ft/時間)窒素流を入れると、温度は、55〜57℃である。その混合物を、さらに1と1/4時間(1 to 1/4 hour)にわたって攪拌する。上記液体を、6g固体からデカントし、過剰に発泡しないように注意しながら、最初に窒素下で、次いで真空下で、高温でストリッピングする。その残渣を、濾過補助器具を使用して濾過して、465gの粘性の褐色生成物(中間体1b)を得る。
【0060】
上記と同様に装備した1Lのフラスコに、207g 希釈油、36g Ca(OH)、および12.4g エタノールを装填する。攪拌しながら、12.4g 水中の2.35g 酢酸を添加する。その混合物に、400gの中間体1bを,37分間かけて添加する。発熱反応を確実にし、その混合物をさらに加熱し、3時間20分にわたって約98℃に保持する。その生成物を、ストリッピング、ヘキサンでの希釈、濾過補助器具での濾過、ストリッピングの反復、高温における希釈油でのさらなる希釈によって単離する。室温に冷却すると、その生成物の混合物は、ゴム状物質になる。
【0061】
(実施例2.ポリ−n−ブテン置換されたトルエンスルホネート(カルシウム塩)の合成)
上記のように装備し、ドライアイス−アセトン冷却器を備えた3Lのフラスコに、20g 濾過補助器具、2g HPO、および600g ヘキサンを装填する。その装填物を、約6L/時間(約0.2ft/時間)においてBFを装填しながら、−20℃に冷却する。BF添加を約1.7L/時間において維持すると同時に、1 ブテンを、140L/時間(5ft/時間)で、−20℃で装填する。4−1/2時間にわたって添加を継続する。その混合物を、冷却せずに1/2時間保持し、その後、40mLの50% NaOHを添加する。その混合物を、さらなる濾過補助器具で濾過し、真空ストリッピングして、中間体2aを得る。
【0062】
実施例1と同等に装備した2Lフラスコに、699g トルエンおよび9.3g AlClを装填する。その装填物を4℃に冷却し、これに、HClを、約3L/時間(約0.1ft/時間)で24分間にわたって添加する。この混合物に、(−1℃で)466gの中間体2aを、1時間にわたって、さらなる冷却を施しながら添加する。0℃でさらに3時間攪拌を続ける。この中間体に、15分間にわたって、29mL NHOHを添加する。その混合物を、室温へと加温しながら、2−1/2時間にわたって攪拌する。その中間体を、濾過補助器具での濾過およびトルエンおよび真空ストリッピングによって単離して、572g残渣(中間体2b)を得る。
【0063】
同様のフラスコ(1L)に、514gの中間体2bおよび257g ヘキサンを装填する。その混合物を、56℃に冷却する。SO(96.9g)をエバポレーターに装填し、それから上記フラスコに水面下チューブを介して、14L/時間(0.5ft/時間)窒素流を、3時間42分の期間にわたって入れる。その混合物を、さらに1−1/2時間にわたって攪拌する。上記液体をデカントし、10g 固体からヘキサンで洗浄し、その後、最初は窒素下で、次いで高温において真空下でストリッピングする。その残渣を、濾過補助器具を用いて濾過して、558gの中間体2cを得る。
【0064】
上記と同様に装備した1Lフラスコに、155g 希釈油、19.9g Ca(OH)、および8.1g エタノールを装填する。攪拌しながら、8.16g 水中の1.39g 酢酸を添加する。上記混合物に、30分間にわたって260gの中間体2cを添加する。発熱反応を確実にし、上記混合物をさらに加熱し、約98℃において2時間にわたって維持する。その生成物を、ストリッピング、トルエンでの希釈、濾過補助器具での濾過、およびストリッピングの反復によって単離する。
【0065】
(実施例3〜7)
実施例1および実施例2の界面活性剤、ならびに特定の他の界面活性剤を、油組成物中でのそれらの摩擦性能について試験する。使用される上記基油を、2つのAPI グループII油、20% Texaco MotivaTM HVI 4 cSt油および80% Texaco MotivaTM HVI 3 cSt油の混合物である。(特定のcSt値の油の呼称は、100℃での名目動粘度(mm/s単位で表される)をいう)。各界面活性剤は、存在する他の添加剤なしで、そして各ブレンドが0.83 重量%の界面活性剤基質を含むような処理割合において、上記油中で試験する。
【0066】
上記摩擦係数性能を、試験コーティング(例えば、オートマチックトランスミッションクラッチにおいて使用されるようなセルロース組成物)でコーティングされたスチールディスク(直径31.8mm(1.25インチ))を含む装置において測定する。上記処理ディスクを、コーティングしていないスチールディスクに対して回転させ、規定された温度および適用圧において試験オイル中に浸漬した。試験されるべき油処方物を、試験セルに装填し、150℃に加熱する。1時間の試運転相を、そのディスクを500r.p.mにおいて、25kg(245N)の荷重下で回転させる期間の間に行う。その試運転相の後に、その速度を1000r.p.m.に増大させ、その後、上記摩擦係数が測定されかつ記録されている期間の間に、50秒にわたって0に減速させる。上記試験を、上記油を100℃に冷却させた後に反復し、二度目は40℃において反復する。
【0067】
上記試験を、新たな(古びさせていない)油のサンプル、および50mL サンプルに、5mL/分において50時間にわたって160℃で酸素を曝気することによって古びさせたサンプルの両方に対して行う。上記動摩擦係数は、古びさせた後に顕著に低下すべきでないことは、望ましい。
【0068】
いくつかのヒドロカルビルアレーンスルホネートの試験の結果を、表1にまとめる。100〜1000r.p.m.の範囲に対しては、上記係数がr.p.m.が増大すると一般に増大するか、低下するか、もしくはその範囲にわたってほぼ一定のままであるかという指標とともに、ほぼ平均の摩擦係数が報告される。
【0069】
【表3】

上記結果は、より高度に分枝した物質(実施例5〜7)を含む処方物が古びさせた後に、異常に高い動摩擦を示すことを示す。このような処方物において0.18および0.19(150℃,古びている)程度の高さの動摩擦係数を得ることは、極めて珍しい。これらの結果は、非常に都合がよい。なぜなら、上記結果は、上記流体の摩擦性能が、使用するに従って悪化(低下)する傾向がない(すなわち、良好かつ安定した摩擦性能を保持している)ことを示すからである。
【0070】
上記で言及した文書の各々は、本明細書に参考として援用される。実施例または他の箇所で明確に示されている箇所を除いて、全ての数量は、物質の量、反応条件、分子量、炭素原子数などを特定する記載において、語句「約」によって修飾されていると理解されるべきである。別段示されなければ、本明細書で言及される各化学物質もしくは組成物は、市販のグレードの物質であると解釈されるべきであり、このような物質は、異性体、副生成物、誘導体、および市販のグレードでは存在すると通常理解される他のこのような物質を含み得る。しかし、各化学的成分の量は、別段示されなければ、市販の物質中に慣例上存在し得るいかなる溶媒も希釈油も排除して示される。本明細書に示される上限量および下限量、範囲、ならびに比率限定は、独立して組み合わされ得ることが理解されるべきである。同様に、本発明の各要素についての範囲および量は、他の要素のうちのいずれかについての範囲もしくは量と一緒に使用され得る。本明細書において使用される場合、表現「〜から本質的になる」は、考慮している組成物の基本的特徴および新規な特徴に本質的に影響を及ぼさない物質の包含を許容する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑組成物であって、
(a)潤滑粘性の油、および
(b)分枝鎖ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホン酸塩であって、ここで該アレーンスルホン部分は、約0.175より高いChi(0)/Shadow XY比を有することによって定義されるような高度に分枝状の基である少なくとも1つのヒドロカルビル置換基を有し、該塩は、該油に可溶性である、分枝鎖ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホン酸塩、
を含む、組成物。
【請求項2】
前記ヒドロカルビル基は、約0.195より大きいChi(0)/Shadow XY比を有する、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
前記ヒドロカルビル基は、ポリアルキレン基である、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項4】
前記ポリアルキレン基は、2−ブテン、イソブテン、シクロペンテン、2−ペンテン、3−メチルブタ−1−エン、イソプレン、シクロヘキセン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、4−メチルペンタ−2−エン、2−オクテン、および3−オクテンのポリマーもしくはオリゴマーからなる群より選択される、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項5】
前記分枝鎖ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホン酸塩は、中性もしくは過塩基化されたカルシウムポリイソブテン置換されたトルエンスルホネートを含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項6】
前記塩は、少なくとも0.1重量%のレベルで油中に可溶性である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つの高度に分枝状の置換基における炭素原子の総数は、少なくとも約12である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記ヒドロカルビル置換基における炭素原子の総数は、少なくとも約12である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホン酸塩は、ASTM D 3712によって測定される場合、少なくとも約500の数平均分子量を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
成分(b)のもの以外の粘性指数改変剤;リンの酸、塩、もしくはエステル;分散剤および摩擦改変剤からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項11】
機械式デバイスに請求項1に記載の潤滑組成物を供給する工程を包含する、機械式デバイスを潤滑するための方法。
【請求項12】
前記機械式デバイスは、オートマチックトランスミッションである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
動力伝達系路装置を潤滑するための方法であって、該方法は、該動力伝達系路装置に潤滑組成物を供給する工程を包含し、該潤滑組成物は、
(a)潤滑粘性の油、および
(b)分枝鎖ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホン酸塩であって、ここで該アレーンスルホン部分は、約0.165より大きいChi(0)/Shadow XY比を有することによって定義される場合、高度に分枝状の基である少なくとも1つのヒドロカルビル置換基を有し、該塩は、該油に可溶性である、分枝鎖ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホン酸塩
を含む、
方法。
【請求項14】
分枝鎖ヒドロカルビル置換されたアレーンスルホネートを調製するための方法であって、ここで該ヒドロカルビル基は、約0.175より大きいChi(0)/Shadow XY比を有することによって定義される場合、高度に分枝状の基であり、該方法は、
(a)約0.175より大きいChi(0)/Shadow XY比を有する、該所望のヒドロカルビル置換基に対応するポリオレフィン、または置換されたポリオレフィンもしくはヘテロ原子が介在するポリオレフィンを選択する工程;
(b)該ポリオレフィンまたは置換されたポリオレフィンもしくはヘテロ原子が介在するポリオレフィンと芳香族化合物とを、ルイス酸の存在下で10℃未満の温度で接触させて、ヒドロカルビル置換された中間体を形成する工程;
(c)該ヒドロカルビル置換された中間体と、SOもしくはその供給源とを接触させて、スルホン酸を形成する工程;ならびに
(d)該スルホン酸を中和する工程、
を包含する、方法。
【請求項15】
前記芳香族化合物はトルエンであり、前記ポリオレフィンはポリイソブテンであり、前記ルイス酸はAlBrである、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2010−523767(P2010−523767A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502241(P2010−502241)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/058999
【国際公開番号】WO2008/124386
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(591131338)ザ ルブリゾル コーポレイション (203)
【氏名又は名称原語表記】THE LUBRIZOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】29400 Lakeland Boulevard, Wickliffe, Ohio 44092, United States of America
【Fターム(参考)】